(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】ヘッドホン
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20230410BHJP
H04R 1/28 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
H04R1/10 101Z
H04R1/28 310B
(21)【出願番号】P 2019094853
(22)【出願日】2019-05-20
【審査請求日】2022-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】松原 沙世
(72)【発明者】
【氏名】米山 大輔
【審査官】岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-065083(JP,A)
【文献】特開2018-011102(JP,A)
【文献】特開平08-033080(JP,A)
【文献】実開平02-113490(JP,U)
【文献】特表2015-531560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
H04R 1/20- 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバユニットと、
前記ドライバユニットを収容して、前記ドライバユニットと共に空気室を形成するハウジングユニットと、
前記ハウジングユニットに取り付けられて、前記ハウジングユニットと共に通気路を形成する通気路形成部材と、
を有してなり、
前記通気路は、前記空気室と前記ハウジングユニットの外部とを連通させる、第1通気路と、第2通気路と、を含み、
前記ハウジングユニットは、
前記第1通気路を形成する第1溝と、
前記第2通気路を形成する第2溝と、
を備え、
前記第1通気路の形状は、前記第2通気路の形状と異な
り、
前記第1溝と前記第2溝それぞれは、前記通気路形成部材に覆われる、
ことを特徴とするヘッドホン。
【請求項2】
前記ハウジングユニットは、
前記ドライバユニットを保持するバッフル部材と、
前記バッフル部材に取り付けられて、前記バッフル部材と前記ドライバユニットと共に、前記空気室を形成する第1ハウジングと、
を備え、
前記第1溝と前記第2溝それぞれは、前記第1ハウジングに配置される、
請求項
1記載のヘッドホン。
【請求項3】
前記ハウジングユニットは、
前記第1ハウジングを覆う第2ハウジング、
を備え、
前記第1ハウジングは、
前記第2ハウジング側に突出する突出部、
を備え、
前記第1溝と前記第2溝それぞれは、前記突出部に配置される、
請求項
2記載のヘッドホン。
【請求項4】
前記ハウジングユニットは、
前記ドライバユニットを保持するバッフル部材と、
前記バッフル部材に取り付けられて、前記バッフル部材と前記ドライバユニットと共に、前記空気室を形成する第1ハウジングと、
を備え、
前記第1溝と前記第2溝それぞれは、前記バッフル部材に配置される、
請求項
1記載のヘッドホン。
【請求項5】
前記通気路形成部材は、
前記第1溝と前記空気室とを連通させる第1内部通気孔と、
前記第2溝と前記空気室とを連通させる第2内部通気孔と、
を備え、
前記第1内部通気孔は、前記通気路形成部材のうち、前記第1溝と対向する位置に配置され、
前記第2内部通気孔は、前記通気路形成部材のうち、前記第2溝と対向する位置に配置される、
請求項
1記載のヘッドホン。
【請求項6】
前記第1通気路の長さは、前記第1内部通気孔の位置に基づいて、決定され、
前記第2通気路の長さは、前記第2内部通気孔の位置に基づいて、決定される、
請求項
5記載のヘッドホン。
【請求項7】
前記通気路形成部材は、板状である、
請求項
1記載のヘッドホン。
【請求項8】
前記ハウジングユニットは、
前記第1溝と前記外部とを連通させる第1外部通気孔と、
前記第2溝と前記外部とを連通させる第2外部通気孔と、
を備え、
前記第1外部通気孔は、前記第1溝の一端に配置され、
前記第2外部通気孔は、前記第2溝の一端に配置される、
請求項
1記載のヘッドホン。
【請求項9】
前記第1外部通気孔は、前記ハウジングユニットに前記第2外部通気孔と隣り合って配置される、
請求項
8記載のヘッドホン。
【請求項10】
前記ハウジングユニットを支持するアーム部材、
を有してなり、
前記第1外部通気孔と前記第2外部通気孔それぞれは、前記ハウジングユニットのうち、前記アーム部材に対向する位置に配置される、
請求項
8記載のヘッドホン。
【請求項11】
前記ハウジングユニットは、
前記ドライバユニットを保持するバッフル部材と、
前記バッフル部材に取り付けられて、前記バッフル部材と前記ドライバユニットと共に、前記空気室を形成する第1ハウジングと、
を備え、
前記第1外部通気孔と前記第2外部通気孔それぞれは、前記第1ハウジングに配置される、
請求項
8記載のヘッドホン。
【請求項12】
前記ハウジングユニットは、
前記ドライバユニットを保持するバッフル部材と、
前記バッフル部材に取り付けられて、前記バッフル部材と前記ドライバユニットと共に、前記空気室を形成する第1ハウジングと、
を備え、
前記第1外部通気孔と前記第2外部通気孔それぞれは、前記バッフル部材に配置される、
請求項
8記載のヘッドホン。
【請求項13】
前記第1外部通気孔と前記第2外部通気孔それぞれを覆うカバー部材、
を有してなる
請求項
8記載のヘッドホン。
【請求項14】
前記カバー部材は、音響抵抗材として機能する、
請求項
13記載のヘッドホン。
【請求項15】
前記ハウジングユニットは、
前記ドライバユニットを保持するバッフル部材と、
前記バッフル部材に取り付けられて、前記バッフル部材と前記ドライバユニットと共に、前記空気室を形成する第1ハウジングと、
を備え、
前記カバー部材は、前記バッフル部材と前記第1ハウジングとの間に配置される、
請求項
13記載のヘッドホン。
【請求項16】
前記第1通気路の長さは、前記第2通気路の長さと異なる、
請求項1記載のヘッドホン。
【請求項17】
前記第1通気路の断面積は、前記第2通気路の断面積と異なる、
請求項1記載のヘッドホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドホンに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドホンは、使用者の左右の耳に対して装着される一対の放音ユニットを備える。放音ユニットは、ドライバユニットと、ドライバユニットを収容するハウジングと、を備える。ドライバユニットは、電気信号に基づいて振動板を振動させることにより、電気信号を音波に変換して出力する。ドライバユニットは、ハウジングと共に、振動板の背面側(振動板に対して使用者の耳と反対側)に空気室を形成する。
【0003】
一般的に、密閉型のヘッドホンの周波数応答特性(以下「特性」という。)は、弾性制御の制御方式を利用して調整される。弾性制御では、空気室内の空気のばね性が、振動板の振動に影響を与える。振動板の振動の速度は、ドライバユニットが出力する音波の周波数が低域になるほど遅くなる。振動板が低域で振動するとき、振動板は、空気をゆっくりと動かしながら変位する。すなわち、振動板は、低域になるほど多くの空気を空気室へ押し出す。このとき、空気室内の空気の圧力(以下「背圧」という。)が変化して、振動板は、空気室内の空気からの反力を受ける。したがって、空気室が完全に密閉されていると、振動板の振動は、低域になるほど背圧による制動を受ける。その結果、低域の音圧は、低下する。一方、振動板が高域で振動するとき、振動板は、空気室内の空気が動くより早く振動する。すなわち、高域において、振動板は、空気室内の空気を動かすことなく振動する。換言すれば、振動板の振動は、高域において、背圧の影響を受けない。
【0004】
背圧は、空気室の大きさ(容量)で調整可能である。すなわち、空気室が大きくなると、背圧は減少する。その結果、振動板の振動への背圧の影響は、抑制される(低域の音圧は増加する)。しかし、ハウジングが大型化するため、ヘッドホンの外観は悪くなる(ヘッドホンのデザイン性が損なわれる)。また、近年、ヘッドホンには、無線化やノイズキャンセルなど様々な機能が搭載される。そのため、ヘッドホンのハウジングには、これらの機能を実現するための回路や電池が収容される。その結果、所定の容量の空気室の確保は、容易でない。また、回路と電池の収容に伴い、空気室として使用可能な空間の大きさは異なる。そのため、空気室として使用可能な空間の大きさは、左右の放音ユニットごとに異なり得る。
【0005】
このように、放音ユニット内に所定の容量の空気室を確保しつつ、様々な機能を実装するには、空気室の大きさによる調整だけでは、設計の自由度が少ない。そこで、空気室とハウジングの外部とを連通させる通気孔を備えるヘッドホンが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1に開示されたヘッドホンは、ドライバユニットを保持するバッフル部材に配置される通気孔を備える。通気孔により、空気室内の空気は、ヘッドホンの外部に動き得る。そのため、低域において、背圧による振動板の振動への影響は、抑制される。したがって、通気孔の有るヘッドホンの低域の音圧は、通気孔の無いヘッドホンと比較して、増加する。しかし、単純な通気孔を用いる場合、音圧が増加する周波数帯域は、ボーカル帯域(例えば、100Hz-1kHz)に及び得る。この場合、聴感上、ボーカルに籠りが生じる。その結果、低域の音圧は増加するが、ボーカルに籠りが生じやすい。
【0007】
このような問題を解決するため、背圧を調整する細長い管状のポートを備えるヘッドホンが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
特許文献2に開示されたヘッドホンは、空気室内に延在する管状のポートを備える。空気室は、ポートを介して、ヘッドホンの外部と連通する。ポートの断面積と長さそれぞれは、所望されるヘッドホンの特性に応じて、設計される。その結果、特許文献2に開示されたヘッドホンは、ポートの形状(横断面積、長さ)を調整することにより、ボーカル帯域の音圧の増加を抑えつつ、低域の音圧を増加させ得る。
【0009】
このようなポートをヘッドホンに実装させる場合、ポートは、ハウジングと一体に成形される、あるいは、ハウジングを貫通してハウジングに固定される。前者の場合、ポートの形状の変更には、ハウジングの金型の変更が必要となる。すなわち、ヘッドホンの特性の調整の度に、金型の作製が必要となる。そのため、ポートを用いた特性の調整は、容易でない。一方、後者の場合、所望される特性に応じてポートの形状のみ変更すればよく、ハウジングの金型の作製は不要となる。そのため、ポートを用いた特性の調整は、容易となる。しかし、ポートはハウジングを貫通してハウジングに固定されるため、ポートを配置可能なハウジング上の位置は、制限される。また、ポートがハウジングに固定された後において、ポートの形状の変更は難しく、ポートによる特性の微調整は難しい。
【0010】
さらに、両者に共通して、ポートの一部が空気室内に延在するため、ポート自体が空気室の容積を減ずる(変化させる)要因となり得る。さらに、ポートの一部がハウジングの外部に突出するため、ヘッドホンの外観が悪くなる(ヘッドホンのデザイン性が損なわれる)。
【0011】
ここで、管状のポートで空気室と外部との通気を制御する場合、特性を調整する要素には、ポートの横断面積および長さ、ポートの開口面積、ポートの開口に配置される音響抵抗、が挙げられる。音圧を増大させる周波数帯域と同帯域における音圧とは、これらの要素の組み合わせにより、調整可能である。しかし、複雑な調整(例えば、特定の帯域の音圧のみ大きく増加させる、低域の音圧の増加量と中域の音圧の増加量それぞれを個別に調整する、など)は、容易でない。
【0012】
近年、四半期ごとに新製品が発表されるなど、ヘッドホンの開発速度は、年々早まってきている。そのため、様々な種類のヘッドホンに適用可能で、ヘッドホンの種類ごとに異なる特性を容易に調整可能な通気手段が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2017-028420号公報
【文献】特表2017-513356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、周波数応答特性を容易に調整可能なヘッドホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明にかかるヘッドホンは、ドライバユニットと、ドライバユニットを収容して、ドライバユニット共に空気室を形成するハウジングユニットと、ハウジングユニットに取り付けられて、ハウジングユニットと共に通気路を形成する通気路形成部材と、を有してなり、通気路は、空気室とハウジングユニットの外部とを連通させる、第1通気路と、第2通気路と、を含み、第1通気路の形状は、第2通気路の形状と異なる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、周波数応答特性を容易に調整可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明にかかるヘッドホンの実施の形態を示す斜視図である。
【
図3】
図2のヘッドホンのBB線における部分拡大断面図である。
【
図4】
図1のヘッドホンが備える第1放音ユニットの分解斜視図である。
【
図5】
図4の第1放音ユニットが備える第1ハウジングの正面図である。
【
図7】
図3のヘッドホンのCC線における部分拡大断面図である。
【
図8】
図3のヘッドホンのDD線における部分拡大断面図である。
【
図9】
図1のヘッドホンの周波数と通気量との関係の一例を示すグラフである。
【
図10】
図1のヘッドホンの周波数と通気量との関係の別の一例を示すグラフである。
【
図11】
図1のヘッドホンの周波数応答特性図である。
【
図12】本発明にかかるヘッドホンの変形例を示す部分拡大模式図である。
【
図13】
図12のヘッドホンの周波数と通気量との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
●ヘッドホン●
以下、図面を参照しながら、本発明にかかるヘッドホンの実施の形態について説明する。
【0019】
以下の説明において、周波数帯域の一例として、ボーカル帯域は100Hz-1kHzの周波数帯域とし、低域はボーカル帯域より低い周波数帯域(100Hz未満)とする。
【0020】
●ヘッドホンの構成
図1は、本発明にかかるヘッドホンの実施の形態を示す斜視図である。
ヘッドホン1は、ヘッドホン1の使用者の頭部に装着されて、例えば、携帯型
楽音再生機などの音源(不図示)からの音声信号に応じた音波を使用者の耳に向けて出力する。ヘッドホン1は、第1放音ユニット10と第2放音ユニット20と連結部材30とを有してなる。第1放音ユニット10と第2放音ユニット20とは、一対の放音ユニットを構成する。
【0021】
【0022】
第1放音ユニット10は、使用者の左耳の周囲に装着されて、音源(不図示)からの音声信号に応じた音波を出力する。
【0023】
図3は、
図2のヘッドホン1のBB線における部分拡大断面図である。
図4は、第1放音ユニット10の分解斜視図である。
図3は、説明の便宜上、幾つかの線の図示を省略する。
【0024】
以下の説明において、前方は、ヘッドホン1が使用者の頭部に装着された状態における使用者の頭部側の方向(
図3の紙面左方向)である。後方は、その反対側の方向(
図3の紙面右方向)である。下方は、使用者の足元側の方向(
図3の紙面下方向)である。上方は、その反対側の方向(
図3の紙面上方向)である。
【0025】
第1放音ユニット10は、ドライバユニット11と、バッフル部材12と、音響抵抗材13と、イヤパッド14と、第1ハウジング15と、通気路形成部材16と、カバー部材17と、回路基板18と、第2ハウジング19と、を備える。バッフル部材12と、第1ハウジング15と、第2ハウジング19とは、ハウジングユニットH1を構成する。すなわち、ハウジングユニットH1は、バッフル部材12と、第1ハウジング15と、第2ハウジング19と、を備える。
【0026】
ドライバユニット11は、音源(不図示)からの音声信号に基づいて、音波を生成する。ドライバユニット11は、例えば、ダイナミック型のドライバユニットである。ドライバユニット11は、第1ハウジング15に収容されて、バッフル部材12に保持される。ドライバユニット11は、振動板111と、駆動部112と、フレーム113と、振動板カバー114と、を備える。
【0027】
振動板111は、駆動部112の駆動(振動)に基づいて振動して、音波を出力する。
【0028】
駆動部112は、音声信号に基づく電磁誘導により駆動(振動)して、振動板111を振動させる。駆動部112は、磁気回路(不図示)とボイスコイル(不図示)とを備える。ボイスコイルは、磁気回路の磁気ギャップ(不図示)内に配置され、振動板111の後面に取り付けられる。
【0029】
フレーム113は、振動板111と駆動部112とを保持する。振動板111は、フレーム113の前面に取り付けられる。駆動部112は、フレーム113に収容される。
【0030】
振動板カバー114は、振動板111を使用者の指や耳から保護する。振動板カバー114は、フレーム113の前面に取り付けられる。
【0031】
バッフル部材12は、ドライバユニット11とイヤパッド14と第1ハウジング15と第2ハウジング19とを保持する。バッフル部材12は、例えば、ABS(Acrylonitrile-Butadiene-Styrene)樹脂のような合成樹脂製である。バッフル部材12は、第1板状部121と、第1周壁部122と、第2板状部123と、第2周壁部124と、ユニット取付孔121hと、通気孔124hと、を備える。
【0032】
第1板状部121は、略円板状である。第1周壁部122は、リング状で、第1板状部121の後面に配置される。第2板状部123は、リング状かつ板状で、第1周壁部122の後端に配置される。第2周壁部124は、円筒状で、第2板状部123の後面に配置される。第1板状部121と第2板状部123との間には、イヤパッド14が取り付けられる隙間Gが形成される。
【0033】
ユニット取付孔121hは、第1板状部121の中央に配置される。ドライバユニット11は、ユニット取付孔121hに固定される。
【0034】
通気孔124hは、第2周壁部124を貫通する貫通孔である。通気孔124hは、第2周壁部124の周方向に長い長円状である。通気孔124hは、第2周壁部124の上部に配置される。通気孔124hは、後述する通気路L(
図8参照)とハウジングユニットH1の外部とを連通させる。
【0035】
音響抵抗材13は、第1板状部121のユニット取付孔121hの周囲の貫通孔を前方から覆い、同貫通孔を通過する音波の音響抵抗として機能する。
【0036】
イヤパッド14は、ハウジングユニットH1と使用者の頭部との間の緩衝材として機能する。イヤパッド14は、バッフル部材12(隙間G)に取り付けられて、バッフル部材12の前方に配置される。
【0037】
図5は、第1ハウジング15の正面図である。
図6は、第1ハウジング15の背面図である。
【0038】
第1ハウジング15は、ドライバユニット11(
図3参照)を収容する。第1ハウジング15は、例えば、ABS樹脂のような合成樹脂製である。第1ハウジング15は、本体部151と溝形成部152とを備える。本体部151は、前後方向(
図5の紙面に鉛直な方向)に扁平な略有底円筒状である。本体部151の下半部の外縁部は、C字状の段部151aを構成する。段部151aの深さは、本体部151の中央部よりも浅い。
【0039】
溝形成部152は、本体部151の上縁部に配置され、本体部151と一体である。溝形成部152は、アーチ状(扇形状)である。溝形成部152は、第1突出部1521と、第2突出部1522と、第3突出部1523と、第1溝1524と、第2溝1525と、第1外部通気孔152h1(
図4,
図8参照)と、第2外部通気孔152h2(
図4,
図8参照)と、を備える。溝形成部152の前面は、後述する通気路形成部材16の形状に沿って凹む凹部152aを備える。
【0040】
第1突出部1521は、溝形成部152の後面から後方に向けて、後方視において略L字状に突出する。第1突出部1521の第1端1521aは、上方に向けられる。第1突出部1521の第2端1521bは、本体部151の周方向に向けられる。
【0041】
第2突出部1522は、溝形成部152の後面から後方に向けて、後方視において略L字状に突出する。第2突出部1522の第1端1522aは、上方に向けられる。第2突出部1522の第2端1522bは、本体部151の周方向に向けられる。第2突出部1522は、第1突出部1521の線対称となる位置に配置される。
【0042】
第3突出部1523は、溝形成部152の後面の上縁部から後方に向けて、上方視において矩形状に突出する。第3突出部1523は、第1突出部1521の第1端1521aと第2突出部1522の第1端1522aそれぞれと一体である。第1突出部1521と第2突出部1522と第3突出部1523とは、本発明における突出部である。
【0043】
第1溝1524は、後述する第1通気路L1(
図8参照)を形成する。第1溝1524は、溝形成部152の前面、かつ、第1突出部1521内に配置される。第1溝1524は、前面視において略L字状である。第1溝1524の第1端1524aは、上方に向けられる。第1溝1524の第2端1524bは、本体部151の周方向に向けられる。第1溝1524において、第1端1524aから第2端1524bまでの幅と深さそれぞれは、略一定である。
【0044】
第2溝1525は、後述する第2通気路L2(
図8参照)を形成する。第2溝1525は、溝形成部152の前面、かつ、第2突出部1522内に配置される。第2溝1525は、前面視において略L字状である。第2溝1525の第1端1525aは、上方に向けられる。第2溝1525の第2端1525bは、本体部151の周方向に向けられる。第2溝1525において、第1端1525aから第2端1525bまでの幅と深さそれぞれは、略一定である。第2溝1525は、第1溝1524の線対称となる位置に配置される。
【0045】
第1溝1524の長さ(第1端1524aから第2端1524bまでの長さ)は、第2溝1525の長さ(第1端1525aから第2端1525bまでの長さ)より長い。第1溝1524の幅は、第2溝1525の幅と同じである。第1溝1524の深さは、第2溝1525の深さと同じである。
【0046】
第1外部通気孔152h1(
図4参照)は、第3突出部1523の外面(上面)と第1溝1524の第1端1524aとを貫通する貫通孔である。すなわち、第1外部通気孔152h1は、第1溝1524の第1端1524aに配置され、第3突出部1523を上方に向けて貫通する。第1外部通気孔152h1は、第1溝1524と第1ハウジング15(ハウジングユニットH1)の外部とを連通させる。
【0047】
第2外部通気孔152h2(
図4参照)は、第3突出部1523の外面(上面)と第2溝1525の第1端1525aとを貫通する貫通孔である。すなわち、第2外部通気孔152h2は、第2溝1525の第1端1525aに配置され、第3突出部1523を上方に向けて貫通する。第2外部通気孔152h2は、第2溝1525と第1ハウジング15(ハウジングユニットH1)の外部とを連通させる。
【0048】
第1外部通気孔152h1と第2外部通気孔152h2それぞれは、第3突出部1523の外面において、本体部151の周方向に隣り合って配置される。第1外部通気孔152h1の形状は、第2外部通気孔152h2の形状と同じである。
【0049】
図3と
図4とに戻る。
第1ハウジング15は、バッフル部材12の第2板状部123の後面に取り付けられる。その結果、ドライバユニット11とバッフル部材12と第1ハウジング15とは、バッフル部材12の後方に後部空気室S1を形成する。後部空気室S1は、本発明における空気室である。上方視において、第1外部通気孔152h1と第2外部通気孔152h2それぞれは、バッフル部材12の通気孔124h内に並んで配置される。
【0050】
通気路形成部材16は、第1ハウジング15と共に通気路L(
図8参照)を形成する。通気路形成部材16は、アーチ状(扇形状)かつ板状である。通気路形成部材16は、例えば、PET(polyethylene terephthalate)樹脂のような合成樹脂製である。通気路形成部材16は、第1内部通気孔16h1と第2内部通気孔16h2とを備える。
【0051】
第1内部通気孔16h1と第2内部通気孔16h2それぞれは、通気路形成部材16を厚み方向(前後方向)に貫通する貫通孔である。第1内部通気孔16h1は、通気路形成部材16の第1端16a寄りに配置される。第2内部通気孔16h2は、通気路形成部材16の第2端16b寄りに配置される。
【0052】
通気路形成部材16は、第1溝1524と第2溝1525それぞれを覆うように、溝形成部152の前面の凹部152aに取り付けられる。すなわち、第1溝1524と第2溝1525それぞれの前方は、通気路形成部材16により塞がれる。通気路形成部材16は、例えば、両面テープや接着剤のような固定手段により第1ハウジング15に固定される。
【0053】
図7は、
図3のヘッドホン1のCC線における拡大断面図である。
同図は、第1溝1524と第2溝1525と第1外部通気孔152h1と第2外部通気孔152h2とを破線で示す。
【0054】
第1内部通気孔16h1は、第1溝1524のうち、第1溝1524の第2端1524bに隣接する部分と対向する位置に配置される。後部空気室S1は、第1内部通気孔16h1を介して、第1溝1524と連通する。ここで、第1内部通気孔16h1と、第1溝1524と、通気路形成部材16と、第1外部通気孔152h1とは、略管状の第1通気路L1を形成する。第1通気路L1は、後部空気室S1と第1ハウジング15(ハウジングユニットH1)の外部とを連通させる通気路Lを構成する。
【0055】
第2内部通気孔16h2は、第2溝1525のうち、第2溝1525の第2端1525bに隣接する部分と対向する位置に配置される。後部空気室S1は、第2内部通気孔16h2を介して、第2溝1525と連通する。ここで、第2内部通気孔16h2と、第2溝1525と、通気路形成部材16と、第2外部通気孔152h2とは、略管状の第2通気路L2を形成する。第2通気路L2は、後部空気室S1と第1ハウジング15(ハウジングユニットH1)の外部とを連通させる通気路Lを構成する。すなわち、通気路Lは、第1通気路L1と第2通気路L2とを含む。
【0056】
図8は、
図3のヘッドホン1のDD線における断面図である。
同図は、第1内部通気孔16h1と第2内部通気孔16h2それぞれを破線で示す。
【0057】
カバー部材17は、第1通気路L1と第2通気路L2それぞれを埃などから保護する。カバー部材17は、例えば、金属メッシュのような通気性のよい材料により作製される。カバー部材17は、ヘッドホン1の音質に影響を与えない程度の目開きを有する。カバー部材17は、板状である(
図4参照)。カバー部材17は、バッフル部材12の第2周壁部124と、第1ハウジング15の第3突出部1523と、の間に配置される。すなわち、カバー部材17は、バッフル部材12と第1ハウジング15とに挟持される。カバー部材17は、第1外部通気孔152h1と第2外部通気孔152h2それぞれの上端を覆う。その結果、カバー部材17は、第1外部通気孔152h1と第2外部通気孔152h2それぞれ(第1通気路L1と第2通気路L2それぞれ)の目隠しとしても機能する。
【0058】
図3と
図4とに戻る。
回路基板18は、例えば、無線通信やノイズキャンセルのような各種機能を実現する回路が実装される基板である。回路基板18は、C字状かつ板状である。回路基板18は、第2ハウジング19に収容されて、第1ハウジング15の段部151aの後方に配置される。
【0059】
第2ハウジング19は、回路基板18や電池(不図示)のような電気系の部品を収容する。第2ハウジング19は、略椀状である。第2ハウジング19は、例えば、ABSのような合成樹脂製である。第2ハウジング19は、第1ハウジング15を後方から覆うように、バッフル部材12に取り付けられる。その結果、バッフル部材12と第1ハウジング15と第2ハウジング19とは、前述の電気系の部品が収容される部品室S2を形成する。部品室S2は、後部空気室S1の後方に配置される。
【0060】
図1に戻る。
第2放音ユニット20の構成は、第1放音ユニット10の構成と略共通する。すなわち、第2放音ユニット20は、ドライバユニット(不図示)と、バッフル部材22と、音響抵抗材(不図示)と、イヤパッド24と、第1ハウジング(不図示)と、通気路形成部材(不図示)と、カバー部材(不図示)と、回路基板(不図示)と、第2ハウジング29と、を備える。つまり、第2放音ユニット20は、第1通気路(不図示)と第2通気路(不図示)とを備える。第2放音ユニット20の第1通気路と第2通気路それぞれの機能は、第1通気路L1と第2通気路L2それぞれの機能と共通する。
【0061】
連結部材30は、第1放音ユニット10と第2放音ユニット20とを支持する。連結部材30は、第1アーム部材31と第2アーム部材32とヘッドバンド33とを備える。
【0062】
第1アーム部材31は、第1放音ユニット10を保持する。第1アーム部材31は、第1放音ユニット10のハウジングユニットH1に取り付けられる。第1放音ユニット10は、第1アーム部材31に対して搖動可能である。
【0063】
図7と
図8とに戻る。
第1アーム部材31は、第1外部通気孔152h1と第2外部通気孔152h2それぞれの上方(通気孔124hの上方)を覆う。すなわち、第1外部通気孔152h1と第2外部通気孔152h2と通気孔12
4hとは、ハウジングユニットH1のうち、第1アーム部材31と対向する位置に配置される。第1アーム部材31とハウジングユニットH1との間には、隙間が形成される。このように、第1外部通気孔152h1と第2外部通気孔152h2と通気孔12
4hとは、ハウジングユニットH1の上部にまとめて配置され、第1アーム部材31に覆われる。その結果、第1外部通気孔152h1と第2外部通気孔152h2と通気孔124hとは、ヘッドホン1の外部から視認されにくく、ヘッドホン1の外観に影響を与えない。また、第1アーム部材31は、埃や雨のような異物から第1通気路L1と第2通気路L2とを保護する。
【0064】
図1に戻る。
第2アーム部材32は、第2放音ユニット20を保持する。第2アーム部材32は、第2放音ユニット20のハウジングユニットH2に取り付けられる。第2放音ユニット20は、第2アーム部材32に対して搖動可能である。第2アーム部材32は、第1外部通気孔(不図示)と第2外部通気孔(不図示)それぞれの上方を覆う。すなわち、第2放音ユニット20において、第1外部通気孔と第2外部通気孔それぞれは、ハウジングユニットH2のうち、第2アーム部材32と対向する位置に配置される。
【0065】
●通気路の構成
次いで、通気路Lの構成について、
図7と
図8とを参照しながら説明する。
【0066】
前述のとおり、第1通気路L1は、第1溝1524が通気路形成部材16に覆われることにより形成される略管状の通路である。第2通気路L2は、第2溝1525が通気路形成部材16に覆われることにより形成される略管状の通路である。
【0067】
第1通気路L1の横断面積は、第2通気路L2の横断面積と略同じである。
【0068】
第1通気路L1の長さ(第1内部通気孔16h1から第1外部通気孔152h1までの長さ)は、第2通気路L2の長さ(第2内部通気孔16h2から第2外部通気孔152h2までの長さ)よりも長い。すなわち、第1通気路L1の形状は、第2通気路L2の形状と異なる。
【0069】
第1通気路L1の長さは、第1溝1524に対する第1内部通気孔16h1の位置に基づいて、決定される。すなわち、例えば、第1通気路L1の長さは、第1内部通気孔16h1の位置を第1溝1524の第2端1524bから第1端1524a側に移動させることにより、実質的に短くなる。同様に、第2通気路L2の長さは、第2溝1525に対する第2内部通気孔16h2の位置に基づいて、決定される。すなわち、第1通気路L1と第2通気路L2それぞれの長さは、第1内部通気孔16h1と第2内部通気孔16h2それぞれの位置を変更することで容易に変更可能である。
【0070】
ここで、振動板111(
図3参照。以下同じ。)の振動は、後部空気室S1内の背圧(振動板111が振動したときに圧縮される後部空気室S1内の空気の圧力)の影響を受け得る。特に、振動板111の振動への背圧の影響は、前述のとおり、低域において大きくなる。そのため、低域の音圧は、背圧の影響を強く受け易い。
【0071】
低域において、後部空気室S1内の空気は、振動板111の振動に応じて動く(圧縮される)。後部空気室S1内の空気は、第1通気路L1と第2通気路L2とを介して、ハウジングユニットH1の外部に動き得る。すなわち、第1通気路L1と第2通気路L2それぞれは、後部空気室S1内の背圧をハウジングユニットH1の外部に逃がすことを可能とする。そのため、通気路L(第1通気路L1,第2通気路L2)内の空気の動きは、低域の音圧に影響を与える。
【0072】
振動板111の振動への背圧の影響は、通気路Lが空気を通す量(通気量)が多いほど小さくなる。同影響が小さくなると、低域の音圧への同影響が抑制される。すなわち、通気量が増加すると、低域の音圧への同影響が抑制される(低域の音圧が増加する)。
【0073】
一般的に、管内を流れる流体に対する直管抵抗(損失)は、管の長さに比例し、管の直径に反比例し、管内を流れる流体の速度(流速)の二乗に比例する。すなわち、管内を流れる流体は、管の直径(断面積)が大きいほど、管の長さが短いほど、流速が小さいほど、流れ易くなる。したがって、通気路Lの横断面積が大きくなると通気量は増加し、通気路Lの長さが短くなると通気量は増加し、流速が低下すると通気量は増加する。つまり、通気路Lの横断面積を固定したとき、通気路Lの長さが短いほど通気量は増加し、流速が遅いほど通気量は増加する。その結果、低域の音圧への背圧の影響が小さくなる。
【0074】
前述のとおり、後部空気室S1内の空気は、高域では動かず、低域になると振動板111の振動に追随して動き始める。そして、後部空気室S1内の空気は、通気路L内に流入する。ここで、振動板111の振動の速度は、低域になるほど低下する。そのため、後部空気室S1内を移動する空気の速度(すなわち、通気路Lへ流入する速度)は、低域になるほど低下する。前述のとおり、通気路Lの通気量は、通気路L内を流れる空気の流速が低下するほど増加する。したがって、通気量は、低域になるほど増加する。また、通気路Lの長さが長くなると、通気路L内の空気が通気路Lから受ける抵抗が増加し、通気路L内の空気は動きにくくなる。そのため、通気路Lの長さが長くなると、通気路Lは、より低域において通気し始める。つまり、通気路Lが長くなると通気路Lが通気し始める周波数は低下する。
【0075】
図9は、振動板111の振動の周波数と通気量との関係の一例を示すグラフである。
同図の縦軸は通気量を示し、横軸は周波数を示す。同図の二点鎖線は、第1通気路L1のみが配置される状態(状態Aとする)のグラフを示す。同図の一点鎖線は、第2通気路L2のみが配置される状態(状態Bとする)のグラフを示す。同図の破線は、第1通気路L1と第2通気路L2それぞれが配置される状態(状態Cとする)のグラフを示す。同図の実線は、比較例として、従来の単純な通気孔(開口面積は、第1通気路L1の横断面積と同じとする)のみが配置される状態(状態Dとする)のグラフを示す。ここで、状態Dにおける通気量は、通気孔を通過する空気の量とする。
【0076】
同図は、周波数f1のとき、状態Aでは通気せず、状態B,Cの通気量はV11、状態Dの通気量はV12、であることを示す。また、同図は、周波数f2のとき、状態Aの通気量はV21、状態Bの通気量はV22、状態Cの通気量はV23、状態Dの通気量はV24、であることを示す。周波数に対する通気量は、状態A、状態B、状態C、状態D、の順に増加する。すなわち、通気量は、通気路Lの長さが短いほど増加する。
【0077】
状態Cのグラフの勾配は、第1通気路L1が通気し始める周波数fa未満で大きくなる。すなわち、状態Cのグラフの勾配は、周波数faを境に2段階の勾配を有する。つまり、状態Cの通気量は、周波数fa以上では第2通気路L2の通気量となり、周波数fa未満では第1通気路L1の通気量と第2通気路L2の通気量とを足し合わせたような通気量となる。
【0078】
周波数に対する通気量は、
図9に示されるとおり、第1通気路L1と第2通気路L2それぞれの長さを適切に調整することにより、ボーカル帯域より低い周波数帯域のみで多くなる。また、低域において、周波数fa未満の通気量は、第1通気路L1と第2通気路L2との組み合わせにより、周波数fa以上の通気量よりも大きい勾配で増加する。その結果、ヘッドホン1の低域の周波数応答特性(以下「特性」という。)において、ボーカル帯域に近い側(周波数fa以上)の音圧への背圧の影響は抑制され、かつ、ボーカル帯域よりも遠い側(周波数fa未満)の同影響はさらに抑制される。
【0079】
また、前述のとおり、周波数に対する通気量は、通気路Lの横断面積を調整することにより、調整可能である。ここで、第1通気路L1の通気量は、第1通気路L1への空気の入り口である第1内部通気孔16h1の直径(大きさ)の影響を受ける。すなわち、例えば、第1内部通気孔16h1の直径を大きくすると通気量は増加し、同直径を小さくすると通気量は減少する。つまり、第1内部通気孔16h1の直径を変更することにより、疑似的に第1通気路L1の横断面積を変更するのと同様の効果が得られる。換言すれば、第1通気路L1の横断面積は、第1内部通気孔16h1の直径を変更することにより、調整可能である。この調整は、第2通気路L2についても同様である。
【0080】
図10は、振動板111の振動の周波数と通気量の関係の別の一例を示すグラフである。
同図の縦軸は通気量を示し、横軸は周波数を示す。同図は、第1内部通気孔16h1の直径をX,Y,Z(X<Y<Z)としたときの第1通気路L1における周波数と通気量との関係を示す。同図の破線は、直径がXのときのグラフを示す。同図の実線は、直径がYのときのグラフを示す。同図の一点鎖線は、直径がZのときのグラフを示す。
図10に示されるとおり、通気量の勾配は、X,Y,Zの順に大きくなる。すなわち、第1通気路L1の通気量は、第1内部通気孔16h1の直径が大きくなるに連れて多くなる。このように、第1通気路L1の通気量は、第1内部通気孔16h1の直径を変更することにより、容易に調整可能である。同図の関係は、第2通気路L2についても同様である。
【0081】
図11は、ヘッドホン1の特性図である。
同図
の横軸は周波数を示し、縦軸は音圧のレベルを示す。同図の破線は、ヘッドホン1の特性(状態Cの特性)を示す。同図の二点鎖線は、比較例として、状態Aの特性を示す。同図の一点鎖線は、比較例として、状態Bの特性を示す。同図の実線は、比較例として、状態Cの特性を示す。
【0082】
状態Dの音圧は、100Hz-500Hzの帯域(ボーカル帯域内)において、急激に増加している。一方、状態A-Cの音圧は、100Hz未満の帯域(低域)において、急激に増加している。また、状態A-Cの音圧は、この増加により、ボーカル帯域の低域側の帯域(100Hz-300Hz)において、緩やかに増加している。そして、状態A-Cの音圧の増加量は、状態Dの音圧の増加量よりも抑えられている。すなわち、ボーカル帯域において、状態A-Cは、状態Dよりも音圧の増加を抑制する。また、200Hz以下の帯域において、状態Cの音圧は、状態Dよりも小さく、状態A,Bよりも大きい。すなわち、ヘッドホン1は、長さの異なる2つの通気路(第1通気路L1,第2通気路L2)を組み合わせることにより、ボーカル帯域の音圧への背圧の影響を抑制しつつ、低域の音圧のみを増加させることを可能とする。
【0083】
状態Dの特性では、500Hz付近に大きなディップが存在する。このディップの位置は、状態B、状態Aの順に低周波数側に移動する。すなわち、ディップの位置は、通気路Lの長さが長いほど低周波数側に移動する。低域の音圧は、状態A,状態Bの順に増加する。すなわち、低域の音圧は、通気路Lの長さが短いほど増加する。ここで、状態Cでは、ディップの位置は状態Bに近い周波数まで低下し、音圧は状態Bよりも増加する。つまり、ヘッドホン1は、2つの通気路(第1通気路L1,第2通気路L2)を組み合わせることにより、低域の音圧とディップの位置とを個別に調整可能である。また、ヘッドホン1は、2つの通気路の横断面積が同じとき、2つの通気路それぞれの長さを調整することにより、振動板111の振動が背圧の影響を受ける周波数帯域を調整可能である。
【0084】
●まとめ
以上説明した実施の形態によれば、第1ハウジング15(ハウジングユニットH1)と通気路形成部材16とは、通気路Lを形成する。通気路Lは、第1通気路L1と第2通気路L2とを含む。第1通気路L1の形状は、第2通気路L2の形状と異なる。前述のとおり、通気路Lの通気量と周波数との関係は、通気路Lの形状(長さ、横断面積)により変動する。通気路Lの通気量と周波数とは、低域の音圧に影響を与える。すなわち、ヘッドホン1は、2つの通気路(第1通気路L1,第2通気路L2)を組み合わせることにより、ボーカル帯域の音圧の増加を抑制しつつ、低域の音圧のみを個別に増加させる。その結果、ヘッドホン1は、ボーカル帯域の音圧と低域の音圧とのバランスの調整を可能とする。この構成によれば、ヘッドホン1は、2つの通気路(第1通気路L1,第2通気路L2)を組み合わせることにより、特性を容易に調整可能である。
【0085】
また、以上説明した実施の形態によれば、第1通気路L1は、第1溝1524が通気路形成部材16に覆われることで形成される。第2通気路L2は、第2溝1525が通気路形成部材16に覆われることで形成される。すなわち、通気路Lは、第1ハウジング15の第1溝1524と第2溝1525と、通気路形成部材16と、により容易に形成可能である。つまり、ヘッドホン1は、通気路形成部材16の形状を変更するだけで、通気路Lの形状を容易に変更可能である。この構成によれば、ヘッドホン1は、特性を容易に調整可能である。
【0086】
さらに、以上説明した実施の形態によれば、第1溝1524は第1突出部1521に配置され、第2溝1525は第2突出部1522に配置される。第1突出部1521と第2突出部1522それぞれは、第2ハウジング19側(部品室S2側)に突出する。そのため、第1通気路L1と第2通気路L2それぞれは、後部空気室S1の容積を減ずる(変える)ことなくハウジングユニットH1内に形成可能である。
【0087】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、通気路形成部材16は、第1内部通気孔16h1と第2内部通気孔16h2とを備える。第1内部通気孔16h1は、第1溝1524と対向する位置に配置される。第2内部通気孔16h2は、第2溝1525と対向する位置に配置される。第1通気路L1の長さは、第1溝1524に対する第1内部通気孔16h1の位置に基づいて、決定される。第2通気路L2の長さは、第2溝1525に対する第2内部通気孔16h2の位置に基づいて、決定される。すなわち、第1通気路L1と第2通気路L2それぞれの長さは、第1内部通気孔16h1と第2内部通気孔16h2それぞれの位置を変更することで容易に変更可能である。つまり、ヘッドホン1は、第1内部通気孔16h1と第2内部通気孔16h2それぞれの位置を変更するだけで、特性を容易に調整可能である。
【0088】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、通気路形成部材16は、板状である。そのため、通気路形成部材16は、容易に製造可能である。また、第1内部通気孔16h1と第2内部通気孔16h2それぞれは、金型ではなく抜型により形成可能である。すなわち、第1内部通気孔16h1と第2内部通気孔16h2それぞれの位置は、容易に変更可能である。この構成によれば、ヘッドホン1は、特性を容易に調整可能である。
【0089】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、第1ハウジング15(ハウジングユニットH1)は、外部と第1溝1524とを連通させる第1外部通気孔152h1と、外部と第2溝1525とを連通させる第2外部通気孔152h2と、を備える。第1外部通気孔152h1は第1溝1524の第1端1524a(一端)に配置され、第2外部通気孔152h2は第2溝1525の第1端1525a(一端)に配置される。この構成によれば、第1通気路L1と第2通気路L2それぞれの形状は、通気路形成部材16の形状(および/または第1内部通気孔16h1と第2内部通気孔16h2それぞれの位置)に基づいて、変更可能である。この構成によれば、ヘッドホン1は、特性を容易に調整可能である。
【0090】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、第1外部通気孔152h1は、第2外部通気孔152h2と隣り合って配置される。ここで、2つの外部通気孔が隣り合って配置されていない場合、複数の通気孔がバッフル部材(ハウジングユニット)に配置されることになる。これらの通気孔は、ヘッドホンの外観に影響を与え得る。また、各通気孔に対応するカバー部材が必要となる。これに対して、第1外部通気孔152h1と第2外部通気孔152h2それぞれは、1つの通気孔124hにより外部と連通され、1つのカバー部材17により覆われる。このような構成は、通気孔124hと第1外部通気孔152h1と第2外部通気孔152h2それぞれがヘッドホン1の使用者に視認されたとき、使用者に対して、1つにまとまり、すっきりとした美感を起こし得る。
【0091】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、第1外部通気孔152h1と第2外部通気孔152h2それぞれは、第1アーム部材31に対向する位置(第1アーム部材31の真下)に配置される。そのため、通気孔124hと第1外部通気孔152h1と第2外部通気孔152h2それぞれは、ヘッドホン1の外部から視認されにくく、ヘッドホン1の外観に影響を与えない。また、第1アーム部材31は、埃や雨のような異物から第1通気路L1と第2通気路L2とを保護する。
【0092】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、カバー部材17は、第1外部通気孔152h1と第2外部通気孔152h2それぞれを覆う。そのため、カバー部材17は、埃のような異物から第1通気路L1と第2通気路L2とを保護する。
【0093】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、カバー部材17は、バッフル部材12と第1ハウジング15の間に配置される。すなわち、カバー部材17は、バッフル部材12と第1ハウジング15とに挟持される。その結果、カバー部材17は、接着剤などの固定手段を用いることなく固定可能であり、交換可能である。
【0094】
なお、カバー部材は、音響抵抗として機能してもよい。すなわち、例えば、カバー部材は、ヘッドホンの音質に影響を与える程度の目開きを有してもよく、ポリウレタンのような合成樹脂製でもよい。この場合、ヘッドホンの特性は、2つの通気路の形状だけでなく、カバー部材の音響抵抗値によっても調整可能である。この構成によれば、さらに複雑な特性の調整が可能となる。
【0095】
また、カバー部材は、撥水性を有してもよい。この構成によれば、アーム部材とハウジングユニットとの間に水が侵入しても、カバー部材は、その水から第1通気路と第2通気路とを保護する。
【0096】
さらに、カバー部材は、第1外部通気孔と第2外部通気孔それぞれを覆えばよく、カバー部材の配置は、本実施の形態に限定されない。すなわち、例えば、カバー部材は、バッフル部材の通気孔に配置されてもよい。
【0097】
さらにまた、カバー部材は、例えば、両面テープのような固定手段により第1ハウジング、あるいは、バッフル部材に固定されてもよい。
【0098】
さらにまた、カバー部材は、第1外部通気孔を覆う第1カバー部材と、第2外部通気孔を覆う第2カバー部材と、から構成されてもよい。
【0099】
さらにまた、第1溝(第2溝)の形状は、ヘッドホンの低域の特性を調整可能であれば、前面視においてL字状に限定されない。すなわち、例えば、第1溝(第2溝)は、直線状やJ字状、C字状、U字状でもよい。また、例えば、第1溝はL字状、第2溝は直線状などのように、第1溝の形状と第2溝の形状とが異なってもよい。
【0100】
さらにまた、断面視における第1溝(第2溝)の形状は、通気路を形成可能であれば、限定されない。すなわち、例えば、断面視における第1溝(第2溝)の形状(横断面の形状)は、矩形状や、半円状、三角形状でもよい。
【0101】
さらにまた、第1溝(第2溝)の幅や深さは、第1溝(第2溝)の第2端から第1端に向けて連続的、あるいは、段階的に変化してもよい。
【0102】
さらにまた、第1溝は、第2溝と隣り合って配置されてもよく、離間して配置されてもよい。
【0103】
さらにまた、第1外部通気孔(第2外部通気孔)は、第1アーム部材に対向していれば、上方に向けて開口しなくてもよい。すなわち、例えば、第1外部通気孔(第2外部通気孔)は、斜め上方に向けて開口してもよい。この場合、バッフル部材の通気孔は、第1外部通気孔(第2外部通気孔)の位置に対応して配置される。
【0104】
さらにまた、第1外部通気孔(第2外部通気孔)は、第1アーム部材に対向して配置されなくてもよい。すなわち、例えば、第1外部通気孔(第2外部通気孔)は、第1ハウジングの下部に配置されてもよい。この場合、バッフル部材の通気孔は、第1外部通気孔(第2外部通気孔)の位置に対応して配置される。
【0105】
さらにまた、バッフル部材は、第1外部通気孔に連通する通気孔と、第2外部通気孔に連通する通気孔と、の2つの通気孔を備えてもよい。この場合、バッフル部材の2つの通気孔それぞれは、本発明における第1外部通気孔と第2外部通気孔として機能してもよい。
【0106】
さらにまた、通気路形成部材は、溝形成部に対してスライド可能でもよい。この場合、通気路形成部材をスライドさせることで、通気路の形状(長さ)は、容易に変更可能である。
【0107】
さらにまた、通気路形成部材は、ねじのような固定手段で第1ハウジングに固定されてもよい。この場合、通気路形成部材は、容易に交換可能である。そのため、特性の微調整が可能となる。
【0108】
さらにまた、以上説明した実施の形態は、通気路Lが第1通気路L1と第2通気路L2とを含む構成であった。これに代えて、通気路は、第1通気路と第2通気路と第3通気路とを含んでもよい。
【0109】
図12は、本発明にかかるヘッドホンの変形例を示す部分拡大模式図である。
同図は、第1ハウジング15Aの溝形成部152Aに第1溝1524と第2溝1525と第3溝1526Aとが配置されていることを示す。同図は、通気路形成部材16Aが、第1内部通気孔16h1Aと第2内部通気孔16h2Aと第3内部通気孔16h3Aとを備えることを示す。第3溝1526Aは、第1溝1524と第2溝1525との間に配置される。通気路形成部材16Aは、第1溝1524と第2溝1525と第3溝1526Aそれぞれを覆う。その結果、第1通気路L1と第2通気路L2と第3通気路L3Aとが形成される。第3通気路L3Aの長さは、第1通気路L1と第2通気路L2それぞれの長さよりも短い。
【0110】
図13は、
図12のヘッドホン1Aにおける周波数と通気量との関係の例を示すグラフである。同図の二点鎖線は、状態Aのグラフを示す。同図の一点鎖線は、状態Bのグラフを示す。同図の破線は、第3通気路L3Aのみが配置される状態(状態Eとする)のグラフを示す。同図の実線は、第1通気路L1と第2通気路L2と第3通気路L3Aそれぞれが配置される状態(状態Fとする)のグラフを示す。状態Fのグラフの勾配は、第2通気路L2が通気する周波数fb未満で大きくなり、第1通気路L1が通気する周波数fa未満でさらに大きくなる。すなわち、状態Fのグラフの勾配は、周波数fa,fbを境に3段階の勾配を有する。つまり、状態Fの通気量は、周波数fb以上では第3通気路L3Aの通気量となり、周波数fa以上fb未満では第2通気路L2の通気量と第3通気路L3Aの通気量とを足し合わせたような通気量となり、周波数fa未満では第1通気路L1の通気量と第2通気路L2の通気量と第3通気路L3Aの通気量とを足し合わせたような通気量となる。このように、ヘッドホン1Aは、3つの通気路(第1通気路L1,第2通気路L2,第3通気路L3A)を組み合わせることにより、ヘッドホン1よりもさらに複雑な特性の調整を可能とする。
【0111】
さらにまた、以上説明した実施の形態は、第1ハウジング15が第1溝1524と第2溝1525とを備える構成であった。これに代えて、バッフル部材が第1溝と第2溝とを備えてもよい。この場合、例えば、第1溝と第2溝それぞれは、第2板状部の後面に配置される。例えば、第1外部通気孔と第2外部通気孔それぞれは、バッフル部材の周面に開口してもよい。この構成において、第2板状部の前面の一部は、第1板状部との間の隙間に突出して、第1溝と第2溝とが配置される突出部を形成してもよい。
【0112】
さらにまた、通気路形成部材は、第1溝(第2溝)の第2端寄りの部分を覆わなくてもよい。この場合、第1溝(第2溝)の第2端側の通気路形成部材に覆われていない部分は、第1内部通気孔(第2内部通気孔)として機能する。第1通気路(第2通気路)の長さは、通気路形成部材が第1溝(第2溝)を覆う量に基づいて、決定される。
【0113】
さらにまた、以上説明した実施の形態は、第1通気路L1の横断面積と第2通気路L2の横断面積とが同じ構成であった。これに代えて、第1通気路の横断面積は、第2通気路の横断面積と異なってもよい。
【0114】
さらにまた、以上説明した実施の形態は、特許請求の範囲に記載される発明の内容を不当に限定するものではない。また、以上説明した実施の形態で説明される構成の全てが、本開示の必須構成要件であるとは限らない。
【符号の説明】
【0115】
1 ヘッドホン
11 ドライバユニット
12 バッフル部材
15 第1ハウジング
1521 第1突出部(突出部)
1522 第2突出部(突出部)
1523 第3突出部(突出部)
1524 第1溝
1525 第2溝
152h1 第1外部通気孔
152h2 第2外部通気孔
16 通気路形成部材
17 カバー部材
16h1 第1内部通気孔
16h2 第2内部通気孔
19 第2ハウジング
31 第1アーム部材
H1 ハウジングユニット
L 通気路
L1 第1通気路
L2 第2通気路
S1 後部空気室(空気室)
1A ヘッドホン
15A 第1ハウジング
16A 通気路形成部材