(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】フォトマスクブランク、フォトマスクブランクの製造方法、フォトマスクの製造方法及び表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/54 20120101AFI20230410BHJP
G03F 1/32 20120101ALI20230410BHJP
G03F 1/80 20120101ALI20230410BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
G03F1/54
G03F1/32
G03F1/80
C23C14/06 N
(21)【出願番号】P 2019191084
(22)【出願日】2019-10-18
【審査請求日】2022-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】田辺 勝
(72)【発明者】
【氏名】浅川 敬司
(72)【発明者】
【氏名】安森 順一
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/003486(WO,A1)
【文献】特開2019-174791(JP,A)
【文献】特開平09-096898(JP,A)
【文献】特開2008-080447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/54
G03F 1/32
G03F 1/60
C23C 14/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に、半透過膜、エッチングストッパー膜、遮光膜をこの順に有するフォトマスクブランクであって、
前記フォトマスクブランクは、透明基板上に転写パターンを有するフォトマスクをウェットエッチングにより形成するための原版であり、
前記半透過膜及び前記遮光膜は、クロムを含有し、
前記エッチングストッパー膜は、遷移金属と、ケイ素とを含有し、
前記エッチングストッパー膜は、柱状構造を有していることを特徴とするフォトマスクブランク。
【請求項2】
前記エッチングストッパー膜に含まれる前記遷移金属と前記ケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:3以上1:15以下であることを特徴とする請求項1に記載のフォトマスクブランク。
【請求項3】
前記遷移金属は、モリブデンであることを特徴とする請求項1または2に記載のフォトマスクブランク。
【請求項4】
透明基板上に、半透過膜、エッチングストッパー膜、遮光膜をこの順に有するフォトマスクブランクの製造方法であって、
前記半透過膜及び前記遮光膜は、成膜室内にクロムを含むターゲットを使用してスパッタリングを行うことによって形成し、
前記エッチングストッパー膜は、成膜室内に遷移金属とケイ素を含む遷移金属シリサイドターゲットを使用し、スパッタリングガスを供給した前記成膜室内のスパッタリングガス圧力が0.7Pa以上3.0Pa以下で形成することを特徴とするフォトマスクブランクの製造方法。
【請求項5】
前記遷移金属シリサイドターゲットの前記遷移金属とケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:3以上1:15以下であることを特徴とする請求項4記載のフォトマスクブランクの製造方法。
【請求項6】
前記半透過膜、前記エッチングストッパー膜、及び前記遮光膜は、インライン型スパッタリング装置を使用して形成することを特徴とする請求項4または5に記載のフォトマスクブランクの製造方法。
【請求項7】
請求項1から3のいずれかに記載のフォトマスクブランク、または請求項4から6のいずれかに記載のフォトマスクブランクの製造方法によって製造されたフォトマスクブランクを準備する工程と、
前記半透過膜、前記エッチングストッパー膜、及び前記遮光膜のそれぞれに、ウェットエッチングによってパターニングを行い、露光光を透過する透過部と、露光光を一部透過する半透過部と、露光光を遮光する遮光部とを有する転写パターンを形成する工程と、を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のフォトマスクの製造方法により得られたフォトマスクを露光装置のマスクステージに載置し、前記フォトマスク上に形成された前記転写パターンを、表示装置基板上に形成されたレジストに露光転写する露光工程を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスクブランク、フォトマスクブランクの製造方法、フォトマスクの製造方法及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LCD(Liquid Crystal Display)を代表とするFPD(Flat Panel Display)等の表示装置では、大画面化、広視野角化とともに、高精細化、高速表示化が急速に進んでいる。この高精細化、高速表示化のために必要な要素の1つが、微細で寸法精度の高い素子や配線等の電子回路パターンの作製である。この表示装置用電子回路のパターニングにはフォトリソグラフィが用いられることが多い。このため、微細で高精度なパターンが形成された表示装置製造用のフォトマスクが必要になっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、透明基板上に半透光膜(CrO等)、エッチングストッパー膜(SiO2等)、遮光膜(Cr等)、レジスト膜を順次形成し、透過部を形成すべき部分(エリアC)上のレジスト膜を除去してこの部分上の遮光膜及びエッチングストッパー膜を除去し、次いで、半透過部を形成すべき部分上のレジストを除去してこの部分上の遮光膜を除去して半透過部を形成し、他のエリア上の半透光膜を除去して透過部を形成して、グレートーンマスクを製造するグレートーンマスクの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の高精細(1000ppi以上)のパネル作製に使用されるフォトマスクとしては、高解像のパターン転写を可能にするために、ホール径で6μm以下、ライン幅で4μm以下の微細な転写パターンが形成されたフォトマスクが要求されている。また、半透過膜を有した3階調あるいは4階調の転写パターンが形成されたフォトマスクが要求されている。
このようなフォトマスクを実現するために、透明基板上に、半透過膜、エッチングストッパー膜、遮光膜をこの順に有するフォトマスクブランクが提案されている。遮光膜及び半透過膜としては、遮光性能の観点等からクロムを含有する材料が使用される。また、エッチングストッパー膜は、エッチング選択性の観点等から、遷移金属とケイ素とを含有する材料が使用される。
ところが、これらの材料が使用されたフォトマスクブランクに、ウェットエッチングによって転写パターンを形成したときに、透過部となるべき領域で、十分な透過率が得られない箇所が生じ、透過率の面内均一性が低下する場合があった。このような箇所があると、転写性能に影響がでるため、好ましくない。
【0006】
そこで本発明は、上述の問題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、半透過部を構成する半透過膜のパターンの断面形状が良好で、かつ、透過部において十分な透過率を有し、透過率の面内均一性の高い転写パターンを形成できるフォトマスクブランク、フォトマスクブランクの製造方法、フォトマスクの製造方法及び表示装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこれらの問題点を解決するための方策を鋭意検討した。まず、十分な透過率が得られない箇所に残存している半透過膜を除去するために、エッチングタイムを大幅に長くしたオーバーエッチングを半透過膜に対して行った。ところが、このようなオーバーエッチングを行っても、透過率に十分な改善が見られなかった。本発明者はさらに検討を行い、十分な透過率が得られない領域において、半透過膜だけでなくエッチングストッパー膜も残存していることを突き止めた。そして、エッチングストッパー膜に対してオーバーエッチングを行うことで、透過部となる領域からエッチングストッパー膜を除去でき、そして、光半透過膜も除去できることを突き止めた。
しかしながら、エッチングストッパー膜に対するオーバーエッチング時間が長いと、エッチングストッパー膜に形成されるパターンへのサイドエッチングが進行してしまい、パターン形状が悪化してしまう。このため、オーバーエッチング時間を短くすることが望ましい。
【0008】
そこで、本発明者は発想を転換し、成膜室内におけるスパッタリングガスの圧力を調整して、膜構造を変えることを検討した。エッチングストッパー膜を成膜する際には、成膜室内におけるスパッタリングガス圧力を0.1~0.5Paとすることが通常である。しかしながら、本発明者は、スパッタリングガス圧力をあえて0.5Paよりも大きくして、エッチングストッパー膜を成膜した。そして、0.7Pa以上3.0Pa以下のスパッタリング圧力で、好ましくは、0.8Pa以上3.0Pa以下のスパッタリングガス圧力でエッチングストッパー膜を成膜したところ、エッチングストッパー膜としての好適な特性を備えたうえで、エッチングストッパー膜に転写パターンをウェットエッチングにより形成する際に、エッチング時間を大幅に短縮でき、良好な断面形状を有する転写パターンが形成できることを見出した。そして、このようにして成膜されたエッチングストッパー膜は、通常のエッチングストッパー膜には見られない、柱状構造を有していた。本発明は、以上のような鋭意検討の結果なされたものであり、以下の構成を有する。
【0009】
(構成1)透明基板上に、半透過膜、エッチングストッパー膜、遮光膜をこの順に有するフォトマスクブランクであって、
前記フォトマスクブランクは、透明基板上に転写パターンを有するフォトマスクをウェットエッチングにより形成するための原版であり、
前記半透過膜及び前記遮光膜は、クロムを含有し、
前記エッチングストッパー膜は、遷移金属と、ケイ素とを含有し、
前記エッチングストッパー膜は、柱状構造を有していることを特徴とするフォトマスクブランク。
【0010】
(構成2)前記エッチングストッパー膜に含まれる前記遷移金属と前記ケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:3以上1:15以下であることを特徴とする構成1に記載のフォトマスクブランク。
(構成3)前記遷移金属は、モリブデンであることを特徴とする構成1または2に記載のフォトマスクブランク。
【0011】
(構成4)透明基板上に、半透過膜、エッチングストッパー膜、遮光膜をこの順に有するフォトマスクブランクの製造方法であって、
前記半透過膜及び前記遮光膜は、成膜室内にクロムを含むターゲットを使用してスパッタリングを行うことによって形成し、
前記エッチングストッパー膜は、成膜室内に遷移金属とケイ素を含む遷移金属シリサイドターゲットを使用し、スパッタリングガスを供給した前記成膜室内のスパッタリングガス圧力が0.7Pa以上3.0Pa以下で形成することを特徴とするフォトマスクブランクの製造方法。
【0012】
(構成5)前記遷移金属シリサイドターゲットの前記遷移金属とケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:3以上1:15以下であることを特徴とする構成4記載のフォトマスクブランクの製造方法。
(構成6)前記半透過膜、前記エッチングストッパー膜、及び前記遮光膜は、インライン型スパッタリング装置を使用して形成することを特徴とする構成4または5に記載のフォトマスクブランクの製造方法。
(構成7)構成1から3のいずれかに記載のフォトマスクブランク、または構成4から6のいずれかに記載のフォトマスクブランクの製造方法によって製造されたフォトマスクブランクを準備する工程と、
前記半透過膜、前記エッチングストッパー膜、及び前記遮光膜のそれぞれに、ウェットエッチングによってパターニングを行い、露光光を透過する透過部と、露光光を一部透過する半透過部と、露光光を遮光する遮光部とを有する転写パターンを形成する工程と、を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
(構成8)構成7に記載のフォトマスクの製造方法により得られたフォトマスクを露光装置のマスクステージに載置し、前記フォトマスク上に形成された前記転写パターンを、表示装置基板上に形成されたレジストに露光転写する露光工程を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るフォトマスクブランクまたはフォトマスクブランクの製造方法によれば、エッチングストッパー膜パターンをマスクにしてウェットエッチングにより要求される微細な転写パターンを半透過膜に形成する際に、過度なオーバーエッチングをすることなく、透過率の面内均一性の高い転写パターンが形成できるフォトマスクブランクを得ることができる。
【0014】
また、本発明に係るフォトマスクの製造方法によれば、上述したフォトマスクブランクを用いてフォトマスクを製造する。このため、透過部において十分な透過率を有し、過度なオーバーエッチングをすることなく、透過率の面内均一性の高い転写パターンを有するフォトマスクを製造することができる。このフォトマスクは、ラインアンドスペースパターンやコンタクトホールの微細化に対応することができる。
【0015】
また、本発明に係る表示装置の製造方法によれば、上述したフォトマスクブランクを用いて製造されたフォトマスクまたは上述したフォトマスクの製造方法によって得られたフォトマスクを用いて表示装置を製造する。このため、微細なラインアンドスペースパターンやコンタクトホールを有する表示装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施の形態1にかかるフォトマスクブランクの膜構成を示す模式図である。
【
図2】実施の形態2にかかるフォトマスクの製造工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1
実施の形態1では、フォトマスクブランクについて説明する。実施の形態1のフォトマスクブランクは、透明基板上に半透過部、透過部および遮光部を有するフォトマスクをウェットエッチングにより形成するための原版である。
【0018】
図1は実施の形態1にかかるフォトマスクブランク10の膜構成を示す模式図である。
図1に示すフォトマスクブランク10は、透明基板20上に、半透過膜30、エッチングストッパー膜40、遮光膜50をこの順に備える。
図2は実施の形態2にかかるフォトマスクブランク10の膜構成を示す模式図である。
図2に示すフォトマスクブランク10は、透明基板20と、透明基板20上に、半透過膜30、エッチングストッパー膜40、遮光膜50をこの順に備える。
以下、実施の形態1のフォトマスクブランク10を構成する透明基板20、半透過膜30、エッチングストッパー膜40、遮光膜50について説明する。
【0019】
透明基板20は、露光光に対して透明である。透明基板20は、表面反射ロスが無いとしたときに、露光光に対して85%以上の透過率、好ましくは90%以上の透過率を有するものである。透明基板20は、ケイ素と酸素を含有する材料からなり、合成石英ガラス、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO2-TiO2ガラス等)などのガラス材料で構成することができる。透明基板20が低熱膨張ガラスから構成される場合、透明基板20の熱変形に起因する半透過膜パターンの位置変化を抑制することができる。また、表示装置用途で使用される透明基板20は、一般に矩形状の基板であって、該透明基板の短辺の長さは300mm以上であるものが使用される。本発明は、透明基板の短辺の長さが300mm以上の大きなサイズであっても、透明基板上に形成される例えば2.0μm未満の微細な半透過膜パターンを安定して転写することができるフォトマスクを提供可能なフォトマスクブランクである。
【0020】
半透過膜30は、透明基板20側から入射する光に対する反射率(以下、裏面反射率と記載する場合がある)を調整する機能と、露光光に対する透過率を調整する機能とを有する。半透過膜30は、クロム(Cr)を含有するクロム系材料から構成される。クロム系材料として、より具体的には、クロム(Cr)、又は、クロム(Cr)と、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)のうちの少なくともいずれか1つを含有する材料が挙げられる。又は、クロム(Cr)と、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)のうちの少なくともいずれか1つとを含み、さらに、フッ素(F)を含む材料が挙げられる。例えば、半透過膜30を構成する材料として、Cr、CrO、CrN、CrF、CrCO、CrCN、CrON、CrCON、CrCONFが挙げられる。
半透過膜30は、スパッタリング法により形成することができる。
【0021】
露光光に対する半透過膜30の透過率は、半透過膜30として必要な値を満たす。半透過膜30の透過率は、露光光に含まれる所定の波長の光(以下、代表波長という)に対して、好ましくは、1%以上80%以下であり、より好ましくは、15%以上65%以下であり、さらに好ましくは20%以上60%以下である。すなわち、露光光が313nm以上436nm以下の波長範囲の光を含む複合光である場合、半透過膜30は、その波長範囲に含まれる代表波長の光に対して、上述した透過率を有する。例えば、露光光がi線、h線およびg線を含む複合光である場合、半透過膜30は、i線、h線およびg線のいずれかに対して、上述した透過率を有する。
透過率は、位相シフト量測定装置などを用いて測定することができる。
【0022】
半透過膜30の裏面反射率は、良好な転写特性を維持するため、365nm~436nmの波長域において15%以下であり、10%以下であると好ましい。また、半透過膜30の裏面反射率は、露光光にj線が含まれる場合、313nmから436nmの波長域の光に対して20%以下であると好ましく、17%以下であるとより好ましい。さらに好ましくは15%以下であることが望ましい。また、半透過膜30の裏面反射率は、365nm~436nmの波長域において0.2%以上であり、313nmから436nmの波長域の光に対して0.2%以上であると好ましい。
裏面反射率は、分光光度計などを用いて測定することができる。
【0023】
この半透過膜30は複数の層で構成されていてもよく、単一の層で構成されていてもよい。単一の層で構成された半透過膜30は、半透過膜30中に界面が形成され難く、断面形状を制御しやすい点で好ましい。一方、複数の層で構成された半透過膜30は、成膜のし易さ等の点で好ましい。
【0024】
エッチングストッパー膜40は、半透過膜30の上側に配置され、半透過膜30をエッチングするエッチング液に対してエッチング耐性を有する(半透過膜30とエッチング選択性が異なる)材料からなる。
エッチングストッパー膜40は、遷移金属と、ケイ素とを含有する遷移金属シリサイド系材料で構成される。遷移金属として、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)などが好適であり、特に、モリブデン(Mo)であるとさらに好ましい。
また、エッチングストッパー膜40は、窒素または酸素といった軽元素成分を含有してもよい。上記遷移金属シリサイド系材料において、軽元素成分である窒素または酸素は、消衰係数を下げる効果があるため、エッチングストッパー膜40の表面および裏面の反射率も効果的に低減することができる。また、エッチングストッパー膜40に含まれる酸素と窒素を含む軽元素成分の合計含有率は、15原子%以上が好ましい。さらに好ましくは、15原子%以上60原子%以下、25原子%以上50原子%以下が望ましい。また、エッチングストッパー膜40に酸素が含まれる場合は、酸素の含有率は、0原子%超30原子%以下であることが、欠陥品質、耐薬品性に於いて望ましい。
遷移金属シリサイド系材料としては、例えば、遷移金属シリサイドの窒化物、遷移金属シリサイドの酸化物、遷移金属シリサイドの酸化窒化物、遷移金属シリサイドの酸化窒化炭化物が挙げられる。また、遷移金属シリサイド系材料は、モリブデンシリサイド系材料(MoSi系材料)、ジルコニウムシリサイド系材料(ZrSi系材料)、モリブデンジルコニウムシリサイド系材料(MoZrSi系材料)であると、ウェットエッチングによる優れたパターン断面形状が得られやすいという点で好ましく、特にモリブデンシリサイド系材料(MoSi系材料)であると好ましい。
また、エッチングストッパー膜40には、上述した酸素、窒素の他に、膜応力の低減やウェットエッチングレートを制御する目的で、炭素やヘリウム等の他の軽元素成分を含有してもよい。
エッチングストッパー膜40は、半透過膜30を保護する機能を有する。
エッチングストッパー膜40は、スパッタリング法により形成することができる。
【0025】
このエッチングストッパー膜40は柱状構造を有していることが好ましい。この柱状構造は、エッチングストッパー膜40を断面SEM観察により確認することができる。すなわち、本発明における柱状構造は、エッチングストッパー膜40を構成する遷移金属とケイ素とを含有する遷移金属シリサイド化合物の粒子が、エッチングストッパー膜40の膜厚方向(上記粒子が堆積する方向)に向かって伸びる柱状の粒子構造を有する状態をいう。なお、本願においては、膜厚方向の長さがその垂直方向の長さよりも長いものを柱状の粒子としている。すなわち、エッチングストッパー膜40は、膜厚方向に向かって伸びる柱状の粒子が、透明基板20の面内に渡って形成されている。また、エッチングストッパー膜40は、成膜条件(スパッタリング圧力など)を調整することにより、柱状の粒子よりも相対的に密度の低い疎の部分(以下、単に「疎の部分」ということもある)も形成されている。なお、エッチングストッパー膜40は、ウェットエッチングの際のサイドエッチングを効果的に抑制し、パターン断面形状をさらに良化するために、エッチングストッパー膜40の柱状構造の好ましい形態としては、膜厚方向に伸びる柱状の粒子が、膜厚方向に不規則に形成されているのが好ましい。さらに好ましくは、エッチングストッパー膜40の柱状の粒子は、膜厚方向の長さが不揃いな状態であるのが好ましい。そして、エッチングストッパー膜40の疎の部分は、膜厚方向において連続的に形成されていることが好ましい。また、エッチングストッパー膜40の疎の部分は、膜厚方向に垂直な方向において断続的に形成されていることが好ましい。エッチングストッパー膜40を上記に説明した柱状構造とすることにより、ウェットエッチング液を用いたウェットエッチングの際、エッチングストッパー膜40の膜厚方向にウェットエッチング液が浸透しやすくなるので、ウェットエッチング速度が速くなり、ウェットエッチング時間を大幅に短縮することができる。エッチングストッパー膜40が膜厚方向に伸びる柱状構造を有しているので、ウェットエッチングの際のサイドエッチングが抑制されるので、パターン断面形状も良好となる。
【0026】
エッチングストッパー膜40に含まれる遷移金属とケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:3以上1:15以下であることが好ましい。この範囲であると、エッチングストッパー膜40のパターン形成時におけるウェットエッチングレート低下を、柱状構造により抑制する効果を大きくすることができる。また、エッチングストッパー膜40の洗浄耐性を高めることができ、透過率を高めることも容易となる。エッチングストッパー膜40の洗浄耐性を高める視点からは、エッチングストッパー膜40に含まれる遷移金属とケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:4以上1:15以下、さらに好ましくは、遷移金属:ケイ素=1:5以上1:15以下が望ましい。
【0027】
フォトマスクにした際の半透過部が、半透過膜30とエッチングストッパー膜40の積層膜で構成される場合、露光光に対するエッチングストッパー膜40の透過率は、露光光に含まれる所定の波長の光(以下、代表波長という)に対して、好ましくは、1%以上80%以下であり、より好ましくは、15%以上65%以下であり、さらに好ましくは20%以上60%以下である。すなわち、露光光が313nm以上436nm以下の波長範囲の光を含む複合光である場合、エッチングストッパー膜40は、その波長範囲に含まれる代表波長の光に対して、上述した透過率を有する。例えば、露光光がi線、h線およびg線を含む複合光である場合、エッチングストッパー膜40は、i線、h線およびg線のいずれかに対して、上述した透過率を有する。
透過率は、位相シフト量測定装置などを用いて測定することができる。
また、フォトマスクにした際の半透過部が、半透過膜30で構成される場合、エッチングストッパー膜40は、フォトマスクにした際の遮光部の一部として機能することになる。従って、この場合、露光光に対するエッチングストッパー膜40の透過率は、露光光に含まれる所定の波長の光(以下、代表波長という)に対して、10%以下であることが好ましい。より好ましくは、5%以下、さらに好ましくは、1%以下であることが好ましい。
【0028】
このエッチングストッパー膜40は複数の層で構成されていてもよく、単一の層で構成されていてもよい。単一の層で構成されたエッチングストッパー膜40は、エッチングストッパー膜40中に界面が形成され難く、断面形状を制御しやすい点で好ましい。一方、複数の層で構成されたエッチングストッパー膜40は、成膜のし易さ等の点で好ましい。
エッチングストッパー膜40の膜厚は、エッチングストッパーとしての機能が得られれば十分であり、基板面内において十分なエッチングストッパーの機能を果たすために、3nm以上であると好ましく、5nm以上であるとさらに好ましく、10nm以上であるとさらに好ましい。また、エッチングストッパー膜をウェットエッチングによりパターニングする際に、エッチングストッパー膜残りを防止するために過度なオーバーエッチングを抑制する観点から、100nm以下であると好ましく、60nm以下であるとより好ましく、40nm以下であるとさらに好ましい。すなわち、エッチングストッパー膜40の膜厚は、3nm以上100nm以下であると好ましく、5nm以上60nm以下であるとより好ましく、10nm以上40nm以下であるとさらに好ましい。
【0029】
遮光膜50は、エッチングストッパー膜40の上側に配置され、エッチングストッパー膜40をエッチングするエッチング液に対してエッチング耐性を有する(エッチングストッパー膜40とエッチング選択性が異なる)材料からなる。また、遮光膜50は、露光光の透過を遮る機能を有してもよいし、さらに、エッチングストッパー膜40側より入射される光に対するエッチングストッパー膜40の膜面反射率が350nm~436nmの波長域において15%以下となるように膜面反射率を低減する機能を有してもよい。遮光膜50は、クロム(Cr)を含有するクロム系材料から構成される。クロム系材料として、より具体的には、クロム(Cr)、又は、クロム(Cr)と、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)のうちの少なくともいずれか1つを含有する材料が挙げられる。又は、クロム(Cr)と、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)のうちの少なくともいずれか1つとを含み、さらに、フッ素(F)を含む材料が挙げられる。例えば、遮光膜50を構成する材料として、Cr、CrO、CrN、CrF、CrCO、CrCN、CrON、CrCON、CrCONFが挙げられる。
遮光膜50は、スパッタリング法により形成することができる。
【0030】
遮光膜50は露光光の透過を遮る機能を有し、半透過膜30、エッチングストッパー膜40、遮光膜50が積層する部分において、露光光に対する光学濃度は、好ましくは3以上であり、より好ましくは、3.5以上、さらに好ましくは4以上である。
光学濃度は、分光光度計またはODメーターなどを用いて測定することができる。
【0031】
遮光膜50は、機能に応じて組成が均一な単一の膜からなる場合であってもよいし、組成が異なる複数の膜からなる場合であってもよいし、厚さ方向に組成が連続的に変化する単一の膜からなる場合であってもよい。
【0032】
なお、
図1に示すフォトマスクブランク10は、エッチングストッパー膜40上に遮光膜50を備えているが、エッチングストッパー膜40上に遮光膜50を備え、遮光膜50上にレジスト膜を備えるフォトマスクブランクについても、本発明を適用することができる。
【0033】
次に、この実施の形態1のフォトマスクブランク10の製造方法について説明する。
先ず、透明基板20を準備する。透明基板20は、露光光に対して透明であれば、合成石英ガラス、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO2-TiO2ガラス等)などのいずれのガラス材料で構成されるものであってもよい。
【0034】
次に、透明基板20上に、スパッタリング法により、半透過膜30を形成する。半透過膜30は、インライン型スパッタリング装置を使用して形成することが好ましい。スパッタリング装置がインライン型スパッタリング装置の場合、透明基板20の搬送速度によっても、半透過膜30の厚さを制御することができる。
半透過膜30の成膜は、クロム又はクロム化合物(酸化クロム、窒化クロム、炭化クロム、酸化窒化クロム、酸化炭化クロム、酸化窒化炭化クロム等)を含むスパッタターゲットを使用して、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスからなるスパッタガス雰囲気、又は、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスと、酸素ガス、窒素ガス、一酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、二酸化炭素ガス、炭化水素系ガス、フッ素系ガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む活性ガスとの混合ガスからなるスパッタガス雰囲気で行われる。炭化水素系ガスとしては、例えば、メタンガス、ブタンガス、プロパンガス、スチレンガス等が挙げられる。
【0035】
半透過膜30が、組成の均一な単一の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、スパッタガスの組成及び流量を変えずに1回だけ行う。半透過膜30が、組成の異なる複数の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、成膜プロセス毎にスパッタガスの組成及び流量を変えて複数回行う。半透過膜30が、厚さ方向に組成が連続的に変化する単一の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、スパッタガスの組成及び流量を成膜プロセスの経過時間と共に変化させながら1回だけ行う。
【0036】
次に、半透過膜30上に、スパッタリング法により、エッチングストッパー膜40を形成する。
エッチングストッパー膜40の成膜は、エッチングストッパー膜40を構成する材料の主成分となる遷移金属とケイ素を含む遷移金属シリサイドターゲット、又は遷移金属とケイ素と酸素及び/又は窒素を含む遷移金属シリサイドターゲットをスパッタターゲットに使用して、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスからなるスパッタガス雰囲気、又は、上記不活性ガスと、酸素ガス、窒素ガス、二酸化炭素ガス、一酸化窒素ガス、二酸化窒素ガスからなる群より選ばれて酸素及び窒素を少なくとも含む活性ガスとの混合ガスからなるスパッタガス雰囲気で行われる。そして、エッチングストッパー膜40は、スパッタリングを行う際における成膜室内のガス圧力が0.7Pa以上3.0Pa以下で形成する。好ましくは、エッチングストッパー膜40は、スパッタリングを行う際における成膜室内のガス圧力が0.8Pa以上3.0Paで形成する。ガス圧力の範囲をこのように設定することで、エッチングストッパー膜40に柱状構造を形成することができる。この柱状構造により、後述するパターン形成時におけるサイドエッチングを抑制できるとともに、高エッチングレートを達成することができる。ここで、遷移金属シリサイドターゲットの遷移金属とケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:3以上1:15以下であることが、ウェットエッチング速度の低下を柱状構造によって抑制する効果が大きく、エッチングストッパー膜40の洗浄耐性を高めることができ、透過率を高めることも容易となる等の点で、好ましい。
【0037】
エッチングストッパー膜40の組成及び厚さは、エッチングストッパー膜40が上記の機能を有するように調整される。エッチングストッパー膜40の組成は、スパッタターゲットを構成する元素の含有比率(例えば、遷移金属の含有率とケイ素の含有率との比)、スパッタガスの組成及び流量などにより制御することができる。エッチングストッパー膜40の厚さは、スパッタパワー、スパッタリング時間などにより制御することができる。また、エッチングストッパー膜40は、インライン型スパッタリング装置を使用して形成することが好ましい。スパッタリング装置がインライン型スパッタリング装置の場合、基板の搬送速度によっても、エッチングストッパー膜40の厚さを制御することができる。また、エッチングストッパー膜40である遷移金属シリサイド系材料に、窒素または酸素の少なくともいずれかを含む軽元素成分を含有させる場合、エッチングストッパー膜40において、酸素または窒素の少なくともいずれかを含む軽元素成分の含有率が15原子%以上60原子%以下となるように制御を行う。
【0038】
エッチングストッパー膜40が、単一の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、スパッタガスの組成及び流量を適宜調整して1回だけ行う。エッチングストッパー膜40が、組成の異なる複数の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、スパッタガスの組成及び流量を適宜調整して複数回行う。スパッタターゲットを構成する元素の含有比率が異なるターゲットを使用してエッチングストッパー膜40を成膜してもよい。成膜プロセスを複数回行う場合、スパッタターゲットに印加するスパッタパワーを成膜プロセス毎に変更してもよい。
【0039】
エッチングストッパー膜40が、遷移金属と、ケイ素と、酸素を含有する遷移金属シリサイド酸化物や、遷移金属と、ケイ素と、酸素と、窒素を含有する遷移金属シリサイド酸化窒化物などの酸素を含有する遷移金属シリサイド材料からなる場合、このエッチングストッパー膜40の表面について、遷移金属の酸化物の存在によるエッチング液による浸み込みを抑制するため、エッチングストッパー膜40の表面酸化の状態を調整する表面処理工程を行うようにしてもよい。なお、エッチングストッパー膜40が、遷移金属と、ケイ素と、窒素を含有する遷移金属シリサイド窒化物からなる場合、上述の酸素を含有する遷移金属シリサイド材料と比べて、遷移金属の酸化物の含有率が小さい。そのため、エッチングストッパー膜40の材料が、遷移金属シリサイド窒化物の場合は、上記表面処理工程を行うようにしてもよいし、行わなくてもよい。
エッチングストッパー膜40の表面酸化の状態を調整する表面処理工程としては、酸性の水溶液で表面処理する方法、アルカリ性の水溶液で表面処理する方法、アッシング等のドライ処理で表面処理する方法などが挙げられる。
【0040】
エッチングストッパー膜40の表面の表面酸化の状態を調整する表面処理を必要に応じて行い、その後、スパッタリング法により、エッチングストッパー膜40上に遮光膜50を形成する。遮光膜50は、インライン型スパッタリング装置を使用して形成することが好ましい。スパッタリング装置がインライン型スパッタリング装置の場合、透明基板20の搬送速度によっても、遮光膜50の厚さを制御することができる。
遮光膜50の成膜は、クロム又はクロム化合物(酸化クロム、窒化クロム、炭化クロム、酸化窒化クロム、酸化炭化クロム、酸化窒化炭化クロム等)を含むスパッタターゲットを使用して、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスからなるスパッタガス雰囲気、又は、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスと、酸素ガス、窒素ガス、一酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、二酸化炭素ガス、炭化水素系ガス、フッ素系ガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む活性ガスとの混合ガスからなるスパッタガス雰囲気で行われる。炭化水素系ガスとしては、例えば、メタンガス、ブタンガス、プロパンガス、スチレンガス等が挙げられる。そして、スパッタリングを行う際における成膜室内のガス圧力を調整することにより、エッチングストッパー膜40と同様に遮光膜50を柱状構造にすることができる。これにより、後述するパターン形成時におけるサイドエッチングを抑制できるとともに、高エッチングレートを達成することができる。
【0041】
遮光膜50が、組成の均一な単一の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、スパッタガスの組成及び流量を変えずに1回だけ行う。遮光膜50が、組成の異なる複数の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、成膜プロセス毎にスパッタガスの組成及び流量を変えて複数回行う。遮光膜50が、厚さ方向に組成が連続的に変化する単一の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、スパッタガスの組成及び流量を成膜プロセスの経過時間と共に変化させながら1回だけ行う。
このようにして、実施の形態1のフォトマスクブランク10が得られる。
なお、遮光膜50上にレジスト膜を備えるフォトマスクブランクを製造する際は、遮光膜50上にレジスト膜を形成する。
【0042】
この実施の形態1のフォトマスクブランク10は、エッチングストッパー膜40上に遮光膜50が形成されており、少なくともエッチングストッパー膜40は、柱状構造を有している。
この実施の形態1のフォトマスクブランク10は、ウェットエッチングによりエッチングストッパー膜40をパターニングする際に、膜厚方向のエッチングが促進される一方でサイドエッチングが抑制される。このため、断面形状が良好であり、所望の透過率を有する(例えば、透過率の高い)エッチングストッパー膜パターンを、過度なオーバーエッチングをすることなく形成することができる。従って、透過率の面内均一性の高い転写パターンを精度よく転写することができるフォトマスクを製造することができるフォトマスクブランクが得られる。
【0043】
実施の形態2.
実施の形態2では、フォトマスクの製造方法について説明する。
【0044】
図2は実施の形態2にかかるフォトマスクの製造方法を示す模式図である。
図2に示すフォトマスクの製造方法は、
図1に示すフォトマスクブランク10を用いてフォトマスク100を製造する方法である。
以下、実施の形態2にかかるフォトマスクの製造工程の各工程を詳細に説明する。
【0045】
1.第1のレジスト膜パターン形成工程
第1のレジスト膜パターン形成工程では、先ず、実施の形態1のフォトマスクブランク10の遮光膜50上に、第1のレジスト膜を形成する。使用するレジスト膜材料は、特に制限されない。例えば、レジスト膜に対してレーザー描画装置により描画する場合、後述する350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光に対して感光するものであればよい。また、第1のレジスト膜は、ポジ型、ネガ型のいずれであっても構わない。なお、後述する第2のレジスト膜70についても、同様である。
その後、350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光を用いて、第1のレジスト膜に所望のパターンを描画する。第1のレジスト膜に描画するパターンは、その後、透過部と遮光部となるパターンであって、遮光膜50、エッチングストッパー膜40、半透過膜30に形成するパターンである。また、後述する第2のレジスト膜70に描画するパターンは、その後、半透過部と遮光部なるパターンであって、遮光膜50、エッチングストッパー膜40に形成するパターンである。第1のレジスト膜、第2のレジスト膜70に描画するパターンとして、ラインアンドスペースパターンやホールパターンが挙げられる。
その後、レジスト膜を所定の現像液で現像して、
図2(a)に示されるように、遮光膜50上に第1のレジスト膜パターン60aを形成する。
【0046】
2.第1の遮光膜パターン形成工程
第1の遮光膜パターン形成工程では、先ず、第1のレジスト膜パターン60aをマスクにして遮光膜50をエッチングして、第1の遮光膜パターン50aを形成する。遮光膜50は、クロム(Cr)を含むクロム系材料から形成される。遮光膜50が柱状構造を有している場合、エッチング速度が速く、サイドエッチングを抑制できる点で好ましい。遮光膜50をエッチングするエッチング液は、遮光膜50を選択的にエッチングできるものであれば、特に制限されない。具体的には、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むエッチング液が挙げられる。
【0047】
3.第1のエッチングストッパー膜パターン形成工程
第1のエッチングストッパー膜パターン形成工程では、第1のレジスト膜パターン60aをマスクにしてエッチングストッパー膜40をウェットエッチングして、
図2(c)に示されるように、第1のエッチングストッパー膜パターン40aを形成する。エッチングストッパー膜40をエッチングするエッチング液は、エッチングストッパー膜40を選択的にエッチングできるものであれば、特に制限されない。例えば、フッ化アンモニウムとリン酸と過酸化水素とを含むエッチング液、フッ化水素アンモニウムと過酸化水素とを含むエッチング液が挙げられる。
ウェットエッチングは、第1のエッチングストッパー膜パターン40aの断面形状を良好にするために、第1のエッチングストッパー膜パターン40aにおいて半透過膜30が露出するまでの時間(ジャストエッチング時間)よりも長い時間(オーバーエッチング時間)で行うことが好ましい。オーバーエッチング時間としては、サイドエッチングの抑制等を考慮すると、ジャストエッチング時間に、そのジャストエッチング時間の20%の時間を加えた時間内とすることが好ましく、ジャストエッチング時間の10%の時間を加えた時間内とすることがより好ましい。
【0048】
4.半透過膜パターン形成工程
半透過膜パターン形成工程では、第1のエッチングストッパー膜パターン40aをマスクにして半透過膜30をウェットエッチングして、
図2(d)に示されるように、半透過膜パターン30aを形成する。半透過膜30は、クロム(Cr)を含むクロム系材料から形成される。半透過膜30が柱状構造を有している場合、エッチング速度が速く、サイドエッチングを抑制できる点で好ましい。半透過膜30をエッチングするエッチング液は、半透過膜30を選択的にエッチングできるものであれば、特に制限されない。具体的には、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むエッチング液が挙げられる。
【0049】
5.第1のレジスト膜パターン剥離工程
その後、
図2(e)に示されるように、レジスト剥離液を用いて、又は、アッシングによって、第1のレジスト膜パターン60aを剥離する。
これらの
図2(a)~
図2(e)に示される工程によって、透過部となるパターンが形成される。
【0050】
6.第2のレジスト膜パターン形成工程
第2のレジスト膜パターン形成工程では、先ず、
図2(f)に示されるように、第1の遮光膜パターン50aを覆う第2のレジスト膜70を形成する。使用するレジスト膜材料は、第1のレジスト膜と同様に、特に制限されない。
その後、350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光を用いて、第2のレジスト膜70に所望のパターンを描画する。第2のレジスト膜70に描画するパターンは、半透過部と遮光部とからなるパターンである。
その後、レジスト膜を所定の現像液で現像して、
図2(g)に示されるように、第1の遮光膜パターン50a上に第2のレジスト膜パターン70bを形成する。
【0051】
7.第2の遮光膜パターン形成工程
第2の遮光膜パターン形成工程では、第2のレジスト膜パターン70bをマスクにして第1の遮光膜パターン50aをエッチングして、
図2(h)に示されるように、第2の遮光膜パターン50bを形成する。第2の遮光膜パターン50bをエッチングするエッチング液は、第1の遮光膜パターン形成工程で述べたものと同様である。
【0052】
8.第2のエッチングストッパー膜パターン形成工程
第2のエッチングストッパー膜パターン形成工程では、第2の遮光膜パターン50bをマスクにして第1のエッチングストッパー膜パターン40aをウェットエッチングして、
図2(i)に示されるように、第2のエッチングストッパー膜パターン40bを形成する。エッチングストッパー膜40をエッチングするエッチング液は、第1のエッチングストッパー膜パターン形成工程で述べたものと同様である。また、オーバーエッチング時間についても、第1のエッチングストッパー膜パターン形成工程で述べたものと同様である。
【0053】
9.第1のレジスト膜パターン剥離工程
その後、
図2(j)に示されるように、レジスト剥離液を用いて、又は、アッシングによって、第2のレジスト膜パターン70bを剥離する。
これらの
図2(f)~
図2(i)に示される工程によって、半透過部となるパターンが形成される。そして、透過部及び半透過部以外の領域が、遮光部となる。
このようにして、フォトマスク100が得られる。
なお、上記説明では、転写パターンのうち、透過部となるパターンを先に形成し(
図2(a)~
図2(e))、その後に、半透過部や遮光部となるパターンを形成した(
図2(f)~
図2(j))が、これに限定されるものではない。例えば、半透過部となるパターンを先に形成し、その後に、透過部や遮光部となるパターンを形成してもよい。また、上記説明ではレジスト膜を2回形成したが、半透過部に対応する位置よりも透過部に対応する位置のレジスト膜の厚さを厚くしておき、1回のレジスト膜の形成で、半透過部となるパターンと透過部となるパターンを同時に形成するようにしてもよい。
【0054】
この実施の形態2のフォトマスクの製造方法によれば、実施の形態1のフォトマスクブランクを用いるため、透過部において十分な透過率を有し、過度なオーバーエッチングをすることなく透過率の面内均一性の高い転写パターンを形成することができる。このように製造されたフォトマスクは、ラインアンドスペースパターンやコンタクトホールの微細化に対応することができる。
【0055】
実施の形態3.
実施の形態3では、表示装置の製造方法について説明する。表示装置は、上述したフォトマスクブランク10を用いて製造されたフォトマスク100を用い、または上述したフォトマスク100の製造方法によって製造されたフォトマスク100を用いる工程(マスク載置工程)と、表示装置上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程(露光工程)とを行うことによって製造される。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0056】
1.載置工程
載置工程では、実施の形態2で製造されたフォトマスクを露光装置のマスクステージに載置する。ここで、フォトマスクは、露光装置の投影光学系を介して表示装置基板上に形成されたレジスト膜に対向するように配置される。
【0057】
2.パターン転写工程
パターン転写工程では、フォトマスク100に露光光を照射して、表示装置基板上に形成されたレジスト膜に転写パターンを転写する。露光光は、365nm~436nmの波長域から選択される複数の波長の光を含む複合光や、365nm~436nmの波長域からある波長域をフィルターなどでカットし選択された単色光である。例えば、露光光は、i線、h線およびg線を含む複合光や、i線の単色光である。露光光として複合光を用いると、露光光強度を高くしてスループットを上げることができるため、表示装置の製造コストを下げることができる。
【0058】
この実施の形態3の表示装置の製造方法によれば、高解像度、微細なラインアンドスペースパターンやコンタクトホールを有する、高精細の表示装置を製造することができる。
なお、以上の実施形態においては、転写パターンを有するフォトマスクとして、半透過膜を有するフォトマスクを用いる場合を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、半透過膜に位相シフト機能を備えた位相シフトマスクブランクや位相シフトマスク膜パターンを有する位相シフトマスクにおいても、本発明を適用することが可能である。
【実施例】
【0059】
実施例1.
A.フォトマスクブランクおよびその製造方法
実施例1のフォトマスクブランクを製造するため、先ず、透明基板20として、1214サイズ(1220mm×1400mm)の合成石英ガラス基板を準備した。
【0060】
その後、合成石英ガラス基板を、主表面を下側に向けてトレイ(図示せず)に搭載し、インライン型スパッタリング装置のチャンバー内に搬入した。
透明基板20の主表面上に半透過膜30を形成するため、まず、透明基板20を第1チャンバー内に搬入し、第1チャンバー内にアルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガス(Ar:40sccm、N2:35sccm)を導入した。第1チャンバー内のスパッタリングガス圧は0.4Paであった。そして、クロムからなる第1スパッタターゲットに1.5kWのスパッタパワーを印加して、波長405nmにおける透過率が30%となるように、反応性スパッタリングにより、透明基板20上にクロムと窒素を含有するクロム窒化物(CrN)を堆積させて、膜厚10.6nmの半透過膜30を形成した。
【0061】
次に、半透過膜30付きの透明基板20を第2チャンバー内に搬入し、第2チャンバー内のスパッタリングガス圧力を1.6Paにした状態で、アルゴン(Ar)ガスと、窒素(N2)ガスと、ヘリウム(He)ガスで構成される不活性ガス(Ar:18sccm、N2:13sccm、He:50sccm)を導入した。そして、モリブデンとケイ素を含む第2スパッタターゲット(モリブデン:ケイ素=1:9)に7.6kWのスパッタパワーを印加して、反応性スパッタリングにより、半透過膜30上にモリブデンとケイ素と窒素を含有するモリブデンシリサイドの窒化物を堆積させて、膜厚40nmのエッチングストッパー膜40を成膜した。
【0062】
次に、エッチングストッパー膜40付きの透明基板20を第3チャンバー内に搬入し、第3チャンバー内にアルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガス(Ar: 65sccm、N2:15sccm)を導入した。そして、クロムからなる第3スパッタターゲットに1.5kWのスパッタパワーを印加して、反応性スパッタリングにより、エッチングストッパー膜40上にクロムと窒素を含有するクロム窒化物(CrN)を形成した(膜厚15nm)。次に、第4チャンバー内を所定の真空度にした状態で、アルゴン(Ar)ガスとメタン(CH4:4.9%)ガスの混合ガス(30sccm)を導入し、クロムからなる第4スパッタターゲットに8.5kWのスパッタパワーを印加して、反応性スパッタリングによりCrN上にクロムと炭素を含有するクロム炭化物(CrC)を形成した(膜厚60nm)。最後に、第5チャンバー内を所定の真空度にした状態で、アルゴン(Ar)ガスとメタン(CH4:5.5%)ガスの混合ガスと窒素(N2)ガスと酸素(O2)ガスとの混合ガス(Ar+CH4:30sccm、N2:8sccm、O2:3sccm)を導入し、クロムからなる第5スパッタターゲットに2.0kWのスパッタパワーを印加して、反応性スパッタリングによりCrC上にクロムと炭素と酸素と窒素を含有するクロム炭化酸化窒化物(CrCON)を形成した(膜厚30nm)。以上のように、エッチングストッパー膜40上に、CrN層とCrC層とCrCON層の積層構造の遮光膜50を形成した。なお、上述の第3チャンバー、第4チャンバーおよび第5チャンバー内のガス圧力は、0.3Paから0.5Paに調整して成膜した。
このようにして、透明基板20上に、半透過膜30、エッチングストッパー膜40、遮光膜50がこの順に形成されたフォトマスクブランク10を得た。
このようにして得られたフォトマスクブランク10について、半透過膜30、エッチングストッパー膜40、遮光膜50の積層膜における光学濃度を測定したところ、波長365nmにおいて、5.0であった。
【0063】
また、得られたフォトマスクブランク10について、X線光電子分光法(XPS)による深さ方向の組成分析を行った。
フォトマスクブランク10に対するXPSによる深さ方向の組成分析結果において、エッチングストッパー膜40は、深さ方向に向かって、各構成元素の含有率はほぼ一定であり、Moが8原子%、Siが40原子%、Nが48原子%、Oが4原子%であった。また、モリブデンとケイ素の原子比率は、1:5であり、1:3以上1:15以下の範囲内であった。また、軽元素である酸素、窒素の合計含有率は、52原子%であり、50原子%以上65原子%以下の範囲内であった。なお、エッチングストッパー膜40に酸素が含有されているのは、スパッタリングガス圧力が0.8Pa以上と高く、成膜時のチャンバー内に微量の酸素が存在していたものと考えられる。
【0064】
次に、得られたフォトマスクブランク10の転写パターン形成領域の中央の位置において、80000倍の倍率で断面SEM(走査電子顕微鏡)観察を行った結果、エッチングストッパー膜40は、柱状構造を有していることが確認できた。すなわち、エッチングストッパー膜40を構成するモリブデンシリサイド化合物の粒子が、エッチングストッパー膜40の膜厚方向に向かって伸びる柱状の粒子構造を有していることが確認できた。そしてエッチングストッパー膜40の柱状の粒子構造は、膜厚方向の柱状の粒子が不規則に形成されており、かつ、柱状の粒子の膜厚方向の長さも不揃いな状態であることが確認できた。また、エッチングストッパー膜40の疎の部分は、膜厚方向において連続的に形成されていることも確認できた。
【0065】
B.フォトマスクおよびその製造方法
上述のようにして製造されたフォトマスクブランク10を用いてフォトマスク100を製造するため、先ず、フォトマスクブランク10の遮光膜50上に、レジスト塗布装置を用いてフォトレジスト膜を塗布した。
その後、加熱・冷却工程を経て、膜厚520nmのフォトレジスト膜を形成した。
その後、レーザー描画装置を用いてフォトレジスト膜を描画し、現像・リンス工程を経て、遮光膜50上に、ホール径が1.5μmのホールパターンの第1のレジスト膜パターン60aを形成した。
【0066】
その後、第1のレジスト膜パターン60aをマスクにして、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むクロムエッチング液により遮光膜50をウェットエッチングして、第1の遮光膜パターン50aを形成した。
【0067】
その後、第1の遮光膜パターン50aをマスクにして、フッ化水素アンモニウムと過酸化水素との混合溶液を純水で希釈したモリブデンシリサイドエッチング液によりエッチングストッパー膜40をウェットエッチングして、第1のエッチングストッパー膜パターン40aを形成した。このウェットエッチングは、断面形状を垂直化するためかつ要求される微細なパターンを形成するために、110%のオーバーエッチング時間で行った。実施例1におけるジャストエッチング時間は、後述する比較例におけるジャストエッチング時間に対して、0.2倍となり、エッチング時間を大幅に短縮することができた。
その後、第1のエッチングストッパー膜パターン40aをマスクにして、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むクロムエッチング液により半透過膜30をウェットエッチングして、半透過膜パターン30aを形成した。
その後、第1のレジスト膜パターン60aを剥離した。
【0068】
その後、レジスト塗布装置を用いて、第1の遮光膜パターン50aを覆うように、第2のレジスト膜70を塗布した。
その後、加熱・冷却工程を経て、膜厚520nmの第2のレジスト膜70を形成した。
その後、レーザー描画装置を用いて第2のレジスト膜70を描画し、現像・リンス工程を経て、第1の遮光膜パターン50a上に、半透過部および遮光部を形成するための第2のレジスト膜パターン70bを形成した。
【0069】
その後、第2のレジスト膜パターン70bをマスクにして、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むクロムエッチング液により、転写パターン形成領域に形成された第1の遮光膜パターン50aをウェットエッチングして、第2の遮光膜パターン50bを形成した。
その後、第2の遮光膜パターン50bをマスクにして、フッ化水素アンモニウムと過酸化水素との混合溶液を純水で希釈したモリブデンシリサイドエッチング液により第1のエッチングストッパー膜パターン40aをウェットエッチングして、第2のエッチングストッパー膜パターン40bを形成した。このウェットエッチングも、断面形状を垂直化するためかつ要求される微細なパターンを形成するために、110%のオーバーエッチング時間で行った。このジャストエッチング時間も、後述する比較例におけるジャストエッチング時間に対して、0.2倍となり、エッチング時間を大幅に短縮することができた。
その後、第2のレジスト膜パターン70bを剥離した。
【0070】
このようにして、透明基板20上に、転写パターン形成領域にホール径が1.5μmの半透過膜パターン30aで形成される透過部と、半透過膜パターン30aの上に形成された第2のエッチングストッパー膜パターン40bで形成される半透過部と、半透過膜パターン30a、第2のエッチングストッパー膜パターン40b、第2の遮光膜パターン50bの積層構造からなる遮光部が形成されたフォトマスク100を得た。
【0071】
上述のフォトマスク製造工程において、エッチングストッパー膜パターン、および半透過膜パターンを評価した。
[エッチングストッパー膜パターンの評価]
エッチングストッパー膜パターンの断面形状は、実施例1のフォトマスクの製造工程において、第2の遮光膜パターン50bをマスクにして、モリブデンシリサイドエッチング液により第1のエッチングストッパー膜パターン40aをウェットエッチング(110%のオーバーエッチング)して、第2のエッチングストッパー膜パターン40bを形成し、第2のレジスト膜パターン70bを剥離した後のエッチングストッパー膜パターン断面を断面SEM写真により観察した。
エッチングストッパー膜パターンの断面は、エッチングストッパー膜パターンの上面、下面および側面から構成される。このエッチングストッパー膜パターンの断面の角度は、エッチングストッパー膜パターンの上面と側面とが接する部位(上辺)と、側面と下面が接する部位(下辺)とのなす角度をいう。得られたエッチングストッパー膜パターン40bの断面の角度は74°であり、垂直に近い断面形状を有していた。エッチングストッパー膜40が柱状構造とすることにより、第2のエッチングストッパー膜パターン40bが良好な断面形状となったのは、以下のメカニズムによるものと考える。断面SEM写真の観察結果から、エッチングストッパー膜40は、柱状の粒子構造(柱状構造)を有しており、膜厚方向に伸びる柱状粒子が不規則に形成されている。また、断面SEM写真の観察結果から、エッチングストッパー膜40は、相対的に密度の高い各柱状の粒子部分と、相対的に密度の低い疎の部分とで形成されている。これらの事実から、エッチングストッパー膜40をウェットエッチングによってパターニングする際に、エッチングストッパー膜40における疎の部分にエッチング液が浸透することにより、膜厚方向にエッチングが進行しやすくなる一方、膜厚方向に対して垂直な方向(基板面内の方向)には柱状の粒子が不規則に形成されていてこの方向の疎の部分が断続的に形成されているのでこの方向へのエッチングが進行しづらくてサイドエッチングが抑制されることから、第2のエッチングストッパー膜パターン40bが、垂直に近い良好な断面形状が得られたと考えられる。また、第2のエッチングストッパー膜パターン40bには、第2の遮光膜パターン50bとの界面と、半透過膜パターン30aとの界面とのいずれにも浸み込みは見られなかった。
また、上記断面SEM写真からエッチングストッパー膜をウェットエッチングによりエッチングした後の半透過膜上には、エッチングストッパー膜残りは観察されなかった。
[半透過膜パターンの評価]
エッチングストッパー膜パターンの断面形状は、実施例1のフォトマスクの製造工程において、第1のエッチングストッパー膜パターン40aをマスクにして、クロムエッチング液により半透過膜30をウェットエッチングして、半透過膜パターン30aを形成した後、第1のレジスト膜パターン60aを剥離した後の半透過膜パターン断面を、断面SEM写真により観察した。
その結果、半透過膜パターンの断面の角度は78°であり、垂直に近い断面形状を有していた。
また、上記断面SEM写真から透光部となる透明基板20上には、半透過膜残りやエッチングストッパー膜残りは観察されなかった。そして、この透光部の透過率を測定したところ、100.0%(合成石英ガラス基板基準)であり良好であった。従って、得られたフォトマスクは、透光部において十分な透過率を有し、透光部において、半透過膜残りやエッチングストッパー膜残りがなく、透過率の面内均一性の高い転写パターンを形成できるフォトマスクが得られた。
このため、実施例1のフォトマスクを露光装置のマスクステージにセットし、表示装置上のレジスト膜に露光転写した場合、2.0μm未満の微細パターンを高精度に転写することができるといえる。
【0072】
なお、上述の実施例では、遷移金属としてモリブデンを用いた場合を説明したが、他の遷移金属の場合でも上述と同等の効果が得られる。
また、上述の実施例では、表示装置製造用のフォトマスクブランクや、表示装置製造用のフォトマスクの例を説明したが、これに限られない。本発明のフォトマスクブランクやフォトマスクは、半導体装置製造用、MEMS製造用、プリント基板用等にも適用できる。また、遮光膜を有するバイナリマスクブランクや遮光膜パターンを有するバイナリマスクにおいても、本発明を適用することが可能である。
また、上述の実施例では、透明基板のサイズが、1214サイズ(1220mm×1400mm×13mm)の例を説明したが、これに限られない。表示装置製造用のフォトマスクブランクの場合、大型(Large Size)の透明基板が使用され、該透明基板のサイズは、一辺の長さが、300mm以上である。表示装置製造用のフォトマスクブランクに使用する透明基板のサイズは、例えば、330mm×450mm以上2280mm×3130mm以下である。
また、半導体装置製造用、MEMS製造用、プリント基板用のフォトマスクブランクの場合、小型(Small Size)の透明基板が使用され、該透明基板のサイズは、一辺の長さが9インチ以下である。上記用途のフォトマスクブランクに使用する透明基板のサイズは、例えば、63.1mm×63.1mm以上228.6mm×228.6mm以下である。通常、半導体製造用、MEMS製造用は、6025サイズ(152mm×152mm)や5009サイズ(126.6mm×126.6mm)が使用され、プリント基板用は、7012サイズ(177.4mm×177.4mm)や、9012サイズ(228.6mm×228.6mm)が使用される。
【0073】
比較例1.
A.フォトマスクブランクおよびその製造方法
比較例1のフォトマスクブランクを製造するため、実施例1と同様に、透明基板として、1214サイズ(1220mm×1400mm)の合成石英ガラス基板を準備した。
実施例1と同じ方法により、合成石英ガラス基板を、インライン型のスパッタリング装置のチャンバーに搬入し、第1チャンバー内にアルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガス(Ar:40sccm、N2:35sccm)を導入した。第1チャンバー内のスパッタリングガス圧は0.4Paであった。そして、クロムからなる第1スパッタターゲットに1.5kWのスパッタパワーを印加して、波長405nmにおける透過率が30%となるように、反応性スパッタリングにより、透明基板上にクロムと窒素を含有するクロム窒化物(CrN)を堆積させて、実施例1と同様に、膜厚10.6nmの半透過膜を形成した。
次に、第2チャンバー内のスパッタリングガス圧力を0.5Paにした状態で、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスの混合ガス(Ar:30sccm、N2:30sccm)を導入した。そして、モリブデンとケイ素を含む第2スパッタターゲット(モリブデン:ケイ素=1:9)に7.6kWのスパッタパワーを印加して、反応性スパッタリングにより、透明基板の主表面上にモリブデンとケイ素と窒素を含有するモリブデンシリサイドの窒化物を堆積させた。このようにして、膜厚40nmのエッチングストッパー膜を成膜した。
その後、実施例1と同じ方法により、遮光膜を成膜した。
このようにして、透明基板上に、半透過膜、エッチングストッパー膜、遮光膜がこの順に形成されたフォトマスクブランクを得た。
このようにして得られたフォトマスクブランクについて、半透過膜、エッチングストッパー膜、遮光膜の積層膜における光学濃度を測定したところ、波長365nmにおいて、5.0であった。
【0074】
また、得られたフォトマスクブランクについて、X線光電子分光法(XPS)による深さ方向の組成分析を行った。その結果、エッチングストッパー膜は、深さ方向に向かって、各構成元素の含有率はほぼ一定であり、Moが8原子%、Siが39原子%、Nが52原子%、Oが1原子%であった。また、モリブデンとケイ素の原子比率は、1:4.9であり、1:3以上1:15以下の範囲内であった。また、軽元素である酸素、窒素、炭素の合計含有率は、53原子%であり、50原子%以上65原子%以下の範囲内であった。
【0075】
次に、得られたフォトマスクブランクの転写パターン形成領域の中央の位置において、80000倍の倍率で断面SEM観察を行った結果、エッチングストッパー膜において、柱状構造は確認できず、超微細な結晶構造もしくはアモルファス構造であることが確認できた。
【0076】
B.フォトマスクおよびその製造方法
上述のようにして製造されたフォトマスクブランクを用いて、実施例1と同じ方法により、フォトマスクを製造した。エッチングストッパー膜へのウェットエッチングは、断面形状を垂直化するためかつ要求される微細なパターンを形成するために、110%のオーバーエッチング時間で行った。比較例1におけるジャストエッチング時間は40分であり、長い時間であった。
上述の実施例1と同様に、フォトマスク製造工程において、エッチングストッパー膜パターン、および半透過膜パターンを評価した。
[エッチングストッパー膜パターンの評価]
エッチングストッパー膜パターンの断面の角度は55°であり、実施例1と比べてパターン断面は悪化した。
また、上記断面SEM写真から、複数の領域において、半透過膜上には、エッチングストッパーの明確な膜残りが観察された。
[半透過膜パターンの評価]
半透過膜パターンの断面の角度は、78°であり、実施例1とほぼ同等であった。
また、上記断面SEM写真から透光部となる透明基板20上の複数の領域において、半透過膜やエッチングストッパー膜の明確な膜残りが観察された。この透光部の透過率を測定したところ、87%(合成石英ガラス基板基準)であり、透過率が著しく低下している領域が観察された。従って、得られたフォトマスクは、透光部において、十分な透過率を有さない領域が存在し、透過率の面内均一性が低い転写パターンとなった。
このため、比較例1のフォトマスクを露光装置のマスクステージにセットし、表示装置上のレジスト膜に露光転写した場合、2.0μm未満の微細パターンを転写することはできないことが予想される。
【符号の説明】
【0077】
10…フォトマスクブランク、20…透明基板、30…半透過膜、
30a…半透過膜パターン、40…エッチングストッパー膜、
40a…第1のエッチングストッパー膜パターン、
40b…第2のエッチングストッパー膜パターン、50…遮光膜、
50a…第1の遮光膜パターン、50b…第2の遮光膜パターン、
60a…第1のレジスト膜パターン、70…第2のレジスト膜、
70b…第2のレジスト膜パターン、100…フォトマスク