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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】ハードコートフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/046 20200101AFI20230407BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20230407BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230407BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230407BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
C08J7/046 A
B32B27/16 101
B32B27/30 Z
B32B27/32 Z
B32B27/36
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019545624
(86)(22)【出願日】2018-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2018036042
(87)【国際公開番号】W WO2019065878
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2017188772
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113343
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 武史
(72)【発明者】
【氏名】滝川 慶
(72)【発明者】
【氏名】結城 創太
(72)【発明者】
【氏名】糸部 悟
(72)【発明者】
【氏名】狩集 翔
(72)【発明者】
【氏名】菊地 涼輝
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-252689(JP,A)
【文献】特開2002-037849(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047615(WO,A1)
【文献】特開2001-147304(JP,A)
【文献】特開2006-110875(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047796(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/022704(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C08J7/04-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片面に、電離放射線硬化型樹脂を含有するハードコート層を設けたハードコートフィルムであって、
前記基材フィルムは、シクロオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートから選ばれるいずれかであり、
前記電離放射線硬化型樹脂は、(メタ)アクリロイル基を含むウレタンアクリレート樹脂を含み、
前記電離放射線硬化型樹脂が下記条件(I)を満たし、
前記ハードコート層が、下記条件(III)を、さらに満たすことを特徴とするハードコートフィルム。
条件(I):ピーク面積比1(A/C×100)が5%以上
(但し、未硬化の電離放射線硬化型樹脂の赤外分光スペクトル測定で3250~3500cm-1に現れるピーク面積をAとし、1650~1800cm-1に現れるピーク面積をCとする。)
条件(III):ピーク面積比3(D/E×100)が400%未満
(但し、硬化後のハードコート層の赤外分光スペクトル測定で、855~1325cm -1 に現れるピーク面積をDとし、1650~1800cm -1 に現れるピーク面積をEとする。)
【請求項2】
前記電離放射線硬化型樹脂が、さらに下記条件(II)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
条件(II):ピーク面積比2(B/C×100)が5%以上
(但し、未硬化の電離放射線硬化型樹脂の赤外分光スペクトル測定で1500~1580cm-1に現れるピーク面積をBとし、1650~1800cm-1に現れるピーク面積をCとする。)
【請求項3】
前記基材フィルムは、シクロオレフィンフィルムであることを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
前記ハードコートフィルムは、以下の試験方法による密着性の評価が、「◎」、「○」、または「△」評価であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のハードコートフィルム。
密着性は、JIS-K5600-5-6に準じて碁盤目剥離試験を行った。ハードコートフィルムのハードコート層形成面に、カッターナイフを用いて、碁盤目状に1mm間隔で縦11本、横11本の切り込みを入れて合計100マスの正方形の升目を刻み、積水化学工業株式会社製の粘着テープNo.252をその上に貼り付け、ヘラを用いて均一に押し付け後、60度方向に剥離し、ハードコート層の残存個数を4段階評価した。同じ箇所で5回、圧着・剥離を行った後に判定を行った。評価基準は下記の通りである。
評価基準
◎:100個 ○:99~90個 △:89~50個 ×:49~0個
【請求項5】
前記ハードコートフィルムは、以下の試験方法による耐擦傷性の評価が、「◎」、または「○」評価であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のハードコートフィルム。
ハードコートフィルムについて、JIS-K5600-5-10に準じた試験方法にて、ハードコート層面を、スチールウール#0000を用い、荷重250g/cm をかけ10往復摩擦し、傷のつき具合を次の基準で評価した。
評価基準
◎:傷の発生なし。○:傷が1~5本発生する。△:傷が6~10本発生する。×:傷が10本以上発生する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコートフィルムに関し、更に詳しくは、液晶表示装置、プラズマ表示装置、エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置等のフラットパネルディスプレイ、タッチパネル等の表示装置部品、及び建築物、自動車、電車の窓ガラス等の保護フィルムとして使用することができるハードコート層を設けたハードコートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)等のフラッドパネルディスプレイの表示面には、取り扱い時に傷が付いて視認性が低下しないように耐擦傷性を付与することが要求される。そのため、基材フィルムにハードコート層を設けたハードコートフィルムを利用して耐擦傷性を付与することが一般的に行われている。近年、表示画面上で表示を見ながら指やペン等でタッチすることでデータや指示を入力できるタッチパネルの普及により、光学的視認性の維持と耐擦傷性を有するハードコートフィルムに対する機能的要求は高まっている。
【0003】
そのため、基材フィルムとして透明性、耐熱性、寸法安定性、低吸湿性に優れるポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレート、及びシクロオレフィンフィルムは光学部材用途への利用が期待されており、低複屈折性、及び光学的等方性に優れるシクロオレフィンフィルムは特に大きく期待されている。このような基材フィルム上にさらにハード性を付与する為、ハードコート層を設けることが行われている。しかし、この様な基材フィルムは、フィルム表面に極性基の数が少ないため基材フィルムとハードコート層との密着性が劣る問題点があった。
【0004】
そこで、従来、これら基材フィルムにハードコート層との易接着性を付与する方法が特許文献1、特許文献2等に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-147304号公報
【文献】特開2006-110875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、シクロオレフィンフィルムにハードコート層との易接着性を付与する方法として、特許文献1では、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理等が開示されているが、これ等の方法ではシクロオレフィンフィルムとハードコート層との密着性は不十分であり特に経時的な密着不良が発生し易い問題点があった。
【0007】
また、特許文献2では、シクロオレフィンフィルム上にオレフィン系樹脂からなるアンカーコート剤を塗設することが開示されている。このアンカーコート処理により、シクロオレフィンフィルムとハードコート層との密着性はある程度改善されるが、塗膜が柔軟で伸びのあるアンカーコート層と塗膜が硬く伸びのないハードコート層では、耐熱条件下(例えば、温度100℃の乾燥機に5分間保存)における双方の塗膜の収縮差により、ハードコート層表面にクラック(膜割れ、ヒビなど)が発生し易い問題点があった。
【0008】
そこで、本発明は、シクロオレフィンフィルム等の極性基が少なく密着性に劣る基材フィルムに対しても、通常条件下、及び耐湿熱条件下におけるハードコート層の経時密着性と耐久性に優れるハードコートフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、赤外分光スペクトルに特徴のある樹脂をハードコート層に用いることで、シクロオレフィンフィルム等の極性基が少なく密着性に劣る基材フィルムに対してもハードコート層との密着性を改善できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
(1)基材フィルムの少なくとも片面に、電離放射線硬化型樹脂を含有するハードコート層を設けたハードコートフィルムであって、該電離放射線硬化型樹脂が下記条件(I)を満たすことを特徴とするハードコートフィルム。
条件(I):ピーク面積比1(A/C×100)が5%以上
(但し、未硬化の電離放射線硬化型樹脂の赤外分光スペクトル測定で3250~3500cm-1に現れるピーク面積をAとし、1650~1800cm-1に現れるピーク面積をCとする。)
(2)前記電離放射線硬化型樹脂が、さらに下記条件(II)を満たすことを特徴とする(1)に記載のハードコートフィルム。
条件(II):ピーク面積比2(B/C×100)が5%以上
(但し、未硬化の電離放射線硬化型樹脂の赤外分光スペクトル測定で1500~1580cm-1に現れるピーク面積をBとし、1650~1800cm-1に現れるピーク面積をCとする。)
(3)前記ハードコート層が、下記条件(III)を、さらに満たすことを特徴とする(1)~(2)いずれかに記載のハードコートフィルム。
条件(III):ピーク面積比3(D/E×100)が400%未満
(但し、硬化後のハードコート層の赤外分光スペクトル測定で、855~1325cm-1に現れるピーク面積をDとし、1650~1800cm-1に現れるピーク面積をEとする。)
(4)前記電離放射線硬化型樹脂は、(メタ)アクリロイル基を含むアクリル系樹脂を含むことを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のハードコートフィルム。
(5)前記基材フィルムは、シクロオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートから選ばれるいずれかであることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載のハードコートフィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シクロオレフィンフィルム等の極性基が少なく密着性に劣る基材フィルムに対しても、通常条件下、及び耐湿熱条件下におけるハードコート層の経時密着性と耐久性に優れるハードコートフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳述する。
本発明は、基材フィルムの少なくとも片面に、電離放射線硬化型樹脂を含有するハードコート層を設けたハードコートフィルムであって、該電離放射線硬化型樹脂が下記条件(I)を満たすことを特徴とするハードコートフィルムである。
条件(I):ピーク面積比1(A/C×100)が5%以上
(但し、未硬化の電離放射線硬化型樹脂の赤外分光スペクトル測定で3250~3500cm-1に現れるピーク面積をAとし、1650~1800cm-1に現れるピーク面積をCとする。)
【0013】
[基材フィルム]
まず、ハードコートフィルムの基材フィルムについて説明する。
【0014】
本発明において、ハードコートフィルムの基材フィルムは特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエチレン、ポリイミド、ポリプロピレン、アクリル系樹脂、ポリスチレン、セルロースアセテート、ポリ塩化ビニルのフィルムないしシート等を挙げることができる。その中でも透明性、耐熱性、寸法安定性、低吸湿性などに優れるポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びシクロオレフィンフィルムを用いることが好ましく、シクロオレフィンフィルムはさらに低複屈折性、光学的等方性等に優れる。
【0015】
シクロオレフィンフィルムとは、シクロオレフィン類単位がポリマー骨格中に交互に又はランダムに重合し分子構造中に脂環構造を有するものであり、ノルボルネン系化合物、単環の環状オレフィン、環状共役ジエンおよびビニル脂環式炭化水素から選択される少なくとも一種の化合物を含んでなる(共)重合体であるシクロオレフィンコポリマーフィルム又はシクロオレフィンポリマーフィルムが対象となり何れかを適宜選択し使用できる。
【0016】
また、本発明において、上記基材フィルムの厚さは、ハードコートフィルムが使用される用途に応じて適宜選択されるが、機械的強度、ハンドリング性等の観点から、10μm~300μmの範囲であることが好ましく、更に好ましくは20μm~200μmの範囲である。
【0017】
本発明において、上記基材フィルムの耐熱性については、ハードコートフィルム用途に用いる場合には、試料に温度変化を与えた時にその熱変化を測定する熱重量測定(TG)法や示差走査熱量測定(DSC)法等で測定されるガラス転移温度が、120℃から170℃程度のフィルムの使用が好ましい。
【0018】
本発明において、上記基材フィルムは、ハードコートフィルム用途に用いる場合には、紫外線による塗膜の劣化、密着不良を防止する目的で、基材フィルムを構成する樹脂と紫外線吸収剤を混練した樹脂をフィルム状に製膜、或いは基材フィルムの片面或いは両面に熱可塑性或いは熱硬化性樹脂と紫外線吸収剤とを混合した塗料を塗設したフィルムを使用してもよい。紫外線カット性については、分光光度計による380nm波長における透過率が10%以下であることが好ましい。更に好ましくは7%以下である。
【0019】
[ハードコート層]
次に、上記ハードコート層について説明する。
【0020】
本発明において、上記ハードコート層に含まれる樹脂としては、被膜を形成する樹脂であれば特に制限なく用いることができるが、特にハードコート層の表面硬度(鉛筆硬度、耐擦傷性)を付与し、また、紫外線の露光量によって架橋度合を調節することが可能であり、ハードコート層の表面硬度の調節が可能になるという点で、電離放射線硬化型樹脂を用いることが好ましい。
【0021】
本発明に用いる電離放射線硬化型樹脂は、紫外線(以下、「UV」と略記する。)や電子線(以下、「EB」と略記する。)を照射することによって硬化する透明な樹脂であり、(メタ)アクリロイル基を含むアクリル系樹脂を含むものであることが好ましく、(メタ)アクリロイル基を含むウレタンアクリレート樹脂であることが更に好ましい。
【0022】
本発明に用いる電離放射線硬化型樹脂は、未硬化の状態の赤外分光スペクトル測定において、3250~3500cm-1に現れるピーク範囲の面積をAとし、1500~1580cm-1に現れるピーク範囲の面積をBとし、1650~1800cm-1に現れるピーク範囲の面積をCとした際に、条件(I):ピーク面積比1(A/C×100)が5%以上であることが重要であり、10%以上が好ましい。
【0023】
さらに条件(II): ピーク面積比2(B/C×100)が5%以上、であることが好ましく、10%以上であることがさらに好ましい。
【0024】
電離線放射線硬化型樹脂において、1650~1800cm-1に現れるピークは、アクリロイル基の炭素‐炭素二重結合を現す。3250~3500cm-1に現れるピークはアミド基由来の窒素‐水素結合、又はヒドロキシル基由来の酸素‐水素結合を現すと推測される。つまりアクリロイル基の存在割合に対し、一定割合以上の3250~3500cm-1に現れるピークを有することで、アクリロイル基による基材に対するハードコート層の密着力と、ハードコート層が層内で硬化収縮することにより基材フィルムの界面と別方向に力が掛かり剥がれる剥離力とのバランスが保たれるため、極性基の少ないシクロオレフィンフィルムに対してもアンカー層や基材フィルムの改質を必要とせずに、基材フィルムに対する密着性を格段に向上させることができると推測される。
【0025】
さらに1500~1580cm-1に現れるピークはアミド基由来の窒素‐水素結合、フェニル環由来の炭素‐水素結合、又はアゾ基由来の窒素‐窒素二重結合を現すと推測される。上記同様に、アクリロイル基の存在割合に対し、一定割合以上の1500~1580cm-1に現れるピークを有することで、基材フィルムに対する密着性を格段に向上させることができると推測される。
【0026】
また、上記ハードコート層に含まれる樹脂としては、上述の特定のIRピークを有する電離放射線硬化型樹脂の他に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、アクリル、スチレン-アクリル、繊維素等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、ウレア樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ、ケイ素樹脂等の熱硬化性樹脂を、本発明の効果や、ハードコート層の硬度、耐擦傷性を損なわない範囲内で配合してもよい。
【0027】
また、上記ハードコート層に含まれる電離放射線硬化型樹脂の光重合開始剤としては、市販のIRGACURE 651やIRGACURE 184(いずれも商品名:BASF社製)などのアセトフェノン類、また、IRGACURE 500(商品名:BASF社製)などのベンゾフェノン類を使用でき特に制限されるものではないが、密着性をより向上させるためにジアシルパーオキサイド類などの有機過酸化物を用いることが好ましい。
【0028】
本発明においては、上記ハードコート層に無機酸化物微粒子を含有させ、表面硬度(耐擦傷性)の更なる向上を図ることも可能である。この場合、無機酸化物微粒子の平均粒子径は5~50nmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは平均粒子径10~20nmの範囲である。平均粒子径が5nm未満であると、十分な表面硬度を得ることが困難である。一方、平均粒子径が50nmを超えると、ハードコート層の光沢、透明性が低下し、可撓性も低下するおそれがある。
【0029】
本発明において、上記無機酸化物微粒子としては、例えばアルミナやシリカなどを挙げることができる。これらの中でも、アルミニウムを主成分とするアルミナは高硬度を有するため、シリカよりも少ない添加量で効果を得られることから特に好適である。
【0030】
本発明において、上記無機酸化物微粒子の含有量は、ハードコート層塗料組成物の固形分100重量部に対して0.1~10.0重量部であることが好ましい。無機酸化物微粒子の含有量が0.1重量部未満であると、表面硬度(耐擦傷性)の向上効果が得られ難い。一方、含有量が10.0重量部を超えると、ヘイズが上昇するため好ましくない。
【0031】
また、上記ハードコート層には、塗工性の改善を目的にレベリング剤の使用が可能であり、たとえばフッ素系、アクリル系、シロキサン系、及びそれらの付加物或いは混合物などの公知のレベリング剤を使用可能である。配合量は、ハードコート層の樹脂の固形分100重量部に対し0.03重量部~3.0重量部の範囲での配合が可能である。また、タッチパネル用途等において、タッチパネル端末のカバーガラス(CG)、透明導電部材(TSP)、液晶モジュール(LCM)等との接着を目的に光学透明樹脂OCRを用いた対接着性が要求される場合には、表面自由エネルギーの高い(凡そ40mJ/cm以上)アクリル系レベリング剤やフッ素系のレベリング剤の使用が好ましい。
【0032】
上記ハードコート層に添加するその他の添加剤として、本発明の効果を損なわない範囲で、消泡剤、表面張力調整剤、防汚剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を必要に応じて配合してもよい。
【0033】
上記ハードコート層は、上述の電離放射線硬化型樹脂の他に、重合開始剤、その他の添加剤等を適当な溶媒に溶解、分散した塗料を上記基材フィルム上に塗工、乾燥して形成される。溶媒としては、配合される上記樹脂の溶解性に応じて適宜選択でき、少なくとも固形分(樹脂、重合開始剤、その他添加剤)を均一に溶解あるいは分散できる溶媒であればよい。そのような溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、n-ヘプタンなどの芳香族系溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール系等のアルコール系溶剤等の公知の有機溶剤を単独或いは適宜数種類組み合わせて使用することもできる。
【0034】
上記ハードコート層の塗工方法については、特に限定はないが、グラビア塗工、マイクログラビア塗工、ファウンテンバー塗工、スライドダイ塗工、スロットダイ塗工、スクリーン印刷法、スプレーコート法等の公知の塗工方式で塗設した後、通常50~120℃程度の温度で乾燥する。
【0035】
上記ハードコート層の塗膜厚さは、特に制約されるわけではないが、例えば1.0μm~12.0μmの範囲であることが好適である。塗膜厚さが1.0μm未満では、必要な表面硬度が得られ難くなる。また、塗膜厚さが12.0μmを超えた場合は、カールが強く発生し製造工程などで取扱い性が低下するため好ましくない。なお、ハードコート層の塗膜厚さは、マイクロメーターで実測することにより測定可能である。
【0036】
本発明においては、上記の電離放射線硬化型樹脂を含有するハードコート層用塗料を基材フィルムに塗工、乾燥後に、UVまたはEB照射することにより、光重合が起こりハード性に優れる塗膜(ハードコート層)を得ることができる。特に、JIS K5600-5-4に規定される鉛筆硬度がB~2Hを有するハードコート層であることが好ましい。
【0037】
本発明のハードコートフィルムは、上記硬化後のハードコート層が赤外分光スペクトル測定において、855~1325cm-1に現れるピークの面積をDとし、1650~1800cm-1に現れるピークの面積をEとしたときの、ピーク面積比3(D/E×100)が400%未満であることが好ましく、より好ましくは380%以下である。ピーク面積比3の下限は300%以上であることが好ましい。ピーク面積比3が本発明の範囲を満たすハードコート層であれば、シクロオレフィンフィルムやポリイミドフィルムなどの極性基が少なくハードコート層が密着しにくい基材フィルムに対しても、良好な密着性と外観を得ることができる。
硬化後のハードコート層で1650~1800cm-1に現れる赤外分光スペクトルのピークは、上述される電離放射線硬化型樹脂で現れるピークと同等であると想定される。
また、本発明においては、硬化後のハードコート層で、855~1325cm-1に現れる赤外分光スペクトルのピークは、エーテル基やエステル基の炭素-酸素伸縮振動や、カルボニル基の炭素-水素変角振動、及び無機微粒子であるシリカ骨格、酸化アルミニウム骨格など、様々な構造に由来している。アクリロイル基の存在割合に対し、一定割合以下の855~1325cm-1に現れるピークとすることで、基材フィルムに対する密着性とのバランスをとることができると推察される。
【実施例
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。併せて、比較例についても説明する。
【0039】
なお、特に断りのない限り、以下に記載する「%」は「重量%」を表す。
【0040】
[製造例1]
ウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂「TOMAX FA-3312-2」(固形分40%、日本化工塗料株式会社製)を主剤とし、酢酸ブチルで紫外線硬化型樹脂の塗料中の固形分濃度が30%となるまで希釈し十分攪拌してハードコート層塗料1を調製した。
【0041】
[製造例2]
上記ウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂「TOMAX FA-3312-2」(固形分40%、日本化工塗料株式会社製)とウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂「A-9550」(固形分100%、新中村化学株式会社製)を主剤として、TOMAX FA-3312-2とA-9550の固形分配合比が80/20となるように配合し、酢酸ブチルで紫外線硬化型樹脂の塗料中の固形分濃度が30%となるまで希釈し十分攪拌してハードコート層塗料2を調製した。
【0042】
[製造例3]
製造例2のTOMAX FA-3312-2とA-9550の固形分配合比を75/25とした以外は製造例2と同様にしてハードコート層塗料3を得た。
【0043】
[製造例4]
製造例2のTOMAX FA-3312-2とA-9550の固形分配合比を50/50とした以外は製造例2と同様にしてハードコート層塗料4を得た。
【0044】
[製造例5]
製造例1のTOMAX FA-3312-2をTOMAX FA-3312-4とした以外は製造例1と同様にしてハードコート層塗料5を得た。
【0045】
[製造例6]
製造例2のTOMAX FA-3312-2とA-9550の固形分配合比を30/70とした以外は製造例2と同様にしてハードコート層塗料6を得た。
【0046】
[製造例7]
製造例2のTOMAX FA-3312-2とA-9550の固形分配合比を10/90とした以外は製造例2と同様にしてハードコート層塗料7を得た。
【0047】
[製造例8]
製造例1のハードコート層に用いた「TOMAX FA-3312-2」の代わりにウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂「A-9550」(固形分100%、新中村化学株式会社製)を用いたこと以外は、製造例1と同様にしてハードコート層塗料8を得た。
【0048】
[製造例9]
製造例1のハードコート層に用いた「TOMAX FA-3312-2」の代わりにウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂「BS-575CSB」(固形分100%、荒川化学工業株式会社製)を用いたこと以外は、製造例1と同様にしてハードコート層塗料9を得た。
【0049】
[参考例]
参考例として、希釈溶剤として用いた酢酸ブチル100%を示す。
【0050】
【表1】
【0051】
<実施例1~13及び比較例1~4>
表2記載の組合せとなるように基材フィルム及びハードコート層塗料を選択し、各基材フィルムの片面に、上記の各ハードコート層塗料を、バーコーターを用いて塗工し、80℃の乾燥炉で1分間熱風乾燥させ、塗膜厚み2.5μmの塗工層を形成した。これを、塗工面より60mmの高さにセットされたUV照射装置を用い、UV照射量250mJ/cmにて硬化させてハードコート層を形成し、実施例1~13及び比較例1~4のハードコートフィルムを得た。
【0052】
<評価方法>
得られた上記各実施例および各比較例のハードコートフィルムを下記の基準で評価した。その結果を纏めて表1に示した。
【0053】
(1)電離放射線硬化型樹脂のピーク面積比1~2
赤外分光光度計を用いて未硬化の状態の電離放射線硬化型樹脂に対するATR法により、赤外分光スペクトル(赤外吸収スペクトル)を測定した。赤外分光光度計はFT-IR Spectrometer Spectrum 100 (パーキンエルマージャパン社製)を使用した。
【0054】
測定方法としては、温度23℃/湿度50%環境下で、赤外分光光度計の測定部位(センサー部)にハードコート層塗料又は参考例の酢酸ブチルを10μm滴下し、滴下後直ぐにIR測定した。
【0055】
得られた横軸を波数(cm-1)とし、縦軸を吸光度としたスペクトルチャート上において、3250~3500cm-1、1500~1580cm-1、1650~1800cm-1にそれぞれベースラインを引き、このベースラインとスペクトル曲線とで囲まれる面積をそれぞれA、B、及びCとし、その比(A/C×100)、(B/C ×100)を各ピーク面積比1~2とした。
【0056】
(2)ハードコート層のピーク面積比3
赤外分光光度計を用いてハードコートフィルムのハードコート層表面に対するATR法により、赤外分光スペクトル(赤外吸収スペクトル)を測定した。赤外分光光度計はFT-IR Spectrometer Spectrum 100(パーキンエルマージャパン社製)を使用した。得られた横軸を波数(cm-1)とし、縦軸を吸光度としたスペクトルチャート上において、855~1325cm-1、1650~1800cm-1にそれぞれベースラインを引き、このベースラインとスペクトル曲線とで囲まれる面積をそれぞれD、及びEとし、その比(D/E×100)をピーク面積比3とした。
【0057】
(3)密着性
密着性は、JIS-K5600-5-6に準じて碁盤目剥離試験を行った。ハードコートフィルムのハードコート層形成面に、カッターナイフを用いて、碁盤目状に1mm間隔で縦11本、横11本の切り込みを入れて合計100マスの正方形の升目を刻み、積水化学工業株式会社製の粘着テープNo.252をその上に貼り付け、ヘラを用いて均一に押し付け後、60度方向に剥離し、ハードコート層の残存個数を4段階評価した。同じ箇所で5回、圧着・剥離を行った後に判定を行った。評価基準は下記の通りであり、◎と○評価品を密着性は合格と判定したが、△評価品も実用上可である。
【0058】
評価基準
◎:100個 ○:99~90個 △:89~50個 ×:49~0個
【0059】
(4)耐擦傷性
実施例、比較例で作製した各ハードコートフィルムについて、JIS-K5600-5-10に準じた試験方法にて、ハードコート層面を、スチールウール#0000を用い、荷重250g/cmをかけ10往復摩擦し、傷のつき具合を次の基準で評価した。○評価品を耐擦傷性は良好としたが、△評価品も製品として使用可能である。
【0060】
評価基準
◎:傷の発生なし。○:傷が1~5本発生する。△:傷が6~10本発生する。×:傷が10本以上発生する。
【0061】
【表2】
【0062】
表2中の基材の表記は以下のとおりである。
ZF16:シクロオレフィンフィルム(厚み100μm、日本ゼオン株式会社製)
A4300:ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み100μm、東洋紡株式会社製)
Q65HW:ポリエチレンナフタレートフィルム(厚み100μm、帝人フィルムソリューションズ株式会社製)
【0063】
表2の結果から明らかなように、本発明実施例によれば、シクロオレフィンフィルム等の極性基が少なく密着性に劣る基材フィルムに対しても、ハードコート層の密着性と耐久性に優れるハードコートフィルムを提供することができる。他方、比較例によれば、特に密着性が劣っている。