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  • 特許-光学ブランク部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】光学ブランク部材
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20230410BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20230410BHJP
   B24B 9/10 20060101ALI20230410BHJP
   B24B 9/14 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
G02B5/20
G02B5/00 Z
B24B9/10 E
B24B9/14 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019185757
(22)【出願日】2019-10-09
(65)【公開番号】P2021060545
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003018
【氏名又は名称】弁理士法人プロテクトスタンス
(72)【発明者】
【氏名】亀卦川 伸也
(72)【発明者】
【氏名】高田 元生
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/005019(WO,A1)
【文献】特開2018-037084(JP,A)
【文献】特開2009-127125(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1928104(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
G02B 5/00
B24B 9/10
B24B 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面形状が四角形状で第1主面と該第1主面とは反対側の第2主面とを有する光学ブランクにおいて、
前記光学ブランクの4つの角部に形成されたC面加工部と、
前記C面加工部と前記第1主面と前記第2主面とをつなぐ側面とが交差する箇所に形成されたR面加工部と、
を備える光学ブランク。
【請求項2】
前記C面加工部の長さLに対する前記R面加工部の曲率半径Rである、L:Rが1:0.05から1:0.15の範囲である請求項1に記載の光学ブランク。
【請求項3】
前記光学ブランクの前記側面の面粗さが、2.7μm以下である請求項1に記載の光学ブランク。
【請求項4】
前記側面の全部又は一部がC面加工又はR面加工されている請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光学ブランク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子光学機器等に使用される水晶又は光学ガラス等からなる光学フィルタ等の光学ブランクに関し、特に面取りされた光学ブランクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学フィルタ等の光学部品は一般に、角部が破損しないように面取り作業が行われる。一般に、面取り作業は角部を直線状にカットするC面取り作業と、角部を円弧状にカットするR面取り作業とがある。光学ブランクのすべての角部(4つの角部)に、R面取り作業を施すことはコストと作業工程の観点から行われていない。光学ブランクの主面が研磨される際には、予めC面取りされて角部が破損する可能性を低減している。
【0003】
しかし、光学ブランクの主面が研磨された後、より光学ブランクの品質を高めるため熱衝撃(ヒートショック)テストを施すと、光学ブランクにクラックが生じることがある。このようなクラックを有する光学ブランクは不良品となり、コスト高になるため、研磨された光学ブランクに熱衝撃テスト等の信頼性試験を施しても、クラックが生じ難くする工夫が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-27923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施形態の解決しようとする問題点は、信頼性試験に対してもクラック等が生じにくい光学ブランクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態は、平面形状が四角形状で第1主面と該第1主面とは反対側の第2主面とを有する光学ブランクである。光学ブランクは、4つの角部に形成されたC面加工部と、C面加工部と第1主面と第2主面とをつなぐ側面とが交差する箇所に形成されたR面加工部と、を備える。
【0007】
また、C面加工部の長さLに対するR面加工部の曲率半径Rである、L:Rが1:0.05から1:0.15の範囲であることが好ましい。
また 光学ブランクの側面の表面粗さが、2.7μm以下であることが好ましい。
さらに側面の全部又は一部がC面加工又はR面加工されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態の光学ブランクは、信頼性試験を経てもクラックが生じにくいという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)は光学ブランク10の側面図であり、(b)は光学ブランク10の正面図である。
図2】(a)は光学ブランク10の側面の一部拡大図であり、(b)は光学ブランク10の正面の一部拡大図である。
図3】光学ブランクの製造から信頼性試験までを示したフローチャートである。
図4】(a)はC面取りとR面取りとの比率に関する破損率を示したグラフである。(b)は側面の表面粗さに関する破損率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明の範囲は以下の説明の形態に限られるものではない。また各図は、配線又は搭載パッド等は、理解を助けるため実際よりも厚く描かれている。
【0011】
<光学ブランクの構造>
本実施形態では、矩形形状の光学ブランク10の長辺方向をX軸方向、短辺方向をY軸方向、X及びY軸方向に垂直な厚さ方向をZ軸方向として説明する。なお本実施形態で説明される光学ブランク10は長方形状であるが、正方形であってもよい。
【0012】
図1に示される光学ブランク10は、例えばATカット等の水晶板、光学ガラス板、LT(タンタル酸リチウム)板、LN(ニオブ酸リチウム)板である。光学ブランク10は、製品または部品として、一般に波長を選択する光学フィルタ、光を偏光する偏光板、熱を放つ放熱板などの用途に使用される。
【0013】
光学ブランク10は、大きさや厚さには特に制限はないが、図1に示される光学ブランクは、例えばX軸方向に30mmY軸方向に20mmの長さを有しており、厚さ(Z軸方向)は0.4mmである。図1(a)に示されるように、光学ブランク10は、第1主面11a及び第2主面11bを有する。また、図1(b)に示されるように、長辺15a,15d及び短辺15b,15cを有する。第1主面11a及び第2主面11bは、用途等により必要な研磨処理が施され、所定の面粗さに加工される。なお、長辺15a,15d及び短辺15b,15cは、それぞれ厚みがあるため、以下の説明で、第1主面11aから第2主面11bをつなぐ側面15a、15b、15c、15dと呼ぶこともある。
【0014】
光学ブランク10は、長辺15aと短辺15bとが交差する角部にC面取り加工部13aを、長辺15aと短辺15cとが交差する角部にC面取り加工部13bを、長辺15dと短辺15bとが交差する角部にC面取り加工部13cを、長辺15dと短辺15cとが交差する角部にC面取り加工部13dを有している。C面取り加工部13aは、他のC面取り加工部13b~13dよりも小さい面取りであり例えば1mmを削るC1である。C面取り加工部13b~13dは2mm削るC2面取りである。C面取り加工部13aは、ATカット等の水晶板のように、カット方向に特性を有する光学ブランク10の向きを視認させるために設けられている。
【0015】
図2(a1)及び(a2)は、図1(a)の丸点線で囲まれた領域の拡大図である。図2(a1)に示されるように、光学ブランク10の側面15a、15b、15c、15dは、第1主面11a及び第2主面11bとの間でR面取りRAされてもよい。また図2(a2)に示されるように、光学ブランク10の側面15a、15b、15c、15dは、第1主面11a及び第2主面11bとの間でC面取りCAされてもよい。このR面取りRAもしくはC面取りCAは、側面15a、15b、15c及び15d全体に亘って仕上げられても良いし、側面15a及び15dのみ仕上げられても良い。なお、後述するように、側面15a、15b、15c及び15d、又はその一部は、研磨仕上げされて表面粗さRa値が2.7μm以下に仕上げられていることが好ましい。
【0016】
図2(b)は、図1(b)の丸点線で囲まれた領域の拡大図である。図2(b)に示されるように、光学ブランク10のC面取り加工部13dは、C面取り加工部13dと短辺15cとが交差する部位にR面取り加工部13r及びC面取り加工部13dと長辺15dとが交差する部位にR面取り加工部13rとが設けられている。このC面取り加工部13dの長さLとR面取り加工部13rの曲率半径との関係は、図4を使って説明する。
【0017】
<光学ブランクの製造及び試験>
図3は、光学ブランクの製造から信頼性試験までを示したフローチャートである。光学ブランク10が数百枚以上製造できる大きさの光学板(不図示)が用意される。その光学板がダイシングされて、矩形の光学ブランクが準備される(ステップS31)。この光学ブランク10は厚みt1、例えば0.5mmである。
【0018】
この矩形の光学ブランクに対して、図1(b)に示されるように、C面取り加工部13a、13b、13c及び13dが処理される。また、図2(b)に示されるように、C面取り加工部13a、13b、13c及び13dに対してR面取り加工部13rが処理される(ステップS32)。さらに、図2(a1)及び(a2)に示されるように、R面取りRAもしくはC面取りCAが施されてもよい。なお、これらC面取り加工部13a、13b、13c及び13d、並びに、R面取り加工部13rを形成するために、上記の矩形の光学ブランクを、多数枚、互いの主面同士を貼り合わせてブロックにする。次いで、このブロックの側面を、所定の粒度の研磨剤によって研磨する。この研磨によって、C面取り加工部13a、13b、13c及び13d、並びに、R面取り加工部13rを形成すると共に、C面取り加工部13a、13b、13c及び13d、並びに、R面取り加工部13rの表面粗さRaを所望の表面粗さにする。
【0019】
C面取り及びR面取りされた光学ブランクは、第1主面11a及び11bが所定の表面粗さ及び厚さt2、例えば0.4mmになるように、研磨される(ステップS33)。
【0020】
光学ブランクは、第1主面11a又は第2主面11bの少なくとも一方に、コーティング処理される(ステップS34)。コーティング処理は、例えば反射膜のコーティングもしくは赤外線カットのコーティング等であり、特にコーティングの種類に制限はない。このようにして光学ブランク10が完成する。なお光学ブランク10の用途によってはコーティングされないものもある。
【0021】
その後、光学ブランク10に対して信頼性試験が行われる(ステップS35)。信頼性試験は本実施形態では熱衝撃(ヒートショック)テストである。熱衝撃テストは、光学ブランク10に破壊応力及び破壊を起こす程度の温度差を与えるテストである。この熱衝撃テストで破損が生じなかった光学ブランク10は、長期間の経時変化にも耐えうる製品であると推定される。この熱衝撃テストで、クラック等の破損が生じない光学ブランク10が製品として出荷される。
なお、熱衝撃テストの今回の条件は、光学ブランクをヒーター(ホットプレート)上に置き、室温から1分以内で光学ブランクを178~180℃に加熱し2分間保持し、その後、この光学ブランクを瞬時に水温20℃の純水中に投入するという条件である。この試験条件は、実製品では遭遇しない相当に厳しいものであるが、厳しい評価を行うために採用した条件である。
【0022】
<熱衝撃テストによる破損率>
図3のステップS35で説明したように、熱衝撃テストにより、一部の光学ブランク10にクラック等の破損が生じる。このクラック等の破損は、側面15a、15b、15cもしくは15d又はC面取り加工部13a、13b、13cもしくは13dで生じている。発明者は、C面取り加工部13(13a~13d)とR面取り加工部13rとの比率を変更して、その変更による熱衝撃テスト後の破損率を調査した。また、発明者は、側面15a、15b、15c及び15dの面粗さを変更して、その変更による熱衝撃テスト後の破損率を調査した。以下、図4に示すグラフは、光学ブランク10がガラス材料での実験例である。
【0023】
図4(a)は、C面取り加工部13とR面取り加工部13rとの比率を変更した際のグラフである。このグラフの縦軸は破損率であり、グラフの横軸はC面取り加工部13の長さLとR面取り加工部13rの曲率半径との比率である。各比率の光学ブランク(サンプル)の個数は、20個である。例えば、図2(b)に示されたC面取り加工部13dがC2、つまり長さL=2mmであり、R面取り加工部13rの曲率半径が0.2mmであると、R/Cの比率は0.10(L:R=1:0.10)である。
【0024】
図4(a)のグラフに示されるように、C面取り加工のみであると破損率が37%であり、R面取り加工部13rが施されると、破損率が減少していった。R/Cの比率0.00超過0.05以下(L:R=1:0.00超過0.05未満)では、破損率が32%であり、R/Cの比率0.05超過0.10以下(L:R=1:0.05超過0.10未満)では、破損率が26%であった。また、R/Cの比率0.10超過0.15以下(L:R=1:0.10超過0.15未満)では、破損率が19%であり、R/Cの比率0.15超過0.20以下(L:R=1:0.15超過0.20未満)では、破損率が11%であった。ここで、R面加工部13rを大きくすればするほど、破損率は小さくなるが、反面、事前の面取り加工のコストがかかる。一方、図4(a)から、R/Cの比率が0.l0~0.15であると、C加工のみに比べて破損率は半減する。今回の熱衝撃テスト条件は実製品では生じ難い過酷なものであり、この過酷な試験条件において破損率が半減する水準であれば、実製品では破損問題は生じないと考えることができ、製品として好ましい。従って、本実施形態において、R/Cの比率の好ましい範囲は、0.l0~0.15である。なお、図4(a)から、R/Cの比率のさらに好ましい範囲は、0.l5~0.20といえるが、そこまでせずとも、本実施形態の効果は得られると考える。
【0025】
図4(b)は、側面15a、15b、15c及び15dの表面粗さRa(以下、面粗さと略称することもある)を変更した際のグラフである。このグラフの縦軸は破損率であり、グラフの横軸は面粗さである。なお、面粗さは、左から1.2~3.0μm、0.9~2.7μm、0.6~1.8μm、0.5~1.0μm、0.3~0.5μm、0.2~0.4μm、及び0.1~0.3μmと幅がある。これらはそれぞれ、2.0μm、1.5μm、1.0μm、0.7μm、0.4μm、0.3μm、0.3μm及び0.2μmの面粗さを目指して製造したが、実際に製造できた光学ブランクの側面の面粗さにバラツキが出たためである。各比率の光学ブランク(サンプル)の個数は、20個である。
【0026】
図4(b)のグラフに示されるように、側面15a、15b、15c及び15dの面粗さが小さくなるに従い、破損率が減少していった。面粗さ2.0μmを目指して製造された1.2~3.0μmでは、破損率が23%であり、面粗さ1.5μmを目指して製造された0.9~2.7μmでは、破損率が7%であった。以下、面粗さ1.0μm以下を目指して製造された光学ブランクは、破損率が10%未満であった。このため面粗さ1.5μmを目指して製造された面粗さ2.7μm以下の光学ブランクは、破損率が急激に下がることが確認できた。
【0027】
ここで、表面粗さRaを小さくすればするほど、破損率は小さくなるが、反面、事前の面取り研磨時の加工コストがかかる。一方、図4(b)から、表面粗さRaが0.9~2.7μmであると、表面粗さRaが1.2~3.0μmの場合に比べて、破損率は約3分の1にまで低減する。今回の熱衝撃テスト条件は実製品では生じ難い過酷なものであり、この過酷な試験条件において破損率が3分の1に低減する水準であれば、実製品では破損問題は生じないと考えることができ、製品として好ましい。従って、本実施形態において、C面取り加工部とR面取り加工部の表面粗さRaは、2.7μm以下が好ましい。より具体的には、図4(b)から表面粗さRaが0.3~0.5μmの水準までは破損率が6程度であるから、C面取り加工部とR面取り加工部の表面粗さRaは、2.7μm~0.3μ以下であっても良い。なお、図4(b)から、表面粗さRaが0.4μm以下であると、表面粗さRaが1.2~3.0μmの場合に比べて、破損率は約10分の1に低減するから、C面取り加工部とR面取り加工部の表面粗さRaのさらに好ましい範囲は、0.4μm以下といえるが、そこまでせずとも、本実施形態の効果は得られると考える。
【符号の説明】
【0028】
10 … 光学ブランク
11a,11b … 第1主面、第2主面
13(13a~13d) … C面取り(C面加工部)
13r … R面取り(R面加工部)
15(15a~15d) … 辺もしくは側面(長辺、短辺)

図1
図2
図3
図4