(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】粉末状固着防止剤、及び固着防止方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20230410BHJP
B65G 67/32 20060101ALI20230410BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20230410BHJP
C09D 5/03 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
C09D201/00
B65G67/32
C02F11/00 Z ZAB
C09D5/03
(21)【出願番号】P 2022177897
(22)【出願日】2022-11-07
【審査請求日】2022-11-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511123429
【氏名又は名称】テクニカ合同株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 好太
(72)【発明者】
【氏名】黒木 琢也
【審査官】宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-093977(JP,A)
【文献】特開2020-104030(JP,A)
【文献】特開2020-033437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
B05D1/00-7/26
C02F11/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土砂の載置面に散布する粉末状固着防止剤であって、
処理対象となる土砂は、含水率が10~27重量%であり、JIS A 1228に準拠して測定されるコーン指数が13.81~1381kN/m
2
であり、JIS R 5201に準拠して測定されるフロー値が150mm×150mm以下である粘性土であり、
高分子電解質を含有し、粒径が
250~850μmに調整されている粉末状固着防止剤。
【請求項2】
前記高分子電解質は、分子構造中にアニオン性基を含む高分子凝集剤である
請求項1に記載の粉末状固着防止剤。
【請求項3】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、並びに酸化物からなる群から選択される少なくとも一つの無機化合物をさらに含有する請求項1又は2に記載の粉末状固着防止剤。
【請求項4】
前記無機化合物は、炭酸カルシウムである
請求項3に記載の粉末状固着防止剤。
【請求項5】
100gの試料を130cmの高さから一度に落下させたとき、重量ベースで前記試料の97%以上が落下中心から半径12.5cmの領域内に存在する請求項1又は2に記載の粉末状固着防止剤。
【請求項6】
前記載置面は、トラック又はダンプカーの荷台である請求項1又は2に記載の粉末状固着防止剤。
【請求項7】
土砂の載置面において、載置された土砂が固着することを防止する固着防止方法であって、
処理対象となる土砂は、含水率が10~27重量%であり、JIS A 1228に準拠して測定されるコーン指数が13.81~1381kN/m
2
であり、JIS R 5201に準拠して測定されるフロー値が150mm×150mm以下である粘性土であり、
前記載置面に、高分子電解質を含有し、粒径が
250~850μmに調整されている粉末状固着防止剤を散布する薬剤散布工程と、
前記粉末状固着防止剤が付着している載置面に水を散布することにより、前記載置面上に、前記高分子電解質が相対的に溶解した状態にある低粘性領域と、前記高分子電解質が相対的に溶解していない状態にある高粘性領域とを含む固着防止層を形成する固着防止層形成工程と、
を包含する固着防止方法。
【請求項8】
前記固着防止層は、前記低粘性領域である上層部と、前記高粘性領域である下層部とからなる二重層を構成する
請求項7に記載の固着防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土砂の載置面に散布する粉末状固着防止剤、及び土砂の載置面において、載置された土砂が固着することを防止する固着防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木工事、シールド工事、建設工事、土壌除染作業等により発生した泥土や砂(これらをまとめて「土砂」と称する)は、通常、そのままの状態で、又は固化処理された後、トラックやダンプカーの荷台に積載され、保管場所、再利用場所、最終処分場等にまで運搬される。そして、トラックやダンプカーの荷台から土砂を降ろすには、荷台を傾斜させて土砂を滑り落とすやり方が一般的である。
【0003】
ところが、土砂が過度に粘性を有するものであったり、高含水率であったりすると、土砂が荷台から完全に滑り落ちず、一部の土砂が荷台に付着したまま残留するという問題があった。トラックやダンプカーの積載量は決まっているため、荷台に土砂が付着したままの状態にしておくと次回の土砂の運搬量が減少し、運搬効率が低下することになる。また、別の現場から土砂を受け入れたときに前の現場の土砂と混合してしまうと、特に土砂を再利用する場合には問題となることがある。さらに、荷台に付着した土砂を除去する場合、作業者の清掃の負担が大きくなる等の問題も生じる。
【0004】
そこで、従来、ダンプトラックの荷台への土砂の付着を防止するための薬剤として、粉末水溶性高分子を含む摩擦低下被膜形成剤が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、ダンプトラックの荷台に摩擦低下被膜形成剤を散布し、次いで水を供給することで摩擦低下被膜形成剤に含まれる粉末水溶性高分子を膨潤させ、荷台の表面に水溶性高分子の被膜を形成している。この被膜は粘液性でヌルヌルした状態となっているため(同文献の第0014段落)、被膜の上に土砂を積載すれば、被膜を介して荷台と土砂との摩擦が低下し、荷下ろし時の荷台への土砂の付着が防止されるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に記載の摩擦低下被膜形成剤は、剤型が粉体であることから、トラックやダンプカーの荷台に散布するときに粉塵が舞うという問題があった。そのため、トラックやダンプカーの荷台に摩擦低下被膜形成剤(薬剤)を均一かつ十分に付着させることができなかったり、粉塵が舞うことによる減少分を補うため薬剤の散布量が過剰になることがあった。また、散布時に粉塵が舞うことで、作業者が薬剤を吸い込んでしまうことも懸念された。
【0007】
なお、このような問題点の解決策として、剤型が液体の薬剤を使用することが考えられる。しかしながら、液体の薬剤は粉体の薬剤と比べて一回使用あたりの重量が嵩むことから、取り扱いや輸送コストにおいて敬遠される場合がある。また、薬剤の保存期間が長期に亘ると、液中で薬剤の有効成分が沈殿したり、析出したり、変質したりする虞もある。そのため、現場においては、粉体の薬剤を望む声はなお大きい。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、トラックやダンプカーの荷台等の土砂の載置面に土砂が固着することを防止する固着防止剤を適用(散布)するにあたり、散布時の粉塵の発生を抑えることができる粉末状固着防止剤を提供することを目的とする。また、本発明の粉末状固着防止剤を用いることにより、土砂の載置面において、載置された土砂が固着することを防止する固着防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明にかかる粉末状固着防止剤の特徴構成は、
土砂の載置面に散布する粉末状固着防止剤であって、
高分子電解質を含有し、粒径が150μm以上に調整されていることにある。
【0010】
本構成の粉末状固着防止剤によれば、高分子電解質を含有し、粒径が150μm以上に調整されているため、土砂の載置面に土砂が固着することを防止しながら、粉末状固着防止剤の散布時において粉塵の発生を抑えることができる。
【0011】
本発明にかかる粉末状固着防止剤において、
前記粒径が250~850μmに調整されていることが好ましい。
【0012】
本構成の粉末状固着防止剤によれば、粒径が250~850μmに調整されているため、粉末状固着防止剤の取り扱いが容易であるとともに、粉末状固着防止剤の散布時において粉塵の発生を確実に抑えることができる。また、粉末状固着防止剤を散布した載置面を繰り返して使用することも十分に可能となる。
【0013】
本発明にかかる粉末状固着防止剤において、
前記高分子電解質は、分子構造中にアニオン性基を含む高分子凝集剤であることが好ましい。
【0014】
本構成の粉末状固着防止剤によれば、高分子電解質は、分子構造中にアニオン性基を含む高分子凝集剤であるため、土砂の載置面に土砂が固着することを確実に防止することができる。
【0015】
本発明にかかる粉末状固着防止剤において、
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、並びに酸化物からなる群から選択される少なくとも一つの無機化合物をさらに含有することが好ましい。
【0016】
本構成の粉末状固着防止剤によれば、高分子電解質に加えて、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、並びに酸化物からなる群から選択される少なくとも一つの無機化合物をさらに含有することで、土砂の載置面に対する土砂の固着防止効果を効果的に発揮させることができる。
【0017】
本発明にかかる粉末状固着防止剤において、
前記無機化合物は、炭酸カルシウムであることが好ましい。
【0018】
本構成の粉末状固着防止剤によれば、高分子電解質と併用する無機化合物として、炭酸カルシウムを使用することにより、土砂の載置面に対する土砂の固着防止効果をより効果的に発揮させることができる。
【0019】
本発明にかかる粉末状固着防止剤において、
100gの試料を130cmの高さから一度に落下させたとき、重量ベースで前記試料の97%以上が落下中心から半径12.5cmの領域内に存在することが好ましい。
【0020】
本構成の粉末状固着防止剤によれば、粉末状固着防止剤の散布時において粉塵の発生を抑えながら、土砂の載置面の一定範囲に粉末状固着防止剤を付着させることができる。
【0021】
本発明にかかる粉末状固着防止剤において、
前記土砂は、含水率が10~27重量%であり、JIS A 1228に準拠して測定されるコーン指数が13.81~1381kN/m2であり、JIS R 5201に準拠して測定されるフロー値が150mm×150mm以下である粘性土であることが好ましい。
【0022】
本構成の粉末状固着防止剤によれば、土砂が載置面に固着し易い上記の特性を有する粘性土であっても、確実に固着を防止することができる。
【0023】
本発明にかかる粉末状固着防止剤において、
前記載置面は、トラック又はダンプカーの荷台であることが好ましい。
【0024】
本構成の粉末状固着防止剤によれば、トラック又はダンプカーの荷台に土砂が固着することを防止しながら、粉末状固着防止剤の散布時において粉塵の発生を抑えることができる。
【0025】
上記課題を解決するための本発明にかかる固着防止方法の特徴構成は、
土砂の載置面において、載置された土砂が固着することを防止する固着防止方法であって、
前記載置面に、高分子電解質を含有し、粒径が150μm以上に調整されている粉末状固着防止剤を散布する薬剤散布工程と、
前記粉末状固着防止剤が付着している載置面に水を散布することにより、前記載置面上に、前記高分子電解質が相対的に溶解した状態にある低粘性領域と、前記高分子電解質が相対的に溶解していない状態にある高粘性領域とを含む固着防止層を形成する固着防止層形成工程と、
を包含することにある。
【0026】
本構成の固着防止方法によれば、固着防止層形成工程によって土砂の載置面上に形成される固着防止層は、高分子電解質が相対的に溶解した状態にある低粘性領域と、高分子電解質が相対的に溶解していない状態にある高粘性領域とを含むため、載置面に土砂を載置し、この状態で載置面を傾斜させると、低粘性領域の一部が土砂とともに流されて剥がれ落ち、その結果、載置面への土砂の付着が防止される。また、土砂の荷下ろし作業が終わった後も、載置面に低粘性領域が一定程度残っていれば、繰り返して土砂の荷下ろし作業を行うことができる。仮に、低粘性領域が殆どなくなった場合でも、載置面に土砂を再度載置すると、土砂に含まれる水分によって高粘性領域の粘度が低下して新たな低粘性領域を形成するため、追加で水を散布しなくても繰り返しの使用が可能となる。しかも、本構成の固着防止方法で使用する粉末状固着防止剤は、高分子電解質を含有し、粒径が150μm以上に調整されているため、土砂の載置面に土砂が固着することを防止しながら、粉末状固着防止剤の散布時において粉塵の発生を抑えることができる。
【0027】
本発明にかかる固着防止方法において、
前記粒径が250~850μmに調整されていることが好ましい。
【0028】
本構成の固着防止方法によれば、粒径が250~850μmに調整されているため、粉末状固着防止剤の取り扱いが容易であるとともに、粉末状固着防止剤の散布時において粉塵の発生を確実に抑えることができる。また、粉末状固着防止剤を散布した載置面を繰り返して使用することも十分に可能となる。
【0029】
本発明にかかる固着防止方法において、
前記固着防止層は、前記低粘性領域である上層部と、前記高粘性領域である下層部とからなる二重層を構成することが好ましい。
【0030】
本構成の固着防止方法によれば、固着防止層が、低粘性領域である上層部と、高粘性領域である下層部とからなる二重層を構成しているため、土砂の荷下ろし作業時に上層部が剥がれ落ちることで、載置面への土砂の付着が確実に防止される。また、下層部が残っていることで、この下層部が再度載置された土砂から水分を吸収すれば、低粘性領域として新たな上層部が形成されるため、繰り返しの使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本発明の固着防止方法を説明する模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の粉末状固着防止剤を用いた粉塵発生試験(落下試験)直後における粉塵の飛散状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の粉末状固着防止剤、及び固着防止方法の実施形態について説明する。ただし、本発明は、以降の説明や図面に限定されることは意図しない。
【0033】
<粉末状固着防止剤>
本発明の粉末状固着防止剤は、トラック又はダンプカーの荷台等の土砂の載置面に土砂が固着することを防止するために使用されるものである。本発明の粉末状固着防止剤が対象とする土砂は、特に限定されるものではないが、例えば、含水率が10~27重量%、好ましくは15~20重量%であり、JIS A 1228に準拠して測定されるコーン指数が13.81~1381kN/m2、好ましくは100~500kN/m2であり、JIS R 5201に準拠して測定されるフロー値が150mm以下(150mm×150mm以下)である粘性土が想定され、このような粘性土を対象とした場合、本発明の粉末状固着防止剤による本来の固着防止効果が十分に発揮される。かかる本発明の粉末状固着防止剤は、有効成分として高分子電解質を含有し、任意の成分として無機化合物をさらに含有する。
【0034】
〔高分子電解質〕
高分子電解質は、分子構造中にイオン性基を有する高分子化合物であり、高分子凝集剤、吸水性高分子などが挙げられる。本発明においては、高分子電解質として、とりわけ、高分子凝集剤が好ましく使用される。なお、高分子凝集剤は、それ単独(すなわち、高分子凝集剤が100%である形態)であってもよいし、他の成分を含む高分子凝集剤組成物(すなわち、高分子凝集剤が100%ではない形態)であっても構わない。以後、本明細書において「高分子凝集剤」というとき、特に断りがなければ、「高分子凝集剤」と「高分子凝集剤組成物」との両方の意味を含むものとする。高分子凝集剤の種類としては、アニオン性高分子凝集剤、カチオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤、及びノニオン性高分子凝集剤の何れも使用可能であるが、土砂の固着防止性が優れている点や、環境に与える影響が少ないという点から、アニオン性高分子凝集剤が好ましく使用される。また、両性高分子凝集剤のうち、アニオン性基がカチオン性基より多いアニオンリッチ両性高分子凝集剤についても、アニオン性高分子凝集剤と同様に使用可能である。すなわち、分子構造中にアニオン性基を含む高分子凝集剤(アニオン性高分子凝集剤、又はアニオンリッチ両性高分子凝集剤)が好ましく利用される。
【0035】
アニオン性高分子凝集剤としては、例えば、ポリカルボン酸塩又はポリカルボン酸塩とアクリルアミドとの共重合物、ポリスルホン酸塩又はポリスルホン酸塩とアクリルアミドとの共重合物、並びにこれらの誘導体が挙げられる。ポリカルボン酸塩を形成するためのポリカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、及びマレイン酸等が挙げられる。ポリスルホン酸塩を形成するためのポリスルホン酸としては、アクリルアミド2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、及びスチレンスルホン酸等が挙げられる。
【0036】
カチオン系高分子凝集剤としては、例えば、アルキルアミノアクリレート塩重合体又はアルキルアミノアクリレート塩重合体とアクリルアミドとの共重合物、アルキルアミノメタクリレート塩重合体又はアルキルアミノメタクリレート塩重合体とアクリルアミドとの共重合物、並びにこれらの誘導体が挙げられる。アルキルアミノアクリレート塩重合体としては、アクリル酸ジメチルアミノエチル、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリロイル2-ヒドロキシプロピルリド等が挙げられる。アルキルアミノメタクリレート塩重合体としては、メタアクリル酸ジメチルアミノエチル、ジメチルアミノプロピルメタアクリルアミド、メタアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、メタアクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、メタアクリロイル2-ヒドロキシプロピルリド等が挙げられる。
【0037】
両性高分子凝集剤としては、アニオン性高分子凝集剤の構成単位であるアニオン性モノマーと、カチオン性高分子凝集剤の構成単位であるカチオン性モノマーと、ノニオン性モノマー(必要に応じて)とのランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体が挙げられるが、安定性の点からランダム共重合体又は交互共重合体が好ましい。アニオン性モノマーとカチオン性モノマーとの重合比は、アニオン性基が30~45mol%、好ましくは35~42mol%であり、カチオン性基が0.1~10.0mol%、好ましくは0.1~4.0mol%であり、残部がノニオン性基である。両性高分子凝集剤は、アニオン性高分子凝集剤が有するアニオン性基と、カチオン性高分子凝集剤が有するカチオン性基とが同一の高分子構造中に存在するが、アニオン性高分子凝集剤とカチオン性高分子凝集剤との混合物のように相分離することがないため、安定した性能を発揮することができる。
【0038】
高分子凝集剤の分子量は、重量平均分子量(Mw)として、1.0×107~2.5×107が好ましく、1.3×107~2.2×107がより好ましい。高分子凝集剤の分子量が上記の範囲にあれば、土砂の固着防止性に優れるとともに、土砂の載置面に形成した被膜の強度も優れたものとなる。粉末状固着防止剤中の高分子凝集剤の含有量は、5~90重量%の範囲で任意に設定することができるが、10~50重量%とすることが好ましい。
【0039】
〔無機化合物〕
本発明の粉末状固着防止剤は、高分子電解質に加えて、無機化合物を含むことが好ましい。無機化合物をさらに含むことで、土砂の載置面に対する土砂の固着防止効果を効果的に発揮させることができる。無機化合物としては、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、並びに酸化物からなる群から選択される少なくとも一つが挙げられる。このような無機化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等が挙げられる。これらのうち、炭酸カルシウムが好ましい。粉末状固着防止剤中の無機化合物の含有量は、10~95重量%の範囲で任意に設定することができるが、50~80重量%とすることが好ましい。
【0040】
<粒径>
本発明者らは、トラックやダンプカーの荷台等の土砂の載置面に土砂が固着することを防止する固着防止剤を適用(散布)するにあたり、散布時の粉塵の発生を抑えるのに必要な条件について鋭意検討したところ、とりわけ剤型が粉末状である場合の固着防止剤の挙動は、その粒径と密接な関係があることを突き止め、粉末状固着防止剤の粒径を適切な範囲に調整することで粉塵の発生を効果的に防止できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0041】
本発明によれば、粉末状固着防止剤の粒径は、150μm以上に調整されていることが好ましく、250~850μmに調整されていることがより好ましい。粉末状固着防止剤の粒径が150μm以上であれば、土砂の載置面に土砂が固着することを防止しながら、粉末状固着防止剤の散布時において粉塵の発生を抑えることができる。また、粉末状固着防止剤の粒径が250~850μmであれば、粉末状固着防止剤の取り扱いが容易であるとともに、粉末状固着防止剤の散布時において粉塵の発生を確実に抑えることができる。なお、粉末状固着防止剤の粒径は、例えば、篩分けにより調整することができる。篩分けにより、粉末状固着防止剤の粒径を調整すると、分画した粒径範囲内において粉末状固着防止剤の粒径分布が比較的ナローになるため、飛散し易い特定の粒径の粒子のみが大量に含まれることがなく、粉塵の発生を抑えることができる。なお、本明細書において、「粉末状固着防止剤の粒径分布が比較的ナロー」とは、篩分けにより粒径が調整された粉末状固着防止剤の粒径分布の半値幅をaとし、分画した粒径範囲の幅をbとしたとき、aがbの70%以下となる状態を意味する。本発明においては、粉末状固着防止剤の粒径分布の半値幅aは、分画した粒径範囲の幅bの70%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下である。
【0042】
ところで、粉末状固着防止剤の有効成分である高分子凝集剤として、アニオン性高分子凝集剤を使用する場合、アニオン性高分子凝集剤は一般に顆粒状のものとして販売されていることから、アニオン性高分子凝集剤をそのまま固着防止剤として使用する場合は粒径が過大となることがある。そのような場合は、顆粒状のアニオン性高分子凝集剤をボールミル等で粉砕し、さらに必要に応じて篩分けすることで、粉末状固着防止剤としての粒径を、例えば、150~850μmのうちの適切な範囲に収まるように適宜調整すればよい。
【0043】
ところで、粉塵の発生をより効果的に防止するためには、粉末状固着防止剤(アニオン性高分子凝集剤)の粒子が土砂の載置面に落下したときの跳ね返りが低減するように工夫すればよい。例えば、粉末状固着防止剤を散布する前に粉末状固着防止剤を蒸気又は水蒸気に晒すなどして、載置面への散布性や付着性に影響しない程度に、粉末状固着防止剤の粒子の表面に僅かに粘着性(しっとり感)を発現させておくことも有効である。
【0044】
<固着防止方法(載置面への施工方法)>
図1は、本発明の固着防止方法を説明する模式図である。トラックやダンプカーの荷台等の土砂の載置面1に本発明の粉末状固着防止剤Cを施工する際は、(a)に示すように、載置面1に粉末状固着防止剤(薬剤)Cを散布し(薬剤散布工程)、次いで(b)に示すように、粉末状固着防止剤Cが付着している載置面に水Wを適量散布する。これにより、(c)に示すように、粉末状固着防止剤Cに含まれる高分子凝集剤が水に部分的に溶解し、載置面上に固着防止層Lが形成される(固着防止層形成工程)。ここで、固着防止層Lは、水Wが散布された表面側は高分子凝集剤の相対的に溶解が進んで低粘性(曵糸性が弱い又は示さないヌルヌルした状態)となるが、載置面側は高分子凝集剤の相対的に溶解が進んでおらず高粘性(曵糸性が強いネバネバした状態)となっている。このように、粉末状固着防止剤Cは、水Wが散布されることで、少なくとも、低粘性領域(上層部)L1と高粘性領域(下層部)L2とを含む固着防止層Lを形成する。そして、(d)に示すように、この固着防止層Lの上に土砂Sを載置し、次いで(e)に示すように、載置面(荷台)1を傾斜させると、(f)に示すように、表面側の低粘性領域(上層部)L1の一部が土砂Sとともに流されて剥がれ落ち、その結果、載置面1への土砂Sの付着が防止される。このようにして、載置面1に土砂Sの固着防止機能が実現される。
【0045】
二回目以降の載置面1からの土砂Sの荷下ろし作業については、(g)に示すように、載置面1に形成された固着防止層Lの表面側に低粘性領域(上層部)L1がある程度残っていれば、引き続き作業を行うことができる。本発明の粉末状固着防止剤Cを使用すれば、土砂Sの載置面1への一回の施工で、五回以上の繰り返し使用にも耐え得るものとなる。仮に、固着防止層Lの低粘性領域(上層部)L1が殆どなくなった場合でも、再度土砂Sを載置すると、土砂Sに含まれる水分によって高粘性領域(下層部)L2の粘度が低下して新たな低粘性領域L1を形成するため、追加で水Wを散布しなくても繰り返しの使用が可能となる。
【0046】
本発明の固着防止方法によって形成される固着防止層Lは、少なくとも、低粘性領域である上層部L1と、高粘性領域である下層部L2とからなる二重層を形成するものであればよく、このような二重層を有する固着防止層Lであれば、土砂の載置面1に載置された土砂Sが固着することを防止するという固着防止剤の本来の機能を果たすことができる。すなわち、土砂の荷下ろし作業時に上層部L1が剥がれ落ちることで、載置面1への土砂の付着が確実に防止される。また、下層部L2が残っていることで、この下層部L2が再度載置された土砂から水分を吸収すれば、低粘性領域として新たな上層部L1が形成されるため、繰り返しの使用が可能となる。
【0047】
土砂Sの載置面1に粉末状固着防止剤Cを施工するにあたって、粉末状固着防止剤Cの散布量は、10~50g/m2が好ましく、35~45g/m2がより好ましい。水の散布量は、100~1000mL/m2が好ましく、400~900mL/m2がより好ましい。粉末状固着防止剤C及び水Wの散布量が上記の範囲であれば、トラックやダンプカーの荷台を最も上げたときの一般的な傾斜角度である約50°において、土砂Sを荷台に略残さずに確実に降ろすことができる。
【0048】
粉末状固着防止剤Cの施工方法(散布の仕方)としては、粉末状固着防止剤Cは通常、紙袋やフレコンバッグ等の荷姿で販売されているため、粉末状固着防止剤Cが入った袋を開封してスコップ等で撒いたり、あるいは粉末状固着防止剤Cをペットボトル等に移し替え、それを手で振りながら撒く方法を採用することができる。また、粉末状固着防止剤Cをトラックやダンプカーの荷台に散布する際、荷台の全体に散布することが好ましいが、荷台を傾斜させたときに上側となる表面の部分に重点的に散布すれば、下側の表面の部分については上側から滑り落ちてくる土砂によって一掃されるため、少量の散布であっても荷台の表面全体への土砂Sの固着を防止することができる。
【実施例】
【0049】
<粉塵発生試験>
本発明の粉末状固着防止剤の効果を検証するため、粉塵発生試験(落下試験)を実施した。この粉塵発生試験で使用した薬剤、及び試験方法を以下に示す。
【0050】
〔薬剤〕
薬剤として、テクニカ合同株式会社製の粉末状固着防止剤「マッドスベール」に含まれるアニオン性高分子凝集剤を使用した。アニオン性高分子凝集剤は、重量平均分子量(Mw)が1.6×107~2.2×107であり、アニオン性単量体が25~100mol%のアニオン性ポリアクリルアミド系高分子凝集剤である。アニオン性高分子凝集剤には、顆粒品と粉末品とがあり、分画する粒径範囲に応じて顆粒品と粉末品とを使い分けた。
【0051】
〔試験方法〕
(1)金属篩(JIS Z 8801-1準拠品)を用いてアニオン性高分子凝集剤(顆粒品、粉末品)を篩掛けし、以下の5つの粒径範囲[a]~[e]に分画する。なお、カッコ内は、アニオン性高分子凝集剤の粒径範囲別の含有量である。
[a]1000~850μm(100重量%)
[b] 850~425μm(100重量%)
[c] 425~250μm(100重量%)
[d] 250~150μm(100重量%)
[e] <150μm(100重量%)
(2)各粒径範囲のサンプルを100gずつ正確に秤量する。
(3)ボウル(開口径20cm、内底径12.5cm)を電子天秤の上にセットする。
(4)ボウルの底面から130cmの高さより、ボウルに向けて各粒径範囲のサンプル100gを一度に落下させる。
(5)ボウルに投入されたサンプルの重量を計測し、損失した粉塵の重量を求める。
(6)上記(2)~(5)の操作を5回繰り返し、損失した粉塵の重量の平均値を求める。
【0052】
〔試験結果〕
粉塵発生試験の結果を以下の表1に示す。また、粉塵発生試験(落下試験)直後における粉塵の飛散状態を
図2に示す。
【0053】
【0054】
表1より、アニオン性高分子凝集剤の粒径が150μm以上であれば、落下に伴うアニオン性高分子凝集剤の損失は殆どなく、特に、アニオン性高分子凝集剤の粒径が250μm以上であれば、落下に伴うアニオン性高分子凝集剤の損失は完全に抑えることができた。一方、アニオン性高分子凝集剤の粒径が150μm未満のものは、落下直後に大量の粉塵が発生し、アニオン性高分子凝集剤が大きく損失する結果となった。なお、アニオン性高分子凝集剤の粒径が850μmを超える場合であっても粉塵の発生は抑えられるが、粒径が大き過ぎるものは水を散布したときにママコ(塊)になり易くなる。また、後述する繰り返し使用試験で説明するように、アニオン性高分子凝集剤の粒径が850μmを超えると、繰り返し使用回数が大きく減少する。これらの理由から、アニオン性高分子凝集剤の粒径の上限は850μm程度とするのが適切である。
【0055】
また、
図2より、アニオン性高分子凝集剤の粒径が150μm以上であれば、100gの試料を130cmの高さから一度に落下させたとき、重量ベースで落下させたアニオン性高分子凝集剤の97%以上が落下中心から半径12.5cmの領域内に存在することが明らかとなった。
【0056】
従って、本発明の粉末状固着防止剤をトラックやダンプカーの荷台等の土砂の載置面に施工する場合、粉末状固着防止剤の粒径を150μm以上、好ましくは250~850μmに調整すれば、土砂の載置面に固着防止機能を付与しつつ、粉末状固着防止剤を散布する際の粉塵の発生を抑えることが可能となる。
【0057】
<繰り返し使用試験>
本発明の粉末状固着防止剤の繰り返し使用性を検証するため、繰り返し使用試験を実施した。この繰り返し使用試験で使用した薬剤、土砂、及び試験方法を以下に示す。
【0058】
〔薬剤〕
薬剤として、上記の粉塵発生試験で用いたものと同じアニオン性高分子凝集剤(顆粒品及び粉末品)を使用した。
【0059】
〔土砂〕
トチクレー(粘土)と珪砂4号(砂)とを重量比で7:3の割合で混合し、加水して含水率20容量%(17重量%)に調整した模擬土壌を土砂として使用した。この土砂は、JIS A 1228に準拠して測定されるコーン指数が50kN/m2以下であり、JIS R 5201に準拠して測定されるフロー値が150mm×150mm以下であった。
【0060】
〔試験方法〕
(1)上記の粉塵発生試験と同様に、金属篩(JIS Z 8801-1準拠品)を用いてアニオン性高分子凝集剤(顆粒品、粉末品)を篩掛けし、以下の5つの粒径範囲[a]~[e]に分画する。さらに、分画していない顆粒品のアニオン性高分子凝集剤を[f]とする。サンプル[f]のアニオン性高分子凝集剤の粒径範囲別の含有量は、1000~850μm(5重量%)、850~425μm(60重量%)、425~250μm(15重量%)、250~150μm(10重量%)、<150μm(10重量%)である。
[a]1000~850μm(100重量%)
[b] 850~425μm(100重量%)
[c] 425~250μm(100重量%)
[d] 250~150μm(100重量%)
[e] <150μm(100重量%)
[f] 未分画の顆粒品(含有量は上記のとおり)
(2)金属製の平板(20cm×20cm)にフローコーン(上端内径5cm×下端内径10cm×高さ15cm)を載置し、フローコーンの内部に各粒径範囲のサンプル0.35gを均等に散布し(散布量:44.6g/m2)、さらにその上から水7mLを均等に散布する(散布量:892mL/m2)。
(3)フローコーンの内部に土砂を2回に分けて投入し、投入毎に15回突き棒でついて固める。
(4)フローコーンを取り除き、平板を約10秒かけて50°になるまで傾斜させる。
(5)平板から土砂が略すべて落下した場合は、再度(2)の操作から繰り返す。平板から土砂が落下しなかった場合は、平板を元の状態に戻してから再度傾斜させ、この操作を5回繰り返して変化が無ければ土砂が平板に付着したと判断する。
(6)上記(2)~(5)の操作を3回繰り返し、繰り返し使用できた回数の平均値を求める。
【0061】
〔試験結果〕
繰り返し使用試験の結果を以下の表2に示す。
【0062】
【0063】
表2より、アニオン性高分子凝集剤の粒径が大きくなるほど、繰り返し使用回数が減少する傾向が見られた。これは、アニオン性高分子凝集剤の粒径が大きい場合(特に、850μmを超える場合)、固着防止層は厚くなるが、当該固着防止層の上に土砂を堆積させて滑り落とすと、アニオン性高分子凝集剤が土砂に巻き込まれて平板から根こそぎ剥離し、1回の使用で固着防止層が殆ど無くなってしまうためと考えられる。一方、アニオン性高分子凝集剤の粒径が850μm以下であれば、繰り返し使用回数の平均値が2回以上となり、繰り返して土砂の荷下ろし作業を行うという本発明の目的は達成できた。
【0064】
なお、表2では、アニオン性高分子凝集剤の粒径が150μm未満のものが最も繰り返し使用回数が多い結果となったが、これは、アニオン性高分子凝集剤の粒径が小さい場合、アニオン性高分子凝集剤が平板上に広く分散することで薄くて面積の大きい固着防止層が形成され、1回の使用あたりの固着防止層の負担が軽減するためと考えられる。ただし、本実施例の繰り返し使用試験は、屋内の無風条件下にて実施していることに注意すべきである。上記の粉塵発生試験で説明したように、粒径が150μm未満のアニオン性高分子凝集剤は、トラックやダンプカーの荷台等に散布したとき粉塵が大量に発生することから、実際の現場においては、風の影響等によりアニオン性高分子凝集剤が損失し、本実施例の試験結果ほどの繰り返し使用回数は達成できないものと思われる。
【0065】
また、未画分のアニオン性高分子凝集剤(顆粒品)についても、繰り返し使用回数が良好な結果となったが、この理由としては、未画分のアニオン性高分子凝集剤には様々な粒径のものが含まれているため、粒径が大きいものと粒径が小さいものとで役割が分担されることで、無風条件下では粉末状固着防止剤としてのバランスが取れたためと考えられる。ただし、上述のように、実際の現場においては、風の影響等により粒径の小さいアニオン性高分子凝集剤が損失するため、使用条件を選ぶものと思われる。
【0066】
<まとめ>
以上の粉塵発生試験、及び繰り返し使用試験の結果を総括すると、本発明の粉末状固着防止剤、及び固着防止方法において使用するアニオン性高分子凝集剤は、散布時における粉塵の発生を防止するという観点から粒径が150μm以上に調整されていることが必要であり、さらに繰り返しの使用を可能にするという観点から粒径が250~850μmに調整されていることが好ましいといえる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の粉末状固着防止剤、及び固着防止方法は、土木工事、建設工事、鉄道工事、地下工事、トンネル掘削工事等により発生した土砂をトラックやダンプカーで運搬する際に、トラックやダンプカーの荷台への土砂の固着を防止する目的で利用することができる。
【要約】
【課題】トラックやダンプカーの荷台等の土砂の載置面に土砂が固着することを防止する固着防止剤を適用(散布)するにあたり、散布時の粉塵の発生を抑えることができる粉末状固着防止剤を提供する。
【解決手段】土砂の載置面に散布する粉末状固着防止剤であって、高分子電解質を含有し、粒径が150μm以上、好ましくは250~850μmに調整されている粉末状固着防止剤であり、高分子電解質は、分子構造中にアニオン性基を含む高分子凝集剤であり、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、並びに酸化物からなる群から選択される少なくとも一つの無機化合物をさらに含有する。
【選択図】なし