(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】複合樹脂のセルロース複合判別方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3563 20140101AFI20230410BHJP
【FI】
G01N21/3563
(21)【出願番号】P 2020215565
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2022-07-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、環境省、令和元年度脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業(バイオ由来素材を複合した再生樹脂の適用技術実証)委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【氏名又は名称】和田 充夫
(72)【発明者】
【氏名】天野 智貴
(72)【発明者】
【氏名】角尾 龍彦
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-227793(JP,A)
【文献】特開2017-211345(JP,A)
【文献】特開2008-304317(JP,A)
【文献】特開2019-095291(JP,A)
【文献】特開2015-169569(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0131862(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0149911(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0343472(US,A1)
【文献】国際公開第2015/133091(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを含む複合樹脂に赤外光を照射し、
前記赤外光が照射された前記複合樹脂からの反射光を受光し、
前記反射光から得られた反射又は吸収スペクトルから、前記複合樹脂の樹脂種を判別し、
前記反射光によって得られた前記反射又は吸収スペクトルのうち、前記複合樹脂に起因するC-H伸縮ピークである波数2800cm
-1以上でかつ3000cm
-1以下の範囲のピークにおいて最大の強度となるピーク位置の強度で規格化することによって得られたスペクトルを用いて、前記スペクトル中における1000cm
-1以下でかつ前記判別した樹脂種の樹脂由来のピークが発現する波数とは異なる位置におけるスペクトル強度(バックグランド強度)の比の値を取得し、
前記複合樹脂に含まれる樹脂であってかつ予め取得した単一樹脂のサンプルのスペクトルを用いて前記複合樹脂と同様の方法でスペクトル強度(バックグランド強度)の比の値を予め取得しておき、それらの値を比較することによって、前記複合樹脂でのセルロースの複合を判別する、複合樹脂のセルロース複合判別方法。
【請求項2】
1000cm
-1以下でかつ前記判別した樹脂種の樹脂由来のピークが発現する波数とは異なる位置における前記ピーク強度比の値を複合判別情報として取得したのち、
前記複合樹脂に含まれる樹脂であってかつ予め取得した単一樹脂のサンプルのスペクトルを用いて前記複合樹脂と同様の方法でスペクトル強度(すなわち、バックグランド強度)の比の値を予め取得しておき、それらの樹脂由来のピークが発現する波数とは異なる位置におけるスペクトル強度(バックグランド強度)の比の値を比較することによって、前記複合樹脂でのセルロースの複合を判別する代わりに、
予めセルロース複合割合が既知であるサンプルを用いて導出したバックグラウンド強度に関する検量線を作成し、
前記検量線と前記取得したバックグラウンド強度の値との相関度の高さによって複合と複合割合との判別を行う、請求項1に記載の複合樹脂のセルロース複合判別方法。
【請求項3】
セルロースを含む複合樹脂に赤外光を照射する照射部と、
前記赤外光が照射された前記複合樹脂からの反射光を受光する受光部と、
前記受光部で得られた前記反射光から反射又は吸収スペクトルを取得し、取得した反射又は吸収スペクトルから、前記複合樹脂の樹脂種を判別する樹脂種判別部と、
前記反射光によって得られた前記反射又は吸収スペクトルのうち、前記複合樹脂に起因するC-H伸縮ピークである波数2800cm
-1以上でかつ3000cm
-1以下の範囲のピークにおいて最大の強度となるピーク位置の強度で規格化することによって得られたスペクトルを用いて、前記スペクトル中における1000cm
-1以下でかつ前記判別した樹脂種の樹脂由来のピークが発現する波数とは異なる位置におけるスペクトル強度(バックグランド強度)の比の値を複合判別情報として取得する複合判別情報取得部と、
前記複合判別情報取得部で取得したスペクトル強度(すなわち、バックグランド強度)の比の値と、前記複合樹脂に含まれる樹脂であってかつ予め取得した単一樹脂のサンプルのスペクトルを用いて前記複合樹脂と同様の方法で予め取得したスペクトル強度(すなわち、バックグランド強度)の比の値とを比較することによって、前記複合樹脂でのセルロースの複合を判別する複合樹脂判別部と
を備える、複合樹脂のセルロース複合判別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類の小片が集まった判別対象に対する、樹脂とセルロースとを複合させた複合樹脂に含まれるセルロースの複合判別方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大量消費及び大量廃棄型の経済活動によって、地球温暖化又は資源の枯渇など、地球規模での環境問題が発生している。
【0003】
このような状況の中、資源循環型社会の構築に向けて、日本国内では、平成13年4月から家電リサイクル法が施行されている。家電リサイクル法により、使用済みの家電製品(エアコン、テレビ、冷蔵庫、冷凍庫、洗濯機、又は衣類乾燥機など)のリサイクルが義務付けられている。これにより、使用済の家電製品は、家電リサイクル工場で破砕されて小片となった後に、磁気、風力、又は振動等を利用して材種ごとに判別回収され、リサイクル材料として再資源化されている。樹脂材料においては、ポリプロピレン(以下、PPと表記。)、ポリスチレン(以下、PSと表記。)、又はアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(以下、ABSと表記。)が家電製品に多く用いられており、樹脂の分子構造による近赤外線領域(波数範囲4000~10000cm-1)の吸光特性を利用した判別装置によって、樹脂種ごとに判別回収されている。
【0004】
この判別装置は、コンベア搬送される小片に近赤外線領域を含む光を照射し、非接触で樹脂からの反射又は吸収スペクトルを検知し、樹脂種を判別することができるため、大量の小片を判別処理することができる。
【0005】
近年、エコマテリアルの観点から天然由来の材料が注目されており、特に樹脂にセルロースを複合した複合樹脂を用いた家電製品が発売され始めている。今後は、多くの家電製品にセルロースが広がっていくと予想され、各社複合割合等が異なることが考えられる。それにより、今後は、樹脂にセルロースを複合した複合樹脂のような2種類以上の有機化合物を含んだ物質を判別する必要が出てくると予想される。
【0006】
複数種類の有機化合物が複合された物質の判別方法に関する前記の課題を考慮した方法が、特許文献1で提案されている。特許文献1に記載の技術では、未加硫ゴム組成物中の組成物を解析するためにフィラーゲル化処理を行い、フーリエ変換型赤外分光法で
図8に示すような反射スペクトルを取得し、得られたスペクトルから、検出対象であるスチレンブタンジエンゴム由来のピーク(960cm
-1、903cm
-1、697cm
-1)を特定することによって、組成の判別を行っている。また、特許文献1において、未加硫ゴム組成物に対してフィラーゲル化処理を行わない場合は、スチレンブタンジエンゴム由来のピークだけでなく、天然ゴム由来のピークも混在したスペクトルが検出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
セルロースを複合した樹脂をリサイクルするにあたっては、複合樹脂を非破壊でかつ複合されたセルロースの割合ごとに判別して分ける必要がある。
【0009】
しかしながら、特許文献1のような組成による分析では、樹脂とセルロースとが成形された複合樹脂の判別においては、セルロースのピーク強度が弱く、さらに樹脂、セルロース、及び成形時に添加される酸化防止剤のピークがお互いに重なってしまうので、ピーク強度の割合からセルロースの複合比を導出することは困難である。詳細に説明すると、一般的に家電で使用される成形された複合樹脂には、酸化防止剤が含まれる。この酸化防止剤のピークは、セルロース特有のピークであるO-H伸縮と重なる。もう1つのセルロース特有のピークであるC-O-C伸縮も、複合樹脂種によっては樹脂特有のピーク位置が重なるため、得られたスペクトルのピーク値による判別がしにくい課題がある。さらに、セルロースのピーク強度は鋭く発現されないため、10%以下の複合率では、その複合率の複合樹脂のスペクトルと樹脂単独でのスペクトルとの差が判別しにくい課題もある。
【0010】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、中赤~遠赤外線領域(波数範囲500~4000cm-1)における反射又は吸収スペクトルを用いて複合樹脂のセルロースの複合を判別する際に、得られたスペクトルのピーク値ではなく、樹脂由来のピークが発現する波数とは異なる位置におけるスペクトル強度(すなわち、バックグランド強度)の比の値に着目し、樹脂由来のピークが発現する波数とは異なる位置におけるスペクトル強度(すなわち、バックグランド強度)の比の値の増減を利用することによって、低濃度時においても、複合樹脂種に関係なくセルロースの複合を判別する、複合樹脂のセルロース複合判別方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明の1つの態様にかかる複合樹脂のセルロース複合判別方法は、
セルロースを含む複合樹脂に赤外光を照射し、
前記赤外光が照射された前記複合樹脂からの反射光を受光し、
前記反射光から得られた反射又は吸収スペクトルから、前記複合樹脂の樹脂種を判別し、
前記反射光によって得られた前記反射又は吸収スペクトルのうち、前記複合樹脂に起因するC-H伸縮ピークである波数2800cm-1以上でかつ3000cm-1以下の範囲のピークにおいて最大の強度となるピーク位置の強度で規格化することによって得られたスペクトルを用いて、前記スペクトル中における1000cm-1以下でかつ前記判別した樹脂種の樹脂由来のピークが発現する波数とは異なる位置におけるスペクトル強度(すなわち、バックグランド強度)の比の値を取得し、
前記複合樹脂に含まれる樹脂であってかつ予め取得した単一樹脂のサンプルのスペクトルを用いて前記複合樹脂と同様の方法でスペクトル強度(すなわち、バックグランド強度)の比の値を予め取得しておき、それらの値を比較することによって、前記複合樹脂でのセルロースの複合を判別する。
【0012】
前記課題を解決するために、本発明の別の態様にかかる複合樹脂のセルロース複合判別装置は、
セルロースを含む複合樹脂に赤外光を照射する照射部と、
前記赤外光が照射された前記複合樹脂からの反射光を受光する受光部と、
前記受光部で得られた前記反射光から反射又は吸収スペクトルを取得し、取得した反射又は吸収スペクトルから、前記複合樹脂の樹脂種を判別する樹脂種判別部と、
前記反射光によって得られた前記反射又は吸収スペクトルのうち、前記複合樹脂に起因するC-H伸縮ピークである波数2800cm-1以上でかつ3000cm-1以下の範囲のピークにおいて最大の強度となるピーク位置の強度で規格化することによって得られたスペクトルを用いて、前記スペクトル中における1000cm-1以下でかつ前記判別した樹脂種の樹脂由来のピークが発現する波数とは異なる位置におけるスペクトル強度(すなわち、バックグランド強度)の比の値を複合判別情報として取得する複合判別情報取得部と、
前記複合判別情報取得部で取得したスペクトル強度(すなわち、バックグランド強度)の比の値と、前記複合樹脂に含まれる樹脂であってかつ予め取得した単一樹脂のサンプルのスペクトルを用いて前記複合樹脂と同様の方法で予め取得したスペクトル強度(すなわち、バックグランド強度)の比の値とを比較することによって、前記複合樹脂でのセルロースの複合を判別する複合樹脂判別部とを備える。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の前記態様にかかる複合樹脂のセルロース複合判別方法及び装置によれば、判別対象物における反射又は吸収スペクトルを用いて、判別した樹脂種に応じて1000cm-1以下の波数における樹脂由来のピーク位置の波数とは異なる位置の波数を選択し、その選択した波数におけるスペクトル強度(すなわち、バックグランド強度)の比を取得し、取得したスペクトル強度(すなわち、バックグランド強度)の比の値の増減を利用して、複合樹脂内に複合されているセルロースの複合を高精度に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態1及び2における複合樹脂のセルロース複合判別装置の模式図
【
図2】本発明の実施の形態1及び2における検出領域の模式図
【
図3】本発明の実施の形態1における複合樹脂のセルロース複合判別方法のフローチャート
【
図4A】本発明の実施の形態1で得た複合樹脂スペクトルのグラフ
【
図4B】本発明の実施の形態1においてPP、ABS、及びPSのピーク強度の波数が互いに異なることを示す反射率と波数とのグラフ
【
図5】本発明の実施の形態2における屈折率の違いによる潜り込み深さの関係を示すグラフ
【
図6】本発明の実施の形態2における複合樹脂のセルロース複合判別方法のフローチャート
【
図7】本発明の実施の形態2におけるPPとセルロースにおける波数500cm
-1においての反射率ピーク強度比の値をセルロースの複合割合別にプロットしたグラフ
【
図8】特許文献1に記載された従来の複合樹脂判別において、未加硫ゴム組成物に対してフィラーゲル化処理を行う場合の反射スペクトルのグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、
図1~
図7の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1にかかる、複合樹脂のセルロース複合判別方法及び装置は、
例えばセルロースファイバーなどのセルロースを含む複合樹脂等に赤外光を照射し、
赤外光が照射された複合樹脂からの反射光を受光し、
反射光によって得られた反射又は吸収スペクトルから、複合樹脂の樹脂の種類(すなわち樹脂種)を判別し、
反射光によって得られた反射又は吸収スペクトルのうち、複合樹脂に起因するC-H伸縮ピークである波数2800cm-1以上でかつ3000cm-1以下の範囲のピークにおいて最大の強度となるピーク位置の強度で規格化し、規格化することによって得られたスペクトルを用いて、スペクトル中における1000cm-1以下でかつ前記判別した樹脂種の樹脂由来のピークが発現する波数とは異なる位置におけるスペクトル強度(すなわち、バックグランド強度)の比の値を取得し、
複合樹脂に含まれる樹脂であってかつ予め取得した単一樹脂のサンプルのスペクトルを用いて複合樹脂と同様の方法でスペクトル強度(すなわち、バックグランド強度)の比の値を複合判別情報として予め取得しておき、それらの値を比較することによって、前記複合樹脂でのセルロースの複合を判別する。
【0017】
ここで、実施の形態1では、ピーク強度の値を比較するのではなく、バックグラウンド強度の値を比較する。
【0018】
ピーク強度の定義としては、取得した分光スペクトル強度のうち、樹脂由来のピークが発現する波数においてスペクトルが尖った強度を意味する。
【0019】
これに対して、バックグラウンド強度の定義としては、取得した分光スペクトル強度のうち、材料由来出現ピークとは異なる波数のスペクトル強度を意味する。
【0020】
強度比としているのは、生データから樹脂のトップピークにて規格化しているためである。
【0021】
以下、実施の形態1を詳細に説明する。実施の形態1では、セルロースの有無を求める。
【0022】
図1に示すように、複合樹脂判別装置1は、検出領域7と照射部8aと受光部8bとを有する赤外線検出ユニット8と、演算処理部10とを少なくとも備えている。さらに、複合樹脂判別装置1は、載置部5を備えるようにしてもよい。
【0023】
載置部5は、一例として、ベルトコンベアの例を示しており、ベルトが一定の速度で移動しており、試料である複合樹脂2が上面に載置されて、複合樹脂2を移送することができる。この載置部5により、複合樹脂2が、載置部5の長手方向沿いに、検出領域7まで移送され、検出領域7に複合樹脂2が位置すると、移送停止される。
【0024】
赤外線検出ユニット8は、検出領域7の複合樹脂2への赤外線を照射する機能と、照射光3の複合樹脂2からの反射光4を受光する機能とを備えている。
【0025】
検出領域7では、
図2で示すように、試料固定機構6で、複合樹脂2を載置部5の上面に対してプリズム7a側に密着させながら固定する。試料固定機構6は、一例として、上から下向きに、複合樹脂2を載置部5の上面に押し付ける棒のような部材である。検出領域7には、赤外線検出ユニット8の一例として、下方から上方に向けて照射光3の一例としての赤外光を照射する機構としての照射部8a及び反射光4を検出する機構としての受光部8bを少なくとも備えている。よって、照射部8aからの照射光3はプリズム7a及び載置部5を通過して複合樹脂2の下面に照射され、複合樹脂2の下面で反射された反射光4が載置部5及びプリズム7aを通過して受光部8bに受光される。受光部8bで受光されて得られた情報は、演算処理部10に入力される。このため、載置部5は、赤外光及びその反射光が通過可能な材料で構成されている。
【0026】
なお、照射光3及び反射光4は、それぞれ、複合樹脂2の分子構造による吸光特性を利用するためには、波数500~4000cm-1 の帯域を含んでいる必要がある。
【0027】
赤外線検出ユニット8は、デジタルデータ変換部9を介して、演算処理部10に接続されている。
【0028】
デジタルデータ変換部9は、赤外線検出ユニット8によって、反射光4に応じて出力された電気信号をデジタルデータへ変換する。
【0029】
演算処理部10は、受光部8bで得られた反射光4のデジタルデータに基づく複合樹脂2の反射又は吸収スペクトルから、判別対象物の複合樹脂2の複合樹脂種を判別したのち、セルロースの複合についても判別する。具体的には、演算処理部10では、デジタルデータ変換部9から出力されたデジタルデータに基づいて、これらを判別する。
【0030】
このため、演算処理部10は、大別して、樹脂種判別部110と、スペクトル評価部120と、複合樹脂判別部130とを備えている。
【0031】
樹脂種判別部110は、スペクトル強度取得部110aと、相関度取得部110bとを備えている。
【0032】
スペクトル評価部120は、規格化処理部120aと、複合判別情報取得部120bとを備えている。
【0033】
樹脂種判別部110は、複合樹脂2の樹脂種を判別する。
【0034】
樹脂種判別部110のスペクトル強度取得部110aは、反射光4に基づいてスペクトル強度を取得する。すなわち、まず、受光部8bで受光した反射光4のアナログデータが、受光部8bからデジタルデータ変換部9を通してデジタルデータに変換されたのち、演算処理部10のスペクトル強度取得部110aに入力される。デジタルデータ変換部9では、反射光4のアナログデータが反射光4のデジタルデータに変換される。スペクトル強度取得部110aでは、入力された反射光4のデジタルデータに基づいて、複合樹脂2の反射又は吸収スペクトルを算出する。ここで、例えば、反射又は吸収スペクトルとスペクトル強度との関係を表すため、例えば表形式又はグラフ形式に変換した関係情報をスペクトル強度取得部110aでは予め記憶するなどして用意しておく。この関係情報から、算出した反射又は吸収スペクトルに基づいた複合樹脂判別用のスペクトル強度を、スペクトル強度取得部110aで取得する。
【0035】
樹脂種判別部110の相関度取得部110bは、スペクトル強度取得部110aで取得した複合樹脂判別用のスペクトル強度を基に、スペクトル強度と、複合樹脂2に含まれる樹脂であってかつ予め取得した樹脂単体におけるスペクトル波形とから相関度を求める。樹脂単体におけるスペクトル波形が複数あるときは、それぞれの相関度を相関度取得部110bで求める。さらに、相関度取得部110bでは、複数の相関度の中から、相関度の高いものを求めて、樹脂種の判別を行う。
【0036】
スペクトル評価部120の規格化処理部120aは、スペクトル強度取得部110aで取得したスペクトル強度を樹脂由来のC-H伸縮のピークにて規格化処理を行う。すなわち、規格化処理部120aは、取得したスペクトル強度より、波数2800cm-1以上でかつ3000cm-1以下の範囲においてピーク強度の最大値が1となるように規格化を行う。具体例については後述する。
【0037】
複合判別情報取得部120bは、規格化処理部120aで規格化することによって、取得したスペクトル中における1000cm-1以下でかつ樹脂由来のピークが発現する波数とは異なる位置におけるスペクトル強度(すなわち、バックグランド強度)の比の値を複合判別情報(言い換えれば、複合判別対象情報)として取得する。また、複合判別情報取得部120bは、複合樹脂2に含まれると判別された樹脂であってかつ予め取得した単一樹脂のサンプルのスペクトルを用いて、複合樹脂2と同様の方法でスペクトル強度(すなわち、バックグランド強度)の比の値を複合判別情報(言い換えれば、複合判別基準情報)として予め取得しておく。
【0038】
ここで、複合の判別だけでなく、さらに複合割合の判別も行うときは、複合割合の判別において、複合割合が既知のサンプルを用いて、スペクトルデータを教示させる必要がある。同一樹脂種でかつ単一樹脂と、セルロースの複合割合が既知の樹脂とのスペクトルをそれぞれ取得して、それらのバックグラウンド強度値を複合割合でプロットした検量線を作成する。そして、実際の測定で用いた未知試料から得られたバックグラウンド強度と検量線との間で、複合割合を決定する。その決定の際に、複合割合を決定する手法として、相関係数、回帰分析、又は、多変量解析を用いる。なお、先に述べたように、バックグラウンド強度とは、取得した分光スペクトル強度のうち、材料由来出現ピークとは異なる波数のスペクトル強度を意味する。よって、バックグラウンド強度を利用することによって、材料組成特有のピーク同士の混在がなく評価できるため、セルロースの割合を高精度に評価が可能である。
【0039】
複合樹脂判別部130は、複合判別情報取得部120bでそれらのピーク強度(すなわち、バックグランド強度)の比の値を比較することによって、複合樹脂2でのセルロースの複合を判別する。具体的には、複合樹脂判別部130は、樹脂由来のピークが発現する波数とは異なる位置におけるスペクトル強度(すなわち、バックグランド強度)の比の値を単一樹脂と複合樹脂との間でそれぞれ取得する。その結果、複合判別対象情報である判別対象の樹脂のスペクトル強度の比の値が、複合判別基準情報である単一樹脂のスペクトル強度の比の値よりも大きい場合において、複合樹脂であると、すなわち、セルロースの複合であると判別する。
【0040】
判別を行う手法として、単一樹脂及びセルロース複合樹脂を測定したときに樹脂由来のピークが発現する波数とは異なる位置におけるスペクトル強度(すなわち、バックグランド強度)の比の値を閾値として規定する。予め規定した閾値の値と実測で得られた値とからセルロースの有無を判別する際に、相関情報が必要となる。
【0041】
ここで、相関情報とは、閾値との値の差である。相関情報の例としては、スペクトルデータベースを作成し、取得したスペクトルとの閾値との値の差等が考えられる。
【0042】
閾値は、セルロース複合樹脂のスペクトルから得られたバックグラウンド強度から設定する。判別したい複合割合が既知のセルロース複合樹脂を用いて予め測定し、樹脂及びセルロース特有のピークと被らない波数のバックグラウンド強度を求める。そのバックグラウンド強度を閾値として、セルロースの有無を判別する。
【0043】
ここで、実施の形態1に係る複合樹脂の判別方法について
図3を用いて説明する。
【0044】
図3は、実施の形態1に係る複合樹脂の判別方法の処理の手順を示すフローチャートである。
【0045】
まず、ステップS01では、載置部5により、セルロースが複合された複合樹脂2の試料を移送して、検出領域7内のATR(Attenuated Total Reflection:全反射測定法)プリズム7aの上方の位置に、セルロースが複合された複合樹脂2を停止させる。その位置で、
図2中の試料固定機構6にて、複合樹脂2に、プリズム7aの方向へ押圧力を付与して負荷をかけて、複合樹脂2と載置部5とプリズム7aとを密着させる。ここで、ATRプリズムを用いる理由は、ATRプリズムを用いたFT-IR(すなわちフーリエ変換赤外分光法)でなければ、原理的に解析で用いるバックグラウンド強度が出現しないためである。
【0046】
次いで、ステップS02では、検出領域7内の、セルロースが複合された複合樹脂2の試料に、
図1で示すような照射部8aから照射光3として赤外光を、プリズム7aと載置部5とを介して照射する。
【0047】
次いで、ステップS03では、ステップS02で照射部8aから照射した照射光3が複合樹脂2の表面で反射光4として反射されるとき、この反射光4を、載置部5とプリズム7aとを介して受光部8bで受光して検出する。
【0048】
次いで、ステップS04では、ステップS03で受光部8bにより検出した反射光4の情報が、デジタルデータ変換部9を通してフーリエ変換されて、デジタルデータとして、演算処理部10の樹脂種判別部110のスペクトル強度取得部110aに入力される。ペクトル強度取得部110aでは、入力されたデジタルデータを基に中遠赤外線領域のおけるスペクトルを算出する。スペクトル強度取得部110aでは、算出した反射又は吸収スペクトルを基に、例えば、反射又は吸収スペクトルとスペクトル強度との関係を表す例えば表形式又はグラフ形式の関係情報を利用して、複合樹脂判別用のスペクトル強度を取得する。
【0049】
次いで、ステップS05では、樹脂種判別部110の相関度取得部110bにおいて、ステップS04で取得したスペクトル強度と、複合樹脂2に含まれる1種類以上の樹脂であってかつ予め取得した樹脂単体におけるスペクトル波形とから相関度を求める。樹脂単体におけるスペクトル波形が複数あるときは、それぞれの相関度を相関度取得部110bで求める。さらに、相関度取得部110bでは、複数の相関度の中から、相関度の高いものを求めて樹脂種の判別を行う。以下の
図4Aの例では、樹脂種としてPPを判別している。
【0050】
ここでの相関度は、スペクトルデータベースと取得したスペクトルとを比較することによって、セルロースが複合される樹脂の種類を求めるときに使う相関係数のことを意味する。その結果から、母材樹脂種を決定する。
図4Aは、PP単体樹脂とセルロースが複合されたPP樹脂とのスペクトルを示している。
図4Bは、PP、ABS、PSのスペクトルデータであって、PPのピーク強度の波数がABS又はPSのピーク強度の波数とは全く異なることを示している。ここでは、PPの相関度よりも、PP以外の樹脂であるABS又はPSの相関度が低くなっている。
【0051】
次いで、ステップS06では、演算処理部10のスペクトル評価部120の規格化処理部120aにおいて、取得したスペクトル強度より、複合樹脂2に起因するC-H伸縮ピークである波数2800cm
-1以上でかつ3000cm
-1以下の範囲においてピーク強度の最大値が1となるように規格化を行う。この実施例においては、一例として、
図4Aに、PPとセルロースとが複合された複合樹脂のスペクトルを示す。PPの場合、一例として、波数2917cm
-1のピーク強度で規格化処理部120aにより規格化した。この
図4Aから、セルロース特有のピークであるO-H伸縮とC-O-C伸縮とのピーク位置では、波数2800cm
-1以上でかつ3000cm
-1以下の範囲(すなわち、
図4Aで2本の縦の点線の間の範囲)においてピーク強度の最大値が1となるように規格化処理部120aで規格化を行う。この規格化を行うことによって導出される反射率ピーク強度比の差が、各スペクトルの間でほとんどなく見分けがつかないことが分かる。
【0052】
この結果、C-H伸縮ピークである波数2800cm-1以上でかつ3000cm-1以下の範囲においてピーク強度の最大値が1となるように規格化を行う処理によって、バックグラウンド強度比の変化を、処理前と比較して、明確にすることができる。
【0053】
次いで、ステップS07では、スペクトル評価部120の複合判別情報取得部120bにおいて、低波数側(1000cm
-1以下)で、前記判別した樹脂種の樹脂(この例では、PP)と被らない波数を選択する。すなわち、ここで選択する波数の値は、ステップS05で判別した樹脂種に応じたピーク位置と被らない波数を複合判別情報取得部120bで決定する必要がある。
図4Aでは、PPとセルロースとを複合させたサンプルおけるスペクトルを示す。
図4A内にて、1000cm
-1以下の波数においてバックグラウンド強度を算出するためには、判別した樹脂種の樹脂であるPPのピーク波数と被らない領域、すなわち、この中ではCH
2=CH(波数990cm
-1)と、HC=CH(波数970cm
-1)と、CH
2COOH(波数940cm
-1)と、CH(波数840cm
-1)と、CH(波数810cm
-1)と、CH
2(波数720cm
-1)と、CH(波数670cm
-1)とのそれぞれのピークと被らない波数を、複合判別情報取得部120bで選択する必要がある。
図4Aの実施例では、PPとセルロースとのピークが被らないでかつ、赤外光の侵入深さの差が大きい値として、波数500cm
-1を複合判別情報取得部120bで選択する。
【0054】
このように、PPの実施例におけるバックグラウンド強度は、PPとセルロースのピーク位置と異なる波数より算出する。その中でも、
図5の潜り込み深さの関係から、波数としては、スペクトル内で一番屈折率による変化が大きい500cm
-1を選択する。
【0055】
なお、樹脂由来のピークが発現する波数とは異なる位置におけるスペクトル強度の比を、バックグラウンド強度比とし、樹脂由来のピークが発現する波数でのスペクトル強度比を、ピーク強度比としている。
【0056】
次いで、ステップS08では、選択した波数におけるバックグラウンド強度比の値を複合判別情報取得部120bで複合判別情報として算出する。ここで、複合樹脂2に含まれる樹脂であってかつ予め取得した単一樹脂のサンプルのスペクトルを用いて複合樹脂2と同様の方法でバックグラウンド強度比の値を複合判別情報取得部120bで複合判別情報として予め取得しておく。一例として、
図4Aの横軸には波数の値をプロットし、縦軸には、ステップS07にて選択した波数500cm
-1におけるセルロース複合割合別の反射率ピーク強度比の値をプロットしている。この場合では、PPの樹脂に対してセルロース0%では反射率ピーク強度比は0.053、セルロース5%では0.070、セルロースが10%複合されると0.093となり、セルロースの複合割合が増えるにつれて、反射率ピーク強度比の値が増加することが分かる。この情報を複合樹脂判別部130が予め取得しておく。
【0057】
次いで、ステップS09では、判別対象となる複合樹脂2と同じ樹脂種のセルロースの割合を予め決めて、割合が既知であるサンプルより、事前に1000cm-1以下の領域での複数のバックグラウンド強度比を複合判別情報取得部120bでそれぞれ導出しておき、それらを閾値とする。これらの複数の閾値は、演算処理部10の複合樹脂判別部130に予め取得しておく。複合樹脂判別部130において、ステップS08で取得したバックグラウンド強度比の値を前述の複数の閾値それぞれと比較することによって、複数の閾値の間にバックグラウンド強度比が位置すれば、セルロースの複合と複合割合とが判別可能となる。例えば、ステップS08で取得した値が、前述の複数の閾値のうちの第1の閾値よりも大きくかつ第2の閾値よりも小さい場合には、第2の閾値に対応するX%の割合だけセルロースが含まれており、セルロースの複合があり、かつ複合割合はX%であると判別することができる。
【0058】
このように、閾値を一つにして、その閾値と比較して大きい小さいで判別する。パーセンテージ毎のセルロース複合割合別の実施例に関しては、
図7にプロットしている。例として、判別の基準を5%とするならば、
図7より閾値を0.06944と設定し、この値より上であれば、5%以上のセルロースが複合されていると判別できる。
【0059】
前記したように、実施の形態1によれば、判別対象物である複合樹脂2における反射又は吸収スペクトルを用いて、判別した樹脂種に応じて1000cm-1以下の波数における樹脂由来のピーク位置とは異なる波数を選択し、その波数におけるピーク強度比を算出し、予めセルロースが複合されていない既知の樹脂のピーク強度比とを比較して、複合樹脂2内に複合されているセルロースの複合と複合割合とを高精度に判別することができる。
【0060】
このように高精度に判別することができる理由は以下の通りである。
【0061】
従来の組成よる分析では、樹脂とセルロースとが成形された複合樹脂の判別においては、セルロースのピーク強度が弱く、さらに樹脂、セルロース、及び成形時に添加される酸化防止剤のピークがお互いに重なってしまうので、ピーク強度の割合からセルロースの複合比を導出することは困難である。これに対して、この実施の形態1では、バックグラウンド強度を利用することによって、材料組成特有のピーク同士の混在がなく評価できるため、セルロースの割合を高精度に評価が可能となる。
【0062】
(実施の形態2)
実施の形態1において、判別した樹脂種に応じて1000cm-1以下の波数における樹脂由来のピーク位置とは異なる波数を選択し、その波数におけるバックグラウンド強度比を算出し、予めセルロースが複合されていない既知の樹脂のバックグラウンド強度比とを比較して、複合樹脂2内にセルロースが複合されているか否かを判別している。
【0063】
しかしながら、本発明は、これに限られるものではなく、バックグラウンド強度比を比較する代わりに、複合判別情報取得部120bにおいて、予め複合割合が既知の複合樹脂からバックグラウンド強度を取得して検量線を引き、検量線との相関度によって複合と複合割合とを複合樹脂判別部130で判別する方法もある。すなわち、複合判別情報取得部120bにおいて、バックグラウンド強度比を比較する代わりに、予めセルロース複合割合が既知であるサンプルを用いて導出したバックグラウンド強度に関する検量線を作成し、次いで、検量線と前記取得したバックグラウンド強度の値との相関度の高さによって複合と複合割合との判別を複合樹脂判別部130で行うものである。
【0064】
この方法では、物質由来の組成ではなく、屈折率の違いによるバックグラウンドの強度の増減によって評価するため、組成によるピークが出現しにくい物質においても、複合と複合割合とをより正確に判別することができるという点で優れる。
【0065】
このバックグラウンド強度は、複合樹脂とセルロースとの屈折率の違いによる赤外光の潜り込み深さの関係によって決定される。
図5に、屈折率の違いによる潜り込み深さの関係を示す。PPの屈折率は1.48である。また、セルロースの屈折率は1.58である。その結果、セルロースが複合されるにつれて、入射光が入り込む潜り込み深さが深くなっていき、その深さが増加するにつれて、低波数側でバックグラウンド強度が増加するということである。潜り込み深さと試料の屈折率との関係を表した式は
【数1】
である。
【0066】
この潜り込み深さを決める要素として、波長、入射角、プリズムの屈折率、試料の屈折率がある。波長は波数(500~4000cm-1)を波長に換算すると、波数500cm-1では波長20μm、波数4000cm-1では波長2.5μmとなるため、低波数側では波長が長くなり、潜り込み深さが増加する。照射光の入射角の角度によって、判別可能な試料の屈折率に制約があるため、測定対象の試料に合わせて入射角度を決定する必要がある。今回の場合、照射光の入射角は45度で行った。プリズムは屈折率が低い方が潜り込み深さがより深くなるため、使用される素材の中でも最も屈折率の低いダイヤモンドを用いた。今回の場合において、屈折率は2.4となる。試料の屈折率は、今回測定に用いた複合樹脂の屈折率である。セルロースの屈折率は1.58、一般的に家電で使用される複合樹脂であるPPは1.48、PSは1.60、ABSは1.51である。赤外光の潜り込み深さは、材料の屈折率によって変化するため、この式で考えると、屈折率が大きくなると照射光の潜り込み深さも深くなるため、反射されて返ってくる反射光もその分大きくなる。その結果、バックグラウンド強度が増加し、この増減を利用して判定を行っている。そのため、これらの複合樹脂とセルロースとが複合された場合においても判別可能であると考えている。
【0067】
上記の関係から、
図6に、検量線を用いて複合割合を判別するためのフローチャートを示す。ステップS01~ステップS07は実施の形態1のステップS01~ステップS07と同じである。
【0068】
ステップS08では、実施の形態1のステップS08と同様に、波数1000cm
-1において樹脂とセルロースが被らない波数における反射率ピーク強度比の値を複合判別情報として複合判別情報取得部120bで算出する。
図7はPPとセルロースにおける波数500cm
-1においての反射率ピーク強度比の値をセルロースの複合割合別にプロットしたものである。この結果から、複合判別情報取得部120bで近似線を引くと、
【数2】
(2)の式で表す近似曲線が引けることとなる。
【0069】
ステップS09では、複合判別情報取得部120bにおいて、ステップS08で算出した強度の値を複合割合にどのように落とし込んでいくかを述べる。強度の値から複合割合を複合判別情報として複合判別情報取得部120bで算出するには、強度に対する基準値が必要となる。この基準値を決定する方法として、予め既知の試料から、セルロースの複合比とステップS07で選択した波数におけるバックグラウンド強度との関係のデータを複合判別情報取得部120bで測定し、測定データから検量線を複合判別情報取得部120bで作成する必要がある。
【0070】
ステップS10では、複合樹脂判定部130において、作成した検量線に対して、未知の試料を測定して得られたバックグラウンド強度の値と相関強度の高い点で当てはめることによって、複合割合を導出する。
【0071】
以上のように、実施の形態2に係る複合割合判別方法及び装置によれば、判別対象物における反射又は吸収スペクトルを用いて、判別した樹脂種に応じて1000cm-1以下の波数における樹脂由来のピーク位置とは異なる波数を選択し、その波数におけるピーク強度比を算出し、ピーク強度比を比較する代わりに、予め複合割合が既知の複合樹脂からバックグラウンド強度を取得して検量線を引き、検量線との相関度によって、複合樹脂2内に複合されているセルロースの複合と複合割合とを高精度に判別することができる。
【0072】
このように高精度に判別することができる理由は以下の通りである。
【0073】
従来の組成よる分析では、樹脂とセルロースとが成形された複合樹脂の判別においては、セルロースのピーク強度が弱く、さらに樹脂、セルロース、及び成形時に添加される酸化防止剤のピークがお互いに重なってしまうので、ピーク強度の割合からセルロースの複合比を導出することは困難である。これに対して、この実施の形態2では、バックグラウンド強度を利用することによって、材料組成特有のピーク同士の混在がなく評価できるため、セルロースの割合を高精度に評価が可能となる。
【0074】
なお、前記様々な実施形態又は変形例のうちの任意の実施形態又は変形例を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。また、実施形態同士の組み合わせ又は実施例同士の組み合わせ又は実施形態と実施例との組み合わせが可能であると共に、異なる実施形態又は実施例の中の特徴同士の組み合わせも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の前記態様にかかる、複合樹脂のセルロース複合判別方法及び装置は、セルロースを含む複合樹脂についてセルロースの複合を迅速に判別することができるため、複数の判別対象物の中からセルロースの複合割合の高い複合樹脂を、高純度化が求められるリサイクル工程等に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 複合樹脂判別装置
2 複合樹脂
3 照射光
4 反射光
5 載置部
6 試料固定機構
7 検出領域
7a プリズム
8 赤外線検出ユニット
8a 照射部
8b 受光部
9 デジタルデータ変換部
10 演算処理部
110 樹脂種判別部
110a スペクトル強度取得部
110b 相関度取得部
120 スペクトル評価部
120a 規格化処理部
120b 複合判別情報取得部
130 複合樹脂判別部