(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】セラミックス樹脂複合体と金属板の仮接着体、その製造方法、当該仮接着体を含んだ輸送体、およびその輸送方法
(51)【国際特許分類】
C04B 41/83 20060101AFI20230410BHJP
C04B 37/02 20060101ALI20230410BHJP
B32B 18/00 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
C04B41/83 G
C04B37/02 Z
B32B18/00 B
(21)【出願番号】P 2020505091
(86)(22)【出願日】2019-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2019008969
(87)【国際公開番号】W WO2019172345
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2018041238
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】南方 仁孝
(72)【発明者】
【氏名】山縣 利貴
(72)【発明者】
【氏名】井之上 紗緒梨
(72)【発明者】
【氏名】吉松 亮
(72)【発明者】
【氏名】古賀 竜士
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/155110(WO,A1)
【文献】特開2016-103611(JP,A)
【文献】特開2017-028130(JP,A)
【文献】特開2016-169325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/83
C04B 37/02
B32B 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非酸化物セラミックス焼結体に、示差走査型熱量計から計算される硬化率が5.0%以上70%以下となるようにシアネート基を有する熱硬化性樹脂組成物を含浸させたセラミックス樹脂複合体と、
該セラミックス樹脂複合体の少なくとも一つの面に仮接着した状態にある金属板と
を含み、前記セラミックス樹脂複合体と前記金属板とのせん断接着強度が0.1MPa以上1.0MPa以下であるセラミックス金属仮接着体。
【請求項2】
該セラミックス樹脂複合体の一つの面のみに金属板が仮接着した状態にある、請求項1に記載のセラミックス金属仮接着体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセラミックス金属仮接着体を包装資材で包んだ輸送体。
【請求項4】
非酸化物セラミックス焼結体に、示差走査型熱量計から計算される硬化率が5.0%以上70%以下となるようにシアネート基を有する熱硬化性樹脂組成物を含浸させてセラミックス樹脂複合体を得るステップと、
前記セラミックス樹脂複合体又は十点平均粗さが20μm以下の金属板の少なくとも片側の面に活性水素を有する液体化合物を塗布するステップと、
前記セラミックス樹脂複合体と前記金属板とを密着させてから、0℃~40℃の範囲の温度で250MPa以下の圧縮加重をかけて前記セラミックス樹脂複合体と前記金属板とを仮接着し、前記セラミックス樹脂複合体と前記金属板とのせん断接着強度を0.1MPa以上1.0MPa以下とするステップと、
を含むセラミックス金属仮接着体の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の輸送体を輸送用箱に収めるステップと、
前記輸送用箱を輸送するステップと、
を含むセラミックス金属仮接着体の輸送方法。
【請求項6】
前記輸送体を、緩衝材と共に輸送用箱に収めることで、前記セラミックス金属仮接着体が前記輸送用箱の中で実質的に移動しないように構成する、請求項5に記載の輸送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物を用いたセラミックス樹脂複合体と金属板の仮接着体とその製造方法に関し、さらには当該仮接着体を含んだ輸送体とその輸送方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、LED照明装置、車載用パワーモジュール等に代表される電子機器の高性能化及び小型化に伴い、半導体デバイス、プリント配線板実装、装置実装の各階層において実装技術が急激に進歩している。そのため、電子機器内部の発熱密度は年々増加しており、使用時に発生する熱を如何に効率的に放熱するか、そしてその電子機器の信頼性が重要な課題となる。そのため、電子部材を固定するためのセラミックス樹脂複合体シートには、高い熱伝導率および信頼性が要求されている。
【0003】
上記のセラミックス樹脂複合体シートには、従来から、未硬化の状態の熱硬化性樹脂に酸化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の熱伝導率の高いセラミックス粉末を分散させた後、各種コーターによる塗工等でシート状に成形し、加熱により熱硬化性樹脂を半硬化状態とした熱硬化性樹脂組成物が用いられてきた。
【0004】
特許文献1では、金属ベース回路基板において、半硬化状態(Bステージ)の熱硬化性樹脂中にセラミックス粉末を分散させた熱伝導性絶縁接着シート上に金属箔を配置した状態で、熱伝導性絶縁接着シートに含有される熱硬化性樹脂を硬化してCステージにすることによって、放熱性に優れた金属ベース回路基板を簡便な方法で得ることを可能にしている。
【0005】
しかし、上記の特許文献1の発明においては、セラミックス粉末の各粒子間に熱伝導率の低い熱硬化性樹脂層が存在することから、熱伝導率は最高でも15W/(m・K)であり、高い熱伝導率を得ることには限界があった。
【0006】
そこで特許文献2では、熱伝導率の高いセラミックス一次粒子を焼結し、3次元的に連続する一体構造となしたセラミックス焼結体の細孔中に熱硬化性樹脂を充填したセラミックス樹脂複合体を板状に加工したものが提案されている。この構造により高い熱伝導率・接着性を持つセラミックス樹脂複合体が実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-49062号公報
【文献】特開2016-111171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の特許文献2の発明においてはセラミックス樹脂複合体シートと金属板の接着方法として、セラミックス樹脂複合体シートを加熱硬化させた後に、使用している熱硬化性樹脂を再度セラミックス樹脂複合体シートの表面に塗布してから加圧・加熱を行うという方法をとっている。この方法では樹脂の完全硬化により強い接着力を示すが、一方で一度接着を行うと熱硬化性樹脂が完全に不可逆に硬化・変性(変質)してしまい、もう一度接着を行うということは不可能である。つまりセラミックス樹脂複合体シートの両面に金属板を接着する場合はまとめて一度の加熱により行う必要があった。
【0009】
このように加熱と圧力印加により両面に金属板を接着したセラミックス樹脂複合体シートは、もはやさらに加工することができない。このため、セラミックス樹脂複合体シートの加工を行いたい需要者の要望に十分に応えられない問題があった。しかしながらその一方で、金属板を接着せずにセラミックス樹脂複合体シートのみを輸送すると、その強度の弱さから輸送時にクラック等の劣化が発生してしまいやすい問題が発生してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記のような背景技術を鑑み、強度の低いセラミックス樹脂複合体を含んでいても安全かつ簡易に輸送でき、しかも再度の加工が可能であるような仮接着体を提供することを課題とする。本発明者は、需要者へセラミックス樹脂複合体を輸送する前に、その片面に金属板を、熱硬化性樹脂を変質させずに接着させておくことで、輸送後にも残りの片面に金属板を接着できると共に、輸送中にセラミックス樹脂複合体に掛かる衝撃を緩和し劣化を防止できるということを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の実施形態では上記の課題を解決するために、以下を提供できる。
【0011】
[1]
非酸化物セラミックス焼結体に、示差走査型熱量計から計算される硬化率が5.0%以上70%以下となるようにシアネート基を有する熱硬化性樹脂組成物を含浸させたセラミックス樹脂複合体と、
該セラミックス樹脂複合体の少なくとも一つの面に仮接着した状態にある金属板と
を含み、前記セラミックス樹脂複合体と前記金属板とのせん断接着強度が0.1MPa以上1.0MPa以下であるセラミックス金属仮接着体。
【0012】
[2]
該セラミックス樹脂複合体の一つの面のみに金属板が仮接着した状態にある、[1]に記載のセラミックス金属仮接着体。
【0013】
[3]
[1]または[2]に記載のセラミックス金属仮接着体を包装資材で包んだ輸送体。
【0014】
[4]
非酸化物セラミックス焼結体に、示差走査型熱量計から計算される硬化率が5.0%以上70%以下となるようにシアネート基を有する熱硬化性樹脂組成物を含浸させてセラミックス樹脂複合体を得るステップと、
前記セラミックス樹脂複合体又は十点平均粗さが20μm以下の金属板の少なくとも片側の面に活性水素を有する液体化合物を塗布するステップと、
前記セラミックス樹脂複合体と前記金属板とを密着させてから、0℃~40℃の範囲の温度で250MPa以下の圧縮加重をかけて前記セラミックス樹脂複合体と前記金属板とを仮接着し、前記セラミックス樹脂複合体と前記金属板とのせん断接着強度を0.1MPa以上1.0MPa以下とするステップと、
を含むセラミックス金属仮接着体の製造方法。
【0015】
[5]
[3]に記載の輸送体を輸送用箱に収めるステップと、
前記輸送用箱を輸送するステップと、
を含むセラミックス金属仮接着体の輸送方法。
【0016】
[6]
前記輸送体を、緩衝材と共に輸送用箱に収めることで、前記セラミックス金属仮接着体が前記輸送用箱の中で実質的に移動しないように構成する、[5]に記載の輸送方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実施形態により提供されるセラミックス金属仮接着体は、需要者へと輸送した後にもセラミックス樹脂複合体部分の加工を行うことができ、しかも輸送時の衝撃にも強く、信頼性が高いという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書においては、別段の断りがないかぎりは、数値範囲はその上限値および下限値を含むものとする。以下に、本発明の実施形態において使用される各種材料、評価方法及び評価結果について説明する。
【0019】
<仮接着体>
本発明の実施形態に係るセラミックス金属仮接着体とは、後述する「セラミックス樹脂複合体」または「セラミックス樹脂複合体シート」の少なくとも片側の面、好ましくは一方の面のみに、金属板が仮接着されたものをいう。本明細書において金属板の「仮接着」とは、仮接着の対象であるセラミックス樹脂複合体に含浸している熱硬化性樹脂を加熱せず、すなわち当該熱硬化性樹脂が変質しない状態で、金属板が当該セラミックス樹脂複合体に接着することを指す。なお上記「仮接着」の定義に関して言う「加熱」とは、仮接着の対象となるセラミックス樹脂複合体と金属板の置かれた環境下で、周囲温度を超える温度となるように対象へ熱を掛けることを言う。周囲温度は通常、0~40℃または常温である。そうした「加熱」には例えば40℃または常温を超える温度となるように熱を掛けることが含まれ、一例としては200℃程度の熱をヒーターなどにより掛けることが挙げられるが、プレス加圧による若干の温度上昇は含まないものとする。すなわち本明細書での「仮接着体」とは、最終製品ではなく、そうした「加熱」が実質的にされておらずさらにセラミックス樹脂複合体部分の加工を行うことができる状態のものを言う。また上記「仮接着」の定義に関して言う「変質」とは、熱硬化性樹脂が熱により変性し、硬化反応が進んで硬化率が実質的に上昇することを言う。本明細書における仮接着の前後においては、測定誤差を除き硬化率が実質的に上昇しないため、熱硬化性樹脂が変質していないとみなすことができる。当該仮接着によるセラミックス樹脂複合体と金属板とのせん断接着強度は、仮接着体を動かしたり向きを変えたりしても外れない程度であることが実用上好ましい。好ましい実施形態では、当該せん断接着強度は、0.1MPa以上であり、より好ましくは0.2MPa以上、さらに好ましくは0.3MPa以上であってもよい。せん断接着強度が0.1MPaを下回ると、金属板とセラミックス樹脂複合体が容易に外れてしまうことがあり、好ましくない。またせん断接着強度の上限は1.0MPaであり、セラミックス樹脂複合体に含浸している熱硬化性樹脂が加熱により変質しない状態で接着するとこれを上回ることはまずない。或る実施形態においては、仮接着された箇所を、機械的手段などによって剥離することもできる。別の実施形態では、仮接着された箇所は、最終製品が得られるまで剥離されないままとなってもよい。また本明細書では、最終製品を得るための加熱加圧を伴う接着のことを「本接着」と称し、上記「仮接着」と区別することもある。なお一般に、加熱加圧により本接着をした場合のセラミックス樹脂複合体と金属板とのせん断接着強度は、低くとも2MPaを超える程度と考えられ、上記「仮接着」によるものとは明確に区別できる。
【0020】
<非酸化物セラミックス焼結体、セラミックス樹脂複合体、セラミックス樹脂複合体シート、絶縁層>
本明細書では、非酸化物セラミックス一次粒子同士が焼結により結合した状態で2個以上集合した状態を、3次元的に連続する一体構造の「非酸化物セラミックス焼結体」と定義する。さらに本明細書では、非酸化物セラミックス焼結体と熱硬化性樹脂組成物からなる複合体を「セラミックス樹脂複合体」と定義する。また、セラミックス樹脂複合体を板状に加工したものを「セラミックス樹脂複合体シート」と定義する。「セラミックス樹脂複合体」または「セラミックス樹脂複合体シート」には、金属板を接着できる面が少なくとも二面あるものとする。
【0021】
非酸化物セラミックス一次粒子同士の焼結による結合は、走査型電子顕微鏡(例えば「JSM-6010LA」(日本電子社製))を用いて、非酸化物セラミックス一次粒子の断面の一次粒子同士の結合部分を観察することにより評価することができる。観察の前処理として、非酸化物セラミックス粒子を樹脂で包埋後、CP(クロスセクションポリッシャー)法により加工し、試料台に固定した後にオスミウムコーティングを行うようにできる。観察倍率は例えば1500倍にできる。また、評価用の非酸化物セラミックス焼結体は、セラミックス樹脂複合体の熱硬化性樹脂組成物を大気雰囲気、500~900℃で灰化することにより得る事ができる。非酸化物セラミックス一次粒子同士の焼結による結合が無い場合は、灰化の際に形状を保持することができない。
【0022】
<平均長径>
非酸化物セラミックス焼結体中の非酸化物セラミックス一次粒子の平均長径は3.0~60μmの範囲のものが好ましい。平均長径が3.0μmより小さいと非酸化物セラミックス焼結体の弾性率が高くなるため、金属板や金属回路等の被着体をセラミックス樹脂複合体シートに加熱加圧により接着する際に、被着体表面の凹凸にセラミックス焼結体が追従し難くなり、熱伝導率や引張せん断接着強さが低下する可能性がある。平均長径が60μm超であると、セラミックス樹脂複合体の強度が低下するため、被着体との接着強さが低下する可能性がある。
【0023】
<平均長径の定義・評価方法>
非酸化物セラミックス一次粒子の平均長径については、その観察の前処理として、非酸化物セラミックス焼結体を樹脂で包埋後、CP(クロスセクションポリッシャー)法により加工し、試料台に固定した後にオスミウムコーティングを行うことができる。その後、走査型電子顕微鏡、例えば「JSM-6010LA」(日本電子社製)にてSEM像を撮影し、得られた断面の粒子像を画像解析ソフトウェア、例えば「A像くん」(旭化成エンジニアリング社製)に取り込み、測定することができる。この際の画像の倍率は例えば100倍、画像解析の画素数は1510万画素にできる。マニュアル測定で、得られた任意の粒子100個の長径を求めその平均値を平均長径とすることができる。
【0024】
<アスペクト比>
非酸化物セラミックス一次粒子は、アスペクト比が5.0~30の範囲のものが好ましい。アスペクト比が5.0より小さくなると非酸化物セラミックス焼結体の弾性率が高くなるため、金属板(金属回路等も含みうる)である被着体をセラミックス樹脂複合体シートに加熱加圧により接着する際に、被着体表面の凹凸にセラミックス焼結体が追従し難くなり、熱伝導率や引張せん断接着強さが低下する可能性がある。反対にアスペクト比が30より大きくなるとセラミックス樹脂複合体の強度が低下するため、被着体との接着強さが低下する可能性がある。
【0025】
<アスペクト比の評価方法>
アスペクト比は、観察の前処理として、非酸化物セラミックス焼結体を樹脂で包埋後、CP(クロスセクションポリッシャー)法により加工し、試料台に固定した後にオスミウムコーティングを行った。その後、走査型電子顕微鏡、例えば「JSM-6010LA」(日本電子社製)にてSEM像を撮影し、得られた断面の粒子像を画像解析ソフトウェア、例えば「A像くん」(旭化成エンジニアリング社製)に取り込み、測定することができる。この際の画像の倍率は100倍、画像解析の画素数は1510万画素とすることができる。マニュアル測定で、得られた任意の粒子100個を観察し、各粒子の長径と短径の長さを測り、アスペクト比=長径/短径の計算式より各粒子の値を算出し、それらの平均値をアスペクト比として定義できる。
【0026】
<非酸化物セラミックス焼結体の割合>
セラミックス樹脂複合体中の非酸化物セラミックス焼結体の量は35~70体積%(すなわち熱硬化性樹脂組成物の量は65~30体積%)の範囲内であることが好ましい。非酸化物セラミックス焼結体の量が35体積%より小さいと熱伝導率の低い熱硬化性樹脂組成物の割合が増えるため、熱伝導率が低下する。非酸化物セラミックス焼結体の量が70体積%より大きいと、金属板(金属回路等も含みうる)である被着体をセラミックス樹脂複合体に加熱加圧により本接着する際に、被着体表面の凹凸に熱硬化性樹脂組成物が浸入し難くなり、引張せん断接着強さと熱伝導率が低下する可能性がある。セラミックス樹脂複合体中の非酸化物セラミックス焼結体の割合(体積%)は、以下に示す非酸化物セラミックス焼結体のかさ密度と気孔率の測定より求めることができる。
非酸化物セラミックス焼結体かさ密度(D)=質量/体積 ・・・・・(1)
非酸化物セラミックス焼結体気孔率=(1-(D/非酸化物セラミックスの真密度))
×100=熱硬化性樹脂の割合 ・・・・・(2)
非酸化物セラミックス焼結体の割合=100-熱硬化性樹脂の割合・・・・・(3)
また、通常のセラミックス焼結体の気孔には、閉気孔と開気孔が存在するが、非酸化物セラミックス焼結体は、非酸化物セラミックス粒子の平均長径やアスペクト比等を特定の範囲内で制御することで、閉気孔の存在は無視することが出来る(1%以下)。さらに、平均気孔径については特に制限は無いが、熱硬化性樹脂の含浸性等から0.1~3.0μmが実際的である。
【0027】
<非酸化物セラミックス焼結体の主成分>
非酸化物セラミックス焼結体を含んだセラミックス樹脂複合体は、高信頼性が求められるパワーモジュール等に使用されることが想定される。よって非酸化物セラミックス焼結体の主成分は窒化ホウ素であることが好ましい。さらに好ましい実施形態では、その窒化ホウ素の熱伝導率が40W/(m・K)以上とすることができる。また、シート状の最終製品を得ることを目的にしている場合は、非酸化物セラミックス焼結体の形状は平板状であることが好ましい。
【0028】
<非酸化物セラミックス焼結体の製造方法>
非酸化物セラミックス焼結体は、例えば窒化ホウ素粉末に、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ホウ酸等の焼結助剤を0.01~20重量%程度の割合で配合し、金型や冷間等方圧加圧法(CIP)等の公知の方法にて成形した後、窒素、アルゴン等の非酸化性雰囲気中、温度1500~2200℃で1~30時間程度焼結することによって製造することができる。このような製造法は公知であり、また市販品もある。また、窒化アルミニウム、窒化ケイ素粉末を用いる場合も、イットリア、アルミナ、マグネシア、希土類元素酸化物等の焼結助剤を用いて、同様の方法にて製造することができる。焼結炉としては、マッフル炉、管状炉、雰囲気炉などのバッチ式炉や、ロータリーキルン、スクリューコンベヤ炉、トンネル炉、ベルト炉、プッシャー炉、竪形連続炉などの連続式炉があげられる。これらは目的に応じて使い分けられ、たとえば多くの品種の非酸化物セラミックス焼結体を少量ずつ製造するときはバッチ式炉が、一定の品種を多量製造するときには連続式炉が採用される。
【0029】
<非酸化物セラミックス焼結体と熱硬化性樹脂組成物の複合化>
非酸化物セラミックス焼結体と熱硬化性樹脂組成物は、例えば非酸化物セラミックス焼結体に熱硬化性樹脂組成物を含浸させることで、複合化することができる。熱硬化性樹脂組成物の含浸は、真空含浸、もしくは1~300MPaでの加圧含浸、又はそれらの組合せの含浸で行うことができる。真空含浸時の圧力は、1000Pa以下が好ましく、100Pa以下が更に好ましい。加圧含浸をする場合には、圧力1MPa未満では非酸化物セラミックス焼結体の内部まで熱硬化性樹脂組成物が十分含浸できない可能性があり、300MPa超では設備が大規模になるためコスト的に不利である。非酸化物セラミックス焼結体の内部に熱硬化性樹脂組成物を容易に含浸させるためには、真空含浸または加圧含浸時に100~180℃に加熱し、熱硬化性樹脂組成物の粘度を低下させると更に好ましい。
【0030】
<熱硬化性樹脂組成物の半硬化>
非酸化物セラミックス焼結体と複合化した熱硬化性樹脂組成物を半硬化(Bステージ化)することでセラミックス樹脂複合体を得ることができる。加熱方式としては、赤外線加熱、熱風循環、オイル加熱方式、ホットプレート加熱方式又はそれらの組み合わせで行うことができる。半硬化は、含浸終了後に含浸装置の加熱機能を利用してそのまま行っても良いし、含浸装置から取り出した後に、熱風循環式コンベア炉等の公知の装置を用いて別途行っても良い。本発明の実施形態においては、こうして半硬化させた熱硬化性樹脂組成物の硬化率が、後述するように示差走査型熱量計から計算して5.0%以上かつ70%以下の範囲に収まるようにする。
【0031】
<熱硬化性樹脂組成物の発熱開始温度>
セラミックス樹脂複合体に含有される熱硬化性樹脂組成物の示差走査型熱量計で測定した発熱開始温度は180℃以上であることが好ましい。発熱開始温度が180℃より小さいと、真空含浸及び加圧含浸時に熱硬化性樹脂組成物を加熱した際に、熱硬化性樹脂組成物の硬化反応が進み、熱硬化性樹脂組成物の粘度が上昇して、セラミックス樹脂複合体にボイドが発生し、絶縁破壊電圧が低下する。発熱開始温度の上限については特に制限は無いが、金属板(金属回路等を含みうる)である被着体をセラミックス樹脂複合体シートに加熱加圧により本接着する際の生産性や装置部品の耐熱性を考慮すると、300℃以下が実際的である。発熱開始温度は、硬化促進剤等により制御することができる。
【0032】
<熱硬化性樹脂組成物の発熱開始温度の評価方法>
発熱開始温度とは、熱硬化性樹脂組成物を示差走査型熱量計にて加熱硬化した場合に得られる、発熱曲線において、ベースラインと曲線の立ち上がりから引いた外挿線の交点から求めた温度である。
【0033】
<熱硬化性樹脂組成物の種類>
熱硬化性樹脂組成物としては、シアネート基を有する物質が必要である。シアネート基を有する物質としては、2,2'-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン、ビス(4-シアナト-3,5-ジメチルフェニル)メタン、2,2'-ビス(4-シアナトフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1'-ビス(4-シアナトフェニル)エタン、1,3-ビス(2-(4-シアナトフェニル)イソプロピル)ベンゼン等が挙げられる。シアネート基を有する物質を用いる理由は、シアネート基が活性水素を有する液体化合物と反応することで弱い接着性を呈するので、仮接着が可能となるためである。
【0034】
また、このシアネート基を有する樹脂は単体で用いることも可能であるが、エポキシ基、水酸基、マレイミド基をもつ樹脂を適宣混合したほうが好ましい。エポキシ基を有する物質としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂(クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等)、環式脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等、水酸基を有する物質としては、フェノールノボラック樹脂、4,4'-(ジメチルメチレン)ビス[2-(2-プロペニル)フェノール]等、マレイミド基を有する物質としては、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、4,4'-ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4'-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン等が挙げられる。
【0035】
<熱硬化性樹脂組成物の密着性向上方法>
熱硬化性樹脂組成物には適宜、非酸化物セラミックス焼結体と熱硬化性樹脂組成物間の密着性を向上させるためのシランカップリング剤、濡れ性やレベリング性の向上及び粘度低下を促進して含浸・硬化時の欠陥の発生を低減するための消泡剤、表面調整剤、湿潤分散剤を含有することができる。また、樹脂が、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化アルミニウムの群から選ばれた単体又は2種以上のセラミックス粉末を含むと一層好ましい。
【0036】
<熱硬化性樹脂組成物の硬化率>
熱硬化性樹脂組成物を非酸化物セラミックス焼結体に含浸させた後の熱硬化性樹脂組成物の硬化率は5.0%以上70%以下であることが必要である。硬化率が5.0%より小さいと、セラミックス樹脂複合体を板状のセラミックス樹脂複合体シートに切断する際の熱で、未硬化の状態の熱硬化性樹脂が溶融し厚みのバラツキが発生する。また、セラミックス樹脂複合体が切断の際の衝撃に耐えることができず割れが発生し、回路基板の絶縁破壊電圧が低下する。さらには、被着体表面の凹凸に熱伝導率の低い接着(樹脂)層が形成され、熱伝導率が低下する。硬化率が70%より大きいと熱印加による接着の際に染み出す熱硬化性樹脂組成物が少なくなり金属板に接着させる際にセラミックス樹脂複合体-金属板界面に空隙が生じやすくなり接着力が低下してしまう。その影響により絶縁耐圧が減少してしまう恐れがある。
【0037】
<熱硬化性樹脂組成物の硬化率の評価方法>
熱硬化性樹脂組成物の硬化率は次式を用いて算出することが出来る。示差走査型熱量計としては例えばDSC6200R(セイコーインスツル社製)を用いることができる。熱硬化性樹脂組成物を完全硬化するために、サンプル量5mgを、αアルミナ5mgをレファレンスとして、窒素気流下、室温から10℃/分の昇温速度で300℃まで昇温させている。
硬化率(%)=(X-Y)/X×100
X:加熱により硬化を進める前の状態の熱硬化樹脂組成物を、示差走査型熱量計を用いて、完全硬化させた際に生じた熱量の合計(J/g)。
Y:加熱により、半硬化状態(Bステージ)とした熱硬化性樹脂組成物について、示差走査型熱量計を用いて完全硬化させた際に生じた熱量の合計(J/g)。
尚、上述のX及びYにおいて「硬化させた」状態は、得られた発熱曲線のピークから特定できる。また、上記Yは熱硬化性樹脂組成物そのものではなく、セラミックス樹脂複合体を用いた場合にも次式により算出することが出来る。
Y=Y’×100/Z
Y’:セラミックス樹脂複合体を使用した場合に示差走査型熱量計を用いてセラミックス樹脂複合体内の樹脂組成物を完全硬化させた際に生じた熱量の合計(J/g)。
Z:セラミックス樹脂複合体に含まれている熱硬化性樹脂組成物の体積割合(vol%)。
【0038】
<熱硬化性樹脂組成物の溶融温度と評価方法>
本発明におけるセラミックス樹脂複合体に含有される熱硬化性樹脂組成物の溶融温度は、70℃以上であることが好ましい。溶融温度が70℃より小さいと、セラミックス樹脂複合体を板状のセラミックス樹脂複合体シートに切断する際の熱で、熱硬化性樹脂が溶融し厚みのバラツキが発生するおそれがある。溶融温度の上限については、特に制限は無いが、金属板や金属回路等の被着体をセラミックス樹脂複合体シートに加熱加圧により接着する際に、熱硬化性樹脂組成物の硬化反応の進行による粘度上昇を抑制する必要があることを考えると、溶融温度は180℃以下が実際的である。なお本明細書における当該融解温度は、示差走査熱量測定により熱硬化性樹脂組成物を加熱した際の吸熱ピークの温度である。
【0039】
<セラミックス樹脂複合体の厚み>
セラミックス樹脂複合体(セラミックス樹脂複合体シート)の厚みは、通常0.32mmであるが、要求特性によって変えることができる。例えば、高電圧での絶縁性があまり重要でなく熱抵抗が重要である場合は、0.1~0.25mmの薄い基板を用いることができ、逆に高電圧での絶縁性や部分放電特性が重要である場合には、0.35~1.0mmの厚いものが用いられる。このように薄いセラミックス樹脂複合体は衝撃、特に輸送時の衝撃に弱いが、本発明の実施形態により対衝撃信頼性を高めることが可能になる。
【0040】
<金属板>
本明細書においては、「金属板」とは単なる金属の無垢板だけではなく、被着体となりうる金属回路等をも含む概念とする。金属板の材料としては、シアネート基を有する熱硬化性樹脂組成物と0℃~40℃の範囲の温度もしくは常温かつ活性水素を有する液体化合物の存在下で仮接着できるものであれば、任意の金属を使用できる。好ましい実施形態においては、熱伝導率及び価格の点から、銅又はアルミニウムを使用できる。また特性面だけを考えると銀、金等も使用可能であるが、価格面には問題がある。金属板の板厚は0.070~5.0mmが好ましい。板厚0.070mm未満では、回路基板としての強度が低下し、電子部品の実装工程にて割れ、欠け、反り等が発生し易くなるため好ましくない。板厚5.0mmを超えると金属板自体の熱抵抗が大きくなり、回路基板の放熱特性が低下するため好ましくない。
【0041】
<金属板の仮接着面>
セラミックス樹脂複合体(絶縁層とも称する)と金属板の密着性を向上させるために、金属板の仮接着面に対しては、脱脂処理、サンドブラスト、エッチング、各種メッキ処理、シランカップリング剤等のプライマー処理、等の表面処理を行うことが望ましい。また、金属板の仮接着面の表面粗さは、十点平均粗さ(Rzjis)で20μm以下であることが好ましく、0.1μm~20μmであることがより好ましい。0.1μm未満であるとセラミックス樹脂複合体シートとの十分な密着性を確保することが困難になる場合がある。また20μm超であると接着界面で欠陥が発生し易くなり、耐電圧や密着性の低下の要因となる。
【0042】
<金属板の仮接着方法>
本発明の実施形態においては、金属板とセラミックス樹脂複合体との仮接着は、0℃~40℃の範囲の温度で行うことができ、好ましくは常温下で、実質的に加熱せずに行うことができる。なお本明細書において「常温」とは、JIS Z8703:1983が定めるもの、すなわち5~35℃の温度範囲をいう。仮接着をするにあたっては、上記温度範囲において液体でありかつ活性水素を有する化合物(以下、単に「液体化合物」とも称する)を、セラミックス樹脂複合体と金属板のうちの少なくともどちらか一方が有する片側の面に塗布し、その後両平面を密着させてから、圧力をかけながら上記液体化合物を蒸発させる必要がある。すなわち、仮接着後には接着界面に上記液体化合物は実質的に残存しないことになる。この方法により上記液体化合物とシアネートが弱接着性を有し、仮接着に寄与する。なお仮接着を行う際の温度が0℃よりも低い場合は、一部の上記液体化合物が融点を下回るため凝固し、仮接着に寄与しなくなるので好ましくない。また温度が40℃超の場合は一部の上記液体化合物がすぐさま揮発してしまい、弱接着性を有さなくなるので好ましくない。また仮接着の際の圧力は、好ましくは0.1MPa以上250MPa以下、より好ましくは30MPa以下としてもよい。圧力が250MPa超のように高すぎると、プレス時にセラミックス焼結体を破壊してしまうおそれがある。圧力が0.1MPa以下のように低すぎると接着界面に上記液体化合物が浸入せず接着性を生み出さない。また、仮接着にかける時間としては、上記液体化合物の蒸発にかかる時間を取ることが好ましく、例えば10分以上であることが好ましい。
【0043】
<活性水素を有する液体化合物の種類>
活性水素を有する液体化合物の種類としては幅広く選択できるが、分子内に水酸基や、アミノ基、カルボキシル基を有する化合物が該当し、例えば、アルコール類、アミン類やカルボン酸類が例示でき、このような範疇には、これらの官能基を有するシラン系やチタネート系のカップリング剤も含まれる。好ましい実施形態においては、上記液体化合物としてメタノール、エタノール、フェノール等の炭素数1~10までのアルコールを使用することができ、さらに好ましくはメタノールまたはエタノールを用いることができる。上記液体化合物は、0℃~40℃の範囲の温度または常温において揮発性であることが、仮接着を行う上で好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例、比較例をあげて更に具体的に説明する。
【0045】
[仮接着の成否: 実施例1~10、比較例1~5]
<セラミックス樹脂複合体シートの作製>
表1に示す組み合わせで、セラミックス焼結体に熱硬化性樹脂を含浸させ、得られたセラミックス樹脂複合体をマルチカットワイヤーソー(SW1215、Yasunaga社製)を用いることによって、セラミックス樹脂複合体シートを作製した。なお表1に示すシアネートAはビスマレイミドトリアジン樹脂(BT2160、三菱瓦斯化学社製)、シアネートBはノボラック型シアネート樹脂(PT-30、ロンザ社製)、シアネートCはビスフェノールA型シアネート樹脂(CYTESTERTA、三菱瓦斯化学社製)、シアネートDはノボラック型シアネート樹脂と2官能ナフタレン型エポキシ樹脂(HP-4032D、DIC社製)、シアネートEはノボラック型シアネート樹脂と4,4’-ジフェニルメタン型ビスマレイミド樹脂(BMI、ケイ・アイ化成社製)を用いた。表1に示すエポキシには、2官能ナフタレン型エポキシ樹脂(HP-4032D、DIC社製)を、シリコーンにはKR311(信越化学社製)を用いた。上記のセラミックス焼結体はCIP(冷間等方圧加圧法)装置(「ADW800」、神戸製鋼所社製)を用いてプレスした後にバッチ式高周波炉(「FTH-300-1H」、富士電波工業社製)にて焼結させることで作製した。また、熱硬化性樹脂の含浸には真空加温含浸装置(「G-555AT-R」、協真エンジニアリング社製)及び加圧加温含浸装置(「HP-4030AA-H45」、協真エンジニアリング社製)を用いた。また、セラミックス樹脂複合体を作製後、追加で加熱を行うことで熱硬化性樹脂の硬化率を表1に示す値へと制御した。熱硬化性樹脂組成物の硬化率は、示差走査型熱量計としてDSC6200R(セイコーインスツル社製)を使用して求めた。
【0046】
<仮接着体の作製>
金属板として十点平均粗さが10μmである銅板を用い、表1に示す圧力と溶媒を用いて、室温(常温)でプレス機(装置名:MHPC-VF-350-350-1-45、名機製作所社製)を使って仮接着体を作製した。周囲環境は大気圧であった。仮接着に要した加圧時間は10min(分間)とした。また溶媒として用いた活性水素を有する液体化合物は、セラミックス樹脂複合体面に常温下で塗布し、液溜まりが出来ない程度に塗布した。上記溶媒の量が多い場合であっても、界面に染み込む分を除いてプレスにより全て接着面の外側に漏れ出てくるため問題は発生しない。
【0047】
<仮接着体の作製可否の判断>
仮接着体の作製可否の判断として、JIS K6850;1999に準拠した引張せん断接着強度測定を用いた。すなわち、仮接着体の金属板は、テンシロン試験機(東洋ボールドウィン社製)を用いてつかみ、引っ張り速度を50mm/秒として測定を行った。この測定を行った結果引張せん断接着強度が0.1MPa以上を示した試料を仮接着ができていると判定した。これは、引張せん断接着強度が0.1MPa未満である場合は試料を裏返しにするとセラミックス樹脂複合体が剥がれ落ちてしまう、引張せん断接着強度測定を行う際に試料が剥離してしまい測定を行えない、輸送の際にセラミックス樹脂複合体が剥離してしまうといった現象が発生するためである。なお、従来技術に係る接着(本接着)をする前に、セラミックス樹脂複合体と金属板との界面を空気抜きのために合わせる工程では、通常その界面のせん断接着強度は0.1MPa未満となるので、上記の仮接着には該当しない。また仮接着界面のせん断接着強度が、現実的には加圧・加熱による本接着の界面のせん断接着強度を上回ることはない。
【0048】
<実施例1>
実施例1は熱硬化性樹脂にシアネートAを、樹脂の硬化率は15%、溶媒はエタノールを、金属板は銅板を用い、印加圧力は2MPaとした。得られた仮接着体の引張せん断接着強度は0.30MPaであった。
【0049】
<実施例2>
実施例1と異なる点は印加圧力を0.1MPaとした点であった。得られた仮接着体の引張せん断接着強度は0.27MPaであった。
【0050】
<実施例3>
実施例1と異なる点は印加圧力を250MPaとした点であった。得られた仮接着体の引張せん断接着強度は0.32MPaであった。
【0051】
<実施例4>
実施例1と異なる点は溶媒をメタノールとした点であった。得られた仮接着体の引張せん断接着強度は0.30MPaであった。
【0052】
<実施例5>
実施例1と異なる点は溶媒をメタノールとし、印加圧力を20MPaとした点であった。得られた仮接着体の引張せん断接着強度は0.29MPaであった。
【0053】
<実施例6>
実施例1と異なる点は熱硬化性樹脂の硬化率を50%とした点であった。得られた仮接着体の引張せん断接着強度は0.31MPaであった。
【0054】
<実施例7>
実施例1と異なる点は熱硬化性樹脂をシアネートBとし、樹脂硬化率を40%とした点であった。得られた仮接着体の引張せん断接着強度は0.32MPaであった。
【0055】
<実施例8>
実施例1と異なる点は熱硬化性樹脂をシアネートCとし、樹脂硬化率を45%とした点であった。得られた仮接着体の引張せん断接着強度は0.33MPaであった。
【0056】
<実施例9>
実施例1と異なる点は熱硬化性樹脂をシアネートDとし、樹脂硬化率を35%とした点であった。得られた仮接着体の引張せん断接着強度は0.29MPaであった。
【0057】
<実施例10>
実施例1と異なる点は熱硬化性樹脂をシアネートEとし、樹脂硬化率を40%とした点であった。得られた仮接着体の引張せん断接着強度は0.27MPaであった。
【0058】
<比較例1>
実施例1と異なる点は樹脂硬化率を25%とし、溶媒を活性水素を有しないアセトンとした点であった。せん断接着強度は0MPa(未接着)となった。
【0059】
<比較例2>
実施例1と異なる点は樹脂硬化率を80%とした点であった。せん断接着強度は0.02MPaとなった。
【0060】
<比較例3>
実施例1と異なる点は熱硬化性樹脂をシアネート基を有しないエポキシとし、樹脂硬化率を30%とした点であった。せん断接着強度は0MPa(未接着)となった。
【0061】
<比較例4>
実施例1と異なる点は熱硬化性樹脂をシアネート基を有しないシリコーンとし、樹脂硬化率を20%とした点であった。せん断接着強度は0MPa(未接着)となった。
【0062】
<比較例5>
実施例1と異なる点は溶媒を用いず、樹脂硬化率を25%とした点であった。せん断接着強度は0MPa(未接着)となった。
【0063】
また加熱を伴わない仮接着を行ったすべての実施例と比較例について、熱硬化性樹脂の硬化率は仮接着の前後で2%以下程度の測定誤差と考えられる差しかなく、仮接着によっては熱硬化性樹脂が実質的には変質しないことも確認された。以上の結果から、仮接着を達成するには、シアネート基を有する熱硬化性樹脂を硬化率5.0%~70%で用い、かつ溶媒として活性水素を有する液体化合物を用いることが必要であることが理解される。
【0064】
【0065】
[輸送に対する信頼性の確認: 実施例A、B、比較例A、B]
上記の実施例に基づき作製した仮接着体及び通常のセラミックス樹脂複合体シートを用いて輸送に対する信頼性の確認を行った。輸送はJIS Z0232:2004の試験区分に基づき、最も輸送で厳しい条件に区分される2500kmの輸送を行った。輸送用試料となったセラミックス樹脂複合体シートには、上記表1の実施例1で作製されたものを使用し、実施例A、Bでは仮接着体の形態で、比較例A、Bではセラミックス樹脂複合体シート単体の形態で使用した。
【0066】
第一の梱包方法とは、試料を第一の緩衝材(グリーンシートやミラーマットなど)で完全に包むことで輸送体として、輸送用箱(段ボール箱など)の中で移動しないように更に第二の緩衝材(気泡緩衝材、厚紙を丸めたもの、樹脂チップなど)を使用したものである。また第二の梱包方法とは、試料を第一の緩衝材(グリーンシートやミラーマットなど)で簡単に包むことで輸送体として、そのまま輸送用箱に収めるというものである。つまり第二の梱包方法では、緩衝作用を呈するのは第一の緩衝材と輸送用箱自体のみとなり、輸送による衝撃が第一の梱包方法より大きくなるものの、より簡易な方法で輸送を行えるものである。
【0067】
下記表2に示す構成で2500kmの輸送を行い、輸送後に加熱加圧による本接着を行って、本接着体の熱抵抗特性を測定して比較した。当該本接着体は、セラミックス樹脂複合体シートの両面(比較例)もしくは仮接着体のセラミックス樹脂複合体シートの露出面(実施例)に、当該シートと同一の外形サイズの厚み1.0mm銅板を、圧力5MPa、加熱温度240℃、加熱時間5時間の条件で、真空加熱プレス機(「MHPC-VF-350-350-1-45」、名機製作所社製)を用いてプレス接着することで作製した。単なる絶縁材単体としてではなく、絶縁材と放熱板、冷却器を含む積層体の、その界面熱抵抗をも含んだ熱抵抗特性として、過渡熱抵抗値を測定した。具体的には、ヒータ用チップに一定の発熱量を与えた加熱時における、チップ温度実測値がほぼ一定の値に収束するまでの時間変化(時刻歴)を測定した。チップ温度実測値Taの時間変化を測定する装置として、Mentor Graphics Corporation製の「T3Ster」を採用した。
【0068】
<実施例A>
実施例Aでは輸送体は仮接着体を含んでおり、第一の梱包方法を採用した。輸送後に仮接着体を加工して得られた本接着体の熱抵抗値を基準とした。
【0069】
<実施例B>
実施例Aと異なる点は第二の梱包方法を用いた点であり、得られた本接着体の熱抵抗値の相対値は110%となり、若干悪化したが許容範囲であった。
【0070】
<比較例A>
実施例Aと異なる点は輸送時の状態をセラミックス樹脂複合体シート単体とした点であり、本接着体の熱抵抗値の実施例Aに対する相対値は130%となり、セラミックス樹脂複合体シート単体で輸送することにより劣化してしまったことが分かる。
【0071】
<比較例B>
実施例Aと異なる点は輸送時の状態をセラミックス樹脂複合体シート単体とし、かつ第二の梱包方法を用いた点であり、本接着体の熱抵抗値の実施例Aに対する相対値は150%となり顕著に熱抵抗が上昇し劣化が激しいことがわかる。
【0072】
【0073】
[仮接着後に本接着を行った被着体の物性: 実施例1-1~3-1、比較例1-1、1-2]
仮接着が本接着体に与える影響を評価した。下記表3に示す仮接着条件で仮接着を行った後に、幅×長さ×厚み=25mm×12.5mm×320μmの仮接着体のセラミックス樹脂複合体シートの露出面に対し、幅×長さ×厚み=25mm×12.5mm×1.0mmの銅板を、圧力5MPa、加熱温度240℃、加熱時間5時間の条件で、真空加熱プレス機(「MHPC-VF-350-350-1-45」、名機製作所社製)を用いてプレス接着することで、本接着体を作製した。また比較例では、比較のために仮接着の条件も加熱加圧下とした。
【0074】
<本接着体の熱伝導率の測定>
測定試料は本接着体を用い、JIS H8453:2010に準拠して測定した。測定器には、アドバンス理工社製、「TC-1200RH」を用いた。
【0075】
<本接着体の引張せん断接着強度の測定>
本接着体に対し、JIS K6850:1999に準拠して引張せん断接着強度を測定した。測定装置は、オートグラフ(「AG-100kN」島津製作所社製)を用い、測定条件は、測定温度25℃、クロスヘッドスピード5.0mm/minにて測定を実施した。
【0076】
<実施例1-1>
実施例1-1では、仮接着体を上記表1の実施例1の条件(エタノール塗布・室温・2MPaでプレス・10分間)で作製し、本接着体は圧力5MPa、加熱温度240℃、加熱時間5時間の条件でプレス接着することで作製した。この本接着体の熱伝導率と引張せん断接着強度を基準値として、他の実施例・比較例との比較に用いた。
【0077】
<実施例2-1>
実施例1-1と異なる点は仮接着体の作製条件として表1の実施例3の条件(エタノール塗布・室温・250MPaでプレス・10分間)を用いた点であった。本接着後の熱伝導率・引張せん断接着強度ともに実施例1-1と大差は無かった。
【0078】
<実施例3-1>
実施例1-1と異なる点は仮接着体の作製条件として表1の実施例4の条件(メタノール塗布・室温・2MPaでプレス・10分間)とした点であった。本接着後の熱伝導率・引張せん断接着強度ともに実施例1-1と大差は無かった。
【0079】
<比較例1-1>
実施例1-1と異なる点は仮接着を、圧力5MPa、加熱温度240℃、加熱時間5時間の条件で、真空加熱プレス機を用いてプレス接着して行った点であった。本接着後の熱伝導率・引張せん断接着強度ともに実施例1-1より大きく劣化した。これにより、加熱加圧によって一度接着を行ってしまうと、その後に再度接着を物性を劣化させずに行うことはできないことが裏づけられる。
【0080】
<比較例1-2>
実施例1-1と異なる点は仮接着を、圧力5MPa、加熱温度240℃、加熱時間5時間の条件で、真空加熱プレス機を用いてプレス接着して行い、さらに本接着を、エタノール塗布・室温・2MPaでプレス・10分間として行った点であった。本接着後に金属板とセラミックス樹脂複合体シートは接着しなかった。これにより、仮接着と本接着の順序を入れ替えても機能しないことが裏づけられた。
【0081】