IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ MMIセミコンダクター株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-熱式フローセンサチップ 図1
  • 特許-熱式フローセンサチップ 図2
  • 特許-熱式フローセンサチップ 図3
  • 特許-熱式フローセンサチップ 図4
  • 特許-熱式フローセンサチップ 図5
  • 特許-熱式フローセンサチップ 図6
  • 特許-熱式フローセンサチップ 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】熱式フローセンサチップ
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/688 20060101AFI20230410BHJP
   G01P 5/10 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
G01F1/688
G01P5/10 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020028664
(22)【出願日】2020-02-21
(65)【公開番号】P2021135053
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】521515735
【氏名又は名称】MMIセミコンダクター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠井 隆
(72)【発明者】
【氏名】桃谷 幸志
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特許第3658321(JP,B2)
【文献】欧州特許第3404373(EP,B1)
【文献】特許第7112373(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/688
G01P 5/10
-----------------------------------
本件出願を優先基礎とする国際特許出願PCT/JP2020/047056
の調査結果が利用された。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板部と、前記基板部上に設けられる薄膜部と、前記薄膜部上に第1の方向に延びて設けられるヒータ部と、前記薄膜部上に前記ヒータ部を中心として対向して設けられる1対のサーモパイルと、を有しており、
前記ヒータ部は、シリコンに電気抵抗を低下させる不純物がドープされて形成されており、
前記サーモパイルは、それぞれが、シリコンに電気抵抗を低下させる不純物がドープされて形成されたシリコン領域を含み、前記ヒータ部に近い側に温接点が配置され前記ヒータ部から遠い側に冷接点が配置される熱電対が、前記第1の方向に複数配列されたものであり、
前記第1の方向に延びる前記ヒータ部の長手方向の中央を含むヒータ主要部の前記不純物の濃度が、前記ヒータ主要部以外の部分であって前記ヒータ部の前記長手方向の端部を含むヒータ外縁部の前記不純物の濃度よりも低く、かつ、
前記ヒータ主要部の前記不純物の濃度が、前記サーモパイルの前記シリコン領域の少なくとも一部における前記不純物の濃度と、同一である、
熱式フローセンサチップ。
【請求項2】
前記ヒータ主要部と前記ヒータ外縁部とでドープされている前記不純物は同種の不純物である、
ことを特徴とする、請求項1に記載の熱式フローセンサチップ。
【請求項3】
前記不純物は、リン、ヒ素、ボロン、のいずれかである、
ことを特徴とする、請求項2に記載の熱式フローセンサチップ。
【請求項4】
前記ヒータ主要部と前記ヒータ外縁部との境界は、
前記サーモパイルの前記第1の方向の端部から前記第1の方向と水平面上で直交する第2の方向に延在する直線と前記ヒータ部とが交わる位置を基準位置として、当該基準位置から所定の距離内に設けられる、
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の熱式フローセンサチップ。
【請求項5】
前記所定の距離は、前記ヒータ部から前記温接点までの平均距離と同じである、
ことを特徴とする、請求項4に記載の熱式フローセンサチップ。
【請求項6】
前記サーモパイルの前記シリコン領域は、
前記温接点又は前記冷接点を含むサーモパイル接点部と、前記サーモパイル接点部以外の部分であって前記温接点と前記冷接点の間の配線領域を含むサーモパイル配線部、とで前記不純物の濃度が異なっており、
前記ヒータ主要部の前記不純物の濃度が、前記サーモパイル接点部の前記不純物の濃度と同一である、
ことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の熱式フローセンサチップ。
【請求項7】
前記ヒータ外縁部の前記不純物の濃度が、前記サーモパイル配線部の前記不純物の濃度と同一である、
ことを特徴とする、請求項6に記載の熱式フローセンサチップ。
【請求項8】
前記サーモパイルの前記シリコン領域は、
前記温接点又は前記冷接点を含むサーモパイル接点部と、前記サーモパイル接点部以外の部分であって前記温接点と前記冷接点の間の配線領域を含むサーモパイル配線部、とで前記不純物の濃度が異なっており、
前記ヒータ主要部の前記不純物の濃度が、前記サーモパイル配線部の前記不純物の濃度と同一である、
ことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の熱式フローセンサチップ。
【請求項9】
前記ヒータ外縁部の前記不純物の濃度が、前記サーモパイル接点部の前記不純物の濃度と同一である、
ことを特徴とする、請求項8に記載の熱式フローセンサチップ。
【請求項10】
前記ヒータ外縁部の前記不純物の濃度は、前記ヒータ主要部の前記不純物の濃度の3倍以上である、
ことを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の熱式フローセンサチップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローセンサチップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリコン(Si)などの半導体基板上に薄膜部を設け、該薄膜部に不純物をドープすることによりヒータ及び感温素子を形成してなる熱式のフローセンサチップが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、半導体基板上に電気絶縁膜を介して発熱抵抗体及び測温抵抗体を形成して、発熱抵抗体及び測温抵抗体をドープ処理された半導体薄膜で構成し、発熱抵抗体の不純物濃度を測温抵抗体の不純物濃度より大きくし、更に、電気絶縁膜下面の空洞上の電気絶縁膜を半導体基板に所定の深さに不純物をドープ処理され空洞周辺部から突き出た梁状の支持部により支持補強することで、空気温度依存及び機械強度を改善した熱式空気流量センサを得ること、が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、基板上に形成されたヒータ線を具備し、該ヒータ線はピンポイント的発熱点を作るように抵抗値を部分的に大きくするための括れ部がその中間部に形成され、更に括れ部周辺の下部に位置する基板部分には熱絶縁用の空洞部が形成された熱式フローセンサが記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、ヒータ等の抵抗体と、該抵抗体と接続してこれに電流を供給する配線であるリード部とが形成される半導体膜のうち、少なくとも抵抗体を構成する領域を局所的に薄膜化した熱式フローセンサが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-83580号公報
【文献】特開平8-122118号公報
【文献】特開2004-233143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的にこの種のフローセンサチップにおいては、ヒータの外縁部などから周囲、基板等への放熱を抑止するために、ヒータが薄膜の中央部近傍において(高温で)発熱することが望ましい。このような構成であると、ヒータの末端を含むそれ以外の箇所(以下、薄膜外周部ともいう)から基板等への熱伝導が抑制されることで、同じ電力でもヒータの発熱温度を高くすることができるため、センサの高感度化、低消費電力化を図ることができる。
【0008】
ヒータが薄膜上の中央部近傍で発熱するためには、ヒータの薄膜部中央部近傍における箇所の抵抗を、薄膜外周部の抵抗よりも高くすればよい。そのための方法としては、例えば、特許文献2に記載されているように、ヒータの中央部における配線幅を薄膜外周部よりも相対的に細くすることで中央部近傍における抵抗を高くする方法が考えられる。また、特許文献3に記載されている抵抗体を構成する箇所を部分的に薄膜化する技術を、ヒータ中央部に対して実施することも考えられる。
【0009】
しかしながら、ヒータの中央部における配線幅を細くする場合には、その箇所のヒータ
の面積が小さくなることで、空気への放熱量が減少してしまい、センサの感度の低下につながる。また、細くした箇所における電流密度が濃くなるため、断線のリスクが高くなってしまう。また、薄膜外周部における配線幅を太くする必要があるため、その箇所からヒータの熱が基板に逃げやすく(伝導されやすく)なってしまう。また、そもそも線の幅を細くするのにも限界があり、抵抗の大幅な向上は期待できない。このことから、ヒータの中央部における配線幅を細くする方法では、発熱効率向上の効果はあまり大きくない。
【0010】
また、ヒータ中央部における薄膜の膜厚を薄くする方法では、例えば当該箇所を表面エッチングによって薄くするなどの手法が考えられるが、エッチング深さのバラツキに応じて、特性にバラツキが生じる懸念がある。また、追加のエッチング工程が必要となるため、製造コストが増加するという問題が生じる。
【0011】
本発明は、一側面では、このような実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、従来の問題点を克服しつつ、熱式フローセンサの高感度化、低消費電力化を実現する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0013】
本発明に係る熱式フローセンサチップは、
基板部と、前記基板部上に設けられる薄膜部と、前記薄膜部上に第1の方向に延びて設けられるヒータ部と、前記薄膜部上に前記ヒータ部を中心として対向して設けられる1対のサーモパイルと、を有しており、
前記ヒータ部は、シリコンに電気抵抗を低下させる不純物がドープされて形成されており、
前記サーモパイルは、それぞれが、シリコンに電気抵抗を低下させる不純物がドープされて形成されたシリコン領域を含み、前記ヒータ部に近い側に温接点が配置され前記ヒータ部から遠い側に冷接点が配置される熱電対が、前記第1の方向に複数配列されたものであり、
前記第1の方向に延びる前記ヒータ部の長手方向の中央を含むヒータ主要部の前記不純物の濃度が、前記ヒータ主要部以外の部分であって前記ヒータ部の前記長手方向の端部を含むヒータ外縁部の前記不純物の濃度よりも低く、かつ、
前記ヒータ主要部の前記不純物の濃度が、前記サーモパイルの前記シリコン領域の少なくとも一部における前記不純物の濃度と、同一である、ことを特徴とする。
【0014】
なお、ここでいうサーモパイルとは、いわゆるゼーベック効果を利用した測温センサである熱電対を複数接続したものである。上記構成のように、ヒータの中央部近傍を含む主要部の不純物の濃度が、ヒータ外縁部の不純物の濃度よりも低いことで、線幅、膜厚などを変更するのに比べて、ヒータ主要部の抵抗値を大きく向上することができる。また、薄膜外周部に位置するヒータの配線幅を太くする必要がないため、配線自身を通じた基板への熱伝導を軽減できる。
【0015】
そして、このように相対的に高抵抗となるヒータ主要部の前記不純物の濃度と、サーモパイルのシリコン領域の不純物の濃度が同一であることは、サーモパイルを構成するシリコンも相対的に高抵抗ということであり、サーモパイルのゼーベック係数が高くなることを意味する。ゼーベック係数は、熱電対の感度(温度に対する電圧の大きさ)を表す係数であり、ゼーベック係数が高くなることにより、サーモパイルの感度性能が向上する。なお、半導体プロセスにおいては、場所が離れていても、同じ濃度の部分は一括して形成することができるため、製造の工数が増えることがない。
【0016】
また、前記ヒータ主要部と前記ヒータ外縁部とでドープされている前記不純物は同種の不純物であってもよい。このような構成により、異なる不純物(材料)を用いる場合に生じる、信頼性低下、製造工程増加、耐久性劣化などの問題を克服することができる。
【0017】
また、前記不純物は、リン、ヒ素、ボロン、のいずれかであってもよい。
【0018】
また、前記ヒータ主要部と前記ヒータ外縁部との境界は、
前記サーモパイルの前記第1の方向の端部から前記第1の方向と水平面上で直交する第2の方向に延在する直線と前記ヒータ部とが交わる位置を基準位置として、当該基準位置から所定の距離内に設けられるものであってもよい。
【0019】
ここで、前記サーモパイルの前記第1の方向の端部とは、サーモパイルを構成する複数の熱電対のうち、最も外側にある熱電対の外側の端部と同義である。上記のような構成によると、サーモパイルとの位置関係に鑑みて好適な位置に、ヒータを高抵抗とする主要部を配置することができる。
【0020】
また、前記所定の距離は、前記ヒータ部から前記温接点までの平均距離と同じであってもよい。流体の流れがない状態においては、ヒータの発熱は等方的に伝播すると考えられるため、前記ヒータ主要部と前記ヒータ外縁部との境界をこのように定めることで、ヒータの発熱効率と、サーモパイルの出力とのバランスを踏まえて、効率の良い構成とすることができる。
【0021】
また、前記サーモパイルの前記シリコン領域は、
前記温接点又は前記冷接点を含むサーモパイル接点部と、前記サーモパイル接点部以外の部分であって前記温接点と前記冷接点の間の配線領域を含むサーモパイル配線部、とで前記不純物の濃度が異なっており、
前記ヒータ主要部の前記不純物の濃度が、前記サーモパイル接点部の前記不純物の濃度と同一であってもよい。また、前記ヒータ外縁部の前記不純物の濃度が、前記サーモパイル配線部の前記不純物の濃度と同一であってもよい。
【0022】
サーモパイルは温接点と冷接点との間の温度差を検出する素子であり、温度差が十分に確保できる長さのサーモパイルが必要とされるため、配線が長くなり、いわゆる寄生抵抗が高くなりやすい。寄生抵抗が高くなると、抵抗の熱雑音によるノイズ源となり感度性能の劣化につながる。この点、上記のような構成であると、サーモパイル配線部(シリコン配線)の抵抗が相対的に低くなるため、シリコン配線の寄生抵抗を抑制することができる。なお、このような構成とすることでサーモパイルのゼーベック係数は部分的には低下するが、温度差がつきにくい領域のシリコン配線の抵抗を選択的に低下させており、感度性能の低下を抑えたまま効率的にノイズを低減させることが可能になる。。
【0023】
一方、前記サーモパイルの前記シリコン領域は、
前記温接点又は前記冷接点を含むサーモパイル接点部と、前記サーモパイル接点部以外の部分であって前記温接点と前記冷接点の間の配線領域を含むサーモパイル配線部、とで前記不純物の濃度が異なっており、
前記ヒータ主要部の前記不純物の濃度が、前記サーモパイル配線部の前記不純物の濃度と同一であってもよい。また、前記ヒータ外縁部の前記不純物の濃度が、前記サーモパイル接点部の前記不純物の濃度と同一であってもよい。
【0024】
サーモパイルでは、1素子当たりのサイズを小さくして、サーモパイルを構成する熱電対の数を増やし、高感度化を図ることが一般的である。そして、サーモパイルの接点部は異種材料のコンタクト部分であるため、寄生抵抗が高くなりやすい。この点、上記のよう
な構成であると、サーモパイル接点部でオーミックコンタクトを形成し、コンタクトに起因する寄生抵抗を抑制することができる。即ち、感度性能を維持したままで、接点部の抵抗を下げることでノイズを低減することが可能になる。さらに、コンタクト抵抗を低く維持したまま配線部の不純物濃度を下げることで、オーミックコンタクトを確保しながら感度性能を向上させることができる。
【0025】
また、前記ヒータ外縁部の前記不純物の濃度は、前記ヒータ主要部の前記不純物の濃度の3倍以上であってもよい。ヒータ主要部とヒータ外縁部との不純物の濃度差が大きいほど抵抗値の差も大きくなるが、十分な抵抗値の差を生じさせるためには、このような構成であると好適である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、従来の問題点を克服しつつ、熱式フローセンサの高感度化、低消費電力化を実現する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、実施形態1に係るフローセンサチップの概要を模式的に示す図である。
図2図2は、実施形態1に係るフローセンサチップの断面を部分的に示す図である。
図3図3は、実施形態1に係るフローセンサチップ内のサーモパイルの構成を概略的に示す図である。
図4図4は、実施形態1に係るフローセンサチップ内のサーモパイルとヒータ部の位置関係を模式的に示す図である。
図5図5Aは、実施形態1に係るフローセンサチップの第1の変形例を示す図である。図5Bは、実施形態1に係るフローセンサチップの第2の変形例を示す図である。
図6図6は、実施形態2に係るフローセンサチップの概略を示す図である。
図7図7は、ヒータ部の形状が異なる変形例の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0029】
<実施形態1>
図1に、本発明の第1実施形態に係るフローセンサチップ1の平面図を示す。なお、以下では、図1における左右方向を第1方向、図1における上下方向を第2方向ともいう。また、図2は、図1のA-A断面の概略を示す図である。なお、図2は、温度センサ16を省略した図となっている。
【0030】
図1及び、図2に示すように、本実施形態に係るフローセンサチップ1は、上面に開口する空洞101を有する基板部10上に、薄膜状部11を設けたセンサチップである。薄膜状部11は、2つのサーモパイル13を備えている。本実施形態に係るフローセンサチップ1の各サーモパイル13は、複数の熱電対12を、図3に示したように接続したものである。また、各サーモパイル13は、各熱電対12の第1極121、第2極122の構成材料として、それぞれ、N型ポリシリコン(リンをイオン注入したシリコン)、Al(アルミニウム)を採用したものとなっている。
【0031】
薄膜状部11内の各サーモパイル13は、複数の熱電対12の温接点12hが、第1方向(図1における左右方向)に並ぶように形成されている。また、各サーモパイル13は、複数の冷接点12cが、空洞101ではない基板部10上に位置し、且つ、各サーモパイル13の複数の温接点12hが対向するように、形成されている。なお、図1の温度センサ16は、各サーモパイル13の冷接点12cの温度として使用される基準温度を測定するための抵抗温度センサである。
【0032】
薄膜状部11は、2つのサーモパイル13間に配置された、第1方向に延びたヒータ部15も備えている。ヒータ部15はヒータ部の長手方向の中央を含むヒータ主要部151と、前記ヒータ主要部以外の部分であって前記ヒータ部の前記長手方向の端部を含むヒータ外縁部152とによって構成されている。また、ヒータ部15への通電時に、それらの間に電圧が印加される2つの電極パッド17が基板10上に配置されている。
【0033】
薄膜状部11の空洞101上の領域内の、2つのサーモパイル13の図1における右方向の端よりも外側の領域には、2つの貫通孔20が設けられている。薄膜状部11の空洞101上の領域内の、2つのサーモパイル13の図1における左方向の端よりも外側の領域にも同様に、2つの貫通孔20が設けられている。これらの貫通孔20は、フローセンサチップ1の製造時には、エッチング液の基板部10側の導入口として機能し、フローセンサチップ1の使用時には、ヒータ部15からの熱の流出量を低減するための構成として機能するものである。
【0034】
ヒータ部15及び、サーモパイル13を構成する熱電対12の第1極121は、製造プロセスにおいて、シリコンに不純物をイオン注入することにより所定の導電性を付与したものであり、本実施形態におけるフローセンサチップ1では不純物としてリン(P)がイオン注入されている。以下、シリコンに対して不純物をイオン注入することを、ドープともいう。
【0035】
そして、ヒータ主要部151とヒータ外縁部152とではP濃度が異なっており、ヒータ外縁部152のP濃度がヒータ主要部151のP濃度よりも高くなっている。具体的には、例えば、ヒータ外縁部152のP濃度が3×1020(cm-3)であるのに対して、ヒータ主要部151のP濃度は6×1019(cm-3)である。これによって、ヒータ外縁部152のシリコンのシート抵抗が約14Ω/sqであるのに対して、ヒータ主要部151のシート抵抗は約30Ω/sqと高い抵抗を有する。
【0036】
また、熱電対12の第1極121のP濃度は、ヒータ主要部151のP濃度と同一の6×1019(cm-3)となっている。第1極121のP濃度がヒータ主要部151において抵抗を高めるために低下させたP濃度と同一であることは、サーモパイル13のゼーベック係数が高くなることを意味する。ゼーベック係数は、熱電対の感度(温度に対する電圧の大きさ)を表す係数であり、ゼーベック係数が高くなることで、サーモパイルの感度性能が向上するといえる。また、不純物濃度が同じであるということは、ヒータ主要部151と第1極121を同一の製造プロセスで成形することができることを意味する。
【0037】
次に、図4に基づいて、ヒータ部15におけるヒータ主要部151とヒータ外縁部152の境界の位置について説明する。図4はサーモパイル13と、ヒータ部15の位置関係を模式的に示す図である。図4中のWは、ヒータ部15とサーモパイル13の温接点12hとの間の平均距離を示している。図4に示す通り、ヒータ主要部151とヒータ外縁部152の境界は、サーモパイル13の第1方向の端部からWの距離内で、かつ、サーモパイル13の第1方向の端部よりも内側に位置している。
【0038】
上記のような配置関係により、ヒータ主要部151の熱がより基板側に伝わりにくくな
るため、電力効率を向上させることができる。ただし、サーモパイル13の第1方向の端部では相対的に温度が下がることになり、サーモパイル13からの出力は小さくなる。
【0039】
次に、フローセンサチップ1の製造工程例を説明する。フローセンサチップ1の製造時には、まず、基板部10となる単結晶シリコン基板(以下、単に基板とも表記する)の表面にシリコン酸化膜(SiO膜、図示せず)が形成される。次いで、SiO膜から、空洞101の開口となる部分が除去される。その後、基板10上に、ポリシリコンにより、空洞101の開口と同じ上面視形状を有する犠牲層(図示せず)が形成される。
【0040】
次いで、犠牲層が覆われるようにSiOが堆積される。その後、犠牲層を覆う厚さとなったSiO膜上に、シリコン窒化膜(SiN膜、図示せず)、SiO膜、N型ポリシリコン膜(図示せず)が、この順に形成される。なお、N型ポリシリコン膜を形成するとは、ポリシリコン膜を形成してから、ポリシリコン膜にPイオンを注入するということである。
【0041】
N型ポリシリコン膜のパターニングにより、各熱電対12の第1極121、ヒータ部15が形成されるが、ここで、ヒータ主要部151とヒータ外縁部152とでは、P濃度が異なるものとなるように、イオン注入が行われる。
【0042】
ヒータ部15等の形成後には、絶縁膜(図示せず)が形成されてから、絶縁膜の各所に接点開口部が形成される。次いで、Alにより、各熱電対12の第2極122、が形成される。
【0043】
第2極122等の形成後には、SiO膜、SiN膜が形成される。また、Au等により、電極パッド17を含む全電極パッド、金属配線が形成される。そして、貫通孔20が形成されてから、TMAH(Tetramethylammonium hydroxide)等のエッチング液により、犠牲層及び基板10の一部を除去することで空洞101が形成される。
【0044】
以上、説明したように、本実施形態に係るフローセンサチップ1は、ヒータ部15の中央を含むヒータ主要部151と、ヒータ部15の端部を含むヒータ外縁部152とによって構成されており、ヒータ主要部151の不純物濃度はヒータ外縁部152よりも低くなっている。これにより、ヒータ主要部151の線幅、膜厚などを変更するのに比べて、ヒータ主要部の抵抗値を大きく向上することができ、発熱のための消費電力を低減することができる。また、ヒータ外縁部152の抵抗は低くすることができるため、寄生抵抗などによる特性劣化を抑止でき、電極パッド17やその他の電極配線のコンタクト部分で、オーミックコンタクトを確保しやすくなる。さらに、薄膜外周部に位置するヒータ外縁部152の配線幅を太くする必要がないため、配線自身を通じた基板への熱伝導を軽減でき、無駄な電力の消費を抑止することができる。
【0045】
また、ヒータ主要部151とヒータ外縁部152は同種の不純物をドープしたシリコンであるため、異種材料を用いる、或いは、異種の不純物をドープすることに比べて、熱応力の影響を低減でき、耐久性、信頼性の向上を図ることができる。
【0046】
さらに、本実施形態に係るフローセンサチップ1は、サーモパイル13を構成する熱電対12の第1極121がPをドープしたシリコンで形成されており、そのP濃度はヒータ主要部151と同一である。このため、ヒータ主要部151と第1極121とを同一のプロセスで形成することができる。また、抵抗が高いシリコンではゼーベック係数が高くなる傾向があり、このことはサーモパイル13の温度検知性能の向上につながる。
【0047】
<変形例>
なお、上記実施形態1において、ヒータ主要部151とヒータ外縁部152の境界位置は、サーモパイル13の第1方向の端部よりも内側に位置していたが、この位置は自由に設定可能である。図5A図5Bに、ヒータ主要部151とヒータ外縁部152のその他の境界の配置例を示す。
【0048】
図5Aに示す変形例では、ヒータ主要部151とヒータ外縁部152の境界の位置は、サーモパイル13の第1方向の端部からWの距離内で、かつ、サーモパイル13の第1方向の端部よりも外側に位置している。このような配置であると、サーモパイル13の第1方向の端部まで十分に熱が伝わるため、サーモパイル13の出力は大きくなる。ただし、ヒータ部15の熱が基板側へ伝わりやすくなってしまうため、電力効率は低下することになる。
【0049】
図5Bに示す他の変形例では、サーモパイル13の第1方向の端部とヒータ主要部151とヒータ外縁部152との境界位置が、第1方向において一致する位置となっている。このような構成であると、図4に示した実施形態1の構成と、図5Aの変形例の構成の、それぞれのメリットとデメリットが平均化されたものとなる。
【0050】
なお、ヒータ主要部151とヒータ外縁部152の境界位置は、必ずしもサーモパイル13の第1方向の端部からWの距離内に設定すべきものではないが、流体の流れがない状態においては、ヒータ部15の発熱は等方的に伝播すると考えられるため、このような構成とするのが好適である。
【0051】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係るフローセンサチップ2について説明する。本実施形態に係るフローセンサチップ2は、実施形態1に係るフローセンサチップ1と、略同様の構成である。このため、フローセンサチップ1と同様の構成については同一の符号を用いて、フローセンサチップ1と異なる部分を中心に説明する。図6は、フローセンサチップ2のサーモパイル13と、ヒータ部15を概略的に示す図である。
【0052】
図6に示すように、フローセンサチップ2のサーモパイル13は、温接点12hと冷接点12cの間の配線領域を含むサーモパイル配線部131と、温接点12h或いは冷接点12cを含むサーモパイル接点部132とを有している。
【0053】
そして、本実施形態におけるフローセンサチップ2の、サーモパイル配線部131の第1極121のP濃度はヒータ外縁部152のP濃度と同じであり、サーモパイル接点部132の第1極121のP濃度は、ヒータ主要部151のP濃度と同じである。
【0054】
サーモパイルは温接点と冷接点との間の温度差を検出する素子であり、温度差が十分に確保できる長さのサーモパイルが必要とされるため、配線が長くなり、寄生抵抗が高くなりやすい。寄生抵抗が高くなると、抵抗の熱雑音によるノイズ源となり感度性能の劣化につながる。
【0055】
この点、上記のような構成であると、サーモパイル配線部131の抵抗が相対的に低くすることができ、寄生抵抗を抑制することができる。なお、このような構成とすることでサーモパイルのゼーベック係数は部分的には低下するが、温度差がつきにくい領域のシリコン配線の抵抗を選択的に低下させており、感度性能の低下を抑えたまま効率的にノイズを低減させることが可能になる。
【0056】
また、サーモパイル配線部131(の第1極121)とヒータ外縁部152、サーモパ
イル接点部132(の第1極121)とヒータ主要部151とが、それぞれ同じP濃度であることから、このような構成とすることにより、製造プロセスが増加してしまうこともない。
【0057】
<変形例>
なお、フローセンサチップ2において、サーモパイル配線部131と、サーモパイル接点部132のP濃度は逆であってもよい。即ち、サーモパイル配線部131の第1極121のP濃度はヒータ主要部151のP濃度と同じであり、サーモパイル接点部132の第1極121のP濃度は、ヒータ外縁部152のP濃度と同じであってもよい。
【0058】
サーモパイルでは、1素子当たりのサイズを小さくして、サーモパイルを構成する熱電対の数を増やし、高感度化を図ることが一般的である。そして、サーモパイルの接点部は異種材料のコンタクト部分であるため、寄生抵抗が高くなりやすい。この点、上記のような構成であると、サーモパイル接点部でオーミックコンタクトを形成し、コンタクトに起因する寄生抵抗を抑制することができる。即ち、感度性能を維持したままで、接点部の抵抗を下げることでノイズを低減することが可能になる。さらに、コンタクト抵抗を低く維持したまま配線部の不純物濃度を下げることで、オーミックコンタクトを確保しながら感度性能を向上させることができる。
【0059】
<その他>
上記したフローセンサチップ1、2は、各種の変形を行えるものである。例えば、上記各例ではヒータ部15の形状は直線状であったが、ヒータ部の形状は必ずしもこれに限らない。図7に、ヒータ部15の形状を他の形状としたフローセンサチップ3の概略上面図を示す。図7に示すように、本変形例に係るフローセンサチップ3では、三角形状の貫通孔20が薄膜状部の中央部周辺に複数設けられており、ヒータ部15は当該貫通孔20の間に蛇行するように延在する構成である。また、図示はしないが、上記各実施形態のフローセンサチップにおけるヒータ主要部151の形状が、矩形波のように折れ曲がった形状であってもよい。
【0060】
また、上記各実施形態のフローセンサチップ1、2において、隣接する2熱電対12間をコンタクト及び導電性部材により接続したサーモパイルを採用してもよい。また、フローセンサチップ1、2に、第1極121と第2極122とが積層されていないサーモパイルを採用してもよい。
【0061】
また、上記各実施形態のフローセンサチップ1、2において、ドープされる不純物はPであったが、ドープされる不純物は必ずしもこれに限られない。例えば、ボロン(B)、ヒ素(A)などを採用してもよい。
【0062】
また、ヒータ主要部151とヒータ外縁部152の不純物濃度も、上記実施形態に記載のものに限られず、ヒータ主要部151の不純物濃度がヒータ外縁部152の不純物濃度より低いものであれ任意に定めることができる。ただし、ヒータ主要部151とヒータ外縁部152との間に十分な抵抗値の差を生じさせるためには、不純物の濃度差は3倍以上となることが望ましい。
【0063】
<付記>
基板部(10)と、前記基板部上に設けられる薄膜部(11)と、前記薄膜部上に第1の方向に延びて設けられるヒータ部(15)と、前記薄膜部上に前記ヒータ部を中心として対向して設けられる1対のサーモパイル(13)と、を有しており、
前記ヒータ部は、シリコンに電気抵抗を低下させる不純物がドープされて形成されており、
前記サーモパイルは、それぞれが、シリコンに電気抵抗を低下させる不純物がドープされて形成されたシリコン領域(121)を含み、前記ヒータ部に近い側に温接点(12h)が配置され前記ヒータ部から遠い側に冷接点(12c)が配置される熱電対(12)が、前記第1の方向に複数配列されたものであり、
前記第1の方向に延びる前記ヒータ部の長手方向の中央を含むヒータ主要部(151)の前記不純物の濃度が、前記ヒータ主要部以外の部分であって前記ヒータ部の前記長手方向の端部を含むヒータ外縁部(152)の前記不純物の濃度よりも低く、かつ、
前記ヒータ主要部の前記不純物の濃度が、前記サーモパイルの前記シリコン領域の少なくとも一部における前記不純物の濃度と、同一である、
熱式フローセンサチップ(1;2;3)。
【符号の説明】
【0064】
1、2、3・・・フローセンサチップ
10・・・基板部
101・・・空洞
11・・・薄膜状部
12・・・熱電対
12c・・・冷接点
12h・・・温接点
121・・・第1極
122・・・第2極
13・・・サーモパイル
15・・・ヒータ部
151・・・ヒータ主要部
152・・・ヒータ外縁部
16・・・温度センサ
17・・・電極パッド
20・・・貫通孔
W・・・ヒータ部と温接点までの平均距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7