(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
B28B 1/30 20060101AFI20230407BHJP
E04B 1/16 20060101ALI20230407BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230407BHJP
【FI】
B28B1/30
E04B1/16 B
B33Y10/00
(21)【出願番号】P 2019156976
(22)【出願日】2019-08-29
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】小倉 大季
(72)【発明者】
【氏名】阿部 寛之
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-235623(JP,A)
【文献】特開昭62-185838(JP,A)
【文献】特開2017-119360(JP,A)
【文献】特開2018-199940(JP,A)
【文献】特開2018-140906(JP,A)
【文献】特開2018-069661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/30
E04B 1/00
B33Y
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加製造装置からセメント系材料を所定の位置に押し出しまたは吹き付けて、該セメント系材料を積層して構造物を構築する構造物の構築方法において、
前記セメント系材料を押し出しまたは吹き付けると同時、またはその直後に、押し出しまたは吹き付けられた前記セメント系材料の側面に、液体急結剤を付着させることを特徴とする構造物の構築方法。
【請求項2】
前記付加製造装置から吐出される前記セメント系材料は、角柱状に吐出されることを特徴とする請求項1に記載の構造物の構築方法。
【請求項3】
角柱状の前記セメント系材料の両側面に前記液体急結剤を付着させることを特徴とする請求項2に記載の構造物の構築方法。
【請求項4】
前記セメント系材料が、未硬化状態のモルタル材料に複数の繊維を混入させた繊維入りモルタルであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、橋脚等の鉄筋コンクリート構造物を施工する際には、まず、足場を組み立て、基礎に鉄筋を組み立て、鉄筋を囲むように型枠を組み立て、型枠内にコンクリートを打ち込み、コンクリートの養生、硬化後に型枠を解体する。しかしながら、鉄筋コンクリート構造物などコンクリートを用いた構造物を施工するにあたり、型枠の組み立て及び解体は、煩雑な作業であり、コンクリート構造物の施工における生産性向上を妨げる一因であった。
【0003】
そこで、近年ではセメント系材料を、付加製造装置を用いて所定箇所に押し出しまたは吹き付けて積層することにより構造物を構築する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、未硬化状態のセメント系材料を一層ずつ積み上げて施工すると、積層した材料が上層からの自重により変形が生じることが懸念されていた。
【0006】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、セメント系材料を押し出しまたは吹き付けて積層する際に、セメント系材料の変形を抑制することができる構造物の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0008】
本発明の構造物の構築方法は、付加製造装置からセメント系材料を所定の位置に押し出しまたは吹き付けて、該セメント系材料を積層して構造物を構築する構造物の構築方法において、前記セメント系材料を押し出しまたは吹き付けると同時、またはその直後に、押し出しまたは吹き付けられた前記セメント系材料の側面に、液体急結剤を付着させることを特徴としている。
【0009】
本発明によれば、付加製造装置から吐出されたセメント系材料に対して、その側面に液体急結剤を即時に付着させて当該側面に急結剤による層を形成することにより、その上方にセメント系材料が積層されたとしても変形を抑制することができる。
【0010】
また、本発明の構造物の構築方法は、前記付加製造装置から吐出される前記セメント系材料は、角柱状に吐出されることが好ましい。
【0011】
本発明によれば、セメント系材料を角柱状に吐出することにより、側面と上面(下面)との境界が明確になり、側面のみに確実に液体急結剤を付着させることができる。
【0012】
さらに、本発明の構造物の構築方法は、角柱状の前記セメント系材料の両側面に前記液体急結剤を付着させることが好ましい。
【0013】
本発明によれば、角柱状のセメント系材料の両側面に液体急結剤を付着させることにより、セメント系材料の変形をより確実に防止することができる。
【0014】
そして、本発明の構造物の構築方法は、前記セメント系材料が、未硬化状態のモルタル材料に複数の繊維を混入させた繊維入りモルタルであってもよい。
【0015】
本発明によれば、セメント系材料として繊維入りモルタルを用いることにより、高強度のコンクリート構造物を構築することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の構造物の構築方法によれば、セメント系材料を押し出しまたは吹き付けて積層する際に、セメント系材料の変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る構造物の構築方法を説明するための正面図であり、鉄筋組み立て工程を説明する図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る構造物の構築方法を説明するための正面図であり、モルタル枠形成工程を説明する図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る構造物の構築方法を説明するための縦断面図であり、モルタル枠が形成された状態を示す図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る構造物の構築方法を説明するための図であり、モルタル枠形成工程における部分拡大斜視図である。
【
図6】本発明の第1実施形態に係る構造物の構築方法を説明するための図であり、モルタル枠の部分断面図である。
【
図7】本発明の第1実施形態に係る構造物の構築方法を説明するための縦断面図であり、コンクリート芯形成工程を説明する図である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係る構造物の構築方法を説明するための図であり、繊維入りモルタル施工工程を説明する斜視図である。
【
図10】本発明の第2実施形態に係る構造物の構築方法を説明するための概略図であり、繊維入りモルタル施工工程の途中段階を説明する図である。
【
図11】モルタル体の鉛直方向の変形量を測定した試験結果を示すグラフである。
【
図12】本発明の実施形態に係る液体急結剤を付着させる別の態様を示す概略図である。
【
図13】本発明の実施形態に係る液体急結剤を付着させるさらに別の態様を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第一実施形態)
以下、本発明に係る構造物の構築方法の第一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、本実施形態では、本発明に係る構造物の構築方法を用いて鉄筋コンクリート柱を施工する場合の説明を行う。また、セメント系材料として、繊維入りモルタルを用いて、角柱状に材料を押し出した場合の説明を行う。
【0019】
本実施形態の構造物の構築方法は、新設の鉄筋コンクリート柱(構造物)を施工する方法であって、鉄筋組み立て工程と、繊維入りモルタル生成工程と、モルタル枠形成工程と、コンクリート芯形成工程と、を備える。以下、各工程について説明する。
【0020】
[鉄筋組み立て工程]
図1に示すように、鉄筋組み立て工程では、コンクリート構造物の施工現場の基礎部(床部)S上の所定箇所に鉄筋10を組み立てる。鉄筋10は、複数の軸方向鉄筋(主筋)12と、複数のせん断補強鉄筋(帯筋)14と、を備える。複数の軸方向鉄筋12は、コンクリート構造物の大きさ及び平面視形状に沿って並ぶように平面視において所定の間隔をあけて配置され、各々の軸方向鉄筋12の長手方向が鉛直方向に沿う状態で立ち上がっている。それぞれの軸方向鉄筋12は、基礎部Sを貫通している。本工程では、部材(柱)の大きさによって、長手方向に沿って基礎部Sから立ち上がっている軸方向鉄筋12aの上端と別の軸方向鉄筋12bの下端とを接合するなどして、所定の長さを有する軸方向鉄筋12を構築している。なお、
図1では、鉄筋継手を省略し、軸方向鉄筋12a,12bの境界部分を簡略化して示している。
【0021】
続いて、複数の軸方向鉄筋12を束ねるように複数のせん断補強鉄筋14を設ける。複数のせん断補強鉄筋14は、高さ方向において所定の間隔をあけて設けている。
【0022】
[繊維入りモルタル生成工程]
繊維入りモルタル生成工程では、モルタル材料32に複数の繊維34を混入させて繊維入りモルタル30を生成する(
図10参照)。本実施形態で使用するモルタル材料32は、未硬化状態で適度な流動性を有するセメント系材料であり、公知のものを使用できるが、例えば積層造形が適切に行えるように、形状保持性やチキソトロピー性を有し、さらに積層プロセスにおいて適度に硬化して短時間で高い強度を発現する材料であることが好ましい。なお、モルタルの代わりにセメントペーストやコンクリートを用いてもよい。
【0023】
モルタル材料32に混入させる繊維34は、化学的に合成された高分子からできた繊維、または無機質からなる繊維である。前者としては、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維などがある。後者としては、ガラス繊維、鋼繊維、炭素繊維、岩石繊維(バサルトなど)、セラミック繊維、シリカ繊維などがある。本発明で使用される繊維34の直径に制限はないが、短繊維の直径は例えば0.005mm以上1.0mm以下であることが好ましい。複数の繊維34の平均長さは、例えば3mm以上30mm以下であることが好ましい。
【0024】
繊維34は、モルタル材料32に対して、例えば0.1容量%以上5.0容量%以下で混入されることが好ましい。詳しくは、繊維入りモルタル30が空気中で形状を維持可能な程度、かつ繊維入りモルタル30の乾燥収縮ひび割れを抑制できる程度に、モルタル材料32における繊維34の割合を調整する。繊維入りモルタル30の硬化後に、外力に抗して繊維補強モルタル体31の引張靭性を発揮させるためには、繊維34がモルタル材料32に対して1.0容量%以上で混入されることが好ましい。
【0025】
[モルタル枠形成工程]
図2に示すように、モルタル枠形成工程では、鉄筋10の周囲に未硬化状態の繊維入りモルタル(第1のコンクリート)30を付加製造装置40から押し出し、
図3及び
図4に示すモルタル枠20を形成する。
【0026】
モルタル枠形成工程では、繊維入りモルタル30を付加製造装置40に供給し、付加製造装置40のノズル42から鉄筋10の周囲に押し出す。付加製造装置40は、ノズル42と、リフター部44と、自走部46と、を備えている。リフター部44は、ノズル42及びノズル42に未硬化状態の繊維入りモルタル30を供給する供給部(ホース)48を支持し、ノズル42を所定の高さまで昇降させる。自走部46は、リフター部44と連結されており、鉄筋10の周囲を自走し、リフター部44と連動してノズル42を繊維入りモルタル30の押し出し位置に移動させる。
【0027】
図2、
図3に示すように、ノズル42から繊維入りモルタル30を押し出しつつ、ノズル42を鉄筋10の周囲で鉄筋コンクリート柱(コンクリート構造物)の輪郭をなぞるように周回させ、最下層の繊維補強モルタル体31-1を施工する。繊維入りモルタル30は前述のように形状保持性を有するため、基礎部Sの上に押し出された形状を保持して硬化し始める。続いて、硬化した繊維補強モルタル体31-1の直上の高さと同程度にノズル42を上昇させ、繊維補強モルタル体31-1の上面をなぞるように周回させ、2層目の繊維補強モルタル体31-2を施工する。最上層の繊維補強モルタル体31-kが所定の高さに到達するまで、同様の作業を繰り返す。kは、任意の自然数である。繊維補強モルタル体31(31-1~31-k)をなす繊維入りモルタル30は、互いに同じ材料で構成され、接しているため、硬化時には良好に一体化する。繊維補強モルタル体31を完全に硬化させ、
図3に示すようにモルタル枠20を形成する。
【0028】
付加製造装置40のノズル42の構成について詳細に説明する。
図10に示すように、ノズル42は、大径部53と、大径部53の押出方向Pの先端に連結された小径部54と、を備える。大径部53及び小径部54は略四角柱状に形成され、大径部53の中空部と小径部54の中空部とは連結部55で接続されている。
【0029】
大径部53及び小径部54の形状は特に限定されないが、未硬化状態のモルタル材料32中の複数の繊維34をより確実に整列させる点から、小径部54は少なくとも押出方向Pに沿って同じ大きさの断面を有する柱状であることが好ましい。すなわち、小径部54の内壁面54eの幅(すなわち、ノズル42の長手方向及び押出方向Pに直交する方向の大きさ)wは、ノズル42の長手方向及び押出方向Pに沿って均一であることが好ましい。ここで、「複数の繊維34が整列する」とは、複数の繊維34の長手方向が互いに平行になり、かつ、押出方向Pに沿って揃うことを意味する。
【0030】
小径部54の押出方向Pの先端には、押出口51が形成されている。押出口51の幅(大きさ、すなわち、ノズル42の長手方向及び押出方向Pに直交する方向の幅)gは、本実施形態では幅wに等しい。幅gは、複数の繊維34の平均長さより短いことが好ましい。小径部54において押出方向Pに沿って押し出されるモルタル材料32中の複数の繊維34を確実に整列させる点から、小径部54の長さ(すなわち、ノズル42の長手方向及び押出方向Pに平行な方向の大きさ)は、複数の繊維34の平均長さより長いことが好ましい。
【0031】
ここで、本実施形態においては、繊維入りモルタル30を付加製造装置40のノズル42から押し出して施工すると同時、または直後に、当該繊維入りモルタル30の側面35に液体急結剤36を塗布する。
【0032】
図2、
図5に示すように、液体急結剤36は、付加製造装置40のノズル42の両側に配された急結剤供給ホース92から吐出され、繊維入りモルタル30の両側面35,35に吹き付けて、当該側面35,35に液体急結剤36を付着させている。
【0033】
液体急結剤36は、例えば水溶性アルミニウム塩などを主成分とするものを採用している。液体急結剤36の時間当たりの使用量は、急結剤の種類や繊維入りモルタル30の施工速度に応じて決定する。また、モルタル材料32の水セメント比などによって最適な量は変化するが、一般的には繊維入りモルタル30の側面35への塗布量が10~300g/m2となるように使用することが望ましい。なお、モルタル材料32には、水セメント比40%以下の材料を用いるのが望ましい。水セメント比の低いモルタル材料32の方が液体急結剤36の効果が高まるためである。
【0034】
図2に示すように、液体急結剤36を供給する急結剤供給装置90は、液体急結剤36を吐出するノズル91と、ノズル91に連結された急結剤供給ホース92と、ノズル91および急結剤供給ホース92を所定位置に移動させるリフター部93と、自走部94と、を備えている。リフター部93は、ノズル91、および急結剤供給ホース92を支持し、ノズル91を所定の高さまで昇降させる。自走部94は、リフター部93と連結されており、付加製造装置40と略同一のルートを自走し、リフター部93と連動してノズル91を繊維入りモルタル30の側面35に移動させる。なお、
図2では繊維入りモルタル30の外側の側面35に液体急結剤36を吐出する急結剤供給装置90のみを図示しているが、繊維入りモルタル30の内側の側面35に液体急結剤36を吐出する急結剤供給装置(不図示)も配置されている。なお、一台の急結剤供給装置を用いて繊維入りモルタル30の両側面35,35に液体急結剤36を吐出するように構成してもよい。
【0035】
図6に示すように、繊維入りモルタル30の側面35に液体急結剤36を付着させることにより、側面35の表面に固化層38を形成し、繊維入りモルタル30の形状保持性や自立性を高めることができる。つまり、鉛直方向へ繊維入りモルタル30を積層する際に、自重による変形を抑制することができる。
【0036】
液体急結剤36の吹き付けは、付加製造装置40で繊維入りモルタル30を施工すると同時または直後に実施することが好ましい。遅くとも次の上層の施工が始まる前までに吹き付けをすることで、上層の自重による変形を抑制することができる。
【0037】
なお、液体急結剤36は、繊維入りモルタル30の側面35のみに付着するようにし、上面には付着しないようにすることで、上下に積層する繊維入りモルタル30,30同士を確実に一体化させることができる。
【0038】
また、固化層38は、繊維入りモルタル30の側面35において表層(1mm~10mm程度)に形成するように液体急結剤36の吐出量を調整している。
【0039】
液体急結剤36は、例えばポンプ(不図示)を用いて供給する。ポンプは、液体急結剤36を定量供給できるものを使用するのが好ましい。
【0040】
[コンクリート芯形成工程]
図7、
図8に示すように、コンクリート芯形成工程では、未硬化状態のフレッシュコンクリート(第2のコンクリート)62をモルタル枠20の内側の空間50に打ち込み、空間50を満たすコンクリート芯60を形成する。具体的には、昇降装置66を用いてフレッシュコンクリート62の供給管68をモルタル枠20の内側の空間50に挿入して、供給管68の先端から空間50にフレッシュコンクリート62を供給しつつ、供給管68を適宜上昇させる。フレッシュコンクリート62をモルタル枠20の上端と同じ高さまで空間50に充填し、養生して硬化させ、コンクリート芯60を形成する。このようにして、鉄筋10とモルタル枠20とコンクリート芯60とを備えた鉄筋コンクリート柱(構造物)70を施工することができる。
【0041】
以上説明した本実施形態の構造物の構築方法は、上述の鉄筋組み立て工程と、繊維入りモルタル生成工程と、モルタル枠形成工程と、コンクリート芯形成工程と、を備える。本実施形態の構造物の構築方法では、型枠を用いずに、付加製造装置40を用いてモルタル枠20を形成し、モルタル枠20を型枠としてモルタル枠20の内側にフレッシュコンクリート62を打ち込むことができる。本実施形態の構造物の構築方法によれば、従来のように型枠の組み立て及び解体が不要になり、鉄筋コンクリート柱(構造物)70の施工効率を向上させることができる。
【0042】
本実施形態の構造物の構築方法では、繊維入りモルタル30を吐出すると同時(または吐出直後)に、吐出された繊維入りモルタル30の両側面35,35に液体急結剤36を付着させたため、当該繊維入りモルタル30を上下方向に積層するように施工しても下方に配置した繊維入りモルタル30が変形することなく、所望の形状の鉄筋コンクリート柱(構造物)70を施工することができる。
【0043】
以上、本発明の第一実施形態について詳述したが、本発明は上記第一実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変更が可能である。
【0044】
例えば、本実施形態では第1のコンクリートとして繊維入りモルタル30を用いたが、流動性及び形状保持性を有し、コンクリート芯60の側圧によって生じる引張力に抵抗できれば、繊維入りモルタル30に限定されない。
【0045】
また、本実施形態では第2のコンクリートとしてフレッシュコンクリート62を用いたが、コンクリートの種類は特に限定されず、通常のコンクリート構造物の施工方法において木製等の従来の型枠の内側に打ち込み可能なコンクリート材料を全て含む。
【0046】
また、本実施形態では鉄筋コンクリート柱70を施工する場合について説明したが、構造物の構成は鉄筋コンクリート柱以外のものにも採用できるのは言うまでもない。
【0047】
また、本実施形態では、鉄筋組み立て工程の後に、モルタル枠形成工程を行ったが、鉄筋組み立て工程及びモルタル枠形成工程を行う順番は特に限定されない。即ち、モルタル枠形成工程の後に、鉄筋組み立て工程を行ってもよい。その場合は、例えば上述したようにモルタル枠20を形成した後に、鉄筋かごをクレーンで吊り上げ、モルタル枠20の内側に挿入することができる。なお、鉄筋かごは、複数の鉄筋を地組みして、番線などで固定し、一体化させたものである。
【0048】
さらに、本実施形態では、鉄筋組み立て工程において、基礎部Sに鉄筋10のみを組み立てたが、先ず基礎部Sに鉄骨を立て、鉄骨の周囲に鉄筋10を組み立ててもよい。即ち、本発明の構造物の構築方法は、上述の鉄筋コンクリート造(RC造)のコンクリート構造物だけではなく、鉄筋鉄骨コンクリート造(SRC造)のコンクリート構造物の施工時にも用いることができる。
【0049】
(第二実施形態)
次に、本発明に係る構造物の構築方法の第二実施形態について、図面を参照して説明する。なお、本実施形態では、本発明に係る構造物の構築方法を用いて既設の鉄筋コンクリート柱に補強用の繊維入りコンクリートを施工した場合の説明を行う。また、第一実施形態と略同一の構成の箇所については、同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0050】
本実施形態の構造物の構築方法は、既設の鉄筋コンクリート柱80に対して補強を行う方法であって、繊維入りモルタル生成工程と、繊維入りモルタル施工工程と、を備える。以下、各工程について説明する。
【0051】
[繊維入りモルタル生成工程]
繊維入りモルタル生成工程は、第一実施形態と略同一の方法にて繊維入りモルタル30を生成する。
【0052】
[繊維入りモルタル施工工程]
図9に示すように、繊維入りモルタル施工工程では、繊維入りモルタル生成工程で生成された繊維入りモルタル30を付加製造装置40に供給し、繊維入りモルタル30を付加製造装置40のノズル42から所定の位置に押し出して繊維補強モルタル体31を施工する。具体的には、既設の鉄筋コンクリート柱80の外周面に沿って繊維入りモルタル30を配設し、繊維補強コンクリート体31を施工する。
【0053】
繊維入りモルタル施工工程では、繊維入りモルタル30を所定の位置でノズル42の押出口51から押し出しつつ、所定の位置に所謂3次元プリントし、積層する。そして、上下方向に層状に繊維入りモルタル30を押し出す。この際、繊維入りモルタル30を、既設の鉄筋コンクリート柱80の形状に合わせて複数回にわたって押し出してもよく、形状をなぞるように1回で押し出してもよい。
【0054】
繊維入りモルタル30は、所定の時間の経過と共に硬化し、隣接する繊維入りモルタル30の表面同士が接合し、繊維補強モルタル体31が施工される。既設の鉄筋コンクリート柱80の形状に合わせて押し出された繊維入りモルタル30を全て繊維補強モルタル体31として施工することによって、繊維入りモルタル施工工程が完了する。
【0055】
なお、繊維入りモルタル生成工程と繊維入りモルタル施工工程は、並行して行ってもよい。
【0056】
そして、本実施形態においては、繊維入りモルタル30を付加製造装置40のノズル42から押し出して施工すると同時、または直後に、当該繊維入りモルタル30の外側の側面35に液体急結剤36を塗布する。液体急結剤36は、付加製造装置40のノズル42の外側に配された急結剤供給ホース92から吐出され、繊維入りモルタル30の外側の側面35に吹き付けて、当該側面35に付着させている。
【0057】
繊維入りモルタル30の外側の側面35に液体急結剤36を付着することにより、側面35の表面に固化層38を形成し、繊維入りモルタル30の形状保持性や自立性を高めることができる。つまり、鉛直方向へ繊維入りモルタル30を積層する際に、自重による変形を抑制することができる。
【0058】
本実施形態においても、第一実施形態と略同様の作用効果が得られる。なお、上記第二実施形態では、繊維入りモルタル30の外側の側面35のみに液体急結剤36を付着させるように説明したが、既設の鉄筋コンクリート柱80と繊維入りモルタル30との間(内側の側面)に液体急結剤36を浸透させるように供給してもよい。
【0059】
次に、
図11は、液体急結剤をモルタルの側面に塗布したときの鉛直方向の変形量を測定した実験結果である。
試験体は、直径10cm、高さ5cmの略円柱状のモルタル体である。当該モルタル体に鉛直荷重として毎分1Nずつ荷重を増加させている。モルタル体の配合は水セメント比22%である。液体急結剤の塗布量は、約150g/m
2である。
【0060】
試験では、(1)液体急結剤を塗布しないモルタル体、(2)急結剤塗布1分後に鉛直荷重をかけ始めたモルタル体、(3)急結剤塗布5分後に鉛直荷重をかけ始めたモルタル体、の3パターンについて鉛直方向の変形量を測定した。
【0061】
その結果、
図11に示すように、モルタルの側面に液体急結剤を塗布する((2),(3)の場合)と、塗布しない場合(1)よりもモルタルの鉛直方向の変形量が大幅に抑制されることが分かる。
【0062】
以上、本発明に係る構造物の構築方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0063】
例えば、本実施形態では、付加製造装置40を用いて繊維入りモルタル30を押し出しまたは吹き付ける場合の説明をしたが、繊維は混入していなくてもよく、また、モルタルでなくコンクリートを用いてもよい。
【0064】
また、本実施形態では、液体急結剤36を繊維入りモルタル30の側面35に吹き付けて付着させる場合の説明をしたが、
図12に示すように、側面35に刷毛61などを用いて塗布する構成であってもよい。
【0065】
また、本実施形態では、付加製造装置40のノズル42と急結剤供給ホース92とが別の設備としてそれぞれ駆動する場合の説明をしたが、
図13に示すように、付加製造装置40のノズル42と急結剤供給ホース92とを一体的に移動させる構成を採用してもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 鉄筋
20 モルタル枠
30 繊維入りモルタル(セメント系材料)
32 モルタル材料
34 繊維
35 側面
36 液体急結剤
40 付加製造装置