(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】寿命延長用食品組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20230410BHJP
A61K 31/716 20060101ALI20230410BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K31/716
A61P43/00 107
(21)【出願番号】P 2021189646
(22)【出願日】2021-11-22
【審査請求日】2022-06-17
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506141225
【氏名又は名称】株式会社ユーグレナ
(73)【特許権者】
【識別番号】510108858
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【氏名又は名称】秋山 敦
(72)【発明者】
【氏名】多田 敬典
(72)【発明者】
【氏名】赤木 一考
(72)【発明者】
【氏名】徳永 暁憲
(72)【発明者】
【氏名】安田 光佑
(72)【発明者】
【氏名】中島 綾香
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健吾
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-127398(JP,A)
【文献】特開2020-080659(JP,A)
【文献】特許第6941746(JP,B1)
【文献】国際公開第2015/156339(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/163454(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/149858(WO,A1)
【文献】特開2011-184592(JP,A)
【文献】特開2016-199650(JP,A)
【文献】日本栄養・食糧学会大会講演要旨集,2019年,Vol.73,p.253
【文献】基礎老化研究,2020年,Vol.44, No.2,p.38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/10
A61K 31/716
A61P 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置で粒度を測定したときのメジアン径が、パラミロンの5倍以上であって、光学電子顕微鏡により、粒子が、隣接する粒子と付着していることが観察され、前記パラミロンに対して4倍以上の水と結合して膨潤している膨潤パラミロンであるパラミロンの加工品を含有
し、
中高齢期における運動機能の低下を抑制することを特徴とする寿命延長用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寿命延長用食品組成物、寿命延長用剤、抗老化用食品組成物及び抗老化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
健康寿命は、WHO(世界保健機関)によって提唱された健康指標で、心身ともに自立し、健康的に生活ができる期間のことを示す。健康寿命と平均寿命の差、すなわち日常生活に制限のある「不健康な期間」は、日本では男性が約9年、女性が約12年あるとされている。
【0003】
超高齢化社会におけるQOL(Quality of life)向上の観点から、健康寿命の延長やアンチエイジングに関する技術が注目を集めている。健康寿命の延長を目的として、細胞老化及び老化制御機構についての研究が盛んになされている。
【0004】
特許文献1には、生体内の老化細胞を除去するための薬剤であって、グルタミナーゼ阻害剤を有効成分として含有する老化細胞除去剤が記載されている。特許文献1には、グルタミナーゼ阻害剤として、少なくともKGA(kidney-type glutaminase)の活性を阻害するものであればよく、KGAをコードする遺伝子(GLS1)をノックアウトするためのsiRNAやmiRNAなどの核酸をグルタミナーゼ阻害剤として使用してもよいことも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
年々、平均寿命は長くなっているが、健康寿命を延ばすこと、老化を抑制しつつ寿命を延長することが求められている。本発明の目的は、寿命延長用食品組成物、寿命延長用剤、抗老化用食品組成物及び抗老化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置で粒度を測定したときのメジアン径が、パラミロンの5倍以上であって、光学電子顕微鏡により、粒子が、隣接する粒子と付着していることが観察され、前記パラミロンに対して4倍以上の水と結合して膨潤している膨潤パラミロンであるパラミロンの加工品を含有し、中高齢期における運動機能の低下を抑制することを特徴とする寿命延長用食品組成物により解決される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、寿命を顕著に延長することが可能な寿命延長用食品組成物及び寿命延長剤を提供できる。
また、本発明によれば、老化を顕著に抑制することが可能な抗老化用食品組成物及び抗老化剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】パラミロンの摂取によるキイロショウジョウバエの寿命への影響を示すグラフである。
【
図2】パラミロンの摂取によるキイロショウジョウバエの運動機能への影響を示すグラフである。
【
図3】パラミロンとパラミロンの加工品の寿命延長効果を比較したグラフである。
【
図4】パラミロンの加工品の摂取によるキイロショウジョウバエの運動機能への影響を示すグラフである。
【
図5】パラミロンとパラミロンの加工品の抗老化作用を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について
図1乃至
図5を参照して説明する。本実施形態は、パラミロンの加工品を含有する寿命延長用食品組成物、寿命延長用剤、抗老化用食品組成物及び抗老化剤に関するものである。
【0011】
<寿命延長用剤>
本実施形態に係る寿命延長用剤は、パラミロンの加工品を有効成分として含有し、寿命を延長するために用いられるものである。「寿命を延長する」とは、中間寿命(個体群の50%が死亡するまでの期間)を延長することや、心身ともに自立し、健康的に生活ができる期間である健康寿命を延長することを含む概念である。
【0012】
<抗老化剤>
本実施形態に係る抗老化剤は、パラミロンの加工品を有効成分として含有し、老化の進行を抑制するために用いられるものである。ここで、「抗老化」とは、加齢による運動機能の低下を抑制することを含む概念である。
【0013】
<ユーグレナ>
本実施形態において、「ユーグレナ」とは、分類学上、ユーグレナ属(Euglena)に分類される微生物、その変種、その変異種及びユーグレナ科(Euglenaceae)の近縁種を含む。ここで、ユーグレナ属(Euglena)とは、真核生物のうち、エクスカバータ、ユーグレノゾア門、ユーグレナ藻綱、ユーグレナ目、ユーグレナ科に属する生物の一群である。
【0014】
ユーグレナ属に含まれる種として、具体的には、Euglena chadefaudii、Euglena deses、Euglena gracilis、Euglena granulata、Euglena mutabilis、Euglena proxima、Euglena spirogyra、Euglena viridisなどが挙げられる。ユーグレナとして、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis),特に、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株を用いることができるが、そのほか、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株の変異株SM-ZK株(葉緑体欠損株)や変種のE. gracilis var. bacillaris、これらの種の葉緑体の変異株等の遺伝子変異株、Astasia longa等のその他のユーグレナ類であってもよい。
【0015】
ユーグレナ属は、池や沼などの淡水中に広く分布しており、これらから分離して使用しても良く、また、既に単離されている任意のユーグレナ属を使用してもよい。ユーグレナ属は、その全ての変異株を包含する。また、これらの変異株の中には、遺伝的方法、たとえば組換え、形質導入、形質転換等により得られたものも含有される。
【0016】
<パラミロン>
「パラミロン(paramylon)」とは、約700個のグルコースがβ-1,3-結合により重合した高分子体(β-1,3-グルカン)で多孔質であり、ユーグレナ属が含有する貯蔵多糖である。パラミロン粒子は、扁平な回転楕円体粒子であり、β-1,3-グルカン鎖がらせん状に絡まりあって形成されている。
【0017】
パラミロンは、すべての種,変種のユーグレナ細胞内に顆粒として存在し、その個数,形状,粒子の均一性は、種により特徴がある。パラミロンは、グルコースのみからなり、E. gracilis Zの野生株と葉緑体欠損株SM-ZKから得られたパラミロンの平均重合度は、グルコース単位で約700である。パラミロンは、水,熱水には不溶性であるが、希アルカリ,濃い酸,ジメチルスルホキシド,ホルムアルデヒド,ギ酸に溶ける。パラミロンの平均密度は、E. gracilis Zでは1.53、E. gracilis var. bacillaris SM-L1では1.63である。
【0018】
パラミロンは、粉末図形法を用いたX線解析によれば、3本の直鎖状β-1,3-グルカンが右巻きの縄のようにねじれあったゆるやかならせん構造をとっている。このグルカン分子がいくつか集まってパラミロン顆粒を形成する。パラミロン顆粒は結晶構造部分が非常に多く約90%を占め、多糖類の中で最も結晶構造率の高い化合物である。なお、パラミロン(株式会社ユーグレナ製)の粒度分布は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置で測定したときのメジアン径が、1.5~2.5μmである。
【0019】
パラミロン粒子は、培養されたユーグレナ細胞から任意の適切な方法で単離及び微粒子状に精製され、通常、粉末体として提供されている。例えば、パラミロン粒子は、(1)任意の適切な培地中でのユーグレナ細胞の培養、(2)当該培地からのユーグレナ細胞の分離、(3)分離されたユーグレナ細胞からのパラミロンの単離、(4)単離されたパラミロンの精製、および必要に応じて(5)冷却及びその後の凍結乾燥によって得ることができる。パラミロンの単離は、例えば、大部分が生物分解される種類の非イオン性又は陰イオン性の界面活性剤を用いて行われる。パラミロンの精製は、実質的には単離と同時に行われる。
【0020】
<パラミロンの加工品>
パラミロンの加工品としては、公知の種々の方法によりパラミロンを化学的又は物理的に処理して得た水溶性パラミロン、硫酸化パラミロン等や、パラミロン誘導体も含まれる。パラミロンの加工品としては、例えば、アモルファスパラミロンやエマルジョンパラミロンが挙げられる。
【0021】
(アモルファスパラミロン)
アモルファスパラミロンとは、ユーグレナ由来の結晶性パラミロンをアモルファス化した物質である。アモルファスパラミロンは、ユーグレナから公知の方法で生成された結晶性のパラミロンに対する相対結晶度が、1~20%である。但し、この相対結晶度は、特開2011-184592号記載の方法により求めたものである。
【0022】
つまり、アモルファスパラミロン及びパラミロンを、それぞれ、粉砕機(Retsh社製ボールミルMM400)にて、振動数20回/秒で5分間粉砕後、X線回折装置(スペクトリス社製H‘PertPRO)を用い、管電圧45KV、管電流40mAにて、2θが5°乃至30°の範囲でスキャンを行い、パラミロンとアモルファスパラミロンの2θ=20°の付近の回折ピークPc,Paを得る。このPc,Paの値を用い、アモルファスパラミロンの相対結晶度を、アモルファスパラミロンの相対結晶度=Pa/Pc×100(%)により算出する。
【0023】
アモルファスパラミロンは、特開2011-184592号記載の方法に従い、結晶性のパラミロン粉末を、アルカリ処理した後に酸で中和し、その後洗浄、水分除去工程を経て、乾燥を行うことにより調製される。パラミロンの加工品としては、そのほか、公知の種々の方法によりパラミロンを化学的又は物理的に処理して得た水溶性パラミロン、硫酸化パラミロン等や、パラミロン誘導体も含まれる。
【0024】
(膨潤パラミロン、エマルジョンパラミロン)
「膨潤パラミロン」とは、その加工方法及び物性が乳化物に類似していることから、エマルジョンパラミロンとも呼ばれる物質であって、特開2016-199650号記載の方法に従い、パラミロンに水を加えて得た流体を超高圧で細孔ノズルから噴出させて被衝突物に衝突させる衝突処理を行うことにより得られ、4倍以上の水と結合して膨潤した加工パラミロンである。
【0025】
膨潤パラミロンは、粉体等の固体に水溶性溶媒を加えたスラリーを、細孔ノズルから超高圧で噴出させて被衝突物に衝突させる公知の物性改質装置(例えば、特開2011-88108号公報、特開平6-47264号公報記載の装置)で、噴出時のノズル圧力245MPaで、1回以上衝突処理を行うことにより得ることができる。
【0026】
膨潤パラミロンは、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置で粒度を測定したときのメジアン径が、パラミロンの5倍以上であり、7μm以上であって、光学電子顕微鏡により、粒子が、隣接する粒子と付着していることが観察され、パラミロンに対して4倍以上の水と結合して膨潤している。
【0027】
原料パラミロンと水を混合したスラリーは、さらさらした流体であるが、膨潤パラミロンは、パラミロンが水分子中に分散して、粘度が増加して粘性を有し、触ったときに手に付着するような粘着性と、弾力性を有し、糊のような触感を備えている。なお、その処理方法と物性から、得られた加工パラミロンを本明細書においてエマルジョンパラミロンと呼んでいるが、エマルジョン化しているか否かは不明であり、パラミロンが水と結合して膨潤している状態である。
【0028】
<用途>
本実施形態に係る寿命延長用剤及び抗老化剤は、健康食品等の食品組成物又は医薬組成物として構成され、老化を抑制しつつ寿命を延長するために、予防的に使用・摂取・投与される。パラミロンは、食品としても摂取可能で副作用がないため、継続的に使用・摂取・投与可能である。
【0029】
(食品組成物)
本実施形態の寿命延長用剤及び抗老化剤は、食品の分野では、寿命延長作用及び抗老化作用を有効に発揮できる有効な量のパラミロンの加工品を食品素材として、各種食品に配合することにより、当該作用を有する食品組成物を提供することができる。すなわち、本発明は、食品の分野において、抗老化用等と表示された食品の食品組成物を提供することができる。当該食品組成物としては、一般の食品のほか、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、病院患者用食品、サプリメント等が挙げられる。また、食品添加物として用いることもできる。
【0030】
当該食品組成物としては、例えば、調味料、畜肉加工品、農産加工品、飲料(乳酸菌飲料、清涼飲料、アルコール飲料、炭酸飲料、乳飲料、果汁飲料、茶、コーヒー、栄養ドリンク等)、粉末飲料(粉末ジュース、粉末スープ等)、濃縮飲料、菓子類(キャンディ(のど飴)、クッキー、ビスケット、ガム、グミ、チュアブル、タブレット剤、チョコレート等)、パン、シリアル等が挙げられる。また、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等の場合、カプセル、トローチ、シロップ、顆粒、粉末等の形状であっても良い。
【0031】
ここで特定保健用食品とは、生理学的機能等に影響を与える保健機能成分を含む食品であって、消費者庁長官の許可を得て特定の保健の用途に適する旨を表示可能なものである。本発明においては、抗老化に関する特定の保健用途を表示して販売される食品となる。
【0032】
また栄養機能食品とは、栄養成分(ビタミン、ミネラル)の補給のために利用される食品であって、栄養成分の機能を表示するものである。栄養機能食品として販売するためには、一日当たりの摂取目安量に含まれる栄養成分量が定められた上限値、下限値の範囲内にある必要があり、栄養機能表示だけでなく注意喚起表示等もする必要がある。
【0033】
また機能性表示食品とは、事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品である。販売前に安全性及び機能性の根拠に関する情報などが消費者庁長官へ届け出られたものである。
【0034】
本実施形態に係る食品組成物には、パラミロンの加工品に加え、通常食品組成物に用いることができる成分を、1種または2種以上自由に選択して配合することが可能である。例えば、各種調味料、保存剤、乳化剤、安定剤、香料、着色剤、防腐剤、pH調整剤などの、食品分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0035】
(医薬組成物)
本実施形態の寿命延長用剤及び抗老化剤は、医薬の分野では、寿命延長作用及び抗老化作用を有効に発揮できる量のパラミロンの加工品と共に、薬学的に許容される担体や添加剤を配合することにより、当該作用を有する医薬組成物が提供される。当該医薬組成物は、医薬品であっても医薬部外品であってもよい。
【0036】
当該医薬組成物は、内用的(特に経口的)に適用されることが好適であるが、外用的に適用されても良い。従って、当該医薬組成物は、内服剤、静脈注射、皮下注射、皮内注射、筋肉注射及び/又は腹腔内注射等の注射剤、経粘膜適用剤、経皮適用剤等の製剤形態で使用することができる。当該医薬組成物の剤型としては、適用の形態により、適当に設定できるが、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末剤、散剤などの固形製剤、液剤、懸濁剤などの液状製剤、軟膏剤、またはゲル剤等の半固形剤が挙げられる。
【0037】
本実施形態に係る医薬組成物には、薬学的に許容される添加剤を1種または2種以上自由に選択して含有させることができる。例えば、本実施形態に係る医薬組成物を経口剤に適用させる場合、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、保存剤、着色剤、矯味剤、香料、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。また、ドラックデリバリーシステム(DDS)を利用して、徐放性製剤等にすることもできる。
【実施例】
【0038】
以下、具体的実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
<製造例1:パラミロン>
ユーグレナ由来物質としてのパラミロンを、以下の手順により調製した。
ユーグレナ・グラシリス粉末(株式会社ユーグレナ製)を蒸留水に入れ、室温で2日間撹拌した。これを超音波処理して細胞膜を破壊し、遠心分離により粗製パラミロン粒子を回収した。回収したパラミロン粒子を1%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液に分散し、95℃で2時間処理し、再度遠心分離により回収したパラミロン粒子を0.1%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液に分散して50℃で30分間処理した。当該操作により脂質やタンパク質を除去し、その後アセトン及びエーテルで洗浄した後、50℃で乾燥して、精製パラミロン粒子(パラミロン粉末)を得た。
【0040】
<製造例2:アモルファスパラミロン>
ユーグレナ由来物質としてのアモルファスパラミロン(パラミロンのアルカリ処理物)を、以下の手順により調製した。
製造例1で調製したパラミロン粉末を、1Nの水酸化ナトリウム水溶液に5%(w/v)添加して溶解させ、1~2時間スターラで撹拌して、アルカリ処理した。その後、1Nの塩酸を、パラミロン粉末が溶解した1N水酸化ナトリウム水溶液に滴下して中和した。遠心分離の後上澄みを捨て、沈殿を蒸留水で洗浄する工程を繰り返した後、沈殿したゲルを回収し、凍結させた後凍結乾燥機で凍結乾燥し、アモルファスパラミロンを得た。
【0041】
<製造例3:エマルジョンパラミロン>
製造例1で調製したパラミロンを用いて、以下の手順により、エマルジョンパラミロン(膨潤パラミロン)を調製した。
結晶性のパラミロン粉末(株式会社ユーグレナ製)にイオン交換水を加え、パラミロン濃度が10wt%のパラミロンスラリーを得た。湿式微粒化装置(スターバースト18KW中型機,株式会社スギノマシン製,斜向衝突チャンバ-)の装置回路内をイオン交換水に置換した。装置のノズルを加圧して、パラミロンスラリーを回路内に供給し、初期吐出液を、回路内デッドボリュームとして廃棄した。その後、相互に角度を持って対向する一対のノズルからパラミロンスラリーの噴流をそれぞれ噴出させて、相互に衝突させる斜向衝突による噴流衝突を行った。流出路からスラリー処理物を回収して、1パスとした。このときの処理圧力は、245MPa,スラリー処理量は、240mL,ノズル径は、0.17mmとした。この処理を3回繰り返して3パスの処理を行い、エマルジョンパラミロンを得た。実施例4のエマルジョンパラミロンは、スラリー調製時に加えたイオン交換水と分離せず、水と結合して膨潤していた。
【0042】
以下の試験では、パラミロン及びその加工品を経口摂取した場合における寿命に与える影響を評価した。
【0043】
<試験1:パラミロンの摂取によるキイロショウジョウバエの寿命への影響>
パラミロン(製造例1)を含むエサを羽化後から摂取させたキイロショウジョウバエと、通常のエサを摂取させたキイロショウジョウバエ(コントロール群)の生存率を比較した。その結果、パラミロンを1%または3%含むエサを摂取させたキイロショウジョウバエでは、コントロール群(5YE)に対して、中間寿命の延長が見られた(
図1)。パラミロンの摂取により、キイロショウジョウバエの中間寿命(個体群の50%が死亡するまでの期間)が延長した。さらに、パラミロン含有量を様々な濃度(0.1~3%)に調整して検討したところ、特に、パラミロンを3%含むエサを摂取させたキイロショウジョウバエでは、中間寿命がコントロール群と比較して2週間ほど長い49日となり、延長が顕著であり、強い抗老化作用が観察された。
【0044】
<試験2:パラミロンの摂取によるキイロショウジョウバエの運動機能への影響>
試験1と同様の方法で、ショウジョウバエに、パラミロン(製造例1)を0.1~3%含むエサを与えて、7、14、21、28、35、42日目に、加齢に伴う運動機能の低下をクライミング・アッセイにより評価した。クライミング・アッセイは、加齢に伴う運動機能の低下や、アルツハイマー病などの神経変性疾患の症状を評価する方法である。クライミング・アッセイでは、ハエをバイアル瓶に入れ、バイアル瓶をタップしてバイアル瓶の底にハエを配置して、10秒以内に、バイアル瓶の底から3cmのラインより上まで登ることのできたハエの数を数えて、割合を算出した。
【0045】
コントロール群では加齢にともない運動機能が低下したが、パラミロンを含むエサを摂取させたキイロショウジョウバエでは、運動機能の低下が抑えられた。パラミロンでは、ショウジョウバエの中高年期にあたる28日目、35日目で有意に運動機能の低下抑制が観察された。特に、パラミロンを3%含むエサで飼育したキイロショウジョウバエでは、強い抗老化作用が観察された(
図2)。
【0046】
<試験1と試験2のまとめ>
パラミロンを含むエサを摂取していないキイロショウジョウバエでは、35日目には生存率が約50%となり、加齢に伴い運動機能も低下した。一方で、パラミロンを3%含んだエサを摂取したキイロショウジョウバエでは、中間寿命が2週間ほど延長しただけでなく、加齢による運動機能の低下の抑制も確認された。すなわち、パラミロンを含むエサの摂取により、より多くのショウジョウバエが長生きし、なおかつ、運動機能を維持している個体がより多く観察されたことから、パラミロンの摂取がキイロショウジョウバエの健康寿命を延長したことが示唆された。
【0047】
<試験3:パラミロンの加工品の摂取によるキイロショウジョウバエの寿命への影響>
試験1と同様の方法で、パラミロン(製造例1)、アモルファスパラミロン(製造例2)、エマルジョンパラミロン(製造例3)を含むエサを羽化後から摂取させたキイロショウジョウバエと、通常のエサを摂取させたキイロショウジョウバエ(コントロール群)の生存率を比較した。エマルジョンパラミロン群またはアモルファスパラミロン群では、コントロール群に対して、中間寿命の延長が見られた。また、平均寿命は、エマルジョンパラミロン、およびアモルファスパラミロンでは、コントロール群(5YE)と比べて、それぞれ5.7日、6.9日延長した(
図3)。
【0048】
<試験4:パラミロンの加工品の摂取によるキイロショウジョウバエの運動機能への影響>
試験1と同様の方法で、ショウジョウバエに、パラミロン(製造例1)、アモルファスパラミロン(製造例2)、エマルジョンパラミロン(製造例3)を5%含むエサを与えて、7、14、21、28、35、42、49日目に、加齢に伴う運動機能の低下をクライミング・アッセイにより評価した。
【0049】
エマルジョンパラミロン群では、14日目や21日目、28日目、35日目で有意に運動機能の低下抑制が観察された(
図4)。アモルファスパラミロン群では、28日目、35日目、42日目で有意に運動機能の低下抑制が観察された。パラミロン群では、14日目、21日目、28日目で有意に運動機能の低下抑制が観察された。
【0050】
抗老化作用を各群間で比較したところ、エマルジョンパラミロン群とアモルファスパラミロン群では、ショウジョウバエの中高齢期に相当する35日目において、パラミロン群よりも顕著な抗老化作用が観察された(
図5)。具体的には、35日目では、コントロール群と比較してパラミロン群で3.809%増加していたが、エマルジョンパラミロン群では19.92%増加(パラミロン群の5.2倍)し、アモルファスパラミロン群では17.74%増加(パラミロン群の4.7倍)していた。
【0051】
老化がさらに進行する42日目において、アモルファスパラミロン群では運動機能を維持しており、エマルジョンパラミロン群およびパラミロン群と比べて高い抗老化作用が観察された。
【0052】
<試験1~試験4のまとめ>
以上の結果から、アモルファスパラミロンやエマルジョンパラミロンといったパラミロンの加工品を経口摂取することで、パラミロンと比較して寿命を顕著に延長しただけでなく、加齢による運動機能の低下の抑制も顕著であることが確認された。つまり、パラミロンの加工品によって、運動機能の低下を顕著に抑制しつつ、寿命を顕著に延長、つまり健康寿命を顕著に延長できることが示された。
【要約】
【課題】寿命延長用食品組成物、寿命延長用剤、抗老化用食品組成物及び抗老化剤を提供する。
【解決手段】パラミロンの加工品を含有することを特徴とする寿命延長用食品組成物、寿命延長用剤、抗老化用食品組成物及び抗老化剤である。
このとき、パラミロンの加工品が、アモルファスパラミロン又はレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置で粒度を測定したときのメジアン径が、パラミロンの5倍以上であって、光学電子顕微鏡により、粒子が、隣接する粒子と付着していることが観察され、前記パラミロンに対して4倍以上の水と結合して膨潤している膨潤パラミロンであると好適である。
【選択図】
図4