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  • 特許-塗膜評価方法、塗装体および塗膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】塗膜評価方法、塗装体および塗膜
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20230410BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20230410BHJP
   B05D 3/04 20060101ALI20230410BHJP
   G01N 21/71 20060101ALI20230410BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
G01N17/00
B05D3/00 D
B05D3/04 B
G01N21/71
C09D201/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021215265
(22)【出願日】2021-12-28
【審査請求日】2022-10-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 マテリアルライフ学会「第13回ケミルミネッセンス研究会」、Web開催、開催日:令和3年1月14日 一般社団法人色材協会「2021年度 色材研究発表会」、Web開催、開催日:令和3年9月17日 第13回 ケミルミネッセンス研究会 講演要旨集、55~56頁、ケミルミネッセンス研究会、頒布日:令和3年1月8日 2021年度色材研究発表会 講演要旨集、53頁、一般社団法人 色材協会、発行日:令和3年9月3日(ウェブサイトの掲載日:令和3年9月8日)
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】末次 晴美
(72)【発明者】
【氏名】田邉 祥子
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-206603(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0148288(US,A1)
【文献】特開昭61-152771(JP,A)
【文献】特開2002-256217(JP,A)
【文献】特開昭53-067743(JP,A)
【文献】特開2011-074251(JP,A)
【文献】田中丈之,化学発光法による塗膜耐候劣化評価方法,色材,日本,1997年,70(12),pp.784-787
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
G01N 21/71
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素または空気雰囲気下、連続的な昇温条件にて塗膜の化学発光量を測定することで塗膜の劣化を予測する、塗膜評価方法。
【請求項2】
酸素または空気雰囲気下、連続的な昇温条件にて塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして化学発光量と温度の関係を示す曲線を描き、この曲線上における微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度を求めて、塗膜の劣化を予測する、請求項1に記載の塗膜評価方法。
【請求項3】
(i)酸素または空気雰囲気下、連続的な昇温条件にて、塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして化学発光量と温度の関係を示す曲線を描き、この曲線上における微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度(T1)を求め、
(ii)酸素または空気雰囲気下、連続的な昇温条件にて、促進劣化試験を受けた塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして化学発光量と温度の関係を示す曲線を描き、この曲線上における微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度(T2)を求め、
(iii)温度(T1)と温度(T2)から塗膜の劣化を予測する、請求項1に記載の塗膜評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜評価方法、塗装体および塗膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屋外で使用される塗膜は、屋内に比べて降雨や紫外線、寒暖差の影響を受けやすいことから、塗膜が劣化しやすい。これは、紫外線によって樹脂の高分子鎖が切断されることや、降雨によって切断された低分子量成分や塗膜形成成分が流出されることに起因しており、それらを防ぐために、分子鎖の結合エネルギーの高い樹脂を選定したり、紫外線遮蔽剤を添加して紫外線を遮蔽したり、光安定剤等を添加して紫外線によって発生するラジカルを抑制する手法が検討されている。
【0003】
特開昭61-152771号公報(特許文献1)には、フルオロオレフィンとビニルエーテルを必須構成成分として架橋部位を有する含フッ素共重合体と該フッ素共重合体と共架橋可能なポリフルオロアルキル基含有重合体とを特定の配合比で含む塗料用樹脂組成物が記載され、これによって、防汚性、撥水撥油性あるいは表面光沢など表面特性が改良され且つ耐候性に優れた塗膜を与え得る溶剤可溶型のフッ素樹脂塗料組成物を提供することができると記載されている。
【0004】
特開2002-256217号公報(特許文献2)には、塗膜形成樹脂(A)、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)、及びトリアジン系紫外線吸収剤(C)を必須成分として含み、かつ、(A)の100部に対して、(B)の0.1~30部及び(C)の0.1~20部を含むことを特徴とする塗料用組成物が記載されている。特許文献2では、この塗料用組成物は、紫外線遮蔽性に優れた塗膜を形成できる効果を奏するものであり、特に、トップ層として用いた場合に、下層保護性を充分に発揮できる塗膜を形成でき、さらに、この効果が長期にわたって維持できること、そして、高温及び強い紫外線照射の過酷な屋外暴露試験、促進耐候性試験においても、長期にわたって上記効果を持続できると記載されている。また、特許文献2では、紫外線吸収剤はその構造に応じて主に吸収する波長域が決まっており、適宜、選択して用いられることや、紫外線吸収剤の添加量が少なすぎると紫外線遮蔽効果が充分に発揮されず、下層の保護機能が不充分となること、また、多すぎると下層への密着性が損なわれたり、塗膜からブリードアウトしやすくなることが記載されている。
【0005】
特開昭53-67743号公報(特許文献3)には、自動車に2コート1ベーク方式でクリヤー仕上げを行うに際し、メタリックカラーを塗装後ウェットオンウェットで着色顔料および(または)体質顔料および紫外線吸収剤を樹脂固形分に対して特定量で含有するクリヤーを塗装することを特徴とするクリヤー塗膜の耐久性方法が記載されている。特許文献3では、ウェットオンウェット塗装と焼付け硬化を組み合わせた「2コート1ベーク方式」によって塗膜を形成することで、長期の耐候性が得られることが記載されている。
【0006】
特開2015-206603号公報(特許文献4)には、検量線作成処理と耐候性予測処理とからなる、有機系塗料からなる塗膜の耐候性を予測する塗膜耐候性予測方法の発明が記載されている。特許文献4では、有機系塗膜の検体について、劣化開始後の化学発光量のデータから、各検体の見かけ上の活性化エネルギーが算出できること、及び、この見かけ上の活性化エネルギーと各有機系塗膜が劣化限界に至るまでの標準的な劣化時間との相関から、有機系塗料からなる塗膜全般の耐候性予測処理に汎用的に用いることができる検量線を得ることができることが記載され、この検量線を用いることによって、従来の試験方法では、長時間の試験を経ないと実際には到達しえなかった塗膜劣化を、短時間で、且つ、定量的に予測することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭61-152771号公報
【文献】特開2002-256217号公報
【文献】特開昭53-67743号公報
【文献】特開2015-206603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~3にも示されているように、塗膜を劣化から防ぎ、耐候性を確保する目的で、樹脂、紫外線遮蔽剤、光安定剤等の塗膜形成成分の種類および量、更には塗膜形成条件等の様々な要素が検討されている状況である。このため、各種塗料に対して高耐候性塗膜を得るための共通の指標があるとはいえず、塗料の配合から塗膜の耐候性を予測することが困難である場合も多い。このため、塗膜の耐候性を確認するためには、実際に塗膜を形成し、耐候性試験を実施して塗膜性能を判断する必要があるが、耐候性試験には膨大な時間を要することから、塗膜の耐候性を短期間で予測し塗膜性能を判断可能な方法が求められていた。
【0009】
本発明者らは、塗膜劣化に関する検討を行い、特に有機成分を含む塗膜の劣化は、塗膜の酸化による影響が大きく、これは、塗膜内のバインダー成分の結合強度や、金属触媒などの不純物量や、塗膜中の酸素の拡散度合に因る影響が大きいものと考えた。
【0010】
しかしながら、従来、各原料の高分子の結合安定性は結合解離エネルギーより推測されるが、塗料から得られる塗膜は種々の原料が混合し形成されるため、一概に塗膜の構成成分のみから劣化予測を行うことが困難である。さらに、塗膜は製造と成膜条件によっても顔料分布や樹脂の架橋、融着程度などの膜状態が異なり、塗膜としての結合安定性を推測する事が極めて困難であった。また、酸化され易さを評価する従来手法として熱重量示差熱分析などが有るが、測定時に塗膜を粉状に加工するため、実際の塗膜とは形状が大きく異なり、「塗膜の耐候性」の評価として利用するのに十分であるとはいえない。
【0011】
そこで、本発明の目的は、塗膜の耐候性を簡便に評価することが可能な塗膜評価方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる塗膜評価方法を用いることで、高耐候性の塗装体および塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、塗膜劣化予測手法を検討するにあたり、「塗膜の酸化され易さ」に着目し、これを評価する事で塗膜の耐候性を評価する手法を勘案した。この「酸化され易さ」は、特許文献4でも用いられている塗膜形状で評価可能な化学発光量の測定にて評価した。特許文献4には、任意の温度において測定した化学発光量から評価対象検体の見かけ上の活性化エネルギーを算出し、塗膜の耐候性を予測する発明が記載されるが、測定する温度範囲内で成分の揮発や分解などの塗膜変化が生じる検体では、活性化エネルギーが算出し難く、耐候性の予測が困難であった。
【0013】
本発明者らは検討を行った結果、連続的な昇温条件下にて塗膜からの化学発光量を測定することで塗膜の耐候性を予測可能であることを見出した。特に、塗膜を連続的に昇温加熱した際に測定される化学発光量から求められる発光開始温度や、短期間劣化させた塗膜と未劣化膜の発光開始温度の差が、塗膜の耐候性と相関関係にあることを見出した。これにより、劣化前の塗膜や短期間劣化させた塗膜についての連続的な昇温条件下での化学発光量の測定から塗膜の耐候性の程度を導き出し、耐候性に優れた塗膜を提供することができる。
【0014】
本発明者らは、さらに検討を重ねた結果、耐候性に優れる塗膜においては、初期と短期間促進劣化後の発光開始温度の差が少なく、耐候性に劣る塗膜はその差が大きくなることを見出した。
【0015】
したがって、本発明の塗膜評価方法は、酸素または空気雰囲気下、連続的な昇温条件にて塗膜の化学発光量を測定することで塗膜の劣化を予測する、塗膜評価方法である。
【0016】
本発明の塗膜評価方法の好適例においては、酸素または空気雰囲気下、連続的な昇温条件にて塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして化学発光量と温度の関係を示す曲線を描き、この曲線上における微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度を求めて、塗膜の劣化を予測する。
【0017】
本発明の塗膜評価方法の他の好適例においては、
(i)酸素または空気雰囲気下、連続的な昇温条件にて、塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして化学発光量と温度の関係を示す曲線を描き、この曲線上における微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度(T1)を求め、
(ii)酸素または空気雰囲気下、連続的な昇温条件にて、促進劣化試験を受けた塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして化学発光量と温度の関係を示す曲線を描き、この曲線上における微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度(T2)を求め、
(iii)温度(T1)と温度(T2)から塗膜の劣化を予測する。
【0018】
本発明の塗装体は、本発明の塗膜評価方法を用いて評価された高耐候性の塗膜を備える塗装体である。
【0019】
本発明の塗装体の好適例においては、化学発光量と温度の関係を示す曲線上における微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度(T1)が190~330℃の範囲内である塗膜を備える塗装体である。
ここで、前記化学発光量と温度の関係を示す曲線は、酸素または空気雰囲気下、15℃/minの昇温速度で連続的に50℃から350℃まで昇温させる条件にて、塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして得られる化学発光量と温度の関係を示す曲線である。
【0020】
本発明の塗装体の他の好適例においては、化学発光量と温度の関係を示す曲線上における微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度を温度(T1)とし、促進劣化試験後の化学発光量と温度の関係を示す曲線上における微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度を温度(T2)とした場合、温度(T1)と温度(T2)が、
-3.0 ≦ (T1-T2)/ T1 ×100 ≦ 7.0
の関係式を満たす塗膜を備える塗装体である。
ここで、前記温度(T1)及び温度(T2)を求めるための化学発光量と温度の関係を示す曲線は、酸素または空気雰囲気下、15℃/minの昇温速度で連続的に50℃から350℃まで昇温させる条件にて、塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして得られる化学発光量と温度の関係を示す曲線であり、前記温度(T2)を求めるための塗膜は、JIS K 5600-7-7:2008のサイクルAの規定に従う促進劣化試験(キセノンランプ照射時間:200時間)を受けた塗膜である。
【0021】
本発明の塗膜は、本発明の塗膜評価方法を用いて評価された高耐候性の塗膜である。
【0022】
本発明の塗膜の好適例においては、化学発光量と温度の関係を示す曲線上における微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度(T1)が190~330℃の範囲内である塗膜である。
ここで、前記化学発光量と温度の関係を示す曲線は、酸素または空気雰囲気下、15℃/minの昇温速度で連続的に50℃から350℃まで昇温させる条件にて、塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして得られる化学発光量と温度の関係を示す曲線である。
【0023】
本発明の塗膜の他の好適例においては、化学発光量と温度の関係を示す曲線上における微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度を温度(T1)とし、促進劣化試験後の化学発光量と温度の関係を示す曲線上における微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度を温度(T2)とした場合、温度(T1)と温度(T2)は、
-3.0 ≦ (T1-T2)/ T1 ×100 ≦ 7.0
の関係式を満たす塗膜である。
ここで、前記温度(T1)及び温度(T2)を求めるための化学発光量と温度の関係を示す曲線は、酸素または空気雰囲気下、15℃/minの昇温速度で連続的に50℃から350℃まで昇温させる条件にて、塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして得られる化学発光量と温度の関係を示す曲線であり、前記温度(T2)を求めるための塗膜は、JIS K 5600-7-7:2008のサイクルAの規定に従う促進劣化試験(キセノンランプ照射時間:200時間)を受けた塗膜である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、塗膜の耐候性を簡便に評価することが可能な塗膜評価方法を提供することができる。また、かかる塗膜評価方法を用いることで、高耐候性の塗装体および塗膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】連続的な昇温条件下にて塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして描かれた化学発光量と温度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明は、塗膜評価方法、塗装体および塗膜に関する。
【0027】
本発明の1つの態様は、酸素または空気雰囲気下、連続的な昇温条件にて塗膜の化学発光量を測定することで塗膜の劣化を予測する塗膜評価方法である。本明細書では、この塗膜評価方法を「本発明の塗膜評価方法」とも称する。
【0028】
化学発光(ケミルミネッセンス)とは、化学反応により生じたエネルギーが光として放出される現象である。化学発光の多くは酸化反応が関わっており、本発明においても、酸化反応由来の発光現象を測定対象とする。このため、塗膜の化学発光量の測定は、酸素または空気雰囲気下で行われる。
【0029】
昇温時の塗膜の化学発光は、以下に説明される。昇温時、塗膜に熱エネルギーが与えられると、塗膜を構成する物質の分解によりラジカルが生成し、このラジカルに酸素が付加(熱酸化分解)することによって過酸化物が生成する。この熱酸化分解の過程で、ペルオキシラジカルの2分子停止反応によって生成する励起状態のカルボニルが基底状態になる際に、発光すると推察される。ここで、塗膜にエネルギーが与えられた際に解離し易い、不安定な結合が塗膜中に存在すると熱酸化分解が進行し低温から発光する。また、塗膜内で酸素が拡散し易いと多くの箇所で酸化が進行する。
【0030】
化学発光量は、化学発光の際に放出される単位時間あたりの光子の数(cps;counts per second)であり、微弱発光検出装置により測定可能である。微弱発光検出装置としては、例えば、東北電子産業社製ケミルミネッセンスアナライザー等がある。また、化学発光量の検出波長は、塗膜の化学発光が主として励起カルボニル由来であると推察されることから、420~530nmの波長を含む範囲に設定することができるが、一重項酸素等の別の励起物質も存在し得るので、例えば300~850nm等の広い波長範囲に亘って化学発光量を測定することが好ましい。
【0031】
本発明の塗膜評価方法によって測定される化学発光量は、塗膜の劣化の指標となり、例えば、連続的な昇温条件下での化学発光量の測定において、低温から化学発光が生じると塗膜の劣化が生じやすいことを意味しており、耐候性の低い塗膜であると予測することが可能である。また、化学発光量の測定であれば、塗膜を粉砕する必要もなく、塗膜の形状を保ったまま塗膜の評価を行うことができる。
【0032】
本発明の塗膜評価方法において、化学発光量の測定は、連続的な昇温条件である。ここで、昇温速度は、0.1~25℃/minの範囲内で選択することができ、好ましくは5~20℃/minの範囲内であり、最も好ましくは10~17℃/minである。また、測定温度は、50~350℃の温度範囲であることが好ましい。測定雰囲気には、酸素または空気を用いることができるが、酸素雰囲気下で測定を行うことが好ましい。ガスの流量は50mL/minとすることができる。塗膜を測定する際の被塗物には、厚さ2mm以下の金属板を用いることができる。スレート等の熱伝導率の低い被塗物は測定結果に影響を及ぼす恐れがあり、基材状態が一定でないため、一定の評価が難しい。例えば、熱伝導率の低い被塗物上の塗膜について化学発光量の測定を行うと、発光開始温度が高温側にシフトする傾向がある。塗膜の測定膜厚は、例えば0.01~100μmであり、好ましくは0.1~90μmであり、より好ましくは1~75μmである。塗膜の測定面積が異なると、発光開始温度が変化することから、本明細書の実施例では、塗膜の表面は1cm×1cmの面積に揃えた。化学発光量測定時の露光時間は、1~10秒の範囲で測定可能であるが、化学発光量が多いサンプルでは装置の検出素子の測定上限を超えてしまうことがあるため、本明細書の実施例では、化学発光量測定時間の露光時間を1秒とした。
【0033】
本発明の塗膜評価方法の好ましい実施形態においては、酸素または空気雰囲気下、連続的な昇温条件にて塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして化学発光量と温度の関係を示す曲線を描き、この曲線上における「微分係数が最小となる接線」と「微分係数が最大となる接線」との交点の温度を求めて、塗膜の劣化を予測する塗膜評価方法である。
【0034】
ここで、「微分係数が最大となる接線」とは、測定温度範囲(好ましくは50~350℃)において温度が1℃変化した際の化学発光量の増加値が最大となる接線である。「微分係数が最小となる接線」とは、測定温度範囲(好ましくは50~350℃)の最低温度(好ましくは50℃)から、温度が1℃変化した際の化学発光量の増加値が最大となる温度までの領域において、温度が1℃変化した際の化学発光量の増加値が正の値で最小となる接線である。
【0035】
「微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点」は、化学発光量の増加が始まる温度を意味し、本明細書では「発光開始温度」とも称する。本発明者は、塗膜が劣化し難く、高耐候性の塗膜に求められる条件として、「微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度」が好ましくは190~330℃、より好ましくは200~330℃、更に好ましくは210~330℃の範囲内であることを確認した。不安定な結合を持つ塗膜や酸素の拡散し易い塗膜は、暴露時や促進劣化試験にて短期間で劣化し易い。このような塗膜は、低温から酸化分解が進行し、発光開始温度は低温となる。本発明の塗膜評価方法では、塗膜中の不安定な結合の程度や酸素の拡散し易さの程度を数値化することができる。本発明者は、耐候性(光沢保持率)と発光開始温度の関係を検討した結果、上記のような範囲内の発光開始温度であれば高耐候性の塗膜であると評価できることを見出した。また、「微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度」を利用する塗膜評価方法であれば、長期間を必要とした従来の評価方法に比べて、短時間で塗膜の劣化を予測することができる。
【0036】
図1は、連続的な昇温条件下にて塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして描かれた化学発光量と温度の関係を示す図である。実施例の曲線では、微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度(T1)が190~330℃の範囲内にあり、このような塗膜は耐候性に優れる塗膜である。比較例の曲線では、微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度(T1)が190℃未満であり、このような塗膜は耐候性が悪い塗膜である。
【0037】
本発明の塗膜評価方法の好ましい実施形態においては、促進劣化試験前後の塗膜の化学発光量を測定することで塗膜の劣化を予測する塗膜評価方法である。促進劣化試験は、耐候性を評価する様々な試験を用いることができ、好ましくはJIS K 5600-7-7:2008「塗料一般試験方法-第7部:塗膜の長期耐久性-第7節:促進耐候性及び促進耐光性(キセノンランプ法)」のサイクルAの規定に従う試験である。
【0038】
本発明の塗膜評価方法の好ましい実施形態は、以下の工程(i)~(iii)を含む塗膜評価方法である。
(i)酸素または空気雰囲気下、連続的な昇温条件にて、塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして化学発光量と温度の関係を示す曲線を描き、この曲線上における「微分係数が最小となる接線」と「微分係数が最大となる接線」との交点の温度(T1)を求め、
(ii)酸素または空気雰囲気下、連続的な昇温条件にて、促進劣化試験を受けた塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして化学発光量と温度の関係を示す曲線を描き、この曲線上における「微分係数が最小となる接線」と「微分係数が最大となる接線」との交点の温度(T2)を求め、
(iii)温度(T1)と温度(T2)から塗膜の劣化を予測する。
【0039】
本発明の塗膜評価方法において、工程(i)及び工程(ii)での塗膜の化学発光量の測定は、同一の条件下で行われることが望ましい。工程(i)の塗膜は、促進劣化試験を受ける前の塗膜である。工程(ii)の「促進劣化試験を受けた塗膜」は、促進劣化試験としてJIS K 5600-7-7:2008のサイクルAの規定に従う試験を受けた塗膜であることが好ましい。また、キセノンランプの照射時間は、短期間で塗膜劣化の予測を行う観点から、2~1000時間であることが好ましく、100~300時間がより好ましい。
【0040】
本発明者は、耐候性に優れる塗膜であると、温度(T1)と温度(T2)の差が小さく、耐候性に劣る塗膜であると、温度(T1)と温度(T2)の差が大きくなることを見出した。促進劣化試験による塗膜の劣化によって新たに不安定な結合が形成されたり、分子鎖が切断し低分子量化すると、初期の未劣化塗膜に比べて低温から熱酸化分解が進行し発光すると推測される。そして、耐候性の低い塗膜ほど、エネルギーが与えられた際に上記の変化が進行し、温度(T1)から温度(T2)の変化が大きくなると考えられる。
【0041】
本発明の塗膜評価方法において、塗膜の促進劣化試験がJIS K 5600-7-7:2008のサイクルAの規定に従う試験(キセノンランプ照射時間:200時間)である場合、高耐候性の塗膜に求められる条件として、温度(T1)と温度(T2)は、
-3.0 ≦ (T1-T2)/ T1 ×100 ≦ 7.0
の関係式(1)を満たすことが好ましく、
-2.0 ≦ (T1-T2)/ T1 ×100 ≦ 6.0
の関係式(2)を満たすことがさらに好ましい。
上記関係式において「(T1-T2)/ T1 ×100」の値がマイナスの値になることは、促進劣化試験を受けた塗膜の方が促進劣化試験前の塗膜より発光開始温度が高いことを示す。これは、特に水性塗料に見られる傾向であったが、塗料状態を保つために必要な界面活性剤や水性添加剤等の酸化され易い低分子量成分が溶出し、促進劣化試験を受けた塗膜の発光開始温度の方が高くなったものと考えられる。しかし、耐候性(光沢保持率)と発光開始温度の関係を検討した結果から、「(T1-T2)/ T1 ×100」の値がマイナスの値であっても-3.0までであれば、高耐候性の塗膜であると評価できることを確認している。
【0042】
本発明の塗膜評価方法は、有機質成分を含む塗膜全般に使用することができる。塗膜を構成する主な有機質成分は、有機系のバインダー成分であり、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ふっ素樹脂、アクリルシリコーン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などが例示されるが、これらに限定されるものではない。また、有機系のバインダー成分は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、塗膜には、透明塗料、エナメル塗料、光輝塗料等から形成される各種塗膜がある。塗料としては、水性塗料、有機溶剤系塗料、活性エネルギー線硬化系塗料、粉体系塗料、無溶剤系塗料等のあらゆる塗料が使用できる。
【0043】
本発明の塗膜評価方法において、評価対象である塗膜は、塗装体に形成された塗膜であってもよく、この場合、塗装体から塗膜を剥離せずに塗膜の化学発光量を測定することができる。また、本発明の塗膜評価方法において、塗膜は、複層膜であってもよく、この場合、複層膜の化学発光量を測定することができる。
【0044】
本発明の別の態様は、本発明の塗膜評価方法を用いて評価された高耐候性の塗膜である。本明細書では、この塗膜を「本発明の塗膜」とも称する。
【0045】
本発明の塗膜の一実施形態は、化学発光量と温度の関係を示す曲線上における微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度(T1)が190~330℃の範囲内である塗膜である。
ここで、温度(T1)を求めるための化学発光量と温度の関係を示す曲線は、酸素または空気雰囲気下、15℃/minの昇温速度で連続的に50℃から350℃まで昇温させる条件にて、塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして得られる化学発光量と温度の関係を示す曲線である。
【0046】
本発明の塗膜において、塗膜の温度(T1)が190~330℃の範囲内であると、耐候性に優れる。例えば、塗膜の温度(T1)を190℃以上にすることで、塗膜の光沢保持時間を長くすることができる。塗膜の温度(T1)は、200~330℃の範囲内であることが好ましく、210~330℃の範囲内であることが更に好ましい。
【0047】
本発明の塗膜の一実施形態は、化学発光量と温度の関係を示す曲線上における微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度を温度(T1)とし、促進劣化試験後の化学発光量と温度の関係を示す曲線上における微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度を温度(T2)とした場合、温度(T1)と温度(T2)は、
-3.0 ≦ (T1-T2)/ T1 ×100 ≦ 7.0
の関係式(1)を満たす、塗膜である。
ここで、温度(T2)を求めるための化学発光量と温度の関係を示す曲線は、上述の温度(T1)と同様に、酸素または空気雰囲気下、15℃/minの昇温速度で連続的に50℃から350℃まで昇温させる条件にて、塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして得られる化学発光量と温度の関係を示す曲線であるが、温度(T2)を求めるための塗膜は、JIS K 5600-7-7:2008のサイクルAの規定に従う促進劣化試験(キセノンランプ照射時間:200時間)を受けた塗膜である。
【0048】
本発明の塗膜において、温度(T1)と温度(T2)が関係式(1)を満たすものであると、耐候性に優れる。例えば、塗膜の温度(T1)と温度(T2)が関係式(1)を満たすことで、塗膜の光沢保持時間を長くすることができる。また、温度(T1)と温度(T2)は、
-2.0 ≦ (T1-T2)/ T1 ×100 ≦ 6.0
の関係式(2)を満たすことが好ましい。
【0049】
本発明の塗膜は、艶消し塗膜でもよいことから光沢度は特に制限されるものではないが、例えば、光沢有り塗膜である場合には、60°における光沢度が10以上であることが好ましく、例えば、艶有り塗膜である場合には、60°における光沢度が70~90であることが好ましい。また、塗膜の光沢度は、耐候性の指標として利用することができ、例えば、促進劣化試験の前後で塗膜の光沢度が変化しない、または当該光沢度の変化が小さいと、優れた耐候性であると判断できる。例えば、JIS K 5600-7-7:2008のサイクルAの規定に従う促進劣化試験後の塗膜の光沢値が促進劣化試験前の塗膜の光沢値(初期光沢値)に対して50%低下するまでの時間(50%の光沢保持時間)について、キセノンランプ照射時間が2000時間以上となる塗膜が耐候性の観点から好ましく、3000時間以上となることがより好ましい。
【0050】
本明細書において、60°における光沢度は、JIS K5600-4-7(ISO 2813:1994)で規定される60°における鏡面光沢度(D60)により、例えば、日本電色株式会社製 光沢計VG-2000を用いて測定可能である。
【0051】
本発明の塗膜は、酸素透過率が7.5cc・μm/cm/day以下であることが好ましい。本明細書において、酸素透過率は、酸素透過率測定装置(例えばイリノイ社製8001)を用いて、等圧法(モコン法)にて測定される。具体的には、塗膜を装置内の拡散チャンバー内に固定し、塗膜を透過する酸素の移動速度(OTR)を検出する。検出器の校正には、透過率既知の標準フィルムを用いる。また、酸素透過率の下限値は、例えば0.005cc・μm/cm/dayである。
【0052】
本発明の塗膜は、バインダー成分、染料や顔料等の色材、体質顔料等の各種顔料、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤、酸化防止剤、可塑剤、防錆剤、艶消し剤、充填剤、荷電制御剤、導光材、光輝材、磁性材、蛍光体、ワックス、抗菌剤、抗ウイルス剤、防腐剤、表面調整剤、消泡剤、分散剤等の各種成分を必要に応じて適宜含むことができる。
【0053】
本発明の塗膜は、有機質成分を含む塗膜である。塗膜を構成する主な有機質成分は、有機系のバインダー成分であり、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ふっ素樹脂、アクリルシリコーン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などが例示されるが、これらに限定されるものではない。有機系のバインダー成分は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の塗膜中において、バインダー成分の量は、例えば30~100質量%である。
【0054】
本発明の塗膜において、バインダー成分は、架橋構造を有することが好ましい。架橋構造を有するバインダー成分を用いることで、塗膜の耐候性を向上させることができる。例えば、架橋性単量体を用いてバインダー成分を合成したり、バインダー成分を架橋剤と組み合わせたりすることで、バインダー成分に架橋構造を導入することができる。
【0055】
架橋性単量体としては、例えば、2個以上の重合性基を有する化合物、重合性基と、化学反応による架橋性を有する基とを有する化合物等が挙げられる。重合性基としては、例えば、アルケニル基(ビニル基、アリル基等)、アルケニルカルボニル基(例えば、(メタ)アクリロイル基、クロトノイル基等)等の重合性不飽和基等が挙げられる。また、化学反応による架橋性を有する基としては、例えば、エポキシ基、カルボニル基、アジリジニル基、イソシアナト基、シラン基等が挙げられる。架橋性単量体は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
架橋剤としては、例えば、メラミン系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アクリルアミド系架橋剤、ポリアミド系架橋剤、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、チタネート系架橋剤、尿素系架橋剤、アルキルアルコール化尿素系架橋剤、ヒドラジド系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、シランカップリング剤、ジルコニウム化合物、亜鉛化合物、チタニウム化合物、アルミニウム化合物等の多価金属化合物等が挙げられる。架橋剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
バインダー成分は、紫外線吸収剤に由来する構造単位および/またはラジカル捕捉剤に由来する構造単位を含むことが好ましい。例えば、重合性の紫外線吸収剤や重合性のラジカル捕捉剤を用いることでバインダー成分に紫外線吸収剤やラジカル捕捉剤に由来する構造単位を導入することができる。紫外線吸収剤に由来する構造単位および/またはラジカル捕捉剤に由来する構造単位を含むバインダー成分を用いることで、塗膜の耐候性を向上させることができる。
【0058】
重合性の紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体、ベンゾフェノン系紫外線吸収性単量体等の紫外線吸収性単量体が挙げられる。重合性のラジカル捕捉剤としては、例えば、ヒンダードアミン系重合性光安定性単量体等の重合性光安定性単量体が挙げられる。ヒンダードアミン系重合性光安定性単量体としては、例えば、ピペラジン骨格(特に、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン骨格)を有する重合性化合物(ピペラジン骨格及び重合性基を有する化合物)等が挙げられる。
【0059】
本発明の塗膜は、紫外線吸収剤を含むことが好ましい。紫外線吸収剤は、紫外線を吸収し、紫外線による劣化を防止する作用を有する。紫外線吸収剤を用いることで、塗膜の耐候性を向上させることができる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤(特にヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤)、ベンジリデンカンファー系紫外線吸収剤等が挙げられる。紫外線吸収剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、紫外線吸収剤は、吸収ピークの異なる2種以上の紫外線吸収剤を含むことが好ましい。本発明の塗膜中において、紫外線吸収剤の量は、例えば0.2~25質量%である。好ましくは1~20質量%である。
【0060】
本発明の塗膜は、ラジカル捕捉剤を含むことが好ましい。ラジカル捕捉剤は、フリーラジカル等を捕捉し、光安定性を向上させることができる。また、本発明においては、フリーラジカルと反応し、重合反応が起こることを防止する機能を有する物質(いわゆる重合禁止剤)も、ラジカル捕捉剤に含まれる。ラジカル捕捉剤を用いることで、塗膜の耐候性を向上させることができる。ラジカル捕捉剤としては、例えば、ヒンダードアミン系化合物、ハイドロキノン系化合物、フェノール系化合物、フェノチアジン系化合物、ニトロソ系化合物、N-オキシル系化合物等が挙げられ、特にヒンダードアミン系光安定化剤(HALS)が好ましい。ラジカル捕捉剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の塗膜中において、ラジカル捕捉剤の量は、例えば0.1~20質量%である。好ましくは1~18質量%である。
【0061】
ヒンダードアミン系光安定化剤(HALS)は、例えば、上述のヒンダードアミン系重合性光安定性単量体のような共重合型HALSの他、低分子量型HALS、中分子量型HALS、高分子量型HALS、樹脂内包型HALS等に分類することができる。本明細書では、分子量が500以下のHALSを低分子量型、分子量が500を超え且つ1000未満のHALSを中分子量型、分子量が1000以上のHALSを高分子量型に分類する。HALSが塗膜に長期間保持される程、耐候性は向上する。そして、HALSの分子量が高い程塗膜に保持され易く、さらに、塗膜中の樹脂と共重合させることによってさらに長期間保持され耐候性が向上する。また、最も劣化が進行しラジカルが発生し易い表層部分にHALSを配置することで耐候性が向上する。以上より、表層に移行しやすい低分子量HALSと、長期保持されやすいHALSを組み合わせることが好ましい。また、樹脂内包型HALSは、樹脂中に内包され水分散させたHALSであり、塗料中に安定に添加し易く塗膜から溶出し難い。
【0062】
本発明の塗膜は、染料や顔料等の色材を含むことができる。色材としては、公知の材料が使用でき、例えば、カーボンブラック、黄色酸化鉄、弁柄、複合酸化物(ニッケル・チタン系、クロム・チタン系、ビスマス・バナジウム系、コバルト・アルミニウム系、コバルト・アルミニウム・クロム系、ウルトラマリンブルー)、酸化チタン等の無機顔料・染料や、キナクリドン系、ジケトプロロピール系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリノン系、アンスラピリミジン系、フタロシアニン系、スレン系、ジオキサジン系、アゾ系等の有機顔料・染料が挙げられる。耐候性の観点から、無機顔料を用いることが好ましい。色材は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の塗膜中において、色材の量は、例えば0~60質量%である。
【0063】
本発明の塗膜には、重合開始剤や硬化触媒が残留していないことが好ましい。塗膜中に重合開始剤や硬化触媒が存在すると、塗膜中の有機質成分が酸化されやすく、塗膜の耐候性を低下させる恐れがある。
【0064】
本発明の塗膜の膜厚は、例えば0.01~100μmであり、好ましくは0.1~90μmであり、より好ましくは1~75μmである。膜厚が薄いと、バインダー成分が十分に融着できず、酸素が透過し易い塗膜となる傾向があり、塗膜の耐候性を低下させる恐れがある。
【0065】
本発明の塗膜は、複層膜であってもよい。
【0066】
本発明の塗膜には、透明塗料、エナメル塗料、光輝塗料等から形成される各種塗膜がある。ここで、塗料としては、水性塗料、有機溶剤系塗料、活性エネルギー線硬化系塗料、粉体系塗料、無溶剤系塗料等のあらゆる塗料が使用できる。
【0067】
塗料は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製できる。塗料は、各種成分を予め混合されたものを塗装時にそのまま使用する1液型、別々に保管しておいた2つ以上の成分(例えば、主剤と硬化剤)を塗装時に混合して使用される多液型(例えば、2液型)のいずれの形態であってもよい。
【0068】
塗料の最低造膜温度(MFT)は制限されないが、0~70℃であることが好ましい。最低造膜温度が高いと、バインダー成分が十分に融着できず、酸素が透過し易い塗膜となる傾向があり、塗膜の耐候性を低下させる恐れがある。
【0069】
本明細書において、最低造膜温度とは、塗料を乾燥させたとき、き裂のない均一な塗膜が形成される最低温度であり、JIS K 6828-2:2003に準拠して測定される。
【0070】
塗料は、せん断速度0.1(1/s)における粘度が0.001~1000(Pa・s、23℃)であり、せん断速度1000(1/s)における粘度が0.001~10(Pa・s、23℃)であることが好ましい。本明細書において、粘度は、レオメーター(例えば、TAインスツルメンツ社製レオメーターARES)を用い、液温を23℃に調整した後に測定される。
【0071】
塗料の塗装手段は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、コテ塗装、ヘラ塗装、フローコーター塗装、スプレー塗装(例えばエアースプレー塗装、エアレススプレー塗装など)等が利用できる。
【0072】
塗料の乾燥手段は、特に限定されず、周囲温度での自然乾燥や乾燥機等を用いた強制乾燥、光硬化のいずれであってもよい。
【0073】
本発明の別の態様は、本発明の塗膜評価方法を用いて評価された高耐候性の塗膜を備える塗装体である。本明細書では、この塗装体を「本発明の塗装体」とも称する。
【0074】
本発明の塗装体の一実施形態は、化学発光量と温度の関係を示す曲線上における微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度(T1)が190~330℃の範囲内である塗膜を備える塗装体である。
ここで、温度(T1)を求めるための化学発光量と温度の関係を示す曲線は、酸素または空気雰囲気下、15℃/minの昇温速度で連続的に50℃から350℃まで昇温させる条件にて、塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして得られる化学発光量と温度の関係を示す曲線である。
【0075】
温度(T1)が190~330℃の範囲内である塗膜を備える塗装体は、耐候性に優れる。例えば、塗膜の温度(T1)を190℃以上にすることで、塗膜の光沢保持時間を長くすることができる。塗膜の温度(T1)は、200~330℃の範囲内であることが好ましく、210~330℃の範囲内であることが更に好ましい。
【0076】
本発明の塗装体の一実施形態は、化学発光量と温度の関係を示す曲線上における微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度を温度(T1)とし、促進劣化試験後の化学発光量と温度の関係を示す曲線上における微分係数が最小となる接線と微分係数が最大となる接線との交点の温度を温度(T2)とした場合、温度(T1)と温度(T2)が、
-3.0 ≦ (T1-T2)/ T1 ×100 ≦ 7.0
の関係式(1)を満たす塗膜を備える塗装体である。
ここで、温度(T2)を求めるための化学発光量と温度の関係を示す曲線は、上述の温度(T1)と同様に、酸素または空気雰囲気下、15℃/minの昇温速度で連続的に50℃から350℃まで昇温させる条件にて、塗膜の化学発光量を測定し、縦軸を化学発光量、横軸を温度とするグラフにプロットして得られる化学発光量と温度の関係を示す曲線であるが、温度(T2)を求めるための塗膜は、JIS K 5600-7-7:2008のサイクルAの規定に従う促進劣化試験(キセノンランプ照射時間:200時間)を受けた塗膜である。
【0077】
温度(T1)と温度(T2)が関係式(1)を満たす塗膜を備える塗装体は、耐候性に優れる。例えば、塗膜の温度(T1)と温度(T2)が関係式(1)を満たすことで、塗膜の光沢保持時間を長くすることができる。また、温度(T1)と温度(T2)は、
-2.0 ≦ (T1-T2)/ T1 ×100 ≦ 6.0
の関係式(2)を満たすことが好ましい。
【0078】
本発明の塗装体において、塗膜は、艶消し塗膜でもよいことから光沢度は特に制限されるものではないが、例えば、光沢有り塗膜である場合には、60°における光沢度が10以上であることが好ましく、例えば、艶有り塗膜である場合には、60°における光沢度が70~90であることが好ましい。また、塗膜の光沢度は、耐候性の指標として利用することができ、例えば、促進劣化試験の前後で塗膜の光沢度が変化しない、または当該光沢度の変化が小さいと、優れた耐候性であると判断できる。例えば、JIS K 5600-7-7:2008のサイクルAの規定に従う促進劣化試験後の塗膜の光沢値が促進劣化試験前の塗膜の光沢値(初期光沢値)に対して50%低下するまでの時間(50%の光沢保持時間)について、キセノンランプ照射時間が2000時間以上となる塗膜が耐候性の観点から好ましく、3000時間以上となることがより好ましい。
【0079】
本発明の塗装体において、塗膜は、酸素透過率が7.5cc・μm/cm/day以下であることが好ましい。また、酸素透過率の下限値は、例えば0.005cc・μm/cm/dayである。
【0080】
本発明の塗装体において、塗膜は、上述の本発明の塗膜の説明が同様に当てはまる。例えば、本発明の塗装体において、塗膜は有機質成分を含む塗膜であり、塗膜を構成する主な有機質成分は有機系のバインダー成分であり、バインダー成分は架橋構造を有することが好ましく、バインダー成分は紫外線吸収剤に由来する構造単位および/またはラジカル捕捉剤に由来する構造単位を含むことが好ましく、塗膜は紫外線吸収剤を含むことが好ましく、塗膜はラジカル捕捉剤を含むことが好ましく、塗膜は染料や顔料等の色材を含むことができ、色材としては無機顔料を用いることが好ましく、塗膜には重合開始剤や硬化触媒が残留していないことが好ましい。また、本発明の塗装体において、塗膜の膜厚は、例えば例えば0.01~100μmであり、好ましくは0.1~90μmであり、より好ましくは1~75μmであり、塗膜は複層膜であってもよい。
【0081】
本発明の塗装体は、上述の塗膜(第1の塗膜)に加えて、第1の塗膜と異なる1層以上の更なる塗膜(第2の塗膜)を備えることができる。この場合、第1の塗膜は、塗装体の表層に位置することが好ましく、表面保護層として使用されることが好ましい。
【0082】
本発明の塗装体において、塗膜は、基材上に形成されている。
【0083】
基材としては、例えば、エポキシ樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリル樹脂、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリオレフィン、例えばポリプロピレン(PP)等のプラスチック基材、鉄鋼、亜鉛めっき鋼、錫めっき鋼、ステンレス鋼、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金等の金属基材、セメント、モルタル、コンクリート、スレート、石膏、ケイ酸カルシウム、ガラス、セラミック、炭酸カルシウム、大理石、人工大理石等の金属以外の無機質基材、木材等の木質基材、これら基材の2種以上の材料を組み合わせたような複合基材等が挙げられる。また、複合基材としては、例えば、木繊維補強セメント板、繊維補強セメント板、繊維補強セメント・珪酸カルシウム板等の複合基材、各種表面処理、例えば酸化処理が施された金属基材、その表面が無機物で被覆されているようなプラスチック基材(例えば、ガラス質で被覆されたプラスチック基材)等が挙げられる。
【0084】
基材は、様々な形状のものがあり、例えば、板状の基材等がある。基材の表面は、平滑であってもよいし、凹凸を有していてもよい。
【0085】
基材の具体例としては、建築物や構築物等の構造物、車両(自動車等)、家具、建具、電子機器(家電機器等)や、それらの部品が好適に挙げられる。ここで、本発明の塗装物品は、構造物の内外装用(内装用及び/又は外装用)の基材として好適である。本発明において、建築物とは、人間が居住又は滞在する目的で建築された構造物を意味し、例えば住宅(特には戸建や集合住宅)やビル、工場等が挙げられ、構築物とは、人間が居住又は滞在する目的以外のために建設された構造物を意味し、例えば橋梁、タンク、プラント配管、煙突等が挙げられる。また、構造物の部材としては、例えば屋根や壁(内壁や外壁など、特にはカーテンウォール)等が挙げられる。
【0086】
本発明の塗装体は、建材、特に建築板であることが好ましい。建築基材の具体例としては、例えば、単板、合板、パーティクルボード、中密度繊維板(MDF)等の木質建材;窯業系サイディングボード、フレキシブルボード、珪酸カルシウム板、石膏スラグバーライト板、木片セメント板、石綿セメント板、パルプセメント板、プレキャストコンクリート板、軽量気泡コンクリート(ALC)板またはALCパネル、石膏ボード等の窯業建材;金属サイディングボード、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属建材等の各種建材(特に建築板)が好適に挙げられる。また、基材の具体例として、塩ビシート、ターポリン、プラダン(プラスチック製ダンボール)、アクリル板等のプラスチック基材、タイル、ガラス板等も挙げられる。
【0087】
基材は、その表面に、脱脂処理、化成処理、研磨等の前処理や、シーラー、プライマー塗装等が施されていてもよい。例えば、基材が、窯業建材等の塗料を過度に吸い込む可能性のある基材(特に多孔性基材)である場合、基材の表面がシーラーで塗装され、基材上にシーラー層が形成されている場合がある。また、基材が、金属建材等である場合には、基材の表面がプライマーで塗装され、基材上にプライマー層が形成されている場合がある。
【実施例
【0088】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0089】
アクリル樹脂エマルジョンの調製
<樹脂A~F>
樹脂A~Fとして、以下の水分散性樹脂を用意した。粒子径は動的光散乱法によって測定される体積平均粒子径D50の値を示した。
・樹脂A:乳化剤としてKH10を使用した[モノマー組成:MMA/CHMA/EHA/MAA/KBM503(質量比30/42/25/2/1)]の乳化重合体、固形分量45質量%、平均粒子径90nm
・樹脂B:乳化剤としてKH10を使用し、重合性ラジカル捕捉剤としてLA-82を配合した[モノマー組成:MMA/CHMA/EHA/MAA/KBM503/LA-82(質量比29/42/24/2/1/2)]の乳化重合体、固形分量45質量%、平均粒子径90nm
・樹脂C:乳化剤としてKH10を使用し、重合性紫外線吸収剤としてRUVA-93を配合した[モノマー組成:MMA/CHMA/EHA/MAA/KBM503/RUVA-93(質量比29/42/24/2/1/2)]の乳化重合体、固形分量45質量%、平均粒子径90nm
・樹脂D:乳化剤としてハイテノールNF08を使用した[モノマー組成:MMA/CHMA/EHA/MAA/KBM503(質量比30/42/25/2/1)]の乳化重合体、固形分量45質量%、平均粒子径90nm
・樹脂E:乳化剤としてKH10を使用した[モノマー組成:MMA/CHMA/BA/BMA/MAA/KBM503(質量比27/30/20/20/2/1)]の乳化重合体、固形分量45質量%、平均粒子径90nm
・樹脂F:乳化剤としてハイテノールNF08を使用した[モノマー組成:MMA/CHMA/BA/MAA(質量比23/25/50/2)]の乳化重合体、固形分量45質量%、平均粒子径90nm
【0090】
略号は、以下のことを意味する。
・KH10:反応性乳化剤、第一工業製薬社製
・ハイテノールNF08:非反応性乳化剤、第一工業製薬社製
・MMA:メチルメタクリレート、ホモポリマーのTg105℃、SP値9.53
・CHMA:シクロヘキシルメタクリレート、ホモポリマーのTg60℃、SP値9.48
・EHA:2-エチルヘキシルアクリレート、ホモポリマーのTg-50℃、SP値9.2
・BA:n-ブチルアクリレート、ホモポリマーのTg-55℃、SP値9.67
・BMA:n-ブチルメタクリレート、ホモポリマーのTg20℃、SP値9.27
・MAA:メタクリル酸、ホモポリマーのTg130℃、SP値10.24
・KBM503:γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン
・LA-82:1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタアクリレート、ラジカル捕捉剤、アデカスタブLA-82、ADEKA社製
・RUVA-93:2-〔2'-ヒドロキシ-5'-(β-メタクリロイルオキシエトキシ)-3'-tert-ブチルフェニル〕-4-tert-ブチル-2H-ベンゾトリアゾール、紫外線吸収剤、大塚化学社製
【0091】
アルキド樹脂の調製
<樹脂G>
加熱装置、攪拌機、窒素ガス投入機および分水器を備えた反応器に、無水フタル酸12質量部、アジピン酸2質量部、安息香酸1.5質量部、ペンタエリトリトール12質量部、大豆油脂肪酸22質量部、アマニ油脂肪酸9質量部およびキシレン2質量部を還流冷却器つきのフラスコに仕込み、窒素ガス雰囲気中で攪拌しながら230℃で約8時間加熱し、樹脂酸価15になるまで脱水縮合反応を行った。その後130℃まで冷却後にキシレン43質量部を加えてアルキド樹脂を調製した。得られたアルキド樹脂溶液は、固形分量が55質量%、粘度が20ストークス、重量平均分子量が40,000であった。
【0092】
塗料の調製
<塗料1~7の調製>
以下のように、表1に示す樹脂(ただし、使用する場合は硬化剤を併記した)と二酸化チタンを用いてPWC(顔料重量濃度)が45%の塗料1~7を調製した。
塗料1では、主剤として溶剤系フッ素樹脂(旭硝子株式会社製、商品名LF200)と二酸化チタン1(石原産業株式会社製、商品名TIPAQUE PFC105)を用いて溶剤系フッ素樹脂を調製した。硬化剤としてイソシアネート(旭化成株式会社製、商品名デュラネートTPA-100、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヌレート型)を用いた。溶剤系フッ素樹脂80質量部と硬化剤20質量部を混合して、PWCが45%の塗料1を調製した。
塗料2では、フッ素樹脂エマルジョン(旭硝子株式会社製、商品名ルミフロンFE4300)と二酸化チタン1を用いた。
塗料3では、アクリルシリコーン樹脂エマルジョン(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名ポリデュレックスH7650)と二酸化チタン1を用いた。
塗料4では、アクリル樹脂エマルジョン(調製した樹脂A)と二酸化チタン1を用いた。
塗料5では、ウレタンディスパージョン(セイコー化成株式会社製、商品名ラックコートWN-3049)と二酸化チタン1を用いた。
塗料6では、アルキド樹脂(調製した樹脂G)と二酸化チタン1を用いた。
塗料7では、アクリル樹脂エマルジョン(調製した樹脂A)と二酸化チタン2(石原産業株式会社製、商品名TIPAQUE CR-50)を用いた。
さらに、塗料2~5と塗料7では、成膜助剤として溶剤(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)を樹脂固形分に対して10質量%添加した。
【0093】
使用した二酸化チタンの詳細は以下のとおりである。
二酸化チタン1:TIPAQUE PFC105
TiO量87%、表面処理Al、Si、Zr、有機物、平均粒子径0.28μm
二酸化チタン2:TIPAQUE CR-50
TiO量95%、表面処理Al、平均粒子径0.25μm
【0094】
<塗料8~19の調製>
表2に示す配合に従って原料を混合し、塗料を得た。
塗料8では、調製した樹脂Aを用いた。
塗料9では、調製した樹脂Aを用い、HALS1(BASFジャパン株式会社製、商品名TINUVIN292、低分子量HALS、分子量509、370)を添加した。
塗料10では、調製した樹脂B(共重合型HALS含有)を用いた。
塗料11では、調製した樹脂Aを用い、HALS2(BASFジャパン株式会社製、商品名TINUVIN123DW、樹脂内包型HALS)を添加した。
塗料12では、調製した樹脂Aを用い、HALS3(BASFジャパン株式会社製、商品名TINUVIN123、中分子量型HALS、分子量737)を添加した。
塗料13では、調製した樹脂Aを用い、UVA1(BASFジャパン株式会社製、商品名TINUVIN1130、非反応性UVA)を添加した。
塗料14では、調製した樹脂C(共重合型UVA含有)を用いた。
塗料15では、調製した樹脂Aを用い、HALS1とUVA1を添加した。
塗料16では、調製した樹脂B(共重合型HALS含有)を用い、さらにUVA1を塗膜当たり2質量%添加した。
塗料17では、調製した樹脂B(共重合型HALS含有)を用い、さらにHALS1を塗膜当たり2質量%とUVA1を塗膜当たり2質量%添加した。
塗料18では、調整した樹脂B(共重合型HALS含有)を用い、さらにHALS1を塗膜当たり7質量%とUVA1を塗膜当たり2質量%添加した。
塗料19では、調製した樹脂B(共重合型HALS含有)を用い、HALS1を塗膜当たり19質量%とUVA1を塗膜当たり10質量%添加した。
さらに、塗料8~19では、成膜助剤として溶剤(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)を樹脂固形分に対して10質量%添加した。
【0095】
使用したHALS及びUVAの詳細は、以下のとおりである。
・TN292:ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケートとメチル-1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル-セバケートの混合物、TINUVIN292、BASFジャパン社製
・TN123:ビス(1-オクトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、TINUVIN123、平均分子量737、BASFジャパン社製
・TN1130:メチル-3-[3-tert-ブチル-5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネートとポリエチレングリコール(分子量300)との縮合物、TINUVIN1130、BASFジャパン社製
【0096】
<塗料20~29の調製>
表3に示す配合に従って原料を混合し、塗料を得た。
塗料20は、フッ素樹脂エマルジョン1(旭硝子株式会社製、商品名ルミフロンFE4300)と調製した樹脂Aを固形分質量にて50対50の比で混合し調製された。
塗料21は、フッ素樹脂エマルジョン1と調製した樹脂Eを固形分質量にて50対50の比で混合し調製された。
塗料22は、フッ素樹脂エマルジョン2(アルケマ株式会社製、商品名Kynor Aquatec ARC)と調製した樹脂Aを固形分質量にて50対50の比で混合し調製された。
塗料23は、フッ素樹脂エマルジョン1と調製した樹脂Dを固形分質量にて50対50の比で混合し調製された。
塗料24では、調製した樹脂Aを用いた。
塗料25は、フッ素樹脂エマルジョン1と調製した樹脂Aを固形分質量にて5対95の比で混合し調製された。
塗料26は、フッ素樹脂エマルジョン1と調製した樹脂Aを固形分質量にて10対90の比で混合し調製された。
塗料27は、フッ素樹脂エマルジョン1と調製した樹脂Aを固形分質量にて30対70の比で混合し調製された。
塗料28は、フッ素樹脂エマルジョン1と調製した樹脂Aを固形分質量にて70対30の比で混合し調製された。
塗料29では、フッ素樹脂エマルジョン1を用いた。
【0097】
<塗料30~32の調製>
以下のように、表4に示す樹脂および艶消し剤を用いて、塗料を得た。
塗料30は、調製した樹脂Aと、HALS1を塗膜当たり2質量%と、UVA1を塗膜当たり2質量%と、艶消し剤1(ニホンエクスラン工業株式会社製、タフチック750SQ、アクリル微粒子)を塗膜当たり25質量%と、成膜助剤を混合し調製された。
塗料31は、調製した樹脂Aと、HALS1と、UVA1と、艶消し剤2(ダブリュー・アール・グレースジャパン株式会社製、SYLOID W500、二酸化ケイ素)、成膜助剤を混合し調製された。
塗料32は、調製した樹脂Dと、HALS1を塗膜当たり2質量%と、UVA1を塗膜当たり2質量%と、艶消し剤1(ニホンエクスラン工業株式会社製、タフチック750SQ、アクリル微粒子)を塗膜当たり25質量%と、成膜助剤を混合し調製された。
使用されたHALS1およびUVA1は、上記<塗料8~19の調製>に記載のとおりである。また、使用した成膜助剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテルである。
【0098】
<塗料33~34の調製>
以下のように、表4に示す樹脂と二酸化チタンを用いてPWC45%の塗料33~34を調製した。
塗料33は、調製した樹脂Aと二酸化チタン1、HALS1を用いた。
塗料34は、調製した樹脂Fと二酸化チタン1を用いた。
使用された二酸化チタン1は、上記<塗料1~7の調製>に記載のとおりであり、HALS1は、上記<塗料8~19の調製>に記載のとおりである。
【0099】
試験板の作製
<試験板1~7>
試験板1は、基材上に、塗料1をエアスプレーにより塗布量が100g/m(乾燥膜厚が30μm相当)になるよう塗装した後、30℃で24時間乾燥して作製した。
試験板2~5と試験板7は、基材を60℃に加温して、基材上に、表1に示す番号の塗料をエアスプレーにより塗布量が100g/m(乾燥膜厚が30μm相当)になるよう塗装した後、60℃で5分加熱して作製した。
試験板6は、基材上に、塗料6をエアスプレーにより塗布量が100g/m(乾燥膜厚が30μm相当)になるよう塗装した後、30℃で7日間乾燥し作製した。
【0100】
<試験板8~19>
試験板8~19は、基材を60℃に加温して、基材上に、表2に示す番号の塗料をエアスプレーにより塗布量が100g/m(乾燥膜厚が30μm相当)になるよう塗装した後、80℃で5分加熱し作製した。
【0101】
<試験板20~29>
試験板20~29は、基材を60℃に加温して、基材上に、表3に示す番号の塗料をエアスプレーにより塗布量が100g/m(乾燥膜厚が30μm相当)になるよう塗装した後、80℃で5分加熱し作製した。
【0102】
<試験板30~38>
複層膜の作製
試験板30~38は、複層膜を備える基材で構成され、基材を60℃に加温して、表4に示す番号のエナメル塗料を塗布量が130g/m(乾燥膜厚約30μm)になるように塗装した後、100℃×3分乾燥しエナメル板を作製した。エナメル板の表面温度を60℃に調製し、表4に示す番号のクリヤー塗料をエアスプレーにより塗布量が100g/m(乾燥膜厚が30μm相当)になるよう塗装した後、80℃で5分加熱し作製した。
【0103】
<基材>
試験板の作製では、基材として、以下のアルミニウム板を用いた。
アルミニウム板(150mm×70mm×0.8mm、TP技研(株)製)
【0104】
化学発光量の測定
作製した試験板について、連続的な昇温条件下にて化学発光量を測定した。
具体的には、基材から塗膜の剥離を行わずに試験板を1cm×1cmに切断し、測定用の試験片(塗膜付き基材)を用意した。微弱発光検出装置(東北電子産業株式会社製CLA-FS4)の試料室に測定用試験片を設置した。試料室に酸素を50mL/minで流し酸素雰囲気とし、15℃/minで連続的に昇温を続けながら、露光時間1秒で化学発光量を測定した。測定温度は50~350℃、検出波長は300~850nmとした。
化学発光量を縦軸に、温度を横軸とするグラフに測定結果をプロットし、化学発光量と温度の関係を示す曲線を得た。50~350℃の温度範囲において化学発光量と温度の関係を示す曲線上における微分係数が最小となる接線と、微分係数が最大となる接線との交点の温度を初期膜の発光開始温度(T1)として求めた。初期膜の発光開始温度(T1)を表1~4に示す。
【0105】
促進劣化後の化学発光量の測定
作製した試験板について、JIS K5600-7-7:2008のサイクルAの規定に基づき、キセノンウェザーメーターNX75(スガ試験機株式会社製)を用いて、試験板に200時間キセノンランプを照射して促進劣化試験を行い、促進劣化後の試験板を得た。
得られた促進劣化後の試験板について、上記「化学発光量の測定」と同様に試験片を用意し、同一の条件により連続的な昇温条件下での化学発光量を測定した。
化学発光量を縦軸に、温度を横軸とするグラフに測定結果をプロットし、化学発光量と温度の関係を示す曲線を得た。50~350℃の温度範囲において化学発光量と温度の関係を示す曲線上における微分係数が最小となる接線と、微分係数が最大となる接線との交点の温度を促進劣化後の発光開始温度(T2)として求めた。
さらに、上記「化学発光量の測定」で求めた初期膜の発光開始温度(T1)と、促進劣化後の発光開始温度(T2)を用いて、下記関係式の値を求めた。得られた値を表1~4に示す。
関係式: (T1-T2)/T1×100
【0106】
(耐候性の評価)促進劣化による光沢保持率の評価
作製した試験板について、JIS K5600-7-7:2008のサイクルAの規定に基づき、キセノンウェザーメーターNX75を用いて、試験板にキセノンランプを照射し、促進劣化試験を行った。
ここで、促進劣化試験前の試験板の光沢値を初期光沢値として測定し、また、促進劣化試験中においても試験板の光沢値を測定した。光沢値は、JIS K5600-4-7(ISO 2813:1994)で規定される60°における鏡面光沢度(D60)であり、日本電色株式会社製 光沢計VG-2000を用いて測定された。
初期光沢値と促進劣化試験中の光沢値から下記式より光沢保持率(%)を求め、光沢保持率が50%となる照射時間を表1~4に示す。
光沢保持率=促進劣化試験中での光沢値 / 初期光沢値 ×100
表1~4から分かるように、T1が190~330℃の範囲内にある場合や(T1-T2)/T1×100の値が-3.0~7.0の範囲内である場合では、光沢値が50%低下するまでの時間が長く、高耐候性の塗膜であると判断することができる。
【0107】
酸素透過率測定
試験板20~29と同様の塗膜をPP板上に作製し、酸素透過率測定装置(イリノイ社製8001)を用いて、等圧法にて測定を行ない、以下の基準に基づいて酸素透過率を評価した。評価結果を表3に示す。
○:0.005~7.5cc・μm/cm/day
×:7.5cc・μm/cm/dayより大きい値
【0108】
融着程度の評価
作製した試験板20~29について、塗膜中での樹脂の融着の程度を観察し、以下の基準で評価を行った。評価結果を表3に示す。
目視による評価
〇:良好な融着、×:ワレを確認
SEMによる評価
〇:良好な融着、×:クラックを確認
【0109】
【表1】
【0110】
表1から、光沢保持率が50%となる照射時間が大きい塗膜(耐候性が良好な塗膜)は、発光開始温度(T1)が高いことが確認された。また、光沢保持率が50%となる照射時間が大きい塗膜(耐候性が良好な塗膜)は、(T1-T2)/T1×100の値が小さくなり、-3.0から7.0の範囲であることが確認された。試験板6では、酸化され易い不飽和結合が塗膜中に含まれたため、また、酸化重合の程度が低いため塗膜中に酸素が拡散し易く、より低温から熱酸化分解が進行しT1が低かったと考えられる。
試験板4と試験板7は二酸化チタンの種類を変えた塗膜となる。試験板4に比べて試験板7は、光沢保持率が50%となる照射時間が短く耐候性が低かったが、T1は190℃以上であった。一方、(T1-T2)/T1×100の値は大きかった。試験板7に含まれる二酸化チタンは光活性能が高いために塗膜が劣化し易かったと考えられる。
【0111】
【表2】
【0112】
試験板8と9より、塗膜にHALSを添加することで、光沢保持率が50%となる照射時間が大きくなり、発光開始温度(T1)も高くなることが確認された。HALSの存在により、熱酸化分解時に生じたラジカルが捕捉され、T1が高くなったためと考えられる。
試験板9~12より、塗膜に添加するHALSの種類によって光沢保持率が50%となる照射時間と発光開始温度(T1)、(T1-T2)/T1×100の値が変化することが確認された。試験板9の低分子量型HALSに比べて、試験板10のHALSを共重合した塗膜はHALSが塗膜から溶出し難く、(T1-T2)/T1×100の値が小さくなり、光沢保持率が50%となる照射時間が大きくなったと考えられる。また、測定時にHALSが塗膜から揮発し難く、T1が高くなったと考えられる。
試験板11と12も同様に、低分子量型HALSに比べて、樹脂内包型HALSと中分子量型HALSは塗膜から溶出し難いため、(T1-T2)/T1×100の値が小さくなり、光沢保持率が50%となる照射時間が大きくなったと考えられる。また、測定時にHALSが塗膜から揮発し難く、T1が高くなったと考えられる。
試験板8と13、14より、塗膜にUVAを添加した際の挙動が確認された。UVAの添加はT1には大きく影響しないが、添加することで光沢保持率が50%となる照射時間は大きくなり、(T1-T2)/T1×100の値が小さくなった。さらに、共重合型UVAを用いることにより、光沢保持率が50%となる照射時間はより大きくなり、(T1-T2)/T1×100の値はより小さくなった。これは、非重合型のUVAに比べて樹脂に共重合したUVAは塗膜から溶出し難いためと考えられる。
試験板15と16は、HALSとUVAを両方添加した塗膜であり、試験板9と10と同様に、低分子量型HALSに比べて共重合型HALSを用いる方が(T1-T2)/T1×100の値はより小さくなることが確認された。
試験板17と試験板18、試験板19は、共重合型HALSと低分子量HALSを併用し、さらに非重合型のUVAを添加した塗膜であり、低分子量HALSの添加量を変化している。試験板17と18は試験板10に比べて、T1は高くなった。塗膜中のHALS添加量が増加することで、捕捉できるラジカル量が増えたためと考えられる。また、試験板17と18は試験板10に比べて、光沢保持率が50%となる照射時間は大きくなり、(T1-T2)/T1×100の値が小さくなった。塗膜中に共重合HALSが有ることで、類似構造の低分子量型HALSが塗膜へ保持されやすくなり、促進時のHALS溶出程度が減ったためと考えられる。
一方、試験板19は、低分子量型HALSを最も多く添加したが、光沢保持率が50%となる照射時間は大きくなり、(T1-T2)/T1×100の値が大きくなった。低分子量型HALSが過剰に添加されたため塗膜中樹脂が可塑化され、また密度が小さくなり、HALSが溶出しやすく、初期の塗膜状態を保てなかったためと考えられる。
【0113】
【表3】
【0114】
表3は、種々のフッ素樹脂エマルジョンと種々のアクリル樹脂エマルジョンの混合割合を変え、評価を行った。
試験板20と、試験板21と、試験板22と、試験板23より、フッ素樹脂エマルジョンとアクリル樹脂エマルジョンの種類によって、光沢保持率が50%となる照射時間と、発光開始温度(T1)、(T1-T2)/T1×100の値に差が見られた。試験板22と試験板23では、T1が低くなり、(T1-T2)/T1×100が大きくなった。試験板22では目視でも融着不良によるワレが確認され、酸素も透過し易かったことから劣化し易かったと考えられる。試験板23では、目視ではワレは確認されず、SEM観察でもクラックは確認されなかった。一方、酸素は透過し易かったことから、僅かに融着不良であったため、劣化し易かったと考えられる。
試験板20と試験板24~29より、同じフッ素樹脂エマルジョンと同じアクリル樹脂エマルジョンを用いても、その混合比が変わると、光沢保持率が50%となる照射時間と、発光開始温度(T1)、(T1-T2)/T1×100の値に差が見られた。試験板27では、他試験板に比べて、光沢保持率が50%となる照射時間が小さくなり、発光開始温度(T1)は低く、(T1-T2)/T1×100の値は大きくなった。試験板27は目視ではワレは確認されなかったが、SEM観察にて僅かに微細なクラックが確認され、エマルジョンが融着不良となり、酸素が透過し易かったために劣化し易かったと考えられる。
これより、目視では分からない融着不良などの塗膜欠陥による耐候性低下も、本手法を用いて評価することが出来ることが確認された。
【0115】
【表4】
【0116】
表4は、複層膜について評価を行った。
試験板30に比べて試験板31では、光沢保持率が50%となる照射時間が大きく、発光開始温度(T1)は高くなった。試験板31はクリヤーに低分子量型HALSを含むため、劣化し難かったと考えられる。さらに、試験板32では、より光沢保持率が50%となる照射時間が大きく、発光開始温度(T1)は高くなった。また(T1-T2)/T1×100の値は小さくなった。試験板32は、HALSが共重合された樹脂と、低分子量型HALSを併用しており、塗膜中のHALS添加量の増加によって捕捉できるラジカル量が増えたため、また、塗膜中に共重合HALSが有ることで、類似構造の低分子量型HALSが塗膜へ保持されやすくなり、促進時のHALS溶出程度が減ったためと考えられる。
試験板30と試験板33より、エナメル塗膜に二酸化チタン2を用いると光沢保持率が50%となる照射時間が短く、(T1-T2)/T1×100の値は大きくなることが確認された。二酸化チタン2の光活性能が高く、促進時にクリヤー塗膜を僅かに透過した光線により、クリヤーとエナメル塗膜の層間で劣化が進行したためと考えられる。
試験板30と試験板34より、エナメル塗膜に樹脂Fを用いると光沢保持率が50%となる照射時間が短く、(T1-T2)/T1×100の値は大きくなった。樹脂Fはクリヤー塗膜に使われる樹脂AとTgが離れているため、促進時にクリヤーとエナメル塗膜の層間で部分的に剥離が生じ、より酸素が透過し易くなったためと考えられる。
試験板30に比べて試験板35では、光沢保持率が50%となる照射時間が短く、T1は低く、(T1-T2)/T1×100の値は大きくなることが確認された。試験板35では、クリヤー膜の成膜助剤量が不足し融着不良であったためと考えられる。
試験板36~38では、クリヤー膜に艶消し剤を含む。試験板36~37に比べて試験板38は、光沢保持率が50%となる照射時間が短く、T1は低く、(T1-T2)/T1×100の値は大きくなることが確認された。試験板38ではPMMAビーズ(PMMAはポリメチルメタクリレートの略)が不均一に存在し、クリヤー膜が連続膜となっていなかったためと考えられる。
PMMAビーズやシリカなどの艶消し剤を塗膜に多く含む場合は、赤外吸収スペクトルや硬度など他手法による劣化評価が困難となることがあるが、本発明の塗膜評価方法では艶消し剤を多く含む塗膜においても耐候性を評価できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の塗膜評価方法によれば、耐候性の予測が難しい塗膜や塗装体について、長期の耐候性試験をせずとも、簡便な方法によって塗膜の耐候性を評価出来、高耐候性の塗膜を提供することができる。
【要約】
【課題】塗膜の耐候性を簡便に評価することが可能な塗膜評価方法を提供する。
【解決手段】酸素または空気雰囲気下、連続的な昇温条件にて塗膜の化学発光量を測定することで塗膜の劣化を予測する、塗膜評価方法である。
【選択図】図1
図1