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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】発酵バターおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 15/00 20060101AFI20230410BHJP
   A23C 15/06 20060101ALI20230410BHJP
   A23C 15/02 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
A23C15/00
A23C15/06
A23C15/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018194970
(22)【出願日】2018-10-16
(65)【公開番号】P2020061960
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】毛笠 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】杉瀬 健
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-006097(JP,A)
【文献】国際公開第2012/176719(WO,A1)
【文献】国際公開第03/090546(WO,A1)
【文献】特開2018-050493(JP,A)
【文献】特開2005-110647(JP,A)
【文献】特開2013-150600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵バター全体中、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムを合計で0.075~0.275重量%含有し、カリウム/ナトリウム(重量比)が1.4~3.9、カルシウム/ナトリウム(重量比)が0.8~3.5、マグネシウム/ナトリウム(重量比)が0.1~0.25であり、且つ酸度が0.225~0.325である、食塩無添加の発酵バター。
【請求項2】
クリーム全体中、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムを合計で0.3~1.1重量%含有し、カリウム/ナトリウム(重量比)が1.4~3.9、カルシウム/ナトリウム(重量比)が0.8~3.5、マグネシウム/ナトリウム(重量比)が0.1~0.25であるクリームを、酸度が0.9~1.3になるまで乳酸菌発酵させて得たサワークリームが転相された、請求項1に記載の食塩無添加の発酵バター。
【請求項3】
クリームが、脱脂乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、乳清ミネラル及びホエーパウダーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むクリームである、請求項2に記載の食塩無添加の発酵バター。
【請求項4】
乳酸菌が、Lactococcus lactis subsp. lactis、Lactococcus lactis subsp. cremoris、Lactococcus lactis subsp. lactis biovar. diacetylactis、Leuconostoc mesenteroides subsp. cremoris、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus、Lactobacillus paracasei、及び、Lactobacillus rhamnosusからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項2又は3に記載の食塩無添加の発酵バター。
【請求項5】
クリーム全体中、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムを合計で0.3~1.1重量%含有し、カリウム/ナトリウム(重量比)が1.4~3.9、カルシウム/ナトリウム(重量比)が0.8~3.5、マグネシウム/ナトリウム(重量比)が0.1~0.25であるクリームを、酸度が0.9~1.3になるまで乳酸菌発酵させてサワークリームを得、該サワークリームを転相することを特徴とする、請求項1に記載の食塩無添加の発酵バターを製造する方法。
【請求項6】
乳酸菌が、Lactococcus lactis subsp. lactis、Lactococcus lactis subsp. cremoris、Lactococcus lactis subsp. lactis biovar. diacetylactis、Leuconostoc mesenteroides subsp. cremoris、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus、Lactobacillus paracasei、及び、Lactobacillus rhamnosusからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の食塩無添加の発酵バターを製造する方法。
【請求項7】
請求項1~4の何れかに記載の食塩無添加の発酵バターを含む食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵バターとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年日本においても、食の多様化で、風味豊かな発酵バターを使用した菓子やパンが好まれるようになっている。発酵バターは非発酵の甘性バターと異なり、その独特の発酵風味とコクが特徴である。伝統的な製法においては通常、脂肪分を35-42%に調整したクリームに乳酸菌を添加して発酵を行う。しかし、該発酵は脂肪分以外の60%程度の水相で進行するため、乳酸菌の栄養が不足して発酵が進みにくくなり、さらにその後のチャーニングで水分を17%以下に低減するので、発酵風味が強いバターを製造するには限界がある。
【0003】
そこで発酵風味を強くするために、乳酸菌の添加量を多くしたり、乳酸菌発酵時の温度を変えたりする方法がある。しかしながら、乳酸菌の添加量を多くしても、同程度の発酵度合いで止まってしまうし、発酵時の温度を変えると、複数の乳酸菌を使用している場合には発酵中に乳酸菌の菌叢が変わり、求める風味と異なる風味になってしまう。
【0004】
また、甘性バターに乳酸発酵液等の風味剤を練り込んで発酵風味を付与する、発酵バターの簡易製法がある。しかし、これにより得られる発酵バターでは、クリームを発酵させないため、本来クリームが発酵した際に脂肪分へ移行する脂溶性の風味成分が少なくなるため発酵風味が異なり、また弱くなる。さらに、乳等省令においてはバターの水分は17%以下と定められている一方、甘性バター中の水分量が概ね14%であることから、練り込むことができる風味剤の量は3%程度と制限があり、風味剤の練り込みによって発酵風味を強くするには限界があった。
【0005】
特許文献1では、合成培地での乳酸菌の高濃度培養を行う際に、乳酸菌の生育を促進する添加剤として、カルシウム塩を有効成分とする乳酸菌生育促進剤が開示されている。しかし、バター製造における生クリームや乳原料を培地とする乳酸菌発酵では、カルシウム塩が水溶性であり、チャーニングで水分を17%以下に低減することから、前記乳酸菌生育促進剤を用いても、結局上記と同様に十分に発酵風味が強いバターを得ることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-99968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、乳酸菌発酵による芳醇な発酵風味と濃厚な味を有する食塩無添加の発酵バター、その製造方法、及び、それを含む食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、発酵バターの原料である発酵前のクリームに含まれる特定種類の灰分(ミネラル)の量を特定範囲に調整することで、乳酸菌発酵を促進することができ、これによって前記クリームを特定域の酸度になるまで乳酸菌発酵させることで、芳醇な発酵風味と濃厚な味を有する発酵バターが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の第一は、発酵バター全体中、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムを合計で0.075~0.275重量%含有し、カリウム/ナトリウム(重量比)が1.4~3.9、カルシウム/ナトリウム(重量比)が0.8~3.5、マグネシウム/ナトリウム(重量比)が0.1~0.25であり、且つ酸度が0.225~0.325である、食塩無添加の発酵バターに関する。
【0010】
前記発酵バターは、好ましくは、クリーム全体中、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムを合計で0.3~1.1重量%含有し、カリウム/ナトリウム(重量比)が1.4~3.9、カルシウム/ナトリウム(重量比)が0.8~3.5、マグネシウム/ナトリウム(重量比)が0.1~0.25であるクリームを、酸度が0.9~1.3になるまで乳酸菌発酵させて得たサワークリームが転相されたものである。好ましくは、クリームが、脱脂乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、乳清ミネラル及びホエーパウダーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むクリームである。好ましくは、乳酸菌が、Lactococcus lactis subsp. lactis、Lactococcus lactis subsp. cremoris、Lactococcus lactis subsp. lactis biovar. diacetylactis、Leuconostoc mesenteroides subsp. cremoris、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus、Lactobacillus paracasei、及び、Lactobacillus rhamnosusからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0011】
本発明の第二は、クリーム全体中、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムを合計で0.3~1.1重量%含有し、カリウム/ナトリウム(重量比)が1.4~3.9、カルシウム/ナトリウム(重量比)が0.8~3.5、マグネシウム/ナトリウム(重量比)が0.1~0.25であるクリームを、酸度が0.9~1.3になるまで乳酸菌発酵させてサワークリームを得、該サワークリームを転相することを特徴とする、前記食塩無添加の発酵バターを製造する方法に関する。好ましくは、乳酸菌が、Lactococcus lactis subsp. lactis、Lactococcus lactis subsp. cremoris、Lactococcus lactis subsp. lactis biovar. diacetylactis、Leuconostoc mesenteroides subsp. cremoris、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus、Lactobacillus paracasei、及び、Lactobacillus rhamnosusからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0012】
本発明の第三は、前記食塩無添加の発酵バターを含む食品に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に従えば、乳酸菌発酵による芳醇な発酵風味と濃厚な味を有する食塩無添加の発酵バター、その製造方法、及び、それを含む食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明における発酵バターは、酸性バターとも呼ばれるもので、乳酸菌発酵させたクリームから製造されるバターのことをいい、食塩が添加されていないものである。食塩無添加の発酵バターは、食塩が添加されている発酵バターとは異なり、多く使用しても、塩味が強く出すぎたり、その特徴的な風味が損なわれることがないため、幅広く料理に使用することができる。そして、本発明の発酵バターは、特定のミネラル分を特定量含み、酸度が特定域にあることを特徴とする。
【0015】
前記特定のミネラル分は、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムを指す。本発明の発酵バターは、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムを合計で、発酵バター全体中0.075~0.275重量%含有することが好ましい。当該合計量は、0.1~0.25重量%がより好ましく、0.15~0.2重量%がさらに好ましい。前記合計量が0.075重量%より少ないと、芳醇な発酵風味と濃厚な味が劣る場合があり、0.275重量%より多いと、芳醇な発酵風味が劣る場合がある。
【0016】
本発明の発酵バターに含まれるカリウムとナトリウムの比率は、カリウム/ナトリウム(重量比)が1.4~3.9であることが好ましく、2~3.9であることがより好ましく、3~3.9であることがさらに好ましい。カリウム/ナトリウム(重量比)が1.4より小さいと塩味が強すぎて風味が損なわれる場合があり、3.9より大きいと濃厚な味が劣る場合がある。
【0017】
本発明の発酵バターに含まれるカルシウムとナトリウムの比率は、カルシウム/ナトリウム(重量比)が0.8~3.5であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1.5~2.8であることがさらに好ましい。カルシウム/ナトリウム(重量比)が0.8より小さいと塩味が強すぎて風味が損なわれる場合があり、3.5より大きいと濃厚な味が劣る場合がある。
【0018】
本発明の発酵バターに含まれるマグネシウムとナトリウムの比率は、マグネシウム/ナトリウム(重量比)が0.1~0.25であることが好ましく、0.14~0.25であることがより好ましく、0.17~0.25であることがさらに好ましい。マグネシウム/ナトリウム(重量比)が0.1より小さいと塩味が強すぎて風味が損なわれる場合があり、0.25より大きいと濃厚な味が劣る場合がある。
【0019】
本発明において、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムの含有量は、原子吸光分析法、ICP発光分析法等の既知の方法により測定することができる。
【0020】
本発明の発酵バターの酸度は、0.225~0.325であることが好ましく、0.25~0.32であることがより好ましく、0.26~0.31であることがさらに好ましい。発酵バターの酸度が0.225より小さいと乳酸菌発酵による芳醇な発酵風味と濃厚な味が弱い場合があり、0.325より大きいと酸味が強すぎて乳酸菌発酵による芳醇な発酵風味と濃厚な味が損なわれる場合がある。
【0021】
本発明において「酸度」は、牛乳関係法令集(乳業団体衛生連絡協議会(日本)、平成16年(2004年)3月)第56頁の「5 乳及び乳製品の酸度の測定法」に従って求めることができる。具体的には、試料10mlに、同量の炭酸ガスを含まない水を加えて希釈し、指示薬としてフェノールフタレイン液0.5mlを加えて、0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液で30秒間、微紅色の消失しない点を限度として滴定し、その滴定量から試料100g当たりの乳酸のパーセント量を求め、これを酸度(%)とする。乳酸の酸度を求める場合、特にこれを「乳酸酸度」(%)という。なお、前記0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液1mlは、乳酸9mgに相当する。また前記指示薬は、フェノールフタレイン1gを50%エタノールに溶かして100mlのフェノールフタレイン液としたものである。
【0022】
本発明の発酵バターは、特定のミネラル分を特定量含有するように調整したクリームを、特定域の酸度になるまで乳酸菌発酵させてサワークリームを得、これを転相して製造することができる。
【0023】
より具体的には、まず、原料乳を、遠心分離等で乳脂肪分が20~50%になるように濃縮して生クリームを得た後、必要に応じ乳原料を生クリームに添加して、特定のミネラル分を特定量含むように調整したクリームを得る。
【0024】
次いで、常法に従って該クリームの加熱殺菌を行う。その後急冷し、乳酸菌を投入して、酸度が特定域になるまで常法に従って乳酸菌発酵させてサワークリームを調製する。乳酸菌発酵後には冷却して、その冷却温度で一定時間エージングして脂肪球を安定な結晶に調整してもよい。なお、得られたサワークリームは必要に応じて殺菌してもよい。該サワークリームを常法に従って転相(チャーニング)し、脂肪球を凝集させてバター粒にして水溶性成分(バターミルク)を取り除き、必要に応じて水洗した後、練圧(ワーキング)してバター粒を充分に練り合わせることで、本発明の発酵バターを得ることができる。
【0025】
乳酸菌発酵前のクリームは、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムを合計で、前記クリーム全体中0.3~1.1重量%含有することが好ましく、0.4~1重量%含有することがより好ましく、0.6~0.8重量%含有することが更に好ましい。この範囲を外れると発酵が所定の酸度まで進まず、目的の酸度を有する発酵バターが得られない場合がある。
【0026】
乳酸菌発酵前のクリームに含まれるカリウムとナトリウムの比率は、カリウム/ナトリウム(重量比)が1.4~3.9であることが好ましく、2~3.9であることがより好ましく、3~3.9であることがさらに好ましい。この範囲を外れると発酵が所定の酸度まで進まず、目的の酸度を有する発酵バターが得られない場合がある。
【0027】
乳酸菌発酵前のクリームに含まれるカルシウムとナトリウムの比率は、カルシウム/ナトリウム(重量比)が0.8~3.5であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1.5~2.8であることがさらに好ましい。この範囲を外れると発酵が所定の酸度まで進まず、目的の酸度を有する発酵バターが得られない場合がある。
【0028】
乳酸菌発酵前のクリームに含まれるマグネシウムとナトリウムの比率は、マグネシウム/ナトリウム(重量比)が0.1~0.25であることが好ましく、0.14~0.25であることがより好ましく、0.17~0.25であることがさらに好ましい。この範囲を外れると発酵が所定の酸度まで進まず、目的の酸度を有する発酵バターが得られない場合がある。
【0029】
なお、本願において、生クリームとは、乳等省令で定義される「生乳、牛乳または特別牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去し、乳脂肪分を18.0%以上にしたもの」をいい、本発明においては、生産性の点から、乳脂肪分が20~45%の生クリームを使用することが好ましい。
【0030】
生クリームに添加してよい乳原料としては、例えば、チーズ、脱脂乳、脱脂濃縮乳、発酵乳、バターミルク、全粉乳、脱脂粉乳、バターミルクパウダー、ホエーパウダー、ホエー蛋白濃縮物(WPC)、乳蛋白濃縮物(MPC)、乳糖及び乳清ミネラル等が挙げられる。特に風味の点から、脱脂乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、乳清ミネラル及びホエーパウダーからなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましく、脱脂粉乳、乳清ミネラル及びホエーパウダーからなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することがより好ましい。
【0031】
該乳原料に含まれるカリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムの含有量は、これを生クリームに添加した後のクリームにおけるカリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムの含有量や重量比を考慮して適宜決定することができる。しかし、当該含有量や重量比を特定範囲に調整することが容易であるため、乳原料として乳清ミネラルを使用する場合には、該乳清ミネラルに含まれるカリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムの含有量は、12~25重量%であることが好ましく、乳原料としてホエーパウダーを使用する場合には、該ホエーパウダーに含まれるカリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムの含有量は、0.4~2.5重量%であることが好ましい。
【0032】
生クリームへの前記乳原料の添加量は特に限定されず、これを添加した後のクリームにおけるカリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムの含有量や重量比を考慮して適宜決定すればよい。
【0033】
前記乳原料が添加されてカリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムの含有量及び重量比が所定範囲に調整されたクリームは、常法により加熱殺菌する。その加熱条件は特に限定されず、当業者が適宜決定すればよい。また、加熱処理を実施するための装置も特に限定されず、クリームの加熱殺菌に用いる装置を適宜選択することができるが、生産性を考慮して、流路式殺菌装置が好ましい。そのような殺菌装置としては、例えば、プレート式殺菌装置、チューブ式殺菌装置、スピンジェクション式殺菌装置、ジュール式殺菌装置等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
前記加熱殺菌を終了した後は、乳酸菌を添加する前に、前記クリームを、発酵の好適温度である20~50℃まで急冷することが好ましい。20℃より低い温度まで急冷すると、その後の乳酸菌発酵が不充分になる場合がある。一方、急冷した後の温度が50℃を超えると、発酵が進みすぎて風味のバランスが崩れたり、逆に、発酵が全く進行しない場合がある。
【0035】
前記乳酸菌発酵とは、乳酸菌をクリームに添加して、後述するような発酵条件にてクリームを発酵させ、有機酸、特に乳酸を生成させる発酵をいう。ここで有機酸とは、乳酸の他、コハク酸、リンゴ酸が挙げられる。本発明の乳酸菌発酵において、有機酸、特に乳酸が発酵時に生成しているか否か、及び、その生成量は、対象液の酸度(%)を測定することにより確認することができる。
【0036】
前記乳酸菌としては、乳酸菌発酵に使用可能なものであれば特に限定されず、例えば、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、リューコノストック(Leuconostoc)属等の乳酸菌が挙げられる。具体例としては、例えば、乳酸菌株ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)等が挙げられる。特に風味の点から、Lactococcus lactis subsp. lactis、Lactococcus lactis subsp. cremoris、Lactococcus lactis subsp. lactis biovar. diacetylactis、Leuconostoc mesenteroides subsp. cremoris、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus、Lactobacillus paracasei、及び、Lactobacillus rhamnosusからなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましく、Lactococcus lactis subsp. lactis、Lactococcus lactis subsp. cremoris、Lactococcus lactis subsp. lactis biovar. diacetylactis、Leuconostoc mesenteroides subsp. cremoris、及び、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusの5種類を全て使用することがより好ましい。
【0037】
乳酸菌発酵にあたってクリームに添加する菌量(スターターとしての量)は、発酵後に達成される酸度を考慮して、当業者が適宜決定することができるが、例えば、水溶液中の乳酸菌の濃度が1×10~1×10cfu/mL程度となるような量が好ましく、また、クリーム100重量部に対して乳酸菌0.0005~5重量部が好ましい。この範囲を外れると、発酵後の酸度を所定の範囲に調整し難い場合がある。
【0038】
乳酸菌発酵は、得られるサワークリームの酸度が0.9~1.3になるまで実施する。前記酸度は1~1.3が好ましく、1.1~1.3がより好ましい。この範囲を外れると、得られる発酵バターの酸度を所定の範囲に調整し難く、乳酸菌発酵による芳醇な香りと濃厚な味が得られない場合がある。
【0039】
乳酸菌発酵の具体的な条件は、発酵後の酸度に応じて設定することができるが、具体的には、20~50℃で1~40時間が好ましく、より好ましくは、25~45℃で2~24時間であり、さらに好ましくは28~43℃で3~20時間である。
【0040】
乳酸菌発酵によって得られたサワークリームは、冷却して一定時間エージングすることにより脂肪球を安定な結晶に調整することが好ましい。具体的には、サワークリームの温度が3~15℃になるまで冷却し、該温度で5~72時間エージングすることが好ましい。該エージング時間は、10~48時間がより好ましく、12~42時間が更に好ましい。
【0041】
エージング後のサワークリームを、常法に従って、転相(チャーニング:チャーン容器による攪拌)することで脂肪球を凝集させてバター粒にして水溶性成分(バターミルク)を取り除く。転相の具体的な方法は常法に従うことができ、特に限定されないが、例えば、温度を10~15℃に調整したサワークリームをチャーン装置に入れ、脂肪球の凝集が見られるまで撹拌する方法などが挙げられる。
【0042】
前記転相の後、得られる発酵バターのバター風味を高めるために、水洗を行うことが好ましい。水洗の具体的な方法としては特に限定されず、所望の風味に合わせて適宜選択すればよいが、例えば、前記転相で取り除いたバターミルクと同量の水を添加し、チャーン装置で5秒~10分間撹拌した後、水を排出する方法などが挙げられる。しかし、ミルク風味の強い発酵バターを製造する際には、当該水洗を実施しなくてもよい。
【0043】
前記水洗後には、練圧(ワーキング)してバター粒を充分に練り合わせることで、本発明の発酵バターを得ることができる。練圧の具体的な方法は常法に従うことができ、特に限定されないが、例えば、温度を10~20℃としたバターを、チャーン装置で回転させて練り合わせる方法などが挙げられる。
【0044】
本発明の発酵バターは、各種食品の製造において使用することができる。そのような食品としては、油脂を含み得る食品であれば特に限定されないが、例えば、バターロール、クロワッサン、食パン、ブリオッシュなどのパン類、マドレーヌ、クッキー、クリームブリュレ、スポンジケーキ、カップケーキなどの菓子類、マーガリン、ショートニング、ホイップクリームなどの油脂製品、ホワイトソース、スープ、パスタソースなどの加工食品などが挙げられる。本発明の発酵バターを使用することによって、食品に芳醇な発酵風味と濃厚な味を付与することができる。
【0045】
これら食品における本発明の発酵バターの含有量は、食品の種類によって異なり、該食品に通常使用される油脂の配合量を考慮して適宜決定すればよい。ただし、本発明の発酵バターは、食品に使用される油脂の全量を置換するものであってもよいし、一部を置換するものであってもよい。通常、本発明の発酵バターの含有量は、食品の全体量に対し1~25重量%が好ましく、5~20重量%がより好ましい。発酵バターの含有量が1重量%より少ないと、発酵バターによる芳醇な発酵風味と濃厚な味の付与効果が得られない場合がある。25重量%より多いと、油分が多くなり過ぎて食品の好ましい物性や風味が得られない場合がある。
【実施例
【0046】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0047】
<発酵バターの官能評価>
熟練した10人のパネラーに、実施例および比較例で得られた各発酵バターを試食してもらい、芳醇な発酵風味、及び濃厚な味の観点で各々の官能評価を行い、その評価点の平均値を官能評価の評価値として各表に記載した。その際の評価基準は以下の通りであった。
【0048】
(芳醇な発酵風味)
5点:実施例1の発酵バターよりも、非常に好ましい芳醇な発酵風味が感じられ非常に良い
4点:実施例1の発酵バターよりも、好ましい芳醇な発酵風味が感じられ良い
3点:実施例1の発酵バターと同等の芳醇な発酵風味が感じられる
2点:実施例1の発酵バターに比べ、芳醇な発酵風味が弱く感じられる、又は、発酵風味が強く感じられ風味のバランスが崩れており悪い
1点:実施例1の発酵バターに比べ、芳醇な発酵風味が感じられない、又は、発酵風味が非常に強く感じられ風味のバランスが崩れており非常に悪い
【0049】
(濃厚な味)
5点:実施例1の発酵バターよりも、非常に好ましい濃厚な味が感じられ非常に良い
4点:実施例1の発酵バターよりも、好ましい濃厚な味が感じられ良い
3点:実施例1の発酵バターと同等の濃厚な味が感じられる
2点:実施例1の発酵バターに比べ、濃厚な味が弱く感じられて悪い
1点:実施例1の発酵バターに比べ、濃厚な味が感じられず非常に悪い
【0050】
<クロワッサンの官能評価>
熟練した10人のパネラーに、実施例および比較例で得られた各クロワッサンを試食してもらい、芳醇な発酵風味、及び濃厚な味の観点で各々の官能評価を行い、その評価点の平均値を官能評価の評価値として表に記載した。その際の評価基準は以下の通りであった。
【0051】
(芳醇な発酵風味)
5点:実施例8のクロワッサンよりも、非常に好ましい芳醇な発酵風味が感じられ非常に良い
4点:実施例8のクロワッサンよりも、好ましい芳醇な発酵風味が感じられて良い
3点:実施例8のクロワッサンと同等の芳醇な発酵風味が感じられる
2点:実施例8のクロワッサンに比べ、芳醇な発酵風味が弱く感じられる、又は、発酵風味が強く感じられ風味のバランスが崩れており悪い
1点:実施例8のクロワッサンに比べ、芳醇な発酵風味が感じられない、又は、発酵風味が非常に強く感じられ風味のバランスが崩れており非常に悪い
【0052】
(濃厚な味)
5点:実施例8のクロワッサンよりも、非常に好ましい濃厚な味が感じられ非常に良い
4点:実施例8のクロワッサンよりも、好ましい濃厚な味が感じられて良い
3点:実施例8のクロワッサンと同等の濃厚な味が感じられる
2点:実施例8のクロワッサンに比べ、濃厚な味が弱く感じられて悪い
1点:実施例8のクロワッサンに比べ、濃厚な味が感じられず非常に悪い
【0053】
<実施例及び比較例で使用した原料>
1)よつば乳業(株)製「脱脂粉乳」
2)Molkerei MEGGLE Wasserburg GmBH&Co.KG製「Fondolac SL」
3)IDI Pte.Ltd.製「Promilk102」
4)三栄源エフ・エフ・アイ(株)製「乳清ミネラルP-20」
5)LEPRINO FOODS社製「乳糖」
6)Wapsie Lactose Creamary Inc.製「Reduced Lactose Whey」
【0054】
(実施例1) 発酵バターの作製
表1の配合に従い、発酵バターを作製した。即ち、生乳100重量部を55℃にて遠心分離し、生クリーム(乳脂肪分35%)6重量部を得た。生クリーム94.8重量部を40℃に冷却後、脱脂粉乳5.2重量部を添加し、混合溶解した。このものを品温90℃まで加熱し、該温度に達した後、直ちに30℃まで冷却した。その後、乳酸菌カルチャー3.95重量部、及び、乳酸菌スターター(CHR,HANSEN社製「DCC-240」:Lactococcus lactis subsp. lactis、Lactococcus lactis subsp. cremoris、Lactococcus lactis subsp. lactis biovar. diacetylactis、Leuconostoc mesenteroides subsp. cremoris)0.05重量部を添加し、30℃で静置して発酵させた。発酵16時間後のサワークリームの酸度は、上述した方法により測定したところ0.908であった。サワークリームを5℃に冷却し、該温度で16時間以上保持してエージングを行った。その後、品温を13℃に加温し、チャーン装置にて乳脂肪の凝集が見られるまで撹拌し、バターミルクを排出した後、水洗は行わず、そのままチャーン装置内で撹拌による練圧を行って発酵バターを得た。乳酸菌発酵前のクリーム及び得られた発酵バターのミネラル含有量、それらの重量比と酸度、並びに、発酵バターの芳醇な発酵風味と濃厚な味の評価を表1に示した。
【0055】
なお、前記乳酸菌カルチャーは、次のように調製した。即ち、水90.3重量部を30℃に加温後、脱脂粉乳(よつば乳業株式会社製「脱脂粉乳」)9.7重量部を溶解し、90℃まで加熱して30分間保持した後、21℃に冷却して、還元脱脂乳を調製した。この還元脱脂乳100重量部に、乳酸菌スターター(ダニスコ社製「Bulk Set HM505 LYO 1000L」:Lactococcus lactis subsp. lactis、Lactococcus lactis subsp. cremoris、Lactococcus lactis subsp. lactis biovar. diacetylactis、Leuconostoc mesenteroides subsp. cremoris)0.0065重量部を添加し、21℃で保持してpHが4.6になるまで培養して乳酸菌カルチャーを得た。
【0056】
【表1】
【0057】
(実施例2及び比較例1) 発酵バターの作製
表1の配合に従い、実施例1の生クリームと脱脂粉乳の混合割合を89.6/10.4(実施例2)、又は96.9/3.1(比較例1)にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして発酵バターを得た。乳酸菌発酵前のクリーム及び得られた発酵バターのミネラル含有量、それらの重量比と酸度、並びに、発酵バターの芳醇な発酵風味と濃厚な味の評価を表1に示した。
【0058】
表1から明らかなように、乳酸菌発酵前のクリーム中のカリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムの合計量が0.3~1.1重量%の範囲にあり、カリウム/ナトリウム(重量比)が1.4~3.9、カルシウム/ナトリウム(重量比)が0.8~3.5、マグネシウム/ナトリウム(重量比)が0.1~0.25の範囲にあるクリームは、乳酸菌発酵後のサワークリームの酸度が0.9~1.3の範囲にあり、得られた発酵バター(実施例1及び2)は、芳醇な発酵風味と濃厚な味が感じられ良好であった。一方、乳酸菌発酵前のクリーム中のカリウム/ナトリウム(重量比)が3.95と高いクリームは、乳酸菌発酵後のサワークリームの酸度が0.797と低くて乳酸菌発酵が十分に進んでおらず、得られた発酵バター(比較例1)は、芳醇な発酵風味と濃厚な味のどちらも不足しており、物足りないものであった。
【0059】
(実施例3) 発酵バターの作製
表2の配合に従い、実施例1の生クリームと脱脂粉乳の混合割合を変更し、さらに、乳酸菌カルチャー:3.95重量部を、乳酸菌スターター(CHR,HANSEN社製「LB-12」:Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus):0.005重量部に変更し、乳酸菌スターター「DCC-240」の添加量を0.05重量部から0.1重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして発酵バターを得た。乳酸菌発酵前のクリーム及び得られた発酵バターのミネラル含有量、それらの重量比と酸度、並びに、発酵バターの芳醇な発酵風味と濃厚な味の評価を表2に示した。
【0060】
【表2】
【0061】
(実施例4~6、比較例2) 発酵バターの作製
表2の配合に従い、実施例3の脱脂粉乳を他の乳原料に変更した以外は、実施例3と同様にして発酵バターを得た。乳酸菌発酵前のクリーム及び得られた発酵バターのミネラル含有量、それらの重量比と酸度、並びに、発酵バターの芳醇な発酵風味と濃厚な味の評価を表2に示した。
【0062】
(比較例3) 発酵バターの作製
表2の配合に従い、実施例3の生クリームの配合量を95重量部から90重量部に変更し、脱脂粉乳5重量部をホエーパウダー10重量部に変更した以外は、実施例3と同様にして発酵バターを得た。乳酸菌発酵前のクリーム及び得られた発酵バターのミネラル含有量、それらの重量比と酸度、並びに、発酵バターの芳醇な発酵風味と濃厚な味の評価を表2に示した。
【0063】
(比較例4) 発酵バターの作製
表2の配合に従い、実施例6の乳清ミネラルの配合量を5重量部から10重量部に変更し、生クリームの配合量を95重量部から90重量部に変更した以外は、実施例6と同様にして発酵バターを得た。乳酸菌発酵前のクリーム及び得られた発酵バターのミネラル含有量、それらの重量比と酸度、並びに、発酵バターの芳醇な発酵風味と濃厚な味の評価を表2に示した。
【0064】
表2から明らかなように、乳酸菌発酵前のクリーム中のカリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムの合計量が0.3~1.1重量%の範囲にあり、カリウム/ナトリウム(重量比)が1.4~3.9、カルシウム/ナトリウム(重量比)が0.8~3.5、マグネシウム/ナトリウム(重量比)が0.1~0.25の範囲にあるクリームは、乳酸菌発酵後のサワークリームの酸度が0.9~1.3の範囲にあり、得られた発酵バター(実施例3~6)は、芳醇な発酵風味と濃厚な味が感じられ良好であった。
【0065】
一方、乳酸菌発酵前のクリーム中のカリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムの合計量が0.204重量%と少なく、カリウム/ナトリウム(重量比)が4.0と高いクリームは、乳酸菌発酵後のサワークリームの酸度が0.644と低くて乳酸菌発酵が十分に進んでおらず、得られた発酵バター(比較例2)は、芳醇な発酵風味と濃厚な味のどちらも不足しており、物足りないものであった。また、乳酸菌発酵前のクリーム中のカリウム/ナトリウム(重量比)が1.16、マグネシウム/ナトリウム(重量比)が0.06と低いクリームは、乳酸菌発酵後のサワークリームの酸度が0.845と若干低くて乳酸菌発酵が十分に進んでおらず、得られた発酵バター(比較例3)は、芳醇な発酵風味と濃厚な味のいずれも不足していた。更に、乳酸菌発酵前のクリーム中のカリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムの合計量が1.305重量%と高いクリームは、乳酸菌発酵後のサワークリームの酸度が0.648と低くて乳酸菌発酵が十分に進んでおらず、得られた発酵バターは、芳醇な発酵風味が非常に不足していた。
【0066】
(実施例7) 発酵バターの作製
表3の配合に従い、実施例6における生クリームの配合量を95重量部から96.3重量部に、乳清ミネラルの配合量を5重量部から3.7重量部に変更し、更に乳酸菌スターター「LB-12」の添加量を0.005重量部から0.002重量部に変更し、乳酸菌発酵の時間を16時間から20時間に変更した以外は、実施例6と同様にして発酵バターを得た。乳酸菌発酵前のクリーム及び得られた発酵バターのミネラル含有量、それらの重量比と酸度、並びに、発酵バターの芳醇な発酵風味と濃厚な味の評価を表3に示した。
【0067】
【表3】
【0068】
(比較例5及び6) 発酵バターの作製
表3の配合に従い、実施例7における乳酸菌発酵の時間を変更した以外は、実施例7と同様にして発酵バターを得た。乳酸菌発酵前のクリーム及び得られた発酵バターのミネラル含有量、それらの重量比と酸度、並びに、発酵バターの芳醇な発酵風味と濃厚な味の評価を表3に示した。
【0069】
(比較例7) 発酵バターの作製
表3の配合に従い、実施例7における乳酸菌発酵の温度と時間を変更した以外は、実施例7と同様にして発酵バターを得た。乳酸菌発酵前のクリーム及び得られた発酵バターのミネラル含有量、それらの重量比と酸度、並びに、発酵バターの芳醇な発酵風味と濃厚な味の評価を表3に示した。
【0070】
(比較例8) 発酵バターの作製
表3の配合に従い、実施例7で乳清ミネラルを配合せず、乳酸菌スターター「LB-12」の添加量を0.002重量部から0.005重量部に変更し、乳酸菌発酵の温度と時間を変更した以外は、実施例7と同様にして発酵バターを得た。乳酸菌発酵前のクリーム及び得られた発酵バターのミネラル含有量、それらの重量比と酸度、並びに、発酵バターの芳醇な発酵風味と濃厚な味の評価を表3に示した。
【0071】
表3から明らかなように、乳酸菌発酵後のサワークリームの酸度が0.9~1.3の範囲にあった発酵バター(実施例7)は、芳醇な発酵風味と濃厚な味が感じられ良好であった。一方、乳酸菌発酵をしないサワークリームを使用して作製した発酵バター(比較例5)は、芳醇な発酵風味が全くなかった。また、乳酸菌発酵後のサワークリームの酸度が0.737と低かった発酵バター(比較例6)は、芳醇な発酵風味が不足しており、物足りないものであった。乳酸菌発酵後のサワークリームの酸度が1.318と高かった発酵バター(比較例7)は、濃厚な味が不足しており、物足りないものであった。乳酸菌発酵前のクリーム中のカリウム、カルシウム、マグネシウム、及びナトリウムの合計量が0.215重量%と少なく、カリウム/ナトリウム(重量比)が4.05と高かった発酵バター(比較例8)も、濃厚な味が不足しており、物足りないものであった。
【0072】
(実施例8) クロワッサンの作製
クロワッサンを以下の手順に従い作製した。即ち、強力粉(日清製粉株式会社製「ミリオン」):80重量部、薄力粉(日清製粉株式会社製「バイオレット」):20重量部、砂糖(東洋精糖株式会社製「上白糖」):12重量部、食塩(塩事業センター社製「精製塩」):1.5重量部、イースト(株式会社カネカ製「イーストGK」):4重量部、イーストフード(株式会社カネカ製「ニューフードC」):0.1重量部、脱脂粉乳(よつば乳業株式会社製「脱脂粉乳」):2.0重量部、液卵(キューピータマゴ株式会社製「液全卵(殺菌)」:10重量部、水:52重量部をミキサーボウルに投入し、縦型ミキサー(関東混合機工業(株)社製「カントーミキサー」)にフックを取り付け、低速で3分間、高速で3分間混捏した。続いて20℃に温調した発酵バター(実施例1):5重量部を添加し、低速で3分間混捏後、高速で3分間混捏し、捏ね上げ温度25℃の生地を得た。
【0073】
次に、室温で30分間生地を発酵させた後、生地を1℃で5時間冷却した。この生地に、15℃に温調してから麺棒で厚さが約10mmのシート状に成型した発酵バター(実施例1):50重量部を3つ折りで2回折り込み、1℃で10時間冷却した後3つ折りで1回折り込み、リバースシーターの厚みを2.5mmに調整して生地を伸ばした。生地を成型後、35℃、湿度70%のホイロで60分間最終発酵し、200℃のオーブンで15分間焼成し、クロワッサンを得た。得られたクロワッサンの芳醇な発酵風味と濃厚な味を評価し、それらの結果を表4にまとめた。
【0074】
【表4】
【0075】
(実施例9~14、比較例9~16) クロワッサンの作製
実施例8において、練り込み及び折り込みに使用した発酵バター(実施例1)を、他の発酵バター(実施例2~7、比較例1~8)に変更した以外は、実施例8の方法と同様にしてクロワッサンを得た。得られたクロワッサンの芳醇な発酵風味と濃厚な味を評価し、それらの結果を表4にまとめた。
【0076】
表4から明らかなように、実施例1~7の発酵バターを使用して作製したクロワッサン(実施例8~14)は、何れも芳醇な発酵風味と濃厚な味が感じられ、良好な風味であった。一方、比較例1~8の発酵バターを使用して作製したクロワッサン(比較例9~16)は、何れも芳醇な発酵風味と濃厚な味の少なくともどちらかが不足しており、物足りないものであった。