(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】癌および眼疾患の治療のためのアルブミンナノ粒子
(51)【国際特許分類】
A61K 9/51 20060101AFI20230407BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230407BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230407BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230407BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230407BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230407BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230407BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230407BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
A61K9/51
A61K39/395 N
A61K47/42
A61K47/38
A61K47/36
A61K47/34
A61K47/32
A61P27/02
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2020520715
(86)(22)【出願日】2018-06-21
(86)【国際出願番号】 EP2018066639
(87)【国際公開番号】W WO2018234489
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-05-26
(32)【優先日】2017-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519456170
【氏名又は名称】ウニベルシダッド、デ、ナバラ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD DE NAVARRA
(73)【特許権者】
【識別番号】519456538
【氏名又は名称】コンセホ、ナシオナル、デ、インベスティガシオネス、シエンティフィカス、イェ、テクニカス
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO NACIONAL DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS Y TECNICAS
(73)【特許権者】
【識別番号】519456181
【氏名又は名称】ウニベルシダッド、ナシオナル、デ、コルドバ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD NACIONAL DE CORDOBA
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル、アルベルト、アレマンディ
(72)【発明者】
【氏名】カロリーナ、ボイエロ
(72)【発明者】
【氏名】フアン、マヌエル、イラチェ、ガレタ
(72)【発明者】
【氏名】フアン、マヌエル、ラボト
(72)【発明者】
【氏名】イネス、ルイス、デ、ルデイン、スビラ
(72)【発明者】
【氏名】イバン、ペニュエラス、サンチェス
(72)【発明者】
【氏名】ヘマ、キンコセス、フェルナンデス
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-527980(JP,A)
【文献】REYHANEH VARSHOCHIAN,THE PROTECTIVE EFFECT OF ALBUMIN ON BEVACIZUMAB ACTIVITY AND STABILITY IN PLGA 以下備考,EUROPEAN JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES,2013年11月20日,VOL:50, NR:3-4,PAGE(S):341 - 352,http://dx.doi.org/10.1016/j.ejps.2013.07.014,NANOPARTICLES INTENDED FOR RETINAL AND CHOROIDAL NEOVASCULARIZATION TREATMENTS
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 47/00
A61K 39/395
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子を含んでなる、眼疾患を治療するための医薬であって、
前記ナノ粒子が、ソリッドコアを含んでなり、
前記ソリッドコアが、非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体
からなり、
前記モノクローナル抗体が、前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、
前記ソリッドコアがコーティングされている場合、前記ソリッドコアが、非イオン性ポリマーで直接的にコーティングされている、前記医薬。
【請求項2】
前記眼疾患が、黄斑変性、角膜血管新生または血管形成、虹彩血管新生または血管形成、網膜血管新生または血管形成、糖尿病性増殖網膜症、非糖尿病性増殖網膜症、緑内障、感染性結膜炎、アレルギー性結膜炎、潰瘍性角膜炎、非潰瘍性角膜炎、上強膜炎、強膜炎、糖尿病性網膜症、ブドウ膜炎、眼内炎、感染状態および炎症状態から選択される、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
ナノ粒子を含んでなる、癌を治療するための医薬であって、
前記ナノ粒子が、ソリッドコアを含んでなり、
前記ソリッドコアが、非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体
からなり、
前記モノクローナル抗体が、前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、
前記ソリッドコアがコーティングされている場合、前記ソリッドコアが、非イオン性ポリマーで直接的にコーティングされている、前記医薬。
【請求項4】
前記癌が、乳癌、肺癌、膵臓癌、多発性骨髄腫、腎細胞癌、前立腺癌、黒色腫、結腸癌、結腸直腸癌、腎臓癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、腎癌および胃癌、膀胱癌または扁平上皮癌である、請求項3に記載の医薬。
【請求項5】
前記モノクローナル抗体/アルブミン重量比率が、0.01~0.5の範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項6】
前記非イオン性ポリマー/アルブミン比率が、0.02~5(w/w)の範囲である、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項7】
前記アルブミンが、ヒト血清アルブミンまたはウシ血清アルブミンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項8】
前記モノクローナル抗体が、ベバシズマブ、ラニビズマブ、トラスツズマブ、セツキシマブおよびリツキシマブから選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項9】
前記非イオン性ポリマーが、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシ-n-プロピルセルロース、ヒドロキシ-n-ブチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、およびエチルヒドロキシエチルセルロースから選択される水溶性セルロース;デンプン;デキストラン;ポリビニルピロリドン;ポリエステル;またはポリアルキレングリコールである、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項10】
ソリッドコアを含んでなるナノ粒子であって、
前記ソリッドコアが、非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体
からなり、
前記モノクローナル抗体が、前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、
前記ソリッドコアが、非イオン性ポリマーで直接的にコーティングされている、前記ナノ粒子。
【請求項11】
複数のナノ粒子;および
薬学上許容可能な賦形剤、担体またはビヒクル
を含んでなる医薬組成物であって、
前記ナノ粒子が、非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体
からなるソリッドコアを含んでなり、
前記モノクローナル抗体が、前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、
前記ソリッドコアがコーティングされている場合、前記ソリッドコアが、非イオン性ポリマーで直接的にコーティングされて
いる、前記医薬組成物。
【請求項12】
前記ナノ粒子が、乾燥粉末の形態である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
薬学上許容可能な前記賦形剤、担体またはビヒクルが、経口、局所または非経口投与に好適である、請求項11または12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記アルブミンが、ヒト血清アルブミンまたはウシ血清アルブミンである、請求項11~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記モノクローナル抗体が、ベバシズマブ、ラニビズマブ、トラスツズマブ、セツキシマブおよびリツキシマブから選択される、請求項11~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記非イオン性ポリマーが、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシ-n-プロピルセルロース、ヒドロキシ-n-ブチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、およびエチルヒドロキシエチルセルロースから選択される水溶性セルロース;デンプン;デキストラン;ポリビニルピロリドン;ポリエステル;またはポリアルキレングリコールである、請求項11~15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズ薬物送達システム、より詳細には、癌および眼疾患の治療で使用される、アルブミンおよびモノクローナル抗体のマトリックスを含有するナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体は、癌、自己免疫疾患および慢性炎症性疾患などの種々の治療領域で、また、移植拒絶の治療でも使用される、興味深い糖タンパク質群として登場した。現時点では、規制当局(FDAおよびEMEA)によって承認されているおよそ30種のモノクローナル抗体が存在する。
【0003】
これらのモノクローナル抗体の1種は、VEGF-A(血管内皮細胞増殖因子)を標的とし、VEGFの4つの主要なアイソフォームを含む免疫グロブリンG(IgG)であるベバシズマブである。ベバシズマブは、2004年にFDAにより転移性結腸直腸癌の第一選択治療として承認され、その後、非小細胞肺癌または転移性乳癌のような他の癌でも承認された。最近、ベバシズマブは、角膜または網膜の血管新生、糖尿病性網膜症および加齢黄斑変性症を含む眼疾患の治療で使用され始めている。
【0004】
眼の表面への局所適用は、薬物投与の一般的な経路である。しかしながら、防御機構(瞬目(slinking)、流涙および排液)は、処方物を迅速に除去することにより薬物のバイオアベイラビリティを低下させる。過去数年間、ベバシズマブの硝子体内注射は、滲出型の加齢黄斑変性症、増殖性糖尿病性網膜症および脈絡膜血管新生に対する非常に効率的な治療であることが見出されている。短期結果は、硝子体内ベバシズマブは、忍容性が良好で、ほとんどの患者で視力の改善、網膜の厚さの減少および血管造影の漏出の減少を伴うことを示唆した。しかしながら、視力の改善を達成し維持するためには、反復注射および経過観察の訪問が必要である。これは、眼内炎などの合併症の高いリスク浮くならびに眼への針の挿入に関連した疼痛、不安および苦痛の繰り返しを伴う。さらに、注射されたベバシズマブの硝子体内半減期はおよそ3日にすぎない。
【0005】
癌療法の場合、現在の治療戦略は、通常、外科手術による切除の前に腫瘍を縮小させるための化学療法用のカテーテルの適用を含む侵入的処理を伴う。癌療法の有効性を向上させるための研究努力により、患者の生存率には実質的に改善がもたらされたものの有害な副作用および患者の生活の質の低さに関連する問題は依然として大きな問題である。
【0006】
従って、ベバシズマブならびに他のモノクローナル抗体の送達を、癌および眼疾患の治療のために、低侵襲性で長時間効果のあるものにするために、効果的な薬物送達法を開発する必要がある。
【0007】
この意味で、ナノ粒子は、薬物投与に好適なビヒクルとして登場し、眼科分野ならびに癌療法において有望な結果をもたらしている。そのようなナノサイズ送達システムの作製に使用することができる多種多様な材料がある。例えば、モノクローナル抗体ベバシズマブは、加齢黄斑変性症の治療[Hao et al., American Association of Pharmaceutical Scientists (AASP) Annual Meeting and Exposition, Los Angeles, California, November 2009; Li, F. et al., The Open Ophthalmology Journal, 2012, 6, 54-58]、ならびに網膜および脈絡膜の血管新生の治療[Pan CK et al., J. Ocul. Pharmacol. Ther., 2011, 27(3), 219-224; Varshochian, R. et al., European Journal of Pharmaceutical Sciences, 2013, 50, 341-352]のために、PLGAのナノ粒子に組み込まれている。
【0008】
しかしながら、合成材料よりも天然の生体高分子が好ましい。これに関連して、生体適合性、生分解性、非毒性および非免疫原性であるという事実から、薬物送達用ナノ粒子の調製にはヒト血清アルブミンが広く使用されている。アルブミンナノ粒子は、様々な薬物の結合能力が高いことと深刻な副作用がなく忍容性が良好であることから大きな注目を集めている。
【0009】
この数年に、熱ゲル化、乳化および脱溶媒和(コアセルベーション)を含む、アルブミンナノ粒子の調製のための極めて多様な物理化学的プロセスが提案されてきた。いずれの場合でも、脱溶媒和に基づく手順が、それらの単純さと再現性から、最も人気があるようである。しかしながら、得られたばかりのナノ粒子は不安定であり、水性環境での半減期を延ばすため、かつ/またはタンパク質の大集塊の形成を防ぐために、物理的、化学的または酵素的安定化の補足工程を実施する必要がある。
【0010】
一般的に、アルブミンの架橋は、アルブミンナノ粒子の安定化のための最もポピュラーな戦略の1つである。Elzoghby et al. [Journal of Controlled Release, 2012, 157, 168-182]は、アルブミンナノ粒子を調製するための種々の方法と、能動的薬物送達システムとしてのそれらの使用をまとめている。ナノ粒子が架橋されることを必要とする水性媒体中のナノ粒子の不安定性について特に言及されており、当技術分野で使用される一般的な化学架橋剤としてグルタルアルデヒドが挙げられている。また、Lohcharoenkal, W. et al. [BioMed Research International, 2014]は、アルブミンナノ粒子が溶解または合体して、架橋されない場合は別の相を形成する際のアルブミンナノ粒子の不安定性について言及している。Llabot et al. [19th International Symposium on Microencapsulation, 2013]は、ベバシズマブを封入するガントレッツと架橋されたアルブミンナノ粒子、ならびに角膜の血管形成におけるそれらの使用を記載している。
【0011】
従って、架橋はアルブミンナノ粒子を安定化し、酵素分解ならびにナノ粒子からの有効成分の送達を低減する。
【0012】
しかしながら、グルタルアルデヒドはナノ粒子の安定化に非常に効果的であるが、主にin vivo送達のためのその使用を妨げる毒性のため、その使用には問題がある。従って、架橋剤を可能な限り完全に除去することが不可欠である。さらに、グルタルアルデヒドは、ナノ粒子内の生体高分子、より詳細には、タンパク質薬物、抗体およびペプチドの安定性に影響を与える可能性があり、これは、グルタルアルデヒドがそれらの高分子中に存在する官能基(第一級アミン残基など)と反応し、それらの活性の重大な損失をもたらすためである。
【0013】
この重大な欠点を解決するために、有毒な試薬を使用する必要なく、形成されたばかりのアルブミンナノ粒子を硬化または安定化するための種々の戦略が提案されている。とりわけ、ナノ粒子の安定化は、熱処理、高い動水圧またはゲニピンもしくはトランスグルタミナーゼでの酵素的架橋によって得ることができる。
【0014】
アルブミンナノ粒子を安定化するために、表面コーティングも使用されている。例えば、ポリリジンまたはポリエチレンイミンなどの陽イオン性ポリマーを使用して、ウシ血清アルブミンナノ粒子をコーティングし、それらの安定性を改善している[Wang et al., Pharm. Res., 2008, 25(12), 2896-2909]。
【0015】
WO2013/042125には、ベバシズマブが組み込まれたグルタルアルデヒド架橋ウシ血清アルブミンナノスフェアの調製と、その後の、イオン性PLGA被覆内への前記ナノスフェアの封入が記載されている。
【0016】
WO2011/053803にはまた、眼疾患を治療するためのベバシズマブなどの治療薬を封入するポリマーシェルを有するナノ粒子が言及されている。
【0017】
上記総てを考慮すると、モノクローナル抗体の完全性および活性を保存し、ナノ粒子からのその放出を制御する適切な送達システムが必要である。
【発明の概要】
【0018】
発明の簡単な説明
本発明者らは、ベバシズマブなどのモノクローナル抗体をアルブミンのマトリックス内へ閉じ込めることによって水溶液中で高い安定性を有するナノ粒子を提供し、驚くべきことに、前記ナノ粒子は他の手段により架橋または安定化する必要がなく、従って、一度送達された抗体の3D構造ならびに生物活性の維持が可能になることを見出した。それどころか、以下の実験部分で示されるように、グルタルアルデヒド(アルブミンのナノ粒子を安定化するために先行技術で使用された最も一般的な架橋剤)の使用により抗体が不活性化され、従って、これらの種類の有効成分の封入に関する架橋ナノ粒子の使用は実現不可能になる。
【0019】
本発明者らはまた、非イオン性ポリマー、そのようなヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMC-P)およびポリエチレングリコール35,000(PEG35)、ならびにEudagrit(登録商標)S-100で修飾された非架橋ナノ粒子を試験し、抗体の完全性も維持されることを観察した。
【0020】
それに加えて、本明細書で以下に記載する方法に従って、モノクローナル付加アルブミンナノ粒子は、水または水溶液を単純に添加することによりすぐに分散および再構成できる乾燥粉末として製造することができる。
【0021】
さらに、本発明のナノ粒子は、モノクローナル抗体の持続放出を可能にし、角膜血管新生動物モデルで得られた生物活性データによって指摘されるように、in vivo用途に重要な薬物送達システムを構成する。
【0022】
また、非イオン性ポリマーでコーティングされたアルブミンナノ粒子を用いて実施された体内分布アッセイにより、それらが腫瘍組織に濃縮可能であることが指摘されていることから、このアルブミンナノ粒子は、モノクローナル抗体を罹患組織に放出するための非常に有望なナノ粒子システムとなる。
【0023】
実際、in vivo試験では、水溶液中の同じモノクローナル抗体の投与と比較すると、血清中に存在する前記抗体の濃度が低くなっているため、本発明のナノ粒子は、腫瘍組織にモノクローナル抗体を放出可能であることが示された。さらに、腫瘍体積は大幅に減少する。
【0024】
従って、本発明の第一の側面は、医薬における使用のためのナノ粒子であって、前記ナノ粒子が、ソリッドコアを含んでなり、前記ソリッドコアが、非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体を含んでなり、前記モノクローナル抗体が、前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアが、非イオン性ポリマーでコーティングされていてもよい、医薬における使用のためのナノ粒子に関する。
【0025】
本発明の第二の側面は、複数のナノ粒子;および薬学上許容可能な賦形剤、担体またはビヒクルを含んでなる医薬組成物であって、前記ナノ粒子が、非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体を含んでなるソリッドコアを含んでなり、前記モノクローナル抗体が、前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアが、非イオン性ポリマーでコーティングされていてもよい、医薬組成物に関する。
【0026】
別の側面では、本発明は、医薬における使用のための本発明の医薬組成物に関する。
【0027】
本発明のさらなる側面は、眼疾患の治療における使用のためのナノ粒子であって、前記ナノ粒子が、ソリッドコアを含んでなり、前記ソリッドコアが、非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体を含んでなり、前記モノクローナル抗体が、前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアが、非イオン性ポリマーでコーティングされていてもよい、眼疾患の治療における使用のためのナノ粒子である。
【0028】
本発明の別の側面は、癌の治療における使用のためのナノ粒子であって、前記ナノ粒子が、ソリッドコアを含んでなり、前記ソリッドコアが、非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体を含んでなり、前記モノクローナル抗体が、前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアが、非イオン性ポリマーでコーティングされていてもよい、癌の治療における使用のためのナノ粒子である。
【0029】
最後に、本発明の別の側面は、ソリッドコアを含んでなるナノ粒子であって、前記ソリッドコアが、非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体を含んでなり、前記モノクローナル抗体が、前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアが、非イオン性ポリマーでコーティングされている、ナノ粒子に関する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】得られるナノ粒子の積載に対するベバシズマブ/アルブミン比率の影響。ナノ粒子は、モノクローナル抗体とタンパク質を10分間インキュベーションした後に調製した。データは平均±SD(n=3)として表している。
【
図2】ベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子(B-NP)のTEM写真。
【
図3】A)ヒト血清アルブミン(HSA)、グルタルアルデヒド(GLU)、HSAとグルタルアルデヒドの物理的混合物(HSA-GLU)、およびグルタルアルデヒドと架橋しているナノ粒子(NP-GLU)のFT-IRスペクトル。B)ヒト血清アルブミン(HSA)、ベバシズマブ(BEVA)、HSAとベバシズマブの物理的混合物(HSA-BEVA)、およびベバシズマブ付加ナノ粒子(B-NP)のFT-IRスペクトル。
【
図4】ベバシズマブ(BEVA)、ベバシズマブ付加ナノ粒子(B-NP)およびヒト血清アルブミン(HSA)のX線スペクトル。
【
図5】A)天然ヒト血清アルブミン(HSA)およびベバシズマブ(BEVA);B)ヒト血清アルブミン(HSA)とベバシズマブ(BEVA)の物理的混合物(PM)およびベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子(B-NP);C)天然ヒト血清アルブミン(HSA)およびグルタルアルデヒド(GLU);D)ヒト血清アルブミン(HSA)とグルタルアルデヒド(GLU)の物理的混合物(PM)およびグルタルアルデヒドと架橋しているアルブミンナノ粒子(NP-GLU)のDTAサーモグラム。
【
図6】pH7.4の水溶液に分散させた後のグルタルアルデヒドと架橋している空のナノ粒子(NP-GLU)およびベバシズマブ付加ナノ粒子(B-NP)の平均サイズの進展。データは平均±SD(n=3)として表している。
【
図7】PBS(pH7.4)中でのインキュベーション後のヒト血清アルブミンナノ粒子からのベバシズマブ放出プロフィール。データは平均±SD(n=3)として表している。
【
図8】PEG35でペグ化されたベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子(B-NP-PEG35)のTEMマイクロ写真。
【
図9】PBS(pH7.4)中でのインキュベーション後のアルブミンナノ粒子からのベバシズマブ放出プロフィール(・・・- - -)ベバシズマブ付加NP(B-NP);(-)PEG35でコーティングされたベバシズマブ付加NP(B-NP-PEG35);(・・・)Eudagrit(登録商標)S-100でコーティングされたベバシズマブ付加NP(B-NP-S-100);(- - -)HPMC-Pでコーティングされたベバシズマブ付加NP(B-NP-HPMC-P)。データは平均±SD(n=3)として表している。
【
図10】ナノ粒子のマイクロ流体工学に基づく自動電気泳動(L:ラダー;1:PEG35でコーティングされた空のナノ粒子(NP-PEG35);2:ベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子(B-NP);3:PEG35でコーティングされたベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子(B-NP-PEG35);4:ヒト血清アルブミン(HSA);5:ベバシズマブ)。
【
図11】ウィスターラットへの眼投与後の、
99mTc標識B-NP-PEG35(下段)と比較した
99mTc標識B-NP(上段)のin vivo SPECT-CT画像。各段の画像は、図に示されている時点で調査された同じ動物に対応している。活性は眼投与後4時間~8時間で消失するが、B-NP-PEG35では少なくとも8時間、眼に残っている。
【
図12】
99mTc-B-NPナノ粒子の眼投与後の異なる部位での放射能量の進展についての時間放射能曲線。関心体積(Volumes of interest)(VOI)は、グラフに示された部分に設定され、平均値カウントは各VOIから得、データは減衰補正されプロットされた。
【
図13】ウィスターラットへの静脈内投与後の、
99mTc標識B-NP-PEG35(下段)と比較した
99mTc標識B-NP(上段)のin vivo SPECT-CT画像。各段の画像は、図に示されている時点で調査された同じ動物に対応している。
【
図14】0時間(0日目)および24時間(1日目)の最初の治療で起こる角膜の腐食を示すタイムラインの概略図。
【
図15】以下で治療した動物の角膜の写真:(A)生理的血清[対照(-)];(B)アバスチン(登録商標)(4mg/mLベバシズマブ);(C)ベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子(B-NP);(D)PEG35,000でコーティングされたベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子(B-NP-PEG35);(E):ヒト血清アルブミン溶液(HSA);(F):アイリーア(登録商標)(EYLEA);(G):デキサメタゾン(DEXA)。
【
図16】火傷により影響を受けた角膜面積のパーセンテージとして表される傷害面積。異なる群の傷害間に統計的な有意差は見られなかった。データは平均±SD(n=9)として示されている。
【
図17】浸潤面積(IA)、血管が存在する角膜面積の分率。データは平均±SD(n=9)として示されている。
*p<0.01 対照(-)と有意に異なるANOVAとその後のテューキー検定
**p<0.01 BEVAと有意に異なるANOVAとその後のテューキー検定
***p<0.005 B-NPと有意に異なるANOVAとその後のテューキー検定
【
図18】傷害によって正規化した血管新生面積。データは平均±SD(n=9)として示されている。
*p<0.01 対照(-)と有意に異なるANOVAとその後のテューキー検定
**p<0.005 BEVAと有意に異なるANOVAとその後のテューキー検定
【
図19】ベバシズマブで処置した正常角膜および血管新生角膜の角膜切片の顕微鏡写真。(e、上皮層;s、間質;ac、前房;v、間質微小血管)。A)無傷上皮(e)を示すラット正常角膜の顕微鏡写真、扁平な角膜実質細胞が間に存在する規則的な平行コラーゲンラメラを含む間質;B)ベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子(B-NP)で処置した群のラット角膜の顕微鏡写真。正常範囲内の角膜の厚さ、無傷上皮およびわずかに無秩序でゆるんでいるが浸潤はあまり目立たない間質。C)PEG35でコーティングされたベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子(B-NP-PEG35)で処置した群のラット角膜の顕微鏡写真。正常な上皮、多数の間質微小血管(v)。正常値内の角膜の厚さ;DおよびE):ベバシズマブで処置した群のラット角膜の顕微鏡写真。上皮は維持されるが肥大し、間質から分離している。多数の無秩序な(desorganized)繊維芽細胞、強度の細胞浸潤および浮腫(eodema)(
*)による間質の肥大;F)生理的血清で処置した群のラット角膜の顕微鏡写真。角膜内の重大な変化、中心部のびらんおよび厚さの増加。大きな無秩序な繊維芽細胞、中程度の炎症性浸潤および血管新生(v)を伴う強度の繊維症。異常な修復の試みを示す上皮細胞からの嚢胞(c)形成。スケールバー、200μm、H.E.×100。
【
図20】PEG35でコーティングされたアルブミンナノ粒子(NP-PEG35)で処置した動物の脚部および頸部腫瘍の腫瘍対非腫瘍比。値は、放射性標識されたナノ粒子の静脈内(i.v.)投与の1時間後(青色バー)および4時間後(赤色バー)に得られた3体の動物からの平均値に対応する。
【
図21】腫瘍体積(mm
3)。データは平均±SD(n≧6)として示されている。
*p<0.05 生理的血清と有意に異なるANOVAとその後のテューキー検定
**p<0.01 生理的血清と有意に異なるANOVAとその後のテューキー検定
【
図22】ベバシズマブ血清濃度(μg/mL)対時間(日)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
前述のように、本発明の第一の側面は、医薬における使用のためのナノ粒子であって、前記ナノ粒子が、ソリッドコアを含んでなり、前記ソリッドコアが、非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体を含んでなり、前記モノクローナル抗体が、前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアが、非イオン性ポリマーでコーティングされていてもよい、医薬における使用のためのナノ粒子に関する。
【0032】
特定の実施形態では、本発明は、医薬における使用のためのナノ粒子であって、前記ナノ粒子が、ソリッドコアを含んでなり、前記ソリッドコアが、非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体からなり、前記モノクローナル抗体が、前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアが、非イオン性ポリマーでコーティングされていてもよい、医薬における使用のためのナノ粒子に関する。
【0033】
別の特定の実施形態では、本発明は、医薬における使用のためのナノ粒子であって、前記ナノ粒子が、ソリッドコアからなり、前記ソリッドコアが、非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体を含んでなり、前記モノクローナル抗体が、前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアが、非イオン性ポリマーでコーティングされていてもよい、医薬における使用のためのナノ粒子に関する。
【0034】
別の特定の実施形態では、本発明は、医薬における使用のためのナノ粒子であって、前記ナノ粒子が、ソリッドコアからなり、前記ソリッドコアが、非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体からなり、前記モノクローナル抗体が、前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアが、非イオン性ポリマーでコーティングされていてもよい、医薬における使用のためのナノ粒子に関する。
【0035】
本明細書で使用される場合、用語「ナノ粒子」は、球形または準球形の形状を有し、平均サイズが1μm未満のコロイド系を指す。特定の実施形態では、ナノ粒子は、100~900nm、より好ましくは150~800nm、さらに好ましくは200~500nm、さらに好ましくは200~400nmの範囲の平均サイズを有する。
【0036】
「平均サイズ」は、水性媒体中で一緒に移動するナノ粒子集団の平均直径として理解される。これらのシステムの平均サイズは、当業者に知られている、例えば、以下の実験部分で、記載されている標準的な方法により測定することができる。
【0037】
本発明において、ナノ粒子という用語は、ナノスフェアまたは修飾されたナノスフェアを指す。
【0038】
「ナノスフェア」は、モノクローナル抗体が該マトリックス全体に分布し、従って、明確なコア/シェル構造を特徴としない、アルブミンのソリッド非架橋マトリックスまたはアルブミンの連続材料と理解されるべきである。
【0039】
「修飾されたナノスフェア」は、アルブミンのソリッド非架橋マトリックスが非イオン性ポリマーでコーティングされているかまたは修飾されている、上記で定義されたナノスフェアと理解されるべきである。
【0040】
それに従って、本発明のナノ粒子は、非イオン性ポリマーではない任意の他のポリマーコーティングが存在しない。
【0041】
好ましい実施形態では、本発明のナノ粒子は、ソリッドコアがコーティングされている場合に、非イオン性ポリマーではない任意の他のポリマーコーティングが存在しないナノ粒子である。本発明のナノ粒子はコーティングポリマーを必要としないが、本発明者らは、非イオン性ポリマーではない任意の他のポリマーコーティングが存在しない場合に、前記ナノ粒子が、イオン性コーティングが使用されたときの同じ粒子と比べて有利な効果を示すことを見出した。例えば、本発明のナノ粒子がイオン性ポリマーでコーティングされている場合、前記ナノ粒子は抗体の非常に速い放出プロフィール(バースト放出)を示す。
【0042】
従って、本発明で使用されるナノ粒子が非イオン性ポリマーでコーティングされていない場合、前記ナノ粒子は、上記の定義によるナノスフェアとみなされるべきであり、本発明で使用されるナノ粒子が非イオン性ポリマーでコーティングされている場合、前記ナノ粒子は、上記の定義による修飾されたナノスフェアとみなされるべきである。
【0043】
アルブミンマトリックスが他の手段によって架橋または安定化される先行技術で使用されるナノ粒子とは対照的に、本発明で使用されるナノ粒子は、アルブミンの非架橋マトリックスのソリッドコアを有することを特徴とし、アルブミンとモノクローナル抗体の局所的相互作用から生じるそのような組織化された構造またはパターンとして理解される。従って、本発明の範囲において、ナノ粒子はソリッドマトリックス系を形成している。
【0044】
従って、用語「ソリッドコア」は、モノクローナル抗体がマトリックス全体に分布している、好ましくは均一に分布している連続構造をアルブミンが形成しているソリッド非架橋マトリックス型構造を指す。
【0045】
従って、本発明で使用されるナノ粒子のソリッドコアは、外部構造と内部構造を区別しておらず、従って、モノクローナル抗体は、アルブミンのマトリックス全体に分布している、より好ましくは均一に分布しているが、その中心部空洞内に封入されておらずまたは閉じ込められていない。
【0046】
特定の実施形態では、本発明で使用されるナノ粒子は、上記で定義されたナノスフェアである。より詳細には、前記ナノ粒子において、ソリッドコアは非イオン性ポリマーでコーティングされていない。本文全体に記載され、実施例にも示されているとおり、本発明のナノ粒子は安定しており、いかなる封入も必要としない。本発明において、用語「安定した」は、粒子がその材料の分解なしに医薬で使用することができるような粒子の安定性の増加を指す。従って、特定の実施形態では、本発明のナノ粒子は、任意選択のコーティングポリマーの存在の有無にかかわらず、安定したナノ粒子である。
【0047】
別の特定の実施形態では、本発明で使用されるナノ粒子は、上記で定義された修飾されたナノスフェアであり、すなわち、アルブミンのソリッドマトリックスまたはアルブミンの連続材料のソリッドコアを含んでなるかまたはそれからなり、ここで、モノクローナル抗体が前記マトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアが非イオン性ポリマーでコーティングされている。
【0048】
実際、本発明のさらなる側面は、ソリッドコアを含んでなるナノ粒子であって、前記ソリッドコアが、非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体を含んでなり、前記モノクローナル抗体が、前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアが、非イオン性ポリマーでコーティングされている、ナノ粒子に関する。
【0049】
より詳細には、本発明はまた、ソリッドコアを含んでなるナノ粒子であって、前記ソリッドコアが、非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体からなり、前記モノクローナル抗体が、前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアが、非イオン性ポリマーでコーティングされている、ナノ粒子に関する。
【0050】
さらに詳細には、本発明は、ソリッドコアからなるナノ粒子であって、前記ソリッドコアが、非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体を含んでなり、前記モノクローナル抗体が、前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアが、非イオン性ポリマーでコーティングされている、ナノ粒子に関する。
【0051】
さらに詳細には、本発明はまた、ソリッドコアからなるナノ粒子であって、前記ソリッドコアが、非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体からなり、前記モノクローナル抗体が、前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアが、非イオン性ポリマーでコーティングされている、ナノ粒子に関する。
【0052】
アルブミン
本明細書で使用される場合、用語「アルブミン」は、球状の、負電荷を帯びたタンパク質のファミリーを指し、その最も一般的なものは血清アルブミンである。アルブミンファミリーの総てのタンパク質は水溶性で、濃厚塩溶液に適度に溶け、熱変性を起こす。アルブミンは、一般的に血漿中に見られ、グリコシル化されていないという点で他の血液タンパク質とは異なる。
【0053】
アルブミンの一般的な構造は、血圧の調節に不可欠な比較的固定された形状の維持を可能にする複数の長いαヘリックスを特徴とする。
【0054】
特定の実施形態では、前記アルブミンは血清アルブミンである。血清アルブミンは、肝臓で生成され、血漿中に溶解している、哺乳類で最も豊富なタンパク質である。
【0055】
より好ましくは、血清アルブミンはヒト血清アルブミン(HSA)またはウシ血清アルブミン(BSA)であり、さらに好ましくは、血清アルブミンはヒト血清アルブミンである。
【0056】
ヒト血清アルブミンはALB遺伝子によってコードされているが、ウシ血清アルブミンなどの他の哺乳類型は化学的に類似している。
【0057】
ヒト血清アルブミンは、およそ65.000Daの分子量を有し、585個のアミノ酸からなる。HSAのアミノ酸配列は、合計17つのジスルフィド架橋、1つの遊離チオール(Cys34)、および唯一のトリプトファン(Trp214)を含む。
【0058】
モノクローナル抗体
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」(mAbまたはmoAb)は、Bリンパ球の単一クローンによってまたは1種類の抗体分子だけを分泌するハイブリドーマと呼ばれる単細胞によって産生される抗体または抗体フラグメントを指す。モノクローナル抗体は、当業者に公知の方法により、例えば、抗体産生細胞と骨髄腫または他の自己貫入性(self-penetrating)細胞系統との融合からハイブリッド抗体形成細胞を作製することにより作出される。
【0059】
モノクローナル抗体は、同じエピトープ(抗体によって認識される抗原の部分)に結合するという点で、一価の親和性を有する。ほとんど総ての物質を考えると、その物質に特異的に結合するモノクローナル抗体を作出することが可能である。
【0060】
本発明の目的では、ナノ粒子のアルブミンマトリックスに組み込まれるモノクローナル抗体は、眼組織内もしくは癌性組織内の少なくとも1つの標的に対して親和性を有するか、または組織自体に対して親和性を有するべきである。例えば、標的は、眼障害もしくは癌に関連する受容体または眼障害もしくは癌に関連するタンパク質であり得る。
【0061】
特定の実施形態では、前記モノクローナル抗体は、新しい血管の形成を刺激する「血管内皮細胞増殖因子」(VEGF)と呼ばれる天然タンパク質の機能を阻害するベバシズマブ(アバスチン(登録商標));VEGF-Aとの強い結合を提供するラニビズマブ(ルセンティス(登録商標));固形腫瘍で過剰発現されるHER-2受容体を認識するトラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標));EGFR受容体を認識するセツキシマブ(アービタックス(登録商標))およびCD20を認識するリツキシマブ(マブセラ(登録商標))から選択される。
【0062】
好ましい実施形態では、1種以上の抗VEGF抗体(またはそのフラグメント)が、アルブミンマトリックスに組み込まれるように選択され、それによって、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)自体の標的化が可能になる。従って、好ましい実施形態では、前記モノクローナル抗体は、ベバシズマブおよびラニビズマブから選択され、より好ましくはベバシズマブである。
【0063】
別の好ましい実施形態では、1種以上の抗VEGF R2抗体(またはそのフラグメント)が、アルブミンマトリックスに組み込まれるように選択され、それによって、血管内皮細胞増殖因子受容体2(VEGF R2)を発現する網膜色素上皮細胞などの細胞の標的化が可能になる。抗VEGF R2モノクローナル抗体の例としては、限定されるものではないが、mAbクローンAvas12a1およびmAb 2C3が挙げられる。
【0064】
網膜色素上皮細胞などの上皮細胞によるVEGFおよびVEGF R2受容体の過剰発現は、例えば、加齢黄斑変性症(AMD)と関連している。
【0065】
別の好ましい実施形態では、前記モノクローナル抗体は眼標的薬剤、すなわち、眼障害に関係している眼組織によって産生されるかまたはその眼組織に関連する抗原に特異的な抗体である。
【0066】
特定の実施形態では、前記モノクローナル抗体/アルブミン重量比率は、0.01~0.5、より好ましくは0.01~0.2の範囲である。モノクローナル抗体/アルブミン重量比率が0.01未満のナノ粒子は経時的に安定していないことが観察されている。
【0067】
非イオン性ポリマー
本明細書で使用される用語「非イオン性ポリマー」は、ナノ粒子の調製条件では正味電荷を示さない親水性ポリマーを指す。さらに、前記非イオン性ポリマーは、生分解性である、すなわち、in vivo使用中に分解する必要があるだけでなく、生体適合性である、すなわち、実質的に非毒性であるかまたは接触する生体組織または生物系に対して有害な影響を与えない必要がある。
【0068】
本発明における使用のために好適な非イオン性ポリマーの例は、ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリアリルアルコール;ポリビニルメチルエーテル;ポリビニルアセタール;ポリアルキレンアルコール;少なくとも1つのアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、またはそのような基の2つ以上の組合せで置換されていてもよい多糖類;ポリエステル;ポリアミド、ポリウレタンおよびポリエーテルである。
【0069】
好ましい多糖類としては、限定されるものではないが、キサンタンガム、グアーガム、デンプン、セルロース、デキストランおよび前述のものの2つ以上の組合せが挙げられる。
【0070】
デンプンとしては、例えば、トウモロコシデンプンおよびヒドロキシプロピルデンプンが挙げられる。
【0071】
セルロース(Cellullose)としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロースおよびn-プロピルセルロースを含むC1-C6-アルキルセルロースなどのアルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシ-n-プロピルセルロース、ヒドロキシ-n-ブチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびエチルヒドロキシエチルセルロースなどのヒドロキシ-C1-C6-アルキルセルロースおよびヒドロキシ-C1-C6-アルキル-C1-C6-アルキルセルロースを含む置換アルキルセルロースが挙げられる。
【0072】
特定の実施形態では、前記非イオン性ポリマーは、多糖類、ポリビニルピロリドン、ポリエステルおよびポリアルキレングリコールから選択される。好ましくは、前記非イオン性ポリマーは、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシ-n-プロピルセルロース、ヒドロキシ-n-ブチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、およびエチルヒドロキシエチルセルロース;デンプン;デキストラン;商品名Eudagritの化合物から選択されるポリエステル;またはポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール(a polylakylene glycol)から選択される水溶性セルロースである。
【0073】
別の特定の実施形態では、前記非イオン性ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、デンプン、デキストラン70、Eudagrit(登録商標)NM;Eudagrit(登録商標)NE、ポリビニルピロリドン(PVP)およびポリエチレングリコール(PEG)から選択される。ポリエチレングリコールは、好ましくは、その分子量に応じてPEG-10,000、PEG-20,000またはPEG-35,000である。
【0074】
好ましくは、前記非イオン性ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびPEG35,000から選択される。より好ましくは、前記非イオン性ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびPEG35,000から選択される。さらに好ましくは、前記非イオン性ポリマーはPEG35,000である。
【0075】
前記非イオン性ポリマーは、アルブミンナノ粒子のコーティングとして働き、より大きな安定性を与え、一般的に、ナノ粒子中に付加されるモノクローナル抗体の量の増加を可能にする。コーティングの存在がナノ粒子の物理的特性に大きな影響を与えないことが示されている。コーティングの性質によってのみ、サイズおよびゼータ電位がわずかに増加または減少し得る。
【0076】
特定の実施形態では、非イオン性ポリマー/アルブミン比率は、0.02~5(w/w)、より好ましくは0.05~2(w/w)の範囲である。
【0077】
別の特定の任意選択の実施形態では、本発明で使用されるナノ粒子は、ナノ粒子を乾燥させる過程、または従来の方法によって、例えば、噴霧乾燥によってナノ粒子を含有する懸濁液を乾燥させる過程で、アルブミンマトリックスを保護するための化合物をさらに含んでなる(以下、「保護剤」という)。前記保護剤は、ナノ粒子のソリッドマトリックスの一部を形成しないが、その構造が維持されるように、効率的な方法でナノ粒子の乾燥を促進する増量剤として働く。事実上、これらの特性を満たす任意の化合物は保護剤として使用することができる。特定の実施形態では、前記保護剤は糖類である。
【0078】
本発明において使用することができる保護剤の限定されない例示的な具体例としては、ラクトース、マンニトール、スクロース、マルトース、トレハロース、マルトデキストリン、グルコース、ソルビトールなどだけでなく、プレバイオティクス特性を有する物質、例えば、オリゴフルクトース、ペクチン、イヌリン、オリゴ糖(例えば、ガラクトオリゴ糖、人乳オリゴ糖)、ラクツロース、食物繊維など、およびそれらの任意の組合せが挙げられる。特定の実施形態では、保護剤は、ラクトース、マンニトール、スクロース、マルトース、トレハロース、マルトデキストリン、グルコース、ソルビトールおよびそれらの組合せから選択される。好ましくは、保護剤はスクロースである。本発明で使用されるナノ粒子が保護剤を含む場合、アルブミンマトリックスと保護剤の重量比は広い範囲内で変動し得るが、特定の実施形態では、アルブミン:保護剤重量比は1:0.1~5、典型的には1:0.5~4、好ましくは約1:1である。
【0079】
いくつかの実施形態では、本発明で使用されるナノ粒子は、治療送達の前、その間またはその後の粒子位置の画像化を可能にすることにより治療薬の画像誘導標的化送達を可能にする少なくとも1つの造影剤を含んでなる。さまざまな造影剤がナノ粒子の表面への結合に好適であり、限定されるものではないが、蛍光造影剤(インドシアニングリーン、シアニン5、シアニン7、シアニン9、フルオレセインおよび緑色蛍光タンパク質など)、放射性核種標識造影剤(ヨウ素-124、99mTcを含んでなる薬剤など)および磁気共鳴造影剤(ガドリニウム造影剤など)が含まれる。
【0080】
本発明で使用されるナノ粒子は、制御可能なプロセスでモノクローナル抗体を送達し得る。そのような制御は、長期にわたるモノクローナル抗体の送達を可能にし得る。例えば、送達は1~30日間にわたって起こり得ることが企図される。制御可能な方法で治療薬を送達するように作られるだけでなく、ナノ粒子は、治療薬の送達の前、その間またはその後のナノ粒子の検出および画像化のためのさまざまな選択肢を提供するように作られ得る。
【0081】
本発明で使用されるナノ粒子は、併用療法も提供するために、第二のモノクローナル抗体または治療薬を含んでいてもよい。
【0082】
前記治療薬としては、例えば、カルシトニン、インスリンまたはシクロスポリンAなどの他のタンパク質が挙げられる。
【0083】
第二のモノクローナル抗体は、ベバシズマブ(アバスチン(登録商標))、ラニビズマブ(ルセンティス(登録商標))、トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))、セツキシマブ(アービタックス(登録商標))またはリツキシマブ(マブセラ(登録商標))などの本明細書で前述したもののいずれかであり得る。
【0084】
ナノ粒子の調製方法
本発明で使用されるナノ粒子は、精製および乾燥前に水性環境にタンパク質(アルブミンおよびモノクローナル抗体)を沈殿させることにより調製することができる。
【0085】
この方法は、以下の工程:
a)アルブミンおよびモノクローナル抗体の水溶液を調製する工程;
b)工程a)の水溶液をpH4~5に滴定する工程;
c)工程b)の水溶液に脱溶媒和剤を添加する工程
を含んでなる。
【0086】
この方法は脱溶媒和処理に基づいており、アルブミンおよびモノクローナル抗体の水溶液を、一定の撹拌、温度およびpH条件下で脱溶媒和剤(典型的にはエタノール、アセトンまたはTHFなどの有機溶媒)を、滴下するなど、ゆっくりと添加することにより、ゆっくりと脱溶媒和する。
【0087】
特定の実施形態では、工程a)の水溶液の調製に使用されるアルブミンは、ヒト血清アルブミンまたはウシ血清アルブミンであり、より好ましくはヒト血清アルブミンである。
【0088】
別の特定の実施形態では、工程a)の水溶液の調製に使用されるモノクローナル抗体は、ベバシズマブ(アバスチン(登録商標))、ラニビズマブ(ルセンティス(登録商標))、トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))、セツキシマブ(アービタックス(登録商標))およびリツキシマブ(マブセラ(登録商標))から選択される。より好ましくは、前記モノクローナル抗体はベバシズマブまたはラニビズマブであり、さらに好ましくはベバシズマブである。
【0089】
アルブミンおよびモノクローナル抗体の溶液は、当業者に知られている従来の方法により、例えば、アルブミンとモノクローナル抗体を水溶液に添加することにより調製することができる。
【0090】
アルブミンとモノクローナル抗体は、好ましくは、室温で、すなわち、18℃~25℃、好ましくは20℃~22℃に含まれる温度で混合される。
【0091】
水溶液に添加することができるアルブミンの量は広い範囲内で変動し得るが、特定の実施形態では、前記水溶液に添加する量は、0.1%~10%(w/v)、好ましくは0.5%~5%(w/v)、さらに好ましくは1%~2%(w/v)に含まれる。
【0092】
同様に、水溶液に添加することができるモノクローナル抗体の量は広い範囲内で変動し得るが、特定の実施形態では、前記水溶液に添加する量は、0.005%~1%(w/v)、好ましくは0.01%~0.5%(w/v)、さらに好ましくは0.01%~0.4%(w/v)に含まれる。
【0093】
特定の実施形態では、アルブミンおよびモノクローナル抗体は、モノクローナル抗体:アルブミン重量比率が0.01~0.5、より好ましくは0.01~0.2の範囲であるように水溶液に添加される。
【0094】
好ましい実施形態では、アルブミンおよびモノクローナル抗体の水溶液は、例えば、撹拌による、均質化に供される。
【0095】
ナノ粒子の調製方法の工程b)は、アルブミンおよびモノクローナル抗体を含有する水溶液のpHを弱酸性pHに下げることを含む。これによりこの方法の後続工程でナノ粒子の沈澱が可能になる。これは、工程a)を実施した後に得られた水溶液に、HCl 1Mなどの酸性成分を添加することにより行うことができる。
【0096】
特定の実施形態では、前記水溶液は、室温で少なくとも10分間インキュベートされる。
【0097】
ナノ粒子の調製方法の工程c)では、工程b)を実施した後に得られた水溶液に脱溶媒和剤が添加される。
【0098】
好ましい実施形態では、工程b)を実施した後に得られた水溶液への脱溶媒和剤の添加は撹拌下で行われる。
【0099】
別の好ましい実施形態では、前記脱溶媒和剤は、エタノールおよびテトラヒドロフラン(THF)から選択された有機溶媒であり、より好ましくはエタノールである。
【0100】
脱溶媒和剤は、撹拌下で水溶液にゆっくりと添加される。より好ましくは、得られた混合物を撹拌しながら、脱溶媒和剤が、アルブミンおよびモノクローナル抗体の水溶液に滴下される。
【0101】
好ましい実施形態では、前記添加は、窒素雰囲気下などの不活性雰囲気下で実施され得る。
【0102】
前述の条件下、すなわち、室温および撹拌下でアルブミンおよびモノクローナル抗体の水溶液に脱溶媒和剤を添加した後、本発明のナノ粒子が自発的に形成される。特定の実施形態では、前記ナノ粒子は、それらが得られた媒体中に懸濁している。
【0103】
従って、本発明の方法は、単純な脱溶媒和処理によってナノ粒子の均一な分散の形成を可能にし、モノクローナル抗体がアルブミンマトリックス全体に分布しているマトリックス型構造を有するソリッドナノスフェアをもたらす。
【0104】
従って、この処理によって得られたナノ粒子は、脱溶媒和剤添加後のモノクローナル抗体とアルブミンの局所的相互作用によって自発的に形成される自己集合ナノ粒子とみなすことができる。
【0105】
ナノ粒子の作出方法は、例えば、濾過技術、遠心分離または超遠心分離によって精製する付加的工程を含んでなり得る。
【0106】
同様に、前記方法は、本発明のナノ粒子を粉末形態で得るために、形成されたナノ粒子を乾燥させる付加的工程を含み得る。前記ナノ粒子のこの提案形態はナノ粒子の安定性に寄与し、医薬品におけるナノ粒子の最終用途にさらに特に有用である
【0107】
好ましい実施形態では、工程c)を実施した後または精製した後に得られたナノ粒子は、従来の方法、例えば、真空乾燥によってまたは有利には噴霧乾燥によってもしくはフリーズドライ(凍結乾燥)によって、乾燥処理に供し、ナノ粒子を乾燥させる。
【0108】
特定の実施形態では、この乾燥処理は、特に噴霧乾燥によってまたは凍結乾燥によって行われる場合に、ナノ粒子が形成されたら保護剤をナノ粒子へ添加することを含んでなる。この保護剤、例えば、糖類などはその乾燥過程の間ナノ粒子を保護する。
【0109】
本発明において保護剤として使用することができる糖類の限定されない例示的な具体例としては、ラクトース、マンニトール、スクロース、マルトース、トレハロース、マルトデキストリン、グルコース、ソルビトールなどだけでなく、プレバイオティクス特性を有する多糖類、例えば、オリゴフルクトース、ペクチン、イヌリン、オリゴ糖(例えば、ガラクトオリゴ糖、人乳オリゴ糖)、ラクツロース、食物繊維などおよびそれらの混合物が挙げられる。特定の実施形態では、保護剤は、ラクトース、マンニトール、スクロース、マルトース、トレハロース、マルトデキストリン、グルコース、ソルビトールおよびそれらの組合せから選択される。ナノ粒子が保護剤を含む場合、これは好適な量で添加され;ナノ粒子のマトリックスと保護剤の重量比は広い範囲内で変動し得るが、特定の実施形態では、アルブミン:保護剤重量比は1:0.1~5、典型的には1:0.5~4、好ましくは約1:1である。
【0110】
ナノ粒子は噴霧乾燥によっても乾燥させることができる。そのために、ナノ粒子と保護剤を含有する懸濁液が噴霧乾燥機に導入され、処理条件[吸気温度、排気温度、空気圧、サンプルポンピング速度、吸引、および気流]が制御される。当業者は各場合に最も好適な処理条件を設定することができる。
【0111】
この方法によって、ナノ粒子を乾燥粉末の形態で得ることが可能になり、このことが制御された条件または環境条件下での長期保存中のナノ粒子の安定性に寄与し、また、種々の意図された固体および液体製品に容易にこれを組み込むこともできる。
【0112】
ナノ粒子は保護剤の添加前に形成されるため、これはアルブミンマトリックスとのコンジュゲートまたは複合体を形成しない。
【0113】
別の特定の実施形態では、本発明で使用されるナノ粒子が非イオン性ポリマーでコーティングされている場合、コーティングされたナノ粒子は、上記で定義された方法の工程a)~C)に従って、すでに形成されたアルブミン-モノクローナルナノ粒子を、非イオン性ポリマーとともにインキュベートすることにより得ることができる。
【0114】
特定の実施形態では、前記非イオン性ポリマーは、上に記載したもののいずれかであり得る。好ましくは、前記非イオン性ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、デンプン、デキストラン70、Eudagrit(登録商標)NM、Eudagrit(登録商標)NE、ポリビニルピロリドンおよびポリエチレングリコール(PEG)から選択される。より好ましくは、前記非イオン性ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびPEG35,000から選択される。
【0115】
特定の実施形態では、非イオン性ポリマー/アルブミン比率は、0.02~5、より好ましくは0.05~2の範囲である。
【0116】
別の特定の実施形態では、非イオン性ポリマー中でのナノ粒子のインキュベーションは1時間未満、より好ましくは45分未満、行われる。
【0117】
医薬組成物
上に記載したナノ粒子は、モノクローナル抗体を閉じ込め、処理および保存中だけでなく目的の生物学的部位に最終的に送達されるまでそれらを保護する能力を有する。従って、種々の意図された製品(例えば、医薬組成物または化粧用組成物)に組み込まれた後のモノクローナル抗体の失活(desactivation)は防止されるかまたは実質的に減少する。実際、実験的試験では、モノクローナル抗体がアルブミンマトリックス中でその完全性を維持することが指摘されている
【0118】
さらに、本発明のナノ粒子は、生物活性もまた完全に維持するモノクローナル抗体の持続放出を可能にすることから、角膜血管新生動物モデルで得られた生物活性データによって指摘されるように、in vivo用途に重要な薬物送達システムを構成する。実際、実施されたin vivo試験(experimens)では、アルブミンおよびモノクローナル抗体のナノ粒子は、遊離形態の同じモノクローナル抗体の投与と比較すると、角膜の血管形成の影響を受ける眼表面の大幅な減少をもたらすことが示された。
【0119】
さらに、本発明のナノ粒子を用いて実施された体内分布アッセイにより、それらが腫瘍組織に濃縮可能であることが指摘されていることから、本発明のナノ粒子は、モノクローナル抗体を罹患癌性組織に放出するための非常に有望なナノ粒子システムとなる。
【0120】
従って、別の側面では、本発明は、懸濁液形態または乾燥粉末形態のいずれかの、上記で定義された複数のナノ粒子と、薬学上許容可能な賦形剤、担体またはビヒクルを含んでなる医薬組成物に関する。
【0121】
ナノ粒子の特性はすでに上記で定義されており、引用することにより本明細書の一部とされる。
【0122】
特定の実施形態では、本発明の医薬組成物に含まれるナノ粒子は乾燥粉末形態である。
【0123】
医薬組成物を投与するいずれの好適な手段も本発明において使用可能であり、好ましくは、医薬組成物は、ヒトまたは動物に、局所的または非経口的に、より好ましくは、 静脈内投与、動脈内投与、肺内投与、眼内投与、筋肉投与、経皮もしくは皮下投与、経口投与または吸入により投与される。
【0124】
より好ましくは、医薬組成物は、経口、局所または非経口投与に好適なビヒクルまたは担体を含んでなる。
【0125】
特定の投与様式に基づき、医薬組成物は、錠剤、丸剤、カプセル剤、サシェ剤、顆粒剤、散剤、懸濁液、エマルション、無水または含水局所処方物および溶液として処方され得る
【0126】
薬学上許容可能な担体またはビヒクルは当業者に周知であり、容易に一般に入手可能である。薬学上許容可能な担体またはビヒクルは、有効処方物およびその成分のそれぞれに対して化学的に不活性であるもの、ならびに使用条件下で有害な副作用または毒性がないものであることが好ましい。
【0127】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、対象の循環系に治療薬を経口的、局所的、非経口的、または静脈内に輸送するための送達システムとして適合される。
【0128】
経口投与に好適な処方物としては、有効量のナノ粒子などの溶液、または水もしくは生理食塩水などの希釈液に溶解させた前記を含んでなる組成物;それぞれ所定量のナノ粒子を含有するカプセル剤、サシェ剤、錠剤、トローチ剤;適当な液体中の懸濁液;およびエマルションが含まれる。
【0129】
局所処方物としては、眼科用水溶液もしくは懸濁液、眼科用軟膏、眼内挿入物または外的眼表面にナノ粒子を供給できる任意の他の処方物が含まれる。好ましくは、局所処方物は、液滴として適用するためのナノ粒子を含有する眼科用溶液または懸濁液である。上述の処方物はいずれも、眼用処方物に一般に見られる好適な溶媒、防腐剤およびその他の薬学上許容可能な賦形剤を含み得る。
【0130】
非経口製剤は一般に、溶液中に0.5~25重量%のナノ粒子を含有する。前記処方物は、アンプルおよびバイアルなどの単位用量または多用量密閉容器に提供することができ、使用直前に滅菌液担体、例えば、注射水を加えるだけのフリーズドライ(凍結乾燥)条件下で保存することができる。
【0131】
治療される疾患
上述のように、アルブミンおよびモノクローナル抗体のナノ粒子は、眼疾患および癌の治療のための非常に有望な薬物送達システムであることが示されている。
【0132】
従って、本発明の別の側面は、眼疾患の治療における使用のための、上記で定義されたナノ粒子または組成物に関する。
【0133】
この側面の特定の実施形態では、前記ナノ粒子はソリッドコアを含んでなり、前記ソリッドコアは非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体を含んでなり、前記モノクローナル抗体は前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアは、任意のポリマーでコーティングされていない。より詳細には、前記ソリッドコアは、非イオン性ポリマーでコーティングされていない。
【0134】
この側面の別の特定の実施形態では、前記ナノ粒子はソリッドコアを含んでなり、前記ソリッドコアは非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体からなり、前記モノクローナル抗体は前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアは、任意のポリマーでコーティングされていない。より詳細には、前記ソリッドコアは、非イオン性ポリマーでコーティングされていない。
【0135】
この側面の別の特定の実施形態では、前記ナノ粒子はソリッドコアからなり、前記ソリッドコアは非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体を含んでなり、前記モノクローナル抗体は前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアは、任意のポリマーでコーティングされていない。より詳細には、前記ソリッドコアは、非イオン性ポリマーでコーティングされていない。
【0136】
この側面の別の特定の実施形態では、前記ナノ粒子はソリッドコアからなり、前記ソリッドコアは非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体からなり、前記モノクローナル抗体は前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアは、任意のポリマーでコーティングされていない。より詳細には、前記ソリッドコアは、非イオン性ポリマーでコーティングされていない。
【0137】
別の側面では、本発明はまた、眼疾患の治療のための方法であって、そのような治療を必要とする対象に上記のナノ粒子またはナノ粒子を含んでなる組成物を投与することを含んでなる方法に関する。
【0138】
さらに別の側面では、本発明はまた、眼疾患の治療用の医薬の製造のための、上記のナノ粒子またはナノ粒子を含んでなる組成物の使用に関する。
【0139】
前記組成物は、対象に経口的、局所的または眼内注射によって投与され得る。好ましい実施形態では、組成物は、局所的に、例えば、眼の粘膜に接近する経路により、または硝子体内注射により投与される。
【0140】
従って、好ましい実施形態では、ナノ粒子が眼疾患の治療のために投与される場合、前記ナノ粒子は、本明細書の先に記載したものなどの局所用または注射用医薬組成物で投与される。
【0141】
別の特定の実施形態では、治療される眼疾患は、黄斑変性、角膜血管新生または血管形成、虹彩血管新生または血管形成、網膜血管新生または血管形成、糖尿病性増殖網膜症、非糖尿病性増殖網膜症、緑内障、感染性結膜炎、アレルギー性結膜炎、潰瘍性角膜炎、非潰瘍性角膜炎、上強膜炎、強膜炎、糖尿病性網膜症、ブドウ膜炎、眼内炎、感染状態および炎症状態から選択される。
【0142】
本発明の別の側面は、癌の治療における使用のための、上記で定義されたナノ粒子または組成物に関する。
【0143】
この側面の特定の実施形態では、前記ナノ粒子はソリッドコアを含んでなり、前記ソリッドコアは非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体を含んでなり、前記モノクローナル抗体は前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアは非イオン性ポリマーでコーティングされている。
【0144】
この側面の別の特定の実施形態では、前記ナノ粒子はソリッドコアを含んでなり、前記ソリッドコアは非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体からなり、前記モノクローナル抗体は前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアは非イオン性ポリマーでコーティングされている。
【0145】
この側面の別の特定の実施形態では、前記ナノ粒子はソリッドコアからなり、前記ソリッドコアは非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体を含んでなり、前記モノクローナル抗体は前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアは非イオン性ポリマーでコーティングされている。
【0146】
この側面の別の特定の実施形態では、前記ナノ粒子はソリッドコアからなり、前記ソリッドコアは非架橋アルブミンマトリックスおよびモノクローナル抗体からなり、前記モノクローナル抗体は前記アルブミンマトリックス全体に分布しており、前記ソリッドコアは非イオン性ポリマーでコーティングされている。
【0147】
別の側面では、本発明はまた、癌の治療のための方法であって、そのような治療を必要とする対象に上記のナノ粒子またはナノ粒子を含んでなる組成物を投与することを含んでなる方法に関する。
【0148】
さらに別の側面では、本発明はまた、癌の治療用の医薬の製造のための、上記のナノ粒子またはナノ粒子を含んでなる組成物の使用に関する。
【0149】
好ましい実施形態では、前記組成物は、個体に非経口的に、例えば、静脈投与、動脈内投与、筋肉投与または皮下投与により投与される。
【0150】
従って、好ましい実施形態では、ナノ粒子が癌の治療のために投与される場合、前記ナノ粒子は、本明細書の先に記載したものなどの非経口処方物で投与される。
【0151】
別の特定の実施形態では、治療される癌には、限定されるものではないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫および白血病が含まれる。ナノ粒子の投与により治療される癌の例としては、例えば、乳癌、肺癌、膵臓癌、多発性骨髄腫、腎細胞癌、前立腺癌、黒色腫、結腸癌、結腸直腸癌、腎臓癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、腎癌および胃癌、膀胱癌または扁平上皮癌が挙げられる。
【0152】
いくつかの実施形態では、本発明で使用されるナノ粒子、またはそれらを含有する組成物は、眼疾患または癌の治療のいずれかのための第二の治療化合物および/または第二選択療法とともに投与され得る。
【0153】
本組成物と第二の化合物または第二選択療法の投与頻度は、治療の過程で調整可能である。いくつかの実施形態では、第一選択および第二選択療法は、同時、逐次、または併用投与される。別個に投与される場合、ナノ粒子組成物および第二化合物は、異なる投与頻度または投与間隔で投与することができる。
【0154】
あるいは、本発明で使用されるナノ粒子は、併用療法も提供するために、第二のモノクローナル抗体または治療薬を含んでいてもよい。
【0155】
前記治療薬としては、例えば、カルシトニン、インスリンまたはシクロスポリンAなどの他のタンパク質が挙げられる。
【0156】
第二のモノクローナル抗体は、ベバシズマブ(アバスチン(登録商標))、ラニビズマブ(ルセンティス(登録商標))、トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))、セツキシマブ(アービタックス(登録商標))またはリツキシマブ(マブセラ(登録商標))などの本明細書で前述したもののいずれかであり得る。
【実施例】
【0157】
以下に示す実施例では、次の略語を使用する。
BEVA:ベバシズマブ
B-NP:ベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子
HSA:ヒト血清アルブミン
PM:物理的混合物
NP-Glu:グルタルアルデヒドと架橋しているアルブミンナノ粒子
B-NP-GLU:グルタルアルデヒドと架橋しているベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子
NP-PEG35:ポリエチレングリコール35,000でコーティングされたアルブミンナノ粒子
B-NP-PEG35:ポリエチレングリコール35,000でコーティングされたベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子
B-NP-HPMC-P:ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートでコーティングされたベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子
B-NP-S100:Eudagrit S-100でコーティングされたベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子
【0158】
材料
ヒト血清アルブミンまたはHSA(画分V、純度96~99%)、ポリエチレングリコール35,000(PEG35)、およびグルタルアルデヒド(GLU)25%水溶液はSigma(マドリード、スペイン)から入手した。
【0159】
ベバシズマブ(アバスチン(登録商標))は、Roche(スペイン)から購入した。ヒドロキシプロピルメチルセルロースK100 LV(HPMC;MW164,000)はAshland Chemical Hispania(スペイン)からのものであった。アバスチン(登録商標)は、シングルユースバイアルに注入溶液用の濃縮液として提供され、4mL中100mgのベバシズマブまたは16mL中400mgのベバシズマブ(25mg/mL濃度)の公称量を含有する。ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMC-P)は、Acros Organic(スペイン)から購入した。マイクロBCAタンパク質アッセイキットは、Pierce(Thermo Fisher Scientific Inc.(イリノイ州、USA)から購入した。ベバシズマブの検出に使用するShikari Q-beva酵素イムノアッセイは、Matriks Biotech(トルコ)。アセトンは、Prolabo、VWR International Ltd(英国)から購入し、塩化スズ二水和物および無水エタノールは、Panreac Pharma(スペイン)から購入した。イソフルオロンはBraunから、安楽死剤T-69 IntervetはSchering-Plough Animal Healthからのものであった。テクネチウム-99mペルテクネタート溶出剤は、General Electricから購入したDrytec(登録商標)99Mo-99mTc発生装置から得た。
【0160】
物理化学的研究のためには、以下の装置を使用した:Thermo/Nicolet 360FT-IR(E.S.P.Thermo Fisher Scientific、USA)、回折計Bruker Axs D8 Advance(ドイツ)、熱重量分析(TG)および示差走査熱量測定には、(DSC)Mettler Toledo dsc822eをMettler Toledo TSO 801ROサンプルロボットおよびJulabo FT900クーラーとともに使用し、元素分析には、LECO CHN-900(ミシガン州 USA)からの元素分析計を使用した。
【0161】
放射性標識および体内分布研究のためには、以下の装置を使用した:Symbia SPECT/CT、Siemens Medical Systems、ドイツ、Activimeter AtomLab 500、Biodex、USA、Gamma counter、LKB Pharmacia。
【0162】
ナノ粒子の物理化学的特性決定(サイズ、ゼータ電位および形態)
ナノ粒子の粒径およびゼータ電位は、Zeta Plus装置(Brookhaven Inst. Corp.、USA)で決定した。ナノ粒子の直径は、超純水(1/10)中に分散させた後に決定し、25℃で動的光散乱角90度によって測定した。ゼータ電位は次のように決定した:200μLのサンプルをpH7.4に調整した1mM KCl溶液2mLで希釈した。
【0163】
ナノ粒子の形態学的特徴は、Zeiss DSM940デジタル走査電子顕微鏡(Oberkochen、Germany)にて走査電子顕微鏡観察(SEM)により調べた。この目的で、サンプルを水に分散させ、凍結保護剤を除去するために4℃にて27,000xgで20分間遠心分離した。次に、これらのペレットを、金属スタブ上に両面粘着テープで接着させたガラスプレートに載せて乾燥させた。それらを、MTM-20膜厚コントローラーを装備し、ロータリー-プラネタリー-チルトステージを備えたCressington sputter-coater 208HRを用いて4nmのパラジウム-白金層でコーティングした。SEMは、フィラメント電流約0.5mAで1~3kVで作動するLEO 1530装置(LEO Electron Microscopy Inc、ソーンウッド、NY)を用いて実施した。
【0164】
収量
ナノ粒子に変換されたHSAの量(収量)は、Micro BCAにより、ナノ粒子を形成するHSAの定量によって決定した。簡単に述べると、10mgのナノ粒子を秤量し、10mLの超純水に分散させ、4℃にて15,000rpmで15分間遠心分離した(Rotor 3336、Biofuge Heraeus、ハーナウ、ドイツ)、次に、このペレットを1mLのNaOH 0,02Nで崩壊させ、この溶液200μLを96ウェルマイクロプレートに移し、分光光度計にて562nmで、特定のマイクロBCAタンパク質アッセイキットに従って進めた。
【0165】
アルブミン測定においてあり得る干渉を検出するために、他の賦形剤および薬物(グルタルアルデヒド、PEG35,000、HPMCまたはベバシズマブ)を含有する対照を使用することによってこのキットの選択性を判定した。データ解析は、下式を用いて行った:
収率(%)=(Wlyop/Winitial)×100 [式1]
式中、Wlyopは、ナノ粒子に変換されたHSAであり、Winitialは、ナノ粒子を調製するために使用したHSAの量であった。
【0166】
ナノ粒子における薬物積載の定量
アルブミンナノ粒子における抗体付加量を酵素イムノアッセイ(Shikari Q-BEVA)により評価した。この目的で、10mgのナノ粒子を秤量し、1mLの水に分散させた。この懸濁液を10分間、10,000rpmで遠心分離した(Rotor 3336、Biofuge Heraeus、ハーナウ、ドイツ)。上清を除去した。次に、ナノ粒子を1mLのNaOH 0,02Nで崩壊させた。得られた溶液200μLをヒト血管内皮細胞増殖因子(VEGF)でコーティングされた96ウェルマイクロプレートに移し、ベバシズマブ(Q-Beva試験手順のための特定のELISA、Shikari Q-Beva、Matriks Biotek)を行った。
【0167】
各サンプルを三反復でアッセイし、0.1~100μg/mLの範囲の標準曲線を用いて計算を行った(r2>0.993)。検出限界および定量限界はそれぞれ0.1μg/mLおよび100μg/mLであった(r2>0.993)。
【0168】
ベバシズマブ付加(DL)およびその封入効率(EE)は、下式に従って計算した:
DL=[Wencap/Wnp] [式2]
EE=[Wencap/Wtotal]×100 [式3]
式中、Wencapはベバシズマブのカプセル封入量であり、Wtotalは使用した薬物の総量であり、Wnpはナノ粒子重量であった。
【0169】
FT-IRの決定
HSAナノ粒子の分子構造を、FTIR分光法の手段によって調べた。KBrディスクにサンプル1%で分散させたサンプルの赤外スペクトルをNICOLET FTIR分光計(Thermo/Nicolet 360FT-IR E.S.P.Thermo Fisher Scientific、USA)で記録した。これらのサンプルを4000から400cm-1までスキャンした。記録条件は次の通りとした:分解能8.0およびサンプルスキャン40。データは、OMNICソフトウエア(Thermo Fisher Scientific、USA)を用いて解析した。
【0170】
X線試験
種々のナノ粒子サンプルにおけるポリマーマトリックスの結晶面の分布および結晶化度の変動を調べるためにX線試験を行った。この目的で、サンプルを粉末形態で回折計(Bruker Axs D8 Advance、ドイツ)の金属プレート上に置き、室温にて360を超える測定を行った。回折図形は、プログラムDiffrac.Suiteを用いて解析した。
【0171】
熱分析
温度変化に対する種々のナノ粒子の応答を熱分析(示唆熱分析DTAに連結した熱重量分析TGA)により試験した。これがナノ粒子を形成するために反応する際のHSAの官能基の熱的挙動の変動を分析した。これらの熱試験は、同時TGA/sDTA 851e Mettler Toledo熱分析装置で行った。サーモグラムは、約5~10mgのサンプルを細片アルミニウムるつぼ内で25から250℃までスキャン速度10℃/分にて加熱することによって取得した。熱分析は、静的空気雰囲気およびパージガスとしてのN2(20mL分-1)の下で行った。測定は三反復で行った。
【0172】
元素分析
ナノ粒子の元素分析(C、H、OおよびN)は、種々の分解防止剤の会合を確認するために、LECOからのHSAナノ粒子元素分析計(CHN-900、ミシガン州 USA)にて行った。簡単に述べると、1mgの各サンプルを三反復で試験し、結果をパーセンテージ(%w/w)SD±0.4として表した。この技術は、他成分(グルタルアルデヒド、PEG35、HPMC-Pまたはベバシズマブ)を会合した場合のアルブミン(HSA)の酸素、水素または窒素の組成の変化を示す。
【0173】
in vitro放出試験
ベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子のin vitro放出試験をPBS(pH7.4)中で行った。10mgの各ナノ粒子処方物を含有するエッペンドルフ管を総容量1mLのPBS中に分散させ、エッペンドルフ管に分布させ、60ストローク/分の一定振盪の振盪浴(Unitronic 320 OR、Selecta、マドリード、スペイン)中、37℃に置いた。種々の時間間隔でエッペンドルフ管を取り出し、10,000rpmで10分間遠心分離した(Rotor 3336、Biofuge Heraeus、ハーナウ、ドイツ)。特異的ELISA試験(Shikari Q-Beva、Matriks Biotek)で、上清のベバシズマブ含量を分析した。放出プロフィールは累積放出としてパーセンテージで表し、時間に対してプロットした。
【0174】
さらに、これらの放出プロフィールに基づき、Korsmeyer-Peppas式外挿モデル(式4)により動態を調べた:
Q=Ktn [式4]
式中、Qは、t時間に放出された薬物のパーセンテージであり、Kは、検討下の装置の構造的および幾何学的特徴を組み込んだ定数であり、「n」は、拡散指数であり、一般に、投与形からの薬物輸送機構の指標として用いられる。
【0175】
n≦0.43の値は、薬物放出がフィックの拡散により制御されることを示し、n≧0.85の値は、薬物放出が腐食機構によって支配されることを示唆する。0.43<n<0.85の値については、放出は、変則的と記載され、拡散と腐食の組合せが薬物放出の制御に寄与することを意味する[Gao Y., et al., In Vitro Release Kinetics of Antituberculosis Drugs from Nanoparticles Assessed Using a Modified Dissolution Apparatus. Biomed Research International 2013]。
【0176】
実施例1. ベバシズマブ付加ヒト血清アルブミンナノ粒子の調製。得られるナノ粒子の物理化学的特性に対するベバシズマブ/HSA比の影響
ベバシズマブ付加ナノ粒子は、ナノ粒子が精製および乾燥前に水性環境中でタンパク質の沈降によって得られる手順により調製した。
【0177】
この目的で、100mgのHSAおよび変動量のベバシズマブ(BEVA)(1~20mg)を5~10mLの注射水に溶解させ、次いで、この溶液をHCL 1MでpH4.1~4.4に滴定した。この混合物を室温にて10分間インキュベートした。ナノ粒子は、室温にて、連続撹拌下(500rpm)で脱溶媒和剤として使用する16mLのエタノールを連続的に添加することにより得た。得られたナノ粒子は2つの異なる手順により精製した:超遠心分離および限外濾過。前者では、ナノ粒子を、4℃にて21,000xgで20分間の遠心分離(Sigma 3K30、Osterodeam Harz、ドイツ)を行い、ペレットを水で元の容量に再分散させることにより2回精製した。後者では、ナノ粒子を、孔径50kDaのポリスルホンメンブレンカートリッジ(Medica SPA、イタリア)での限外濾過により精製した。最後に、再分散または5%スクロース水溶液の添加後にナノ粒子を12EL装置(Virtis、ニューヨーク州、USA)でフリーズドライした。これらの処方物は、それ以上の安定化なく、ベバシズマブ付加ヒト血清アルブミンナノ粒子であり、以下B-NP処方物という。
【0178】
ナノ粒子中へのモノクローナル抗体の封入について、2つの重要なパラメーターを特定した:ベバシズマブ/アルブミン比率およびナノ粒子の形成前の両化合物のインキュベーション時間。表1に、モノクローナル抗体/タンパク質比を変えることにより得られたナノ粒子の主要な物理化学的特性をまとめる。ベバシズマブ/アルブミン比率は低い場合(例えば、0.01)、ナノ粒子は、経時的に不安定であった。0.01より高い比では、得られたナノ粒子は安定であり、平均サイズは300nm付近、表面負電荷は約-15mVであった。
【0179】
同様に、このプロセスの収率は80%前後であると計算された。
図1は、モノクローナル抗体付加に対するベバシズマブ/アルブミン比率の影響を示す。
【0180】
これらの結果によれば、ナノ粒子中に付加されたベバシズマブの量は、BEVA/HSA比の上昇により増大した。これらの試験は総て、モノクローナル抗体とタンパク質との10分のインキュベーション後に行った。興味深いことに、このパラメーターを増加させてもナノ粒子の物理化学的特性に有意な違いは見られなかった。
【0181】
【0182】
実施例2. 物理化学的特性に対するベバシズマブ付加ナノ粒子とグルタルアルデヒドの架橋の影響
ベバシズマブの不在下でのヒト血清アルブミンナノ粒子は不安定であり、形成直後に消失したという事実のために、対照ベバシズマブ付加ナノ粒子は、エタノール(300μL)中で12.5μgのグルタルアルデヒドと架橋した後に得られ、以下、B-NP-GLU処方物とする。この目的で、形成されたばかりのベバシズマブ付加ナノ粒子を、精製およびフリーズドライまでにグルタルアルデヒドとともに5分間インキュベートした。
【0183】
表2に、「ネイキッド」HSAナノ粒子(それ以上の安定化手順を行わない)およびグルタルアルデヒドとの架橋の後に得られた対照物の主要な物理化学的特性をまとめる。アルブミンナノ粒子へのベバシズマブの封入により、高い抗体含量の安定したナノ粒子が生成された。興味深いことに、ナノ粒子中に付加された有効モノクローナル抗体として計算される封入効率は90%近くであり、ベバシズマブ付加は約13%であった。ベバシズマブ付加ナノ粒子がグルタルアルデヒドと架橋された場合、得られたナノ粒子は、化学架橋剤を用いずに生成されたものよりもやや小さかった。しかしながら、ナノ粒子のグルタルアルデヒドによる処理はモノクローナル抗体を不活性化し、ELISA分析によって定量された抗体は極めて低レベルであった。
【0184】
【0185】
実施例3: ベバシズマブ付加ナノ粒子の特徴
TEM
図2は、球形および不規則な表面を有するベバシズマブ付加ナノ粒子(B-NP)の形態を示す。
【0186】
FT-IRの測定
IRは、タンパク質の二次構造における立体配座変化像を評価することを可能とする。
図3は、モノクローナル抗体単独およびタンパク質、ならびにその物理的混合物の場合と比較したベバシズマブ付加ナノ粒子のFT-IRスペクトルを示す。
【0187】
タンパク質の赤外スペクトルはいくつかのアミド結合を示し、ペプチド部分の異なる振動を表す。このようなシグナル、1600~1700cm-1の範囲のアミドI(主としてC=O伸縮)および1550cm-1でのアミドII結合(N-H屈曲モードと結びついたC-N伸縮)は、この化学結合の存在の証拠として使用されており、それらのシグナルはタンパク質の二次構造に直接関連している。しかしながら、アミドI結合はアミドIIよりもタンパク質の二次構造の変化に感受性が高い。このように、これらのシグナルの振動数および強度の変化は、タンパク質との相互作用の証拠である。
【0188】
この場合、ナノ粒子が2種類の異なるタンパク質(アルブミンおよびベバシズマブ)により形成されるという事実のために、アミドIピークに対応するシグナルの振動数に微細な変動が見られた(HSAでは1642cm-1、B-NPでは1645cm-1)。
【0189】
対照として、グルタルアルデヒドと架橋しているナノ粒子も試験した。この場合にもまた、グルタルアルデヒドとアルブミンの間の相互作用の結果として、アミドIの振動数に若干の移行(1642cm-1から1645cm-1へ)が見られた。
【0190】
X線試験
図4は、ヒト血清アルブミン、ベバシズマブおよびベバシズマブ付加ナノ粒子のX線スペクトルを示す。総ての場合で、これらのスペクトルは、非晶質構造を示す。
【0191】
熱分析
HSAとベバシズマブの官能基の間の反応を決定するために熱分析を行った。
図5は、天然アルブミン(HSA)およびベバシズマブ(BEVA)(A)、ベバシズマブナノ粒子(B-NP)およびアルブミンとベバシズマブの物理的混合物(P.M.)(B)、天然アルブミン(HSA)およびグルタルアルデヒド(GLU)(C)、グルタルアルデヒド架橋ナノ粒子(NP-GLU)およびアルブミンとグルタルアルデヒドの物理的混合物(P.M.)(D)のサーモグラムを示す。
【0192】
これらのサーモグラムは、天然アルブミンは30℃前後で発熱効果を表すことを示し、これは、可逆的転移およびその付近での吸熱ガラス転移による二次的熱効果に相当する。
【0193】
NP中にアルブミンに相当する発熱シグナルが存在しないのは、アルブミンとタンパク質(BEVA)および架橋剤(グルタルアルデヒド)の両方との組合せのためである可能性がある。従って、ベバシズマブおよびアルブミンは複合体を形成すると思われる。
【0194】
元素分析
表3は、ヒト血清アルブミン、ベバシズマブ、グルタルアルデヒドと架橋しているアルブミンナノ粒子およびベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子の元素分析を示す。ベバシズマブは、ヒト血清アルブミンよりも有意に低い炭素および窒素含量を示す。対照的に、モノクローナル抗体の酸素含量は、アルブミンの約2倍である。同様に、ベバシズマブ付加ナノ粒子(B-NP)は、天然アルブミンよりも低い窒素パーセンテージおよび高い酸素含量を示した。
【0195】
【0196】
実施例4: ベバシズマブ付加ナノ粒子の安定性
ナノ粒子の安定性を超純水で評価した。サンプルを精製水に分散させ、室温で3日間保存した。種々の時間間隔で、ナノ粒子のサイズ、多分散指数およびゼータ電位を測定することにより安定性を評価した。
【0197】
水(pHは7.4に調整)に分散させた後、ベバシズマブ付加ナノ粒子は少なくとも24時間安定であった(
図6)。それらの挙動は、グルタルアルデヒドと架橋している空のナノ粒子で見られるものと同様であった(
図6)。同様に、B-NPの多分散指数(PDI)も試験中に影響を受けなかった。従って、t=0で、PDIは0.19±0.01であり、24時間後、このパラメーターは0.16±0.03であると計算された(データは示されていない)。
【0198】
実施例5: ナノ粒子からのベバシズマブのin vitro放出
図7は、PBS中でのアルブミンナノ粒子からのベバシズマブのin vitro放出プロフィールを示す。このプロフィールは、付加された抗体の約23%が最初の5分初期バースト効果を示し、その後、続いての24時間に徐放性を示すことを特徴とする。試験の終了時には、付加されたベバシズマブの40%前後が放出された。バースト放出はナノ粒子の表面に吸着した抗体に関連する可能性がある。
【0199】
実施例6. ベバシズマブ付加コーティングされたアルブミンナノ粒子の調製および特性決定
種々の化合物で修飾されたヒト血清アルブミンナノ粒子中へのベバシズマブの封入は、4工程を含むプロセスによって行った。ベバシズマブ付加ナノ粒子を修飾する能力を調べるために、特に、非イオン性HPMC-PおよびPEG35を選択した。イオン性コーティングEudragit S-100も使用した。
【0200】
第一工程は、水性環境中でのナノ粒子の製造に特化したものである。次に、単に水性環境でのインキュベーションによりナノ粒子の表面を修飾した。第三工程は、得られたナノ粒子を精製するために使用し、これを最後に乾燥させた。
【0201】
第一工程:100mgのHSAおよび様々な量のベバシズマブ(1~20mg)を5~10mLの注射水に溶解させ、次いで、この溶液をHCl 1MでpH4.1~4.4に滴定した。この混合物を室温で10分間インキュベートした。室温にて連続撹拌(500rpm)下、脱溶媒和剤としての16mLエタノールの連続添加によりナノ粒子を得た。
【0202】
第二工程:形成されたばかりのベバシズマブ付加ナノ粒子のコーティングのために、下記の化合物を添加した:PEG 35,000、ヒドロキシメチルプロピルセルロースフタレートまたはEudragit S-100。
【0203】
対照として、上記のように、エタノール(300μL)中、12.5μgのグルタルアルデヒドで5分間架橋することによってバシズマブ付加ナノ粒子を安定化した。
【0204】
第三工程:得られたナノ粒子を精製した。2つの異なる手順を使用した:超遠心分離および限外濾過。前者では、ナノ粒子を、4℃にて21,000xgで20分間の遠心分離(Sigma 3K30、Osterodeam Harz、ドイツ)を行い、ペレットを水で元の容量に再分散させることにより2回精製した。後者では、ナノ粒子を、孔径50kDaのポリスルホンメンブレンカートリッジ(Medica SPA、イタリア)での限外濾過により精製した。
【0205】
第四工程:最後に、ナノ粒子をGenesis 12EL装置(Virtis、ニューヨーク州、USA)でフリーズドライした。超遠心分離を精製法として用いた場合には、最後の遠心分離からのペレットを5%スクロース水溶液に分散させた。限外濾過を用いた場合にも、凍結乾燥前にペレットを5%スクロース水溶液に分散させた。
【0206】
表4に、これらのナノ粒子の主要な物理化学的特性をまとめる。全体的にみて、ベバシズマブの付加量は常に同等であり、14%付近であった。しかしながら、コーティングを目的とするベバシズマブ付加ナノ粒子と異なる賦形剤のインキュベーションは、物理化学的特性が改善されたナノ粒子をもたらした。従って、ベバシズマブを封入するPEG35コーティングナノ粒子(B-NP-PEG35)は、ネイキッドベバシズマブ付加ナノ粒子(B-NP)と同様の平均サイズおよび負のゼータ電位を示した。対照的に、B-NP をHPMC-Pとインキュベートした場合には、得られるナノ粒子の平均サイズは、B-NPに比べて有意に大きくなった。インキュベーションがイオン性Eudragit(登録商標)S-100ともに実施された場合、得られるナノ粒子は、B-NPに比べて、サイズの縮小および陰性度を増したゼータ電位を示した。SEMによれば、アルブミンナノ粒子は、球形および平滑な表面を示した。
【0207】
【0208】
PEG35でコーティングされたベバシズマブ付加ナノ粒子(B-NP-PEG35)の形態学的試験(
図8)は、それらが不規則な表面および均一な分散を有する球形であることを示す。
【0209】
実施例7: コーティングナノ粒子からのベバシズマブのin vitro放出
図9は、pH7.4のPBS中、2種類の非イオン性ポリマー(PEG35およびHPMC-P)およびイオン性Eudragit(登録商標)S100でコーティングされたアルブミンナノ粒子からのベバシズマブのin vitro放出プロフィールを示す。PEG35コーティングナノ粒子(B-NP-PEG35)については、プロフィールは、ネイキッドナノ粒子(B-NP)に関して見られたものと同様であったが、試験の終了時に、ベバシズマブの放出量がB-NPよりも高いという違いがあった。いずれの場合でも、これらのペグ化ナノ粒子は、最初の5分での約22%の初期バースト効果とその後の少なくとも24時間のより持続的で緩慢な放出速度を特徴とする二相放出パターンを与えた。バースト放出は22%近くであり、ナノ粒子の表面に吸着した抗体に関連する可能性がある。この二相区画を、最初の5分のバースト放出を無視して、Korsmeyer-Peppas式を用い、拡散プロフィールに対して補正を行った(n=0.54;R
2=0.994)。拡散段階でのベバシズマブの放出は、最初の2時間後にプラトーに達するまで最大48%であった。
【0210】
HPMC-Pでコーティングされナノ粒子(B-NP-HPMC-P)でも、最初の60分ベバシズマブ放出量は約40%であった。次に、残りの抗体の連続放出速度を観測した。しかしながら、この場合、ベバシズマブの放出速度はB-NPまたはB-NP-PEG35よりも速かった。従って、8時間のインキュベーション後には、HPMC-Pでコーティングされたナノ粒子から100%近くのベバシズマブ内容物が放出された。
【0211】
非イオン性ポリマーでコーティングされたナノ粒子に対して、イオン性Eudragit(登録商標)S-100(B-NP-S-100)でコーティングされたナノ粒子は、即放出型のプロフィールを示した。
【0212】
実施例8. アルブミンナノ粒子への封入後のベバシズマブの完全性
アルブミンナノ粒子中に付加されたベバシズマブの量を定量するために使用したELISAキットで得られた結果を確認するために、種々のナノ粒子中に封入された抗体(ベバシズマブ)の完全性を、Experion(商標)自動電気泳動システム(Bio Rad、US)を用いたマイクロ流体工学に基づく自動電気泳動によって分析した。これらのサンプルを非還元条件および2-メルカプトエタノールを用いた還元条件で評価した。得られたデータは、ソフトウエアExperion Systemを用いて処理した。
【0213】
ナノ粒子を秤量し、1mL NaOH 0,005Nで崩壊させた。種々の溶液の濃度はタンパク質400ng/μL前後とした(試験の直線動的範囲は5~2,000ng/μLである)。遊離タンパク質(アルブミンおよびベバシズマブ)のサンプルを対照として使用した。これらのサンプルを総て、得られた際またはβ-メルカプトエタノールおよび熱で処理した後に評価した。次に、これらのサンプルをExperion System Pro260分析キット(Bio-Rad Lab.、USA)のプロトコールに従って処理した。サンプルおよび対照がチップに付加されたところで、それらをExperion(商標)自動電気泳動システム(Bio Rad、US)によって分析した。
【0214】
結果は実際のゲルにデンシトメトリーバンドとして得られた。各バンドは異なるサンプルに相当した。Experionソフトウエアにより、異なるサイズピークを識別し、それらをシステム対照バンドのキロダルトン(「kDa」)として表した。
【0215】
これらの試験の結果を
図10に示す。レーン5に、ベバシズマブは150kDa前後の強いバンドとして現れている。同様のバンドがレーン2(B-NP)および3(B-NP-PEG35)に見られる。同様に、アルブミンに相当するバンド(レーン4)はまた、レーン1~3にも明瞭に見られる。
【0216】
実施例9. ウィスターラットにおける眼に投与したナノ粒子の体内分布試験
SPECT-CTイメージングのためのウィスターラットにおけるNP放射性標識および体内分布試験
他所に記載の方法に従って99mTc-ペルテクネタートを塩化スズで還元することにより99mTcでナノ粒子の放射性標識を行った。簡単に述べると、注射水中、塩化スズ二水和物溶液20μL、最終スズ濃度0.02mg/mLを9mgの凍結乾燥ナノ粒子に加えた後、予め還元されたスズに60μLの99mTcO4-溶出液を加えた。4μLの放射性標識されたナノ粒子懸濁液(5MBq)を0.6mgの非標識ナノ粒子処方物と混合し、このような混合物を、イソフルオランで麻酔したウィスターラットの右眼に注意深く投与した。
【0217】
in vivo SPECT-CTイメージングのためのウィスターラットへの眼内投与
眼からの懸濁液の能動的除去を避けるために動物に1時間麻酔を維持し、次いで、覚醒させ、ナノ粒子の投与後5~17時間30分の間の異なる6時点でSPECT-CT画像を取得した。
【0218】
イメージング試験のために、動物を各試験の直前にイソフルオランで麻酔し、Symbia T2 Truepoint SPECT-CTシステム(Siemens)に腹臥位で設置した。128×128マトリックス、7画像/秒を用いて画像を取得し、CTは、110mAsおよび130Kv、130画像 3mm厚に設定した。画像の統合は、Syngo MI Applications TrueDソフトウエアを用いて行った。画像はビルトインソフトウエアシステムを用いて処理および定量した。選択領域の3平面に等値曲面を自動描写することによって定量値は取得して関心体積(VOI)を得、それから計数値の平均値を得た。
【0219】
図11および12は、点眼剤としての眼投与後のB-NPおよびB-NP-PEG35の体内分布を示す。ナノ粒子に関連した放射能は、投与時点からゆっくり消失して胃腸管に移行するとしても、B-NPの場合には少なくとも4時間、B-NP-PEG35の場合には8時間眼に残る。放射性標識されたナノ粒子の動物の咽頭への移行は、
図11の左の一番上に見出すことができる。
図11のSPECT画像の強度は、動物身体の放射能の位置をより良く識別できるように各個の画像の最高強度点に対して縮尺を変更したものである。
【0220】
B-NPに関し、半定量的減衰により補正した放射能の経時的推移を
図12にプロットする。B-NP-PEG35での結果も極めて類似していたが、前記ナノ粒子は眼により長く残るので、排出により時間がかかる。
【0221】
実施例10. 雄ウィスターラットに対する静脈内投与後のナノ粒子の体内分布
ウィスターラットでのin vivo体内分布イメージング試験のために、99mTcで標識したベバシズマブ付加HSAナノ粒子(B-NP)およびPEG35でコーティングされたベバシズマブ付加HSAナノ粒子(B-NP-PEG35)を投与した。5mgベバシズマブ/kg体重の単回用量を静脈内に投与し、投与後10時間まで2時間毎に写真を撮影した。
【0222】
図13に見て取れるように、静脈内投与1時間後に、B-NPおよびB-NP-PEG35注射に関連する放射能は肝臓および腎臓見られた。また、B-NP-PEG35の肝臓取込みが低いことは注目に値する。B-NPおよびB-NP-PEG35はいずれの臓器にも蓄積しない。
【0223】
実施例11. 角膜血管新生に対するベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子の効果
角膜血管新生のラットモデルにおけるベバシズマブ付加ナノ粒子の効力を評価するために、Harlanからおよそ200gの雄ウィスターラットを入手した。試験は、動物実験に関する欧州規則に従って所内動物実験倫理委員会により承認された(プロトコール番号172-14)。
【0224】
動物は、100μLの5mg/kgキシラジン溶液(Xilagesic、Calier Laboratory)および200μLの40mg/kgケタミン溶液(IMALGENE、Merial)の腹膜内投与後に鎮静下で維持した。次に、1滴の毛様体筋麻痺洗眼剤(Coliricusi Tropicamida、10mg/mL、Alcon)をラットの各眼に投与した。5分後、眼の表面に5秒間、硝酸銀スティック(Argepenal、Braun)を適用することによりラットの角膜を焼いた。最後に、0.9%p/vのNaCl無菌溶液で洗眼した。
【0225】
12時間後、動物をイソフルオラン(Isovet、スペイン)で麻酔し、異なる群に分けた。動物の眼に以下の処置を適用した:(i)7日間、12時間毎に10μLの4mg/mLベバシズマブ(アバスチン(登録商標))水溶液、(ii)7日間、12時間毎に10μLの4mg/mLアフリベルセプト(アイリーア(登録商標))水溶液、(iii)7日間、12時間毎に10μLの0.1%リン酸デキサメタゾン(Coliriculi dexametasona(登録商標))水溶液、(iv)1週間、毎日、ベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子(B-NP;40μgベバシズマブを含有する10μL懸濁液)、および(v)1週間、毎日、PEG35でコーティングされたベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子(B-NP-PEG35;40μgベバシズマブを含有する10μL懸濁液)。対照として、ある動物群に生理的血清(PBS)を施し、別の動物群にPBS(HSA)に溶解させたヒト血清アルブミンを、B-NP-PEG35の投与と同量で施した。
【0226】
図14は、0時間(0日目)に行った角膜の腐食および24時間(1日目)の初回処理を示す模式的タイムラインに相当する。
【0227】
計算のために、角膜のデジタル画像を取得し、ImageJソフトウエア(パブリックドメイン、http://rsb.info.nih.gov/ij/)を用いて解析した。画像は、画像を白黒形式に調整してバイナリーモードで解析した。これらの画像から、角膜の総面積を決定するとともに、硝酸銀による火傷が占める角膜表面(傷害)および新血管の形成(角膜血管新生)により影響を受けた面積を画素数により計算した。これらのパラメーターから、侵襲面積(invasive area)(IA)およびCNV(傷害表面により正規化した角膜血管新生(corneal neovascularization normalized by the lesion surface))を次のように決定した:
IA=[(新血管の形成により影響を受けた面積)/(総角膜面積)]×100
CNV=IA/(火傷により影響を受けた眼の表面)
【0228】
表5は、種々のベバシズマブ処置の効力を傷害により誘導された血管新生により影響を受けた眼の表面の減少の結果としてまとめる(
図15)。総ての場合で、動物の眼に誘導された傷害は同等であり、4群間で傷害面積に統計的な差異は見られなかった(p>0.05;
図16)。
【0229】
ベバシズマブ溶液(BEVA)で処置した動物群は、PBS(陰性対照)を受容した動物よりも血管新生により影響を受けた眼の表面が少なかった。他方、ベバシズマブ付加ナノ粒子(B-NP)で処置した動物では、角膜血管新生により影響を受けた眼の表面は、アバスチン(登録商標)(BEVA)で処置した動物の場合の2.7分の1であることが判明した(
図17および18)。動物がペグ化ナノ粒子中に付加されたベバシズマブで処置された場合、血管新生により影響を受けた表面の減少は、アバスチン(登録商標)で処置した動物の場合の約1.4分の1であった。ナノ粒子で処置した動物にはアバスチン(登録商標)で処置した動物に投与されたベバシズマブの50%減が施されたことを強調することが重要である。もう一つの重要な所見は、本発明者らの実験条件下では、デキサメタゾンもアイリーア(登録商標)も血管新生にプラスの効果を示さなかったことであった(表9、
図15)。
【0230】
【0231】
組織学
角膜血管新生を伴う眼の組織学的研究のために、処置の終了時に、各群2眼を摘出した。眼の表面を生理食塩水で洗浄し、前極を後極から分離した。角膜を平らにマウントし、4%パラホルムアルデヒドで24時間固定した後、サンプルに対してPBSで数回の洗浄を行った。これらの角膜を後部切断および分析のために70%メタノール中で維持した。
【0232】
角膜の分析のために、これらをパラフィンに封入し、角膜の中心および血管新生領域から4マイクロメーターの切片をスライスした。次に、それらをヘマトキシリン-エオシンで染色し、光学顕微鏡を用いて分析した。これらの切片の評価には、血管新生の強度、炎症、繊維症、浮腫の強度、および角膜の平均厚を含んだ。試験は処置群を知らされない検査者によって実施された。画像は、デジタルカメラNikon DS-Ri 1を装備したNikon Eclipese Ci顕微鏡で採取した。これらの画像を、デジタル画像Nikon’s NIS-エレメンツ用の較正済み分析システムを用いて解析した。
【0233】
血管新生の強度の評価には、次のスコアを使用した:0=血管新生無し;1=最小のまたは陰性に近い血管形成;2=軽度の血管形成;3=上皮下および間質前領域(prestromal areas)における限定されたまたは局部的な血管形成(中等度の血管新生);4=極めて頻繁または強い;5=散在しかつ強い血管形成。同様に、炎症の強度は次のようにスコア化した:0=炎症無し;1=最小のまたは陰性に近い炎症;2=リンパ球、好中性白血球、および好塩基性白血球などの炎症細胞種の混在が局部的、少数;3=中等度の炎症;4=極めて頻繁または強い;5=炎症細胞種の混在が強い、散在。繊維芽細胞の活性のスケーリングシステムは、0=繊維芽細胞活性無し;1=最小のまたは陰性に近い繊維芽細胞の活性;2=局部的な繊維芽細胞活性;3=中等度の繊維芽細胞活性;4=極めて頻繁;5=散在しかつ強い繊維芽細胞活性。最後に、浮腫は次のスコアで分類した:0=浮腫無し;1=最小のまたは陰性に近い浮腫;2=軽度の浮腫;3=中等度の浮腫;4=極めて頻繁または強い;5=散在しかつ強い浮腫。
【0234】
図19は、試験に含まれる動物の眼の組織学的試験を示す。B-NP(
図19B)およびB-NP-PEG35(
図19C)で処置した角膜の傷害部は回復期にあり、それらは視力に一時的に影響を及ぼす前であるが、この時はそうではない。従って、損傷は可逆的である。対照的に、生理的血清で処置した角膜の傷害部は視力に極めて重大な影響を及ぼしており、不可逆的であると思われた(
図19F)。
【0235】
【0236】
表6に、異なる群における組織病理学的(hispopathological)評価をまとめる。血清で処置した角膜は、ベバシズマブで処置したものの1.4倍、B-NPで処置したものの2.7倍の厚さを示した。他方、アバスチン(登録商標)(BEVA)で処置した角膜は、B-NPで処置した角膜の2倍、B-NP-PEG35で処置したものの1.3倍の厚さを示した。同様に、B-NPで処置した角膜は、繊維症の程度が低く、血管形成が低く、かつ、浮腫が存在しない最良の状態を示した。
【0237】
実施例12. 腫瘍担持ヌードマウスに対する静脈内投与後のナノ粒子の体内分布
マウスにおける腫瘍イメージング試験のために、ヒト肝細胞癌細胞(HepG2)を標準的な条件で培養し、播種1週間後に採取し、PBSに懸濁させた。腫瘍は、ヌードマウスにおいて、異なる2箇所:右肢および背の上部に5×105のHepG2細胞を皮下注射した後に誘導された。腫瘍増殖を、明瞭に視認できるまで12~15日間経過観察し、その後、動物を、PEG35でコーティングされた99mTc標識HSAナノ粒子(NP-PEG35)の静脈注射の後に、SPECT-CT in vivoイメージング試験のために使用した。i.v.投与1時間および4時間後に、動物を安楽死させ、両方の腫瘍および対側の肢からの筋肉の一部(腫瘍不含)を摘出した。99mTcに関して較正したガンマカウンターでサンプルを計数し、サンプル重量および減衰に関して補正し、バックグラウンドとして対側の肢からの筋肉を用いて、腫瘍/非腫瘍比を計算した。
【0238】
図20に見て取れるように、腫瘍担持マウスにおいて、静脈内注射したNP-PEG35に関連する放射能は腫瘍内に濃縮される(正常組織と比較した場合)。このような現象は、ナノ粒子の投与4時間後に、腫瘍内に存在する量は、すでに高値で留まっているにもかかわらず(腫瘍/非腫瘍比>6)に減少するので、時間依存的であると思われる。
【0239】
実施例13. マウス結腸直腸癌モデルに対するベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子の効果
試験は、動物実験に関する欧州規則に従って所内動物実験倫理委員会により承認された(プロトコール番号107-16)。試験のために、20グラム前後、3週齢の42個体の無胸腺ヌードマウスをHarlan Sprague Dawley、Incから購入した。マウスは、施設のガイドラインに従い、管理された環境で維持した。食物および水は自由に摂らせた。
【0240】
ヒト結腸癌細胞(HT-29)を標準的な条件で培養し、播種1週間後に採取し、PBSに懸濁させた。腫瘍誘導のため、マウスを吸入によるイソフランで麻酔し、2~3×106のHT-29腫瘍細胞(ベバシズマブ感受性ヒト結腸癌細胞株)を含有する100μLを、各動物の片側の腹側部に皮下注射した。腫瘍増殖は、明瞭に視認できるまで(直径0.4~0.6cm)、12~15日間経過観察した後、処置を開始した。
【0241】
マウスを各群7個体の6群に無作為化した:(i)ベバシズマブ(アバスチン)水溶液、(ii)ベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子(B-NP)、(iii)PEG35,000でコーティングされたベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子(B-NP-PEG35)、(iv)生理的血清(PBS)、(v)B-NP-PEG35を投与する場合と同量の、PEG35,000でコーティングされた空のナノ粒子(NP-PEG35)、および(vi)B-NPを施した群と同量のアルブミンを含有するHSA水溶液。総ての場合で、ベバシズマブ5mg/体重kgを含有する製剤150~200μLを2回/週、静脈内に投与した。対照群には、同時点で0.9%生理食塩水の静脈内注射を施した。
【0242】
血液サンプルを0日目(初回投与の前)、初回投与後15日目、22日目および26日目に採取した。ベバシズマブ血清濃度を、特異的な酵素イムノアッセイ(Shikari Q-Beva)により測定した。
【0243】
腫瘍体積および重量を1~2回/週記録した。腫瘍(V)は幅(W)と長さ(L)の二次元で、カリパスを用いて測定し、下式(式5)を用いて計算した:
V(mm3)=長さ×(幅(with))2×0.5 [式5]
【0244】
図21は、時間に対する腫瘍体積を示す。各群で同一の体積の腫瘍が増殖し、試験の開始時にこれらの6群間で腫瘍体積に統計的な差異は見られなかった(p>0.05)。
【0245】
12日目に、B-NP-PEG35を施した群は、残りの群よりも有意に低い腫瘍体積を示した(p<0.05)。14日目までに、BEVAおよびB-NP-PEG35を施した群は、残りの群よりも有意に低い腫瘍体積を示した(p<0.05)。22日目に、処置を施さなかった群は、ベバシズマブ付加ナノ粒子(B-NP)、ベバシズマブ(BEVA)およびペグ化ナノ粒子中に付加されたベバシズマブ(B-NP-PEG35)で処置した動物よりも高い腫瘍体積を示した。試験の終了までに、ベバシズマブを施さなかった群の動物の半数が腫瘍内に潰瘍を発達させたことは言及する価値がある。
【0246】
図22は、血清中のベバシズマブレベルを示す。サンプルは、0日目(投与前)、初回投与後15日目、22日目および26日目に採取した。毎週の投与日の翌日に当たる22日目に血清ベバシズマブレベルの上昇が見られることは注目に値する。
図22で、遊離薬物を施したマウスのベバシズマブの血清レベルは、ナノ粒子(B-NPおよびB-NP-PEG35)を施した場合の最大6倍であることが見て取れる。
【0247】
ナノ粒子中に封入されたベバシズマブを投与するメリットは、ベバシズマブのより低い血清レベルにある。遊離ベバシズマブの静脈内投与後に、血流中には高濃度の薬物が存在し、これが副作用を引き起こす。この濃度は、プラトーに達するまでゆっくり低下する。しかしながら、新たな用量の投与の後に、血流中のベバシズマブ濃度は高まり(
図22参照)、それにより、副作用の可能性が増す。
【0248】
他方、ベバシズマブナノ粒子の静脈内投与の後には、薬物の血清レベルは、プラトーに達するまでゆっくり上昇する。この濃度は、遊離ベバシズマブで得られたものの6分の1であ、一定に留まる。また、新たな用量が投与されるたびごとの、血中のベバシズマブのピーク濃度はずっと低い。これにより副作用の見込みは低くなる。
【0249】
また、ポリエチレングリコールは、ナノ粒子の表面にバリアを付与してオプソニン化を防ぐ(オプソニン化は、i.v.注射後の数時間内に注射された用量(ID)の損失に関する主要な機構である)。
【0250】
Petイメージング
試験の終了時に、ベバシズマブおよびペグ化ナノ粒子に付加したベバシズマブ処置のマウス、ならびに生理的血清のマウス3個体を、18F-FDG-PETイメージングを行うために選択した。このために、マウスを一晩絶食させ、ただし、水は自由に飲ませた。 翌日、マウスを100%O2ガス中イソフラン2%で麻酔し、18F-FDG PET中もなお維持した。スキャンの40分前に18F-FDG(80~100μL中、10MBq±2)を尾静脈から注射した。PETイメージングは、Philips Mosaic tomograph(クリーブランド、OH)にて、分解能2mm、体軸方向視野(axial field of view)(FOV)11.9cmおよび断面内視野(transaxial FOV)12.8cmで行った。15分のスタティック収集(サイノグラム)を行うために、麻酔したマウスをPETスキャナーベッドに水平に配置した。画像は、2反復および緩和パラメーター0.024で3D Ramlaアルゴリズム(真の3D再構成)を用いて、デッドタイム補正、減衰補正、ランダム補正および散乱補正を適用するボクセルサイズ1mmを適用し、128×128マトリックスへと再構成した。腫瘍の18F-FDG取込みの評価のために、総ての試験をエクスポートし、PMODソフトウエア(PMOD Technologies Ltd.、アドリスヴィル、スイス)を用いて分析した。腫瘍全体を含む連続切片の冠状1mm厚、小動物PET画像に関心領域(Regions of interest)(ROI)を描いた。最後に、最大標準化取込み値(standardized uptake value)(SUV)を、式:
SUV=[組織活性濃度(Bq/cm3)/注射用量(Bq)]×体重(g)
を用い、各腫瘍について計算した。
【0251】
表7に、種々の群のPETイメージング結果をまとめる。SUVmax(最大腫瘍取込み)に関して、最低値はB-NP-PEG35で処置した群に相当し、最高値は生理的血清を施した群に相当した。
【0252】
体積に関して、最低値はB-NP-PEG35およびHSAで処置した群に属した。しかしながら、HSA群の選択された動物は、それらだけ潰瘍が存在しなかったことから代表的なものではなかった。最高値は、この場合にも、処置を施さなかった(生理的血清)群に属した。B-NP-PEG35群は、生理的血清群の3分の1、また、BEVA群の1.5分の1の体積を呈した。
【0253】
最後に、TLG(全病変解糖)は、B-NP-PEG35で処置した群に関して最小値を示し、それはBEVAで処置した群の1.5分の1、また、生理的血清を施した群の3.5分の1であった。
【0254】
【0255】
実施例14. ラニビズマブ付加ヒト血清アルブミンナノ粒子の調製
ラニビズマブ付加HSAナノ粒子は、実施例1でベバシズマブ付加アルブミンナノ粒子に関して記載したものと同じ手順に従って調製した。
【0256】
ラニビズマブ付加ナノ粒子に関して、最適抗体/アルブミン比率は0.15であった。ラニビズマブナノ粒子は、およそ210nmの粒径を示し、PDIは0.3未満、ゼータ電位は-15mVであった。