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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】高分子複合材料の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/02 20060101AFI20230410BHJP
【FI】
G01N23/02
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019092971
(22)【出願日】2019-05-16
(65)【公開番号】P2020187057
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】陣内 浩司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 庸平
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼内 康文
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和加奈
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/022096(WO,A1)
【文献】特開2018-178016(JP,A)
【文献】特開2014-173864(JP,A)
【文献】特開2018-096905(JP,A)
【文献】特開2017-201252(JP,A)
【文献】特開2008-020386(JP,A)
【文献】特開2011-058804(JP,A)
【文献】Hidehiko Dohi,Locating a Silane Coupling Agent in Silica-Filled Rubber Composites by EFTEM,Langmuir,2007年,Vol.23,pp.12344-12349
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子エネルギー損失分光法を用いてシリカ及びシランカップリング剤を含有する高分子複合材料を分析する分析方法であって、
前記高分子複合材料から作製した薄片試料に電子線を照射する電子線照射ステップと、
前記薄片試料を透過した電子のエネルギーに基づいて、微小領域毎のエネルギー損失スペクトルを取得するスペクトル取得ステップと、
前記エネルギー損失スペクトルを、前記シリカ及び前記シランカップリング剤の標準スペクトルを用いて解析し、前記シリカ及び前記シランカップリング剤の分布状態を表すマッピング画像を取得するマッピングステップとを含み、
前記マッピングステップでは、前記エネルギー損失スペクトルにおいて、前記シリカの標準スペクトルの特徴的な信号を含むエネルギー領域Bの積分強度と、前記エネルギー領域Bの範囲外で、前記シランカップリング剤の標準スペクトルの特徴的な信号を含むエネルギー領域Aの積分強度との比率に基づいて、前記マッピング画像を取得し、
前記エネルギー領域Aが100.0~107.0eVであり、前記エネルギー領域Bが107.0~109.5eVである分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ及びシランカップリング剤を含有する高分子複合材料の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子エネルギー損失分光法(EELS)は、電子が試料を透過する際に失うエネルギーを測定することで、元素分析等を行う手法である(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-133019号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Langmuir 2007、23、12344-12349、「Locating a Silane Coupling Agent in Silica-Filled Rubber Composites by EFTEM」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、EELSを用いてアモルファスカーボン膜を分析する手法が開示されているものの、シリカ及びシランカップリング剤を含む高分子複合材料の分析に関する記載はない。
【0006】
一方、非特許文献1では、EELSを用いてシリカ/ゴム複合体におけるケイ素及び硫黄の元素分布を分析する手法が開示されている。しかしながら、シリカ及びシランカップリング剤の標準スペクトルを用いた解析から、シリカ及びシランカップリング剤の分布状態を評価する手法は記載されていない。
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、シリカ及びシランカップリング剤の標準スペクトルを用いた解析から、シリカ及びシランカップリング剤の分布状態を評価する分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電子エネルギー損失分光法を用いてシリカ及びシランカップリング剤を含有する高分子複合材料を分析する分析方法であって、前記高分子複合材料から作製した薄片試料に電子線を照射する電子線照射ステップと、前記薄片試料を透過した電子のエネルギーに基づいて、微小領域毎のエネルギー損失スペクトルを取得するスペクトル取得ステップと、前記エネルギー損失スペクトルを、前記シリカ及び前記シランカップリング剤の標準スペクトルを用いて解析し、前記シリカ及び前記シランカップリング剤の分布状態を表すマッピング画像を取得するマッピングステップとを含む分析方法に関する。
【0009】
前記マッピングステップでは、前記シリカ及び前記シランカップリング剤の標準スペクトルを用いて、前記エネルギー損失スペクトルに対して最小二乗法による線形重回帰フィッティングを行い、その際のフィッティング係数に基づいて、前記マッピング画像を取得することが好ましい。
【0010】
前記マッピングステップでは、前記エネルギー損失スペクトルにおいて、前記シリカの標準スペクトルの特徴的な信号を含むエネルギー領域Bの積分強度と、前記エネルギー領域Bの範囲外で、前記シランカップリング剤の標準スペクトルの特徴的な信号を含むエネルギー領域Aの積分強度との比率に基づいて、前記マッピング画像を取得することが好ましい。
【0011】
前記エネルギー領域Aが100.0~107.0eVであり、前記エネルギー領域Bが107.0~109.5eVであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電子エネルギー損失分光法を用いてシリカ及びシランカップリング剤を含有する高分子複合材料を分析する分析方法であって、前記高分子複合材料から作製した薄片試料に電子線を照射する電子線照射ステップと、前記薄片試料を透過した電子のエネルギーに基づいて、微小領域毎のエネルギー損失スペクトルを取得するスペクトル取得ステップと、前記エネルギー損失スペクトルを、前記シリカ及び前記シランカップリング剤の標準スペクトルを用いて解析し、前記シリカ及び前記シランカップリング剤の分布状態を表すマッピング画像を取得するマッピングステップとを含む分析方法であり、シリカ及びシランカップリング剤の標準スペクトルを用いた解析から、高分子複合材料中のシリカ及びシランカップリング剤の分布状態を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】シリカ及びシランカップリング剤を含む高分子複合材料のSTEM像。
図2図1中の1を付した画素におけるエネルギー損失スペクトル。
図3】シリカの標準スペクトル。
図4】シランカップリング剤の標準スペクトル。
図5】残差のスペクトル。
図6】Csiの強度のマッピング画像(Csiの強度分布)。
図7】Ccaの強度のマッピング画像(Ccaの強度分布)。
図8】フィッティング係数の強度分布を重ね合わせたマッピング画像。
図9】エネルギー領域Aの積分強度のマッピング画像。
図10】エネルギー領域Bの積分強度のマッピング画像。
図11】A/Bのマッピング画像。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、電子エネルギー損失分光法を用いてシリカ及びシランカップリング剤を含有する高分子複合材料を分析する分析方法であって、前記高分子複合材料から作製した薄片試料に電子線を照射する電子線照射ステップと、前記薄片試料を透過した電子のエネルギーに基づいて、微小領域毎のエネルギー損失スペクトルを取得するスペクトル取得ステップと、前記エネルギー損失スペクトルを、前記シリカ及び前記シランカップリング剤の標準スペクトルを用いて解析し、前記シリカ及び前記シランカップリング剤の分布状態を表すマッピング画像を取得するマッピングステップとを含む分析方法であり、シリカ及びシランカップリング剤の標準スペクトルを用いた解析から、高分子複合材料中のシリカ及びシランカップリング剤の分布状態を評価することができる。
【0015】
上記分析方法に供される高分子複合材料は、シリカ及びシランカップリング剤を含む。
【0016】
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド等のスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン等のメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
高分子複合材料が含有する高分子成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)等のジエン系ゴム、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)等の非ジエン系ゴム等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
高分子複合材料は、上述の成分以外に、カーボンブラック等の充填剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、オイル等、従来公知のゴム分野の配合物を適宜配合してもよい。このようなゴム材料(ゴム組成物)は、公知の混練方法等を用いて製造でき、タイヤ用ゴム材料(タイヤ用ゴム組成物)等として利用可能である。
【0020】
上記分析方法では、電子エネルギー損失分光法(EELS)を用いて分析を行う。EELSは、通常、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査透過型電子顕微鏡(STEM)と組み合わせて使用される。TEM-EELS、STEM-EELSは、日本電子(株)等の製品を用いて、通常の方法で実施すればよい。これらのエネルギー分解能は、好ましくは1eV以下、より好ましくは0.5eV以下である。下限は特に限定されないが、通常、0.1eV以上である。
【0021】
(電子線照射ステップ)
上記分析方法において、電子線照射ステップでは、高分子複合材料から作製した薄片試料に電子線を照射する。
【0022】
薄片試料の作製方法は、例えば、ミクロトームによって高分子複合材料から切り出す方法等が挙げられる。薄片試料の厚みは、電子の透過性の観点から、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下であり、取扱の容易性の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上である。
【0023】
電子線を照射する際の加速電圧は、分析する試料にあわせて適宜調整すればよいが、好ましくは30kV以上、より好ましくは100kV以上であり、また、好ましくは300kV以下、より好ましくは200kV以下である。
【0024】
電子線を照射する際のその他の条件(電流量、露光時間等)は特に限定されず、適宜設定可能である。
【0025】
(スペクトル取得ステップ)
上記分析方法において、スペクトル取得ステップでは、薄片試料を透過した電子のエネルギーに基づいて、微小領域毎のエネルギー損失スペクトルを取得する。
【0026】
例えば、STEM-EELSを用いる場合であれば、図1に示すようなシリカ及びシランカップリング剤を含む高分子複合材料のSTEM像において、EELSにより、画素毎のエネルギー損失スペクトルを取得する。図2は、図1中の1を付した画素におけるエネルギー損失スペクトルである。
なお、画素のサイズは特に限定されず、適宜設定可能である。
【0027】
(マッピングステップ)
上記分析方法において、マッピングステップでは、エネルギー損失スペクトルを、シリカ及びシランカップリング剤の標準スペクトルを用いて解析し、シリカ及びシランカップリング剤の分布状態を表すマッピング画像を取得する。
【0028】
シリカの標準スペクトル(シリカ単体のエネルギー損失スペクトル)を図3に、シランカップリング剤の標準スペクトル(シランカップリング剤単体のエネルギー損失スペクトル)を図4に示す。これらを用いてエネルギー損失スペクトルを解析することで、シリカ及びシランカップリング剤の分布状態を表すマッピング画像が得られる。
【0029】
エネルギー損失スペクトルの解析方法としては、例えば、最小二乗法による線形重回帰(MLLS)フィッティングを用いる方法や、特定のエネルギー領域の積分強度比を用いる方法等が挙げられる。
【0030】
MLLSフィッティングを用いる方法では、例えば、シリカ及びシランカップリング剤の標準スペクトルを用いて、エネルギー損失スペクトルに対してMLLSフィッティングを行い、その際のフィッティング係数に基づいて、マッピング画像を取得する。
【0031】
例えば、強度:I、エネルギー損失:E、画素の位置:x,yとして、取得したエネルギー損失スペクトルをI(E;x,y)で表し、また、積分強度が1となるように規格化したシリカ及びシランカップリング剤の標準スペクトルをそれぞれIsi(E),Ica(E)、I(E)をIsi(E),Ica(E)でMLLSフィッティングしたときの係数をそれぞれCsi,Cca、フィッティングの残差をR(E)とすると、以下の関係式となる。
I(E;x,y)=Csi(x,y)×Isi(E)+Cca(x,y)×Ica(E)+R(E;x,y)
【0032】
すなわち、エネルギー損失スペクトル(I(E;x,y))は、シリカの標準スペクトル(Csi(x,y)×Isi(E))と、シランカップリング剤の標準スペクトル(Cca(x,y)×Ica(E))と、残差(R(E;x,y))との足し合わせとして表される。図5は残差のスペクトルである。
【0033】
上記関係式において、通常、残差は約0となるため、無視できる。したがって、Csiの値が大きくCcaの値が小さい位置ではシリカが多く、逆に、Csiの値が小さくCcaの値が大きい位置ではシランカップリング剤が多い、と判断できる。これを利用して、フィッティング係数であるCsi,Ccaを、シリカ及びシランカップリング剤の分布状態の指標として用いることができる。
【0034】
図6はCsiの強度のマッピング画像(Csiの強度分布)を、図7はCcaの強度のマッピング画像(Ccaの強度分布)である。これらの画像では、色が薄い部分ほど強度が高いことを意味する。
【0035】
また、図8はこれらのフィッティング係数の強度分布を重ね合わせたマッピング画像である。図8では、Csiの値が大きい部分(緑色の部分)にシリカが、Ccaの値が大きい部分(紫色の部分)にシランカップリング剤が存在していると判断できる。よって、図8のマッピング画像から、シリカ及びシランカップリング剤の分布状態を評価することができる。
【0036】
次に、特定のエネルギー領域の積分強度比を用いる方法では、例えば、エネルギー損失スペクトルにおいて、シリカの標準スペクトルの特徴的な信号を含むエネルギー領域Bの積分強度と、エネルギー領域Bの範囲外で、シランカップリング剤の標準スペクトルの特徴的な信号を含むエネルギー領域Aの積分強度との比率に基づいて、マッピング画像を取得する。
【0037】
例えば、図3に示したシリカの標準スペクトルであれば、107.0~109.5eVのエネルギー領域に大きなピークが存在することが特徴といえる。よって、107.0~109.5eVの範囲をエネルギー領域Bとする。
一方、図4に示したシランカップリング剤の標準スペクトルであれば、シリカの標準スペクトルと比較して、低エネルギー側にピークが広がっていることが特徴であるといえる。よって、100.0~107.0eVの範囲をエネルギー領域Aとする。
【0038】
そして、各画素のエネルギー損失スペクトルにおいて、エネルギー領域Aの積分強度、エネルギー領域Bの積分強度を算出する。図9はエネルギー領域Aの積分強度のマッピング画像、図10はエネルギー領域Bの積分強度のマッピング画像である。これらの画像では、色が薄い部分ほど強度が高いことを意味する。
【0039】
また、図11はエネルギー領域Bの積分強度に対するエネルギー領域Aの積分強度の比率(A/B)のマッピング画像である。図3に示したシリカの標準スペクトルにおけるA/Bが約0.35、図4に示したシランカップリング剤の標準スペクトルにおけるA/Bが約0.75であることから、図11のマッピング画像において、A/Bが0.35付近の部分(濃灰色の部分)にシリカが、A/Bが0.35より大きい部分(灰~白色の部分)にシランカップリング剤が存在していると判断できる。よって、A/Bを指標として、図11のマッピング画像から、シリカ及びシランカップリング剤の分布状態を評価することができる。
【0040】
以上、説明したように、上記分析方法では、シリカ及びシランカップリング剤の標準スペクトルを用いてエネルギー損失スペクトルを解析し、シリカ及びシランカップリング剤の分布状態を表すマッピング画像を取得することで、高分子複合材料中のシリカ及びシランカップリング剤の分布状態を評価することができる。得られた分布状態の情報は、高分子複合材料の物性向上のための指針として利用可能である。
【実施例
【0041】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
なお、上述の説明で使用した図1~11は、以下の実施例から取得したものである。
【0042】
(試料製造方法)
SBR(日本ゼオン(株)製のNipol NS616) 100質量部
シリカ(エボニックデグッサ社製のウルトラシルVN3) 75質量部
シランカップリング剤(エボニックデグッサ社製のSi266) 6質量部
硫黄(鶴見化学(株)製の粉末硫黄) 1.5質量部
加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ) 2質量部
上記配合内容に従い、ゴム成分、シリカ及びシランカップリング剤を1.7Lのバンバリーミキサーを用いて排出温度150℃で1分間混練りすることにより、混練り物を得た。得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて150℃で1分間練りこみ、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を160℃で20分間、0.5mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。得られた加硫ゴム組成物をミクロトームで切り出し、薄片試料(厚み:80nm)を得た。
【0043】
(STEM-EELS測定)
STEM-EELS:日本電子(株)製のJEM-ARM200F ACCELARM
エネルギー分解能:0.3eV
加速電圧:200kV
電流量:500pA
露光時間:0.5s
画素サイズ:1.5nm
上記条件で、STEM-EELSを用いて薄片試料を観察し、図1に示すSTEM像を得た。そして、このSTEM像の画素毎に、EELSを用いてエネルギー損失スペクトルを取得した。図2は、図1中の1を付した画素のエネルギー損失スペクトルである。
また、シリカ、シランカップリング剤について、単体で同様に測定し、シリカの標準スペクトル(図3)、シランカップリング剤の標準スペクトル(図4)を取得した。
【0044】
(実施例1:MLLSフィッティングを用いた解析)
上述の関係式を用いて、各画素のエネルギー損失スペクトルに対してMLLSフィッティングを行い、フィッティング係数Csi,Ccaを算出した。そして、Csiの強度のマッピング画像(図6)、Ccaの強度のマッピング画像(図7)、フィッティング係数の強度分布を重ね合わせたマッピング画像(図8)を取得した。
【0045】
図8では、Csiの値が大きい部分(緑色の部分)にシリカが、Ccaの値が大きい部分(紫色の部分)にシランカップリング剤が存在していると判断できるため、図8のマッピング画像から、シリカ及びシランカップリング剤の分布状態を評価することができる。
【0046】
(実施例2:MLLSフィッティングを用いた解析)
各画素のエネルギー損失スペクトルにおいて、107.0~109.5eVの範囲をエネルギー領域B、100.0~107.0eVの範囲をエネルギー領域Aとし、エネルギー領域Bの積分強度に対するエネルギー領域Aの積分強度の比率(A/B)を算出した。そして、エネルギー領域Aの積分強度のマッピング画像(図9)、エネルギー領域Bの積分強度のマッピング画像(図10)、A/Bのマッピング画像(図11)を取得した。
【0047】
図11のマッピング画像において、A/Bが0.35付近の部分(濃灰色の部分)にシリカが、A/Bが0.35より大きい部分(灰~白色の部分)にシランカップリング剤が存在していると判断できるため、図11のマッピング画像から、シリカ及びシランカップリング剤の分布状態を評価することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11