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特許7258457アルミナ繊維、アルミナ繊維集合体及び排ガス浄化装置用把持材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】アルミナ繊維、アルミナ繊維集合体及び排ガス浄化装置用把持材
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/08 20060101AFI20230410BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20230410BHJP
   C01F 7/021 20220101ALI20230410BHJP
   C04B 35/117 20060101ALI20230410BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20230410BHJP
   D04H 1/4209 20120101ALI20230410BHJP
【FI】
D01F9/08 A
B01D53/94 300
C01F7/021
C04B35/117
C04B38/00 303A
D04H1/4209
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017162709
(22)【出願日】2017-08-25
(65)【公開番号】P2019039106
(43)【公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-04-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】相京 輝洋
(72)【発明者】
【氏名】大島 康孝
(72)【発明者】
【氏名】大橋 寛之
(72)【発明者】
【氏名】藤 浩一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 陽介
【合議体】
【審判長】山崎 勝司
【審判官】稲葉 大紀
【審判官】藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-160434(JP,A)
【文献】国際公開第2014/069589(WO,A1)
【文献】特開平11-43826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 9/08- 9/32
C03C 1/00-14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ繊維集合体からなる排ガス浄化装置用把持材であって、
前記アルミナ繊維集合体が、酸化ナトリウムの含有量が530~3200ppmであり、前記酸化ナトリウムの含有量(A)と酸化カルシウムの含有量(B)との質量比(A/B)が5~116であるアルミナ繊維(ただし、下記表1及び表2に記載の組成のアルミナ繊維を除く)からなる排ガス浄化装置用把持材。
【表1】

【表2】
【請求項2】
前記アルミナ繊維が、化学組成として、アルミナの含有量が63質量%以上97質量%未満である請求項1に記載の排ガス浄化装置用把持材
【請求項3】
前記アルミナ繊維のムライト化率が10%以下である請求項1又は2に記載の排ガス浄化装置用把持材
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ繊維、アルミナ繊維集合体及び排ガス浄化装置用把持材に関する。
【背景技術】
【0002】
非結晶質セラミック繊維、結晶質アルミナ繊維、ロックウール、グラスウール等の無機繊維は、その優れた耐火性、断熱性を利用し、例えば加熱炉の断熱材として広く使用されている。また、自動車部品分野では、車両エンジンの内燃機関から排出される排ガスに含まれるNOx、PM等を無害化させる目的で、排ガス浄化装置が用いられている。排ガス浄化装置は金属製シェル等の構造を有する触媒ケーシング内にセラミックス等からなる触媒担体を収容してなり、通常、この触媒担体と触媒ケーシングとの間に把持材(保持材ともいう)が挟み込まれた構造となっている。把持材は、触媒担体を固定して振動による破損を防ぐ目的と排ガスシール材としての目的があり、アルミナ繊維集合体を用いることが主流となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献2では、自動車用把持材として過酷な使用環境下において使用した場合でも長期間に渡り一定以上の弾性を維持することが可能なアルミナ質繊維及び該繊維を成形してなるアルミナ質繊維集合体が開示されている。
【0004】
一方、アルミナ繊維は、高温下で長時間使用されるため、圧縮復元性や耐熱性を維持すべく、高純度であることが必須である。
特許文献3では、工業炉の断熱材として、復元性が大きく、高温で使用した後でも目地開きが発生しがたいアルミナ繊維マットとそれを使用した製品が開示されており、不純物として、NaとKの合計量が300ppm以下、Feが200ppm以下、Caが50ppm以下であることが記載されている。
特許文献4では、保持力が低下しにくいマット材の提供として、ガラス繊維を含むマットであって、SiO52~66重量%、Al9~26重量%、CaO15~27重量%、NaO及びKOを総和で0~2重量%含み、Bを実質的に含まないことを特徴とするマット材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-286514号公報
【文献】WO2014/115814
【文献】特開2000-160434号公報
【文献】特開2013-87756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、排ガス規制が強化されたことに伴い、排ガス浄化装置の高機能化が求められ、把持材であるアルミナ繊維集合体においてはより厳しい条件下での使用が想定される。かかる条件下では、触媒担体に対する高い面圧、すなわち高い保持力の維持が求められる。また、触媒担体に対する保持力が保持面においてばらつきがあると、いわゆる面圧のばらつきにより圧力差が生じて、より厳しい条件での触媒担体の保持ができなくなることがある。したがって、面圧のばらつきが少ないことも今後要求されると予想される。
【0007】
ここで上記引用文献2~4は、圧縮復元性や耐熱性に着目するのみで、面圧のばらつきを低減することについては不十分であり、さらなる改善が必要であった。
【0008】
以上から本発明は、排ガス浄化装置の把持材とした際に、触媒担体に対する十分な保持力を有し、かつ、面圧のばらつきを低減できるアルミナ繊維集合体とすることができるアルミナ繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく検討を行なったところ、アルミナ繊維集合体の面圧の低下は、アルミナ繊維集合体の製造条件に由来する細孔や欠陥等の局所的に脆弱な部位に起因して生じることを知見するに至った。本発明者等の知見によれば、面圧の低下は、繊維に応力が加えられた際にこれらの脆弱な部位が起点となって繊維が容易に破壊されることにより引き起こされる。また、面圧のばらつきは、アルミナ繊維集合体に存在する特定の成分に起因するアルミナ繊維組織の均一性に関係するとの知見に至った。
したがって、アルミナ繊維集合体が本来有している面圧の低下を防ぐためにはアルミナ繊維集合体の欠陥を低減させ、面圧のばらつきについては組織を均一化する必要があると考えた。
【0010】
そこで、本発明者等はアルミナ繊維集合体の組織を均一化する検討を行った結果、アルミナ繊維中の酸化ナトリウムの量、及び、酸化ナトリウムと酸化カルシウムとの含有比率を制御することで、排ガス浄化装置用把持材として、高い保持力で触媒担体を保持し、かつ、面圧のばらつきを低減できるアルミナ繊維集合体を見出した。すなわち、本発明は下記の通りである。
【0011】
[1] 酸化ナトリウムの含有量が530~3200ppmであり、前記酸化ナトリウムの含有量(A)と酸化カルシウムの含有量(B)との質量比(A/B)が5~116であるアルミナ繊維。
[2] 化学組成として、アルミナの含有量が63質量%以上97質量%未満である[1]に記載のアルミナ繊維。
[3] ムライト化率が10%以下である[1]又は[2]に記載のアルミナ繊維。
[4] [1]~[3のいずれか1項に記載のアルミナ繊維からなるアルミナ繊維集合体。
[5] [4]に記載のアルミナ繊維集合体からなる排ガス浄化装置用把持材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、排ガス浄化装置の把持材とした際に、触媒担体に対する十分な保持力を有し、かつ、面圧のばらつきを低減できるアルミナ繊維集合体とすることができるアルミナ繊維を提供することができる。
そして、本発明のアルミナ繊維からなるアルミナ繊維集合体は、保持面における保持力のばらつき(面圧のばらつき)が極めて小さいため、自動車等の排ガス浄化装置用把持材として好適である。
またかかるアルミナ繊維集合体は、従来の装置を用いた簡便な製法を利用して得られるため、生産効率が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のアルミナ繊維、アルミナ繊維集合体、把持材の各実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書における「面圧」とは、「触媒担体に対する保持力」を意味し、「面圧のばらつき」とは、「触媒担体の保持面における保持力のばらつき」を意味する。また、「部」、「%」、「ppm」は特に規定しない限り質量基準とする。
【0014】
(アルミナ繊維)
本実施形態のアルミナ繊維は、酸化ナトリウム含有量が530~3200ppmである。含有量が530ppm未満であると、組織が不均一化し、面圧のばらつきが大きくなる。3200ppmを超えると、面圧のばらつきが大きくなり、また、自動車用把持材としての耐熱性が低下する。酸化ナトリウム含有量は、590~2480ppmであることが好ましく、640~2160ppmであることがより好ましい。酸化ナトリウムとしてのナトリウム含有量及び酸化カルシウムとしてのカルシウム含有量は、後述の実施例に記載のとおりマイクロウェーブ分解後、ICP測定にて測定することができる。そして、酸化ナトリウム及び酸化カルシウムに換算してこれらの含有量を求めることができる。
【0015】
本実施形態のアルミナ繊維は、酸化ナトリウムの含有量(A)と酸化カルシウムの含有量(B)との質量比(A/B)が5~116である。質量比が5未満又は116を超えると面圧のばらつきが大きくなる。質量比は、7~51であることが好ましく、8~39であることがより好ましい。
【0016】
本実施形態のアルミナ繊維は、その化学組成としてAlの含有量が63質量%以上97質量%未満であることが好ましい。含有量が97質量%未満であると、十分な繊維強度及び面圧を維持できる。一方、63質量%以上であると良好な耐熱性を示し、自動車排ガス用把持材として使用した際、高温の排気ガスによる繊維の劣化を防ぐことができる。アルミナ繊維集合体の化学組成として、Alの含有量は、70~93質量%であることが好ましく、73~90質量%であることがより好ましい。
【0017】
本実施形態のアルミナ繊維は、Al、NaO、CaO以外の成分としてSiO、Fe、MgO、CuO、ZnO等が含まれていてもよいが、中でもSiOを含むことが好ましく、AlとSiOとの2成分を含んで構成されたものであることが特に好ましい。SiOを含んで構成されることで、α-アルミナの粗大結晶の成長が抑制され、面圧が向上する。
アルミナ繊維の化学組成は蛍光X線分析及びICP等を用いて測定することができる。
【0018】
また、本実施形態のアルミナ繊維の鉱物組成として、ムライト(3Al・2SiO)の割合、即ち、ムライト化率は10%以下であることが好ましい。ムライト化率が10%以下であると、繊維強度及び面圧を高い状態にすることができる。ムライト化率は、1~5%であることがより好ましい。
【0019】
本実施形態のアルミナ繊維のムライト化率は粉末X線回折によって同定定量することが可能である。以下に詳細を説明する。
【0020】
X線回折装置(例えばRIGAKU社製multiflexs)で管電圧30kV、感電流40mA、2°/分の速度で測定し、ムライトのピーク2θ=40.9°の高さhを読み取る。また、同じ条件でムライト標準物質(例えば日本セラミックス協会認証標準物質JCRM―R041)を測定し、2θ=40.9°のピーク高hを読み取る。このときのムライト化率は式(1)で表す値となる。
式(1):鉱物組成(ムライト化率)=h/h×100
【0021】
以上のような本実施形態のアルミナ繊維は、例えば、これをシート状又はマット状に集積成形し、触媒担体用把持材や耐火物等に使用されることが好ましく、触媒担体用把持材に使用されることがより好ましい。
【0022】
(アルミナ繊維集合体)
本実施形態のアルミナ繊維集合体は、本発明のアルミナ繊維からなる。
本実施形態のアルミナ繊維集合体は、触媒担体用把持材として用いられる場合、一般的にかさ密度が0.3~0.5g/cmの範囲となるまで圧縮された状態でセラミックス製の触媒担体が収容された金属製シェル等の触媒ケーシングに導入される。このかさ密度の範囲で、十分に高い面圧が保たれないと保持力が不十分となり、使用時の振動によりセラミックス製の触媒担体を破損してしまうおそれがある。そのため、特に激しい振動が生じる自動車等の排ガス浄化装置用把持材として適用可能とするためには、面圧の他、面圧のばらつき(CV値)として、3.0未満が好ましい。
【0023】
本実施形態でいう面圧及び面圧のばらつきは、引っ張り圧縮試験器を用いて測定することが可能である。測定方法を以下に詳細に説明する。
【0024】
測定には、例えば、株式会社島津製作所製オートグラフが引っ張り圧縮試験器として用いられることが好ましい。アルミナ繊維集合体を、底面積10.18cmで長さ36mmの円柱状に打ち抜き、試験速度10mm/分で圧縮を行う。かさ密度0.4g/cmになったときの反発力を測定する。それぞれの反発力を底面積で乗じることで面圧を求めることができる。
面圧のばらつき値は、10箇所の面圧の平均値を標準偏差で除することで算出する。
【0025】
以下、上記の特性を有するアルミナ繊維集合体の製造方法を詳細に説明する。
すなわち、本実施形態のアルミナ繊維集合体の製造方法は、例えば、
(I)アルミナ源、シリカ源、酸化ナトリウム源、酸化カルシウム源を含む無機繊維源と紡糸助剤とを混合し減圧濃縮することで粘調な紡糸原液を得る工程、
(II)紡糸原液を細孔より大気中に押出し、乾燥することでアルミナ繊維前駆体を得る工程、
(III)アルミナ繊維前駆体を焼成する工程、を含む。
【0026】
(I)の工程:
アルミナ繊維の紡糸原液を調製する方法としては、アルミナ源と、シリカ源、酸化ナトリウム源、酸化カルシウム源を、アルミナ繊維が最終的に所望の化学組成となるように混ぜ、さらにポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール等の紡糸助剤を配合して均一に混合してから減圧濃縮する。これにより、好ましくは粘度が500mPa・s以上10000mPa・s以下、より好ましくは1000mPa・s以上5000mPa・s以下の粘調な紡糸原液を調製する。
【0027】
ここで、アルミナ源としては、オキシ塩化アルミニウム、アルミニウムプロポキシド等が挙げられる。シリカ源としては、シリカゾル(コロイダルシリカ)、ポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。酸化ナトリウム源としては、水酸化ナトリウム、水ガラス等が挙げられる。酸化カルシウム源としては、水酸化カルシウム等が挙げられる。
【0028】
紡糸原液の粘度が低くなると得られるアルミナ繊維の径は細くなり、逆に粘度が高くなると繊維の径は太くなる傾向がある。このとき紡糸原液の粘度が500mPa・s以上であると、途中で繊維が切れるのを防ぐことができ、10000mPa・s以下であると、繊維径が太くなりすぎず、紡糸をスムーズに行うことができる。
【0029】
なお、粘性付与剤がポリビニルアルコールの場合、その重合度は1000以上2500以下が好ましく、1600以上2000以下がさらに好ましい。その濃度はアルミナ成分とシリカ成分の固形分の合計を100質量部とし、これに対して6質量部以上12質量部以下であることが好ましい。6質量部以上であることで、良好な紡糸性を示し、融着繊維を少なくすることができる。また、12質量部以下であることで、紡糸原液の粘度が低くなって濃縮しやすくなり、紡糸性の良い紡糸原液を調製することができる。このように紡糸原液の調製条件を適宜変えることにより、最終的なアルミナ繊維の径を好ましい範囲内に収めることができる。
【0030】
粘性付与剤がポリエチレンオキシドの場合、分子量15万以上90万以下が好ましく、30万以上60万以下がさらに好ましい。その濃度はアルミナ成分とシリカ成分の固形分の合計を100質量部とし、これに対して2質量部以上6質量部以下であることが好ましい。2質量部以上、6質量部以下であることで、良好な紡糸性を示し、融着繊維を少なくすることができる。
【0031】
粘性付与剤がポリエチレングリコールの場合、分子量3000以上2万以下が好ましく、4500以上9000以下がさらに好ましい。その濃度はアルミナ成分とシリカ成分の固形分の合計を100質量部とし、これに対して6質量部以上14質量部以下であることが好ましい。6質量部以上、14質量部以下であることで、良好な紡糸性を示し、融着繊維を少なくすることができる。
【0032】
(II)の工程:
紡糸原液からアルミナ繊維前駆体を得る方法としては、例えば紡糸原液を金型ダイスの細孔から空中に糸状に噴出させながら急速乾燥する方法が挙げられる。金型ダイスの構造や形状、細孔の径や配置、また紡糸原液の吐出量や吐出圧、さらに紡糸原液を噴出させる先の空間温度、圧力、気体成分、湿度、気流の有無については特に限定はない。金型ダイスは固定された構造であっても、可動な構造であってもどちらでもよい。具体的には、周速5m/s以上100m/s以下で回転する中空円盤内に紡糸原液を供給し、円盤の円周面に設けられた直径0.1mm以上1.3mm以下の複数の細孔から紡糸原液を放射状(糸状)に噴出させ、これを乾燥風と接触させながら急速乾燥させることによりアルミナ繊維前駆体を得ることができる。
【0033】
この回転円盤を用いる方法では、一つの細孔あたりの紡糸原液吐出量は、円盤の大きさや細孔径、細孔の数、紡糸原液の粘度等に左右されるが、実用的な範囲として5mL/h以上100mL/h以下であることが好ましい。5mL/h以上であることで、繊維の径が細くなりすぎず、繊維の飛散を防ぐことができる。また、100mL/h以下であることで、径が太くなりすぎて剛直な繊維となることを防ぎ、折れ繊維の数が増加して長期的にアルミナ繊維集合体の弾性を維持する性能が低下することを防ぐことができる。
【0034】
乾燥風の温度は10℃以上200℃以下の範囲であることが好ましい。10℃以上であることで、アルミナ繊維前駆体の乾燥が十分となり、糸切れや繊維同士の融着を低減することができる。また、200℃以下とすることで、乾燥が早く進みすぎず、糸が延伸されやすくなるため、繊維が太くなりすぎず、後工程での繊維前駆体の取扱い性を向上させることができる。
【0035】
次に、乾燥させたアルミナ繊維前駆体をシート状又はマット状に集積成形する。この集積成形の方法としては、例えば紡糸の際に空中に噴出させたアルミナ繊維前駆体を、空中に浮遊させながら上方から型枠内に自然落下させて集積し、シート状又はマット状となす方法が挙げられる。このとき集積したアルミナ繊維前駆体を機械的に圧縮したり、型枠の下方から吸引等したりして、その密度がより高くなるようにすることも可能である。また、アルミナ繊維前駆体を集積成形する際の台座に相当する部分は固定された構造でも、例えばベルトコンベアのような可動な構造であってもよい。なお、集積成形したアルミナ繊維前駆体は、加熱炉に送る前まで10℃以上150℃以下に保持しておくことが品質管理上好ましい。
【0036】
(III)の工程:
シート状またはマット状に集積成形したアルミナ繊維前駆体を焼成して、最終的にアルミナ繊維からなる集合体となす方法としては、例えばこのアルミナ繊維前駆体を、まず一段目として、集積成形後の温度、即ち通常は10℃以上150℃以下の温度から、最高温度を500℃以上1000℃以下まで大気雰囲気下で加熱する。この一段目の段階で、アルミナ繊維前駆体中に残留する水分を乾燥し、塩化水素等の揮発性の酸性成分、及び粘性付与剤の分解物であるアルデヒド類等の有機物を排出する脱脂工程を設ける。
さらに二段目として、最高温度を1000℃以上1300℃以下として大気雰囲気下でアルミナ繊維前駆体を焼成し、無機化合物の一部を結晶化させる結晶化工程を設ける。
【0037】
脱脂工程及び結晶化工程のそれぞれの工程に対しては、異なる加熱炉を用いて処理する方法や、同じ加熱炉を用いる場合には加熱条件等を変えて処理する方法が用いられる。加熱炉はベルトコンベアやローラー等でアルミナ繊維前駆体を搬送する連続炉でも、バッチ式の炉でもどちらも好適に使用することができる。
【0038】
脱脂工程から結晶化工程へは、速やかに移行しても、時間をおいてから移行してもどちらでもよいが、生産性を考慮すると一般には速やかに移行する方法が用いられる。
なお、本発明の脱脂工程と結晶化工程の温度は、加熱炉内の雰囲気温度の測定値である。この場合、温度は通常加熱炉内に設置された熱電対等により計測される。
【0039】
ここで、脱脂工程の加熱炉として用いる場合には、熱風の導入と揮発成分の排出を可能とした構造が好適である。脱脂工程の最高温度は500℃以上1000℃以下とし、さらには650℃以上1000℃以下とすることが好ましい。500℃以上とすることで、脱脂が不十分の状態で結晶化工程に送られることがなくなり、比表面積が高くなる現象が見られると共にアルミナ繊維の欠陥が増えて繊維が折れやすくなるといった現象を防ぐことができる。また、脱脂工程内でもムライトの結晶化が並行して進むため、1000℃以下とすることで、その結晶子の大きさが増大することを防いで繊維の剛直化を抑えることができる。また、500℃以上1000℃以下とすることで圧縮変形に対する形状復元性の低下を防ぐことができる。
【0040】
集積成形した繊維前駆体が加熱される前の温度、即ち10℃以上150℃以下、好ましくは20℃以上60℃以下の温度から、加熱炉内で500℃以上1000℃以下、好ましくは650℃以上1000℃以下の温度まで昇温する場合、最高温度に至るまでは温度を連続的に上げても、段階的に上げてもかまわないが、その間の平均昇温速度は1℃/分以上50℃/分以下とすることが好ましく、2℃/分以上30℃/分以下とすることがより好ましい。平均昇温速度が50℃/分以下であると、水分、酸性成分の揮発や、粘性付与剤の分解が十分に起こらないまま繊維の体積が収縮するため欠陥の多い繊維とならず、特性を良好に発揮させることができる。また、1℃/分以上であると加熱炉を徒に長大にする必要がなくなる。
【0041】
さらに脱脂工程の所要時間としては特に制限はないが、20分以上60分以下であることが好ましく、30分以上30分以下であることがさらに好ましい。20分以上であると揮発成分の除去が十分となり、また、60分間保持すれば揮発成分はほぼ完全に除去される。なお、60分を超えても除去効果はそれ以上改善されない。
【0042】
結晶化工程に用いる加熱炉は、発熱体による電気加熱方式とする構造が好ましく用いられ、結晶化工程の最高温度を変えることにより、アルミナ繊維に含まれる無機化合物の結晶形態を制御することが可能である。結晶化工程は、特に排ガス浄化装置の把持材に適した耐熱温度と優れた弾性とを達成するために、結晶化工程の最高温度は1000℃以上1300℃以下であり、好ましくは1100℃以上1250℃以下であり、さらに好ましくは1150℃以上1300℃以下である。最高温度が1000℃以上であると、アルミナ繊維の耐熱性が低下せず、排ガス浄化装置の把持材の使用温度に適するものとすることができる。一方、1300℃以下であると、ムライト化等のアルミナ繊維の結晶化が進みすぎるのを防ぎ、繊維強度の低下を防止することができる。
【0043】
最高温度に至るまでは温度を連続的に上げても、段階的に上げてもかまわないが、最高温度に至るまでのまでの平均昇温速度は、加熱炉の構造や結晶化工程前のアルミナ繊維の温度に左右されるが、通常1℃/分以上120℃/分以下が好適である。1℃/分以上であると、昇温に長い時間を要することがなく、また120℃/分以下であると加熱ヒーターの制御等がしやすくなる。
【0044】
加熱時間は昇温速度にもより特に制限はないが、通常5分以上120分以下とすることが好ましく、10分以上60分以下とすることがさらに好ましい。最高温度での保持時間が5分以上であるとアルミナ繊維の結晶化を十分に進め、微細構造にムラが発生するのを防ぐことができる。また、保持時間が120分以下であると結晶化が過度に進行することを防ぐことができる。5分以上120分以下とすることで、繊維強度が低下し、アルミナ繊維からなる集合体の形状復元性が低下することを防ぐことができる。
【0045】
結晶化工程が終了したアルミナ繊維は、結晶化がそれ以上進行しないように速やかに冷却することが必要である。その方法に関しては特に制限はないが、一般的には大気雰囲気中に取り出し、5~40℃の室温で自然冷却する方法、冷却風を当てる方法、冷却した平面、ロール等の曲面に接触させる方法が好適に用いられる。
【0046】
脱脂工程及び結晶化工程のそれぞれにおいて、所望の焼成速度、排気条件を満たすことができれば、焼成に用いる装置に特に制限はない。例えば、カンタル炉、シリコニット炉等のバッチ炉やローラーハース炉、メッシュベルト型炉等の連続炉等を好適に用いることが可能である。また必要に応じてこれらの焼成装置を適宜組み合わせて用いることも可能である。
【0047】
本実施形態のアルミナ繊維の化学組成は、蛍光X線分析、ICP等によって定量することができる。また、無機化合物の結晶子の大きさについては粉末X線分析によって同定定量することが可能である。
なお、(I)の工程でアルミナ繊維が最終的に所望の化学組成となるように配合した組成は、完成したアルミナ繊維の化学組成とほぼ一致することを蛍光X線分析及びICP分析により確認している。
【0048】
本発明のアルミナ繊維の平均繊維径は3.0μm以上6.0μm以下の範囲内で、かつ繊維径が10μmを超える繊維の割合は本数基準で5%未満であることが好ましい。平均繊維径が3.0μm以上であることで、飛散しやすい繊維の吸引による健康被害を抑えることができ、6.0μm以下であることで、繊維の柔軟性が損なわれず、変形に対する復元性が低下を抑えることできる。また、上記範囲で、繊維径が10μmを超える繊維の割合は本数基準で5%未満であることで、適度な弾性を長期間維持するアルミナ繊維集合体を得ることができる。
【0049】
上記アルミナ繊維の繊維径測定値は、完成したアルミナ繊維集合体から繊維サンプルを採取し、顕微鏡により観察される繊維一本の二次元像に測定器具をあてがい倍率補正して求めた値である。このとき繊維径を測定するサンプル繊維の本数は多いほど真値に近づくが、通常は100本から500本である。なお、希に複数本の繊維が融着している場合があるが、そのような繊維は除外する。
【0050】
本発明のアルミナ繊維集合体は、排ガス浄化装置用の把持材として使用することができ、特に自動車排ガス浄化装置用の把持材として好適である。またこれ以外にも、熱あるいは音に対する絶縁体、プラスチックあるいはフィルム等の充填材、強化材、引張強度や磨耗強度を向上させる補強材として使用することができる。
【0051】
(把持材)
本発明は、本発明のアルミナ繊維集合体を用いた排ガス浄化装置用把持材である。例えば、排ガス浄化装置用把持材は本発明のアルミナ質繊維集合体に無機バインダー、有機バインダーを加え、湿式成形することにより製造することが可能である。
【0052】
本発明の把持材を用いてハニカム型触媒を触媒ケーシング内に把持するには、例えば、ハニカム型触媒の全周に、把持材を均一な厚さとなるようにきつく巻きつけ、触媒ケーシング内に収容して、把持材の復元力によりケーシング内壁に密着して固定されるようにすればよい。
【実施例
【0053】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いた評価試験の結果を示し、さらに詳細に説明する。
【0054】
「実施例1」
アルミナ成分が64質量%、シリカ成分が33質量%、酸化ナトリウム成分が0.32質量%、酸化カルシウム成分が0.05質量%となるように、アルミナ固形分濃度が20.0質量%のオキシ塩化アルミニウム水溶液5000gと、シリカ濃度が20.0質量%のコロイダルシリカ2840gと、水酸化ナトリウム(和光純薬工業社製、試薬特級)0.10gと、水酸化カルシウム(和光純薬工業社製、試薬特級)0.004gを混合し、さらに、アルミナ成分とシリカ成分の固形分の合計に対して8質量%となるように重合度1700の部分ケン化ポリビニルアルコール(デンカ社製)による、固形分濃度10質量%水溶液1342gを混合してから減圧脱水濃縮を行い、粘度3300mPa・sの紡糸原液を調製した。
【0055】
この紡糸原液を、直径350mmφの中空円盤の円周面に等間隔に開けた300個の直径0.2mmφの細孔から、1孔あたりの吐出量が25mL/hとなるように原液を円盤に供給し、この円盤を周速度47.6m/sで回転させることによって孔から紡糸原液を放射状に噴出させた。細孔から飛び出した原液は145±5℃範囲に調整された乾燥風中に浮遊落下させながら乾燥させ、繊維前駆体となした。この繊維前駆体は下部から吸引する方式の集綿室で縦1m×横1mの角形枠内にマット状に集積成形して集積成形体を得た。
【0056】
このマット状のアルミナ質繊維前駆体の集積成形体を縦15cm×横15cm×高さ約15cmの大きさに切り出し、バッチ式のシリコニット炉を用い大気雰囲気下で加熱した。このとき、アルミナ繊維前駆体の集積成形体の温度が25℃から800℃までの脱脂工程を繊維前駆体1kgあたり1.5Nm/hの排気を行いながら3℃/分で連続的に昇温し、800℃まで昇温した。ここまでの所要時間は約260分であった。その後、800℃から排気を止めて結晶化工程に速やかに移行し、1200℃までの結晶化工程は20℃/分の昇温速度で、約20分間かけて昇温した。さらにこのときの最高温度である1200℃で30分間保持した。その後、アルミナ繊維集合体を温度約23℃の室内に速やかに取り出し、大気雰囲気下で自然冷却させた。なお、温度はシリコニット炉内に設置した熱電対で測定した。
【0057】
実施例1の自然冷却されたアルミナ繊維集合体の化学組成(濃度、質量%)は、JIS R2216:2005(耐火物製品の蛍光X線分析方法)に準拠し、詳細は次の方法に従って測定した。即ち、金白金ビード皿(Pt/Au=95/5)に、0.5mLの剥離促進剤(30質量%ヨウ化リチウム水溶液)を入れ、さらに6.0gの四ホウ酸リチウムと0.3gのアルミナ質繊維を0.1mg単位まで精秤して入れた後、自動ビード溶融機(ABS-II、リガク社製)を用いて、溶融温度1200℃、溶融時間20分、冷却時間20分として測定用検体(ガラスビード)を作製し、これを蛍光X測定装置(ZSX100e、リガク社製)を用いて、下記条件により二酸化ケイ素(SiO)及び酸化アルミニウム(Al)の蛍光X線強度を測定した。
【0058】
各成分の濃度は、予め蛍光X線分析用耐火物標準物質JRRM304、同305、同306、同307、同308、同309、同310(耐火物技術協会の委託により岡山セラミックス技術振興財団が頒布)を測定して作成した検量線から求めた。但し、二酸化ケイ素の濃度は測定値そのままとし、酸化アルミニウムは強熱灰化減量(ig.loss:0.1質量%)を考慮して下記式から算出された濃度とした。測定検体数は1である。
【0059】
酸化アルミニウム濃度(質量%)
=100(質量%)-二酸化ケイ素濃度(質量%)-酸化カルシウム(質量%)-酸化ナトリウム(質量%)-0.1(質量%)
【0060】
なお、測定前には蛍光X線分析用耐火物標準物質JRRM307を毎回測定し、その二酸化ケイ素の測定値が標準値±0.08(質量%)の範囲を外れた場合には、蛍光X線測定装置を調整してから測定した。
【0061】
また、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カルシウム(CaO)は、次の方法に従って測定した。試料0.25gに、95質量%硫酸4ml、85質量%リン酸4ml、及び48質量%フッ化水素酸0.5mlを加えて、マイクロウェーブ酸分解前処理を行い、試料を溶液化した。ICP測定(装置名:株式会社島津製作所製ICPE-9000)にて測定し、アルミナ繊維中のNa及びCa含有量(ppm)を算出した。それぞれ値から換算して、酸化ナトリウム(NaO)及び酸化カルシウム(CaO)含有量を算出した。
【0062】
実施例1の自然冷却されたアルミナ繊維集合体を構成する繊維毎に含まれるムライト結晶子の大きさは、下記のようにして粉砕した繊維サンプルを用い、粉末X線回折装置(UltimaIV、リガク社製)により下記条件で回折ピークを測定し、特にムライト結晶の(1.2.1)面に相当する、2θ角度が40.9°ピークの半値全幅を求め、結晶子の大きさを計算した。なお、結晶子の大きさは粉末X線統合解析ソフトウェア(TDXL2、ver.2.0.3.0、リガク社製)により、Scherrer法で求めた。検体数は1である。
なお、粉砕した繊維サンプルは、作製したアルミナ繊維集合体15gを50mmφの金型に入れ、油圧プレス機(フォーエバー社(旧マシーナ社)製、テスター25)により、28kNの荷重を2回繰り返してかけて繊維を圧縮粉砕して調製した。
【0063】
・X線波長:CuKα線(波長は1.54178Å)
・X線管球電圧、電流:40V、50mA
・測定角度2θ範囲:10~50°
・スキャンスピード:4°/分
【0064】
実施例1のアルミナ繊維集合体の保持力及び面圧のばらつきは、下記のようにして求めた。
測定には、株式会社島津製作所製オートグラフ引っ張り圧縮試験器(装置名:AGS-X 5kN)にて測定した。測定用のサンプリングは、奥行き600mm×幅300mmのアルミナ繊維集合体より、奥行き100mm間隔で5箇所、幅100mm間隔で2箇所の合計10箇所とした。アルミナ繊維集合体を、底面積10.18cmで長さ36mmの円柱状に打ち抜き、試験速度10mm/分、重量0.75gで圧縮を行った。かさ密度0.4g/cmになったとき(試料高さ1.83mm)の反発力を測定した。それぞれの反発力を底面積で乗じることで面圧を求めた。
面圧ばらつき値の算出には、10箇所の面圧の平均値から標準偏差として算出した。
面圧ばらつき値(CV値)=標準偏差(σ)平均値
【0065】
アルミナ繊維の組成、製造する際の運転条件、及び評価結果を下記表1に示す。
【0066】
「実施例2~18」、「比較例1~8」
紡糸原液の配合組成と結晶化工程における昇温速度、最高焼成温度、所要時間を下記表1~表7のように変更した他は、実施例1と同様の条件でアルミナ繊維集合体を調製し、またその物性を測定した。結果を下記表1~表7に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
【表7】