(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】橋梁の共振検出方法とその共振検出装置及び橋梁の共振検出プログラム
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20230407BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
E01D22/00 A
G01H17/00 Z
(21)【出願番号】P 2020052347
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】松岡 弘大
(72)【発明者】
【氏名】田中 博文
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 恭平
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-007624(JP,A)
【文献】特開2019-179316(JP,A)
【文献】特開2019-031145(JP,A)
【文献】特開2012-208043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体が移動する橋梁の共振を検出する橋梁の共振検出方法であって、
前記移動体とともに移動しながら前記橋梁上の通路変位を測定する通路変位測定装置の測定結果に基づいて、この橋梁の共振を検出する共振検出工程を含
み、
前記通路変位測定装置は、前記移動体の前方及び後方で通路変位を測定し、
前記共振検出工程は、前記移動体の前方の前記通路変位測定装置の測定結果と、この移動体の後方の前記通路変位測定装置の測定結果とに基づいて、前記橋梁の共振を検出する工程を含むこと、
を特徴とする橋梁の共振検出方法。
【請求項2】
移動体が移動する橋梁の共振を検出する橋梁の共振検出方法であって、
前記移動体とともに移動しながら前記橋梁上の通路変位を測定する通路変位測定装置の測定結果に基づいて、この橋梁の共振を検出する共振検出工程を含
み、
前記通路変位測定装置は、前記移動体の一端で通路変位を測定し、
前記共振検出工程は、前記移動体が上り方向に走行するときの前記通路変位測定装置の測定結果と、この移動体が下り方向に走行するときのこの通路変位測定装置の測定結果とに基づいて、前記橋梁の共振を検出する工程を含むこと、
を特徴とする橋梁の共振検出方法。
【請求項3】
請求項
1又は請求項
2に記載の橋梁の共振検出方法において、
前記通路変位測定装置の測定結果に基づいて、共振橋梁に特有の振動成分を抽出する振動成分抽出工程と、
前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅を推定する振動振幅推定工程と、
前記移動体の前方及び後方で測定される前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を演算する差分演算工程とを含み、
前記共振検出工程は、前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分に基づいて、前記橋梁の共振を検出する工程を含むこと、
を特徴とする橋梁の共振検出方法。
【請求項4】
移動体が移動する橋梁の共振を検出する橋梁の共振検出装置であって、
前記移動体とともに移動しながら前記橋梁上の通路変位を測定する通路変位測定装置の測定結果に基づいて、この橋梁の共振を検出する共振検出部を備え、
前記通路変位測定装置は、前記移動体の前方及び後方で通路変位を測定し、
前記共振検出部は、前記移動体の前方の前記通路変位測定装置の測定結果と、この移動体の後方の前記通路変位測定装置の測定結果とに基づいて、前記橋梁の共振を検出すること、
を特徴とする橋梁の共振検出装置。
【請求項5】
移動体が移動する橋梁の共振を検出する橋梁の共振検出装置であって、
前記移動体とともに移動しながら前記橋梁上の通路変位を測定する通路変位測定装置の測定結果に基づいて、この橋梁の共振を検出する共振検出部を備え、
前記通路変位測定装置は、前記移動体の一端で通路変位を測定し、
前記共振検出部は、前記移動体が上り方向に走行するときの前記通路変位測定装置の測定結果と、この移動体が下り方向に走行するときのこの通路変位測定装置の測定結果とに基づいて、前記橋梁の共振を検出すること、
を特徴とする橋梁の共振検出装置。
【請求項6】
移動体が移動する橋梁の共振を検出するための橋梁の共振検出プログラムであって、
前記移動体とともに移動しながら前記橋梁上の通路変位を測定する通路変位測定装置の測定結果に基づいて、この橋梁の共振を検出する共振検出手順をコンピュータに実行させ、
前記通路変位測定装置は、前記移動体の前方及び後方で通路変位を測定し、
前記共振検出手順は、前記移動体の前方の前記通路変位測定装置の測定結果と、この移動体の後方の前記通路変位測定装置の測定結果とに基づいて、前記橋梁の共振を検出する手順を含むこと、
を特徴とする橋梁の共振検出プログラム。
【請求項7】
移動体が移動する橋梁の共振を検出するための橋梁の共振検出プログラムであって、
前記移動体とともに移動しながら前記橋梁上の通路変位を測定する通路変位測定装置の測定結果に基づいて、この橋梁の共振を検出する共振検出手順をコンピュータに実行させ、
前記通路変位測定装置は、前記移動体の一端で通路変位を測定し、
前記共振検出手順は、前記移動体が上り方向に走行するときの前記通路変位測定装置の測定結果と、この移動体が下り方向に走行するときのこの通路変位測定装置の測定結果とに基づいて、前記橋梁の共振を検出する手順を含むこと、
を特徴とする橋梁の共振検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動体が移動する橋梁の共振を検出する橋梁の共振検出方法とその共振検出装置及び橋梁の共振検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
高速鉄道橋の共振現象により大振幅の振動が生じる場合、橋梁のたわみ量や、ひび割れ進展や疲労が維持管理上、大きな問題となる。これは、列車の車両長に起因した規則的な加振振動数と橋梁の固有振動数が一致する場合に生じる。実際に共振によるたわみ量が規制値を超えて徐行運行となった高速鉄道路線も存在し、共振橋梁をいち早く検知し、対策することが必要である。共振は供用開始後ある時点で突如発生する場合もあり、地上からの測定だけでは共振状態のまま通常運行してしまう場合もある。これまでに走行する列車の先頭車両と最後尾車両の床上上下加速度を利用して走行する営業車両から共振が生じた橋梁を検知する方法が提案されている。
【0003】
従来の橋梁動的応答評価方法(以下、従来技術1という)は、橋梁上を走行する先頭車両及び後尾車両の上下加速度を計測し、先頭車両及び後尾車両の上下加速度の波形の特徴量に基づいて加速度増幅率を算出し、加速度増幅率から橋梁衝撃係数を算出している(例えば、特許文献1参照)。従来の橋梁動的応答評価方法(以下、従来技術2という)は、橋梁上を走行する全車両の上下加速度を車両毎に計測し、各車両の上下加速度の波形の特徴量に基づいて個別車両増幅率を算出し、個別車両増幅率から橋梁衝撃係数を算出している(例えば、特許文献1参照)。この従来技術1,2では、橋梁上を走行する列車の車両加速度応答に基づく指標を用いて、橋梁の衝撃係数を求め、動的応答の評価及び橋梁の健全性の評価をすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術1,2では、位置誤差の影響から先頭車両及び後尾車両の測定データの比を用いていた。しかし、従来技術1,2では、車両の振動成分により検知精度が低下する場合があった。また、従来技術1,2では、共振橋梁に特有の振動成分を特定できていなかったため、橋梁のたわみ成分以外の軌道変位が大きい箇所ではその影響により検知精度が低下していた。
【0007】
この発明の課題は、通路変位の測定結果に基づいて橋梁の共振を正確に検出することができる橋梁の共振検出方法とその共振検出装置及び橋梁の共振検出プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、
図1、図2、図13及び図16に示すように、移動体(T)が移動する橋梁(B)の共振を検出する橋梁の共振検出方法であって、前記移動体とともに移動しながら前記橋梁上の通路変位を測定する通路変位測定装置(2A,2B;2D,2E)の測定結果に基づいて、この橋梁の共振を検出する共振検出工程(#140)を含
み、
前記通路変位測定装置は、前記移動体の前方及び後方で通路変位を測定し、前記共振検出工程は、前記移動体の前方の前記通路変位測定装置の測定結果と、この移動体の後方の前記通路変位測定装置の測定結果とに基づいて、前記橋梁の共振を検出する工程を含むことを特徴とする橋梁の共振検出方法(#100)である。
【0009】
請求項2の発明は、
図1、図13及び図15に示すように、移動体(T)が移動する橋梁(B)の共振を検出する橋梁の共振検出方法であって、前記移動体とともに移動しながら前記橋梁上の通路変位を測定する通路変位測定装置(2C)の測定結果に基づいて、この橋梁の共振を検出する共振検出工程(#140)を含
み、
前記通路変位測定装置は、前記移動体の一端で通路変位を測定し、前記共振検出工程は、前記移動体が上り方向に走行するときの前記通路変位測定装置の測定結果と、この移動体が下り方向に走行するときのこの通路変位測定装置の測定結果とに基づいて、前記橋梁の共振を検出する工程を含むことを特徴とする橋梁の共振検出方法(#100)である。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の橋梁の共振検出方法において、前記通路変位測定装置の測定結果に基づいて、共振橋梁に特有の振動成分を抽出する振動成分抽出工程(#110)と、前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅を推定する振動振幅推定工程(#120)と、前記移動体の前方及び後方で測定される前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を演算する差分演算工程(130)とを含み、前記共振検出工程は、前記共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分に基づいて、前記橋梁の共振を検出する工程を含むことを特徴とする橋梁の共振検出方法である。
【0011】
請求項4の発明は、
図1~
図3及び
図16に示すように、移動体(T)が移動する橋梁(B)の共振を検出する橋梁の共振検出装置であって、前記移動体とともに移動しながら前記橋梁上の通路変位を測定する通路変位測定装置(2A,2B;2D,2E)の測定結果に基づいて、この橋梁の共振を検出する共振検出部(4f)を備え、
前記通路変位測定装置は、前記移動体の前方及び後方で通路変位を測定し、前記共振検出部は、前記移動体の前方の前記通路変位測定装置の測定結果と、この移動体の後方の前記通路変位測定装置の測定結果とに基づいて、前記橋梁の共振を検出することを特徴とする橋梁の共振検出装置(4)である。
【0012】
請求項5の発明は、
図1及び図15に示すように、移動体(T)が移動する橋梁(B)の共振を検出する橋梁の共振検出装置であって、前記移動体とともに移動しながら前記橋梁上の通路変位を測定する通路変位測定装置(2C)の測定結果に基づいて、この橋梁の共振を検出する共振検出部(4f)を備え、
前記通路変位測定装置は、前記移動体の一端で通路変位を測定し、前記共振検出部は、前記移動体が上り方向に走行するときの前記通路変位測定装置の測定結果と、この移動体が下り方向に走行するときのこの通路変位測定装置の測定結果とに基づいて、前記橋梁の共振を検出することを特徴とする橋梁の共振検出装置(4)である。
【0013】
請求項6の発明は、
図1~
図3、
図14及び
図16に示すように、移動体(T)が移動する橋梁(B)の共振を検出するための橋梁の共振検出プログラムであって、前記移動体とともに移動しながら前記橋梁上の通路変位を測定する通路変位測定装置(2A,2B:2D,2E)の測定結果に基づいて、この橋梁の共振を検出する共振検出手順(S500)をコンピュータに実行させ、
前記通路変位測定装置は、前記移動体の前方及び後方で通路変位を測定し、前記共振検出手順は、前記移動体の前方の前記通路変位測定装置の測定結果と、この移動体の後方の前記通路変位測定装置の測定結果とに基づいて、前記橋梁の共振を検出する手順を含むことを特徴とする橋梁の共振検出プログラムである。
請求項7の発明は、
図1、図3、
図14及び図
15に示すように、移動体(T)が移動する橋梁(B)の共振を検出するための橋梁の共振検出プログラムであって、前記移動体とともに移動しながら前記橋梁上の通路変位を測定する通路変位測定装置(2C)の測定結果に基づいて、この橋梁の共振を検出する共振検出手順(S500)をコンピュータに実行させ、
前記通路変位測定装置は、前記移動体の一端で通路変位を測定し、前記共振検出手順は、前記移動体が上り方向に走行するときの前記通路変位測定装置の測定結果と、この移動体が下り方向に走行するときのこの通路変位測定装置の測定結果とに基づいて、前記橋梁の共振を検出する手順を含むことを特徴とする橋梁の共振検出プログラムである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によると、通路変位の測定結果に基づいて橋梁の共振を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出装置による検出対象の橋梁を移動する移動体の模式図である。
【
図2】この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出システムを概略的に示す全体図である。
【
図3】この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出システムを概略的に示す構成図である。
【
図4】この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出システムの軌道変位測定装置の模式図である。
【
図5】この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出システムの軌道変位測定装置における測定データ記憶部のデータ構造を示す模式図である。
【
図6】列車速度の関数としての列車通過時の単純支持はりの最大応答値を示すグラフであり、(A)は列車通過時の橋梁中央の最大変位を示すグラフであり、(B)は列車通過時の橋梁中央の最大加速度を示すグラフである。
【
図7】各列車速度での列車通過時の橋梁のたわみ時刻歴応答を示すグラフであり、(A)~(E)は
図6に示すA~E部分の列車速度におけるたわみ時刻歴応答を示すグラフである。
【
図8】各列車速度における先頭車両の第二台車及び後尾車両の第一台車の各位置における軌道面の変位時系列応答を示すグラフである。
【
図9】共振時の橋梁応答分析モデルの模式図である。
【
図10】荷重作用点における共振時の橋梁の動的変位波形を一例として示すグラフである。
【
図11】荷重作用点における共振時の橋梁の動的変位波形のフーリエ振幅を一例として示すグラフである。
【
図12】この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出方法を説明するための概念図であり、(A)は列車通過時の橋梁中央の最大加速度を示すグラフであり、(B)は橋梁の変位波形を示すグラフであり、(C)はバンドパスフィルタ処理後の車両長を主成分とする振動波形を示すグラフであり、(D)は包絡線処理後の車両長を主成分とする振動波形を示すグラフであり、(E)は共振橋梁検出指標RDIを示すグラフである。
【
図13】この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出方法を説明するための工程図である。
【
図14】この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図15】この発明の第2実施形態に係る橋梁の共振検出システムを概略的に示す全体図であり、(A)は列車が上り方向に走行しているときの全体図であり、(B)はこの列車が下り方向に走行しているときの全体図である。
【
図16】この発明の第3実施形態に係る橋梁の共振検出システムを概略的に示す全体図である。
【
図17】この発明の第3実施形態に係る橋梁の共振検出システムを概略的に示す構成図である。
【
図18】この発明の実施例に係る橋梁の共振検出方法の検出結果を一例として示す画面である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1に示す軌道Rは、列車Tが走行する通路(線路)である。軌道Rは、
図4に示すように、列車Tの車輪を案内する左右一対のレールR
1,R
2などを備えている。軌道Rは、例えば、二本の本線で構成された複線であり、終点から起点に向かって列車Tが走行する上り線と、起点から終点に向かって列車Tが走行する下り線とから構成されている。
【0017】
図1及び
図2に示す列車Tは、軌道Rに沿って移動する移動体である。列車Tは、橋梁B上を走行する電気車、気動車又は客車などの鉄道車両である。
図1及び
図2に示す列車Tは、例えば、高速で走行する新幹線(登録商標)の鉄道車両である。列車Tは、旅客又は貨物の運輸営業を行うことを目的として組成された営業列車である。列車Tは、例えば、
図1に示すように、車両長(車体長)が25m程度の営業車両12両で編成されている。列車Tは、橋梁B上を走行するときに規則的な軸配置に起因して、車輪が周期的に橋梁Bに荷重を作用させて橋梁Bを加振する。
【0018】
列車Tは、
図1及び
図2に示すように、車両V
F,V
M,V
Lによって組成されており、略一定の速度V
0で橋梁Bを移動している。車両V
Fは、編成の先頭に位置する先頭車両であり、車両V
Mは編成の中間に位置する中間車両であり、車両V
Lは編成の後尾に位置する後尾車両(最後尾車両)である。車両V
F,V
M,V
Lは、台車T
1,T
2を備えており、一つの車体が二つの台車T
1,T
2によって支持されている。台車T
1,T
2は、各車両V
F,V
M,V
Lの車体を支持して軌道R上を走行する装置である。
図1及び
図2に示す台車T
1,T
2は、二対の輪軸によって構成された二軸台車(ボギー台車)であり、各車両V
F,V
M,V
Lの車体の一方の端部と他方の端部とを支持している。台車T
1は、各車両V
F,V
M,V
Lの進行方向前側に配置されて車体の一方の端部を支持する第一台車であり、台車T
2は各車両V
F,V
M,V
Lの進行方向後側に配置されて車体の他方の端部を支持する第二台車である。
【0019】
図1に示す橋梁Bは、軌道Rの下方に空間を形成するように建設された固定構造物である。橋梁Bは、川、谷、湖沼などの水圏又は道路、鉄道などの交通路を横切るように建設されている。橋梁Bは、例えば、コンクリートが主要材料である鉄筋コンクリート構造(RC構造)、又はプレストレストコンクリート構造の一種であり、通常の使用状態でひび割れの発生を許容し、異形鉄筋の配置とプレストレストの導入によりひび割れ幅を制御する構造 (PRC構造)のコンクリート鉄道橋である。橋梁Bは、桁B
1と橋脚B
2などを備えている。桁B
1は、水平方向に配置されて軌道Rを支持する構造物である。桁B
1は、橋脚B
2を支点として一方の支点と他方の支点とを跨ぐPRC桁のような梁である。橋脚B
2は、桁B
1を支持する構造物である。橋脚B
2は、橋梁Bの長さ方向に所定の間隔をあけて施工されており、鉛直方向に配置される鉄筋コンクリート柱などである。
【0020】
図2及び
図3に示す共振検出システム1は、列車Tが走行する橋梁Bの共振を検出するシステムである。共振検出システム1は、
図3に示すように、軌道変位測定装置2A,2Bと、通信装置3と、共振検出装置4などを備えている。共振検出システム1は、軌道変位測定装置2A,2Bの測定結果を通信装置3によって共振検出装置4に送信し、軌道変位測定装置2A,2Bの測定結果に基づいて橋梁Bの共振を検出する。
【0021】
図2及び
図3に示す軌道変位測定装置2A,2Bは、橋梁B上の軌道変位を測定する装置である。
図2に示すように、軌道変位測定装置2Aは列車Tの先頭の車両V
Fの進行方向後側の台車T
2に配置されており、軌道変位測定装置2Bは列車Tの後尾の車両V
Lの進行方向前側の台車T
1に配置されている。軌道変位測定装置2Aは、列車Tの前方で軌道変位を測定し、軌道変位測定装置2Bは列車Tの後方で軌道変位を測定する。軌道変位測定装置2A,2Bは、列車Tとともに軌道R上を移動しながら軌道変位を測定する。ここで、軌道変位(通路変位)とは、列車Tの繰り返し通過などによって、列車Tの走行路面である軌道Rが徐々に変動して、レールR
1,R
2の長さ方向の形状が変化する現象であり、軌道不整又は軌道狂いともいう。軌道変位測定装置2A,2Bは、いずれも同一構造である。軌道変位測定装置2A,2Bは、
図4に示すように、ジャイロ2aと、加速度センサ2bと、レーザ変位計2c,2dと、軌道変位演算部2eと、走行距離演算部2fと、測定データ記憶部2gと、測定データ送信部2hと、制御部2iなどを備えている。
【0022】
図2及び
図3に示す軌道変位測定装置2A,2Bは、例えば、一部の高速鉄道列車に導入されており慣性正矢法による車載型の軌道不整計測機器であり、営業列車の台車T
1,T
2に搭載される台車搭載型の軌道変位測定装置(慣性正矢測定装置)である。ここで、慣性正矢法とは、車両V
F,V
Lに搭載したジャイロ2a及び加速度センサ2bの出力信号を軌道変位演算部2eが二回積分することによって算出した車両V
F,V
Lの変位に基づいて、軌道変位演算部2eが仮想基準線を作成し、この仮想基準線からレールR
1,R
2までの変位量を軌道変位演算部2eが軌道変位として演算する手法である。軌道変位測定装置2A,2Bは、ジャイロ2a及び加速度センサ2bの出力信号を軌道変位演算部2eが二回積分することによって、各時点における測定機器の位置(台車変位)を推定する慣性計測を軌道変位演算部2eが実施する。軌道変位測定装置2A,2Bは、レーザ変位計2cによって測定された台車直下の軌道Rと台車T
1,T
2との相対変位(左右のレール位置)から、ジャイロ2a及び加速度センサ2bによって慣性計測された台車変位(装置本体の空間上の絶対位置)を軌道変位演算部2eが差し引くことで、台車T
1,T
2の振動がキャンセルされた軌道変位を軌道変位演算部2eが測定する。
【0023】
ジャイロ2aは、台車T1,T2の角加速度を測定する装置である。加速度センサ2bは、台車T1,T2の加速度を測定する装置である。レーザ変位計2cは、左右のレールR1,R2の頭頂面にレーザ光を照射して反射レーザ光を受光し、台車T1,T2から左右のレールR1,R2までの変位を測定する装置である。レーザ変位計2dは、左右のレールR1,R2の頭側面にレーザ光を照射して反射レーザ光を受光し、台車T1,T2から左右のレールR1,R2までの変位を測定する装置である。軌道変位演算部2eは、軌道Rの軌道変位を演算する手段である。軌道変位演算部2eは、ジャイロ2a、加速度センサ2b及びレーザ変位計2c,2dの測定結果に基づいて軌道Rの軌道変位を演算し、軌道変位データD1~D5として制御部2iに出力する。
【0024】
走行距離演算部2fは、列車Tの走行距離を演算する手段である。走行距離演算部2fは、例えば、軌道Rの特定地点に設置された自動列車停止装置(ATS)のATS車上子が出力する絶対位置情報を受信して列車Tの絶対位置を検出し、次のATS地上子に列車Tが到達するまで、列車Tの速度を検出する速度発電機が出力する距離パルス信号を積算して列車Tの走行距離を演算する。走行距離演算部2fは、起点からの列車Tの走行距離(移動距離)を走行距離データD6として制御部2iに出力する。
【0025】
測定データ記憶部2gは、軌道変位測定装置2A,2Bが測定する種々の測定データDを記憶する手段である。測定データ記憶部2gは、例えば、
図5に示すように、軌道変位演算部2eが演算する軌道変位データD
1~D
5と、走行距離演算部2fが演算する走行距離データD
6とを測定データ(検測データ)Dとして記憶する記憶装置であり、軌道変位データD
1~D
5を走行距離データD
6と対応させて時系列順に記憶する。ここで、
図5に示す軌道変位データD
1は、レールR
1,R
2の上下方向の変位である高低変位に関するデータである。軌道変位データD
2は、左右のレールR
1,R
2の高さの差(高低差)である水準変位に関するデータである。軌道変位データD
3は、一定距離間の軌道Rの水準の変化量(軌道Rの平面に対するねじれ状態)である平面性変位に関するデータである。軌道変位データD
4は、レールR
1,R
2の左右方向の変位である通り変位に関するデータである。軌道変位データD
5は、左右のレールR
1,R
2の間隔(軌間)の変化である軌間変位に関するデータである。
【0026】
図4に示す測定データ送信部2hは、軌道変位測定装置2A,2Bから測定データDを送信する手段である。測定データ送信部2hは、軌道変位測定装置2A,2Bから通信装置3を通じて共振検出装置4に測定データDを送信する送信機である。測定データ送信部2hは、測定データDをリアルタイムで共振検出装置4に送信する。
【0027】
制御部2iは、軌道変位測定装置2A,2Bに関する種々の動作を制御する中央処理部(CPU)である。制御部2iは、例えば、ジャイロ2a及び加速度センサ2bに角加速度及び加速度の検出を指令したり、軌道変位演算部2eに軌道変位の演算を指令したり、軌道変位演算部2eが出力する軌道変位データD1~D5を測定データ記憶部2gに出力したり、走行距離演算部2fに走行距離の演算を指令したり、走行距離演算部2fが出力する走行距離データD6を測定データ記憶部2gに出力したり、軌道変位データD1~D5及び走行距離データD6の記憶を測定データ記憶部2gに指令したり、測定データDを測定データ記憶部2gから読み出して測定データ送信部2hに出力したり、測定データDの送信を測定データ送信部2hに指令したりする。制御部2iには、ジャイロ2a、加速度センサ2b、レーザ変位計2c,2d、軌道変位演算部2e、走行距離演算部2f、測定データ記憶部2g及び測定データ送信部2hなどが相互に通信可能に接続されている。
【0028】
図3に示す通信装置3は、軌道変位測定装置2A,2Bから共振検出装置4に測定データDを送信する装置である。通信装置3は、軌道変位測定装置2A,2Bの測定データ送信部2hから共振検出装置4の測定データ受信部4aに測定データDを送信するために、これらを相互に通信可能なように接続する電話回線又はインターネット回線などの電気通信回線である。
【0029】
図2及び
図3に示す共振検出装置4は、列車Tが走行する橋梁Bの共振を検出する装置である。共振検出装置4は、軌道変位測定装置2A,2Bが測定する軌道変位データD
1から橋梁変位(橋梁変位成分)以外の軌道変位を除去するとともに、共振橋梁に特有の振動成分を抽出する。共振検出装置4は、先頭の車両V
Fで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅と、後尾の車両V
Lで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅との差分から、橋梁Bの共振を検出する。共振検出装置4は、
図3に示すように、測定データ受信部4aと、測定データ記憶部4bと、振動成分抽出部4cと、振動振幅推定部4dと、差分演算部4eと、共振検出部4fと、検出結果データ記憶部4gと、共振検出プログラム記憶部4hと、表示部4iと、制御部4jなどを備えている。共振検出装置4は、例えば、パーソナルコンピュータなどによって構成されており、共振検出プログラムに従って所定の処理をコンピュータに実行させる。共振検出装置4は、例えば、軌道変位及び車両動揺などの鉄道に関するデータを、種々の角度から分析及び加工する軌道保守管理データベースシステム(Laboratory's Conversational System(LABOCS))上で共振検出プログラムを実行する。
【0030】
次に、列車通過時の鉄道橋の共振現象について説明する。
以下では、2次元単純梁としてモデル化した鉄道橋と、2次元マルティボディによりモデル化した車両による相互シミュレーション結果を例にして説明する。鉄道橋及び車両の諸元は、日本の一般的な鉄道橋及び高速車両を想定し、径間長50m、固有振動数2.8Hz、モード減衰比2%、単位長質量25t/m、車両長25m、台車中心間隔17.5m、台車内車軸間隔2.5m、軸重120kN及び編成数12両である。
【0031】
図6は、列車通過時の単純支持梁の最大変位及び衝撃係数と列車速度との関係を示すグラフである。
図6(A)に示す縦軸は列車通過時の単純支持梁の最大変位[mm]であり、
図6(B)に示す縦軸は列車通過時の単純支持梁の衝撃係数であり、
図6(A)(B)に示す横軸は列車速度[km/h]である。
図6(A)(B)に示すように、列車速度250km/hにおいて共振により最大変位及び衝撃係数が急激に増幅(図中C部分)しており、
図1に示す車両長L
Cで代表される走行列車の加振振動数と橋梁Bの固有振動数とが一致することで共振現象が生じている。
【0032】
図7は、
図6中のA~E部分の各列車速度200,230,250,270,300km/hにおける橋梁中央の変位応答時系列を示すグラフである。
図7に示す縦軸は、変位応答[mm]であり、横軸は1車両分(車両長25m)が通過する時間を1とした無次元化時間である。
図7(A)(E)では、列車通過に伴う動的応答振幅はあまり確認できず、動的挙動が静的載荷の場合と概ね同じである。
図7(B)(D)では、列車通過時の橋梁応答の振幅が増減するうなり現象を生じており、列車Tによる加振周期と橋梁Bの固有振動数が若干ずれることでこのうなり現象が生じる。一方、
図7(C)の共振時では、列車Tの通過とともに変位応答が漸増し、後尾車両の通過時に最大変位が生じている。
【0033】
図8は、各列車速度200,230,250,270,300km/hにおける橋梁通過時に車上から測定される先頭車両の第二台車及び後尾車両の第一台車の中心位置の橋梁変位(軌道変位における橋梁変位成分)を示すグラフである。
図8に示す縦軸は、変位応答[mm]であり、横軸は1車両分(車両長25m)が通過する時間を1とした無次元化時間である。
図8(A)(E)に示すように、通過橋梁で共振が生じていない場合には、先頭車両及び後尾車両の各台車で測定される軌道変位は概ね同じ値である。
図8(C)に示すように、通過橋梁で共振が生じても、先頭車両の台車で測定された軌道変位は、
図8(A)(B)(D)(E)に示す非共振の場合に先頭車両の台車で測定されて軌道変位とほとんど変わらない。しかし、
図8(C)に示すように、共振時には共振により増幅された橋梁応答が重複する後尾車両の台車で測定された軌道変位は、先頭車両の台車で測定された軌道変位よりも大きい振幅を有し顕著に増加する。従って、
図2に示すように、後尾の車両V
Lの台車T
2で測定された軌道変位と、先頭の車両V
Fの台車T
1で測定された軌道変位との差分により、通過した橋梁Bの動的応答増幅の有無を判断できる。
【0034】
次に、この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出装置の検出原理を説明する。
図9は、移動荷重の作用点で観測される軌道変位として、共振時の橋梁変位成分を分析するための簡易な理論モデルを示す。この理論モデルでは、走行列車の荷重を車両長間隔で導入される集中移動荷重の列として理想化し、ある移動荷重の作用点の橋梁変位に着目した。ここで、
図9に示すL
cは、車両長であり、Pは車両長毎の集中移動荷重であり、v
resは列車速度(共振速度)であり、EIは橋梁Bの曲げ剛性であり、m
bは橋梁Bの単位長荷重であり、c
bは橋梁Bの減衰定数であり、L
bは橋梁Bの支点間の距離である径間長(支間長(スパン長))であり、z
b(x,t)は橋梁B上の位置x及び時点tにおける橋梁Bの鉛直変位を表す。xは、橋梁Bの左端をゼロとする橋軸方向の位置であり、tは先頭の集中移動荷重が橋梁Bに進入した時点をゼロとする時間を表す。なお、車両数は十分に多く橋梁Bの振動は定常状態に達していると仮定する。この場合に、m番目の荷重作用点における橋梁Bの動的変位z
m
b,dは、以下の数1に示すように単純に位置xの関数で表される。ここで、数1に示すA
resは、共振時の動的応答振幅を表す。
【0035】
【0036】
図10は、車両長25m、径間長50m、A
res=1とした場合に数1によって得られる荷重作用点における共振時の橋梁Bの動的変位波形の例である。
図10に示す縦軸は、振幅であり、横軸は橋梁左端からの距離(m)である。数1は、
図10に示すように、波長が車両長L
cとなる波形の最大振幅が、径間長L
bの2倍の2L
bで変動することを示す。この特徴を利用することによって、軌道変位の測定に混入する他の振動成分と共振橋梁由来の振動成分とをより高精度に分解可能である。
【0037】
後尾の車両VLで測定される橋梁変位を含む軌道変位Irl(x)から、先頭の車両VFで測定される橋梁変位を含む軌道変位Irf(x)を引くことで、以下の数2に示すように、橋梁変位を除いた軌道変位及び橋梁Bの準静的なたわみ成分を消去できる。
【0038】
【0039】
ここで、数2に示すz
f
b(x),z
l
b(x)はそれぞれ先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lで測定される橋梁変位を含む荷重作用点の軌道変位である。e
f(x),e
l(x)は、それぞれ先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lで測定される橋梁応答を含む軌道変位の測定誤差であり、同一の軌道変位測定装置2A,2Bを用いるため同じ確率分布から生成されると仮定できる。z
l
b,d(x)は、後尾の車両V
Lの荷重作用点における共振時の橋梁Bの動的変位(動的なたわみ成分)である。N(0,2σ
2)は、測定誤差の分布として平均ゼロ及び分散σ
2の正規分布である。数2に示すz
l
b,d(x)は、数1及び
図10に示すように、波長が車両長L
cの正弦波と、波長が径間長L
bの2倍の2L
bの正弦波との積であることを示す。
【0040】
日本の一般的な高速鉄道車両は車両長L
c=25mであり、日本の一般的な橋梁において共振が生じるような径間長L
bは概ねL
b≧30mである。従って、ほとんどの共振橋梁では数1の二つの波長に対して1/L
c≧1/2L
bの関係になる。
図10に示すように、数2は波長が車両長L
cの振動が主成分であり、その振幅が波長1/2L
bで増減する。また、定義域が0≦x≦L
bであるため、波長が2L
bの振動成分は周波数領域で大きな卓越性分を有さない。
【0041】
図11は、車両長25m、径間長50mの場合の荷重作用点における共振時の橋梁Bの動的変位の波形のフーリエ振幅の例である。
図10に示す径間長50mの橋梁Bの動的変位z
l
b,d(x)の波形のフーリエ振幅は、
図11に示すように、車両長25mでピークを示すことが確認できる。
【0042】
図3に示す測定データ受信部4aは、軌道変位測定装置2A,2Bが送信する測定データDを受信する手段である。測定データ受信部4aは、軌道変位測定装置2A,2Bが通信装置3を通じて送信する測定データDを受信する。測定データ記憶部4bは、軌道変位測定装置2A,2Bが送信する測定データDを記憶する手段である。測定データ記憶部4bは、例えば、
図5に示すような軌道変位測定装置2A.2Bが送信する測定データDを時系列順に記憶する記憶装置である。
【0043】
図3に示す振動成分抽出部4cは、軌道変位測定装置2A,2Bの測定結果に基づいて、共振橋梁に特有の振動成分を抽出する手段である。ここで、共振橋梁に特有の振動成分とは、車両長L
cを主成分とする振動である。振動成分抽出部4cは、測定データ記憶部4bが記憶する鉛直方向の軌道変位である軌道変位データD
1から共振橋梁に特有の振動成分を抽出する。振動成分抽出部4cは、先頭の車両V
Fの共振橋梁に特有の振動成分を軌道変位測定装置2Aの測定結果(軌道変位波形)から抽出するとともに、後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分を軌道変位測定装置2Bの測定結果(軌道変位波形)から抽出する。振動成分抽出部4cは、橋梁Bの変位分(橋梁応答)を含む軌道変位の時間変化を示す測定波形から、車両長L
cを主成分とする振動(車両長不整)のみを通過させて、車両長L
cを主成分とする振動以外を除去する。振動成分抽出部4cは、例えば、特定の周波数成分を通過させるディジタルフィルタなどのフィルタ部として機能する。振動成分抽出部4cは、
図10に示す橋梁Bの動的変位z
m
b,d(x)の波形からバンドパスフィルタ処理によって、共振橋梁に特有の振動成分sin(2πx/L
c+θ
res)を抽出する。振動成分抽出部4cは、抽出後の共振橋梁に特有の振動成分を、振動成分データとして振動振幅推定部4dに出力する。
【0044】
図3に示す振動振幅推定部4dは、共振橋梁に特有の振動成分の振幅を推定する手段である。振動振幅推定部4dは、先頭の車両V
Fの共振橋梁に特有の振動成分の振幅を軌道変位測定装置2Aの測定結果に基づいて推定するとともに、後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分の振幅を軌道変位測定装置2Bの測定結果に基づいて推定する。振動振幅推定部4dは、車両長L
cを主成分とする振動の振幅を包絡線処理によって推定する。振動振幅推定部4dは、
図10に示す波長が車両長L
cとなる橋梁Bの動的変位z
m
b,d(x)の波形を包絡線処理し、波長が径間長L
bの2倍の2L
bの包絡線sin(2πx/2L
bres)を生成して、この包絡線sin(2πx/2L
bres)の振幅を推定する。ここで、包絡線処理とは、
図10に示す橋梁の動的変位z
m
b,d(x)の波形の包絡線を推定する処理である。振動振幅推定部4dは、推定後の共振橋梁に特有の振動成分の振幅を、振動振幅データとして差分演算部4eに出力する。
【0045】
図3に示す差分演算部4eは、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を演算する手段である。差分演算部4eは、後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分の振幅から、先頭の車両V
Fの共振橋梁に特有の振動成分の振幅を減算することによって、後尾の車両V
Lでのみ卓越する共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を演算する。差分演算部4eは、バンドパスフィルタ処理及び包絡線処理後の先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lの橋梁変位を含む軌道変位の差分を以下の数3によって演算する。
【0046】
【0047】
ここで、数3に示すF{・}はバンドパスフィルタ処理であり、G{・}は包絡線処理であり、Ares,Fはバンドパスフィルタ処理後の共振橋梁の動的応答振幅である。差分演算部4eは、演算後の共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を差分データとして共振検出部4fに出力する。
【0048】
共振検出部4fは、軌道変位測定装置2A,2Bの測定結果に基づいて、橋梁Bの共振を検出する手段である。共振検出部4fは、先頭の車両VFで軌道変位を測定する軌道変位測定装置2Aの測定結果と、後尾の車両VLで軌道変位を測定する軌道変位測定装置2Bの測定結果とに基づいて、橋梁Bの共振を検出する。共振検出部4fは、先頭の車両VF及び後尾の車両VLで測定される共振橋梁に特有の振動成分の差分に基づいて、橋梁Bの共振を検出する。共振検出部4fは、橋梁Bが共振しているか否かを検出するための指標である共振橋梁検出指標RDIを以下の数4によって演算する。共振検出部4fは、列車Tが通過した任意の径間長Lbの橋梁Bが共振しているか否かを、共振橋梁検出指標RDIに基づいて以下の数5によって評価する。
【0049】
【0050】
【0051】
共振検出部4fは、例えば、共振橋梁検出指標RDIが所定値(しきい値)を超えるときには橋梁Bが共振状態であると評価し、共振橋梁検出指標RDIが所定値(しきい値)以下であるときには橋梁Bが共振状態ではない評価する。共振検出部4fは、橋梁Bが共振しているか否かの検出結果を検出結果データとして制御部4jに出力する。
【0052】
検出結果データ記憶部4gは、共振検出部4fの検出結果を記憶する手段である。検出結果データ記憶部4gは、例えば、共振検出部4fが出力する検出結果データを橋梁B毎に時系列順に記憶する記憶装置である。
【0053】
共振検出プログラム記憶部4hは、列車Tが走行する橋梁Bの共振を検出するための共振検出プログラムを記憶する手段である。共振検出プログラム記憶部4hは、情報記録媒体から読み取った共振検出プログラム又は電気通信回線を通じて取り込まれた共振検出プログラムを記憶する記憶装置などである。
【0054】
表示部4iは、共振検出装置4に関する種々の情報を表示する手段である。表示部4iは、例えば、軌道変位測定装置2A,2Bの測定結果及び共振検出部4fの検出結果などを画面上に表示する表示装置である。表示部4iは、例えば、
図5に示すような軌道変位データD
1~D
5を走行距離データD
6と対応させて画面上に表示するとともに、列車Tが通過する橋梁B毎の共振の有無を走行距離データD
6と対応させて画面上に表示する。
【0055】
制御部4jは、共振検出装置4に関する種々の動作を制御する中央処理部(CPU)である。制御部4jは、共振検出プログラム記憶部4hから共振検出プログラムを読み出して、この共振検出プログラムに従って共振検出処理を実行する。制御部4jは、例えば、測定データ記憶部4bから軌道変位データD1を読み出して振動成分抽出部4cに出力したり、共振橋梁に特有の振動成分を軌道変位データD1から抽出するように振動成分抽出部4cに指令したり、共振橋梁に特有の振動成分の振幅の推定を振動振幅推定部4dに指令したり、先頭の車両V1及び後尾の車両V3で測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を差分演算部4eに指令したり、橋梁Bが共振しているか否かの検出を共振検出部4fに指令したり、共振検出部4fが出力する検出結果データを検出結果データ記憶部4gに出力したり、検出結果データの記憶を検出結果データ記憶部4gに指令したり、表示部4iに種々のデータの表示を指令したりする。制御部4jには、測定データ受信部4a、測定データ記憶部4b、振動成分抽出部4c、振動振幅推定部4d、差分演算部4e、共振検出部4f、検出結果データ記憶部4g、共振検出プログラム記憶部4h及び表示部4iが相互に通信可能に接続されている。
【0056】
次に、この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出方法について説明する。
図12は、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lで測定される径間長50mの橋梁Bの変位成分に共振検出方法を適用した場合を一例として示すグラフである。
図12(A)に示す縦軸は、列車通過時の橋梁中央の最大加速度であり、横軸は列車速度[km/h]である。
図12(B)に示す縦軸は、橋梁の変位 [mm]であり、
図12(
C)の縦軸はバンドパスフィルタ処理後の車両長を主成分とする振動[mm]であり、
図12(
D)の縦軸は包絡線処理後の車両長を主成分とする振動[mm]であり、
図12(
E)の縦軸は共振橋梁検出指標RDI[mm]である。
図12(B)~(E)に示す横軸は、橋梁左端からの距離[m]である。
【0057】
図13に示す共振検出方法#100は、列車Tが走行する橋梁Bの共振を検出する方法である。共振検出方法#100は、振動成分抽出工程#110と、振動振幅推定工程#120と、差分演算工程#130と、共振検出工程#140などを含む。共振検出方法#100では、
図3及び
図4に示す軌道変位測定装置2A,2Bが測定する軌道変位データD
1から橋梁Bの変位成分以外の軌道変位を除去するとともに、共振橋梁に特有の振動成分を抽出する。共振検出方法#100では、先頭の車両V
Fで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅と、後尾の車両V
Lで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅との差分から、橋梁Bの共振を検出する。
【0058】
振動成分抽出工程#110は、軌道変位測定装置2A,2Bの測定結果に基づいて、共振橋梁に特有の振動成分を抽出する工程である。振動成分抽出工程#110では、
図12(B)に示すように、軌道変位測定装置2Aが先頭の車両V
Fの台車T
2で測定する軌道変位と、軌道変位測定装置2Bが後尾の車両V
Lの台車T
1で測定する軌道変位とから、
図12(C)に示すように橋梁Bの変位成分以外の変位成分がフィルタ処理されることによって除去される。その結果、先頭の車両V
Fの台車T
2で測定される橋梁変位のみの軌道変位と、後尾の車両V
Lの台車T
1で測定される橋梁変位のみの軌道変位とが、車両長L
cを主成分とする共振橋梁に特有の振動成分として抽出される。
【0059】
振動振幅推定工程#120は、共振橋梁に特有の振動成分の振幅を推定する工程である。振動振幅推定工程#120では、
図12(C)に示す先頭の車両V
Fの共振橋梁に特有の振動成分と、後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分とが包絡線処理される。その結果、
図12(D)に示すように、先頭の車両V
Fの共振橋梁に特有の振動成分の振幅と、後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分の振幅とが推定される。
【0060】
差分演算工程#130は、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を演算する工程である。差分演算工程#130では、
図12(D)に示すように、後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分の振幅から、先頭の車両V
Fの共振橋梁に特有の振動成分の振幅が差し引かれて、
図12(E)に示すように共振橋梁検出指標RDIが算出される。
【0061】
共振検出工程#140では、軌道変位測定装置2A,2Bの測定結果に基づいて、橋梁Bの共振を検出する工程である。共振検出工程#140では、先頭の車両V
Fで軌道変位を測定する軌道変位測定装置2Aの測定結果と、後尾の車両V
Lで軌道変位を測定する軌道変位測定装置2Bの測定結果とに基づいて、橋梁Bの共振を検出する。共振検出工程#100では、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分に基づいて橋梁Bの共振を検出する。共振検出工程#140では、
図12(E)に示すように、共振橋梁検出指標RDIが所定値を超えるときには、橋梁Bが共振していると判定され、共振橋梁検出指標RDIが所定値以下であるときには、橋梁Bが共振していない判定される。例えば、
図12(E)に示すように、列車速度250km/hの場合には共振橋梁検出指標RDIが比較的大きくなっており橋梁Bが共振していると検出される。一方、
図12(E)に示すように、列車速度200,230,270,300km/hの場合には共振橋梁検出指標RDIが比較的小さくなっており、橋梁Bが共振していないと検出される。
【0062】
次に、この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出装置の動作について説明する。
以下では、制御部4jの動作を中心として説明する。
図14に示すステップ(以下、Sという)100において、共振検出プログラム記憶部4hから共振検出プログラムを制御部4jが読み込む。共振検出プログラムを制御部4jが読み込むと、一連の共振検出処理を制御部4jが開始する。
【0063】
S200において、共振橋梁に特有の振動成分の抽出を振動成分抽出部4cに制御部4jが指令する。軌道変位測定装置2Aが測定する先頭の車両V
Fで測定される軌道変位データD
1と、軌道変位測定装置2Bが測定する後尾の車両V
Lで測定される軌道変位データD
1とを、測定データ記憶部4bから制御部4jが読み出して、これらの軌道変位データD
1を振動成分抽出部4cに制御部4jが出力する。このため、
図10に示す橋梁Bの動的変位z
m
b,d(x)の波形からバンドパスフィルタ処理によって、車両長L
cを主成分とする共振橋梁に特有の振動成分を振動成分抽出部4cが抽出する。その結果、
図12(B)に示すように、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分を振動成分抽出部4cがそれぞれ抽出し、振動成分データとして振動振幅推定部4dに振動成分抽出部4cが出力する。
【0064】
S300において、共振橋梁に特有の振動成分の振幅の推定を振動振幅推定部4dに制御部4jが指令する。その結果、先頭の車両V
Fで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅を、軌道変位測定装置2Aの測定結果に基づいて振動振幅推定部4dが推定する。また、後尾の車両V
Lで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅を、軌道変位測定装置2Bの測定結果に基づいて振動振幅推定部4dが推定する。
図10に示す波長が車両長L
cとなる橋梁Bの動的変位z
m
b,d(x)の波形を振動振幅推定部4dが包絡線処理し、波長が径間長L
bの2倍の2L
bの包絡線sin(πx/L
b)を振動振幅推定部4dが生成する。その結果、
図12(D)に示すように、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分の振幅を振動振幅推定部4dがそれぞれ包絡線処理し、振動振幅推定部4dがこの包絡線の振幅を推定し、振動振幅データとして差分演算部4eに振動振幅推定部4dが出力する。
【0065】
S400において、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分の演算を差分演算部4eに制御部4jが指令する。このため、後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分の振幅から、先頭の車両V
Fの共振橋梁に特有の振動成分の振幅を差分演算部4eが減算して、共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を数3によって差分演算部4eが演算する。その結果、
図12(E)に示すように、先頭の車両V
F及び後尾の車両V
Lの共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を差分演算部4eが演算して、共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を差分データとして共振検出部4fに差分演算部4eが出力する。
【0066】
S500において、軌道変位測定装置2A,2Bの測定結果に基づいて、橋梁Bの共振の検出を共振検出部4fに制御部4jが指令する。その結果、共振検出部4fが共振橋梁検出指標RDIを数4によって演算し、橋梁Bが共振しているか否かを共振橋梁検出指標RDIに基づいて数5によって共振検出部4fが評価する。橋梁Bが共振しているか否かの検出結果を検出結果データとして共振検出部4fが制御部4jに出力すると、この検出結果データを検出結果データ記憶部4gに制御部4jが出力し、この検出結果データが検出結果データ記憶部4gに記憶される。
【0067】
S600において、検出結果の表示を表示部4iに制御部4jが指令する。検出結果データを制御部4jが検出結果データ記憶部4gから読み出して、検出結果データを制御部4jが表示部4iに出力する。その結果、橋梁Bに共振が発生しているか否かの検出結果を表示部4iが画面上に表示する。
【0068】
この発明の第1実施形態に係る橋梁の共振検出方法とその共振検出装置及び橋梁の共振検出プログラムには、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、橋梁B上の軌道変位を測定する軌道変位測定装置2A,2Bの測定結果に基づいて、共振検出部4fが橋梁Bの共振を検出する。このため、橋梁B上を走行する列車Tの軌道変位測定装置2A,2Bが測定する軌道変位データD1を利用することによって、共振橋梁を高精度に抽出することができる。例えば、営業列車から軌道変位を測定する営業車検測の測定結果を利用して、共振橋梁を簡単に検知することができる。また、走行列車を構成する複数の車両VF,VLで測定した動的な軌道変位に基づいて、共振橋梁を簡単に検出することができる。
【0069】
(2) この第1実施形態では、軌道変位測定装置2A,2Bが列車Tの前方及び後方で軌道変位を測定し、列車Tの前方の軌道変位測定装置2Aの測定結果と、列車Tの後方で軌道変位を測定する軌道変位測定装置2Bの測定結果とに基づいて、共振検出部4fが橋梁Bの共振を検出する。例えば、日本の一部の高速鉄道では、営業列車の先頭車両及び後尾車両でレールR1,R2の高低などの軌道変位を測定している。この第1実施形態では、日々走行する営業列車の先頭車両及び後尾車両に搭載されている軌道変位測定装置2A,2Bを利用して、鉄道橋の状態を高頻度で簡単に把握することができ、一度の走行により膨大な鉄道橋の共振の有無を効率的かつ網羅的に検査することができる。その結果、車上計測データによる高頻度かつ網羅的な共振橋梁の検知とモニタリングによって、高速鉄道に追加の設備投資をすることなく、共振橋梁を効率的に維持管理することができる。また、先頭の車両VF及び後尾の車両VLで同じ軌道変位測定装置2A,2Bを使用するため、先頭の車両VF及び後尾の車両VLの測定誤差の分散を原理的に同程度にすることができる。
【0070】
(3) この第1実施形態では、軌道変位測定装置2A,2Bの測定結果に基づいて、共振橋梁に特有の振動成分を振動成分抽出部4cが抽出する。このため、例えば、共振橋梁に特有の波長成分をフィルタ処理によって強調し、共振橋梁に特有の波長成分を特定することができ、共振橋梁の検出精度を向上させることができる。その結果、車両長成分を強調する波形処理をすることによって、単純な測定誤差や、先頭の車両VFから後尾の車両VLまでの距離の変化による位置ずれに起因する位置同定誤差などの種々の誤差の影響を低減することができる。
【0071】
(4) この第1実施形態では、共振橋梁に特有の振動成分の振幅を振動振幅推定部4dが推定する。このため、例えば、包絡線処理により長波長化することで、先頭の車両VF及び後尾の車両VLの位置ずれの誤差に対して安定化させることができる。例えば、波形同士の差分を行った場合の測定誤差は分散の加法性により増大するが、包絡線処理により測定誤差の増幅に変換することによって、差分処理により測定誤差成分を相殺することができる。その結果、包絡線処理による測定誤差成分の高い除去効果を期待することができる。
【0072】
(5) この第1実施形態では、先頭の車両V1及び後尾の車両VLで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分を差分演算部4eが演算する。このため、先頭の車両VF及び後尾の車両VLで測定される軌道変位に混入している橋梁Bの振動以外の多くの振動成分を差分処理することによって、橋梁Bの振動成分以外の軌道変位を大幅にキャンセルすることができる。例えば、軌道変位データD1には、動的な橋梁応答の他に橋梁以外に起因した不整や軌道構造の変位などが混在している。この第1実施形態では、橋梁以外に起因した不整や軌道構造の変位などは異なる二つの時点で測定しても変化しないと仮定したときに、編成車両の異なる位置で測定され、位置の関数に変換された二つの軌道変位の差分により、橋梁以外に起因した不整や軌道構造の変位などを相殺することができる。また、列車通過とともに橋梁Bの動的応答成分が変化(増幅)する場合に、同じ位置の軌道変位であっても、変化した橋梁Bの動的応答成分のみを差分処理によって抽出することができる。
【0073】
(6) この第1実施形態では、共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分に基づいて、橋梁Bの共振を共振検出部4fが検出する。このため、共振橋梁を通過する後尾の車両VLの軌道変位にのみ車両長LCと同じ波長の橋梁振動が混入し、車両長LCと同じ波長の橋梁振動が先頭の車両VFの軌道変位には混入しないという現象を利用して、共振橋梁に特有の振動成分の振幅の差分から共振橋梁を簡単に検知することができる。その結果、差分処理によって橋梁Bの変位成分以外をキャンセルさせて、高精度に共振橋梁を抽出することができる。また、軌道変位の差分を波形のまま位置座標上で計算することができ、高速鉄道の橋梁Bの共振検出に適用することができる。
【0074】
(7) この第1実施形態では、橋梁B上の軌道変位を測定する軌道変位測定装置2A,2Bの測定結果に基づいて、共振検出手順において橋梁Bの共振を検出する。このため、既存の軌道保守管理データベースシステムに共振検出プログラムを実装し、軌道保守管理データベースシステム上で共振検出プログラムを実行させることができる。また、既存の軌道保守管理データベースシステムに共振検出プログラムをオプション機能として簡単に付加することができる。
【0075】
(第2実施形態)
以下では、
図1~
図5に示す部分と同一の部分については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
図15に示す軌道Rは、例えば、一本の本線で構成された単線であり、一本の本線を上り方向及び下り方向の両方向で使用され列車Tが走行する。
図15に示す軌道変位測定装置2Cは、
図2~
図4に示す軌道変位測定装置2A,2Bと同一構造であり、
図2~
図4に示す軌道変位測定装置2A,2Bとは異なり、
図15に示すように列車Tの一端にのみ搭載されており、列車Tの一端で軌道変位を測定する。軌道変位測定装置2Cは、
図15(A)に示すように、列車Tが上り方面に走行するときに先頭車両となり、
図15(B)に示すようにこの列車Tが下り方面に走行するときに後尾車両となる車両V
Fの台車T
2に搭載されている。
【0076】
図3に示す測定データ記憶部2g,4bは、
図2に示すように、列車Tの先頭の車両V
Fで軌道変位測定装置2Aが測定した測定データDと、列車Tの後尾の車両V
Lで軌道変位測定装置2Bが測定した測定データDとを記憶するのと同様の効果を生じるように、列車Tが上り方向に走行したときの測定データDと、この列車Tが下り方向に走行したときの測定データDとを合成して記憶する。
図3に示す共振検出部4fは、
図15(A)に示すように、列車Tが上り方向に走行するときの軌道変位測定装置2Cの測定結果と、
図15(B)に示すようにこの列車Tが下り方向に走行するときの軌道変位測定装置2Cの測定結果とに基づいて、橋梁Bの共振を検出する。
【0077】
この第2実施形態に係る橋梁の共振検出方法とその共振検出装置及び橋梁の共振検出プログラムには、第1実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
この第2実施形態では、軌道変位測定装置2Cが列車Tの一端で軌道変位を測定し、列車Tが上り方向に走行するときの軌道変位測定装置2Cの測定結果と、この列車Tが下り方向に走行するときの軌道変位測定装置2Cの測定結果とに基づいて、橋梁Bの共振を検出する。このため、1台の軌道変位測定装置2Cが測定する軌道変位データD1に基づいて、橋梁Bの共振を効率的に検出することができる。
【0078】
(第3実施形態)
図16に示すガイドウェイWは、磁気浮上式鉄道の車両V
F,V
M,V
Lが走行する空間を構成する地上設備である。ガイドウェイWは、
図1、
図2及び
図15に示す軌道Rに相当し、断面形状が略U字状の凹部である。ガイドウェイWは、車両V
F,V
M,V
Lの支持車輪が走行する走行路W
1と、走行路W
1の両側に形成された略垂直な側壁W
2とを備えている。ガイドウェイWは、車両V
F,V
M,V
Lを支持する支持部として機能するとともに、車両V
F,V
M,V
Lが水平方向に逸脱するのを防ぐガイド部としても機能する。ガイドウェイWは、車両V
F,V
M,V
Lに推進力を与える推進コイルと、車両V
F,V
M,V
Lに浮上力及び案内力を発生させる浮上案内コイルとを支持している。
【0079】
図16に示す列車Tは、ガイドウェイWに沿って移動する移動体である。列車Tは、橋梁B上を移動する磁気浮上式鉄道車両である。列車Tは、車両V
F,V
M,V
Lが磁気吸引力及び磁気反発力によって浮上し走行する。列車Tは、強磁界を発生する超電導磁石Mを備えている。
【0080】
図16及び
図17に示す共振検出システム1は、
図17に示すように、ガイドウェイ変位測定装置2D,2Eなどを備えている。共振検出システム1は、ガイドウェイ変位測定装置2D,2Eの測定結果を通信装置3によって共振検出装置4に送信し、ガイドウェイ変位測定装置2D,2Eの測定結果に基づいて橋梁Bの共振を検出する。
【0081】
ガイドウェイ変位測定装置2D,2Eは、橋梁B上のガイドウェイ変位を測定する装置である。ここで、ガイドウェイ変位(通路変位)とは、ガイドウェイWの設計上の位置及び基本寸法に対する現場のガイドウェイWの位置及び寸法の誤差である。ガイドウェイ変位は、軌道変位と同様に高低変位、通り変位、水準変位、平面性変位及び内面間距離変位などがあり、ガイドウェイ不整又はガイドウェイ狂いともいう。
図16に示すように、ガイドウェイ変位測定装置2Dは列車Tの先頭の車両V
Fの進行方向後側の超電導磁石Mに配置されており、ガイドウェイ変位測定装置2Eは列車Tの後尾の車両V
Lの進行方向前側の超電導磁石Mに配置されている。ガイドウェイ変位測定装置2Dは、列車Tの前方でガイドウェイ変位を測定し、ガイドウェイ変位測定装置2Eは列車Tの後方でガイドウェイ変位を測定する。ガイドウェイ変位測定装置2D,2Eは、列車TとともにガイドウェイW上を移動しながらガイドウェイ変位を測定する。ガイドウェイ変位測定装置2D,2Eは、いずれも同一構造であり、
図2~
図4及び
図15に示す軌道変位測定装置2A,2Bに近似した構造である。
【0082】
図16及び
図17に示す共振検出装置4は、ガイドウェイ変位測定装置2D,2Eが測定するガイドウェイ変位データから橋梁Bの変位成分(橋梁変位)以外のガイドウェイ変位を除去するとともに、共振橋梁に特有の振動成分を抽出する。
図17に示す測定データ受信部4aは、ガイドウェイ変位測定装置2D,2Eが送信する測定データDを受信する。測定データ記憶部4bは、ガイドウェイ変位測定装置2D,2Eが送信する測定データDを記憶する。
【0083】
振動成分抽出部4cは、ガイドウェイ変位測定装置2D,2Eの測定結果に基づいて、共振橋梁に特有の振動成分を抽出する。振動成分抽出部4cは、測定データ記憶部4bが記憶する鉛直方向のガイドウェイ変位であるガイドウェイ変位データから共振橋梁に特有の振動成分を抽出する。振動振幅推定部4dは、先頭の車両VFで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅をガイドウェイ変位測定装置2Dの測定結果に基づいて推定するとともに、後尾の車両VLで測定される共振橋梁に特有の振動成分の振幅をガイドウェイ変位測定装置2Eの測定結果に基づいて推定する。
【0084】
共振検出部4fは、ガイドウェイ変位測定装置2D,2Eの測定結果に基づいて、橋梁Bの共振を検出する。共振検出部4fは、先頭の車両VFでガイドウェイ変位を測定するガイドウェイ変位測定装置2Dの測定結果と、後尾の車両VLでガイドウェイ変位を測定するガイドウェイ変位測定装置2Eの測定結果とに基づいて、橋梁Bの共振を検出する。
【0085】
図13に示す共振検出方法#100では、
図16及び
図17に示すガイドウェイ変位測定装置2D,2Eが測定するガイドウェイ変位データから橋梁Bの変位成分以外のガイドウェイ変位を除去するとともに、共振橋梁に特有の振動成分を抽出する。振動成分抽出工程#110では、ガイドウェイ変位測定装置2D,2Eの測定結果に基づいて、共振橋梁に特有の振動成分を抽出する。振動成分抽出工程#110では、ガイドウェイ変位測定装置2Dが先頭の車両V
Fで測定するガイドウェイ変位と、ガイドウェイ変位測定装置2Eが後尾の車両V
Lで測定するガイドウェイ変位とから、橋梁Bの変位成分以外の変位成分がフィルタ処理されることによって除去される。共振検出工程#140では、ガイドウェイ変位測定装置2D,2Eの測定結果に基づいて、橋梁Bの共振を検出する。共振検出工程#140では、先頭の車両V
Fでガイドウェイ変位を測定するガイドウェイ変位測定装置2Dの測定結果と、後尾の車両V
Lでガイドウェイ変位を測定するガイドウェイ変位測定装置2Eの測定結果とに基づいて、橋梁Bの共振を検出する。この第3実施形態には、第1実施形態及び第2実施形態と同様の効果がある。
【実施例】
【0086】
(測定方法)
提案手法を現実の高速鉄道に適用することで、共振橋梁を検知するとともに、地上からの現地計測により共振状態の検証を行った。台車に慣性計測を含む軌道変位測定装置が搭載された先頭車両及び後尾車両が走行する日本の高速鉄道路線を対象とした。路線全長約250kmのうち、停車駅前後の加減速区間、橋梁以外の盛土やトンネル区間を除いた約22.6km(橋梁数875本)を検知対象とした。列車は8両編成、車両長LCは25m、台車中心間隔は17.5m、車軸間隔は2.5m、軸重は空車時120kN程度である。対象区間の走行速度は概ね230~250km/hである。慣性正矢装置は、先頭車両の第二台車中心及び後尾車両の第一台車中心にそれぞれ設置されており、約3km毎の地上端子との通信記録により時間から距離の関数に変換した。さらに、先頭車両の測定データを基準とした相互相関により、後尾車両の相対位置を微修正した。2kHzサンプリングで車上から測定された軌道変位の時系列応答を250mm間隔の距離系列応答に変換した。
【0087】
(共振橋梁の検出結果)
図18に示す画面は、列車速度230km/hの場合の検出結果である。軌道変位は、日本の軌道保守で用いられる40m弦正矢値である。
図18に示す区間Aには6つの橋梁A1~A6が存在し、橋梁A1~A6以外には日本の高速鉄道で盛土の代わりに多用されるラーメン高架橋により構成されている。
図18に示すように、橋梁A3では後尾車両のフィルタ処理後の軌道変位が増大することが確認された。その結果、橋梁A3では、卓越長が橋梁A3の径間長とほぼ一致する凸型の卓越形状を共振橋梁検出指標RDIが示している。その結果、橋梁A3は列車速度230km/hで共振状態にあると判断される。一方、その他の橋梁A1,A2,A4~A6及び橋梁A1~A6以外のラーメン高架橋区間では、共振橋梁検出指標RDIが概ね1mm以下となっており、列車速度230km/hでの走行では共振状態ではないと判断できる。
【0088】
(検出結果の検証)
提案手法により検出された橋梁A3が本当に共振しているのかについて、現地たわみ測定により検証した。橋梁A3の形式はプレストレストコンクリート箱桁タイプである。橋梁A3の下から自己振動補正付きレーザードップラー速度計(UドップラーII,サンプリング2000Hz)により、列車通過時の橋梁A3の応答速度を測定した。得られた応答速度を積分することで列車通過時の桁の鉛直変位を測定した。その結果、橋梁A3では列車通過に伴って橋梁A3の動的応答振幅が増大することが確認された。また、列車通過後も大きな自由振動が見られ、これは典型的な1次共振橋梁の列車通過時の波形であることが確認された。さらに、橋梁A3では列車速度225km/hで最大振幅がピークを有する共振となることが確認された。以上より、提案手法により共振橋梁を検知できることが検証された。
【0089】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、橋梁BがPRC桁を備えるコンクリート橋である場合を例に挙げて説明したが、橋梁Bが鋼橋である場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、軌道変位測定装置2A,2Bを台車T1,T2に配置し、ガイドウェイ変位測定装置2D,2Eを超電導磁石Mに配置する場合を例に挙げて説明したが、軌道変位測定装置2A,2B及びガイドウェイ変位測定装置2D,2Eの配置箇所を限定するものではない。例えば、軌道変位測定装置2A,2B及びガイドウェイ変位測定装置2D,2Eを列車Tの編成中央部から前後に等距離離れた位置に配置する場合についても、この発明を適用することができる。また、この第1実施形態では、軌道変位測定装置2Aを台車T2に配置し、軌道変位測定装置2Bを台車T1に配置する場合を例に挙げて説明したが、軌道変位測定装置2Aを台車T1に配置し、軌道変位測定装置2Bを台車T2に配置する場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この第1実施形態及び第2実施形態では、列車Tが12両編成である場合を例に挙げて説明したが、列車Tが8両、10両又は16両編成などである場合についても、この発明を適用することができる。
【0090】
(2) この第1実施形態及び第2実施形態では、列車Tの車両長Lcが25mであり、橋梁Bの径間長Lbが50mである場合を例に挙げて説明したが、この車両長Lc及び径間長Lbに限定するものではない。例えば、車両長Lcが20mであり、径間長Lbが40mである場合についても、この発明を適用することができる。また、この第1実施形態及び第2実施形態では、列車Tが新幹線を走行する新幹線車両である場合を例に挙げて説明したが、在来線を走行する在来線車両、又は新幹線と在来線とを相互に走行可能な新在直通運転用の車両などについても、この発明を適用することができる。さらに、この第1実施形態及び第2実施形態では、列車Tが営業列車である場合を例に挙げて説明したが、車両、軌道又は架線を試験及び調査することを目的として組成された検査列車である場合についても、この発明を適用することができる。例えば、地上設備の状態を検測する機能を有する電気軌道総合試験車などの軌道検測車についても、この発明を適用することができる。
【0091】
(3) この第1実施形態及び第2実施形態では、軌道変位測定装置2A~2Cが慣性正矢測定装置である場合を例に挙げて説明したが、慣性正矢測定装置以外の測定装置についても、この発明を適用することができる。また、この第1実施形態及び第2実施形態では、起点から終点まで軌道変位を連続して軌道変位測定装置2A~2Cが測定する場合を例に挙げて説明したが、橋梁B上の区間内のみで軌道変位を軌道変位測定装置2A~2Cが測定する場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この第1実施形態及び第2実施形態では、列車Tの各車両VF,VM,VLの車体を二つの台車T1,T2によって支持する場合を例に挙げて説明したが、隣接する車両VF,VM,VL間を連接台車によって支持する場合についても、この発明を適用することができる。
【0092】
(4) この第1実施形態及び第2実施形態では、速度発電機の出力信号とATS車上子の出力信号とに基づいて列車Tの走行距離を走行距離演算部2fが演算する場合を例に挙げて説明したが、このような演算方法にこの発明を限定するものではない。例えば、GPS(Global Positioning System(全地球測位システム))又は自律航行装置(ジャイロ)を併用して列車Tの走行距離を演算する場合についても、この発明を適用することができる。また、この第2実施形態では、軌道変位測定装置2Cを台車T2に配置する場合を例に挙げて説明したが、軌道変位測定装置2Cを台車T1に配置する場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この第2実施形態では、軌道Rが単線である場合を例に挙げて説明したが、軌道Rが複線である場合についても、この発明を適用することができる。この場合には、列車Tが上り線を走行するときに測定される軌道変位データD1と、この列車Tが下り線を走行するときに測定される軌道変位データD1とに基づいて、橋梁Bの共振を検出することができる。
【0093】
(5) この第2実施形態では、列車Tが上り方面に走行するときに先頭車両となり、この列車Tが下り方面に走行するときに後尾車両となる車両VFの台車T2に軌道変位測定装置2Cを搭載する場合を例に挙げて説明したが、車両VFの台車T2に搭載箇所を限定するものではない。例えば、列車Tが上り方面に走行するときに後尾車両となり、この列車Tが下り方面に走行するときに先頭車両となる車両VLの台車T1に軌道変位測定装置2Cを搭載する場合についても、この発明を適用することができる。また、この第3実施形態では、車両VFの進行方向後側の超電導磁石Mにガイドウェイ変位測定装置2Dを配置し、車両VLの進行方向前側の超電導磁石Mにガイドウェイ変位測定装置2Eを配置する場合を例に挙げて説明したが、車両VFの進行方向前側の超電導磁石Mにガイドウェイ変位測定装置2Dを配置し、車両VLの進行方向後側の超電導磁石Mにガイドウェイ変位測定装置2Eを配置する場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この第3実施形態では、車両VF,VLのガイドウェイ変位測定装置2D,2Eによってガイドウェイ変位を測定する場合を例に挙げて説明したが、ガイドウェイWに沿って走行しながらガイドウェイ変位を測定するガイドウェイ検測車のガイドウェイ変位測定装置2D,2Eの測定結果に基づいて、橋梁Bの共振を検出する場合についても、この発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 共振検出システム
2A~2C 軌道変位測定装置(通路変位測定装置)
2D,2E ガイドウェイ変位測定装置(通路変位測定装置)
2a ジャイロ
2b 加速度センサ
2c,2d レーザ変位計
3 通信装置
4 共振検出装置
4c 振動成分抽出部
4d 振動振幅推定部
4e 差分演算部
4f 共振検出部
R 軌道(通路)
R1,R2 レール
B 橋梁
B1 桁
T 列車(移動体)
VF 車両(先頭車両(前方))
VM 車両(中間車両)
VL 車両(後尾車両(後方))
T1 台車(第一台車)
T2 台車(第二台車)
D 測定データ
D1~D5 軌道変位データ
D6 走行距離データ
RDI 共振橋梁検出指標
W ガイドウェイ(通路)
W1 走行路
W2 側壁