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▶ ショット グラス テクノロジーズ (スゾウ) カンパニー リミテッドの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】高強度の超薄ガラスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/085 20060101AFI20230410BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20230410BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20230410BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
C03C3/085
C03C3/087
C03C3/091
C03C21/00 101
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2018556375
(86)(22)【出願日】2016-04-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-06
(86)【国際出願番号】 CN2016080773
(87)【国際公開番号】W WO2017185354
(87)【国際公開日】2017-11-02
【審査請求日】2018-11-26
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】512139847
【氏名又は名称】ショット グラス テクノロジーズ (スゾウ) カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT GLASS TECHNOLOGIES (SUZHOU) CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】79 Huoju Road, Science & Technology Industrial Park, Suzhou New District, Suzhou, Jiangsu 215009, China
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【弁理士】
【氏名又は名称】篠 良一
(72)【発明者】
【氏名】フオン ホー
(72)【発明者】
【氏名】フイヤン ファン
(72)【発明者】
【氏名】ホセ ツィマー
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】原 和秀
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-51882(JP,A)
【文献】特表2016-508954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
C03C21/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ100μm以下を有する化学強化可能なガラス物品であって、前記ガラスが1100℃を上回る作業点T4を有し、且つ前記ガラスが25℃~300℃の温度範囲で6×10-6/℃を上回り且つ13×10-6/℃未満の平均線熱膨張係数CTEを有し、前記ガラスが、純粋なKNO3塩浴中に420℃で2時間浸漬された場合に少なくとも14μm2/時間の閾値拡散率Dを有し、および前記物品が0.4m×0.5mの面積内で最大10μmの全体厚さばらつき(TTV)を有し、前記物品が5nm未満の表面粗さRaを有し、前記ガラスが、以下の成分を示された量(質量%):
【表1】
で含むことを特徴とする、前記物品。
【請求項2】
前記物品が、厚さが67μm未満を有する物品について0.4m×0.5mの面積内で最大5μmのTTVを有する、請求項1に記載のガラス物品。
【請求項3】
前記物品が、1350℃より低い作業点T4を有する、請求項1または2に記載のガラス物品。
【請求項4】
前記CTEが、7×10-6/℃よりも高い、請求項1から3までのいずれか1項に記載のガラス物品。
【請求項5】
熱間成型の難易度係数が、8060×10-6~14000×10-6の範囲である、請求項1から4までのいずれか1項に記載のガラス物品。
【請求項6】
逆剛性が、0.032×10 -12 ~0.0355×10 -12 (s/mm)2の範囲である、請求項1から5までのいずれか1項に記載のガラス物品。
【請求項7】
前記ガラスが、純粋なKNO3塩浴中に420℃で2時間浸漬された場合に少なくとも20μm2/時間の閾値拡散率Dを有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載のガラス物品。
【請求項8】
前記物品が、純粋なKNO3塩浴中、420℃で2時間の化学強化をされた場合に、前記物品の圧縮応力CSが少なくとも450MPaとなる圧縮応力感受性CSSを有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載のガラス物品。
【請求項9】
ガラスが、以下の成分を示された量(質量%)で含む、請求項1から8までのいずれか1項に記載のガラス物品:
【表2】
【請求項10】
厚さ100μm以下を有する化学強化ガラス物品であって、前記ガラスが1100℃を上回る作業点T4を有し、且つ前記ガラスが25℃~300℃の温度範囲で6×10-6/℃を上回り且つ13×10-6/℃未満の平均線熱膨張係数CTEを有し、前記物品が、0.4m×0.5mの面積内で最大10μmの全体厚さばらつき(TTV)を有し、層の深さ(DoL)が50μm未満であり、内部引張応力CTが少なくとも120MPaであり、前記ガラスが、以下の成分を示された量(質量%):
【表3】
で含むことを特徴とする、前記物品。
【請求項11】
厚さ100μm以下を有する化学強化ガラス物品であって、前記ガラスが1100℃を上回る作業点T4を有し、且つ前記ガラスが25℃~300℃の温度範囲で6×10-6/℃を上回り且つ13×10-6/℃未満の平均線熱膨張係数CTEを有し、前記物品が、0.4m×0.5mの面積内で最大10μmの全体厚さばらつき(TTV)を有し、層の深さ(DoL)が50μm未満であり、前記ガラスが、以下の成分を示された量(質量%):
【表4】
で含むことを特徴とする、前記物品。
【請求項12】
圧縮応力CSが1200MPa未満である、請求項10または11に記載の化学強化ガラス物品。
【請求項13】
圧縮応力CSが700MPaを上回る、請求項10から12までのいずれか1項に記載の化学強化ガラス物品。
【請求項14】
内部引張応力CTが少なくとも120MPaである、請求項11に記載の化学強化ガラス物品。
【請求項15】
内部引張応力の圧縮応力に対する比率が0.05~2.0の範囲である、請求項10から14までのいずれか1項に記載の化学強化ガラス物品。
【請求項16】
前記物品がリチウム不含である、請求項10から15までのいずれか1項に記載の化学強化ガラス物品。
【請求項17】
抵抗スクリーン用のカバーフィルム、およびディスプレイスクリーン、携帯電話、カメラ、ゲーム用ガジェット、タブレット、ラップトップ、TV、鏡、窓、航空機の窓、家具および白物家電用の使い捨て保護フィルムとしての、請求項10から16までのいずれか1項に記載の化学強化ガラス物品の使用。
【請求項18】
ディスプレイの基板およびカバー、指紋センサモジュールの基板またはカバー、半導体のパッケージ、薄膜電池の基板およびカバーの用途における、請求項10から16までのいずれか1項に記載の化学強化ガラス物品の使用。
【請求項19】
前記化学強化ガラス物品が、反射防止、傷防止、指紋防止、抗菌、防眩またはそれらの組み合わせの機能を達成するために、被覆または表面改質されている、請求項10から16までのいずれか1項に記載の化学強化ガラス物品。
【請求項20】
請求項1からまでのいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法であって、以下の段階:
a) 所望のガラスのための原料の組成物を準備する段階、
b) 前記組成物を溶融する段階、
c) 板ガラス工程においてガラス物品を製造する段階
を含み、ここで、段階b)において得られた溶融物を板ガラス工程において、Tgの100℃上である温度TaからTgの50℃下である温度Tbへと、一方ではTaとTbとの間の平均冷却速度Cと、他方ではガラス物品の厚さtとの積が少なくとも100mm℃/分且つ300mm℃/分未満であるように冷却する、前記方法。
【請求項21】
請求項10から16までのいずれか1項に記載の化学強化ガラス物品の製造方法であって、以下の段階:
a) 所望のガラスのための原料の組成物を準備する段階、
b) 前記組成物を溶融する段階、
c) 板ガラス工程においてガラス物品を製造する段階、
d) 化学強化する段階
を含み、ここで、段階b)において得られた溶融物を板ガラス工程において、T g の100℃上である温度T a からT g の50℃下である温度T b へと、一方ではT a とT b との間の平均冷却速度Cと、他方ではガラス物品の厚さtとの積が少なくとも100mm℃/分且つ300mm℃/分未満であるように冷却する、前記方法。
【請求項22】
一方ではTaとTbとの間の平均冷却速度Cと、他方ではガラス物品の厚さtとの積が、280mm℃/分未満である、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
4×CTE×ln(C×t)が、40000×10-6~80000×10-6ln(mm℃/分)の範囲である、請求項20から22までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記板ガラス工程がダウンドローである、請求項20から23までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
化学強化する段階が、イオン交換工程を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記イオン交換工程が、前記ガラス物品または該物品の一部を、一価のカチオンを含有する塩浴中に浸漬することを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記一価のカチオンが、カリウムイオンである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ガラス物品または該物品の一部を、350℃~700℃の間の温度で5分~48時間の間、前記塩浴中に浸漬する、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
前記物品がリチウム不含である、請求項1から9までのいずれか1項に記載のガラス物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小さい全体厚さばらつき(TTV)と、優れた化学強化性能とを兼ね備えた超薄ガラス物品に関する。前記物品は、好ましくは直接的な熱間成型によって製造される。前記ガラスは高い成型温度および高いCTEを有する。本発明は、フレキシブルおよびプリンテッド・エレクトロニクスにおけるフレキシブルユニバーサル基板、タッチ制御パネルのためのセンサ、薄膜電池基板、モバイル電子機器、半導体インターポーザ、曲げることができるディスプレイ、太陽電池、または高い化学的安定性と、温度安定性と、低いガス透過性と、柔軟性と、薄い厚さとの組み合わせが必要とされる他の用途としての、高強度フレキシブルガラスの使用にも関する。消費者用および工業用電子機器の他に、本発明を工業生産または計測法における保護用途のために使用することもできる。
【背景技術】
【0002】
種々の組成を有する薄いガラスは、透明性、高い化学薬品耐性および耐熱性、および定義された化学的特性および物理的特性が重要である多くの用途のために適した基材である。例えば、無アルカリガラスを、ディスプレイパネルのために、およびウェハ形式における電子的なパッケージング材料として使用できる。アルカリ含有ホウケイ酸ガラスは、フィルターコーティング基板、タッチセンサ基板、および指紋センサモジュールのカバーのために使用される。
【0003】
現在、製品の新たな機能性および広い用途分野についての継続的な要請により、ガラス基板がさらにより薄く且つ軽量で、小さなTTVおよび極めて高い強度を有することが求められている。超薄ガラスが典型的に適用される分野は、微細電子機器の保護カバーである。
【0004】
極めて高い強度を達成するために、アルミナ含有率が高いアルミノシリケート(AS)ガラスであって、高い圧縮強度(CS)、層の深さ(Depth of Layer; DoL)、およびKイオン含有溶融塩中への浸漬後に生じる高い強度に到達できるものが必要とされている。ここで、典型的な表面圧縮応力(CS)は600~1000MPaである。イオン交換層の深さ(DoL)は典型的には30μmを上回り、好ましくは40μmを上回る。輸送または空輸における安全な保護用途のために、ASガラスは100μmを上回る交換層を有し得る。通常、高いDoLを伴う高いCSは、それら全ての用途を目的としており、且つ、ガラスの厚さは通常約0.5mm~10mmにわたる。
【0005】
他方で、ガラスシートが0.5mmより薄くなってくると、主に破壊をもたらす欠陥、例えばガラス端部でのクラックおよび欠けに起因して取り扱いがより困難になる。また、全体の機械的強度、つまり曲げまたは衝撃強さに反映されるものは、著しく低減される。通常、より厚いガラスの端部は、CNC(コンピュータ数値制御)で研削されて欠陥が除去されるが、機械研削を0.3mm未満の厚さを有する超薄ガラスに適用することは難しい。端部のエッチングは、超薄ガラスから欠陥を除去するための1つの解決策になり得るが、薄いガラスシートの柔軟性は、ガラス自体の低い曲げ強度によって制限されたままである。結果として、薄いガラスについて、ガラスの強化は極めて重要である。
【0006】
典型的には、低いTTVを有する<0.5mm厚の超薄アルミノシリケート板ガラスを、直接的な熱間成型法で製造することは困難である。化学的または物理的な方法によって後処理された薄いアルミノシリケートガラスと比較して、直接的な熱間成型された薄いガラスは、遙かに良好な表面の均質性、TTVおよび表面粗さを有し、なぜなら、表面が高温溶融状態から室温へと冷却されるからである。ダウンドロー法を使用して、0.3mmまたは0.1mmよりも薄いガラス、例えばアルカリホウケイ酸ガラスまたは無アルカリアルミノホウケイ酸ガラスを製造できる。しかしながら、そのようなガラスは、高い成型温度T4(ガラスの粘度が104dPa・sである温度として定義される)と、高いCTE(熱膨張係数)とを兼ね備えない。
【0007】
アルミノシリケートガラスは、アルカリ金属イオンの速い拡散を可能にする高いAl23含有率ゆえに化学強化に特に適している。従って、小さいTTVを有する超薄且つ化学強化可能な、または強化されたアルミノシリケートガラス物品が利用可能であったなら有利であろう。しかしながら、高い強度へと化学強化され得る熱間成型された超薄板ガラスを製造するための主な課題は、高いT4と高いCTEとの組み合わせであり、そのようなアルミノシリケートガラスは、高いT4をもたらす比較的高いAl23含有率と、高いCTEをもたらすかなりの量のNa2OとK2Oとの両方を含有する。従って、そのようなガラスは、一方では高いT4ゆえに高い成型温度を必要とし、且つ他方では高いCTEゆえの温度変化に際して破壊に至る張力および変形を発現しやすい。結果として、そのようなガラスの直接的な熱間成型は著しく困難であり、小さなTTVを有する超薄ガラスは、これまでのところ可能ではなかった。
【0008】
ガラスの化学強化は、いくつかの発明によって記載されている。米国特許出願公開第20100009154号明細書(US20100009154)は、圧縮応力の外側領域を有する0.5mm以上の厚さのガラスを記載しており、その外側領域は、層の深さが少なくとも50μmであり、且つ圧縮応力が少なくとも200MPaを上回る。化学強化、および表面領域に圧縮応力を作り出す段階は、ガラスの少なくとも一部を、複数のイオン交換浴中に連続して浸漬することを含む。そのようなガラスは、消費者用の用途のために使用され得る。しかしながら、小さなTTVを有する超薄ガラスの優れた化学強化性能は達成されていない。
【0009】
多くの制限を有する化学強化可能な超薄ガラスの記載はいくつかの発明において見出される。米国特許出願公開第2015183680号明細書(US2015183680)は、限定的な範囲の中央の張力範囲および30μmを上回るDoLを有する、0.4mm未満のガラスの強化を記載している。しかしながら、30μmを上回るDoLは超薄強化ガラスにおける脆弱性および自己破壊などの問題をもたらす。さらには、どのように0.4mm未満の厚さのガラスを製造するのかは、この特許出願内では説明されていない。さらには、小さなTTVを有する超薄ガラスの優れた化学強化性能は達成されていない。
【0010】
米国特許出願公開第201405911号明細書(US201405911)は、液相状態から室温のCTEの変化が107×107/℃未満である、強化可能な超薄ガラスの熱間成型を記載している。しかしながら、そのようなCTEは、直接的な成型法によって化学強化可能な超薄ガラスの製造についての影響要因として同定されていない。ここでもまた、超薄ガラスの製造はこの出願においては考慮されていない。さらには、小さなTTVを有する超薄ガラスの優れた化学強化性能は達成されていない。
【0011】
米国特許出願公開第20120048604号明細書(US20120048604)においては、イオン交換可能な超薄アルミノシリケートまたはアルミノホウケイ酸ガラスシートが、電子機器用のインターポーザパネルとして使用されている。インターポーザパネルは、イオン交換性ガラスから形成されたガラス基板コアを含む。そのCTEは、半導体および金属材料およびその種のもののCTEと合致するように設定され得る。ガラスの製造方法およびどのように表面品質および厚さの均質性を改善するかは、この特許では考慮されていない。実際に、直接的な熱間成型製造を容易にすると共に良好な強化能力を達成するためのガラス組成の調節は、小さいTTVおよび低い表面粗さを有する超薄ガラスを得るための最も重要な方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許出願公開第20100009154号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015183680号明細書
【文献】米国特許出願公開第201405911号明細書
【文献】米国特許出願公開第20120048604号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、強化後に高い強度を達成でき且つ小さいTTVを有する、超薄ガラスの直接的な熱間成型を介して上記の問題を解決することである。意外なことに、高い成型温度と高いCTEとの両方を有するガラスを、溶融状態から、液相ガラスを自重または追加的な引っ張り力で補助することにより、下向きに導くことによって熱間成型できることが判明した。この超薄ガラスの成型能力が、まさに高いT4と高いCTE特性とを示すアルカリ金属含有アルミノシリケートガラスの直接的な熱間成型製造を可能にする。さらに意外なことに、ヤング率に対する密度の形で表される逆剛性(inverse stiffness)が、そのような超薄ガラスの安定な製造を確実にするように低くなければならないことが判明した。本発明者らは、特にTg+100℃とTg-50℃との間の温度における熱間成型の間の冷却のレジームが、本発明の小さなTTVを有する超薄ガラスの優れた化学強化性能を達成するために非常に重要であることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の概要
本発明は、厚さ0.5mm以下を有する化学強化可能なガラス物品であって、前記ガラスが1100℃を上回る作業点T4を有し、且つ前記ガラスが25℃~300℃の温度範囲で6×10-6/℃を上回る平均線熱膨張係数CTEを有し、前記物品が、少なくとも1.5μm2/時間の閾値拡散率D、および厚さが200μmを上回る物品について0.4m×0.5mの面積内で40μm未満の全体厚さばらつき(TTV)、厚さが50μm~200μmの物品について0.4m×0.5mの面積内で物品の厚さの20%未満のTTV、および厚さが50μm未満の物品について0.4m×0.5mの面積内で最大10μmのTTVを有することを特徴とする、前記物品を提供する。
【0015】
本開示の1つの態様は、前記ガラス物品の製造方法を提供することである。前記ガラスを、ダウンドローまたはオーバーフローフュージョン法、または特別なフロートまたはリドロー、またはより厚いガラスから研磨により薄くすること(polishing down)、またはより厚いガラスをエッチングによってスリミングすることを介して製造できる。マザーガラスは、シートまたはロールの形態で提供され得る。マザーガラスは好ましくは、粗さRaが5nm未満である元のままの(pristine)表面を有し、次にガラスの表面の1つまたは2つがイオン交換されて、化学強化される。前記超薄ガラスは、ロール・ツー・ロール加工を適用するために理想的である。
【0016】
意外なことに、Ta(Tg+100℃に等しい)からTb(Tg-50℃に等しい)への冷却速度を、100mm℃/分~300mm℃/分の範囲、より良好には150mm℃/分~300mm℃/分の範囲、さらに良好には200mm℃/分~300mm℃/分の範囲に制御することによって、高いT4と高いCTEとを兼ね備えた超薄ガラスを直接的に熱間成型でき、優れた化学強化性能および小さなTTVを有する超薄ガラス物品が得られることが判明した。
【0017】
1つの実施態様において、前記ガラスはアルカリ含有ガラス、例えばアルカリアルミノシリケートガラス、アルカリシリケートガラス、アルカリホウケイ酸ガラス、アルカリアルミノホウケイ酸ガラス、アルカリホウ素ガラス、アルカリゲルマン酸塩(germinate)ガラス、アルカリボロゲルマン酸塩ガラスおよびそれらの組み合わせである。
【0018】
それらの態様および他の態様、利点および特徴を、以下の段落、図面および添付の特許請求の範囲においてより詳細に記載する。
【0019】
技術用語の説明
圧縮応力(CS): ガラスの表面層上でイオン交換後にガラスの網目間で誘導される圧縮。そのような圧縮は、ガラスの変形によって緩和され得ず、応力として維持される。市販の試験機、例えばFSM6000は、導波管の機構によってCSを測定できる。
【0020】
層の深さ(DoL): CSがガラス表面上に存在するイオン交換層の厚さ。市販の試験機、例えばFSM6000は、導波管の機構によってDoLを測定できる。
【0021】
内部引張応力(CT): CSが1枚のガラスシートの両側上で誘導される場合、ニュートンの法則の第三原理に従って応力を平衡させるために、ガラスの内部領域で引張応力が誘導されなければならず、それが内部引張応力と称される。CTは、測定されたCSとDoLとから計算できる。
【0022】
表面粗さ(Ra): 表面組織の尺度。実際の表面の理想的な形態からの垂直方向のずれによって定量化される。慣例的に、振幅パラメータが粗さプロファイルの中心線からの垂直方向のずれに基づいて表面を特徴付ける。Raはそれらの垂直方向のずれの絶対値の算術平均である。
【0023】
作業点(T4): ガラスが完全に再成型され得る温度。ガラスの粘度が104dPa・sである際に定義される。
【0024】
詳細な説明
薄板ガラスの熱間形成は、ガラス厚が0.5mmより薄くなると困難になってくる。ガラス溶融物は高温から冷却され、104dPa・s付近の粘度で所望の形態を形成し始める。従って、粘度が104dPa・sである際の温度T4は、ガラスの熱間成型の容易さにとって重要である。T4が低いほどガラスの成型は容易であり、なぜなら、材料および熱間成型装置の操業条件が、あまり高温適合性でなくてもよいからである。さらには、より低いT4は通常、低い溶融温度および清澄温度を意味し、そのことにより、溶融タンクの設計の努力および耐火物の侵食を著しく低減でき、且つ引き延ばされたタンクの寿命はさらにガラス溶融物の安定な製造を保証し、ひいては板ガラスの熱間成型工程を容易にする。
【0025】
作業点の他に、薄ガラスをうまく製造するための他の重要なパラメータはガラスのCTEである。高品質の薄ガラスは、小さなTTV、低い表面粗さ、および低い変形、および最も重要なのは破壊がないことが必要である。板ガラスの成型工程、特にダウンドローおよびオーバーフローフュージョン工程の間、ガラスは速やかにT4から室温へと冷却される。このことは特に、ガラスが薄くなってくると当てはまり、なぜなら、薄いガラスのより低い単位質量を補償するようにガラスベルトの流れる速度がより速くなるので、より薄いガラスの冷却速度も、アニール工程を修正することなく、より速くなる。冷却速度がガラスの熱衝撃閾値を超えるとガラスベルトは破壊し、無傷のガラスを得ることができない。閾値に達しなくても、ガラスのCTEが高すぎれば、速い冷却速度が残留熱応力をもたらし、それがさらに製造されたガラスの大きな反りをみちびく。
【0026】
超薄板ガラス成型の困難さゆえに、市場に存在する超薄ガラスは、無アルカリアルミノホウケイ酸ガラスのように低いCTEを有するか、またはアルカリホウケイ酸ガラスおよび一般的な超薄ソーダライムガラスのように低いT4を有するかのいずれかである。
【0027】
超薄ガラス物品は、厚さ500μm以下、好ましくは400μm以下、300μm以下、210μm以下、175μm以下、さらには100μm以下、より好ましくは70μm未満、より好ましくは50μm未満を有する。そのような特に薄いガラスは、上述のとおり様々な用途のために望ましい。特に、厚さが薄いとガラスの柔軟性が与えられる。
【0028】
本発明のガラスは好ましくは、比較的多量のAl23を含有して、アルカリ金属イオンの速やかな拡散を可能にし、ひいては化学強化される能力を改善する。しかしながら、Al23は、ガラスの作業点T4を上昇させる。より低いAl23含有率を用いた実施態様であっても、ガラスの作業点T4は1100℃より高い。より好ましい実施態様において、ガラスの作業点T4は1150℃よりも高い。そのような高い作業点は、直接的な熱間成型によるガラスの製造を煩雑にする。しかしながら、本発明者らは、高いT4を有するガラスからであっても、小さなTTVを有する超薄ガラス物品を得るための方法を見出した。それにもかかわらず、作業点T4は、製造があまりに困難になりすぎないように、高すぎるべきではない。従って、作業点T4は、好ましくは1350℃未満、より好ましくは1300℃未満、より好ましくは1250℃未満、さらにより好ましくは1200℃未満である。
【0029】
ガラスが化学強化によく適するようになるために、ガラスは比較的多量のアルカリ金属イオン、特に好ましくはナトリウムイオンを含有する。しかしながら、それによって、温度範囲25℃~300℃の平均線熱膨張係数CTEは上昇する。好ましくは、本発明のガラスは、7×10-6/℃より高い、より好ましくは8×10-6/℃より高い、より好ましくは9×10-6/℃より高いCTEを有する。しかしながら、高いCTEは、直接的な熱間成型によるガラスの製造を煩雑にもする。従って、ガラスは好ましくは13×10-6/℃未満のCTEを有する。
【0030】
上述のとおり、本発明のガラスは非常に良好に化学強化可能で、そのことは高いT4および高いCTEと相関している。特に、高いT4と高いCTEとの組み合わせは、直接的な熱間成型にとって不利である。それにもかかわらず、本発明者らは、非常に薄い厚さと、小さなTTVとを有するガラスを得るための方法を見出した。本発明者らは、T4とCTEとの積として定義される熱間成型の難易度係数が、本発明のガラスが一方では非常に良好に化学強化可能であるが他方では熱間成型によって得られるための能力を記載するための良好な尺度であることを見出した。好ましくは、本発明のガラスの熱間成型の難易度係数は、8060×10-6~14000×10-6の範囲、より好ましくは8600×10-6~14000×10-6の範囲、より好ましくは9000×10-6~13000×10-6の範囲、より好ましくは10000×10-6~12000×10-6の範囲、さらにより好ましくは10500×10-6~11500×10-6の範囲である。
【0031】
超薄ガラスの製造の間、ヤング率に対する密度によって定義される逆剛性も重要な役割を果たす。逆剛性が高いと、高い柔軟性をもたらし、そのことは、溶融状態から引き出された薄いガラスベルトのより高い度合いの垂下および震動をもたらし、且つ、冷却された超薄ガラス物品の破壊および反りのリスクを高める。他方で、低い逆剛性は、冷却工程の間のガラスベルトの安定性を維持するためには良いが、超薄ガラスを特定の半径に曲げる場合の破壊のリスクを高める(それは通常、熱間成型の間の外部の力の下での超薄ガラスに対しては容易である)。従って、超薄ガラス物品の逆剛性は、(s/mm)2の単位で、好ましくは0.032×10 -12 ~0.0355×10 -12 の範囲、より好ましく0.0325×10 -12 ~0.0345×10 -12 の範囲、さらにより好ましくは0.033×10 -12 ~0.034×10 -12 の範囲である。
【0032】
電子機器における実用的な用途のために、前記ガラス物品は、厚さが200μmを上回る物品について0.4m×0.5mの面積内で40μm未満のTTV、厚さが50μm~200μmの物品について0.4m×0.5mの面積内で物品の厚さの20%未満のTTV、および厚さが50μm未満の物品について0.4m×0.5mの面積内で最大10μmのTTVを有する。好ましくは、前記ガラス物品は、厚さが200μmを上回る物品について0.4m×0.5mの面積内で30μm未満のTTV、厚さが67μm~200μmの物品について0.4m×0.5mの面積内で物品の厚さの15%未満のTTV、および厚さが67μm未満の物品について0.4m×0.5mの面積内で最大10μmのTTVを有する。より好ましくは、前記ガラス物品は、厚さが200μmを上回る物品について0.4m×0.5mの面積内で20μm未満のTTV、厚さが100μm~200μmの物品について0.4m×0.5mの面積内で物品の厚さの10%未満のTTV、および厚さが100μm未満の物品について0.4m×0.5mの面積内で最大10μmのTTVを有する。さらにより好ましくは、前記ガラス物品は、厚さが500μm以下の物品について0.4m×0.5mの面積内で10μm未満のTTVを有する。小さいTTVは現在の高精度電子機器および光学素子にとって重要である。指紋センサの用途においては、ガラス上の電気信号の伝達能力は制限され、TTVが小さくなるほど、指紋センサカバーのために使用できる呼び厚さはより厚くなり、このことにより、機械的な安定性が改善される。TTVとは、示された面積内でのガラス物品の最大厚さと最小厚さとの間の差として理解される。TTVは、オンラインの厚さ計によって測定できる。好ましくは、TTVはSEMI MF 1530によって測定される。
【0033】
直接的な熱間成型によって小さいTTVを有する化学強化可能な超薄ガラス物品を得ることを可能にする本明細書内に記載される重要な方法のパラメータの他に、ガラス組成も、前記物品の関連する特性および直接的な熱間成型の使用可能性に重要な影響を及ぼすことがある。
【0034】
良好な化学強化性能に到達するために、前記ガラスはかなりの量のアルカリ金属イオン、好ましくはNa2Oを含有すべきであり、さらには、より少ない量のK2Oをガラス組成物に添加することも、化学強化速度を改善できる。さらには、意外なことに、Al23をガラス組成物に添加することにより、ガラスの強化性能を著しく改善でき、且つAl23を含有しないガラスよりも遙かに高いCSおよびDoLをもたらす。しかしながら、アルカリ酸化物の添加はシリケートガラスのCTEを高め、Al23の添加はT4を著しく高める。高められたCTEとT4との両方が超薄ガラスの成型をより難しくする。
【0035】
SiO2は、本発明のガラスにおける主たるガラスの網目形成成分である。さらには、Al23、B23およびP25もガラスの網目形成成分として使用され得る。SiO2、B23およびP25の合計の含有率は、慣例的な製造方法のためには40%未満であってはならない。そうでなければ、ガラスシートは成型が困難になることがあり、且つ脆くなり且つ透明性を失うことがある。高いSiO2含有率は、ガラスの製造の高い溶融温度および作業温度を必要とし、それは通常、90%未満であるべきである。好ましい実施態様において、ガラス中のSiO2含有率は、40~75質量%、より好ましくは50~70質量%、さらにより好ましくは55~68質量%である。B23およびP25をSiO2に添加すると、網目特性を修飾でき且つガラスの溶融温度および作業温度を低下させることができる。ガラスの網目形成成分も、ガラスのCTEに大きな影響を及ぼす。
【0036】
さらには、ガラスの網目中のB23は2つの異なる多面体構造を形成し、そのことにより、外側からかかる力に対する適合性が増す。B23の添加は通常、より低い熱膨張およびより低いヤング率をもたらし、そのことが良好な熱衝撃耐性およびよりゆっくりとした化学強化速度をみちびき、それを通じて低いCSおよび低いDoLが容易に得られる。従って、B23の超薄ガラスへの添加は、化学強化処理のウィンドウおよび超薄ガラスを大幅に改善でき、且つ、化学強化された超薄ガラスの実用上の用途を広げることができる。好ましい実施態様において、本発明のガラス中のB23の量は、0~20質量%、より好ましくは0~18質量%、より好ましくは0~15質量%である。B23の量が多すぎると、ガラスの融点が高くなりすぎることがある。さらには、化学強化性能は、B23の量が多すぎると低下する。
【0037】
Al23は、ガラスの網目形成成分とガラスの網目修飾成分との両方として作用する。[AlO4]四面体および[AlO6]六面体が、ガラスの網目中でAl23の量に依存して形成され、それらは、ガラスの網目内部のイオン交換のための空間のサイズを変化させることによってイオン交換速度を調節できる。従って、本発明のガラスは好ましくは、Al23を少なくとも10質量%の量、より好ましくは少なくとも14質量%の量で含む。しかしながら、Al23の含有率が高すぎると、ガラスの溶融温度および作業温度も非常に高くなり、且つ結晶が形成されやすくなり、ガラスが透明性および柔軟性をなくす。従って、本発明のガラスは好ましくは、最大40質量%、より好ましくは最大30質量%、より好ましくは最大27質量%の量のAl23を含む。
【0038】
本発明者らは、意外なことに、SiO2の質量割合の、Al23の質量割合に対する比率が、ガラスの性能に重要な影響を及ぼし得ることも見出した。その比率が非常に高ければ、ガラスの化学強化性能はいくぶん低い。しかしながら、その比率が非常に低いと、ガラスは極めて高いT4および極めて高い溶融温度を有することがあり、そのことにより、直接的な熱間成型によるガラスの製造が劇的に煩雑になる。好ましくは、SiO2の質量割合のAl23の質量割合に対する比率は、1.5~12、より好ましくは2~10、より好ましくは2.5~8、より好ましくは3~7の範囲である。
【0039】
アルカリ酸化物、例えばK2O、Na2OおよびLi2Oは、ガラスの網目修飾成分として作用する。それらは、ガラスの網目を破壊し、ガラスの網目内部で非架橋酸化物を形成できる。アルカリを添加することは、ガラスの作業温度を低下させ且つガラスのCTEを高めることができる。Na+/Li+、Na+/K+、Li+/K+のイオン交換は強化のために必須の段階であるので、ナトリウムおよびリチウム含有率は、化学強化可能である超薄フレキシブルガラスにとって重要であり、アルカリ自体が含有されなければガラスは強化されない。しかしながら、ナトリウムはリチウムよりも好ましく、なぜなら、リチウムはガラスの拡散率を著しく低減しかねないからである。従って、本発明のガラスは好ましくは、Li2Oを5質量%未満、より好ましくは最大4質量%、より好ましくは最大2質量%、より好ましくは最大1質量%、より好ましくは最大0.1質量%の量で含む。特に好ましい実施態様はLi2O不含ですらある。
【0040】
本発明のガラスは好ましくは、Na2Oを少なくとも4質量%、より好ましくは少なくとも5質量%、より好ましくは少なくとも6質量%、より好ましくは少なくとも8質量%、より好ましくは少なくとも10質量%の量で含む。ナトリウムは化学強化性能のために非常に重要であり、なぜなら、化学強化は好ましくは、ガラス中のナトリウムと化学強化媒体中のカリウムとのイオン交換を含むからである。しかしながら、ナトリウム含有率も高すぎるべきではなく、なぜならガラスの網目が酷く悪化することがあり、且つガラスが極めて形成されにくくなることがあるからである。他の重要な要因は、超薄ガラスが低いCTEを有するべきであることであり、そのような要請に合致するためにガラスは多すぎるNa2Oを含有すべきではない。従って、ガラスは好ましくはNa2Oを最大30質量%、より好ましくは最大28質量%、より好ましくは最大27質量%、より好ましくは最大25質量%、より好ましくは最大20質量%の量で含む。
【0041】
本発明のガラスはK2Oを含み得る。しかしながら、ガラスは好ましくは、ガラス中のナトリウムイオンと化学強化媒体中のカリウムイオンとを交換することにより化学強化されるので、ガラス中の多すぎる量のK2Oは化学強化性能を損なうことがある。従って、本発明のガラスは好ましくは、K2Oを最大7質量%、より好ましくは最大5質量%、より好ましくは最大4質量%、より好ましくは最大3質量%、より好ましくは最大2質量%、より好ましくは最大1質量%、より好ましくは最大0.1質量%の量で含む。特に好ましい実施態様において、本発明のガラスはK2O不含ですらある。
【0042】
しかし、ガラスの網目が酷く悪化することがあり且つガラスが極めて形成しにくくなることがあるので、アルカリ含有率の総量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは28質量%以下、より好ましくは27質量%以下であるべきである。他の重要な要因は超薄ガラスが低いCTEを有するべきであることであり、そのような要請に合致するためにガラスは多すぎるアルカリ元素を含有すべきではない。しかしながら、上述のとおり、化学強化を容易にするためには、ガラスはアルカリ元素を含有すべきである。従って、本発明のガラスは好ましくは、アルカリ金属酸化物を少なくとも4質量%、より好ましくは少なくとも5質量%、より好ましくは少なくとも7質量%、より好ましくは少なくとも10質量%の量で含む。
【0043】
本発明者らは、SiO2とAl23との合計の質量割合の、ガラス中のアルカリ金属酸化物の質量割合に対する比率が重要な役割を果たし得ることを見出した。その比率が低すぎると、ガラスの網目が酷く悪化することがあり、且つガラスが極めて形成されにくくなることがある。しかしながら、その比率が高すぎると、ガラスの化学強化性能が損なわれることがある。好ましくは、SiO2とAl23との合計の質量割合の、ガラス中のアルカリ金属酸化物の質量に対する比率は2~10、より好ましくは3~8、より好ましくは4~7である。
【0044】
アルカリ土類酸化物、例えばMgO、CaO、SrO、BaOは網目修飾成分として作用し、且つガラスの形成温度を低下させる。それらの酸化物を添加して、ガラスのCTEおよびヤング率を調節できる。アルカリ土類酸化物は、特別な要請に合致させるためにガラスの屈折率を変えることができるという非常に重要な機能を有する。例えば、MgOはガラスの屈折率を低下することができ、BaOは屈折率を高めることができる。アルカリ土類酸化物の質量含有率は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下、より好ましくは12質量%以下であるべきである。アルカリ土類酸化物の量が多すぎると、化学強化性能が悪化することがある。さらには、アルカリ土類酸化物の量が多すぎると、結晶化傾向が高まることがある。
【0045】
ガラス内のいくつかの遷移金属酸化物、例えばZnOおよびZrO2は、アルカリ土類酸化物と類似した機能を有する。他の遷移金属酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、TiO2、CuO、CeO2およびCr23は、特定の光学的機能またはフォトニック機能を有するガラス、例えばカラーフィルタまたは光変換器を製造するための着色剤として機能する。As23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として、0~2質量%の量で添加してもよい。希土類酸化物を0~5質量%の量で添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0046】
1つの実施態様において、超薄フレキシブルガラスは、以下の成分を示された量(質量%)で含むアルカリ金属アルミノシリケートガラスである:
【表1】
【0047】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。As23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として、0~2質量%の量で添加することもできる。希土類酸化物を0~5質量%の量で添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0048】
本発明のアルカリ金属アルミノシリケートガラスは好ましくは、以下の成分を示された量(質量%)で含む:
【表2】
【0049】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0050】
最も好ましくは、本発明のアルカリ金属アルミノシリケートガラスは、以下の成分を示された量(質量%)で含む:
【表3】
【0051】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0052】
1つの実施態様において、超薄フレキシブルガラスは、以下の成分を示された量(質量%)で含むアルカリソーダライムガラスである:
【表4】
【0053】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0054】
この発明のソーダライムガラスは好ましくは、以下の成分を示された量(質量%)で含む:
【表5】
【0055】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0056】
この発明のソーダライムガラスは好ましくは、以下の成分を示された量(質量%)で含む:
【表6】
【0057】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0058】
この発明のソーダライムガラスは好ましくは、以下の成分を示された量(質量%)で含む:
【表7】
【0059】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0060】
最も好ましくは、本発明のソーダライムガラスは、以下の成分を示された量(質量%)で含む:
【表8】
【0061】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0062】
最も好ましくは、本発明のソーダライムガラスは、以下の成分を示された量(質量%)で含む:
【表9】
【0063】
任意に、着色酸化物、例えばNd23、Fe23、CoO、NiO、V25、MnO2、CuO、CeO2、Cr23を添加できる。0~2質量%のAs23、Sb23、SnO2、SO3、Clおよび/またはFを清澄剤として添加することもできる。0~5質量%の希土類酸化物を添加して、ガラスシートに磁性またはフォトニックまたは光学的機能を付加することもできる。
【0064】
典型的には、高いT4とCTEとを有する超薄ガラスを、より厚いガラスから研磨により薄くするかまたはエッチングによって製造できる。それら2つの方法は経済的ではなく、且つ、Ra粗さおよび波打ちおよび大きなTTVによって定量化される粗悪な表面品質をもたらす。
【0065】
直接的な熱間成型製造、例えばダウンドロー、オーバーフローフュージョン法が量産には好ましい。それらは経済的であり、且つガラス表面の品質が高く、且つ厚さ10μm~500μmを有する超薄ガラスを製造できる。例えば、ダウンドロー/オーバーフローフュージョン法は、5nm未満、好ましくは2nm未満、さらに好ましくは1nm未満の粗さRaを有する、元のままの表面またはファイヤーポリッシュされた表面を製造できる。厚さを、10μm~500μmの範囲に正確に制御することもできる。薄い厚さはガラスの柔軟性を与える。特別なフロート法は、元のままの表面を有する超薄ガラスを製造でき、経済的且つ量産のためにも適しているが、フロート法によって製造されたガラスは、スズの側としての一方の側が、他方とは異なる。2つの側の間の相違は、化学強化の後にガラスの反りの問題を引き起こし、印刷または被覆工程に影響することがあり、なぜなら2つの側が異なる表面エネルギーを有するからである。
【0066】
超薄ガラスを、シートまたはロールの形態で製造および加工できる。前記シートサイズは好ましくは、100×100mm2以上、好ましくは400×320mm2より大きく、好ましくは470×370mm2より大きく、最も好ましくは550×440mm2より大きい。薄ガラスのロールは好ましくは、250mmより大きい、好ましくは320mmより大きい、より好ましくは370mmより大きい、最も好ましくは440mmより大きい幅を有する。ガラスロールのためのガラスの長さは好ましくは1mより長く、好ましくは10m、さらに好ましくは100m、最も好ましくは500mである。
【0067】
強くすることは強化と称され、カリウムイオンを有する溶融塩浴中にガラスを浸漬するか、またはカリウムイオンまたは他のアルカリ金属イオンを含有するペーストによってガラスを被覆し、高温で特定の時間加熱することによって行うことができる。塩浴またはペースト中のより大きなイオン半径を有するアルカリ金属イオンが、ガラス物品中のより小さな半径を有するアルカリ金属イオンと交換され、イオン交換に起因して表面圧縮応力が形成される。
【0068】
本発明の化学強化されたガラス物品は、本発明の化学強化可能なガラス物品を化学的に強化することにより得られる。超薄ガラス物品を、一価のイオンを含有する塩浴中に浸漬して、ガラス内部のアルカリイオンと交換することによって、強化工程を行うことができる。塩浴中の一価のイオンは、ガラス内部のアルカリイオンよりも大きな半径を有する。ガラスへの圧縮応力は、より大きなイオンがガラスの網目中に割り込むことに起因して、イオン交換後に形成される。イオン交換後、超薄ガラスの強度および柔軟性は意外なことに、著しく改善される。さらに、化学強化によって誘導されるCSは、ガラスの引掻耐性を高めるので、強化されたガラスは容易に引っ掻き傷がつかず、且つDoLは引っ掻き許容度を高めることができ、ガラスが引っ掻かれたとしても破壊しにくい。
【0069】
化学強化のために最も使用される塩は、Na+含有溶融塩またはK+含有溶融塩、またはそれらの混合物である。慣例的に使用される塩は、NaNO3、KNO3、NaCl、KCl、K2SO4、Na2SO4、Na2CO3およびK2CO3である。添加剤、例えばNaOH、KOHおよび他のナトリウム塩またはカリウム塩を使用して、化学強化の間のイオン交換の速度、CSおよびDoLをより良好に制御することもできる。Ag+含有またはCu2+含有塩浴を使用して、超薄ガラスに抗菌機能を付加することができる。
【0070】
化学強化は一段階に限定されない。それは、より良好な強化性能に達するための様々な濃度のアルカリ金属イオンを有する塩浴中での多段階を含み得る。
【0071】
ガラスロールを、オンラインのロール・ツー・ロールまたはロール・ツー・シート工程を用いて化学強化できる。この工程の間、超薄ガラスを化学強化浴中に供給し、その後、再度ロールするかまたはシートへと切断する。ガラスロールを化学強化の後に直接的に洗浄浴のラインに供給し、次いで再度ロールするかまたはシートへと切断することもできる。
【0072】
強化後、超薄ガラスは、高い強度を達成するために十分に高いCSおよびDoLを有するべきである。従って、好ましくはCSは、少なくとも500MPa、より好ましくは少なくとも600MPa、より好ましくは700MPaより上、より好ましくは少なくとも710MPa、より好ましくは少なくとも720MPa、より好ましくは少なくとも750MPa、より好ましくは少なくとも800MPaである。DoLは好ましくは少なくとも5μm、より好ましくは少なくとも8μm、より好ましくは少なくとも10μmである。
【0073】
CSは主にガラスの組成に依存する。より高いAl23含有率(それは高いT4をもたらす)は、より高いCSを達成するための助けになる。バランスの取れたガラスの熱間成型能力と化学強化性能とに達するために、CSは好ましくは1200MPa未満である。
【0074】
DoLもガラスの組成に依存するが、それは強化時間の増加に伴ってほぼ無限に増加し得る。強化されたガラスの安定な強度を確実にするために十分に高いDoLが必須であるが、高すぎるDoLは、超薄ガラス物品が圧縮応力下にある際の自己破壊率および強度性能を高めるので、DoLは好ましくは50μm未満、40μm未満、30μm未満、25μm未満に制御される。
【0075】
他方で、意外なことに、強化された超薄ガラスが、自己破壊せずに、より厚いガラスよりも遙かに高いCTを許容できることが判明した。好ましくはCTは、少なくとも50MPa、より好ましくは少なくとも100MPa、より好ましくは少なくとも120MPa、より好ましくは少なくとも150MPa、より好ましくは少なくとも160MPa、より好ましくは少なくとも170MPa、より好ましくは少なくとも200MPa、より好ましくは少なくとも300MPa、より好ましくは少なくとも500MPaである。1つの実施態様においては、70μm厚の超薄ガラスを強化して720MPaのCSおよび25μmのDoLが得られ、且つ生じるCTは900MPaもの高さであり、従ってCSよりも高い。そのような意外にも高いCTは、以前の発明には記載されておらず、内部引張応力の圧縮応力に対する比率は、好ましくは0.05~2.0の範囲、より良好には0.1~1.8の範囲、さらに良好には0.15~1.7の範囲、より良好には0.2~1.6の範囲、最も良好には0.3~1.5の範囲である。
【0076】
ガラスの化学強化性能を、閾値拡散率Dによって記載できる。閾値拡散率Dは、測定された層の深さ(DoL)およびイオン交換時間(IET)から、DoL=約1.4sqrt(4×D×IET)の関係に従って計算できる。本発明によれば、本発明のガラスは優れた化学強化性能を有する。従って、本発明のガラスは、少なくとも1.5μm2/時間の閾値拡散率Dを有する。好ましくは、本発明のガラスは、少なくとも4μm2/時間、より好ましくは少なくとも6μm2/時間、より好ましくは少なくとも8μm2/時間、より好ましくは少なくとも10μm2/時間、より好ましくは少なくとも12μm2/時間、より好ましくは少なくとも14μm2/時間、より好ましくは少なくとも16μm2/時間、より好ましくは少なくとも18μm2/時間、より好ましくは少なくとも20μm2/時間、より好ましくは少なくとも25μm2/時間、より好ましくは少なくとも30μm2/時間、より好ましくは少なくとも35μm2/時間、より好ましくは少なくとも40μm2/時間の閾値拡散率を有する。
【0077】
閾値拡散率Dの他に、圧縮応力感受性CSSが、化学強化性能に関する重要なパラメータである。CSS値は、どのような圧縮応力CSが化学強化に際して達成できるかを示す。CSSは主に、ガラス組成およびガラスの熱履歴に依存する。特に、低い冷却速度は、高いCSSと関連しており、その逆もまた同様である。本願において、CSS値は純粋なKNO3塩浴中、420℃で2時間の化学強化について示される。好ましくは、示された条件下で測定された本発明のガラス物品のCSSは、少なくとも450MPa、より好ましくは少なくとも500MPa、より好ましくは少なくとも550MPa、さらにより好ましくは少なくとも600MPaである。
【0078】
1つの実施態様において、化学強化は速い加熱および急冷工程を含み、この工程の間、熱衝撃は避けられない。化学強化塩浴は通常、溶融された塩浴を得るために、350℃より高く、またはさらには700℃まで加熱される。超薄ガラスを塩浴中に浸漬する場合、ガラスと塩浴との間に温度勾配があり、ガラスの一部が塩浴中に浸漬される際には1つの単独のガラス片の内部の勾配がある。他方で、超薄ガラスを塩浴から取り出す際、それは通常、速い急冷工程である。厚さが薄いので、超薄ガラスは同じ温度勾配でより破壊しやすい。従って、それらの熱衝撃工程は、特別に設計された組成を有さない超薄ガラスを強化する際に低い収率をもたらす。予熱およびポストアニールが温度勾配を低減させることができるとはいえ、それらは時間およびエネルギーを消費する工程である。最大の温度勾配のガラスは、予熱およびポストアニール工程の間ですら、熱衝撃耐性と共に増加に耐えることができる。従って、化学強化工程を単純化し且つ収率を改善するために、超薄ガラスにとって高い熱衝撃耐性は著しく好ましい。化学強化工程の他に、熱応力を、化学強化後の後工程、レーザー切断工程または熱切断工程において、導入することもできる。
【0079】
上記の説明から、化学強化前の原ガラスの熱衝撃耐性は、フレキシブルな超薄ガラスにとって特に最も重要な要因であり、なぜなら、熱衝撃耐性は、高品質を有する前記強化ガラスの経済的な可用性を決定するからである。これは、なぜ原ガラスシートの組成が、前の段落で既に記載された各々の種類のガラスについて注意深く設計されるかという理由でもある。
【0080】
熱衝撃に対する材料の頑健性は、熱衝撃パラメータで特徴付けられる:
【数1】
【0081】
前記式中、Rは熱衝撃耐性であり、αはCTEであり、σは材料の強度であり、Eはヤング率であり、λは熱伝導度であり、且つμはポワソン比である。より高いRの値は、より大きな熱衝撃耐性および温度勾配および熱負荷に対する高い許容度を表す。従って、ガラスについての熱応力耐性を、以下の式から最大熱負荷ΔTによって決定できる:
【数2】
【0082】
疑いもなく、より高いRを有するガラスは確実により高い熱負荷許容度を有し、ひいては熱衝撃に対してより大きな耐性がある。従って、化学強化前にRは好ましくは100W/m2より高く、より好ましくは120W/m2より高く、さらにより好ましくは150W/m2より高い。化学強化前に、ΔTは好ましくは200℃より高く、より好ましくは250℃より高く、より好ましくは300℃より高い。
【0083】
意外なことに、化学強化された例の表2に示される熱衝撃耐性および最大熱負荷によって示されるとおり、超薄ガラスが、化学強化後に改善された熱衝撃耐性をさらに有し得ることが判明した。
【0084】
実際の用途のためには、化学強化されたガラスのRは好ましくは190W/m2より高い、より好ましくは250W/m2より高い、より好ましくは300W/m2より高い、より好ましくは500W/m2より高い、さらにより好ましくは800W/m2より高いべきである。
【0085】
化学強化されたガラスのΔTは好ましくは、380℃より高い、より好ましくは500℃より高い、より好ましくは600℃より高い、より好ましくは1000℃より高い、より好ましくは1500℃より高い、より好ましくは2000℃より高いべきである。
【0086】
定義された寸法を有するガラス物品の実際の熱衝撃耐性を、以下のとおり行われる実験によって測定できる温度勾配に対する耐性(RTG)によって定量化できる: ガラス試料を250×250mm2の大きさで製造して、温度勾配に対する耐性を試験する。試料をパネルの中央で定義された温度まで加熱し、端部は室温で維持する。パネルの熱い中心と、パネルの冷たい端部との間の温度勾配は、試料の5%以下の破壊が生じる際のガラスの温度勾配に対する耐性を表す。意外なことに、超薄ガラスが、厚さの減少に伴って改善する熱衝撃耐性RTGを有することが判明した。超薄ガラスを適用するために、RTGは好ましくは50Kより高く、好ましくは100Kより高く、さらに好ましくは150Kより高く、最も好ましくは200Kより高い。
【0087】
熱衝撃耐性(RTS)を試験するための他の実験を以下のように行う: 200×200mm2の大きさで製造されたガラス試料を空気循環オーブン内で加熱し、その後、50mlの冷たい(室温の)水を中央にかける。熱衝撃値に対する抵抗は、試料の5%以下の破壊が生じる、熱いパネルと冷たい(室温の)水との間の温度差である。超薄ガラスを適用するために、RTSは好ましくは75Kより高く、好ましくは115Kより高く、さらに好ましくは150Kより高く、最も好ましくは200Kより高い。
【0088】
Rは、熱衝撃の実験を行わずにガラスの熱衝撃耐性を評価するために計算され、実験データとの一致は概して良好である。しかしながら、ガラスの熱衝撃耐性は、他の要因、例えば試料の形状、厚さおよび加工履歴によっても影響を受ける。RTSは、所定の条件におけるガラスの特定の熱衝撃耐性を測る実験結果である。Rは、ガラス材料の特性に関する一方で、RTSは実際の用途における他の要因を含む。ガラスについて、他の条件が同じである場合、RTSはRに比例する。
【0089】
ΔTは、ガラス材料の温度勾配耐性を、温度差の実験を行わずに評価するために、固有のパラメータ、例えばRから計算され、実験データとの一致も概して良好である。しかしながら、温度差に対する耐性は、特定の条件、例えばガラス試料の大きさ、ガラスの厚さ、およびガラスの加工履歴にも大幅に依存する。RTGは、所定の条件について、ガラスの温度差に対する特定の耐性を示す実験結果である。ΔTは、ガラス材料の特性に関する一方で、RTGは実際の用途における他の要因を含む。RTGはΔTに比例するが、必ずしも互いに等しいわけではない。
【0090】
材料の強度も熱衝撃耐性に影響することがあり、なぜなら、熱応力に起因する破壊は、導入された熱応力が材料の強度を上回った場合にのみ発生するからである。
【0091】
前記ガラス物品を、例えば以下の用途分野: ディスプレイの基板または保護カバー、指紋センサカバー、一般的なセンサの基板またはカバー、消費者用電子機器のカバーガラス、ディスプレイおよび他の表面、特に曲げられた表面の保護カバーのために使用できる。さらには、前記ガラス物品を、ディスプレイの基板およびカバー、指紋センサモジュールの基板またはカバー、半導体のパッケージ、薄膜電池の基板およびカバーの用途においても使用できる。特定の実施態様において、前記ガラス物品を、抵抗スクリーン用のカバーフィルム、およびディスプレイスクリーン、携帯電話、カメラ、ゲーム用ガジェット、タブレット、ラップトップ、TV、鏡、窓、航空機の窓、家具および白物家電用の使い捨て保護フィルムとして使用できる。
【0092】
前記ガラス物品を、例えば反射防止、傷防止、指紋防止、抗菌、防眩、およびそれらの機能の組み合わせのために、さらに被覆できる。
【0093】
本発明によれば、本発明によるガラス物品の製造方法は、以下の段階:
a) 所望のガラスのための原料の組成物を準備する段階、
b) 前記組成物を溶融する段階、
c) 板ガラス工程においてガラス物品を製造する段階、および
d) 前記物品の少なくとも1つの表面を、被覆層で任意に被覆する段階、
を含み、ここで、前記溶融物を板ガラス工程において、Tgの100℃上である温度TaからTgの50℃下である温度Tbへと、一方ではTaとTbとの間の平均冷却速度Cと、他方ではガラス物品の厚さtとの積が300mm℃/分未満であるように冷却する。
【0094】
超薄板ガラスの熱間成型における高いT4と高いCTEとの組み合わせの困難さを解消するために、比較的ゆっくりとした冷却速度が必要とされる。ガラスの冷却が速すぎると、ガラスの張力が発生し、破壊するまで変形しかねない。従って、比較的ゆっくりと冷却することは、小さなTTVを有するガラス物品を得るために必須である。ガラスの冷却が速すぎると、小さなTTVが得られない。しかしながら、超薄形態のガラスベルトは、超薄ガラスの速い移動速度を意味する。T4から室温への冷却速度を下げるために、ガラスの熱間成型ラインは、これがもはや現実的ではないように引き延ばされなければならない。この発明において、意外なことに、Ta(Tg+100℃に等しい)からTb(Tg-50℃に等しい)までの冷却速度が、他の温度範囲における冷却速度よりも遙かに重要であることが判明した。TaとTbとの間の冷却速度を著しく低下することができれば、他の温度範囲における冷却速度は特に注意する必要はない。さらに、Ta~Tbはほんの小さな温度範囲なので、この範囲の冷却速度は、熱間成型ライン全体を拡張することなく、つまり、ガラスベルトがこの温度範囲を通過する際の追加的な加熱装置を設置することにより、低下され得るが、他の温度範囲の冷却速度は高まり得る。
【0095】
本発明者らは、TaとTbとの間の所望の冷却速度がガラス物品の厚さに大幅に依存することを見出した。実際に、ガラス物品の厚さが低下すると、冷却速度Cは高まり得る。従って、本発明の有利な冷却条件は、一方ではTaとTbとの間の平均冷却速度Cと、他方ではガラス物品の厚さtとの積として示される。意外なことに、本発明者らは、比較的低い冷却速度が、化学強化後により高い圧縮応力CSももたらすことを見出した。このことは、強化されたガラスがより高い強度を達成するために有用である。これは、超薄ガラスについて特に重要であり、なぜなら、そのようなガラスは、より厚いガラスとは対照的に、ガラスの厚さが薄いことによってDoLに課される限定ゆえに、低いCSをDoLの増加によって補償できないからである。従って、比較的難い冷却速度は、高められたCSを達成するためにも好ましい。好ましくは、一方ではTaとTbとの間の平均冷却速度Cと、他方ではガラス物品の厚さtとの積は、280mm℃/分未満、より好ましくは260mm℃/分未満である。しかしながらまた、ガラスをあまりにゆっくりと冷却すべきではなく、なぜなら、そうでなければ結晶化が生じることがあるからである。さらには、あまりにゆっくりとした冷却は化学強化性能の低下とも関連付けられ、なぜなら、あまりにゆっくりとした冷却はガラスの網目の密度を高め、そのことは、閾値拡散率Dの低下をもたらすからである。従って、一方ではTaとTbとの間の平均冷却速度Cと、他方ではガラス物品の厚さtとの積は、好ましくは100mm℃/分より高く、より好ましくは150mm℃/分より高く、さらにより好ましくは少なくとも200mm℃/分である。
【0096】
意外なことに、T4、CTE、TとTとの間の冷却速度C、およびガラス厚tとの間に、そのような超薄ガラスの熱間成型について特定の関係があることも判明した。T4×CTE×ln(C×t)は、40000~80000×10-6ln(mm℃/分)の範囲、より良好には45000~75000×10-6ln(mm℃/分)の範囲、さらにより良好には50000~68000×10-6ln(mm℃/分)の範囲、最良には52000~66000×10-6ln(mm℃/分)の範囲であるべきであり、高いT4と高いCTEとを兼ね備える超薄ガラスを直接的に熱間成型して、優れた化学強化性能および小さなTTVを有する超薄ガラス物品を得ることができる。
【0097】
そのようなゆっくりとした冷却速度を適用した後、超薄ガラスは、高温からの冷却に起因する小さな残留応力を有する。超薄ガラスは残留応力に対して、より厚いガラスよりも敏感であり、なぜなら、ガラスの変形はガラスの厚さの3乗(3rd potential)に反比例するからである。従って、厚さ約50μmを有するガラスについての残留応力は好ましくは50MPa未満、より好ましくは30MPa未満、さらにより好ましくは10MPa未満である。
【0098】
さらに意外なことに、より低い冷却速度Cは、強化後により高い圧縮応力をもたらすことが判明した。このことは、強化されたガラスがより高い強度を達成するために有用である。このより高い圧縮応力は、より低いDoLに妥協して得られるのだが、強化された超薄ガラスは厚いガラスほど高いDoLを有する必要はない。さらには、DoLは、延長された強化時間および温度によって容易に増加され得るが、圧縮応力は主にガラスの組成および熱履歴に依存する。
【実施例
【0099】
実施態様の記載
表1は、比較用試料(1~3)と、化学強化可能である超薄ガラスの直接的な熱間成型のいくつかの典型的な実施態様(4~16)を示す。表2は、KNO3塩浴中、420℃で2時間、化学強化された後のそれらの試料の特性を示す。
【表10-1】
【0100】
【表10-2】
【0101】
【表11】
【0102】
表1の例1~3は比較例であり、その超薄ガラスの組成物は比較的低いT4または/およびCTE、および不適切な強化性能を有する。それらのガラスは、Cに特に注意することなく、比較的容易に直接的な熱間成型法を通じて製造できる。
【0103】
例1のCTEは、低いアルカリ金属含有率に起因して7.6であり、且つ化学強化性能は、イオン交換速度の遅さに起因して非常に良好ではない。それは、420℃で2時間の強化後に260MPaのCSおよび8μmのDoLに達するに過ぎない。
【0104】
例2は、Al23の含有率が高い無アルカリガラスであり、従ってT4は高い一方で、低い含有率のアルカリ金属およびかなりの量のB23が、低いCTEを保証し、且つ直接的な熱間成型による製造を容易にする。アルカリ金属イオンが含まれないので、化学強化できない。
【0105】
例3は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属酸化物の含有率が比較的高いソーダライムガラスである。そのガラスは、非常に高いCTEに起因して比較的高いT4×CTEを有するのだが、熱間成型工程を容易にするためにCを低減すべきである。しかしながら、Al23含有率が低いことに起因して、T4自体は低いままであり、化学強化性能は非常に良好ではない。
【0106】
例4において、Al23をわずかに添加し且つ例3に比べてNa2Oの量を増加させたソーダライムガラス系における他の組成は、より高いCSをもたらすが、DoLはまだ高くない。
【0107】
例5においては、例4におけるCaOの半分がAl23によって置き換えられ、T4は1100℃を超えて高められる。化学強化性能も改善される。
【0108】
例6においては、例4における全てのCaOがAl23によって置き換えられ、T4は1200℃を超えてさらに高められる。CTEは、Al23の増加と共に低下し、なぜなら、AlO4はガラスの網目形成成分でもある一方で、CaOは純粋な網目修飾成分であるからである。189mm℃/分のより遅いC×tを適用して、低い残留応力を有する超薄ガラスの製造を確実にする。ここでもまた、化学強化性能は、より高いCSとDoLとの両方で著しく改善される。
【0109】
例7においては、Al23含有率はSiO2含有率を低減することによってさらに増加され、化学強化性能はさらに改善される。しかしながら、そのような高い含有率のAl23は、1350℃を超える極めて高いT4ももたらし、極めて高い溶融温度ももたらす。そのようなガラスの溶融は、溶融タンクの寿命を短くする。
【0110】
例8においては、K2OおよびMgOが導入されて、融点が下げられる。網目修飾成分として、MgOはCaOのように化学強化性能に悪影響をおよぼさない。さらには、アルカリ金属アルミノシリケートガラス中で、中程度のK2O含有率は、CSを低下させることなくDoLを増加することを助けることができる。ZrO2は、ガラスの硬度を高めることを助けることができる。例8のT4は、1250℃よりもわずかに高く制御され、CTEは9以下である。175mm℃/分のより遅いC×tを適用して、低い残留応力を有する超薄ガラスの製造を確実にする。例8のDoLは、420℃で2時間の強化後に27μmに達することができ、CSは800MPaに近づき、さらに厚さは0.07mmしかない。
【0111】
例9においては、例8におけるK2OがNa2Oによって置き換えられている。予想されるとおり、CSが上昇する一方で、DoLは低下する。T4とCTEとの両方が上昇し、なぜなら、混合されたアルカリの効果はもうないからである。166mm℃/分のC×tを適用して、低い残留応力を有する超薄ガラスの製造を確実にする。そのC×tは非常に低くはなく、なぜなら、例9のCTEは非常に高いからである。
【0112】
例10においては、例8のK2Oを半分に減らし、且つAl23をさらに増加する。その化学強化性能は非常に良好であり、極めて良好なCSおよびDoLを有する。しかしながら、極めて高いAl23含有率および結果として生じる高いT4は、低い残留応力を有する超薄ガラスの製造を確実にするために、極めてゆっくりとした152mm℃/分のC×tが適用されることも必要とする。
【0113】
例11においては、例9におけるSiO2含有率を減らし、主にAl23によって置き換え、T4とCTEとの両方の上昇が観察される。160mm℃/分の非常に低いC×tを適用して、低い残留応力を有する超薄ガラスの製造を確実にする。420℃で2時間の強化後、DoLは28μmに達する。
【0114】
例12において、例11におけるNa2O、MgOおよびZrO2は部分的または完全にSiO2およびB23によって置き換えられる。CTEは、B23の導入に起因して、例11に比べて大幅に低下する。T4はわずかに上昇するが、T4×CTEも低下する。例11よりもT4×CTEが低いので、より高い198mm℃/分のC×tが使用される。しかしながら、DoLは著しく影響されないが、B23の導入はまた、CSを著しく低下させる。
【0115】
例13においては、例12に比較してAl23含有率はわずかに低下し、SiO2およびNa2Oが増加される。T4はわずかに低下し、且つCTEはあまり大きく変化せず、なぜなら、増加したNa2Oからの影響と釣り合うからである。化学強化性能は、低いAl23に起因して著しく低下する。
【0116】
例14においては、Al23がさらに減らされている。T4も低下するが、かなりの含有率のB23に起因して、1230℃よりもまだ比較的高いままである。従って、化学強化性能は著しく損なわれる。
【0117】
例15においては、例13におけるB23が取り除かれ、Na2OおよびZrO2が増加される。T4は1200℃よりもわずかに高くまで低下されるが、CTEは10×10-6を超えて著しく上昇する。B23が取り除かれたことに起因して、DoLは例13と比べて著しく増加する。168mm℃/分の非常にゆっくりとしたC×tを適用して、非常に高いT4×CTEに起因する低い残留応力を有する超薄ガラスの製造を確実にする。
【0118】
例16においては、例9におけるAl23が部分的にSiO2によって置き換えられている。T4は、Al23の減少に起因して80℃を超えて低下する一方で、CTEは著しく変化せず、なぜなら、ガラスの網目形成成分の全含有率は大きく変化しないからである。同じ残留応力を有するガラスを得るために、より速い冷却速度を使用できる。従って、化学強化性能は、Al23含有率の減少によって著しく影響を及ぼされる。