(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】バネ装置
(51)【国際特許分類】
F16F 1/32 20060101AFI20230407BHJP
F16F 3/02 20060101ALI20230407BHJP
F16F 15/073 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
F16F1/32
F16F3/02
F16F15/073
(21)【出願番号】P 2018245246
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2018086313
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-147066(JP,A)
【文献】特開昭60-113829(JP,A)
【文献】特開2002-155992(JP,A)
【文献】特開2009-041585(JP,A)
【文献】特開平11-257394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/00- 6/00
F16F 15/00- 15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイド部材で互いの軸線が同軸上に配されるように平面視円環状の複数の皿バネを多段積層し弾性変形可能に支持してなるバネ装置において、
前記ガイド部材が、前記複数の皿バネのそれぞれの内周縁と、
該ガイド部材の外周面との間に所定の隙間をあけ、前記複数の皿バネのそれぞれの中心孔に互いの軸線が同軸上に配されるように挿通される円柱棒状の軸部と、前記軸部の外周面から軸線中心の径方向外側に突出しつつ軸線方向に沿って延設され、軸線中心の周方向に所定の間隔をあけて少なくとも3つ設けられるスペーサー部とを備えて構成され、
前記皿バネが、その内周縁に、負荷が作用していない状態で軸線に沿い周方向に繋がる隙間調整面を備えて形成されており、
前記皿バネの前記内周縁が外周縁よりも上方に位置するように配した状態において、前記皿バネの
前記隙間調整面は、断面視で下端から皿バネの板厚の0.3倍以上0.4倍以下までの範囲の内周縁が、湾曲面で形成されていることを特徴とするバネ装置。
【請求項2】
前記皿バネの
前記内周縁において、断面視で上端から皿バネの板厚の0.2倍の範囲が湾曲面で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のバネ装置。
【請求項3】
前記皿バネの
前記隙間調整面は、断面視で皿バネの板厚の0.4倍の範囲の内周縁が軸線と平行になるように形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のバネ装置。
【請求項4】
ガイド部材で互いの軸線が同軸上に配されるように
平面視円環状の複数の皿バネを多段積層し弾性変形可能に支持してなるバネ装置において、
前記ガイド部材が、前記複数の皿バネのそれぞれの外周縁と、
該ガイド部材の内周面との間に所定の隙間をあけ、前記複数の皿バネの外側を互いの軸線が同軸上に配されるように、且つ曲面状の前記内周面が前記皿バネの外周縁に沿うように設けられる軸部と、前記軸部の内周面から軸線中心の径方向内側に突出しつつ軸線方向に沿って延設され、軸線中心の周方向に所定の間隔をあけて少なくとも3つ設けられるスペーサー部とを備えて構成され、
前記皿バネが、その外周縁に、負荷が作用していない状態で軸線に沿い周方向に繋がる隙間調整面を備えて形成されており、
前記皿バネの内周縁が前記外周縁よりも上方に位置するように配した状態において、前記皿バネの
前記隙間調整面は、断面視で上端から皿バネの板厚の0.3倍以上0.4倍以下までの範囲の外周縁が、湾曲面で形成されていることを特徴とするバネ装置。
【請求項5】
前記皿バネの
前記外周縁において、断面視で下端から皿バネの板厚の0.2倍の範囲が湾曲面で形成されていることを特徴とする請求項4に記載のバネ装置。
【請求項6】
前記皿バネの
前記隙間調整面は、断面視で皿バネの板厚の0.3倍の範囲の外周縁が軸線と平行になるように形成されていることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のバネ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皿バネを直列に複数積層してなるバネ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
皿バネは、コンパクトに大きな耐荷重性能をもつバネ部材として種々の機器に使用されており、複数の皿バネを直列あるいは並列に組み合わせて使うことで変形性能や耐荷重を増すことができる。このため、コイルバネよりコンパクトでローコストに所定の性能が得られるメリットがある。
【0003】
しかしながら、皿バネを直列に複数積層(多段積層)してなるバネ装置においては、複数の皿バネの中心軸を揃える必要があり、芯ズレが生じると本来の性能が発揮されない。このため、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3に示すように、形状を工夫するなどして皿バネが変形しても内外径が変化しないにする手法が提案されている。
【0004】
特許文献1(や特許文献2)では、皿バネ11が変形しても径が変らない位置(第3図の符号O点)を中心とする円弧状に内周面13を加工し、ガイド部材12を内接させている。
【0005】
一方、特許文献3では、有限要素法解析で皿バネ各部の変形を求め、皿バネ内周部で内径が変化しない点41と外周部で外径が変化しない点43を定め、内周部については点41より下部、外周部については点43より上部を鉛直(皿バネ軸方向)に形成し、皿バネ11が変形しても内外径が変わらないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-132005号公報
【文献】実開平7-28246号公報
【文献】特開平11-351297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1(や特許文献2)に記載の発明においては、皿バネの内周面13を円弧状に加工するため、高コスト化する。さらに、ガイド部材13とのクリアランスを小さくしても、皿バネの内周がガイド外周とガイド軸方向に抵抗なく円滑に相対変位させるために非常に高い寸法精度/加工精度が要求され、この点からもコストが嵩む。
【0008】
特許文献3に記載の発明においては、皿バネの内周の中心軸Oに関して平行な円筒面13や皿バネの外周の中心軸Oに関して平行な円筒面23の加工が比較的容易に行えるが、周面全長にわたってガイド部材と近接させる必要があるため、この点でやはり高い寸法精度が要求される。
【0009】
さらに、特許文献3に記載の発明においては、皿バネが変形した際に内外径が変化しない不動点41、43を有限要素法解析で定めている。しかしながら、皿バネの変形が小さく微小変形理論が適用できる場合にはこの設定法が妥当といえるが、皿バネの変形が大きく大変形理論を適用する場合には荷重と変形との関係が非線形となり、符号41、43の点が不動点にならなくなってしまう。
ちなみに、実際の皿バネ1は、
図16に示す可撓高さhに対し微小変形の範囲を超えて50~75%程度の変形で使用される場合が多い。
【0010】
このため、皿バネ1に芯ズレ(ガイド部材2の軸線O1に対する複数の皿バネ1の軸線O2のズレ)が生じると、
図17に示すように、高さが減ったり、皿バネ1の円錐台状の面に力が作用して曲げを生じるなどして、本来の性能が発揮できなくなってしまう。このため、より簡便で効果的に芯ズレ防止対策、すなわち、皿バネのヒステリシスを小さくし、線形性を向上させる手法が強く求められていた。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑み、より簡便で効果的に多段積層した皿バネのヒステリシスを小さくし、線形性を向上させることが可能なバネ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0013】
本発明のバネ装置は、ガイド部材で互いの軸線が同軸上に配されるように平面視円環状の複数の皿バネを多段積層し弾性変形可能に支持してなるバネ装置において、前記ガイド部材が、前記複数の皿バネのそれぞれの内周縁と、該ガイド部材の外周面との間に所定の隙間をあけ、前記複数の皿バネのそれぞれの中心孔に互いの軸線が同軸上に配されるように挿通される円柱棒状の軸部と、前記軸部の外周面から軸線中心の径方向外側に突出しつつ軸線方向に沿って延設され、軸線中心の周方向に所定の間隔をあけて少なくとも3つ設けられるスペーサー部とを備えて構成され、前記皿バネが、その内周縁に、負荷が作用していない状態で軸線に沿い周方向に繋がる隙間調整面を備えて形成されており、前記皿バネの前記内周縁が外周縁よりも上方に位置するように配した状態において、前記皿バネの前記隙間調整面は、断面視で下端から皿バネの板厚の0.3倍以上0.4倍以下までの範囲の内周縁が、湾曲面で形成されていることを特徴とする。
また、本発明のバネ装置は、前記皿バネの前記内周縁において、断面視で上端から皿バネの板厚の0.2倍の範囲が湾曲面で形成されていてもよい。
また、本発明のバネ装置は、前記皿バネの前記隙間調整面は、断面視で皿バネの板厚の0.4倍の範囲の内周縁が軸線と平行になるように形成されていてもよい。
【0014】
本発明のバネ装置は、ガイド部材で互いの軸線が同軸上に配されるように平面視円環状の複数の皿バネを多段積層し弾性変形可能に支持してなるバネ装置において、前記ガイド部材が、前記複数の皿バネのそれぞれの外周縁と、該ガイド部材の内周面との間に所定の隙間をあけ、前記複数の皿バネの外側を互いの軸線が同軸上に配されるように、且つ曲面状の前記内周面が前記皿バネの外周縁に沿うように設けられる軸部と、前記軸部の内周面から軸線中心の径方向内側に突出しつつ軸線方向に沿って延設され、軸線中心の周方向に所定の間隔をあけて少なくとも3つ設けられるスペーサー部とを備えて構成され、前記皿バネが、その外周縁に、負荷が作用していない状態で軸線に沿い周方向に繋がる隙間調整面を備えて形成されており、前記皿バネの内周縁が前記外周縁よりも上方に位置するように配した状態において、前記皿バネの前記隙間調整面は、断面視で上端から皿バネの板厚の0.3倍以上0.4倍以下までの範囲の外周縁が、湾曲面で形成されていることを特徴とする。
また、本発明のバネ装置は、前記皿バネの前記外周縁において、断面視で下端から皿バネの板厚の0.2倍の範囲が湾曲面で形成されていてもよい。
また、本発明のバネ装置は、前記皿バネの前記隙間調整面は、断面視で皿バネの板厚の0.3倍の範囲の外周縁が軸線と平行になるように形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のバネ装置においては、従来と比較し、より簡便で効果的に多段積層した皿バネのヒステリシスを小さくし、線形性を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係るバネ装置を示す断面図である。
【
図2】
図1のX1-X1線矢視図であり、本発明の一実施形態に係るバネ装置を示す平面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るバネ装置のガイド部材を示す平面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る皿バネを示す断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る皿バネを示す断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る皿バネを示す半断面図である。
【
図8】従来の皿バネと本発明の一実施形態に係る皿バネの皿バネ内径とたわみの関係を示す図である。
【
図9】従来の皿バネと本発明の一実施形態に係る皿バネの皿バネ内径とたわみの関係を示す図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る皿バネを示す半断面図である。
【
図12】従来の皿バネと本発明の一実施形態に係る皿バネの皿バネ内径とたわみの関係を示す図である。
【
図13】従来の皿バネと本発明の一実施形態に係る皿バネの圧縮変形前後の挙動をそれぞれ示す半断面図である。
【
図14】本発明の一実施形態に係るバネ装置の変形例を示す断面図である。
【
図15】
図14のX2-X2線矢視図であり、本発明の一実施形態に係るバネ装置の変形例を示す平面図である。
【
図18】皿バネの内外周縁の形状を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、
図1から
図15を参照し、本発明の一実施形態に係るバネ装置について説明する。ここで、本実施形態は、複数の皿バネを積層(多段積層)してなるバネ装置に関し、特に多段積層した皿バネのヒステリシスを小さくし、線形性を向上させて芯ずれを防止することを可能にしたバネ装置に関するものである。
【0024】
具体的に、本実施形態のバネ装置100は、
図1及び
図2に示すように、所定の内径の中心孔1aを備えて平面視円環状に形成された複数の皿バネ1を、中心孔1aの径よりも外径を小にして形成された略円柱状のガイド部材2を中心孔1aに挿通することにより多段積層して構成されている。
【0025】
さらに、本実施形態のガイド部材2は、円柱棒状の軸部2aの外周面から軸線O1中心の径方外側に突出し軸線O1方向に延びるスペーサー部2bを備えて形成されている。また、スペーサー部2bは、断面形状が軸部2a(ガイド部材2)の径方向外側に凸円弧状を呈するように形成されるとともに、軸部2aの軸線O1中心の周方向に等間隔で少なくとも3つ以上設けられている。
【0026】
なお、ガイド部材2にスペーサー部2bを設ける構成としては、例えば、
図3に示すように、外周面に断面半円形状で軸線O1方向に延びる嵌合凹部2cを設けて軸部2aを形成し、嵌合凹部2cに丸棒2dを嵌合させるとともに軸部2aに一体に固着してスペーサー部2bを設ける手法が挙げられる。スペーサー部2bの材質は軸部2aと同じ鋼材でもよいし、樹脂材料等を用いてもよい。スペーサー部2bは軸部2aと別部材としなくてもよいし、スペーサー部2bとなる突起を設けて軸部2a(ガイド部材2)を形成しても勿論構わない。
【0027】
そして、上記構成からなる本実施形態のバネ装置100では、多段積層した複数の皿バネ1を、中心孔1aに挿通するガイド部材2に設けた複数のスペーサー部2bが軸線O1、O2方向に沿って多段積層した複数の皿バネ1の内周縁(内周面)1bにわずかな隙間を介して点接触(線接触)するため、これら複数のスペーサー部2bによって複数の皿バネ1の芯ズレを防止できる。
【0028】
ここで、本実施形態のバネ装置100では、上記の通り、複数の皿バネ1の内周縁1bと、複数の皿バネ1の中心孔1aに挿通したガイド部材2のスペーサー部2bとが点接触し、多段積層した皿バネ1の芯ズレを防止するように構成した。
これに対し、
図14、
図15に示すように、複数の皿バネ1の外周縁(外周面)1cを案内する筒状(パイプ状)などのガイド部材12を設け、このガイド部材12の内周面12aに径方向内側に突出するスペーサー部12bと複数の皿バネ1の外周縁1cとが点接触(線接触)することにより、多段積層した皿バネ1の芯ズレを防止するように構成してもよい。この場合においても、勿論同様の芯ズレ防止効果を得ることができる。
【0029】
なお、この場合には、例えば、ガイド部材12の筒状の内周面12aにスペーサー部12bとなる丸棒(棒材)12dなどを取り付けるための嵌合凹部12cを設け、スペーサー部12bとなる丸棒12dを嵌合凹部12cに嵌合させて取り付けた後に、筒状のガイド部材12の内部に複数の皿バネ1を挿入して多段積層することができる。
【0030】
一方、本実施形態のバネ装置100は、皿バネ1が変形した際に中心孔1aの内径の変化を抑止するための内径保持機構3を備えている。
【0031】
本実施形態の内径保持機構3は、i)複数の皿バネ1の内周縁1bと、複数の皿バネ1の中心孔1aに挿通したガイド部材2の外周面に設けた複数のスペーサー部2bとが点接触(線接触)し、複数の皿バネ1の芯ズレを防止する場合と、ii)筒状などのガイド部材2の内周面から径方向内側に突出するスペーサー部2bと、複数の皿バネ1の外周縁1cとが点接触(線接触)し、複数の皿バネ1の芯ズレを防止する場合とで以下のように設定される。
【0032】
図4に示すように、
i)皿バネ1の内周面(内周縁1b)において、皿バネ1の板厚tの0.4倍の範囲で内側に突出する部分を円筒面に切り欠くなどし、皿バネ1に負荷が作用していない状態でこの板厚tの0.4倍の範囲の内周面1b(隙間調整面4)が軸線O2(O1)と平行になるように構成する。
ii)皿バネ1の外周面(外周縁1c)において、皿バネ1の板厚tの0.3倍の範囲で外側に突出する部分を円筒面に切り欠くなどし、皿バネ1に負荷が作用していない状態でこの板厚tの0.3倍の範囲の外周面1c(隙間調整面5)が軸線O2(O1)と平行になるように構成する。
【0033】
なお、特許文献3でも同様の形状が提案されているが、切り欠き寸法をFEM解析で求めるため実務的でなく、本発明は、隙間調整面4、5の寸法を板厚tの係数倍で設定するだけであり、後述の実施例の通り、実用上十分な性能が得られることを確認している。
【0034】
[実施例]
本実施例では、防振基礎のバネ部材(バネ装置100)として使用する皿バネ1について、皿バネ1の変位と最小内径の関係を試算する。
【0035】
本実施例において、皿バネ1の緒元は、
図5に示すように、外径Daを360mm、内径Diを190mm、板厚tを18mm、可撓高さhを9mm、皿バネ高さH
0を27mmとした。
【0036】
また、皿バネ1のバネ特性等の計算にはアルメン・ラスロ(J.O.Almen & A.Laszlo)の式を用いた。この式は皿バネ1の断面形状が変化せず円周長が変わらない中立点を中心に回転するように皿バネ1が変形するものとし、荷重および変形が円周方向に一様となる軸対称仮定としたものである。この回転中心となる中立点の直径Dcは次の式(1)で表される。
【0037】
【0038】
次に、変形前の皿部傾斜角θ0を6.18°とすると、皿バネ1の皿部の半径方向の長さLは、次の式(2)で求められる。
【0039】
【0040】
また、皿バネ1のたわみδは次の式(3)で表される。
【0041】
【0042】
そして、この皿バネ1を圧縮したときのたわみδと内径最小寸法Diとの関係を求める。
【0043】
[従来型皿バネ]
ここで、まず、従来型皿バネのたわみδと内径最小寸法Diとの関係を求める。
【0044】
図6は従来型皿バネ1を示す図であり、回転中心(中立点)C、内径を決定する下端の点をA、内径側で板厚中心点をBとし、皿バネの皿部傾斜角をθとする。
変形前の傾斜角θ0=6.18°より、C~B間の寸法bは次の式(4)となる。
【0045】
【0046】
皿バネ1が圧縮変形する際、皿バネ1の断面形状は変化せず中立点Cを中心に回転するものとすると、C点に対するA点の水平距離(半径差)aは次の式(5)で表される。
【0047】
【0048】
よって、A点で決定される皿バネ変形後の内径Diは次の式(6)となる。
【0049】
【0050】
そして、従来型皿バネ1のたわみδと内径最小寸法Diとの関係は上記の式(3)と式(6)から得られる。
【0051】
[本発明に係る皿バネ(内周に隙間調整面4/切り欠き)]
次に、本発明に係る皿バネのたわみδと内径最小寸法Diとの関係を求める。
【0052】
はじめに、本発明に係る皿バネ1を、内周面1bの下から0.4tの範囲だけ円筒面(中心軸:軸線O2と平行)に切り欠いて隙間調整面4を備えたものとする。
【0053】
図7において、回転中心(中立点)C、内径を決定する上端から0.6tの点をA’、内径側で板厚中心点をBとし、皿バネ1の皿部傾斜角をθとする。
変形前の傾斜角θ
0=6.18°より、C~B間の寸法bは37.25mmとなる。
【0054】
ここで、皿バネ1が圧縮変形する際、皿バネ1の断面形状は変化せず中立点Cを中心に回転するものとし、C点に対するA’点の水平距離(半径差)aは次の式(7)で表される。
【0055】
【0056】
よって、A’点で決定される皿バネ変形後の内径Diは次の式(8)となる。
【0057】
【0058】
皿バネ1のたわみδは荷重伝達する内径上端と外径下端に切り欠きがないので従来型皿バネ1と同じになり、皿バネ1のたわみδと内径最小寸法Diとの関係は式(3)と式(8)から得られる。
【0059】
以上の[従来型皿バネ]と[本発明に係る皿バネ(内周面の下から0.4tの範囲だけ円筒面(中心軸と平行)に切り欠いて隙間調整面4を備えたもの)]の皿バネ1のたわみδと内径最小寸法Diとの関係をグラフ化すると、
図8となる。
【0060】
従来型では、皿バネ1にたわみがない初期状態(δ=0)で内径最小寸法Di=190mmであるが、最大たわみδ=9mmになるとDi=191.5mmとなり、1.5mm拡大することがわかる。このため、ガイド部材2との隙間が広がり芯ズレを生じやすくなってしまう。
【0061】
一方、本発明に係る皿バネ1においては、内径の一部を切り欠いて隙間調整面4を設けたことにより、初期状態(δ=0mm)で内径最小寸法Di=191.55mmとなるが、たわみδ=5mmでDi=191.41mm、最大たわみδ=9mmでDi=191.50mmとなり、内径の変動範囲191.41~191.55mmとほとんど変化しないことが確認された。このように、内径の変動幅は0.14mmとなり従来型の1/10しかない。
【0062】
よって、本発明に係る皿バネ(バネ装置100)1においては、ガイド部材2との隙間が広がらず芯ズレを防止/抑止できることがわかる。
【0063】
そして、これを実現するための加工は、皿バネ1の内周面1bに切り欠くだけで(隙間調整面4を設けるだけで)極めて容易にできる。
【0064】
また、切り欠き寸法として板厚tの0.4倍としたが、0.3倍や0.5倍(板厚中央まで切り欠く)とした場合についても
図9に示す通りであり、0.5倍にすると内径の変動幅が大きくなり、たわみδが増加すると内径が減少する傾向がある。また、0.3倍にするとたわみが5mm以上のケースで0.4mmの場合より内径の変動幅が大きくなるが、たわみが小さければ安定した特性をもつことがわかる。
【0065】
[従来型皿バネ]
次に、皿バネ1の外径側に筒状などのガイド部材2を設ける場合において、上記と同じ皿バネ1に対して皿バネ1の最大外径の変化を検討した結果について説明する。
【0066】
まず、従来型皿バネ1では、
図10に示すように、回転中心(中立点)C、外径を決定する下端の点をA、外径側で板厚中心点をBとし、皿バネ1の皿部傾斜角をθとする。
【0067】
変形前の傾斜角θ0=6.18より、B~C間の寸法bは次の式(9)となる。
【0068】
【0069】
ここで、皿バネ1が圧縮変形する際、皿バネ1の断面形状は変化せず中立点Cを中心に回転するものとすると、C点に対するA点の水平距離(半径差)aは次の式(10)で表される。
【0070】
【0071】
よって、A点で決定される皿バネ変形後の外径Daは次の式(11)となる。
【0072】
【0073】
そして、従来型皿バネの皿バネ1のたわみδと外径最大寸法Daとの関係は式(3)と式(11)から得られる。
【0074】
[本発明に係る皿バネ(外周に隙間調整面5/切り欠き)]
一方、本発明に係る皿バネ(外周面1cの上から0.3tの範囲だけ円筒面(中心軸O2と平行)に切り欠いて隙間調整面5を備えたもの)は、
図11に示すように、回転中心(中立点)C、外径を決定する下から0.7tの点をA’、外径側で板厚中心点をBとし、皿バネ1の皿部傾斜角をθとする。
上記の式(9)より、B~C間の寸法bは46.3mmとなる。
【0075】
ここで、皿バネ1が圧縮変形する際、皿バネ1の断面形状は変化せず中立点Cを中心に回転するものとすると、C点に対するA’点の水平距離(半径差)aは次の式(12)で表される。
【0076】
【0077】
よって、A’点で決定される皿バネ変形後の外径Daは次の式(13)となる。
【0078】
【0079】
そして、本発明に係る皿バネ(外周に隙間調整面5/切り欠き)の皿バネ1のたわみδと外径最大寸法Daとの関係は式(3)と式(13)から得られる。
【0080】
図12は、従来型皿バネと本発明に係る皿バネ(外周に隙間調整面5/切り欠き)の皿バネ1のたわみδと外径最大寸法Daとの関係を示している。なお、切り欠き寸法を0.3tだけでなく0.4t、0.5tも含めた結果を示している。
【0081】
この図から、従来型では皿バネ1のたわみにより、最大外径が360mm→358.6mmと1.4mm変化することがわかる。一方、切り欠き(隙間調整面5)を板厚tの0.3倍とした本発明に係る皿バネ1では、最大外径が358.88mm→358.60mmと0.28mmの変化となり、従来型に対して外径変動幅を1/5に低減できることが確認された。
【0082】
さらに、0.4倍では、皿バネたわみ0~6mmの範囲であれば変動幅0.08mmと極めて小さくなる。また、たわみが小さいときの変動は0.3倍の方が高性能であることが確認された。
【0083】
したがって、本実施形態のバネ装置100においては、まず、皿バネ1の内周縁1b(又は外周縁1c)とガイド部材2がスペーサー部2bだけで接することにより、両者のクリアランスが小さくても皿バネ1の変形による相対変位を阻害することがない。
【0084】
スペーサー部2bを備えない従来型では皿バネ1とガイド部材2の隙間(クリアランス)が内周全長にわたり小さいため、接触部にて大きな摩擦抵抗力が生じるおそれがあり、寸法精度管理を厳しくする必要があるが、本実施形態のバネ装置100(皿バネ1)においては、皿バネ1の内周縁1b(又は外周縁1c)とガイド部材2の外周部(又は内周部)との隙間が十分大きく、過大な摩擦抵抗力が生じるおそれが小さい。また、隙間(クリアランス)の管理はスペーサー部2bの調整だけで済むので容易にできる。
【0085】
さらに、皿バネ1の内周縁1b(又は外周縁1c)とガイド部材2がスペーサー部2bだけで接するので接触面積が小さくなり、面圧が高くなる。このため、皿バネ1とスペーサー部2bとの摩擦係数は小さくなり、この摩擦による皿バネ1の履歴抵抗(ヒステリシス)を小さくすることができる。
【0086】
また、スペーサー部2bをガイド部材2の軸部2aと別材にすることもできるので、スペーサー部2bを低摩擦の表面処理鋼材にしたり低摩擦のフッ素樹脂にしたりすることで、さらにこの摩擦を低減することができる。
【0087】
耐荷重が大きく安価な皿バネ1を用いて、ヒステリシスの小さい防振機構向けコンパクトなバネ装置(バネ部材)Aをローコストに実現できる。組立時に積層した皿バネ群の芯ズレがなければ、スペーサー部2bに皿バネ1から作用する力は小さく、必ずしもスペーサー部2bに高強度材料を使用しなくてもよくなる。
【0088】
さらに、皿バネ1とガイド部材2との間の隙間が円周全長にわたり小さいと、皿バネ1の変形による空気の移動が阻害され、本来のバネ特性を発揮できなくなるおそれがあるが、本実施形態のバネ装置100によれば、皿バネ1とガイド部材2との間にスペーサー部2bがあり、スペーサー部2b両脇に十分な隙間を確保できるので、空気が密閉されず、上記の不都合が生じない。
【0089】
従来の皿バネ1は、例えば、圧縮変形すると内径が1~2mm増大し、外径が1~2mm縮小するため、ガイド部材2との隙間が広がって芯ズレが生じやすいのに対し、本実施形態のバネ装置100においては、内外径の変化を0.2~0.3mm程度と大幅に縮小することができる。
【0090】
次に、本実施形態のバネ装置100においては、
図13に示すように、皿バネ1の内周面1bの一部を中心軸O2に平行に切り欠いて隙間調整面4を設けることで、皿バネ1が圧縮変形したときの内径変化を大幅に低減できる。試算結果では、切り欠き/隙間調整面4なしの場合に比べて内径の変動幅を1/10程度に低減できる。よって、ガイド部材2との隙間変化も大幅に減少し、芯ズレを生じにくくすることが可能になる。
【0091】
また、皿バネ1の外周面1cの一部を中心軸O2に平行に切り欠いて隙間調整面5を設けることで、皿バネ1が圧縮変形したときの外径変化を大幅に低減できる。試算結果では、切り欠き/隙間調整面5なしの場合に比べて外径の変動幅を1/5程度に低減できる。よって、ガイド部材2との隙間変化も大幅に減少し、芯ズレを生じにくくすることが可能になる。
【0092】
そして、皿バネ1の内周面1bや外周面1cの一部を中心軸O1と平行に切り欠く加工は極めて容易なので、ローコストで芯ズレの発生を防止することが可能になる。
【0093】
上記の内外径変化の小さい皿バネ1と、スペーサー部2bを備えたガイド部材2を併用すれば、皿バネ1の内周面1bや外周面1cとスペーサー部2bとの隙間は皿バネ1が変形してもほとんど変化しないことから、多段積層した皿バネ群の芯ズレを確実且つ効果的に防止(抑止)することが可能になる。
【0094】
よって、本実施形態のバネ装置100によれば、従来と比較し、より簡便で効果的に多段積層した皿バネ1のヒステリシスを小さくし、線形性を向上させることが可能になる。
【0095】
なお、皿バネ1にプレロード(圧縮予荷重)をかけておけば皿バネ高さが小さくなる(縮められる)ため、皿バネ1(バネ装置100)の全長をより短縮できる。この場合においても本発明を勿論採用することができる。
【0096】
(皿バネの別形態)
皿バネの形状については、上記
図4に示す形状とは異なる形状であってもよい。具体的には、
図18に示すように、
i)皿バネ101の内周面(内周縁1b:隙間調整面4)において、下端から皿バネ101の板厚tの0.4倍の範囲で内側に突出する部分を湾曲面(半径R=0.4t)に加工する。また、皿バネ101の内周面(内周縁1b)において、上端から皿バネ101の板厚tの0.2倍の範囲を湾曲面(半径R=0.2t)に加工する。
ii)皿バネ101の外周面(外周縁1c:隙間調整面5)において、上端から皿バネ101の板厚tの0.3倍の範囲で外側に突出する部分を湾曲面(半径R=0.3t)に加工する。また、また、皿バネ101の外周面(外周縁1c)において、下端から皿バネ101の板厚tの0.2倍の範囲を湾曲面(半径R=0.2t)に加工する。
【0097】
なお、上記皿バネ101の内周面において、下端から皿バネ101の板厚tの0.3倍以上0.4倍以下の範囲で湾曲面を形成すれば同様の作用効果が得られる。また、上記皿バネ101の外周面において、上端から皿バネ101の板厚tの0.3倍以上0.4倍以下の範囲で湾曲面を形成すれば同様の作用効果が得られる。
【0098】
図18に示す皿バネ101においても、皿バネ1を用いて説明した上記実施例と同様の作用効果が得られる。
さらに、本形態では、耐荷重が大きく安価な皿バネを用い、その内外周面の一部にR加工するだけで、ヒステリシスの小さい防振機構向けのコンパクトなバネ部材がローコストで製造できる。また、皿バネ101の上下端において、隣接部材と接触する部分にR加工(R=0.2t程度)することは一般的な加工機械を利用することで加工でき、さらにR=0.3t~0.4t程度のR加工も容易に行うことができる。
【0099】
また、皿バネ101の内周面の一部をR加工することで、皿バネ101が圧縮変形したときの内径変化を大幅に低減できる。シミュレーションによれば、R加工無しの場合に比べて内径の変動幅を1/10程度に低減できる。このため、ガイド部材との隙間変化も大幅に減少し、芯ズレが生じにくくなる。
【0100】
さらに、皿バネ101の外周面の一部をR加工することで、皿バネ101が圧縮変形したときの外径変化を大幅に低減できる。シミュレーションによれば、R加工無しの場合に比べて外径の変動幅を1/5程度に低減できる。このため、ガイド部材との隙間変化も大幅に減少し、芯ズレが生じにくくなる。
【0101】
以上、本発明に係るバネ装置の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0102】
1 皿バネ
1a 中心孔
1b 内周縁/内周面
1c 外周縁/外周面
2 ガイド部材
2a 軸部
2b スペーサー部
2c 嵌合凹部
4 隙間調整面
5 隙間調整面
12 ガイド部材
12a 内周面
12b スペーサー部
12c 嵌合凹部
100 バネ装置
O1 ガイド部材の軸線
O2 皿バネの軸線