(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】ノズルプレート、液体吐出装置および液体吐出方法
(51)【国際特許分類】
B05C 5/00 20060101AFI20230410BHJP
B05B 1/02 20060101ALI20230410BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20230410BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
B05C5/00 101
B05B1/02
B05D1/26 Z
B05D3/00 B
(21)【出願番号】P 2022151267
(22)【出願日】2022-09-22
【審査請求日】2022-09-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593020913
【氏名又は名称】株式会社ナカリキッドコントロール
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】脇本 咲
【審査官】青木 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-015741(JP,A)
【文献】特開2016-059863(JP,A)
【文献】特開2005-169180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/00- 5/04
B05D 1/00- 7/26
B05B 1/02
B41J 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルプレート本体に、液体が収容される貯留室と、前記貯留室と連通する吐出流路と、前記吐出流路の端部に設けられ液体を吐出する吐出口と、を有するノズルプレートであって、
前記吐出口を覆うように形成される液体の膜を保持し、液体の膜の広がりを制限する規制部によって囲まれる液体保持部を備え、
前記液体保持部の中央には、平面からみた形状が円形の前記吐出口が開口し、
前記液体保持部は、前記液体保持部の周囲の位置から陥入した窪み部であり、前記窪み部の外側の側面が前記規制部であり、
平面から見て、前記液体保持部の面積をS1、前記吐出口の面積をS2としたときに、S1/S2は、25より大きく、2500より小さく、
前記液体保持部に保持される液体の膜の厚みは、前記吐出口の径の5倍以下であり、
液体の一回当たりの吐出量(体積)をC1、液体の膜Mの体積をC2としたときに、C2/C1は、20以上、900以下に設定され、前記液体保持部の内径をL1、液体保持部の深さをL2としたときに、L2/L1は、0.01以上、0.1以下に設定される、ノズルプレート。
【請求項2】
前記液体保持部の前記窪み部は、前記吐出口を含む部分と、前記吐出口を含む部分を囲み、前記吐出口を含む部分よりも陥入した環状窪み部を備え、前記環状窪み部の外側の側面が前記規制部である、請求項1に記載のノズルプレート。
【請求項3】
前記吐出口を含む部分は、前記液体保持部の周囲の位置よりも突出しており、
前記吐出口を含む部分の前記液体保持部の周囲の位置に対する突出長さをa、前記吐出口の径をbとしたときに、a/bが0より大きく、2以下である、請求項2に記載のノズルプレート。
【請求項4】
前記吐出口を含む部分は、前記液体保持部の周囲と同じ位置にあるか、前記液体保持部の周囲の位置よりも陥入しており、
前記吐出口を含む部分の前記液体保持部の周囲の位置に対する陥入長さをc、前記吐出口の径をbとしたときに、c/bが-1以上、0以下である、請求項2に記載のノズルプレート。
【請求項5】
ノズルプレート本体に、液体が収容される貯留室と、前記貯留室と連通する吐出流路と、前記吐出流路の端部に設けられ液体を吐出する吐出口と、を有するノズルプレートであって、
前記吐出口を覆うように形成される液体の膜を保持し、液体の膜の広がりを制限する規制部によって囲まれる液体保持部を備え、 前記液体保持部の中央には、平面からみた形状が円形の前記吐出口が開口し、
平面から見て、前記液体保持部の面積をS1、前記吐出口の面積をS2としたときに、S1/S2は、25より大きく、2500より小さく、
前記液体保持部に保持される液体の膜の厚みは、前記吐出口の径の5倍以下であり、 液体の一回当たりの吐出量(体積)をC1、液体の膜Mの体積をC2としたときに、C2/C1は、20以上、900以下に設定され、
前記液体保持部は、前記液体保持部の周囲の位置から突出した凸部であり、前記凸部の端部が前記規制部である、ノズルプレート。
【請求項6】
前記液体保持部は、前記液体保持部の周囲の位置から突出した環状凸部と、前記環状凸部から突出した前記吐出口を含む部分とを備え、前記環状凸部の端部が前記規制部である、請求項5に記載のノズルプレート。
【請求項7】
前記ノズルプレート本体の下面に、前記吐出口を露出させるための孔を有する撥水層をさらに備え、
前記撥水層の孔の内面は、前記液体保持部の前記規制部の少なくとも一部である、請求項
1に記載のノズルプレート。
【請求項8】
液体を加圧することにより液体を吐出する液体吐出装置であって、
加圧部と、前記加圧部の下端に設けられる請求項1から7のいずれか1項に記載のノズルプレートと、を備え、
前記加圧部は、
加圧部本体と、
前記加圧部本体に上下方向に移動自由に支持され、下端部が前記加圧部本体から突出し、前記貯留室に導入された液体を加圧して前記吐出流路から吐出させる加圧部材と、
前記加圧部材を上下方向に移動させる駆動部と、を備える、液体吐出装置。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1項に記載のノズルプレートを用いて、前記貯留室に収容された液体を前記吐出口から吐出させる液体吐出方法において、
前記吐出口を覆うように液体の膜を形成して保持する工程と、
液体の膜の一部と前記貯留室に収容された液体の一部とからなる液塊を液滴として吐出する工程であって、前記液体の膜から液塊が離れたときに、前記液体の膜は前記吐出口を覆った状態を保っている、吐出する工程と、
を含む、液体吐出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルプレート、液体吐出装置および液体吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造分野等においては、液体を吐出するための液体吐出装置が用いられている。例えば、特許文献1に記載の液体吐出装置は、ヘッド本体部と、ヘッド本体部に往復移動可能に装着され、下端部がヘッド本体部から下方向に突出した加圧部材と、ヘッド本体部の下面に設けられたノズルプレートと、加圧部材を上下方向に駆動させるアクチュエータとを備えている。ノズルプレートは、ヘッド本体部から突出する加圧部材の下端部が収容され液体の貯留室を形成する凹部と、凹部に液体を導入するための導入流路と、凹部の底に形成される吐出流路と、吐出流路の下端に設けられる吐出口と、を備える。
【0003】
導入流路はシリンジ等からなる液体供給部に連結されており、液体供給部から導入流路を介して凹部の貯留室に液体が供給される。次いでアクチュエータを動作させて加圧部材を下方向に移動させる。これにより、液体に押圧が加わり、吐出流路の下端の吐出口から液体が吐出される。液体の吐出後、加圧部材は元の位置に戻され、次の吐出まで待機する。加圧部材の往復移動毎に液体が吐出される。
【0004】
また、特許文献2に記載の液体吐出装置においては、特許文献1と同様の構成を備えており、吐出口の周囲に液体を保持する液体保持部を備え、吐出する液体を液体供給部から供給する際に、液体保持部に液塊として液体を保持させている。液体吐出動作時には、この液塊と貯留室内の液体の一部とを液滴として吐出する。液体吐出する液滴の量を変更する際には、この保持する液塊の量を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-127837号公報
【文献】特開2018-15741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の液体吐出装置においては、加圧部材の下方向の移動により液体を吐出した後、加圧部材は上方向に引き上げられる。このとき、吐出口から空気が吸い込まれ、貯留室や吐出流路に空気が混入する場合がある。貯留室や吐出流路の液体に空気が混入すると、混入した空気が圧縮されて吐出毎に吐出量が変化したり、吐出流路内の空気により液体の流れが曲げられて、液体が吐出口から下向きに直進せずに斜め方向に吐出されることがある。さらに、吐出流路に位置する空気が多い場合には、吐出量が極端に少なくなったり、不吐出となることがある。
【0007】
特許文献2の液体吐出装置においても、液体保持部に保持された液塊の吐出の直後には吐出口の周囲には液体は残っておらず、特許文献1の液体吐出装置と同様に、加圧部材は上方向に引き上げられる際に、吐出口から空気が吸い込まれるという問題がある。
【0008】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、吐出口から空気を吸い込みにくいノズルプレート、液体吐出装置および液体吐出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、次の項に記載の主題を包含する。
【0010】
項1:ノズルプレート本体に、液体が収容される貯留室と、前記貯留室と連通する吐出流路と、前記吐出流路の端部に設けられ液体を吐出する吐出口と、を有するノズルプレートであって、
前記吐出口を覆うように形成される液体の膜を保持し、液体の膜の広がりを制限する規制部によって囲まれる液体保持部を備え、
平面から見て、前記液体保持部の面積をS1、前記吐出口の面積をS2としたときに、S1/S2は、25より大きく、2500より小さい、ノズルプレート。
【0011】
項2:前記液体保持部は、前記液体保持部の周囲の位置から陥入した窪み部であり、前記窪み部の外側の側面が前記規制部である、項1に記載のノズルプレート。
【0012】
項3:前記液体保持部は、前記吐出口を含む部分と、前記吐出口を含む部分を囲み、前記吐出口を含む部分よりも陥入した環状窪み部を備え、前記環状窪み部の外側の側面が前記規制部である、項1に記載のノズルプレート。
【0013】
項4:前記吐出口を含む部分は、前記液体保持部の周囲の位置よりも突出しており、
前記吐出口を含む部分の前記液体保持部の周囲の位置に対する突出長さをa、前記吐出口の径をbとしたときに、a/bが0より大きく、2以下である、項3に記載のノズルプレート。
【0014】
項5:前記吐出口を含む部分は、前記液体保持部の周囲と同じ位置にあるか、前記液体保持部の周囲の位置よりも陥入しており、
前記吐出口を含む部分の前記液体保持部の周囲の位置に対する陥入長さをc、前記吐出口の径をbとしたときに、c/bが-1以上、0以下である、項3に記載のノズルプレート。
【0015】
項6:前記液体保持部は、前記液体保持部の周囲の位置から突出した凸部であり、前記凸部の端部が前記規制部である、項1に記載のノズルプレート。
【0016】
項7:前記液体保持部は、前記液体保持部の周囲の位置から突出した環状凸部と、前記環状凸部から突出した前記吐出口を含む部分とを備え、前記環状凸部の端部が前記規制部である、項1に記載のノズルプレート。
【0017】
項8:前記ノズルプレート本体の下面に、前記吐出口を露出させるための孔を有する撥水層をさらに備え、
前記撥水層の孔の内面は、前記液体保持部の前記規制部の少なくとも一部である、項1から項7のいずれか1項に記載のノズルプレート。
【0018】
項9:前記液体保持部に保持される液体の膜の厚みは、前記吐出口の径の5倍以下である、項1から項8のいずれか1項に記載のノズルプレート。
【0019】
項10: 液体を加圧することにより液体を吐出する液体吐出装置であって、
加圧部と、前記加圧部の下端に設けられる項1から9のいずれか1項に記載のノズルプレートと、を備え、
前記加圧部は、
加圧部本体と、
前記加圧部本体に上下方向に移動自由に支持され、下端部が前記加圧部本体から突出し、前記貯留室に導入された液体を加圧して前記吐出流路から吐出させる加圧部材と、
前記加圧部材を上下方向に移動させる駆動部と、を備える、液体吐出装置。
【0020】
項11:項1から9のいずれか1項に記載のノズルプレートを用いて、前記貯留室に収容された液体を前記吐出流路の前記吐出口から吐出させる液体吐出方法において、
前記吐出口を覆うように液体の膜を形成して保持する工程と、
液体の膜の一部と前記貯留室に収容された液体の一部とからなる液塊を液滴として吐出する工程であって、前記液体の膜から液塊が離れたときに、前記液体の膜は前記吐出口を覆った状態を保っている、吐出する工程と、
を含む、液体吐出方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、吐出口から空気を吸い込みにくいノズルプレート、液体吐出装置および液体吐出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る液体吐出装置の全体の概略構成を示す断面図である。
【
図2】ノズルプレートの要部を拡大して示す断面図である。
【
図3】ノズルプレートの要部を拡大して示す底面図である。
【
図4】(A)~(C)は液体を吐出する工程を説明するための図であり、(A)は液体保持部に液体の膜が形成された状態を示す図、(B)は液塊が形成された状態を示す図、(C)は液塊を液滴として吐出した状態を示す図である。
【
図10】液体保持部の他の形態を示す断面図である。
【
図11】液体保持部の他の形態を示す断面図である。
【
図12】液体保持部の他の形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(全体構成)
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1~
図4は、本発明の一実施形態の液体吐出装置10を示す。液体吐出装置10は、液体を加圧することにより液体を吐出するものであり、加圧部11と、加圧部11の下端に設けられるノズルプレート20とを備えている。液体吐出装置10は、吐出する液体を供給するための液体供給部100に接続されている。以下の説明では、
図1における上下方向を液体吐出装置10の上下方向としており、上下方向はノズルプレート20において吐出流路22cの軸方向、すなわち液体が吐出される方向に沿っている。また、上下方向に直交する方向を左右方向としている。しかし、本明細書における上下方向は必ずしも鉛直方向に沿うものではなく、液体吐出装置10は必ずしも鉛直方向に沿って液体を吐出する必要はない。
【0024】
(液体供給部100)
液体供給部100は、例えば、液体を貯留するシリンジ101とシリンジ101に空圧を供給するエアコンプレッサ等の空圧供給源103とが、電磁バルブ102を介して接続されたものである。電磁バルブ102が開かれると、空圧供給源103からシリンジ101内に所定の空圧が供給されて液体が押し出され、液体供給管105を介して液体吐出装置10に供給される。
【0025】
(液体吐出装置10)
(加圧部11)
図1に示すように、加圧部11は、加圧部本体12と、加圧部材13と、駆動部14と、回転規制機構15とを備えている。加圧部本体12は、有底で上端が開口した円筒形状を呈しており、開口はベース部材16で閉鎖されている。加圧部本体12の底部12aの平面視における中央部には、加圧部材13が挿通される貫通孔12bが形成されている。底部12aの外面12cには、図示しないネジおよびネジ穴によりノズルプレート20が装着されている。底部12aの外面12cであって貫通孔12bの周囲にはOリング12eが収容される段部12dが形成されており、Oリング12eによりノズルプレート20内の液体が加圧部本体12に流れることを防いでいる。
【0026】
加圧部材13は、後述するノズルプレート20の液体流路23から凹部22に導入された液体を加圧して吐出流路22cおよび吐出口22dから吐出させるものである。加圧部材13は、円柱形状の小径部13aと、小径部13aの上端に取り付けられた四角形状の大径部13bとを有しており、断面T字形状を呈している。なお、大径部13bは円柱形状であってもよい。小径部13aの径は加圧部本体12の貫通孔12bに挿通可能に設定されており、本実施形態では貫通孔12bの径を約3.1mm、小径部13aの径を約3.0mmに設定しているが、これに限定されるものではない。小径部13aは、貫通孔12bに挿通されて、下端部が加圧部本体12の底部12aの外面12cより外側に突出し、ノズルプレート20の凹部22に収容される。小径部13aの上下方向の長さは、凹部22の貯留室21に収容された液体を加圧できる十分な長さに設定される。一方、小径部13aは加圧時に貯留室21の液体からの反力を受けて僅かに上下方向に収縮し、この収縮によりエネルギー損失が発生するが小径部13aが短いほど収縮が小さく損失も小さくなる。この観点からは、小径部13aはできるだけ短く設定される。
【0027】
大径部13bは加圧部本体12の内部に位置しており、平面視における大径部13bの大きさは、加圧部本体12の貫通孔12bから大径部13bが抜け出ない大きさに設定されている。大径部13bの下面と加圧部本体12の底部12aの上面との間には環状の皿バネ17が設けられており、後述するアクチュエータ18による加圧部材13への加圧が解除された状態で、皿バネ17は加圧部材13を上方向に付勢して第1の位置に位置させる。皿バネ17及び加圧部本体12の貫通孔12bにより、加圧部材13は加圧部本体12に着脱可能に上下方向に移動自由に支持されている。
【0028】
加圧部11の小径部13aの下端部には、ノズルプレート20の液体流路23から導入された液体を凹部22の底部22aに効率的に導入するための溝状の第1流路19(
図2)が上下方向に沿って形成されている。
【0029】
回転規制機構15は、加圧部材13の中心軸回りの相対回転を規制するものである。回転規制機構15は、例えば、加圧部材13の小径部13aの外周面から突出した突出部であるピンと、加圧部本体12の底部12aの上面に設けられ上側が開放された溝とから構成される。ピンが溝に収容されることで、加圧部材13がノズルプレート20の凹部22に対して回転することが規制される。なお、回転規制機構15は本実施形態に限定されず、既知の構成であってよい。
【0030】
加圧部材13とベース部材16との間には圧電素子を含むアクチュエータ18が取り付けられている。アクチュエータ18は上下方向へ伸縮動作を行う。アクチュエータ18の上面は、皿バネ17の付勢力によりベース部材16に当接しており、ベース部材16によりアクチュエータ18の伸長時の上向きの反力が支持されている。
【0031】
アクチュエータ18は加圧部材13の大径部13bの上面に当接するが固定はされていない。アクチュエータ18の伸長時には、アクチュエータ18の下面が加圧部材13の大径部13bの上面に当接して、加圧部材13に下方向の圧力を加える。これにより加圧部材13は、皿バネ17により上方向に付勢された第1の位置から、皿バネ17の付勢力に反して下向きに第2の位置に移動する。第1の位置と第2の位置との間の移動距離は約20μmに設定されているが、これに限定されない。アクチュエータ18と皿バネ17により駆動部14が構成される。
【0032】
なお、加圧部11の構成は
図1の構成に限定されず、ノズルプレート20の貯留室21に収容された液体に圧力を加えることができればいずれの構成であってもよい。
【0033】
(ノズルプレート20)
ノズルプレート20は、ノズルプレート本体24に、液体が収容される貯留室21を有する凹部22と、貯留室21に液体を導入するための液体流路23と、貯留室21に収容された液体を吐出するための吐出流路22cと、吐出流路22cの下端にある吐出口22dとを有するものである。本実施形態においては、ノズルプレート本体24は、第1部材31と、第1部材31と分離自由に接合される第2部材41と、緩衝部材50とを含む。
図1に示すように、第1部材31と第2部材41とは、緩衝部材50を介して図示しないネジ等の接合手段により分離自由に接合される。
【0034】
(第1部材31)
図1に示すように、第1部材31は、平面視において矩形状であって、右側部分32は、左側部分33よりも厚み(上下方向の長さ)が小さく形成されている。右側部分32の上面は、加圧部11の加圧部本体12の底部12aの外面12cに取付けられる。第1部材31の右側部分32の厚みは、加圧部材13の小径部13aの上下方向の長さを短くするためにできるだけ薄く形成されており、本実施形態では1500μmに設定されているが、これに限定されない。左側部分33は本実施形態では3000μmに設定されているが、これに限定されない。
【0035】
左側部分33の上面には、液体供給部100と接続するためのジョイント部34が設けられている。ジョイント部34は内部に接続流路34aが形成されており、第1部材31内に上下方向に沿って設けられた導入流路35と連通している。第1部材31には、加圧部本体12の貫通孔12bに対応する位置に、凹部22を形成する凹部用貫通孔36が上下方向に沿って形成されている。凹部用貫通孔36は平面からみた形状が円形である。凹部用貫通孔36の径は、加圧部本体12の貫通孔12bの径より小さく、かつ、加圧部材13の小径部13aが挿入できるように小径部13aの径よりもわずかに大きく設定されている。
【0036】
第1部材31の下面31aには、凹部用貫通孔36と導入流路35とに連通する溝37が形成されている。溝37は断面形状が半円形状であり、溝37の下側は開放されている。本実施形態では、導入流路35と溝37と凹部用貫通孔36とは平面視において直線上に位置している。溝37は第1部材31と第2部材41とが接合された状態で開放部分が緩衝部材50および第2部材41により塞がれて液体流路23の一部となる。溝37、導入流路35、接続流路34aは液体流路23を構成する。本実施形態では、溝37の
図1における左右方向の長さは約10000μm(10mm)、溝37の
図1における上下方向の長さ(厚み)は約700μm、下面31aにおける溝37の左右方向長さおよび厚みに直交する方向の長さ(幅)は約1400μmに設定されているが、これに限定されるものではない。第1部材31の下面31aは、第2部材41と接合される面であり接合面31aともいう。
【0037】
第1部材31は、金属、セラミック等の剛性の高い素材から構成されることが好ましい。本実施形態ではステンレスから構成されているが、これに限定されず、アルミナ、ジルコニア等のセラミックから構成されていてもよい。
【0038】
(第2部材41)
第2部材41は長方形状であって、上面41aは緩衝部材50を介して第1部材31の下面と接合する接合面41aである。第2部材41の接合面41aには、第1部材31の凹部用貫通孔36に対応する位置に、凹部22を形成する凹部用穴42が形成されている。凹部用穴42は、平面からみた形状が円形であり、凹部用穴42の径は凹部用貫通孔36の径と同じに設定されている。第1部材31の凹部用貫通孔36および第2部材41の凹部用穴42から構成される凹部22には、加圧部本体12の貫通孔12bを貫通した加圧部材13の小径部13aの下端部が収容される。本実施形態では、加圧部材13の小径部13aの外周面13cと凹部22の内面22bとの間の最短の距離は約5μmに設定されているが、これに限定されない。加圧部材13の底面13dと凹部用穴42の底部22aとの間に、液体が収容される貯留室21が形成される。
【0039】
図2に示すように、凹部用穴42の底部22aには、凹部22の貯留室21に収容された液体を吐出するための吐出流路22cが形成されている。吐出流路22cは平面視において円形であり、下に向かうほど内径が小さい先細り形状を呈している。吐出流路22cは、平面視において凹部22の重心位置Pからずれた位置であって、
図2において加圧部材13の第1流路19や凹部22の内面22bに形成された液体流路23の開口とは重心位置Pを中心にして反対側の位置に形成されている。本実施形態においては、平面視において凹部22は円形状であるため、円形の中心点が重心位置Pになる。これにより加圧部材13の第1流路19から供給された液体は貯留室21全体に供給され、貯留室21内にエアだまりが発生しにくく、吐出不良が防がれる。なお、吐出流路22cの位置は本実施形態に限定されず、凹部22の底部22aのいずれの位置であってもよい。
【0040】
第2部材41の厚み、すなわち、上下方向の長さは、液体吐出動作時に加圧部材13により貯留室21に収容された液体が加圧された際に、この加圧により第2部材41に撓みが生じない程度の厚みに設定される。一方、加圧部材13の小径部13aをできるだけ短くする観点から、第2部材41の厚みはできるだけ薄く設定される。
【0041】
第2部材41は、金属、セラミック等の剛性の高い素材から構成されることが好ましい。本実施形態ではステンレスから構成されているが、これに限定されず、アルミナ、ジルコニア等のセラミックから構成されていてもよい。また、第1部材31と同じ素材から構成されることが好ましい。
【0042】
(液体保持部60)
第2部材41の下面41bには、液体保持部60が形成されている。液体保持部60は、吐出流路22cの下端に位置する吐出口22dを覆うように形成される液体の膜Mを保持するものであり、液体の膜Mの広がりを制限する規制部61によって囲まれている。
図2、
図3に示すように、液体保持部60は、平面からみた形状が円形であって、液体保持部60の周囲の位置(すなわち第2部材41の下面41b)から上方向に陥入した窪み部である。液体保持部60の底面60aの平面視における中央には、平面からみた形状が円形の吐出口22dが開口している。本実施形態の場合、規制部61は窪み部の端部、すなわち、窪み部の外側の側面60b(周壁)である。平面からみて、液体保持部60の底面60aの面積をS1、吐出口の面積をS2としたときに、S1/S2は、25より大きく、2500より小さく設定され、好ましくは、100より大きく、625より小さく設定される。なお、S1/S2の算出においては、液体保持部60の底面60aの面積S1は液体保持部60の内径L1を直径とする円の面積であり、吐出口の面積S2を含んでいる。
【0043】
液体保持部60には、少なくとも吐出対象物であるワークに対して液体を吐出する工程(「液体吐出動作」ともいう。)の直前において、
図2、
図4(A)に示すように液体の膜Mが保持されている。液体の膜Mは、表面張力により液体保持部60の底面60aおよび規制部61に付着して保持される。液体の膜Mの厚みdは、吐出口22dの径bの1倍以上、5倍以下となるように設定される。液体の膜Mの厚みdとは、吐出口22dの中央を通る上下方向に沿った液体の膜Mの長さである。言い換えると、吐出口22dの中央と膜の外面との間の長さの最小値である。液体を吐出する工程とは、いわゆる捨て打ち吐出(試し打ち吐出ともいわれる)と言われる、一回当たりの吐出量C1(体積)を確認するための吐出を含まず、ワーク等の吐出対象物に対して予め定められた一回当たりの吐出量C1で液体を吐出する動作を行うことをいう。
【0044】
液体の膜Mが形成されたときの膜Mに含まれる液体の体積(「液体の膜Mの体積」ともいう)C2は、液体の種類、所望の液体の一回当たりの吐出量C1(体積)等に応じて定められる。本実施形態の液体吐出装置10により吐出される液体は、特に限定されないが、液体保持部60に膜Mとして保持されたときに所定の時間が経過しても粘度が変化しにくいものが好ましい。少なくとも液体吐出動作の間、粘度が0.001Pa・s以上、2Pa・s以下の範囲である液体が好ましく用いられ、液体の例として、嫌気性接着剤、熱硬化性接着剤、シリコーンオイル等が挙げられる。また、予め定められる液体の一回当たりの吐出量C1は1ナノリットル(1×10-12立方メートル)以上、200ナノリットル以下に設定される。なお、吐出する液体は、液体吐出動作時に粘度が上記の範囲内であればよい。例えば、室温では上記の範囲外の粘度を有する液体であっても、ノズルプレート20にヒーターを備えて液体を加熱し、液体吐出動作時に液体を所定の温度とすることで、粘度が上記の範囲内となる液体を用いてもよい。
【0045】
液体の一回当たりの吐出量(体積)をC1、液体の膜Mの体積をC2としたときに、C2/C1は、20以上、900以下に設定されることが好ましく、より好ましくは30以上、300以下である。
【0046】
液体保持部60の深さL2(上下方向の長さ)は所望の液体の膜Mの体積C2に応じて設定され、液体保持部60の内径L1に対する液体保持部60の深さL2、すなわちL2/L1は、0.01以上、0.1以下に設定される。
【0047】
本実施形態においては、吐出口22dの内径を200μm、液体の膜Mの厚みdを200μm、液体保持部60の内径L1を3mm、液体保持部60の深さL2を0.05mm、1回当たりの吐出量(体積)C1を30ナノリットル(30×10-12立方メートル)、液体の膜Mの体積C2を1500ナノリットルと設定している。
【0048】
液体の膜Mの作成方法は、例えば、捨て打ちによる方法、液体供給部100からの供給による方法がある。捨て打ちによる方法は、ワークに対する液体吐出動作の前に、捨て打ち吐出を数回から数十回行うものである。通常の液体吐出動作においては、液体供給部100からは吐出毎に液体の一回当たりの吐出量C1の液体が貯留室21に供給されるが、液体の膜Mを作成する際には、捨て打ち吐出毎に、吐出量C1より多い量の液体を貯留室21に供給する。すると、貯留室21からあふれた液体は吐出口22dから出で吐出口22dの周囲に保持される。この状態で捨て打ち吐出を行うと、貯留室21から出た液体の一部と吐出口22dの周囲に保持された液体の一部とが合わさって液滴として吐出されるが、吐出口22dの周囲に保持された液体全てが液滴として吐出されるのではなく、吐出口22dの周囲には液体が残る。捨て打ち吐出と液体供給部100からの液体の供給を繰り返すことで、吐出口22dの周囲に保持される液体の量は徐々に多くなり、表面張力によって液体保持部60の底面60aに沿って保持されつつ広がる。液体が規制部61まで到達すると、液体は規制部61に沿って上下方向に厚くなり、液体保持部60に液体の膜Mを形成する。液体の膜Mを形成するために必要な液体供給部100からの液体の供給量、捨て打ち吐出の回数は、液体保持部60の内径L1や深さL2、所望の液体の膜Mの体積C2、液体の膜Mの厚みdによって定まり、制御部により制御される。
【0049】
液体供給部100からの供給による方法は、液体供給部100から貯留室21内に液体を供給することにより、貯留室21にすでに存在している液体や液体供給部100から供給された液体を吐出口22dから漏れ出させて、液体の膜Mを形成するものである。液体の膜Mを形成するために必要な液体供給部100による液体の供給量は、液体保持部60の内径L1や深さL2、液体の膜Mの体積C2によって定まり、制御部により制御される。
【0050】
(緩衝部材50)
図1に示すように、第1部材31および第2部材41は、その間に緩衝部材50を介して接合される。第1部材31と第2部材41とが分離自由に接合されるとは、緩衝部材50を介して接合されることを含む。緩衝部材50は、シート状であって、平面視において第1部材31および第2部材41に対応する形状および大きさであり、素材としてPET(ポリエチレンテレフタレート)が用いられ、厚み50μmに設定されており、可撓性を有する。
図1に示すように、緩衝部材50には、第1部材31の凹部用貫通孔36および第2部材41の凹部用穴42に対応する位置に凹部用貫通孔51が形成されている。緩衝部材50は、少なくとも第1部材31の接合面31aに対向する上面50aが離型処理されている。離型処理とは、緩衝部材50が少なくとも第1部材31からはがれやすくなる処理を行うことであり、例えば、面に離型剤を塗布する処理である。
【0051】
緩衝部材50の素材として、本実施形態では、剛性のある樹脂シートとして、PET(ポリエチレンテレフタレート)を用いたが、低付着性の良好なものとしてPP(ポリプロピレン)も好ましく用いられる。また、例えばステンレス、アルミニウムなどの金属も使用でき、その場合、可撓性の観点より、厚み10μm~30μmが好ましく用いられる。第1部材31と第2部材41との間に緩衝部材50を備えることにより、第1部材31と第2部材41との間に液体が進入して固化し、第1部材31と第2部材41とが固着して分離できなくなるのを防いでいる。なお、本実施形態において、緩衝部材50を備えていない構成であってもよい。
【0052】
なお、ノズルプレート20は本実施形態には限定されず、液体供給部100と接続され、液体供給部100から供給された液体が貯留室21に導入され、吐出口22dから吐出され、液体保持部60を備えることができれば、既知のノズルであってよい。例えば、ノズルプレート20は第1部材31および第2部材41に分離されておらず、1つの部材として構成されていてもよく、緩衝部材50が設けられていなくてもよい。
【0053】
(制御部)
制御部(図示せず)は、アクチュエータ18、液体供給部100の電磁バルブ102等の各部に接続されている。制御部は各部の動作に必要なプログラムが予め記憶されたメモリやCPUや等からなり、CPUが各種プログラムを実行することで各部の動作を制御する。これにより液体吐出装置10が動作する。
【0054】
(液体吐出装置10による液体吐出方法)
本実施形態の液体吐出装置10による液体吐出方法について説明する。準備工程として、液体供給部100から貯留室21への液体供給動作が行われる。制御部により液体供給部100の電磁バルブ102が開かれ、空圧供給源103からシリンジ101内に所定の空圧が供給されてシリンジ101から液体が押し出され、液体供給管105を介して液体吐出装置10のノズルプレート20の液体流路23を通って凹部22の貯留室21に液体が流れる。所定量の液体が貯留室21へ供給されると、制御部は電磁バルブ102を閉じる。また、制御部はアクチュエータ18を動作させて加圧部材13を第1の位置に位置させる。
【0055】
次に、液体保持部60に液体の膜Mを形成して保持する工程を行う。捨て打ちによる方法の場合、後述する液体を吐出する工程、すなわちワークに対する液体吐出動作の前に、捨て打ち吐出を数回から数十回行う。これにより、表面張力により吐出口22dを覆うように液体保持部60に液体の膜Mが形成される。このとき、制御部は液体の膜Mの厚みdが吐出口22dの径bの5倍以下となるよう、捨て打ち吐出の回数および吐出量を制御することが好ましい。
図4(A)は、液体保持部60に保持された液体の膜Mを示す。また、液体供給部100からの供給による方法の場合、液体供給部100から貯留室21内に液体を供給することにより、貯留室21にすでに存在している液体や液体供給部100から供給された液体を吐出口22dから漏れ出させて液体の膜Mを形成する。液体の膜Mは表面張力により制御部は液体の膜Mの厚みdが吐出口22dの径bの5倍以下となるよう、液体供給部100が供給する液体の量を調整することが好ましい。液体供給部100からの供給による方法の場合は、上述の準備工程と同時に液体の膜Mを形成して保持する工程が行われてもよい。液体保持部60の面積をS1、吐出口22dの面積をS2としたときに、S1/S2は、25より大きく、2500より小さく設定されており、液体の膜Mは液体保持部60の底面60aに広がり、吐出口22dを覆うように形成される。
【0056】
そして、液体を吐出する工程を行う。アクチュエータ18により加圧部材13を第1の位置から下方向に第2の位置まで移動させる。これにより、加圧部材13により貯留室21に収容された液体が押圧され、吐出流路22cを通って吐出口22dからアクチュエータ18の移動量に応じた量の液体が出る。このときに吐出口22dから出る液体の量は、予め定められた液体の吐出量C1よりも少ない。液体の膜Mに吐出口22dから出た液体が加わると、液体の膜Mを液体保持部60に保持できなくなり、
図4(B)に示すように下向きに液塊B1が形成される。液塊B1は、液体が吐出口22dから出る前に予め液体保持部60に保持されていた液体の膜Mの一部と吐出口22dから出た液体の一部とが合わさったものである。そして、
図4(C)に示すように、液塊B1は液滴B2として液体の膜Mから離れて吐出される。本実施形態においては、液体保持部60の面積をS1、吐出口22dの面積をS2としたときに、S1/S2は、25より大きく、2500より小さく、液体保持部60に保持される液体の膜Mの厚みdは、吐出口の径の5倍以下となるように、液体保持部60に保持される液体の膜Mの体積C2が設定される。出願人は、このように設定することにより、吐出される液滴B2の体積は、予め定められた液体の一回当たりの吐出量(体積)C1と等しくなることを見出した。なお、吐出される液滴B2の体積が予め定められた液体の一回当たりの吐出量C1と等しくなるとは、液滴B2の体積(実際に吐出される一回当たりの液体の体積)が体積C1の90%以上、110%以下である場合を含む。
【0057】
液体の膜Mの体積C2は液体の一回当たりの吐出量(体積)C1よりも十分に大きく設定されており、液滴B2が吐出されたときに、液体保持部60に保持された液体の膜Mは全て液滴B2として吐出されるのではなく、その一部のみが液滴B2として吐出される。このため、液体の膜Mから液塊B1が離れて液滴B2が吐出されたときに、液体保持部60には液体の膜Mが保持された状態を保っており、吐出口22dは液体の膜Mで覆われている。
【0058】
アクチュエータ18は、貯留室21に収容された液体が押圧されて吐出口22dから液体が出始めた直後に収縮し始め、加圧部材13は皿バネ17の付勢力により押し上げられて第1の位置に戻る。吐出口22dは液体の膜Mで覆われているため、加圧部材13が押し上げられても、吐出口22dから吐出流路22cに空気が混入しない。
【0059】
上記の液体を吐出する工程後、次に吐出する量C1と同量の液体を、液体供給部100から貯留室21へ供給する液体供給工程が行われる。液体供給工程は、準備工程における液体供給動作と同じ動作である。液体供給動作により供給された液体の一部は貯留室21に貯留される。残りの液体は吐出口22dから漏れ出して液体の膜Mの一部となり、液体の膜Mの厚みdは前記の液体を吐出する工程の直前の液体の膜Mの厚みdとほぼ同じとなる。すなわち、液体の膜Mは
図4(A)に示す状態に戻る。液体を吐出する工程と液体供給工程とは交互に繰り返される。
【0060】
本実施形態において、液体を吐出する工程において、例えば、アクチュエータ18により加圧部材13を第1の位置から下方向に第2の位置まで移動させることで、吐出口22dから予め定められた液体の吐出量の半分の量(C1/2)の液体が出るとする。すると、吐出口22dから出たC1/2の量の液体と、液体が吐出口22dから出る前に予め液体保持部60に保持されていた液体の膜Mの一部であってC1/2の量の液体とが合わさってC1の量の液滴B2となって吐出される。次に、液体供給工程において、液体供給部100から貯留室21へC1の量の液体が供給されると、C1/2の量の液体は貯留室21に貯留され、残りのC1/2の量の液体は吐出口22dから漏れ出て液体の膜Mの一部となる。このように、液体を吐出する工程と液体供給工程と繰り返すことで、C1の量の液体が液滴B2として吐出される。
【0061】
本実施形態においては、吐出口22dを覆うように液体保持部60に液体の膜Mを形成している。そして、液体保持部60の面積をS1、吐出口22dの面積をS2としたときに、S1/S2は、25より大きく、2500より小さく設定している。また、液体吐出動作の直前の液体の膜Mの厚みdは吐出口22dの径bの5倍以下となるように設定されている。出願人は、この構成により、液滴B2が吐出されたときに、液体保持部60に保持された液体の膜Mは全て液滴B2として吐出されるのではなく、液体の膜Mの一部が吐出口22dから出た液体の一部と合わさって液滴B2として吐出されることを見出した。このため、液滴B2が吐出されたときに、液体保持部60には残った液体により液体の膜Mが保持された状態を保ち、吐出口22dは液体の膜Mで覆われたままである。したがって、液滴B2が吐出された直後に、吐出口22dの周囲には空気が存在せず、加圧部材13が上方向の第1の位置に移動する際に加圧部材13が空気を吸い込むことが防がれ、安定した液体の吐出が可能となる。
【0062】
また、従来技術においては、通常、吐出口22dの周囲は液体が残らないことが望ましい。一般的に、液体吐出装置において液体吐出動作を行う場合、液切れ不良により吐出口22dの周りに液体が付着する。液切れ不良とは吐出口22dから吐出された液体が吐出口22dから飛び出すものの、その一部が吐出口22dから完全に離れて落ちずに吐出口22dの周囲に残ることをいう。液体吐出動作を繰り返すことで吐出口22dの周囲に付着した液体の量は徐々に多くなる。吐出口22dの周囲に液体が付着していると、吐出口22dから飛び出た液体はこの付着した液体に当たって、下方向に飛ばすに斜め方向に飛んだり、液体が割れて飛び散るなどの吐出不良が生じることがある。このため、通常は、所定の回数の吐出毎に液体吐出動作を停止して吐出口22dの周囲の清掃を行い、付着した液体を汚れとして除去している。
【0063】
一方、本実施形態においては、液体を吐出する工程において吐出口22dが液体の膜Mで覆われているため、従来技術のように、吐出口22dの周囲に液体が汚れとして付着するということがない。このため、液滴は上下方向に沿って吐出され、液体が飛び散ることが防止され、安定した液体の吐出が可能となる。
【0064】
また、貯留室21と液体供給部100との水頭圧の差により、貯留室21にある液体が吐出口22dから自然と漏れ出てくる場合がある。従来技術においては、液体吐出動作後、次の液体吐出動作までの間が例えば5秒程度と長い場合には、吐出口22dから漏れ出る液体の量が多くなり、吐出口22dの周囲に付着する液体の量が多くなる。多くの液体が付着した後に液体吐出動作を行うと、吐出口22dから出た液体が吐出口22dの周囲に付着している液体と合わさって液滴B2となって吐出するため、予め定められた一回当たりの吐出量C1よりも液滴B2の体積が多くなることがある。しかし、本実施形態によれば、液体保持部60は常に液体の膜Mが保持された状態を保っており、液体吐出動作後、次の液体吐出動作までの間に漏れ出た液体は液体の膜Mの一部となる。漏れ出た液体が加わることで液体の膜Mの体積C2は大きくなるものの、既にある液体の膜Mにさらに漏れ出た液体が加わるために液体の膜Mの体積C2が増える割合は小さい。このため、従来技術に比べて、吐出される液滴B2の体積は吐出口22dから漏れ出た液体の影響を受けにくく、液滴B2の体積が大きく増えることがない。
【0065】
(液体を吐出する工程および液体供給工程の他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、液体を吐出する工程および液体供給工程は上記の方法に限定されない。上記の工程では、電磁バルブ102を開いて液体供給部100から貯留室21へ液体を供給した後、電磁バルブ102を閉じ、液体吐出動作を行っている。すなわち、液体供給動作毎に電磁バルブ102を開閉している。しかし、この工程に限定されず、例えば、電磁バルブ102を開とした状態で、加圧部材13の第1の位置と第2の位置との間の往復動作を繰り返して液体吐出動作を行ってもよい。この方法によれば、電磁バルブ102の開閉動作を行う必要がないため、液滴B2の吐出を早く複数回連続して行うことができ、吐出サイクルを短くすることができる。
【0066】
(液体保持部60の他の実施形態)
図5に液体保持部60の他の実施形態を示す。液体保持部60は、吐出口を含む部分62と、環状窪み部63を備えている。吐出口を含む部分62は、平面からみて円形状の平坦面であり、中央に吐出口22dが開口しており、液体保持部60の周囲の位置よりも下方向に突出している。言い換えると、
図5において、吐出口を含む部分62は第2部材41の下面41bよりも下側の位置にある。環状窪み部63は吐出口を含む部分62を囲み、液体保持部60の周囲の位置、すなわち第2部材41の下面41bよりも上方向に陥入している。吐出口を含む部分62の液体保持部60の周囲の位置に対する突出長さをa(下方向を正とし、突出長さaは常に正の値となる)、吐出口22dの径をbとしたときに、a/bは0より大きく、2以下に設定されている。本実施形態において、液体保持部60の内径L1とは環状窪み部63の外側の側面60bの径(外径)をいい、吐出口を含む部分62の径をL3とすると、L3/L1は、0.1以上、0.3以下に設定されている。環状窪み部63の外側の側面60b(外周壁)は規制部61を構成している。環状窪み部63の深さL4は環状窪み部63の底面63aと第2部材41の下面41bとの間の距離である。
【0067】
液体保持部60に液体の膜Mを形成して保持する工程において、液体は吐出口22dから出た液体は、吐出口を含む部分62に広がり、吐出口を含む部分62の外縁に到達する。吐出口を含む部分62の外縁で液体の広がりが規制され、吐出口を含む部分62にいったん液体の膜Mが形成される。液体の膜Mに含まれる液体の体積がさらに増えると、吐出口を含む部分62に保持できなくなる。すると、液体は吐出口を含む部分62の外縁を超えて環状窪み部63の内側の側面63b(環状窪み部63の底面63aと吐出口を含む部分62との上下方向の位置の差により生じる側面)および環状窪み部63の底面63aに沿って広がる。環状窪み部63の外側の側面60bである規制部61に到達すると、これ以上の外側への広がりが規制され、液体の膜Mが上下方向に厚くなるように液体が保持されていき、表面張力により液体の膜Mが形成される。液体の膜Mの厚みdは、吐出口22dの中央と膜の外面との間の長さの最小値である。また、液体保持部60の面積S1とは、液体保持部60の内径L1を直径とする円の面積であり、吐出口を含む部分62の平面からみた面積(吐出口を含む部分62の径L3を直径とする円の面積)を含んでいる。その他の構成については、
図1の実施形態と同様であるため、対応する部分に同一の符号を付すことで説明を省略する。
【0068】
上記の構成によれば、環状窪み部63の深さL4を調整することで液体保持部60には所望の体積C2の液体の膜Mを形成することができる。また、吐出口を含む部分62の液体の膜Mの厚みdを薄くすることができる。吐出口を含む部分62の液体の膜Mの厚みdが薄く、環状窪み部63は吐出口を含む部分62よりも上側に位置しているため、貯留室21から出た液体の一部は、吐出口を含む部分62を覆う液体の膜Mの一部と合わさって液塊B1となり、環状窪み部63にある液体は液塊B1には含まれない。このため、液塊B1が吐出しても、環状窪み部63にある液体は液体保持部60に確実に残り、液体の吐出直後に吐出口を含む部分62に移動して吐出口22dを覆い、液体の膜Mを形成することができる。
【0069】
図6に液体保持部60の他の実施形態を示す。以下、
図5の実施形態と異なる点のみを説明する。液体保持部60の吐出口を含む部分62の端部62aは断面において円弧状に面取りされており、環状窪み部63の内側の側面63bと連続する。端部62aの曲率半径は0.1以上、3以下である。また、規制部61、すなわち環状窪み部63の外側の側面60bは断面において上下方向に対して斜め方向に傾斜している。環状窪み部63の外径は下方向に沿って大きくなっており、環状窪み部63の外側の側面60bの径の最大値を液体保持部60の内径L1とする。その他の構成については、
図5の実施形態と同様であるため、対応する部分に同一の符号を付すことで説明を省略する。
【0070】
吐出口を含む部分62の端部62aが面取りされていない場合には、液体保持部60に液体の膜Mを形成して保持する工程において、液体の広がりが端部62aでいったん規制されて吐出口を含む部分62に液体の膜Mが形成される。さらに液体の膜Mの体積が増えると、端部62aを超えて液体は環状窪み部63に広がる。しかし、上記の実施形態によれば、吐出口を含む部分62の端部62aは円弧状に面取りされているため、吐出口を含む部分62に広がった液体は端部62aで広がりが規制されずに吐出口を含む部分62の外縁から環状窪み部63の内側の側面63b、および環状窪み部63の底面63aに沿って広がりやすい。
【0071】
なお、
図6に示す実施形態においては、液体保持部60の吐出口を含む部分62の端部62a、規制部61のうちの少なくとも一つが
図6に示す実施形態の形状となっており、その他は
図5に示す実施形態と同様の形態としてもよい。また、後述する
図7~
図12の実施形態において、吐出口を含む部分62の端部62aの形状、環状窪み部63の外側の側面60bである規制部61の延在する方向の少なくとも一つを、
図6の実施形態と同様の形態としてもよい。
【0072】
図7に液体保持部60の他の実施形態を示す。
図7の実施形態においては、ノズルプレート本体24の第2部材41の下面41bに撥水層66が形成されている。撥水層66は、吐出口22dおよび環状窪み部63を露出させるための孔66aを有している。孔66aは、平面からみて円形であって、環状窪み部63の外側の側面60bの下端と同一形状を有しており、孔66aの内面66bが環状窪み部63の外側の側面60bの下端に連続している。孔66aは液体保持部60の一部を構成する。孔66aの内面66bは液体保持部60の規制部61の一部であり、環状窪み部63の外側の側面60bとともに液体保持部60の規制部61を構成している。撥水層66は、例えばフッ素系の撥水剤から構成され、既知の塗布工法またはメッキ工法により形成される。塗布工法の場合、撥水層66の厚みは0.001μm以上、0.02μm以下に形成されることが多く、メッキ工法では2μm以上、20μm以下に形成されることが多い。しかし、撥水層66の素材、厚みは本実施形態に限定されない。その他の構成については、
図6の実施形態と同様であるため、対応する部分に同一の符号を付すことで説明を省略する。
【0073】
図7に示す本実施形態によれば、規制部61の下端に撥水層66が形成されているため、液体の膜Mの表面が撥水層66の孔66aの内面66bに位置しているときに、撥水層66の撥水力が液体の膜Mの表面張力に作用する。このため、液体保持部60が保持することが可能な液体の膜Mの体積C2を大きくすることができる。なお、撥水層66は、
図1~5に示す実施形態、後述する
図8、
図9に示す実施形態のノズルプレート20に設けられていてもよい。
【0074】
図8に液体保持部60の他の実施形態を示す。液体保持部60の吐出口を含む部分62は、液体保持部60の周囲すなわち第2部材41の下面41bと同じ位置にあり、上下方向の高さが揃っている。その他の構成については、
図5の実施形態と同様であるため、対応する部分に同一の符号を付すことで説明を省略する。
図8に示す実施形態によれば環状窪み部63が形成されるようにノズルプレート20の第2部材41の下面41bを削るだけで液体保持部60を形成することができ、液体保持部60を形成する際の加工が容易である。
【0075】
図9に液体保持部60の他の実施形態を示す。液体保持部60の吐出口を含む部分62は、液体保持部60の周囲の位置よりも陥入している。言い換えると、
図9において、吐出口を含む部分62は第2部材41の下面41bよりも上側の位置にある。吐出口を含む部分62の液体保持部60の位置に対する陥入長さをc(下方向を正とし、陥入長さcは常に負の値となる)、吐出口22dの径をbとしたときに、c/bが-1以上、0以下に設定される。なお、c/bが0のときには
図8に示す実施形態となる。その他の構成については、
図5の実施形態と同様であるため、対応する部分に同一の符号を付すことで説明を省略する。
【0076】
図10に液体保持部60の他の実施形態を示す。液体保持部60は、液体保持部60の周囲の位置から突出した凸部である。すなわち、液体保持部60は第2部材41の下面41bよりも下側に突出している。凸部の端部(外縁)が規制部61を構成している。吐出口22dから出た液体は、液体保持部60の下面60cに広がり、外縁に到達するとこれ以上の外側への広がりが規制され、液体保持部60の下面60cを覆うように表面張力により液体の膜Mが形成される。その他の構成については、
図1の実施形態と同様であるため、対応する部分に同一の符号を付すことで説明を省略する。なお、
図10においては、液体保持部60の下面60cは平坦面であるが、下に凸となる湾曲面であってもよい。
【0077】
図11に液体保持部60の他の実施形態を示す。液体保持部60は、液体保持部60の周囲の位置から突出した環状凸部64と、環状凸部64に囲まれ環状凸部64から突出した吐出口を含む部分65とを備えている。すなわち、環状凸部64は第2部材41の下面41bよりも下側に突出し、吐出口を含む部分65は環状凸部64よりもさらに突出長さeだけ下側に突出している。環状凸部64の端部(外縁)が規制部61を構成している。吐出口22dから出た液体は、吐出口を含む部分65に広がり、吐出口を含む部分65の外縁に到達する。そして、環状凸部64と吐出口を含む部分65との上下方向の位置により生じる側面に沿って広がり、環状凸部64の外縁である規制部61に到達すると、これ以上の外側への広がりが規制され、表面張力により液体の膜Mが形成される。その他の構成については、
図1の実施形態と同様であるため、対応する部分に同一の符号を付すことで説明を省略する。
【0078】
図12に液体保持部60の他の実施形態を示す。
図12の実施形態においては、
図1~
図11の実施形態のように、ノズルプレート本体24の第2部材41の下面41bに窪み部や、環状窪み部63、環状凸部64等を備えておらず、下面41bは平坦面であり、吐出口22dが開口している。第2部材41の下面41bには撥水層66が形成されている。撥水層66は、吐出口22dを露出させるための孔66aを有している。孔66aは、平面からみて円形であって、吐出口22dの径bよりも大きい径を有している。この孔66aの内部が液体保持部60を構成し、孔66aの内面66bは液体保持部60の規制部61となる。撥水層66は、例えばフッ素系の撥水剤から構成され、既知の塗布工法またはメッキ工法により形成される。塗布工法の場合、撥水層66の厚みは0.001μm以上、0.02μm以下に形成されることが多く、メッキ工法では2μm以上、20μm以下に形成されることが多い。しかし、撥水層66の素材、厚みは本実施形態に限定されない。その他の構成については、
図1の実施形態と同様であるため、対応する部分に同一の符号を付すことで説明を省略する。
【0079】
上記の実施形態においては、平坦面であるノズルプレート本体24の下面41bに孔66aを有する撥水層66を形成するだけの簡単な工程で、ノズルプレート20に液体保持部60を設けることができる。
【0080】
実施形態として記載され又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。一つの構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0081】
また、本明細書において「端部」及び「端」等のように、「…部」の有無で区別した表現が用いられている。例えば、「端部」とは、「端」を含む一定の範囲を持つ部分を意味する。他の「…部」を伴った表現についても同様である。
【符号の説明】
【0082】
10 液体吐出装置
11 加圧部
21 貯留室
22c 吐出流路
22d 吐出口
24 ノズルプレート本体
60 液体保持部
61 規制部
62 吐出口を含む部分
63 環状窪み部
64 環状凸部
65 吐出口を含む部分
66 撥水層
M 液体の膜
S1 液体保持部の面積
S2 吐出口の面積
C1 液体の一回当たりの吐出量
C2 液体の膜の体積
a 吐出口を含む部分の突出長さ
b 吐出口の径
c 吐出口を含む部分の陥入長さ
d 液体の膜の厚み
【要約】
【課題】吐出口から空気を吸い込みにくいノズルプレート、液体吐出装置および液体吐出方法を提供する。
【解決手段】本発明のノズルプレート20は、ノズルプレート本体24に、液体が収容される貯留室21と、貯留室21と連通する吐出流路22cと、吐出流路22cの端部に設けられ液体を吐出する吐出口22dとを有するものである。ノズルプレート20は、吐出口22dを覆うように形成される液体の膜Mを保持し、液体の膜Mの広がりを制限する規制部61によって囲まれる液体保持部60を備え、平面から見て、液体保持部60の面積をS1、吐出口22dの面積をS2としたときに、S1/S2は、25より大きく、2500より小さい、
【選択図】
図4