(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池正極材料、リチウムイオン二次電池正極材料添加剤、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230407BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230407BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2019065778
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】391021765
【氏名又は名称】新日本電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【氏名又は名称】田中 久喬
(72)【発明者】
【氏名】染野 祐耶
(72)【発明者】
【氏名】北川 恭平
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-503181(JP,A)
【文献】特開平11-354121(JP,A)
【文献】特表2016-506032(JP,A)
【文献】特開2013-182757(JP,A)
【文献】特開2019-114454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池に用いられる正極材料であって、層状の結晶構造を有する正極材料の層間に、リチウムイオンよりも小さなイオン半径であって且つ価数が2価以上であるカチオンAとリチウムイオンよりも大きなイオン半径であって且つ価数が2価以上であるカチオンBが存在し
、
前記カチオンAが、Mg
2+
,Al
3+
,Ga
3+
,Sc
3+
,Si
4+
,Ge
4+
,Ti
4+
, Zr
4+
,Hf
4+
,V
5+
,Nb
5+
,Ta
5+
,Mo
4+
,Mo
5+
,Mo
6+
,W
4+
,W
5+
,W
6+
から選ばれた1種又は2種以上であり、
前記カチオンBが、Ca
2+
,Sr
2+
,Ba
2+
,In
3+
,Y
3+
,La
3+
,Ce
3+
,Ce
4+
,Pr
3+
,Nd
3+
,Sm
3+
,Eu
3+
,Gd
3+
,Tb
3+
,Dy
3+
,Ho
3+
,Er
3+
,Tm
3+
,Yb
3+
,Lu
3+
,Bi
3+
から選ばれた1種又は2種以上であって、前記カチオンAと前記価カチオンBとの組み合わせがA=Ti
4+
とB=Sr
2+
の組み合わせ及びA=Ti
4+
とB=Ba
2+
を除くことを特徴とす
るリチウムイオン二次電池正極材料。
【請求項2】
層状の結晶構造を有する正極材料の母相が、LiCoO
2系、Li(Ni,Co,Al)O
2系、Li(Ni,Co,Mn)O
2系のいずれかであることを特徴とする請求項
1記載のリチウムイオン二次電池正極材料。
【請求項3】
ベース組成が一般式Li
1+mNi
xCo
yMn
1-x-y-w-mM
wO
2+θで表され、
ここで、MはAl,Mgから選ばれた1種又は2種の元素であり、
mは-0.05≦m≦0.10、
xは0≦x≦1.0、
yは0≦y≦1.0、
wは0≦w≦0.2、0.4≦m+x+y+w≦1.0、
θは電荷中性条件を満たすように定まる値、の範囲を持つ、
層状の結晶構造を有する正極材料であることを特徴とする請求項
2記載のリチウムイオン二次電池正極材料。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
請求項
1~
4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を製造する方法であって、
前記カチオンAとBを含む複合酸化物を作製する工程、
リチウム塩と、層状の結晶構造を有する正極材料の前駆体と、前記複合酸化物の混合体を調製する工程、
前記混合体を焼成することにより層状の結晶構造を有する正極材料の層間にカチオンAとBが挿入されている
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
【請求項6】
請求項
1記載のカチオンBと請求項
1記載のカチオンAを含む複合酸化物
(A=Ti
4+
とB=Sr
2+
の組み合わせ並びにA=Ti
4+
とB=Ca
2+
の組み合わせを除く)であ
り、層状の結晶構造を有する正極材料の層間にカチオンAとカチオンBを挿入するために用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池正極材料とその製造に使用する添加剤及びこの添加剤を用いたリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法、さらに、この正極材料を備えたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は起電力やエネルギー密度の点で優れており、小型ビデオカメラ、携帯電話、ノートパソコンなどの携帯電子・通信機器用の電池として広く使用されている。リチウムイオン二次電池は一般的に正極活物質の特性が電池の特性を決めていると言われており、中でも層状の結晶構造を有する正極活物質はその容量の大きさから、携帯用の電子機器のみならず自動車用、蓄電設備などの移動体・大型向けリチウムイオン二次電池に使用されている。これらの分野向けではその使用方法から特に出力特性 (負荷特性・レート特性) に対する技術の要求が高い。
【0003】
例えば層状の結晶構造を有する正極材料の出力特性向上に関する従来技術には次のようなものが有る。
特許文献1には、Lix Co1-y Mey O2-a(Meは、V、Cu、Zr、Zn、Mg、Al又はFeから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を表す。xは、0.9≦x≦1.1、yは0≦y≦0.01、aは-0.1≦a≦0.1の値をとる。)で表される複合酸化物の粒子表面に、Mg、Ti又はZrから選ばれる少なくとも1種以上の金属酸化物を乾式混合し、200~700℃で加熱処理して前記複合酸化物の粒子表面に前記金属酸化物を付着させることにより出力特性を向上させる技術が開示されているが、試験は1C(1時間で充電、放電を繰り返す試験モード)までで急速充電が必要とされる近年のリチウムイオン二次電池の技術要求にこたえていない。
【0004】
また、特許文献2には、ニッケル・コバルト・マンガン系化合物粒子粉末、ジルコニウム原料、リチウム原料を混合、焼成して得られるZr化合物が粒子表面に存在しており、且つ、前記Zr化合物の化学式がLix(Zr1-yAy)Oz(x、y及びzは、2.0≦x≦8.0、0≦y≦1.0、2.0≦z≦6.0)で表され、Zr含有量が0.05~1.0wt%であるリチウム複合酸化物粒子粉末を正極活物質として用いることにより、高温での電気抵抗が低く、高温での高温レート特性に優れたリチウムイオン二次電池を製造する技術が開示されているが、リチウムイオン二次電池が最も使用される室温ではレート特性(出力特性)は向上していない。
【0005】
また、特許文献3には、Li1.03 CoO2.02粒子に、リチウムと、ニッケルおよびマンガンのうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層と、この被覆層の少なくとも一部にイットリウムを含む酸化物よりなる表面層とを備えることを特徴とする正極活物質を製造する技術が開示されている。
この特許文献ではサイクル特性改善のみ示されており、出力特性については記載が無く、示唆も無い。
【0006】
また、特許文献4には、リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質で、
少なくともリチウムとニッケルとを含む層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物をコア粒子とし、コア粒子の表面の少なくとも一部に、リチウムとイットリウムとジルコニウムとを含む複合酸化物から構成された被覆層が形成されており、25℃における電池抵抗を軽減する技術が開示されている。
当該技術では、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶格子内にYまたはZrを存在させた場合、十分な効果を得ることができない。
【0007】
また、特許文献5には、層状の結晶構造を有し、(Li1-xMgx)1+m(Co1-yM1
y)1+nM2
zO2(但し、M1は、少なくともMnを含む単一元素又は元素群を表し、M2は、Na、Sr、Ba及びFからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む単一元素又は元素群を表し、0.001≦x≦0.08、0.001≦y≦0.08、0≦z≦0.05、-0.05≦m≦0.05、及び、-0.05≦n≦0.05である。)で表されるリチウム・コバルト含有複合酸化物及びこれを活物質として含む非水二次電池用電極が開示されており、このリチウム・コバルト含有複合酸化物は、高電圧下でも結晶構造が安定であることから、高容量で、高電圧下でも充放電サイクル特性に優れた非水二次電池が得られるとされている。
当該技術は結晶構造の安定化は述べられているが、層間を調整することについては記述がない。
また、サイクル特性改善のみ示されており、出力特性については記載が無い。
【0008】
また、特許文献6には、Cr、Mn、Fe、Ni、Zr、Ti、Mo、V、Al、BおよびGeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素と、Mgとを含む層状の結晶構造を有するリチウム・コバルト含有複合酸化物からなる正極活物質の表面に、前記活物質とは異なる組成のリチウム、アルミニウムおよびホウ素を含有する酸化物からなる被覆層を形成した非水電解質二次電池用正極材料が開示されており、これを正極とする非水電解質二次電池は、放電時に高い電圧領域で大きな容量を引き出すことができ、かつ、すぐれた充放電サイクル特性を示すとされている。
当該技術は結晶構造の安定化は述べられているが、層間を調整することについては記述がない。
また、サイクル特性改善のみ示されており、出力特性については記載が無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-221234号公報
【文献】特開2013-193888号公報
【文献】特開2007-242318号公報
【文献】特開2018-55808号公報
【文献】特開2015-156363号公報
【文献】特開2015-213038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明では、上記問題点に鑑みてなされたものであり、充放電時の電流値を増加させても、充放電容量が落ちにくい出力特性に優れた非水電解質二次電池用正極材料及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明では、充放電時の電流値を増加させても、充放電容量が落ちにくい出力特性に優れた非水電解質二次電池用正極材料を製造するための、複合酸化物を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく、種々検討し、リチウムイオン二次電池に用いられる正極材料であって、層状の結晶構造を有する正極材料の層間に、リチウムイオンよりも大きなイオン半径であって且つ価数が2価以上であるカチオンBをリチウムイオンと置換することで、リチウム層間が広がった層状の結晶構造を有する正極材料が出力特性を改善するのに極めて効果的であることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明は、上記知見に基づいて完成したもので、その発明の要旨は次の通りである。
(1)リチウムイオン二次電池に用いられる正極材料であって、層状の結晶構造を有する正極材料の層間に、リチウムイオンよりも大きなイオン半径であって且つ価数が2価以上であるカチオンBが存在していることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料。
ここで、リチウムイオンの半径とは、shanonのイオン半径として、「Shannon et al., Acta A 32(1976)751」で報告されているイオン半径の6配位の値である0.76Åをいう。以後も同じ。
【0013】
(2)リチウムイオン二次電池に用いられる正極材料であって、層状の結晶構造を有する正極材料の層間に、リチウムイオンよりも小さなイオン半径であって且つ価数が2価以上であるカチオンAとリチウムイオンよりも大きなイオン半径であって且つ価数が2価以上であるカチオンBが存在していることを特徴とする(1)に記載のリチウムイオン二次電池正極材料。
【0014】
(3)リチウムイオンよりも大きなイオン半径を持つカチオンBが、Ca2+,Sr2+,Ba2+,In3+,Y3+,La3+,Ce3+,Ce4+,Pr3+,Nd3+,Sm3+,Eu3+,Gd3+,Tb3+,Dy3+,Ho3+,Er3+,Tm3+,Yb3+,Lu3+,Bi3+から選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のリチウムイオン二次電池正極材料。
【0015】
(4)リチウムイオンよりも小さなイオン半径を持つカチオンAが、Mg2+,Al3+,Ga3+,Sc3+,Si4+,Ge4+,Ti4+,Zr4+,Hf4+,V5+,Nb5+,Ta5+,Mo4+,Mo5+,Mo6+,W4+,W5+,W6+から選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする(2)又は(3)記載のリチウムイオン二次電池正極材料。
【0016】
(5)層状の結晶構造を有する正極材料の母相が、LiCoO2系、Li(Ni,Co,Al)O2系、Li(Ni,Co,Mn)O2系のいずれかであることを特徴とする請求項(1)~(4)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池正極材料。
【0017】
(6)ベース組成(カチオンA、カチオンBが添加される前の組成)が一般式Li1+mNixCoyMn1-x-y-w-mMwO2+θで表され、
ここで、MはAl,Mgから選ばれた1種又は2種の元素であり、
mは-0.05≦m≦0.10、
xは0≦x≦1.0、
yは0≦y≦1.0、
wは0≦w≦0.2、
0.4≦m+x+y+w≦1.0、
θは電荷中性条件を満たすように定まる値、の範囲を持つ、
層状の結晶構造を有する正極材料であることを特徴とする(5)記載のリチウムイオン二次電池正極材料。
【0018】
(7)(1)~(6)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【0019】
(8)(2)~(6)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を製造する方法であって、
前記カチオンAとBを含む複合酸化物を作製する工程、
層状の結晶構造を有する正極材料を作製する工程、
前記複合酸化物と前記正極材料を混合後、焼成することにより、
前記正極材料の層間にカチオンAとBをリチウムイオンと置換させる工程、
を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
【0020】
(9)(2)~(6)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を製造する方法であって、
前記カチオンAとBを含む複合酸化物を作製する工程、
リチウム塩と、層状の結晶構造を有する正極材料の前駆体と、前記複合酸化物の混合体を調製する工程、
前記混合体を焼成することにより層状の結晶構造を有する正極材料の層間にカチオンAとBが挿入されていることを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料の製造方法。
【0021】
(10)前記(3)記載のカチオンBと(4)記載のカチオンAを含む複合酸化物であることを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料添加剤。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、出力特性が高いリチウム二次電池用正極を製造することができる、リチウムイオン二次電池に用いられる正極材料粉末を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の出力特性向上メカニズムを示す概念図であり、層状の結晶構造を持つリチウムイオン二次電池用正極材料の層間へ、カチオンA、カチオンBが挿入される前の概念図を示す。
【
図2】本発明の出力特性向上メカニズムを示す概念図であり、層状の結晶構造を持つリチウムイオン二次電池用正極材料の層間へ、カチオンA、カチオンBが挿入された後の概念図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0025】
通常、リチウムイオン二次電池には層状の結晶構造を持つリチウム遷移金属複合酸化物が用いられているが、本発明はこのようなリチウムイオン二次電池がこれまで以上に電流を必要とする状況でも、短時間で蓄電した電気を吸放出することが出来る出力特性が高いリチウム二次電池用正極を製造することができる、リチウムイオン二次電池に用いられる正極材料粉末を提供することが可能になる。
【0026】
本発明の層間が広がった層状の結晶構造を持つリチウムイオン二次電池用正極材料とは、層状の結晶構造を有する正極材料の層間に、リチウムイオンよりも大きなイオン半径であって且つ価数が2価以上であるカチオンBが存在していることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料である。
【0027】
本発明では層間を広げる必要があるため、カチオンBはリチウムイオンよりも大きなイオン半径を有してなければならない。
また1価のカチオンを用いた場合、充放電に伴うリチウムイオンの挿入脱離と共に、1価のカチオンも
層状の結晶構造を有する正極材料から脱離する恐れがあるため、カチオンBの価数は2価以上であることが必要である。
【0028】
層間を広げるためのカチオンBは、工業材料としての観点から比較的無害,より安価であり,入手しやすいことが望ましく具体例としてはY3+,La3+が挙げられるが、その他に、Ca2+,Sr2+,Ba2+,In3+,Ce3+,Ce4+,Pr3+,Nd3+,Sm3+,Eu3+,Gd3+,Tb3+,Dy3+,Ho3+,Er3+,Tm3+,Yb3+,Lu3+,Bi3+から選ばれた1種又は2種以上などが挙げられる。
【0029】
リチウムイオンよりも小さなイオン半径を持つカチオンAは、工業材料としての観点から比較的無害,より安価であり,入手しやすいことが望ましく具体例としてはZr4+が挙げられるが、その他に、Mg2+,Al3+,Ga3+,Sc3+,Si4+,Ge4+,Ti4+,Hf4+,V5+,Nb5+,Ta5+,Mo4+,Mo5+,Mo6+,W4+,W5+,W6+から選ばれた1種又は2種以上などを挙げることができる。
【0030】
層状の結晶構造を持つリチウムイオン二次電池用正極材料の層間へ、カチオンA、カチオンBが挿入される前の概念図を
図1に、挿入された後の概念図を
図2に示す。
ここで図のLi
+はリチウムイオンを、
M
n+は層状の結晶構造を有する正極材料を構成する金属元素イオン(ニッケル,コバルト,マンガン,アルミニウム,マグネシウム)を、
O
2-は層状の結晶構造を有する正極材料を構成する酸素イオンを、
A
g+はg価の価数を持つリチウムイオンよりも小さなイオン半径を持つカチオンAを、
B
h+はh価の価数を持つリチウムイオンよりも大きなイオン半径を持つカチオンBを示している。
【0031】
図1の状態にある層状の結晶構造を持つリチウムイオン二次電池用正極材料の層間へ、リチウムイオンよりも大きなカチオンBを挿入する際、リチウムイオンよりも小さなイオン半径を持つカチオンAを同時に用いることで、カチオンBをより挿入しやすくなると考えられる。
その理由として、まずリチウムイオンよりも小さなイオン半径を持つカチオンAを同時に用いた場合、カチオンAのイオン半径はリチウムイオンのイオン半径よりも小さいために、比較的容易に層間のリチウムイオンと置換されると考えられる。
そして層間のカチオンAで置換された部位の隣接点は、リチウムイオンとの価数の差から正孔が生じると考えられる。
また、層状の結晶構造を持つリチウムイオン二次電池用正極材料では、リチウム層の上下面方向にそれぞれ負電荷を帯びた酸素イオンの層が存在している。
ここで、カチオンAの置換とリチウムイオンとの価数差から層間に生じた正孔の周囲では、この負電荷を帯びた酸素イオン層が近接する形となるため、酸素イオン層に由来する負電荷同士の反発により、層間が広がると考えられる。
すなわち、リチウムイオンが出入り可能であった層間の大きさよりも更に層間が広がることになるため、リチウムイオンよりも大きなイオン半径を持つカチオンBが、層間へより挿入しやすくなり、
図2に示す状態が形成されると考えられる。
【0032】
この効果を得るためにカチオンAとBが近くに存在することが望ましく、カチオンAとカチオンBは複合化した化合物とすることが望ましい。
【0033】
カチオンAとカチオンBを複合化した化合物は、焼成途中に分解することを避けるため、複合酸化物とすることが望ましく、複合酸化物の具体例としてはY0.28Zr0.72O1.86などが挙げられる。
カチオンAとカチオンBを複合化した複合酸化物の合成方法としては特に指定はないが、
例えば、カチオンAとカチオンBを含む溶液、
または、カチオンAとカチオンBいずれか一方の粒子を含む分散液にもう一方のカチオンを含む溶液を
調整し、次いでその溶液に塩基を添加しカチオンAとBを含む水酸化物スラリーを得る段階と、
その水酸化物スラリーを固液分離後、洗浄、乾燥、焼成する段階と、
を順次行うことによって製造することができる。
【0034】
カチオンAとカチオンBの好ましい配合比(モル比)は、A:B=15:85~85:15であり、より好ましくは、A:B=28:72~72:28である。
【0035】
本発明で好適に用いることができるリチウム遷移金属複合酸化物は、
ベース組成が一般式Li1+mNixCoyMn1-x-y-w-mMwO2+θで表され、
ここで、MはAl,Mgから選ばれた1種又は2種の元素であり、
mは-0.05≦m≦0.10、
xは0≦x≦1.0、
yは0≦y≦1.0、
wは0≦w≦0.2、
0.4≦m+x+y+w≦1.0、
θは電荷中性条件を満たすように定まる値、の範囲を持つ、
リチウム遷移金属複合酸化物である。
【0036】
また、ここで、-0.05≦m≦0.10としたのは、m<-0.05では、Li層に入るNiが多くなり、リチウム遷移金属複合酸化物の放電容量が小さくなるためであり、m>0.10では、過剰なLiが遷移金属層に入り、Ni価数を高め、放電容量の低下を引き起こす原因となるためで、0≦x≦1.0としたのは、Ni価数変化を用いた正極材料であるためで、0≦y≦1.0としたのは、結晶構造安定化のためにNi量に応じた必要量としたものである。
【0037】
上記リチウム遷移金属複合酸化物Li1+mNixCoyMn1-x-y-w-mMwO2+θにおけるMは、高温特性の改善に効果があるものとして選択され、MはAl,Mgから選ばれた1種又は2種の金属元素であり、wは0≦w≦0.2の範囲が好ましい。w>0.2とした場合、放電容量が低下し好ましくない。
【0038】
前記層状の結晶構造を持つリチウムイオン二次電池用正極材料の例としては、LiCoO2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、LiNi0.50Co0.20Mn0.30O2、などが知られている。
【0039】
カチオンAとカチオンBを複合化した化合物を、リチウム遷移金属複合酸化物に加える質量%の比率
は、リチウム遷移金属複合酸化物を100質量%に対し、カチオンAとカチオンBを複合化した化合物を加える質量%をpとした時、0.1<p<2.3の範囲で、より好ましくは0.5≦p≦2.0の範囲である。
これは、カチオンAとカチオンBを含む複合酸化物を加える量が少なすぎると、出力特性を高める効果が確認できず、逆に多すぎると、リチウム遷移金属複合酸化物の放電容量を低下させてしまうためである。
【0040】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物粒子粉末の最大粒径は50μm未満が好ましい。最大粒径が50μm以上の場合、正極板の設計厚みにも依存するが、正極製造のためにスラリー調製し、アルミニウム箔上に塗工した際に、筋引き等の塗工不良を引き起こし易いため好ましくない。
【0041】
本発明に係るリチウム複合酸化物粒子粉末のBET比表面積は15m2/g以下が好ましい。
BET比表面積が15m2/gを超える場合には充填密度の低下や電解液との反応性が増加するため好ましくない。
【0042】
次いで、本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法について説明する。
【0043】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、
リチウム塩、
層状の結晶構造を有する正極材料の原料となる遷移金属化合物、
リチウムイオンよりも大きなイオン半径を持つカチオンBとリチウムイオンよりも小さなイオン半径を持つカチオンAを含む複合酸化物とを、混合、焼成、粒度調整することで得られる。
【0044】
リチウム塩としては特に指定はないが炭酸リチウム、水酸化リチウムが好ましい。x<0.6においては炭酸リチウムが好適であり、xが0.6以上では水酸化リチウムが適している。また、リチウム塩の粒径は、遷移金属複合化合物との反応性を考慮すると、平均粒子径で10μm以下が好ましい。
【0045】
層状の結晶構造を有する正極材料の原料となる遷移金属化合物としては特に指定はないが、目的とする正極材料のベース組成に予め調整したNi,Co,Mn,Alを含む化合物を用いる方法、
または、Co3O4やCo(OH)2のようなCo化合物、NiOやNi(OH)2のようなNi化合物、
MnO,MnO2,Mn3O4,MnOOH,Mn(OH)2のようなMn化合物、Al2O3やAl(OH)3のようなAl化合物を、個別の元素の化合物を目的とする正極材料の組成となるよう配合する方法などが考えられる。
【0046】
混合方法としては特に限定するものではないが、精密混合機で乾式混合することが好ましい。
なお、原料の混合及び焼成において、
リチウム塩、層状の結晶構造を有する正極材料の原料となる遷移金属化合物を混合、焼成、解砕し得られた正極材料に、リチウムイオンよりも大きなイオン半径を持つカチオンBとリチウムイオンよりも小さなイオン半径を持つカチオンAを含む複合酸化物を混合し焼成する方法と、
リチウム塩、層状の結晶構造を有する正極材料の原料となる遷移金属化合物、
リチウムイオンよりも大きなイオン半径を持つカチオンBとリチウムイオンよりも小さなイオン半径を持つカチオンAを含む複合酸化物を全て混合したのち焼成する方法がある。
【0047】
混合に引き続いて焼成を行うが、焼成条件の例としては、焼成温度が750℃以上1000℃以下で一度に焼成を行う、
または、
焼成温度が500℃以上700℃以下に保持される第一の焼成工程と、
前記第一の焼成工程から焼成温度を下げずに引き続き行われ、焼成温度が700℃以上1000℃以下に保持される第二の焼成工程、
または、
前記第一の焼成工程から焼成温度を一旦室温まで下げた後、焼成温度が700℃以上1000℃以下に保持される第二の焼成工程を行うなどが挙げられる。
【0048】
第一の焼成工程では500~700℃で2~10時間焼成する。500~700℃とするのはLi塩と遷移金属複合化合物の反応がこの温度域で起こる為である。
第二の焼成工程では反応促進のため第一の焼成工程より高い700~1000℃で5~30時間焼成する。1000℃を超えると、一次粒子の成長や粒子同士の焼結が進み好ましくない。700℃未満では一次粒子が十分に成長せず、結晶性が低くなる。また目的の組成が得られなくなるため好ましくない。
好適な焼成時間は温度との組み合わせで一概には定まらないが第一の焼成工程では2~10時間が好ましく、第二の焼成工程では5~30時間が好ましい。
【0049】
合成(焼成)されたリチウム遷移金属複合酸化物は、最大粒子径が50μm以下に粒度調整する。なお、粒度調整手段は、特に問うことなく、例えば、ロールミル、ジェットミル、フルイ等を用いることができる。
【0050】
本発明に係る上記リチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として使用する場合にも、通常のリチウム遷移金属複合酸化物と同様、負極活物質には炭素材料、リチウム吸蔵合金等のリチウム吸蔵放出可能な物質を用い、電解液としてはリチウム塩を非水系電解液または樹脂に溶解した非水系電解液を用いる。
たとえばリチウム塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用い、非水系電解液としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶液を用いる。
このほかにもリチウム塩としてはLiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3、LiN(SO3CF3)2などやそれらの混合物が用いられる。
また、非水電解液としてはジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等やその混合物、及びポリエチレンイミン等を主鎖とした高いイオン伝導性を有する高分子固体電解質(樹脂)等を用いることが可能である。
【0051】
以上のように本発明の層間が広がった層状の結晶構造を持つリチウムイオン二次電池用正極材料は、これまで以上に短時間で蓄電した電気を吸放出することができ、本発明の活物質を用いる事で、出力特性が高いリチウムイオン二次電池を作製することができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を、実施例、比較例により説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
化学式Li1.02Ni0.49Co0.20Mn0.29O2となるよう調整した炭酸リチウム、遷移金属複合化合物(化学式:Ni0.5Co0.2Mn0.3(OH)2)に、カチオンAとBを含む複合酸化物としてY0.28Zr0.72O1.86をリチウム遷移金属複合酸化物に対し0.5質量%の比率になるように加え、精密混合機で乾式混合、その後、大気雰囲気下において650℃で5時間、引き続き890℃で11時間焼成し、
解砕、整粒してカチオンAとBが含まれたリチウム遷移金属複合酸化物を合成した。
【0054】
(実施例2~4、実施例7~25、実施例28~41および比較例2、比較例3)
実施例2、実施例7~25、実施例28~41および比較例2、比較例3においては、Y0.28Zr0.72O1.86の代わりに、表1~3に記載の成分比率となるカチオンAとBを含む複合酸化物(ABOn、ここでnはカチオンAとBの価数に対し電荷中性条件を満たすように定まる値)を用いた他は、実施例1と同様に作製した。
【0055】
(実施例5、実施例6、比較例4、比較例5)
実施例5、実施例6、比較例4、比較例5においては、カチオンAとBを含む複合酸化物(ABOn、ここでnはカチオンAとBの価数に対し電荷中性条件を満たすように定まる値)を、リチウム遷移金属複合酸化物に対し表1及び表3に記載の質量%の比率になるように加えた他は、実施例1と同様に作製した。
【0056】
(実施例26)
実施例26においては、Y0.28Zr0.72O1.86の代わりに、表2に記載の成分比率となるカチオンAとB、及びカチオンB’を含む複合酸化物(ABB’On、ここでnはカチオンAとBとB’の価数に対し電荷中性条件を満たすように定まる値)を用いた他は、実施例1と同様に作製した。
【0057】
(実施例27)
実施例27においては、Y0.28Zr0.72O1.86の代わりに、表2に記載の成分比率となるカチオンAとB、及びカチオンA’とカチオンB’とを含む複合酸化物(A A’B B’On、ここでnはカチオンAとA’とBとB’の価数に対し電荷中性条件を満たすように定まる値)を用いた他は、実施例1と同様に作製した。
【0058】
(比較例1)
化学式Li1.02Ni0.49Co0.20Mn0.29O2となるよう調整した炭酸リチウム、遷移金属複合化合物(化学式:Ni0.5Co0.2Mn0.3(OH)2)を、精密混合機で乾式混合、その後、650℃で5時間、引き続き890℃で11時間焼成し、解砕、整粒してリチウム遷移金属複合酸化物を合成した。
【0059】
(実施例40)
化学式Li1.02Ni0.49Co0.20Mn0.29O2となるよう調整した炭酸リチウム、遷移金属複合化合物(化学式:Ni0.5Co0.2Mn0.3(OH)2)を加え、精密混合機で乾式混合、その後、大気雰囲気下において850℃で10時間焼成し、解砕した。
続いてカチオンAとBを含む複合酸化物としてY0.28Zr0.72O1.86をリチウム遷移金属複合酸化物に対し、0.5質量%の比率になるように加え、精密混合機で乾式混合、
その後、大気雰囲気下において850℃で6時間焼成し、
解砕、整粒してカチオンAとBが含まれたリチウム遷移金属複合酸化物を合成した。
【0060】
(実施例42)
化学式Li1.00Ni
0.80
Co0.15Al0.05O2となるよう調整した水酸化リチウム、遷移金属複合化合物(化学式:Ni
0.80
Co0.15Al0.05(OH)2)に、カチオンAとBを含む複合酸化物としてY0.33Zr0.67O1.84をリチウム遷移金属複合酸化物に対し0.5質量%の比率になるように加え、精密混合機で乾式混合、その後、酸素ガスフローしながら600℃で5時間、引き続き800℃で20時間焼成し、解砕、整粒してカチオンAとBが含まれたリチウム遷移金属複合酸化物を合成した。
【0061】
(実施例43)
化学式Li1.00Ni
0.80
Co0.15Al0.05O2となるよう調整した水酸化リチウム、遷移金属複合化合物(化学式:Ni
0.80
Co0.15Al0.05(OH)2)を加え、精密混合機で乾式混合、その後、酸素ガスフローしながら600℃で5時間、引き続き800℃で15時間焼成し、解砕した。
続いて、カチオンAとBを含む複合酸化物としてY0.33Zr0.67O1.84をリチウム遷移金属複合酸化物に対し0.5質量%の比率になるように加え、精密混合機で乾式混合、
その後、酸素ガスフローしながら800℃で5時間焼成し、解砕、整粒してカチオンAとBが含まれたリチウム遷移金属複合酸化物を合成した。
【0062】
(実施例44)
実施例44においては、Y0.33Zr0.67O1.84の代わりに、表4に記載の成分比率となるカチオンAとB、及びカチオンB’を含む複合酸化物(ABB’On、ここでnはカチオンAとBとB’の価数に対し電荷中性条件を満たすように定まる値)を用いた他は、実施例42と同様に作製した。
【0063】
(比較例6)
化学式Li1.00Ni
0.80
Co0.15Al0.05O2となるよう調整した水酸化リチウム、遷移金属複合化合物(化学式:Ni
0.80
Co0.15Al0.05(OH)2)を、精密混合機で乾式混合、その後、
酸素ガスフローしながら600℃で5時間、引き続き800℃で20時間焼成し、解砕、整粒してリチウム遷移金属複合酸化物を合成した。
【0064】
(比較例7)
比較例7においては、Y0.33Zr0.67O1.84の代わりに、表4に記載の成分比率となるカチオンAとBを含む複合酸化物(ABOn、ここでnはカチオンAとBの価数に対し電荷中性条件を満たすように定まる値)を用いた他は、実施例42と同様に作製した。
【0065】
(比較例8、比較例9)
比較例8、比較例9においては、表4に記載の成分比率となるカチオンAとBを含む複合酸化物(ABOn、ここでnはカチオンAとBの価数に対し電荷中性条件を満たすように定まる値)をリチウム遷移金属複合酸化物に対し表4の質量%比率になるように加えた他は、実施例42と同様に作製した。
【0066】
(正極作製)
上記、各実施例および比較例にて合成したリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として、正極を作製した。
導電助剤にはティムカル社の商品名KS6とSuper-P、結着剤にクレハ社の商品名KFポリマー(PVdFをNメチルピロリドンに溶解させた溶液)を使用した。
重量比で、「正極活物質:KS6:Super-P:結着剤」を「94:1:2:3」の割合で秤量し、NMPを加えて混練し、正極スラリーを作製した。
得られたスラリーをアルミニウム製の集電体にドクターブレード法により塗布し、乾燥、直径13mmの円盤状に打ち抜き後、プレスして正極を作製した。
【0067】
(コインセル組立)
前記実施例及び比較例の正極と、負極、電解液およびセパレータには、それぞれ順に、金属リチウムを円板状に切り出したもの、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比で3:7の割合で混合した溶媒に溶質LiPF6を1mol/l溶かしたもの、ポリプロピレン製の微多孔膜を使用し、コイン型電池CR2032タイプ(直径20mm、高さ3.2mm)を組立てて電池評価測定を行った。
【0068】
(電池評価)
作製したコイン型リチウム二次電池を、まず25℃の恒温槽内にて、初期活性化を行った。
充電は、レート35mA/g、上限4.23V定電流定電圧で電流が2mA/gとなった時点で充電を終了した。
放電は、レート35mA/g、放電下限電圧3.0Vとした。
初期活性化はこの条件にて、充電と放電を3回繰り返した。
次に、初期活性化後のコイン型リチウム二次電池を45℃の恒温槽内にて、充電は、レート80mA/g、上限4.23V定電流定電圧で電流が7mA/gとなった時点で充電を終了し、放電は、レート80mA/g、放電下限電圧3.0Vとし、60回の繰返し充放電試験を行った。
【0069】
次に、60回繰り返し充放電試験後のコイン型リチウム二次電池を、25℃の恒温槽内にて、レート特性評価を行った。
初めに、充電は、レート35mA/g、上限4.23V定電流定電圧で電流が2mA/gとなった時点で充電を終了し、放電は、レート35mA/g、放電下限電圧3.0Vとして充電と放電を1回行った。
続けて、充電は、レート35mA/g、上限4.23V定電流定電圧で電流が2mA/gとなった時点で充電を終了し、放電は、レート350mA/g、放電下限電圧3.0Vとして充電と放電を1回行った。
【0070】
実施例1~実施例41、比較例1~5においては、前記条件で、放電をレート350mA/g、放電下限電圧3.0Vとしたときの各実施例と比較例の放電容量を、放電をレート350mA/g、放電下限電圧3.0Vとしたときの、比較例2の放電容量で除算することで、レート特性(%)を算出した。
つまり、
レート特性(%)=(放電をレート350mA/g、放電下限電圧3.0Vでの各実施例と比較例の放電容量)÷(放電をレート350mA/g、放電下限電圧3.0Vとしたときの、比較例2の放電容量)
である。
【0071】
また、実施例42~44、比較例7~9においては、前記条件で、放電をレート350mA/g、放電下限電圧3.0Vとしたときの各実施例と比較例の放電容量を、放電をレート350mA/g、放電下限電圧3.0Vとしたときの、比較例7の放電容量で除算することで、レート特性(%)を算出した。
つまり、
レート特性(%)=(放電をレート350mA/g、放電下限電圧3.0Vでの各実施例と比較例の放電容量)÷(放電をレート350mA/g、放電下限電圧3.0Vとしたときの、比較例7の放電容量)
である。
【0072】
なお、カチオンA(とカチオンA’)とカチオンB(とカチオンB’)の添加比は、併せて1molとなるようにした。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
表1、表2、表3に示す通り、
比較例1に示すカチオンAとカチオンBのいずれも含まない層状の結晶構造を有する正極材料、及び、
比較例2に示すカチオンAを含む層状の結晶構造を有する正極材料に対し、
実施例1~実施例41のカチオンB、またはカチオンA(とカチオンA‘)とカチオンB(とカチオンB’)を含む複合酸化物を加えて合成した層状の結晶構造を有する正極材料では、いずれもレート特性が高くなっている。
【0078】
同様に、表4に示す通り、
比較例6に示すカチオンAとカチオンBのいずれも含まない層状の結晶構造を有する正極材料、及び、
比較例7に示すカチオンAを含む層状の結晶構造を有する正極材料に対し、
実施例42~実施例44のカチオンB、またはカチオンA(とカチオンA‘)とカチオンB(とカチオンB’)を含む複合酸化物を加えて合成した層状の結晶構造を有する正極材料では、いずれもレート特性が高くなっている。
【0079】
実施例1~4と比較例3より、カチオンAとカチオンBには好ましい配合比があり、カチオンBが少なすぎると、レート特性が高くならないことが確認できた。
実施例1に対し比較例4,比較例5、もしくは、実施例42に対し比較例8,比較例9より、リチウム遷移金属複合酸化物に対して、カチオンAとカチオンBを含む複合酸化物を加える質量%の比率は、好ましい量があることが確認できた。