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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】制震構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20230407BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20230407BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
E04H9/02 301
E04H9/02 351
F16F15/023 Z
F16F15/02 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018110186
(22)【出願日】2018-06-08
(65)【公開番号】P2019210771
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-05-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】半澤 徹也
【審査官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-009442(JP,A)
【文献】特開2003-328586(JP,A)
【文献】特開2010-270474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00- 9/16
F16F 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎部と、前記基礎部の上部に設けられた多層構造の本体部と、を有する多層構造物の制震構造において、
前記本体部の下部側となる下層部分は、ブレースを備えたコア部と、
前記コア部の周囲に設けられた周辺架構部と、を有し、
前記コア部と前記周辺架構部との間には、クリアランスが形成され、
前記コア部と前記基礎部との間にのみ、前記コア部と前記基礎部との水平方向の相対変位を低減させる制震装置が設けられ、
前記周辺架構部と前記基礎部とは連結され、水平方向に相対変位しないように構成されていることを特徴とする制震構造。
【請求項2】
前記コア部は、平面視において前記多層構造物の図心を中心として設けられていることを特徴とする請求項1に記載の制震構造。
【請求項3】
前記制震装置は、慣性質量装置と、粘性ダンパーとを有し、
前記慣性質量装置と、前記粘性ダンパーとが並列配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の制震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
地震応答の低減に有効な構造形式として、多層構造物の各層にダンパーなどの制震装置を設置した制震構造が知られている。このような制震構造では、制震装置として、例えばブレース型のダンパーや壁型のダンパーなどが採用されるが、いずれのダンパーであっても柱・梁よりなる開口部を閉塞するように設けられている。このため、制震構造では、建築計画上の自由度が制限され、制震装置の設置スペースが多層構造物のコア部の周りなどに限定,制約される場合がある。
これに対し、制震装置の設置台数を少なくし、建築計画上の自由度を向上させた制震構造も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-019368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
制震装置の設置台数を少なくするためには、制震装置の減衰力を効率的に作用させる必要がある。
【0005】
そこで、本発明は、制震装置の減衰力を多層構造物に効率的に作用させ、制震装置の設置台数を少なくすることができる制震構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る制震構造は、基礎部と、前記基礎部の上部に設けられた多層構造の本体部と、を有する多層構造物の制震構造において、前記本体部の下部側となる下層部分は、ブレースを備えたコア部と、前記コア部の周囲に設けられた周辺架構部と、を有し、前記コア部と前記周辺架構部との間には、クリアランスが形成され、前記コア部と前記基礎部との間にのみ、前記コア部と前記基礎部との水平方向の相対変位を低減させる制震装置が設けられ、前記周辺架構部と前記基礎部とは連結され、水平方向に相対変位しないように構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明では、多層構造物の下層部分のコア部は、周辺架構部に囲まれていて、多層構造物の内側に配置されている。そして、コア部と基礎部との間に制震装置が設けられていることにより、制震装置による減衰力を多層構造物の内側に直接作用させることができる。その結果、地震によって多層構造物が振動した際に、制震装置による減衰力が多層構造物の内側に直接作用するため、多層構造物全体の振動を抑制することができる。
このように、本発明では、制震装置の減衰力を効率的に作用させることができるため、制震装置の設置台数を少なくすることができる。
【0008】
また、本発明に係る制震構造では、前記コア部は、平面視において前記多層構造物の図心を中心として設けられていてもよい。
このような構成とすることにより、制震装置の減衰力を多層構造物の図心を中心として作用させることができる。
【0009】
また、本発明に係る制震構造では、前記制震装置は、慣性質量装置と、粘性ダンパーとを有し、前記慣性質量装置と、前記粘性ダンパーとが並列配置されていてもよい。
このような構成とすることにより、コア部と基礎部との水平方向の相対変位を効率よく低減させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、制震装置の減衰力を多層構造物に効率的に作用させ、制震装置の設置台数を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態による制震構造物の一例を示す縦断面図である。
図2】下層部分の平面図である。
図3】上層部分の平面図である。
図4】制震装置を説明する図である。
図5】(a)は非制震構造の多層構造物の下層部分の平面図、(b)は非制震構造の多層構造物の縦断面図、(c)は本実施形態による制震構造の多層構造物(Case2、Case3)の下層部分の平面図、(d)は本実施形態による制震構造の多層構造物(Case2、Case3)の縦断面図である。
図6】Case1、Case2およびCase3の緒元を示す図である。
図7】Case1、Case2およびCase3の最大加速度の分布を示すグラフである。
図8】Case1、Case2およびCase3の最大層間変形角の分布を示すグラフである。
図9】(a)はコア部と周辺架構部との相対変位で,クリアランス寸法の下限を示す図、(b)は制震装置の最大反力と設置台数を示す図である。
図10】(a)はコア部が多層構造物の図心と外れた位置に設けられた本実施形態における制震構造の解析モデル、(b)は下層階の平面図である。
図11】各層の回転慣性モーメント、および柱位置での水平剛性の諸元を示す図である。
図12】Case1、Case2、Case4の重心位置での加速度を示す図である。
図13】Case1、Case2、Case4の重心位置での層間変形角を示す図である。
図14】Case4における重心位置、コア部側およびその反対側の構面の層間変形角を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態による制震構造について、図1乃至図4に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態による制震構造1は、多層構造物2に採用されている。図2および図3に示すように、多層構造物2は、平面視形状が正方形に構築されている。多層構造物2の平面形状の正方形の辺が延びる方向をX方向、Y方向とする。
多層構造物2は、基礎部3と、基礎部3の上に設けられた多層構造の本体部7と、を有している。本体部7のうちの下部側を下層部分71とし、上部側を上層部分72とする。本実施形態では、下層部分71は、1階から6階までの6層の部分とし、上層部分72は、7階以上の部分とする。
下層部分71は、コア部4と周辺架構部5とを有している。
コア部4は、多層構造物2の平面形状をX方向およびY方向それぞれに等しい寸法の3つずつ9分割した中央部に設けられている。周辺架構部5は、コア部4の周囲全体に設けられている。コア部4は、多層構造物2の図心21を中心とするように設けられている。
【0013】
コア部4には、例えば、エレベーターシャフトやパイプシャフトなどが設けられている。このため、上層部分72にも下層部分71のコア部4の直上に連続するようにコア部が設けられていてもよい。
【0014】
図1および図2に示すように、コア部4とその周囲の周辺架構部5との間には、クリアランス43が設けられている。図1および図3に示すように、上層部分72は、中央部分とその周辺部分との間にクリアランスが設けられた構造ではない。
図4に示すように、コア部4と基礎部3とは、水平方向に相対変位可能に構成されている。本実施形態では、基礎部3にコア部4の下端部近傍が配置されるピット31が設けられていて、ピット31の内周面とコア部4とが離間している。
【0015】
コア部4と基礎部3との間には、コア部4と基礎部3との水平方向の相対変位を減衰させる制震装置6が設けられている。制震装置6には、粘性ダンパーのみ採用してもよいし、慣性質量装置と粘性ダンパーとを並列配置した形態としてもよい。
周辺架構部5と基礎部3とは、連結され水平方向に相対変位しないように構成され、間に制震装置6は設けられていない。
【0016】
次に、上述した本実施形態による制震構造1の作用・効果について図面を用いて説明する。
上述した本実施形態による制震構造1では、下層部分71のコア部4が周辺架構部5に囲まれていることにより、コア部4は多層構造物2の内側に配置されている。そして、コア部4と基礎部3との間に制震装置6が設けられていることにより、制震装置6による減衰力を多層構造物2の内側に直接作用させることができる。その結果、地震によって多層構造物2が振動した際に、制震装置6による減衰力が多層構造物2の内側に直接作用するため、多層構造物2全体の振動を抑制することができる。
このように、本実施形態による制震構造1では、制震装置6の減衰力を効率的に作用させることができるため、制震装置6の設置台数を少なくすることができる。
【0017】
また、コア部4は、平面視において多層構造物2の図心21を中心として設けられていることにより、制震装置6の減衰力を多層構造物2の図心21を中心として作用させることができる。
【0018】
続いて、本実施形態による制震構造による地震応答に対する効果を解析事例に基づいて説明する。
非制震構造および、本実施形態による制震構造について比較を行う。
図5(a)には、非制震構造の下層階の平面図を示し、(b)には、非制震構造の縦断面図を示し、(c)には、本実施形態による制震構造1の下層階の平面図を示し、(d)には、本実施形態による制震構造1の縦断面図を示している。
以下の説明において、Case1は非制震構造8を示し、Case2およびCase3は本実施形態による制震構造1を示している。
Case2は、制震装置6(ダンパー)として慣性質量装置と粘性ダンパーとを並列配置した制震構造1であり、Case3は、制震装置6(ダンパー)として粘性ダンパーを設置した制震構造1である。慣性質量装置および粘性ダンパーは、現実的な使用に想定される慣性質量装置および粘性ダンパーであるものとする。
Case2とCase3とは、制震装置6以外は同じ形態であるものとする。
【0019】
図6に各Caseの諸元を示す。各Caseとも20層で、各階の階高が4mに設定されている。図6では、Case2およびCase3における上層部分72および下層部分71の周辺架構部5を主架構と表記している。
上記の実施形態と同様に、Case2およびCase3では、多層構造物2の1階から6階までが下層部分71となり、コア部4および周辺架構部5が設けられ、多層構造物2の7階以上が上層部分72となっている。コア部4と周辺架構部5とは、間にクリアランス43が設けられ離間している。
コア部4、周辺架構部5の質量は、その面積に比例して分配されている。
Case2およびCase3におけるコア部4、周辺架構部5および上層部分72の剛性は、その面積に応じて配分され、コア部4についてはブレースを設置するなどして、剛性が割り増しされている。つまり、コア部4の面積に対するコア部4の剛性は、その周辺部の面積に対する周辺部の剛性に比べて割増しされている。
【0020】
Case1は、1次固有周期がほぼ20層×4m(階高)×0.03=2.4秒となるように剛性を定めた。各層の剛性分布は台形分布とし、最下層に対する最上層の剛性の比率は0.3とした。
減衰装置の減衰は、初期剛性比例型で1次固有振動数に対して2%に設定されている。
入力地震動は、超高層建物の設計で多用されてきたセンター波L2、解析時間は120秒とする。
【0021】
解析結果として、図7にCase1-Case3の最大加速度の分布を示し、図8にCase1-Case3の最大層間変形角の分布を示す。また、図9(a)にCase2、Case3のコア部4と周辺架構部5との相対変位量を示し、図9(b)にCase2、Case3のダンパー(制震装置6)の反力を示す。
図7および図8から、Case2、3は、ともにCase1に比べて応答低減が認められることがわかる。また、図9から、ダンパーの台数や、コア部4と周辺架構部5とのクリアランス43の寸法が現実的な数値に収まっていることがわかる。
【0022】
次に、本実施形態による制震構造1のCase4として、コア部4が多層構造物2の図心21から外れた位置に設けられたCaseを設定する。Case4では、コア部4の位置以外は、Case2と同様の緒元であるものとする。
図10には、Case4の解析モデルの概要を示す。コア部4は、X方向の一方の端部近傍でY方向の中央部に設けられている。
図11には、各階の回転慣性モーメント、および柱位置での水平剛性の諸元を示す。
Case4の解析モデルには、Case2の並進質量に加え、各階の各床の回転慣性モーメントを多層構造物2の図心21に設定した。また、Case4の解析モデルでは、Case2の水平剛性を柱位置(コア部4は4本、周辺架構部5は16本)に均等配分し、水平2方向(X方向、Y方向)のばねを定義した。地震波の入力方向はY方向とする。
【0023】
解析結果として、図12にCase1、Case2、Case4の重心位置での加速度を示し、図13にCase1、Case2、Case4の重心位置での層間変形角を示す。また、図14にCase4における重心位置、コア部4側およびその反対側の構面の層間変形角を示す。
Case4では,コア部4が多層構造物2の図心21からずれた位置に配置されていることにより上層階に捩れが生じ,外構面の層間変形はCase2に比べて増減するが,その差は1割程度に留まることが分かる。
以上より、本実施形態による制震構造1は、建物の建築計画の自由度の確保、制震装置6(ダンパー)の台数に配慮しながら、地震応答の低減を図る上で効果的であることがわかる。また,本実施形態による制震構造1は、コア部4が本体部7の図心21からずれて多層構造物2に対してある程度偏在していても有効であることがわかる。
【0024】
以上、本発明による制震構造の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、多層構造物2の平面視形状が正方形であるが、正方形以外の長方形や、凹凸のある形状であってもよい。また、多層構造物2の階数は、適宜設定されてよく、コア部4が設けられる下層部分71の層数(階数)も適宜設定されてよい。
また、上記の実施形態では、コア部4の全周に周辺架構部5が設けられているが、コア部4の周囲の少なくとも一部に周辺架構部5が配置されていればよい。
また、上記の実施形態では、コア部4は、多層構造物2の図心21を中心として設けられているが、多層構造物2の図心21とずれた位置に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0025】
1 制震構造
2 多層構造物
3 基礎部
4 コア部
5 周辺架構部
6 制震装置
7 本体部
21 図心
43 クリアランス
71 下層部分
72 上層部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14