(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】歯科用ハンドピース
(51)【国際特許分類】
A61C 1/02 20060101AFI20230410BHJP
A61C 1/05 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
A61C1/02 F
A61C1/05 A
(21)【出願番号】P 2021197173
(22)【出願日】2021-12-03
【審査請求日】2022-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000150327
【氏名又は名称】株式会社ナカニシ
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 大和
(72)【発明者】
【氏名】綾部 弘司
【審査官】中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-019144(JP,A)
【文献】実開平03-110273(JP,U)
【文献】米国特許第05417527(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 1/02
A61C 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科処置工具を着脱可能に保持するバースリーブを有し、供給される圧縮空気によって前記バースリーブを回転させる回転機構を備えたヘッド部と、
前記ヘッド部が先端に設けられ、前記回転機構へ圧縮空気を送り込む給気管を有する筒状の把持部と、
を備え、
前記給気管は、圧縮空気を調圧する調圧部を有し、
前記調圧部は、
前記圧縮空気が通る管体と、
前記管体における管壁を貫通する孔部と、
前記孔部に収容されて前記孔部を閉塞するボールと、
前記管体に嵌装されて前記ボールを前記管体の外周側から弾性的に押圧する環状弾性部材と、
を有
し、
前記管体の外周には、前記孔部の形成箇所を通る位置に、前記ボールの直径よりも狭い幅の溝部が周方向にわたって形成され、
前記溝部に前記環状弾性部材が収容されている、
歯科用ハンドピース。
【請求項2】
前記調圧部を有する調圧機構が前記給気管に接続されている、
請求項1に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項3】
前記管体に複数の前記孔部が周方向に間隔をあけて形成され、
それぞれの前記孔部に前記ボールが収容され、
前記ボールが前記環状弾性部材によって前記管体の外周側から弾性的に押圧されている、
請求項1または請求項2に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項4】
前記孔部は、前記管体の内周側に、前記ボールの直径よりも小径の小径孔部を有し、
前記ボールは、前記孔部に対して前記管体の外周側から収容されて前記小径孔部に係止される、
請求項1~3のいずれか一項に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項5】
複数の前記調圧部が前記管体における軸方向に間隔をあけて設けられた、
請求項1~
4のいずれか一項に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項6】
前記調圧部は、前記給気管から分岐する分岐管に設けられている、
請求項1~
5のいずれか一項に記載の歯科用ハンドピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用ハンドピースに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、圧縮空気によって回転駆動されるエアタービンやエアモータなどの回転機構を備えた歯科用ハンドピースにおいて、回転機構の高い回転速度による歯科処置工具の破損や潤滑油切れによる摩耗の発生を抑えるために、圧縮空気の圧力を適正範囲に調整する調圧機構を備えることが示されている。
【0003】
図11に示すように、調圧機構は、円筒形状のピストン1を備えており、ピストン1の内側に給気管3が配置され、ピストン1の外側にケース5が配置されている。ピストン1は、給気管3とケース5との間で軸方向に摺動可能とされており、ケース5内に収容されたコイルバネ7によって軸方向の一方側へ付勢されている。この調圧機構では、ピストン1におけるコイルバネ7と反対側の端面に圧縮空気の圧力が付与され、その圧力がコイルバネ7の付勢力より大きくなったときに、ピストン1がコイルバネ7による付勢力に反して軸方向の他方側へ摺動する。すると、通常時にピストン1によって塞がれているケース5に形成された孔部5aが給気管3に形成された孔部3aと連通し、給気管3内に送り込まれる圧縮空気が孔部3a,5aを通してケース5の外側へ抜けて圧力が調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4147231号公報
【文献】中国特許出願公開第106491217号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の調圧機構を構成するピストン1、給気管3及びケース5などの部品は、空気の漏れを抑えるために、例えば、それぞれの部品の隙間が10μm以下となるように高精度な加工が要求される。このため、製造コストが嵩んでしまう。
【0006】
また、高精度に部品を加工しても、各部品間の隙間からの空気の漏れを完全になくすことは困難であり、圧縮空気のエネルギー損失が生じ、回転機構におけるトルクや出力の低下を招いてしまう。
【0007】
しかも、円筒状のピストン1を軸方向へ摺動させる構造であるので、全長が長くなる。このため、大きな収容スペースが必要となり、ハンドピースの全体の大型化を招いてしまう。
【0008】
そこで本発明は、製造コストを抑えつつ、給気エネルギーを効率的に利用でき、しかも、小型化が可能な歯科用ハンドピースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は下記の構成からなる。
歯科処置工具を着脱可能に保持するバースリーブを有し、供給される圧縮空気によって前記バースリーブを回転させる回転機構を備えたヘッド部と、
前記ヘッド部が先端に設けられ、前記回転機構へ圧縮空気を送り込む給気管を有する筒状の把持部と、
を備え、
前記給気管は、圧縮空気を調圧する調圧部を有し、
前記調圧部は、
前記圧縮空気が通る管体と、
前記管体における管壁を貫通する孔部と、
前記孔部に収容されて前記孔部を閉塞するボールと、
前記管体に嵌装されて前記ボールを前記管体の外周側から弾性的に押圧する環状弾性部材と、
を有する、歯科用ハンドピース。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製造コストを抑えつつ、給気エネルギーを効率的に利用でき、しかも、小型にできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明に係る歯科用ハンドピースの把持部を軸方向に沿って断面視した側面図である。
【
図2】
図2は、歯科用ハンドピースのヘッド部の断面図である。
【
図3】
図3は、歯科用ハンドピースの把持部の後端付近における軸方向に沿う断面図である。
【
図5】
図5は、調圧機構の軸方向に沿う断面図である。
【
図7】
図7は、変形例1に係る調圧機構の斜視図である。
【
図8】
図8は、変形例1に係る調圧機構の軸方向に沿う断面図である。
【
図10】
図10は、変形例2に係る調圧機構の軸方向に沿う断面図である。
【
図11】
図11は、従来の調圧機構を示す歯科用ハンドピースの把持部の後端付近における軸方向に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る歯科用ハンドピース100の把持部11を軸方向に沿って断面視した側面図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る歯科用ハンドピース100は、把持部11と、ヘッド部13とを有している。ヘッド部13は、把持部11の先端に設けられており、このヘッド部13に、歯科処置工具15が装着される。本実施形態の歯科用ハンドピース100は、圧縮空気によって歯科処置工具15を回転させるエアタービン式ハンドピースである。
【0014】
把持部11は、筒状に形成されたケース12を有しており、このケース12の内部に、給気管17、給水管19が設けられている。給気管17は、その後端側に調圧機構21を備えている。給水管19は、その後端側に逆止弁23を備えている。また、把持部11は、ケース12の内部空間が排気流路25とされている。
【0015】
把持部11の後端は、接続部27とされており、この接続部27には、カップリング(図示略)が接続される。カップリングには、圧縮空気及び水を送出する歯科用ユニット(図示略)から延びる可撓性チューブ(図示略)が接続される。把持部11の給気管17には、歯科用ユニットから送出される圧縮空気が供給される。給気管17に供給される圧縮空気は、調圧機構21を通り、ヘッド部13へ向かって送り込まれる。また、把持部11の給水管19には、歯科用ユニットから送出される水が供給される。給水管19に供給される水は、逆止弁23を通り、ヘッド部13へ向かって送り込まれる。給水管19では、逆止弁23によって水の逆流が抑制される。
【0016】
図2は、歯科用ハンドピース100のヘッド部13の断面図である。
図2に示すように、ヘッド部13は、内部に回転機構31を収容するヘッドハウジング33を有している。回転機構31は、バースリーブ35と、ロータ37と、一対のボールベアリング39と、カートリッジケース41とを有している。
【0017】
バースリーブ35は、棒状の歯科処置工具15を着脱可能に保持するもので、その外周にロータ37が設けられている。一対のボールベアリング39は、カートリッジケース41に設けられている。バースリーブ35は、ボールベアリング39によって両端部分が回転可能に支持されている。
【0018】
ヘッド部13では、給気管17から送り込まれる圧縮空気がロータ37に吹き付けられる。これにより、歯科処置工具15を保持するバースリーブ35が回転される。ロータ37に吹き付けられた圧縮空気は、ヘッド部13から把持部11のケース12の内部空間からなる排気流路25へ排出される。
【0019】
また、把持部11におけるヘッド部13の近傍部分には、給水管19に連通する吐出口43が設けられ、給水管19から送り込まれる水が吐出口43から吐出される。また、吐出口43に隣接した位置には、給気管17から分岐した分岐路45に連通する噴出口47が設けられており、分岐路45から送り込まれる圧縮空気が噴出口47から噴出される。これにより、歯科用ハンドピース100では、ヘッド部13の先端近傍において、吐出口43から吐出する水とともに噴出口47から圧縮空気を噴出させることにより、水をスプレー状にして噴射可能とされている。
【0020】
図3は、歯科用ハンドピース100の把持部11の後端付近における軸方向に沿う断面図である。
図4は、調圧機構21の斜視図である。
図5は、調圧機構21の軸方向に沿う断面図である。
図3から
図5に示すように、給気管17に設けられた調圧機構21は、調圧部50を有する管体51を備えている。管体51の調圧部50は、ボール53と、環状弾性部材55とを有している。
【0021】
管体51は、流路57を有する筒状に形成されている。管体51は、一方の端部51aに給気管17が接続され、他方の端部51bに圧縮空気を送出する歯科用ユニットから延びる可撓性チューブの端部の接続部(図示略)が接続される。管体51は、他方の端部51bが把持部11の接続部27を構成するアダプタ28に保持されている。
【0022】
管体51は、一方の端部51a側に、流路57よりも内径が大きな嵌合孔部59を有しており、この嵌合孔部59に給気管17の端部が嵌め込まれて接続される。この嵌合孔部59には、Oリング61が設けられており、このOリング61によって給気管17との間がシールされる。
【0023】
管体51は、一方の端部51a側が大径部63とされ、他方の端部51b側が、大径部63よりも小径に形成された小径部65とされている。
【0024】
管体51には、大径部63における小径部65側の近傍位置に、調圧部50が設けられている。調圧部50は、管体51の管壁を表裏に貫通する複数の孔部67を有している。本例では、管体51は、3つの孔部67を有しており、これらの孔部67が周方向の等間隔位置に形成されている。そして、これらの孔部67には、それぞれボール53が収容されている。
【0025】
また、管体51の調圧部50には、大径部63の外周に、溝部69が形成されている。この溝部69は、孔部67の形成箇所を通る位置において、周方向にわたって形成されている。この溝部69は、孔部67に収容されたボール53の直径よりも狭い幅を有している。
【0026】
環状弾性部材55は、例えば、ゴム等の弾性材料からなるもので、環状に形成されている。環状弾性部材55は、断面視円形状に形成されている。この環状弾性部材55としては、例えば、Oリングを使用できる。環状弾性部材55は、管体51の外周に嵌装されており、大径部63に形成された溝部69に収容されている。管体51の外周に嵌装されて溝部69に収容された環状弾性部材55は、管体51の外周面から出っ張ることなく溝部69内に収容され、管体51の軸方向への位置ずれが抑制される。
【0027】
そして、溝部69に環状弾性部材55が収容された状態において、管体51の外周における孔部67の形成箇所では、溝部69に収容された環状弾性部材55と孔部67の内周面との間にクリアランスCが形成される。
【0028】
図6は、
図5のVI-VI線に沿った断面図である。
図6に示すように、管体51の調圧部50に形成された孔部67は、管体51の内周側に、ボール53の直径よりも小さな内径を有する小径孔部67aを有している。この孔部67には、管体51の外周側からボール53が収容される。孔部67に収容されるボール53は、孔部67における管体51の内周側の小径孔部67aに係止され、管体51の内周側への移動が規制される。
【0029】
各孔部67に収容されたボール53は、管体51の外周に嵌装されて溝部69に収容された環状弾性部材55の弾性力によって管体51の内周側へ向かって押圧されている。これにより、各孔部67に収容されたボール53は、孔部67の小径孔部67aの縁部に突き当てられた状態となり、各孔部67は、ボール53によって閉塞された状態に維持される。
【0030】
上記構造の調圧機構21を備えた歯科用ハンドピース100では、カップリングによって接続された可撓性チューブを通して歯科用ユニットから圧縮空気が供給される。この供給される圧縮空気は、調圧機構21を構成する管体51を通り、給気管17へ送り込まれる。そして、ヘッド部13では、給気管17から圧縮空気がロータ37に吹き付けられ、歯科処置工具15を保持したバースリーブ35が回転される。ロータ37に吹き付けられた圧縮空気は、ヘッド部13から把持部11のケース12の内部空間からなる排気流路25へ排出され、可撓性チューブの排気路を通して歯科用ユニット側へ排出される。
【0031】
このとき、歯科用ユニットから適正範囲を越えた圧力で圧縮空気が供給されることがある。その場合、調圧機構21では、給気管17の内圧の上昇に伴い、管体51の調圧部50の各孔部67に収容されたボール53が環状弾性部材55による付勢力に反して管体51の外周方向へ変位する。すると、これらのボール53が孔部67の小径孔部67aの縁部から離間し、管体51内の圧縮空気が孔部67とボール53との隙間から管体51の外周側の排気流路25へ流出し、給気管17の内圧が適正範囲に維持される。
【0032】
以上、説明したように、本実施形態に係る歯科用ハンドピース100によれば、給気管17に設けられた調圧機構21の調圧部50によって、供給される圧縮空気の圧力が適正範囲に維持されるので、回転機構31において、バースリーブ35の回転速度が高いことによる歯科処置工具15の破損や潤滑油切れによる摩耗の発生が抑えられる。
【0033】
また、調圧機構21の調圧部50は、管体51に形成された孔部67にボール53が収容され、このボール53が管体51に嵌装された環状弾性部材55によって外周側から付勢された構造である。したがって、軸方向にスライド可能なピストンによって圧縮空気を調圧する従来構造の調圧機構と比べて部品点数を削減でき、また、部品自体のコストを抑えられる。
【0034】
しかも、軸方向へスライドする部品がないため、軸方向の長さを短くして小型化が図れ、把持部11内の狭隘なスペースへ容易に収容させることができる。
【0035】
また、部品同士の隙間からの圧縮空気の漏れによる給気エネルギーの損失も抑えることができる。
【0036】
なお、上記実施形態では、給気管17と別の管体51に調圧部50を設けたが、給気管17からなる管体に調圧部50を設けて調圧機構21を構成してもよい。この構造によれば、部品点数のさらなる削減が図れる。
【0037】
次に、歯科用ハンドピース100に備えられる調圧機構の変形例について説明する。なお、上記実施形態に係る調圧機構21と同一構成部分は、同一符号を付して説明を省略する。
【0038】
(変形例1)
図7は、変形例1に係る調圧機構21Aの斜視図である。
図8は、変形例1に係る調圧機構21Aの軸方向に沿う断面図である。
図9は、
図8のIX-IX線に沿った断面図である。
図7及び
図8に示すように、変形例1に係る調圧機構21Aは、2つの調圧部50Aを有する管体71を備えている。
【0039】
管体71は、流路77を有する筒状に形成されている。管体71は、一方の端部71aに給気管17が接続され、他方の端部71bに、圧縮空気を送出する歯科用ユニットから延びる可撓性チューブの接続部が接続される。
【0040】
管体71は、一方の端部71a側に、Oリング61が設けられた嵌合孔部79を有しており、この嵌合孔部79に給気管17の端部が嵌め込まれて接続される。また、管体71の流路77は、嵌合孔部79側が小径流路部77aとされている。
【0041】
管体71は、一方の端部71a側が中間径部73とされ、他方の端部71b側が、中間径部73よりも小径に形成された小径部75とされている。また、管体71は、中間径部73における軸方向の中間部が、さらに大径に形成された大径部74とされている。2つの調圧部50Aは、管体71における大径部74に設けられ、軸方向に間隔をあけて配置されている。なお、管体71の大径部74には、給水管19側となる部分に、給水管19との干渉を回避するための逃げ部74aが形成されている。
【0042】
調圧部50Aは、ボール53を収容する1つ孔部67を有しており、この1つの孔部67の形成箇所を通る位置に、ボール53の直径よりも狭い幅を有する溝部69が形成されている。そして、この溝部69に、環状弾性部材55が収容されている。
【0043】
図9に示すように、管体71に形成された孔部67は、管体71の内周側に小径孔部67aを有し、さらに、管体71の外周側に大径孔部67bを有している。この孔部67に管体71の外周側から収容されたボール53は、孔部67における管体71の内周側の小径孔部67aに係止され、管体71の内周側への移動が規制される。調圧部50Aでは、環状弾性部材55の弾性力によってボール53が押圧されて孔部67の小径孔部67aの縁部に突き当てられ、これにより、孔部67は、ボール53によって閉塞された状態に維持される。
【0044】
この変形例1に係る調圧機構21Aでは、歯科用ユニットから適正範囲を越えた圧力で圧縮空気が供給されると、調圧機構21Aの各調圧部50Aの孔部67に収容されたボール53が環状弾性部材55による付勢力に反して管体71の外周方向へ変位する。これにより、ボール53が孔部67の小径孔部67aの縁部から離間し、管体71内の圧縮空気が孔部67とボール53との隙間から管体71の外周側の排気流路25へ流出する。
【0045】
なお、各調圧部50Aは、ボール53を収容する一つの孔部67において調圧が行われる。このため、孔部67における管体71の外周側に大径孔部67bを形成し、調圧時に空気を抜け易くしている。また、同様の目的で、環状弾性部材55の材質を選択して弾性力を調整することにより、調圧時に空気を抜け易くしてもよい。
【0046】
このように、変形例1に係る調圧機構21Aの場合も、圧縮空気が適正範囲を超えると、管体71に設けられた各調圧部50Aから圧縮空気が排出されることにより、給気管17の内圧が適正範囲に維持される。これにより、回転機構31において、バースリーブ35の回転速度が高いことによる歯科処置工具15の破損や潤滑油切れによる摩耗の発生が抑えられる。
【0047】
また、変形例1に係る調圧機構21Aは、各調圧部50Aにおいて、1つの孔部67に、環状弾性部材55によって付勢されるボール53を収容させているので、構造の簡略化が図れる。
【0048】
しかも、複数の調圧部50Aが管体71の軸方向に間隔をあけて設けられているので、調圧機能に冗長性を持たせ、安全性を高めることができる。
【0049】
(変形例2)
図10は、変形例2に係る調圧機構21Bの軸方向に沿う断面図である。
図10に示すように、変形例2に係る調圧機構21Bは、給気管17に設けられた分岐管81に装着される。分岐管81は、一端が給気管17に接続されており、中間部が屈曲されて給気管17に沿って延在されている。そして、この分岐管81の他端に、調圧機構21Bが接続されている。
【0050】
調圧機構21Bは、管体91を有しており、この管体91に、調圧部50が設けられている。管体91は、有底の筒状に形成されている。管体91は、Oリング61を備えた嵌合孔部93を有しており、嵌合孔部93に、給気管17から分岐した分岐管81の端部が嵌め込まれて接続される。管体91は、分岐管81との接続側と反対側の端部側に大径部95を有しており、この大径部95に、3つの孔部67にボール53が収容され、各ボール53が環状弾性部材55によって付勢された調圧部50が設けられている。
【0051】
この変形例2に係る調圧機構21Bでは、歯科用ユニットから適正範囲を越えた圧力で圧縮空気が供給されると、分岐管81に接続された調圧機構21Bの管体91の内圧が上昇し、調圧部50の各孔部67に収容されたボール53が環状弾性部材55による付勢力に反して管体51の外周方向へそれぞれ変位する。これにより、各ボール53が孔部67の小径孔部67aの縁部から離間し、管体91内の圧縮空気が孔部67とボール53との隙間から管体91の外周側の排気流路25へ流出し、給気管17の内圧が適正範囲に維持される。
【0052】
このように、変形例2に係る調圧機構21Bの場合も、圧縮空気が適正範囲を超えると、管体91に設けられた調圧部50から圧縮空気が排出されることにより、給気管17の内圧が適正範囲に維持される。これにより、回転機構31において、バースリーブ35の回転速度が高いことによる歯科処置工具15の破損や潤滑油切れによる摩耗の発生が抑えられる。
【0053】
また、変形例2に係る調圧機構21Bは、給気管17から分岐する分岐管81に設けられるので、圧縮空気の供給経路を短縮でき、歯科用ハンドピース100の全長をより短くできる。
【0054】
なお、変形例2において、調圧部50は、給気管17から分岐し、さらに給気管17に合流する分岐管に設けてもよい。この場合、給気管17から分岐管へ分岐した圧縮空気が、分岐管の調圧部50を通過して給気管17に合流する。
【0055】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0056】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 歯科処置工具を着脱可能に保持するバースリーブを有し、供給される圧縮空気によって前記バースリーブを回転させる回転機構を備えたヘッド部と、
前記ヘッド部が先端に設けられ、前記回転機構へ圧縮空気を送り込む給気管を有する筒状の把持部と、
を備え、
前記給気管は、圧縮空気を調圧する調圧部を有し、
前記調圧部は、
前記圧縮空気が通る管体と、
前記管体における管壁を貫通する孔部と、
前記孔部に収容されて前記孔部を閉塞するボールと、
前記管体に嵌装されて前記ボールを前記管体の外周側から弾性的に押圧する環状弾性部材と、
を有する、歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、給気管に設けられた調圧部において、供給される圧縮空気の圧力が適正範囲を超えると、その圧力によって孔部に収容されたボールが環状弾性部材による付勢力に反して管体の外周方向へそれぞれ変位する。これにより、管体内の圧縮空気が孔部とボールとの隙間から管体の外周側へ流出し、圧縮空気の圧力が適正範囲に維持される。これにより、回転機構において、バースリーブの回転速度が高いことによる歯科処置工具の破損や潤滑油切れによる摩耗の発生が抑えられる。
また、調圧部は、管体に形成された孔部にボールが収容され、このボールが管体に嵌装された環状弾性部材によって外周側から付勢された構造である。したがって、軸方向にスライド可能なピストンによって圧縮空気を調圧する従来構造の調圧機構と比べて部品点数を削減でき、また、部品自体のコストを抑えられる。
しかも、軸方向へスライドする部品がないため、軸方向の長さを短くして小型化が図れ、把持部内の狭隘なスペースへ容易に収容させることができる。
また、部品同士の隙間からの圧縮空気の漏れによる給気エネルギーの損失も抑えることができる。
このように、本発明の歯科用ハンドピースによれば、製造コストを抑えつつ、給気エネルギーを効率的に利用でき、しかも、小型化できる。
【0057】
(2) 前記調圧部を有する調圧機構が前記給気管に接続されている、
(1)に記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、給気管に接続された調圧機構の調圧部によって、給気管に調圧機能を容易に持たせることができる。
【0058】
(3) 前記管体に複数の前記孔部が周方向に間隔をあけて形成され、
それぞれの前記孔部に前記ボールが収容され、
前記ボールが前記環状弾性部材によって前記管体の外周側から弾性的に押圧されている、(1)または(2)に記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、周方向に間隔あけて形成された複数の孔部にボールが収容され、これらのボールが環状弾性部材によって管体の外周側から押圧されている。したがって、圧縮空気の圧力が適正範囲を超えた際に、各孔部のボールが変位し、圧縮空気の圧力を迅速に抑えることができる。
【0059】
(4) 前記孔部は、前記管体の内周側に、前記ボールの直径よりも小径の小径孔部を有し、
前記ボールは、前記孔部に対して前記管体の外周側から収容されて前記小径孔部に係止される、(1)~(3)のいずれか一つに記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、孔部に収容したボールが小径孔部で係止されることにより、孔部の適正位置にボールを配置できる。
【0060】
(5) 前記管体の外周には、前記孔部の形成箇所を通る位置に、前記ボールの直径よりも狭い幅の溝部が周方向にわたって形成され、
前記溝部に前記環状弾性部材が収容されている、(1)~(4)のいずれか一つに記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、管体の外周における孔部の形成箇所において、溝部に収容された環状弾性部材と孔部の内周面との間にクリアランスが形成される。これにより、このクリアランスから圧縮空気を円滑に排出できる。
【0061】
(6) 複数の前記調圧部が前記管体における軸方向に間隔をあけて設けられた、(1)~(5)のいずれか一つに記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、複数の調圧部が管体の軸方向に間隔をあけて設けられているので、調圧機能に冗長性を持たせ、安全性を高めることができる。
【0062】
(7) 前記調圧部は、前記給気管から分岐する分岐管に設けられている、(1)~(6)のいずれか一つに記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、給気管から分岐する分岐管に調圧部が設けられるので、圧縮空気の供給経路を短縮でき、歯科用ハンドピースの全長を短くできる。
【符号の説明】
【0063】
11 把持部
13 ヘッド部
15 歯科処置工具
17 給気管
21,21A,21B 調圧機構
31 回転機構
35 バースリーブ
50,50A 調圧部
51,71,91 管体
53 ボール
55 環状弾性部材
67 孔部
67a 小径孔部
69 溝部
81 分岐管
100 歯科用ハンドピース
【要約】
【課題】製造コストを抑えつつ、給気エネルギーを効率的に利用でき、しかも、小型化が可能な歯科用ハンドピースを提供する。
【解決手段】歯科処置工具15を着脱可能に保持するバースリーブ35を有し、供給される圧縮空気によってバースリーブ35を回転させる回転機構31を備えたヘッド部13と、ヘッド部13が先端に設けられ、回転機構31へ圧縮空気を送り込む給気管17を有する筒状の把持部11と、を備え、給気管17は、圧縮空気を調圧する調圧部50を有し、調圧部50は、圧縮空気が通る管体51と、管体51における管壁を貫通する孔部67と、孔部67に収容されて孔部67を閉塞するボール53と、管体51に嵌装されてボール53を管体51の外周側から弾性的に押圧する環状弾性部材55と、を有する。
【選択図】
図3