(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】伝動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/12 20060101AFI20230407BHJP
F16H 25/20 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
F16H25/12 A
F16H25/12 D
F16H25/20 Z
(21)【出願番号】P 2020569311
(86)(22)【出願日】2019-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2019003627
(87)【国際公開番号】W WO2020157957
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000154347
【氏名又は名称】株式会社ユニバンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】中條 泰雅
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-2640(JP,A)
【文献】特開2003-184993(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102015224801(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/12
F16H 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦クラッチに第1軸の方向の力を加え、前記摩擦クラッチを係合させる伝動装置であって、
前記第1軸に垂直な第2軸を中心とするおねじが外周面に形成され、前記第2軸を中心に回転運動する軸部材と、
前記おねじにかみ合うめねじが形成されたねじ部材と、
前記ねじ部材と共に往復運動するアームと、
前記アームに結合して前記ねじ部材の前記第2軸を中心とする回転を規制しつつ前記第1軸を中心に回転運動する第1カム部材と、
前記第1カム部材のカム面と前記第1軸の方向に対向するカム面を備える第2カム部材と、
2つの前記カム面の間に配置され2つの前記カム面を転動する転動部材と、を備え、
前記第1カム部材または前記第2カム部材は前記摩擦クラッチに前記第1軸の方向の力を加える伝動装置。
【請求項2】
前記ねじ部材は第1部を備え、
前記アームは、前記第1部に接触して前記ねじ部材の回転を規制する第2部を備え、
前記第2部と前記第1部との接触位置は、前記軸部材が回転運動するときに、前記接触位置と前記第1軸とを通る仮想平面上を通り、
前記接触位置が移動する第1の隙間が、前記ねじ部材と前記アームとの間に設けられている請求項1記載の伝動装置。
【請求項3】
前記第2カム部材は、前記第1軸を中心とする回転運動および前記第1軸に沿う直線運動が規制され、
前記第1カム部材は、前記摩擦クラッチに前記第1軸の方向の力を加え、
前記ねじ部材と前記アームとの間に前記第1軸の方向の第2の隙間が設けられており、
前記第2の隙間のうち前記摩擦クラッチから遠い方の隙間が、前記第1カム部材が前記摩擦クラッチに前記第1軸の方向の力を加えることに伴い、小さくなる請求項1又は2に記載の伝動装置。
【請求項4】
前記ねじ部材は、前記第1軸を中心とする回転方向の反力を前記摩擦クラッチから前記第1カム部材が受けたときに、前記おねじと前記めねじとの摩擦によって前記軸部材の回転を規制する請求項1から3のいずれかに記載の伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動を直線運動に変換する伝動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転運動を直線運動に変換する伝動装置として、特許文献1に開示されるものは、円弧の部分に被動ギヤが形成された扇形の部材および圧力板が、摩擦クラッチと同軸上に配置される。被動ギヤにかみ合う駆動ギヤをモータで回転させ、扇型の部材の回転運動を、カムによって圧力板の軸方向の直線運動に変換し、摩擦クラッチを係合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の技術では、扇形の部材の可動範囲が広いので伝動装置が大型化するという問題点がある。また、伝動装置の小型化(小径化)のために扇形の半径を小さくすると、扇型の部材を回転させるために駆動力の大きなモータが必要になるという問題点がある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、伝動装置の小型化を図ると共に、モータの駆動力を小さくできる伝動装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の伝動装置は、摩擦クラッチに第1軸の方向の力を加え、摩擦クラッチを係合させるものであって、第1軸に垂直な第2軸を中心とするおねじが外周面に形成され、第2軸を中心に回転運動する軸部材と、おねじにかみ合うめねじが形成されたねじ部材と、ねじ部材と共に往復運動するアームと、アームに結合してねじ部材の第2軸を中心とする回転を規制しつつ第1軸を中心に回転運動する第1カム部材と、第1カム部材のカム面と第1軸の方向に対向するカム面を備える第2カム部材と、2つのカム面の間に配置され2つのカム面を転動する転動部材と、を備え、第1カム部材または第2カム部材は摩擦クラッチに第1軸の方向の力を加える。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の伝動装置によれば、摩擦クラッチの第1軸に垂直な第2軸を中心に回転する軸部材のおねじに、ねじ部材のめねじがかみ合う。ねじ部材と共に往復運動するアームは、第1軸を中心に回転する第1カム部材に結合して、ねじ部材の第2軸を中心とする回転を規制するので、軸部材が1回転すると、ねじのリードの分だけねじ部材は第2軸に沿って移動する。ねじのリード角によってねじ部材を移動させて第1カム部材を回転できるので、伝動装置を小型化できる。さらに、軸部材を回転させるモータの駆動力を小さくできる。
【0008】
請求項2記載の伝動装置によれば、アームの第2部がねじ部材の第1部に接触して、ねじ部材の回転を規制する。第2部と第1部との接触位置は、軸部材が回転運動するときに、接触位置と第1軸とを通る仮想平面上を通る。接触位置が移動する第1の隙間が、ねじ部材とアームとの間に設けられているので、請求項1の効果に加え、第2軸に沿うねじ部材の直線運動を、第1軸を中心とするアームの回転運動に簡易に変換できる。
【0009】
請求項3記載の伝動装置によれば、第2カム部材は、第1軸を中心とする回転運動および第1軸に沿う直線運動が規制され、第1カム部材は、摩擦クラッチに第1軸の方向の力を加える。ねじ部材とアームとの間に第1軸の方向の第2の隙間が設けられている。第2の隙間のうち摩擦クラッチから遠い方の隙間が、第1カム部材が摩擦クラッチに第1軸の方向の力を加えることに伴い小さくなる。よって、請求項1又は2の効果に加え、第1軸を中心とする第1カム部材の回転運動を、第1カム部材の第1軸上の直線運動に確実に変換できる。
【0010】
請求項4記載の伝動装置によれば、ねじ部材は、第1軸を中心とする回転方向の反力を摩擦クラッチから第1カム部材が受けたときに、おねじとめねじとの摩擦によって軸部材の回転を規制する。これにより、軸部材を回転させるモータを駆動し続けなくてもねじ部材を停止させることができるので、請求項1から3のいずれかの効果に加え、モータの駆動によるエネルギー消費を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施の形態における伝動装置の斜視図である。
【
図3】摩擦クラッチが切れた状態にある伝動装置の正面図である。
【
図4】摩擦クラッチが切れた状態にある伝動装置の側面図である。
【
図5】摩擦クラッチがつながった状態にある伝動装置の正面図である。
【
図6】摩擦クラッチがつながった状態にある伝動装置の側面図である。
【
図7】第2実施の形態における伝動装置の、摩擦クラッチが切れた状態にある正面図である。
【
図8】(a)第3実施の形態における伝動装置の、摩擦クラッチが切れた状態にある正面図であり、(b)は摩擦クラッチがつながった状態にある伝動装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず
図1を参照して第1実施の形態における伝動装置10の概略構成を説明する。
図1は第1実施の形態における伝動装置10の斜視図である。伝動装置10は、駆動軸11と被動軸12との間に配置された摩擦クラッチ13を係合するための装置である。摩擦クラッチ13は、第1軸C1上に配置された駆動軸11と被動軸12との間の動力の伝達・遮断を行う。
【0013】
本実施形態における摩擦クラッチ13はディスククラッチであり、駆動軸11に結合するドラムと、被動軸12に結合するハブ(図示せず)と、ハブとドラムとの間に配置されたクラッチ板(図示せず)と、を備える湿式多板クラッチである。クラッチ板は、第1軸C1上を移動可能に、ドラム及びハブに支持されている。圧力板27は、クラッチ板によるハブとドラムとの間の締結力を調整する。圧力板27は、ハブと圧力板27との間に配置されたばね(図示せず)により、動力を遮断する方向に付勢されている。圧力板27は、ばね及び伝動装置10により第1軸C1上を往復運動する。
【0014】
伝動装置10は、第1軸C1に垂直な第2軸C2上に配置された軸部材14と、軸部材14の外周面に形成されたおねじ15にかみ合うねじ部材16と、ねじ部材16に係わるアーム18と、アーム18に結合して第1軸C1を中心に回転運動する第1カム部材20と、第1軸C1上に配置された第2カム部材22と、を備えている。
【0015】
図2は伝動装置10の分解立体図である。
図2では駆動軸11及び被動軸12の図示が省略されている。第2カム部材22と被動軸12との間に軸受25が配置されている。軸受25は、第2カム部材22に対して被動軸12を回転自在に支持するラジアル軸受である。本実施形態では、第2カム部材22は、第1軸C1を中心とする回転運動および第1軸C1に沿う直線運動が規制されている。第1カム部材20は、第1軸C1を中心に回転可能および第1軸C1上を往復可能に、第2カム部材22に支持されている。
【0016】
第1カム部材20及び第2カム部材22が互いに対向する面には、第1軸C1を中心とする同一円周上に所定の位相差を設けたカム面21,23が、それぞれ形成されている。カム面21,23の間に転動部材24が配置されている。本実施形態では転動部材24はボールであるが、これに限られるものではない。転動部材24としてローラを採用することは当然可能である。第1カム部材20と圧力板27との間に軸受26が配置されている。軸受26は、第1軸C1を中心に回転する第1カム部材20と圧力板27との間に加わる第1軸C1の方向の力を受け止めるスラスト軸受である。
【0017】
軸部材14は、伝動装置10のケース(図示せず)に固定された軸受(図示せず)により、回転自在にケース内に配置されている。軸部材14はモータ(図示せず)により第2軸C2を中心に回転運動する。ねじ部材16は、内周面にめねじ(図示せず)が形成された円筒状の部材である。ねじ部材16の内周面のめねじは、軸部材14のおねじ15にかみ合う。ねじ部材16には、ねじ部材16の外周面から径方向の外側へ向かって突出する第1部17が設けられている。第1部17は、第2軸C2を挟んでねじ部材16の外周面の2箇所に設けられている。本実施形態では、第1部17は第1軸C1と平行に延びる円柱形状をしている。
【0018】
アーム18は、ねじ部材16と第1カム部材20との間に配置される湾曲した板状の部材である。アーム18は、第1カム部材20に結合する一方、ねじ部材16と所定の間隔をあけて配置される。アーム18には、ねじ部材16の第1部17にそれぞれ接触する第2部19が設けられている。
【0019】
本実施形態では、第2部19は、第1部17の各々に対して第1軸C1の方向の両側にそれぞれ位置しつつ、各々が第1部17の外周面に接触する2本の角柱状の突起である。第2部19は、ねじ部材16の外周面と所定の間隔をあけて配置されている。第2部19は、摩擦クラッチ13の押し付け反力、ばね(図示せず)の反力の少なくとも一方によって第1部17に押圧されているので、伝動装置10に加えられる振動によって、第2部19と第1部17とが衝突して生じる異音の発生を抑制できる。
【0020】
図3は摩擦クラッチ13が切れた状態にある伝動装置10の正面図であり、
図4はそのときの伝動装置10の側面図である。
図5は摩擦クラッチ13が完全につながった連結状態にある伝動装置10の正面図であり、
図6はそのときの伝動装置10の側面図である。
図3及び
図5では、駆動軸11、被動軸12、摩擦クラッチ13、圧力板27及び軸受26の図示が省略されている。本実施形態では、軸部材14を回転してねじ部材16を第2軸C2(
図3参照)の左側に移動させると摩擦クラッチ13がつながり(
図5参照)、軸部材14を回転してねじ部材16を第2軸C2(
図5参照)の右側に移動させると摩擦クラッチ13が切れる(
図3参照)。
【0021】
図3に示す摩擦クラッチ13が切れた状態から
図5に示すように摩擦クラッチ13をつなぐには、軸部材14を回転させる。軸部材14を回転させると、軸部材14のおねじ15とねじ部材16のめねじとの摩擦により、ねじ部材16は、軸部材14の回転に連れて軸部材14が回転する方向と同じ方向へ回転しようとする。
【0022】
しかし、第1カム部材20に結合したアーム18の第2部19とねじ部材16の第1部17とが接触して、ねじ部材16の回転は規制され、おねじ15によってねじ部材16は第2軸C2上を
図3左側へ移動する。ねじ部材16の第1部17は、接触位置28においてアーム18の第2部19と接触して、軸部材14の回転に伴い第2軸C1に沿ってアーム18を
図3左側へ移動させる。アーム18は第1カム部材20に結合しているので、アーム18は第1カム部材20と共に第1軸C1を中心に
図3時計回りに回転運動する。
【0023】
ねじ部材16が第2軸C2上を
図3左側へ移動すると、第2カム部材22に対して第1軸C1を中心にアーム18及び第1カム部材20が回転する。第2カム部材22は、第1軸C1を中心とする回転運動および第1軸C1に沿う直線運動が規制されているので、第1カム部材20は、カム面21,23を転動する転動部材24に押され、軸受26を介して圧力板27を摩擦クラッチ13に押し付ける(
図6参照)。これにより摩擦クラッチ13は係合する。
【0024】
以上のように伝動装置10は、ねじ部材16と共に往復運動するアーム18が、第1軸C1を中心に回転する第1カム部材20に結合して、ねじ部材16の第2軸C2を中心とする回転を規制する。これにより軸部材14が1回転すると、ねじのリードの分だけねじ部材16は第2軸C2に沿って移動する。ねじのリード角によってねじ部材16を移動させて第1カム部材20を回転できるので、第2軸C2回りのモーメントが小さくても、軸部材14を回転させるモータ(図示せず)は大きな駆動力を必要としない。第1カム部材20とアーム18との間の距離を短くできるので、伝動装置10を小型化(小径化)できる。さらに、軸部材14を回転させるモータ(図示せず)の駆動力を小さくできる。
【0025】
摩擦クラッチ13を係合するときの軸部材14の回転方向と逆方向へ軸部材14を回転させると、アーム18及び第1カム部材20が逆方向へ回転して、圧力板27の摩擦クラッチ13への押し付けが弱まる(
図4参照)。摩擦クラッチ13のばね(図示せず)によって圧力板27が戻されクラッチ板の締結が解除されるので、摩擦クラッチ13は切れる。
【0026】
軸部材14とねじ部材16との間のねじの摩擦によって軸部材14に対するねじ部材16の位置が固定されるので、モータ(図示せず)を駆動し続けなくても、ねじ部材16を軸部材14に停止させることができる。摩擦クラッチ13をつなぐときや切るときだけモータを駆動すれば良いので、モータによるエネルギー消費を抑制できる。
【0027】
図3に示すように、ねじ部材16の第1部17とアーム18との間には第1の隙間G1が設けられており、
図4に示すように、ねじ部材16の外周面とアーム18との間にも隙間G2が設けられている。第1部17と第2部19との接触位置28は、切れた状態にある摩擦クラッチ13をつなぐときに、アーム18の回転運動およびねじ部材16の直線運動に伴い、接触位置28と第1軸C1とを通る仮想平面29上を通って第1軸C1に近づく方向へ移動する。その結果、アーム18と第1部17との隙間G1は次第に小さくなる(
図3及び
図5参照)。同様に、アーム18とねじ部材16の外周面との隙間G2も小さくなる(
図4及び
図6参照)。ねじ部材16とアーム18との間に隙間G1,G2が設けられているので、アーム18とねじ部材16とが干渉することなく、第2軸C2に沿うねじ部材16の直線運動を、第1軸C1を中心とするアーム18の回転運動に簡易に変換できる。
【0028】
図4に示すように、第1カム部材20に結合するアーム18の第2部19とねじ部材16の外周面との間には、第1軸C1の方向に第2の隙間G3,G4が設けられている。第1カム部材20が摩擦クラッチ13に第1軸C1の方向の力を加えることに伴い、隙間G4は小さくなり、隙間G3は大きくなる(
図4及び
図6参照)。よって、アーム18とねじ部材16とが干渉することなく、第1軸C1を中心とする第1カム部材20の回転運動を、第1カム部材20の第1軸C1上の直線運動に確実に変換できる。
【0029】
ねじ部材16の第1部17のうち摩擦クラッチ13に近い方の第1部17の第1軸C1の方向の長さは、摩擦クラッチ13に近い方の隙間G3と第1軸C1の方向の第2部19の厚さとを加えた長さよりも長い。摩擦クラッチ13から遠い方の第1部17の第1軸C1の方向の長さは、摩擦クラッチ13から遠い方の隙間G4と第1軸C1の方向の第2部19の厚さとを加えた長さよりも長い。よって、第1部17からアーム18が外れることなく、第1軸C1を中心とする第1カム部材20の回転運動を、第1カム部材20の第1軸C1上の直線運動に確実に変換できる。
【0030】
伝動装置10は、摩擦クラッチ13が完全につながった連結状態にある(
図5参照)第2軸C2と仮想平面29とのなす角の方が、摩擦クラッチ13が切れた状態にある(
図3参照)第2軸C2と仮想平面29とのなす角よりも90°に近い。そのため、摩擦クラッチ13を連結させるために、ねじ部材16から第1部17を介してアーム18及び第1カム部材20に第2軸C2の方向の力を加える効率が良いので、摩擦クラッチ13に大きな押し付け力を発生させることができる。よって、軸部材14を回転するモータ(図示せず)に大きな駆動力を必要としないようにできる。
【0031】
図7を参照して第2実施の形態について説明する。第2実施形態では、ねじ部材16及びアーム18にストッパ31,35がそれぞれ配置される伝動装置30について説明する。なお、第1実施形態で説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
図7は摩擦クラッチ13が完全につながった連結状態にある第2実施の形態における伝動装置30の側面図である。
【0032】
伝動装置30は、アーム18の第2部19の端部同士をつなぐストッパ31が設けられている。ストッパ31は、第2部19と同一平面上に位置する。仮にねじ部材16に過大なトルクが加わっても、ねじ部材16の過大な回転をストッパ31が防ぎ、第1部17を第2部19の間から抜けないようにできる。よって、伝動装置30を堅牢にできる。
【0033】
伝動装置30は、第2軸C2の方向のねじ部材16の端面にストッパ35が設けられている。ストッパ35は、軸部材14の両端部を支持する軸受33,34のうちおねじ15に近い軸受34とねじ部材16との間に介在する。仮に摩擦クラッチ13が切れた状態にあるときにねじ部材16に過大なトルクが加わっても、ねじ部材16の過大な回転および軸方向の移動をストッパ35が防ぎ、第1部17を第2部19の間から抜けないようにできる。よって、伝動装置30を堅牢にできる。
【0034】
図8を参照して第3実施の形態について説明する。第1実施形態および第2実施形態では、ねじ部材16の第1部17がねじ部材16の外周面から径方向の外側へ向かって突出し、アーム18の第2部19の間に第1部17が進入している場合について説明した。これに対し第3実施形態では、ねじ部材41の第1部42がねじ部材41の外周面から径方向の内側へ向かって凹み、アーム43に設けられた第2部44が第1部42の中に進入している場合について説明する。なお、第1実施形態で説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0035】
図8(a)は第3実施の形態における伝動装置40の、摩擦クラッチ13が切れた状態にある正面図であり、
図8(b)は摩擦クラッチ13が完全につながった連結状態にある伝動装置40の側面図である。
図8(a)及び
図8(b)では、第1軸C1の付近の図示が省略されている。
【0036】
図8(a)及び
図8(b)に示すように伝動装置40のねじ部材41には、ねじ部材41の外周面から径方向の内側へ向かって凹む第1部42が設けられている。第1部42は、第2軸C2を挟んでねじ部材41の外周面の2箇所に設けられている。本実施形態では、第1部42は、ねじ部材41の周方向へ第2軸C2と垂直に延びる溝である。
【0037】
アーム43は、ねじ部材41と第1カム部材20との間に配置される湾曲した板状の部材である。アーム43は第1カム部材20に結合する。アーム43は、アーム43の内面が、ねじ部材41の外周面と所定の間隔をあけて配置される。アーム43には、第1部42(溝)の中へそれぞれ進入する第2部44が設けられている。第2部44は、第2軸C2を挟んでアーム43の内面の2箇所に設けられている。本実施形態では、第2部44は第1軸C1と平行に延びる円柱形状をしている。第2部44の外周面とねじ部材41の第1部42の壁面とは接触し、第2部44の先端と第1部42の溝底との間には隙間がある。
【0038】
ねじ部材41の第1部41の第1軸C1の方向の深さ及びアーム44の第2部44の第1軸C1の方向の長さは、アーム43が第1軸C1を中心として回転する範囲内において、第1部41から第2部44が抜けないような深さ及び長さに設定されている。
【0039】
本実施形態においても、軸部材14を回転してねじ部材41を第2軸C2(
図8(a)参照)の左側に移動させると摩擦クラッチ13がつながり、軸部材14を逆方向へ回転してねじ部材41を第2軸C2の右側に移動させると摩擦クラッチ13が切れる。
【0040】
図8(a)に示すように、ねじ部材41の第1部42の端部とアーム43の第2部44との間には第1の隙間G1が設けられており、
図8(b)に示すように、ねじ部材41の外周面とアーム43との間にも隙間G2が設けられている。第1部42と第2部44との接触位置45は、切れた状態にある摩擦クラッチ13をつなぐときに、アーム43の回転運動およびねじ部材41の直線運動に伴い、接触位置45と第1軸C1とを通る仮想平面46上を通って第1軸C1に近づく方向へ移動する。
【0041】
その結果、第1部42の端部と第2部44との隙間G1は次第に小さくなる(
図8(a)参照)。同様に、アーム43とねじ部材41の外周面との隙間G2も小さくなる(
図8(b)参照)。ねじ部材41とアーム43との間に隙間G1,G2が設けられているので、第2軸C2に沿うねじ部材41の直線運動を、第1軸C1を中心とするアーム43の回転運動に簡易に変換できる。
【0042】
第1カム部材20に結合するアーム43の内面とねじ部材41の外周面との間には、第1軸C1の方向に第2の隙間G3,G4が設けられている(
図8(b)参照)。第1カム部材20が摩擦クラッチ13に第1軸C1の方向の力を加えることに伴い、隙間G4は小さくなり、隙間G3は大きくなる。同様に、2つの第2部44のうち摩擦クラッチ13から遠い方の第2部44の先端と第1部42の溝底との間の距離も、第1カム部材20が摩擦クラッチ13に第1軸C1の方向の力を加えることに伴い、短くなる。よって、第1軸C1を中心とする第1カム部材20の回転運動を、第1カム部材20の第1軸C1上の直線運動に確実に変換できる。
【0043】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、ねじ部材16,41やアーム18,43の形状、おねじ15の山の形状は適宜設定できる。
【0044】
実施形態では、摩擦クラッチ13のドラムが駆動軸11に結合し、摩擦クラッチ13のハブが被動軸12に結合する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。摩擦クラッチ13のドラムを被動軸12に結合し、ハブを駆動軸11に結合することは当然可能である。この場合、第1カム部材20及び第2カム部材22が、駆動軸11の周りに配置される。
【0045】
実施形態では、摩擦クラッチ13が、係合面が円板形状のディスククラッチの場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。他の摩擦クラッチを採用することは当然可能である。他の摩擦クラッチとしては、例えば円すいクラッチが挙げられる。また、摩擦クラッチ13は湿式に限られるものではなく、乾式の摩擦クラッチ13を用いることは当然可能である。
【0046】
第1実施形態および第2実施形態では、ねじ部材16の第1部17が円柱形状であり、第3実施形態では、アーム43の第2部44が円柱形状の場合について説明した。しかし、必ずしもこれに限られるものではない。第1部17及び第2部44の形状は適宜設定できる。また、第1部17や第2部44にローラ(転がり軸受)を設け、ローラの外周面を第2部19や第1部42に接触させ、摩擦を低減することは当然可能である。また、第1部17と第2部19とが接触する部位や第1部42と第2部44とが接触する部位に、ダイヤモンドライクカーボン等の低摩擦・耐磨耗コーティングを施したり、低摩擦かつ耐磨耗性のある部材を配置したりすることは当然可能である。
【0047】
第1実施形態および第2実施形態では、アーム18の第2部19が角柱形状の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2部19の形状は適宜設定できる。
【0048】
実施形態では、第1軸C1上に摩擦クラッチ13、第1カム部材20、第2カム部材22の順に配置して、第1カム部材20が第1軸C1を中心に回転しつつ第1軸C1上を直線運動する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1軸C1上に摩擦クラッチ13、第2カム部材、第1カム部材の順に配置し、摩擦クラッチ13をつなぐときに、第1カム部材が第1軸C1を中心に回転するのに伴い、第1軸C1上を第1カム部材から離れる方向へ第2カム部材が移動して圧力板27を押圧する構造にすることは当然可能である。
【0049】
第2実施形態では、アーム18にストッパ31が設けられ、ねじ部材16にストッパ35が設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。ストッパ31,35の一方を省略することは当然可能である。また、ねじ部材16にストッパ35を設ける代わりに、軸受34にストッパ35を設けることは当然可能である。
【0050】
実施形態では、摩擦クラッチ13が完全につながった連結状態にある(
図5参照)ときの第2軸C2と仮想平面29とのなす角の方が、摩擦クラッチ13が切れた状態にある(
図3参照)ときの第2軸C2と仮想平面29とのなす角よりも90°に近い場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、摩擦クラッチ13が滑り状態にあるときの第2軸C2と仮想平面29とのなす角を90°にすることは当然可能である。即ち、摩擦クラッチ13が連結するときの第2軸C2と仮想平面29とのなす角は適宜設定できる。
【符号の説明】
【0051】
10,30,40 伝動装置
13 摩擦クラッチ
14 軸部材
15 おねじ
16,41 ねじ部材
17,42 第1部
18,43 アーム
19,44 第2部
20 第1カム部材
21 カム面
22 第2カム部材
23 カム面
24 転動部材
28,45 接触位置
29,46 仮想平面
C1 第1軸
C2 第2軸
G1 第1の隙間
G2 第2の隙間