(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】杭評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/07 20060101AFI20230407BHJP
G01B 17/00 20060101ALI20230407BHJP
E02D 27/12 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
G01N29/07
G01B17/00 A
E02D27/12 Z
(21)【出願番号】P 2018126725
(22)【出願日】2018-07-03
【審査請求日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2017152425
(32)【優先日】2017-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】堀田 洋之
(72)【発明者】
【氏名】中澤 春生
(72)【発明者】
【氏名】桐山 貴俊
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-180137(JP,A)
【文献】特開2004-316216(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0276702(US,A1)
【文献】インテグリティ試験を用いた橋梁基礎の損傷調査法マニュアル(案),橋梁基礎構造の形状および損傷調査マニュアル(案),日本,国立研究開発法人 土木研究所,1999年12月,第11、13、21-22ページ,インターネット<URL:https://pwri.go.jp/caesar/manual/pdf/corepo_0236.pdf>
【文献】山下 健太郎ほか,衝撃弾性波による鋼製防護柵支柱根入れ長測定に関する検討,日本非破壊検査協会講演大会講演概要集,Vol.2000,2010年10月27日,p.157-160
【文献】今田 和夫ほか,模型杭を用いたインテグリティ試験における地盤拘束の影響に関する研究,土木学会論文集,Vol.2000 No.652,2000年,p.91-102
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01B 17/00-17/08
E02D 27/12
E02D 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭の頭部をたたいて打撃波を発生させてから、前記打撃波が弾性波として前記杭を伝播し前記杭の下端で反射した反射波が弾性波として前記頭部に伝播するまでの実際の衝撃弾性波試験の立ち上がり時間差を取得するステップと、
前記杭の弾性波伝播速度を取得するステップと、
仮定した杭の長さを決定するステップと、
前記杭
、仮定した杭の長さおよび前記杭が設置される周囲の地盤
の物性値を取得し、これに基づいて解析モデル化し、前記解析モデルに前記衝撃弾性波試験を行ったと仮定した場合の前記解析モデル立ち上がり時間差を演算するステップと、
前記実際の衝撃弾性波試験の立ち上がり時間差と前記解析モデル立ち上がり時間差との差が設定値以下であるか否かを判定するステップと、
前記実際の衝撃弾性波試験の立ち上がり時間差と前記解析モデル立ち上がり時間差との差分が予め定めた設定値以下である場合、前記杭の長さは前記仮定した杭の長さと同じであると判断するステップと、
を有
し、
前記杭の弾性波伝播速度を取得するステップの後に、前記杭の弾性波伝播速度から想定される以下の式(1)で示す杭の長さが予め定めた長さよりも長いか否かを判定するステップを有し、
前記杭の弾性波伝播速度から想定される杭の長さが予め定めた長さよりも短い場合、前記杭の弾性波伝播速度を用いて杭の長さを算定し、
前記杭の弾性波伝播速度から想定される杭の長さが予め定めた長さよりも長い場合、前記仮定した杭の長さを決定するステップに進む
ことを特徴とする杭評価方法。
L=VT/2 (1)
ただし、
Lは杭の長さ、
Vは弾性波伝播速度、
Tは打撃波と杭長Lの2倍の距離を伝播してきた反射波との時間差、
である。
【請求項2】
前記差分が前記設定値より大きい場合、前記仮定した杭の長さを決定するステップに戻り、前記仮定した杭の長さを決定し直す
ことを特徴とする請求項1に記載の杭評価方法。
【請求項3】
前記解析モデルは、3次元有限要素法によってモデル化したものである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の杭評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の新築または建て替えに際して杭の支持性能を評価する杭評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の新築又は建て替えに際して、工費・工期の低減や地球環境への配慮から、既存建物の基礎杭を再利用する要求が高まっている。既存の杭の再利用に当たっては、その支持性能を評価するために、杭長や材料の健全性を確認する必要がある。しかし、既存建物の設計図書や施工記録は残存していない場合もあり、何らかの調査を行って実際の杭長を評価することになる。
【0003】
杭長を測定する方法としては、調査する杭の側方でボーリングを行ってセンサーを設置し長さを測定する速度検層、ボアホールレーダー、磁気検層等がある。これらの方法は、杭に近接してボーリング孔を設けることにより、精度良く杭長を推定することが可能であるが、調査する杭1本毎にボーリングを行う必要があり、解体前の建物の内側の杭については、実施が困難である。
【0004】
そこで、従来、杭側方にボーリング孔を必要としない調査法であって、杭の頭部を打撃して弾性波を発生させ、弾性波の反射波を測定することによって、杭が健全であるか否かを評価する杭の評価方法が開示されている(特許文献1)。
【0005】
この調査方法は、杭を伝播する弾性波がインピーダンスの異なる境界で反射する現象を利用して、杭長、杭断面の変化、損傷・欠損等の状態を診断する。2~4kHz程度の単一周期の弾性波を用いた試験は、インテグリティ試験と呼ばれ、1MHz程度までの様々な周波数の弾性波を利用した方法は、高周波衝撃弾性波法と呼ばれる。
【0006】
衝撃弾性波法は、まず、杭頭部に加速度計等のセンサーを取り付け、近傍をハンマーで打撃する。すると、弾性波は、杭を下向きに伝播し、地盤とのインピーダンスの異なる杭先端で反射して上向きに伝播する。杭頭のセンサーでは打撃波と、杭長Lの2倍の距離を伝播してきた反射波とが、時間差Tで検知される。杭の弾性波伝播速度がVで一定とした場合、杭長は式(1):L=VT/2で表される。
【0007】
杭長Lの推定精度は、弾性波伝播速度Vおよび打撃波と反射波の時間差Tに依存する。時間差Tの精度は、加速度等の計測精度および時刻歴波形の読み取り精度によるため、計測および結果分析を適切に行うことにより精度を上げることができる。一方、伝播速度Vについては杭の材料に応じて経験的に標準とされる値が用いられることが多い。非特許文献1では、既製コンクリート杭の場合3600~4400m/s、場所打ちコンクリート杭の場合3400~4000m/s、鋼管杭の場合5120m/s程度の値を推奨している。なお、コンクリート杭では、伝播速度Vの値に幅があるため、評価に際して上記の中央値を設定した場合、最大10%程度の誤差が生じる可能性がある。
【0008】
また、杭の地盤内では、気中部分と比較して、地盤の構成の影響により弾性波の伝播速度が低下する。地盤での弾性波伝播速度をV’(<V)とすると、杭長は式(2):L=V'T/2で表される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】構造法令研究会編、「既存杭等再使用の設計マニュアル」、pp35、構造計画研究所,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
気中での伝播速度Vを用いた式(1)は杭長Lを過大に評価している。杭長Lを正確に推測するためには気中での伝播速度Vの値を低減した地中での伝播速度V’を用いる必要がある。しかしながら、地中での伝播速度V’は、周囲の地盤の特性や杭長等の様々な要因に影響されるため、適切に設定することが困難であった。そのため、実際に試験によって求めた杭長Lが精度の良いものであるかどうか判断することが困難であった。
【0012】
本発明は、的確に杭の支持性能を評価することが可能となる杭評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明にかかる杭評価方法は、
杭の頭部をたたいて打撃波を発生させてから、前記打撃波が弾性波として前記杭を伝播し前記杭の下端で反射した反射波が弾性波として前記頭部に伝播するまでの実際の衝撃弾性波試験の立ち上がり時間差を取得するステップと、
前記杭の弾性波伝播速度を取得するステップと、
仮定した杭の長さを決定するステップと、
前記杭、仮定した杭の長さおよび前記杭が設置される周囲の地盤の物性値を取得し、これに基づいて解析モデル化し、前記解析モデルに前記衝撃弾性波試験を行ったと仮定した場合の前記解析モデル立ち上がり時間差を演算するステップと、
前記実際の衝撃弾性波試験の立ち上がり時間差と前記解析モデル立ち上がり時間差との差が設定値以下であるか否かを判定するステップと、
前記実際の衝撃弾性波試験の立ち上がり時間差と前記解析モデル立ち上がり時間差との差分が予め定めた設定値以下である場合、前記杭の長さは前記仮定した杭の長さと同じであると判断するステップと、
を有し、
前記杭の弾性波伝播速度を取得するステップの後に、前記杭の弾性波伝播速度から想定される以下の式(1)で示す杭の長さが予め定めた長さよりも長いか否かを判定するステップを有し、
前記杭の弾性波伝播速度から想定される杭の長さが予め定めた長さよりも短い場合、前記杭の弾性波伝播速度を用いて杭の長さを算定し、
前記杭の弾性波伝播速度から想定される杭の長さが予め定めた長さよりも長い場合、前記仮定した杭の長さを決定するステップに進む
ことを特徴とする。
L=VT/2 (1)
ただし、
Lは杭の長さ、
Vは弾性波伝播速度、
Tは打撃波と杭長Lの2倍の距離を伝播してきた反射波との時間差、
である。
【0014】
また、本発明にかかる杭評価方法は、
前記差分が前記設定値より大きい場合、前記仮定した杭の長さを決定するステップに戻り、前記仮定した杭の長さを決定し直す。
【0015】
また、本発明にかかる杭評価方法は、
前記解析モデルは、3次元有限要素法によってモデル化したものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる杭評価方法によれば、的確に杭の支持性能を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態の杭評価方法における衝撃弾性波試験の方法を示す。
【
図2】本実施形態の杭評価方法における衝撃弾性波試験を行った地盤と杭の概要を示す。
【
図3】本実施形態の杭評価方法における衝撃弾性波試験の杭の頭部先端での結果を示す。
【
図4】本実施形態の杭評価方法に用いる3次元有限要素法の解析モデルを示す。
【
図5】本実施形態の杭評価方法の解析モデルに用いる杭頭打撃荷重を示す。
【
図6】本実施形態の杭評価方法の解析モデルにおける気中および地盤での杭の深度方向速度応答波形の解析結果を示す。
【
図7】本実施形態の杭評価方法の解析モデルで求めた杭の頭部先端での解析結果を示す。
【
図8】第1実施形態の杭評価方法のフローチャートを示す。
【
図9】第2実施形態の杭評価方法のフローチャートを示す。
【
図10】第1実施形態と第2実施形態の杭評価方法による杭の長さを比較したグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明にかかる一実施形態の杭評価方法を説明する。
【0020】
図1は、本実施形態の杭評価方法における衝撃弾性波試験の方法を示す。
図1(a)は杭1を示す。
図1(b)は弾性波の伝播状態を示す。
図1(b)の下方に凸状の三角形は、伝播する弾性波を示す。
【0021】
本実施形態の杭評価方法では、まず、衝撃弾性波試験を行う。
図1(a)に示すように、長さLの杭1は、頭部11の長さlを地表面2から気中に露出させる。地盤3には、杭1の下部12が存在する。また、頭部11には第1加速度センサー21を設置し、頭部11から長さl下がった位置、すなわち地表面2と同じ高さに第2加速度センサー22を設置する。
【0022】
杭1の頭部11の先端をハンマー等によって打撃すると、弾性波が第1加速度センサー21によって観測される。そして、Δt後、第2加速度センサー22によって弾性波が観測される。したがって、頭部11の弾性波伝播速度は、式(3):V=l/Δtで求められる。なお、異なる深度に加速度センサーをさらに設置することで、速度測定値の信頼性を高めることが可能となる。また、頭部11が十分な長さを確保することができない場合、同一深度の複数点で弾性波を測定し、水平方向の弾性波伝播速度を測定してもよい。
【0023】
さらに、既存建物等によって弾性波伝播速度を測定できない場合、杭コンクリートのコア試料を採取し、その試料を用いて弾性波伝播速度を試験室等で測定してもよい。また、コンクリート強度との相関関係から推定してもよい。
【0024】
次に、地盤3に埋設された杭1の下部12の弾性波伝播速度を示す。杭1の下部12は、周囲の地盤の影響により弾性波伝播速度が低下する。
【0025】
例えば、気中の頭部11と地盤3内の下部12における杭1の弾性波伝播速度が同じ場合、弾性波は、
図1(b)の細実線のように伝わる。実際には、下部12における弾性波伝播速度は、頭部11の弾性波伝播速度よりも遅いため、弾性波は、
図1(b)の太実線のように伝わる。
【0026】
式(3)で表した頭部11の弾性波伝播速度を下部12でそのまま用いて杭長を演算すると、杭長は、
図1(a)のL’のように求まる。つまり、実際の杭長Lよりも長く評価されてしまう。
【0027】
本実施形態の杭評価方法では、まず、実際の検討対象の杭の長さを仮定し、3次元有限要素法によりインテグリティ試験を模擬して杭長Lを求める例について説明する。
【0028】
図2は、本実施形態の杭評価方法における衝撃弾性波試験を行った地盤と杭の概要を示す。
図2(a)は地盤、
図2(b)は杭を示す。
図3は、本実施形態の杭評価方法における衝撃弾性波試験の杭の頭部先端での結果を示す。
【0029】
杭1の地盤内における弾性波伝播速度の低下は、周囲の地盤3の質量、剛性、減衰、拘束圧や地層の分布、杭径、杭長等の様々な要因が複合して生じる。そこで、本実施形態では、地盤3の影響による弾性波伝播速度の低下を定量的に評価するため、周囲の地盤3を実際に即してモデル化した精緻な数値解析により試験の状態を忠実に再現する。
【0030】
図2(a)に示すように、本実施形態の検討対象の地盤3の構成は、予めボーリングから得られるものであって、深度0m~約6mが埋土、約6m~17mがシルト層、約17m~21mが砂層、約21m~22mが砂礫層、約22m~23mが砂層、約23m~24mが粘土層、約24m~27mが砂層、約27m以降は砂礫層となっている。地層の硬さを示すN値は、シルト層が約0、約27m以降の砂礫層が約60であり、その間徐々に大きくなっている。なお、検討対象の地盤3の構成は、杭1が打たれる場所または杭1が打たれた場所に限らず、その近辺であればよい。
【0031】
図2(b)に示すように、本実施形態の検討対象の杭1は、新設の場所打ちコンクリート杭であって、予め寸法が確認されており、直径が1600mm、杭長が設計長29.0m、出来形で29.09mである。杭1の頭部先端はシルト層の表面に位置し、下端は約35mの砂礫層に位置するものとする。
【0032】
杭1の頭部で測定した弾性波速度は、4000m/sであった。
図3に示すように、杭1の頭部の先端を打撃した際に生じる打撃波と杭1の下面で反射した弾性波が先端に伝わる先端反射波との立ち上がり時間差Tは、0.015225sである。この結果から、杭1の頭部での弾性波速度の実測値4000m/sを用いて、式(2)より杭長Lを推定すると、30.45m、非特許文献1の推奨値3400~4000m/sを用いると25.88~30.45mの範囲となる。
【0033】
次に、3次元有限要素法により解析した例を示す。
【0034】
図4は、本実施形態の杭評価方法に用いる3次元有限要素法の解析モデルを示す。
図4(a)はモデルの全体図を示す。
図4(b)は杭頭部分の拡大図を示す。
【0035】
杭1は、直径1.6m、長さ29.0mの円柱としてモデル化する。試験時の状況に合わせて基礎底面から0.1m突出させた。地盤3は、上層のN値がほぼ0の軟弱なシルト層である第1地盤31、その下層のN値が徐々に増大する砂・砂礫・粘土の3層にモデル化した第2地盤32、さらに下層のN値が60以上の支持層となる砂礫層である第3地盤33、の3層にモデル化した。平面領域は、杭径の5倍の8.0mとし、杭先端以深の領域は支持層への杭の根入れ長(8.5m)以上の11.0mとした。
【0036】
設定した杭1及び地盤3の物性一覧を以下の表1に示す。
【表1】
【0037】
杭1のヤング率Eは杭1の弾性波伝播速度VよりE=ρV2で求められる。ここで、ρは密度で、ρ=γ/gである、ここで、γは単位体積重量(kN/m3)、gは重力加速度(9.8m/s2)である。地盤3のせん断弾性係数Gは、PS検層で得られるせん断波(S波)速度Vsより、G=ρVs2で求められる。なお、ヤング率とせん断弾性係数には、E=2(1+ν)Gの関係がある。地盤3のポアソン比としては、PS検層で得られる非排水状態の値(≒0.5)を用いる。
【0038】
モデルの側面及び底面は、地盤3が無限に連続する状態を表現するために粘性境界とし、面内2方向および面法線方向のダッシュポットcs=ρVs,cp=ρVpを配置する。ここで、Vpは、PS検層で得られる粗密波(圧力波であるP波)の速度(m/s)である。
【0039】
図5は、本実施形態の杭評価方法の解析モデルに用いる杭頭打撃荷重を示す。
図6は、本実施形態の杭評価方法の解析モデルにおける気中および地盤での杭の深度方向速度応答波形の解析結果を示す。
【0040】
解析モデルに用いる打撃荷重は、
図5に示すような荷重をハンマー等によって杭頭の中央付近の接点に与えることにより模擬した。その結果、
図6に示すように、地盤3内の杭1については弾性波の振幅が減衰すると共に、伝播速度が低下している。
【0041】
図7は、本実施形態の杭評価方法の解析モデルで求めた杭の頭部先端での解析結果を示す。
【0042】
図7に示す解析結果と
図3に示す試験結果を比較すると、振幅の減衰の程度は異なるが、先端反射波の立ち上がり時刻はほぼ一致している。打撃波との立ち上がり時間差はT=0.015100sであって、試験結果よりもわずかに短い。これは
図7に示す解析結果は、杭長29.0mのモデルに関するものであるからである。Tが試験結果と一致するような杭長は比例計算により、L=29.0m/0.015100s×0.015225s=29.24mとなり、実際の杭の長さ29.09mを精度良く評価できている。
【0043】
この例では、解析によって得られた立ち上がり時間Tが試験結果の立ち上がり時間Tと良く一致した。もし、解析と試験結果の立ち上がり時間Tに差がある場合、解析モデルの杭長を変化させて両者がほぼ同じ値となるまで繰り返し計算すればよい。
【0044】
図8は、第1実施形態の杭評価方法のフローチャートを示す。ここでは、今まで説明した内容をフローチャートにし、順序ごとに簡単に確認する。
【0045】
まず、ステップ1で、衝撃弾性波試験を行う(ST1)。衝撃弾性波試験は、
図1に示したように行う。まず、杭1の頭部11の先端をハンマー等でたたき打撃波を発生させる。打撃波は、弾性波として杭1を伝播する。伝播した弾性波は、杭1の下端で反射する。反射した弾性波は反射波として、杭1を伝播し、頭部11の先端に戻る。そして、杭の頭部で打撃波を発生させてから反射波が頭部に伝播するまでの立ち上がり時間差を取得する。
【0046】
次に、ステップ2で、杭の弾性波伝播速度を取得する(ST2)。杭の弾性波伝播速度は、杭1の気中部分の長さと測定された時間を用いて、式(3)によって求められる。
【0047】
次に、ステップ3で、杭の長さを仮定する(ST3)。杭の長さは、地盤状況等から仮定する。設計図面等から杭長がわかっている場合、その値を使用してもよい。
【0048】
次に、ステップ4で、解析モデルで立ち上がり時間差を計算する(ST4)。本実施形態の解析は、
図4~
図6に示すように、3次元有限要素法を用いたモデルに対して行う。なお、モデル化は他の方法を用いてもよい。
【0049】
次に、ステップ5で、
図7に示した解析結果の立ち上がり時間差Tと
図3に示した試験結果の立ち上がり時間差Tとの差分が設定値以下であるか否かを判定する(ST5)。設定値は、例えばTの1%、本事例であれば、0.01T≒1.5×10
-4sなどとする。解析結果の立ち上がり時間差Tと試験結果の立ち上がり時間差Tとの差分が設定値より大きい場合、ステップ3に戻り、杭長を再度仮定する。
【0050】
解析結果の弾性波伝播速度と試験結果の弾性波伝播速度が予め定めた設定値以下である場合、ステップ6で、実際の杭長=仮定長とする(ST6)。試験によって求められた杭長が的確であると評価され、杭が的確な位置まで打ち込まれていると判断することができ、杭の支持性能を評価することができる。
【0051】
このように、第1実施形態の杭評価方法によれば、的確に杭の支持性能を評価することが可能となる。
【0052】
図9は、第2実施形態の杭評価方法のフローチャートを示す。ここでは、想定した杭の長さに応じて杭の長さの算定方法を変更する。
【0053】
まず、ステップ11で、衝撃弾性波試験を行う(ST11)。衝撃弾性波試験は、第1実施形態と同様に行う。
【0054】
次に、ステップ12で、杭の弾性波伝播速度を取得する(ST12)。杭の弾性波伝播速度は、杭1の気中部分の長さと測定された時間を用いて、式(3)によって求められる。
【0055】
次に、ステップ13で、ステップ12において測定した杭の弾性波伝播速度から想定される杭の長さLが予め定めた長さL0よりも長いか否かを判定する(ST13)。ステップ13において、想定される杭の長さLが予め定めた長さL0よりも短い場合、ステップ14で、測定した杭の弾性波伝播速度を用いて杭長を算定する(ST14)。
【0056】
第2実施形態の杭評価方法では、杭の弾性波伝播速度から想定される杭の長さLが予め定めた長さL0よりも短い場合、測定した杭の弾性波伝播速度を用いて杭長を算定する。第1実施形態では、杭の長さを数値解析のみによって求めていた。しかしながら、解析上では杭と周辺地盤が連続したモデルとなっており、杭長が短い場合には地表付近での地盤による拘束が小さい部分の占める割合が大きく、杭と地盤との一体化の程度が低くなる。したがって、地盤の影響による杭の弾性波伝播速度の低下が生じにくく、数値解析による弾性波伝播速度の低下を考慮しなくてもよいと思われる。
【0057】
図10は、第1実施形態と第2実施形態の杭評価方法による杭の長さを比較したグラフを示す。横軸は実長、縦軸は評価値である。白塗りの丸は弾性波速度の実測値による評価値、黒塗りの丸は地盤を考慮した数値解析による評価値である。丸印が破線に近い程、実長に近いことを示す。図中のアルファベットは、以下に示す表2の杭を示す。
【表2】
【0058】
図10に示すように、第2実施形態では予め長さL0を約12m~15mの範囲内に定めればよい。想定される杭の長さLが予め定めた長さL0よりも短い場合、数値解析による評価値と弾性波速度の実測値による評価値の差がほとんどなく、実長に近いことがわかる。
【0059】
このように、第2実施形態の杭評価方法によれば、想定される杭の長さLが予め定めた長さL0よりも短い場合には数値解析を行わないので、迅速で簡便に杭の支持性能を評価することが可能となる。
【0060】
なお、ステップ13において、想定される杭の長さLが予め定めた長さL0よりも短い場合、ステップ14に進む。ステップ14以降は、第1実施形態のステップ3以降と同様なので、説明は省略する。
【0061】
なお、
図8に示すフローチャートに、差分が設定値よりもさらに大きい予め定めた欠損判断値より大きい場合、杭は欠損していると判断するステップを加えてもよい。杭に損傷または断面欠損がある場合には、インピーダンスの変化によりその深度における反射波が発生する。したがって、先端反射波によって杭長を評価するのと同様の方法によって、断面欠損の位置を特定することができる。理論的には、反射波の振幅よりインピーダンス比および断面欠損率を推定することも可能である。なお、ステップ6で決定した杭の長さが既知の設計長あるいは地盤性状等から必要と判断される長さよりも明らかに短く、必要な支持性能を有していないと見なせる場合、杭は欠損している可能性がある。
【0062】
以上、本実施形態の杭評価方法は、杭の頭部をたたいて打撃波を発生させてから、打撃波が弾性波として杭を伝播し杭の下端で反射した反射波が弾性波として頭部に伝播するまでの実際の衝撃弾性波試験の立ち上がり時間差を取得するステップと、杭の弾性波伝播速度を取得するステップと、仮定した杭の長さを決定するステップと、杭および杭が設置される周囲の地盤を解析モデル化し、解析モデルに衝撃弾性波試験を行ったと仮定した場合の解析モデル立ち上がり時間差を演算するステップと、実際の衝撃弾性波試験の立ち上がり時間差と解析モデル立ち上がり時間差との差が設定値以下であるか否かを判定するステップと、実際の衝撃弾性波試験の立ち上がり時間差と解析モデル立ち上がり時間差との差分が予め定めた設定値以下である場合、杭の長さは仮定した杭の長さと同じであると判断するステップと、を有する。したがって、的確に杭の支持性能を評価することが可能となる。
【0063】
また、本発明にかかる杭評価方法は、差分が設定値より大きい場合、仮定した杭の長さを決定するステップに戻り、仮定した杭の長さを決定し直す。したがって、さらに的確に杭の支持性能を評価することが可能となる。
【0064】
また、本発明にかかる杭評価方法は、解析モデルは、3次元有限要素法によってモデル化したものである。したがって、さらに的確に杭の支持性能を評価することが可能となる。
【0065】
また、本発明にかかる杭評価方法は、杭の弾性波伝播速度を取得するステップの後に、杭の弾性波伝播速度から想定される杭の長さが予め定めた長さよりも長いか否かを判定するステップを有し、杭の弾性波伝播速度から想定される杭の長さが予め定めた長さよりも短い場合、杭の弾性波伝播速度を用いて杭の長さを算定し、杭の弾性波伝播速度から想定される杭の長さが予め定めた長さよりも長い場合、仮定した杭の長さを決定するステップに進む。したがって、想定される杭の長さLが予め定めた長さL0よりも短い場合には数値解析を行わないので、迅速で簡便に杭の支持性能を評価することが可能となる。
【0066】
なお、この実施形態によって本発明は限定されるものではない。すなわち、実施形態の説明に当たって、例示のために特定の詳細な内容が多く含まれるが、当業者であれば、これらの詳細な内容に色々なバリエーションや変更を加えてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…杭
11…頭部
12…下部
2…地表面
3…地盤