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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】ダイヤモンドドレッサ
(51)【国際特許分類】
   B24B 53/12 20060101AFI20230410BHJP
   B24B 53/047 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
B24B53/12 Z
B24B53/047
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019193773
(22)【出願日】2019-10-24
(65)【公開番号】P2021065982
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2019-10-30
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】松尾 秀平
(72)【発明者】
【氏名】三井 剛
【合議体】
【審判長】見目 省二
【審判官】中里 翔平
【審判官】田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-30668(JP,A)
【文献】特開2009-72834(JP,A)
【文献】特開2011-67915(JP,A)
【文献】特開2017-92211(JP,A)
【文献】特開2009-252897(JP,A)
【文献】特開2005-322811(JP,A)
【文献】特開2000-246637(JP,A)
【文献】特開平3-149140(JP,A)
【文献】特開平8-318465(JP,A)
【文献】特開2002-28865(JP,A)
【文献】特開平8-216019(JP,A)
【文献】鈴村 暁男、他3名、“ダイヤモンドの活性金属ろう付界面組織とその形成過程”、溶接学会論文集、日本、1995年発行、第13巻、第1号、p.39-45
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 53/00-53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心方向の先端面に凹部を有する支持体と、前記凹部内に活性ロー材を含むボンド層によって固着された柱状ダイヤモンドと、を備え、
前記柱状ダイヤモンドの先端部が前記支持体の先端面から全周にわたって突出した状態で固着され、
前記ボンド層と前記柱状ダイヤモンドとの境界に、前記活性ロー材に含まれる金属元素であって前記柱状ダイヤモンドと炭化物を形成する金属元素が集中した熱応力緩和層を備え
前記活性ロー材の熱膨張係数>前記熱応力緩和層の熱膨張係数>前記柱状ダイヤモンドの熱膨張係数であるダイヤモンドドレッサ。
【請求項2】
前記活性ロー材が、Ti(チタン),V(バナジウム),Cr(クロム),Zr(ジルコニウム),Nb(ニオブ),Mо(モリブデン),Hf(ハウニウム),Ta(タンタル),W(タングステン)のうちの1以上を含むものである請求項1記載のダイヤモンドドレッサ。
【請求項3】
前記活性ロー材が、Ag-Cu-Ti-In系、Ag-Cu-Ti系、Au-Ni-Cr系の何れかである請求項1または2記載のダイヤモンドドレッサ。
【請求項4】
前記柱状ダイヤモンドの形状が、角柱状若しくは円柱状である請求項1~3の何れかの項に記載のダイヤモンドドレッサ。
【請求項5】
前記柱状ダイヤモンドの先端部の形状が、平面状、円錐状若しくは角錐状である請求項1~4の何れかの項に記載のダイヤモンドドレッサ。
【請求項6】
前記柱状ダイヤモンドの結晶構造が単結晶構造若しくは多結晶構造である請求項1~5の何れかの項に記載のダイヤモンドドレッサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作物の総形研削加工を行う研削砥石の砥石面のドレッシング作業やフォーミング作業に使用されるダイヤモンドドレッサに関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドドレッサは、従来、研削砥石の切れ味を修正する作業に使用されてきたが、近年は、研削砥石による高効率加工及び高精度加工の需要が高まり、工作物の加工形状に倣って砥石の研削面形状を成形して総形研削砥石を製作するフォーミング作業にも使用されている。
【0003】
総形研削砥石のドレッシング作業においては、従来、天然粒状ダイヤモンドまたは人造柱状ダイヤモンドを用いたダイヤモンドドレッサが使用されている。天然粒状ダイヤモンドを用いたダイヤモンドドレッサは、ドレッシング作業に起因する摩耗によりドレッシング作用面積が変化するという問題があり、人造柱状ダイヤモンドを用いたダイヤモンドドレッサは、ボンド層干渉や加工点への冷却液供給の点において問題があり、それぞれ加工の安定性、研削精度に課題がある状態で使用されているのが実状である。
【0004】
近年は総形砥石による研削加工において高精度が要求され、これに伴い研削精度に影響を与える総形砥石のドレッシング作業においても高精度で安定性に優れたダイヤモンドドレッサが求められている。特に、ベアリング部品の内輪軌道面や外輪軌道面の研削加工においては、高精度化の要求が、より顕著であり、現在のダイヤモンドドレッサの様々な課題を解決できる技術が求められている。
【0005】
市場に普及しているドレッサの一つとして、人造角柱ダイヤモンドを使用したダイヤモンドドレッサ(以下、「角柱ドレッサ」と略記することがある)がある。この角柱ドレッサは、ドレッシング作用面が一定で安定して継続使用するができるので、広く使用されている。(例えば、特許文献1,2参照)。
【0006】
また、砥石総形形状に倣ってドレッシングする際に、ダイヤモンドドレッサのボンド層や支持体部分が砥石と干渉することを防ぐための手段として、ボンド層に逃がし形状を設けたドレッサや、ボンド層の干渉部分を除去して柱状ダイヤモンドの側面の一部を露出させたドレッサなどが提案されている(例えば、特許文献3,4参照)。
【0007】
さらに、柱状ダイヤモンドの側面の一部を露出させることで、冷却液によるダイヤモンドの冷却促進を図ったドレッサも提案されている(例えば、特許文献4,5参照)。
【0008】
一方、ダイヤモンドを支持体に強固に固着する方法として活性ロー材を用いることは公知であるが、形状的に柱状ダイヤモンドよりも残留応力を許容できる粒状ダイヤモンドを活性ロー材で固着したドレッサが提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第2725660号公報
【文献】特開2000-167769号公報
【文献】特開2001-341073号公報
【文献】特許第5608623号公報
【文献】特許第4105624号公報
【文献】特開2000-246637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1,2に記載されている角柱ドレッサは角柱ダイヤモンドを焼結金属に埋設する方法で製造されているため、ダイヤモンドのドレッシング作用面と、焼結金属面及び支持体の一部が面一形状であるのが一般的である。
【0011】
ところが、特許文献1,2に記載されたダイヤモンドドレッサは、前述した砥石研削面の形成が必要な砥石、例えば、ベアリング部品の内輪軌道面や外輪軌道面の加工用砥石のドレッシングに使用した場合、ダイヤモンドのみでなく、焼結金属及び支持体部分も砥石と干渉するため、砥石の切れ味の鈍化や、高精度の成形加工を安定して行えないなどの問題がある。
【0012】
また、ダイヤモンドは高温環境下で劣化する性質があるので、ダイヤモンドドレッサでのドレッシング作業やフォーミング作業を行う場合には、加工点に冷却液を供給し、加工熱により蓄熱するダイヤモンドを冷却することが必要であるが、総形砥石は、その形状により、冷却液を加工点に十分供給することができず、熱的影響によりダイヤモンドが劣化し、摩耗が促進され、安定した加工ができないことがある。
【0013】
特許文献3,4に記載されたドレッサは、ドレッシング時に作用するダイヤモンドの先端部分をテーパ状に成形してダイヤモンドの突出し部を創生することで、使用初期は干渉なく使用できるものの、突出し部が摩耗消滅した時点で、ボンド層と砥石とが干渉する設計となっているため、適宜、ダイヤモンド部の形状修正が必要であり、工具寿命上の問題がある。
【0014】
総形砥石のドレッシングは、その砥石形状によりドレスポイントに冷却液を供給することが困難な作業である。特に、柱状ダイヤモンドのドレッシング面のみを露出させ、その他の部分はボンド層内に埋設されたダイヤモンドドレッサにおいては、冷却液がボンド層または支持体部分に供給され、柱状ダイヤモンドは間接的に冷却される構造であるため、十分な冷却効果が得られず、ダイヤモンドの熱劣化により摩耗が促進され、ドレッシング作業時の安定性に問題がある。
【0015】
この問題に対処するため、特許文献4,5においては、柱状ダイヤモンドの側面の一部を露出させることで冷却液によるダイヤモンドの冷却を促進させる技術が提案されているが、冷却効果は十分でない。
【0016】
前述したボンド層と砥石との干渉の問題、ダイヤモンドの冷却不足の問題について検討を行った結果、天然粒状ダイヤモンドを使用したダイヤモンドドレッサのように、ドレッシング作用部近傍のダイヤモンドをボンド層表面より突出した構造とすれば、突出したダイヤモンドのみがドレッシング作用を発揮し、冷却液をダイヤモンドに直接供給することができ、前記二つの問題を同時に解決することができるとの期待が生じた。
【0017】
しかしながら、柱状ダイヤモンドは、その形状に起因して、ボンド層で保持する際の接触面積が小さく、ボンド層による保持力が不足する傾向があり、使用中にダイヤモンドが脱落し易くなるので、一般には、ダイヤモンドの長手方向の寸法の全てをボンド層に埋設している。よって、柱状ダイヤモンドの一部を突出させるためには、一般的な焼結法によるダイヤモンドの固着技術では困難であり、少ない埋設部分でダイヤモンドを十分に保持できる技術が必要である。
【0018】
これに対応するため、焼結法による固着技術よりも強固なダイヤモンド保持力を有する固着方法として活性ロー材を用いる固着方法が公知であるが、固着工程中にダイヤモンドに熱応力が生じ、これが残留応力となるため、製造工程中あるいは使用中の負荷によりダイヤモンドの折れや欠けが発生し易いという問題が生じ、実用上、難がある。
【0019】
一方、特許文献6には、形状的に柱状ダイヤモンドよりも残留応力を許容できる粒状ダイヤモンドを活性ロー材で固着したダイヤモンドドレッサが記載されているが、このダイヤモンドドレッサは、ダイヤモンド、仮止め材、活性ロー材、緩衝材、メタルボンド及び支持体で構成されているため、製造方法が複雑であり、得られる効果もダイヤモンドの折れや欠けが少なくなる程度にとどまり、製品として、実用上、満足できるレベルに達していないのが実状である。
【0020】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、総形砥石のドレッシング作業やフォーミング作業において、総形砥石とボンド層との干渉や冷却不足が発生し難く、柱状ダイヤモンドの折れや欠けも発生し難いダイヤモンドドレッサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係るダイヤモンドドレッサは、軸心方向の先端面に凹部を有する支持体と、前記凹部内に活性ロー材を含むボンド層によって固着された柱状ダイヤモンドと、を備え、
前記柱状ダイヤモンドの先端部が前記支持体の先端面から全周にわたって突出した状態で固着され、
前記ボンド層と前記柱状ダイヤモンドとの境界に、前記活性ロー材に含まれる金属元素であって前記柱状ダイヤモンドと炭化物を形成する金属元素が集中した熱応力緩和層を備え
前記活性ロー材の熱膨張係数>前記熱応力緩和層の熱膨張係数>前記柱状ダイヤモンドの熱膨張係数であることを特徴とする。
【0022】
このような構成とすれば、柱状ダイヤモンドのドレッシング作用面がボンド層の表面より突出した状態となるので、ドレッシング作業中、ボンド層や支持体の一部が総形砥石に干渉するのを防止することができる。
【0023】
また、ドレッシング面を含む柱状ダイヤモンドの先端部(突出部分)に冷却液を直接供給することができるため冷却不足が発生し難い。
【0024】
さらに、柱状ダイヤモンドとボンド層との境界に介在する熱応力層の熱膨張係数を活性ロー材並びにダイヤモンドの熱膨張係数の中間値程度とすれば、具体的には、
活性ロー材の熱膨張係数>熱応力緩和層の熱膨張係数>柱状ダイヤモンドの熱膨張係数
とすれば、この熱応力緩和層の存在により、当該ダイヤモンドドレッサの製造工程における焼結作業中に発生する熱応力に起因する柱状ダイヤモンド中の残留応力を軽減、緩和できるため、柱状ダイヤモンドの折れや欠けも発生し難くなる。
【0025】
前記ダイヤモンドドレッサにおいては、前記活性ロー材が、Ti(チタン),V(バナジウム),Cr(クロム),Zr(ジルコニウム),Nb(ニオブ),Mо(モリブデン),Hf(ハウニウム),Ta(タンタル),W(タングステン)のうちの1以上を含むものであることが望ましい。
【0026】
前記ダイヤモンドドレッサにおいては、前記活性ロー材が、Ag-Cu-Ti-In系、Ag-Cu-Ti系、Au-Ni-Cr系の何れかであることが望ましい。
【0027】
前記ダイヤモンドドレッサにおいては、前記柱状ダイヤモンドの形状は、角柱状若しくは円柱状であることが望ましい。
【0028】
前記ダイヤモンドドレッサにおいては、前記柱状ダイヤモンドの先端部の形状は、平面状、円錐状若しくは角錐状とすることもできる。
【0029】
前記ダイヤモンドドレッサにおいては、前記柱状ダイヤモンドは、単結晶構造若しくは多結晶構造のものを用いることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、総形砥石のドレッシング作業やフォーミング作業において、総形砥石とボンド層との干渉や冷却不足が発生し難く、柱状ダイヤモンドの折れや欠けも発生し難いダイヤモンドドレッサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施形態であるダイヤモンドドレッサを示す正面図である。
図2図1中の矢線A方向から見た拡大平面図である。
図3図2の一部拡大図である。
図4図3中のB-B線における一部省略断面図である。
図5】その他の実施形態であるダイヤモンドドレッサを示す正面図である。
図6図5の一部切欠拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図1図6に基づいて、本発明の実施形態であるダイヤモンドドレッサ10,20について説明する。
【0033】
初めに、図1図4に基づいてダイヤモンドドレッサ10について説明する。図1図4に示すように、ダイヤモンドドレッサ10は、先端部1aが円錐台形状をなす円柱状の支持体1と、柱状ダイヤモンド2と、ボンド層3とを備えている。支持体1の軸心C方向の先端面1bには凹部1cが形成され、柱状ダイヤモンド2が、Ag-Cu-Ti-In系の活性ロー材を含むボンド層3によって凹部1c内に固着されている。なお、活性ロー材はAg-Cu-Ti-In系に限定しないので、Ag-Cu-Ti系あるいはAu-Ni-Cr系の活性ロー材を使用することもできる。
【0034】
柱状ダイヤモンド2は、その先端部2aが平面状をなす四角柱状であり、そのサイズは0.6mm×0.6mm×3.0mmであり、先端部2aの外周面2bが支持体1の先端面1bから全周にわたって突出した状態で固着されている。柱状ダイヤモンド2の突出寸法(支持体1の先端面1bから柱状ダイヤモンド2の先端部2aまでの長さ)Pは0.3mm以上であることが望ましい。なお、前述した柱状ダイヤモンド2のサイズは一例を示すものであり、これに限定されないが、例えば、四角柱形状の場合、先端部の角柱面サイズ□0.2mm~2.0mm程度、長さ1.0mm~3.0mm程度が好適である。
【0035】
柱状ダイヤモンド2の形状は四角柱形状であるが、これに限定しないので、その他の多角柱状若しくは円柱状とすることもできる。柱状ダイヤモンド2の先端部2aの形状は平面状であるが、これに限定しないので、円錐状若しくは角錐状とすることもできる。柱状ダイヤモンド2の結晶構造は単結晶構造若しくは多結晶構造の何れであっても良い。
【0036】
支持体1の先端部1aは、柱状ダイヤモンド2が固着された直径2mmの先端面1bを残して、90度の逃げ角Eが形成されている。ボンド層3と柱状ダイヤモンド2との境界に、活性ロー材中に含まれる金属元素であって柱状ダイヤモンド2と炭化物を形成する金属元素が集中した熱応力緩和層4を備えている。
【0037】
ダイヤモンドドレッサ10においては、柱状ダイヤモンド2のドレッシング作用面(先端部2a)がボンド層3の表面より突出した状態となっていることにより、ドレッシング作業中、ボンド層3や支持体1の一部が砥石や総形砥石に干渉するのを防止することが可能となるため、ダイヤモンドドレッサ10でドレッシングした後の砥石や総形砥石の切れ味や成形精度が向上する。
【0038】
また、ドレッシング時やフォーミング時の加工点を含む柱状ダイヤモンド2の先端部2a(突出部分)に冷却液を直接供給することができるため、冷却不足に起因する柱状ダイヤモンド2の劣化が軽減され、柱状ダイヤモンド2の耐用性が向上する。
【0039】
さらに、活性ロー材中に含まれる金属元素であって柱状ダイヤモンド2と炭化物を形成する金属元素(本実施形態ではTi)が集中した熱応力緩和層4の熱膨張係数と、活性ロー材の熱膨張係数並びに柱状ダイヤモンド2の熱膨張係数については、活性ロー材の熱膨張係数>熱応力緩和層4の熱膨張係数>柱状ダイヤモンド2の熱膨張係数、という大小関係が成立している。このような熱応力緩和層4の存在により、ダイヤモンドドレッサ10の製造工程における焼結作業中に発生する熱応力に起因する柱状ダイヤモンド2中の残留応力が軽減、緩和できるため、柱状ダイヤモンド2の折れや欠けも発生し難くなる。
【0040】
次に、図5図6に基づいてダイヤモンドドレッサ20について説明する。図5図6に示すように、ダイヤモンドドレッサ20は、先端部1aが円錐台形状をなす円柱状の支持体1と、柱状ダイヤモンド5と、ボンド層3とを備えている。支持体1の軸心C方向の先端面1bには凹部1cが形成され、柱状ダイヤモンド5が、Ag-Cu-Ti-In系の活性ロー材を含むボンド層3によって凹部1c内に固着されている。
【0041】
柱状ダイヤモンド5は、その先端部5aが円錐形をなす四角柱状であり、そのサイズは0.6mm×0.6mm×3.0mmであり、先端部5a及びこれに連なる四角柱状部の先端部5a寄りの部分の外周面5bが支持体1の先端面1bから全周にわたって突出した状態で固着されている。柱状ダイヤモンド5の突出寸法(支持体1の先端面1bから柱状ダイヤモンド5の先端部5aの頂点までの長さ)Pは0.3mm以上であることが望ましい。
【0042】
支持体1の先端部1aは、柱状ダイヤモンド2が固着された直径2mmの先端面1bを残して、90度の逃げ角Eが形成されている。ボンド層3と柱状ダイヤモンド5との境界に、活性ロー材中に含まれる金属元素であって柱状ダイヤモンド5と炭化物を形成する金属元素(本実施形態においてはTi)が集中した熱応力緩和層4を備えている。柱状ダイヤモンド5の先端部5aの頂角Fは130度としているが、これに限定するものではない。
【0043】
ダイヤモンドドレッサ20においては、柱状ダイヤモンド5のドレッシング作用面(先端部5a)がボンド層3の表面より突出した状態となっていることにより、ドレッシング作業中、ボンド層3や支持体1の一部が砥石や総形砥石に干渉するのを防止することが可能となるため、ダイヤモンドドレッサ20でドレッシングした後の砥石や総形砥石の切れ味や成形精度が向上する。
【0044】
また、ドレッシング時やフォーミング時の加工点を含む柱状ダイヤモンド5の先端部5a(突出部分)に冷却液を直接供給することができるため、冷却不足に起因する柱状ダイヤモンド5の劣化が軽減され、柱状ダイヤモンド5の耐用性が向上する。
【0045】
さらに、活性ロー材中に含まれる金属元素であって柱状ダイヤモンド5と炭化物を形成する金属元素(本実施形態においてはTi)が集中した熱応力緩和層4の熱膨張係数が、活性ロー材並びに柱状ダイヤモンド5の熱膨張係数の中間値程度であることにより、ダイヤモンドドレッサ20の製造工程における焼結作業中に発生する熱応力に起因する柱状ダイヤモンド5中の残留応力が、この熱応力緩和層4の存在によって軽減、緩和されるため、柱状ダイヤモンド5の折れや欠けも発生し難い。
【0046】
ここで、ダイヤモンドドレッサ20の製造方法について説明する。ダイヤモンドドレッサ20の製造方法は限定しないが、例えば、以下の工程により製造することができる。
【0047】
(1)円柱状の支持体原材料(図示せず)の軸心方向の先端面(先端面1bとなる面)に形成された凹部1c内に、Ag-Cu-Ti-In系の活性ロー材とバインダとの混合物(ペースト状)と柱状ダイヤモンドとを装入する。
(2)凹部1c内への柱状ダイヤモンド、活性ロー材及びバインダの装入が完了した支持体原材料を真空加熱炉において焼結する。焼結温度は600℃~1000℃程度が好適であり、保持時間は20分~120分程度が好適である。
(3)焼結終了後、真空加熱炉内の温度が常温まで低下したら、支持体原材料を真空加熱炉から取り出し、その先端面を、柱状ダイヤモンドの固着部分(凹部1c)の周囲の直径2mmの部分(先端面1b)を残して研削し、90度の逃げ角Eを形成する。
(4)この後、支持体1の先端面1bから突出した柱状ダイヤモンドの先端部を、頂角F=130度の円錐形状に加工すると、ダイヤモンドドレッサ20が完成する。
【0048】
前述した工程により製造したダイヤモンドドレッサ20と従来のダイヤモンドドレッサ(以下、従来品と略記することがある)について、以下の条件に基づいて砥石のドレッシング作業を行い、ダイヤモンドドレッサ20と従来品との比較実験を行った。
【0049】
なお、従来品の仕様は以下の通りである。
ダイヤモンドドレッサの品種:単石ドレッサ
柱状ダイヤモンドの形状:角柱状
柱状ダイヤモンドのサイズ:0.6mm×0.6mm×3.0mm(0.6mm×0.6mmがドレッシング面)
柱状ダイヤモンドの固着方法: 金属焼結法
柱状ダイヤモンドの先端部の形状:頂角=130度の円錐形状
柱状ダイヤモンドの結晶:多結晶
【0050】
(a)ダイヤモンドドレッサ20の仕様
柱状ダイヤモンド5のサイズ:0.6mm×0.6mm×3.0mm(0.6mm×0.6mmがドレッシング面)
柱状ダイヤモンド5の先端部5aの形状:頂角F=130度の円錐形状
柱状ダイヤモンド5の結晶:多結晶(単結晶でも可)
柱状ダイヤモンド5の突出寸法(支持体1の先端面1bから柱状ダイヤモンド5の先端部5aの頂点までの長さ)P:0.50mm
【0051】
(b)ドレッシング対象である砥石の仕様
砥石種類:CXZ #60
砥石寸法:φ405×75T×127H
砥石形状:アンギュラ形状 角部90度 角部先端R0.5
【0052】
(c)ドレッシング条件
切り込み量:φ20μm
ドレスリード:0.1mm/r.o.w
砥石周速:45m/sec
【0053】
(d)研削条件
研削方式:湿式円筒プランジ研削
砥石周速:45m/sec
【0054】
(e)評価項目
ドレス作業時の摩耗体積
研削作業時の消費電力
ワークR部真円度
ドレス作業時のダイヤ原石(柱状ダイヤモンド5)の温度
【0055】
ドレス作業時の摩耗体積を比較すると、従来品より40%低減することができた。
研削作業時の消費電力を比較すると、従来品より5%低減することができた。
ワークR部真円度については、従来品は狙い値より大きめのR寸法で仕上がる傾向があるのに対し、ダイヤモンドドレッサ20は、より設定値に近いワークの仕上がりとなり、また、バラつきも低減された。
ドレス作業時のダイヤ原石(柱状ダイヤモンド5)の温度について比較すると、従来品より30%低減することができた。
【0056】
なお、図1図6に基づいて説明したダイヤモンドドレッサ10,20は、本発明に係るダイヤモンドドレッサを例示するものであり、本発明に係るダイヤモンドドレッサは、前述したダイヤモンドドレッサ10,20に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係るダイヤモンドドレッサは、工作物の総形研削加工を行う研削砥石の砥石面のドレッシング作業やフォーミング作業用のツールとして様々な産業分野において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 支持体
1a,2a,5a 先端部
1b 先端面
1c 凹部
2,5 柱状ダイヤモンド
2b 外周面
3 ボンド層
4 熱応力緩和層
10,20 ダイヤモンドドレッサ
C 軸心
E 逃げ角
F 頂角
P 突出寸法
図1
図2
図3
図4
図5
図6