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特許7257755微細気泡発生装置、微細気泡の発生方法、微細気泡発生システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】微細気泡発生装置、微細気泡の発生方法、微細気泡発生システム
(51)【国際特許分類】
   B01F 23/2375 20220101AFI20230407BHJP
   B01F 25/45 20220101ALI20230407BHJP
   B01F 35/90 20220101ALI20230407BHJP
   B01F 35/213 20220101ALI20230407BHJP
   B01F 35/221 20220101ALI20230407BHJP
【FI】
B01F23/2375
B01F25/45
B01F35/90
B01F35/213
B01F35/221
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018150984
(22)【出願日】2018-08-10
(65)【公開番号】P2020025912
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】井本 洋介
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-034296(JP,A)
【文献】特開2012-170849(JP,A)
【文献】特開2015-080756(JP,A)
【文献】特開2007-136255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 23/20 - 23/2375
B01F 25/45 - 25/452
B01F 35/90 - 35/95
C02F 3/14 - 3/26
B08B 3/00 - 3/14
H01L 21/304
B05B 1/02
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽内の液体中に微細気泡を発生させる微細気泡発生装置であって、
前記液体中に前記微細気泡を発生させる気泡発生手段と、
前記気泡発生手段によって前記微細気泡を発生させる期間内において、1.9℃/時間以上10℃/時間以下の温度勾配で前記液体の温度を上昇させる昇温手段と
を備え、
前記気泡発生手段は、上流側面及び下流側面を連通する多数の細孔を有し、前記細孔を介して前記上流側面から前記下流側面に向けて気体を通過させることにより、前記下流側面に接触する前記液体中に前記微細気泡を発生させる多孔体である
ことを特徴とする微細気泡発生装置。
【請求項2】
前記昇温手段は、前記処理槽内の前記液体の温度を上昇させるヒータであることを特徴とする請求項1に記載の微細気泡発生装置。
【請求項3】
前記昇温手段は、前記液体の温度が液相の状態を維持する温度であるときに前記液体の温度を上昇させることを特徴とする請求項1または2に記載の微細気泡発生装置。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の微細気泡発生装置を用いて微細気泡を発生させる方法であって、
前記気泡発生手段によって前記液体中に前記微細気泡を発生させる微細気泡発生工程を含み、
前記微細気泡発生工程中に、前記昇温手段によって前記液体の温度を上昇させる昇温工程を行う
ことを特徴とする微細気泡の発生方法。
【請求項5】
前記微細気泡発生工程において発生した前記微細気泡の直径は1μm未満であることを特徴とする請求項に記載の微細気泡の発生方法。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の微細気泡発生装置と、
前記処理槽内の前記液体の温度を測定する温度センサと、
前記温度センサによって測定された前記温度に基づいて、前記液体を昇温させる際の温度勾配が特定の範囲内となるように前記昇温手段を制御する温度制御手段と
を備えることを特徴とする微細気泡発生システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理槽内の液体中に微細気泡を発生させる微細気泡発生装置及び微細気泡発生システム、微細気泡発生装置を用いて微細気泡を発生させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、直径1μm~100μm程度の気泡であるマイクロバブルが知られているが、それよりもさらに細かい直径1μm以下の気泡に対して近年注目が集まっている。このような気泡はウルトラファインバブル(UFB:Ultrafine-Bubble)あるいはナノバブルと呼ばれており、例えば、洗浄、農業、水産業、医療等の様々な分野で利用が拡大しつつある。
【0003】
また、近年、微細気泡をより効率良く発生させるための技術が種々提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。特許文献1には、水温調節手段によって気泡含有水の温度を低下させることにより、気泡の直径を収縮させて微小気泡(微細気泡)を得る技術が開示されている。また、特許文献2には、気泡生成手段に供給する気体を加熱したり気液接触槽内の液体を冷却したりすることにより、多量の微細気泡を発生させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-80756号公報([0011],[0015]等)
【文献】特開2008-168221号公報([0010]~[0013]等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の従来技術は、既に液体中に含まれている気泡の直径を小さくして微細気泡を得る技術であるため、微細気泡の発生量自体を増大させることはできないという問題がある。なお、特許文献2に記載の従来技術では、微細気泡の発生量自体は増大する。しかし、特許文献2は、気体の温度を液体の温度よりも高くすることで微細気泡を発生させる技術であるため、気体及び液体の両方の温度の管理が必要となり、手間が掛かるという問題がある。
【0006】
本発明は上記の課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、微細気泡を容易にかつ効率良く発生させることができる微細気泡発生装置、微細気泡の発生方法、微細気泡発生システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段(手段1)としては、処理槽内の液体中に微細気泡を発生させる微細気泡発生装置であって、前記液体中に前記微細気泡を発生させる気泡発生手段と、前記気泡発生手段によって前記微細気泡を発生させる期間内において、1.9℃/時間以上10℃/時間以下の温度勾配で前記液体の温度を上昇させる昇温手段とを備え、前記気泡発生手段は、上流側面及び下流側面を連通する多数の細孔を有し、前記細孔を介して前記上流側面から前記下流側面に向けて気体を通過させることにより、前記下流側面に接触する前記液体中に前記微細気泡を発生させる多孔体であることを特徴とする微細気泡発生装置がある。
【0008】
従って、上記手段1に記載の発明では、気泡発生手段が微細気泡を発生させる期間内において、昇温手段が液体の温度を徐々に上昇させることにより、液体における気体の溶解度が低下し、気体が液体中に気泡として析出すると推測されるため、多量の微細気泡を効率良く発生させることができる。また、微細気泡を発生させる際に、液体の温度のみを管理すればよく、微細気泡となる気体の温度は管理しなくても済むため、微細気泡を容易に発生させることができる。
【0009】
ところで、液体中に発生しうる気泡は、直径が100μmよりも大きい気泡であるミリバブル、直径が100μm以下であるものの1μmよりは大きい気泡であるマイクロバブル、直径が1μm以下の気泡であるウルトラファインバブル(UFB)に分類される。なお、本発明における「微細気泡」とは、上記の気泡のうちマイクロバブル及びウルトラファインバブルをいうものとする。
【0010】
上記微細気泡発生装置は、液体中に微細気泡を発生させる気泡発生手段を備える。ここで、気泡発生手段としては上流側面及び下流側面を連通する多数の細孔を有し、細孔を介して上流側面から下流側面に向けて気体を通過させることにより、下流側面に接触する液体中に微細気泡を発生させる多孔体である。このようにすれば、気泡発生手段が比較的単純な構造となるため、液体中に微細気泡を発生させる構造を容易にかつ低コストで得ることができる。
【0011】
なお、多孔体は、例えばセラミック材料からなることが好ましい。多孔体を構成するセラミック材料としては、例えば、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化ホウ素、ジルコニア、チタニア、ムライト、マグネシア、セリア、ドープセリア及びこれらの混合物などを挙げることができる。また、多孔体の形成材料としては、上記のようなセラミックのほか、例えばガラスや金属(ステンレス等)などを用いてもよく、導電性の有無を問わず材料を選択することができる。なお、これらのような無機材料だけではなく、例えば合成樹脂のような有機材料を用いることもできる。
【0012】
さらに、上記微細気泡発生装置は、気泡発生手段によって微細気泡を発生させる期間内において、液体の温度を徐々に上昇させる昇温手段を備える。ここで、昇温手段としては特に限定されないが、例えば、処理槽内の液体の温度を上昇させるヒータであることが好ましい。このようにすれば、液体を昇温させる際の温度勾配を、昇温手段によって正確に制御することができる。また、昇温手段として、処理槽内に液体を供給するポンプを用いてもよい。この場合、ポンプの駆動時に発生する熱によって、液体の温度を上昇させることができる。
【0013】
なお、昇温手段は、昇温時の温度勾配が1.9℃/時間以上10℃/時間以下となる範囲内で液体の温度を上昇させる。昇温時の温度勾配が1.9℃/時間以上になると、液体中の微細気泡を確実に増やすことができる。なお、昇温時の温度勾配が10℃/時間よりも大きくなると、液体が気相の状態に変化しやすくなるため、液体の量が減少し、ひいては、液体中の微細気泡も減少する虞がある。つまり、液体中に微細気泡を確実に発生させるためには、昇温手段は、液体の温度が液相の状態を維持する温度であるときに液体の温度を上昇させることがよい。
【0014】
上記課題を解決するための別の手段(手段2)としては、上記手段1に記載の微細気泡発生装置を用いて微細気泡を発生させる方法であって、前記気泡発生手段によって前記液体中に前記微細気泡を発生させる微細気泡発生工程を含み、前記微細気泡発生工程中に、前記昇温手段によって前記液体の温度を徐々に上昇させる昇温工程を行うことを特徴とする微細気泡の発生方法がある。
【0015】
従って、手段2に記載の発明によると、気泡発生手段が微細気泡を発生させる微細気泡発生工程中に、昇温手段によって液体の温度を徐々に上昇させる昇温工程を行うことにより、液体における気体の溶解度が低下し、気体が液体中に気泡として析出すると推測されるため、多量の微細気泡を効率良く発生させることができる。また、微細気泡発生工程中に、液体の温度のみを管理すればよく、微細気泡となる気体の温度は管理しなくても済むため、微細気泡を容易に発生させることができる。
【0016】
なお、微細気泡発生工程において発生した微細気泡の直径は1μm未満であることが好ましい。このようにすれば、微細気泡として、直径1μm未満のウルトラファインバブルを発生させやすくなる。
【0017】
上記課題を解決するためのさらに別の手段(手段3)としては、上記手段1に記載の微細気泡発生装置と、前記処理槽内の前記液体の温度を測定する温度センサと、前記温度センサによって測定された前記温度に基づいて、前記液体を昇温させる際の温度勾配が特定の範囲内となるように前記昇温手段を制御する温度制御手段とを備えることを特徴とする微細気泡発生システムがある。
【0018】
従って、手段3に記載の発明によると、微細気泡発生装置の気泡発生手段が微細気泡を発生させる期間内において、微細気泡発生装置の昇温手段が液体の温度を徐々に上昇させることにより、液体における気体の溶解度が低下し、気体が液体中に気泡として析出すると推測されるため、多量の微細気泡を効率良く発生させることができる。また、微細気泡を発生させる際に、温度制御手段によって液体の温度のみを管理すればよく、微細気泡となる気体の温度は管理しなくても済むため、微細気泡を容易に発生させることができる。さらに、温度制御手段は、温度センサによって測定された液体の温度に基づいて昇温手段を制御するため、微細気泡を確実に発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態における微細気泡発生システムを示す概略構成図。
図2】多孔体を示す拡大断面図。
図3】低温一定、高温一定、温度上昇の条件下におけるUFB濃度の値を示すグラフ。
図4】実施例1,2、比較例1,2におけるUFB濃度の値を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
図1に示されるように、本実施形態の微細気泡発生システム1は、微細気泡発生装置10を備えている。微細気泡発生装置10は、処理槽11内の純水W1(液体)中に気体W2(本実施形態では窒素)を供給して直径1μm以下の微細気泡W3であるUFBを発生させることにより、純水W1内に収容された半導体を洗浄する装置である。処理槽11は、ステンレス板を用いて略円筒状に形成されており、天井板12、底板13及び側板14を備えている。
【0022】
図1図2に示されるように、微細気泡発生装置10は、純水W1中に微細気泡W3を発生させる多孔体21(気泡発生手段)を備えている。多孔体21は、第1端(図1では下端)及び第2端(図1では上端)の両方において開口し、長さ300mm、外径12mm、内径9mm、厚さ1.5mmの中空円筒状を成す部材である。詳述すると、多孔体21は、第1端面22側が接着剤(図示略)を介して処理槽11の底板13に取り付けられている。なお、底板13には、同底板13の中央部を貫通する貫通孔15が設けられており、貫通孔15は多孔体21の内部空間に連通している。貫通孔15の内径は、多孔体21の内径(9mm)よりも小さくなっている。一方、多孔体21の第2端側開口は、円板状の蓋部16によって塞がれている。蓋部16は、接着剤(図示略)を介して多孔体21の第2端面23に取り付けられている。また、蓋部16は、ステンレスなどの金属材料を用いて形成されている。
【0023】
図1図2に示されるように、多孔体21は、上流側面24(内側面)と、上流側面24の反対側に位置する下流側面25(外側面)とを有している。なお、多孔体21は、上流側面24と下流側面25との間で気体W2を透過しうる性質を有する多孔質のセラミック材料(本実施形態ではアルミナ(Al))を用いて形成されている。
【0024】
図2に示されるように、多孔体21は、上流側面24及び下流側面25を連通する多数の細孔26を内部に有することから、好適な気体透過性を有している。多孔体21は、細孔26を介して上流側面24から下流側面25に向けて気体W2を通過させることにより、下流側面25に接触する純水W1中に微細気泡W3を発生させるようになっている。なお、多孔体21は、アルミナによって形成された微粒子27を含む部材である。また、本実施形態では、細孔26の孔径A1が1500nmとなっている。
【0025】
そして、図1に示されるように、微細気泡発生装置10は、処理槽11内の純水W1の温度を上昇させる昇温手段であるヒータ31を備えている。本実施形態のヒータ31は、側板14の外周面の中央部分を覆うように処理槽11に巻き付けられた電熱ヒータ(具体的にはラバーヒータ)である。また、ヒータ31は、多孔体21によって微細気泡W3を発生させる期間内において、純水W1の温度を徐々に上昇させるようになっている。詳述すると、ヒータ31は、純水W1の温度が液相の状態を維持する温度であるときに、昇温時の温度勾配が5℃/時間となるように純水W1の温度を上昇させる。
【0026】
図1に示されるように、微細気泡発生システム1は、処理槽11内に温度センサ41を有している。温度センサ41は、処理槽11内の純水W1の温度を測定して、CPU61に温度検出信号を出力するようになっている。
【0027】
また、処理槽11には、気体供給源51(窒素ボンベ)から多孔体21の内部空間に気体W2を供給する気体供給流路52が接続されている。気体供給流路52上には電磁弁53が設置されている。電磁弁53は、気体供給源51の下流側に配置されており、気体供給流路52を開状態または閉状態に切り替えるようになっている。そして、電磁弁53は、開状態に切り替えられた際に、気体W2を多孔体21の内部空間に供給可能とする。
【0028】
次に、微細気泡発生システム1の電気的構成について説明する。
【0029】
図1に示されるように、微細気泡発生システム1は、設備全体を統括的に制御するための制御装置60を備えている。制御装置60は、CPU61、ROM62、RAM63及び入出力回路等により構成されている。CPU61は、ヒータ31及び電磁弁53に電気的に接続されており、各種の駆動信号によってそれらを制御する。また、CPU61には、温度センサ41から出力された温度検出信号が入力されるようになっている。
【0030】
次に、微細気泡W3の発生方法を説明する。
【0031】
まず、微細気泡発生工程において、CPU61は、多孔体21によって、処理槽11内の純水W1中に微細気泡W3を発生させる制御を行う。具体的に言うと、CPU61は、電磁弁53に駆動信号を出力して、電磁弁53を開状態に切り替える。その結果、気体W2が、気体供給源51から気体供給流路52を通過して多孔体21の内部空間に供給される。なお、気体W2は、所定の圧力(本実施形態では0.17MPaG)に加圧した状態で多孔体21の上流側面24(内側面)に接触する。このとき、気体W2は、多孔体21が有する細孔26を介して上流側面24から下流側面25に向けて通過する。その結果、気体W2が、細孔26の下流側面25側開口から下流側面25に接触する純水W1内に放出されて微細気泡W3となる。なお、この時点で発生する微細気泡W3は、直径が1μm未満の気泡であるウルトラファインバブル(UFB)となる。
【0032】
また、本実施形態では、微細気泡発生工程中に、ヒータ31によって純水W1の温度を徐々に上昇させる昇温工程を行う。具体的に言うと、CPU61は、ヒータ31に駆動信号を出力して、ヒータ31を加熱させる制御を行う。また、CPU61は、微細気泡W3を発生させる期間内(本実施形態では180分(=3時間))において、純水W1の温度が25℃から40℃に上昇するようにヒータ31を加熱させる制御を行う。即ち、本実施形態では、純水W1を昇温させる際の温度勾配が5℃/時間となる。
【0033】
さらに、CPU61は、温度センサ41から出力された温度検出信号に含まれる温度情報(純水W1の温度を示す情報)に基づいて、純水W1を昇温させる際の温度勾配が例えば2℃/時間以上10℃/時間以下の範囲内となるようにヒータ31を制御する。即ち、CPU61は、温度制御手段としての機能を有している。例えば、CPU61は、微細気泡発生工程の開始(電磁弁53の開状態への切り替え)から1時間経過した時点で、温度情報が示す純水W1の温度が27℃以上(即ち、温度勾配が2℃/時間以上)であるか否かを判定する。純水W1の温度が27℃以上であると判定された場合、CPU61は、ヒータ31の出力をそのまま維持させる制御を行う。一方、純水W1の温度が27℃未満(即ち、温度勾配が2℃/時間未満)であると判定された場合、CPU61は、ヒータ31に駆動信号を出力して、ヒータ31の出力を上昇させる制御を行う。その結果、微細気泡W3の発生量が増大する。
【0034】
また、CPU61は、微細気泡発生工程の開始から1時間経過した時点で、温度情報が示す純水W1の温度が35℃よりも高い(即ち、温度勾配が10℃/時間よりも高い)か否かを判定する。純水W1の温度が35℃よりも高いと判定された場合、CPU61は、ヒータ31に駆動信号を出力して、ヒータ31の出力を低下させる制御を行う。一方、純水W1の温度が35℃以下(即ち、温度勾配が10℃/時間以下)であると判定された場合、CPU61は、ヒータ31の出力をそのまま維持させる制御を行う。
【0035】
次に、微細気泡発生装置10の製造方法を説明する。
【0036】
まず、多孔体21を押出成形により作製する。具体的には、平均粒径が5.5μmのアルミナ粉末に対して有機バインダーや水等を添加した後、ミキサーで混合、混錬することにより、粘土状の押出成形用秤土を得る。次に、押出成形機を用いて押出成形用秤土の成形を行い、多孔体21の前駆体を得る。そして、成形した前駆体を乾燥することにより、多孔体21の形状(即ち円筒状)と同じ形状の成形体を得る。その後、成形体を脱脂し、大気雰囲気下にて1500℃で焼成することにより、多孔体21を得る。
【0037】
そして、接着剤を用いて、多孔体21の第2端面23側に蓋部16を接着する。次に、多孔体21を処理槽11内に挿入し、接着剤を用いて、処理槽11の底板13上に多孔体21の第1端面22側を接着する。また、処理槽11の外周面にヒータ31を巻き付ける。なお、この時点で、微細気泡発生装置10が完成する。
【0038】
次に、微細気泡発生装置の評価方法及びその結果を説明する。
【0039】
まず、本実施形態の多孔体21と同じ多孔体を準備し、これを測定用サンプルとした。次に、測定用サンプルに対する気泡発生試験を行った。具体的には、まず、純水をポンプにより循環させた処理槽(図示略)内に、第2端側開口を閉塞した多孔体を収容した。次に、多孔体の第1端側開口から内部空間に対して、圧力0.17MPaGの気体(ここでは窒素)を導入し、導入した気体を、多孔体を透過させて純水内に放出させることにより、微細気泡を発生させた。なお、微細気泡の発生は、冷却チラー、ヒータ、ポンプの発熱を利用し、純水の温度が21℃(低温一定)、40℃(高温一定)、25℃→40℃に上昇(温度上昇)となる条件下で、それぞれ180分行った。そして、Malvern Panalytical 社製 商品名 ナノサイト(NS-300)を用いて、各条件下で微細気泡を発生させた際のUFB濃度(pc/ml:ここでは、直径が100nm程度の気泡の濃度)を測定した。以上の結果を図3に示す。
【0040】
その結果、純水の温度を一定にする場合には、「低温一定」及び「高温一定」のいずれの条件下であっても、UFB濃度が1.0E+07(pc/ml)と1.0E+08(pc/ml)との間であることが確認された。一方、純水の温度を上昇させる場合(「温度上昇」の場合)には、UFB濃度が1.0E+08(pc/ml)と1.0E+09(pc/ml)との間となり、純水の温度を一定にする場合よりも高い数値となることが確認された。以上のことから、微細気泡の発生中に純水の温度を上昇させれば、より多くのUFBが発生することが証明された。即ち、温度を上昇させた際に、飽和窒素濃度が低下して気体が純水中に気泡として析出した結果、UFB濃度が上昇したものと考えられる。
【0041】
ところが、処理槽内の純水は、ポンプ(図示略)によって循環されるものであるため、UFB濃度は、ポンプの泡噛みに起因するキャビテーションの影響を受けている可能性もある。そこで、純水の循環を停止した状態で、温度勾配とUFB濃度との関係を確認した。
【0042】
具体的には、まず、細孔の孔径が1500nm、外径が30mmとなる円柱状の多孔体に対して、多孔体の軸方向に沿って延びる37個の貫通孔(孔径3mm)を形成してなるアルミナ製の多孔体を準備した。次に、準備した多孔体を処理槽内に挿入し、かつ処理槽の外側にラバーヒータ(アズワン株式会社製)を巻き付けた。そして、各貫通孔内に圧力0.3MPaGの気体(ここでは窒素)を導入し、導入した気体を、多孔体を透過させて純水内に放出させることにより、微細気泡を発生させた。また、微細気泡を発生させる期間(ここでは3時間)内において、ラバーヒータを駆動して純水の温度を徐々に上昇させた。ここで、ラバーヒータの設定温度を50℃にして純水の温度を20℃→33.1℃に上昇させたもの(即ち、温度勾配が約4.4℃/時間となるもの)を実施例1とし、ラバーヒータの設定温度を100℃にして純水の温度を20℃→51℃に上昇させたもの(即ち、温度勾配が約10℃/時間となるもの)を実施例2とした。
【0043】
また、実施例1,2に用いた多孔体と同じ多孔体を準備し、準備した多孔体を処理槽内に挿入した。次に、多孔体の各貫通孔内に圧力0.3MPaGの気体を導入し、導入した気体を、多孔体を透過させて純水内に放出させることにより、微細気泡を発生させた。そして、微細気泡を発生させる期間内において、純水の温度を一定(20℃)とし、これを比較例1とした。また、微細気泡を発生させる前の状態にある純水(原水)を準備し、これを比較例2とした。
【0044】
次に、実施例1,2、比較例1,2に対して、ナノサイト(NS-300)によるUFB濃度の測定を行った。以上の結果を図4に示す。その結果、微細気泡を発生させていない比較例2では、UFB濃度が1.0E+06(pc/ml)程度と低いため、純水中にUFBがあまり発生していないことが確認された。なお、純水の温度を一定にした状態で微細気泡を発生させた比較例1では、UFB濃度が1.0E+07(pc/ml)と1.0E+08(pc/ml)との間であることが確認された。一方、純水の温度を上昇させながら微細気泡を発生させた実施例1,2では、UFB濃度が1.0E+08(pc/ml)よりも高くなり、純水の温度を一定にする場合よりも高い数値となることが確認された。よって、この場合も、微細気泡の発生中に純水の温度を上昇させれば、より多くのUFBが発生することが証明された。
【0045】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0046】
(1)本実施形態の微細気泡発生装置10では、多孔体21が微細気泡W3を発生させる期間内において、ヒータ31が純水W1の温度を徐々に上昇させることにより、純水W1における気体W2の溶解度が低下し、気体W2が純水W1中に気泡として析出すると推測されるため、多量の微細気泡W3を効率良く発生させることができる。また、微細気泡W3を発生させる際に、純水W1の温度のみを管理すればよく、微細気泡W3となる気体W2の温度は管理しなくても済むため、微細気泡W3を容易に発生させることができる。
【0047】
(2)本実施形態では、気体W2が加圧した状態で多孔体21内に供給されるため、気体W2が多孔体21の細孔26を詰まることなく通過する。従って、純水W1中に微細気泡W3をより効率良く発生させることができる。また、多孔体21内は、気体W2によって加圧された状態にあるため、処理槽11内の純水W1が細孔26を通過して多孔体21内に浸入する等の問題を解消することができる。
【0048】
なお、上記実施形態を以下のように変更してもよい。
【0049】
・上記実施形態の多孔体21は、円筒状を成していたが、矩形筒状、楕円筒状、三角筒状等の他の筒状を成していてもよい。また、多孔体は、筒状に限定される訳ではなく、円板状や平板状等の他の形状を成していてもよい。
【0050】
・上記実施形態では、多孔体21を透過して純水W1に導入される気体W2として窒素を用いたが、例えば、空気、酸素、アルゴン等の他の気体を用いてもよい。
【0051】
・上記実施形態では、処理槽11内の液体として純水W1を用いたが、これに限定される訳ではなく、純度がそれほど高くない水、例えば水道水などを用いても勿論よい。
【0052】
・上記実施形態の処理槽11は、ステンレス板を用いて略円筒状に形成されていた。しかし、処理槽11は、ガラス容器や、ポリ塩化ビニルからなるパイプ(塩ビパイプ)を用いて形成されていてもよい。
【0053】
・上記実施形態の温度センサ41は処理槽11内に設けられていた。しかし、処理槽11内の純水W1の温度を測定する機能を有しているのであれば、温度センサ41は、ヒータ31(図1参照)などの他の位置に設けられていてもよい。
【0054】
・上記実施形態の微細気泡発生装置10は、半導体の洗浄に用いられていたが、例えば、食品や医療器具等の洗浄に用いてもよい。また、微細気泡発生装置10は、微細気泡W3を発生させるものであればよく、洗浄を行うものでなくてもよい。例えば、微細気泡発生装置10は、農作物の成長促進に用いられるものであってもよい。
【0055】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0056】
(1)上記手段1において、前記液体は純水であることを特徴とする微細気泡発生装置。
【0057】
(2)上記手段1において、前記気泡発生手段は、上流側面及び下流側面を連通する多数の細孔を有し、前記細孔を介して前記上流側面から前記下流側面に向けて気体を通過させることにより、前記下流側面に接触する前記液体中に前記微細気泡を発生させる多孔体であり、前記気体は窒素であることを特徴とする微細気泡発生装置。
【0058】
(3)技術的思想(2)において、前記多孔体がセラミック材料からなることを特徴とする微細気泡発生装置。
【0059】
(4)上記手段1において、前記昇温手段は、前記処理槽内の前記液体の温度を上昇させるヒータであり、前記ヒータは電熱ヒータであることを特徴とする微細気泡発生装置。
【0060】
(5)上記手段2において、前記気泡発生手段は、上流側面及び下流側面を連通する多数の細孔を有し、前記細孔を介して前記上流側面から前記下流側面に向けて気体を通過させることにより、前記下流側面に接触する前記液体中に前記微細気泡を発生させる多孔体であり、前記微細気泡発生工程では、前記多孔体の前記上流側面に前記気体を加圧した状態で接触させることを特徴とする微細気泡の発生方法。
【符号の説明】
【0061】
1…微細気泡発生システム
10…微細気泡発生装置
11…処理槽
21…気泡発生手段としての多孔体
24…上流側面
25…下流側面
26…細孔
31…昇温手段としてのヒータ
41…温度センサ
61…温度制御手段としてのCPU
W1…液体としての純水
W2…気体
W3…微細気泡
図1
図2
図3
図4