(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】杭評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/07 20060101AFI20230407BHJP
G01B 17/00 20060101ALI20230407BHJP
E02D 27/12 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
G01N29/07
G01B17/00 A
E02D27/12 Z
(21)【出願番号】P 2019122935
(22)【出願日】2019-07-01
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】堀田 洋之
(72)【発明者】
【氏名】桐山 貴俊
(72)【発明者】
【氏名】大和 由佳
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-155479(JP,A)
【文献】特開2019-032303(JP,A)
【文献】山本 辰徳、外2名,衝撃載荷試験に用いる杭の縦波伝搬速度に関する検討,地盤工学研究発表会発表講演集,第43巻2号,日本,公益社団法人 地盤工学会,2008年06月12日,第1261頁~第1262頁,http://www.japanpile.co.jp/ir/uploads/05_50.pdf
【文献】今田 和夫、外2名,模型杭を用いたインテグリティ試験における地盤拘束の影響に関する研究,土木学会論文集,第2000巻第652号,日本,公益社団法人 土木学会,2000年06月21日,第91頁~第102頁,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscej1984/2000/652/2000_652_91/_pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-G01N 29/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭の頭部をたたいて打撃波を発生させてから、前記打撃波が弾性波として前記杭を伝播し前記杭の下端で反射した反射波が弾性波として前記頭部に伝播するまでの実際の衝撃弾性波試験の立ち上がり時間差を取得するステップと、
前記杭の弾性波伝播速度を取得するステップと、
前記杭が予め定めた基準値よりも長いか否かを判定するステップと、
前記杭が基準値よりも長いと判定した場合、前記杭の弾性波伝播速度の測定値を低減して杭長を算定するステップと、
前記杭が基準値よりも短いと判定した場合、前記杭の弾性波伝播速度の測定値を用いて杭長を算定するステップと、
を有し、
前記杭の弾性波伝播速度の測定値を低減する杭長の算定は、以下の低減率の式又は前記式から導かれた図表を用いる
ことを特徴とする杭評価方法。
【数9】
ここで、ρ
pは杭の密度、A
pは杭の断面積、E
pは杭のヤング率、ρ
gは杭周地盤2aの密度、A
gは杭周地盤2aの断面積、E
gは杭周地盤2aのヤング率である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の新築または建て替えに際して杭の支持性能を評価する杭評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の新築又は建て替えに際して、工費・工期の低減や地球環境への配慮から、既存建物の基礎杭を再利用する要求が高まっている。既存の杭の再利用に当たっては、その支持性能を評価するために、杭長や材料の健全性を確認する必要がある。しかし、既存建物の設計図書や施工記録は残存していない場合もあり、何らかの調査を行って実際の杭長を評価することになる。
【0003】
出願人は、杭評価方法として、衝撃弾性波試験に基づく杭長評価において、杭頭部で後退の弾性波速度を測定し、さらに地盤の影響による伝播速度の低下を数値解析により考慮して、杭長の評価制度を向上させる方法を開示した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、簡便且つ的確に杭の支持性能を評価することが可能となる杭評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる杭評価方法は、
杭の頭部をたたいて打撃波を発生させてから、前記打撃波が弾性波として前記杭を伝播し前記杭の下端で反射した反射波が弾性波として前記頭部に伝播するまでの実際の衝撃弾性波試験の立ち上がり時間差を取得するステップと、
前記杭の弾性波伝播速度を取得するステップと、
前記杭が予め定めた基準値よりも長いか否かを判定するステップと、
前記杭が基準値よりも長いと判定した場合、前記杭の弾性波伝播速度の測定値を低減して杭長を算定するステップと、
前記杭が基準値よりも短いと判定した場合、前記杭の弾性波伝播速度の測定値を用いて杭長を算定するステップと、
を有し、
前記杭の弾性波伝播速度の測定値を低減する杭長の算定は、以下の低減率の式又は前記式から導かれた図表を用いる
ことを特徴とする。
【数1】
ここで、ρ
pは杭の密度、A
pは杭の断面積、E
pは杭のヤング率、ρ
gは杭周地盤2aの密度、A
gは杭周地盤2aの断面積、E
gは杭周地盤2aのヤング率である。
【発明の効果】
【0007】
本発明にかかる杭評価方法によれば、簡便且つ的確に杭の支持性能を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態の杭評価方法において考慮する杭及び杭周地盤の範囲を示す。
【
図2】本実施形態の杭評価方法における衝撃弾性波試験を行った地盤と杭の概要を示す。
【
図3】本実施形態の杭評価方法における杭の弾性波伝播速度低減率を求めるために行った3次元有限要素法の解析モデルを示す。
【
図4】本実施形態の杭評価方法における杭の弾性波伝播速度低減率を求めるために行った3次元有限要素法解析の結果における杭周地盤の弾性波速度と杭の弾性波伝播速度の低減率の関係を示す。
【
図5】本実施形態の杭評価方法における杭の弾性波伝播速度低減率を求めるために行った3次元有限要素法解析の結果から導かれた杭周地盤の弾性波速度と考慮すべき杭周付加地盤厚さの関係を示す。
【
図6】本実施形態の杭評価方法における杭周地盤の弾性波速度と杭の弾性波伝播速度の低減率の関係を示す。
【
図7】本実施形態の杭評価方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明にかかる一実施形態の杭評価方法を説明する。
【0010】
図1は、本実施形態の杭評価方法において考慮する杭及び杭周地盤の範囲を示す。
図2は、本実施形態の杭評価方法における衝撃弾性波試験を行った地盤と杭の概要を示す。
【0011】
本実施形態の杭評価方法で評価する杭1は、直径が2dの断面円形状、長さが(H+D)の棒状の部材とする。杭1は、上部が表層地盤2に埋まり、下端が支持地盤3に根入れされる。
【0012】
まず、空気中の杭を伝播する縦波について波動方程式を考える。杭長方向にエレメント法を適用し、厚さdxの杭に作用する力の釣り合いを考えると、鉛直下向きを正とすれば、次式で表す表面力が作用する。
【数2】
【0013】
また、これ以降で用いる各種物性値は定義した変数を用いて次式で表される。
【数3】
ここで、ρ
pは杭の密度、A
pは杭の断面積、E
pは杭のヤング率である。
【0014】
式(1-1)、式(1-2)の作用力を受ける杭の運動方程式は、以下の式で表される。
【数4】
【0015】
式(1-6f)は、波動方程式であり、弾性波速度Vp,pで波動が伝播する様子を表す。
【0016】
次に、地中の杭1を伝播する縦波について説明する。
【0017】
地中の杭1を伝播する縦波は、杭周の厚さrの部分の杭周地盤2aが杭1と一体に振動するものと仮定する。そして、杭長方向にエレメント法を適用する。厚さdxの杭要素に作用する力の釣り合いを考えると、鉛直下向きを正とすれば、次式で表す表面力が作用する。
【数5】
【0018】
また、これ以降で用いる各種物性値は定義した変数を用いて次式で表される。
【数6】
ここで、ρ
pは杭の密度、A
pは杭の断面積、σ
pは杭の軸応力、E
pは杭のヤング率、m
gは杭周地盤2aの質量、ρ
gは杭周地盤2aの密度、A
gは杭周地盤2aの断面積、σ
gは杭周地盤2aの軸応力、E
gは杭周地盤2aのヤング率である。
【0019】
式(2-1)、式(2-2)の作用力を受ける杭要素の運動方程式は、以下の式で表される。この時、杭要素の運動は、周辺地盤の運動も伴うと考え、杭半径dに対し、杭周地盤を付加したd+rの範囲に縦波が伝播すると仮定する。
【数7】
【0020】
式(2-6)を考慮して、式(1-6f)と式(2-10g)を比較すると、式(2-11)は弾性波伝播速度の低減率を表していることがわかる。
【0021】
以上の検討により、杭1と一体になって振動する杭周地盤の厚さrが決定すれば、地中における杭1の弾性波伝播速度の低減率を求めることができる。
【0022】
次に、杭周地盤の厚さrを決定する方法について説明する。杭1と一体となって振動する杭周地盤2aの厚さrを決定するために、杭1の衝撃弾性波試験を模擬したパラメトリック・スタディーを実施する。
【0023】
図3は、本実施形態の杭評価方法における杭の弾性波伝播速度低減率を求めるために行った3次元有限要素法の解析モデルを示す。
【0024】
解析条件は、以下のように設定する。
・杭1の条件
(直径)2d=2m
(長さ)H+D=31m
(単位体積重量)γ=9.8ρg=23kN/m3
(ポアソン比)ν=0.2
(縦波伝播速度)Vp(3D)=4000m/s
(ヤング率)E=3.31×107kN/m2
・表層地盤2の条件
(幅)W=10m
(深さ)H=30m
(単位体積重量)γ=9.8ρg=14又は16又は18kN/m3(表1参照)
(ポアソン比)ν=0.49
・支持地盤3の条件
(幅)W=10m
(深さ)H=11m
(単位体積重量)γ=9.8ρg=18kN/m3
(ポアソン比)ν=0.49
【0025】
また、表層地盤2は、以下の表1のように設定する。
【表1】
ここで、γは単位体積重量、V
s,g は地盤の弾性波速度、G=ρV
s,g
2は地盤のせん断弾性係数を示す。
【0026】
図4は、本実施形態の杭評価方法における杭の弾性波伝播速度低減率を求めるために行った3次元有限要素法解析の結果における杭周地盤の弾性波速度と杭の弾性波伝播速度の低減率の関係を示す。
【0027】
図4に示すように、粘土、シルト又は砂の表層地盤2において、地盤の弾性波速度V
s,gが速くなれば、杭1の弾性波伝播速度V
p,pの低減率も大きくなる。
【0028】
図5は、本実施形態の杭評価方法における杭の弾性波伝播速度低減率を求めるために行った3次元有限要素法解析の結果から導かれた杭周地盤の弾性波速度と考慮すべき杭周付加地盤厚さの関係を示す。
【0029】
杭周地盤2aの厚さrは、式(2-11)に式(2-8)及び式(2-9)を代入して求める。
図5に示した結果は、杭1の半径が1mに対するものなので、rの値は、杭1の半径に対する杭周地盤2aの厚さの比と見てもよい。
図5に示すように、表層地盤2の弾性波速度V
s,gが大きい程、杭周地盤2aの厚さrが薄くなることがわかる。
【0030】
図6は、本実施形態の杭評価方法における杭周地盤の弾性波速度と杭の弾性波伝播速度の低減率の関係を示す。
【0031】
図6では、
図4に対して回帰直線の勾配と切片の値を外挿して、礫相当の単位体積当たりの質量γ=20kN/m
3の近似直線を設定している。このチャートを用いることにより、土質毎に表層地盤2の弾性波速度V
s,gに対する杭1の弾性波伝播速度V
p,pの低減率を求めることができる。
【0032】
図7は、本実施形態の杭評価方法のフローチャートを示す。ここでは、今まで説明した内容をフローチャートにし、順序ごとに簡単に確認する。
【0033】
まず、ステップ1で、弾性波伝播試験を行う(ST1)。弾性波伝播試験は、特許文献1に示したように行う。まず、杭1の頭部11の先端をハンマー等でたたき打撃波を発生させる。打撃波は、弾性波として杭1を伝播する。伝播した弾性波は、杭1の下端で反射する。反射した弾性波は反射波として、杭1を伝播し、頭部11の先端に戻る。そして、杭1の頭部で打撃波を発生させてから反射波が頭部に伝播するまでの立ち上がり時間差を取得する。
【0034】
次に、ステップ2で、杭の弾性波伝播速度を取得する(ST2)。杭1の弾性波伝播速度は、杭1の気中部分での測定間隔lと測定された時間Δtを用いて、V=l/Δt によって求められる。
【0035】
次に、ステップ3で、基準値より長い杭か否かを判定する(ST3)。杭1は、ある長さ以上になると、地盤の影響による弾性波伝播速度の変化が顕著になる。したがって、地盤の影響が強くなる基準値を予め決めておき、その基準値よりも長いか否かを判定する。
【0036】
ステップ3において、杭が基準値よりも長いと判定した場合、ステップ4で、杭1の弾性波伝播速度の測定値を低減して杭長を算定する(ST4)。算定の際には、式(2-11)及び
図6に示した低減率のグラフ等の式(2-11)から導かれた図表を用いればよい。
【0037】
ステップ3において、杭が基準値よりも短いと判定した場合、ステップ5で、杭1の弾性波伝播速度の測定値を用いて杭長を算定する(ST5)。
【0038】
このように、本実施形態の杭評価方法によれば、簡便且つ的確に杭長を評価することが可能となる。
【0039】
なお、ステップ3以降をなくし、常に杭1の弾性波伝播速度の測定値を低減して杭長を算定することにしてもよい。
【0040】
以上、本実施形態の杭評価方法は、杭1の頭部をたたいて打撃波を発生させてから、打撃波が弾性波として杭1を伝播し杭1の下端で反射した反射波が弾性波として頭部に伝播するまでの実際の衝撃弾性波試験の立ち上がり時間差を取得するステップと、杭1の弾性波伝播速度を取得するステップと、杭1が予め定めた基準値よりも長いか否かを判定するステップと、杭1が基準値よりも長いと判定した場合、杭1の弾性波伝播速度の測定値を低減して杭長を算定するステップと、杭1が基準値よりも短いと判定した場合、杭の弾性波伝播速度の測定値を用いて杭長を算定するステップと、を有し、杭1の弾性波伝播速度の測定値を低減する杭長の算定は、以下の低減率の式又は前記式から導かれた図表を用いる。したがって、簡便に杭の支持性能を評価することが可能となる。
【数8】
ここで、ρ
pは杭の密度、A
pは杭の断面積、E
pは杭のヤング率、ρ
gは杭周地盤2aの密度、A
gは杭周地盤2aの断面積、E
gは杭周地盤2aのヤング率である。
【0041】
なお、この実施形態によって本発明は限定されるものではない。すなわち、実施形態の説明に当たって、例示のために特定の詳細な内容が多く含まれるが、当業者であれば、これらの詳細な内容に色々なバリエーションや変更を加えてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1…杭
11…頭部
12…下部
2…地表面
3…地盤