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  • 特許-紅藻の黄色藻体の製造方法 図1
  • 特許-紅藻の黄色藻体の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】紅藻の黄色藻体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/00 20060101AFI20230410BHJP
   C12N 5/04 20060101ALN20230410BHJP
【FI】
A01G33/00
C12N5/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019089434
(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公開番号】P2020184884
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 直宏
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼野 龍夫
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-58(JP,A)
【文献】特開2013-99363(JP,A)
【文献】国際公開第91/017674(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 33/00
C12N 5/04
A23N 17/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紅藻の四分胞子体を、光量を100~1000ppfd、日長を12L12D~24L0D、栄養塩濃度を全窒素0~5μM、全リン0~1μMで、3日間以上培養することを特徴とする紅藻の変色藻体の製造方法。
【請求項2】
紅藻が、カギケノリ目、テングサ目、ダルス目またはウシケノリ目の紅藻である請求項1記載の紅藻の変色藻体の製造方法。
【請求項3】
紅藻の四分胞子体を、光量を100~1000ppfd、日長を12L12D~24L0D、栄養塩濃度を全窒素0~5μM、全リン0~1μMで、3日間以上培養することを特徴とする紅藻の藻体の変色方法。
【請求項4】
紅藻が、カギケノリ目、テングサ目、ダルス目またはウシケノリ目の紅藻である請求項5記載の紅藻の藻体の変色方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紅藻の藻体を安全に変色させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
海藻の培養には、海面培養と陸上培養の2つの手法がある。陸上培養され、かつ産業化されている種類は少なく、日本では緑藻スジアリと緑藻クビレズタ(通称海ぶどう)、数種の紅藻類に限られる。
【0003】
陸上培養されている紅藻は、食用および水産動物の餌料用に利用ており、現在ではカナダのツノマタ(Condrus cripus)、アメリカのダルス(Palmaria palmata)が存在する。発明者らは、新たな陸上培養紅藻して、ミリン科紅藻のAgardhiela subulata(通称ミリンソウ)の培養技術を確立した。
【0004】
これらの紅藻はその名の通り、紅い色調であるが、サラダ等に用いるため、黄色、緑色、白色等の色の綺麗な紅藻が、薬品処理により製造、販売されている(特許文献1)。海藻サラダを製品化しているメーカーは、この薬品処理による原料の安全性や、その手間にかかるコスト、夾雑物の多さ、色調が一様でないこと等に苦慮しており、安全に低コストで色の綺麗な紅藻を製造することが大きな課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第WO91/17674号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、薬品処理に頼ることなく、安全に低コストで色の綺麗な紅藻の藻体を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが上記課題を解決するために鋭意研究した結果、紅藻の藻体を、光量、日長、栄養塩濃度、培養期間を特定の範囲にすることで、紅藻の藻体を様々な色調に変化できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、紅藻の藻体を、光量を10~1000ppfd、日長を12L12D~24L0D、栄養塩濃度を全窒素0~5μM、全リン0~1μMで、3~21日間培養することを特徴とする紅藻の変色藻体の製造方法である。
【0009】
また、本発明は、紅藻の藻体が桃色~黄色であることを特徴とする紅藻の変色藻体である。
【0010】
更に、本発明は、紅藻の藻体を、光量を10~1000ppfd、日長を12L12D~24L0D、栄養塩濃度を全窒素0~5μM、全リン0~1μMで、3~21日間培養することを特徴とする紅藻の藻体の変色方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の紅藻の変色藻体の製造方法は、薬品処理に頼ることなく、安全に低コストである。
【0012】
また、本発明の紅藻の変色藻体は、色調が一様であり、綺麗なものである。
【0013】
更に、本発明の紅藻の藻体の変色方法は、紅藻の紅い藻体を、薬品処理に頼ることなく、安全に低コストで桃色、黄色等にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で培養して得られた紅藻の藻体の外観写真である(左、実施品2(黄色):左、実施品8(桃色)、右)。
図2】実施例1で培養して得られた比較品1の紅藻の藻体の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の紅藻の変色藻体の製造方法(以下、「本発明製法」という)は、紅藻の藻体を、光量を10~1000ppfd(光合成光量子束密度)、好ましくは100~300ppfd、日長を12L12D(L:光の照射、D:光の非照射)~24L0D、好ましくは14L10D~20L4D、栄養塩濃度を全窒素(TN)が0~5μM、好ましくは0~1μM、全リン(TP)が0~1μM、好ましくは0~0.2μMで、3日間以上、好ましくは3~21日間培養するものである。このような条件で紅藻の藻体を培養することにより、紅藻を変色させることができる。
【0016】
本発明製法に用いられる紅藻の藻体は、紅藻が有する色素は殆ど同じであるため特に限定されないが、例えば、カギケノリ目、テングサ目、ダルス目、ウシケノリ目、ウミゾウメン目等の紅藻の藻体が挙げられる。これらの中でも、カギケノリ目、テングサ目、ダルス目、ウシケノリ目の紅藻の藻体が好ましく、カギケノリ目のミリン科のミリンソウの藻体がより好ましい。藻体としては配偶体、四分胞子体、果胞子体が好ましい。本発明製法においては、上記条件で藻体10~200gを用いればよい。
【0017】
本発明製法で用いられる栄養塩のうち、全窒素(TN)は、硫酸アンモニウム等のアンモニア態窒素や硝酸ナトリウム等の硝酸態窒素の総量である。また、全リン(TP)は、オルトリン酸等のリン酸態リンである。更に、栄養塩に追加して、鉄やマンガン、ストロンチウム、バナジウム等の微量金属、チアミン、ビオチン、シアノコバラミン等のビタミン等を用いてもよい。これら栄養塩は、人工海水、滅菌海水等の紅藻の培養に適した培養液に溶解させればよい。
【0018】
本発明製法において、培養は光量、日長、栄養塩濃度、培養期間を上記範囲に調整することができるような装置を用いて行うことができる。具体的に、光の照射・非照射を調整できる光源と、光が透過するような透明な素材で形成された水槽と、空気を水槽内に送り込むための撹拌機や管等を備えた装置等で行うことができる。光源としては、例えば、LED、蛍光灯等の照明や太陽光が挙げられる。透明な素材としては、例えば、ガラス、ポリカーボネート、繊維強化プラスチック(FRP)等の樹脂が挙げられる。なお、光量は、水面において光量子計で測定される値である。
【0019】
なお、本発明製法において、水温、曝気等については、通常の紅藻の藻体の培養の条件であれば特に限定されない。
【0020】
本発明製法においては、紅藻の藻体を上記条件で3日間以上培養することで、桃色~黄色までのグラデーションの範囲に属する色に変色させることができる。なお、変色は桃色→黄色の順であるため、例えば、桃色の藻体を得られる条件において、そのまま培養期間を延ばすことにより黄色の藻体が得られる。
【0021】
より具体的に、本発明製法のうち、紅藻の藻体として、カギケノリ目、ミリン科紅藻のミリンソウ(Agardhiela subulata)を用いて上記条件で培養することにより桃色~黄色の藻体、好ましくは桃色または黄色の藻体が得られる。
【0022】
また、本発明製法のうち、紅藻の藻体として、ウシケノリ目ウシケノリ科アマノリ属紅藻のアサクサノリ(Porphyra tenera)を用いて上記条件で培養することにより、肌色の藻体が得られる。
【0023】
斯くして得られる本発明の紅藻の変色藻体は、そのままあるいは冷凍、脱水、乾燥等をさせたものを従来、紅藻の藻体が用いられてきた各種飲食品等に代えて用いることができる。
【0024】
特に、本発明の紅藻の変色藻体のうち、黄色のものは海藻サラダ等に用いることができる。
【0025】
また、本発明の紅藻の変色藻体のうち、桃色のものは佃煮等に用いることができる。
【実施例
【0026】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0027】
実 施 例 1
紅藻の培養:
カギケノリ目、ミリン科紅藻のミリンソウ(Agardhiela subulata)の四分胞子体10gを、室温20℃に設定した人工気象室内にて、以下の条件で培養した。なお、培養には撹拌機(ブロアー、2.5L/min)を備えた10Lのポリカーボネート製の水槽で行った。光源としては蛍光灯を用いた。培養液としては、人工海水に栄養塩を溶解したものを用いた。栄養塩としては硝酸ナトリウムとオルトリン酸を用いた。また、培養途中の紅藻の藻体の色を目視で判断した。実施品2、実施品8、比較品1の培養後の外観写真を図1および2に示した。
【0028】
【0029】
以上の結果から、光量を10~1000ppfd、日長を12L12D~24L0D、栄養塩濃度を全窒素(TN)0~5μM、全リン(TP)0~1μMで、3日間以上培養することにより桃色~黄色までのグラデーションの範囲に属する色の藻体が得られることが分かった。これらの培養において、枯死するものはなく、また、夾雑物の混入はなかった。なお、実施品2(黄色)、8(桃色)および比較品1(紅色)の培養後の藻体の質量は、紅色225g、桃色25g、黄色80gであったが、同じ培養期間で比較すれば増質量は変色させた藻体の方が多かった。
【0030】
実 施 例 2
乾燥藻体の製造:
実施例1の実施品1の黄色の藻体を冷風乾燥(25℃)で乾燥させた。これを再び水に浸したところ元に戻った。これを食したところ元の紅色の藻体と同じ食感、味だった。
【0031】
実 施 例 3
乾燥海藻サラダ:
実施例2で得た黄色の乾燥藻体10gと、乾燥赤すぎのり10gと、乾燥青すぎのり10gと、乾燥白とさか10gと、乾燥赤つのまた10gを混合して適度な大きさに粉砕した後、袋に入れ、乾燥海藻サラダを得た。
【0032】
実 施 例 4
紅藻の培養:
ウシケノリ目ウシケノリ科アマノリ属紅藻のアサクサノリ(Porphyra tenera)を、実施例1の実施品2と同様の条件で培養したところ、肌色(黄色~桃色の間の色)のアサクサノリが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の紅藻の変色藻体は、海藻サラダ、佃煮等に用いることができる。

以 上
図1
図2