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特許7258778感染によるものではない刺激の治療のための点眼剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】感染によるものではない刺激の治療のための点眼剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/047 20060101AFI20230410BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230410BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230410BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230410BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20230410BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
A61K31/047
A61P27/02
A61K47/36
A61K47/32
A61K49/00
A61K9/08
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019568840
(86)(22)【出願日】2018-02-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 IL2018050184
(87)【国際公開番号】W WO2018163151
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】62/467,139
(32)【優先日】2017-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513278264
【氏名又は名称】レスデブコ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディクスタイン、シャブタイ
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/077433(WO,A1)
【文献】特開平09-301866(JP,A)
【文献】米国特許第05106615(US,A)
【文献】特表2015-507010(JP,A)
【文献】PLOS ONE,2015年,Vol.10, No.7,e0132656
【文献】Ophtalmologie,1996年,Vol.10,pp.24-27
【文献】Journal of Ocular Pharmacology and Therapeutics,1998年,Vol.14, No.6,pp.497-504
【文献】アレルギー,2002年,Vol.52, No.6,pp.518-521
【文献】Seminars in Arthritis and Rheumatism,2015年,Vol.45, No.3,pp.321-327
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェーグレン症候群に起因する結膜又は角膜上皮細胞への刺激又は損傷の治療に使用するための眼科用製剤であって、前記眼科用製剤はグリセロールの水溶液を含み、前記眼科用製剤が、
1.1%~4%(w/v)のグリセロール及び0.015%(w/v)のヒアルロン酸を含み、6.7~7.7のpHを有する水溶液、及び
2.5%(w/v)のグリセロール、及び0.05%のカルボマー981を含み、7.2のpHに緩衝された水溶液
からなる群から選択される、上記シェーグレン症候群に起因する結膜又は角膜上皮細胞への刺激又は損傷の治療に使用するための眼科用製剤。
【請求項2】
前記眼科用製剤が、重症のシェーグレン症候群に起因する結膜又は角膜上皮細胞への刺激又は損傷の治療に使用するためのものである、請求項1に記載の眼科用製剤。
【請求項3】
前記シェーグレン症候群がSchirmer(シルマー)の試験測定の値により特徴づけられる涙産生のレベルにより特徴づけられ、
前記治療が、
ローズベンガル染色及びリサミングリーン染色からなる群から選択される方法により細胞の失活のレベルを決定すること、及び
Schirmer(シルマー)の試験測定の値に統計的に有意な変化なく、リサミングリーン又はローズベンガル染色によって測定される角膜上皮細胞に対する刺激の重症度の統計的に有意な減少が観察されるまで、前記眼科用製剤を所定の間隔で罹患した眼に適用することを含む、
請求項1に記載の眼科用製剤。
【請求項4】
前記水溶液が本質的に等張である、請求項1に記載の眼科用製剤。
【請求項5】
前記水溶液が0.1%w/v未満の無機塩濃度を特徴とする、請求項1に記載の眼科用製剤。
【請求項6】
前記水溶液が少なくとも10,000ダルトンの分子量の少なくとも1つのポリマーを含む、請求項1に記載の眼科用製剤。
【請求項7】
前記製剤が、2.5%(w/v)のグリセロール、0.015%(w/v)のヒアルロン酸ナトリウム、及び0.015%のカルボマー981を含み、のpHに調整された水溶液を含む、請求項1に記載の眼科用製剤。
【請求項8】
前記製剤が、2.5%(w/v)のグリセロール、0.015%(w/v)のヒアルロン酸ナトリウム、及び0.015%のカルボマー981からなり、のpHに調整された水溶液からなる、請求項1に記載の眼科用製剤。
【請求項9】
前記製剤が、2.5%(w/v)のグリセロール、及び0.05%のカルボマー981からなり、7.2のpHに緩衝された水溶液からなる、請求項1に記載の眼科用製剤。
【請求項10】
前記水溶液が、少なくとも1つの薬理学的に活性な薬剤の薬学的に有効な量を含む、請求項1に記載の眼科用製剤。
【請求項11】
前記水溶液が、安定剤、保存剤、抗酸化剤及び緩衝剤からなる群から選択される少なくとも1つの物質を含む、請求項1に記載の眼科用製剤。
【請求項12】
シェーグレン症候群に起因する角膜又は結膜上皮細胞への損傷の治療のための組成物の調製における、
1.1%~4%(w/v)のグリセロール及び0.015%(w/v)のヒアルロン酸を含む水溶液、及び
2.5%(w/v)のグリセロール、及び0.05%のカルボマー981を含み、7.2のpHに緩衝された水溶液
からなる群から選択される水溶液の使用。
【請求項13】
重症のシェーグレン症候群に起因する角膜又は結膜上皮細胞への損傷の治療のための組成物の調製のための、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記シェーグレン症候群がSchirmer(シルマー)の試験測定の値により特徴づけられる涙産生のレベルにより特徴づけられ、前記治療が
ローズベンガル染色及びリサミングリーン染色からなる群から選択される方法により細胞の失活のレベルを決定すること、及び
Schirmer(シルマー)の試験測定の値に統計的に有意な変化なく、リサミングリーン又はローズベンガル染色によって測定される角膜上皮細胞に対する刺激の重症度の統計的に有意な減少が観察されるまで、前記眼科用製剤を所定の間隔で罹患した眼に適用することを含む、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
前記水溶液が本質的に等張である、請求項12に記載の使用。
【請求項16】
前記水溶液が、2.5%(w/v)のグリセロール、0.015%(w/v)のヒアルロン酸ナトリウム、及び0.015%のカルボマー981を含み、のpHに調整された水溶液を含む、請求項12に記載の使用。
【請求項17】
前記水溶液が、2.5%(w/v)のグリセロール、0.015%(w/v)のヒアルロン酸ナトリウム、及び0.015%のカルボマー981からなり、のpHに調整された水溶液からなる、請求項12に記載の使用。
【請求項18】
前記水溶液が、2.5%(w/v)のグリセロール、及び0.05%のカルボマー981からなり、7.2のpHに緩衝された水溶液からなる、請求項12に記載の使用。
【請求項19】
前記水溶液が、少なくとも1つの薬理学的に活性な薬剤の薬学的に有効な量を含む、請求項12に記載の使用。
【請求項20】
前記水溶液が、安定剤、保存剤、抗酸化剤及び緩衝剤からなる群から選択される物質を含む、請求項12に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は一般に角膜又は結膜上皮組織に対する刺激の治療及び除去のための手段及び方法に関する。特に、本発明は、失活した角膜又は結膜上皮細胞を処置するための、グリセロールの水溶液を含む点眼剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
角膜又は結膜上皮細胞損傷は、ドライアイ疾患などの多くの角膜疾患;瞬きの不十分な率によって引き起こされる職業性ドライアイ;例えばシェーグレン症候群において見出されるような涙産生の欠如;マイボーム油欠乏;薬物又は保存剤によって誘導される細胞損傷;コンタクトレンズ着用などの因子によって誘導される機械的細胞損傷;及び眼表面疾患において生じる。
【0003】
当技術分野で知られている角膜又は結膜上皮細胞損傷の治療は厳密に緩和的である傾向があり、一般に、損傷した細胞を治癒することによって状態を治療するのではなく、状態の症状の重症度を軽減することを目的とする。例えば、シェーグレン症候群は通常、水分補充療法の使用によって、例えば、限られた有効性しか有さない人工涙液の適用によって、又は免疫系に影響を及ぼす薬物によって治療され、これは、慢性的治療の間に、症例の20%までにおいて副作用を導く。
【0004】
米国特許第5106615号はドライアイ症候群の治療に有用な保湿点眼剤を開示しており、この文献は参照することにより全体が本明細書に取り込まれる。点眼剤は自然の涙の挙動を模倣する非ニュートンレオロジー特性を有し、ほぼ等張濃度の低分子量保湿剤ポリオールの水溶液、500,000~4,000,000の分子量を有するアニオンポリマー、及び1.5mM未満の無機塩を含む。
【0005】
米国特許第8912166号(以下、’166号)は、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれ、結膜ひだの疾患である結膜口蓋症を治療するための眼科用製剤及び方法を開示する。製剤は、ヒト血液の正常成分であるグリセロールの水溶液を含む。当技術分野で知られている人工涙液とは対照的に、’166号に開示されている製剤は、眼瞼平行結膜ひだ(LIPCOF)スケールによって測定される状態の重症度の統計的に有意な減少を提供する。
【0006】
これらの進歩にもかかわらず、単に症状を緩和するのではなく、損傷細胞を治癒する角膜刺激を治療するための組成物及び方法は長い間要望されてきたが、いまだ満たされていない必要性として残っている。
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
本発明は、細胞刺激が感染以外の原因による、刺激された角膜又は結膜上皮細胞の治療方法を提供する。角膜及び上皮細胞の刺激は、これらの細胞の損傷をもたらす。本明細書に開示される治療方法は最小限で、このような細胞損傷の重症度を軽減し、典型的には完全に治療する。刺激の治療は、損傷組織の治癒をもたらす。この方法は、刺激を治療するための唯一の活性成分としてグリセロールを含有する点眼剤の適用を含む。本発明はまた、このような状態を治療するための眼科用組成物、及びその治療におけるこの組成物の使用を開示する。
【0008】
したがって、本発明の目的は眼の上皮細胞の刺激の治療又は予防を含む治療におけるグリセロールの水溶液を含む眼科用製剤の使用を開示することであり、前記水溶液は少なくとも1%(w/v)のグリセロールを含み、前記方法は、患眼に前記眼科用製剤を罹患した眼に適用することを含む。
【0009】
本発明のさらなる目的は、角膜上皮細胞の刺激の治療におけるそのような使用を開示することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、角膜上皮細胞の刺激の予防のための治療におけるそのような使用を開示することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、結膜上皮細胞の刺激の治療におけるそのような使用を開示することであり、ここで、前記方法は、前記眼科用製剤を罹患した眼に適用することを含む。
【0012】
本発明のさらなる目的は、結膜上皮細胞に対する刺激を予防するための治療におけるそのような使用を開示することであり、ここで、前記方法は、前記眼科用製剤を罹患した眼に適用することを含む。
【0013】
本発明のさらなる目的は、前記刺激が感染によるものではない、上記のいずれかに定義される使用を開示することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、上記のいずれかに定義される使用を開示することであり、前記治療は、シェーグレン症候群、マイボーム油欠乏症、薬物誘発性細胞刺激、保存剤誘発性細胞刺激、コンタクトレンズ装着によって誘発される機械的細胞刺激、及び眼表面疾患からなる群から選択される原因から生じる細胞刺激の治療である。
【0015】
本発明のさらなる目的は、前記方法がローズベンガル染色を使用することによって細胞の失活のレベルを決定することを含む、上記のいずれかに定義される使用を開示することである。
【0016】
本発明のさらなる目的は、前記方法がリサミングリーン染色を使用することによって細胞の失活のレベルを決定することを含む、上記のいずれかに定義される使用を開示することである。
【0017】
本発明のさらなる目的は、前記水溶液が1.1%~4%(w/v)のグリセロール濃度を特徴とする、上記のいずれかに定義される使用を開示することである。
【0018】
本発明のさらなる目的は、前記水溶液が本質的に等張である、上記のいずれかに定義される使用を開示することである。
【0019】
本発明のさらなる目的は、前記水溶液が6.7~7.7のpHを有する、上記のいずれかに定義される使用を開示することである。
【0020】
本発明のさらなる目的は、前記水溶液が0.1%w/v未満の無機塩濃度を特徴とする、上記のいずれかに定義される使用を開示することである。
【0021】
本発明のさらなる目的は、前記水溶液が少なくとも10,000ダルトンの分子量の少なくとも1つのポリマーを含む、上記のいずれかに定義される使用を開示することである。本発明のいくつかの好ましい実施形態では、前記ポリマーの濃度が前記溶液を所定の粘度にするように選択される。本発明のいくつかの特に好ましい実施形態では、前記粘度は5~125mPa・sである。本発明のいくつかの実施形態では、前記少なくとも1つのポリマーはアニオン性である。前記少なくとも1つのポリマーがアニオン性である本発明のいくつかの好ましい実施形態では、前記溶液がヒアルロネート、カルボマー、並びにそれらの組み合わせ及び混合物からなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含む。
【0022】
本発明のさらなる目的は、前記水溶液が薬学的に有効な量の少なくとも1つの薬理学的に活性な薬剤を含む、上記のいずれかに定義される使用を開示することである。
【0023】
本発明のさらなる目的は、前記水溶液が安定剤、保存剤、酸化防止剤、及び緩衝剤からなる群から選択される少なくとも1つの物質を含む、上記のいずれかに定義される使用を開示することである。
【0024】
本発明のさらなる目的は、前記治療が前記眼科用製剤を1日3~8回適用することを含む、上記のいずれかに定義される使用を開示することである。
【0025】
本発明のさらなる目的は、前記治療がリサミングリーン染色によって測定される角膜上皮細胞に対する刺激の重症度の統計的に有意な減少が観察されるまで、前記眼科用製剤を適用することを含む、上記のいずれかに定義される使用を開示することである。本発明のいくつかの実施形態では、前記治療が前記眼科用製剤を1日3~8回、3ヶ月を超えない期間適用することを含む。本発明のいくつかの実施形態では、前記治療が前記眼科用製剤を1日3~8回、1ヶ月を超えない期間適用することを含む。
【0026】
本発明のさらなる目的は、前記治療が治療過程の完了後に所定の間隔で前記眼科用製剤を予防的に適用することを含み、それによって、前記治療過程の前に、前記刺激がその重症度と比較して有意に減少したままである状態を維持する、上記のいずれかに定義される使用を開示することである。本発明の好ましい実施形態では、前記治療が治療過程の後、前記眼科用製剤を毎日予防的に適用することを含む。
【0027】
本発明のさらなる目的は、角膜上皮細胞の刺激を治療するための方法であって、グリセロールの水溶液を含む眼科用製剤を罹患した眼に適用することを含む方法を開示することである。
【0028】
本発明のさらなる目的は、角膜上皮細胞の刺激を予防するための方法であって、グリセロールの水溶液を罹患した眼に適用することを含む方法を開示することである。
【0029】
本発明のさらなる目的は、結膜上皮細胞の刺激を治療するための方法であって、グリセロールの水溶液を含む眼科用製剤を罹患した眼に適用することを含む方法を開示することである。
【0030】
本発明のさらなる目的は、結膜上皮細胞の刺激を予防するための方法であって、グリセロールの水溶液を罹患した眼に適用することを含む方法を開示することである。
【0031】
本発明のさらなる目的は、前記刺激が感染によるものではない、上記のいずれかに定義される方法を開示することである。
【0032】
本発明のさらなる目的は、シェーグレン症候群、マイボーム油欠乏症、薬物誘発性細胞刺激、保存剤誘発性細胞刺激、コンタクトレンズ装着によって誘発される機械的細胞損傷による刺激、及び眼表面疾患からなる群から選択される原因から生じる細胞刺激を治療することを含む、上記のいずれかに定義される方法を開示することである。
【0033】
本発明のさらなる目的は、ローズベンガル染色を使用して、刺激による細胞の失活のレベルを決定することを含む、上記のいずれかに定義される方法を開示することである。
【0034】
本発明のさらなる目的は、リサミングリーン染色を使用して、刺激による細胞の失活のレベルを決定することを含む、上記のいずれかに定義される方法を開示することである。
【0035】
本発明のさらなる目的は、グリセロールの水溶液を適用する前記工程が1%~4%(w/v)のグリセロール濃度を特徴とするグリセロールの水溶液を適用することを含む、上記のいずれかに定義される方法を開示することである。
【0036】
本発明のさらなる目的は、グリセロールの水溶液を適用する前記工程がグリセロールの本質的に等張の水溶液を適用することを含む、上記のいずれかに定義される方法を開示することである。
【0037】
本発明のさらなる目的は、グリセロールの水溶液を適用する前記工程が6.7~7.7のpHを特徴とするグリセロールの水溶液を適用することを含む、上記のいずれかに定義される方法を開示することである。
【0038】
本発明のさらなる目的は、グリセロールの水溶液を適用する前記工程が0.1%w/v未満の無機塩濃度を特徴とするグリセロールの水溶液を適用することを含む、上記のいずれかに定義される方法を開示することである。
【0039】
本発明のさらなる目的は、グリセロールの水溶液を適用する前記工程が少なくとも10,000ダルトンの分子量の少なくとも1つのポリマーを含むグリセロールの水溶液を適用することを含む、上記のいずれかに定義される方法を開示することである。該方法のいくつかの好ましい実施形態において、該ポリマーの濃度は、該溶液を5~125mPa・sの粘度にするように選択される。本方法のいくつかの好ましい実施形態では、前記少なくとも1つのポリマーはアニオン性である。前記ポリマーがアニオン性である方法のいくつかの好ましい実施形態では、前記少なくとも1つのポリマーはヒアルロネートである。前記ポリマーがアニオン性である方法のいくつかの好ましい実施形態では、前記少なくとも1つのポリマーはカルボマーである。前記少なくとも1つのポリマーがアニオン性である方法のいくつかの好ましい実施形態では、前記溶液がヒアルロネート、カルボマー、ならびにそれらの組み合わせ及び混合物からなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含む。
【0040】
本発明のさらなる目的は、グリセロールの水溶液を適用する前記工程が薬学的に有効な量の薬理学的に活性な薬剤を含むグリセロールの水溶液を適用することを含む、上記のいずれかに定義される方法を開示することである。
【0041】
本発明のさらなる目的は、グリセロールの水溶液を適用する前記工程が安定剤、保存剤、酸化防止剤、及び緩衝剤からなる群から選択される物質を含むグリセロールの水溶液を適用することを含む、上記のいずれかに定義される方法を開示することである。
【0042】
本発明のさらなる目的は、方法が前記眼科用製剤を1日3~8回適用することを含む、上記のいずれかに定義される方法を開示することである。
【0043】
本発明のさらなる目的は、リサミングリーン染色によって測定される角膜上皮細胞に対する刺激の重症度の統計的に有意な減少が観察されるまで、前記眼科用製剤を適用することを含む、上記のいずれかに定義される方法を開示することである。
【0044】
本発明のさらなる目的は、前記方法が前記眼科用製剤を1日3~8回、3ヶ月を超えない期間適用することを含む、上記のいずれかに定義される方法を開示することである。本発明のいくつかの好ましい実施形態では、前記方法が1ヶ月を超えない期間、1日3~8回、前記眼科用製剤を適用することを含む。
【0045】
本発明のさらなる目的は、治療過程の完了後に前記眼科用製剤を予防的に適用することを含み、それによって、前記治療過程の前に、前記刺激がその重症度と比較して有意に減少したままである状態を維持する、上記のいずれかに定義される方法を開示することである。本方法の好ましい態様において、前記眼科用製剤を予防的に適用する前記工程は、前記眼科用製剤を毎日適用することを含む。
【0046】
本発明のさらなる目的は、少なくとも1%(w/v)のグリセロールを含み、眼の上皮細胞の刺激の治療又は予防に有効な治療である、グリセロールの水溶液を含む眼科用製剤を開示することである。
【0047】
本発明のさらなる目的は、グリセロールの水溶液を含む眼科用製剤であって、前記眼科用製剤が結膜上皮細胞の刺激の予防又は治療に有効な治療剤である、眼科用製剤を開示することである。
【0048】
本発明のさらなる目的は、前記眼科用製剤がローズベンガル染色及びリサミングリーン染色からなる群から選択される方法によって測定される、角膜細胞又は結膜細胞に対する刺激の予防又は除去のための有効な治療である、上記のいずれかに定義される眼科用製剤を開示することである。
【0049】
本発明のさらなる目的は、眼科用製剤が1%~4%(w/v)のグリセロール濃度を特徴とする、上記のいずれかに定義される眼科用製剤を開示することである。
【0050】
本発明のさらなる目的は、前記溶液が本質的に等張である、上記のいずれかに定義される眼科用製剤を開示することである。
【0051】
本発明のさらなる目的は、前記溶液が6.7~7.7のpHを有する、上記のいずれかに定義される眼科用製剤を開示することである。
【0052】
本発明のさらなる目的は、前記溶液が0.1%未満の無機塩濃度を特徴とする、上記のいずれかに定義される眼科用製剤を開示することである。
【0053】
本発明のさらなる目的は、少なくとも10,000ダルトンの分子量の少なくとも1つのポリマーを含む、上記のいずれかに定義される眼科用製剤を開示することである。本発明のいくつかの好ましい実施形態では、前記少なくとも1つのポリマーの濃度が前記溶液を所定の粘度にするように選択される。本発明のいくつかの特に好ましい実施形態では、前記所定の粘度が5~125mPa・sである。本発明のいくつかの好ましい実施形態では、前記少なくとも1つのポリマーはアニオン性である。前記少なくとも1つのポリマーがアニオン性である本発明のいくつかの好ましい実施形態では、前記溶液がヒアルロネート、カルボマー、ならびにそれらの組み合わせ及び混合物からなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含む。
【0054】
本発明のさらなる目的は、薬学的に有効な量の少なくとも1つの薬理学的に活性な薬剤を含む、上記のいずれかに定義される眼科用製剤を開示することである。
【0055】
本発明のさらなる目的は、安定剤、保存剤、酸化防止剤及び緩衝剤からなる群から選択される物質を含む、上記のいずれかに定義される眼科用製剤を開示することである。
【0056】
本発明のさらなる目的は、上記のいずれかに定義される眼科用製剤の、上記のいずれかに定義される方法における使用を開示することである。
【0057】
本発明のさらなる目的は、眼の上皮細胞の刺激の治療又は予防のための組成物の調製における、少なくとも1%のグリセロール(w/v)を含む水溶液の使用を開示することである。本発明のいくつかの好ましい実施形態において、前記治療は、角膜上皮細胞の刺激の治療;角膜上皮細胞の刺激の予防;結膜上皮細胞の刺激の治療;及び結膜上皮細胞の刺激の予防からなる群から選択される。本発明のいくつかの好ましい実施形態において、前記眼科用製剤は、ローズベンガル染色及びリサミングリーン染色からなる群から選択される方法によって測定される、角膜細胞又は結膜細胞に対する刺激の予防又は除去のための有効な治療である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
好適な実施形態の詳細な説明
以下の説明では、本発明の様々な態様を説明する。説明の目的のために、本発明の完全な理解を提供するために、特定の詳細が記載される。当業者には、本発明の本質的な性質に影響を及ぼすことなく、細部が異なる本発明の他の実施形態が存在することが明らかであろう。
【0059】
本発明者らは驚くべきことに、グリセロールが、角膜上皮細胞の刺激、結膜上皮細胞の刺激、したがって、これらの状態が感染以外の因子によって引き起こされる場合の角膜又は結膜細胞への損傷の治療に有効な物質であることを発見した。罹患した眼へのグリセロールの局所適用(例えば、水溶液中)は、角膜又は結膜の刺激を減少させるか、又は完全に除去さえする。
【0060】
本発明は、角膜又は結膜上皮細胞に対する刺激を治療又は予防するための、グリセロール水溶液を含む眼科用製剤である。本発明の典型的な実施形態では、溶液が1.1%~4%のグリセロール(w/v)を含む。本発明のいくつかの好ましい実施形態では、溶液は2.5%グリセロール(w/v)を含む。本発明の好ましい実施形態では、溶液は等張である。
【0061】
本発明の好ましい実施形態では、組成物が無機塩の濃度が2mM未満であるグリセロール水溶液を含む。本発明の好ましい実施形態では、溶液の粘度が溶液を所望の粘度にするのに充分な量の高分子量ポリマー(MW>10ダルトン)、例えばヒアルロネート、カルボマー又はそれらの混合物を加えることによって制御される。全ての成分は、点眼剤に使用するのに十分な純度のものである。
【0062】
次に、溶液を、点眼剤として投薬するのに適した容器に移すことができる。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態では、組成物中に存在する唯一の活性成分はグリセロールであるが、組成物はさらに、薬学的に有効な濃度の少なくとも1つの薬理学的に活性な薬剤を含み得る。必要であれば、薬理学的に活性な薬剤との使用に適切な任意の安定剤、保存剤、酸化防止剤、緩衝剤又はそれらの組み合わせを、点眼剤における使用に適切な任意の濃度で溶液に添加してもよい。
【0064】
角膜又は結膜上皮組織の刺激及び角膜又は結膜上皮組織に対する刺激、特に感染以外の原因による損傷の、非外科的治療又は予防における点眼剤の使用、ならびに角膜又は結膜上皮組織の刺激、したがって角膜又は結膜上皮組織への損傷、特に感染以外の原因による損傷の非外科的治療又は予防の方法を開示することは、本発明の範囲内である。本明細書中に開示される点眼剤組成物によって治療され得る状態の非限定的な例としては、シェーグレン症候群、マイボーム油欠乏症、薬物又は保存剤誘導刺激、コンタクトレンズ着用によって誘導される細胞損傷などの機械的細胞損傷による刺激、及び眼表面疾患が挙げられる。
【0065】
角膜及び/又は結膜上皮細胞損傷を治療又は軽減するために本明細書に開示される点眼剤を使用するための典型的なプロトコルは、状態の重症度が許容可能なレベルに低下するまで、1日3~8回、罹患した眼に点眼剤を配置することである。特に重篤な場合にはより頻繁な適用が必要であり得、そしてそれほど重篤でない場合には1日1回又は2回の処置で十分であり得る。治療の進行は上皮細胞の状態を追跡するために、リサミングリーン染色又はローズベンガル染色などの技術の使用によって測定することができる。治療のいくつかの好ましい実施形態において、本明細書に開示される組成物の適用は3ヶ月以下の間行われ、その時間までに、角膜又は結膜上皮細胞の状態の統計的に有意な改善が観察される。治療のいくつかの好ましい実施形態において、本明細書に開示される組成物の適用は1ヶ月以下の間に実施され、その時点までに、角膜又は結膜上皮細胞の状態の統計的に有意な改善が観察される。
【0066】
状態の再発を防止するために、本明細書中に開示される組成物の予防的適用を方法内に含むことは、本発明の範囲内である。典型的には3ヶ月以下持続する治療処置の過程の後、点眼剤の予防的適用を含む維持療法が開始される。1日1~3回の点眼剤の適用は、通常、刺激の再発を防ぐのに十分である。
【0067】
当技術分野で公知の方法、特に、免疫系に影響を及ぼす薬物を使用する方法とは対照的に、本明細書中に開示される本発明が試験された治療プロトコールのいずれにおいても副作用は観察されなかった。特に、2.5%(w/v)ものグリセロールを含有する点眼剤の長期使用では、副作用は観察されなかった。
【0068】
本明細書に開示される眼科用組成物の調製及び使用の以下の実施例は、当業者が本発明を作製及び使用するのを補助することを意図し、いかなる形でも限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例
【0069】
実施例1:抗刺激点眼剤
以下を含む溶液を調製した:
【0070】
グリセロール 2.5g
【0071】
カルボマー981 0.05g
【0072】
水 100mlになるまで
【0073】
溶液をpH7.2に緩衝した。
【0074】
実施例2:抗刺激点眼剤
以下を含む溶液を調製した:
【0075】
グリセロール 2.5g
【0076】
ヒアルロン酸ナトリウム 0.015g
【0077】
カルボマー981 0.015g
【0078】
水 100mlになるまで
【0079】
溶液を約7のpHに調整した。
【0080】
実施例3 抗緑内障点眼剤
以下を含む溶液を調製した:
【0081】
グリセロール 2.5g
【0082】
ラタノプロスト 5mg
【0083】
カルボマー981 0.03g
【0084】
水 100mlになるまで
【0085】
溶液を6.8~7.6のpHに調整した。
適切な濃度の保存剤を任意に添加してもよい。
【0086】
実施例4
組成物を上記実施例2に記載のように調製し、シェーグレン症候群に罹患している21人の患者について試験した。試験の結果を表1に要約する。各欄の値は、括弧内に与えられた平均値の標準誤差を有する平均スコアである。オックスフォード等級(Oxford Grade)によって評価されたリサミングリーン染色はドライアイ症候群の重症度の尺度であり、OSDI(眼表面疾患インデックス)は、患者満足度の尺度である。治療の終わりに、患者の眼には測定可能な損傷がなかった。
【表1】
【0087】
これらの結果は、涙形成のレベルを測定するSchirmerの試験が試験の開始時に非常に低く(1.6±0.3mm)、処置の3ヶ月後に有意に変化しなかった(1.7±0.3mm)ので、驚くべきことであり、予想外のことである。すなわち、本明細書中に開示される方法に従って処置される患者において、本明細書中に開示される組成物を使用して、症状に特徴的な涙産生の重度の減少に起因するシェーグレン症候群の症状である眼刺激のレベルの客観的尺度は、涙産生が増加しなかったにもかかわらず、有意な減少を示した。この観察は、グリセロールの既知の物理化学的保湿効果によって説明することができない。
【0088】
実施例5
ヒト角膜上皮細胞に対する、特に、バリア遺伝子インボルクリン(Involucrin)、オクルジン(Occludin)、フィラグリン(Filaggrin)、及びカドへリン‐1(Cadherin‐1)の発現に対する、グリセロールを含有する溶液のインビトロでの効果を調べるために実験を行った。
【0089】
5%FBS及び10ng/mlヒト上皮成長因子(Invitrogen‐Gibco)を含むDMEM/F12中で培養した不死化ヒト角膜上皮細胞(HCEC細胞株)。細胞を、以下の3つの組成のうちの1つで3時間処理した:(a)グリセロールの水溶液(0.27%w/v);(b)20μg/mlポリイノシン:ポリシチジル酸(p(I:C)、炎症を誘導するためのTLR3のアクチベーター);及び(c)2つの以前の組成物の組み合わせ。
【0090】
バリア遺伝子の発現を、定量的「リアルタイム」PCR(Q‐PCR)の使用によってmRNAレベルで決定した。5’ヌクレアーゼアッセイを用いて、ABI Prism 7000配列検出システム(Applied Biosystems, Foster City,CA)でQ‐PCRを行った。TRIzol(Invitrogen)を用いて総RNAを単離し、3μgの総RNAを、15UのAMV逆転写酵素(Promega,Madison,WI,USA)及び0.025μg/μlのランダムプライマー(Promega)を用いてcDNAに逆転写した。PCR増幅は、TaqManプライマー及びプローブを用いて行った。内部対照として、シクロフィリンA(PPIA)の転写物を測定した。
【0091】
炎症誘発性チャレンジp(I:C)(20μg/ml)は、インボルクリン、オクルジン、フィラグリン、及びカドヘリン‐1の発現を著しく減少させた。しかし、最も重要なことに、p(I:C)チャレンジの間のヒト角膜上皮細胞とグリセロール(0.27%)との共インキュベーションは、TLR3アゴニストのバリア障害作用を有意に妨げた。
【0092】
これらの結果は、ヒト角膜上皮細胞に対するグリセロールの前分化、バリア修復、抗炎症及び保護効果を示す。理論に束縛されることを望むものではないが、この実験の結果は前の実施例に記載された治療プロトコルにおいて観察された驚くべき結果を説明するのに役立ち得る。