(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】炎症抑制用の組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20230410BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230410BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230410BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230410BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230410BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230410BHJP
A61P 37/00 20060101ALI20230410BHJP
C12Q 1/6897 20180101ALI20230410BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230410BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20230410BHJP
A61K 45/00 20060101ALN20230410BHJP
【FI】
A61K31/7088 ZNA
A61K48/00
A61P43/00 121
A61P37/06
A61P25/00
A61P11/00
A61P37/00
C12Q1/6897 Z
A61P29/00
C12N15/11 Z
A61K45/00
(21)【出願番号】P 2020507894
(86)(22)【出願日】2019-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2019011851
(87)【国際公開番号】W WO2019182055
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2018054780
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業、「自然免疫における転写後調節を介した慢性炎症抑制メカニズムの解析」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 理
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】Osteoarthritis and Cartilage,2015年,23,A156,233
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61K 45/00-45/08
A61K 48/00
G01N 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症抑制用の組成物であって、
レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域におけるステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質を含み、
ステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質が、ステムループ構造を形成するヌクレオチド配列に結合するオリゴヌクレオチドであり、
ステムループ構造が、配列番号1の第231位~第245位に相当する領域で形成される第1のステムループ構造および配列番号1の第424位~第442位に相当する領域で形成される第2のステムループ構造から選択される少なくとも1つのステムループ構造である、組成物。
【請求項2】
レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域が配列番号5のヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質が、
(a)第1のオリゴヌクレオチドであって、
(a-1)配列番号1の第206位~第242位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第233位~第235位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、10個~30個のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、および、
(a-2)配列番号1の第234位~第270位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第241位~第243位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、10個~30個のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、
から選択されるオリゴヌクレオチド、
(b)第2のオリゴヌクレオチドであって、
(b-1)配列番号1の第399位~第439位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第426位~第428位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、10個~30個のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、および、
(b-2)配列番号1の第427位~第467位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第438位~第440位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、10個~30個のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、
から選択されるオリゴヌクレオチド、または、
(c)第1のオリゴヌクレオチドと第2のオリゴヌクレオチドの組合せ、
である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質が、
(a)第1のオリゴヌクレオチドであって、
(a-1)配列番号1の第206位~第242位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第233位~第235位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、配列番号7と90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド、および、
(a-2)配列番号1の第234位~第270位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第241位~第243位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、配列番号8と90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド
から選択されるオリゴヌクレオチド、
(b)第2のオリゴヌクレオチドであって、
(b-1)配列番号1の第399位~第439位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第426位~第428位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、配列番号9と90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド、および、
(b-2)配列番号1の第427位~第467位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第438位~第440位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、配列番号10と90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド
から選択されるオリゴヌクレオチド、または、
(c)第1のオリゴヌクレオチドと第2のオリゴヌクレオチドの組合せ、
である、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
ステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質が、第1のオリゴヌクレオチドと第2のオリゴヌクレオチドの組合せである、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
自己免疫性疾患または敗血症性ショックを処置するための、請求項1~5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
多発性硬化症を処置するための、請求項1~6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
急性呼吸窮迫症候群、特発性肺線維症または間質性肺炎を処置するための、請求項1~6のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
炎症抑制薬のスクリーニング方法であって、以下の工程
(a)レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域と連結したレポーター遺伝子およびレグナーゼ-1遺伝子を発現する細胞に、候補物質を導入する工程、
(b)前記細胞におけるレポーター遺伝子の発現量を測定する工程、および、
(c)候補物質の非存在下において測定した発現量と比較して発現量を増加させる候補物質を、炎症抑制薬として選択する工程、
を含み、
レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域が、配列番号5のヌクレオチド配列を含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、日本国特許出願第2018-054780号について優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本願は、炎症抑制用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症は多くの疾患に関連し、中でも敗血症性ショックや自己免疫疾患において重要である。敗血症性ショックの重篤な症状として急性呼吸窮迫症候群(ARDS)が挙げられるが、その治療方法は、ステロイド剤の投与などに限られている。自己免疫疾患の治療に関しては、例えば慢性関節リウマチに対する免疫抑制剤メトトレキサートの使用や、TNF、IL-6受容体、IL-1受容体などのサイトカインを標的とする抗体療法が近年開発された。しかし、サイトカイン抗体に対して不応答性の症例がしばしば存在し、全身性エリテマトーデスをはじめ、抗体療法の効果が認められない自己免疫疾患も多く存在する。多発性硬化症にはI型インターフェロンが効果を示すことが知られているが、その効果は十分ではない。
【0003】
RNA分解酵素のレグナーゼ-1(Regnase-1;Reg1、Zc3h12aまたはMcpip1とも呼ばれる)は、マクロファージや樹状細胞などの自然免疫細胞において、インターロイキン(IL)-6などの炎症性サイトカインや炎症惹起に関わる分子をコードするmRNAを分解することにより、過剰な免疫応答を抑制している。また、レグナーゼ-1は、獲得免疫T細胞においても、T細胞活性化に関わる分子のmRNAを分解することにより、過剰なT細胞活性化を抑制している。
【0004】
レグナーゼ-1は、標的mRNAの3’非翻訳領域(3’UTR)に存在するステムループ構造を認識して、タンパク質翻訳が生じているmRNAを分解する(非特許文献1)。レグナーゼ-1のmRNAも1つのステムループ構造を持ち、レグナーゼ-1自身により認識され、分解されることが知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Mino, T. et al., Cell 161, 1058-1073 (2015)
【文献】Iwasaki H., Takeuchi O. et al., Nat Immunol. 12, 1167-1175 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願は、新たな炎症抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、レグナーゼ-1 mRNAの3’UTRに、種間で保存された2つのステムループ構造が存在することを見出し、これらのステムループ構造を破壊すると、レグナーゼ-1によるレグナーゼ-1 mRNAの分解が抑制され、レグナーゼ-1タンパク質が増加することを明らかにした。レグナーゼ-1はいくつかの炎症性サイトカインのmRNAを分解するので、その増加は炎症の抑制をもたらす。
【0008】
従って、ある態様では、本願は、レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域におけるステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質を含む、炎症抑制用の組成物を提供する。
【0009】
また別の態様では、本願は、炎症抑制薬のスクリーニング方法であって、以下の工程
(a)レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域と連結したレポーター遺伝子およびレグナーゼ-1遺伝子を発現する細胞に、候補物質を導入する工程、
(b)前記細胞におけるレポーター遺伝子の発現量を測定する工程、および、
(c)候補物質の非存在下において測定した発現量と比較して発現量を増加させる候補物質を、炎症抑制薬として選択する工程、
を含む、方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本開示により、対象におけるレグナーゼ-1の活性化による炎症抑制が可能になる。あるいは、レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域による遺伝子発現の制御を指標として、炎症抑制薬として使用し得る物質をスクリーニングし得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】代表的なヒトおよびマウスのレグナーゼ-1のアミノ酸配列を示す。
【
図2】代表的なヒトのレグナーゼ-1 mRNAの3'非翻訳領域のヌクレオチド配列(配列番号1)を示す。ステムループ構造を形成する領域を実線で囲み、ステムループのループ部分を形成する領域を斜体で示す。231-245MOおよび424-442MOが結合するヌクレオチド配列を下線で示す。配列番号1の第206位~第467位(配列番号5)のヌクレオチド配列を破線で囲む。
【
図3】代表的なマウスのレグナーゼ-1 mRNAの3'非翻訳領域のヌクレオチド配列(配列番号2)を示す。ステムループ構造を形成する領域を実線で囲み、ステムループのループ部分を形成する領域を斜体で示す。191-210MOおよび378-392MOが結合するヌクレオチド配列を下線で示す。配列番号2の第171位~第416位(配列番号6)のヌクレオチド配列を破線で囲む。
【
図4】実施例1の実験に使用したレポーターコンストラクトの模式図およびレポーターアッセイの結果を示す。
【
図5】マウスレグナーゼ-1 mRNAの3’UTR全長を含むルシフェラーゼレポータープラスミドを用いる、レグナーゼ-1 mRNAの3’UTRのステムループを標的とするモルフォリノオリゴ(MO)存在下でのレポーターアッセイの結果を示す。
【
図6】MOで処理したマウス骨髄マクロファージ(BMM)における、LPS刺激後の各種サイトカインおよびレグナーゼ-1のmRNAの量、並びに、レグナーゼ-1タンパク質の量を示す。
【
図7】MOを気管内投与したマウスにLPSを気管内投与し、肺組織における各種サイトカインおよびレグナーゼ-1のmRNAの量を測定した結果を示す。
【
図8】実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)マウスにおける、体重、EAEスコアおよび生存率に対する頭蓋内MO投与の効果を示す。矢印はMO投与の時点を示す。
【
図9】MOで処理したヒトTHP-1細胞における、LPS刺激後の各種サイトカインおよびレグナーゼ-1のmRNAの量を示す。
【
図10】アンチセンスオリゴDNA(ASO)で処理したTHP-1細胞における、LPS刺激後の各種サイトカインおよびレグナーゼ-1のmRNAの量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。例えば、「約20」は、「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20~30」は、「18~33」を含むものとする。
【0013】
特に具体的な定めのない限り、本明細書で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本明細書で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本明細書において、一般的な理解に優先する。
【0014】
本願発明者らは、レグナーゼ-1が、レグナーゼ-1 mRNAの3’UTRに存在する2つのステムループ構造を認識して、レグナーゼ-1 mRNAを分解することを見出した。本願実施例では、これらのステムループ構造の一方または両方を破壊することにより、レグナーゼ-1 mRNAの分解が抑制されること、さらに、それによりレグナーゼ-1の量が増加し、レグナーゼ-1の標的であるIL-6、TNFαおよびIL-1β等の炎症性サイトカインのmRNAの分解が促進されることが立証された。また、インビボモデルにおいても、同様に炎症性サイトカインのmRNAの分解が促進された。これらの結果は、レグナーゼ-1 mRNAの3’UTRにおけるステムループ構造を破壊することにより、炎症を抑制し得ることを示す。
【0015】
レグナーゼ-1はいかなる種のものであってもよく、典型的には哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)、特にヒトおよびマウスのレグナーゼ-1である。レグナーゼ-1の代表的なアミノ酸配列は、GenBankアクセッション番号NP_001310479.1(ヒト、配列番号3)およびNP_694799.1(マウス、配列番号4)として登録されている。本開示に関して、「レグナーゼ-1」は、レグナーゼ-1の機能が維持されている限り、配列番号3または4のアミノ酸配列と、少なくとも約60%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%または約99%以上の同一性を有するタンパク質を含む。
【0016】
「レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域」または「レグナーゼ-1 mRNAの3’UTR」は、レグナーゼ-1 mRNAのうち、3’側の翻訳されない領域を意味する。本願に関して、レグナーゼ-1 mRNAには、上記で定義されるレグナーゼ-1をコードするヌクレオチド配列を含むmRNAがすべて包含され、3’非翻訳領域のヌクレオチド配列は限定されない。レグナーゼ-1 mRNAの3’UTRのヌクレオチド配列の例として、少なくとも配列番号5(ヒト)または配列番号6(マウス)で示される配列を含む配列が挙げられる。例えば、レグナーゼ-1 mRNAの3’UTRは、配列番号1(ヒト)または配列番号2(マウス)で示されるヌクレオチド配列を含む。ある実施態様では、レグナーゼ-1 mRNAの3’UTRは、配列番号1、2、5または6のヌクレオチド配列と、少なくとも約60%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%または約99%以上の同一性を有する配列を含む。
【0017】
本開示において、アミノ酸配列またはヌクレオチド配列の同一性とは、タンパク質またはオリゴヌクレオチド間の配列の類似の程度を意味し、比較対象の配列の領域にわたって最適な状態(アミノ酸またはヌクレオチドの一致が最大となる状態)にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。配列同一性の数値(%)は両方の配列に存在する同一のアミノ酸またはヌクレオチドを決定して、適合部位の数を決定し、次いでこの適合部位の数を比較対象の配列領域内のアミノ酸またはヌクレオチドの総数で割り、得られた数値に100をかけることにより算出される。最適なアラインメントおよび配列同一性を得るためのアルゴリズムとしては、当業者が通常利用可能な種々のアルゴリズム(例えば、BLASTアルゴリズム、FASTAアルゴリズムなど)が挙げられる。配列同一性は、例えばBLAST、FASTAなどの配列解析ソフトウェアを用いて決定され得る。
【0018】
「ステムループ構造」とは、一本鎖核酸において、分子内の離れた2つの領域に存在する相補的な配列が結合してステム部分を形成し、その2つの領域に狭まれた配列がループ部分を形成している構造を意味する。ある実施態様では、ステムループ構造は、任意のレグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域において、配列番号1(ヒト)の第231位~第245位に相当する領域で形成される第1のステムループ構造、および/または、配列番号1の第424位~第442位に相当する領域で形成される第2のステムループ構造である。ある実施態様では、ステムループ構造は、任意のレグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域において、配列番号2(マウス)の第196位~第210位に相当する領域で形成される第1のステムループ構造、および/または、配列番号2の第378位~第392位に相当する領域で形成される第2のステムループ構造である。
【0019】
第1のヌクレオチド配列におけるある領域に相当する第2のヌクレオチド配列における領域とは、第1のヌクレオチド配列と第2のヌクレオチド配列を最適な状態にアラインメントしたときに、第1のヌクレオチド配列の当該領域と一致する第2のヌクレオチド配列における領域を意味する。
【0020】
「ステムループ構造を破壊する物質」は、ステムループ構造内の相補的結合を阻害する物質であれば、特に限定されない。少なくとも1対、2対または3対のヌクレオチド間の相補的結合を阻害する物質であればよい。例えば、ステムループ構造を形成するヌクレオチド配列に結合するオリゴヌクレオチド(アンチセンス核酸)、または、ステムループ構造を形成するヌクレオチド配列をゲノム編集技術により改変するための物質が挙げられる。
【0021】
ある実施態様では、ステムループ構造を破壊する物質は、アンチセンス核酸である。アンチセンス核酸は、レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域におけるステムループ構造を形成する領域の少なくとも一部、例えば、ステムループ構造のステム部分を形成する少なくとも1個、2個または3個のヌクレオチドに結合することにより、ステムループ構造内の相補的結合を阻害し得る。例えば、アンチセンス核酸は、ステムループ構造のステム部分を形成する少なくとも2個または3個、例えば3個の連続するヌクレオチドを含む配列に相補的な配列を含む。当該連続するヌクレオチドは、ステムループ構造のループ部分に隣接するものであり得、例えば、配列番号1では、第233位~第235位、第241位~第243位、第426位~第428位および第438位~第440位に相当し得る。アンチセンス核酸は、それ自体がステムループ構造、ヘアピン構造、または二量体などの多量体を形成しないものが好ましい。アンチセンス核酸は、例えば10個~30個、15~27個、18~25個または20~23個のヌクレオチドからなる一本鎖核酸である。
【0022】
ある実施態様では、アンチセンス核酸は、
(a-1)配列番号1の第206位~第242位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第233位~第235位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、10個~30個のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、および、
(a-2)配列番号1の第234位~第270位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第241位~第243位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、10個~30個のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、
から選択される。
【0023】
ある実施態様では、(a-1)のオリゴヌクレオチドは、配列番号7(5'-AATGTGTATCAACAGGGTGATCG-3')と、少なくとも約60%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%または約99%以上の配列同一性を有する。別の実施態様では、(a-1)のオリゴヌクレオチドは、配列番号7のヌクレオチド配列において、1個または数個、例えば、2個もしくは3個のヌクレオチドが欠失、置換、付加または挿入されたヌクレオチド配列からなる。ある実施態様では、(a-1)のオリゴヌクレオチドは、配列番号7と約90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列を有する。ある実施態様では、(a-1)のオリゴヌクレオチドは、配列番号7のヌクレオチド配列を含む。ある実施態様では、(a-1)のオリゴヌクレオチドは、配列番号7のヌクレオチド配列からなる。
【0024】
ある実施態様では、(a-2)のオリゴヌクレオチドは、配列番号8(5'-CTTAAACTACAGAGATACAATGT-3')と、少なくとも約60%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%または約99%以上の配列同一性を有する。別の実施態様では、(a-2)のオリゴヌクレオチドは、配列番号8のヌクレオチド配列において、1個または数個、例えば、2個もしくは3個のヌクレオチドが欠失、置換、付加または挿入されたヌクレオチド配列からなる。ある実施態様では、(a-2)のオリゴヌクレオチドは、配列番号8と約90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列を有する。ある実施態様では、(a-2)のオリゴヌクレオチドは、配列番号8のヌクレオチド配列を含む。ある実施態様では、(a-2)のオリゴヌクレオチドは、配列番号8のヌクレオチド配列からなる。
【0025】
ある実施態様では、アンチセンス核酸は、
(b-1)配列番号1の第399位~第439位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第426位~第428位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、10個~30個のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、および、
(b-2)配列番号1の第427位~第467位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第438位~第440位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、10個~30個のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、
から選択される。
【0026】
ある実施態様では、(b-1)のオリゴヌクレオチドは、配列番号9(5'-ACGGTGCCCAACTAGCCAG-3')と、少なくとも約60%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%または約99%以上の配列同一性を有する。別の実施態様では、(b-1)のオリゴヌクレオチドは、配列番号9のヌクレオチド配列において、1個または数個、例えば、2個もしくは3個のヌクレオチドが欠失、置換、付加または挿入されたヌクレオチド配列からなる。ある実施態様では、(b-1)のオリゴヌクレオチドは、配列番号9と約90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列を有する。ある実施態様では、(b-1)のオリゴヌクレオチドは、配列番号9のヌクレオチド配列を含む。ある実施態様では、(b-1)のオリゴヌクレオチドは、配列番号9のヌクレオチド配列からなる。
【0027】
ある実施態様では、(b-2)のオリゴヌクレオチドは、配列番号10(5'-GGCCCTTGGAGGGCAGGCA-3')と、少なくとも約60%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%または約99%以上の配列同一性を有する。別の実施態様では、(b-2)のオリゴヌクレオチドは、配列番号10のヌクレオチド配列において、1個または数個、例えば、2個もしくは3個のヌクレオチドが欠失、置換、付加または挿入されたヌクレオチド配列からなる。ある実施態様では、(b-2)のオリゴヌクレオチドは、配列番号10と約90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列を有する。ある実施態様では、(b-2)のオリゴヌクレオチドは、配列番号10のヌクレオチド配列を含む。ある実施態様では、(b-2)のオリゴヌクレオチドは、配列番号10のヌクレオチド配列からなる。
【0028】
炎症抑制用の組成物は、1種またはそれ以上のアンチセンス核酸を含み得る。2種類以上のアンチセンス核酸を用いる場合は、すべてのアンチセンス核酸を含む組成物としてもよく、各々1種またはそれ以上のアンチセンス核酸を含む2種以上の組成物を併用してもよい。1つの組成物に2種類以上のアンチセンス核酸が含まれる場合は、アンチセンス核酸間で相補的結合を形成しないことが好ましい。ある実施態様では、上記(a-1)および(a-2)から選択される1種のアンチセンス核酸と、上記(b-1)および(b-2)から選択される1種のアンチセンス核酸の組合せを用いる。例えば、上記(a-1)と(b-1)のアンチセンス核酸の組合せ、上記(a-1)と(b-2)のアンチセンス核酸の組合せ、上記(a-2)と(b-1)のアンチセンス核酸の組合せ、または、上記(a-2)と(b-2)のアンチセンス核酸の組合せを用いる。
【0029】
ある実施態様では、アンチセンス核酸は、
(a-1’)配列番号2の第171位~第207位のヌクレオチド配列のうち、配列番号2の第198位~第200位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、10個~30個のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、および、
(a-2’)配列番号2の第199位~第235位のヌクレオチド配列のうち、配列番号2の第206位~第208位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、10個~30個のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、
から選択される。
【0030】
ある実施態様では、アンチセンス核酸は、
(b-1’)配列番号2の第354位~第388位のヌクレオチド配列のうち、配列番号2の第381位~第383位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、10個~30個のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、および、
(b-2’)配列番号2の第382位~第416位のヌクレオチド配列のうち、配列番号2の第387位~第389位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、10個~30個のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、
から選択される。
【0031】
上記(a-1’)、(a-2’)、(b-1’)および(b-2’)は、各々、上記(a-1)、(a-2)、(b-1)および(b-2)に準じて定義される。
ある実施態様では、(a-1’)、(a-2’)、(b-1’)および(b-2’)のオリゴヌクレオチドは、各々、配列番号11(5'-aatgtgtatcaacagggtgatca-3')、配列番号12(5'-cttaaatgacagagatacaatgt-3')、配列番号13(5'-atggtgcctaactagccggt-3')、配列番号14(5'-cctcagagagcaggcacatg-3')と、少なくとも約60%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%または約99%以上の配列同一性を有する。別の実施態様では、(a-1’)、(a-2’)、(b-1’)および(b-2’)のオリゴヌクレオチドは、各々、配列番号11~14のヌクレオチド配列において、1個または数個、例えば、2個もしくは3個のヌクレオチドが欠失、置換、付加または挿入されたヌクレオチド配列からなる。ある実施態様では、(a-1’)、(a-2’)、(b-1’)および(b-2’)のオリゴヌクレオチドは、各々、配列番号10~14と約90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列を有する。ある実施態様では、(a-1’)、(a-2’)、(b-1’)および(b-2’)のオリゴヌクレオチドは、各々、配列番号11~14のヌクレオチド配列を含む。ある実施態様では、(a-1’)、(a-2’)、(b-1’)および(b-2’)のオリゴヌクレオチドは、各々、配列番号11~14のヌクレオチド配列からなる。
【0032】
アンチセンス核酸は、天然のヌクレオチドで構成されてもよく、人工のヌクレオチドで構成されてもよく、1個またはそれ以上の天然のヌクレオチドと1個またはそれ以上の人工ヌクレオチドで構成されてもよい。天然のヌクレオチドは、例えば、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドである。人工ヌクレオチドは、天然のヌクレオチドと異なる構造を有し、ヌクレアーゼ耐性や標的配列との結合親和性を高めるものを選択し得る。例えば、出典明示により本明細書の一部とする Deleavey, G. F., & Damha, M. J. (2012). Designing chemically modified oligonucleotides for targeted gene silencing. Chemistry & biology, 19(8), 937-954 に記載の人工ヌクレオチドを使用し得る。人工ヌクレオチドの例には、例えば、無塩基(abasic)ヌクレオシド;アラビノヌクレオシド、2'-デオキシウリジン、α-デオキシリボヌクレオシド、β-L-デオキシリボヌクレオシド、その他の糖修飾を有するヌクレオシド;ペプチド核酸(PNA)、ホスフェート基が結合したペプチド核酸(PHONA)、架橋型人工核酸(LNA)、2'-O,4'-C-エチレン架橋核酸(ENA)、拘束エチル(cEt)、モルフォリノ核酸等が挙げられる。糖修飾を有する人工ヌクレオチドには、2'-O-メチルリボース、2'-O-メトキシエチルリボース、2'-デオキシ-2'-フルオロリボース、3'-O-メチルリボース等の置換五単糖;1',2'-デオキシリボース;アラビノース;置換アラビノース糖;六単糖およびアルファ-アノマーの糖修飾を有するものが含まれる。修飾された塩基を有する人工ヌクレオチドとしては、例えば、5-ヒドロキシシトシン、5-メチルシトシン、5-フルオロウラシル、4-チオウラシル等のピリミジン;6-メチルアデニン、6-チオグアノシン等のプリン;および他の複素環塩基等を有するものが挙げられる。アンチセンス核酸中の人工ヌクレオチドは、すべて同じ種類のものであってもよく、2種類以上の異なる人工ヌクレオチドであってもよい。
【0033】
ある実施態様では、アンチセンス核酸は、モルフォリノオリゴである。モルフォリノオリゴは、下記の構造が繰り返し連結した構造を有する:
【化1】
(式中、Bは、アデニン、シトシン、グアニンまたはチミンであり、
破線は隣接する構造との結合点である)。
ある実施態様では、アンチセンス核酸は一本鎖DNAである。
【0034】
アンチセンス核酸は、アンチセンス核酸の活性または細胞への取り込みを増強する1以上の成分またはコンジュゲートと結合していてもよい。そのような成分としては、以下に限定されないが、コレステロール成分、コール酸、チオエーテル(例えばヘキシル-S-トリチルチオール)、チオコレステロール、脂肪族鎖(例えばドデカンジオールまたはウンデシル残基)、リン脂質(例えばジ-ヘキサデシル-rac-グリセロールまたはトリエチルアンモニウム1,2-ジ-O-ヘキサデシル-rac-グリセロ-3-H-ホスホネート)、ポリアミンまたはポリエチレングリコール鎖、またはアダマンタン酢酸、パルミチル成分、またはオクタデシルアミン、ヘキシルアミノ-カルボニル-tオキシコレステロールもしくはオクタグアニジンデンドリマー成分などが挙げられる。このような成分を含むオリゴヌクレオチドおよびそのようなオリゴヌクレオチドを調製する方法は、当分野で公知である。
【0035】
本組成物は、炎症を抑制することができ、従って、炎症を伴う疾患の処置および/または予防のために用いることができる。炎症を伴う疾患には、例えば、敗血症性ショック、自己免疫性疾患および移植片拒絶が含まれる。敗血症性ショックには、例えば、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、特発性肺線維症および間質性肺炎、特に急性呼吸窮迫症候群が含まれる。自己免疫疾患には、例えば、多発性硬化症、自己免疫性脳脊髄炎、関節リウマチまたは全身性エリテマトーデス、特に多発性硬化症が含まれる。
【0036】
本明細書で使用されるとき、「処置する」または「処置」は、疾患を有する対象において、疾患の原因を軽減または除去すること、その進行を遅延または停止させること、および/または、その症状を軽減、緩和、改善または除去することを意味する。
【0037】
本明細書で使用されるとき、「予防する」または「予防」は、対象において、特に、疾患を発症する可能性が高いが、未だ発症していない対象において、疾患の発症を防止すること、または、疾患を発症する可能性を低減することを意味し、ここで、疾患の発症には再発が含まれる。敗血症性ショックを発症する可能性があるが、未だ発症していない対象には、例えば、細菌、特に薬剤耐性菌の感染が疑われる対象、菌血症を患う対象、心臓弁の異常を有する対象、カテーテル、チューブ、人工関節、人工心臓弁等の医療器具を体内で使用または留置している対象が含まれる。自己免疫性疾患を発症する可能性があるが、未だ発症していない対象には、例えば、自己免疫性疾患の遺伝的素因を有する対象が含まれる。
【0038】
疾患の処置または予防の対象としては、動物、典型的には哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)、特にヒトが挙げられる。
【0039】
本組成物の投与経路は、経口投与または非経口投与を含み、特に限定されない。適用部位や対象とする疾患に応じて公知の各種投与形態を採用できる。例えば、非経口投与は、全身投与でも局所投与でもよく、より具体的には、例えば、気管内投与、髄腔内投与、くも膜下腔投与、頭蓋内投与、静脈内投与、動脈内投与、門脈内投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、口腔内投与等が挙げられる。ある実施態様では、本組成物を静脈内投与する。ある実施態様では、本組成物を気管内投与する。ある実施態様では、本組成物を、くも膜下腔内、髄腔内または頭蓋内に投与する。
【0040】
剤形としては、顆粒剤、細粒剤、粉剤、被覆錠剤、錠剤、坐剤、散剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、チュアブル剤、液剤、懸濁剤、乳濁液などが挙げられる。活性物質の放出を延長する剤形を採用してもよい。注射または点滴用の剤形としては、水性および非水性の注射溶液(抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、等張化剤等を含んでもよい);ならびに水性および非水性の注射懸濁液(懸濁剤、増粘剤等を含んでもよい)が挙げられる。これらの剤形は、密閉したアンプルやバイアル中に液体として提供されてもよく、凍結乾燥物として提供され、使用直前に滅菌液体(例えば、注射用水)を加えて調製してもよい。注射溶液または懸濁液を、粉末、顆粒または錠剤から調製してもよい。
【0041】
これらの剤形は、常法により製剤化することによって製造される。さらに製剤上の必要に応じて、医薬的に許容し得る各種の製剤用物質を配合することができる。製剤用物質は製剤の剤形により適宜選択することができるが、例えば、緩衝化剤、界面活性剤、安定化剤、防腐剤、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤等が挙げられる。
【0042】
本組成物の投与量および投与回数は、有効量の有効成分が対象に投与されるように、投与対象の動物種、投与対象の健康状態、年齢、体重、投与経路、投与形態等に応じて当業者が適宜設定できる。ある状況での有効量は、日常的な実験によって容易に決定することができ、通常の臨床医の技術および判断の範囲内である。例えば、有効成分がアンチセンス核酸である場合、約0.01~約100mg/kg体重、約0.05~約10mg/kg体重、または、約0.1~約5mg/kg体重のアンチセンス核酸を投与し得る。
【0043】
本組成物は、単独で、または、1種またはそれ以上のさらなる有効成分、特に、炎症または炎症を伴う疾患の処置または予防のための有効成分と併用できる。成分を「併用する」ことは、全成分を含有する投与剤形の使用および各成分を別個に含有する投与剤形の組合せの使用のみならず、それらが炎症の抑制または炎症を伴う疾患の処置および/または予防のために使用される限り、各成分を同時に、連続的に、または、いずれかの成分を遅延して投与することも意味する。2種またはそれ以上のさらなる有効成分を併用することも可能である。併用に適する有効成分には、例えば、抗炎症剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、免疫抑制剤、分子標的薬等が含まれる。
【0044】
ある態様では、炎症の抑制を必要としている対象に、有効量のレグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域におけるステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質を投与することを含む、炎症の抑制方法が提供される。
ある態様では、炎症を抑制するための、レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域におけるステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質が提供される。
ある態様では、炎症を抑制するための、レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域におけるステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質の使用が提供される。
ある態様では、炎症を抑制するための医薬組成物の製造における、レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域におけるステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質の使用が提供される。
【0045】
ある態様では、炎症を伴う疾患の処置および/または予防を必要としている対象に、有効量のレグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域におけるステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質を投与することを含む、炎症を伴う疾患の処置および/または予防方法が提供される。
ある態様では、炎症を伴う疾患を処置および/または予防するための、レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域におけるステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質が提供される。
ある態様では、炎症を伴う疾患を処置および/または予防するための、レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域におけるステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質の使用が提供される。
ある態様では、炎症を伴う疾患を処置および/または予防するための医薬組成物の製造における、レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域におけるステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質の使用が提供される。
【0046】
また別の態様では、本願は、炎症抑制薬のスクリーニング方法を提供する。スクリーニング方法の工程(a)では、レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域と連結したレポーター遺伝子およびレグナーゼ-1遺伝子を発現する細胞に、候補物質を導入する。
【0047】
レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域は、上記の通りである。レポーター遺伝子は、検出可能な標識を直接的または間接的に生成するものであればいずれも使用可能であり、例えば、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、β-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、その他のマーカー遺伝子が挙げられる。レポーター遺伝子の下流にレグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域を連結する。ある実施態様では、配列番号5または6のヌクレオチド配列を含むレグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域を使用する。ある実施態様では、配列番号1または2のヌクレオチド配列を含むレグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域を使用する。
【0048】
レグナーゼ-1遺伝子は、上記のレグナーゼ-1をコードする遺伝子を意味する。レグナーゼ-1遺伝子は、上記方法に用いる細胞が生来的に有するものであってもよく、遺伝子組換え技術により細胞に導入されてもよい。
【0049】
上記方法に用いる細胞は、レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域と連結したレポーター遺伝子、および、必要に応じてレグナーゼ-1遺伝子を発現し得るものであれば、限定されない。例えば、HeLa細胞、HEK293細胞、HepG2細胞、COS-7細胞などが挙げられる。核酸の導入のためのベクターの構築、形質転換等は、公知の方法により行うことができる(Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd edition (1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press)。
【0050】
「候補物質」には、タンパク質、アミノ酸、核酸、脂質、糖質、低分子化合物などの、あらゆる物質が包含される。候補物質は、典型的には、精製、単離されているものを使用できるが、未精製、未単離の粗精製品であってもよい。候補物質は、化合物ライブラリー、核酸ライブラリー、ランダムペプチドライブラリーなどの形態で提供されてもよく、また、天然物として提供されてもよい。候補物質を、レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域に存在するステムループ構造に基づいて設計してもよい。候補物質の細胞への導入は、候補物質の種類に応じて、公知の方法により行うことができる。
【0051】
上記方法の工程(b)では、前記細胞におけるレポーター遺伝子の発現量を測定する。レポーター遺伝子の発現量は、各レポーター遺伝子に応じて公知の方法により測定すればよい。
上記方法の工程(c)では、候補物質の非存在下において測定した発現量と比較して発現量を増加させる候補物質を、炎症抑制薬として選択する。レポーター遺伝子の発現を、候補物質の非存在下において測定した発現量と比較して、例えば、約10%以上、好ましくは約20%以上、より好ましくは約30%以上、さらに好ましくは約50%以上増加させる候補物質を、炎症抑制薬として選択し得る。
【0052】
本願は、例えば、下記の実施態様を提供する。
[1]レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域におけるステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質を含む、炎症抑制用の組成物。
[2]炎症を伴う疾患を処置および/または予防するための、第1項に記載の組成物。
[3]レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域におけるステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質を含む、炎症を伴う疾患を処置および/または予防するための組成物。
[4]炎症を伴う疾患を処置するための、第2項または第3項に記載の組成物。
[5]炎症を伴う疾患が自己免疫性疾患、敗血症性ショックまたは移植片拒絶である、第2項~第4項のいずれかに記載の組成物。
[6]炎症を伴う疾患が自己免疫性疾患である、第2項~第5項のいずれかに記載の組成物。
[7]自己免疫性疾患が、多発性硬化症、自己免疫性脳脊髄炎、関節リウマチまたは全身性エリテマトーデスである、第6項に記載の組成物。
[8]自己免疫性疾患が多発性硬化症である、第6項または第7項に記載の組成物。
[9]炎症を伴う疾患が敗血症性ショックである、第2項~第5項のいずれかに記載の組成物。
[10]敗血症性ショックが急性呼吸窮迫症候群、特発性肺線維症または間質性肺炎である、第9項に記載の組成物。
[11]敗血症性ショックが急性呼吸窮迫症候群である、第9項または第10項に記載の組成物。
【0053】
[12]ステムループ構造が、配列番号1の第231位~第245位に相当する領域で形成される第1のステムループ構造および配列番号1の第424位~第442位に相当する領域で形成される第2のステムループ構造から選択される少なくとも1つのステムループ構造である、第1項~第11項のいずれかに記載の組成物。
[13]レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域が配列番号5のヌクレオチド配列を含む、第1項~第12項のいずれかに記載の組成物。
[14]レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域が配列番号1のヌクレオチド配列を含む、第1項~第13項のいずれかに記載の組成物。
[15]ステムループ構造を破壊する物質が、ステムループ構造を形成するヌクレオチド配列に結合するオリゴヌクレオチドである、第1項~第14項のいずれかに記載の組成物。
【0054】
[16]ステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質が、
(a)第1のオリゴヌクレオチドであって、
(a-1)配列番号1の第206位~第242位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第233位~第235位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、10個~30個のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、および、
(a-2)配列番号1の第234位~第270位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第241位~第243位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、10個~30個のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、
から選択されるオリゴヌクレオチド、
(b)第2のオリゴヌクレオチドであって、
(b-1)配列番号1の第399位~第439位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第426位~第428位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、10個~30個のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、および、
(b-2)配列番号1の第427位~第467位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第438位~第440位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、10個~30個のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド、
から選択されるオリゴヌクレオチド、または、
(c)第1のオリゴヌクレオチドと第2のオリゴヌクレオチドの組合せ、
である、第1項~第15項のいずれかに記載の組成物。
【0055】
[17]ステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質が、
(a)第1のオリゴヌクレオチドであって、
(a-1)配列番号1の第206位~第242位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第233位~第235位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、配列番号7と90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド、および、
(a-2)配列番号1の第234位~第270位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第241位~第243位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、配列番号8と90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド
から選択されるオリゴヌクレオチド、
(b)第2のオリゴヌクレオチドであって、
(b-1)配列番号1の第399位~第439位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第426位~第428位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、配列番号9と90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド、および、
(b-2)配列番号1の第427位~第467位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第438位~第440位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、配列番号10と90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド
から選択されるオリゴヌクレオチド、または、
(c)第1のオリゴヌクレオチドと第2のオリゴヌクレオチドの組合せ、
である、第1項~第16項のいずれかに記載の組成物。
【0056】
[18]ステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質が、
(a)第1のオリゴヌクレオチドであって、
(a-1)配列番号1の第206位~第242位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第233位~第235位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、配列番号7において1個、2個または3個のヌクレオチドが欠失、置換、付加または挿入されたヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチド、および、
(a-2)配列番号1の第234位~第270位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第241位~第243位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、配列番号8において1個、2個または3個のヌクレオチドが欠失、置換、付加または挿入されたヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチド、
から選択されるオリゴヌクレオチド、
(b)第2のオリゴヌクレオチドであって、
(b-1)配列番号1の第399位~第439位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第426位~第428位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、配列番号9において1個、2個または3個のヌクレオチドが欠失、置換、付加または挿入されたヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチド、および、
(b-2)配列番号1の第427位~第467位のヌクレオチド配列のうち、配列番号1の第438位~第440位を含む連続する10個~30個のヌクレオチドからなる配列に結合する、配列番号10において1個、2個または3個のヌクレオチドが欠失、置換、付加または挿入されたヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチド、
から選択されるオリゴヌクレオチド、または、
(c)第1のオリゴヌクレオチドと第2のオリゴヌクレオチドの組合せ、
である、第1項~第16項のいずれかに記載の組成物。
【0057】
[19]ステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質が、
(a)第1のオリゴヌクレオチドであって、
(a-1)配列番号7のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド、および、
(a-2)配列番号8のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド
から選択されるオリゴヌクレオチド、
(b)第2のオリゴヌクレオチドであって、
(b-1)配列番号9のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド、および、
(b-2)配列番号10のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド
から選択されるオリゴヌクレオチド、または、
(c)第1のオリゴヌクレオチドと第2のオリゴヌクレオチドの組合せ、
である、第1項~第18項のいずれかに記載の組成物。
【0058】
[20]ステムループ構造を破壊する少なくとも1つの物質が、
(a)第1のオリゴヌクレオチドであって、
(a-1)配列番号7のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチド、および、
(a-2)配列番号8のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチド
から選択されるオリゴヌクレオチド、
(b)第2のオリゴヌクレオチドであって、
(b-1)配列番号9のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチド、および、
(b-2)配列番号10のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチド
から選択されるオリゴヌクレオチド、または、
(c)第1のオリゴヌクレオチドと第2のオリゴヌクレオチドの組合せ、
である、第1項~第19項のいずれかに記載の組成物。
【0059】
[21]オリゴヌクレオチドが10個~30個のヌクレオチドからなる、第15項~第20項のいずれかに記載の組成物。
[22]オリゴヌクレオチドが15個~27個のヌクレオチドからなる、第15項~第21項のいずれかに記載の組成物。
[23]オリゴヌクレオチドが18個~25個のヌクレオチドからなる、第15項~第22項のいずれかに記載の組成物。
[24]オリゴヌクレオチドが20個~23個のヌクレオチドからなる、第15項~第23項のいずれかに記載の組成物。
【0060】
[25]第1のオリゴヌクレオチドが、(a-1)のオリゴヌクレオチドである、第16項~第24項のいずれかに記載の組成物。
[26]第1のオリゴヌクレオチドが、(a-2)のオリゴヌクレオチドである、第16項~第24項のいずれかに記載の組成物。
[27]第2のオリゴヌクレオチドが、(b-1)のオリゴヌクレオチドである、第16項~第26項のいずれかに記載の組成物。
[28]第2のオリゴヌクレオチドが、(b-2)のオリゴヌクレオチドである、第16項~第26項のいずれかに記載の組成物。
[29]第1のオリゴヌクレオチドと第2のオリゴヌクレオチドの組合せを含む、第16項~第28項のいずれかに記載の組成物。
[30]第1のオリゴヌクレオチドを含む第16項~第28項のいずれかに記載の組成物と、第2のオリゴヌクレオチドを含む第16項~第28項のいずれかに記載の組成物の組合せ。
[31](a-1)のオリゴヌクレオチドと(b-1)のオリゴヌクレオチドを含む、第29項に記載の組成物または第30項に記載の組合せ。
[32](a-1)のオリゴヌクレオチドと(b-2)のオリゴヌクレオチドを含む、第29項に記載の組成物または第30項に記載の組合せ。
[33](a-2)のオリゴヌクレオチドと(b-1)のオリゴヌクレオチドを含む、第29項に記載の組成物または第30項に記載の組合せ。
[34](a-2)のオリゴヌクレオチドと(b-2)のオリゴヌクレオチドを含む、第29項に記載の組成物または第30項に記載の組合せ。
【0061】
[35]炎症抑制薬のスクリーニング方法であって、以下の工程
(a)レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域と連結したレポーター遺伝子およびレグナーゼ-1遺伝子を発現する細胞に、候補物質を導入する工程、
(b)前記細胞におけるレポーター遺伝子の発現量を測定する工程、および、
(c)候補物質の非存在下において測定した発現量と比較して発現量を増加させる候補物質を、炎症抑制薬として選択する工程、
を含む、方法。
[36]炎症を伴う疾患の処置および/または予防薬のスクリーニング方法であって、以下の工程
(a)レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域と連結したレポーター遺伝子およびレグナーゼ-1遺伝子を発現する細胞に、候補物質を導入する工程、
(b)前記細胞におけるレポーター遺伝子の発現量を測定する工程、および、
(c)候補物質の非存在下において測定した発現量と比較して発現量を増加させる候補物質を、炎症を伴う疾患の処置および/または予防薬として選択する工程、
を含む、方法。
[37]炎症を伴う疾患が自己免疫性疾患、敗血症性ショックまたは移植片拒絶である、第36項に記載のスクリーニング方法。
[38]炎症を伴う疾患が自己免疫性疾患である、第36項または第37項に記載のスクリーニング方法。
[39]自己免疫性疾患が、多発性硬化症、自己免疫性脳脊髄炎、関節リウマチまたは全身性エリテマトーデスである、第38項に記載のスクリーニング方法。
[40]自己免疫性疾患が多発性硬化症である、第38項または第39項に記載のスクリーニング方法。
[41]炎症を伴う疾患が敗血症性ショックである、第36項に記載のスクリーニング方法。
[42]敗血症性ショックが急性呼吸窮迫症候群、特発性肺線維症または間質性肺炎である、第41項に記載のスクリーニング方法。
[43]敗血症性ショックが急性呼吸窮迫症候群である、第41項または第42項に記載のスクリーニング方法。
[44]レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域が、配列番号5のヌクレオチド配列を含む、第35項~第43項のいずれかに記載のスクリーニング方法。
[45]レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域が、配列番号1のヌクレオチド配列を含む、第35項~第44項のいずれかに記載のスクリーニング方法。
[46]レグナーゼ-1 mRNAの3’非翻訳領域に存在するステムループ構造に基づいて候補物質を設計する工程をさらに含む、第35項~第45項のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【0062】
本明細書で引用するすべての文献は、出典明示により本明細書の一部とする。
上記の説明は、すべて非限定的なものであり、添付の特許請求の範囲において定義される本発明の範囲から逸脱せずに、変更することができる。さらに、下記の実施例は、すべて非限定的な実施例であり、本発明を説明するためだけに供されるものである。
【実施例1】
【0063】
レグナーゼ-1介在抑制を担うマウスレグナーゼ-1(Zc3h12a)3’UTRにおけるステムループ領域の同定
配列番号2のヌクレオチド配列を有するマウスレグナーゼ-1(Zc3h12a)3’UTRを使用した。
図4に示す通り、3’UTRのステムループ非形成配列(配列番号2の第244位~第379位または第400位~第731位)またはステムループ形成配列(配列番号2の第191位~第211位または第378位~第392位)の断片と、その下流にb-グロビンの3’UTRを含むpGL3ルシフェラーゼレポータープラスミド(Promega)を作製した。
次いで、各pGL3レポータープラスミドを、レグナーゼ-1(Reg-1)もしくはそのヌクレアーゼ活性欠損変異体(D141N)の発現プラスミド、または空のプラスミド(対照)と共に、HeLa細胞に導入した。24時間培養した後、細胞を溶解し、溶解物のルシフェラーゼ活性を Dual-luciferase Reporter Assay system(Promega)で測定した。内部対照として、ウミシイタケルシフェラーゼをコードする遺伝子を同時に導入した。
【0064】
結果を
図4に示す。レグナーゼ-1 3’UTRのステムループ形成配列(第191位~第211位または第378位~第392位)を含むプラスミドによるルシフェラーゼレポーターの発現は、レグナーゼ-1発現プラスミドを同時に導入すると低下したが、D141N発現プラスミドを導入しても低下しなかった。レグナーゼ-1 3’UTRのステムループ非形成配列(244位~第379位または第400位~第731位)を含むプラスミドによるルシフェラーゼレポーターの発現は、レグナーゼ-1発現プラスミドを導入しても、D141N発現プラスミドを導入しても、低下しなかった。これらの結果から、レグナーゼ-1がレグナーゼ-1 mRNAの3’UTRに存在するステムループ構造を認識して、レグナーゼ-1 mRNAを分解することが示唆される。
【実施例2】
【0065】
レグナーゼ-1 3’UTRのステムループ形成配列を標的とするモルフォリノオリゴ(MO)は、マウスレグナーゼ-1 3’UTRを含むルシフェラーゼレポータープラスミドによるルシフェラーゼ活性を高める
HEK293細胞に、マウスレグナーゼ-1の3’UTR全長を有するpGL3ルシフェラーゼレポータープラスミドおよび
図5に示すMO(GeneTools)を、Endo-Porter(GeneTools)を使用して導入した。導入の24時間後に細胞を回収し、細胞溶解物のルシフェラーゼ活性を Dual-luciferase Reporter Assay system(Promega)で測定した。内部対照として、ウミシイタケルシフェラーゼをコードする遺伝子を同時に導入した。
【0066】
各MOは、以下のヌクレオチド配列を有した。191-210MOのヌクレオチド配列は、配列番号2(マウスレグナーゼ-1 mRNAの3’UTRのヌクレオチド配列)の第201位~第223位に相補的であり、378-392MOのヌクレオチド配列は、配列番号2の第384位~第403位に相補的であった。
【表1】
【0067】
結果を
図5に示す。レポータープラスミドと191-210MOまたは378-392MOを細胞に同時に導入すると、MOなし(MOCK)、または対照MOを導入した場合と比較して、ルシフェラーゼ活性は高かった。191-210MOおよび378-392MOの両方(Both MO)を導入すると、ルシフェラーゼ活性はさらに高かった。この結果は、レグナーゼ-1 mRNAの3’UTRにおけるステムループ構造を破壊すると、レグナーゼ-1によるレグナーゼ-1 mRNAの分解が抑制されることを示す。また、2つのステムループ構造は独立してレグナーゼ-1に認識されることが示唆される。
【実施例3】
【0068】
マウス骨髄マクロファージ(BMM)のMO処理、および、サイトカインおよびレグナーゼ-1のmRNAレベルの測定
(A)BMMを12ウェルプレートに播種し、実施例2に記載の191-210MOおよび378-392MO(各MOにつき、2μM)を、Endo-porter(6μl/ウェル)(Gene Tools, LLC)を使用して導入した。24時間後、細胞をLPS(10ng/ml)またはTNFα(10ng/ml)でそれぞれ2時間処理した。細胞を回収し、RNAを抽出した。IL-6、TNFα、IL-1β、レグナーゼ-1のmRNA量をQPCRにより測定した。
(B)上記の通りMOで処理し、LPSまたはTNFαで処理したBMMを溶解し、抗レグナーゼ-1抗体を用いるウェスタンブロットにより、レグナーゼ-1タンパク質のレベルを測定した。
【0069】
結果を
図6に示す。IL-6、TNFα、IL-1βのmRNA量はLPS処理により増加し、その増加はレグナーゼ-1 3’UTRのステムループ形成配列を標的とするMOにより抑制された。一方、レグナーゼ-1のmRNA量は、MO処理およびLPS処理により増加した。LPSまたはTNFαでそれぞれ2時間処理したBMMにおけるレグナーゼ-1タンパク質の発現も、MO処理により増加した。これらの結果は、レグナーゼ-1によるレグナーゼ-1 mRNAの分解がMOにより抑制された結果、レグナーゼ-1タンパク質の量が増加し、レグナーゼ-1によるIL-6、TNFα、IL-1βのmRNAの分解が促進されたことを示唆する。
【実施例4】
【0070】
LPSにより誘導される急性呼吸窮迫症候群(ARDS)マウスモデルにおける気管内MO処理の効果
ペントバルビタールの腹腔内注射により、マウスを麻酔した。次いで、実施例2に記載の191-210MOおよび378-392MOと同じヌクレオチド配列を有するビボ-モルフォリノオリゴ(MO)(GeneTools)を、マウスに25μg/MO/匹(20μl/注入)で気管内投与した。24時間後に、ペントバルビタールの腹腔内注射によりマウスを再度麻酔し、LPS(10μg/20μl PBS;リン酸緩衝生理食塩水)を気管内投与した。8時間後に、マウスを安楽死させた。RNAの分析のために、肺のサンプルを、RNAlater (Qiagen) 中、-80℃で使用時まで保存した。RNAを Trizol (Thermo Fisher Scientific) により調製し、IL-6、TNFα、IL-1βとレグナーゼ-1のmRNA量をQPCR分析により測定した。
【0071】
結果を
図7に示す。気管内LPS投与により急性肺損傷を受けたマウスは、ARDSのモデルとして使用できる。IL-6、TNFα、IL-1βのmRNA量はLPS処理により増加し、その増加はレグナーゼ-1 3’UTRのステムループ形成配列を標的とするMOにより抑制された。一方、レグナーゼ-1のmRNA量は、MO処理およびLPS処理により増加し、MO処理とLPS処理を両方行うと、さらに増加した。これらの結果は、インビボで、レグナーゼ-1によるレグナーゼ-1 mRNAの分解がMOにより抑制された結果、レグナーゼ-1タンパク質の量が増加し、レグナーゼ-1によるIL-6、TNFα、IL-1βのmRNAの分解が促進されたことを示唆する。
【実施例5】
【0072】
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)マウスにおける頭蓋内MO処理の効果
ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)ペプチド (35-55) (ANASPEC Inc) を、PBS中で2μg/uLの濃度に希釈した。完全フロイントアジュバント (Sigma) と希釈したMOGを、1.5mLのエッペンドルフチューブ中で1:1の比で混合した。マイクロチップ付のソニケーターを使用して、超音波処理により乳液を生成させた。乳液の形成は、ビーカーの水面に乳液を一滴落とし、それが拡散せず沈むことにより確認した。形成が不十分である場合は、チューブを氷上で2~3分間冷却し、超音波処理を繰り返した。この乳液200μLを、各マウスの免疫処置に使用した。
【0073】
各マウスを、両前肢の間および両後肢の間の背中側で、2箇所の皮下注射(100μL/ボーラス)により免疫した。各マウスに200ngの1ng/μL PTx(Sigma) を腹腔内投与した。最初の投与の48時間後に、さらに200ngのPTxを腹腔内投与した。
【0074】
免疫処置の10日後に、マウスをペントバルビタールの腹腔内投与により麻酔した。頭部の毛をバリカンと除毛クリームで除去した。ブレグマの位置を見定め、7μg/MO/匹の実施例4に記載の2種類のビボ-モルフォリノオリゴ(10μL/注射)またはPBSを、ブレグマの1mm右側または左側に頭蓋内投与した(n=10)。MOGペプチドによる免疫処置の7日後に、体重と臨床症状スコア(EAEスコア)の記録を開始し、毎日継続した。
【0075】
体重、臨床症状スコア(EAEスコア)および生存率の結果を
図8に示す。自己免疫性脳脊髄炎を誘導されたマウスは、多発性硬化症のモデルとして確立されている。EAEマウスでは、免疫化の後に体重が低下し、EAEの症状の重篤度を示す臨床症状スコアが上昇したが、いずれもレグナーゼ-1 3’UTRのステムループ形成配列を標的とするMOにより抑制された。また、MO処置されたEAEマウスの生存率は高かった。これらの結果は、レグナーゼ-1 3’UTRのステムループ形成を阻害することにより、自己免疫性脳脊髄炎および多発性硬化症を処置し得ることを示唆する。
【実施例6】
【0076】
PMA(Phorbol-Myristate-Acetate)により分化されたヒトマクロファージセルラインTHP-1細胞における、LPSに誘導されるサイトカイン遺伝子発現に対する、ヒトレグナーゼ1を標的とするモルフォリノオリゴの効果
ヒト単球様セルラインTHP-1細胞を12ウェルプレートに播種し、PMA(5ng/ml)で48時間処理し、マクロファージへ分化させた。その後、表2に記載の231-245MOおよび424-442MO(各MOにつき、2μM)を、Endo-porter(6μl/ウェル)(Gene Tools, LLC)を使用して導入した。24時間後、細胞をLPS(100ng/ml)で4時間処理した。細胞を回収し、RNAを抽出した。ヒトIL-6、TNFα、IL-1β、レグナーゼ-1(Zc3h12a)のmRNA量をQPCRにより測定した。
【0077】
各MOは、以下のヌクレオチド配列を有した。231-245MOは、配列番号1(ヒトレグナーゼ-1 mRNAの3’UTRのヌクレオチド配列)の第236位~第258位に相補的であり、424-442MOのヌクレオチド配列は、配列番号1の第414位~第432位に相補的であった。
【表2】
【0078】
結果を
図9に示す。IL-6、TNFα、IL-1βのmRNA量はLPS処理により増加し、その増加はレグナーゼ-1 3’UTRのステムループ形成配列を標的とするMOにより抑制された。一方、レグナーゼ-1のmRNA量は、MO処理およびLPS処理により増加し、MO処理とLPS処理を両方行うと、さらに増加した。これらの結果は、ヒト細胞においても、レグナーゼ-1によるレグナーゼ-1 mRNAの分解がMOにより抑制された結果、レグナーゼ-1タンパク質の量が増加し、レグナーゼ-1によるIL-6、TNFα、IL-1βのmRNAの分解が促進されたことを示唆する。
【実施例7】
【0079】
THP-1細胞を12ウェルプレートに播種し、表1に記載のヌクレオチド配列を有するDNAオリゴヌクレオチド191-210ASOおよび378-392ASOを、Lipofectamin2000を使用して導入した。48時間後、細胞をLPS(100ng/ml)で4時間処理した。細胞を回収し、RNAを抽出した。ヒトIL-6、TNFα、IL-1β、Ptgs2(プロスタグランジン-エンドペルオキシドシンターゼ2)、レグナーゼ-1(Zc3h12a)のmRNA量をQPCRにより測定した。
【0080】
結果を
図10に示す。IL-6、TNFα、IL-1β、Ptgs2のmRNA量はLPS処理により増加し、その増加はレグナーゼ-1 3’UTRのステムループ形成配列を標的とするASOにより抑制された。一方、レグナーゼ-1のmRNA量は、ASO処理およびLPS処理により増加し、ASO処理とLPS処理を両方行うと、さらに増加した。これらの結果は、MOと同様に、ASOによっても、レグナーゼ-1によるレグナーゼ-1 mRNAの分解が抑制され、レグナーゼ-1タンパク質の量が増加し、レグナーゼ-1によるIL-6、TNFα、IL-1β、Ptgs2のmRNAの分解が促進されたことを示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本開示により、レグナーゼ-1の3’UTRを介する自己抑制機構を応用した炎症抑制法が提供される。これは従来にない作用機序による方法であり、既存の治療方法では治療できなかった疾患を治療し得る可能性がある。また、従来の治療法と併用することにより、より効果的なさらなる治療法の開発も期待される。
【配列表】