(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】サーモパイル型センサ
(51)【国際特許分類】
G01F 1/688 20060101AFI20230410BHJP
G01P 5/10 20060101ALI20230410BHJP
G01K 7/02 20210101ALI20230410BHJP
G01J 5/12 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
G01F1/688
G01P5/10 A
G01K7/02 A
G01J5/12 A
(21)【出願番号】P 2020035134
(22)【出願日】2020-03-02
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】521515735
【氏名又は名称】MMIセミコンダクター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠井 隆
(72)【発明者】
【氏名】桃谷 幸志
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特許第4009046(JP,B2)
【文献】特許第4511676(JP,B2)
【文献】特許第7112373(JP,B2)
【文献】韓国登録特許第10-0931702(KR,B1)
【文献】国際公開第2010/035738(WO,A1)
【文献】米国特許第6046398(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/688
G01P 5/10
G01K 7/02
G01J 5/12
-----------------------------------
本件出願を優先基礎とする国際特許出願PCT/JP2020/046684
の調査結果が利用された。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーモパイルを有し、
前記サーモパイルは、PolySi配線と、少なくとも一部に金属部分を含む金属配線とを接続させた熱電対が絶縁膜上において直列に連結されることで形成されており、
直列に連結される各々の前記熱電対は所定の隙間を開けて並んで配置されるとともに、各々の前記熱電対においては、前記PolySi配線の上に前記金属配線が重なるように配置されており、
前記熱電対と隣の熱電対の接続部分においては、前記金属配線が前記PolySi配線どうしの間の隙間を横断しており、
前記金属配線が前記PolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分における該隙間の幅は、他の部分における前記PolySi配線どうしの隙間の幅に比較して広い、
サーモパイル型センサ。
【請求項2】
前記絶縁膜はシリコン基板上に形成され、前記シリコン基板は、前記絶縁膜側に開口した凹部であるキャビティエリアと、該キャビティエリアを囲うように配置されたフレームとを有し、前記金属配線が前記PolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分は、前記フレーム上に配置されている、
請求項1に記載のサーモパイル型センサ。
【請求項3】
前記金属配線が前記PolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分における前記PolySi配線どうしの隙間の幅は、他の部分における前記PolySi配線どうしの隙間の幅の1.5倍以上5倍以下である、
請求項1または2に記載のサーモパイル型センサ。
【請求項4】
前記金属配線が前記PolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分における前記PolySi配線どうしの隙間の幅は、前記PolySi配線の膜厚以上である、
請求項1または2に記載のサーモパイル型センサ。
【請求項5】
前記金属配線が前記PolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分における前記PolySi配線どうしの隙間の幅は、1μm以上10μm以下である、
請求項1または2に記載のサーモパイル型センサ。
【請求項6】
前記他の部分における前記PolySi配線どうしの隙間の幅は、0.1μm以上5μm以下である、
請求項1または2に記載のサーモパイル型センサ。
【請求項7】
前記PolySi配線が前記フレームから前記キャビティエリアの中央付近まで伸びており、
前記PolySi配線は前記キャビティエリアの中央付近で前記金属配線と短絡し、温接点を形成しており、
前記金属配線が前記PolySi配線上を、前記キャビティエリアの中央付近から前記フレームまで伸びており、
前記金属配線が前記PolySi配線どうしの間の隙間を横断し、隣のPolySiの端部と電気的に短絡し、冷接点を形成している、
請求項2に記載のサーモパイル型センサ。
【請求項8】
前記金属配線の一部は、前記PolySi配線とは異なる不純物を含有する第2PolySi配線により形成される、
請求項1から7のいずれか一項に記載のサーモパイル型センサ。
【請求項9】
前記金属配線の中央部は、前記PolySi配線とは異なる不純物を含有する第2PolySi配線により形成され、両端部は金属膜により形成される、
請求項8に記載のサーモパイル型センサ。
【請求項10】
前記異なる不純物の一方はp型の不純物であり、他方はn型の不純物である、
請求項8または9に記載のサーモパイル型センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーモパイル型センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体の流れる流路に配置されて流体を加熱するヒータと、ヒータに対して流路の上流側に配置された第1の感温素子(サーモパイル)、及び下流側に配置された第2の感温素子(サーモパイル)とを有する流量測定装置が提案されていた。
【0003】
上記の流量測定装置において、サーモパイルは基板上に直列に形成された複数の熱電対を有し、一対あたりの熱電対は2種類の導体、または半導体から形成される。そして熱電対における一方の素材は例えばポリシリコン(PolySi)が例示され、もう一方の素材は例えばアルミニウムのような金属が例示される(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、サーモパイルを構成する熱電対において、ヒータと同じ側に位置する温接点、及び反対側に位置する冷接点を連結し、それらの温度差に応じて起電力を生じさせる仕組みを持ち、p型またはn型のポリシリコン(PolySi)にアルミニウム配線を重ねた構造を有する新規のサーモパイル型のIRセンサも提案されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Zhou, Huchuan, et al. "Development of a thermopile infrared sensor using stacked double polycrystalline silicon layers based on the CMOS process." Journal of Micromechanics and Microengineering 23.6 (2013): 065026.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようなサーモパイル型センサにおいては、各サーモパイルを構成し、PolySiと金属から構成される熱電対を、より密に並べて配置することで、温度計測時におけるサーモパイル型センサの高感度化を図ることが求められる。
【0008】
また、このような場合には、個々の熱電対における金属薄膜が、隣の熱電対との間の隙間を横断して、隣の熱電対におけるPolySi薄膜の接点に接続されることが多い。
【0009】
そうすると、上記のようにサーモパイル型センサの高感度化を図る場合、個々の熱電対の間の隙間が狭くなるが、隙間部の段差は金属薄膜が成膜しづらく、膜厚が薄くなったり膜質が悪くなったりする傾向にあり、個々の熱電対における金属薄膜が隣の熱電対との間の隙間を横断する金属薄膜では抵抗値の増加や断線等が発生するリスクがあった。
【0010】
そこで、本発明では、高感度化のために熱電対と熱電対の隙間を狭くした場合でも、金属薄膜の抵抗値の増加や断線等を抑制することができ、十分な信頼性を備えたサーモパイル型センサを提供することを最終的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するための本発明は、
サーモパイルを有し、
前記サーモパイルは、PolySi配線と、少なくとも一部に金属部分を含む金属配線とを接続させた熱電対が絶縁膜上において直列に連結されることで形成されており、
直列に連結される各々の前記熱電対は所定の隙間を開けて並んで配置されるとともに、各々の前記熱電対においては、前記PolySi配線の上に前記金属配線が重なるように配置されており、
前記熱電対と隣の熱電対の接続部分においては、前記金属配線が前記PolySi配線どうしの間の隙間を横断しており、
前記金属配線が前記PolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分における該隙間の幅は、他の部分における前記PolySi配線どうしの隙間の幅に比較して広い、
サーモパイル型センサである。
本発明によれば、絶縁膜上に熱電対を高い密度で配置することによる高感度化を図ると同時に、抵抗値の増加や断線等を抑制する信頼性の向上も可能となる。
【0012】
また、本発明においては、前記絶縁膜はシリコン基板上に形成され、前記シリコン基板は、前記絶縁膜側に開口した凹部であるキャビティエリアと、該キャビティエリアを囲うように配置されたフレームとを有し、前記金属配線が前記PolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分は、前記フレーム上に配置されている、サーモパイル型センサとしてもよい。これによれば、ヒータに電圧を印加して発熱させる際、キャビティエリア中にヒータの熱が保たれ、ヒータの熱がシリコン基板中に拡散することを抑制することが可能となる。また、金属配線がPolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分を熱膨張や外部応力などの影響を受けづらい安定したフレーム上に配置することができるので、より確実に、当該部分における金属配線の劣化を抑制することができ、より信頼性を高めることが可能である。
【0013】
また、本発明においては、前記金属配線が前記PolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分における前記PolySi配線どうしの隙間の幅は、他の部分における前記PolySi配線どうしの隙間の幅の1.5倍以上5倍以下である、サーモパイル型センサとしてもよい。これによれば、金属配線がPolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分における隙間の幅を、他の部分における隙間の幅に対して充分に広くすることができ、金属配線がPolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分における金属膜を充分に成膜させることができる。その結果、より確実に、当該部分における金属配線の断線や抵抗増加を抑制することができ、より信頼性を高めることが可能である。
【0014】
また、本発明においては、前記金属配線が前記PolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分における前記PolySi配線どうしの隙間の幅は、前記PolySi配線の膜厚以上である、サーモパイル型センサとしてもよい。これによれば、金属配線がPolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分において、前記PolySi配線どうしの隙間が広いため、半導体プロセスにおいて段差のある隙間にも金属原子をいきわたらせることができ、段差部分のカバレジ性(被覆性)が良くなる。その結果、金属配線がPolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分における金属膜を充分に厚くすることができ、より確実に、当該部分における金属配線の断線や抵抗増加を抑制することができる。
【0015】
また、本発明においては、前記金属配線が前記PolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分における前記PolySi配線どうしの隙間の幅は、1μm以上10μm以下である、サーモパ
イル型センサとしてもよい。これによれば、金属配線がPolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分における隙間の幅を充分に広くすることができ、金属配線がPolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分における金属膜を充分に成膜させることができる。
【0016】
また、本発明においては、前記他の部分における前記PolySi配線どうしの隙間の幅は、
0.1μm以上5μm以下である、サーモパイル型センサとしてもよい。これによれば、熱電対を充分に高い密度で配置することができ、より確実にセンサの感度を高めることが可能である。また、金属配線がPolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分における隙間の幅を、他の部分における隙間の幅に対して充分に広くすることができる。
【0017】
また、本発明においては、前記PolySi配線が前記フレームから前記キャビティエリアの中央付近まで伸びており、前記PolySi配線は前記キャビティエリアの中央付近で前記金属配線と短絡し、温接点を形成しており、前記金属配線が前記PolySi配線上を、前記キャビティエリアの中央付近から前記フレームまで伸びており、前記金属配線が前記PolySi配線どうしの間の隙間を横断し、隣のPolySiの端部と電気的に短絡し、冷接点を形成している、サーモパイル型センサとしてもよい。これによれば、温接点は温度上昇しやすいキャビティエリア上に位置し、冷接点は温度上昇しにくいフレーム上に位置するため、温度差が生じやすくなり、より大きな起電力が得られやすい。
【0018】
また、本発明の変形例においては、前記金属配線の一部は、前記PolySi配線とは異なる不純物を含有する第2PolySi配線により形成される、サーモパイル型センサであってもよい。これによれば、二層のPolySi配線はそれぞれ異なる不純物を含有するため、物性に差が生じ、より大きい値の起電力が得られやすい。
【0019】
また、本発明においては、前記金属配線の中央部は、前記PolySi配線とは異なる不純物を含有する第2PolySi配線により形成され、両端部は金属膜により形成される、サーモパイル型センサであってもよい。その場合、前記異なる不純物の一方はp型の不純物であり
、他方はn型の不純物であってもよい。これによっても、二層のPolySi配線はそれぞれ異
なる不純物を含有するため、物性に差が生じ、より大きい値の起電力が得られやすい。
【0020】
なお、本発明においては、上記した課題を解決するための手段は、可能なかぎり組み合わせて使用することが可能である。
【発明の効果】
【0021】
サーモパイル型センサにおいて、気体の流量を検出する際に、温度差の計測のためのヒータの熱に対する高感度化と金属膜の断線等を抑制する信頼性の両者を十分に備えた新規の技術を提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態に係る流量測定装置の一例を示す分解斜視図である。
【
図5】センサ素子の仕組みを説明するための断面図である。
【
図7】物性値検出部の概略構成を示す平面図である。
【
図8】回路基板の機能構成を示すブロック図である。
【
図10】PolySi配線の間の隙間を横断するように形成された金属膜の特性を検証するためのテストパターンを示す模式的な断面図である。
【
図11】金属膜が横断する部分の隙間幅を、他の部分の隙間幅より大きくした場合のサーモパイルの構成の条件を示す模式的な図である。
【
図12】サーモパイルの構成の詳細を示す模式的な図である。
【
図13】一対あたりに二層のPolySi配線を適用し、各層のPolySi配線ごとに温接点、及び冷接点が形成されているサーモパイルを示す模式的な図である。
【
図14】金属膜がPolySi配線の間の隙間を横断する部分が、PolySi配線の端部に位置する構成を持つサーモパイルを示す模式的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔適用例〕
本適用例においては、サーモパイルを熱式の流量測定装置に適用した場合について説明する。本適用例に係るサーモパイル型センサはサーモパイルを有し、サーモパイルは複数の熱電対から構成される。一対あたりの熱電対は、ヒータと同じ側に位置する温接点、及びヒータと反対側に位置し、温接点と対を成す冷接点を接続する。
【0024】
また、熱電対は、PolySi配線と、PolySi配線の上にありPolySi配線と比べて幅が小さい金属膜から成る。金属膜は熱伝導性がよく熱を逃がしてしまうため、金属膜の配線幅は小さくすることが一般的である。サーモパイルとヒータの上下には、酸化シリコンや窒化シリコン等から成る絶縁膜が形成されている。なお、ヒータとサーモパイルの位置関係については一例として
図6に、サーモパイルの構成については
図12に示す。
【0025】
図11に示すように、温接点は、PolySi配線と金属膜が電気的に短絡することで形成される。また、金属膜は、熱電対と隣の熱電対の隙間を横断し、それらを接続する役割を果たす。冷接点は、金属膜が熱電対どうしの隙間を横断する箇所の先端部において、PolySi配線と金属膜が電気的に短絡することで形成される。
【0026】
図6に一例として示すように、サーモパイルはヒータを挟んで対称に設けられており、流量検出の際に気体が流路に沿って流れてくる側を上流側、反対側を下流側としている。また、
図12に示すように、絶縁膜はシリコン基板の上に形成されており、一部は、PolySiから成るフレームに囲まれたキャビティエリアの上に位置する。
【0027】
図5に示すように、本発明の対象であるサーモパイル型センサにおけるヒータに電圧を印加すれば発熱し、ヒータの熱はヒータの両側のサーモパイル上に均等に分布する。ここで、キャビティエリアがあることにより、また、ヒータがキャビティエリア上部の中央部に位置することにより、ヒータの熱がシリコン基板中に拡散することを抑制することが可能となる。気体が流路に沿って流れると、ヒータの熱分布は下流側のサーモパイルに偏り、両側のサーモパイルの間で温度差が生じる。
【0028】
熱電対は、温接点がヒータの熱を感知すると、冷接点との温度差によって起電力が生じる(ゼーベック効果)。起電力により、サーモパイルどうしの間の温度差の検知が可能となり、流れてくる気体の流量の値を観測することが可能となる。ここで、気体の流量の値が増大するほど、サーモパイルどうしの間の温度差の値も増大し、両者の値は個々に相関性を持っているため、紐付けが可能といえる。
【0029】
サーモパイルどうしの間の温度差を検知する際、サーモパイルがヒータの熱に対して高感度化されていることが求められる。サーモパイルにおいて、熱電対が密に並列しているほど高感度化されると考えられ、熱電対どうしの隙間幅が小さい条件が良好であると言える。
【0030】
しかし、熱電対どうしの隙間幅が小さい条件においては、金属膜が隙間を横断する際に、金属膜の抵抗値の増加や断線等が発生するリスクがある。これは、熱電対どうしの隙間における段差では前述のように金属膜が成膜しづらく膜厚が薄くなったり膜質が悪くなったりする傾向にあるからである。このため、サーモパイルには、高感度化と同時に、抵抗値の増加や断線の発生が抑制される信頼性も備えていることが求められる。
【0031】
そこで本発明では、
図11に示すように、密に並列している熱電対から構成され、熱電対について、金属膜が熱電対と隣の熱電対を横断する部分の隙間幅が、他の部分の隙間幅より広いサーモパイルを提案する。
図11に示すaの値はbの値よりも大きいことが前提であり、aの値は、例えば1μm以上10μm以下の範囲内に、bの値は、例えば0.1μm以上5μm
以下の範囲内にあることが望ましい。
【0032】
〔実施例1〕
以下、本発明の実施形態に係る流量測定装置について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態においては、本発明を流量測定装置に適用した例について説明するが、本発明は、赤外線センサなど、他のサーモパイル型センサに適用しても構わない。以下に示す実施形態は、流量測定装置の一例であり、本発明に係る流量測定装置は、以下の構成には限定されない。
【0033】
<装置構成>
図1は、本実施形態に係る流量測定装置1の一例を示す分解斜視図である。
図2は、流量測定装置1の一例を示す透視図である。
【0034】
流量測定装置1は、例えばガスメータや燃焼機器、自動車等の内燃機関、燃料電池、その他医療等の産業機器、組込機器に組み込まれ、流路を通過する気体の量を測定する。なお、
図1及び
図2の破線の矢印は、流体の流れる方向を例示している。ここで、流量測定装置1は、本発明におけるサーモパイル型センサに相当する。
【0035】
図2に示すように、本実施形態では、流量測定装置1は主流路部2から分岐した副流路部3の内部に設けられる。また、流量測定装置1は、流量検出部11と、物性値検出部12とを備える。流量検出部11及び物性値検出部12は、マイクロヒータによって形成される加熱部とサーモパイルによって形成される温度検出部とを含む熱式のフローセンサである。
【0036】
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る流量測定装置1は、主流路部2と、副流路部3と、シール4と、回路基板5と、カバー6とを備えている。
【0037】
主流路部2は、長手方向に貫通した管状部材である。主流路部2の内周面には、測定対象流体の流れ方向に対して、上流側に流入口(第1流入口)34Aが形成され、下流側に流出口(第1流出口)35Aが形成されている。例えば主流路部2の軸方向の長さは約50mmであり、内周面の直径(主流路部2の内径)は約20mmであり、主流路部2の外径は約24mmであるが、このような例には限定されない。
【0038】
副流路部3は、主流路部2の上に設けられており、その内部及び上面には、副流路が形成されている。副流路部3は、一端が流入口34Aに連通し、他端が流出口35Aに連通している。流量測定装置1では、副流路部3は、流入用流路34と、物性値検出用流路32と、流量検出用流路33と、流出用流路35とから構成されている。
【0039】
流入用流路34は、主流路部2を流れる測定対象流体を流入させ、物性値検出用流路32及び流量検出用流路33に分流させるための流路である。流入用流路34は、主流路部2と垂直な方向に、副流路部3を貫通して形成されており、一端が流入口34Aに連通し、他端は主流路部2の上面で開口して物性値検出用流路32及び流量検出用流路33に連通している。これにより、主流路部2を流れる測定対象流体の一部を、流入用流路34を介して物性値検出用流路32及び流量検出用流路33に分流させることができる。
【0040】
物性値検出用流路32は、副流路部3の上面に形成された、主流路部2と平行な方向に
延在する、縦断面が略コ字型の流路である。物性値検出用流路32は、長手方向(主流路部2と平行な方向)に延在する部分に、測定対象流体の物性値を検出するための物性値検出部12が配置されている。
【0041】
物性値検出用流路32の一端は、流入用流路34を介して流入口34Aに連通しており、他端は、流出用流路35を介して流出口35Aに連通している。
【0042】
流量検出用流路33は、副流路部3の上面に形成された、主流路部2と平行な方向に延在する、縦断面が略コの字型の流路である。流量検出用流路33は、長手方向(主流路部2と平行な方向)に延在する部分に、測定対象流体の流量を検出するための流量検出部11が配置された流量検出用流路33を有している。
【0043】
流量検出用流路33の一端は、流入用流路34を介して流入口34Aに連通しており、他端は、流出用流路35を介して流出口35Aに連通している。なお、物性値検出部12及び流量検出部11は、回路基板5に実装された状態で物性値検出用流路32または流量検出用流路33に配置される。
【0044】
流出用流路35は、物性値検出用流路32及び流量検出用流路33を通過した測定対象流体を、主流路部2に流出させるための流路である。流出用流路35は、主流路部2と垂直な方向に、副流路部3を貫通して形成されており、一端が流出口35Aに連通し、他端は主流路部2の上面で開口して、物性値検出用流路32及び流量検出用流路33に連通している。これにより、物性値検出用流路32及び流量検出用流路33を通過した測定対象流体を、流出用流路35を介して、主流路部2に流出させることができる。
【0045】
このように、同じ流入口34Aから流入させた測定対象流体を、物性値検出用流路32及び流量検出用流路33に分流させることで、物性値検出部12及び流量検出部11は、温度、密度などの条件が等しい測定対象流体に基づいて物性値または流量を検出することができる。したがって、流量測定装置1の測定精度を向上させることができる。
【0046】
なお、流量測定装置1では、副流路部3にシール4を嵌め込んだ後、回路基板5が配置され、さらにカバー6によって回路基板5を副流路部3に固定することで、副流路部3の内部の気密性を確保している。
【0047】
図3は、
図1に示される副流路部3を示す平面図である。
図3に示されるように、物性値検出用流路32は、略コの字型の一端が流入用流路34に連通し、他端が流出用流路35に連通している。同様に、流量検出用流路33は、略コの字型の一端が流入用流路34に連通し、他端が流出用流路35に連通している。
【0048】
また、物性値検出用流路32と流量検出用流路33との両端部も互いに連通しており、物性値検出用流路32及び流量検出用流路33は、副流路部3の上面において矩形状の流路を構成している。
【0049】
流量測定装置1では、物性値検出用流路32において物性値検出部12を含む部分、及び流量検出用流路33において流量検出部11を含む部分は、何れも副流路部3の上面と垂直な方向(法線方向)から見たときの形状が正方形であり、流入用流路34と流出用流路35とを結ぶ直線に対して対称となる位置にそれぞれ形成されている。
【0050】
また、矢印P及びQは、物性値検出用流路32及び流量検出用流路33に分流する測定対象流体の流量を表す。本実施形態では、物性値検出用流路32には流量Pの測定対象流体が分流され、流量検出用流路33には流量Qの測定対象流体が流れるように、物性値検
出用流路32及び流量検出用流路33の幅が設定されている。
【0051】
この流量P及び流量Qの値は、主流路部2を流れる測定対象流体の流量によって変動するものであるが、通常の使用態様において、流量Pは物性値検出部12の検出レンジ内の値となり、流量Qは流量検出部11の検出レンジ内の値となるように、物性値検出用流路32及び流量検出用流路33の幅がそれぞれ設定されている。物性値検出用流路32及び流量検出用流路33の幅は例示であり、
図3の例には限定されない。
【0052】
このように、流量測定装置1では、物性値検出用流路32及び流量検出用流路33に分流する測定対象流体の流量を、それぞれの幅を調整することで個別に制御することが可能である。このため、物性値検出部12の検出レンジに応じて物性値検出用流路32を流れる測定対象流体の流量を制御し、流量検出部11の検出レンジに応じて流量検出用流路33を流れる測定対象流体の流量を制御することができる。
【0053】
したがって、物性値検出部12は、固有の検出レンジに応じた最適な流量で、測定対象流体の物性値を検出することができるので、物性値検出部12の検出精度を高めることができる。
【0054】
同様に、流量検出部11は、固有の検出レンジに応じた最適な流量で、測定対象流体の流量を検出することができるので、流量検出部11の検出精度を高めることができる。
【0055】
物性値検出用流路32及び流量検出用流路33は、何れも略コ字型に形成された構成には限定されない。すなわち、物性値検出用流路32及び流量検出用流路33は、物性値検出用流路32及び流量検出用流路33を通過する測定対象流体の流量が制御可能な幅に設定されていれば、他の形状を採用するようにしてもよい。
【0056】
また、本実施形態では、物性値検出用流路32において物性値検出部12を含む部分、及び流量検出用流路33において流路検出部11を含む部分の形状を正方形としているが、本発明はこれに限定されない。物性値検出用流路32及び流量検出用流路33の形状は、物性値検出部12または流量検出部11が配置可能であればよく、配置される物性値検出部12及び流量検出部11の形状に応じて決定される。
【0057】
したがって、例えば、物性値検出用流路32の幅よりも、物性値検出部12のサイズが小さい場合には、物性値検出用流路32において物性値検出部12を含む部分の幅を物性値検出部12の幅に一致させてもよい。この場合、物性値検出用流路32の長手方向に延在する部分は、直線形状に形成されることとなる。なお、流量検出用流路33についても同様である。
【0058】
図4は、流量検出部及び物性値検出部に用いられるセンサ素子の一例を示す斜視図である。また、
図5は、センサ素子の仕組みを説明するための断面図である。センサ素子100は、マイクロヒータ(加熱部)101と、マイクロヒータ101を挟んで対称に設けられたサーモパイル(温度検出部)102とを備える。これらの上下には絶縁薄膜が形成され、シリコン基板上に設けられている。マイクロヒータ101は、例えばPolySiで形成された抵抗である。
【0059】
また、マイクロヒータ101、及びサーモパイル102の下方のシリコン基板には、凹部であるキャビティエリア103が設けられている。キャビティエリア103は、PolySiから成るフレーム104に囲まれている。マイクロヒータ101からの発熱は、キャビティエリア103に放出されるため、シリコン基板中への発熱の拡散は抑制される。
【0060】
また、フレーム104は熱容量が大きく、温まりにくいため、フレーム104上にある冷接点の温度はほとんど上昇せず、温接点との温度差をより正確に検知することが可能となる。
【0061】
図5は、破線の楕円によって、マイクロヒータ101が発熱した場合の温度分布を模式的に示している。なお、破線が太いほど温度が高いものとする。空気の流れがない場合、
図5の上段(1)に示すようにマイクロヒータ101の両側の温度分布はほぼ均等になる。一方、例えば
図5の下段(2)において破線の矢印で示す方向に空気が流れた場合、周囲の空気が移動するため、マイクロヒータ101の風上側よりも風下側の方が、温度は高くなる。センサ素子は、このようなヒータ熱の分布の偏りを利用して、流量を示す値を出力する。
【0062】
センサ素子の出力電圧ΔVは、例えば次のような式(1)で表される。
【数1】
なお、T
hはマイクロヒータ101の温度、T
aはサーモパイル102の外側に設けられる周囲温度センサが測定した温度、V
fは流速の平均値、Aとbは所定の定数である。
【0063】
また、流量測定装置1の回路基板5は、IC(Integrated Circuit)等により実現される制御部(図示せず)を備え、流量検出部11の出力に基づいて流量を算出したり、物性値検出部12の出力に基づいて結露を検知したり、所定の特性値を算出し、特性値を用いて流量を補正したりする。
【0064】
<流量検出部及び物性値検出部>
図6は、
図1に示した流量検出部11の概略構成を示す平面図であり、
図7は、
図1に示した物性値検出部12の概略構成を示す平面図である。流量測定装置1では、物性値検出用流路32と流量検出用流路33とは、長手方向に延在する流路の幅がそれぞれ異なっており、物性値検出用流路32において物性値検出部12を含む部分の幅は、流量検出用流路33において流量検出部11を含む部分の幅よりも狭くなっている。これにより、流量測定装置1では、物性値検出用流路32及び流量検出用流路33に分流される測定対象流体の流量を、それぞれ個別に制御している。
【0065】
図6に示すように、流量検出部11は、測定対象流体の温度を検出する第1サーモパイル(流量検出部内第1温度検出部)111及び第2サーモパイル(流量検出部内第2温度検出部)112と、測定対象流体を加熱するマイクロヒータ113とを備えている。マイクロヒータ113と、流量検出部内第1温度検出部111及び流量検出部内第2温度検出部112とは、流量検出部11内において、測定対象流体の流れ方向Pに沿って並んで配置されている。
【0066】
また、マイクロヒータ113、流量検出部内第1温度検出部111及び流量検出部内第2温度検出部112の形状は、平面視においてそれぞれ略矩形であり、各々の長手方向は測定対象流体の流れ方向Pと直交する。
【0067】
流量検出部内第1温度検出部111及び流量検出部内第2温度検出部112は、マイクロヒータ113の上流側に流量検出部内第1温度検出部111が配置され、下流側に流量検出部内第2温度検出部112が配置されて、マイクロヒータ113を挟んで対称な位置
の温度を検出する。
【0068】
流量測定装置1では、物性値検出部12及び流量検出部11に、実質的に同一構造のセンサが用いられており、測定対象流体の流れ方向に対する配置角度を90度異ならせて配置されている。これにより、同一構造のセンサを物性値検出部12または流量検出部11として機能させることが可能となるため、流量測定装置1の製造コストを低減することができる。
【0069】
一方、
図7に示すように、物性値検出部12は、測定対象流体の温度を検出する第1サーモパイル(物性値検出部内第1温度検出部)121及び第2サーモパイル(物性値検出部内第2温度検出部)122と、測定対象流体を加熱するマイクロヒータ(物性値検出部内加熱部)123とを備えている。物性値検出部内加熱部123と、物性値検出部内第1温度検出部121及び物性値検出部内第2温度検出部122とは、物性値検出部12内において、測定対象流体の流れ方向Qと直交する方向に並んで配置されている。
【0070】
また、物性値検出部内加熱部123、物性値検出部内第1温度検出部121及び物性値検出部内第2温度検出部122の形状は、平面視においてそれぞれ略矩形であり、各々の長手方向は測定対象流体の流れ方向Qに沿っている。
【0071】
また、物性値検出部内第1温度検出部121及び物性値検出部内第2温度検出部122は、物性値検出部内加熱部123を挟んで左右対称に配置されており、物性値検出部内加熱部123の両側の対称な位置の温度を検出する。したがって、物性値検出部内第1温度検出部121及び物性値検出部内第2温度検出部122の測定値はほぼ同一であり、いずれか一方の値を採用するようにしてもよいし、両者の平均値を算出するようにしてもよい。
【0072】
ここで、測定対象流体の流れによって温度分布は下流側に偏るため、流れ方向と直交する方向の温度分布の変化は、測定対象流体の流れ方向の温度分布の変化に比べて小さい。このため、物性値検出部内第1温度検出部121と、物性値検出部内加熱部123と、物性値検出部内第2温度検出部122とを、この順で測定対象流体の流れ方向と直交する方向に並べて配置することにより、温度分布の変化による物性値検出部内第1温度検出部121及び物性値検出部内第2温度検出部122の出力特性の変化を低減することができる。
【0073】
したがって、測定対象流体の流れによる温度分布の変化の影響を低減して、物性値検出部12による検出精度を向上させることができる。
【0074】
また、物性値検出部内加熱部123の長手方向が測定対象流体の流れ方向に沿って配置されているため、物性値検出部内加熱部123は測定対象流体の流れ方向に亘って広範囲に測定対象流体を加熱することが可能となる。このため、測定対象流体の流れによって温度分布が下流側に偏った場合であっても、物性値検出部内第1温度検出部121及び物性値検出部内第2温度検出部122の出力特性の変化を低減することができる。
【0075】
したがって、測定対象流体の流れによる温度分布の変化の影響を低減して、測定対象流体の流れによる温度分布の変化の影響を低減して、物性値検出部12による検出精度を向上させることができる。
【0076】
さらに、物性値検出部内第1温度検出部121及び物性値検出部内第2温度検出部122の長手方向が測定対象流体の流れ方向に沿って配置されているため、物性値検出部内第1温度検出部121及び物性値検出部内第2温度検出部122は測定対象流体の流れ方向
に亘って広範囲に温度を検出することが可能となる。このため、測定対象流体の流れによって温度分布が下流側に偏った場合であっても物性値検出部内第1温度検出部121及び物性値検出部内第2温度検出部122の出力特性の変化を低減することができる。
【0077】
したがって、測定対象流体の流れによる温度分布の変化の影響を低減して、物性値検出部12による検出精度を向上させることができる。
【0078】
<機能構成>
図8は、流量測定装置1が備える回路基板5の機能構成を示すブロック図である。流量測定装置1は、流量検出部11と、物性値検出部12と、制御部13とを備えている。
【0079】
流量検出部11は、流量検出部内第1温度検出部111と、流量検出部内第2温度検出部112とを備える。物性値検出部12は、物性値検出部内第1温度検出部121と、物性値検出部内第2温度検出部122とを備える。なお、
図6に示したマイクロヒータ113、及び
図7に示したマイクロヒータ(物性値検出部内加熱部)123は、図示を省略している。
【0080】
流量検出部11は、流量検出部内第1温度検出部111及び流量検出部内第2温度検出部112から出力された温度検出信号に基づいて、測定対象流体の流量を示す値を検出する。
【0081】
具体的には、流量検出部11は、流量検出部内第1温度検出部111から出力された温度検出信号と流量検出部内第2温度検出部112から出力された温度検出信号との差分を算出し、差分に基づいて測定対象流体の流量を示す値を求める。そして、流量検出部11は、流量を示す値を制御部13に出力する。
【0082】
物性値検出部12は、物性値検出部内第1温度検出部121及び物性値検出部内第2温度検出部122から出力された温度検出信号を流量算出部133に出力する。
【0083】
具体的には、物性値検出部12は、物性値検出部内第1温度検出部121及び物性値検出部内第2温度検出部122から出力された温度検出信号の平均値を求める。
【0084】
また、
図7に示した物性値検出部内加熱部123は、例えば制御部13による制御に応じて温度を変更する。これにより、物性値検出部内第1温度検出部121及び物性値検出部内第2温度検出部122は、物性値検出部内加熱部123の温度変化の前後における出力値を求めることができる。物性値検出部12は、取得した出力値を制御部13に出力する。
【0085】
また、制御部13は、補正処理部131と、特性値算出部132と、流量算出部133と、異常検出部134とを含む。流量算出部133は、流量検出部11の検出値に基づいて測定対象流体の流量を算出する。特性値算出部132は、物性値検出部12の検出値に基づいて特性値を算出する。
【0086】
具体的には、特性値算出部132は、物性値検出部12のマイクロヒータの温度を変化させ、変化の前後においてサーモパイル102が検出した測定対象流体の温度の差に所定の係数を乗じて特性値を算出する。補正処理部131は、特性値を用いて、流量算出部133が算出した流量を補正する。
【0087】
上記のような流量測定装置1には熱量を検出するために、
図6に示した流量検出部11の流量検出部内第1温度検出部111、及び流量検出部内第2温度検出部112、
図7に
示した物性値検出部12の物性値検出部内第1温度検出部121、及び物性値検出部内第2温度検出部122の4つのサーモパイルが含まれている。
【0088】
以下では、例として流量検出部11の流量検出部内第1温度検出部111に相当するサーモパイルについて詳細な説明をするが、流量検出部内第2温度検出部112、物性値検出部内第1温度検出部121、及び物性値検出部内第2温度検出部122に相当するサーモパイルについても同様な説明が成り立つ。
【0089】
図9は、流量測定装置1における流量検出部内第1温度検出部111に相当するサーモパイル102を示す模式的な平面図である。
図9のサーモパイル102は、複数の熱電対が直列に連結することで構成されている。
図9には、そのうち、熱電対102aから102eを示している。これらの熱電対は、PolySi配線1021aから1021e、及び金属膜1022aから1022eを有する。
【0090】
なお、熱電対102aから102eにおける、PolySi配線と金属膜の位置関係は、金属膜が上でPolySi配線が下になっている。すなわち、各熱電対において、PolySi配線の上に金属膜が重ねて形成されている。シリコンと金属膜とでサーモパイルを形成する場合、シリコン膜が下層で金属膜が上層となることが多い。半導体プロセスでは下層側(基板側)から素子を形成していくが、シリコンの耐熱性、コンタミネーションコントロールなどから、シリコン膜の素子を先に形成するからである。そして、配線の幅は、PolySi配線の方が金属膜よりも広くなるように設定されている。ここで、金属膜1022aから1022eは、本発明における金属配線に相当する。金属膜は熱伝導率がよいため、配線幅を太くすると金属膜を通じて熱が逃げてしまう。温接点と冷接点との温度差を検知するサーモパイルでは、金属膜による熱の移動をできるだけ制限をしたいため金属膜はできるだけ細くすることになる。
【0091】
また、熱電対102aから102eにおいては、各々の熱電対を直列に連結するため、金属膜がPolySi配線の間の隙間を横断し、隣のPolySi配線と電気的に接続されている。次に、
図9に示すように、PolySi配線の間の隙間を横断するように金属膜を形成させた場合の、金属膜の特性について説明する。
【0092】
図10は、PolySi配線の間の隙間を横断するように形成された金属膜の特性を検証するためのテストパターン7を示す模式的な断面図である。隙間幅wは、テストパターン用シリコン71の間の隙間の幅を表している。ここで、テストパターン用金属配線72はテストパターン用シリコン71の間の隙間を横断するように配置されている。下地には、テストパターン用絶縁膜73を用いている。
図10では、隙間は2つのみを図示してあるが、実際のテストパターンでは数百から数千もの隙間を横断するようになっており、金属配線72が段差のある隙間を横断したときの影響を加速させてテストできるようになっている。
【0093】
表1には、上記のテストパターン7における金属配線の線幅を1.7μmと2.4μmの2パターン用意し、それぞれのパターンにおいて、隙間幅wを変更してテストパターン用金属配線72の抵抗値を測定した結果を示す。
【表1】
【0094】
表1に示す通り、隙間幅wの値が小さいほど抵抗値が高くなる傾向があり、隙間幅wが0.5μmの条件では断線が発生する結果が得られた。隙間幅wの値が小さい場合にテストパターン用金属配線72の抵抗値が高くなる原因は、隙間幅wの値が小さいことでテストパターン用シリコン71どうしの間の隙間部分に金属膜が成膜しづらく、膜厚が薄くなったためと考えられる。さらに隙間幅wの値をある程度以上小さくすることで、金属膜が途切れ、断線にまで至ると考えられる。半導体プロセスではPVD(Physical Vapor Deposition)法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法にて金属膜を成膜する。これらは真空雰囲気内で金属原子をなんらかの方法で飛ばし、原子が基板に到達することで金属膜が成長をしていく。一般的に段差部分では膜のカバレジ性が悪く金属膜の膜厚は薄くなりやすいが、隙間構造であることにより、より顕著にカバレジ性が悪くなったと考えられる。すなわち、隙間幅wが小さいと金属原子の供給量が減り、段差部分の膜厚が薄くなり、金属膜が断線にまで至った。
【0095】
このような断線を抑制するため、配線幅を太くする対応が考えられるが、上記の測定においては配線幅を太くすることはそれほど効果が大きくなく、隙間幅wの値の影響の方が大きかった。また、配線幅を太くすることは金属配線を通じた熱逃げを助長させるため、センサ感度低下の原因にもなりうる。この他、金属膜の成膜前にCMP(Chemical Mechanical Polishing)技術などの平坦化処理を行い、隙間をあらかじめ埋めてしまう対応も考えられる。だが、平坦化処理プロセスを導入すると、素子の最も厚い部分の膜厚にメンブレンの膜厚が揃えられてしまうため、薄膜の総厚が厚くなり、メンブレンの熱容量がおおきくなってしまい、薄膜を有するサーモパイル型センサでは感度低下を発生させてしまう。
【0096】
また、PolySi配線の間の隙間を大きくするために、配線間のピッチを大きくする方法も考えられるが、同じエリアに対して熱電対を配置できる数が少なくなってしまい、サーモパイル型センサでは感度低下につながる。このほか、PolySi配線の配線幅を細くする方法も考えれるが、金属膜に較べて抵抗が高いPolySi配線を細くすると配線の寄生抵抗が大
きくなり、ノイズ発生となり特性悪化となってしまう。また、赤外線センサの場合、PolySi配線は赤外線吸収効率がよいため、配線が細くなると赤外線吸収量が減り、感度低下にもつながってしまう。
【0097】
上記の結果を踏まえ、本実施例においては、PolySi配線の間の隙間のうち、金属膜が横断する部分の隙間幅を、他の部分の隙間幅より大きくすることとした。
図11は、金属膜が横断する部分の隙間幅を、他の部分の隙間幅より大きくした場合のサーモパイル102の構成の条件を示す模式的な図である。
図11のaは金属膜1022aがPolySi配線10
21aと隣のPolySi配線の間の隙間を横断する部分における隙間幅を表し、bはPolySi配
線1021aと隣のPolySi配線の間の隙間のうち、金属膜が横断しない部分の隙間幅を表す。
【0098】
構成の条件として、aはbよりも幅が広く設定されている。例えば、aはbの1.5倍以上で
あってもよい。また、aの値は1μm以上、及びbの値は5μm以下であってもよい。また、aの値は、PolySi配線の膜厚以上である。
【0099】
図12は、サーモパイル102の構成の詳細を示す模式的な図である。
図12(a)は金属膜が横断する部分の隙間幅が、他の部分の隙間幅より広いサーモパイルの平面図、
図12(b)は断面A-A‘に係る断面図である。
【0100】
図12において、PolySi配線1021a、及び金属膜1022aの下地である絶縁膜1023は、シリコン基板1024のフレーム104上に形成されている。シリコン基板1024にはキャビティエリア103が含まれ、絶縁膜1023の一部はキャビティエリア103上に位置する。また、金属膜がPolySi配線の間の隙間を横断する部分における金属膜1027は、シリコン基板1024上のフレーム104上に位置する。
【0101】
PolySi配線1021aはフレーム104からキャビティエリア103の中央付近まで伸びており、キャビティエリア103の中央付近(マイクロヒータ101の近傍)で金属膜1022aと短絡し、温接点1025を形成している。金属膜1022aは絶縁膜1023を介したPolySi配線1021a上を、キャビティエリア103の中央付近から外周に向かって伸び、フレーム104の上部において隣のPolySi配線との間の隙間を横断し、隣のPolySiと短絡し、冷接点1026を形成している。以後、この構造を繰り返している。
【0102】
〔実施例2〕
次に、本発明の実施例2について説明する。本実施例と実施例1との相違点は、サーモパイル一対あたりに二層のPolySi配線を適用している点である。
図13は、上述した実施形態におけるサーモパイル102に対し、一対あたりに二層のPolySi配線を適用し、各層のPolySi配線ごとに温接点、及び冷接点が形成されているサーモパイルを示す模式的な図である。
図13(a)はサーモパイルの平面図、
図13(b)は断面A-A‘に係る断面図である。
【0103】
本実施例においては、PolySi配線として、それぞれ下層PolySi配線1028aと上層PolySi配線1028bの二層のPolySi配線が形成されている。そして、下層PolySi配線1028a上に位置する温接点を下層温接点1025a、上層PolySi配線1028b上に位置する温接点を上層温接点1025bとする。また、下層PolySi配線1028a上に位置する冷接点を下層冷接点1026a、上層PolySi配線1028b上に位置する冷接点を上層冷接点1026bとする。
【0104】
下層PolySi配線1028aはフレーム104からキャビティエリア103の中央付近まで伸びており、キャビティエリア103中央付近で金属膜1022aと短絡し、下層温接点1025aを形成している。金属膜1022aは下層温接点1025aと上層温接点1025bを電気的に接続している。また、金属膜1022aは最短距離で結ばれている。
【0105】
キャビティエリア103中央付近に設けられた上層温接点1025bから、フレーム104上の上層冷接点1026bまで上層PolySi配線1028bが伸びている。ここで、上層温接点1025bと上層冷接点1026bの間は金属膜1022aによって接続されていない。金属膜1022aが、上層冷接点1026bから絶縁膜1023を介して下層PolySi配線1028aまで伸びた箇所で隣の下層PolySiへと移っている。金属膜1022aが隣の下層PolySiと短絡し、下層冷接点1026aを形成している。以後、この構造を繰り返している。ここで、上層PolySi配線1028bは、本発明における第2PolySi配線に相当する。
【0106】
二層のPolySi配線はそれぞれ異なる不純物を含有しており、一方はp型の不純物であり
、他方はn型の不純物である。PolySiは、含有する不純物の種類や濃度によって、抵抗値
、熱電特性や熱伝導性等の物性に差が生じる。本変形例においては、熱起電力の低い金属膜の代わりに熱起電力が高く一層目のPolySiと逆極性のPolySiに置き換えることで、より大きい値の起電力が得られる。
【0107】
〔実施例3〕
次に、本発明の実施例3について説明する。本実施例と実施例1との相違点は、金属膜がPolySi配線の間の隙間を横断する部分が、PolySi配線の端部に位置する点である。
図14は、サーモパイルの形状を変形した例として、上述のサーモパイル102に対し、金属膜がPolySi配線の間の隙間を横断する部分が、PolySi配線の端部に位置する構成を持つサーモパイルを示す模式的な図である。
【0108】
金属膜1022aは、PolySi配線1021aの端部にのみ重なっており、PolySi配線の間の隙間を垂直に横断して、隣のPolySi配線の端部において接続されている。金属膜1022aは、PolySi配線1021aと隣のPolySi配線の端部どうしを最短距離で接続しており、PolySi配線1021aに沿って重なってはいない。この構成により、金属膜が直線的に連続に接続される。構成が単純化することで、信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0109】
なお、上記の実施例においては、本発明に係るサーモパイル型センサを、流量測定装置に適用したが、本発明に係るサーモパイル型センサは、例えば、赤外線センサ等、サーモパイルによって温度を検出する機能を有するセンサ全般に適用することが可能である。
【0110】
なお、以下には本発明の構成要件と実施例の構成とを対比可能とするために、本発明の構成要件を図面の符号付きで記載しておく。
<発明1>
サーモパイル(102)を有し、
前記サーモパイルは、PolySi配線(1021a―1021e)と、少なくとも一部に金属部分を含む金属配線(1022a―1022e)とを接続させた熱電対(102a―102e)が絶縁膜(1023)上において直列に連結されることで形成されており、
直列に連結される各々の前記熱電対は所定の隙間を開けて並んで配置されるとともに、各々の前記熱電対においては、前記PolySi配線の上に前記金属配線が重なるように配置されており、
前記熱電対と隣の熱電対の接続部分においては、前記金属配線が前記PolySi配線どうしの間の隙間を横断しており、
前記金属配線が前記PolySi配線どうしの間の隙間を横断する部分における該隙間の幅は、他の部分における前記PolySi配線どうしの隙間の幅に比較して広い、
サーモパイル型センサ(1)。
【符号の説明】
【0111】
1 :流量測定装置
100 :センサ素子
101 :マイクロヒータ
102 :サーモパイル
102a―102e :熱電対
103 :キャビティエリア
104 :フレーム
11 :流量検出部
12 :物性値検出部
13 :制御部
2 :主流路部
3 :副流路部
4 :シール
5 :回路基板
6 :カバー
7 :テストパターン
71 :テストパターン用シリコン
72 :テストパターン用金属配線
73 :テストパターン用絶縁膜
1021a―1021e:PolySi配線
1022a―1022e:金属膜
1023 :絶縁膜
1024 :シリコン基板
1025 :温接点
1025a :下層温接点
1025b :上層温接点
1026 :冷接点
1026a :下層冷接点
1026b :上層冷接点
1027 :PolySi配線の間の隙間を横断する部分における金属膜
1028a :下層PolySi配線
1028b :上層PolySi配線