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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】難燃性樹脂組成物及び難燃性シート
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20230410BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20230410BHJP
   C08K 5/11 20060101ALI20230410BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K3/01
C08K5/11
C08K5/521
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019211327
(22)【出願日】2019-11-22
(65)【公開番号】P2020189959
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2019092784
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106404
【弁理士】
【氏名又は名称】江森 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100112977
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 有子
(72)【発明者】
【氏名】森 恵一
(72)【発明者】
【氏名】笹原 一芳
(72)【発明者】
【氏名】越田 伺励
【審査官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-525421(JP,A)
【文献】特開2019-059885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/06
C08K 5/11
C08K 5/521
C08K 3/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(A)塩化ビニル樹脂、(B)可塑剤としての脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、(C)難燃剤としての、(C1)リン酸エステル化合物及び(C2)難燃剤の助剤としての吸熱性無機化合物を含む難燃性樹脂組成物であって、
前記(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対して、前記(B)可塑剤の配合量を20~60重量部の範囲内の値とし、前記(C1)リン酸エステル化合物の配合量を6~15重量部の範囲内の値とし、前記(C2)難燃剤の助剤としての吸熱性無機化合物の配合量を3~30重量部の範囲内の値とすることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
難燃性として、JIS L1091(A-1法)に準拠してなる区分3を満足することを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記難燃剤の助剤としての吸熱性無機化合物の分解開始温度を250℃以上の値とし、かつ、分解吸熱量を300J/mg以上の値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記難燃剤の助剤としての吸熱性無機化合物が、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、及び、ホウ酸亜鉛の一種単独又は二種以上の組み合わせであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記リン酸エステル化合物が、卜リクレジルホスフェー卜、トリキシレニルホスフェート、及びクレジルジフェニルホスフェートの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
少なくとも(A)塩化ビニル樹脂、(B)可塑剤としての脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、(C)難燃剤としての、(C1)リン酸エステル化合物及び(C2)難燃剤の助剤としての吸熱性無機化合物を含む難燃性樹脂組成物に由来した難燃性シートであって、
前記(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対して、前記(B)可塑剤の配合量を20~60重量部の範囲内の値とし、前記(C1)リン酸エステル化合物の配合量を6~15重量部の範囲内の値とし、前記(C2)難燃剤の助剤としての吸熱性無機化合物の配合量を3~30重量部の範囲内の値とすることを特徴とする難燃性シート。
【請求項7】
JIS K 7161に準拠してなるMD方向におけるヤング率を5~200MPaの範囲内の値とするとともに、JIS K 7161に準拠してなる破断伸びを100~500%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項6に記載の難燃性シート。
【請求項8】
厚さを50~500μmの範囲内の値とすることを特徴とする請求項6又は7に記載の難燃性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物及び難燃性シートに関し、特に、三酸化アンチモンを事実上使用することなく、難燃性や耐寒性等に優れた難燃性樹脂組成物及び、それを用いた難燃性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁等の修復現場の作業空間を仕切るシート、特に、塗膜の塗り替え作業時のブラスト工法用シートとして、作業空間内で発生した環境影響物質の漏洩を防止し、かつ、適切な強度と密閉性が得られるべく、各種建築用養生シートが提案されている。
例えば、熱接着による後加工性に優れた建築工事用シートが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
より具体的には、フラットヤーンからなる織布の表面に、難燃性の塩化ビニルコート処理をした建築工事用シートが、ブラスト工法用シートとして使用されていた。
すなわち、難燃性を強化するために、フラットヤーンに対し、難燃剤としてのハロゲン系難燃剤及び、難燃助剤としての三酸化アンチモン等を配合してなる塩化ビニルコート処理を施した建築工事用シートとしてのブラスト工法用シートである。
【0003】
又、工場内やテラス等に使用される、間仕切り用カーテン等の用途において、自己消化性(難燃性)を有し、透明性を有する透明難燃性フィルムが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
より具体的には、合成樹脂100重量部に対して、平均粒子径(D50)が20~800nmの三酸化アンチモンを0.01~5重量部含有させ、更に、好適態様として、かかる三酸化アンチモンに加えて、リン酸エステル系難燃可塑剤等の難燃可塑剤を、合成樹脂100重量部に対して1~60重量部配合してなる透明難燃性フィルムである。
【0004】
一方、三酸化アンチモン以外の難燃剤も検討されており、火災発生時等に、発煙性の低い難燃性塩化ビニル系樹脂組成物の提供を目的として、難燃剤の主成分として、モノアルキルジアリールホスフェート等のリン酸エステルの使用が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
より具体的には、塩化ビニル系樹脂に、モノアルキルジアリールホスフェート及びハイドロタルサイト(ただし、亜鉛変性ハイドロタルサイトを除く)を含有させてなる難燃性塩化ビニル系樹脂組成物であって、更に、好適態様として、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、ハイドロタルサイトを0.1重量部以上含有することが提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-245739号公報(特許請求の範囲等)
【文献】特開2012-102303号公報(特許請求の範囲等)
【文献】特許3162697号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の建築工事用シートや、特許文献2に開示の間仕切り用カーテン等には、それぞれ難燃助剤あるいは難燃剤として、三酸化アンチモンが使用されており、使用上の法規制が、厳格に適用されるという問題が見られた。
すなわち、厚生労働省が、2015年及び2016年に、「平成28年度化学物質による労働者の健康障害防止措置に係る検討会」を開催し、三酸化二アンチモン及びその製剤等を『特定化学物質障害予防規則』の「管理第2類物質」に指定した。
従って、三酸化二アンチモンを使用する以上、『特定化学物質障害予防規則』に準じた発散抑制措置、作業環境測定の実施、特殊健康診断の実施等が義務付けられ、その使用条件を厳格に遵守しなければならないという問題が見られた。
【0007】
又、特許文献3に開示の難燃性塩化ビニル系樹脂組成物等には、難燃剤として、リン酸エステル等が相当量使用されているものの、そうすると、動的耐熱性や耐寒性、耐水性(加水分解)が低くなりやすいという問題があった。
そのため、難燃性塩化ビニル系樹脂組成物中のリン酸エステル等の配合量を低下させることも考えられるが、その場合、十分な防炎性(難燃性)を発揮できないという問題が見られた。
【0008】
そこで、本発明者らは、以上のような事情に鑑みて鋭意努力したところ、少なくとも(A)塩化ビニル樹脂、(B)特定可塑剤、及び(C)特定の複数難燃剤の組み合わせを含む難燃性樹脂組成物や、それに由来した難燃性シートとし、かつ、各種配合成分を所定範囲量とすることによって、三酸化アンチモンを事実上使用することなく、難燃性や耐寒性等を発揮する難燃性樹脂組成物等が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明の目的は、環境特性が良好であって、難燃性や耐寒性等に優れた難燃性樹脂組成物、及びそれを用いた難燃性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、少なくとも(A)塩化ビニル樹脂、(B)可塑剤としての脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、(C)難燃剤としての、(C1)リン酸エステル化合物及び(C2)吸熱性無機化合物を含む難燃性樹脂組成物であって、(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対して、(B)可塑剤の配合量を20~60重量部の範囲内の値とし、(C1)リン酸エステルの配合量を6~15重量部の範囲内の値とするとともに、(C2)吸熱性無機化合物の配合量を3~30重量部の範囲内の値とすることを特徴とする難燃性樹脂組成物が提供され、上述した課題を解決することができる。
すなわち、(C)難燃剤として、(C1)リン酸エステル化合物及び(C2)吸熱性無機化合物を用い、事実上、三酸化アンチモンを用いていないことから、『特定化学物質障害予防規則』に準じた発散抑制措置、作業環境測定の実施、特殊健康診断の実施等の規制を省略することができる。
又、三酸化アンチモンを事実上用いず、かつ、(B)特定可塑剤のみならず、(C1、C2)特定の複数難燃剤の組み合わせによって、難燃性樹脂組成物において、良好な難燃性、動的耐熱性、耐寒性、機械的物性等の間の特性バランスを良好なものとすることができる。
【0010】
又、本発明の難燃性樹脂組成物を構成するにあたり、難燃性基準として、JIS L1091(A-1法):1999に準拠してなる区分3を満足することが好ましい。
このような難燃性基準を満足することにより、難燃性の指標として採用することができ、定量的な判断をすることができる。
【0011】
又、本発明の難燃性樹脂組成物を構成するにあたり、吸熱性無機化合物の分解開始温度を250℃以上の値とし、かつ、分解吸熱量を300J/mg以上の値とすることが好ましい。
このようなTG-DTA(示差熱-熱重量測定装置)や、DSC(示差走査熱量計)の分析装置で測定可能な分解開始温度及び分解吸熱量を示す吸熱性無機化合物を含有することにより、良好な定量性や再現性をもって難燃性を判断することができるとともに、難燃性樹脂組成物の製造時の指標の一つとすることができる。
又、このような分解開始温度及び分解吸熱量の吸熱性無機化合物であれば、図1のTG-DTAチャートの曲線Bで示すように、主成分である(A)塩化ビニル樹脂が400℃付近で、主鎖が熱分解することが知られている。
そして、そのような場合、(C1)リン酸エステル化合物が脱水して、リンと炭素の炭化層である、いわゆるチャーが形成されることも判明している。
そこで、図1のTG-DTAチャートの曲線Aで示すように、所定の(C2)吸熱性無機化合物であれば、所定温度において、吸熱反応が生じることも判明している。
よって、本発明の難燃性樹脂組成物によれば、所定の(C2)吸熱性無機化合物の吸熱反応を利用して、塩化ビニル樹脂の分解を遅延させるとともに、リン酸エステル化合物によるチャー形成を促進させることができ、結果として、良好な難燃性を発揮することができる。
【0012】
又、本発明の難燃性樹脂組成物を構成するにあたり、吸熱性無機化合物が、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、及び、ホウ酸亜鉛の一種単独又は二種以上の組み合わせであることが好ましい。
このような吸熱性無機化合物であれば、単位重量あたりの吸熱量が多く、配合量を比較的少なくできる一方、難燃性樹脂組成物における難燃性をより強化させることができる。
【0013】
又、本発明の難燃性樹脂組成物を構成するにあたり、リン酸エステル化合物が、卜リクレジルホスフェー卜、トリキシレニルホスフェート、及びクレジルジフェニルホスフェートの少なくとも一つであることが好ましい。
このようなリン酸エステル化合物であれば、単位重量あたりのリン(P)の配合量が比較的多いことから、少ない配合量で所定の難燃効果を得ることができる。
【0014】
又、本発明の別の態様は、少なくとも(A)塩化ビニル樹脂、(B)可塑剤としての脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、(C)難燃剤としての、(C1)リン酸エステル化合物及び(C2)吸熱性無機化合物を含む難燃性樹脂組成物に由来した難燃性シートであって、(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対して、(B)可塑剤の配合量を20~60重量部の範囲内の値とし、(C1)リン酸エステルの配合量を6~15重量部の範囲内の値とし、(C2)吸熱性無機化合物の配合量を3~30重量部の範囲内の値とすることを特徴とする難燃性シートである。
すなわち、塩化ビニル樹脂系の難燃性樹脂組成物に由来した難燃性シートにおいて、(C)難燃剤として、(C1)リン酸エステル化合物及び(C2)吸熱性無機化合物を用い、事実上、三酸化アンチモンを用いていないことから、『特定化学物質障害予防規則』に準じた発散抑制措置、作業環境測定の実施、特殊健康診断の実施等の規制を省略することができる。
又、(B)特定可塑剤のみならず、難燃剤として、(C1、C2)特定の複数難燃剤の組み合わせを用いることによって、難燃性樹脂組成物に由来した難燃性シートにおいても、後述の難燃性、動的耐熱性、耐寒性、機械的物性等の間の特性バランスを良好なものとすることができる。
従って、例えば、ブラスト工法用シートにおいて、フラットヤーンからなる織布の使用を省略したとしても、あるいは、比較的少量のフラットヤーンを使用としたとしても、難燃性樹脂組成物は、所定の動的耐熱性、耐寒性、機械的物性等が得られることから、かかるブラスト工法用シートの被覆材料として好適である。
【0015】
又、本発明の難燃性シートを構成するにあたり、JIS K 7161に準拠してなるMD方向におけるヤング率を5~200MPaの範囲内の値とするとともに、JIS K 7161-1(及び7161-2):2014に準拠してなる破断伸びを100~500%の範囲内の値とすることが好ましい。
このようなヤング率及び破断伸びを有することにより、難燃性シートの機械的強度等の指標となり、例えば、ブラスト工法用シートの用途に好適に使用できるか、否かを容易かつ定量性をもって、判断することができる。
【0016】
又、本発明の難燃性シートを構成するにあたり、厚さを50~500μmの範囲内の値とすることが好ましい。
このような範囲に難燃性シートの厚さを制御することにより、当該難燃性シートのハンドリング性が向上し、例えば、ブラスト工法用シートの用途に好適に使用することができ、かつ、製造上の作成も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、難燃性シートに用いられる(A)塩化ビニル樹脂及び(C2)の吸熱性無機化合物のTG-DTA曲線の一例を説明するために供する図である。
図2図2は、難燃性シートに用いられる可塑剤の種類と、耐寒性及び脆性破壊温度との関係を説明するために供する図である。
図3図3は、難燃性シートに用いられる可塑剤の配合量と、耐寒性及び機械的物性との関係を説明するために供する図である。
図4図4は、難燃性シートに用いられる難燃剤の種類と、難燃性との関係を説明するために供する図である。
図5図5(a)~(b)は、それぞれ難燃性シートの態様を説明するために供する図である。
図6図6は、ブラスト工法を説明するために供する図である。
図7図7は、ブラスト工法用シートを用いた作業室構造体の一例を説明するために供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態は、少なくとも(A)塩化ビニル樹脂、(B)可塑剤としての脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、(C)難燃剤としての、(C1)リン酸エステル化合物及び(C2)吸熱性無機化合物を含む難燃性樹脂組成物である。
そして、(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対して、(B)可塑剤の配合量を20~60重量部の範囲内の値とし、(C1)リン酸エステルの配合量を6~15重量部の範囲内の値とするとともに、(C2)吸熱性無機化合物の配合量を3~30重量部の範囲内の値とすることを特徴とする難燃性樹脂組成物を提供することによって、上述した課題を解決することができる。
以下、第1の実施形態の難燃性樹脂組成物を、構成要件ごとに分けて具体的に、説明する。
【0019】
1.塩化ビニル樹脂
(A)成分としての塩化ビニル樹脂につき、塩化ビニルモノマーに由来してなるポリマーであれば使用することができるが、より好しい態様として、その平均重合度を100~10000の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、塩化ビニル樹脂の平均重合度が100未満の値になると、所定形状を保持することが困難となったり、表面タックが過度に高い値になったりする場合があるためである。
一方、塩化ビニル樹脂の平均重合度が10000を超えた値になると、均一に配合成分を混合分散したり、あるいは、所定の均一厚さの難燃性シートを作成したりすることが困難となる場合があるためである。
従って、塩化ビニル樹脂の平均重合度を500~5000の範囲内の値とすることがより好ましく、800~2000の範囲内の値とすることが更に好ましい。
なお、塩化ビニル樹脂の平均重合度は、GPC装置やGC-MS装置を用い、モノマーの分子量及び標準スチレン粒子の換算値としての平均分子量から、算出することができる。
【0020】
2.可塑剤
(1)種類
(B)成分である脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤としては、ジ-n-ブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジオクチルアジペート(DOAと略する場合がある。)、ビス(2-エチルヘキシル)アジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]アジペート(BXA-Nと略する場合がある。)、ビス(2-エチルヘキシル)アゼレート、ジブチルセバケート、ビス(2-エチルヘキシル)セバケート(DOSと略する場合がある。)、ジエチルサクシネート、ジ-n-ブチルマレート、及びモノブチルイタコネートからなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
この理由は、このような脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤であれば、芳香族二塩基酸エステル系可塑剤と比較して、得られる難燃性シートの後述の耐寒性を著しく向上させることができるためである。
【0021】
特に、(B)成分が、ジオクチルアジペート(DOA)、ビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]アジペート(BXA-N)、及びビス(2-エチルヘキシル)セバケート(DOS)の少なくとも一つであれば、得られる難燃性樹脂組成物における耐寒性をより著しく向上させることができる。
しかも、これらの可塑剤であれば、比較的安価であって、経済性や入手性にも優れているためである。
【0022】
ここで、図2を参照して、塩化ビニル樹脂に配合する可塑剤の種類と、耐寒性及び脆性破壊温度との関係をそれぞれ説明する。
すなわち、図2の横軸に、実施例1(可塑剤:DOA)、実施例7(DOS)、実施例8(BXA-N)、比較例4(DOP)、比較例7(可塑剤0)が採って示してある。
そして、左の縦軸に、難燃性シートの後述の耐寒性評価(評価5)として、◎:5、〇:3、△:1、×:0とした値がとってある。又、右の縦軸に、難燃性シートの脆性破壊温度(℃)の値がとって示してある。
したがって、塩化ビニル樹脂に配合する可塑剤の種類によって、難燃性シートの耐寒性や、脆性破壊温度の値が大きく異なることが理解される。
より具体的には、実施例1、実施例7、及び実施例8は、可塑剤として、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤を使用しているため、それぞれ耐寒性評価が3以上であって、かつ、脆性破壊温度も、-33~-22℃の範囲内の値である。
それに対して、比較例4(DOP)、及び比較例7(可塑剤の配合なし)は、可塑剤として、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤を使用していないため、それぞれ耐寒性評価が0であって、かつ、脆性破壊温度も、-15℃よりも高い温度である。
よって、塩化ビニル樹脂に対して、所定量の可塑剤を配合することによって、良好な耐寒性が得られ、かつ、脆性破壊温度を低く抑制できることが理解される。
【0023】
但し、芳香族二塩基酸エステル系可塑剤、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)等であっても、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤の配合量(100重量部)に対して、比較的少量であれば配合しても良い。
例えば、かかる芳香族二塩基酸エステル系可塑剤であっても、その配合量が45重量部以下であれば、併用する脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤の効果によって、例えば、ブラスト工法用シートを作成した場合に、後述の耐寒性が著しく低下することはないことから好ましく、30重量部以下であれば、耐寒性が更に著しく低下しないことからより好ましいと言える。
その上、かかる芳香族二塩基酸エステル系可塑剤の配合量が10重量部以下、特に0重量部として、全く配合しなければ、耐寒性が低下するおそれがない。
【0024】
(2)配合量
又、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤の配合量を、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、20~60重量部の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかる脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤の配合量が、20重量部未満になると、可塑化効果が著しく低下する場合があり、固すぎて、例えば、ブラスト工法用シート等に好適に用いることが困難となる場合があるためである。
一方、かかる脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤の配合量が、60重量部を超えると、機械的物性やハンドリング性が低下し、柔らかすぎて、例えば、ブラスト工法用シート等に好適に用いることが困難となる場合があるためである。
従って、ブラスト工法用シート等に好適に用いることができることから、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤の配合量を、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、25~50重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、30~45重量部の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0025】
ここで、図3を参照して、塩化ビニル樹脂に配合する可塑剤の配合量と、耐寒性及び機械的物性との関係を説明する。
すなわち、図3の横軸に、塩化ビニル樹脂100重量部に対して配合する可塑剤(DOA)の配合量が採って示してある。
そして、左の縦軸に、難燃性シートの後述の耐寒性評価(評価5)として、◎:5、〇:3、△:1、×:0とした値がとってある。又、右の縦軸に、難燃性シートの後述の機械的物性評価(評価6)として、◎:5、〇:3、△:1、×:0とした値があってある。
したがって、塩化ビニル樹脂100重量部に対する可塑剤の配合量によって、難燃性シートの耐寒性及び機械的物性が大きく異なることが理解される。
【0026】
より具体的には、かかる可塑剤の配合量が20重量部未満であると、耐寒性評価が1程度と低くなっている。
それに対して、かかる可塑剤の配合量が20重量部になると、耐寒性評価が急激に上昇し、30重量部以上になると、耐寒性評価が5程度と著しく高くなっている。
一方、かかる可塑剤の配合量が60重量部になると、機械的物性評価が3まで低下し、60重量部を超えた値になると、機械的物性評価がさらに低下して、低くなる傾向が見られている。
よって、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、20~60重量部の可塑剤を配合することによって、良好な耐寒性及び機械的物性が安定的に得られ、25~50重量部の可塑剤を配合することによって、さらに良好な耐寒性及び機械的物性が得られることが理解される。
【0027】
3.難燃剤
(1)種類1
又、難燃剤(難燃剤の主剤)として、(C1)リン酸エステル化合物を配合することを特徴とする。
より具体的なリン酸エステル化合物としては、トリメチルホスフェー卜(TMPと称する場合がある。以下、同様である。)、トリエチルホスフェー卜(TEP)、トリブチルホスフェー卜(TBP)、卜リス(2-工チルヘキシル)ホスフェー卜(TOP)、トリフェ二ルホスフェー卜(TPP)、卜リクレジルホスフェー卜(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、クレジルジフェニルホスフェート(CDP)、2-工チルヘキシルジフェニルホスフェート等の少なくとも一つが挙げられる。
【0028】
特に、難燃剤として、卜リクレジルホスフェー卜(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、及びクレジルジフェニルホスフェート(CDP)の少なくとも一つであることが好ましい。
この理由は、かかる難燃剤であれば、単位重量当たりのリン量(P)が比較的多いためである。
従って、比較的少量であっても、優れた難燃性を示し、更には、入手が比較的容易であることから、より好ましいリン酸エステル化合物である。
【0029】
(2)種類2
又、難燃剤の助剤として、吸熱性無機化合物(C2)を、上述した(C1)リン酸エステル化合物とともに配合することを特徴とする。
ここで、吸熱性無機化合物は、所定温度に加熱した場合に、吸熱反応を起こす無機化合物と定義されるが、所定温度に加熱した場合に、水酸基や結晶水構造を有していて、吸熱反応を生じさせる無機化合物であり、例えば、金属水酸化物、鉱石、金属化合物、無機水和物、及び無機炭酸塩等の少なくとも一つが挙げられる。
そして、より具体的な(C2)吸熱性無機化合物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト、及び、ホウ酸亜鉛の一種単独又は二種以上の組み合わせである。
これら吸熱性無機化合物のうち、特に、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、及び、ホウ酸亜鉛であれば、加水分解する際の単位重量当たりの吸熱量が500J/mg以上と極めて多く、かつ、後述するように、分解開始温度も260℃以上であることから、リン酸エステルと組み合わせることによって、吸熱効果を発揮し、結果として、良好な難燃性を発揮することができる。
【0030】
ここで、図4を参照して、塩化ビニル樹脂に配合する難燃剤の主剤及び助剤の種類と、難燃性との関係を説明する。
すなわち、図4の横軸に、塩化ビニル樹脂に配合する難燃剤の主剤及び助剤の種類を変えた、実施例1(TCP 10重量部/C2-1 5重量部)、実施例2(TCP 10重量部/C2-2 5重量部)、実施例4(TCP 10重量部/C2-1 2.5重量部+C2-2 2.5重量部)、実施例5(TCP 10重量部/C2-1 2.5重量部+C2-4 2.5重量部)、及び比較例2(C2-1 5重量部のみ)、比較例3(TCP 10重量部のみ)のデータが採って示してある。
そして、縦軸に、難燃性シートの後述の難燃性評価(評価3)として、◎:5、〇:3、△:1、×:0とした値がとってある。
【0031】
したがって、塩化ビニル樹脂に配合する難燃剤の主剤及び助剤の種類によって、難燃性シートの難燃性が大きく異なることが理解される。
より具体的には、かかる難燃剤(主剤及び助剤を含む)が、所定量以上になると、難燃性評価が5と、大変と高くなっている。
よって、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、所定量の難燃剤(主剤及び助剤を含む)を配合することによって、良好な難燃性が得られることが理解される。
なお、塩化ビニル樹脂に配合する難燃剤(主剤及び助剤を含む)の配合量が、合計30重量部以下であれば、塩化ビニル樹脂の機械的特性に対してほぼ影響しないことが判明しており、さらには、合計20重量部以下であれば、塩化ビニル樹脂の機械的特性に対して全く影響しないことが判明している。
【0032】
(3)配合量1
又、(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対して、(C1)リン酸エステルの配合量を6~15重量部の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかるリン酸エステルの配合量が、6重量部未満の値になると、得られる難燃性シートにおいて、所定の難燃性が確実に得られない場合があるためである。
一方、かかるリン酸エステルの配合量が、15重量部を超えた値になると、得られる難燃性シートにおいて、実施例において後述する動的耐熱性や耐寒性が著しく低下する場合があるためである。
従って、リン酸エステルの配合量を、(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対して、7~13重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、8~12重量部の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0033】
(4)配合量2
又、(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対して、(C2)吸熱性無機化合物の配合量を3~30重量部の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかる吸熱性無機化合物の配合量が、3重量部未満の値になると、得られる難燃性シートにおいて、所定の難燃性が確実に得られない場合があるためである。
一方、かかる吸熱性無機化合物の配合量が、30重量部を超えた値になると、機械的物性が著しく低下したり、均一に混合分散したりすることが困難となったり、更には、難燃性シートの比重が重くなって、取り扱性が低下したりする場合があるためである。
従って、吸熱性無機化合物の配合量を、(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対して、4~25重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、5~20重量部の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0034】
(5)配合比
又、(C1)リン酸エステル化合物の配合量/(C2)吸熱性無機化合物の配合量で表される比率を1/5~5の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる比率が、1/5未満の値になると、機械的物性が著しく低下する場合があるためである。
一方、かかる比率が5を超えた値になると、同様に、所定の難燃性が確実に得られない場合があるためである。
従って、(C1)リン酸エステル化合物の配合量/(C2)吸熱性無機化合物の配合量で表される比率を1/3~3の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0035】
4.添加剤
(1)種類
又、難燃性樹脂組成物中に、添加剤として、エポキシ系安定剤、液状安定剤、粉末安定剤、ブロッキング防止剤、滑剤等の少なくとも一つの化合物を適宜配合することが好ましい。
例えば、難燃性シートの耐熱性を向上させたり、加水分解性を抑制したりするためには、エポキシ系安定剤、液状安定剤、粉末安定剤等を配合することが好ましい。
又、難燃性シート同士や基材等へのブロッキングを防止するためには、架橋塩化ビニル樹脂粒子、ポリオレフィン樹脂粉末、脂肪酸エステル等の少なくとも一つのブロッキング防止剤を配合することが好ましい。
更に、難燃性シート同士や基材への貼り付きを防止するためには、滑剤として、エチレンビスステアリン酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド等の脂肪酸アミド、ポリエチレンワックス、ステアリン酸、シリカ等の一種単独又は二種以上の組合せが挙げられる。
【0036】
(2)配合量
又、添加剤の配合量は、当該添加剤の種類にもよるが、通常、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、0.01~10重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる添加剤の配合量が、0.01重量部未満の値になると、添加効果が発現しない場合があるためである。
一方、かかる添加剤の配合量が、10重量部を超えた値になると、得られる難燃性シートにおいて、所定の難燃性等が確実に得られない場合があるためである。
従って、添加剤の配合量を、通常、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、0.1~8重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、0.5~5重量部の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0037】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態は、少なくとも(A)塩化ビニル樹脂、(B)可塑剤としての、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、(C)難燃剤としての、(C1)リン酸エステル化合物及び(C2)吸熱性無機化合物を含む難燃性樹脂組成物に由来した難燃性シートである。
そして、(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対して、(B)可塑剤の配合量を20~60重量部の範囲内の値とし、(C1)リン酸エステルの配合量を6~15重量部の範囲内の値とするとともに、(C2)吸熱性無機化合物の配合量を3~30重量部の範囲内の値とすることを特徴とする難燃性シートである。
以下、第2の実施形態の難燃性シートを、構成要件ごとに分けて、第1の実施形態の難燃性樹脂組成物と異なる点を中心に、具体的に説明する。
【0038】
1.難燃性樹脂組成物
難燃性樹脂組成物については、第1の実施形態の難燃性樹脂組成物がそのまま使用できるため、再度の説明は省略する。
【0039】
2.難燃性シートの形態
(1)厚さ
難燃性シートの厚さは用途等によって適宜変えることができるが、通常、50~500μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このような厚さの範囲に制御することにより、難燃性シートの諸特性を発揮しやすくなり、かつ、製造上の作成も容易とすることができるためである。
従って、難燃性シートの厚さを80~400μmの範囲内の値とすることがより好ましく、100~300μmの範囲内の値とすることがより好ましく、120~250μmの範囲内の値とすることが最も好適である。
【0040】
(2)形状
難燃性シートの形状については、特に制限されることなく、例えば、テープ状、三角形状、四角形状(長方形状)、多角形状、円状、楕円状、異形等とすることができる。
特に、難燃性シートを、ブラスト処理用養生シートとして用いる場合、橋梁等の構造物の周囲を覆う個々のパネルの内側に貼着させる必要があることから、概ね長方形状とすることが好適である。
【0041】
(3)機能層
難燃性シートは、通常、機能層の一種として、剥離シートを両面又は片面に備えることが好ましい。
すなわち、当該難燃性シートを実際に使用するまで、保管、運搬の途中で、周囲の埃や塵等から、剥離シートによって、難燃性シートを効果的に保護することができる。
その上、剥離シートを両面又は片面に備えていれば、取扱性、位置合わせ性、貼付作業等も向上させることができる。
その他の機能層としては、装飾層、加飾層、ブロッキング防止層、耐候性層等の少なくとも一つが挙げられる。
【0042】
(4)用途
第1の実施形態である難燃性樹脂組成物、及びそれに由来した難燃性シートの用途としては、特に制限されるものではないが、例えば、図5(a)~(b)に示されるように、所定の難燃性樹脂組成物を用いてなるブラスト工法用シート30が典型例である。
【0043】
ここで、図5(a)は、1枚タイプのブラスト工法用シートの使用方法を示しており、所定の基材20に対して、ブラスト工法用シート30を、タッカー40を用いて、所定位置に位置決めし、固定することを示している。
従って、このように1枚のブラスト工法用シート30が固定された基材20の場合、例えば、図6に示すようなブラスト装置50を用いて、図7に示すような作業空間100の内部で、橋梁等の表面をブラスト処理(研削材としてのブラスト材を吹き付ける処理)する際に、作業空間内で発生した環境影響物質の外部漏洩を効果的に防止することができる。
【0044】
又、図5(b)は、複数枚(2枚以上)タイプのブラスト工法用シート30の使用方法を示しており、基材20に対して、例えば、2枚のブラスト工法用シート30(31、32)を、タッカー40を用いて、一度に所定位置に位置決めし、固定することを示している。
従って、このように2枚以上のブラスト工法用シート30が固定された基材20の場合、それを用いて、橋梁等の表面をブラスト処理する際に、作業空間内で発生した環境影響物質の外部漏洩を更に効果的に防止することができる。
その上、ブラスト処理後、作業空間内で発生した環境影響物質が付着した1枚のブラスト工法用シート30を除去するだけで、新しい塗膜の塗装作業等に移ることができ、修復作業を過度に長く中断することなく、継続的に実施することができる。
【0045】
3.諸特性
(1)難燃性(防炎性)
難燃性シートの難燃性基準として、JIS L1091(A-1法):1999に準拠して区分3を満足することが好適である。
逆に言えば、本発明の難燃性シートは、かかる法律的基準を満足することによって、所定の難燃性表示が可能になるとともに、定量的、実務的、かつ再現性良く、所定の難燃性を発揮することができる。
なお、かかる難燃性の評価方法については、後述する実施例1において詳述する。
そして、後述する実施例1等に示す難燃性評価(評価3)として、△以上であれば、実務的に許容範囲であるが、より好ましくは、〇以上の評価である。
【0046】
(2)耐熱性
TG-DTAを用いて、難燃性樹脂組成物に含まれる吸熱性無機化合物を、窒素雰囲気中に、室温から、600℃まで昇温させると(昇温速度:20℃/分)、TG-DTAチャート上、ピーク温度を有する吸熱反応ピークが生じて、そのピークの分解開始温度から、吸熱性無機化合物、ひいては、それを含む難燃性樹脂組成物の耐熱性を評価することができる。なお、TG-DTAの測定条件は、実施例1で詳述する。
【0047】
従って、かかるピークの分解開始温度が250℃以上であれば、実用的な耐熱性を有していると言える。
同じくピークの分解開始温度が、260℃以上であれば、より優れた耐熱性を有していると言え、270℃以上であれば、更に優れた耐熱性を有していると言える。
但し、ピークの分解開始温度が390℃以上になると、(A)塩化ビニル樹脂の熱分解が生じる場合があることから、それを防止すべく、吸熱性無機化合物の分解開始温度は、390℃以下が好ましく、380℃以下がより好ましく、370℃以下が更に好ましい。
なお、ピークの分解開始温度が二つ以上現出する場合には、かかる分解開始温度が250~370℃の範囲において、高いほうの分解開始温度を基準とすることができる。
そして、後述する実施例1等に示す耐熱性評価(評価1)として、△以上であれば、実務的に許容範囲であるが、より好ましくは、〇以上の評価である。
【0048】
(3)総吸熱量
TG-DTAを用いて、難燃性樹脂組成物に含まれる吸熱性無機化合物を、窒素雰囲気中に、室温から、600℃まで昇温させると(昇温速度:20℃/分)、TG-DTAチャート上、ピーク温度を有する吸熱反応ピークが生じて、そのピーク面積から、吸熱性無機化合物、ひいては、難燃性樹脂組成物の耐熱性の指標の一つとして総吸熱量を算出することができる。なお、TG-DTAで得られる総吸熱量の測定条件は、実施例1で詳述する。
【0049】
従って、かかる総吸熱量が300J/mg以上であれば、実用的な耐熱性を有していると言える。
同じく、かかる総吸熱量が500J/mg以上であれば、より優れた耐熱性を有していると言え、1000J/mg以上であれば、更に優れた耐熱性を有していると言える。
なお、吸熱ピーク温度が二つ以上現出する場合には、ピーク面積が大きいほうの吸熱量を基準として、耐熱性を評価することができる。
そして、後述する実施例1等に示す総吸熱量評価(評価2)として、△以上であれば、実務的に許容範囲であるが、より好ましくは、〇以上の評価である。
【0050】
(4)動的耐熱性
テストロール混錬機にサンプルを投入した後、195℃のロール温度、20rpmのロール回転条件で混錬し、サンプルの変色及びロールへの張り付きの状況を目視観察して、動的耐熱性を評価することができる。
従って、40分経過しても、かかるサンプルの著しい変色及びロールへの張り付きが観測されなければ、実用的な動的耐熱性を有していると言える。
同じく、50分経過しても、サンプルの著しい変色及びロールへの張り付きが観測されなければ、より優れた動的耐熱性を有していると言える。
又、60分経過しても、サンプルの著しい変色及びロールへの張り付きが観測されなければ、更に優れた動的耐熱性を有していると言える。
そして、後述する実施例1等に示す動的耐熱性評価(評価4)として、△以上であれば、実務的に許容範囲であるが、より好ましくは、〇以上の評価である。
【0051】
(5)耐寒性
得られた難燃性シートを測定用サンプルとして、恒温槽付きフィルムインパクトテスター(東洋精機社製)を用いて、振り子式ハンマーにより、衝撃エネルギー3Jにて、測定用サンプルを打撃した(衝撃試験)。
次いで、恒温槽の温度を-35℃から5℃刻みで、25℃まで昇温させ、各温度において上記衝撃試験をし、脆性破壊が発生した温度を脆性破壊温度として、難燃性シートの耐寒性の一つとして評価した。
すなわち、脆性破壊温度が-15℃以下であれば、実用的な耐寒性を有していると言える。
この理由は、難燃性シートを、例えば、ブラスト工法用シートの用途に用い、低温環境でブラスト処理を行った場合、かかる脆性破壊温度が-15℃を超えた値になると、穴や亀裂等が生じやすくなるためである。
但し、難燃性シートの脆性破壊温度が過度に低くなると、使用可能な配合成分の種類が過度に制限されたり、あるいは、得られる難燃性シートの取り扱いが困難になったりする場合がある。
従って、脆性破壊温度が-20℃以下であれば、より優れた耐寒性を有していると言える。
又、脆性破壊温度が-25℃以下であれば、更に優れた耐寒性を有していると言える。
そこで、後述する実施例1等に示す耐寒性評価(評価5)として、△以上であれば、実務的に許容範囲であるが、より好ましくは、〇以上の評価である。
【0052】
(6)機械的物性1
JIS K 6732:2006に準じて、得られた難燃性シートから3号ダンベルを作成して測定サンプルとした。そして、測定サンプルの引張破断強度を測定し、吸熱性無機化合物を配合しない難燃性シートをリファレンス(引張切断強さを100%)とし、リファレンスからどの程度引張切断強さが低下したかで評価した。
ここで、吸熱性無機化合物を配合しない難燃性シートと比較して、測定サンプルの引張切断強さの低下が5%未満であれば、吸熱性無機化合物による機械的物性の低下としては、許容できる範囲である。
従って、後述する実施例1等に示す機械的物性評価(評価6)として、△以上であれば、実務的に許容範囲であるが、より好ましくは、〇以上の評価である。
【0053】
(7)機械的物性2
又、難燃性シートを構成するにあたり、JIS K 7161-1(及び7161-2):2014に準拠して測定される、MD方向(長さ方向に沿った製膜方向)におけるヤング率を5~200MPaの範囲内の値とするとともに、同じく準拠して測定される破断伸びを50~500%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるヤング率が、5MPa未満の値になると、難燃性シートの生産性や施工性、更には取扱性が著しく低下する場合があるためである。
一方、かかるヤング率が、200MPaを超えた値になると、ブラスト処理時のブラスト条件等がばらついたような場合に、過度に損傷したり、あるいは穴が空いたりする場合が多くなるためである。
【0054】
又、破断時伸びが、50%未満の値になると、ブラスト処理時のブラスト条件等がばらついたような場合に、過度に損傷したり、あるいは穴が空いたりする場合が多くなるためである。
一方、かかる破断時伸びが、500%を超えた値になると、難燃性シートの生産性や施工性、更には取扱性が著しく低下する場合があるためである。
すなわち、このようなヤング率及び破断伸びの値に調整することによって、ブラスト処理の際の難燃性シートの耐久性の指標となり、ブラスト工法用シートの用途に好適に使用できるか、否かを容易かつ定量性をもって、判断することができる。
【0055】
従って、MD方向におけるヤング率については、10~100MPaの範囲内の値とすることがより好ましく、20~50MPaの範囲内の値とすることが更に好ましい。
一方、破断伸びを100~450%の範囲内の値とすることがより好ましく、200~300%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
なお、かかるヤング率や破断伸びは、それぞれ塩化ビニル樹脂に配合する可塑剤の種類、可塑剤の配合量、塩化ビニル樹脂の重合度等によって、所望範囲内の値に容易に調整することができる。
【0056】
4.難燃性シートの製造方法
少なくとも(A)塩化ビニル樹脂、(B)可塑剤としての脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、(C)難燃剤としての、(C1)リン酸エステル化合物及び(C2)吸熱性無機化合物を含む難燃性樹脂組成物に由来した難燃性シートの製造方法であって、下記工程を含むことが好ましい。
(1)(A)塩化ビニル樹脂100重量部に対して、(B)可塑剤の配合量を20~60重量部の範囲内の値とし、(C1)リン酸エステルの配合量を6~15重量部の範囲内の値とし、(C2)吸熱性無機化合物の配合量を3~30重量部の範囲内の値としてなる、難燃性樹脂組成物を準備する工程(以下、難燃性樹脂組成物の準備工程と称する場合がある。)
(2)難燃性樹脂組成物を、加圧装置を用いて圧延し、厚さ50~500μmの難燃性シートとする工程(以下、難燃性シートの形成工程と称する場合がある。)
以下、本発明の第3の実施形態の難燃性シートの製造方法を、第1の実施形態の難燃性樹脂組成物や第2の実施形態の難燃性シートと重複する部分については、適宜省略しながら、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0057】
(1)難燃性樹脂組成物の準備工程
少なくとも(A)塩化ビニル樹脂、(B)可塑剤としての脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、(C)難燃剤としての、(C1)リン酸エステル化合物及び(C2)吸熱性無機化合物を含む難燃性樹脂組成物を準備する工程である。
従って、配合成分として、(A)塩化ビニル樹脂、(B)可塑剤としての脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、(C)難燃剤としての、(C1)リン酸エステル化合物及び(C2)吸熱性無機化合物、(D)添加剤を秤量し、それらの配合成分を、プロペラを備えた混合撹拌機等を用いて、均一になるまでプロペラを回転させて、混合攪拌することが好ましい。
そして、配合成分が均一に配合された時点で、混合撹拌機から難燃性樹脂組成物を取出した。
なお、(A)塩化ビニル樹脂、(B)可塑剤としての脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、(C)難燃剤の種類等に関しては、本発明の第1の実施形態で述べた内容と同等とすることができる。
【0058】
(2)難燃性シートの形成工程
難燃性シートの形成工程は、公知の方法、例えば、カレンダーロール、押出装置、テストロール、ナイフコーター、ロールコーター等を用いて実施することができる。
従って、例えば、テストロールとして、2本ロールを用いた場合、下記工程1)~5)の実施において、所望厚さの難燃性シートを得ることができる。
1)直径20cmの2本ロールを準備する。
2)2本ロールの間に、得られた難燃性樹脂組成物を投入する。
3)150~200℃、1~30分間の条件で、2本ロールを回転させ、均一になるまで混合分散する。
4)2本ロールのギャップ(クリアランス)を調節し、ロール上に所望厚さ(例えば、50~500μm)の難燃性シートを形成する。
5)2本ロールの表面から、所望厚さ(例えば、50~500μm)の難燃性シートを離脱させる。
【0059】
(3)検査工程
次いで、得られた難燃性シートが、所定の難燃性等を有するか否かの検査工程を設けることが好ましい。
より具体的には、得られた難燃性シートを構成する難燃性樹脂組成物の分解開始温度、同じく難燃性樹脂組成物の総吸熱量、得られた難燃性シートの動的耐熱性、得られた難燃性シートの耐寒性、及び機械的物性を、それぞれ測定し、所定範囲内に収まっていることを確認し、検査することが好ましい。
【実施例
【0060】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明する。但し、本発明はこれらの記載に制限されるものではない。
【0061】
[実施例1]
1.難燃性シートの作成
(1)難燃性樹脂組成物の作成
表1に示すように、配合成分として、(A)塩化ビニル樹脂を100重量部、(B)可塑剤としての脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤(DOA)37重量部、(C)難燃剤としての、(C1)リン酸エステル化合物(TCP)を10重量部、及び(C2)吸熱性無機化合物(水酸化マグネシウム、表1中、C2-1と略記)5重量部を秤量し、それらの配合成分を、プロペラを備えた混合撹拌機に収容し、配合成分が均一になるまで、60分間混合攪拌した。
次いで、配合成分が均一に配合した後、混合撹拌機から難燃性樹脂組成物を取出した。
【0062】
(2)難燃性シートの作成
次いで、得られた難燃性樹脂組成物を、直径20cmの2本ロールの間に投入した。
次いで、180℃、5分間、2本ロールを回転させ、均一になるまで練り込んで、2本ロールの表面に形成された、所定厚さ(200μm)の難燃性シートを得た。
なお、2本ロールのギャップ(クリアランス)を適宜調節し、所望厚さ(200μm)の難燃性シートを得た。
【0063】
2.難燃性樹脂組成物及び難燃性シートの評価
(1)耐熱性評価(評価1)
TG-DTAを用いて、窒素雰囲気中、室温から、600℃まで昇温させ(昇温速度:20℃/分)、難燃性樹脂組成物に含まれる吸熱性無機化合物(水酸化マグネシウム)の分解開始温度(チャート上のピークの分解開始温度)を測定し、下記評価基準に準じて、耐熱性を評価した。
◎:分解開始温度が、270℃以上、390℃未満の範囲内の値である。
○:分解開始温度が、260℃以上、270℃未満の範囲内の値である。
△:分解開始温度が、250℃以上、260℃未満の範囲内の値である。
×: 分解開始温度が、250℃未満の値である。
【0064】
(2)総吸熱量評価(評価2)
TG-DTAを用いて、窒素雰囲気中、室温から、600℃まで昇温させ(昇温速度:20℃/分)、難燃性樹脂組成物に含まれる吸熱性無機化合物(水酸化マグネシウム)の総吸熱量を測定し、下記評価基準に準じて総吸熱量を評価した。
◎:総吸熱量が1000J/mg以上の値である。
○:総吸熱量が500J/mg以上、1000J/mg未満の範囲内の値である。
△:総吸熱量が300J/mg以上、500J/mg未満の範囲内の値である。
×: 総吸熱量が300J/mg未満の値である。
【0065】
(3)難燃性評価(評価3)
得られた難燃性シートにつき(サンプル数:10)、JIS L1091(A-1法):1999に準拠して試験を行い、下記評価基準にて、難燃性(防炎性)を評価した。
◎:サンプル数10個が全て、区分3を満足する。
○:サンプル数10個のうち、6~9個が区分3を満足する。
△:サンプル数10個のうち、2~5個が区分3を満足する。
×: サンプル数10個のうち1個が区分3を満足するか、又は全てが満足しない。
【0066】
(4)動的耐熱性評価(評価4)
テストロール混錬機にサンプルを投入した後、195℃のロール温度、20rpmのロール回転条件で混錬し、サンプルの変色及びロールへの張り付きの状況を目視観察して、動的耐熱性を評価した。
◎:60分経過しても、著しい変色又はロールへの張り付きが観察されない。
○:50分経過しても、著しい変色又はロールへの張り付きが観察されない。
△:40分経過しても、著しい変色又はロールへの張り付きが観察されない。
×:40分以内に、変色又はロールへの張り付きが観察された。
【0067】
(5)耐寒性評価(評価5)
得られた難燃性シートを幅10cmの帯状に切り取って、測定用サンプルとした。
次いで、恒温槽付きフィルムインパクトテスター(東洋精機社製)を用いて、恒温槽中において一定温度にした測定サンプルを、中央に設けられた直径5cmの孔を有する固定板(縦15cm、横10cmの長方形)に固定した後、先端が直径1cmの半球状の衝撃子を有する振り子式ハンマーにより、衝撃エネルギー3Jにて、測定用サンプルを打撃した(衝撃試験)。
次いで、恒温槽の温度を-35℃から5℃刻みで、25℃まで昇温させ、各温度において上記衝撃試験をし、脆性破壊が発生した温度を脆性破壊温度として、下記基準に沿って、難燃性シートの耐寒性として評価した。
◎:脆性破壊温度が-25℃以下の低温である。
○:脆性破壊温度が-25℃超、-20℃以下の範囲内の値である。
△:脆性破壊温度が-20℃超、-15℃以下の範囲内の値である。
×:脆性破壊温度が-15℃超の高温である。
【0068】
(6)機械的物性評価(評価6)
JIS K 6732:2006に準じて、得られた難燃性シートから3号ダンベルを作成して測定サンプルとし、測定サンプルの引張切断強さを測定し、下記基準に沿って評価した。
なお、吸熱性無機化合物を配合しない難燃性シートをリファレンス(引張切断強さを100%)とし、測定サンプルの場合、リファレンスから、どの程度引張切断強さが低下したかで評価した。
◎:引張切断強さの低下が1%未満の値である。
○:引張切断強さの低下が1%以上、3%未満の範囲内の値である。
△:引張切断強さの低下が3%以上、5%未満の範囲内の値である。
×:引張切断強さの低下が5%以上の値である。
【0069】
[実施例2]
実施例2は、表1に示すように、吸熱性無機化合物として、ハイドロタルサイト(表1中、C2-2と略記)の配合量を5重量部とした以外は、実施例1と同様に難燃性シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0070】
[実施例3]
実施例3は、表1に示すように、吸熱性無機化合物として、ホウ酸亜鉛(表1中、C2-3と略記)の配合量を5重量部とした以外は、実施例1と同様に難燃性シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0071】
[実施例4]
実施例4は、表1に示すように、吸熱性無機化合物として、水酸化マグネシウム(C2-1と略記)の配合量を2.5重量部及びハイドロタルサイト(C2-2と略記)の配合量を2.5重量部とした以外は、実施例1と同様に難燃性シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0072】
[実施例5]
実施例5は、表1に示すように、吸熱性無機化合物として、水酸化マグネシウム(C2-1と略記)の配合量を2.5重量部及び水酸化アルミニウム(C2-4と略記)を2.5重量部とした以外は、実施例1と同様に難燃性シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0073】
[実施例6]
実施例6は、表1に示すように、吸熱性無機化合物として、水酸化マグネシウム(C2-1と略記)の配合量を15重量部とした以外は、実施例1と同様に難燃性シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0074】
[実施例7]
実施例7は、表1に示すように、可塑剤として、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤(DOS)の配合量を37重量部とし、(C1)リン酸エステル化合物(TCP)の配合量を8重量部とした以外は、実施例1と同様に難燃性シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0075】
[実施例8]
実施例8は、表1に示すように、可塑剤として、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤(BXA-N)の配合量を37重量部とし、(C1)リン酸エステル化合物(TCP)の配合量を12重量部とし、かつ、難燃剤として、水酸化マグネシウム(C2-1と略記)の配合量を2.5重量部及び水酸化アルミニウム(C2-4と略記)の配合量を2.5重量部とした以外は、実施例1と同様に難燃性シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0076】
[比較例1]
比較例1では、表1に示すように、リン酸エステルの配合量を過度に多くし、20重量部とした以外は、実施例1と同様に難燃性シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0077】
[比較例2]
比較例2では、表1に示すように、リン酸エステルの配合量を0重量部、すなわち全く配合しなかった以外は、実施例1と同様に難燃性シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0078】
[比較例3]
比較例3では、表1に示すように、吸熱性無機化合物の配合量を0重量部、すなわち全く配合しなかったほかは、実施例1と同様に難燃性シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0079】
[比較例4]
比較例4では、表1に示すように、可塑剤として、芳香族二塩基酸エステル系可塑剤であるDOPを37重量部とし、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤を全く配合しなかったほかは、実施例1と同様に難燃性シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0080】
[比較例5]
比較例5では、表1に示すように、吸熱性無機化合物(C2-1)を過度に配合し、その配合量を50重量部としたほかは、実施例1と同様に難燃性シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0081】
[比較例6]
比較例6では、表1に示すように、可塑剤として、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤(DOP)の配合量を30重量部、リン酸エステル化合物(TCP)の配合量を20重量部とし、かつ、吸熱性無機化合物としてのハイドロタルサイト(C2-2と略記)の配合量を1重量部とした以外は、実施例1と同様に難燃性シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0082】
[比較例7]
比較例7では、表1に示すように、可塑剤を全く配合せず、リン酸エステル化合物(TCP)の配合量を50重量部とし、かつ、吸熱性無機化合物としてのハイドロタルサイト(C2-2と略記)の配合量を5重量部とした以外は、実施例1と同様に難燃性シートを製造し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上、詳述したように、本発明の難燃性樹脂組成物、及びそれに由来した難燃性シートによれば、(A)塩化ビニル樹脂、(B)特定可塑剤、及び(C)特定難燃剤の組み合わせを含み、かつ、配合成分を所定範囲量とすることによって、良好な環境特性を発揮し、かつ、優れた難燃性や耐寒性等を発揮する難燃性シート等が得られるようになった。
【0086】
又、難燃性シートにおいて、基布としてのフラットヤーンを事実上、省略することができることから、可視光透過率に優れ(例えば、90%以上)、さらには、ヘーズ値が小さい(例えば、20%以下)、透明性に優れた難燃性シートを提供することができる。
従って、基布としてのフラットヤーンを含む不透明な難燃性シートと比較して、透明性に優れた難燃性シートであれば、基材等の所定位置に、正確に配置することができる。
又、透明性に優れた難燃性シートであれば、背面側における基材に記載された情報(装飾、文字、図形、記号)や、その他の情報を目視確認することもできる。
【0087】
その上、基布としてのフラットヤーンを事実上省略した難燃性シートであれば、フラットヤーンを分別回収する必要がなくなって、後処理が極めて、短時間かつ容易であって、経済的に優れた難燃性シートとなる。
【0088】
従って、本発明の難燃性シートは、難燃性等に優れたブラスト工法用シート、建築工事用の防炎シート、工場内における間仕切り、カーテン及びシャッター、塗装ブース用シート、太陽光や雨よけ用のオーニングやテント等に、幅広く適用されることが期待される。
【符号の説明】
【0089】
20:基材
30:ブラスト工法用シート
31:第1ブラスト工法用シート
32:第2ブラスト工法用シート
40:タッカー
50:ブラスト装置
51:噴射ノズル
52:ブラスト材
53:カバー
57:ノズルヘッド
58:ブラストホース
59:吸引ホース
60:電磁弁
61:サイクロン付き回収タンク
64:ブラスト材タンク
65:排用機
100:作業室構造体
112:パイプ
200:橋梁
202:被塗装面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7