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  • 特許-木製部材の接合方法及び構造体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】木製部材の接合方法及び構造体
(51)【国際特許分類】
   B27M 3/00 20060101AFI20230407BHJP
   F16B 5/08 20060101ALI20230407BHJP
   F16B 5/00 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
B27M3/00 H
B27M3/00 E
F16B5/08 Z
F16B5/00 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019075572
(22)【出願日】2019-04-11
(65)【公開番号】P2020172069
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】永田 正道
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-082521(JP,A)
【文献】特開2002-337106(JP,A)
【文献】特開2015-150802(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161039(WO,A1)
【文献】特開2001-026005(JP,A)
【文献】特開2018-199936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27M 1/00 - 3/38
F16B 5/08
F16B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼棒を介して接合されるように互いに突合された一対の木製部材の接合面の隙間を充填する木製部材の接合方法であって、
前記一対の木製部材を突合する工程と、
前記鋼棒が挿入される挿入穴に接着剤を充填する工程と、
前記木製部材の前記接合面において前記接合面の縁に沿って形成された前記接着剤の流路となる溝に前記接着剤を充填させて前記接合面の隙間に前記接着剤を充填する工程と、を備えることを特徴とする、
木製部材の接合方法。
【請求項2】
前記溝に前記接着剤を充填させる工程は、前記挿入穴に充填された前記接着剤を前記接合面を介して漏出させて前記溝に充填させることを特徴とする、
請求項1に記載の木製部材の接合方法。
【請求項3】
鋼棒を介して一対の木製部材を接合して形成される構造体であって、
前記木製部材の接合面において前記鋼棒が挿入される挿入穴に隣接し、且つ、前記接合面の縁に沿って形成された接着剤の流路となる溝を備えることを特徴とする、
構造体。
【請求項4】
前記溝は、前記接着剤の性状に応じて幅が設定されていることを特徴とする、
請求項3に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木製の部材を互いに接合する木製部材の接合方法及びその構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
集合材等の木製の部材を互いに軸方向に鋼棒等を介して接合して構造部材を形成する場合がある。出願人は、この構造部材を形成する技術として特許文献1に記載された技術を既に提案している。特許文献1に記載された技術によれば、GIR(Glued in Rod)接合方法を用いており、接合部分に形成された穴に鋼棒を挿入し、部材の接合面を相互に接触させた後、穴に外部から接着剤を充填して硬化させ、部材を相互に接合し、構造部材を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-199936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術によれば、木製の部材を突合して鋼棒を介して部材を相互に接合した際に、接合面に隙間が生じる場合がある。接合面に隙間が生じた場合、隙間の近傍に穴を空け、穴から接着剤を充填することで、隙間を埋めていたが、粘性がある接着剤が隙間に浸透する範囲が狭くなるため、複数回の作業が必要となっていた。特許文献1では、部材の接合面に生じた隙間に接着剤を効率的に充填することについてはまだ提案されていなかった。そのため出願人は、鋭意研究の下、GIR接合方法の更なる改良を行ってきた。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、木製の部材の接合面に生じる隙間に効率的に接着剤を充填して施工時間を短縮することができる木製部材の接合方法及び構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達するために、本発明は、鋼棒を介して接合されるように互いに突合された一対の木製部材の接合面の隙間を充填する木製部材の接合方法であって、前記一対の木製部材を突合する工程と、前記鋼棒が挿入される挿入穴に接着剤を充填する工程と、前記木製部材の前記接合面において前記接合面の縁に沿って形成された前記接着剤の流路となる溝に前記接着剤を充填させて前記接合面の隙間に前記接着剤を充填する工程と、を備えることを特徴とする、木製部材の接合方法である。
【0007】
本発明によれば、木製部材の接合面に溝が形成されており、挿入穴から漏出した溝に接着剤が浸透して充填されることで、溝の周辺に接着剤が浸透して隙間に接着剤を充填することができる。
【0008】
また、本発明は、前記溝に前記接着剤を充填する工程は、前記挿入穴に充填された前記接着剤を前記接合面を介して漏出させて前記溝に充填させるように構成されていてもよい。
【0009】
本発明によれば、溝が形成されていることにより、接合面に生じた隙間に浸透した接着剤が溝に充填され、更に溝から漏出した接着剤が隙間全体に浸透することで、隙間に接着剤を確実に充填することができる。
【0010】
また、本発明は、鋼棒を介して一対の木製部材を接合して形成される構造体であって、前記木製部材の接合面において前記鋼棒が挿入される挿入穴に隣接し、且つ、前記接合面の縁に沿って形成された接着剤の流路となる溝を備えることを特徴とする、構造体である。
【0011】
本発明によれば、溝に接着剤が充填されることで、溝の周辺に接着剤が浸透して接合面に生じる隙間に接着剤を充填することができる。
【0012】
また、本発明は、前記溝が前記接着剤の性状に応じて幅が設定されているように構成されていてもよい。
【0013】
本発明によれば、接着剤の粘性や流動性に応じて溝の幅を形成することにより確実に溝の周辺の隙間に接着剤を充填することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、木製の部材の接合面に生じる隙間に効率的に接着剤を充填して施工時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係る構造体の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る木製部材の接合方法の実施形態について説明する。
【0017】
[第1実施形態]
図1に示されるように、木製部材の接合方法の施工対象の構造体1は、一対の構造部材10,11を備える。構造部材10,11は、それぞれ矩形の柱状体に形成されている。構造部材10,11は、集成材や無垢材で形成されている木製部材である。構造部材10,11の一端面は、互いに接合される接合面10A,11Aに加工されている。接合面10A,11Aには、複数の穴10B,11B(挿入穴)が形成されている。複数の穴10B,11Bは、接合面10A,11Aにマトリクス状に配置されている。
【0018】
複数の穴10B,11Bには、鉄筋用の異形棒鋼から切り出された複数の鋼棒Gが挿入される。複数の穴10B,11Bは、鋼棒Gの外径よりも大きい径で形成されている。複数の穴10B,11Bには、の両端には、外部に連通する分岐穴10H,11Hが形成されている。
【0019】
接合面10A,11Aには、複数の穴10B,11Bに隣接して溝10C,11Cが接触面の鉛直方向の縁10D,11Dの方向に沿って形成されている。溝10C,11Cは、接着剤の流路となるように形成されている。溝10C,11Cは、例えば、数[mm]程度の幅で形成されている。溝10C,11Cの幅は、接着剤の粘性や流動性等の性状に応じて適宜設定される。溝10C,11Cの幅は、例えば、接着剤の粘性の高さに比例し、流動性の高さに反比例するように設定される。
【0020】
接着剤は、例えば、エポキシ系の接着剤が用いられる。溝10C,11Cは、接合面10A,11Aのそれぞれに形成されているものを例示しているが、接合面10A,11Aのいずれか一方に形成されているものであってもよい。溝10C,11Cは、穴10B、11Bに隣接し、且つ、接合面10A,11Aの縁に沿って形成されている。溝10C,11Cは、例えば、半円形や矩形の断面に形成されている。溝10C,11Cは、構造部材10,11が接合面10A,11Aで互いに接合された際に接着剤を充填するための流路となる溝Cに形成される。溝Cが形成されることにより、接着剤の充填時に接着剤をスムーズに流通させることができる。
【0021】
次に木製部材の接合方法について説明する。なお、構造部材10,11の詳しい接合方法の一例については特許文献1に記載されている。
【0022】
複数の穴10B,11Bに複数の鋼棒Gが挿入される。その後、軸線Lに沿って構造部材10,11が突合され、複数の穴10B,11Bに鋼棒Gが挿入された状態で接合面10A,11Aが当接する。その後、複数の穴10B,11Bの両端に形成された一方の分岐穴10H又は11Hから穴10B,11Bに接着剤が他方の分岐穴10H又は11Hから漏出するまで順次下側又は上側から充填され、複数の鋼棒Gの周りに接着剤がコーティングされる。
【0023】
この時、構造体1の接合面10Aと接合面11Aとの間に隙間が生じる場合がある。この隙間を埋めるために、複数の穴10B,11Bから漏出した接着剤により隙間に接着剤を浸透させる。複数の穴10B,11Bから漏出して溝Cに到達した接着剤は、溝Cに到達すると溝Cを伝わって落下し、溝Cの内部に充填される。
【0024】
溝C内の空気は、接合面10A,11Aの間に形成された隙間から排出される。全ての複数の穴10B,11Bに接着剤が充填され、且つ、溝C内に接着剤が充填されると、接合面10A,11Aの間に形成された隙間に接着剤が浸透し、構造部材10,11の側面において隙間の鉛直方向に沿って接着剤が漏出する。作業者が構造部材10,11の側面において隙間から漏出した接着剤を拭き取ることで、隙間が接着剤で充填される。接合面10A,11Aの間に形成された隙間が接着剤で埋められて接着剤が硬化した後は、構造部材10,11が鋼棒Gを介して互いに強固に接合されて一体化した構造体1となる。
【0025】
上述したように木製部材の接合方法によれば、木製の部材を接合して形成される構造体1,1Aの接合部に生じる隙間に効率的に接着剤を充填することができる。木製部材の接合方法によれば、接着剤の流路となる溝Cが形成されることにより、接着剤の充填時に接着剤をスムーズに流通させることができる。木製部材の接合方法によれば、溝Cに接着剤が流通することにより、溝Cの周辺の隙間に接着剤を浸透させることができ、少ない工程で隙間に接着剤を充填することができる。
【0026】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、木製部材の接合方法は、GIR接合方法だけでなく、他の木製の部材の接合に適用してもよい。また、溝Cへの接着剤の充填は、真空引きで行ってもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 構造体
10、11 構造部材(木製部材)
10A、11A 接合面
10B、11B 穴(挿入穴)
10C、11C 溝
10D、11D 縁
C 溝
G 鋼棒
S 栓
図1