(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】真菌感染の診断及びリスク層別化
(51)【国際特許分類】
G01N 33/569 20060101AFI20230410BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
G01N33/569 L ZNA
G01N33/53 D
(21)【出願番号】P 2020528512
(86)(22)【出願日】2018-08-06
(86)【国際出願番号】 EP2018071305
(87)【国際公開番号】W WO2019025639
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-08-02
(32)【優先日】2017-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508093584
【氏名又は名称】ベー.エル.アー.ハー.エム.エス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100168631
【氏名又は名称】佐々木 康匡
(72)【発明者】
【氏名】ブレンナー トルステン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイガント マルクス アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ウーレ フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン ダライアス キャメロン
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-513879(JP,A)
【文献】特開2012-159356(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0025915(US,A1)
【文献】David Andaluz-Ojeda et al.,Superior accuracy of mid-regional proadrenomedullin for mortality prediction in sepsis with varying levels of illness severity,Annals of Intensive Care,2017年02月10日,7:15,pp.1-8,DOI 10.1186/s13613-017-0238-9
【文献】Mirjam Christ-Crain et al.,Mid-regional pro-adrenomedullin as a prognostic marker in sepsis:an observational study,Critical Care,2005年,Vol.9, No.6,R816-R824
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)のインビトロ診断及び/又はリスク層別化のための方法であって、
検査されるべき患者由来の
試料中のプロアドレノメデュリン(proADM)(配列番号6)又はその断片の
レベルの判定が実施されることを特徴と
し、
a)閾値以上のproADM(配列番号6)又はその断片のレベルが、前記患者におけるIFI及び/又はIFDの指標であり、
b)閾値未満のproADM(配列番号6)又はその断片のレベルが、前記患者がIFIにもIFDにも罹患していないことを示し、又は
c)proADM(配列番号6)又はその断片のレベルが、リスク階層化を示し、前記層別化は、IFI及び/又はIFDの予後に従ってリスクグループに患者をグループ分けすることを含む、前記方法。
【請求項2】
敗血症及び/又は敗血症性ショックに関連した侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)のインビトロ診断及び/又はリスク層別化のための方法であって、
検査されるべき患者由来の
試料中のプロアドレノメデュリン(proADM)(配列番号6)又はその断片の
レベルの判定が実施されることを特徴とする、方法。
【請求項3】
前記断片が、PAMP(配列番号2)、MR-proADM(中央領域プロアドレノメデュリン)(配列番号3)、ADM(アドレノメデュリン)(配列番号4)、CT-pro-ADM(アドレノテンシン)(配列番号5)からなる群のうちの少なくとも1つである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記フラグメントproADM(配列番号6)が、中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)(配列番号3)である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)が、Candida spp.、C.albicans、C.glabrata、Aspergillus spp.、Aspergillus fumigatusによって引き起こされることを特徴とする、請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
判定が、検査されるべき患者からのC反応性タンパク質(CRP)、サイトカイン、プロカルシトニン及びその断片、プロ心房性ナトリウム利尿ペプチド及びその断片(ANP、pro ANP)、プロアルギニンバソプレシン及びその断片(AVP、pro-AVP、コペプチン)、アンジオテンシンII、エンドセリン-1、グルカン、インターフェロンγ(INF-γ)、β-D-グルカン、ガラクトマンナン、並びに接着分子、連続臓器不全評価スコア(SOFA)、簡易急性生理学スコア(SAPSIIスコア)、急性生理学及び慢性健康評価スコアII(APACHE II)スコア、肺炎重症度指数(PSI)スコア、年齢、性別、家族歴、民族性、体重、体格指数(BMI)、収縮期血圧、拡張期血圧、心拍数、体温からなる群から選択される少なくとも1種の更なるマーカー並びに/又は臨床スコア及び/若しくは臨床パラメータを用いて付加的に実施されることを特徴とする、請求項1から
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記マーカーの並行判定又は同時判定が実施されることを特徴とする、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記判定が、少なくとも1つの患者試料に対して実施されることを特徴とする、請求項1から
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記判定が、自動分析装置又は診断アッセイを使用して実施されることを特徴とする、請求項1から
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記判定が、単一パラメータ判定又は複数パラメータ判定を用い
るラテラルフロー試験によって実施されることを特徴とする、請求項1から
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
患者の層別化が、侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)の処置又は治療のための薬物による更なる処置
の臨床判断を目的とすることを特徴とする、請求項1から
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記患者の層別化が、敗血症及び/又は敗血症性ショックに関連した侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)の臨床判断を目的とすることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記患者が、重症の患者からなる群から選択される、請求項
11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記患者が、免疫不全患者、重度の好中球減少症患者、がん患者、及びこれらの合併症の患者を含む、薬剤若しくは疾患により、又は免疫反応を誘発、増強、若しくは抑制する手段により免疫調節された患者からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記診断及び/又はリスク層別化が、治療に伴うものとして、侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)の予後のために、予防のために、早期検出及び鑑別診断による検出のために、重症度の評価のために、並びに経過を評価するために行われる、請求項1から
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)が、敗血症及び/又は敗血症性ショックに関連した侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
プロアドレノメデュリン(proADM)又はその断片の症状の発生後(t=0)での6.99nmol/L以上のカットオフ値(閾値)、1日後(t=1d)での8.53nmol/L以上のカットオフ値(閾値)、2日後(t=2d)での5.10nmol/L以上のカットオフ値(閾値)が、前記診断及び/又はリスク層別化に有意であることを特徴とする、請求項1から
16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
症状の発生後(t=0)、1日後(t=1d)、2日後(t=2d)での5nmol/L未満のレベルのプロアドレノメデュリン(proADM)又はその断片が、前記患者が侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)に罹患していないことを示すことを特徴とする、請求項1から
17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
症状の発生後(t=0)での2nmol/L未満のレベルのプロアドレノメデュリン(proADM)又はその断片が、前記患者が侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)に罹患していないことを示すことを特徴とする、請求項1から
18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)のインビトロ診断及び/又はリスク層別化のためのキット又は診断アッセイの使用であって、
プロアドレノメデュリン(proADM)(配列番号6)又はその断片を含み、
追加マーカー
用の検出試薬、請求項
6に記載の臨床スコア及び/若しくは臨床パラメータを判定するための検出試薬、並びに補助的物質を含
んでもよい、キット又は診断アッセイの使用。
【請求項21】
前記侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)が、敗血症及び/又は敗血症性ショックに関連した侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)である、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
proADMを判定するための検出試薬が、MR-proADM(配列番号3)又はその断片を判定するための検出試薬である、請求項20又は21に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真菌感染、特に敗血症又は敗血症性ショックに関連した侵襲性真菌感染(以下「IFI」と省略)及び侵襲性真菌症(以下「IFD」と省略して称する)の診断及び/又はリスク層別化のための方法であって、検査されるべき患者由来のマーカーであるプロアドレノメデュリン(proADM)又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)、又はマーカー組合せ(パネル、クラスター)に含まれる、プロアドレノメデュリン又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリンの判定が実施される、方法に関する。更に、本発明は、本発明の方法を実施するための診断アッセイ及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
とりわけN末端に21アミノ酸のシグナル配列を含む前駆体ペプチドは、「プレプロアドレノメデュリン」(pre-proADM)と称される(Kitamura K,Sakata J,Kangawa K,Kojima M,Matsuo H,Eto T.「Cloning and characterization of cDNA encoding a precursor for human adrenomedullin」,Biochem Biophys Res Commun 1993:194:720-725)。
pre-proADMは、185アミノ酸を含み、配列番号1(
図1)に記載の配列を有する。pre-pro-ADMの公知の断片としては、PAMP(アミノ酸22~41)(配列番号2)、MR-pro-ADM(中央領域プロアドレノメデュリン)(アミノ酸45~92)(配列番号3)、ADM(アドレノメデュリン)(アミノ酸95~146)(配列番号4)、CTpro-ADM(アドレノテンシン)(アミノ酸153~185)(配列番号5)、及び「プロアドレノメデュリン」(proADM)(アミノ酸22~185)(配列番号6)が挙げられる。
【0003】
周知のペプチドであるアドレノメデュリン(ADM)は、52アミノ酸(配列番号4)を含み、pre-proADMのアミノ酸95~146を含むペプチドであり、タンパク分解性切断によってpre-proADMから形成される。しかしながら、アドレノメデュリンの安定性の欠如に加えて血漿中でのその短寿命のために(Lewis LK,Smith MW,Yandle TG,Richards AM,Nicholls MG.「Adrenomedullin measured in human plasma by radioimmunoassay:plasma concentration,adsorption,and storage.」 Clin Chem.44:571-7,1998)、通常、信頼性が高い診断を行うことができないことは不利である。
【0004】
今のところ、pre-proADMの切断で形成されるペプチド断片のうちの実質的にほんの少数の断片のみ、特に生理活性ペプチドのアドレノメデュリン(ADM)及びpre-proADMのシグナルペプチドの21アミノ酸に続く20アミノ酸(22~41)を含むペプチドである「PAMP」が、より正確に特徴付けられている。
【0005】
更に先行技術は、特に敗血症(欧州特許第1121600(B1)号)を診断するために診断においてプロアドレノメデュリン(proADM)及びアドレノメデュリンを判定する方法を記載している(欧州特許第0622458(B1)号,Lewis LK,Smith MW,Yandle TG,Richards AM,Nicholls MG.「Adrenomedullin(1-52) measured in human plasma by radioimmunoassay:plasma concentration,adsorption,and storage.」 Clin Chem 1998;44:571-7;Ueda S,Nishio K,Minamino N,Kubo A,Akai Y,Kangawa K,et al.「Increased plasma levels of adrenomedullin in patients with systemic inflammatory response syndrome.」 Am J Respir Crit Care Med 1999;160:132-6;Kobayashi K,Kitamura K,Etoh T,Nagatomo Y,Takenaga M,Ishikawa T,et al.「Increased plasma adrenomedullin levels in chronic congestive heart failure.」 Am Heart J 1996;131:994-8;Kobayashi K,Kitamura K,Hirayama N,Date H,Kashiwagi T,Ikushima I,et al.「Increased plasma adrenomedullin in acute myocardial infarction.」 Am Heart J 1996;131:676-80)。
【0006】
更に、プロアドレノメデュリンの更なる断片、すなわち、いわゆる中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)が、診断目的について欧州特許第1488209(B1)号において開示されている(Struck J,Tao C,Morgenthaler NG,Bergmann 「A.Identification of an Adrenomedullin precursor fragment in plasma of sepsis patients.」 Peptides 2004;25:1369-72;Morgenthaler NG,Struck J,Alonso C,Bergmann 「A.Measurement of mid-regional pro-adrenomedullin in plasma with an immunoluminometric assay.」 Clin Chem 2005;51:1823-9;Christ-Crain M,Morgenthaler NG,Stolz D,Muller C,Bingisser R,Harbarth S,et al.「Pro-adrenomedullin to predict severity and outcome in community-acquired pneumonia [ISRCTN04176397].」 Crit Care 2006;10:R96;Christ-Crain M,Morgenthaler NG,Struck J,Harbarth S,Bergmann A,Muller B.「Mid-regional pro-adrenomedullin as a prognostic marker in sepsis:an observational study.」 Crit Care 2005;9:R816-24)。
【0007】
診断のための(プレ)プロアドレノメデュリンのN末端断片、例えば、PAMPは、欧州特許第0622458(B1)号にも記載されている(Hashida S,Kitamura K,Nagatomo Y,Shibata Y,Imamura T,Yamada K,et al.「Development of an ultra-sensitive enzyme immunoassay for human pro-adrenomedullin N-terminal peptide and direct measurement of two molecular forms of PAMP in plasma from healthy subjects and patients with cardiovascular disease.」 Clin Biochem 2004;37:14-21)。
【0008】
診断のための(プレ)プロアドレノメデュリンのC末端断片、すなわちCT-pro-ADM(アドレノテンシン)は、欧州特許第2111552(B1)号にも記載されている。
【0009】
真菌に感染した患者の群は小さいようであるが、IFI/IFDの数は、免疫不全患者数の増加、関連する併存症を有する高齢患者におけるより積極的な外科療法、及び腫瘍疾患数の増加に起因して増加している(Bassetti M,Righi E,Costa A et al.(2006)「Epidemiological trends in nosocomial candidemia in intensive care.」 BMC Infect Dis 6:21)。これに関連して以下の3つの真菌種:Candida albicans(C.albicans)、Candida glabrata(C.glabrata)、及びAspergillus fumigatusが、ヨーロッパにおいて最も重要なようである(Lichtenstern C,Herold C,Mieth M et al.(2015)「Relevance of Candida and other mycoses for morbidity and mortality in severe sepsis and septic shock due to peritonitis.」 Mycoses 58:399-407)。
【0010】
IFI/IFDに罹患している患者の敗血症に関連する死亡率は、高いことが公知であり、Candida spp.では42%まで達し、Aspergillus spp.では更に高い(Shorr AF,Gupta V,Sun X et al.(2009)「Burden of early-onset candidemia:analysis of culture-positive bloodstream infections from a large U.S.database.」 Crit Care Med 37:2519-2526;quiz 2535,Trof RJ,Beishuizen A,Debets-Ossenkopp YJ et al.(2007) 「Management of invasive pulmonary aspergillosis in non-neutropenic critically ill patients.」 Intensive Care Med 33:1694-1703)。
【0011】
敗血症は、一般に感染への宿主応答の調節不全によって引き起こされ(Singer M,Deutschman CS,Seymour CW et al.(2016)「The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3).」 Jama 315:801-81)、細菌によって最も頻繁に引き起こされる一方で、真菌感染又はウイルス感染は頻度が低い(Eggimann P,Garbino J,Pittet D (2003)「Epidemiology of Candida species infections in critically ill non-immunosuppressed patients.」 Lancet Infect Dis 3:685-702)。結果として真菌血症は、任意抽出の敗血症症例のうちの3%にのみ存在する(Eggimann(前掲))。これに反して、真菌は、腹膜炎において腹部の病巣から回収される最も単離される種の1つであり、多数の患者が彼らの入院の間に真菌の定着を呈する(Eggimann(前掲))。
【0012】
特に真菌血症に罹患している患者において、診断上の欠点は、この警戒すべき死亡率を相当助長するおそれがある。罹患患者のほんの一部のみで血液培養物が陽性を示し、培養培地上での真菌の増殖は非常に緩徐であることが知られている。それゆえに、幾つかの研究では、IFI/IFDは、重症患者において最も高い頻度で病気の見逃しが起こることが示されている(Combes A,Mokhtari M,Couvelard A et al.(2004)「Clinical and autopsy diagnoses in the intensive care unit:a prospective study.」 Arch Intern Med 164:389-392)。
【0013】
これら全ての結果として、生命を救う抗真菌療法は、行われないか、又は最短でも2~3日遅れて開始されるかのいずれかである(Abe M,Kimura M,Araoka H et al.(2016)「Is initial serum (1,3)-beta-d-glucan truly associated with mortality in patients with candidaemia?」 Clin Microbiol Infect 22:576)。このような遅延は、死亡率の増加に関連することが知られている。
【0014】
この点に関して、IFI/IFDの信頼性のある診断を提供する必要性、又は特に更なる臨床的判断に関して、及び特に真菌感染、特に敗血症若しくは敗血症性ショックに関連したIFI/IFDの重症度に関して、(リスク)層別化を実施する必要性が存在する。
【0015】
しかしながら、IFI/IFDの診断に対するプロアドレノメデュリン(proADM)又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)の適合性は開示されておらず、同様に、敗血症又は敗血症性ショックに関連したIFI/IFDの診断は開示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、真菌感染、特に敗血症又は敗血症性ショックに関連したIFI/IFDの診断及び/又はリスク層別化のための改善された方法を利用可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、真菌感染、特に敗血症又は敗血症性ショックに関連したIFI/IFDのインビトロ診断及び/又はリスク層別化のための方法であって、検査されるべき患者由来のマーカーであるプロアドレノメデュリン(proADM)又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)、又はマーカー組合せ(パネル、クラスター)に含まれるプロアドレノメデュリン又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリンの判定が実施される、方法(以下、本発明による方法と称する)によって達成される。しかしながら、中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)は、好ましい実施形態であり、高い血漿安定性を示し、このことは特に有利である。
【0018】
本発明による上記断片は、好ましくは、群のうちの少なくとも1つ、PAMP(配列番号2)、MR-pro-ADM(中央領域プロアドレノメデュリン)(配列番号3)、ADM(アドレノメデュリン)(配列番号4)、CT-pro-ADM(アドレノテンシン)(配列番号5)を指す。
【0019】
更に、本発明によるプロアドレノメデュリン(proADM)又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)は、糖質化、脂質化、又は誘導体化などの修飾を示し得る。
【0020】
一態様では、侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)のインビトロ診断及び/又はリスク層別化のための方法が、提供される。上記方法は、検査されるべき患者のプロアドレノメデュリン(proADM)(配列番号6)、その部分ペプチド若しくは断片、又は中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)(配列番号3)の(i)レベル若しくは量、(ii)参照試料と比較した量の変化、又は(iii)存在を判定することを含む。
【0021】
別の態様では、敗血症及び/又は敗血症性ショックに関連した侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)のインビトロ診断及び/又はリスク層別化のための方法が提供される。上記方法は、検査されるべき患者のプロアドレノメデュリン(proADM)(配列番号6)、その部分ペプチド若しくは断片、又は中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)(配列番号3)の(i)レベル若しくは量、(ii)参照試料と比較した量の変化、又は(iii)存在を判定することを含む。
【0022】
別の態様では、侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)を処置するため方法が提供される。上記方法は、検査されるべき患者のプロアドレノメデュリン(proADM)(配列番号6)、その部分ペプチド若しくは断片、又は中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)(配列番号3)の(i)レベル若しくは量、(ii)参照試料と比較した量の変化、又は(iii)存在を判定することを含む。また上記方法は、proADM若しくはMR-proADMが検出される場合、又はproADM若しくはMR-proADMの量が標準的な健常患者のレベル又は真菌感染若しくは侵襲性真菌症を有する患者のレベルを超える場合、上記患者を処置することも含む。処置は、上記患者に抗真菌剤を(例えば、静脈内投与によって)投与することを含み得る。幾つかの実施形態では、上記IFI又はIFDは、敗血症又は敗血症性ショックに関連する。幾つかの実施形態では、上記抗真菌剤は、ポリエン系抗真菌薬(例えば、(リポソーム)アンホテリシンB)、エキノカンジン(例えば、カスポファンギン)、アゾール系抗真菌薬(例えば、フルコナゾール)、アリルアミン及びモルホリン系抗真菌薬、及び代謝拮抗抗真菌薬(例えば、5-フルオロシトシン)からなる群から選択される。
【0023】
上記態様の幾つかの実施形態では、上記その断片は、PAMP(配列番号2)、MR-proADM(中央領域プロアドレノメデュリン)(配列番号3)、ADM(アドレノメデュリン)(配列番号4)、及びCT-pro-ADM(アドレノテンシン)(配列番号5)からなる群から選択される。
【0024】
上記態様の幾つかの実施形態では、上記侵襲性真菌感染(IFI)又は侵襲性真菌症(IFD)は、Candida spp.、C.albicans、C.glabrata、Aspergillus spp.、Aspergillus fumigatusによって引き起こされる。
【0025】
上記態様の幾つかの実施形態では、判定は、検査されるべき患者からのC反応性タンパク質(CRP)、TNF-αなどのサイトカイン、例えば、IL-10、IL-6、IL-22、IL17A及びIL-17B、インターロイキン-1βなどのインターロイキン、プロカルシトニン及びその断片、プロ心房性ナトリウム利尿ペプチド及びその断片(例えば、ANP及びプロANP)、プロアルギニンバソプレシン及びその断片(例えば、AVP、pro-AVP、及びコペプチン)、アンジオテンシンII、エンドセリン-1、グルカン、インターフェロンγ(INF-γ)、β-D-グルカン、ガラクトマンナン、並びにVCAM又はICAMなどの接着分子、連続臓器不全評価スコア(SOFA)、簡易急性生理学スコア(SAPS IIスコア)、急性生理学及び慢性健康評価II(APACHE II)スコア、肺炎重症度指数(PSI)スコア、年齢、性別、家族歴、民族性、体重、体格指数(BMI)、収縮期血圧、拡張期血圧、心拍数、体温からなる群から選択される、少なくとも1種の更なるマーカー並びに/又は臨床スコア及び/若しくは臨床パラメータを用いて付加的に実施される。
【0026】
上記態様の幾つかの実施形態では、上記マーカーの並行判定又は同時判定が実施される。
【0027】
上記態様の幾つかの実施形態では、上記判定は、少なくとも1つの患者試料に対して実施される。
【0028】
上記態様の幾つかの実施形態では、上記判定は、自動分析装置又は診断アッセイを使用して実施される。
【0029】
上記態様の幾つかの実施形態では、上記判定は、迅速試験によって、特に単一パラメータ判定又は複数パラメータ判定を用いて実施される。
【0030】
上記態様の幾つかの実施形態では、患者の上記層別化は、臨床判断、特に、侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)、特に敗血症及び/又は敗血症性ショックに関連した侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)の処置又は治療のための薬物による更なる処置を目的とする。一部の実施形態では、上記患者は、重症患者、特に、免疫不全患者及び/又は重度の好中球減少症患者、がん患者を含む、薬剤若しくは疾患により、又は免疫反応を誘発、増強、若しくは抑制する手段により免疫調節された患者からなる群から選択される。
【0031】
上記態様の幾つかの実施形態では、上記診断及び/又はリスク層別化は、治療に伴うものとして、侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)、特に敗血症及び/又は敗血症性ショックに関連した侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)の(i)予後、(ii)予防、(iii)早期検出及び鑑別診断による検出、(iv)重症度の評価、並びに(v)経過を評価すること、のうちの1つ以上のために行われる。
【0032】
上記態様の幾つかの実施形態では、プロアドレノメデュリン(proADM)又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)の症状の発生後(t=0)での6.99nmol/L以上のカットオフ値(閾値)、1日後(t=1d)での8.53nmol/L以上のカットオフ値(閾値)、2日後(t=2d)での5.10nmol/L以上のカットオフ値(閾値)は、上記診断及び/又はリスク層別化に有意(特異的)かつそれらを示す。
【0033】
上記態様の幾つかの実施形態では、症状の発生後(t=0)、1日後(t=1d)、2日後(t=2d)での5nmol/L未満のレベルのプロアドレノメデュリン(proADM)又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)は、上記患者が侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)に罹患していないことを示す。
【0034】
上記態様の幾つかの実施形態では、症状の発生後(t=0)での2nmol/L未満のレベルのプロアドレノメデュリン(proADM)又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)は、上記患者が侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)に罹患していないことを示す。
【0035】
別の態様では、侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)、特に敗血症及び/又は敗血症性ショックに関連した侵襲性真菌感染(IFI)及び/又は侵襲性真菌症(IFD)のインビトロ診断及び/又はリスク層別化のためのキット又は診断アッセイが、提供される。上記キットは、プロアドレノメデュリン(proADM)(配列番号6)又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)(配列番号3)、又はマーカー組合せに含まれるプロアドレノメデュリン又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン、並びに/又は請求項5に記載の臨床スコア及び/若しくは臨床パラメータを判定するための検出試薬、並びに補助的物質を含む。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】preproADM(配列番号1)の配列を、関連する部分配列及び断片と共に示す図である。
【
図2A】敗血症性ショックを有する患者のインターロイキン(IL)-17Aの血漿濃度を示す図である。
【
図2B】敗血症性ショックを有する患者のインターロイキン(IL)-17Aの血漿濃度を示す図である。
【0037】
図2Aにおいて、IL-17Aの血漿濃度は、真菌感染を有する(灰色のマス目に仕切られたボックス)、真菌の定着を有する(灰色の平面ボックス)、又はなんらの真菌所見のない(白色のボックス)、敗血症性ショックに罹患している患者において測定された。血漿試料は、敗血症性ショック発症時(T0)並びに1日(T1)、2日(T2)、7日(T3)、14日(T4)、21日(T5)及び28日(T6)後に採取された。ボックスプロットにおけるデータを、中央値、第25百分位数、第75百分位数として、ウィスカーの端の第10及び第90百分位数と共に示す。記号及び有意性の高い順に関して:p<0.05:
*、p<0.01:
**、p<0.001:
***。
図2Bは、全ての参加している患者の敗血症発症時(T0)並びに1日(T1)、2日(T2)及び7日(T3)後でのインターロイキン(IL)-17Aを用いた、28日目までの真菌感染の予測に関する受信者動作特性(ROC)解析を示す。
【0038】
【
図3A】敗血症性ショックを有する患者の中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)の血漿濃度を示す図である。
【
図3B】敗血症性ショックを有する患者の中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)の血漿濃度を示す図である。
図3Aにおいて、MR-proADMの血漿濃度は、真菌感染を有する(灰色のマス目に仕切られたボックス)、真菌の定着を有する(灰色の平面ボックス)、又はなんらの真菌所見のない(白色のボックス)、敗血症性ショックに罹患している患者において測定された。血漿試料は、敗血症性ショック発症時(T0)並びに1日(T1)、2日(T2)、7日(T3)、14日(T4)、21日(T5)及び28日(T6)後に採取された。ボックスプロットにおけるデータを、中央値、第25百分位数、第75百分位数として、ウィスカーの端の第10及び第90百分位数と共に示す。記号及び有意性の高い順に関して:p< 0.05:*、p<0.01:**、p<0.001:***。
図3Bは、全ての参加している患者の敗血症発症時(T0)並びに1日(T1)、2日(T2)及び7日(T3)後での中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)を用いた、28日目までの真菌感染の予測に関する受信者動作特性(ROC)解析を示す。発明の詳細な説明
【0039】
特に定義しない限り、本明細書において使用される技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
【0040】
本発明による「診断する」は、関連する疾患、障害、合併症、又はリスクの判定、モニタリング、確認、細分類、及び予測を含む。「判定する」は、疾患、障害、合併症、又はリスクに気づくことに関する。「モニタリング」は、すでに診断された疾患、障害、合併症、又はリスクの経過を追うこと、例えば、疾患の進行又は疾患若しくは障害の進行に対する特定の処置の影響を解析することに関する。「確認」は、他の指標又はマーカーを使用してすでに実行された診断を補強又は実証することに関する。「細分類」は、診断された疾患、障害、合併症、又はリスクの異なる下位分類に従って診断を更に定義すること、例えば、疾患の軽症型及び重症型に従って定義することに関する。「予測」は、他の症状又はマーカーが顕在化するか、又は著しく変化する前に疾患障害又は合併症を予測することに関する。
【0041】
本発明による用語「診断」は、IFI/IFDのできる限り有利な経過を可能にすることを目的としてIFI/IFDの集中的な診断及び治療/処置のために、IFI/IFD、特により悪い予後を伴う敗血症又は敗血症性ショックに関連したIFI/IFDを有する患者を見出すことを含み得る。
【0042】
本発明において、用語「リスク層別化」は、対象をそれらの更なる予後に従って異なるリスク群にグループ化することに関する。リスク層別化は、予防及び/又は治療手段を適用するための層別化にも関する。
【0043】
このために、信頼性のある診断及び/又はリスク層別化を本発明による方法によって行うことができることは特に有利である。本発明による方法は、重症患者における真菌感染のより迅速な診断を導く臨床判断を可能にする。本発明による方法は、IFI/IFD、特に敗血症又は敗血症性ショックに関連したIFI/IFDのより迅速な診断を導く臨床判断を可能にする。かかる臨床判断は、IFI/IFD、特に敗血症又は敗血症性ショックに関連したIFI/IFDの処置又は治療のための薬物を使用した更なる処置も含む。
【0044】
適切な処置は、救急室入院の際であっても、臨床判断と共にIFI/IFD、特に敗血症又は敗血症性ショックに関連したIFI/IFDの早期診断及び鑑別を必要とする。IFI/IFDにおける臨床症状は非特異的であり、真菌病原体の検出のための最近の診断ツールは関連した欠点に関連付けられるため、例えば、細菌又はウイルス病原体によって引き起こされる他の感染性疾患からの鑑別及び線引き、並びにIFI/IFD、特に敗血症又は敗血症性ショックに関連したIFI/IFDの同定は、重要である。
【0045】
かかる臨床判断は、IFI/IFD、特に敗血症又は敗血症性ショックに関連したIFI/IFDの処置又は治療のための薬物による更なる治療であって、ポリエン系抗真菌薬(例えば、(リポソーム)アンホテリシンB)、エキノカンジン(例えば、カスポファンギン)、アゾール系抗真菌薬(例えば、フルコナゾール)、アリルアミン及びモルホリン系抗真菌薬、代謝拮抗抗真菌薬(例えば、5-フルオロシトシン)の様な少なくとも1種の抗真菌剤が使用される治療を含む。
【0046】
本発明による方法の別の好ましい実施形態では、診断及び/又はリスク層別化が、真菌感染、特に敗血症又は敗血症性ショックに関連したIFI/IFDの経過を評価するために行われる。
【0047】
本発明による方法の別の好ましい実施形態では、診断及び/又はリスク層別化が、治療に伴うものとして、及び例えば、機械的人工換気、腎代替療法、又は抗真菌療法などの治療的な処置を調整するために、IFI/IFDの経過について行われる。
【0048】
治療的な処置の調整は、対象が以前のように更に治療されるかどうか、又は処置が適合されるかどうかの判断も含み得る。例えば、治療的な処置の調整は、対象が集中治療室(ICU)若しくは救急部(ED)に維持されるかどうか、又は対象が解放されるかどうであり得る。
【0049】
本発明による方法の別の好ましい実施形態では、IFI/IFDの早期検出又は早期診断は、症状の発生後(t=0)、又は1日以内若しくは1日後(t=1d)、又は2日以内若しくは2日後(t=2d)に本発明の実施形態に従って実施される。
【0050】
他の好ましい実施形態では、本発明は、上記実施形態のうちの1つによるIFI/IFD、特に敗血症若しくは敗血症性ショックに関連したIFI/IFDの診断及び/若しくはリスク層別化のための方法又はIFI/IFD、特に敗血症若しくは敗血症性ショックに関連したIFI/IFDの早期診断若しくは鑑別診断又は予後のインビトロ診断のための方法であって、プロアドレノメデュリン(proADM)又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)の症状の発生後(t=0)での6.99nmol/L以上のカットオフ値(閾値)、1日後(t=1d)での8.53nmol/L以上のカットオフ値(閾値)、2日後(t=2d)での5.10nmol/L以上のカットオフ値(閾値)が上記診断及び/又はリスク層別化に有意(特異的)かつそれらを示す(
図3を参照のこと)、方法に関する。
【0051】
他の好ましい実施形態では、本発明は、上記実施形態のうちの1つによるIFI/IFD、特に敗血症若しくは敗血症性ショックに関連したIFI/IFDの診断及び/若しくはリスク層別化のための方法又はIFI/IFD、特に敗血症若しくは敗血症性ショックに関連したIFI/IFDの早期診断若しくは鑑別診断又は予後のインビトロ診断のための方法であって、症状の発生後(t=0)、1日後(t=1d)、2日後(t=2d)での5nmol/L未満のレベルのプロアドレノメデュリン(proADM)又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)が、患者がIFI/IFDに罹患していないことを示す、方法に関する。従って、患者は、このような除外診断によってIFI/IFDを除外する(
図3を参照のこと)。
【0052】
他の好ましい実施形態では、本発明は、上記実施形態のうちの1つによるIFI/IFD、特に敗血症若しくは敗血症性ショックに関連したIFI/IFDの診断及び/若しくはリスク層別化のための方法又はIFI/IFD、特に敗血症若しくは敗血症性ショックに関連したIFI/IFDの早期診断若しくは鑑別診断又は予後のインビトロ診断のための方法であって、症状の発生後(t=0)での2nmol/L未満のレベルのプロアドレノメデュリン(proADM)又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)が、患者がIFI/IFDに罹患していないことを示す、方法に関する。従って、患者は、このような除外診断によってIFI/IFDが除外されることとなる(
図3を参照のこと)。
【0053】
本発明の文脈において「敗血症」は、感染に対する全身性反応を指す。あるいは、敗血症は、慢性の感染プロセス又は感染を伴うSIRSの組み合わせとして観察され得る。敗血症は、感染及び全身性炎症反応の存在によって定義される臨床症候群として特徴付けられ得る(Levy MM et al.2001「SCCM/ESICM/ACCP/ ATS/SIS International Sepsis Definitions Conference.」 Crit Care Med.2003 Apr;31 (4):1250-6)。本明細書において使用される用語「敗血症」としては、敗血症、重症敗血症、及び敗血症性ショックが挙げられるが、これらに限定されない。この文脈において、重症敗血症は、臓器不全、低灌流異常又は敗血症誘発性低血圧を伴う敗血症を意味する。低灌流異常には、乳酸アシドーシス、乏尿及び精神状態の急性変化が含まれる。敗血症誘発性低血圧は、約90mmHg未満の収縮期血圧の存在、又は低血圧の他の原因(例えば、心原性ショック)がない場合のベースラインから約40mmHg以上の収縮期血圧の低減により定義される。敗血性ショックは、低灌流異常又は臓器不全の存在と共に、適切な輸液蘇生にも関わらず、敗血症誘発性低血圧の持続を有する重症敗血症として定義される(Bone RC,Balk RA.,Cerra FB.,Dellinger,RP.,Fein AM.,Knaus WA.,Schein RM.,Sibbald WJ.,「Definitions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis.」 The ACCP/SCCM Consensus Conference Committee.American College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine.Chest 1992,101 (6),1644-55)。
【0054】
用語「敗血症」は、SEPSIS-2定義に基づく重症敗血症又は敗血症性ショックも含む(Bone et al.,2009)。用語「敗血症」は、SEPSIS-3定義の範囲以内にある対象も含む(Singer M.,Deutschmann CS,Seymour CW,Shankar-Hari M,Annane D,Bauer M.,Bellomo R.,Bernard GR,Chiche JD,Coopersmith CM,Hotchkiss RS,Levy MM,Marshall JC,Martin GS,Opal SM,Rubenfeld,van der Poll T,Vincent JL,Angus DC.「The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3).」 JAMA 2016,315 (8),801-810)。
【0055】
本明細書において使用される用語「敗血症」は、敗血症の発症における全てのあり得るステージに関する。
【0056】
本明細書で使用する場合、本発明の範囲内の「感染」は、潜在的に病原性の作用物質/病原体、生物及び/又は微生物による通常は無菌の組織又は体液の侵入により引き起こされる病理学的プロセスを意味し、好ましくは、真菌、細菌、ウイルス、及び/又は寄生虫による感染に関する。従って、感染は、細菌感染、ウイルス感染、及び/又は真菌感染であり得る。感染は、局所又は全身性感染であり得る。更に感染に罹患している対象は、同時に2つ以上の感染源に罹患し得る。例えば、対象は、ウイルス感及び真菌感染;細菌感染及び真菌感染、並びに細菌感染、真菌感染、及びウイルス感染に罹患し得る。
【0057】
特に対象は、敗血症、重症敗血症、又は敗血症性ショックに罹患する。更に対象は、呼吸器疾患、好ましくは下気道の感染に罹患し得る。本明細書で使用する場合、呼吸器疾患は、高等生物においてガス交換を可能にする臓器及び組織に影響を及ぼす病態を含み、上気道、気管、気管支、気管支梢、肺胞、胸膜、及び胸腔、並びに呼吸神経及び呼吸筋の状態も含む。
【0058】
更に対象は、腹部疾患、好ましくは消化管(胃、大腸、小腸)、肝臓、脾臓、及び膵臓を含む腹部領域の感染に罹患し得る。
【0059】
本発明による方法の別の好ましい実施形態では、体液、特に血液、血清、血漿、脳脊髄液、尿、唾液、痰、並びに胸水の試料、好ましくは全血、血清、若しくは血漿又はこれらの混合物は、検査されるべき患者から採取され、診断は、インビボ/エクスビボで、すなわちヒト又は動物の体外で行われる。加えて当業者は、一部の試験試料は、分画又は精製手順、例えば、全血の血清又は血漿成分への分離後により容易に解析されることを理解するであろう。
【0060】
従って、本発明の好ましい実施形態では、試料は、血液試料、血清試料、血漿試料、脳脊髄液試料、唾液試料、及び尿試料又は上述の試料のいずれかの抽出物からなる群から選択される。好ましくは、試料は、血液試料、最も好ましくは血清試料又は血漿試料である。
【0061】
診断及び/又はリスク層別化は、少なくとも1つの患者試料中の成熟型アドレノメデュリン又はプロアドレノメデュリン(proADM)又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)及びその存在する量若しくはレベル又は参照と比較した量若しくはレベルの変化の判定に基づいて行われ得る。
【0062】
本発明の文脈において、用語「レベル」又は「量」は、患者から採取された試料中のプロアドレノメデュリン(proADM)又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)の濃度(好ましくは重量/体積;w/vとして表現される)に関する。
【0063】
本発明の範囲内で、用語「IFI/IFD」は、the European Organization for Research and Treatment of Cancer/Invasive fungal infections(IFI)Cooperative Group;National Institute of Allergy and Infectious Diseases Mycoses Study Group(EORTC/MSG)Consensus Group in 2002 and 2008による記載のように理解される(Ascioglu S,Rex JH,de Pauw B,Bennett JE,Bille J,Crokaert F,Denning DW,Donnelly JP,Edwards JE,Erjavec Z,Fiere D,Lortholary O,Maertens J,Meis JF,Patterson TF,Ritter J,Selleslag D,Shah PM,Stevens DA,Walsh TJ;「Invasive Fungal Infections Cooperative Group of the European Organization for Research and Treatment of Cancer;Mycoses Study Group of the National Institute of Allergy and Infectious Diseases;」.Clin Infect Dis.2002 Jan 1;34(1):7-14.Epub 2001 Nov 26;De Pauw B,Walsh TJ,Donnelly JP,Stevens DA,Edwards JE,Calandra T,Pappas PG,Maertens J,Lortholary O,Kauffman CA,Denning DW,Patterson TF,Maschmeyer G,Bille J,Dismukes WE,Herbrecht R,Hope WW,Kibbler CC,Kullberg BJ,Marr KA,Muhoz P,Odds FC,Perfect JR,Restrepo A,Ruhnke M,Segal BH,Sobel JD,Sorrell TC,Viscoli C,Wingard JR,Zaoutis T,Bennett JE;「European Organization for Research and Treatment of Cancer/Invasive Fungal Infections Cooperative Group;National Institute of Allergy and Infectious Diseases Mycoses Study Group (EORTC/MSG) Consensus Group.」 Clin Infect Dis.2008 Jun 15;46(12):1813-21.doi:10.1086/588660)。
【0064】
また本発明の範囲内で、用語「IFI/IFD」は、表在性の、局所の、定着した、良性の、自己限定的な真菌症又は真菌感染ではなく全身性の、汎発型の、深在性の、内臓性の、かつ重症の致命的な真菌感染の意味も有する。
【0065】
用語「IFI/IFD」は、死亡及び罹患率の増加のような有害事象のリスクを包含する。
【0066】
本明細書で使用する場合、用語「患者」は、医療を受けている、又は疾患のために医療を受けなければならない生きているヒト又は非ヒト生物を指す。これは、病理の徴候について調査されている明確な疾病を有さない人間を含む。従って、本明細書に記載の方法及びアッセイは、ヒト疾患及び獣医学的疾患に適用可能である。
【0067】
本発明による診断又はリスク層別化に好ましい患者は重症患者、特に、移植を受けた患者、重度の好中球減少症を有する患者、又はがん患者などの免疫不全患者を含む、薬剤若しくは疾患により、又は免疫反応を誘発、増強、又は抑制する手段により免疫調節された患者である。従って、かかる前述の患者は、本発明によるリスク層別化に好ましい。
【0068】
本発明による診断又はリスク層別化に好ましい患者は、敗血症、重症敗血症、若しくは敗血症性ショックと診断された重症患者、又は感染性疾患による症状を有するが敗血症を呈していない患者、局所感染(例えば、気道、尿路、腹部、皮膚、粘膜、生殖器、CNS)を有する患者、機械的人工換気、輸液、腎代替療法により治療された患者、抗真菌療法を受けている患者、外科手術(特に、肝臓外科手術)を受けた患者、肝硬変を有する患者、及び外傷(多発外傷)を受けた患者であり得る。
【0069】
本発明の方法は、以下を指す患者管理のために使用され得る:
● 病院又は集中治療室への入院の決定、
● 専門病院又は院内の専門部署への患者の再配置の決定、
● 集中治療室又は病院から早期退院のための評価、
● 資源配分(例えば、医師及び/又は看護職員、診断薬、治療薬)。
【0070】
従って、本発明は、IFI/IFDの診断及び/又はリスク層別化、特に、IFI/IFD、特に敗血症又は敗血症性ショックに関連したIFI/IFDの原因となる最もよく見られる病原体であるCandida spp.(例えば、C.albicans、C.glabrata)、Aspergillus spp.(例えば、Aspergillus fumigatus)などによって引き起こされるIFI/IFDの診断及び/又はリスク層別化に関する。
【0071】
非常に好ましい実施形態では、本発明は、敗血症および/または敗血症性ショックに関連したIFI/IFDの診断および/またはリスク層別化に関する。
【0072】
用語「敗血症及び/又は敗血症性ショックに関連したIFI/IFD」は、特にこれらの適応症の併存症を含む。すなわち既存の基礎疾患(指標疾患)、すなわちIFI/IFDに加えて、診断によって識別可能な既存の疾患プロファイル、すなわち敗血症及び/又は敗血症性ショックが判定される(すなわち、関連した疾患プロファイルが存在する)。この手法は、抗真菌剤(薬物)が患者に適時に適用される場合、最初のIFI/IFDによる敗血症及び/又は敗血症性ショックの有害な転帰を防止するのを可能にする。
【0073】
別の実施形態では、プロアドレノメデュリン(proADM)又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)の判定が、他のマーカーと共に付加的に行われ得、ここで、当該プロアドレノメデュリン(proADM)又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)は、マーカー組合せ(パネル、クラスター)、特に好ましくはIFI/IFD、特に敗血症又は敗血症性ショックに関連したIFI/IFDをすでに示しているものに含まれる。
【0074】
このために、本発明は、本発明による方法の実施形態であって、判定が、検査されるべき患者からのC反応性タンパク質(CRP)、TNF-αなどのサイトカイン、例えば、IL-10、IL-6、IL-22、IL17A及びIL-17B、インターロイキン-1βなどのインターロイキン、プロカルシトニン及びその断片、プロ心房性ナトリウム利尿ペプチド及びその断片(ANP、プロANP)、プロアルギニンバソプレシン及びその断片(AVP、pro-AVP、コペプチン)、アンジオテンシンII、エンドセリン-1、グルカン、インターフェロンγ(INF-γ)、β-D-グルカン、ガラクトマンナン、並びにVCAM又はICAMなどの接着分子、連続臓器不全評価スコア(SOFA)、簡易急性生理学スコア(SAPSIIスコア)、急性生理学及び慢性健康評価II(APACHE II)スコア、肺炎重症度指数(PSI)スコア、年齢、性別、家族歴、民族性、体重、体格指数(BMI)、収縮期血圧、拡張期血圧、心拍数、体温の群から選択される、少なくとも1種の更なるマーカー又は臨床スコア若しくは臨床パラメータを用いて付加的に実施される実施形態に関する。
【0075】
特に、体液中のガラクトマンナンの検出は、ヒトにおける侵襲性真菌感染(アスペルギルス症)を診断するために使用される。
【0076】
本発明の別の実施形態では、本発明による方法は、マーカーの並行判定又は同時判定(例えば、96穴以上のマルチタイタープレート)によって実施され得、ここで、当該判定は少なくとも1つの患者試料に実施される。
【0077】
更に、本発明による方法及びその判定は、自動分析装置を使用して、特にKryptor(B.R.A.H.M.S GmbH、Hennigsdorf、Germany)を使用して実施され得る。
【0078】
別の実施形態では、本発明による方法及びその判定は、迅速試験(例えば、ラテラルフロー試験)によって、例えば、単一パラメータ判定又は複数パラメータ判定を使用して実施され得る。
【0079】
更に本発明は、IFI/IFD、特に敗血症又は敗血症性ショックに関連したIFI/IFDのインビトロ診断及び/又はリスク層別化のためのプロアドレノメデュリン(proADM)又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)、又はマーカー組合せ(パネル、クラスター)に含まれるプロアドレノメデュリン又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリンの使用に関する。マーカー組合せは、必要に応じて別の適切なマーカーを含有し得る。
【0080】
本明細書において、プロアドレノメデュリン(proADM)又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)のレベルの判定(又は測定若しくは検出)は、後述するように検出法及び/又は診断アッセイを使用して実行される。
【0081】
別の目的は、対応する診断アッセイ又は本発明による方法を実施するためのかかるアッセイの使用を利用可能にすることである。
【0082】
本明細書において言及されるように、「アッセイ」又は「診断アッセイ」は、診断薬の分野において適用される任意の種類のものであり得る。かかるアッセイは、一定の親和性を有する1種以上の捕捉プローブ(捕捉分子)への検出されるべき分析物の結合に基づき得る。捕捉分子と標的分子又は関心対象の分子との間の相互作用に関して、親和定数は、好ましくは108M-1を超える。
【0083】
更にマーカーは、関心対象のタンパク質又はその断片の相対定量を判定するか、又は絶対定量を判定する方法などの質量分析ベースの方法によって判定され得る。
【0084】
相対定量「rSRM」は、以下によって達成され得る。
【0085】
1.試料中に検出された所定の標的断片ペプチドからのSRM(選択反応モニタリング)シグネチャピーク面積を、少なくとも第2の、第3、第4以上の生体試料中の標的断片ペプチドの同じSRMシグネチャピーク面積と比較することにより、標的タンパク質の存在の増加又は低下を判定すること。
【0086】
2.生体試料中に検出された所定のペプチド由来のSRMシグネチャピーク面積を、異なる及び別個の生物学的供給源に由来する他の試料中の他のタンパク質からの断片ペプチドから生じたSRMシグネチャピーク面積と比較することにより、標的タンパク質の存在の増加又は低下を判定することであって、ペプチド断片について2つの試料間のSRMシグネチャピーク面積比較を、例えば、各試料において解析されたタンパク質の量に標準化する、判定すること。
【0087】
3.ヒストンタンパク質の変化するレベルを様々な細胞条件下で発現レベルが変化しない他のタンパク質のレベルに標準化するために、所定の標的ペプチドについてのSRMシグネチャピーク面積を、同一生体試料内の異なるタンパク質に由来する他の断片ペプチドからのSRMシグネチャピーク面積と比較することにより、標的タンパク質の存在の増加又は低下を判定すること。
【0088】
4.これらのアッセイは、未修飾の断片ペプチド及び標的タンパク質の修飾された断片ペプチドの両方に適用され得、修飾としては、リン酸化及び/又はグリコシル化、アセチル化、メチル化(モノ、ジ、トリ)、シトルリン化、ユビキチン化が挙げられるが、これらに限定されず、修飾されたペプチドの相対レベルは、未修飾のペプチドの相対量を判定するのと同じ方法で判定される。
【0089】
所与のペプチドの絶対定量は、以下によって達成され得る。
【0090】
1.個々の生体試料中の標的タンパク質からの所与の断片ペプチドについてのSRM/MRMシグネチャピーク面積を生体試料のタンパク質可溶化液に加えられた内部標準断片ペプチドのSRM/MRMシグネチャピーク面積と比較すること。内部標準は、調べられている標的タンパク質からの断片ペプチドの標識された合成バージョン又は標識された組換えタンパク質であり得る。この標準物質は、消化の前(組換えタンパク質では必須)又は後に既知量で試料に加えられ、生体試料中の内部標準断片ペプチドおよび天然の断片ペプチドの両方についてSRM/MRMシグネチャピーク面積が、別々に判定され得、続いて、両方のピーク面積が比較される。これは、未修飾断片ペプチドおよび修飾断片ペプチドに適用され得、修飾としては、リン酸化及び/又はグリコシル化、アセチル化、メチル化(例えば、モノ、ジ、又はトリメチル化)、シトルリン化、ユビキチン化が挙げられるが、これらに限定されず、修飾されたペプチドの絶対レベルは、未修飾のペプチドの絶対レベルを判定するのと同じ方法で判定され得る。
【0091】
2.またペプチドは、外部検量線を使用して定量化され得る。正規曲線アプローチは、内部標準として一定量の重ペプチド及び試料に加えられた様々な量の合成の軽ペプチドを使用する。試験試料のものと類似する代表的なマトリックスが、マトリックス効果を説明する標準曲線を構築するために使用される必要がある。加えて、逆曲線法は、マトリックス中の内在性分析物の問題を回避し、一定量の軽ペプチドが、内部標準を作成するために内在性分析物の上に加えられ、様々な量の重ペプチドが一連の濃度標準を作成するために加えられる。正規曲線又は逆曲線のいずれかと比較されるべき試験試料は、検量線を作成するために使用されるマトリックスに加えられる内部標準と同じ量の標準ペプチドを加えられる。
【0092】
本発明の文脈において、「捕捉分子」は試料由来の標的分子又は関心対象の分子、すなわち分析物(すなわち、本発明の文脈では心血管ペプチド)との結合に使用され得る分子である。従って、捕捉分子は、標的分子又は関心対象の分子に特異的に結合するために、空間的に及び表面特徴、例えば、表面電荷、疎水性、親水性、ルイス供与体及び/又は受容体の有無の観点の両方で適切に成形しなければならない。ここで、結合は例えば、捕捉分子と標的分子又は関心対象の分子との間のイオン結合、ファンデルワールス結合、π-π結合、σ-π結合、疎水性結合又は水素結合の相互作用、又は上述の相互作用のうちの2つ以上の組み合わせにより媒介され得る。本発明の文脈において、捕捉分子は例えば、核酸分子、炭水化物分子、RNA分子、タンパク質、抗体、ペプチド又は糖タンパク質を含む群から選択され得る。好ましくは、捕捉分子は抗体であり、これには標的分子又は関心対象の分子に対する十分な親和性を有するそのフラグメントが含まれ、組換え抗体若しくは組換え抗体断片、並びに上記抗体の化学的及び/若しくは生化学的に修飾された誘導体、又はこれらの少なくとも12アミノ酸の長さを有する変異鎖に由来する断片が含まれる。
【0093】
好ましい検出法には、例えば、放射免疫アッセイ(RIA)、化学発光及び蛍光免疫アッセイ、酵素結合免疫アッセイ(ELISA)、Luminex(登録商標)ベースのビーズアレイ、タンパク質マイクロアレイアッセイなどの様々なフォーマット、並びに例えば、免疫クロマトグラフ細片試験などの迅速試験フォーマットの免疫アッセイが含まれる。
【0094】
アッセイは同種又は異種アッセイ、競合及び非競合サンドイッチアッセイであり得る。特に好ましい実施形態では、アッセイはサンドイッチアッセイの形態であり、これは非競合免疫アッセイであり、検出及び/又は定量化されるべき分子が第1の抗体及び第2の抗体に結合される。第1の抗体は固相、例えば、ビーズ、ウェル若しくは他の容器の表面、チップ、又は細片に結合し得、第2の抗体は、例えば、色素、放射性同位体、又は反応性若しくは触媒活性部分で標識される抗体である。次いで、分析物に結合した標識抗体の量が適切な方法により測定される。「サンドイッチアッセイ」に伴う一般的組成及び手順は確立されており、当業者に公知である。(「The Immunoassay Handbook」,Ed.David Wild,Elsevier LTD,Oxford;3rd ed.(May 2005);Hultschig C et al.,Curr Opin Chem Biol.2006 Feb;10(1):4-10))。
【0095】
特に好ましい実施形態では、アッセイは、いずれも液体反応混合物中に分散物として存在する少なくとも1種又は2種の捕捉分子、好ましくは抗体を含み、第1の標識成分は第1の捕捉分子に付着し、当該第1の標識成分は、蛍光又は化学発光の消光又は増幅に基づく標識システムの一部であり、当該標識付けシステムの第2の標識成分は第2の捕捉分子に付着し、従って両方の捕捉分子が分析物に結合すると、試料を含む溶液中で形成されたサンドイッチ複合体の検出を可能にする測定可能なシグナルが生成される。
【0096】
更に好ましくは、上記標識システムは、蛍光色素又は化学発光色素、特にシアニン系の色素との組み合わせで希土類クリプテート又は希土類キレートを含む。
【0097】
本発明の文脈において、蛍光ベースのアッセイは色素を使用することを含み、これは例えば、FAM(5-又は6-カルボキシフルオレセイン)、VIC、NED、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、IRD-700/800、シアニン色素、例えば、CY3、CY5、CY3.5、CY5.5、Cy7、キサンテン、6-カルボキシ-2’,4’,7’,4,7-ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)、TET、6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトジフルオレセイン(6-Carboxy-4’,5’-dichloro-2’,7’-dimethodyfluorescein)(JOE)、N,N,N’,N’-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、5-カルボキシローダミン-6G(R6G5)、6-カルボキシローダミン-6G(RG6)、ローダミン、ローダミングリーン、ローダミンレッド、ローダミン110、BODIPY色素、例えば、BODIPY TMR、オレゴングリーン、クマリン、例えば、ウンベリフェロン、ベンズイミド、例えば、Hoechst 33258;フェナントリジン、例えば、テキサスレッド、ヤキマイエロー、Alexa Fluor、PET、臭化エチジウム、アクリジニウム染料、カルバゾール染料、フェノキサジン染料、ポルフィリン染料、ポリメチン染料などを含む群から選択され得る。
【0098】
本発明の文脈において、化学発光ベースのアッセイは、Kirk-Othmer,「Encyclopedia of chemical technology」,4th ed.,executive editor,J.I.Kroschwitz;editor,M.Howe-Grant,John Wiley & Sons,1993,vol.15,p.518-562における化学発光材料について記載された物理原理に基づき、色素の使用を含む。好ましい化学発光色素はアクリジニウムエステルである。
【0099】
本発明の範囲内で、このような診断アッセイは特に、本発明による方法を実施するための装置であると最も広義に理解される。
【0100】
本発明の範囲内で、バイオマーカーを検出及び測定するための診断アッセイは、真菌病原体又は真菌の分子を検出するアッセイ方法と組み合わせられ得る。真菌病原体又は真菌の分子を検出するために、分子診断の応用(例えば、PCR)又は質量分析が適用され得る。更に、真菌の一部、特に、例えば、活発な増殖している真菌の一部(例えば、菌糸)又は無性生殖体(例えば、胞子)の一部を特異的に検出する抗体又は検出試薬が好ましい(いわゆるISCA Diagnostics)。
【0101】
特に上述の実施形態を考慮に入れると、更に本発明は、IFI/IFD、特に敗血症又は敗血症性ショックに関連したIFI/IFDのインビトロ診断又はリスク層別化のためのキット又はかかるキットの使用であって、調査されるべき患者において、プロアドレノメデュリン(proADM)又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)、又はマーカー組合せ(パネル、クラスター)に含まれるプロアドレノメデュリン又はその部分ペプチド若しくは断片、特に中央領域プロアドレノメデュリンの判定が実施される、キット又はかかるキットの使用に関する。かかる検出試薬は、抗体などのような捕捉分子を含む。
【0102】
本発明の方法は、部分的にコンピュータにより実施されてもよく、コンピュータシステムによってサポートされてもよい。コンピュータシステムにおいて、判定されたマーカーのレベルは、診断、予後、リスク評価、及び/又はリスク層別化を示すスコアを算出するために、対象の他のマーカーレベル及び/又はパラメータと組み合わせられ得る。例えば、判定値は、コンピュータシステムに(医療従事者により手動で、又はそれぞれのマーカーレベルが判定された装置から自動的に)入力され得る。コンピュータシステムは、医療現場(例えば、ICU又はED)にあり得るか、又はコンピュータネットワーク(例えば、インターネットを介して)を介して接続された遠隔地にあり得る。典型的には、コンピュータシステムは、コンピュータ可読媒体に値(例えば、マーカーレベル又はパラメータ、例えば、年齢、血圧、体重、性別など)を保存し、予め定義された、かつ/又は予め保存された基準レベル又は基準値に基づいてスコアを算出する。得られたスコアは、ユーザ(通常は医師などの医療従事者)のために表示及び/又は印刷される。あるいは、又は加えて、関連する予後、診断、評価、又は層別化が、ユーザ(通常は医師などの医療従事者)のために表示及び/又は印刷される。
【0103】
以下の実施例及び図は、本発明のより詳細な説明に役立つが、本発明は、これらの実施例及び図に限定されない。本明細書のいずれかの箇所でのこれらの実施例及び他の実施例の使用は例示にすぎず、本発明の、又は任意の例示された用語の範囲及び意味を限定するものではない。同様に、本発明は、本明細書に記載の任意の特定の好ましい実施形態に限定されない。実際、本発明の多数の改変及び変形が、本明細書を読むことで当業者に明らかになり得、かかる変形は、要旨又は範囲において本発明から逸脱しない範囲でなされ得る。従って本発明は、添付の請求の範囲の用語に加えてその請求項に与えられた等価物の全範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0104】
(実施例1)
研究デザイン。観察臨床研究は、地元の倫理委員会(Ethics Committee of the Medical Faculty of Heidelberg,Trial Code No.S-097/2013/German Clinical Trials Register:DRKS00005463)の承認を得て、2013年11月~2015年1月の間にHeidelberg University Hospital、Germanyの外科手術集中治療室で実施された。全ての被験患者又はその合法的な被指名人は、署名されたインフォームドコンセントを提出した。Surviving Sepsis Campaign:International Guidelines for Management of Severe Sepsis and Septic Shock 2012の基準に従って、敗血症性ショックに罹患している合計50人の患者がこの研究に登録された(Dellinger RP,Levy MM,Rhodes A et al.(2013)「Surviving sepsis campaign:international guidelines for management of severe sepsis and septic shock:2012.」 Crit Care Med 41:580-637。敗血症性ショックを有する患者の治療は、早期目標指向型治療(Romani L(2004)「Immunity to fungal infections.」 Nat Rev Immunol 4:1-23)、感染病巣の除去及び広域抗生物質を含んだRomani L(2004)「Immunity to fungal infections.」Nat Rev Immunol 4:1-23;Schroeder M,Simon M,Katchanov J et al.(2016)「Does galactomannan testing increase diagnostic accuracy for IPA in the ICU? A prospective observational study.」 Crit Care 20:139;Zedek DC,Miller MB(2006)「Use of galactomannan enzyme immunoassay for diagnosis of invasive aspergillosis in a tertiary-care center over a 12-month period.」 J Clin Microbiol 44:1601)。
【0105】
血液試料を、敗血症発症時(T0)並びに1日(T1)、2日(T2)、7日(T3)14日(T4)、21日(T5)及び28日(T6)後に採取した。関連するベースラインデータ(人口統計学的データ、主な感染部位)、臨床データ(簡易急性生理学スコア(SAPS II)、連続臓器不全評価スコア(SOFA)及び急性生理学健康評価スコア(APACHE II)などの疾患重症度スコア、外科的処置、抗真菌療法、転帰パラメータ)に加えて、慣例的な感染パラメータ(例えば、白血球、C反応性タンパク質(CRP)、プロカルシトニン(PCT)、体温)を収集した。
【0106】
免疫アッセイ。BGの血漿濃度を、製造者の使用説明書に従ってGlucatell(登録商標)-Kit(Pyroquant Diagnostik GmbH)を使用して測定した。MR-proADMの血漿濃度を、新規のサンドイッチ免疫アッセイ(Kryptor Compact Plus Analyser、BRAHMS、Hennigsdorf、Germany)と組み合わせたTRACE(Time Resolved Amplified Cryptate Emission)技術を使用して測定した。全ての患者における全ての時点において、GMの濃度を、血漿試料の酵素結合免疫アッセイ(Platelia(商標) Aspergillus AG、Biorad、Munich)を使用して測定した。ただし、侵襲性アスペルギルス症(IA)が疑われる選択された症例においてのみ、気管支肺胞洗浄液(BALF)中のGM濃度を、同じ技術を使用して測定した。以下のGM濃度を、カットオフ値として使用した:血漿>0.5、BALF>1.0。
【0107】
フローサイトメトリー。II-2、IL-4、IL-6、IL-10、IL-17A、TNF-a、及びIFN-γの血漿濃度を、製造者の使用説明書に従ってマルチプレックスアッセイ(Human Th1/Th2/Th17 Cytokine Kit、BD Biosciences、Heidelberg、Germany)を使用して、FACSVerseフローサイトメーター(BD Biosciences、Heidelberg、Germany)で測定した。
【0108】
臨床微生物学。
血液培養。血液培養試験は、Heidelberg University Hospitalにおいて他箇所に記載のように定型的に実行された(Gumbinger C,Hug A,Murle B et al.(2013) 「Early blood-based microbiological testing was ineffective in severe stroke patients.」 J Neurol Sci 325:46-50)。
全血試料を、無菌操作を適用した直接の静脈穿刺(例えば、前肘静脈)により得て、10mLの血液を、好気性及び嫌気性液体培地(BACTEC PLUS、BD Biosciences、Heidelberg、Germany)に播種した。培養液を、5日間インキュベートし(BACTEC、BD Biosciences、Heidelberg、Germany)、陽性培養液を、VITEK2(Biomerieux、Nuertingen、Germany)又はMALDI TOF(Bruker、Madison、Wl、USA)による同定及び自動抗菌薬感受性試験(VITEK 2)を含む、承認された病院内の標準的技術により解析した。
【0109】
気管分泌物、創傷スワブ及びドレナージ液の培養ベースの診断手順。要約すると、気管吸引物及びドレナージ液を、手作業でコロンビア(BD)、チョコレート(bM)、マッコンキー(bM)、Schaedler及びカナマイシン-バンコマイシン(BD、バイプレート)、及び発色性カンジダ寒天培地(BD)に画線塗抹した一方で、創傷スワブを、PREVI Isola(商標)機器により半自動で同じ種類の寒天培地に播種した。全てのプレートを、記載のように嫌気性チャンバー(GasPak;Becton,Dickinson,Franklin Lakes,NJ)内で37℃にて48時間インキュベートしたSchaedler-KVのバイプレートを除き、5%CO2、37℃にて24~48時間インキュベートした(Mischnik A,Mieth M,Busch CJ et al.(2012) 「First evaluation of automated specimen inoculation for wound swab samples by use of the Previ Isola system compared to manual inoculation in a routine laboratory:finding a cost-effective and accurate approach.」 J Clin Microbiol 50:2732-2736)。細菌及び真菌のコロニーを、MALDI-ToF質量分析により同定し、自動ASTをVITEK II装置(bM)で実行した。
【0110】
群定義。気道又はドレナージ液中のCandida spp.を、定着として分類した。血液培養物、手術時のスワブにおける陽性結果及び肺浸潤に伴う深部気道検体中のAspergillus spp.を、感染として分類した。
【0111】
抗カンジダ抗体力価。血清中のCandida albicans特異的IgM、IgA、及びIgG抗体を、Serion ELISA classic(商標)Candida albicans IgA/lgG/lgM(ESR 117A/G/M、Virion Serion、Wuerzburg、Germany)を製造者の使用説明書に記載のようにして使用して、Behring ELISA Processor(BEP III、Siemens Healthcare Diagnostics、Marburg、Germany)を使用して検出及び定量化した(Zou M,Tang L,Zhao S et al.(2012) 「Systematic review and meta-analysis of detecting galactomannan in bronchoalveolar lavage fluid for diagnosing invasive aspergillosis.」 PLoS One 7:e43347)。
【0112】
統計解析。得られたデータを、電子データベース(Excel 2010;Microsoft Corp、Redmond、USA)に入力し、SPSSソフトウェア(Version 21.0;SPSS,Inc.、Chicago、USA)を使用して評価した。カテゴリーデータを、絶対度数及び相対度数を使用して要約した。定量データを、四分位数付き中央値を使用して要約した。コルモゴロフ-スミルノフ検定を適用して、正規分布を確認した。異常に分布したデータであるため、評価のためにノンパラメトリック法を使用した(カテゴリーデータについてカイ二乗検定、連続データについてマン-ホウィットニーU検定)。真菌感染検出のための適切なカットオフ値を、ROC解析を使用して算出した。p値<0.05を、統計的に有意であるとみなした。記号及び有意性の高い順に関して:p< 0.05:*、p<0.01:**、p<0.001:***。
【0113】
結果
患者の特徴。敗血症性ショックを有する合計50人の患者が、掲示された研究に含まれた。患者の特徴を、表1に掲示する。基礎となる感染病巣は、腹部(n=43;86%)、続いて肺(n=6;12%)及び尿生殖路(n=1;2%)であった。90日及び28日の全死亡率は、それぞれ、22%(n=11)及び34%(n=17)であった。ICU及び入院期間の中央値は、それぞれ、20日及び44日であった。
【0114】
表1 患者の特徴(n=50)
データは、数字(対応する百分率値付き)または中央値(付随する四分位数付き)のいずれかとして提示される。
【0115】
真菌病原体及び感染部位。
培養ベースの微生物学的な診断。培養ベースの微生物学的診断によって評価されるように、真菌病原体は33人の患者(66.0%)に存在したが、17人の患者(34.0%)は陰性の真菌培養物を示した。真菌の分離株は、25人(75.8%)又は8人(24.2%)の患者のそれぞれ1つ又は複数の位置で見出され、以下の部位に存在した:気道(n=17;51.5%)、腹部部位(n=21;63.6%)及び血液培養(n=3;9.1%)。真菌病原体有り又は真菌病原体無しの患者の特徴を、表1に掲示する。真菌病原体有りの患者は、研究に含まれる前により頻繁に肝切除を受けており、腎代替療法の必要性が有意に増加することを示した。罹患率の更なるマーカーに関して、真菌陽性の患者は、有意に長い期間の機械的人工換気を示し、気管切開の必要性が増加する傾向があった。更に、ICU及び入院の期間は、真菌病原体有りの患者において有意に延長された。驚くべきことに、28日死亡率は真菌病原体なしの患者において有意に増加したが、90日死亡率は同等であることを示した。
【0116】
方法の項に記載されているように、群の定義に基づいて、定着及び感染が、それぞれ22人(44.0%)及び11人(22.0%)の患者に見出された。定着患者において、8人(16.0%)の参加者は、気道分泌物中にのみCandida spp.を示した(5×C.albicans、1×C.albicans及びC.glabrata、2×C.albicans及びC.spp.)が、6人(12.0%)の患者では、Candida spp.を、ドレナージ液のみから培養することができた(3×C.albicans、2×C.glabrata、1×C.albicans及びC.glabrata)。これに反して、8人(16.0%)の患者は、両方の側で定着されていた(4×C.albicans、1×C.albicans及びC.spp.、3×C.albicans及びC.glabrata)。感染患者において、真菌血症が3人(6.0%)の患者に見出され(2×C.albicans、1×C.glabrata)、陽性の腹部創傷スワブが、7人(14.0%)の患者に見出された(4×C.albicans、1×C.glabrata、1×C.krusei、1×C.albicans及びC.glabrata)。更に、1人(2.0%)の患者において、Aspergillus fumigatusが気道分泌物中に単離された。リスク因子に関して、研究に含まれる前の肝切除及び肝硬変が、真菌感染有りの患者においてより頻繁に観察することができた。更に、真菌感染に罹患している患者においてICU滞在及び機械的人工換気の期間が有意に長くなり、気管切開の必要性が有意に増加した。罹患率は増加することが示されたが、28日死亡率及び90日死亡率は、感染した患者と感染していない患者との間で有意に差はなかった。
【0117】
抗真菌療法。合計50人(42.0%)の患者のうち21人は、研究への参加の間に抗真菌療法を受けた。何らの真菌分離株無しの17人の患者のうち、2人(11.8%)の患者が、経験的抗真菌療法を受けた。残りの真菌分離株有りの33人の患者のうち、19人(57.6%)の患者が抗真菌療法を受け、これは、15人(78.9%)患者において特異的治療の観点から開始された。その逆に、残りの4例(21.1%)では、処置は、経験的治療の観点から開始され、これらの患者の全てにおいて、その後に中止された。7人(33.3%)の患者において、最初の抗真菌療法が、疾患の経過中に変更された。
【0118】
(1,3)-β-D-グルカン(BG)。BGの血漿濃度は、研究期間全体にわたって3つの部分群間で同等であり、従って、真菌感染の予測のための診断値とすることができなかった(データ非表示)。カンジダ性敗血症に罹患している患者でさえ、BGの血漿濃度は、確実には増加しなかった。
【0119】
ガラクトマンナン(GM)。GMの血漿濃度は、50人の患者のうちの46人(92.0%)において、<0.5のカットオフ値未満に維持された。これに反して、4人の患者(8.0%)は、なんらの他の(臨床的、放射線学的、培養的)徴候又はIAのリスク因子なし(データ非表示)にカットオフ値を超えて散発的に増加するGM血漿濃度を示した。これらの症例において、GMの血漿濃度の増加は、おそらく、GM濃度の増加に関連することが周知である基本的な抗生物質治療(例えば、ピペラシリン・タゾバクタム)に起因していた(Boonsarngsuk,V.;Niyompattama,A.;Teosirimongkol,C;Sriwanichrak,K.「False-positive serum and bronchoalveolar lavage aspergillus galactomannan assays caused by different antibiotics.」 Scand.J.Infect.Dis.2010,42,461-468;Metan,G.「The interaction between piperacillin-tazobactam and aspergillus galactomannan antigenemia assay:Is the story over?」 Infection 2013,41,293-294)。
【0120】
1人の患者は、BALF中のAspergillus fumigatusの培養による検出により評価されたようにIAの診断を示し、これは、高解像度コンピュータ断層撮影によって確認された。更に、BALF中のGM濃度はカットオフ値を超えて増加したが、GMの血漿濃度は全ての時点でカットオフ値未満に維持された。敗血症性ショック並びに既に存在する重度肥満症及びインスリン依存性糖尿病以外には、その患者は、IAの典型的な素因的リスク因子(例えば、好中球減少症、細胞毒性剤で治療された血液腫瘍疾患、コルチコステロイドの摂取、先天性又は後天性免疫不全)を持たなかった。その患者は、アムホテリシンBリポソームで6週間治療され、このことがカットオフ値を下回るBALF中のGMの減少をもたらした。更に、終了後、処置期間、BALFの培養は、Aspergillus fumigatusについて陰性のままであった。
【0121】
抗カンジダ抗体力価。なんらの真菌所見のない患者亜群(n=17)において、4人の患者(23.5%)は、「偽」陽性の抗カンジダ抗体力価(>1:320)を示したが、定着患者(n=22)は、81.8%(n=18)において陽性の検査結果を有することを示した。真菌感染(n=11)に罹患している患者も、81.8%(n=9)において陽性の検査結果を示したが、残念なことに、(敗血症発症時に)カンジダ性敗血症を呈している2人の患者は、陽性の抗カンジダ抗体力価を示すことができなかった。
【0122】
真菌免疫に関して、INF-γ、IL-4、IL-6、IL-10、IL-17の血漿レベルと同様にMR-proADMの血漿レベルに特別な注意が払われるべきである。炎症性サイトカインINF-γの血漿レベルは、敗血症発症の7日後(T3)から始まって真菌感染に罹患している患者において、両方の対照群と比較して、それぞれ著しく有意に上昇することが示された。INF-γのこの増加は、感染患者における免疫抑制サイトカインIL-10及びIL-4の有意な放出と並行した。IL-6の血漿レベルは、真菌感染に罹患している患者において、異なる時点、特に疾患の初期経過において(例えば、T0、T1において)、真菌の定着有りの又は何らの真菌所見のない敗血症患者と比較して有意に上昇することが示された。同時に、IL-17Aが、真菌感染に罹患している敗血症患者において、敗血症発症の最初の7日後以内で、真菌の定着有りの又は何らの真菌所見のない敗血症患者と比較して有意に上昇することが示された(
図2A)。
【0123】
従って、ROC解析によって評価されるように、IL-17Aが、真菌感染を有する患者の早期検出のための適切なツールであることがわかった(真菌感染を有する患者対感染していない患者(=何らの真菌分離株無しの患者+定着患者)についてのROC-AUC、例えば、t0:0.714;カットオフ値14.165pg/ml→感度0.818;1-特異度0.323、t1:0.776;カットオフ値:14.22pg/ml→感度.0.818;1-特異度0.29、t2:0.865 カットオフ値15.00pg/ml→感度0.818;1-特異度0.194など)(
図2B)。
【0124】
同じことがMR-proADMの血漿レベルにも当てはまり、MR-proADMの血漿レベルは、感染患者において、真菌の定着及び何らの真菌所見のない患者と比較して有意に増加することが示された(
図3A)。従って、MR-proADMは、受信者動作特性(ROC)解析によって評価されるように、真菌感染を有する患者の識別のための適切なツールであることが示された(真菌感染を有する患者対感染していない患者(=上記参照)についてのROC曲線下面積(AUC)、例えば、t0:0.738;カットオフ値:6,99nmol/l→感度0.727;1-特異度0.333、t1:0.755;カットオフ値:8.53nmol/l→感度0.727;1-特異度0.212、t2:0.774;カットオフ値5.10nmol/l→感度0.818;1-特異度0.273など)(
図3B)。
【0125】
表2 異なる感染及び炎症マーカーの血漿レベル。
データを、四分位数(Q1、Q3)付きの中央値として提示する。
記号:+=真菌分離株無しの患者対定着患者、++=真菌分離株無しの患者対感染患者、+++=定着患者対感染患者。血漿試料は、敗血症性ショック発症時(T0)、ならびに1日(T1)、2日(T2)、7日(T3)、14日(T4)、21日(T5)および28日(T6)後に採取された。p<0.05:
*、p<0.01:
**、p<0.001:
***。
データを、四分位数(Q1、Q3)付きの中央値として提示する。
記号:+=真菌分離株無しの患者対定着患者、++=真菌分離株無しの患者対感染患者、+++=定着患者対感染患者。血漿試料は、敗血症性ショック発症時(T0)、ならびに1日(T1)、2日(T2)、7日(T3)、14日(T4)、21日(T5)および28日(T6)後に採取された。p<0.05:
*、p<0.01:
**、p<0.001:
***。
データを、四分位数(Q1、Q3)付きの中央値として提示する。
記号:+=真菌分離株無しの患者対定着患者、++=真菌分離株無しの患者対感染患者、+++=定着患者対感染患者。血漿試料は、敗血症性ショック発症時(T0)、ならびに1日(T1)、2日(T2)、7日(T3)、14日(T4)、21日(T5)および28日(T6)後に採取された。p<0.05:
*、p<0.01:
**、p<0.001:
***。
データを、四分位数(Q1、Q3)付きの中央値として提示する。
記号:+=真菌分離株無しの患者対定着患者、++=真菌分離株無しの患者対感染患者、+++=定着患者対感染患者。血漿試料は、敗血症性ショック発症時(T0)、ならびに1日(T1)、2日(T2)、7日(T3)、14日(T4)、21日(T5)および28日(T6)後に採取された。p<0.05:
*、p<0.01:
**、p<0.001:
***。
データを、四分位数(Q1、Q3)付きの中央値として提示する。
記号:+=真菌分離株無しの患者対定着患者、++=真菌分離株無しの患者対感染患者、+++=定着患者対感染患者。血漿試料は、敗血症性ショック発症時(T0)、ならびに1日(T1)、2日(T2)、7日(T3)、14日(T4)、21日(T5)および28日(T6)後に採取された。p<0.05:
*、p<0.01:
**、p<0.001:
***。
データを、四分位数(Q1、Q3)付きの中央値として提示する。
記号:+=真菌分離株無しの患者対定着患者、++=真菌分離株無しの患者対感染患者、+++=定着患者対感染患者。血漿試料は、敗血症性ショック発症時(T0)、ならびに1日(T1)、2日(T2)、7日(T3)、14日(T4)、21日(T5)および28日(T6)後に採取された。p<0.05:
*、p<0.01:
**、p<0.001:
***。
データを、四分位数(Q1、Q3)付きの中央値として提示する。
記号:+=真菌分離株無しの患者対定着患者、++=真菌分離株無しの患者対感染患者、+++=定着患者対感染患者。血漿試料は、敗血症性ショック発症時(T0)、ならびに1日(T1)、2日(T2)、7日(T3)、14日(T4)、21日(T5)および28日(T6)後に採取された。p<0.05:
*、p<0.01:
**、p<0.001:
***。
【0126】
本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態によって範囲において限定されない。実際、本明細書に記載されるものに加えて本発明の様々な改変が、前述の説明及び添付の図から当業者に明らかとなるであろう。かかる改変は、添付の請求の範囲にあることを意図する。更に、全ての値が近似であり、説明のために提供されると理解されたい。
【0127】
特許、特許出願、刊行物、製品に関する文書、及びプロトコールが、本出願を通して引用され、それらの開示はそれらの全体が全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【配列表】