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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】チャック装置
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/169 20060101AFI20230410BHJP
   B23B 31/30 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
B23B31/169
B23B31/30 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019011569
(22)【出願日】2019-01-25
(65)【公開番号】P2020116709
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】加藤 悟
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-059826(JP,A)
【文献】実開昭60-131337(JP,U)
【文献】登録実用新案第3198953(JP,U)
【文献】米国特許第06460862(US,B1)
【文献】特開2018-188725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/00-33/00
B23Q 3/00-3/154
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2対の互いに対向する把持爪が駆動装置の駆動によって動力伝達機構を介して互いに直交する2方向に連動し,それぞれ互いに対向して往復移動する2対の前記把持爪によって工作物を把持することから成るチャック装置であって,
それぞれの前記把持爪は移動方向と直交する2方向に延びて互いに対向して往復移動する2対の支持部材にそれぞれ固定されており,それぞれの前記支持部材の両端部には連結部材を介してラックがそれぞれ取り付けられており,前記連結部材は直動案内ユニットを介して取付けベース板にそれぞれ往復移動自在に配設されており,前記支持部材には前記駆動装置の駆動部が連結されており,前記取付けベース板には前記駆動装置の固定部が連結されており,前記駆動装置の駆動によって前記動力伝達機構を介して前記支持部材に固定された2対の前記把持爪が連動して同時に中心に向かって移動して2対の前記把持爪によって前記工作物が把持されることから成るチャック装置。
【請求項2】
前記動力伝達機構は,前記取付けベース板上に固定されたハウジング軸に第1軸受を介して回転自在に取り付けられた第1リングギア,前記第1リングギアの軸方向後方に隔置し且つ前記ハウジング軸に第2軸受を介して回転自在に取り付けられた第2リングギア,前記支持部材の一端部に前記連結部材を介してそれぞれ取り付けられ且つ前記第1リングギアにそれぞれ噛み合う第1ラック,及び前記支持部材の他端部に前記連結部材を介してそれぞれ取り付けられ且つ前記第2リングギアにそれぞれ噛み合う第2ラックを有することから成る請求項1に記載のチャック装置。
【請求項3】
前記動力伝達機構は,前記支持部材の前記一端部を前記第1リングギアに噛み合う前記第1ラックに連結する前記連結部材を構成する第1連結部材,及び前記支持部材の前記他端部を前記第2リングギアに噛み合う前記第2ラックに連結する前記連結部材を構成する第2連結部材を有することから成る請求項2に記載のチャック装置。
【請求項4】
前記取付けベース板には前記直動案内ユニットの軌道レールが固定されており,前記連結部材には前記直動案内ユニットのスライダが固定されていることから成る請求項1~3のいずれか1項に記載のチャック装置。
【請求項5】
前記駆動装置は,前記支持部材の外周側に設置されており,前記支持部材に連結された前記駆動部と前記取付けベース板に連結された前記固定部を備えたエアシリンダ,油圧シリンダ,又はアクチュエータで構成されていることから成る請求項1~4のいずれか1項に記載のチャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,工作物を加工するために該工作物を把持する2対の把持爪を備えたチャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,チャック装置は,把持爪が取り付けられる部材を半径方向に放射状に動かしてチャックするのが一般的であった。例えば,4つの把持爪を歯車機構で連動して同時に進退させるチャックが知られている。該チャックは,把持爪の下部に設けたラックをかみ合ったギアを回転させることより移動させ,把持爪がボスと案内溝により半径方向にすべり案内されるものである(例えば,特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】昭和22年実用新案出願公告第2453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,上記チャックは,上部ギアのかみ合いやボスと案内溝の寸法差によってがたつきが生じたり,チャックが傾く可能性があり,求芯精度が低いという問題があり,また,チャックがすべり案内のため,軽く動作させるためや摩耗を防止するために給脂が必要であった。ところで,従来からチャック装置は,求芯精度の高いチャックが求められており,チャック装置を工作機械に設置するため,できるだけ外径が小さく,また,チャックのストローク範囲が大きい工作機械に適用されるものが求められていた。従来のチャック装置は,把持爪のストローク範囲を大きくしようとすると,装置全体の外径が大きくなる懸念があった。また,チャック装置の把持爪は,工作物を把持して回転するため,断面が円形である構造のものが求められており,クーラントを通すなど設計自由度を増大させるために,チャック内径の貫通孔が大きいものが求められていた。また,工作機械において,加工時の工作物を把持するチャックについて,より求心精度の高いものが求められていた。また,多種の工作物を把持するために,工作物に接触する把持爪のストローク長さが大きく,且つチャック装置全体が小さいものが求められていた。
【0005】
また,チャックのストロークは,外歯歯車のリングギアと噛み合うラックの長さによって決まるが,ラックとギアの噛みあいが必要なため,各把持爪のストロークは,ラック長さと噛み合うギアの歯幅によって決まるものである。また,ラックが,チャックの外周にはみ出さないようにすると,ラックは装置外周半径の範囲内のみで移動可能になるため,ストロークは装置外周半径からラック長さを除したものとなる。この場合,チャックのストロークを最大限に設定すると,ストロークは装置外周半径の1/2となる。ところが,ラックが把持爪に直接設けられ,半径方向中心を向いているため,ラックを長くしても,互いに中心で干渉してストロークを大きくすることができない。把持爪のストロークを確保しようとすると,チャックの中心までラックを設けなければならないため,長尺の工作物の把持用等に使用する貫通孔を設定することができなかった。
【0006】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,2対の支持部材及び該支持部材に固定された把持爪を駆動装置の駆動力を動力伝達機構を介して連動させる構造に構成し,各支持部材の両端部を直動案内ユニットを介して案内する構造に構成し,支持部材に駆動装置を設けて把持力を高め,求芯精度の向上を図り,更に,工作物を把持するための把持爪を2対に構成し,動力伝達機構を介して2対の把持爪を連動させて工作物を4方向から同時に把持し,対向する把持爪を支持する支持部材の両端部をリングギアに噛み合うラックによって案内することで求心精度の高いチャック装置を実現し,また,駆動装置を把持爪を固定した支持部材の外周側に設けて把持爪のストロークを長くすることができることから成るチャック装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は,2対の互いに対向する把持爪が駆動装置の駆動によって動力伝達機構を介して互いに直交する2方向に連動し,往復移動する1対ずつの前記把持爪によって工作物を把持することから成るチャック装置であって,
それぞれの前記把持爪は移動方向と直交する2方向に延びて互いに対向して往復移動する2対の支持部材にそれぞれ固定されており,それぞれの前記支持部材の両端部には連結部材を介してラックがそれぞれ取り付けられており,前記連結部材は直動案内ユニットを介して取付けベース板にそれぞれ往復移動自在に配設されており,前記支持部材には前記動力伝達機構を介して前記駆動装置の駆動部が連結されており,前記取付けベース板には前記駆動装置の固定部が連結されており,前記駆動装置の駆動によって前記動力伝達機構を介して前記支持部材に固定された前記2対の把持爪が連動して同時に中心に向かって移動して前記2対の把持爪によって前記工作物が把持されることから成るチャック装置に関する。
【0008】
また,前記動力伝達機構は,前記取付けベース板上に固定されたハウジング軸に第1軸受を介して回転自在に取り付けられた第1リングギア,前記第1リングギアの軸方向後方に隔置し且つ前記ハウジング軸に第2軸受を介して回転自在に取り付けられた第2リングギア,前記支持部材の一端部に前記連結部材を介してそれぞれ取り付けられ且つ前記第1リングギアにそれぞれ噛み合う第1ラック,及び前記支持部材の他端部に前記連結部材を介してそれぞれ取り付けられ且つ前記第2リングギアにそれぞれ噛み合う第2ラックを有するものである。
【0009】
更に,前記動力伝達機構は,前記支持部材の前記一端部を前記第1リングギアに噛み合う前記第1ラックに連結する前記連結部材を構成する第1連結部材,及び前記支持部材の前記他端部を前記第2リングギアに噛み合う前記第2ラックに連結する前記連結部材を構成する第2連結部材を有するものである。
【0010】
また,このチャック装置は,前記取付けベース板には前記直動案内ユニットの軌道レールが固定されており,前記連結部材には前記直動案内ユニットのスライダが固定されているものである。
【0011】
また,前記駆動装置は,前記支持部材の外周側に設置されており,前記支持部材に連結された前記駆動部と前記取付けベース板に連結された前記固定部を備えたエアシリンダ,油圧シリンダ,又はアクチュエータで構成されている。
【発明の効果】
【0012】
この発明によるチャック装置は,上記のように構成されており,2対の把持爪が動力伝達機構によって連動し,工作物を把持する2対の把持爪が同時に進退することによって,求心精度を高めることができた。即ち,このチャック装置は,互いに対向する2対の把持爪で工作物を把持し,直交する2方向から工作物を中心に把持する構成であって,各把持爪はそれぞれが把持爪の移動方向と直交する方向に延びる長板状の支持部材で支持されている。各支持部材の一方の端部には軸方向前段の外歯歯車の第1リングギアに噛み合う第1ラックと他方の端部には軸方向後段の外歯歯車の第2リングギアに噛み合う第2ラックは,各把持爪の移動方向と平行に支持部材にそれぞれ連結されている。支持部材に設けた駆動装置を駆動させることによって動力伝達機構を介して各支持部材の両端が平行に同時に案内されて,2対の支持部材が連動して同時に中心に向かって進退することによって,2対の把持爪が開閉して工作物を把持する構造に構成したことにより,求芯精度を向上させることができた。
【0013】
また,このチャック装置は,支持部材の両端部を高精度,高剛性で低摩擦の転がり案内の直動案内ユニットと連結して2本の軌道レールで平行に案内するため,仮に長尺の把持爪を使用し,ピッチング方向の大きな負荷(モーメント荷重)が加わっても,把持爪のチャック面が傾くことがなく,安定した把持が可能となり,直動案内ユニットにグリースを封入しておけば,すべり案内のように給油作業が不要となり,また,動力伝達機構の耐久性を向上させることができる。駆動装置は,一つでも全体を動かして動力伝達機構を介して把持爪を安定して把持させることができるが,2対の支持部材にそれぞれ駆動装置を設けることがより安定して作動させることができる。動力伝達機構を構成するリングギア,連結部材,ラック,支持部材の各部材は,直動案内ユニットで案内されているため,すべり案内と比較して摩擦による駆動力のロスが少なく,また,リングギアを使用しているため回転トルクを小さく設定でき,小形で安価なエアシリンダで駆動できるので,ランニングコストを抑えることができる。
【0014】
また,駆動装置として,エアシリンダを使用することで,エアの配管だけで駆動装置を駆動させることができ,複雑な配線が不要になる。エアシリンダを複数設けた場合は,相互に速度誤差が生じる可能性があるが,このチャック装置では,支持部材がすべて連動して動くため,エアシリンダの速度誤差を吸収することができる。軸方向の前段側と後段側とのそれぞれ連結されているリングギアにより動力伝達機構が連動するので,一つの駆動手段が駆動していれば,他の駆動手段が故障しても4方向から把持することができる。駆動装置が支持部材の外側に配設されているため,チャックの内径側に大きなスペースを確保することができ,ハウジング軸に貫通孔を設けて工作物の把持スペースとしたり,クーラントや配管を通す,別の機構を付け加える等により工作機械の装置設計の自由度が増す。従来技術であるラックを中心に向けて半径方向に配置した4爪チャック装置がラックの干渉によりストロークが制限されるのと比較して,本発明ではラックがチャック中心を中心とする円の接線方向に上下2段に干渉しないように配置されているため,ラック同士が干渉することなく,把持爪のストローク長さを確保でき,外径,長さなどの異なる様々な工作物に対応できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明によるチャック装置を示す正面図である。
図2図1のチャック装置を示す側面図である。
図3】このチャック装置に組み込まれている一個の支持部材に連結される連結部材,第1ラック,第2ラック,直動案内ユニット,及び取付けベース板への取付け状態を示す正面図である。
図4図3を支持部材側から見た平面図である。
図5図1のチャック装置について,ブラケット及びエアシリンダを除き,図1におけるチャック中心を通る直線で切断したチャック装置を示す概略図である。
図6】このチャック装置におけるラックとリングギアとの関係を説明するための説明図であり,(a)は駆動装置により支持部材に固定されたラックが移動したときの第1ラック及び第1リングギアの動作を示す説明図,(b)は(a)の動作の際の第2ラック及び第2リングギアの動作を示す説明図,及び(c)は(a)及び(b)の動作によってラックと連結された支持部材が全体として移動する方向を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下,図面を参照して,この発明によるチャック装置の一実施例を説明する。図1図5に示すように,この発明によるチャック装置は,レーザー加工機等の工作機械や産業機械に使用するのに好適なものである。このチャック装置は,概して,2対の互いに対向する把持爪2がそれぞれの動力伝達機構30を介して互いに直交する方向に連動して2方向に往復移動し,1対ずつの把持爪2によって工作物(図示せず)をそれぞれ把持することから構成されている。このチャック装置は,特に,それぞれの把持爪2が移動方向と直交する方向に延びて互いに対向する方向に往復移動する2対(即ち,4個)の支持部材11にそれぞれ固定されており,それぞれの支持部材11の両端部17はそれぞれの連結部材10に固定されている。連結部材10は,直動案内ユニット14を介して取付けベース板1に往復移動自在に配設されており,それぞれの支持部材11の両端部17には,連結部材10を介して動力伝達機構30がそれぞれ連結されている。それぞれの動力伝達機構30には,取付けベース板1にそれぞれ設置された駆動装置18が連結されている。取付けベース板1には,このチャック装置の中心と同軸となる中央に貫通孔15が形成されている。このチャック装置は,駆動装置18の駆動によって,それぞれの動力伝達機構30を介して支持部材11の両端部17に取り付けられたラック8,9が平行に同時に案内されて,2対の支持部材11が連動して同時に中心に向かって移動して,2対の支持部材11に固定された把持爪2によって工作物が把持される。支持部材11の長手方向中央部には,4個の取付け用孔16が形成されており,把持爪2は取付け用孔16を利用して支持部材11の長手方向中央の把持爪取付部26に取り付けられている。このチャック装置を説明するため,把持爪2が位置する側を軸方向の前方F,前段及び前面と規定し,取付けベース板1が位置する側を軸方向の後方R,後段及び背面と規定して説明している。
【0017】
この発明によるチャック装置は,特に,動力伝達機構30に特徴を有している。動力伝達機構30は,取付けベース板1上に固定されたハウジング軸3にボールベアリングである軸受4(第1軸受)を介して回転自在な軸方向前段側の外歯歯車のリングギア6(第1リングギア),リングギア6の軸方向後段に隔置し且つ取付けベース板1上に固定されたハウジング軸3にボールベアリングである軸受5(第2軸受)を介して回転自在な軸方向後段側の外歯歯車のリングギア7(第2リングギア),支持部材11の一端部17にそれぞれ取り付けられ且つリングギア6にそれぞれ噛み合う軸方向前段側のラック8(第1ラック),及び支持部材11の他端部17にそれぞれ取り付けられ且つリングギア7にそれぞれ噛み合う軸方向後段側のラック9(第2ラック)を有している。ここで,本実施例では,前段側はハウジング軸3の軸方向で把持爪2が位置する側とし,後段側はハウジング軸3の軸方向で取付けベース板1が位置する側とする。更に,動力伝達機構30は,支持部材11の一方の端部17をリングギア6に噛み合うラック8に連結する連結部材10a(第1連結部材),及び支持部材11の他方の端部17をリングギア7に噛み合うラック9に連結する連結部材10b(第2連結部材)を有している。即ち,ラック8は,連結部材10aを介して駆動装置18の駆動部19に連結されており,ラック9は,連結部材10bを介してに駆動装置18の駆動部19に連結されている。言い換えれば,連結部材10は,支持部材11の一方の端部17に連結されたラック8をハウジング軸3の把持爪2側に位置するリングギア6に連結する連結部材10aと,支持部材11の他方の端部17に連結されたラック9をハウジング軸3の取付けベース板1側に位置するリングギア7に連結する連結部材10bとから構成されている。このチャック装置は,2対の把持爪2をそれぞれ固定した支持部材11には,取付けブラケット27を介して駆動装置18がそれぞれ設けられている。それによって,それぞれの把持爪2は,それぞれの駆動装置18によって互いに連動して往復移動する。駆動装置18は,例えば,往復移動するプランジャ等の駆動部19と駆動部19を往復移動可能に支持するシリンダ等の固定部20から構成されたエアシリンダで構成されている。又は,駆動装置18は,同様に,油圧シリンダ,或いはアクチュエータで構成することができる。
【0018】
以下,この発明によるチャック装置について,具体的に説明する。このチャック装置は,例えば,長尺の角パイプ等の工作物を把持し,必要に応じて工作物を回転させながら,レーザー加工機,マシニングセンター等の工作機械に工作物を送り込む工作物送り部等に横置きで使用される。本実施例では,各把持爪2及び各支持部材11の中心方向へのストロークは,例えば,最大で,35mm程度である。また,駆動装置18としては,例えば,推力200Nの4個のエアシリンダを用いており,工作物を約800Nの把持力で把持するように構成されている。
【0019】
このチャック装置は,特に,図4及び図5に示すように,支持部材11の一方の端部17に連結されたラック8がリングギア6に噛み合い,支持部材11の他方の端部17に連結されたラック9がリングギア7に噛み合うことによって,2対の支持部材11が駆動装置18によって同時に連動して作動される構造を構成することができる。このチャック装置は,4個の把持爪2が駆動装置18の作動によって動力伝達機構30を介してそれぞれ連動し,工作物を互いに直径上で対向する2つの把持爪2の対で挟んで直交する2方向から中心に把持する4爪タイプに構成されている。把持爪2は,それらの移動方向と直交する方向に延びる長板状の支持部材11の軸方向前段側である前面21の長手方向中央の把持爪取付部26に連結され,支持部材11の軸方向後段側である背面22に連結部材10が固定されている。支持部材11は,対向する2個がそれぞれ対に構成されている。2対の支持部材11は,図1に示すように,互いに往復移動の方向が直交しており,干渉しないよう軸方向にずらして即ち隔置して配置されており,正面からみると井桁状に形成されている。
【0020】
図1図4を参照して,支持部材11の両端部17に取り付けたラック8及びラック9にいついて説明する。各支持部材11の一方の端部17は,連結部材10を介してチャック装置の内周方向に歯を備えた把持爪2の移動方向と平行に延びるラック8及び取付けベース板1に固定された1本の軌道レール12と軌道レール12上を走行する2つのスライダ13から構成される一方の直動案内ユニット14のスライダに取り付けられている。同様に,支持部材11の他方の端部17は,連結部材10を介してチャック装置の内周方向に歯を設けた把持爪2の移動方向と平行に延びるラック9及び取付けベース板1に固定された他方の直動案内ユニット14のスライダ13に取り付けられている。言い換えれば,支持部材11の一方の端部17は,連結部材10を介してラック8及び直動案内ユニット14のスライダ13に取り付けられており,同様に,支持部材11の他方の端部17は,連結部材10を介してラック9及び直動案内ユニット14のスライダ13に取り付けられている。上記の構成によって,支持部材11における一方の端部17と他方の端部17は,直動案内ユニット14のスライダ13の往復移動に従って案内されて同軸に互いに往復移動可能になる。図4及び図5に示すように,支持部材11の一方の端部17に取り付けられたラック8は,前段連結用の連結部材10aを介して軸方向前段側のリングギア6にかみ合わせられる。支持部材11の他方の端部17に取り付けられたラック9は,後段連結用の連結部材10bを介して軸方向後段側のリングギア7にかみ合わせられる。
【0021】
次に,図6を参照して,このチャック装置における取付けベース板1,外歯歯車のリングギア6,7,ラック8,9及び直動案内ユニット14について説明する。ここで,支持部材11及びラック8,9には,説明を明確にするため,添字a,b,c及びdを付して説明する。2つのリングギア6,7は,それらの外歯が直動案内ユニット14で囲まれた内側でラック8,9と噛み合うように取付けベース板1上に配置されている。リングギア6,7は,取付けベース板1に固定されたハウジング軸3の中心と同軸に設置された軸受4,5を介して相対回転可能(具体的には、逆回転可能)に配設されている。把持爪2側に位置するリングギア6は,ハウジング軸3における軸方向前段側に位置してハウジング軸3に軸受4を介して回転自在に配設されている。取付けベース板1側に位置するリングギア7は,ハウジング軸3における軸方向後段側に位置してハウジング軸3に軸受5を介して回転自在に配設されている。支持部材11aには,一方の端部17にラック8aが取り付けられ,他方の端部17にラック9aが取り付けられている。同様に,支持部材11bには一方の端部17にラック8bが取り付けられ且つ他方の端部17にラック9bが取り付けられ,支持部材11cには一方の端部17にラック8cが取り付けられ且つ他方の端部17にラック9cが取り付けられ,支持部材11dには一方の端部17にラック8dが取り付けられ且つ他方の端部17にラック9dが取り付けられている。
【0022】
ここで,動力伝達機構30における支持部材11aが駆動装置18の駆動で移動すれば,図6(a)に示すように,支持部材11aに一端部17に取り付けられたラック8aが矢印A方向に移動する。ラック8aが移動すれば,ラック8aが噛み合っているリングギア6が矢印B方向に回転する。同様に,図6(b)に示すように,支持部材11aの他端部17に取り付けられたラック9aが矢印A’方向に移動する。ラック9aが移動すれば,ラック9aが噛み合っているリングギア7が矢印B’方向に逆回転する。リングギア6が矢印B方向に回転すれば,ラック8aに連動してラック8b,8c,8dがラック8aと同様に移動すると共に,リングギア7が矢印B’方向に逆回転すれば,ラック9aに連動してラック9b,9c,9dがラック9aと同様に移動する。ラック8b,8c,8dが移動すると,支持部材11aに連動して支持部材11b,11c,11dが支持部材11aと同様に移動すると共に,ラック9b,9c,9dが移動すると,支持部材11aに連動して支持部材11b,11c,11dが支持部材11aと同様に移動する。言い換えれば,支持部材11a,11b,11c,11dに設けられたいずれか1個の駆動装置18が駆動すれば,残りの3個の駆動装置18が駆動せずに休止していたとしても,3個の支持部材11が連動して往復移動することになる。支持部材11a,11b,11c,11dは,図6の(c)に矢印で示すように,中心へ移動することになる。言い換えれば,支持部材11a,11b,11c,11dは,互いに連動して中心部へと移動し,支持部材11a,11b,11c,11dに固定されている4個の把持爪2で工作物を把持することになる。
【0023】
各ラック8の歯は,軸方向前段側のリングギア6の歯に噛み合い,各ラック9の歯は,軸方向後段側のリングギア7の歯に噛み合い,リングギア6,7の周方向に90°毎にずれた位置に設定されている。動力伝達機構30は,支持部材11,ラック8,9,リングギア6,7,及び直動案内ユニット14から構成され,駆動装置18の駆動部19の作動によって把持爪2を往復動させる。実施例では,駆動装置18の駆動部19は,支持部材11の端部17に設けた取付けブラケット27に連結されている。実施例では,駆動装置18は,4個の支持部材11にそれぞれ設けられて同期して駆動されるが,本動力伝達機構30は,4個,言い換えれば,2対の支持部材11は連動機構に構成されているので,少なくとも一つの駆動装置18によって各支持部材11を連動して駆動するように構成されている。この実施例では,駆動装置18としてエアシリンダを使用し,4個のエアシリンダが支持部材11に対応してそれぞれ配置されている。エアシリンダの固定部が取付けベース板1の直動案内ユニット14の外側に固定されたブラケット25に固定されている。エアシリンダの駆動部19のストローク範囲は,駆動させる各支持部材11の端部17が装置外径にはみ出さず,かつ対向する支持部材11が装置中心で突き当たるように設定されている。本実施例では,駆動装置18が4個設けられているが,動力伝達機構30の全体が連動して駆動するため,駆動装置18は少なくとも1個あればよい。また,各把持爪2の対ごとに2つ設けても,同様にして工作物を把持することができ,把持力を向上させることができる。
【0024】
このチャック装置では,支持部材11及びラック8,9を案内する直動案内ユニット14は,装置自体の中心を挟んで対向する位置に2個を対として隔置されており,チャック中心を中心とする円の接線方向に,案内方向が把持爪2の移動方向と平行であって,対である直動案内ユニット14の案内方向が平行になるよう配置されている。支持部材11の一方の端部17は対である直動案内ユニット14の一方に案内され,他方の端部17は直動案内ユニット14の他方に案内されることから,支持部材11の2つの端部17は同時に平行に案内され,支持部材11は長手方向が移動方向に直交したまま傾くことがない。即ち,このチャック装置は,支持部材11に取り付けられた把持爪2のチャック面が傾くことなく案内される。
【0025】
この実施例では,2つを一組として平行に隔置して配置された2組の直動案内ユニット14の案内方向が直交するように,全体として軸方向から見て矩形となるように4つの直動案内ユニット14が配置されている。本実施例では,直動案内ユニット14は,転動体としてボール又はローラを使用する転がりの直動案内ユニットを使用することができる。取付けベース板1は,チャック中心と同軸に貫通孔15が設けられた軸方向視で円形の厚板状の部材であり,動力伝達機構30は,チャック装置の外周側である貫通孔15の外周に設けられる。把持爪2の駆動装置18が外周側に設けられているため,駆動装置等がチャック装置の内周側に向けて設けられた従来技術より,貫通孔15を大きく設定することができる。貫通孔15は,工作物を把持爪2に取り付けた際に工作物を通すことができ,クーラントの配管を設置するなどが可能なため,このチャック装置を設けた工作機械の設計自由度が高まる。対向する支持部材11の端部17に取り付けられたラック8,9が前後にずらされて配置されており,干渉しないことから,従来のラックが中心に向かって半径方向に設けられた4爪チャック装置が対向するラックの干渉によりストロークが制限されていたのに対し,より大きなストロークを確保することができる。実施例では軸受4,5に大径のボールベアリングを使用しているが,前後2段のリングギア6,7が同軸に相対回転可能であればどのような構造でもよく,転がりに代えてすべりの直動案内ユニットを使用することができる。
【0026】
以上の構成から,支持部材11に取り付けられた4つの把持爪2は,動力伝達機構30により連動して工作物を把持する。図6を参照して,このチャック装置は,ラック8,9,リングギア6,7及び直動案内ユニット14で構成されて連動して作動し,同時に4つの把持爪2によるクランプが可能となる本発明のチャック装置の動作について説明する。この実施例では,駆動装置18が各支持部材11の端部17に合計4個設けられているが,動力伝達機構30は,4個の支持部材11を連動させて駆動するものであるため,ここでは,駆動装置18が1個の把持動作を説明することとする。
【0027】
このチャック装置において,駆動装置18が作動すると,駆動部19と連結された支持部材11の端部17が固定部20を固定したブラケット25の方向に移動し,支持部材11の一方の端部17に連結部材10を介して連結されたラック8が直動案内ユニット14に案内されてA方向に走行することで,ラック8と噛み合ったリングギア6がB方向に回転する〔図6の(a)〕。同時に,支持部材11の他方の端部17がA´方向に移動し,支持部材11の他方の端部17に連結部材10を介して連結されたラック9が直動案内ユニット14に案内されてA´方向に走行することによってリングギア7がリングギア6と反対方向のB´方向に回転し〔図6の(b)〕,リングギア6,7の回転によってかみ合った各ラック8,9が従動して,直動案内ユニット14の軌道レール12を共有する2つのスライダ13に取り付けられたラック8,9がそれぞれ相対的にリングギア6,7の接線方向に移動する。ラック8,9と連結された各支持部材11の端部17が直動案内ユニット14に案内されて平行に移動することにより,長手方向が移動方向に直交した状態で各支持部材11が中心に向かって走行し,対向する一対の支持部材11が相対的に近づき,2対の移動方向が直交していることで全体として4つの支持部材11が貫通孔15の中心軸方向に絞り込むように移動し〔図6の(c)参照〕,4つの支持部材11の長手方向中央に取り付けた4つの把持爪2が2つの直径方向から工作物の外径をクランプする。このチャック装置は,駆動装置18を求める把持力に応じて数やタイプを選定することができる。また,油圧シリンダ等の推力の異なるものを使用することができる。また,図6の(c)の矢印と逆方向に把持爪2を移動すれば,把持爪2は工作物を解放したり,或いは,中空の工作物の内径側を把持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
この発明によるチャック装置は,例えば,レーザー加工機等の工作機械,産業機械に使用するのに好適なものである。
【符号の説明】
【0029】
1 取付けベース板
2 把持爪
3 ハウジング軸
4 軸受(第1軸受)
5 軸受(第2軸受)
6 リングギア(第1リングギア)
7 リングギア(第2リングギア)
8 ラック(第1ラック)
9 ラック(第2ラック)
10 連結部材
10a 第1連結部材
10b 第2連結部材
11 支持部材
12 軌道レール
13 スライダ
14 直動案内ユニット
15 貫通孔
17 端部
18 駆動装置
19 駆動部
20 固定部
21 支持部材の前面
22 支持部材の背面
25 ブラケット
26 把持爪取付部
27 取付けブラケット
30 動力伝達機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6