(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】歯周炎ワクチンおよび関連組成物ならびに使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/02 20060101AFI20230410BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20230410BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230410BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230410BHJP
C07K 14/195 20060101ALN20230410BHJP
【FI】
A61K39/02 ZNA
A61P1/02
A61P31/04
A61P43/00 105
A61P43/00 121
C07K14/195
(21)【出願番号】P 2020520602
(86)(22)【出願日】2018-10-11
(86)【国際出願番号】 US2018055496
(87)【国際公開番号】W WO2019075260
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-10-11
(32)【優先日】2017-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519234567
【氏名又は名称】バックスサイト・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】VAXCYTE, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】ジェファリー・フェアマン
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】NAKAO RYOMA,VACCINE,NL,ELSEVIER,2016年07月25日,VOL:34, NR:38,PAGE(S):4626 - 4634,http://dx.doi.org/10.1016/j.vaccine.2016.06.016
【文献】RYOMA NAKAO,OUTER MEMBRANE VESICLES OF PORPHYROMONAS GINGIVALIS ELICIT A MUCOSAL IMMUNE RESPONSE,PLOS ONE,2011年10月14日,VOL:6, NR:10,,PAGE(S):E26163/1-7,http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0026163
【文献】FRAZER L T,VACCINE,NL,ELSEVIER,2006年10月30日,VOL:24, NR:42-43,PAGE(S):6542 - 6554,http://dx.doi.org/10.1016/j.vaccine.2006.06.013
【文献】GIBSON FRANK C III,INFECTION AND IMMUNITY,米国,AMERICAN SOCIETY FOR MICROBIOLOGY,2001年12月,VOL:69, NR:12,PAGE(S):7959 - 7963,http://dx.doi.org/10.1128/IAI.69.12.7959-7963.2001
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 39/00-39/44
A61K 9/00- 9/72
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの組換えポリペプチドを含む免疫原性組成物であって、前記少なくとも1つの組換えポリペプチドは
(a)Mfa1抗原配列であって、配列番号1に対して少なくとも
90%の配列同一性を有する配列を含む、Mfa1抗原配列、および
(b
)HA1抗原配列およびHA2抗原配
列、を含み、
(i)前記HA1抗原配列は、配列番号2に対して少なくとも
90%の配列同一性を有する配列を含む、および
(ii)前記HA2抗原配列は、配列番号3に対して少なくとも
90%の配列同一性を有する配列を含む、ものである、免疫原性組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの組換えポリペプチドは
、前記Mfa1抗原配列、前記HA1抗原配列、および前記HA2抗原配列、を含む、第1の組換えポリペプチドを含む、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1つの組換えポリペプチドは、
(a)前記Mfa1抗原配列を含む第1の組換えポリペプチド;および
(b
)前記HA1抗原配列および前記HA2抗原配
列を含む第2の組換えポリペプチド、を含む、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1つの組換えポリペプチドは、
(a)前記Mfa1抗原配列を含む第1の組換えポリペプチド;
(b)前記HA1抗原配列を含む第2の組換えポリペプチド;および
(c)前記HA2抗原配列を含む第3の組換えポリペプチド、を含む、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の免疫原性組成物および少なくとも1つの賦形剤を含む、ワクチン製剤。
【請求項6】
歯周病に対して対象を免疫する方法に使用するための薬剤の製造における、請求項1~
4のいずれか一項に記載の免疫原性組成物または請求項
5に記載のワクチン製剤、の使用であって、前記方法は免疫学的有効量の前記免疫原性組成物または前記ワクチン製剤を前記対象に投与することを含むものである、使用。
【請求項7】
前記歯周病は、P.ジンジバリ
スに関連する、請求項
6に記載の使用。
【請求項8】
前記対象はヒトである、請求項
7に記載の使用。
【請求項9】
前記対象は非ヒト哺乳動物である、請求項
7に記載の使用。
【請求項10】
前記対象は歯周炎の症状を示し、前記ワクチン製剤は治療ワクチンとして投与される、請求項
6に記載の使用。
【請求項11】
対象で発症する歯周炎の危険性を低減させる方法に使用するための薬剤の製造における、請求項1~
4のいずれか一項に記載の免疫原性組成物または請求項
5に記載のワクチン製剤、の使用であって、前記方法は免疫学的有効量の前記免疫原性組成物または前記ワクチン製剤を前記対象に投与することを含むものである、使用。
【請求項12】
歯周病に起因する骨損失を低減する方法に使用するための薬剤の製造における、請求項1~
4のいずれか一項に記載の免疫原性組成物、の使用であって、前記方法は免疫学的有効量の前記免疫原性組成物をそのような治療を必要とする対象に投与することを含むものである、使用。
【請求項13】
歯周病に起因する骨損失を防止する方法に使用するための薬剤の製造における、請求項
5に記載のワクチン製剤の使用であって、前記方法は免疫学的有効量の前記ワクチン製剤をそのような治療を必要とする対象に投与することを含むものである、使用。
【請求項14】
歯周病に起因する炎症を低減する方法に使用するための薬剤の製造における、請求項1~
4のいずれか一項に記載の免疫原性組成物または請求項
5に記載のワクチン製剤、の使用であって、前記方法は有効量の前記免疫原性組成物または前記ワクチン製剤をそのような治療を必要とする対象に投与することを含むものである、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、歯周炎の予防および治療に関し、特に、歯周ワクチン組成物およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
集合的には「歯周炎」と呼ばれる歯周病は、一般に生じるが、歯を支える軟組織および硬組織を破壊する複雑な慢性口腔炎症性疾患である。治療しないままにすると、歯の周りの歯槽骨の欠損が歯の緩みおよびその後の欠損をもたらし得る。歯周病は、細菌起源の最も一般的な疾患であり、最近の研究は、米国における40才以上の個人の約60%は、中程度または重度の歯周炎を有し、かつある程度の口腔骨欠損を有することを示している。流行性歯周炎が年齢とともに増加している。Eke et al.(2012)J.DentRes.91(10):914-920を参照されたい。重度の一般的な歯周病が世界的に個人の推定5~20%で発生し(Burt et al.(2005)J.Periodontol.76(8):1406-19、多くの場合、中年までに複数の歯の欠損をもたらし、この疾患の経済的負担は著しく、2010年のデータは米国のみで540億ドルの経済的影響を推定している(Listl et al.(2015)J.Dent.Res.94(10):1355-61を参照されたい。
【0003】
歯周炎は、7つの認識されている主要なカテゴリー、(1)歯肉の炎症を含む歯肉病または「歯肉炎」、(2)慢性歯周炎、すなわち、局在化または全身化する場合があるゆっくり進行する疾患、(3)早発性または「侵襲性」歯周炎、(4)糖尿病、AIDSおよび白血病などの全身性疾患に関連する歯周炎、(5)壊死性歯周病、(6)歯周膿瘍、および(7)歯内病変に関連する歯周炎、を有する分類システムにおける重篤度および原因の両方により分類される。後者の6つのカテゴリーは、生じる損傷が元に戻らないために、「破壊性」歯周病と呼ばれている。Armitage(1999) Ann.Periodontol.4(1):1-6を参照されたい。歯周炎の症状には、炎症を起こしたまたは出血した歯茎、歯肉退縮、歯および歯茎間のポケット、および重篤な歯周炎の場合の、歯の緩みまたは欠損が含まれる。治療は、疾患の程度および原因に依存し、スケーリング、ルートプレーニング、抗生物質治療、および手術が含まれる。スケーリングおよびルートプレーニングは、多くの場合、複数回行わなければならず、抗生物質治療は、有益な口腔内細菌が病原性細菌とともに死滅され得る場合に限り、問題となり、口腔手術は、一般に、最後の手段の望ましくない解決方法である。
【0004】
歯周炎は、ポルフィロモナスジンジバリスなどのキーストーン細菌の存在により始まる。ポルフィロモナス生物は、その全体的な毒性に与える分子の配列を有し、細胞および他の微生物群落への細菌の付着、炎症の発症、歯周病に関連する微生物ディスバイオーシスを含む病因の様々な態様に影響を与える線毛およびジンジパイン(システインプロテアーゼのグループ)を含む。Lamont et al.(1998) Microbiol.Mol.Biol.Rev.62(4):1244-63およびBostanci et al.(2012) FEMS Microbiol.Lett.333(1):1-9を参照されたい。これらの細菌病原性因子のいくつかについて、ワクチン開発のための潜在的標的として調査されてきた。例えば、Lamont et al.,supra、Arjunan et al.(2016) Mol.Oral Microbiol.31(1):78093、Takahashi et al.(2006) Cell Microbiol.8(5):738-57、Malek et al.(1994)J.Bacteriol.176(4):1-52-9)、Gibson et al.(2001) InfectImmun.69(12):7959-63、およびEvans et al.(1992) Infect.Immun.60(7):2926-35を参照されたい。
【0005】
歯周炎を治療し、その上歯周炎を予防する可能性のあるワクチンは、繰り返される臨床的介入および/または口腔手術の必要性がなくなるであろう。歯周病のための効果的な治療および/または予防ワクチンの開発は、この疾患が成人人口のかなりの割合で発生するために、特に有用であろう。しかしながら、歯周炎は、歯垢の細菌組成、ホスト遺伝子構造、ならびに歯周病発症の基本的な理解および標的化ワクチン開発についての可能性に対するユニークな障害を与える環境因子を含む因子を伴う多因子疾患である。
【0006】
理想的な歯周炎ワクチンは、歯周炎を対象として治療効果を実現し、その上予防コンテキストにおいて効果的であろう。侵襲性臨床的介入の必要性がなくなり、歯周病を患っている個人の数は実質的に減少するであろう。さらに、理想的なワクチンは、大量生産に適しているコストパフォーマンスの高いプロセスを使用して製造するのが簡単になるであろう。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、当該技術分野における上記必要性に対処し、免疫原性組成物、その組成物を含むワクチン製剤、歯周病を治療および予防する方法、を提供する。
【0008】
第1の実施形態では、少なくとも1つのポリペプチドを含む免疫原性組成物が提供され、少なくとも1つのポリペプチドは、(a)ポルフィロモナス菌のMfa1フィンブリリンタンパク質由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同であるMfa1抗原配列と、(b)HA1抗原配列、HA2抗原配列、またはHA1抗原配列およびHA2抗原配列の両方と、を含み、(i)HA1抗原配列は、ポルフィロモナス菌のRgpAジンジパインタンパク質内に含まれるRgpAジンジパインヘマグルチニンドメイン1(本明細書において、「ジンジパインHA1」または「HA1」とも呼ばれる)由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同であり、(ii)HA2抗原配列は、ポルフィロモナス菌のRgpAジンジパインタンパク質内に含まれるRgpAジンジパインヘマグルチニンドメイン2(本明細書において、「ジンジパインHA1」または「HA1」とも呼ばれる)由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同である。
【0009】
この実施形態の一態様では、少なくとも1つのポリペプチドは、(a)Mfa1抗原配列およびHA1抗原配列、(b)Mfa1抗原配列およびHA2抗原配列、または、(c)Mfa1抗原配列、HA1抗原配列、およびHA2抗原配列、を含む、第1のポリペプチドを含む。したがって、第1のポリペプチドは、Mfa1抗原配列およびHA1抗原配列および/またはHA2抗原配列を含む融合タンパク質であってもよいことが理解されるであろう。関連態様では、少なくとも1つのポリペプチドは、(a)Mfa1抗原配列を含む第1のポリペプチドと、(b)HA1抗原配列、HA2抗原配列、またはHA1抗原配列およびHA2抗原配列の両方を含む第2のポリペプチドと、を含む。したがって、この態様では、Mfa1抗原配列は、1つのポリペプチド内にあり、HA1およびHA2抗原配列は、両方が存在する場合に融合タンパク質である第2のポリペプチド内にある。
【0010】
この実施形態の別の態様では、免疫原性組成物の少なくとも1つのポリペプチドは、Mfa1抗原配列を含む第1のポリペプチド、HA1抗原配列を含む第2のポリペプチド、およびHA2抗原配列を含む第3のポリペプチドを含む。したがって、この態様では、Mfa1、HA1およびHA2抗原配列のうちの1つを各々が含む3つの別個のポリペプチドが存在する。
【0011】
関連態様では、Mfa1抗原配列、HA1抗原配列、およびHA2抗原配列は、P.ジンジバリス、P.グラエ、P.カンジンジバリス、P.ジンジビカニス、P.カノリス、P.サリボサ、およびP.サーカムデンタリアから選択されるポルフィロモナス種の、それぞれ、Mfa1フィンブリリンポリペプチド、ジンジパインHA1、およびジンジパインHA2の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同である。
【0012】
この実施形態の別の態様では、Mfa1抗原配列、HA1抗原配列、およびHA2抗原配列は、P.ジンジバリスの、それぞれ、Mfa1フィンブリリンポリペプチド、ジンジパインHA1、およびジンジパインHA2の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同である。
【0013】
この実施形態の別の態様では、Mfa1抗原配列、HA1抗原配列、およびHA2抗原配列は、P.グラエの、それぞれ、Mfa1フィンブリリンポリペプチド、ジンジパインHA1、およびジンジパインHA2の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同である。
【0014】
本発明の別の実施形態では、上記の免疫原性組成物および薬学的に許容される賦形剤を含む歯周炎ワクチン製剤が提供される。通常の例では、製剤は少なくとも1つの賦形剤を含み、少なくとも1つの賦形剤は、担体、可溶化剤、乳化剤、安定剤、防腐剤、等張剤、バッファシステム、分散剤、希釈剤、粘度調整剤、および吸収促進薬から選択される。ワクチンは、追加的にまたは代替的に、少なくとも1つの補助剤を含んでもよい。
【0015】
この実施形態の一態様では、ワクチン製剤は無菌注射可能溶液として製剤化される。この実施形態の関連態様では、ワクチン製剤は、使用前に再水和されるように製剤化される。
【0016】
別の実施形態では、本発明の免疫原性組成物の免疫学的有効量を対象に投与することにより歯周病に対して対象を免疫する方法が提供される。この実施形態の一態様では、方法は、歯周炎の症状を示す対象における歯周炎を治療することを含む。この実施形態の別の態様では、方法は、中程度から重度の歯周炎を含む歯周炎を発症する素因を有する可能性のある対象における歯周炎発症の危険性を低減させることを含み、素因は、年齢、遺伝的素因、免疫無防備状態、歯周炎を発症する危険性を高くする全身性疾患、歯内病変もしくは膿瘍の存在、または他の危険因子などの危険因子に関連する。中程度から重度の歯周炎を発症する危険性を高める全身性疾患の例には、糖尿病、AIDS、白血病、およびダウン症が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】無細胞タンパク質合成により生成される精製ポリペプチドMfa1、HA1およびHA2のSDS-PAGE解析を提供する。
【0018】
【
図2】P.ジンジバリスMfa1、HA1、およびHA2に対する血清IgG EC
50を提供する。対照グループまたは実験グループ、および血清サンプルとしての役割を果たす動物G1~G6のグループは、経口試験(ワクチン後、塗りつぶされていないバー)の直前にまたは犠牲を払って(塗りつぶされたバー)動物から収集され、分子特異的IgG EC
50値は、P.ジンジバリスの(A)Mfa1、(B)HA1、および(C)HA2に対してELISAデータから計算された。
【0019】
【
図3】インビボでの口腔骨欠損に対する歯周炎ワクチン製剤の効果を評価する実験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.用語および定義:
【0021】
別途定義されていない限り、本明細書で使用されているすべての技術的および科学的用語は、本発明が関係する当該技術分野において当業者が一般的に理解する意味を有する。本発明の説明に対して特に重要である特定の用語について以下に定義する。
【0022】
本明細書および添付の請求の範囲において、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が別途に明確に示さない限り、複数の言及を含む。したがって、例えば、「a polypeptide(ポリペプチド)」は、単独のポリペプチドを指すだけではなく、組み合わされてもまたは組み合わされなくてもよい2つ以上の異なるポリペプチドの組み合わせも指し、「an adjuvant(補助剤)」は、単独の補助剤、ならびに別個であっても、または単一の組成物に組み合わされてもよい2つ以上の補助剤も指す。
【0023】
「biological molecule(生体分子)」とも本明細書で呼ばれる「biomolecule(生体分子)」は、自然発生であるか、組換え的に産生されたか、全体的もしくは部分的に化学的に合成されたか、または化学的もしくは生物学的に修飾されたかに拘わらず、生きている生物の一部であるか、あったか、またはあり得る任意の有機分子である。用語は、例えば、ポリペプチド、ペプチド断片、アミノ酸、多糖類、脂質などを包含する。
【0024】
用語「ポリペプチド」は、1つ以上のアミノ酸を含む任意の構造を含むように意図され、したがって、ジペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、ポリペプチド断片およびタンパク質を含む。ポリペプチドの全部または一部を形成するアミノ酸は、例えば、Rosenbergらが米国特許第US5,679,782号に記載している、20個の従来の天然存在するアミノ酸、すなわち、アラニン(A)、システイン(C)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、フェニルアラニン(F)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、イソロイシン(I)、リジン(K)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、プロリン(P)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)、セリン(S)、スレオニン(T)、バリン(V)、トリプトファン(W)、およびチロシン(Y)、および従来にないアミノ酸、従来のアミノ酸の異性体または修飾、例えば、Dアミノ酸、非タンパク質アミノ酸、翻訳後修飾アミノ酸、酵素修飾アミノ酸、βアミノ酸、擬態アミノ酸に対して設計された構築物または構造物(例えば、α,α-二置換アミノ酸、N-アルキルアミノ酸、乳酸、β-アラニン、ナフチルアラニン、3-ピリジルアラニン、4-ヒドロキシプロリン、O-ホスホセリン、N-アセチルセリン、N-ホルミルメチオニン、3-メチルヒスチジン、5-ヒドロキシリシン、およびノルロイシン)、および他の従来にないアミノ酸のいずれかであってもよい。本明細書に記載しているポリペプチドは、二次抗体、例えば、多糖類への結合を可能にする官能基を有する1つ以上の非天然アミノ酸を含んでもよい。ポリペプチドは、(a)天然に存在し、(b)化学合成により製造され、(c)組み換えDNA技術により製造され、(d)より大きい分子の生化学または酵素切断により製造され、(e)上記に列挙した方法(a)~(d)の組み合わせからもたらされる方法により製造され、または(f)以下で説明する無細胞タンパク質合成などのペプチドを製造する任意の他の手段により製造され得る。
【0025】
生体高分子配列、例えば、ポリペプチド配列のコンテキストにおける用語「配列同一性」、「配列相同性の割合」は、配列比較アルゴリズム、例えば、BLASTPまたはSmith-Waterman相同性検索アルゴリズムを使用して測定する所与の長さ(比較ウィンドウ)における最大一致性に対して比較および位置合わせされるときに、同一であるアミノ酸残基(ヌクレオチド、または生体高分子を構成する他の種類の単量体単位)の特定の割合と同じであるまたはその割合を有する2つ以上の配列を指す。現在の状況下で、配列相同性の割合は、生体分子の全長または一部のみにわたって決定されてもよい。配列相同性の割合を計算する一方法は、ワード長(W)3、期待値(E)10、およびBLOSUM62スコア行列にデフォルトのセットを有するBLASTPプログラムであり、例えば、Henikoff et al.(1989) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915を参照されたい。配列アライメントおよび配列相同性の割合の例示的な決定では、提供されるデフォルトパラメータを使用して、GCG Wisconsin Softwareパッケージ(Accelrys、Madison Wis.)におけるBESTFITまたはGAPプログラムを用いる。これらの好ましい配列同一性を計算する方法は異なる量を与え、方法はより高い配列同一性制御を与える。
【0026】
用語「実質的に相同」は、少なくとも50%の、したがって、例えば、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約99%、および100%、を含む所与の長さ(例えば、ポリペプチドの「x」個のアミノ酸)にわたる配列相同性の割合を指す。
【0027】
「組み換え」ポリペプチドは、組み換えDNA技術によって得られる、すなわち、所望のポリペプチドをコードする外因性DNA構築物によって形質転換される細胞から産生されるポリペプチドを指す。「合成」ポリペプチドは、化学的合成によって調製されるポリペプチドである。
【0028】
本明細書で使用する場合、「免疫原性の」という用語は、免疫応答、すなわち、体液性免疫応答または細胞性免疫応答のどちらか、および好ましくは両方を惹起する抗原(例えば、ポリペプチド)の能力を指す。好ましい実施形態では、対象は、新しい感染に対する耐性が高まるおよび/または歯周病の臨床上の重篤度が低減されるように、本明細書における免疫原性組成物の「有効量」または「免疫学的有効量」の投与に対して治療または防御免疫学的反応を示す。免疫学的応答は、通常、感染に関連する少なくとも1つの症状の低減または排除によって示されるであろう。
【0029】
本明細書で使用する場合、「精製される」という用語を分子に関して使用するとき、精製されている分子の濃度は、分子の自然環境におけるその濃度に対して高められたことを意味する。この用語はまた、分子が反応生成物として生成された反応混合物からの化学合成分子の精製を指してもよい。本明細書で使用する場合、「単離される」という用語は、分子がその自然環境から除去されたことを意味する。例えば、生体中に自然に存在するポリヌクレオチドまたはポリペプチドは「単離」されないが、その自然状態において共存する材料から分離される同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドは「単離」される。単離部分は、自然環境からまたは非自然環境(例えば、組み換え発現、無細胞発現、化学合成など)から分離されることに拘わらず、好ましくは、少なくとも約1%純度、5%純度、10%純度、20%純度、30%純度、40%純度、50%純度、60%純度、70%純度、80%純度、90%純度、95%純度、もしくは99%純度であり、またはそれは100%純度であってもよい。本明細書で使用する場合、「%純度」は、対象の分子からなる組成物の割合を重量で示している。
【0030】
本明細書で使用する場合、ポリペプチドまたは他の生体分子の「分子重量」という用語は、多角度光散乱(MALS)と組み合わされたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって計算される分子重量を指す。
【0031】
「治療」という用語は、本発明の免疫原性組成物またはワクチン製剤の投与による治療処置を指す。例えば、「治療」は、感染に直接影響し、それを直接抑制し、阻害し、排除し、および感染に関連する症状の重篤度を低減し、その発症を遅延させ、および/またはそれを低減することを含んでもよい。コンテキストによって別途に明確に示されていないまたは明示されていない限り、「防止」という用語は、「防止」(または予防もしくは予防薬処置)を包含し、「防止」は、対象が感染を発症する危険性を低減すること、症状の発症を遅延させること、感染の再発を防止すること、または感染の発症を予防することを指してもよい。
【0032】
2.免疫原性組成物およびワクチン製剤:
【0033】
本発明の第1の実施形態では、(a)ポルフィロモナス菌のMfa1フィンブリリンタンパク質由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同であるMfa1抗原配列と、(b)HA1抗原配列および/またはHA2抗原配列と、を含む少なくとも1つのポリペプチドを含む免疫原性組成物が提供され、HA1抗原配列はポルフィロモナスジンジパインHA1由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同であり、HA2抗原配列はポルフィロモナスジンジパインHA2由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同である。少なくとも1つのポリペプチドは、Mfa1抗原配列、HA1抗原配列およびHA2抗原配列を含む融合タンパク質であってもよい。少なくとも1つのポリペプチドはまた、Mfa1抗原配列およびHA1抗原配列を含む融合タンパク質、またはMfa1抗原配列およびHA2抗原配列を含む融合タンパク質であってもよい。そのような実施形態に関する変形では、少なくとも1つのポリペプチドは、Mfa1抗原配列を含む第1のポリペプチドと、HA1抗原配列およびHA2抗原配列のどちらかまたは両方を含む第2のポリペプチドと、を含んでもよい。
【0034】
しかしながら、好ましい実施形態では、免疫原性組成物における少なくとも1つのポリペプチドは、2つの別個のポリペプチド、すなわち、Mfa1抗原配列を含む第1のポリペプチドと、HA1抗原配列またはHA2抗原配列を含む第2のポリペプチドと、を含む。別の好ましい実施形態では、免疫原性組成物における少なくとも1つのポリペプチドは、3つの別個のポリペプチド、すなわち、Mfa1抗原配列を含む第1のポリペプチドと、HA1抗原配列を含む第2のポリペプチドと、HA2抗原配列を含む第3のポリペプチドと、を含む。
【0035】
上記のように、Mfa1抗原配列はポルフィロモナス菌のMfa1フィンブリリンタンパク質由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同であり、HA1抗原配列はポルフィロモナスジンジパインHA1由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同であり、HA2抗原配列は、ポルフィロモナスジンジパインHA2由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同である。これら3つの抗原内の免疫原性配列は、ポルフィロモナス菌感染に対する治療または予防免疫原性応答を生成する能力を有する組成物を選択された一部がもたらす限り、集合的にまたは個別的に、全全長タンパク質またはドメイン(すなわち、Mfa1タンパク質、RgpAジンジパインヘマグルチニンドメイン1、および/またはRgpAジンジパインヘマグルチニンドメイン2)、またはそのようなタンパク質またはドメインの一部(または断片)であり得る。通常、全タンパク質またはドメインのこれらの免疫原性部分または断片は、長さが少なくとも20個のアミノ酸残基である。所望の免疫原性特性が維持される場合、抗原配列が基づくタンパク質またはドメインの長さは、設計選択の問題であり、少なくとも20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、または100個のアミノ酸残基、全長タンパク質またはドメインまであり得る。したがって、本発明のポリペプチド内に含まれる抗原配列は、天然のタンパク質またはドメイン配列(すなわち、Mfa1フィンブリリンタンパク質、RgpAジンジパインヘマグルチニンドメイン1、および/またはRpgAジンジパインヘマグルチニンドメイン2)の全長または一部由来のこれらの免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同である。典型的には、ポリペプチド産生の方法論または効率に関連する理由のために通常は、本発明のポリペプチド内に含まれる抗原配列は、それらが対応するネイティブの免疫原性配列の正確なコピーではない。例えば、N末端メチオニルは、同一性または相同性の最大割合を計算するための抗原配列の外側として処理されてもよく、開始コドンの付加により、多くの場合、存在する。付加、欠失および置換(多くの場合、保存的置換)はまた、有用な免疫原性特性がポリペプチド内になおも存在する場合に、生じ得る。したがって、対応するタンパク質またはドメイン内に見出される免疫原性アミノ酸残基配列に対して実質的に相同である抗原配列(すなわち、Mfa1抗原配列、HA1抗原配列、またはHA2抗原配列)を表すアミノ酸残基配列を(その中にまたは全体が)含むポリペプチドを用いて本発明が実行されてもよく、ここで、免疫原性アミノ酸残基配列は、全長タンパク質もしくはドメインのどちらか、またはその一部または断片である、ことが理解され得る。抗原配列の実質的相同性が測定されるこれらの免疫原性アミノ酸残基配列は、個別的に、全長タンパク質もしくはドメインのどちらか、または、長さが少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35、少なくとも40、少なくとも45、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90、または100個のアミノ酸残基であるその一部である。典型的には、これらの抗原配列は免疫原性アミノ酸残基配列に対して相同であり、抗原配列の実質的相同性は、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%、または100%のレベルで測定される。動物またはヒトにおけるルーチン試験は、全長細菌タンパク質またはドメインの一部に基づく本発明の組成物が対象の細菌による感染に対する治療または予防免疫原性応答を生成するかどうかを、容易に示し得る。
【0036】
Mfa1フィンブリリンタンパク質はポルフィロモナス菌由来であり、RgpAジンジパインヘマグルチニンドメイン1および2は、ポルフィロモナス菌由来でもあるRgpAジンジパインタンパク質内に含まれ、ポルフィロモナス菌は、P.ジンジバリス、P.グラエ、P.カンジンジバリス、P.ジンジビカニス、P.カノリス、P.サリボサ、およびP.サーカムデンタリアから選択されるポルフィロモナス種を含む様々なポルフィロモナス種のいずれかであってもよい。
【0037】
好ましい実施形態では、Mfa1フィンブリリンタンパク質はP.ジンジバリス由来である。このコンテキスト内のMfa1抗原配列を有する少なくとも1つのポリペプチドを含む組成物の免疫学的有効量の投与は、P.ジンジバリス感染が進行する病原性経路の1つ以上を攪乱させる抗Mfa1抗体が生成される免疫応答を誘発するであろう。この実施形態では、Mfa1抗原配列は、配列番号1のアミノ酸を有するP.ジンジバリスMfa1フィンブリリンタンパク質由来などのP.ジンジバリス菌のMfa1フィンブリリンタンパク質由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同である。
【0038】
下記の実験部分に記載している調製されるP.ジンジバリスMfa1フィンブリリンタンパク質は、552アミノ酸(これおよび続く配列番号は、下記の無細胞合成で使用する開始コドン由来のN末端メチオニルの付加を含む)を含み、分子量60,018を有し、配列番号1のアミノ酸配列を、便宜上下記に複写している。
【化1】
【0039】
この実施形態では、Mfa1抗原配列は、P.ジンジバリス由来のMfa1フィンブリリンタンパク質由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同であり、HA1抗原配列は、P.ジンジバリスPgpAジンジパインタンパク質内に含まれるPgpAジンジパインヘマグルチニンドメイン1(HA1)由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同であることが好ましいが、必須ではなく、ここで、例えば、免疫原性アミノ酸配列は配列番号2を有するHA1由来であってもよい。類似して、この実施形態では、HA2抗原配列は、P.ジンジバリスPgpAジンジパインタンパク質内に含まれるPgpAジンジパインヘマグルチニンドメイン2(HA2)由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同であることが好ましく、ここで、例えば、免疫原性アミノ酸配列は配列番号3を有するHA2由来であってもよい。
【0040】
下記の記載のように調製されるP.ジンジパインHA1は、176アミノ酸を含み、分子量19,059を有し、配列番号2のアミノ酸配列を、便宜上下記に複写している。
【化2】
【0041】
下記の記載のように調製されるP.ジンジバリスジンジパインHA2はまた、442アミノ酸を含み、分子量48,299を有し、配列番号3のアミノ酸配列を、下記に複写している。
【化3】
【0042】
単一の免疫原性組成における1つ以上のポリペプチドにおいてMfa1抗原配列をHA1抗原配列およびHA2抗原配列のどちらかまたは両方と組み合わせることが、ポルフィロモナス感染に関連する歯周病の病原性進行に含まれる複数の機構、すなわち、Mfa1フィンブリリンタンパク質およびRgpAジンジパインタンパク質に関連する機構を標的にすると考えられる。
【0043】
別の実施形態では、Mfa1フィンブリリンタンパク質はP.グラエ由来である。この場合、Mfa1抗原配列は、配列番号4のアミノ酸を有するP.グラエMfa1フィンブリリンタンパク質由来などのP.グラエ菌のMfa1フィンブリリンタンパク質由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同である。P.ジンジバリスを参照して説明する場合、HA1抗原配列およびHA2抗原配列は、P.グラエ生物のRgpAジンジパインタンパク質内に含まれるそれぞれRgpAヘマグルチニンドメイン1およびRgpAヘマグルチニンドメイン2由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同である必要がある。P.グラエHA1由来の免疫原性アミノ酸配列は配列番号5に由来していてもよく、P.グラエHA2由来の免疫原性アミノ酸配列は配列番号6に由来していてもよい。
【0044】
P.グラエMfa1フィンブリリンタンパク質(配列番号4):
【化4】
【0045】
P.グラエジンジパインHA1(配列番号5):
【化5】
【0046】
P.グラエジンジパインHA2(配列番号6):
【化6】
【0047】
したがって、本免疫原性組成物は、以下を含む:
【0048】
(1)(a)配列番号1を有するP.ジンジバリスMfa1フィンブリリンタンパク質由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同するP.ジンジバリスMfa1抗原配列と、(b)配列番号2を有するP.ジンジバリスジンジパインHA1由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同するP.ジンジバリスHA1抗原配列と、を含む免疫原性組成物;
【0049】
(2)(a)配列番号1を有するP.ジンジバリスMfa1フィンブリリンタンパク質由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同するP.ジンジバリスMfa1抗原配列と、(b)配列番号3を有するP.ジンジバリスジンジパインHA2由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同するP.ジンジバリスHA2抗原配列と、を含む免疫原性組成物;
【0050】
(3)(a)配列番号1を有するP.ジンジバリスMfa1フィンブリリンタンパク質由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同するP.ジンジバリスMfa1抗原配列と、(b)配列番号2を有するP.ジンジバリスジンジパインHA1由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同するP.ジンジバリスHA1抗原配列と、(c)配列番号3を有するP.ジンジバリスジンジパインHA2由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同するP.ジンジバリスHA2抗原配列と、を含む免疫原性組成物;
【0051】
(4)(a)配列番号4を有するP.グラエMfa1フィンブリリンタンパク質由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同するP.グラエMfa1抗原配列と、(b)配列番号5を有するP.グラエジンジパインHA1由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同するP.グラエHA1抗原配列と、を含む免疫原性組成物;
【0052】
(5)(a)配列番号4を有するP.グラエMfa1フィンブリリンタンパク質由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同するP.グラエMfa1抗原配列と、(b)配列番号6を有するP.グラエジンジパインHA1由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同するP.グラエHA2抗原配列と、を含む免疫原性組成物;および
【0053】
(6)(a)配列番号4を有するP.グラエMfa1フィンブリリンタンパク質由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同するP.グラエMfa1抗原配列と、(b)配列番号5を有するP.グラエジンジパインHA1由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同するP.グラエHA1抗原配列と、(c)配列番号6を有するP.グラエジンジパインHA1由来の免疫原性アミノ酸配列に対して実質的に相同するP.グラエHA2抗原配列と、を含む免疫原性組成物。
【0054】
好ましい実施形態では、組成物は、ワクチン製剤への組み込みに適する免疫原性組成物を含む。選択された抗原配列を含む少なくとも1つのポリペプチドは、好ましくは、上記のように、単離または精製形態の組成物に組み込まれ、「単離される」および「精製される」の用語については、本明細書ですでに定義している。免疫原性組成物における少なくとも1つのポリペプチドの量は、対象において治療または予防免疫応答を生成するのに十分または効果的であり、すなわち、全免疫原性としての組成物を与える量である。したがって、対象への免疫原性組成物の免疫学的効果的用量の投与は、ワクチン製剤において、本節のパート(I)で説明している免疫応答を、好ましくは、ポルフィロモナス感染に関連する歯周病の進行を阻止、または発症を防止する機能を果たす応答を、惹起する。組成物における各ポリペプチドの相対量はかなり異なってもよい。しかしながら、組成物は、一般に、選択されたポリペプチド、例えば、(a)Mfa1抗原配列を含む第1のポリペプチドと、HA1抗原配列、HA2抗原配列、またはそれら両方を含む第2のポリペプチドと、または、(b)Mfa1抗原配列を含む第1のポリペプチドと、HA1抗原配列を含む第2のポリペプチドと、HA2抗原配列を含む第3のポリペプチドと、を用いて製剤化され、約1:5~約5:1の範囲、典型的には、約1:3~約3:1の範囲、例えば、約1:1.5~約1.5:1の、約1:1を含む範囲、の組成物における各他のポリペプチドに対する組成物における各ポリペプチドの重量比に対応する量に組み合わされる。好ましい実施形態では、組成物における各他のポリペプチドに対する組成物における各ポリペプチドの重量比は、1:5~5:1の、典型的には、1:1.5~1.5:1などの1:3~3:1の、および1:1を含む範囲にある。したがって、免疫原性組成物は、以下のうちの1つであってもよい:
【0055】
(1)1:5~5:1の範囲の重量比のMfa1抗原配列を含む第1のポリペプチドおよびHA1抗原配列を含む第2のポリペプチドを組み合わせることにより製剤化される組成物;
【0056】
(2)1:3~3:1の範囲の重量比のMfa1抗原配列を含む第1のポリペプチドおよびHA1抗原配列を含む第2のポリペプチドを組み合わせることにより製剤化される組成物;
【0057】
(3)1:1.5~1.5:1の範囲の重量比のMfa1抗原配列を含む第1のポリペプチドおよびHA1抗原配列を含む第2のポリペプチドを組み合わせることにより製剤化される組成物;
【0058】
(4)約1:1の重量比のMfa1抗原配列を含む第1のポリペプチドおよびHA1抗原配列を含む第2のポリペプチドを組み合わせることにより製剤化される組成物;
【0059】
(5)1:5~5:1の範囲の重量比のMfa1抗原配列を含む第1のポリペプチドおよびHA2抗原配列を含む第2のポリペプチドを組み合わせることにより製剤化される組成物;
【0060】
(6)1:3~3:1の範囲の重量比のMfa1抗原配列を含む第1のポリペプチドおよびHA2抗原配列を含む第2のポリペプチドを組み合わせることにより製剤化される組成物;、
【0061】
(7)1:1.5~1.5:1の範囲の重量比のMfa1抗原配列を含む第1のポリペプチドおよびHA2抗原配列を含む第2のポリペプチドを組み合わせることにより製剤化される組成物;
【0062】
(8)約1:1の重量比のMfa1抗原配列を含む第1のポリペプチドおよびHA2抗原配列を含む第2のポリペプチドを組み合わせることにより製剤化される組成物;
【0063】
(9)Mfa1抗原配列を含む第1のポリペプチド、HA1抗原配列を含む第2のポリペプチド、およびHA2抗原配列を含む第3のポリペプチドを組み合わせることにより製剤化される組成物であって、ここで、組成物における各他のポリペプチドに対する組成物における各ポリペプチドに対する組成物における各ポリペプチドの重量比は1:5~5:1の範囲内にある、組成物;
【0064】
(10)Mfa1抗原配列を含む第1のポリペプチド、HA1抗原配列を含む第2のポリペプチド、およびHA2抗原配列を含む第3のポリペプチドを組み合わせることにより製剤化される組成物であって、ここで、組成物における各他のポリペプチドに対する組成物における各ポリペプチドに対する組成物における各ポリペプチドの重量比は1:3~3:1の範囲内にある、組成物;
【0065】
(11)Mfa1抗原配列を含む第1のポリペプチド、HA1抗原配列を含む第2のポリペプチド、およびHA2抗原配列を含む第3のポリペプチドを組み合わせることにより製剤化される組成物であって、ここで、組成物における各他のポリペプチドに対する組成物における各ポリペプチドに対する組成物における各ポリペプチドの重量比は1:1.5~1.5:1の範囲内にある、組成物;および
【0066】
(12)Mfa1抗原配列を含む第1のポリペプチド、HA1抗原配列を含む第2のポリペプチド、およびHA2抗原配列を含む第3のポリペプチドを組み合わせることにより製剤化される組成物であって、ここで、組成物における各他のポリペプチドに対する組成物における各ポリペプチドの重量比は約1:1.5であり、ゆえに、3つのポリペプチドの重量比は約1:1:1である、組成物。
【0067】
付加的な抗原:Mfa1抗原配列およびHA1抗原配列および/またはHA2抗原配列を含む少なくとも1つのポリペプチドに付加して、免疫原性組成物は1つ以上の付加的な抗原を含んでもよい。付加的な抗原は、ポルフィロモナス病原性機構および/または毒性因子、例えば、細菌チロシンキナーゼPtk1(Bainbridge(2010)Infect.Immun.78(11):4560-69を参照されたい)、またはホスホセリンホスファターゼ酵素SerB(Wright et al.(2014)(MicrobiologyOpen 3(3):383-94を参照されたい)を標的にする抗体応答を誘発する抗原であってもよい。抗原はまた、歯周病の進行に関連する複合微生物バイオフィルムに存在する傾向にある生物などの、ポルフィロモナス生物以外の病原体に向けられる組成物に含まれてもよい。
【0068】
免疫原性組成物の少なくとも1つのポリペプチドを、例えば、固相または液相化学合成(全体的にまたは部分的に)により、プロテアーゼを使用するより長いポリペプチドの消化により、細胞ベースの組み換えタンパク質発現により、細胞培養からの精製(例えば、組み換え発現から)などにより、多様に調製し得る。しかしながら、ポリペプチドを調製する好ましい方法は、スケーラブルな無細胞タンパク質合成(「CFPS」)システムであり、Roy等による米国特許第US9,040,253号、Thanos等による米国特許第US9,650,621号、およびMurray et al.(2013) Current Opin.Chem.Biol.17(3):420-26に記載されている。Mfa1、HA1,およびHA2ポリペプチド抗原の無細胞合成ついて、下記の実施例に詳細に説明している。
【0069】
本発明はまた、例えば、使用前に再水和される懸濁液、溶液または凍結乾燥形態のような、対象への投与のための無菌製剤における免疫原性組成物を含むワクチン製剤も提供する。ワクチン製剤は、Mfa1抗原配列およびHA1抗原配列および/またはHA2抗原配列と、上記の任意の付加的な抗原と、以下のような補助剤および賦形剤から選択される少なくとも1つの付加的な成分と、を含む、少なくとも1つのポリペプチドを含む。
【0070】
補助剤:ワクチン製剤は、免疫原性組成物における1つ以上の抗原への免疫応答を増強するための1つ以上の補助剤を含んでもよい。本製剤への組み込みのための適切なワクチン補助剤については、関連テキストおよび文献に記載されていて、当業者には明白であろう。主な補助剤グループは、以下のとおり:
【0071】
リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、および硫酸アルミニウムなどのalumベースの補助剤、ならびに、カルシウム、鉄およびジルコニウムのリン酸塩、水酸化物、硫酸塩などの他の無機塩の補助剤を含む無機塩;
【0072】
キラヤサポニンQuil AおよびQuil A誘導サポニンQS-21、ならびに、コレステロール、リン脂質、およびサポニンの混合時に形成される免疫刺激複合体を含むサポニン製剤;
【0073】
抗酸菌、コリネバクテリウムパルバム、C.グラニュローサム、百日咳菌、ならびに、リピドA、モノホスホリルリピドA(MPLA)、他のリピドA誘導体および模倣剤(例えば、RC529)、腸内細菌リポ多糖(「LPS」)、TLR4リガンド、およびトレハロースジミコール酸(「TDM」)などの髄膜炎菌などのグラム陰性菌由来の細胞壁ペプチドグリカンおよびリポ多糖を含むが、それらに限定されない、細菌由来および細菌関連補助剤;
【0074】
N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン(「MDP」)およびMDP類似物および誘導体、例えば、スレオニル-MDPおよびノル-MDPなどのムラミルペプチド;
【0075】
スクアレン水エマルジョン(例えば、MF59、AS03、AF03)、完全フロイントアジュバント(「CFA」)および不完全フロイントアジュバント(「IFA」)などの水中油(O/W)および油中水(W/O)エマルジョンを含む油ベースの補助剤と、
【0076】
リポソーム補助剤;
【0077】
ポリα-ヒドロキシ酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリカプロラクトンなど生分解性および非毒性ポリマーから形成される微小球補助剤;
【0078】
インターロイキン(例えば、IL-1、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-12)、インターフェロン(例えば、インターフェロン-γ)、マクロファージコロニー刺激因子、および腫瘍壊死因子などのサイトカインを含むヒト免疫調節剤;
【0079】
キトサンおよびその誘導体、エステル化ヒアルロン酸、および、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、多糖、およびカルボキシメチルセルロースなどの微小球および粘膜付着剤などの生体接着剤および粘膜付着剤;
【0080】
イミキモドおよびその相同体、例えば、レシキモドを含むイミダゾキノリン化合物;
【0081】
Hsp90およびメチル化されていないCpGモチーフを含むオリゴデオキシヌクレオチドなどのTLR-9アゴニスト(例えば、Bode et al.(2011) Expert Rev.Vaccines 10(4):499-511を参照されたい);および
【0082】
イヌリン誘導補助剤ガンマイヌリンおよびアルガムリン、ならびに、グルカン、デキストラン、レンチナン、グルコマンナン、レバン、およびキシランを含むグルコースおよびマンノースに基づく多糖などの他の炭水化物補助剤。
【0083】
本明細書における例示的な補助剤には、リン酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウムなどのalumベースの塩が含まれる。
【0084】
ワクチン製剤はまた、多数の機能のうちのいずれかを提供するための、少なくとも1つの賦形剤、通常は2つ以上の賦形剤を含み、賦形剤は、「薬学的に許容される」免疫学的かつ薬学的に不活性な成分である。本明細書における「薬学的に許容される」成分は、(1)著しく不必要な生物学的影響を引き起こすことなく、または製剤の他の成分のいずれかと有害な様式で相互作用することなく、対象に投与されるワクチン製剤に含まれ得、(2)米国食品医薬品局が作成した添加物に記載されている基準に適合し、かつ、好ましくは、「安全食品認定」(「GRAS」)も受けた成分である。本明細書におけるワクチン製剤に組み込まれる賦形剤の種類は、一部で、選択される投与のモード、および特定の製剤の種類または投与剤形、例えば、注射可能液体製剤、鼻腔内スプレー製剤などに依存し、投与のモードおよび対応する製剤について、以下で議論する。しかしながら、一般に、本発明のワクチン製剤に有利に組み込むことができる不活性な成分には、限定されずに、担体、可溶化剤、乳化剤、安定剤、防腐剤、等張剤、バッファシステム、分散剤、希釈剤、粘度調整剤、および吸収促進薬、およびこれらの組み合わせが含まれる。薬学的に許容可能な不活性な添加物についての徹底的な議論は、Gennaro(2000) Remington:The Science and Practice of Pharmacy.20th ed.,ISBN:0683306472に与えられている。
【0085】
3.投与および使用:
【0086】
本発明の免疫原性組成物は、歯周病に対して対象を免疫する方法において有用であり、方法は、本明細書に記載の免疫原性組成物を含む歯周ワクチン製剤の免疫学的有効量を対象に投与することを含む。
【0087】
対象はヒトまたは非ヒトの哺乳動物であってもよく、標的細菌(抗原配列が対応する免疫原性アミノ酸配列の源であるであろう)の選択は対象の種類に依存してもよい。例えば、ヒト対象における歯周炎を治療または防止するために使用される本発明による免疫原性組成物は、典型的には、P.ジンジバリスを標的とするであろう。別の実施例としては、非ヒト哺乳動物における歯周炎を治療または防止するために使用される本発明による免疫原性組成物は、そのような対象は、イヌ、ウマ、乳牛、または他の哺乳動物であるが、一般に、P.グラエを標的とするであろう。
【0088】
方法は、治療ワクチンとしての、すなわち、歯周炎を患っている対象を治療するための、免疫原性組成物の投与を含んでもよい。方法はまた、予防ワクチンとしての免疫原性組成物の投与を含んでもよく、これは、例えば、方法が対象において発症している歯周炎(中程度から重度の歯周炎を含む)の危険性を低減し、したがって、歯周炎の発症を遅らせまたは除去し得ることを意味する。ワクチンが予防的に使用されるとき、対象は、年齢、遺伝的素因、免疫無防備状態、糖尿病、AIDS、白血病、およびダウン症などの中程度から重度の歯周炎を発症する危険性を高くする疾患、または歯内病変もしくは膿瘍の存在を含むいずれかの数の危険因子の結果として、歯周炎を発症し易い場合がある。例としては、関節リウマチまたは乾癬の治療などの抗TNF治療を受けている患者は、多くの場合、歯肉の炎症を示し、高い歯周炎を発症する危険性を有する。
【0089】
ワクチン製剤の「免疫学的有効量」は、1回投与または2回以上の一連の投与として、歯周病を治療または防止するのに有効である量であり、「治療」および「防止」については本節のパート(1)で定義している。投与量は、対象の全体的な健康および身体状態、対象の年齢、対象の免疫系が関連抗原を合成する能力、成分の形態(例えば、注射可能液体、鼻腔スプレーなど)、対象の分類グループ(例えば、ヒト、非ヒト霊長、非霊長など)、および投与を監視する医師が認識している他の因子により変わるであろう。
【0090】
ワクチン製剤としての免疫原性組成物の投与は、全身的送達の任意の有効なモードを使用して行われ得る。組成物は、静脈内、筋肉内、腹腔内、間質性、または皮下注射を含む注射などにより、通常、非経口的に投与され、注射は、歯肉であってもよく、その場合、ワクチン製剤は歯肉に直接注入される。さらに、組成物は、鼻腔内、舌下、経頬、腟内、直腸内経路などを介して、経粘膜投与されてもよい。他の投与のモードも想定されるが、本発明はこの点で限定されない。例として、他の投与のモードには、経口および経皮送達、および吸入または皮下インプラントを使用する投与が含まれる。
【0091】
投与のモードは、免疫原性組成物を含む製剤または投与形態の種類を規定する。非経口投与のために製剤化される組成物には、無菌水溶液、無菌非水溶液、懸濁液、およびエマルジョンが含まれる。注射可能水溶液には、水溶性形態の活性剤が含まれる。非水溶液または担体の例には、オリーブ油およびトウモロコシ油などの脂肪酸、オレイン酸エチルまたはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、プロピレングリコールなどの低分子量アルコール、ポリエチレングリコールなどの合成親水性ポリマー、リポソームなどが含まれる。非経口投与にはまた、可溶化剤、乳化剤、安定剤、防腐剤、等張剤、バッファシステム、分散剤、希釈剤、粘度調整剤、および吸収促進薬、およびこれらの組み合わせなどの賦形剤が含まれてもよい。注射可能製剤は、滅菌剤、細菌保持フィルタ、照射、または加熱の組み合わせによって無菌が与えられる。それらはまた、無菌注射可能媒体を使用して製造され得る。免疫原性組成物またはその個別の成分はまた、注射を介する投与の直前に適当な担体を用いて再水和されてもよい乾燥形態、例えば、凍結乾燥形態であってもよい。
【0092】
経粘膜経路の鼻腔内投与は、一般に、必ずしも好ましくない。鼻腔投与ワクチン製剤を含む鼻腔製剤は、当該技術分野では周知であり、FDA’s Guidance for Industry:Nasal Spray and Inhalation Solution,Suspension,and Spray Drug Productsを参照して製剤化される必要がある。鼻腔製剤は、スプレー、鼻腔注入、または液滴のような投与のための液体、すなわち、溶液、エマルジョン、懸濁液などであり、上記のような補助剤および薬学的に有効な賦形剤を含んでもよい。製剤内での補助剤の比較的大きな大きさのために、鼻腔経路を介する全身的送達は、免疫原性組成物における経粘膜吸収エンハンサーの組み込みが必要である。適切な経粘膜吸収エンハンサーの例には、アルキル糖類、シクロデキストリン類、およびキトサン類が含まれるが、それらに限定されず、Maggio(2014)J.Excip.FoodChem.5(2):100-12およびMerkus et al.(1999) Adv.Drug Deliv.Rev.36:41-57を参照されたい。エンハンサーの濃度は、製剤の免疫学的有効量が鼻膜を通って、効率的な輸送速度で体循環になることが確実になるように選択される。鼻腔ワクチン製剤の組成および性質を規定する解剖学的および生理学的考慮が、例えば、Aurora(October 2002) Drug Development & Delivery 2(7)において議論されている。
【0093】
投与の他のモードおよび対応する製剤には、速溶性タブレットなどの速溶性投与形態を有する舌下投与と、頬腺または頬送達システムを使用する経頬投与と、ペッサリー、軟膏、またはクリームを使用する腟内投与と、坐剤、軟膏、またはクリームを使用する直腸内投与と、経皮パッチまたは製剤を使用する経皮投与と、注入インプラントまたはペレットを使用する皮下投与と、乾燥粉末肺製剤を使用する吸入と、タブレット、カプセルなどの経口投与形態を使用する経口投与と、その他とが含まれる。
【0094】
本明細書ですでに記載しているように、ワクチン製剤は、適切な投与レジメンのコンテキスト内で対象に投与される。組成物は、1回、または長期間にわたって間隔を置いて2回以上投与されてもよい。例えば、最初の「一次」投与の後に、少なくとも1回の「ブースト」投与が続いてもよい。一次投与と後続のブースト投与との間のおよびブースト投与間の時間間隔は、通常、約2~24週の範囲内、より典型的には、2~8週、3~6週などの約2~12週の範囲内にある。筋肉注射、歯肉注射、鼻腔内投与などの投与のモードに拘わらず、ワクチンの1回投与の容積は、一般に、約1μL~約500μLの範囲内、典型的には、約1μL~約250μLの範囲内、より典型的には、約2.5μL~約200μLの範囲内、好ましくは、約5μL~約150μLの範囲内にあるであろう。免疫原性組成物における全抗原の濃度は、上記の投与容積のガイドラインを基にして、単位容積当たりの組成物の免疫学的有効量に対応していることが理解されるであろう。
【0095】
使用を容易にするために、本発明の免疫原性組成物は、自己投与または医療従事者による投与のための指示を踏まえて、パッケージ化プロダクトまたは「キット」に組み込まれ得る。キットは、ワクチン製剤の投与量を封入する密封コンテナを含み、典型的には、「単位投与量」は、免疫学的に有効である単回投与イベントに適している。ワクチンは、液状であってもよく、したがって、注射などのように投与するに便利であり、または、例えば、凍結乾燥製剤の水和、不活性な成分などの活性化など、ユーザが投与の前の調製プロセスを実行する必要がある別の形態であってもよい。キットはまた、第1のコンテナ内に一次投与量および1つ以上の追加のコンテナ内にブースト投与量を備えた2つ以上の封入コンテナ、または、別のコンテナにおいてはポルフィロモナス感染に関連する可能性があるまたはない、第1のコンテナ内の歯周炎ワクチン製剤および別の感染に対して向けられたワクチン、を含んでもよい。
【0096】
実験
無細胞抽出物の精製:
追加のDsbCシャペロンを含む無細胞抽出物を、Groff et al.(2014) Mabs 7(1):231-242により先に記載されているように、調製した。簡単には、大腸菌SBJY001(Yin et al.(2012) Mabs 6(3):671-678を参照されたい)は、dsbC遺伝子のタンデムコピーを担持するpACYCプラスミドで形質転換される。細胞は、Zawada et al.(2011) Biotechnol.Bioeng.108(7):1570-1578を参照されたい。遠心分離を介する後続の清浄化により、後続の無細胞発現反応のために使用される抽出物を得た。
【0097】
組み換えP.ジンジバリスMfa1、HA1、HA2の生成および精製:
P.ジンジバリスに関連するHA1、HA2およびMfa1フィンブリリンタンパク質をコードするDNA配列を、最適化し、合成し(DNA2.0、Menlo Park、CA)、および先に記載されているpYD317ベクター[30]にクローン化した。無細胞反応を、本質的に先に記載されているXpress CFTM CFPSシステム(Yin et al.,supra、Zimmerman et al.(2014) Bioconjug.Chem.25(2):351-361)を用いて実行した。HA1、HA2、およびMfa1フィンブリリンの発現のために、IAM前処理により、25℃で、酸化型グルタチオン(2mM)を添加して反応が実行されて、ジスルフィド結合のための酸化性雰囲気が生成された。HA1およびHA2の発現が、細胞抽出物のIAM処理なしに実行され、還元型グルタチオン(8mM)の添加により、還元発現雰囲気が維持された。16時間の反応時間の後に、発現されたタンパク質を、製造元の推奨にしたがって、Niセファロース樹脂(GE Lifesciences,Pittsburg,PA)に関するhisタグアフィニティー精製法を使用して無細胞反応混合物から単離した。HA1、HA2およびMfa1フィンブリリンタンパク質のさらなる精製を、SP ImpRes樹脂(GE Lifesciences)に関する陽イオン交換クロマトグラフィーにより実現した。簡単には、Niセファロース溶出プールが、クエン酸ナトリウム(50mM)、NaCl(50mM)、pH4.5に交換され、同じバッファ内で平衡化されたカラムに適用された。ポリッシングされたタンパク質を、次いで、勾配溶離を介して、Tris(50mM)、NaCl(1M)、pH7.5に溶出した。同様に、HA2を、Q ImpRes(GE LifeSciences)に関して陽イオン交換クロマトグラフィーにより精製した。カラム平衡化およびローディングを、続くTris(50mM)、NaCl(1M)、pH7.5に対する勾配溶離を伴ってTris(50mM)、NaCl(50mM)、pH7.5において実行した。
【0098】
ポリッシングクロマトグラフィー後に、タンパク質すべてがDulbecco’s PBS内に透析され、SDS-PAGE、およびQ-TOF(Agilent、Santa Clara,CA)を介するインタクト質量分析により解析された。HA1の場合、インタクト質量分析は、システインが酸化され、ジスルフィド結合が形成されたことを決定的に示した。
【0099】
P.ジンジバリスの培養および細菌純度評価:
【0100】
ポルフィロモナスジンジバリス株A7436を、上記(Huang et al.(2015) Mol.Oral.Microbiol.30(6):438-450)のように処理した。簡単には、冷凍庫のストックが嫌気血液寒天プレートに置かれ、P.ジンジバリスが、37℃で嫌気的増殖の3日後に採取され、採取された生物が、L-システイン(0.75g/L)、ヘミン(5mg/L)およびメナジオン(1mg/L)が補充された無菌ブレインハートインヒュージョンブイヨン内に置かれた。24時間後、対数増殖期の細菌が遠心分離により採取され、経口試験(100μL/試験)のために2%カルボキシメチルセルロースのパイロジェンフリー食塩水中に1×1010CFU/mLを懸濁させた。免疫化のために、ブイヨンで増殖されたP.ジンジバリスが注射級食塩水中で1×109CFU/mLに調製され、注射の前に加熱殺菌され(60℃で30分間)、細菌の殺菌がプレーティングにより確認された。純度を確保するためにすべてのP.ジンジバリスブイヨン培地で、グラム染色を実行した。
【0101】
ネズミ、免疫化、および経口試験:
【0102】
6週間の雌のBALB/cネズミ(Charles River Laboratories,Wilmington,MA)が、ランダムに6つのグループ(n=8/グループ)に分離され、特定の病原菌のない施設に収容され、適宜、水および食料を受け入れた。すべての生きている動物の使用が、IACUCの承認により実行された。グループには、G1)非免疫/非経口試験対照、G2)非免疫/P.ジンジバリス経口試験、G3)加熱殺菌P.ジンジバリス免疫化/P.ジンジバリス経口試験、G4)alumにおけるMfa1+HA1+HA2組み合わせの免疫化/P.ジンジバリス経口試験、G5)MPLにおけるMfa1+HA1+HA2組み合わせの免疫化/P.ジンジバリス経口試験、およびG6)注射級食塩水におけるMfa1+HA1+HA2組み合わせの免疫化/P.ジンジバリス経口試験が含まれていた。免疫化を開始する前に、基本的な血清サンプルを各動物から取得し、次いで、ネズミのそれぞれのグループが、殺菌されたP.ジンジバリス、またはalum(Imject、ThermoFisher Sci、Rockford,IL)、モノホスホリルリピドA(MPL、Sigma-Aldrich、St.Louis,MO)、または注射級食塩水の各々に懸濁されたMfa1+HA1+HA2(各タンパク質/注射の5μg)により免疫化された。後続する筋肉ブースター免疫化が、最初の免疫化の2週間および4週間後に与えられた。免疫化終了の2週間後、血清サンプルを、P.ジンジバリスを用いた経口試験直前に、動物から得た。ネズミの経口試験を、先に報告されているように(Gonzalez et al.(2003)Infect.Immun.71(4):2283-2287)処理した。簡単には、動物は、水を飲む際に10日間の経口のスルファメトキサゾール/トリメトプリム(Hi-Tech Pharmical、Amityville、NY)を受け、続いて、抗生物質が除去され、3日間休息した。P.ジンジバリスのスラリー(注射級食塩水中1×1010CFU/ml+2%カルボキシメチルセルロース)が、1週間にわたって3回経口ゾンデを備えたシリンジを使用して試験されているネズミの歯茎に穏やかに投与された。対照動物には、2%カルボキシメチルセルロースのみを用いて試験される疑似の動物が含まれる。経口試験終了後42日間の休息後、動物は殺処分され、排尿終末時血尿を得て、各ネズミの頭部は口腔骨喪失測定のために処理された。最終的な血清サンプルは殺処分時に各動物から収集され、収集された血清サンプルすべてが-80℃で保存された。
【0103】
ネズミの血清におけるMfa1、HA1およびHA2特異的IgGの検出:
【0104】
抗原(0.5μg/mL)が、4℃で一晩中マキシソーププレート(NUNC、Rochester,NY)上に置かれ、Tween-20(0.05%)を含むPBSで3回洗浄され、1%BSAを含むPBSで最低1時間ブロックされた。ワクチン接種を受けたネズミ(100μL/ウェル)からの連続的な2倍希釈血清サンプルを個々のウェルに加え、室温で2時間インキュベートした。プレートを洗浄して、ワサビペルオキシダーゼ(1:6000の希釈、Southern Biotech、Birmingham、AL)にコンジュゲートされた適切なアイソタイプの特異的抗体を用いてインキュベートし、20~30分間100μLのTMB基板(Pierce、Rockford、IL)を付加することで可視化し、50μLのH2SO4(1.0M)を付加することにより反応が停止された。各ウェルにおける吸光度が、570nmにおける吸光度を引いて450nmで測定され、プレートの異常が補正された。各サンプルについて得られたデータをプロットして、A450-A570測定に対する希釈度の逆数の曲線を得た。プリズム統計解析ソフトウェア(GraphPad Software、La Jolla、CA)を使用したEC50計算により規定される希釈曲線の中点として抗体力価が決定される。最終的な抗体力価である各群についてのEC50の平均を決定した。
【0105】
口腔骨喪失測定:
【0106】
口腔骨レベルを、先に行われた(Gibson et al.(2001) Infect.Immun.69(12):7959-7963)のように処理した。殺処分後、上顎の臼歯の周囲の軟らかい組織を取り除き、広範囲のクリーニングに続いて、頭蓋骨をメチレンブルーで染色した。骨測定を開始する前に、グルーピングを認識していない研究者により視界を遮られた。14個のランドマーク部位において歯槽骨頂(ABC)からセメントエナメル境(CEJ)まで実体顕微鏡に固定されたデジタルカメラを使用して、上顎の臼歯における口腔骨測定値を得た(Baker et al.(1994) Arch.Oral Biol.39(12):1035-1040)。ImageJ(Schneider et al.(2012) Nat.Methods 9(7):671-675)を使用して画像解析を行い、群における各動物から得られたデータを結合させて、群レベル平均長さ±SEMを達成した。
【0107】
統計解析:
【0108】
プリズム統計解析ソフトウェアを用いてデータを解析した(GraphPad)。対応のない2群の比較検定(unpaired Student T test)または試験後解析を伴うANOVAを使用して示されるように、グループ間の比較を行い、P<0.05が重要であるとみなされた。
【0109】
結果:
【0110】
SDS-PAGE:CFPSによって生成した精製タンパク質を、変性してウェル(3μg/well)に加え、4~12%Bis-Tris勾配ゲル上で分離し、クーマシーブルーで染色した。還元条件下で生成したタンパク質の解析の結果を
図1に示す。レーン1:分子量マーカーレーン2:Mfa1.レーン3:HA1.レーン4:HA2.
【0111】
筋肉注射によって送達されるタンパク質がタンパク質特異的IgG抗体応答を惹起するかどうかを判定するために、および、異なる補助剤(alum対MPL)が惹起されたIgG応答に影響するかどうかを判定するために、免疫化期間の終了時に、およびELISAによってMfa1、HA1およびHA2特異的IgGのレベルについて試験される殺処分時に、ネズミのグループから血清を収集した。各血清サンプルについての滴定曲線をEC50値に変換した。予測通りに、経口試験の前にネズミの非免疫化グループから収集した血清は、Mfa1、HA1、およびHA2に対するIgGのレベルは低かった。殺されたP.ジンジバリスA7436により免疫化されたネズミから収集した血清は、HA2>Mfa1である精製されたMfa1およびHA2に対して特異的なIgGにおいて僅かな増加が惹起された。alum、MPLまたは注射級食塩水中に懸濁された組み合わされたタンパク質によりIMに免疫化されたネズミのグループに対して、ワクチンの組み合わせを受けたネズミすべてが抗原特異的IgG応答で応答したことが明らかになった。Mfa1に対するIgGの免疫化後のレベルが、MPL補助剤において最もロバストであり、MPL>alumまたは食塩水であった。HA1については、alumは、alum>MPL>食塩水で分子特異的IgGを最も良好に促進する一方、HA2については、alumおよびMPLは、同様なレベルに対して、抗原特異的IgG応答性を促進し、食塩水で観測されたものより両方の方が大きくなった。
【0112】
殺処分時におけるIgGレベルの比較において、PジンジバリスA7436を用いて経口試験された非免疫化ネズミのグループは、Mfa1およびHA2に対して特異的IgGにおいて僅かな上昇が得られたが、HA1に対してはそうでないことが明らかになった。加熱殺菌されたP.ジンジバリスA7436を用いた免疫化において、食塩水におけるタンパク質の組み合わせにより免疫化されたネズミからのHA1に対して測定されたIgGを除いて、補助剤または食塩水に拘わらず、経口試験の直前に測定されるIgGのレベルに比較して、同様の低レベルの増加が示された。
【0113】
図2は、P.ジンジバリスMfa1、HA1、およびHA2に対する血清IgG EC
50値を提供する。対照グループまたは実験グループ、および血清サンプルとしての役割を果たす動物G1~G6のグループは、経口試験(ワクチン後、塗りつぶされていないバー)の直前にまたは犠牲を払って(塗りつぶされたバー)動物から収集され、分子特異的IgG EC
50値は、P.ジンジバリスの(A)Mfa1、(B)HA1、および(C)HA2に対してELISAデータから計算された。
【0114】
タンパク質の組み合わせがP.ジンジバリスにより惹起される口腔骨喪失の程度を効果的に制限するかどうかを理解するために、免疫化された動物のP.ジンジバリス経口試験を行った。殺されたP.ジンジバリスにより免疫化されなかったまたは免疫化されたネズミのグループが対照としての役割を果たした。疑似試験ネズミ(G1)と比べて、P.ジンジバリスA7436を用いて経口試験される動物(G2)は、ABCからCEJまでの平均距離の増加(p<0.001)によって明示される口腔骨喪失が起こった。予測通りに、殺されたP.ジンジバリスA7436(G3)の調製による免疫化により、相同な生物惹起口腔骨喪失(p<0.01)による測定可能な耐性が提供される。alum(G4)またはMPL(G5)のどちらかにおいて懸濁されたP.ジンジバリスの異種株から生成される組み合わせタンパク質ワクチンを受けたネズミのグループは、P.ジンジバリス経口試験のみに対して各々についてP.ジンジバリス惹起口腔骨喪失(p<0.01)から保護された。保護のレベル(ABCからCEJまでの測定値)において補助剤間で差異は観測されず、ワクチン候補の筋肉内送達が同様の保護応答を提供する(p>0.05)ことが示された。食塩溶液内に懸濁された組み合わせタンパク質ワクチンにより免疫化された動物のグループ(G6)はまた、タンパク質が補助剤により筋肉内を送達された(p>0.05対alumまたはMPL補助剤)ときに観測されるものより小さいP.ジンジバリス経口試験からも保護され、保護のレベルは、用いられる補助剤に拘わらず、加熱殺菌される全生物ワクチングループ(すべてについてp>0.05)により提供されるものに比べて小さかった。
【0115】
図3は、インビボでの口腔骨喪失を評価する実験の結果を示す。(A)BALB/cネズミは、グループ(G1~G6)にランダム化され、免疫化された動物は、それぞれの補助剤において、または注射級食塩水において2週間間隔で、組み合わされたタンパク質カクテルの3回の筋肉内注入を受けた(一次および2回のブースト、赤い矢印)。免疫化対照グループ(G3)は、加熱殺菌P.ジンジバリス(1×10
7CFU/注入と同等)を受けた。すべての動物は、水の飲む際に10日間の経口のスルファメトキサゾール/トリメトプリム(抗生物質)の投与を受け、続いて、疑似経口試験(G1)またはP.ジンジバリス経口試験(1週間以上の期間にわたって3×、G2~6)の3日前に抗生物質が除去された。経口試験の終了後(0週)、動物は、6週間休息し、次いで、殺処分された。
図3は、セメントエナメル境(CEJ)と歯槽骨頂(ABC)との間の平均距離をmm±SEM、#=p<0.001対G1(非試験)、***=p<0.01対G2(P.ジンジバリス経口試験のみ)で示す結果を提供している(Dunns多重比較を用いたANOVAを使用して)。
【配列表】