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特許7259050ナットウキナーゼの製造菌株およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-07
(45)【発行日】2023-04-17
(54)【発明の名称】ナットウキナーゼの製造菌株およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20230410BHJP
   C12N 9/56 20060101ALI20230410BHJP
   A61K 35/741 20150101ALI20230410BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20230410BHJP
   A61K 38/48 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N9/56
A61K35/741
A61P7/02
A61K38/48
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021540418
(86)(22)【出願日】2019-07-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 CN2019094334
(87)【国際公開番号】W WO2021000247
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2021-07-12
【微生物の受託番号】CGMCC  CGMCC 17895
(73)【特許権者】
【識別番号】521198619
【氏名又は名称】サンゲン バイオサイエンス カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ジエペン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥアン,リリ
(72)【発明者】
【氏名】ホン,リン
(72)【発明者】
【氏名】ジ,イェユ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ホングリュイ
(72)【発明者】
【氏名】カイ,チュンリ
(72)【発明者】
【氏名】フー,リウソン
(72)【発明者】
【氏名】シュー,ジカイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ユファン
【審査官】中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-059705(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01927365(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12N 9/00- 9/99
A61K 35/741
A61P 7/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CGMCC No.17895で中国微生物菌種寄託管理委員会普通微生物センターに寄託される納豆菌(Bacillus subtils natto)株。
【請求項2】
ナットウキナーゼ製品を製造する方法であって、請求項1に記載の納豆菌株を培地で培養することで、前記培地にナットウキナーゼを生成することを含む、前記方法。
【請求項3】
前記培地が炭素源物質と窒素源物質とを含み、且つ前記炭素源物質と前記窒素源物質との比が10:1~1:2であり、
前記炭素源物質が、グルコース、スクロース、マルトース、フルクトース、およびグリセロールからなる群から選択される1種または複数種であり、
前記窒素源物質が、酵母粉末、ペプトン、大豆粉、およびひよこ豆粉からなる群から選択される1種または複数種である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記培地が、さらに、微生物の増殖を促進してナットウキナーゼの収率を向上させる有機物、無機物、または有機物と無機物との混合物を含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記有機物が、セリン、グリシン、およびアラニンからなる群から選択される1種または複数種である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記無機物が、マグネシウム塩またはナトリウム塩であ、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記無機物が、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウムである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
培養が、35~45℃でわれる、請求項2~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
培養が、10~48時間けられる、請求項2~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
培養が、37~40℃で行われ、且つ12~24時間続けられる、請求項2~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
発酵工程において炭素源物質または窒素源物質、或いは炭素源物質と窒素源物質との混合物を追加することを含む、請求項2~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
(1)菌体と上清とを分離する固液分離工程と、
(2)分子量範囲が000~50,000Dある限外ろ過膜で分離を行い、ナットウキナーゼ濃縮液を得る工程と、
(3)前記ナットウキナーゼ濃縮液の導電率が300μs/cm以下なるように、1mmol/Lの等張NaCl溶液で洗浄を行う工程と、
(4)霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥である乾燥工程と、
をさらに含む、請求項2~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(2)において前記限外ろ過膜の分子量範囲が10,000~30,000Dであり、ステップ(3)において前記ナットウキナーゼ濃縮液の導電率が100μs/cm以下となるようにする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
固液分離が、セラミックス膜による分離または遠心分離により行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記乾燥工程に保護剤を添加し、前記保護剤が豆タンパク質粉末、コラーゲンパウダー、食物繊維、微結晶セルロース、コーンスターチ、またはこれらの組成物であ、請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記保護剤が5~25%の大豆タンパク質粉末と2.5~12.5%の食物繊維である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ナットウキナーゼ製品の活性が65,000~750,000FU/gであり、436,000~5,025,000IU/gに相当する、請求項2~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記ナットウキナーゼ製品が血栓溶解用医薬品に用いられる、請求項2~17のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は微生物発酵の分野に関するものには限られず、具体的に、本願はナットウキナーゼの製造菌株、およびナットウキナーゼ製品の製造方法に関するがこれに限られない。
【背景技術】
【0002】
ナットウキナーゼは、国際的に認められたヒト心脳血管疾患の予防、保健および治療に用いられる最も重要な活性分子の一つであり、納豆菌の発酵により生成された微量の活性物質である。長年に、食品、栄養補助食品および中国国内の保健用食品市場に広く応用されている。ナットウキナーゼの栄養補助食品の原料は国際国内市場の需要量が巨大である。
【0003】
現在、国際的な範囲内のナットウキナーゼは主として日本、中国台湾、米国で産出されている。日本産のナットウキナーゼは納豆菌(Bacillus subtilis natto)の発酵納豆から抽出され、活性は10,000~22,000FU/gであり、67,000~147,400IU/gに相当する。日本では、主に四つのメーカー、即ち、ナビオ社、バイオテクノロジー社、大和社、および本田社の子会社がナットウキナーゼを製造する。ナットウキナーゼの製造が最も早く、生産量が最も大きいのは、バイオテクノロジー会社であり、中国台湾および日本の大部分の市場を占める。大和会社で製造されたナットウキナーゼ粉末は、日本でも一定の市場シェアを占める。この2社のナットウキナーゼ原料は、自用されて外部に販売されない。バイオテクノロジー会社および大和会社が使用する技術は古く、製品の効果が単一であり、粘着物質の保護が欠け、失活しやすく、安定性に劣るが、コストが低い。本田社の子会社は基本的にバイオテクノロジー社と同じであり、ナットウキナーゼ特許を有する。日本ナビオ社はナットウキナーゼ製造の新進社であり、ナットウキナーゼ製品の活性は22,000FU/gに達し、147,400IU/gに相当するが、価格が高い。中国台湾産のナットウキナーゼの技術は日本由来である。米国産のナットウキナーゼは麹菌発酵物から抽出され、製品に納豆菌およびビタミンK2などの粘性物質を含まず、「血栓溶解酵素」と呼ぶことができる。
【0004】
文献によると、納豆菌を利用して液体発酵を行い、ナットウキナーゼの収量は3,232IU/ml(482.4FU/mlに相当)であることが報告されている(XIONG Qiang et al, Study on Liquid fermentation of nattokinase. Chinese Journal of Bioprocess Engineering, 2012,10(04):26-29.)。
【0005】
中国では、納豆産業が急速な発展段階にあり、新鮮な納豆および納豆抽出粉末を主な原料とする複合飲料、キャンディー、ビスケットおよび健康食品などの納豆系食品が消費のホットスポットとなっている。しかし、ナットウキナーゼが不安定であるため、精製過程が変性しやすく、現在ナットウキナーゼ純品を取得することは非常に困難である。現在中国および外国にはナットウキナーゼ純品またはその製剤がまだ販売されておらず、ナットウキナーゼの医薬品もない。したがって、本願の目的はナットウキナーゼを製造・精製する方法を提供することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以下、本発明の概要について詳細に説明する。本概要は、特許請求の範囲を限定するためのものではない。
【0007】
本願は、従来の技術の欠点を克服し、市場の需要を満たすために、ナットウキナーゼを生成することができる新たな菌種を提供することである。
【0008】
本出願人は長年にわたって鋭意研究し、市販の新鮮な納豆から納豆菌株を分離し、それを出発株として、新たな納豆菌(Bacillus subtilis natto)ST1086を変異誘発し、該誘発菌株はCGMCC No.17895で中国微生物菌種寄託管理委員会普通微生物センターに寄託され、アドレスは中国北京市朝陽区北辰西路1号院3号、中国科学院微生物研究所であり、寄託日は2019年6月5日である。本出願人は市販の新鮮な納豆から菌株を分離し、ナットウキナーゼを生産する菌株ST102を得る。ST102菌株を出発株として、紫外線による変異誘発を行い、紫外線による変異誘発を50世代行った後に形態変異株ST1086が得られ、ナットウキナーゼの生産量を11倍向上させる。以上の形態変異およびナットウキナーゼの生産量は、数世代の継代培養により比較的安定している。
【0009】
本願による新たな菌株CGMCC No.17895は、グラム陽性菌、芽胞間生、芽胞の大きさが0.6~0.8μm×1.0~1.5μm、菌体の幅が1μm、長さが2~3μmという微生物学的特性を有する。LB寒天培地で、コロニーの表面が飽和し、しわがあり、白であり、突起し、糸引きでき、コロニー径が0.3~0.5cm、色素無し、菌体を10時間培養して芽胞が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の一態様では、本願の新たな菌株CGMCC No.17895を使用してナットウキナーゼ製品を製造する方法を提供し、培地で本願の菌株CGMCC No.17895を培養し、前記培地でナットウキナーゼを生成することを含む。培養は本分野の従来または既知の装置や条件下で行うことができ、例えば、振とうフラスコを用いて本分野の従来または既知の回転速度で行うことができ、通常の発酵タンク、例えば5L発酵タンク、5T発酵タンクで行うこともできる。
【0011】
いくつかの実施形態において、培地が炭素源物質と窒素源物質とを含み、前記炭素源物質と前記窒素源物質との比が10:1~1:2である。いくつかの実施形態において、炭素源物質が、グルコース、スクロース、マルトース、フルクトース、およびグリセロールからなる群から選択される1種または複数種であり、窒素源物質が、酵母粉末、ペプトン、大豆粉、およびひよこ豆粉からなる群から選択される1種または複数種である。
【0012】
さらにいくつかの実施形態において、培地が、微生物の増殖を促進してナットウキナーゼの収率を向上させる有機物、無機物、または有機物と無機物との混合物を含む。いくつかの実施形態において、有機物が、セリン、グリシン、およびアラニンからなる群から選択される1種または複数種であり、無機物が、マグネシウム塩またはナトリウム塩である。好ましくは、無機物が、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウムである。
【0013】
他の実施形態において、培養が、35~45℃で、好ましくは37~40℃で行われる。いくつかの実施形態において、培養が、10~48時間、好ましくは12~24時間続けられる。
【0014】
いくつかの実施形態によれば、前記方法は、発酵過程において炭素源物質または窒素源物質、或いは炭素源物質と窒素源物質との混合物を追加することを含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、(1)菌体と上清とを分離する固液分離工程と、(2)分子量範囲が好ましくは1,000~50,000D、より好ましくは10,000~30,000Dである限外ろ過膜で分離を行い、ナットウキナーゼ濃縮液を得る工程と、(3)前記ナットウキナーゼ濃縮液の導電率が300μs/cm以下、好ましくは200μs/cm以下、より好ましくは100μs/cm以下となるように、1mmol/LのNaCl溶液で洗浄を行う工程と、(4)好ましくは噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥である乾燥工程と、をさらに含む。いくつかの実施形態において、固液分離が、本分野の従来または既知の固液分離により行われ、例えば、セラミック膜分離または遠心分離である。いくつかの実施形態において、乾燥工程に保護剤を添加し、前記保護剤は、好ましくは大豆タンパク質粉末、コラーゲンパウダー、食物繊維、微結晶セルロース、コーンスターチ、またはこれらの組成物であり、より好ましくは5~25%の大豆タンパク質粉末と2.5~12.5%の食物繊維である。
【0015】
いくつかの実施形態によれば、本願の方法により得られたナットウキナーゼ製品の活性は65,000~750,000FU/gであり、436,000~5,025,000IU/gに相当する。
【0016】
別の態様では、本願は、本願の新たな菌株CGMCC No.17895から発酵培養された培養液でナットウキナーゼ製品を製造する方法をさらに提供する。いくつかの実施形態において、前記方法は、
(1)例えば、セラミック膜分離、遠心分離の本分野の従来または既知の固液分離方法を用いて菌体と発酵上清とを分離する固液分離工程と、
(2)分子量範囲が好ましくは1,000~50,000D、より好ましくは10,000~30,000Dである限外ろ過膜で分離を行い、ナットウキナーゼ濃縮液を得る工程と、
(3)前記ナットウキナーゼ濃縮液の導電率が300μs/cm以下、好ましくは200μs/cm以下、より好ましくは100μs/cm以下となるように、等張塩溶液で洗浄を行う工程と、
(4)好ましくは噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥である乾燥工程と、
を含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、乾燥過程に本分野の従来的または既知の保護剤を添加し、例えば大豆タンパク質粉末、コラーゲンパウダー、食物繊維、微結晶セルロース、コーンスターチ、またはこれらの組成物であり、好ましくは5~25%の大豆タンパク質粉末と2.5~12.5%の食物繊維である。
【発明の効果】
【0018】
本願の菌種CGMCC No.17895および本願の発酵方法を採用よれば、16~24時間の短期間、収量が12,000IU/ml(1,791.0FU/mlに相当)に達し、最終的にナットウキナーゼ製品活性が65,000~750,000FU/gであり、製剤プロセスの過程でより安定する。
【0019】
具体的な実施形態を読んで理解した後、他の態様を理解することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施例により本願をさらに説明し、これらの説明は本願の内容をさらに限定するものではない。当業者であれば理解されるように、本願の技術的解決手段の精神および範囲から逸脱することなく、本願の技術的解決手段に対して修正または同等置換を行うことができ、いずれも本願の特許請求の範囲に含まれるべきである。
【0021】
本願において、ナットウキナーゼ活性は以下の方法により測定される。
【0022】
ナットウキナーゼ活性の測定方法1
【0023】
試験液
1. PBS(phosphate buffer saline、リン酸緩衝塩溶液)緩衝液:
0.01mol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.5):リン酸水素二ナトリウム(NaHPO・12HO)3.58gを秤量し、再蒸留水を加えて溶解させ、1000mLまで希釈してI液とした。リン酸二水素ナトリウム(NaHPO・2HO)0.78gを取り、再蒸留水を加えて溶解させ、500mLまで希釈してII液とした。約84mLのI液、約16mLのII液を取り、両者をpHが7.5になるまで混合した。
0.01mol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.5)と0.9%塩化ナトリウム溶液(1:17)を混合し、PBS緩衝液を得た。
2. 1.5%アガロース溶液:アガロース1.5gを取り、PBS緩衝溶液100mLを添加し、加熱溶解し、50℃の水浴中で保温した。
3. フィブリノゲン溶液:適量のフィブリノゲンを取り、PBS緩衝溶液を添加して1mLあたり1.5mgの凝固可能なタンパク質溶液を含む溶液とした。
4. トロンビン溶液:トロンビンを取り、0.9%塩化ナトリウム溶液を添加して1mLあたり1BP単位を含む溶液とした。
5. ウロキナーゼ標準品溶液の調製:
5.1 ウロキナーゼ標準溶液(1,000IU/mL):ウロキナーゼを1本取り、表示力価に従い、PBS緩衝溶液を添加して溶解すれば、1,000IU/mLウロキナーゼ標準溶液となる。
5.2 ウロキナーゼ作動標準溶液の調製は、以下のとおりである。
【表1】
【0024】
プレートの調製
50℃の水浴中で5minのフィブリノゲン溶液39mLを取り、ビーカーに入れ、撹拌しながら50℃のアガロース溶液39mL、トロンビン溶液3.0mLを添加し、直ちに均一に混合し、14cmの培養皿に急速全量で入れ、室温で1時間水平に放置し、直径3mmのステンレス鋼細管(穿孔器)を用いて、フィブリンプレートに複数の孔を穿孔する。
【0025】
測定
異なる濃度のウロキナーゼ標準品溶液を各10μLずつ精密に量り取り、それぞれ同一のアガロースフィブリンプレートにサンプリングし、蓋をし、37℃の恒温箱に置いて18時間反応させた。取り出して溶解直径を測定し、溶解面積を算出し、溶解面積対数を横座標、濃度の対数を縦座標として回帰曲線とし、対応する回帰式を得た。
【0026】
予め推定されたナットウキナーゼ活性に基づき、ナットウキナーゼ試料をメスフラスコ中に精密に秤量し、適量のPBS緩衝溶液で溶解し、15分間超音波処理した後に目盛りまで定容し、最終的なサンプリング濃度を200~400IU/mLとした。ナットウキナーゼ試料溶液10μLを精密に秤量し、アガロースフィブリンプレートにサンプリングし、蓋をし、37℃の恒温箱に置いて18時間反応させ、取り出して溶解直径を測定し、溶解面積を算出し、試料の溶解面積を回帰式に代入し、試料溶液のナットウキナーゼ活性を算出した。
【0027】
ナットウキナーゼ活性の算出:
X=C×V/M
ここで、Xは試料のナットウキナーゼ活性を示し、単位がIU/gであり、
Cは回帰式により算出したローディング試料液中のナットウキナーゼ活性を示し、単位がIU/mLであり、
Vは試料希釈の全体積を示し、単位がmLであり、
Mは試料質量を示し、単位がgである。
【0028】
ナットウキナーゼ活性の測定方法2
【0029】
FUとしてのナットウキナーゼ活性は、以下のように定義される。
【数1】
【0030】
日本食品研究実験室のナットウキナーゼ活性解析方法(第104022640号)に基づいてナットウキナーゼ活性を解析した。
【0031】
酵素反応群
(1)試験管を取ってPBS緩衝液1.4mLおよび0.72%フィブリノゲン溶液0.4mLを添加し、均一に混合し、37±0.3℃の水浴中で5min反応させた。
(2)上記試験管にさらに20U/mLトロンビン溶液0.1mLを添加し、十分に均一に混合し、37±0.3℃の水浴中で10min反応させた。
(3)工程(2)の溶液を正確に10分間目反応させる際に、0.1mLの試験試料溶液を正確に添加し、均一に混合し、37±0.3℃の水浴中で60分間酵素反応を行い、30minおよび50minに1回ずつ均一に振った。
(4)工程(2)の溶液を正確に60min目反応させる際に、0.2Mトリクロロ酢酸溶液2mLを添加して酵素反応を停止させ、37±0.3℃の水浴中で20min反応させた。
【0032】
陰性対照管
(1)酵素反応群の工程(1)および(2)と同様に、正確に10分間目反応する際に、まず0.2Mトリクロロ酢酸溶液2mLを添加した。
(2)次に、試験試料溶液0.1mLを添加し、十分に均一に混合し、37±0.3℃の水浴中で20min反応させた。
(3)反応が終了した後、試験管を12,000rpmで10min遠心分離した。
(4)清浄な試験管に上清を移し、陰性対照管とした。陰性対照管をブランクとし、275nmで酵素反応群の吸光値(OD、Optical Density)を測定し、記録した。
【0033】
ナットウキナーゼの活性は、以下の方式で算出される。
【数2】
ここで、Xは試料のナットウキナーゼ活性を示し、単位がFU/gまたはFU/mLであり、
Arは酵素反応群のOD値を示し、
Acは陰性対照群のOD値を示し、
Ar-Acの数値は0.050~0.080の間にある必要があり、
60は反応時間(min)を示し、
0.1は試料体積(mL)を示す。
【0034】
実施例1:ナットウキナーゼを生成する納豆菌を市販の納豆から分離する
納豆(日本バイオテクノロジー社から購入)を滅菌水で溶解し、希釈した後に固体LB培地プレートに塗布し、37℃で24時間恒温培養し、プレート表面に白色コロニーが成長し、接種用針でつついて糸引き現象がある。白色コロニーをLB斜面培地に移し、37℃で24時間培養し、接種用ループで発酵培地(100mlの三角フラスコの充填量が20mlであり、培地の配合成分はグルコース2%、スクロース2%、大豆粉3%、硫酸マグネシウム0.01%、塩化ナトリウム0.5%、セリン0.08%である)に接種し、37℃、270rpmで20時間振とうし、遠心分離して上清を取り、アガロースフィブリンプレート法によりナットウキナーゼの含有量を測定し、溶解直径が大きい菌株を選抜し、最終的にナットウキナーゼを生成する納豆菌を同定した。
【0035】
実施例2:ナットウキナーゼを生成する菌種の変異誘発
実施例1で得られた納豆菌を出発株として、紫外線による変異誘発を行う。紫外線波長が200~300nmであり、照射距離が15~30cmであり、照射時間が20sであり、50世代の変異誘発により変異株ST-1086を得た。該変異株ST-1086は、グラム陽性菌、芽胞間生、芽胞の大きさが0.6~0.8μm×1.0~1.5μmであり、菌体の幅が1μmであり、長さが2~3μmであるという微生物学的特性を有する。LB寒天培地で、コロニーの表面が飽和し、しわがあり、白であり、突起し、糸引きでき、直径0.3~0.5cm、色素無し、菌体を10時間培養して芽胞が発生した。該変異株ST-1086は中国微生物菌種寄託管理委員会普通微生物センターに寄託され、アドレスが中国北京市朝陽区北辰西路1号院3号、中国科学院微生物研究所、寄託日が2019年6月5日であり、受託番号がCGMCC No.17895である。
【0036】
実施例3:種子の調製
出発株と実施例2で得られたCGMCC No.17895株をそれぞれ20ml種子培地(表1参照)に接種し、37~40℃、150~300rpmで培養箱を振とうして3~16時間培養すれば、種子培養液が得られる。
【0037】
【表2】
【0038】
実施例4:5L罐発酵
実施例3で得られた種子培養液を、接種量が発酵培地量の20%を占めることで基礎培地(表2参照)に接種し、40℃で培養し、30分間培養した後にフィード培地への補給流加を開始し(表3参照)、半時間ごとにフィード培地200mlを添加し、10.5時間まで続けられ、合計2Lフィード培地を補充した。培養過程でpHが自然であり、溶存酸素濃度は30%以上に制御される。発酵サイクルは17時間である。フィブリンプレート法によりナットウキナーゼの含有量を測定した。
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
出発株により本方法で得たナットウキナーゼ収量が800IU/ml(119.4FU/mlに相当)であり、得られた発酵液をセラミックス膜で固液分離し、得られた透析液を10,000D分子量の限外ろ過膜で濃縮し、濃縮液のナットウキナーゼ活性が7,000IU/ml(1,044.8FU/mlに相当)であり、ナットウキナーゼ濃縮液に15%の大豆タンパク質粉末と5%の食物繊維(フランスのロケット社から購入、小麦由来の水溶性食物繊維)を加えて溶解した後、噴霧乾燥した。活性が1,500FU/g(10,050IU/gに相当)である納豆粉を得た。
【0042】
本願のCGMCC No.17895株のナットウキナーゼ収量が7,500IU/ml(1,119.4FU/mlに相当)であり、得られた発酵液をセラミックス膜で固液分離し、得られた透析液を10,000D分子量の限外ろ過膜で濃縮し、濃縮液のナットウキナーゼ活性が150,000IU/ml(22,388.1FU/mlに相当)であった。得られたナットウキナーゼ濃縮液は12%の大豆タンパク質粉末と6%の食物繊維を加えて噴霧乾燥した。活性が58,000FU/g(390,000IU/gに相当)の納豆粉を得た。
【0043】
実施例5
実施例4との違いは、フィード培地には0.16%のセリンを含むことである。本願のCGMCC No.17895株のナットウキナーゼ発酵収量は12,000IU/ml(1,791.0FU/mlに相当)であった。
【0044】
実施例6
実施例4との違いは、フィード培地には0.16%のグリシンを含むことである。本願のCGMCC No.17895株のナットウキナーゼ発酵収量は9,000IU/ml(1,343.3FU/mlに相当)であった。
【0045】
実施例7
実施例4との違いは、フィード培地には0.16%のアラニンを含むことである。本願のCGMCC No.17895株のナットウキナーゼ発酵収量は10,000IU/ml(1,492.5FU/mlに相当)であった。
【0046】
実施例8
実施例4との違いは、フィード培地には0.16%のセリンおよび0.16%のグリシンを含むことである。本願のCGMCC No.17895株のナットウキナーゼ発酵収量は10,500IU/ml(1,567.2FU/mlに相当)であった。
【0047】
実施例9
実施例4との違いは、フィード培地には0.16%のセリンおよび0.16%のアラニンを含むことである。本願のCGMCC No.17895株のナットウキナーゼ発酵収量は11,000IU/ml(1,641.8FU/mlに相当)であった。
【0048】
実施例10
実施例4との違いは、フィード培地には0.16%のグリシンおよび0.16%のアラニンを含むことである。本願のCGMCC No.17895株のナットウキナーゼ発酵収量は9,500IU/ml(1,417.9FU/mlに相当)であった。
【0049】
実施例11
実施例4との違いは、フィード培地には0.16%のセリン、0.16%のグリシンおよび0.16%のアラニンを含むことである。本願のCGMCC No.17895株のナットウキナーゼ発酵収量は10,300IU/ml(1,537.3FU/mlに相当)であった。
【0050】
実施例12
実施例4におけるCGMCC No.17895の発酵液を取り、孔径0.1μmのセラミックス膜で固液分離し、菌体や培地等の固体粒子を除去し、ナットウキナーゼ含有液を得た。得られたナットウキナーゼ含有液は分画分子量10,000Dの限外ろ過膜でろ過されて濃縮され、ナットウキナーゼ濃縮液が得られた。得られたナットウキナーゼ濃縮液は30%飽和度の硫酸アンモニウムで不純物を除去し、70%飽和度の硫酸アンモニウムでナットウキナーゼを沈殿させ、一部の色素および多糖を除去し、ナットウキナーゼの沈殿を得た。ナットウキナーゼ濃縮液の沈殿をsephadex G25フィラーで脱塩し、リン酸緩衝液で溶出し、ローディング試料量が20%のCV(カラム容積)で、流速が40cm/hで、脱塩したナットウキナーゼ液を集め、脱塩後のナットウキナーゼ液はSP sepharose FFフィラー(GEから購入)で精製され、ローディング試料量が80~120mg/mlで、流速が120cm/hで、色素多糖部分の不純物タンパク質が除去されたナットウキナーゼ液を得た。色素多糖が除去された濃縮液を分子ふるいフィラーのsuperdex75でカラムクロマトグラフィを行い、残りの不純物タンパク質バンドを除去し、ローディング試料量が5%/CVで、流速が20cm/hで、ナットウキナーゼ単一バンド含有収集液を収集して取得した。単一バンドのナットウキナーゼの収集液を凍結乾燥機で凍結乾燥し、7,000,000FU/g(46,900,000IU/gに相当)のナットウキナーゼ純物粉末を得た。
【0051】
【表5】
【0052】
実施例13
本実施例は、CGMCC No.17895株のナットウキナーゼを文献の精製方法で精製することを目的とし、精製過程におけるナットウキナーゼ活性の変化状況を調べた。
【0053】
実施例4におけるCGMCC No.17895の発酵液を取り、孔径0.1μmのセラミックス膜で固液分離し、菌体や培地等の固体粒子を除去し、ナットウキナーゼ含有液を得た。得られたナットウキナーゼ含有液は分画分子量10,000Dの限外ろ過膜でろ過されて濃縮され、ナットウキナーゼ濃縮液7,000IU/mlが得られた。濃縮液は30%飽和度の硫酸アンモニウムで沈殿させ、60%飽和度の硫酸アンモニウムで沈殿させ、一部の色素および多糖を除去し、ナットウキナーゼの沈殿を得た。沈殿は、2M硫酸アンモニウム溶液で5%の溶液に溶解し、Phenyl Sepharose疏水カラムでクロマトグラフィーを行い、ローディング試料量が20~60mg/mlで、流速が60cm/hで、2M~0Mの硫酸アンモニウム溶液で線形勾配による溶出を行い、20倍カラム容積を溶出し、流速が100cm/hで、溶出液を段階的に収集し、SDS-PAGEにより溶出液のナットウキナーゼ純度を検出し、95%純度のナットウキナーゼ純品を得た。クロマトグラフィーザ流出液をそのまま凍結乾燥し、5,000,000FU/g(33,500,000IU/g)のナットウキナーゼ純品粉末を得た。
【0054】
【表6】
【0055】
実施例14
実施例12との違いは、実施例4における出発株の発酵液を取り、6,000,000FU/g(40,200,000IU/gに相当)のナットウキナーゼ純品粉末を得た。
【0056】
【表7】
【0057】
実施例12、実施例13の結果から、従来技術の方法に比べて、本願の精製方法によれば、ナットウキナーゼ純品の活性濃度を顕著に向上させることができることが分かった。
【0058】
実施例12、実施例14の結果から、出発株に比べて、本願のCGMCC No.17895株によれば、ナットウキナーゼ活性濃度がより高い純品を得ることができることが分かった。
【0059】
実施例15
実施例5との違いは、本願のCGMCC No.17895株での発酵によって得られた発酵液を10,000Dの限外ろ過膜で濃縮した後、導電率が300μs/cmになるまで0.1mmol/L NaCl溶液で洗浄することである。導電率は導電率計により測定された。得られたナットウキナーゼ濃縮液の活性は300,000IU/ml(45,000FU/mlに相当)であった。濃縮液には5%の微結晶セルロースと5%の食物繊維とを加えて噴霧乾燥した。噴霧乾燥条件については、入口空気温度200℃、出口空気温度45℃、ファン速度70R/min、供給速度45L/hであり、乾燥收率が45%であった。得られた納豆粉活性は101,000FU/g(678,000IU/g)であった。
【0060】
実施例16
実施例5との違いは、本願のCGMCC No.17895株での発酵によって得られた発酵液を10,000Dの限外ろ過膜で濃縮した後、導電率が300μs/cmになるまで0.1mmol/LのNaCl溶液で洗浄することである。導電率は導電率計により測定された。得られたナットウキナーゼ濃縮液の活性は300,000IU/ml(45,000FU/mlに相当)であった。濃縮液には5%の大豆タンパク質粉末と5%の食物繊維とを加えて噴霧乾燥し、乾燥收率は80%であった。得られた納豆粉活性は180,000FU/g(1,206,000IU/gに相当)であった。大豆タンパク質粉末がタンパク質保護剤として、ナットウキナーゼの安定性を向上させることができる。微結晶セルロースは賦形剤のみであり、濃縮液の固溶量を高め、噴霧乾燥プロセスに有利である。
【0061】
実施例17
実施例5との違いは、本願のCGMCC No.17895株での発酵によって得られた発酵液を10,000Dの限外ろ過膜で濃縮した後、導電率が200μs/cmになるまで0.1mmol/L NaCl溶液で洗浄することである。得られたナットウキナーゼ濃縮液の活性は300,000IU/ml(45,000FU/mlに相当)であった。濃縮液には15%の大豆タンパク質粉末と7.5%の食物繊維とを加えて噴霧乾燥し、乾燥收率は90%であった。得られた納豆粉活性は129,000FU/g(861,000IU/g)であった。
【0062】
実施例18
実施例5との違いは、本願のCGMCC No.17895株での発酵によって得られた発酵液を10,000Dの限外ろ過膜で濃縮した後、導電率が100μs/cmになるまで0.1mmol/L NaCl溶液で洗浄することである。得られたナットウキナーゼ濃縮液の活性は300,000IU/ml(45,000FU/mlに相当)であった。濃縮液には15%の大豆タンパク質粉末と7.5%の食物繊維と5%の微結晶セルロースとを加えて噴霧乾燥し、乾燥收率は98%であった。得られた納豆粉活性は124,000FU/g(832,000IU/gに相当)であった。
【0063】
実施例19
実施例5との違いは、本願のCGMCC No.17895株での発酵によって得られた発酵液を10,000Dの限外ろ過膜で濃縮した後、導電率が300μs/cmになるまで精製水で洗浄することである。得られたナットウキナーゼ濃縮液の活性は250,000IU/ml(37,000FU/ml)であった。濃縮液には5%の大豆タンパク質粉末と5%の食物繊維とを加えて噴霧乾燥し、乾燥收率は80%であった。得られた納豆粉活性は164,000FU/g(1,100,000IU/g)であった。
【0064】
実施例20
実施例5との違いは、本願のCGMCC No.17895株での発酵によって得られた発酵液を10,000Dの限外ろ過膜で濃縮した後、導電率が200μs/cmになるまで精製水で洗浄することである。得られたナットウキナーゼ濃縮液の活性は240,000IU/ml(36,000FU/ml)であった。濃縮液には15%の大豆タンパク質粉末と7.5%の食物繊維とを加えて噴霧乾燥し、乾燥收率は90%であった。得られた納豆粉活性は108,000FU/g(724,000IU/g)であった。
【0065】
実施例21
実施例5との違いは、本願のCGMCC No.17895株での発酵によって得られた発酵液を10,000Dの限外ろ過膜で濃縮した後、導電率が100μs/cmになるまで精製水で洗浄することである。得られたナットウキナーゼ濃縮液の活性は230,000IU/ml(34,000FU/ml)であった。濃縮液には15%の大豆タンパク質粉末と7.5%の食物繊維と5%の微結晶セルロースとを加えて噴霧乾燥し、乾燥收率は98%であった。得られた納豆粉活性は97,000FU/g(647,000IU/g)であった。
【0066】
実施例22
実施例5との違いは、本願のCGMCC No.17895株での発酵によって得られた発酵液を10,000Dの限外ろ過膜で濃縮した後、導電率が100μs/cmになるまで精製水で洗浄することである。得られたナットウキナーゼ濃縮液の活性は230,000IU/ml(34,000FU/ml)であった。濃縮液を噴霧乾燥し、乾燥收率は50%であった。得られた納豆粉活性は210,000FU/g(1,420,000IU/g)であった。
【0067】
実施例23
実施例22、実施例15、実施例16、実施例17、実施例18で得られた納豆粉を使用し、それぞれ打錠し、異なる副原料の製剤プロセスの過程への安定性を調べた。打錠プロセスについては、納豆粉に30%の魚コラーゲン、10%のマルトデキストリン、10%の乳糖、30%の微結晶セルロースを加え、原材料、副原料をそれぞれ80メッシュの篩を通し、混合・造粒・打錠を行い、ナットウキナーゼの打錠前後の活性を測定することである。結果は以下の表に示す。
【0068】
【表8】