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特許7259016ひずみ検出装置、ひずみ検出方法及び電気機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】ひずみ検出装置、ひずみ検出方法及び電気機器
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/16 20060101AFI20230410BHJP
【FI】
G01B11/16 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021513109
(86)(22)【出願日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2019015747
(87)【国際公開番号】W WO2020208769
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-06-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 恵一
(72)【発明者】
【氏名】金谷 和長
(72)【発明者】
【氏名】春日 靖宣
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/024303(WO,A1)
【文献】特開2018-145899(JP,A)
【文献】特開2010-085366(JP,A)
【文献】特開2011-027533(JP,A)
【文献】特開2010-071741(JP,A)
【文献】特開2000-193427(JP,A)
【文献】特開平08-255705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/16
G01D 5/26
G01D 5/353
G01L 1/24
G02B 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FOD又はFLDVのための光ファイバを有し、前記光ファイバの一部に検出対象物の表面に付着される付着部が構成されたセンサ部と、
前記検出対象物にひずみを与えるインパルス電流が流れることによって、前記光ファイバ内で生じる光伝送のFOD又はFLDVによる変化を検出して出力信号として出力する検出部と、
を有する光ファイバセンサと、
前記検出部からの出力信号に基づいて計測波形を生成する生成部と、
前記計測波形から、ひずみの判定に必要な波形を抽出する抽出部と、
前記抽出部にて抽出された波形に基づいて、インパルス電流が流れたときの前記検出対象物の挙動をシミュレーションで解析し、前記検出対象物に発生するひずみの周波数スペクトルを求め、当該周波数スペクトルを基に、ひずみ判定用の振動スペクトルを選定した上で、ひずみを解析し、少なくともひずみの大きさ、位置、方向のいずれかを定量的に測定可能となる解析部と、を有する信号処理部と、
を有するひずみ検出装置。
【請求項2】
前記付着部は、前記光ファイバを巻回した部分を含む請求項1記載のひずみ検出装置。
【請求項3】
前記付着部の巻回した部分は円形である請求項2記載のひずみ検出装置。
【請求項4】
前記付着部の巻回した部分はオーバル形である請求項2記載のひずみ検出装置。
【請求項5】
前記付着部の巻回した部分は、前記検出対象物の側面の周囲を、少なくとも一周した部分を有する請求項2記載のひずみ検出装置。
【請求項6】
前記付着部は、巻回されていない光ファイバの一部である請求項1記載のひずみ検出装置。
【請求項7】
前記検出対象物は、避雷器素子であり、
前記付着部による付着位置は、前記避雷器素子の側面である請求項1乃至6のいずれかに記載のひずみ検出装置。
【請求項8】
FOD又はFLDVのための光ファイバを有するセンサ部とFOD又はFLDVによって前記光ファイバ内で生じる光伝送の変化を検出する検出部とを有する光ファイバセンサと、生成部と抽出部と解析部とを有する信号処理部とを用いて、検出対象物のひずみを検出するひずみ検出方法であって、
前記検出対象物の表面に前記光ファイバの一部を付着し、
前記検出対象物にインパルス電流が流れることによって、前記光ファイバ内で生じる光伝送のFOD又はFLDVによる変化を前記検出部が検出して出力信号として出力し、
前記生成部が、前記検出部からの出力信号に基づいて計測波形を生成し、
前記抽出部が、前記計測波形から、ひずみの判定に必要な波形を抽出し、
前記解析部が、前記抽出部にて抽出された波形に基づいて、インパルス電流が流れたときの前記検出対象物の挙動をシミュレーションで解析し、前記検出対象物に発生するひずみの周波数スペクトルを求め、当該周波数スペクトルを基に、ひずみ判定用の振動スペクトルを選定した上で、ひずみを解析し、少なくともひずみの大きさ、位置、方向のいずれかを定量的に測定可能とするひずみ検出方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかのひずみ検出装置から前記光ファイバが分離可能に設けられ、
前記光ファイバの付着部が付着した検出対象物を有する電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ひずみ検出装置、ひずみ検出方法及び電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の振動やひずみを検出する主な検出手段としては、ひずみゲージや加速度センサなどがある。また、電気機器の筐体に対して、ピエゾ素子を用いたAEセンサや、磁歪素子を用いた振動センサなどによって、振動を検出する手法も提案されている。さらに、光-音響変換センサによって、音響を非接触で検出し、光信号で外部に取り出すことによっても、振動を検出可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-243700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガス遮断器、変圧器、避雷器などの高電圧機器における高電圧が印加される部位について、高電圧の印加により発生したひずみを計測したい場合がある。しかし、ひずみゲージ、加速度センサ、ピエゾ素子、磁歪素子などを用いた検出手段は、金属部分を有するため、高電圧が印加される部位に適用することは、安全性の観点からは好ましくない。また、高電圧機器が設置されているフィールドでは、電磁ノイズや機器自体から発せられる励磁ノイズが発生する。このため、電磁ノイズや励磁ノイズなどの影響を受けてS/N比が悪化するといったケースが多く、高精度なひずみ検出や定量的な評価が難しい。光-音響変換センサについても、センサの帯域や、サイズ、部材などのセンサ構造が原因で、高電圧部位に取り付けるのは実用的でない。さらに、スペース上の制約から、上記のようなセンサを高電圧機器の内部に設置することが困難なケースも多い。
【0005】
本発明の実施形態は、上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、所要スペースの制約があっても、センサ部を簡単に取り付けて高電圧部位のひずみを検出できるひずみ検出装置、ひずみ検出方法及び電気機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のひずみ検出装置は、FOD又はFLDVのための光ファイバを有し、前記光ファイバの一部に検出対象物の表面に付着される付着部が構成されたセンサ部と、前記検出対象物にひずみを与えるインパルス電流が流れることによって、前記光ファイバ内で生じる光伝送のFOD又はFLDVによる変化を検出して出力信号として出力する検出部と、を有する光ファイバセンサと、前記検出部からの出力信号に基づいて計測波形を生成する生成部と、前記計測波形から、ひずみの判定に必要な波形を抽出する抽出部と、前記抽出部にて抽出された波形に基づいて、インパルス電流が流れたときの前記検出対象物の挙動をシミュレーションで解析し、前記検出対象物に発生するひずみの周波数スペクトルを求め、当該周波数スペクトルを基に、ひずみ判定用の振動スペクトルを選定した上で、ひずみを解析し、少なくともひずみの大きさ、位置、方向のいずれかを定量的に測定可能となる解析部と、を有する信号処理部と、を有する。
【0007】
実施形態のひずみ検出方法は、FOD又はFLDVのための光ファイバを有するセンサ部とFOD又はFLDVによって前記光ファイバ内で生じる光伝送の変化を検出する検出部とを有する光ファイバセンサと、生成部と抽出部と解析部とを有する信号処理部とを用いて、検出対象物のひずみを検出するひずみ検出方法であって、前記検出対象物の表面に前記光ファイバの一部を付着し、前記検出対象物にインパルス電流が流れることによって、前記光ファイバ内で生じる光伝送のFOD又はFLDVによる変化を前記検出部が検出して出力信号として出力し、前記生成部が、前記検出部からの出力信号に基づいて計測波形を生成し、前記抽出部が、前記計測波形から、ひずみの判定に必要な波形を抽出し、前記解析部が、前記抽出部にて抽出された波形に基づいて、インパルス電流が流れたときの前記検出対象物の挙動をシミュレーションで解析し、前記検出対象物に発生するひずみの周波数スペクトルを求め、当該周波数スペクトルを基に、ひずみ判定用の振動スペクトルを選定した上で、ひずみを解析し、少なくともひずみの大きさ、位置、方向のいずれかを定量的に測定可能とする。
【0008】
実施形態の電気機器は、前記ひずみ検出装置から前記光ファイバが分離可能に設けられ、前記光ファイバの付着部が付着した検出対象物を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態のひずみ検出装置を示すブロック図
図2】光ファイバセンサの原理を示す構成図
図3】検出対象物である避雷器素子を示す斜視図
図4】巻回部分を有する付着部を示す斜視図
図5】巻回部分を有しない付着部を示す斜視図
図6】実施形態の検出手順を示すフローチャート
図7】雷インパルス電流発生装置の電極を示す斜視図
図8】センサ部の付着例を示す正面図
図9】光ファイバセンサとひずみゲージによるひずみ検出結果を示す図
図10】光ファイバセンサとひずみゲージによるひずみ検出結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態のひずみ検出装置を、図面を参照して説明する。図1はひずみ検出装置1の構成を示すブロック図、図2は光ファイバセンサ10を示す図、図3は検出対象物である避雷器素子Dを示す斜視図、図4及び図5は付着部11bの形態及び付着方向の例を示す図である。
【0011】
[概要]
図1及び図2に示すひずみ検出装置1は、検出対象物に対する雷インパルス試験のように、高電圧大電流下で行われる試験などにおいても、検出対象物のひずみを検出できる装置である。このために、ひずみ検出装置1は、耐熱性に優れ、電磁波の影響を受け難い光ファイバセンサ10を有する。光ファイバセンサ10としては、例えば、FOD(Fiber-Optic Doppler)/FLDV(Fiber-Optic laser Doppler velocimeter)を適用する。
【0012】
[検出対象物]
図3に示すように、実施形態における検出対象物の例は、避雷器の雷サージ吸収素子(以下、単に避雷器素子Dとする)である。避雷器素子Dは、例えば、酸化亜鉛などの非直線抵抗特性を有する材料を主成分として形成されている。避雷器素子Dは円柱形状であり、上面Sa及び底面Sbに通電用の電極が形成され、側面Scに絶縁性の材料によるコーティングが形成されている。電極は、例えば、アルミニウム蒸着の被膜により形成されている。コーティングは、例えば、ガラスにより形成されている。
【0013】
[ひずみ検出装置の構成]
図1を参照して、ひずみ検出装置1の構成を説明する。ひずみ検出装置1は、光ファイバセンサ10、信号処理部20、記憶部30を有する。
【0014】
[光ファイバセンサ]
光ファイバセンサ10は、センサ部11、検出部12を有する。
(センサ部)
センサ部11は、光ファイバ11aにより構成される。光ファイバ11aは、検出対象物の表面に付着される付着部11bを含む。付着部11bの付着は、耐熱性を有する接着剤Rにより行われる(図4及び図5参照)。光ファイバ11aの一端は入力側、他端は出力側であり、それぞれ検出部12との接続用のコネクタが設けられている。
【0015】
付着部11bは、種々の形態が適用できる。この付着部11bの形態の例を、図4及び図5を参照して説明する。まず、図4(A)、(B)、(C)、(D)は、光ファイバ11aを巻回した部分により付着部11bが構成される。図4(A)は、付着部11bを円形に巻回した例であり、円形を形成する面が避雷器素子Dの側面Scに、接着剤Rにより付着される。なお、側面Scに沿わせるために、付着部11bには湾曲が生じる。これは以下の態様でも同様である。
【0016】
図4(B)、(C)は、巻回した部分をオーバル形とした例である。オーバル形とは、楕円形、長円形又は卵形であって、短径と長径を有する形状である。付着部11bのオーバル形を形成する面が避雷器素子Dの側面Scに、接着剤Rにより付着される。図4(B)は、付着部11bの長径の方向が、避雷器素子Dの軸と平行な方向となるように付着した例である。図4(C)は、付着部11bの長径の方向が避雷器素子Dの周方向、つまり軸に直交する方向となるように付着した例である。図4(D)では、避雷器素子Dの側面Scの周囲を、少なくとも1周巻回した部分により、付着部11bが構成される。巻回の回数は、2回以上であってもよい。
【0017】
図5(A)、(B)、(C)は、巻回されていない光ファイバ11aの一部により付着部11bが構成されている。つまり、付着部11bは、光ファイバ11aの非巻回部分により構成されている。巻回されていない、非巻回とは、少なくとも一周する部分を有しないことをいう。図5(A)では、光ファイバ11aの軸方向が、避雷器素子Dの軸方向と平行となるように、付着部11bが付着されている。図5(B)では、光ファイバ11aの軸方向が、避雷器素子Dの周方向となるように、付着部11bが付着されている。図5(C)では、光ファイバ11aの軸方向が、避雷器素子Dの軸方向及び周方向に対して傾斜した方向となるように、付着部11bが付着されている。以上の付着部11bの種々の形態は、後述するようにそれぞれが利点を有している。
【0018】
検出部12は、避雷器素子Dに雷インパルス電流が流れることによって、光ファイバ11a内で生じる光伝送の変化を検出する。検出部12は、センサ部11への出力側の光の伝送路に沿って光源12a、HM12b、結合器12cを有し、センサ部11からの入力側の光の伝送路に沿って結合器12d、HM12e、検知器12f、変換器12gを有し、HM12b、12eの間に変調器12hが設けられている。
【0019】
光源12aは、レーザ光を出力する。HM12bはハーフミラーであり、光源12aからの光をセンサ部11側と、変調器12h側に分岐する。結合器12cは、光ファイバ11aの入力側のコネクタが接続されるポートを有し、センサ部11へ光を出力する。
【0020】
結合器12dは、センサ部11からの出力光を入力するために、光ファイバ11aの出力側のコネクタに接続されるポートを有する。HM12eはハーフミラーであり、変調器12hからの光とセンサ部11からの光とを結合する。検知器12fは、HM12eからの光から、光伝送の変化、つまり周波数変調量を検知する。変換器12gは、検知された周波数変調量を電圧値に変換して、出力信号として信号処理部20に出力する。
【0021】
[信号処理部]
信号処理部20は、光ファイバセンサ10からの出力信号に基づいて、ひずみを計測するための信号処理を行う。信号処理部20は、例えば、A/D変換ボード及びパーソナルコンピュータなどのコンピュータで構成する。コンピュータに、信号処理部20の各部を実現する診断ソフトをインストールすることにより、小型で可搬性に優れ、現地診断に有効なツールとなる。また、共通の避雷器素子Dに複数の光ファイバセンサ10の付着部11bを付着させて、複数の光ファイバセンサ10からの出力信号を、並行に処理できるように、A/D変換ボードを複数チャネル化してもよい。
【0022】
信号処理部20は、生成部21、抽出部22、解析部23を有する。生成部21は、光ファイバセンサ10からの出力信号に基づいて、計測波形を生成する。計測波形の生成は、例えば、光ファイバセンサ10からの出力信号を、サンプリング定理を満たすサンプリング周波数によって、高速サンプリングすることにより行う。光ファイバセンサ10の周波数帯域は数Hz~1MHzと広帯域であり、この帯域の周波数においては、フラットな感度を有する。従って、2MHz以上のサンプリング周波数で、サンプリングする。また、上記のように、複数チャネルの入力をA/D変換して高速サンプリングしてもよい。なお、生成部21は、精密さを重視して、オシロスコープなど精密機器により構成することもできる。この場合、生成部21での計測の後、診断ソフトをインストールしたコンピュータに、計測データを入力する。
【0023】
サンプリングした計測データは、ファイルに保存する。データの収集条件は、あらかじめ設定することができる。例えば、測定日時、温度、湿度、測定波形(光ファイバセンサA、光ファイバセンサB、・・・、電源信号)、電源周波数、被測定機器名、測定者名、サイト名、メーカー名、型式、デバイス名、製造番号、対象設備名称などのデータ収集条件を設定できる。このデータ収集条件に応じて、例えば、csv形式などのデータ形式とした計測データをファイルに保存する。
【0024】
抽出部22は、計測波形から、ひずみの判定に必要な波形を抽出する。波形の抽出は、例えば、計測波形から、電源電圧波形1周期分の波形を切り出し、包絡線処理後、1周期分の波形に対して、FFTやウェーブレット変換を実行することにより行う。
【0025】
解析部23は、抽出された波形に基づいて、ひずみを解析する。例えば、FFTやウェーブレット変換などで周波数解析を行うことにより、ひずみの周波数帯域が分かる。測定対象物の種類や試験の種類によって、得られる周波数スペクトルは微妙に異なる。そこで解析部23で得られた周波数スペクトルを基に、異常を判定するのに最適な振動スペクトル、つまり動的ひずみスペクトルを選定し、その挙動を監視する。これは、例えば、FFTやウェーブレット変換の結果得られたピークの周波数成分と、疲労試験機などで意図的に与えたひずみ量との相関関数を蓄積したひずみデータベースを参照して、ひずみを判定することにより行うことができる。これにより、例えば、ひずみの大きさ、位置、方向などを、直接検知して、定量的に測定することが可能となる。なお、記憶部30は、解析部23に接続され、このようなひずみデータベースを記憶している。
【0026】
[計測方法]
以上のようなひずみの計測方法を、以下に説明する。
[光ファイバセンサの検出原理]
まず、光ファイバセンサの検出原理を、図2を参照して説明する。すなわち、雷インパルス電流によって、検出対象物である避雷器素子Dにひずみが発生すると、これに応じて、付着部11bの光ファイバ11aの経路長も伸縮する。よって、光ファイバ11aの一端に、光源12aからの周波数fのレーザ光が入力されると、光ファイバ11a内にある瞬間に存在するレーザ光の波数は一定であることから、経路長が伸縮することにより、波長が伸縮する。すると、伝搬速度は一定であるから、周波数がfだけ変化する。これをレーザドップラ効果と呼ぶ。
【0027】
避雷器素子Dの表面に取り付けた付着部11b内にレーザ光が透過すると、レーザドップラ効果により、周波数のズレ、つまり周波数変調fが生じるため、光ファイバ11aからの出力光は、周波数f-fとなる。一方、HM12bにより分光された光源12aからの光は、変調器12hにより周波数fの基準光が加えられ、周波数f+fに変調される。光ファイバ11aからの出力光と、変調器12hにより変調された光がHM12eに入力され、周波数の差f+fが導出される。そして、検知器12fにおいて周波数変調fが検出され、変換器12gで電圧値に変換されて出力信号として出力される。
【0028】
この周波数変調fの量は、以下に示すように、検出対象物に生じた微小なひずみ速度(εx,εy)に比例する。このため、周波数変調fに基づいてひずみ速度を検出することができ、このひずみ速度により、ひずみの検出が可能となる。
【0029】
=neqNπRav(εx+εy)/λ0
eq;ファイバ中の透過屈折率
N;巻数
av;平均巻き径
λ0;入射光の波長
【0030】
[付着部の付着]
避雷器素子Dのひずみの計測に当たっては、まず、付着部11bを避雷器素子Dの表面に付着させる。光ファイバセンサ10の出力信号の強度は、付着部11bの付着位置に依存する。このため、避雷器素子D毎に、予備実験などによって、予め付着位置を特定しておくことが好ましい。
【0031】
さらに、上記のように光ファイバセンサ10の感度は、光ファイバ11aの巻数Nと平均巻き径Rav、つまり、付着部11bの光ファイバ11aの長さに比例する。このため、図4(A)~(D)に示すように、巻回部分を有する付着部11bの場合、高い感度が得られる。
【0032】
図4(A)に示すように、付着部11bが円形の巻回部分である場合には、避雷器素子Dの付着部11bが付着した部分のひずみを、等方的に検出することになる。つまり、360°のいずれの方向のひずみであっても、偏りなく検出する。但し、特定の方向のひずみに対して、感度を高めることは難しい。
【0033】
そこで、図4(B)、(C)に示すように、付着部11bをオーバル形の巻回部分とすることにより、ひずみの検出に異方性を持たせることができる。つまり、オーバル形の長径の方向が、感度を高めたいひずみの方向に沿うように付着させる。例えば、図4(B)に示すように、付着部11bの長径が、避雷器素子Dの軸と平行な方向となるように付着させることにより、軸方向のひずみに高い感度を持たせることができる。また、図4(C)に示すように、付着部11bの長径が、避雷器素子Dの側面の周方向となるように付着させることにより、周方向のひずみに高い感度を持たせることができる。
【0034】
さらに、図4(D)に示すように、避雷器素子Dの側面の周囲に光ファイバ11aを巻き付けた場合、光ファイバ11aは径方向に伸縮するので、径方向のひずみを検出することができる。
【0035】
また、上記のように、付着部11bを巻回した構成とする場合、付着作業を行う作業者の手間がかかる。そこで、図5(A)、(B)、(C)に示すように、付着部11bを巻回されていない光ファイバ11aの一部とする。そして、図5(A)に示すように、光ファイバ11aの軸方向が検出対象物の軸方向となるように、付着部11bを付着することにより、軸方向のひずみに高い感度を持たせることができる。
【0036】
また、図5(B)に示すように、光ファイバ11aの軸方向が検出対象物の周方向となるように、付着部11bを付着することにより、周方向のひずみに高い感度を持たせることができる。さらに、図5(C)に示すように、光ファイバ11aの避雷器素子Dの軸方向及び周方向に対して傾斜した方向となるように、付着部11bを付着することにより、軸方向及び周方向の双方のひずみに高い感度を持たせることができる。
【0037】
このように、付着部11bを巻回されていない光ファイバ11aの一部とすると、付着部11bの長さは、巻回した場合に比べて短くなる。しかし、高電圧、大電流の雷インパルス試験においては、光ファイバセンサ10の出力も大きくなり、ひずみの計測に必要な感度を得ることができる。このような感度が得られる付着部11bの長さとしては、例えば、1mm以上であればよい。
【0038】
さらに、付着部11bを巻回されていない光ファイバ11aの一部とすると、巻回する場合に比べて、付着部11bの付着に手間がかからない。このように手間がかからない長さとしては、例えば、周方向の場合には、半周以下でよい。
【0039】
異方的な検出が可能な図4(B)、(C)、図5(A)、(B)については、付着部11bを作業員が手作業で付着させる場合、厳密に軸方向や周方向と一致していなくてもよく、多少の傾きが生じてもよい。また、異方的な検出が可能な図4(B)、(C)の付着部11bを共通の避雷器素子Dの側面Scに付着したり、図5(A)、(B)の付着部11bを共通の避雷器素子Dの側面Scに付着してもよい。これにより、共通の避雷器素子Dに生じた異なる方向のひずみを同時に検出することができる。但し、図5(C)の態様の場合には、1つの付着部11bを付着させるだけで、異なる方向のひずみを同時に検出できるので、複数の付着部11bを用いる場合に比べて、作業が非常に簡単になる。また、複数のチャネルを用意する必要もなくなる。
【0040】
[検出手順]
以上のようなひずみ検出装置による検出対象物のひずみ検出手順を、図6のフローチャート、図7のインパルス試験装置の電極を示す斜視図を参照して説明する。インパルス試験装置は、短時間の急激な変化が1回又は不規則な間隔で発生するインパルス電流を、検出対象物に印加して、耐性を検証する装置である。避雷器素子Dのような落雷を受ける検出対象物の場合、雷を想定した過渡的な高電圧、大電流である雷インパルス試験装置を用いる。印加するインパルス電流は、検出対象物にひずみが発生する程度の電圧、電流とする。
【0041】
まず、光ファイバ11aの付着部11bは、作業員によって、避雷器素子Dの側面Scに接着剤Rにより付着される(ステップS101)。なお、光ファイバ11aの両端は、信号処理部20に接続された検出部12の結合器12c、12dに接続される。
【0042】
また、図7に示すように、雷インパルス電流発生装置の一対の電極ELの一方に、避雷器素子Dの底面Sbを載せる。そして、電極ELを下降させて、避雷器素子Dの上面Saに接触させる。これにより、電極ELに避雷器素子Dを電気的に接続する(ステップS102)。なお、避雷器素子Dへの付着部11bの付着を、避雷器素子Dの電極ELへの設置の後に行ってもよい。つまり、ステップS101とステップS102の作業は、順不同である。
【0043】
この状態で、雷インパルス試験装置によって、避雷器素子Dに、雷インパルス電流を印加する(ステップS103)。雷インパルス電流は、例えば、電圧20kV、電流100kAとするが、これには限定されない。光ファイバセンサ10からの出力信号が、信号処理部20に出力される(ステップS104)。生成部21は、出力信号を高速サンプリングすることにより計測波形を生成する(ステップS105)。抽出部22は、計測波形から、ひずみの判定に必要な波形を抽出する(ステップS106)。解析部23は、抽出された波形からひずみを解析する(ステップS107)。
【0044】
[試験結果]
疲労試験機による引張試験で、共通の試験体にひずみを発生させ、本実施形態の光ファイバセンサと、比較例のひずみゲージを用いて、ひずみ軸成分を分離して検出した例を、図8及び図9を参照して説明する。図8(A)は、付着部11bを長円形状として、長径の方向が試験体の軸方向、つまり鉛直方向となるように、接着剤Rにより試験体に付着させた状態を示す。図8(B)は、付着部11bの長径の方向が試験体の軸に垂直な方向、つまり水平方向となるように、接着剤Rにより試験体に付着させた状態を示す。また、ひずみゲージを、図8(A)及び図8(B)と同方向に試験体に貼り付けた。
【0045】
検出結果を、図9図10に示す。試験体の軸に平行な成分はx成分、試験体の軸に垂直な成分はy成分として示す。図9に示すように、ひずみゲージのx成分με、光ファイバセンサのx成分μεは、近似した振幅と波長で検出された。図10に示すように、ひずみゲージのy成分με、光ファイバセンサのy成分μεも、近似した振幅と波長で検出された。つまり、同一対象の同一のひずみに対して、ひずみゲージと光ファイバセンサとは同様の検出が可能となる。このため、ひずみゲージを用いることができない避雷器素子Dの雷インパルス試験においても、ひずみゲージと同等の検出結果を得ることができる。
【0046】
[作用効果]
以上のような実施形態のひずみ検出装置1は、光ファイバ11aを有し、光ファイバ11aの一部に検出対象物の表面に付着される付着部11bが構成されたセンサ部11と、検出対象物にひずみを与えるインパルス電流が流れることによって、光ファイバ11a内で生じる光伝送の変化を検出する検出部12と、を有する。
【0047】
このため、検出対象物に付着部11bを付着させることにより、インパルス電流による検出対象物のひずみを直接検出することができる。付着部11bは、従来型のセンサに比べて非常に細い光ファイバ11aであるため、所要スペースの制約があっても、検出したい所望の箇所に簡単に取り付けることができる。光ファイバ11aは可撓性を有し、形状の自由度が高く、絶縁物であることからも、高電圧機器への組込みが容易となる。
【0048】
また、検出原理が電気的ではなく光学的であるため、電磁ノイズの影響を受けない耐ノイズ性に優れた検出が可能となる。周波数帯域が広いため、複数現象の検出がし易くなる。例えば、センサ部11が受ける動的ひずみについて、数HzからMHz帯までフラットな感度特性を有するため、一つのセンサ部11で広い周波数帯域をカバーすることができ、様々な形状の素子に取り付けで、様々なモードのひずみを検出できる。光ファイバ11aは安価なため、複数箇所に付着させて検出する場合も、コストがかからない。このため、異常な箇所の推定が容易となる。さらに、光ファイバ11aは、耐熱性、耐久性がよいため、室温~300℃程度に広く適用でき、屋外でも使用できる。
【0049】
付着部11bは、光ファイバ11aを巻回した部分を含む。このため、FOD/FLDVなどの光ファイバセンサ10の感度は、検出部分の光ファイバ長に依存する。このため、巻回した部分を含む付着部11bが付着した領域の光ファイバ長を長くして、感度を高めることができる。
【0050】
付着部11bの巻回した部分を円形とすることにより、検出対象物のひずみを等方的に検出することができる。また、付着部11bの巻回した部分を、オーバル形とすることにより、検出対象物のひずみを異方的に検出することができる。このため、付着部11bの長径方向を、感度を高めたいひずみの方向に沿わせることにより、所望の方向のひずみに対する感度を高めることができる。付着部11bの巻回した部分が、検出対象物の側面の周囲を、少なくとも一周した部分を有することにより、検出対象物の径方向の歪みを検出することができる。
【0051】
付着部11bを、巻回されていない光ファイバの一部とすることにより、巻回作業を不要として、非常に簡単に検出対象物に付着させることができる。これにより作業者の作業負担を大幅に軽減することができ、作業時間、作業コストの低減につながる。また、作業者による付着部11bの形状のばらつきがなくなるため、付着部11bの形状の相違による検出のばらつきを抑えて、検出精度を高めることができる。
【0052】
ここで、上記のように、FOD/FLDVなどの光ファイバセンサ10の感度は、検出部分の光ファイバ長に依存する。すると、光ファイバ11aを巻回して検出箇所における光ファイバ長を長くすることが技術常識といえる。しかし、発明者らは、鋭意検討した結果、検出対象物に高電圧、大電流を印加する場合には、技術常識に反して、光ファイバ11aを巻回しなくても、検出対象物のひずみの検出のために十分な感度が得られることを見出した。しかも、上記のように、光ファイバ11aを長くすればするほど、作業者時間が長く、作業コストかかる上に、形状のばらつき等により検出精度が低下する可能性が高い。これに対して、発明者らは、敢えて巻回しないことによって、作業の手間がかからず、高い検出精度を得ることができるという巻回型では得られない優れた作用効果が得られるひずみ検出装置1を構成するに至った。
【0053】
検出対象物は、避雷器素子Dであり、付着部11bによる付着位置は、避雷器素子Dの側面である。このため、従来型のセンサでは直接設置して検出することができなかった避雷器素子Dに対して、雷インパルス電流の印加によるひずみ検出を、直接的に感度良く行うことができる。
【0054】
[他の実施形態]
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0055】
あらかじめセンサ部11の付着部11bが付着された電気機器を構成することも可能である。つまり、光ファイバ11aの付着部11bを付着した測定対象物を電気機器に組み込んでおくことにより、検出作業の手間を省くことができる。光ファイバ11aは、非常に細い絶縁物であるため、電気機器の機能には影響を与えない。なお、光ファイバ11aの両端のコネクタについては、保護カバーなどの養生をして劣化を防ぐことが好ましい。
【0056】
例えば、避雷器素子Dに、あらかじめセンサ部11の付着部11bを付着した避雷器素子Dを組み込んだ避雷器も構成できる。なお、検出対象物としては、避雷器素子Dには限定されない。例えば、変圧器内部の鉄心、巻線などを検出対象物としてもよい。センサ部11を複数チャネル用意して、検出部12に対して、チャネルを切り替えて検出するようにしてもよい。この場合、光源12aからの光源を複数用意するか、単一の光源12aからの光を複数に分岐させることにより、複数チャネルのセンサ部11を同時に検出に用いるようにしてもよい。チャネルの切り替えを時分割多重により行ってもよい。
【0057】
光ファイバセンサ10としては、FOD(Fiber-optic Doppler)センサには限定されない。FBG(Fiber Bragg Grating)センサを用いてもよい。但し、FBG(Fiber Bragg Grating)センサの場合には、光ファイバに、屈折率変調を生じさせる屈折率格子を設ける必要があるため、特別な光ファイバを用意する必要がある。しかし、FOD(Fiber-optic Doppler)センサを用いる場合には、全長に亘って共通の構成の光ファイバを適用することができ、安価に構成できるとともに、複数個所の設置の場合もコストが抑えられる。
【符号の説明】
【0058】
1 ひずみ検出装置
10 光ファイバセンサ
11 センサ部
11a 光ファイバ
11b 付着部
12 検出部
12a 光源
12b、12e HM
12c、12d 結合器
12f 検知器
12g 変換器
12h 変調器
20 信号処理部
21 生成部
22 抽出部
23 解析部
30 記憶部
D 避雷器素子
EL 電極
R 接着剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10