(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】フライスインサート並びに側面及び正面フライス工具
(51)【国際特許分類】
B23C 5/20 20060101AFI20230410BHJP
B23C 5/06 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
B23C5/20
B23C5/06 A
(21)【出願番号】P 2020511292
(86)(22)【出願日】2018-06-11
(86)【国際出願番号】 EP2018065359
(87)【国際公開番号】W WO2019042608
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-04-12
(32)【優先日】2017-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ステファンソン, リンダ
(72)【発明者】
【氏名】サンビウス, ウルリク
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-216113(JP,A)
【文献】特表2004-520181(JP,A)
【文献】特表平10-502582(JP,A)
【文献】特表2017-506165(JP,A)
【文献】特開2001-198724(JP,A)
【文献】特表平06-508071(JP,A)
【文献】特開2007-125669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/20
B23C 5/06
B23C 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面及び正面フライス工具(20)のためのフライスインサート(1)であって、該フライスインサート(1)は、
すくい面(7)を含み上方延在面(P
U)を画定する、上側(2)と、
上側(2)に対向し、且つ下方延在面(P
L)を画定する、下側(3)であって、上方延在面(P
U)及び下方延在面(P
L)を通って直角に中心軸(C
1)が延びている、下側(3)と、
上側(2)と下側(3)との間でフライスインサート(1)の外周に延在する、側面(4)であって、主径方向逃げ面(6)、対向する2つの副軸方向逃げ面(5)、及び、主径方向逃げ面(6)と副軸方向逃げ面(5)との間に延在する2つのコーナー逃げ面(14a,14b)を含む、側面(4)と、
上側(2)と側面(4)との間の遷移部に形成された少なくとも1つの切れ刃(9)であって、各切れ刃(9)が、すくい面(7)と主径方向逃げ面(6)との間の遷移部に形成された主切れ刃(10)、及び、すくい面(7)とコーナー逃げ面(14a,14b)との間の遷移部に形成された2つのコーナー切れ刃(11a,11b)を含む、少なくとも1つの切れ刃(9)と
を含み、
少なくとも1つの切れ刃(9)が、コーナー切れ刃(11a,11b)に隣接する対向する2つの副切れ刃(12a,12b)を更に含み、各副切れ刃(12a,12b)が、すくい面(7)と副軸方向逃げ面部分(13a,13b)との間の遷移部に形成されていて、副軸方向逃げ面部分(13a,13b)が副軸方向逃げ面(5)の主要部分に対して傾斜しており、
フライスインサート(1)の側面図で見たときに、主切れ刃(10)が、コーナー切れ刃(11a,11b)から主切れ刃(10)の中点(p
mid)に向かって下方に傾斜しており、フライスインサートの上面図で見たときに、主切れ刃(10)及び主径方向逃げ面(6)が、コーナー切れ刃(11a,11b)から主切れ刃(10)の中点(p
mid)に向かって外方向に傾斜していることを特徴と
し、
該フライスインサート(1)は、矩形の基本形状を有し、かつ上側(2)と側面(4)との間の遷移部に形成された同一且つ交互使用可能な2つの切れ刃(9)により割り出し可能である、フライスインサート(1)。
【請求項2】
上面図で見たときの主切れ刃(10)の形状と、中心軸(C
1)に対して直角の任意の断面で見たときの主径方向逃げ面(6)の少なくとも上方部分の形状とが、同一であるか本質的に同一である、請求項1に記載のフライスインサート。
【請求項3】
フライスインサート(1)の上面図で見たときに、主切れ刃(10)が凸状である、請求項1又は2に記載のフライスインサート。
【請求項4】
各副切れ刃(12a,12b)が、隣接するコーナー切れ刃(11a,11b)から下方に傾斜している、請求項1から3のいずれか一項に記載のフライスインサート。
【請求項5】
主径方向逃げ面(6)に少なくとも1つの凹部(16)が形成されている、請求項1から4のいずれか一項に記載のフライスインサート。
【請求項6】
すくい面(7)の中央部分が主切れ刃(10)に対して凹んでいる、請求項1から5のいずれか一項に記載のフライスインサート。
【請求項7】
フライスインサート(1)が、主切れ刃(10)の中点(p
mid)と中心軸(C
1)とを含む垂直面に対して対称である、請求項1から6のいずれか一項に記載のフライスインサート。
【請求項8】
各
副軸方向逃げ面(5)が、下方延在面(P
L)に対し鈍角な内角ηをなしている、請求項1から7のいずれか一項に記載のフライスインサート。
【請求項9】
中心軸(C
1)に対して直角の任意の断面で見たときに、主径方向逃げ面(6)の少なくとも上方部分が、全体が少なくとも1つの曲率で連続的に湾曲して延在する、請求項1から8のいずれか一項に記載のフライスインサート。
【請求項10】
フライスインサートの側面図で見たときに、主切れ刃(10)が、上方延在面(P
U)に対して内角βで形成された傾斜を有し、3°≦β≦10°である、請求項1から9のいずれか一項に記載のフライスインサート。
【請求項11】
フライスインサートの上面図で見たときに、主切れ刃(10)の中点(p
mid)と主切れ刃(10)の第1の終点(p
end1)又は第2の終点(p
end2)との間に、第1の線が画定され、第1の終点(p
end1)と第2の終点(p
end2)との間に第2の線が画定され、第1の線は第2の線(L)に対して角度αで延在し、0.3°≦α≦3°である、請求項1から10のいずれか一項に記載のフライスインサート。
【請求項12】
フライス盤(24)と、請求項1から
11のいずれか一項に記載の少なくとも1つのフライスインサート(1)とを含み、少なくとも1つのフライスインサート(1)の各々が、フライス盤(24)のインサート座(26)に取り外し可能に装着される、側面及び正面フライス工具(20)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルによる、側面及び正面フライス工具のためのフライスインサートに関する。本発明は、請求項15による側面及び正面フライス工具にも関する。
【背景技術】
【0002】
(多目的)側面及び正面フライス工具は、溝入れ、突切り、肩、面、及びギャングミリングなど種々の用途で用いられ得る。側面及び正面フライス工具は、フライスインサートを装備したフライス盤を有する。フライスインサートにより、フライス盤の外周および両側に切れ刃が提供される。外周および両側に切れ刃を有するフライス盤は、溝入れ(又は突切り)及びギャングミリング用途に用いられるのが典型的である。これにより工作物に、互いに平行な2つの平坦な側面と底面とを持つ溝を加工することができる。溝の底面は、フライス盤の外周に沿って延在する、フライスインサートの主切れ刃で加工されるが、溝の側面は、主切れ刃に対して直角に、フライス盤の側部に沿って延在する、副ワイパー切れ刃で加工される。溝の底面と側面との間の角部は、フライスインサートの主切れ刃と副ワイパー切れ刃との間に延在するコーナー切れ刃によって、加工される。よって、幾つかの溝を同時にギャングミリングするために、アーバー(シャフト)上に幾つかのフライス盤が設けられ得る。単一の溝を加工するために、アーバー(シャフト)の自由(前)端に単一のフライス盤が設けられることもある。このような側面及び正面フライス工具は、肩及び正面(正面又は背面)ミリング用途のために、フライス盤の一方の側のみに沿って副ワイパー切れ刃を備えたフライスインサートを必要とし得る。
【0003】
米国特許第5454671号は、側面及び正面フライス工具用のフライスインサートを開示している。このフライスインサートは、上側と下側とが側面でつながった矩形の基本形状を有する。上側と側面との遷移部に切れ刃が形成されており、主径方向逃げ面の上方に直線状の主切れ刃が延在している。主切れ刃の各側には、コーナー切れ刃と副切れ刃が延在する。このフライスインサートは中央平面の周囲において対称であるので、フライス盤のいずれの側でも使用できる。
【0004】
米国特許第5454671号に開示のフライスインサートの性能は、特に工具寿命において、特にステンレス鋼、チタン、及び耐熱超合金材料の加工における寿命を改善できる。
【発明の概要】
【0005】
本発明の主な目的は、側面及び正面フライス工具のフライスインサートであって、ステンレス鋼、チタン、耐熱超合金材料に特に適しており、且つ上述の先行技術によるフライスインサートに比べて工具寿命、及びこれらの工作物材料にける靭性挙動が向上したフライスインサートを実現することである。具体的には、高品質な被加工面を保証しつつ工具寿命及び靭性が向上したフライスインサートを実現することが目的である。このフライスインサートが達成する更なる目的は、製造コストパフォーマンスであり得る。
【0006】
少なくとも、上記の主要な目的は、最初に定義したフライスインサートであって、請求項1の特徴部分に定義された特徴をもつフライスインサートによって達成される。本発明の別の態様によれば、少なくとも、上記の主要な目的は、請求項15に定義される特徴をもつ側面及び正面フライス工具によって達成される。
【0007】
本発明によるフライスインサートは、下記を含む。
すくい面を含み且つ上方延在面を画定する、上側と、
上側に対向し且つ下方延在面を画定する、下側であって、上方及び下方延在面を通って直角に中心軸が延びている、下側と、
上側と下側との間でフライスインサートの外周に延在する、側面であって、主径方向逃げ面、対向する2つの副軸方向逃げ面、及び、主径方向逃げ面と副軸方向逃げ面との間に延在する2つのコーナー逃げ面を含む、側面と、
上側と側面との間の遷移部に形成された少なくとも1つの切れ刃であって、各切れ刃が、すくい面と主径方向逃げ面との間の遷移部に形成された主切れ刃、及び、すくい面とコーナー逃げ面との間の遷移部に形成された2つのコーナー切れ刃を含む、少なくとも1つの切れ刃。
【0008】
該フライスインサートは、フライスインサートの側面図で見たときに、主切れ刃が、コーナー切れ刃から主切れ刃の中点に向かって下方に傾斜しており、フライスインサートの上面図で見たときに、主切れ刃及び主径方向逃げ面が、コーナー切れ刃から主切れ刃の中点に向かって外方向に傾斜していることを特徴とする。
【0009】
本発明による側面及び正面フライス工具は、フライス盤と、提示されたフライスインサートのうちの少なくとも1つとを含み、少なくとも1つのフライスインサートの各々は、フライス盤のインサート座に、取り外し可能に装着される。好ましくは、少なくとも1つのフライスインサートが、フライス盤の右側に位置するインサート座に装着され、少なくとも1つのフライスインサートが、フライス盤の左側に位置するインサート座に装着される。
【0010】
側面図で見ると、主切れ刃は全体として凹形状であり、隣接するコーナー切れ刃に近い主切れ刃の終点と比較すると凹んだ中点を有している。主切れ刃が下方に傾斜していることで、特にステンレス鋼、チタン、及び耐熱超合金材料の加工中の切削力の低減に役立ち、工具の延命につながる。更に、少なくとも1つの要因として、直線状(線形)で傾斜のない主切れ刃を有するフライスインサートに比べて、傾斜した主切れ刃は加工中に工作物に徐々に入り込むので、フライスインサートの靭性挙動が向上する。同時に、上面図で見たときの主切れ刃の外方向の傾斜によって、すなわち、主切れ刃の中点が、中心軸に対して、主切れ刃の2つの終点間に引いた線の外側に位置していることで、(溝内の)平坦な(底)面がもたらされ得る。これにより、好ましくは、主切れ刃が凸状であって少なくとも1つの曲率で連続的に湾曲している。上面図で見たときの切れ刃の形状によって、工作物に凸状の(底)面がもたらされるはずのところ、側面図で見たときの凹形状が補償される。
【0011】
上面図で見たときの主切れ刃の外方向の傾斜、ある実施形態では凸状の形状は、製造公差の結果としてフライスインサートの装着時に起こり得る角度誤差による影響を低減するように機能する。そのような角度誤差は、フライスインサートが正面フライス加工に用いられる際に、工作物の側壁面に段が生じてしまうことになり得る。したがって、主切れ刃の形状により、肩フライス加工中に工作物の壁面に段が生じることなく、より平滑な側壁面の作成することができる。溝フライス加工中にも、溝の底面に段が生じることを防ぐ。
【0012】
更には、主径方向逃げ面も外方向の傾斜を有しており、好ましくは凸状であり少なくとも1つの曲率で連続的に湾曲しているので、フライスインサートの生産において、主切れ刃を含む主径方向逃げ面の外周を研削する研削工程、及びシングルパスでの研削工程に要する数を低減することができる。したがって、該フライスインサートは形状の制御及び製造公差が向上しており、費用効率よく生産できる。フライスインサートのそのような研削によって、工作物における表面の優れた品質と寸法形状上の許容誤差も可能となる。
【0013】
主径方向逃げ面は、主切れ刃と下側との間の全体にわたって延在する表面として形成されるのが好ましい。これにより、主切れ刃の下のすべての表面において、費用効果の高いシングルパス研削工程により形状および許容誤差が向上する。割り出し(刃先設定)可能なフライスインサートであって、主径方向逃げ面の(下方)部分が径方向支持面も形成しているフライスインサートの精度/許容誤差において、これは特に有益である。あるいは、フライスインサートが、異なる逃げ角で形成された2つ以上の径方向逃げ面部分、すなわち、上方及び下方主径方向逃げ面部分を有していてもよい。この場合、上方主径方向逃げ面部分がシグルパス研削工程を施され、下方主径方向逃げ面部分は研削されずにおかれるか、或いは別の研削工程を施され得る。フライスインサートにおける十分な精度は、例えば、研削工程において、下方部分を参照として用いて上方主径方向逃げ面部分のみを研削することによって、達成され得る。割り出し可能なフライスインサートにおいては、フライスインサートがフライス盤本体に装着される際の径方向支持を意図した下方部分に、別の研削工程を用いることも好ましい。
【0014】
フライスインサートは、主径方向逃げ面の上方部分が主切れ刃と下側との間で部分的に延在するように形成されてもよく、該上方部分は、主径方向逃げ面の下方部分に対して突出している。これにより上方部分の研削が簡略化でき、この場合下方部分が研削を必要としないか或いは別の形状に研削され得る。
【0015】
一実施形態によれば、上面図で見たときの主切れ刃の形状と、中心軸に対して直角の任意の断面で見たときの主径方向逃げ面の少なくとも上方部分の形状とは、同一であるか本質的に同一である。これにより、主径方向逃げ面と主切れ刃をシングルパス研削工程で研削できる。本書において「本質的に同一」とは、製作公差を考慮したうえで可能な限り同一であることをいう。「任意の断面」とは、主径方向逃げ面の上方部分における中心軸に沿った任意の点で取った断面をいう。
【0016】
好ましくは、中心軸に対して直角の任意の断面で見たときの主径方向逃げ面の形状は、該断面の中心軸に沿った位置とは独立したものである。このように、研削ホイールを使用して、主径方向逃げ面をシングルパスで作成することができる。さらには、(割り出し可能なフライスインサート上の)稼働していない主切れ刃の下方の研削した主径方向逃げ面を、径方向支持面として用いることで、該研削面により、フライス盤本体とフライスインサートとの間の接点の制御/精度が向上する。このように、フライス工具におけるフライスインサートの支持がより安定的かつ精密なものとなる。
【0017】
一実施形態によれば、フライスインサートの上面図で見たときに、主切れ刃が凸状である。この実施形態で、主切れ刃は、鋭角な角部なしに連続的に湾曲している。
【0018】
一実施形態によれば、少なくとも1つの切れ刃は、コーナー切れ刃に隣接する、対向する2つの副切れ刃を更に含み、各副切れ刃は、すくい面と副軸方向逃げ面部分との間の遷移部に形成されている。フライス盤の両側に位置する少なくとも2つのフライスインサートを含む側面及び正面フライス工具を用いて作成された溝において、副切れ刃は、互いに平行な側面を加工するように構成されている。正面又は肩ミリング中、副切れ刃のうちの1つを用いて、工作物に表面を作成する。副切れ刃は線形であり得るか、或いは好ましくは大きな曲率で湾曲しており、工作物表面の表面ワイピング工程では、上面図でわずかに凸状にみえる。
【0019】
一実施形態によれば、各副切れ刃は、隣接するコーナー切れ刃から下方に傾斜している。好ましくは、各副切れ刃は、上方延在面に対して5~25°の内角γで下方に傾斜している。主切れ刃によって作成した表面と副切れ刃によって作成した表面との間での90°の角度のフライス加工中、副切れ刃が下方に傾斜していることで、(割り出し可能な)フライスインサートの軸方向側面と加工した工作物表面との間の十分なクリアランスが容易に作成される。
【0020】
一実施形態によれば、主径方向逃げ面に、少なくとも1つの凹部が形成されている。凹部は好ましくは、境界端で区切られており、境界端は、上端で繋がった対向する2つの側端を有する。凹部は、フライスインサートがフライス盤本体に装着されると、凹部の対向する側端において主径方向逃げ面上の2つの点での径方向支持を実現するような寸法形状である。凹部は、主径方向逃げ面がコーナー逃げ面から外方向に湾曲しているか傾斜している場合でも、フライス盤本体の安定的な支持の達成を容易にする。これは、上側に沿って延在する2つの対向する切れ刃を有した割り出し可能なフライスインサートにおいて特に有用であり、現時点では稼働していない主切れ刃の下方に、径方向支持が提供される。この場合、主径方向逃げ面に1つずつの2つの凹部が形成される。凹部は、研削の前のプレス及び焼結工程において形成可能であるので、凹部を研削することなく安定的な支持が保証される。該凹部に隣接する側面の部分は、主径方向逃げ面の部分を形成しているので、凹部の上端の上方の主径方向逃げ面の上方部分と同じ曲率で湾曲していてよい。このように、凹部が主径方向逃げ面の下方部分に形成される。好ましくは、凹部の上端と主切れ刃の中点との間の距離が、少なくとも1mmであるべきである。
【0021】
一実施形態によれば、すくい面の中央部分は、主切れ刃に対して凹んでいる。よって、すくい面の中央部分は、コーナー切れ刃、及びコーナー切れ刃に隣接する副切れ刃に対しても凹んでいる。これにより、すくい面の凹んだ中央部分が、切れ刃のすくい面において正のすくい角をなし、切削力の低減によって平滑な切り屑形成に寄与しており、フライス加工中の振動(びびり)の可能性を低減している。
【0022】
一実施形態によれば、フライスインサートは、主切れ刃の中点及び中心軸を含む垂直面に対して対称である。したがってコーナー切れ刃及びオプションの副切れ刃は互いに同一であり、主切れ刃は、同一の左側部分と右側部分とに分けられる。これは、該フライスインサートがフライス盤のいずれの側でも使用できることを意味する。
【0023】
一実施形態によれば、各軸方向逃げ面が、下方延在面に対し鈍角な内角ηをなしてする。よって、フライスインサートはいわゆる正の形状を有する。軸方向逃げ面が中心軸に向かって内側に傾斜しているためである。換言すれば、軸方向逃げ面は、フライスインサートにおいて正の軸方向逃げ角を形成している。フライスインサートは、同一の上側と下側を有した両面型に作製されてもよい。すなわち、切れ刃(一又は複数)が下側の周りにも延在している。この場合、フライスインサートは胴部を備え、軸方向逃げ面に沿った正の形状を維持し得る。しかし、フライスインサートは、中心軸と平行な側面を有する負の形状を有していてもよい。どちらの場合でも、主径方向逃げ面は好ましくは下方延在面に対し直角の内角をなす。しかし、少なくとも、主切れ刃に隣接する主径方向逃げ面の上方部分において負の径方向逃げ角が得られるように、鋭角な内角で形成されてもよい。主切れ刃の下方の主径方向逃げ面における負の又はゼロの逃げ角により、主切れ刃の靭性/強度が向上する。これは、該凹部が主径方向逃げ面の該下方部分に設けられる場合に特に有益である。
【0024】
一実施形態によれば、主径方向逃げ面の少なくとも上方部分は、中心軸に対して直角の任意の断面で見たときに、全体が少なくとも1つの曲率で連続的に湾曲している。換言すれば、この実施形態で、主径方向逃げ面の上方部分は滑らかに湾曲した表面として記載できる。主径方向逃げ面、及び主切れ刃は、上面図、又は中心軸に対して直角の任意の断面で見たときに、幾つかの曲率で形成され得る。主径方向逃げ面の(下方)部分が、フライスインサートの径方向支持の安定性向上のために該凹部を備えている場合、凹部が主径方向逃げ面の下方部分に端部を形成するのは明らかであろう。しかしながら、凹部のいずれの側でも、下方主径方向逃げ面が、主径方向逃げ面の上方部分と同様に好ましくは連続的に湾曲している。このように、主径方向逃げ面(凹部を除く)全体が、少なくとも1つの曲率で連続的に湾曲した研削経路を含んだシングルパス研削工程を施され得る。曲率は、幾つかの曲率を含んでもよい。例えば、主切れ刃の左側部分と右側部分とともに少なくとも主径方向逃げ面の上方部分が、同じ曲率で形成されて、中間部分がより小さい曲率で形成される。この場合、これら部分間に遷移部が形成されるので、主切れ刃及び主径方向逃げ面が連続的に湾曲しており滑らかである。
【0025】
一実施形態によれば、側面図で見ると、主切れ刃は、上方延在面に対して内角βで形成された傾斜を有し、3°≦β≦10°である。好ましくは、4°≦β≦8°である。ここで、角度βは側面図において、上方延在面に平行な線と、主切れ刃の右側部分又は左側部分の主要な延在にしたがう線との間で測定されたものである。上述の範囲は、 例えばフライスインサートのコーナーにおける刃先欠損の可能性を高めることなく、主切れ刃の切削力の低減と靭性挙動の向上をもたらすのに十分な範囲である。
【0026】
一実施形態によれば、上面図で見たときに、主切れ刃の中点と、主切れ刃の第1の終点及び第2の終点との間に第1の線が画定され、主切れ刃の第1の終点と第2の終点との間に第2の線が画定され、第1の線は第2の線に対して角度αで延在し、0.3°≦α≦3°である。好ましくは、0.7°≦α≦2°である。この角度は、主切れ刃の終点に対する中点の突出に影響を及ぼす。上述の範囲内で、側面図で見たときの主切れ刃の凹形状が十分に補償されて、フライス加工された溝において平坦な底面が得られる。十分な補償のため、角度α及び角度βは、互いに独立して設定され得る。過補償が望ましい場合、或いは、フライスインサートがフライス盤本体においてより負の径方向角度(径方向チップイン角度)で装着される場合、角度αは例えば、該範囲の上方部分とされ得る。
【0027】
一実施形態によれば、フライスインサートは矩形の基本形状を有する。この実施形態で、フライスインサートは正方形であるか、或いは好ましくは長細く、長細の矩形フライスインサートの両短辺に2つの主切れ刃が延在し得る。長細の矩形フライスインサートの長辺に沿って主切れ刃を配置することも可能である。
【0028】
したがって、フライスインサートは、上側と側面との間の遷移部に形成された、同一且つ交互利用可能な2つの切れ刃で割り出し可能である。この場合、フライスインサートは矩形であり、切れ刃は中心軸の両側の短辺に延在する。これにより、単一の切れ刃を有するフライスインサートに比べてフライスインサートの工具寿命が倍増する。加えて、上述のように切削インサートが対称である場合、切削インサートはフライス盤の左側でも右側でも使用できる。
【0029】
フライスインサートは、ねじ、クランプ、又は同様の形態の締結部材を用いて、側面及び正面フライス工具のインサート座に直接装着されるが、カセットに装着されてもよく、カセットがフライス盤本体に装着され、フライスインサートに支持を提供する。フライスインサートの底部支持を形成するシムプレートに装着されてもよく、シムプレートはフライス盤本体によって支持される。
【0030】
本発明の更なる特徴及び利点は、下記の発明を実施するための形態において明らかとなろう。
【0031】
以下に添付図面を例示として参照し、本発明の実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の第1の実施形態によるフライスインサートの斜視図を示す。
【
図2】
図1のフライスインサートの別の斜視図を示す。
【
図4】
図1のフライスインサートの別の側面図を示す。
【
図7】本発明の第2の実施形態によるフライスインサートの斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1~6は、本発明の第1の実施形態による、側面及び正面フライス加工に適したフライスインサート1を示す。フライスインサート1は矩形の基本形状を有し、上側2と下側3とが外周側面4によって繋がっている。外周側面4は、軸方向逃げ面5を形成する対向する2つの長側面部分と、主径方向逃げ面6を形成する対向する2つの短側面部分とを有する。上側2は上方延在面P
Uを画定し、下側3は、上方延在面P
Uに平行な下方延在面P
Lを画定している。上方及び下方延在面P
U,P
Lを直角に通って中心軸C
1が延びており、フライスインサート1をフライス工具のフライス盤に締結するための中央ねじ孔が設けられている。
【0034】
図示の実施形態で、フライスインサート1は片側型であり、中心軸C1の周囲で回転対称である。上側2にはすくい面7が設けられており、下側3は、下方延在面PLに延在する平坦な底面8を含む。底面8はフライス工具内の支持面に位置するよう意図されている。フライスインサート1の上側2と側面4との間の遷移部に、対向する2つの同一の切れ刃9が設けられている。よって、フライスインサート1は2つの割り出し位置で割り出し可能である。理解を容易にするために、本書では割り出し位置のうちの1つと切れ刃9のうちの1つについてのみ記載することにする。
【0035】
各切れ刃9は、主切れ刃10、2つのコーナー切れ刃11a,11b、及び2つの副切れ刃12a,12bを含む。主切れ刃10は、すくい面7の中央部分に対して隆起しており、主径方向逃げ面6とすくい面7との間の遷移部において延在する。2つの副切れ刃12a,12bは、関連する軸方向逃げ面部分13a,13bとすくい面7との間の遷移部に延在する。コーナー切れ刃11a,11bの各々は、副切れ刃12a,12bのうちの1つを主切れ刃10に繋げている。コーナー切れ刃11a,11bの直下に、コーナー逃げ面14a,14bが延在し、主径方向逃げ面6を軸方向逃げ面部分13a,13bの各々に繋げている。
【0036】
フライスインサート1は、主切れ刃10の中点p
mid及び中心軸C
1を含む垂直面に対して鏡面対称であり、垂直面は切れ刃9を、主切れ刃10の左側部分15aを含む左側部分と、右側部分15bを含む右側部分とに分けている。側面及び正面フライス工具で使用される場合、フライスインサート1は右側部分及び左側部分のいずれにも装着でき、アクティブな(稼働できる)切れ刃を形成する。多目的側面及び正面フライス工具を示す下記の
図8-12でより詳細に説明する。
【0037】
主径方向逃げ面6は、下方延在面P
Lに対して直角に延在するが、軸方向逃げ面5は下方延在面P
Lに対して鈍角な内角ηで傾斜している。内角ηは典型的には95°~110°の範囲内であるべきである。
図3及び6に見られるように、軸方向逃げ面部分13a,13bは更に、軸方向逃げ面5の主要部分に対してわずかに傾斜している。
【0038】
図3のフライスインサートは側面図で示されており、主径方向逃げ面6及び主切れ刃10が見えている。この図で見たとき、主切れ刃10は凹形状を有する。したがって、主切れ刃10の左側及び右側部分15a,15bは、隣接するコーナー切れ刃11a,11bから中点p
midへと下方に傾斜しており、上方延在面P
Uに対して鋭角な内角βを形成している。好ましくは、角度βは3~10°の範囲内であり、より好ましくは4~8°である。図示の実施形態で、角度βは5°である。ここで、角度βは、上方延在面P
Uに平行な線と、主切れ刃10の中点p
midと主切れ刃10終点p
end2との間の線と、の間で測定されたものである。この実施形態で、主切れ刃10の左側及び右側部分15a,15bは、側面図で見たときに本質的に直線であり、湾曲した中間部分15cが左側及び右側部分15a,15bを繋いでいる。
【0039】
図5に示す上面図で、主切れ刃10は凸状であり、中点p
midは、主切れ刃10の終点p
end1,p
end2間の仮想の線Lの外側に位置している。すなわち、上面図で見たときに、主切れ刃10は、コーナー切れ刃11a,11bから中点p
midへと外方向に傾斜している。角度αは、主切れ刃の中点p
midと終点のうちの1つp
end1とをつなぐ線と、仮想の線Lと、の間で測定され、好ましくは0.3~3°の範囲内、又はより好ましくは0.7~2°の範囲内にあるべきである。図示の実施形態で、α=1.7°である。
【0040】
上面図で見たときに、主切れ刃10は、左側部分15aと右側部分15bとが約100mmの同じ曲率で形成され、連続的に湾曲しているが、中間部分15cは、約25mmのより小さい曲率で形成されている。部分15a,15b,15cの間に遷移部が形成されているので、主切れ刃10は連続的に(スムーズに)湾曲している。
【0041】
図6に示すように、中心軸C
1に対して直角の任意の断面で見たときに、主径方向逃げ面6も凸状である。換言すれば、主径方向逃げ面は、コーナー逃げ面14a,14bから主切れ刃10の中点p
midを通って延在する、中心軸C
1に平行な仮想の線(図示せず)へと外方向に傾斜している。該任意の断面で見たときに、主径方向逃げ面6の少なくとも上方部分は、主切れ刃10が上面図で有するのと同じ曲率で同じ形状を有している。したがって、主径方向逃げ面6は、約100mmという共通の曲率を有した左側部分6aと右側部分6b、及び、約25mmという曲率を有する中間部分6cを有する。当然ながら、主径方向逃げ面6及び主切れ刃10が、単一の曲率で形成されるか、或いは幾つかの曲率で異なる湾曲の凸状部分を形成していてもよい。
【0042】
各主径方向逃げ面6には、凹部16が形成されており、主径方向逃げ面6の下方部分において、下側から主切れ刃10に向かう距離の半分よりも多く延在している。下記でさらに詳しく述べるが、凹部16は、フライスインサート1がフライス工具に装着される際に安定的な径方向支持がもたらされるように構成されている。凹部16は、境界端17で区切られている。境界端17は、対向する2つの側端18a,18bと、側端18a,18bを繋いでいる上端18cとを有する(
図3を参照)。
【0043】
図4の側面図で見たとき、各コーナー切れ刃11a,11b及び副切れ刃12a,12bは、コーナー切れ刃11a,11bの二等分線から、上方延在面P
Uに対して15°という共通の内角γで、下方に傾斜している。
【0044】
図7は、本発明によるフライスインサート1の第2の実施形態を示す。このフライスインサート1の、
図1~6に示す第1の実施形態によるフライスインサート1との相違は、副切れ刃を含まないことのみである。各切れ刃9は、主切れ刃10と2つのコーナー切れ刃11a, 11bとのみを含む。よって、軸方向逃げ面5は、対向するコーナー逃げ面14a,14bの間に延在する平坦な表面の形態である。
【0045】
図8-12に、本発明の実施形態による多目的側面及び正面フライス工具20(以下、フライス工具という)を示す。フライス工具20は、シャフト22を有する工具本体21を含む。シャフト22は、長手軸C
2に沿って延びており、シャフト22の周囲で、工具本体21が回転方向Rに回転可能である。工具本体21の後端23は、工具スピンドル又は同様のものに装着されるように構成されており、工具本体21の前端25にフライス盤24が提供される。フライス盤24の外周に、
図1-6に示す実施形態よる複数のフライスインサート1が、フライス盤24のインサート座26に取り外し可能に装着される。フライスインサート1は、主切れ刃10の左及び右側部分15a,15bがフライス加工工程においてアクティブであるように構成され交互に装着される。フライスインサート1の回転方向Rの前方に、チップポケット27が設けられている。
【0046】
図11は、フライスインサート1のうちの1つがどのようにしてフライス盤24にねじ28を用いて装着されるかを示す。フライスインサート1の底面8は、インサート座26に設けられた接線方向支持面29に対向するように構成されており、フライスインサート1に、フライス工具1の接線方向、すなわち、回転方向Rの支持を提供している。接線方向支持面29は、フライス工具20の長手軸C
2に対して、且つフライス工具20の径方向に対して、傾斜している。径方向チップイン(tipping-in)角度θ
r、すなわち、フライスインサート1の上方延在面P
Uと、フライス工具20の径方向における線rとの間の角度は、負の角度であるので、主切れ刃10の後方で十分な径方向クリアランスが達成される。図示の実施形態で、径方向チップイン角度θ
rは-15°であるが、例えば、-5°から-20°、好ましくは-7°から-15°の間で変化し得る。軸方向チップイン角度θ
a、すなわち、フライスインサート1の上方延在面P
Uとフライス工具20の中央回転軸C
2との間の角度は、左側切れ刃の稼働及び右側切れ刃の稼働について交互に配置されており、フライスインサート1の軸方向逃げ面5は下方延在面P
Lに対して傾斜している。図示の実施形態で、軸方向チップイン角度θ
aは5°という正の値を有するが、0°から20°、好ましくは4°から10°の間で変化し得る。
【0047】
図11で、インサート座26は、フライス加工工程において主切れ刃10の左側部分15a、左側コーナー切れ刃11a、及び左側副切れ刃12aが稼働する状態でフライスインサートの装着されるよう、構成されている。軸方向支持面30が、フライス盤24に設けられている。軸方向支持面30は、フライスインサート1の稼働しない側を支持し、フライスインサート1の稼働しない軸方向逃げ面5が軸方向支持面30に対向する。フライス工具20の径方向にフライスインサート1を支持するのに、径方向支持面31が設けられている。図示の実施形態で、径方向支持面31は、フライスインサート1の稼働しない径方向逃げ面6を、
図12の断面で示すように凹部16の高さにおいて支持するように構成されている。
図12では、フライスインサート1及びインサート座26がねじを除去した状態で示されている。フライスインサート1と径方向支持面31との間の接点は、フライスインサート1がねじ28を用いて装着されるとわずかに変化するであろう。フライスインサート1の中心軸C
1は、フライス盤24に設けられたねじ孔の軸C
3に一致するように調整される。実際の接点は、凹部16の境界端17の側端18a,18bに位置することになる。稼働していない径方向逃げ面6は湾曲しているので、凹部16は、安定的な径方向支持がなされることを保証する。当然ながら、フライス盤の径方向支持面に凹部を設けることでも同じ効果が得られる。
【0048】
図示のフライス工具20を用いて工作物に溝を加工する際、主切れ刃10が溝の底面を作成し、副切れ刃12a,12bが溝内の側面を作成する。側面図で見たときの主切れ刃10の下方向の傾斜により、主切れ刃10が徐々に工作物に進入するので、切削力が低減する。主切れ刃10の終点pend1,pend2が、工作物に最初に進入する稼働コーナー切れ刃11a,11bに最も近い。上面図で見たときの主切れ刃10の凸形状によって、主切れ刃10の傾斜が補償される。溝の中間部分から材料を除去することで、加工された底面が平坦になる。
【0049】
本発明によるフライスインサート1は、粉末冶金工程でプレス及び焼結によって製造されたインサートブランクから得られ得る。フライスインサートブランクはその後、外周を研削されて、切れ刃9、及び湾曲した径方向逃げ面6を含む側面4が作成される。本発明によるフライスインサートの利点は、切れ刃9及び側面4がシングルパスの研削工程で研削可能であり、丸みを帯びた主切れ刃10と丸みを帯びた径方向逃げ面6とを同時に生産できることである。
【0050】
当然ながら、本発明は本開示の実施形態に限定されず、下記の特許請求の範囲の範囲内において変形及び修正がなされ得る。例えば、フライスインサートのサイズに応じて、フライスインサートを、主切れ刃がフライスインサートの長側面部分の上方を延びるように作製することも可能である。カセット及び/又はシムプレートを用いてフライスインサートをフライス盤で支持することも可能である。