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特許7258522伸縮継手、伸縮継手の防食方法および伸縮継手のメンテナンス方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】伸縮継手、伸縮継手の防食方法および伸縮継手のメンテナンス方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 27/12 20060101AFI20230410BHJP
   F16L 58/04 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
F16L27/12 A
F16L58/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018218914
(22)【出願日】2018-11-22
(65)【公開番号】P2020085099
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000126609
【氏名又は名称】株式会社エーアンドエーマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康介
【審査官】▲高▼藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-353616(JP,A)
【文献】特開昭63-225786(JP,A)
【文献】特開平10-288291(JP,A)
【文献】特開2018-168455(JP,A)
【文献】実開昭59-171293(JP,U)
【文献】特開平02-048939(JP,A)
【文献】実公昭41-003577(JP,Y1)
【文献】特開昭62-141075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 27/00-27/12
F16L 58/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温の流体が流通する一対のダクトの間を伸縮可能に接続する、伸縮継手であって、
前記伸縮継手は、前記ダクトと接続するための一対のフランジと、ベローズおよび断熱材を保持する金属製のフレーム部とを有し、
前記フレーム部の流体側内面には、下塗り防食塗装、防食テープおよび上塗り防食塗装をこの順で備えた防食層が設けられ、
前記下塗り防食塗装および前記上塗り防食塗装に用いる塗料が耐熱シリコン樹脂を含み、
前記防食テープは、前記下塗り防食塗装および/または前記上塗り防食塗装に用いる塗料と同一の塗料を、無機繊維織布に含浸させたものであり、
前記無機繊維織布が1m あたり、50~400gの質量を有し、
前記下塗り防食塗料および前記上塗り防食塗料の含浸量が、防食テープ1m あたり、400~1,200gである
ことを特徴とする伸縮継手。
【請求項2】
前記無機繊維織布が、ガラス繊維織布またはアルミナ繊維織布であることを特徴とする請求項に記載の伸縮継手。
【請求項3】
前記下塗り防食塗装および前記上塗り防食塗装に用いる塗料が、少なくとも耐熱シリコン樹脂、防錆顔料、着色顔料および体質顔料を含み、これらを有機溶剤または水に分散させたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の伸縮継手。
【請求項4】
設置時に下側となるドレンが溜まりやすい部位の少なくとも1部に、ドレン排出構造を備えることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の伸縮継手。
【請求項5】
高温の流体が流通する一対のダクトの間を伸縮可能に接続する、伸縮継手の防食方法であって、
前記伸縮継手は、前記ダクトと接続するための一対のフランジと、ベローズおよび断熱材を保持する金属製のフレーム部とを有し、
前記フレーム部の流体側内面に、下塗り防食塗装、防食テープおよび上塗り防食塗装をこの順で備えた防食層を設ける工程を有し、
前記下塗り防食塗装および前記上塗り防食塗装に用いる塗料が耐熱シリコン樹脂を含み、
前記防食テープは、前記下塗り防食塗装および/または前記上塗り防食塗装に用いる塗料と同一の塗料を、無機繊維織布に含浸させたものであり、
前記無機繊維織布が1m あたり、50~400gの質量を有し、
前記下塗り防食塗料および前記上塗り防食塗料の含浸量が、防食テープ1m あたり、400~1,200gである
ことを特徴とする伸縮継手の防食方法。
【請求項6】
高温の流体が流通する一対のダクトの間を伸縮可能に接続する、使用中または使用済の伸縮継手のメンテナンスに適用する防食方法であって、
前記伸縮継手は、前記ダクトと接続するための一対のフランジと、ベローズおよび断熱材を保持する金属製のフレーム部とを有し、
前記フレーム部の流体側内面に、下塗り防食塗装、防食テープおよび上塗り防食塗装をこの順で備えた防食層を設ける工程を有し、
前記下塗り防食塗装および前記上塗り防食塗装に用いる塗料が耐熱シリコン樹脂を含み、
前記防食テープは、前記下塗り防食塗装および/または前記上塗り防食塗装に用いる塗料と同一の塗料を、無機繊維織布に含浸させたものであり、
前記無機繊維織布が1m あたり、50~400gの質量を有し、
前記下塗り防食塗料および前記上塗り防食塗料の含浸量が、防食テープ1m あたり、400~1,200gである
ことを特徴とするメンテナンスに適用可能な伸縮継手の防食方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮継手および伸縮継手のメンテナンスにも適用可能な防食方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火力発電所、製鉄所、ゴミ焼却場等の燃焼装置から排出された排気等の流体を移送するダクトの連結部には、ダクト自体の熱膨張や振動等を吸収する目的で伸縮継手が使用されている。
図1は、伸縮継手の一例を示すための斜視図である。
図1に示す伸縮継手10は、高温の流体が流通する一対のダクト(図示せず)の間を伸縮可能に接続するものであって、一対の継手フランジ部7a、9aと、金属製のフレーム部7b、9bと、筒状のベローズ11とを備えている。一対の継手フランジ部7a、9aおよびベローズ11は、適用対象となる物件のダクト配管の形状に合わせて、図1に示されるように円筒形に構成されていたり、あるいは図示しない角筒形に構成されていたりする。ベローズ11は、伸縮継手の両端部(ダクト配管との接続面)間の距離が、接続するダクト配管の離間距離よりも十分長くなるのに必要な寸法を有している。そして、ベローズ11を弛ませた状態で伸縮継手をダクト間に取付けることにより、ダクト系の熱伸縮、軸変位および振動等を吸収することができる。
【0003】
図2は、前記伸縮継手の縦断面図である。伸縮継手10は例えばガスタービンプラントに使用されるものであり、一対の被接続部材である一対のダクト3、5内は、運転時に温度400℃程度の高温流体が流通することになる。このため、気密性の保持に必要なベローズを、熱や流体に含まれるダスト等による摩耗から守るために、断熱材およびバッフル等を用いた複雑な保護構造を備えている。伸縮継手10は、上流側ダクト3及び下流側ダクト5の間に配設され、一対のフランジ付き継手本体7、9と、これら一対の継手本体7、9を連結する筒状のベローズ11と、ベローズ11の内側に配置された複数の断熱材13、15、17、19、21とを備える。一対の継手本体7、9はそれぞれ、対応するダクト3、5に接続するような管状部材からなる。第1の継手本体7の上流側には、継手フランジ部7aが形成されている。一方、上流側ダクト3の下流側にも同様なダクトフランジ部3aが形成されており、継手フランジ部7aとダクトフランジ部3aとを締結手段23などにより接続することにより、第1の継手本体7は上流側ダクト3に気密に接続されている。また、第2の継手本体9の下流側及び下流側ダクト5の上流側にも同様な継手フランジ部9a及びダクトフランジ部5aが形成されており、これら継手フランジ部9a及びダクトフランジ部5aを締結手段23などにより接続することにより、第2の継手本体9は下流側ダクト5に気密に接続されている。
【0004】
第1及び第2の継手本体7、9のそれぞれ外面には、環状の金属製のフレーム部7b、9bが溶接により立設されている。これらのフレーム部7b、9bにはそれぞれ、ベローズ11の上流端及び下流端が係合している。さらに、フレーム部7b、9bに係合したベローズ11の上流端及び下流端の外側には、押え板7c、9cが配設されている。ベローズ11の上流端及び下流端がフレーム部7b、9b及び押え板7c、9cの間に挟まれた状態で、これらフレーム部及び押え板は締結手段25によって連結される。このようにしてベローズ11は一対の継手本体7、9の間に固定される。また、一対の押え板7c、9cは、締結手段25により固定されたL型金具7d、9dを介しシッピングボルト27によって連結されている。なお、シッピングボルト27は、取付寸法に伸縮継手をセットするために使用するもので、ダクト3、5間への接続完了後には取外すものである。
【0005】
ベローズ11の内側に設けられた複数の断熱材のうち最も外側には、断熱材13が配置されており、さらにその内側へと順に第1の伸縮断熱材15、第2の伸縮断熱材17が配置されている。これら断熱材13、15、17は、ベローズ11の内側であって同時に継手本体7、9の外側に位置しており、一対のフレーム部7b、9b及びベローズ11に囲まれている。
【0006】
また、第2の伸縮断熱材17のさらに内側には露出断熱材19が配置され、露出断熱材19の内側には一対の固定断熱材21が配置されている。これら断熱材19、21は、ベローズ11の内側であって同時に継手本体7、9の内側に位置している。また、一対の固定断熱材21は、伸縮継手10の流れ方向中央部を空けて上流側及び下流側に分離して設けられている。これにより、露出断熱材19は、一対の固定断熱材21の間すなわち流れ方向中央部において流路に対して露出している。一対の継手本体7、9のそれぞれ下面からは、スタッドボルト29が内側すなわち流路軸心側に向けて立設されている。これらスタッドボルト29は、露出断熱材19及び固定断熱材21を貫通し、その先端は固定断熱材21の内周面から突出している。一方、一対の継手本体7、9のそれぞれ上面からも、スタッドボルト29が外側すなわち流路軸心側とは反対方向に向けて立設され、断熱材13、15、17を固定している。さらに、各固定断熱材21の周囲には断熱材カバー31が設けられており、各断熱材カバー31は、スタッドボルト29の先端に螺合するナットによって固定されている。また、上流側の断熱材カバー31には、バッフル33が取り付けられている。
【0007】
ベローズ11の基本構成は、内部を流通する流体側から、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のシール層、シール層よりも外気側(流体から遠い側つまり径方向外側)の補強層、更にその外気側に設けられた外皮層、という3つの要素からなり、必要に応じてシール層のさらに流体側に保護層を設けている。前記各断熱材により、ベローズ11への熱影響を軽減させることができ、ベローズ11の延命化を図ることができる。さらには、このような構造とすることで、ベローズ材や断熱材を更新する場合においても、フランジやフレーム部といった金属部材はそのままで、ベローズ材や断熱材のみを更新すればすむためメンテナンス性に優れている。
【0008】
しかしながら、断熱材を用いた伸縮継手では、燃焼ガスなどの酸性かつ高温の内部流体がベローズ11側に入り込んだ場合、ベローズ11に近い部分では断熱材によって酸露点までガス温度が低下してしまうため、内部流体が酸性ドレンとなってフレーム部7b、9bなどの金属部材を腐食させるといった問題点がある。
【0009】
そこで、こうした酸性ドレンによる金属部材の腐食を防ぐ方法として、従来より耐食鋼の使用や防食塗料による塗装などの方法が知られている。しかし、特殊な耐食鋼は加工が難しいうえ、大型のものではコストがかさみ過ぎるため現実的ではなく、防食塗料による塗装は、伸縮継手のような運転時と停止時の温度差が激しい用途では金属の膨張収縮に追従しきれずクラックや剥離を生じてしまう問題がある。また、フランジとベローズの隙間に腐食物質が侵入することを防止する方法(特許文献1)や伸縮継手内部に滞留するドレンを排出する方法(特許文献2)なども考案されているが、腐食物質の侵入防止機構は伸縮継手の構造が複雑になることやそのメンテナンスが煩雑になってしまう問題があり、ドレンを排出する方法では、ドレンによる腐食の防止効果は期待できるものの、ドレンには達していない酸性ガスによる腐食や減肉が生じるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開昭63-225786号公報
【文献】特開平10-288291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって本発明の目的は、コストや施工性に悪影響を及ぼすことなく、ドレンや腐食性ガスによる金属部材の腐食を良好に防止できる伸縮継手およびそのメンテナンスにも適用可能な防食方法並びにメンテナンス方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、フレーム部の流体側内面に、従来は塩害対策等を目的として屋外の蒸気配管や煙突排気部などの外装に用いられていた耐熱性の防食塗料を適用し、無機含浸テープと積層した防食層とすることにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の通りである。
1.高温の流体が流通する一対のダクトの間を伸縮可能に接続する、伸縮継手であって、
前記伸縮継手は、前記ダクトと接続するための一対のフランジと、ベローズおよび断熱材を保持する金属製のフレーム部とを有し、
前記フレーム部の流体側内面には、下塗り防食塗装、防食テープおよび上塗り防食塗装をこの順で備えた防食層が設けられていることを特徴とする伸縮継手。
2.前記防食テープは、前記下塗り防食塗装および/または前記上塗り防食塗装に用いる塗料と同一の塗料を、無機繊維織布に含浸させたものであることを特徴とする前記1に記載の伸縮継手。
3.前記無機繊維織布が、ガラス繊維織布またはアルミナ繊維織布であることを特徴とする前記2に記載の伸縮継手。
4.前記下塗り防食塗装および前記上塗り防食塗装に用いる塗料が、少なくとも耐熱シリコン樹脂、防錆顔料、着色顔料および体質顔料を含み、これらを有機溶剤または水に分散させたものであることを特徴とする前記1~3のいずれかに記載の伸縮継手。
5.設置時に下側となるドレンが溜まりやすい部位の少なくとも1部に、ドレン排出構造を備えることを特徴とする前記1~4のいずれかに記載の伸縮継手。
6.高温の流体が流通する一対のダクトの間を伸縮可能に接続する、伸縮継手の防食方法であって、
前記伸縮継手は、前記ダクトと接続するための一対のフランジと、ベローズおよび断熱材を保持する金属製のフレーム部とを有し、
前記フレーム部の流体側内面に、下塗り防食塗装、防食テープおよび上塗り防食塗装をこの順で備えた防食層を設ける工程を有することを特徴とする伸縮継手の防食方法。
7.高温の流体が流通する一対のダクトの間を伸縮可能に接続する、使用中または使用済の伸縮継手のメンテナンスに適用する防食方法であって、
前記伸縮継手は、前記ダクトと接続するための一対のフランジと、ベローズおよび断熱材を保持する金属製のフレーム部とを有し、
前記フレーム部の流体側内面に、下塗り防食塗装、防食テープおよび上塗り防食塗装をこの順で備えた防食層を設ける工程を有することを特徴とするメンテナンスに適用可能な伸縮継手の防食方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の伸縮継手は、高温の流体が流通する一対のダクトの間を伸縮可能に接続するためのものであり、前記ダクトと接続するための一対のフランジと、ベローズおよび断熱材を保持する金属製のフレーム部とを有し、前記フレーム部の流体側内面には、下塗り防食塗装、防食テープおよび上塗り防食塗装をこの順で備えた防食層が設けられているので、腐食を生じ易いフランジやフレームの内面が前記防食層により保護され、内部流体のドレンおよび腐食性ガスによる腐食を防止でき、かつ、防食テープの存在によって金属の膨張収縮に対して優れた追従性を発揮してクラックや剥離も防止できる、という効果を奏する。また、防食層は、下塗り防食塗装、防食テープおよび上塗り防食塗装からなり、簡単な構造であることから、コスト性および施工性にも優れる。
また、本発明のメンテナンス方法によれば、多少の腐食が進行している既存の伸縮継手に対しても、メンテナンスに絡めて同様の防食層を設けることにより、その後の使用においては内部流体のドレンおよび腐食性ガスによる腐食を良好に防止できる。
以上から、本発明によれば、コストや施工性に悪影響を及ぼすことなく、ドレンや腐食性ガスによる金属部材の腐食を良好に防止できる伸縮継手およびそのメンテナンスにも適用可能な防食方法並びにメンテナンス方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】伸縮継手の一例を示すための斜視図である。
図2図1の伸縮継手の縦断面図である。
図3】本発明の伸縮継手の一実施形態の縦断面図である。
図4】防食層の断面図である。
図5】本発明の伸縮継手の他の実施形態を説明するための、伸縮継手の一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながらさらに説明する。
図3は、本発明の伸縮継手の一実施形態の縦断面図である。
【0016】
図3に示す伸縮継手1は、図1および2で示した前記伸縮継手1とほぼ同様の構成を有するが、図3を参照しながら再度説明する。本発明の伸縮継手1は、フレーム部の流体側内面に、下塗り防食塗装、防食テープおよび上塗り防食塗装をこの順で備えた防食層52が設けられていることを特徴としている。
【0017】
図3に示す伸縮継手1は、図1および2で示した前記伸縮継手1と同様に、ガスタービンプラントに使用されるものとして例示されている。
伸縮継手1は、上流側ダクト3及び下流側ダクト5の間に配設され、一対のフランジ付き継手本体7、9と、これら一対の継手本体7、9を連結する筒状のベローズ11と、ベローズ11の内側に配置された複数の断熱材13、15、17、19、21とを備える。一対の継手本体7、9はそれぞれ、対応するダクト3、5に接続するような管状部材からなる。第1の継手本体7の上流側には、継手フランジ部7aが形成されている。一方、上流側ダクト3の下流側にも同様なダクトフランジ部3aが形成されており、継手フランジ部7aとダクトフランジ部3aとを締結手段23などにより接続することにより第1の継手本体7は上流側ダクト3に気密に接続されている。また、第2の継手本体9の下流側及び下流側ダクト5の上流側にも同様な継手フランジ部9a及びダクトフランジ部5aが形成されており、これら継手フランジ部9a及びダクトフランジ部5aを締結手段23などにより接続することにより、第2の継手本体9は下流側ダクト5に気密に接続されている。
【0018】
第1及び第2の継手本体7、9のそれぞれ外面には、環状の金属製のフレーム部7b、9bが溶接により立設されている。これらのフレーム部7b、9bにはそれぞれ、ベローズ11の上流端及び下流端が係合している。さらに、フレーム部7b、9bに係合したベローズ11の上流端及び下流端の外側には、押え板7c、9cが配設されている。ベローズ11の上流端及び下流端がフレーム部7b、9b及び押え板7c、9cの間に挟まれた状態で、これらフレーム部及び押え板は締結手段25によって連結される。このようにしてベローズ11は一対の継手本体7、9の間に固定される。また、一対の押え板7c、9cは、締結手段25により固定されたL型金具7d、9dを介しシッピングボルト27によって連結されている。なお、シッピングボルト27は、取付寸法に伸縮継手をセットするために使用するもので、ダクト3、5間への接続完了後には取外すものである。
【0019】
ベローズ11の内側に設けられた複数の断熱材のうち最も外側には、断熱材13が配置されており、さらにその内側へと順に第1の伸縮断熱材15、第2の伸縮断熱材17が配置されている。これら断熱材13、15、17は、ベローズ11の内側であって同時に継手本体7、9の外側に位置しており、一対のフレーム部7b、9b及びベローズ11に囲まれている。
【0020】
また、第2の伸縮断熱材17のさらに内側には露出断熱材19が配置され、露出断熱材19の内側には一対の固定断熱材21が配置されている。これら断熱材19、21は、ベローズ11の内側であって同時に継手本体7、9の内側に位置している。また、一対の固定断熱材21は、伸縮継手1の流れ方向中央部を空けて上流側及び下流側に分離して設けられている。これにより、露出断熱材19は、一対の固定断熱材21の間すなわち流れ方向中央部において流路に対して露出している。一対の継手本体7、9のそれぞれ下面からは、スタッドボルト29が内側すなわち流路軸心側に向けて立設されている。これらスタッドボルト29は、露出断熱材19及び固定断熱材21を貫通し、その先端は固定断熱材21の内周面から突出している。一方、一対の継手本体7、9のそれぞれ上面からも、スタッドボルト29が外側すなわち流路軸心側とは反対方向に向けて立設され、断熱材13、15、17を固定している。さらに、各固定断熱材21の周囲には断熱材カバー31が設けられており、各断熱材カバー31は、スタッドボルト29の先端に螺合するナットによって固定されている。また、上流側の断熱材カバー31には、バッフル33が取り付けられている。
【0021】
上述のように、図3に示す伸縮継手1は、フレーム部7b、9bの流体側内面に、好ましくは該内面の全面に、下塗り防食塗装、防食テープおよび上塗り防食塗装をこの順で備えた防食層52が設けられている。
【0022】
図4は、フレーム部7bの流体側内面に設けられた防食層52の断面図である。フレーム部7bからフレーム部7bの流体側内面に向かう方向において、下塗り防食塗装522、防食テープ524および上塗り防食塗装526がこの順で設けられている。フレーム部7bの防食層52を設ける面は、あらかじめ2種ケレン以上の下地調整を行っておくことが好ましい。
【0023】
下塗り防食塗装522を形成するための塗料(下塗り防食塗料)としては、耐熱性および金属製のフレーム部との密着性を有するものであればとくに制限されないが、例えば耐熱シリコン樹脂、防錆顔料、着色顔料および体質顔料を含み、これらを有機溶剤または水に分散させたものが、耐熱性、施工性、コストパフォーマンスに優れ好ましい。耐熱シリコン樹脂としては、当業界で公知のものを適宜選定して使用することができる。防錆顔料としては、既存の塩基性防錆顔料、不導体被膜形成防錆顔料、還元性防錆顔料等から適宜選択し、使用することができる。ただし、耐熱性が必要なことから無機系の防錆顔料が好ましく、特に鉛およびクロムを含まないものが好ましい。また、着色顔料および体質顔料についても耐熱性が必要なことから、無機系の顔料を用いるのが好ましい。
下塗り防食塗装522の厚さとしては、例えば70μm~200μmであり、100μm~150μmが好ましい。
【0024】
防食テープ524の材質としては、金属の膨張収縮に対して優れた追従性を発揮してクラックや剥離を良好に防止できるという観点から、無機繊維織布が好ましく、ガラス繊維織布またはアルミナ繊維織布がさらに好ましい。
このような無機繊維織布は、1mあたり、50~400gであるのが好ましく、100~300gであるのがさらに好ましい。
防食テープ524の幅としては、例えば10mm~300mmであり、50mm~200mmが好ましい。
防食テープ524の厚さとしては、例えば0.1mm~1.0mmであり、0.3mm~0.7mmが好ましい。
防食テープ524は、下塗り防食塗装522を介して、1層として、あるいは複数層重ねてフレーム部7b、9bの流体側内面に貼着することにより設置することができる。
【0025】
上塗り防食塗装526を形成するための塗料(上塗り防食塗料)としては、下塗り防食塗装522と同様の塗料を使用することができる。
上塗り防食塗装526の厚さとしては、例えば50μm~200μmであり、70μm~120μmが好ましい。
【0026】
防食層52は、下塗り防食塗料を下地に塗布し、その上に防食テープを密着させ、続いて防食テープ上に上塗り防食塗料を塗布することにより形成することができる。塗布方法としては、公知の方法を採用すればよく、とくに制限されないが、例えば刷毛塗りやスプレー塗装等が挙げられる。
なお、下塗り防食塗料および/または上塗り防食塗料と同一の塗料を、施工前に予め無機繊維織布に含浸させておき、これを防食テープとして用いてもよい。この形態によれば、下塗り防食塗装522、防食テープ524および上塗り防食塗装526間の密着性が良好となり、耐熱性、施工性等をさらに高めることができる。この形態において、下塗り防食塗料および/または上塗り防食塗料の含浸量は、防食テープ1mあたり、400~1,200gであるのが好ましく、400~800gであるのがさらに好ましい。
上記形態では、防食層52の厚さは、例えば1,200μm~2,000μmであり、1,200μm~1,600μmが好ましい。
【0027】
このような本発明の伸縮継手1によれば、腐食を生じ易いフランジやフレームの金属部材の内面が防食層52によって保護されているため、内部流体の酸性ドレンや腐食性ガスが発生したとしても、これらは該金属部材と直接接触せず、金属部材の腐食を防止することができる。また、防食層52は、防食テープ524の存在によって金属の膨張収縮に対して優れた追従性を発揮するので、クラックや剥離を生じにくく、長期間にわたり前記腐食防止効果が維持される。さらに防食層52は、下塗り防食塗装522、防食テープ524および上塗り防食塗装526からなる簡単な構造であることから、コスト性および施工性にも優れる。
なお、多少の腐食が進行している既存の伸縮継手に対して本発明の防食方法を適用する場合には、ケレン作業等により汚れや錆を取り除いたのち、腐食により生じた不陸を耐熱性のパテを用いて埋めてから、下地調整を行って防食層を形成するのが好ましい。
【0028】
また本発明の伸縮継手は、ドレンによる金属部材の腐食をさらに良好に防止できるという観点から、設置時に下側となるドレンが溜まりやすい部位の少なくとも1部に、ドレンの排出を促進するドレン排出構造を設けてもよい。
図5は、このような本発明の伸縮継手の他の実施形態を説明するための、伸縮継手の一部拡大図である。
図5は、伸縮継手の底面付近の構造を示しており、該伸縮継手は図3で示した本発明の伸縮継手1とほぼ同様の構造を有するものであるが、断熱材の最底面である断熱材13にドレン管72が連結されている。この構造によれば、断熱材およびフレーム部付近に存在するドレンを、弁722の開閉により、伸縮継手1の外部に効率的に排出することができ、金属部材の腐食防止がさらに高まる。ドレン管72は、金属製または耐熱樹脂製とすることが可能であり、フレーム部7b、9bに溶接、接着、螺合等により連結することが可能である。金属製のドレン管を設置する場合には、耐食鋼を用いるか、あるいは防食処理を施したドレン管を用いることが望ましい。また、耐熱樹脂製のドレン管を用いる場合の材質としては、PTFE、PFA、FEPなどのフッ素樹脂が好適である。
【0029】
本発明によれば、コストや施工性に悪影響を及ぼすことなく、ドレンや腐食性ガスによる金属部材の腐食を良好に防止できる伸縮継手およびそのメンテナンスにも適用可能な防食方法並びにメンテナンス方法を実現することができる。
【実施例
【0030】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0031】
(1)鋼板
鋼板として、新日鐵住金株式会社製のS-TEN2を用いた。
鋼板サイズ:100mm×100mm×6mm
(2)防食塗料
下塗りおよび上塗り防食塗料として株式会社カロッツェリアジャパン製のナイトプライマーNP-400を用いた。
(3)防食テープ
防食テープとして株式会社カロッツェリアジャパン製のナイトテープNT-400を用いた。なお、このテープはガラス繊維織布にナイトプライマーNP-400を含浸させたものであり、テープ幅は50mm、厚さは約0.6mm、テープ1mあたりの質量は約800gである。また、ナイトプライマーNP-400の含浸量は、テープ1mあたり、約600gであった。
【0032】
実施例1
鋼板に1種ケレンを施し、その表面に膜厚約60μmとなるように1回目の下塗り防食塗料を塗布し、その後1時間の間隔をあけて、1回目の下塗り防食塗装の上に、膜厚約60μmとなるように2回目の下塗り防食塗料を塗布し、下塗り防食塗料の総厚が約120μmとなる下塗り防食塗装を行った。下塗り防食塗装を行ってから12時間自然乾燥した後に、膜厚約60μmとなるように下塗り塗装面に防食塗料を塗布しながら、防食テープを貼り付けた。防食テープは、図4に示すように、テープの幅方向に約半分ずらしながら重ね貼りしていき、鋼板の片側全面で防食テープがほぼ2層となるようにした。なお、防食テープが重なり合う部分の間にも膜厚約60μmとなるように防食塗料を塗布した。その後、1時間自然乾燥し、上塗り防食塗料を膜厚約100μmとなるよう塗布して室温25℃で3日間養生し、防食層を形成した試験体とした。
【0033】
実施例2
鋼板に2種ケレンを施した以外は実施例1と同様の防食層を形成し試験体とした。
【0034】
比較例1
鋼板に1種ケレンを施し、その表面に膜厚約60μmとなるように1回目の防食塗料を塗布し、その後1時間の間隔をあけて、1回目の防食塗装の上に、膜厚約60μmとなるように2回目の防食塗料を塗布し、防食塗装の総厚が約120μmとなる防食塗装を行った。塗装後、室温25℃で3日間養生し、防食塗料のみを塗布した試験体とした。
【0035】
比較例2
鋼板に2種ケレンを施した以外は比較例1と同様に防食塗料のみを塗布した試験体とした。
【0036】
比較例3
鋼板をそのまま使用し、ケレンなどの処理はしていないものとした。
【0037】
(4)評価
各試験体を雰囲気200℃の加熱炉に1時間入れ、取り出し、常温まで冷却する、これを1サイクルとして、このサイクルを10回繰り返し、その後、試験体を1N硫酸に24時間浸漬して外観観察を行った。同様の試験を雰囲気温度400℃についても実施した。
外観を目視観察により、異常なしを○、塗膜にクラックが発生したものを△、塗膜にクラックが発生しさらに塗膜が剥落し、鋼板が露出した部分が黒く腐食したものを×とした。
鋼板のみについては錆が発生したため×とした。
【0038】
得られた評価結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から明らかなように、ガラス繊維織布からなる防食テープを積層した防食層を形成することにより、実施例1および2は、繰り返しの加熱に対しても優れた防食効果を有していた。
一方、防食層を防食塗装のみで形成した比較例1および比較例2は、繰り返しの加熱によって防食層にクラックの発生または塗膜の剥落が発生し、さらには、塗膜が剥落した部分が硫酸により腐食してしまい十分な防食効果を有していなかった。
【符号の説明】
【0041】
1、10 伸縮継手
3 上流側ダクト
5 下流側ダクト
7、9 継手本体
7a、9a 継手フランジ部
7b、9b フレーム部
7c、9c 押え板
7d、9d L型金具
11 ベローズ
13、15、17、19、21 断熱材
27 シッピングボルト
29 スタッドボルト
52 防食層
522 下塗り防食塗装
524 防食テープ
526 上塗り防食塗装
72 ドレン管
722 弁
図1
図2
図3
図4
図5