(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】電解質の酸化電位の測定装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0565 20100101AFI20230410BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20230410BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20230410BHJP
G01N 21/35 20140101ALI20230410BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/058
G01N27/416 341M
G01N21/35
(21)【出願番号】P 2021175362
(22)【出願日】2021-10-27
【審査請求日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】202110103980.8
(32)【優先日】2021-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】598098331
【氏名又は名称】ツィンファ ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】500080546
【氏名又は名称】鴻海精密工業股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】HON HAI PRECISION INDUSTRY CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】66,Chung Shan Road,Tu-Cheng New Taipei,236(TW)
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】方 振翰
(72)【発明者】
【氏名】王 佳平
(72)【発明者】
【氏名】▲ハン▼ 守善
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/230506(WO,A1)
【文献】特開2008-128652(JP,A)
【文献】特開2013-217751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0565
H01M 10/058
G01N 27/416
G01N 21/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞、測定ユニット、検出器、処理ユニット及びディスプレイを含む電解質の酸化電位の測定装置において、前記測定ユニット及び前記検出器は、前記空洞の内部に配置され、前記検出器によって検出された赤外光の強度は、前記処理ユニットに送信され、前記処理ユニットに処理された後、前記ディスプレイで測定される電解質の赤外スペクトルを取得し、
前記測定ユニットは、正極プレート、負極プレート、第一赤外線窓、第二赤外線窓及び電解質を含み、前記第一赤外線窓、前記正極プレート、前記負極プレート及び前記第二赤外線窓が積層して設置され、前記正極プレートは第一スルーホールを含み、前記負極プレートは第二スルーホールを含み、前記第一スルーホールと第二スルーホールが連通して設置され、前記第一赤外線窓は前記第一スルーホールを覆い、前記第二赤外線窓は前記第二スルーホールを覆い、前記電解質は、前記正極プレートと前記負極プレートの間に配置され、且つ赤外線ビームは順番に、前記第一赤外線窓、前記第一スルーホール、前記電解質、前記第二スルーホール及び前記第二赤外線窓を通過した後、前記検出器によって検出されることを特徴とする電解質の酸化電位の測定装置。
【請求項2】
前記第一赤外線窓及び前記第二赤外線窓は、それぞれ臭化カリウム窓であることを特徴とする請求項1に記載の電解質の酸化電位の測定装置。
【請求項3】
前記正極プレートは、ステンレス鋼板であり、前記負極プレートは、リチウム箔であることを特徴とする請求項1に記載の電解質の酸化電位の測定装置。
【請求項4】
前記電解質は、グリセリルエーテルエポキシ樹脂ゲル電解質であり、該グリセリルエーテルエポキシ樹脂ゲルは、グリセリルエーテルエポキシ樹脂及び電解質溶液を含み、
前記グリセリルエーテルエポキシ樹脂は、エテロキシ基を含み、グリセリルエーテルポリマー及びポリアミン化合物が開環反応をすることによって得られた架橋ポリマーであり、前記グリセリルエーテルポリマーは、グリシジルエーテルポリマーであり、該グリシジルエーテルポリマーは、少なくとも2つのエポキシ基を含み、前記ポリアミン化合物は、少なくとも2つのアミン基を含み、前記架橋ポリマーは、三次元ネットワーク構造であり、主鎖と複数のヒドロキシル基を含み、該架橋ポリマーにおける複数のヒドロキシル基は、前記架橋ポリマーの主鎖に位置し、且つ前記グリセリルエーテルポリマーのエポキシ基は、前記架橋ポリマーの主鎖に位置して、
前記電解質溶液は、リチウム塩及び非水溶媒を含み、前記リチウム塩は、前記グリセリルエーテルエポキシ樹脂の三次元ネットワーク構造に散在され、前記リチウム塩及び前記グリセリルエーテルエポキシ樹脂は、前記非水溶媒に分散されることを特徴とする
請求項1に記載の電解質の酸化電位の測定装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかの請求項に記載される電解質の酸化電位の測定装置を提供する第一ステップと、
外部電源を使用して、正極プレートと負極プレートとの間の電圧を変更し、ディスプレイを通して、複数の異なる電圧での電解質の赤外線スペクトルをリアルタイムで観察する第二ステップと、
赤外スペクトルの酸化しやすい基の特性ピークが消えるとき、対応する電位は、前記電解質の酸化電位である第三ステップと、
を含むことを特徴とする電解質の酸化電位の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質の酸化電位の測定装置及び測定方法に関し、特にリチウムイオン電池の電解質の酸化電位の測定装置及び測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メインフレームからウェアラブルデバイスへの情報端末の段階的な開発に伴い、フレキシブル電子デバイスの需要も増加する。フレキシブル電子デバイスの鍵となるフレキシブルエネルギー貯蔵デバイスは、ウェアラブル電子デバイスや埋め込み型医療デバイスなどの幅広いアプリケーションの見通しを持つエネルギー供給コンポーネントとして使用され、そのようなアプリケーションは増加する。他のエネルギー貯蔵デバイスと比較して、リチウムイオン電池(LIB)はより高い動作電圧とより高いエネルギー密度を持つので、リチウムイオン電池はフレキシブルエネルギー貯蔵デバイスにとって理想的な選択であると考えられる。
【0003】
電解質は、リチウムイオン電池の重要な部分であり、電解質の酸化電位はリチウムイオン電池の出力電圧及びエネルギー密度に直接的に影響を与える。電解質の赤外線スペクトルのピーク変化を観察することにより、電解質が酸化されるかどうかを判断することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の測定方法では、電解質の酸化電位を得るために、電解質の作動状態の下でその場で動的に電解質の赤外スペクトルを測定することは不可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
これによって、本発明は、電解質の酸化電位を得るために、その場で動的に電解質の赤外スペクトルを測定する電解質の酸化電位の測定装置及び測定方法を提供する。
【0006】
電解質の酸化電位の測定装置は、空洞、測定ユニット、検出器、処理ユニット及びディスプレイを含む。前記測定ユニット及び前記検出器は、前記空洞の内部に配置され、前記検出器によって検出された赤外光の強度は、前記処理ユニットに送信され、前記処理ユニットにより処理された後、前記ディスプレイで測定される電解質の赤外スペクトルを取得する。前記測定ユニットは、正極プレート、負極プレート、第一赤外線窓、第二赤外線窓及び電解質を含み、前記第一赤外線窓、前記正極プレート、前記負極プレート及び前記第二赤外線窓が積層して設置され、前記正極プレートは第一スルーホールを含み、前記負極プレートは第二スルーホールを含み、前記第一スルーホールと第二スルーホールが連通して設置され、前記第一赤外線窓は前記第一スルーホールを覆い、前記第二赤外線窓は前記第二スルーホールを覆い、前記電解質は、前記正極プレートと前記負極プレートの間に配置され、且つ赤外線ビームは順番に、前記第一赤外線窓、前記第一スルーホール、前記電解質、前記第二スルーホール及び前記第二赤外線窓を通過した後、前記検出器によって検出される。
【0007】
前記第一赤外線窓及び前記第二赤外線窓は、それぞれ臭化カリウム窓である。
【0008】
前記正極プレートは、ステンレス鋼板であり、前記負極プレートは、リチウム箔である。
【0009】
前記電解質は、グリセリルエーテルエポキシ樹脂ゲル電解質であり、該グリセリルエーテルエポキシ樹脂ゲルは、グリセリルエーテルエポキシ樹脂及び電解質溶液を含む。前記グリセリルエーテルエポキシ樹脂は、エテロキシ基を含み、グリセリルエーテルポリマー及びポリアミン化合物が開環反応をすることによって得られた架橋ポリマーであり、前記グリセリルエーテルポリマーは、グリシジルエーテルポリマーであり、該グリシジルエーテルポリマーは、少なくとも2つのエポキシ基を含み、前記ポリアミン化合物は、少なくとも2つのアミン基を含み、前記架橋ポリマーは、三次元ネットワーク構造であり、主鎖と複数のヒドロキシル基を含み、該架橋ポリマーにおける複数のヒドロキシル基は、前記架橋ポリマーの主鎖に位置し、且つ前記グリセリルエーテルポリマーのエポキシ基は、前記架橋ポリマーの主鎖に位置する。前記電解質溶液は、リチウム塩及び非水溶媒を含み、前記リチウム塩は、前記グリセリルエーテルエポキシ樹脂の三次元ネットワーク構造に散在され、前記リチウム塩及び前記グリセリルエーテルエポキシ樹脂は、前記非水溶媒に分散される。
【0010】
電解質の酸化電位の測定方法は、前記電解質の酸化電位の測定装置を提供する第一ステップと、外部電源を使用して、正極プレートと負極プレートとの間の電圧を変更し、ディスプレイを通して、複数の異なる電圧での電解質の赤外線スペクトルをリアルタイムで観察する第二ステップと、赤外スペクトルの酸化しやすい基の特性ピークが消えるとき、対応する電位は、前記電解質の酸化電位である第三ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明により提供される電解質の酸化電位の測定装置及び測定方法は、正極プレートと負極プレートとの間に印加される電圧をリアルタイムで変化させ、それによって、測定される電解質の電圧をリアルタイムで変化させ、且つ異なる電圧で測定される電解質の赤外線スペクトルのピーク値の変化によって、測定される電解質の酸化電位を得る。従って、本実施形態で提供される赤外分光法によって電解質の酸化電位を測定するための測定装置及び測定方法は、その場で動的かつリアルタイムで測定される電解質の酸化電位を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態によって提供される架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂(c-PEGR)の概略構造図である。
【
図2】本発明の実施形態における架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂を合成するための反応プロセスのフーリエ変換赤外スペクトルである。
【
図3】本発明の実施形態によって提供される架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図4】本発明の実施形態によって提供されるリチウムイオン電池の電解質の構造を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態によって提供されるc-PEGRゲルの吸収率が電解質での浸漬時間によって変化する曲線である。
【
図6】本発明の実施形態によって提供されるc-PEGRゲル電解質のイオン導電率及びリチウムイオン移動数の変化曲線である。
【
図7】本実施形態におけるc-PEGRゲルのフーリエ変換赤外分光法(FTIR)である。
【
図8】0.2mAcm
-2の電流密度のもとで、上記の三つの異なる電解質で組み立てられたリチウム対称電池の最初のサイクルと100回目のサイクルの電圧曲線である。
【
図9】異なる電流密度のもとで、上記の三つの異なる電解質で組み立てられたリチウム対称電池の最初のサイクルと100回目のサイクルの電圧曲線である。
【
図10】上記の三つの異なる電解質で組み立てられたリチウム対称電池の異なる電流密度の下での最初のサイクルと100回目のサイクルの電圧曲線である。
【
図11】0.2mAcm
-2の電流密度のもとで、c-PEGRゲル電解質、電解質溶液(LE)及びPEGゲル電解質の三つの異なる電解質で組み立てられたコバルト酸リチウム(LCO)||Liの100時間サイクル後の表面走査型電子顕微鏡写真及び断面走査型電子顕微鏡写真である。
【
図12】0.2Cのレートで、上記の三つの異なる電解質でそれぞれ組み立てられた(LCO)||Liボタン電池のサイクル性能曲線である。
【
図13】
図11に示される三つの異なる電解質でそれぞれ組み立てられた(LCO)||Li電池の初期状態とサイクル後の電気化学的インピーダンススペクトルである。
【
図14】本発明の実施形態によって提供されるc-PEGRゲル電解質及びLEで組み立てられた可撓性ポーチ電池の0.1Cのレートで初めて充電された際の電圧-容量曲線である。
【
図15】線形走査ボルタンメトリーを使用して、0.01mVs
-1の走査速度で本発明の実施形態のc-PEGRゲルの酸化電位を走査する時に得られた電流-電圧変化曲線である。
【
図16】従来の線形走査ボルタンメトリーを使用して、0.01mVs
-1の走査速度で本発明のc-PEGRゲルを走査する時に得られた電流-電圧曲線である。
【
図17】本発明の実施形態によって提供されるリチウムイオン電池電解質の酸化電位の測定装置の構造を示す図である。
【
図18】
図17の測定装置における測定ユニットの構造を示す図である。
【
図19】本実施形態におけるc-PEGRゲル電解質の異なる電圧のもとでの赤外線スペクトログラムである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面及び具体的な実施例を参照して、本発明による電解質の酸化電位の測定装置及び測定方法をさらに詳細に説明する。
【0014】
本発明の第一実施形態は、グリセリルエーテルエポキシ樹脂を提供する。グリセリルエーテルエポキシ樹脂は、エテロキシ基を含む。グリセリルエーテルエポキシ樹脂は、グリセリルエーテルポリマー及びポリアミン化合物が開環反応をすることによって得られた架橋ポリマーである。グリセリルエーテルエポキシ樹脂は、架橋された三次元ネットワーク構造である。グリセリルエーテルポリマーは、グリシジルエーテルポリマーであり、グリシジルエーテルポリマーは、少なくとも2つのエポキシ基を含む。ポリアミン化合物は、少なくとも2つのアミン基を含む。架橋ポリマーは、主鎖と複数のヒドロキシル基を含み、架橋ポリマーにおける複数のヒドロキシル基は、架橋ポリマーの主鎖に位置し、且つ複数のヒドロキシル基は、架橋ポリマーの主鎖に限定され、これによって、ヒドロキシル基が自由に動くことができず、グリセリルエーテルポリマーにおけるエポキシ基の構造がポリマーの主鎖に位置する。
【0015】
グリセリルエーテルエポキシ樹脂は、グリセリルエーテルポリマーとポリアミン化合物との開環反応により形成され、複数のヒドロキシル基が架橋ポリマーの主鎖に限定され、自由に移動することができない。エーテルオキシ基は(C-O-C)nである。
【0016】
グリセリルエーテルポリマーは、グリシジルエーテルポリマーであり、且つグリシジルエーテルポリマーは、少なくとも2つのエポキシ基を含む。グリセリルエーテルポリマーは、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル及びポリエチレンオキシドジグリシジルエーテルの中の一種又は複数種を含み、これらに限定されない。好ましくは、グリセリルエーテルポリマーは、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルであり、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの構造式は、C3H5O2-(C2H4O)n-C3H5Oである。グリシジルエーテルポリマーを形成するモノマーは、アリルグリシジルエーテル、ジグリシジルエーテル、イソプロピルグリシジルエーテル、n-ブチルグリシジルエーテル、脂肪族ジグリシジルエーテル及びフェニルグリシジルエーテルの中の一種又は複数種を含む。
【0017】
グリセリルエーテルポリマーの分子量は、200~600である。グリセリルエーテルポリマーの分子量が大きすぎると、架橋ポリマーの粘度が特に大きくなり、架橋ポリマーの主鎖が特に長くなり、絡みやすくなる。グリセリルエーテルポリマーの分子量が小さすぎると、架橋ポリマーの主鎖が短すぎ、架橋ポリマーの柔軟性が低くなる。本実施形態では、グリセリルエーテルポリマーは、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルである。ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの分子量は200~600である。本実施形態では、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの分子量は400である。
【0018】
ポリアミン化合物は、少なくとも2つのアミン基を含む。ポリアミン化合物は、有機アミンの重合反応によって形成される。好ましくは、ポリアミン化合物は有機ジアミンポリマーである。ポリアミン化合物は、ポリエーテルアミン、ポリプロピレンイミン、ポリエチレンイミン、ポリエポキシアミン、ポリエチレンジアミン、ポリジアミノジフェニル又はポリジアミノジフェニルエーテルのうちの一種又は複数種を含み、これらに限定されない。好ましくは、ポリアミン化合物は、ポリエーテルアミンであり、ポリエーテルアミンの構造式は、CH3CH(NH2)CH2 [OCH2CH(CH3)]nNH2である。
【0019】
ポリアミン化合物の分子量は、1500~3000である。ポリアミン化合物の分子量が大きすぎると、架橋ポリマーの粘度が特に大きくなり、架橋ポリマーの主鎖が特に長くなり、絡みやすくなる。ポリアミン化合物の分子量が小さすぎると、架橋ポリマーの主鎖が短すぎ、架橋ポリマーの柔軟性が低くなる。本実施形態では、ポリアミン化合物は、ポリエーテルアミンである。ポリエーテルアミンの分子量は1500~3000である。本実施形態では、ポリエーテルアミンの分子量は2000である。
【0020】
本実施形態では、グリセリルエーテルポリマーは、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDE)であり、ポリアミン化合物は、ポリエーテルアミン(PEA)である。PEGDEとPEAが開環反応をして、ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂を形成する化学反応式は次のとおりである。
【0021】
【0022】
ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルとポリエーテルアミンは、開環反応により架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂(c-PEGR)を形成する。
図1を参照すると、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂は、架橋された三次元ネットワーク構造である。
【0023】
ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルのエポキシ基の酸素原子は、開環反応をした後、ヒドロキシル基を生成し、生成されたヒドロキシル基は、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂の主鎖に隣接する炭素原子によって制限され、ヒドロキシル基の自由な動きが制限されるので、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂のヒドロキシル基の酸化の可能性が大幅に減少する。従って、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂の酸化安定性が大幅に改善される。実験によって、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂の酸化電位が4.36Vに達することができることが証明される。また、エチレンオキシド(EO)又はプロピレンオキシド(PO)は、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂の主鎖には残され、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂は、リチウムイオン電池の電解質に使用される場合には、それはLi金属アノードと良好な互換性を持つ。架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂は、末端がエポキシ基で修飾されたポリエチレングリコールの反応物と末端がアミノ基で修飾されたポリエチレングリコールの反応物によって重合されるものである。従って、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂は優れた柔軟性を持つ。
【0024】
また、本発明は、グリセリルエーテルエポキシ樹脂の製造方法を提供し、グリセリルエーテルエポキシ樹脂の製造方法は、具体的には、以下のステップを含む。
【0025】
ステップS1、グリセリルエーテルポリマー及びポリアミン化合物を提供する。
【0026】
ステップS2、グリセリルエーテルポリマーとポリアミン化合物を混合し、前駆体を形成する。
【0027】
ステップS3、基板の表面に前駆体を均一にコーティングする。
【0028】
ステップS4、表面に前駆体がコーティングされた基板を特定温度に加熱し、該特定温度のもとで一定時間維持して、グリセリルエーテルエポキシ樹脂を得る。
【0029】
ステップS1において、エポキシ当量とアミノ当量が等しいことに従って、グリセリルエーテルポリマー及びポリアミン化合物を準備することができる。
【0030】
ステップS2において、グリセリルエーテルポリマーとポリアミン化合物は、特定の質量比に従って、混合することができる。グリセリルエーテルポリマーとポリアミン化合物の質量比は、1:4~4:5である。いくつかの実施形態では、グリセリルエーテルポリマーとポリアミン化合物の質量比は2:5~4:5である。他のいくつかの実施形態では、グリセリルエーテルポリマーとポリアミン化合物の質量比は2:5である。
【0031】
いくつかの実施形態において、反応をより完全に進行させるために、ステップS2において、グリセリルエーテルポリマー及びポリアミン化合物が混合された後、さらに混合物を特定の温度に加熱し、該温度のもとで連続的に一定時間撹拌し、前駆体を得る。攪拌とは、電気的攪拌又は磁気的攪拌である。好ましくは、ステップS2において、グリセリルエーテルポリマーとポリアミン化合物が混合された後、混合物を50~60℃に加熱し、該加熱温度のもとで12~48時間撹拌する。より好ましくは、ステップS2において、グリセリルエーテルポリマーとポリアミン化合物が混合された後、混合物を55℃に加熱し、55℃のもとで20時間撹拌する。
【0032】
ステップS3において、基板は、平坦な表面を有する基板であることが好ましい。基板の形状とサイズは、実際のニーズに応じて選択する。基板の材料は、ポリオレフィンであることが好ましい。本実施形態では、基板はポリテトラフルオロエチレン基板である。
【0033】
ステップS4において、好ましくは、表面に前駆体がコーティングされた基板を80~90℃に加熱し、80~90℃の温度で30~55時間維持する。より好ましくは、表面に前駆体がコーティングされた基板を85℃に加熱し、85℃の温度で48時間維持する。
【0034】
本実施例では、グリセリルエーテルエポキシ樹脂の製造方法を使用し、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂(c-PEGR)が合成される。これには、具体的には、以下のとおりである。エポキシ当量とアミンの当量が等しいことに従って、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDE)及びポリエーテルアミン(PEA)を準備し、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル及びポリエーテルアミンを質量比PEGDE:PEA=2:5に従って混合し、55℃で20時間磁気的に攪拌し、前駆体を形成し、前駆体をポリテトラフルオロビニル基板の表面に均一的にコーティングし、表面に前駆体がコーティングされたポリテトラフルオロビニル基板を85℃に加熱し、85℃で48時間保持し、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂を生成する。
【0035】
図2を参照すると、本実施形態では、ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂(c-PEGR)を合成する反応プロセスのフーリエ変換赤外分光法(FTIR)を示す。
図2から、反応物PEGDEとPEAでそれぞれ1100cm
-1と2800cm
-1の近くに、それぞれ主鎖の繰り返し単位のエーテル基(C-O-C)と炭素-水素結合の引張振動に対応する二つの主要なピークが検出されることが分かる。アミン基が存在するため、PEAは3000cm
-1の近くに他の引張振動ピークを示す。c-PEGRは3500cm
-1の近くにヒドロキシル基の引張振動ピークを示すので、PEGDEとPEAの開環反応によって形成されたc-PEGRがヒドロキシル基を含むことが分かり、これはPEGDEとPEAの反応式(1)と一致する。
【0036】
図3を参照すると、本実施形態によって提供される架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂の走査型電子顕微鏡写真である。
図3から、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂の厚さが約30μmであることが分かる。
【0037】
本発明により提供されるグリセリルエーテルエポキシ樹脂は、末端がエポキシ基で修飾されたポリエチレングリコールの反応物と末端がアミノ基で修飾されたポリエチレングリコールの反応物が重合することによって、得られ、グリセリルエーテルエポキシ樹脂はエーテルオキシ基を含む。そのため、グリセリルエーテルエポキシ樹脂は柔軟性が高く、グリセリルエーテルエポキシ樹脂は架橋三次元ネットワーク構造を持ち、グリセリルエーテルエポキシ樹脂は優れた機械的性質及びより強い構造を持つ。グリセリルエーテルエポキシ樹脂のヒドロキシル基は、架橋ポリマーの主鎖に制限され、ヒドロキシル基の自由運動が制限されるため、グリセリルエーテルエポキシ樹脂のヒドロキシル基の酸化の可能性が大幅に減少する。従って、グリセリンエーテルエポキシ樹脂の酸化安定性が向上し、酸化電位が4.36Vに達することができる。さらに、エチレンオキシド(EO)又はプロピレンオキシド(PO)は、グリセリルエーテルエポキシ樹脂の主鎖に残る。グリセリルエーテルエポキシ樹脂はリチウムイオン電池の電解質に使用されると、Li金属アノードと良好な互換性を持つ。
【0038】
図4に示すように、本発明の第二実施形態は、リチウムイオン電池電解質100を提供し、リチウムイオン電池電解質100は、グリセリルエーテルエポキシ樹脂ゲル10を含み、グリセリルエーテルエポキシ樹脂ゲル10は、グリセリルエーテルエポキシ樹脂12及び電解質溶液14を含み、グリセリルエーテルエポキシ樹脂12は、架橋された三次元ネットワーク構造を有する。電解質溶液14は、リチウム塩142及び非水溶媒144を含む。リチウム塩142は、グリセリルエーテルエポキシ樹脂12の架橋三次元ネットワーク構造に散在され、リチウム塩142及びグリセリルエーテルエポキシ樹脂12は、非水溶媒144に分散される。理解できることは、いくつかの実施形態において、リチウムイオン電池の電解質100は、グリセリルエーテルエポキシ樹脂ゲル10のみから構成され、グリセリルエーテルエポキシ樹脂ゲル10は、モノグリセリルエーテルエポキシ樹脂12及び電解質溶液14のみから構成され、電解質溶液14は、リチウム塩142及び非水溶媒144から構成される。
【0039】
グリセリルエーテルエポキシ樹脂12は、第一実施形態のグリセリルエーテルエポキシ樹脂であり、第一実施形態のグリセリルエーテルエポキシ樹脂のすべての技術的特徴を有する。ここでは詳細に説明しない。
【0040】
電解質溶液14は、従来のリチウムイオン電池の電解質溶液である。本実施形態では、電解質溶液14は、体積比が1:1である炭酸ジメチル(DMC)及び炭酸フルオロエチレン(FEC)の非水溶媒に1Mol/ Lのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)が添加されるものである。
【0041】
リチウム塩142には、塩化リチウム(LiCl)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3SO3)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF6)、ヘキサフルオロアンチモン酸リチウム(LiSbF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、Li[BF2(C2O4)]、Li[PF2(C2O4)2]、Li[N(CF3SO2)2]、Li[N(CF3SO2)3]及びリチウムビスシュウ酸塩ホウ酸塩(LiBOB)中の一種又は複数種を含むを含むが、これらに制限されない。
【0042】
非水溶媒144は、環状炭酸塩、鎖状炭酸塩、環状エーテル、鎖状エーテル、ニトリル及びアミドの中の一種又は複種であるが、これらに制限されない。非水溶媒144は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、炭酸ジエチル(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ブチレンカーボネート、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトン、ジプロピルカーボネート、N-メチルピロリドン(NMP)、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジエチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、アニソール、スクシノニトリル、アジポニトリル、グルタロニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルサルファイト、ビニレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、炭酸ジエチル、フルオロエチレンカーボネート、クロロプロピレンカーボネート、酸無水物、スルホラン、メトキシメチルスルホン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、メチルブチレート、エチルプロピオネート、メチルプロピオネート、ジメチルホルムアミド、1,3-ジオキソラン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジメトキシエタン又は1,2-ジブトキシの中の一種又は複数種の組み合わせである。
【0043】
本実施形態において、グリセリルエーテルエポキシ樹脂ゲルは、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂(c-PEGR)ゲルであり、グリセリルエーテルエポキシ樹脂12は、第一実施形態における架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂(c-PEGR)であり、リチウム塩142は、LiPF6であり、非水溶媒は、DMCとFECである。
【0044】
また、本実施形態は、上記のリチウムイオン電池電解質100の製造方法を提供する。上記のリチウムイオン電池電解質100の製造方法は、下記のステップを含む。
【0045】
ステップS'1、グリセリルエーテルエポキシ樹脂12を提供する。
【0046】
ステップS'2、グリセリルエーテルエポキシ樹脂12を電解質溶液14に浸漬して、グリセリルエーテルエポキシ樹脂ゲル10を得る。
【0047】
ステップS'1において、グリセリルエーテルエポキシ樹脂12の製造方法は、第一実施形態におけるグリセリルエーテルエポキシ樹脂の製造方法と全く同じであり、第一実施形態におけるグリセリルエーテルエポキシ樹脂の製造方法のすべてのステップ及び技術特徴を含むが、ここでは詳しく説明しない。
【0048】
ステップS'2において、グリセリルエーテルエポキシ樹脂12が電解質溶液14に浸漬される時間は、2時間以上である。
図5を参照すると、本実施形態で合成された架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂ゲルの吸収率は、電解質溶液への浸漬時間によって変化する曲線である。吸収率は、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂ゲルの総質量と架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂ゲルの初期質量との比である。
図5から、2時間浸漬した後、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂ゲルの質量が飽和状態になることが分かる。このとき、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂ゲルの総質量は、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂ゲルの初期質量の約400%である。
【0049】
本実施形態では、リチウムイオン電池電解質100は、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂(c-PEGR)ゲル電解質であり、グリセリルエーテルエポキシ樹脂ゲル10は、c-PEGRゲルである。電解質溶液14は、体積比が1:1であるジメチルカーボネート(DMC)とフルオロエチレンカーボネート(FEC)の非水溶媒に1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)が添加されるものである。リチウム塩142はLiPF6であり、非水溶媒144はDMC及びFECである。上記のリチウムイオン電池電解質100の製造方法でc-PEGRゲル電解質を合成する方法は、具体的には、下記のステップを含む。エポキシ当量及びアミン当量が等しいことに従って、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDE)及びポリエーテルアミン(PEA)を準備し、PEGDE及びPEAを質量比PEGDE:PEA= 2:5に従って混合し、55℃で20時間磁気的に攪拌し、前駆体を形成し、前駆体をポリテトラフルオロビニル基板の表面に均一にコーティングし、表面に前駆体がコーティングされたポリテトラフルオロビニル基板を85℃に加熱し、85℃で48時間保持して、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂を形成し、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂を、体積比が1:1vol%であるDMCとFECの非水溶媒に1mol/LのLiPF6を添加して形成された電解質溶液に2時間浸漬し、c-PEGRゲルを形成する。
【0050】
本実施形態のリチウムイオン電池電解質100におけるグリセリルエーテルエポキシ樹脂ゲルは、強いLiイオン伝導性を有する電解質溶液を有し、グリセリルエーテルエポキシ樹脂ポリマーは、主に電解質溶液を貯蔵する役割を果たす。従って、Liイオンの移動プロセスにおいて、グリセリルエーテルエポキシ樹脂ポリマーは、支配的ではなく、グリセリルエーテルエポキシ樹脂ゲル電解質のイオン伝導率とリチウムイオンの移動数が大幅に改善される。表面に金がコーティングされたステンレス鋼電極を、作用電極、参照電極、対電極として、c-PEGRゲル電解質を電解質として、ボタン電池を組み立て、リチウムイオンの伝導率を測定する。リチウム電極を作用電極、参照電極、対電極として、c-PEGRゲル電解質を電解質として、ボタン電池を組み立て、リチウムイオンの移動数を測定する。
図6は、ボタン電池において、c-PEGRゲル電解質のイオン伝導率とリチウムイオン移動数の変化曲線を示す。
図6から、室温(25℃)でc-PEGRゲル電解質のイオン伝導率は、0.7mScm
-1であり、リチウムイオンの移動数は0.47であり、それぞれ電解質溶液のイオン伝導率及びリチウムイオンの移動数と同等である。
【0051】
図7を参照すると、本実施形態におけるc-PEGRゲルのフーリエ変換赤外分光法(FTIR)である。
図7から、c-PEGRゲルは、3500cm
-1の近くにヒドロキシル基の引張振動ピークを持ち、c-PEGRと比べて、c-PEGRゲルのスペクトル曲線にも、1800cm
-1の近くに引張振動ピークを持ち、これは、非水溶媒にカルボニル基(C=O)が存在するからであることが分かる。
【0052】
本発明から提供されるリチウムイオン電池電解質のLiアノードにおけるリチウムの脱インターカレーションの性能を測定するために、電解質溶液(LE)、本実施形態におけるc-PEGRゲル電解質及びポリエチレングリコール(PEG)ゲル電解質で、それぞれリチウム対称電池を組み立てる。具体的には、それぞれ、LE、c-PEGRゲル電解質及びPEGゲル電解質の三つの異なる電解質を、二つのLi電極の間に挟んで、三つの異なるLi||電解質||Li対称電池を組み立てる。三つの異なる電解質で組み立てられたリチウム対称電池では、電解質のみが異なり、他の材料と構造は同じである。
【0053】
図8は、電流密度が0.2mAcm
-2である場合に、上記の三つの異なる電解質で組み立てられたリチウム対称電池の電圧曲線を比較する。
図8から、LE及びPEGゲル電解質と比較して、c-PEGRゲル電解質で組み立てられたリチウム対称電池は、より安定した電圧曲線及びより小さな分極電圧を持ち、PEGゲル電解質で組み立てられたリチウム対称電池は、数十回のサイクル後に短絡することが分かる。
図9は、上記の三つの異なる電解質で組み立てられたリチウム対称電池の最初と100回目のサイクルの電圧曲線を示す。
図9から、c-PEGRゲル電解質で組み立てられたリチウム対称電池は、サイクルプロセスにおいて、充電状態及び放電状態で約25mVの電圧プラトーを基本的に維持できることが分かる。LEで組み立てられたリチウム対称電池、サイクルプロセスにおいて、充電状態及び放電状態での電圧プラトーは約50mVである。PEGゲル電解質で組み立てられたリチウム対称電池は、初期過電位が50mVに近いが、構造安定性がないため、ほとんどLiデンドライトの生長を抑制できなく、短絡が発生し、サイクルプロセスにおいて、突然の電圧降下を起すことが分かる。従って、LE及びPEGゲル電解質と比較して、c-PEGRゲル電解質がより低い過電圧を有するので、c-PEGRゲル電解質は、Li金属表面にLiイオンを堆積/溶解させやすいことを説明する。
図10を参照すると、上記の3つの異なる電解質で組み立てられたリチウム対称電池の異なる電流密度の下での最初のサイクルと100回目のサイクルとの間のサイクルの電圧曲線である。
図10から、異なる電流密度の下で、c-PEGRゲル電解質を使用したリチウム対称電池は、良好なサイクル安定性と連続的な低分極電圧を有することが分かる。ただし、電流密度が1mAcm
-2より大きい場合には、LE及びPEGゲル電解質を使用するリチウム対称電池は、Li金属の剥離/堆積プロセスの不均一性が非常に深刻になり、デンドライトの生長が激しくなり、且つリチウム金属表面のSEIが電解質を継続的に消費する。
図8-10から、電解質溶液及びPEGゲル電解質を使用するリチウム対称電池と比較して、本実施形態におけるc-PEGRゲル電解質を使用するリチウム対称電池は、より安定した電圧及びサイクル性能を有することが分かる。
【0054】
図11を参照すると、0.2mAcm
-2の電流密度で、上記の三つの異なる電解質で組み立てられたリチウム対称電池は、100時間サイクル後、電解質の中にサイクルするリチウムの表面走査型電子顕微鏡写真及び断面走査型電子顕微鏡写真である。
図11から、LEの中にサイクルするLi表面に厚さが111μmであるSEI層があり、明らかな亀裂が見られることが分かる。これらの亀裂は、LEによって生成されたSEIが不安定であることを示し、LEはこれらの亀裂を介して新しく露出したLiに接触する可能性がある。それによって、SEIがさらに厚くなること及び電解質が消費されることを引き起こす。PEGゲル電解質の中でサイクル後のLiの表面及び側面に多くの不均一な樹枝状粒子の分布が観察される。これは、PEGゲル電解質を使用したリチウム対称電池が短絡しやすいことも説明される。ただし、本実施形態のc-PEGRゲル電解質の中にサイクルされたLiの表面は、より薄く(58μm)、高密度のSEIが形成され、これは、Liデンドライトの生長と電解質の更なる消費を効果的に防止することができる。従って、液体の電解質及びPEGゲル電解質を使用するリチウム対称電池と比較して、本実施形態におけるc-PEGRゲル電解質を使用するリチウム対称電池のサイクル性能は大幅に改善される。
【0055】
本実施形態では、電解質溶液(LE)、c-PEGRゲル電解質及びポリエチレングリコール(PEG)ゲル電解質を使用して、それぞれコバルト酸リチウム(LCO)||Liボタン電池を組み立てる。具体的には、アルゴングローブボックスでは、LCOが作用電極として、LE、c-PEGRゲル電解質又はPEGゲル電解質がそれぞれ電解質として、リチウム箔が対電極及び参照電極として使用され、三つの異なる(LCO)||Liボタン電池が組み立てられる。三つの異なる電解質で組み立てられる(LCO)||Liボタン電池では、電解質のみが異なり、他の材料と構造は同じである。
【0056】
図12を参照すると、0.2Cのレートで、上記の三つの異なる電解質でそれぞれ組み立てられた(LCO)||Liボタン電池のサイクル性能曲線である。
図12から、カットオフ電圧が4.35Vに上げる時、c-PEGRゲル電解質で組み立てられた電池は、依然として作動でき、最初のサイクルで159.1mAhg
-1の初期容量を示し、100回のサイクル後も、146.3mAhg
-1の容量、91.95%の容量保持率、99.92%の平均クーロン効率を依然として保持でき、すべて、LEで組み立てられたLCO||Liボタン電池よりも優れる。PEGゲル電解質で組み立てられた電池は、酸化安定性が悪いため、高電圧での作業時に不安定な容量と低いクーロン効率を示し、且つ10回のサイクル後に、容量をまったく解放できない。従って、LE及びPEGゲル電解質で組み立てられたLCO||Liボタン電池と比較して、c-PEGRゲル電解質で組み立てられたLCO||Liボタン電池は、より優れたサイクル安定性とクーロン効率を示す。
【0057】
図13を参照すると、上記の三つの異なる電解質でそれぞれ組み立てられたLCO||Liボタン電池の初期状態とサイクル後の電気化学的インピーダンススペクトルである。
図13から、c-PEGRゲル電解質を使用したLCO||Liボタン電池の電荷移動抵抗は、101.9Ωであり、LEを使用したLCO||Liボタン電池の電荷移動抵抗は、102.3Ωであることが分かる。従って、c-PEGRゲル電解質を使用した電池とLEを使用した電池との間で電荷移動抵抗に明らかな差異はない。これは、c-PEGRゲル電解質にLEが含まれ、且つc-PEGRゲル電解質が優れた柔軟性を持ち、c-PEGRゲル電解質が電極に完全に接触できるからである。ただし、PEGゲル電解質を使用した電池は、初期状態で265.7Ωの高い電荷移動抵抗を示す。これは、PEGゲルの構造安定性が悪いからである。
図13から、0.2Cのレートでサイクル後、c-PEGRゲル電解質を使用した電池のカソード及びアノード界面での電荷移動抵抗はそれぞれ71.2Ω、25.5Ωであり、LEを使用した電池のカソード及びアノード界面での電荷移動抵抗は、それぞれ156.5Ω、81.5Ωであり、PEGゲル電解質を使用した電池のカソード及びアノード界面での電荷移動抵抗は、それぞれ239.9Ω、183.4Ωであり、c-PEGRゲル電解質を使用した電池のカソード及びアノード界面での電荷移動抵抗は、LE及びPEGを使用した電池のカソード及びアノード界面での電荷移動抵抗よりもはるかに低いことが分かる。これは、三つの電解質の中で、c-PEGRゲル電解質が最高のリチウムイオン移動能力を持ち、c-PEGRゲル電解質で組み立てられた電池で生成されるパッシベーション層の厚さが最も薄く、Liイオンの移動が最も容易であることを示す。
【0058】
図14を参照すると、それぞれ、本実施形態におけるc-PEGRゲル電解質及びLEで組み立てられたフレキシブルポーチ電池は、0.1Cのレートでの最初の充電の電圧-容量曲線である。
図14から、二つの電池の初期充電容量に大きな違いはなく、c-PEGRゲルで組み立てられた電池の初期充電容量は、154.7mAhg
-1であり、LEで組み立てられた電池の初期充電容量は、156.7mAhg
-1であり、電池が曲げられた後(
図14の挿入図)、LEで組み立てられた電池の特定の充電容量は大幅に減少し、容量保持率はわずか85.9%であるが、c-PEGRゲル電解質で組み立てられた電池の容量保持率は96.2%であり、LEで組み立てられた電池の容量保持率よりもはるかに高くなる。さらに、従来のLEと比較して、本発明によって提供されるc-PEGRゲル電解質が良好な柔軟性を有することを説明する。
【0059】
本実施形態では、グリセリルエーテルエポキシ樹脂のヒドロキシル基が架橋ポリマーの主鎖に制限されるため、ヒドロキシル基の自由な動きが制限され、これにより、グリセリルエーテルエポキシ樹脂のヒドロキシル基の酸化の可能性が下がる。従って、グリセリルエーテルエポキシ樹脂の酸化安定性が向上される。実験により、本実施形態の架橋ポリエチレングリコールベースエポキシ樹脂(c-PEGR)ゲル電解質の酸化電位は、4.36Vに達することができ、これは、エーテル酸素基を含む従来のグリセリルエーテルエポキシ樹脂電解質の酸化電位よりはるかに高いことを示す。
【0060】
本発明の実施形態は、準静的ボルタンメトリー法を採用して、リチウムイオン電池電解質100の酸化電位を測定する。これは、具体的には、以下のステップを含む。
【0061】
ステップP1、リチウムイオン電池電解質100を作用電極と補助電極との間に配置し、電解セルを形成する。
【0062】
ステップP2、作用電極と補助電極との間に第一電圧U1を印加し、一定時間Δtの間、第一電圧U1を連続的に印加する。
【0063】
ステップP3、第一電圧U1が一定時間Δtの間連続的に印加された後、作用電極と補助電極との間に第二電圧U2を印加し、ここでU2 = U1 + ΔUであり、且つ第二電圧U2を一定時間Δtの間連続的に印加する。
【0064】
ステップP4、第二電圧U2が一定時間Δtの間連続的に印加された後、作用電極と補助電極との間に第三電圧U3を印加し、ここでU3 = U2 + ΔUであり、第三電圧U3を一定時間Δtの間連続的に印加する。同様にして、作用電極と補助電極との間に電圧Un = U(n-1) + ΔUを印加し、ここで、nは4以上の整数であり、一定時間Δtの間電圧Unを連続的に印加し、電解セルの電流と電位の経時変化曲線を得る。
【0065】
ステップP5:電解セルの電流と電位の経時変化曲線によって、リチウムイオン電池電解質100の酸化電位を取得する。
【0066】
ステップP1において、作用電極及び補助電極は、リチウムイオン電池で一般的に使用される作用電極及び補助電極である。本実施形態では、作用電極はステンレス鋼板であり、補助電極はリチウム箔である。
【0067】
ステップP2において、第一電圧U1の値の範囲は1.0~4.0Vである。第一電圧U1の具体的な値は、作用電極及び補助電極の具体的な材料によって選択することができる。本実施形態では、第一電圧U1は3.0Vである。Δtの時間は、好ましくは150秒~300秒である。本実施形態では、Δtの時間は150秒である。
【0068】
ステップP3では、ΔUの値が小さいほど、テストエラーは小さくなる。測定誤差と測定時間のバランスをとるために、ΔUの値の範囲は、好ましくは0.01~0.05Vである。本実施形態では、ΔUの値は0.02Vである。
【0069】
ステップP4では、得られた電解セルの電流と電位の経時変化曲線に、傾きが急激に変化する転換点がある。
【0070】
ステップP5において、リチウムイオン電池電解質100の酸化電位は、電流、電位の経時変化曲線において傾きが急激に変化する転換点に対応する電圧である。具体的には、電流と電位の経時変化曲線の始点及び終点にそれぞれ接線を引き、2つの接線の交点の対応する電圧は、リチウムイオン電池電解質100の酸化電位である。
【0071】
リチウムイオン電池電解質100の酸化電位の測定方法の測定時間は、電解セルの電流と電位の経時変化曲線に基づいて決定され、経時変化曲線において、傾きが急激に変化する点で測定を停止することができる。また、経時変化曲線において、傾きが急激に変化した点を出現した後、一定時間に測定し続けることもできる。本実施形態では、リチウムイオン電池電解質100の酸化電位の測定方法の測定時間は、約14,000秒である。
【0072】
図15を参照すると、上記の準静的ボルタンメトリー法で、本実施形態における架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂ゲル電解質を測定して、得られた電流及び電位の経時変化曲線である。
図15から、準静的ボルタンメトリー法によって測定された、本実施形態における架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂ゲル電解質の酸化電位は、4.36Vであることが分かる。また、
図15から、架橋ポリエチレングリコールベースのエポキシ樹脂ゲル電解質の測定方法の測定時間は、14,000秒であることが分かる。
【0073】
準静的ボルタンメトリー法でリチウムイオン電池電解質100の酸化電位を測定する過程において、各電圧で一定時間Δtの間滞留されるので、該滞留時間Δtが電子輸送の動力学が完全に実行されることを保証することができ、酸化に関与する電子を滞留時間Δtの間に完全にカソードに移動させることができ、各電圧値に関する完全な情報を明らかなヒステリシスなしにフィードバックできる。従って、従来の線形走査ボルタンメトリー法と比較して、準静的ボルタンメトリー法で測定された電解質の酸化電位はより正確であり、特に不良導体(ポリマーなど)の酸化電位を測定する場合、本発明の準静的ボルタンメトリー法で、リチウムイオン電池電解質100の酸化電位を測定することがより有利である。
【0074】
図16を参照すると、従来の線形走査ボルタンメトリー法を採用し、0.01mVs
-1の非常に遅いスキャン速度で、本実施形態におけるc-PEGRゲルの酸化電位を走査すると、c-PEGRゲルの内部の電解質の酸化電位のみを示し、c-PEGRゲル全体の酸化電位を測定することではない。さらに、従来の線形走査ボルタンメトリー法が0.01mVs
-1のスキャン速度で走査することに費やされる時間は、本発明の準静的ボルタンメトリー法の数十倍であり、測定精度は依然として明らかな改善を示さない。従来の線形走査ボルタンメトリー法は、ポリマーの酸化電位を測定するのにはるかに長い時間がかかり、測定結果の精度は低くなる。従って、従来の線形走査ボルタンメトリー法と比較して、本発明の準静的ボルタンメトリー法で、ポリマーの酸化電位を測定することにより、測定時間を大幅に短縮し、且つ測定結果の精度を向上させることができる。
【0075】
準静的ボルタンメトリー法は、リチウムイオン電池電解質100の酸化電位を測定することに限定されず、他のいずれかの電解質の酸化電位を測定することもでき、特に導電性の悪いポリマーの電解質の酸化電位を測定することに適用する。準静的ボルタンメトリー法で、他の電解質の酸化電位を測定する場合、リチウムイオン電池電解質100を他の測定される電解質に交換するだけで十分である。
【0076】
図17を参照すると、本発明はリチウムイオン電池電解質100の酸化電位の測定装置20を提供する。測定装置20は、リチウムイオン電池電解質100のリアルタイム動的赤外線分光法によって、リチウムイオン電池電解質100の酸化電位を測定する。
【0077】
測定装置20は、空洞201、測定ユニット202、検出器203、処理ユニット204及びディスプレイ205を含む。測定ユニット202及び検出器203は、空洞201の内部に配置される。検出器203によって検出された赤外光の強度は、処理ユニット204に送信され、処理ユニット204により処理された後、ディスプレイ205でリチウムイオン電池電解質100の赤外スペクトルを取得する。
【0078】
図18に示すように、測定ユニット202は、第一赤外線窓2021、正極プレート2022、負極プレート2023及び第二赤外線窓2024を含み、第一赤外線窓2021、正極プレート2022、負極プレート2023及び第二赤外線窓2024が積層して設置される。正極プレート2022は第一スルーホール(図示せず)を含み、負極プレート203は第二スルーホール(図示せず)を含み、第一スルーホールと第二スルーホールが連通して設置され、第一赤外線窓201は第一スルーホールを覆い、第二赤外線窓2024は第二スルーホールを覆い、リチウムイオン電池電解質100は、正極プレート202と負極プレート203の間に配置され、赤外線ビームは順番に、第一赤外線窓201、第一スルーホール、リチウムイオン電池電解質100、第二スルーホール及び第二赤外線窓2024を通過した後、検出器203によって検出される。
【0079】
検出器203は、一般的に使用される任意の赤外光検出器である。処理ユニット204は、検出器203によって検出された赤外光の強度に対して数学計算を実行するためのコンピュータ処理ユニットである。
【0080】
正極プレート2022の材料は、リチウムイオンを伝導できない材料である。例えば、正極プレート2022は、白金箔、ステンレス鋼板などである。本実施形態では、正極プレート2022はステンレス鋼板である。
【0081】
負極プレート2023の材質はリチウム箔である。
【0082】
正極プレート2022及び負極プレート2023は、リチウムイオン電池電解質100に電圧を供給する外部回路に電気的に接続され、外部回路を介して正極プレートと負極プレートとの間の電圧を変化させ、それにより、リチウムイオン電池電解質100に印加される電圧を変化させる。正極プレート2022及び負極プレート2023は、それぞれ正極プレート2022及び負極プレート2023の外側に延びる正極ラグ及び負極ラグを有し、正極ラグ及び負極ラグは、外部回路に接続するために使用される。
【0083】
第一赤外線窓2021及び第二赤外線窓2024の材料は、一般的に使用される赤外線窓を選択することができる。本実施形態では、第一赤外線窓2021及び第二赤外線窓2024は両方とも臭化カリウム(KBr)窓である。他の実施形態では、第一赤外線窓2021は、第一スルーホール2021に設置してもよく、第二赤外線窓2024は、第二スルーホール2031に設置してもよい。
【0084】
ある実施形態では、測定ユニット202はポーチ電池を採用する。ポーチ電池のアルミニウムプラスチックフィルムに2つのスルーホールを開け、エポキシ樹脂の接着剤で2つのKBr窓をアルミニウムプラスチックフィルムに接着し、且つ2つのKBr窓にそれぞれ二つのスルーホールを覆わせる。これによって、気密性を確保しながら、赤外線ビームを確実に透過させることができる。
【0085】
第一スルーホールと第二スルーホールには電圧がないので、赤外線が透過できる状態で第一スルーホールと第二スルーホールのサイズが小さいほどよい。好ましくは、第一スルーホール及び第二スルーホールの直径は、0.05mm~0.2mmである。本実施形態では、第一スルーホールと第二スルーホールの直径は0.1mmである。
【0086】
また、本発明は、リチウムイオン電池電解質100の酸化電位の測定装置20で、リチウムイオン電池電解質100の酸化電位を測定する方法を提供し、測定方法は、具体的には、以下のステップを含む。
【0087】
ステップR1:リチウムイオン電池電解質100の酸化電位の測定装置20を提供する。
【0088】
ステップR2:外部電源を使用して、正極プレート202と負極プレート203との間の電圧を変更し、ディスプレイ205を通して、異なる電圧でのリチウムイオン電池電解質100の赤外線スペクトルをリアルタイムで観察する。
【0089】
ステップR3:赤外スペクトルのヒドロキシル基の特性ピークが消えるとき、対応する電位は、リチウムイオン電池電解質100の酸化電位である。
【0090】
図19を参照すると、本実施形態の赤外分光法でリチウムイオン電池電解質100の酸化電位を測定する方法によって、c-PEGRゲルの酸化電位を測定する赤外分光図である。
図19から、電圧が4.4Vである時、赤外分光図における3500cm
-1のところのピークが明らかに消え、3500cm
-1のところのピークは、c-PEGRのヒドロキシル基の分解に対応し、c-PEGRゲル電解質は、電圧が4.4Vである時、酸化が発生し、これは、準静的ボルタンメトリー法で測定された4.36Vの結果とよく一致し、準静的ボルタンメトリー法でポリマーの電解質の酸化電位を測定する正確性をさらに検証する。
【0091】
リチウムイオン電池電解質100の酸化電位の測定装置20及び測定方法は、本発明のリチウムイオン電池電解質100の酸化電位の測定に限定されず、他の電解質の酸化電位の測定に適用することもでき、特に導電性の悪いポリマーの電解質の酸化電位の測定に適用することが理解できる。測定装置20及び測定方法を使用して他の電解質の酸化電位を測定する場合、リチウムイオン電池電解質100を別の測定される電解質に交換すればよい。測定される電解質における酸化しやすい基がヒドロキシル基以外の基である場合、ステップR3:測定される電解質の赤外スペクトルを観察する場合には、赤外スペクトルにおける酸化しやすい基の特性ピークが消える時、対応する電位は、測定される電解質の酸化電位である。
【0092】
本実施形態で提供される赤外分光法で電解質の酸化電位を測定する装置及び方法は、正極プレートと負極プレートとの間に印加される電圧をリアルタイムで変更し、それによって、測定される電解質の電圧をリアルタイムで変更することができる。そして異なる電圧で測定される電解質の赤外スペクトルのピーク値の変化によって、測定される電解質の酸化電位を得ることができる。従って、本実施形態で提供される赤外線分光法で電解質の酸化電位を測定する測定装置及び測定方法は、その場で動的かつリアルタイムで測定される電解質の酸化電位、特に導電性の悪いポリマーの電解質の酸化電位を測定でき、これは、従来の方法が達成できない測定である。
【0093】
本発明の実施形態によって提供されるリチウムイオン電池電解質は、グリセリルエーテルエポキシ樹脂ゲルであり、グリセリルエーテルエポキシ樹脂ゲルは、末端がエポキシ基で修飾されたポリエチレングリコールの反応物と末端がアミノ基で修飾されたポリエチレングリコールの反応物が重合することによって、得られ、グリセリルエーテルエポキシ樹脂ゲルにおけるグリセリルエーテルエポキシ樹脂はエーテルオキシ基を含む。そのため、グリセリルエーテルエポキシ樹脂は柔軟性が高く、グリセリルエーテルエポキシ樹脂は架橋三次元ネットワーク構造を持ち、優れた機械的性質及びより強い構造を持つ。従って、リチウムイオン電池電解質は、優れた柔軟性及び機械的性質を持つ。グリセリルエーテルエポキシ樹脂におけるヒドロキシル基は、架橋ポリマーの主鎖に制限され、ヒドロキシル基の自由運動が制限されるため、グリセリルエーテルエポキシ樹脂のヒドロキシル基の酸化の可能性が大幅に減少する。従って、グリセリンエーテルエポキシ樹脂の酸化安定性が向上する。実験によって、本発明のリチウムイオン電池電解質の酸化電位が4.36Vに達することができ、これは、エーテル酸素基を含む従来のグリセリルエーテルエポキシ樹脂のリチウムイオン電池電解質の酸化電位よりはるかに高いことが証明される。また、本実施形態では、エチレンオキシド(EO)又はプロピレンオキシド(PO)は、グリセリルエーテルエポキシ樹脂の主鎖に残り、グリセリルエーテルエポキシ樹脂をリチウムイオン電池の電解質に使用すると、Li金属アノードと良好な互換性を持つ。
【0094】
また、当業者であれば、本発明の精神の範囲内で他の変更を行うことができる。もちろん、本発明の精神に従ってなされたこれらの変更は、いずれも本発明の保護請求する範囲に含まれるべきである。
【符号の説明】
【0095】
100 リチウムイオン電池電解質
10 グリセリルエーテルエポキシ樹脂ゲル
12 グリセリルエーテルエポキシ樹脂
14 電解質溶液
142 リチウム塩
144 非水溶媒
20 リチウムイオン電池電解質の酸化電位の測定装置
201 空洞
202 測定ユニット
203 検出器
204 処理ユニット
205 ディスプレイ
2021 第一赤外線窓
2022 正極プレート
2023 負極プレート
2024 第二赤外線窓