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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】葉茶製品を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   A23F 3/06 20060101AFI20230411BHJP
   A23F 3/16 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
A23F3/06 T
A23F3/16
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018564766
(86)(22)【出願日】2017-08-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2017069562
(87)【国際公開番号】W WO2018033395
(87)【国際公開日】2018-02-22
【審査請求日】2020-06-02
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】16184169.7
(32)【優先日】2016-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522414316
【氏名又は名称】エカテラ・リサーチ・アンド・デベロップメント・ユーケー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・ジェームズ・ダイクス
(72)【発明者】
【氏名】ルーク・リチャード・ナン
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド・ジョージ・シャープ
【合議体】
【審判長】磯貝 香苗
【審判官】三上 晶子
【審判官】加藤 友也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-097042(JP,A)
【文献】特開2009-131161(JP,A)
【文献】特開2012-187059(JP,A)
【文献】米国特許第02278474号明細書(US,A)
【文献】KONAR H.S. et al.,Optimization of process parameters for vacuum drying of CTC tea, Two and a Bud, 2012, vol.59, no.2, p.84-88
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F3/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紅茶製品を製造するための方法であって、
・出発原料として、5質量%未満の含水量を有する紅茶を提供する工程と、その後
・紅茶出発原料を150℃~170℃の温度の加熱表面と2~25分の持続期間の間、接触させることにより、それを熱処理工程に供する工程と
を含み、
熱処理工程が、蒸気の存在下で行われる、方法。
【請求項2】
熱処理工程の持続期間が、3~15分である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
蒸気が、少なくとも1kg/時間の流速で提供される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
蒸気が、25kg/時間未満の流速で提供される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
熱処理工程が、閉じられた雰囲気中で行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
加熱表面が、150℃~160℃の温度である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
紅茶出発原料が、茶ブレンドである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
・紅茶出発原料が、L*initialのL*値を有し、
・紅茶製品が、L*finalのL*値を有し、
・ΔL*=(L*initial)-(L*final)であり、
・ΔL*が、少なくとも1.0である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ΔL*が、3.5未満である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
・紅茶出発原料が、NICinitialの正規化浸出色を有し、
・紅茶製品が、NICfinalの正規化浸出色を有し、
・ここで正規化浸出色は、2gの紅茶出発原料(NICinitialの場合)又は紅茶製品(NICfinalの場合)を200mlの新しい沸騰水と2分接触させることにより得られた浸出液で決定される、浸出固形物mg/ml当たりのa*値に関して表され、
・ΔNIC=(NICfinal)-(NICinitial)であり、
・ΔNICが、0.3~1.7である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ΔNICが、0.32~1.65である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
紅茶製品を包装する後続工程を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
紅茶製品が、1g~5gの量で包装される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法により得ることができる紅茶製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、葉茶に関する。より詳細には、本発明は、葉茶の競売後加工に関する。
【背景技術】
【0002】
茶樹(Camellia sinensis)をベースとした飲料は、何百年もの間、世界中で愛飲されている。茶飲料は伝統的に、茶樹植物の乾燥葉を沸騰水中で浸出させることにより製造される。
【0003】
西洋世界で消費される茶のほとんどは、いわゆる紅茶であり、これは、茶樹植物の葉を収穫し、しおれさせ、ローラーをかけ、酵素酸化し(発酵させ)、焙じ、それらを分類することにより得られる。或いは、アジアの地方で広く消費される緑茶として公知のものを生成するために、発酵工程なしで葉を加工する場合もある。別の変形では、ウーロン茶は、部分発酵により調製される。
【0004】
収穫したとき、茶作物は高い含水量を有する。輸送中の作物の腐朽を避けるために、茶葉の最初の加工は、茶農園で、又は茶農園のごく近隣で行わなければならない。したがって、種類にかかわらず、葉茶の特性は、生成場所によりある程度制約される。この地理的限定のために、所与の茶工場により加工される作物は通常、茶多様性、農学及び使用される製造方法の選択の点で限定され、それらが順に、最終製品の特性(例えば芳香、風味等)、それゆえ品質に対して顕著な影響を与える可能性がある。
【0005】
葉茶は通常、競売で販売され、最も高品質の茶には最も高い価格が付けられる。実際に、高品質茶と低品質茶との間には実質的な価格差がある。製造方法の設計及び制御は、品質に影響することが公知である。このことは、最も高品質である可能性のある製品を産生するために製造条件を最適化することを目指した広範な研究を促進した。しかしながら、茶の競売後加工の広範な調査は、非常に少ない。
【0006】
茶は、官能的品質について評価される化合物を含有する。特に、茶は、独特な味を有し、芳香化合物に富む。茶の消費者は常に、新しい官能経験を提供する食品及び飲料を求めている。それゆえ、茶農園での製造後に最終茶製品の物理化学特性を顧客の要求に合わせることを可能にし、それによって特定の製品適用のための(例えば改変された官能特性を有する)茶を産出する方法について未だ対処されていない要求がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】「Tea: Cultivation to consumption」の14章(K.C. Wilson及びM.N. Clifford編、1992年発行)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
茶ベースの飲料は伝統的に、茶葉を熱湯中で浸出させ、使用済み茶原料から浸出液を分離することにより生成される。紅茶消費の伝統を有する地域の消費者は多くの場合、速い浸出速度及び/又は強い液色を有する茶を好む。
【0009】
本発明者らは、ある特定の熱条件下での紅茶の競売後加工は、得られる飲料の風味に影響を与えることなく、より濃い/より赤い浸出液を産出し得る紅茶製品を産生することを発見した。加えて、又は或いは、かかる加工は、所与のレベルの浸出固形物について液がより強い赤色を有する浸出液を産出し得る紅茶製品を生成することができる。
【0010】
したがって、第1の態様では、本発明は、紅茶製品を製造するための方法であって、
・5質量%未満の含水量を有する紅茶出発原料を提供する工程と、その後
・紅茶出発原料を100℃~170℃の温度の加熱表面と2~25分の持続期間の間、接触させることにより、それを熱処理工程に供する工程と
を含む、方法に関する。
【0011】
この方法のプロセスの最終製品は、出発原料とは異なる特性を有する紅茶製品である。したがって、第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様の方法により得ることができる紅茶製品に関する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の目的のために、「茶」は、チャノキ(Camellia sinensis var. sinensis)及び/又はアッサムチャ(Camellia sinensis var. assamica)からの原料を意味する。「葉茶」という用語は、浸出前の形態の茶植物からの葉及び/又は茎原料(すなわち、溶媒抽出工程に供していない原料)を指す。葉茶は、5質量%未満の含水量まで乾燥され、葉茶の含水量は通常、0.1質量%未満ではない。典型的に、葉茶は、1~5質量%の含水量を有する。換言すれば、「葉茶」という用語は、茶製造の最終製品(「製茶」と呼ばれることがある)を指す。
【0013】
本明細書で使用するとき、「紅茶」という用語は、「発酵」が、ある特定の内因性酵素及び基質が一緒になったときに茶が受ける酸化的で加水分解的なプロセスを指す、実質的に発酵させた茶を指す。いわゆる発酵プロセス中、葉及び/又は茎中の無色のカテキンは、黄色/橙色~濃褐色のポリフェノール物質の複雑な混合物に変換される。例えば、紅茶は、しおれさせる工程、浸軟工程、発酵工程及び乾燥工程により新鮮な茶原料から製造することができる。紅茶生成のより詳細な説明は、「Tea: Cultivation to consumption」の14章(K.C. Wilson及びM.N. Clifford編、1992年発行)で見ることができる。
【0014】
本発明の方法の出発原料は、紅茶である。紅茶は、茶競売で大量に購入することができる容易に入手可能な市販製品である。換言すれば、「紅茶」という用語は、紅茶製造の最終製品(「製茶」と呼ばれることがある)を指す。特許請求の範囲に記載の方法のための出発原料として提供する紅茶は、5質量%未満、好ましくは4.5質量%未満、より好ましくは4質量%未満の含水量を有する。この紅茶の含水量は通常、少なくとも0.1質量%、より通常には少なくとも0.5質量%である。典型的に、紅茶は、1~5質量%の含水量を有する。
【0015】
本発明の方法の最終製品は、紅茶製品である。この紅茶製品は、熱処理工程の手段により紅茶出発原料をある特定の熱条件に供することにより製造される。このように紅茶を加工することは、出発原料とは異なる特性を有する紅茶製品を生成する。
【0016】
熱処理工程は、紅茶を100℃~170℃の温度の加熱表面と接触させることにより行う。
【0017】
熱処理工程における非常に高温の使用は、最終葉茶製品の官能特性を損ない得る。特に、高温は、スモーキーな、及び/又は焦げ臭いフレーバーノートを伴う。スモーキーな風味は、ある特定の種類の紅茶(例えばラプサンスーチョン)の特徴であり、したがって、この風味傾向は、消費者観点から興味を引くものであり得る。しかしながら、焦げ臭いフレーバーノートは、望ましくない。それゆえ、熱処理工程中、加熱表面の温度は170℃を超えず、温度は好ましくは165℃を超えず、温度はより好ましくは160℃を超えない。
【0018】
加熱表面の温度は、出発原料とは異なる特性を有する紅茶製品を生成するのに十分である必要がある。理論に束縛されるものではないが、非常に低温は、出発原料において適切な変化(例えば浸出性能について)を引き出さないと考えられている。そのため、熱処理工程中、加熱表面の温度は、少なくとも100℃である。更に、より低温では、加熱工程の持続期間を、増大する必要があり得る。それゆえ、プロセス効率のために、加熱表面の温度は、好ましくは少なくとも105℃、より好ましくは少なくとも110℃、更により好ましくは少なくとも115℃である。
【0019】
上記に示す加熱表面の温度について、任意の特定の高温は、任意の特定の低温を伴い得ることに留意すべきである。特に好ましい温度範囲は、110℃~160℃である。
【0020】
本発明者らは、比較的短い熱処理でさえも、紅茶出発原料の官能特性における変化を引き出し得ることを発見した。熱処理工程の持続期間は、少なくとも2分である。好ましくは、熱処理工程の持続期間は、少なくとも2.5分、より好ましくは少なくとも3分、最も好ましくは少なくとも3.5分である。熱処理工程の持続期間は、25分以下、より好ましくは20分以下、最も好ましくは15分以下である。
【0021】
熱処理工程の持続期間について、任意の特定の時間の下限は、任意の特定の時間の上限を伴い得ることに留意すべきである。特に好ましい熱処理工程の持続期間は、3~15分である。
【0022】
本発明の方法では、紅茶を好ましくは、蒸気の存在下で熱処理工程に供する。プロセス中の蒸気の存在は、紅茶製品の色における改善を伴い、より高い量の蒸気は一般的に、より濃い葉色をもたらす。蒸気は好ましくは、少なくとも1kg/時間、より好ましくは少なくとも2kg/時間、最も好ましくは少なくとも5kg/時間の流速で提供される。しかしながら、非常に高レベルの蒸気は、紅茶製品の浸出性能に影響を与え得る。したがって、蒸気は、好ましくは25kg/時間未満、より好ましくは20kg/時間未満、最も好ましくは15kg/時間未満の流速で提供される。
【0023】
本発明の方法では、紅茶を好ましくは、閉じられた雰囲気中で熱処理工程に供する。本明細書で使用するとき、「閉じられた雰囲気」という用語は、紅茶を取り巻く気体媒質の拡散が制限されている系を指す。理論に束縛されるものではないが、かかる閉じられた雰囲気は、熱処理工程中の茶原料からの揮発性物質の損失を低減すると考えられている。更に、延長加熱(特により高温での)は、過乾燥葉茶製品をもたらし得る可能性があり、閉じられた雰囲気は、このリスクを軽減すると考えられる。したがって、乾燥熱が使用される場合(すなわち、熱処理工程が蒸気の存在下で行われない場合)、熱処理工程は、閉じられた雰囲気中で行うことが特に好ましい。それにもかかわらず、また、閉じられた雰囲気及び蒸気の使用が想定される。
【0024】
熱処理工程は、電気加熱振動螺旋管により振動輸送と加熱とを組み合わせた連続焙煎装置、例えばREVTECH連続電気焙煎装置(REVTECH Process Systems社)を使用して便利に行うことができる。この系の加熱螺旋管は、上記に定義される閉じられた雰囲気を提供する。この種類の系の利点は、それが、プロセスが連続して起こることを可能にすることである。供給系は、焙煎装置への紅茶の一定流速を確実にし、紅茶は、振動により加熱管を通って輸送され、熱処理を受け、得られる紅茶製品は、包装できる状態で系から出る。蒸気は任意選択で、焙煎装置に注入してもよい。
【0025】
本方法は好ましくは、紅茶製品を包装する追加の後続工程を含む。紅茶製品は好ましくは、1人前の茶飲料を抽出するのに好適な量で包装される。1gより少ない量は正確に分配及び適用することが困難であるので、包装中の紅茶製品の質量は、少なくとも1gであることが好ましい。より好ましくは、質量は、少なくとも1.2g、最も好ましくは少なくとも1.4gである。5gより多い量は保存及び/又は取扱いが不便になるので、包装中の紅茶製品の質量は、5g未満であることが更に好ましい。より好ましくは、質量は、4g未満、最も好ましくは3g未満である。
【0026】
本発明の方法は、競売後プロセスであるので、茶農園の近隣で行う必要がない。実際に、本方法の出発原料は、単一の農園からの紅茶製品であってもよいが、本方法は、このように限定されない。本方法の特定の利点は、出発原料が実際に茶ブレンドであってもよい(すなわち、5質量%未満の含水量を有する紅茶は、茶ブレンドであってもよい)ことである。
【0027】
本明細書で使用するとき、「茶ブレンド」という用語は、2つ以上の異なる紅茶の混合物を指す。茶産業では、消費者に販売される最終包装茶製品は通常、異なる葉茶を共にブレンドすることにより生成される。ブレンドのための葉茶は典型的に、いくつかの異なる属性、例えばそれらの品質、風味、濃度、こく、葉の大きさ及び価格に従って選択される。茶のブレンディングは、競売後プロセスであり、様々な起源の茶を混合して消費者の嗜好に合わせることを可能にする。例えば、茶ブレンドは多くの場合、ブレンドを製造するために混合される個々の成分葉茶とは異なる官能特性を有する。
【0028】
加えて、又は或いは、本発明の方法により得ることができる紅茶製品は、茶ブレンドの成分として使用することができる。換言すれば、紅茶製品は好ましくは、1つ又は複数の追加の紅茶とブレンドされる。実際に、茶ブレンドが、紅茶出発原料及び紅茶製品の両方を含み得ることが想定される。
【0029】
上記に示すように、本発明の方法の最終製品は、出発原料とは異なる特性を有する紅茶製品である。したがって、第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様の方法により得ることができる紅茶製品に関する。
【0030】
本発明者らは、本方法により得ることができる紅茶製品は、例えば葉色及び/又は浸出色の点で、紅茶出発原料とは異なる色属性を有することを発見した。
【0031】
色は、CIE 1976 L*a*b*色空間の座標を使用して表現することができる。CIE L*a*b*色空間は、3次元形式で組織化されている。L*軸は、上下に走る。L*の最大値は、100であり(完全な拡散反射体を表す)、L*の最小値は、0である(黒色を表す)。a*軸及びb*軸は、特定の数値限界を有しない。a*軸は、緑色(-a*)~赤色(+a*)まで延び、b*軸は、青色(-b*)~黄色(+b*)まで延びる。CIE L*a*b*値は、joint ISO/CIE規格(ISO 11664-4:2008(CE);CIE S 014-4/E:2007)に従って比色法により測定することができる。
【0032】
紅茶製品の色は、CIE L*a*b*色空間を使用して測定することができる。この測定は、(joint ISO/CIE規格ISO 11664-4:2008(CE);CIE S 014-4/E:2007に従って)比色法により葉茶について直接行うことができる。消費者は、より濃い外観を有する紅茶をより高品質のものとして知覚する傾向がある。したがって、より低いL*値は、よい濃い葉色を示すので、紅茶の外観を考慮する場合にL*値は、特に興味深い。
【0033】
葉色に対する本方法の効果は、紅茶出発原料のL*値(L*initial)を本方法により得た紅茶製品のL*値(L*final)と比較することにより示すことができる。したがって、本発明の方法により引き出された葉色の変化(ΔL*)は、以下:
ΔL*=(L*initial)-(L*final)
のように計算することができ、式中、ΔL*の正の値は、紅茶製品が紅茶出発原料より濃い色を有することを示す。消費者は、紅茶のL*値の比較的小さな差を知覚し得る。知覚可能なほどより濃い色を有するために、ΔL*は、好ましくは少なくとも1.0、より好ましくは少なくとも1.2、更により好ましくは少なくとも1.4、最も好ましくは少なくとも1.5である。ΔL*について特定の上限はない。好ましくは、ΔL*は、4.0未満、より好ましくは3.8未満、更により好ましくは3.6未満、最も好ましくは3.5未満である。
【0034】
本発明者らは、本発明の方法が、紅茶製品を抽出して飲料を得る場合に、浸出液で産出される色と固形物とを脱連動させることが可能であることを意味することを発見した。例えば、紅茶製品は、所与のレベルの浸出固形物についてより強い赤色を有する浸出液を産出することができる。
【0035】
水中で葉茶製品を抽出することにより生成される浸出特性は、容易且つ確実に、実験的に決定することができる。浸出物は、2gの茶を200mlの新しい沸騰水と2分、攪拌せず、接触させることにより調製される。浸出液の色は、(joint ISO/CIE規格ISO 11664-4:2008(CE);CIE S 014-4/E:2007に従って)比色法により測定される座標CIE L*a*b*色空間を使用して表す。浸出固形物の量は、浸出液の乾燥質量を決定することにより計算することができる。より正確には、50mlの浸出液の試料を採り、正確な天秤を使用して秤量する。この試料をその後、オーブン内で16時間完全に乾燥させ、それから再秤量する。最初の浸出液の質量と乾燥試料の質量との間の差は、50mlの浸出液当たりの浸出固形物の量であり、続いて、この値から浸出固形物の量(mg/ml)を計算する。
【0036】
2gの紅茶製品を200mlの新しい沸騰水と2分接触させて飲料を生成し、その場合、浸出固形物mg/ml当たりのa*値(又は正規化浸出色(Normalised Infusion Colour)、すなわちNIC)は、好ましくは少なくとも6.5、より好ましくは少なくとも6.6、更により好ましくは少なくとも6.7である。NICは典型的に、8.1以下、より好ましくは8.0以下、更により好ましくは7.9以下である。理論に束縛されるものではないが、抽出した茶が、色の点で強く見える(すなわち、高度な赤さを有する浸出液を有する)が十分に強固な茶風味を有しないことは、消費者に受け入れられない場合があると考えられる。これらの条件下で抽出した茶についての特に好ましいNICは、6.6~7.9である。
【0037】
上記に示すように、標準的な浸出プロトコール(2gの葉茶を200mlの新しい沸騰水と2分接触させること)により得た浸出液の特性を、測定することができる。正規化浸出色に対する本方法の効果はしたがって、紅茶出発原料の浸出色(NICinitial)を本方法により得た紅茶製品の浸出色(NICfinal)と比較することにより示すことができる。したがって、本発明の方法により引き出された正規化浸出色の変化(ΔNIC)は、以下:
ΔNIC=(NICfinal)-(NICinitial)
のように計算することができ、式中、ΔNICの正の値は、紅茶製品が、所与のレベルの浸出固形物について紅茶出発原料より強い赤色を有する浸出液を産出することを示す。好ましくは、ΔNICは、少なくとも0.3、より好ましくは少なくとも0.32、更により好ましくは少なくとも0.34、最も好ましくは少なくとも0.35である。非常に高いΔNIC値は、風味属性、特に風味の強さに影響を有するように見える。消費者が茶に牛乳を添加する国々では、風味の強さの増大は、歓迎される属性であり得る。しかしながら、ブラックで(すなわち、牛乳なしで)茶を飲むことが伝統である国々については、風味の強さの増大は、あまり好ましく知覚されない場合がある。したがって、望ましい風味の強さを有する飲料を提供するために、ΔNICは、好ましくは1.7未満、より好ましくは1.65未満、更により好ましくは1.6未満、最も好ましくは1.55未満である。
【0038】
長期保存安定性を可能にするために、本発明の紅茶製品(すなわち、熱処理方法から得ることができる製品)は好ましくは、0.1~5質量%の含水量を有する。これらの量は、飲料を生成するために製品を使用する前の(すなわち、抽出する前の)紅茶製品の含水量を指すと理解される。そのため、本発明の方法は、本方法が蒸気の存在下で行われる場合でさえも、紅茶の含水量に顕著な影響を有しないと予測されることが理解される。それゆえ、紅茶製品は好ましくは、紅茶出発原料の含水量と本質的に同じ含水量を有し、上記に特定する出発原料の好ましい含水量は、紅茶製品に準用して適用する。
【0039】
本発明の紅茶製品は任意選択で、包装される。好適な包装選択肢の非限定的な例として、浸出のための小包(例えばティーバッグ)、飲料抽出機用カートリッジ、ティースティック等が挙げられる。
【0040】
本明細書で使用するとき、「含む」という用語は、「本質的に~からなる」及び「からなる」という用語を包含する。本明細書に含有される全ての割合及び比は、別に示さない限り、質量により計算する。値又は量の任意の範囲の特定において、任意の特定の上限値又は量は、任意の特定の下限値又は量を伴い得ることに留意すべきである。実施されており、比較的な例を除いて、原料の量、反応条件、原料の物理特性及び/又は使用を示す、説明における全ての数値に、「約」という単語が先行すると理解するべきである。上記の個々の節で参照する本発明の実施形態の様々な特徴は、適宜、準用して他の節に適用する。結果として、1つの節で特定する特徴は、適宜、他の節で特定する特徴と組み合わせてもよい。本明細書で見られる本発明の開示は、互いに複合的に依存するものとして特許請求の範囲で見られる全ての実施形態を包含すると考えるべきである。別に定めない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、茶加工の分野で当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。
【0041】
本発明をここで、以下の非限定的な実施例を参照することにより例示する。
【実施例
【0042】
紅茶ブレンド(PG Tips社)を、出発原料として使用した。出発原料の含水量は、4.5質量%であった。この出発原料の一部を、それらをREVTECH連続電気焙煎装置(REVTECH Process Systems社)に通すことにより熱処理工程に供した。加熱表面の温度及び原料が焙煎装置を通過する速度を制御することにより、様々な熱処理計画を達成した。出発原料の一部を、対照試料としての使用のためにとっておいた。この一部の試料は、焙煎装置に通さず、したがって任意の種類の熱処理に供さなかった。
【0043】
熱処理試料及び対照試料の各々を使用して、浸出物を調製した。各浸出物を、2gの葉茶を200mlの新しい沸騰水中で2分、攪拌せず浸出することにより作製した。得られた浸出物のL*a*b*値を、CIE比色計(Minolta社)で決定した。浸出固形物のレベルを決定するために、50mlの浸出液の試料を採り、正確な天秤を使用して秤量した。この試料をその後、オーブン内で16時間完全に乾燥させ、それから再秤量した。最初の浸出液の質量と乾燥試料の質量との間の差を、浸出固形物の量(mg/ml)を計算するために使用した。
【0044】
(実施例1)
試料A、B、C及びDを、焙煎装置の加熱表面の温度を変動させ、熱処理工程の持続期間を一定(4分)に維持することにより生成した。これらの試料を、系への蒸気の注入なしに生成した。Table 1(表1)のデータは、熱処理後に得た葉茶製品についての、及びまた上記に示す抽出プロトコールに従ってこれらの試料を抽出することから得られる浸出物についてのCIE L*a*b*色空間を使用した色分析の結果を示す。
【0045】
葉茶について、座標L*は、特に興味深く、より低いL*値は、より濃い葉色を示す。消費者は、より濃い色の葉茶をより高品質のものとして知覚する傾向がある。熱処理温度が増大するにつれ、葉茶の濃さが増大する(すなわち、葉茶L*値の減少に対応する)傾向があることがわかる。特に、Table 1(表1)のデータから、試料A葉茶製品は、対照原料と同様のL*値を有することがわかる。対照的に、試料B、C及びD葉茶製品は、対照原料より低いL*値を有し、これらの葉茶製品は対照より色が濃いことを示す。
【0046】
【表1】
【0047】
浸出物について、座標a*のより高い値は、より赤色を示す(一方で、より低い値は、より緑色を示す)ので、座標a*は、特に関連性がある。熱処理温度が増大するにつれ、浸出液の赤さ(a*値)が増大する傾向があることがわかる。この傾向は、正規化浸出色(a*/固形物の値)を考慮する場合、更により大きい。
【0048】
抽出した茶の官能特性を、非公式の利き茶会で査定した。この会からの観察結果を、Table 2(表2)に要約する。
【0049】
【表2】
【0050】
Table 1(表1)のデータから、試料A(90℃、4分)から調製した浸出液は、Table 1(表1)のデータが、これが対照から調製したものと同程度の赤さを有することを示すことがわかる。これは、試料Aから調製した抽出した茶が、対照試料から調製したものと同様の色を有することを示すTable 2(表2)の官能データと一致する。それにもかかわらず、試料Aから調製した抽出した茶は、対照試料から抽出したものより苦い/渋いと知覚されたので、これらの条件下の熱処理は、得られる抽出した茶の味に影響を有するように見える。
【0051】
対照的に、試料B、C及びDは、対照試料より赤い浸出液を産出するように見える(a*値、Table 1(表1))。更に、これらの試料を生成するために使用される熱処理は、所与のレベルの浸出固形物について液がより強い赤色を有する(NIC値、Table 1(表1))浸出液を産出するように見える。更に、試料B及びCは、得られる飲料の風味に影響を与えることなく、この変化を引き出す(Table 2(表2))。これは、浸出色と放出される茶固形物のレベル(特に抽出した飲料の風味に寄与するもの)とが、脱連動されていることを示唆し、得られる飲料の風味に影響を与えることなく、より濃い/より赤い液色を有する飲料を産出することが可能であることを意味する。試料Dは、燻製香傾向と連動した、より高い風味の強さを有する。この種類の燻製香は、ある特定の種類の紅茶(例えばラプサンスーチョン)で望ましい。
【0052】
結論として、この実施例は、ある特定の熱条件下での紅茶の競売後加工は、得られる飲料の風味に影響を与えることなく、又は風味を消費者観点から興味深いものであり得る傾向に変える一方で、より濃い/より赤い浸出液を産出し得る紅茶製品を産生することを示す。更に、紅茶製品は、より濃い葉色を有する傾向があり、したがって消費者が、より高品質のものとして知覚し得る。
【0053】
(実施例2)
試料E、F及びGを、焙煎装置の加熱表面の温度を変動させ、熱処理工程の持続期間を一定(6分)に維持することにより生成した。これらの試料を、系への蒸気の注入なしに生成した。
【0054】
Table 3(表3)のデータは、熱処理後に得た葉茶製品試料についてのCIE L*a*b*色空間を使用した色分析の結果を示し、90℃試料(試料E)のL*値は、対照葉茶原料のL*値と同様であることがわかる。対照的に、120℃及び150℃試料(それぞれ、試料F及びG)は、対照原料より低いL*値を有し、これらの葉茶製品は、対照より色が濃いことを示す。
【0055】
【表3】
【0056】
また、Table 3(表3)のデータは、これらの試料から得られる浸出物についての色分析CIE L*a*b*色空間の結果を示す。ここでもまた、90℃試料(試料E)についてのNIC値は、対照のNIC値と同様であり、一方で、より高温に供した試料(試料F及びG)のNIC値は、液中の所与のレベルの浸出固形物についてより強い赤色である傾向があることがわかる。
【0057】
結論として、この実施例は、ある特定の熱条件下での紅茶の競売後加工は、望ましい液特性を有する紅茶製品を産生することを示す。より詳細には、所与のレベルの浸出固形物について液は、より強い赤色を有する。また、この種類の競売後加工は、紅茶の外観に対して有益な効果を有し得る。
【0058】
(実施例3)
試料1~8を、焙煎装置の加熱表面の温度を変動させ、熱処理工程の持続期間を一定(4分)に維持することにより生成した。蒸気を、5kg/時間又は10kg/時間のいずれかの流速で系に注入した。試料1~8についての熱処理計画を、Table 4(表4)に要約する。
【0059】
【表4】
【0060】
Table 5(表5)のデータは、これらの試料の熱処理後に得た葉茶製品についての、及びまた上記に示すプロトコールに従ってこれらの試料を抽出することから得られる浸出物についてのCIE L*a*b*色空間を使用した色分析の結果を示す。
【0061】
ここでもまた、座標L*は、葉茶について特に興味深く、より低いL*値は、より濃い葉色を示す。熱処理温度が増大するにつれ、葉茶の濃さが増大する(すなわち、葉茶L*値の減少に対応する)傾向があることがわかる。更に、所与の温度について、より高い蒸気流速は、より濃い葉茶色(すなわち、より低いL*値)を伴う。
【0062】
【表5】
【0063】
同様に、浸出物について、座標a*は、特に関連性があり、この座標のより高い値は、より赤色を示す(一方で、より低い値は、より緑色を示す)。試料3~8について、熱処理温度が増大するにつれ、浸出液の赤さ(a*値)が増大する傾向がある。この傾向は、浸出固形物のレベル当たりの浸出液の赤さの値(NIC値)を考慮する場合、更により目立つ。更に、この傾向は、蒸気なしで加熱した試料についてより、蒸気の存在下で加熱した試料についてより大きい(Table 1(表1)及びTable 5(表5)のデータを比較することによりわかる)。しかしながら、試料1及び2(90℃、6分)については反対の傾向が見られ、試料を蒸気の存在下で加熱すると、浸出固形物のレベル当たりの浸出液の赤さの値(NIC値)は減少する。
【0064】
抽出した茶の官能特性を、非公式の利き茶会で査定した。この会からの観察結果を、Table 6(表6)に要約する。
【0065】
【表6】
【0066】
Table 3(表3)のデータは、蒸気の存在下で熱処理に供した試料は、対照試料(標準のPG Tips社ブレンド)から調製した浸出液より濃いと知覚される浸出液を生成する傾向があることを示す。この変化は典型的に、抽出した飲料の風味に影響を与えることなく、達成される。実際に、実験データは、浸出色と放出される茶固形物のレベル(特に抽出した飲料の風味に寄与するもの)とが、脱連動されていることを示唆する。
【0067】
170℃での熱処理は、抽出した飲料の風味に影響を有するように見え、より高い風味の強さが試料7について報告されていることに注目すべきである。とりわけ、茶飲料に牛乳を添加することが普通である国々では、茶が強い風味を有することを好む消費者もいるので、これは興味深い。
【0068】
結論として、この実施例は、蒸気の存在下のある特定の熱条件下での紅茶の競売後加工は、望ましい葉外観及び液特性を有する紅茶製品を産生することを示す。特に、紅茶製品は、より濃い葉外観を有し、所与のレベルの浸出固形物について液がより強い赤色を有する液を生成する。これらの変化は典型的に、得られる飲料の風味に影響を与えることなく、又は風味を消費者観点から興味深いものであり得る傾向に変える一方で、引き出される。
【0069】
(実施例4)
試料9~17を、焙煎装置の加熱表面の温度を変動させ、熱処理工程の持続期間を一定(6分)に維持することにより生成した。蒸気を、5kg/時間、10kg/時間又は30kg/時間のいずれかの流速で焙煎装置に注入した。試料1~8についての熱処理計画を、Table 7(表7)に要約する。
【0070】
【表7】
【0071】
Table 8(表8)のデータは、これらの試料の熱処理後に得た葉茶製品についての、及びまた上記に示すプロトコールに従ってこれらの試料を抽出することから得られる浸出物についてのCIE L*a*b*色空間を使用した色分析の結果を示す。
【0072】
【表8】
【0073】
ここでもまた、熱処理温度の増大が、より低いL*値を有する(すなわち、より濃い葉色を示す)葉茶を生成する傾向がある。同様に、所与の温度について、この傾向(すなわち、より低いL*値)は、より高い蒸気流速でより大きい。
【0074】
浸出色の傾向は、前の実施例と広く類似し、試料9~10(90℃)は、正規化浸出色(a*/固形物の値)の減少を示し、そのため得られる浸出液は、より低い、浸出固形物のレベル当たりの赤さを有し、試料12、13、15及び16は、正規化浸出色(a*/固形物の値)の増大を示し、そのため得られる浸出液は、より高い、浸出固形物のレベル当たりの赤さを有する。
【0075】
しかしながら、熱処理計画で使用した温度にかかわらず、全て、対照と比較して正規化浸出色(a*/固形物の値)の減少を示す、試料11、14及び17(30kg/時間の蒸気流速)のデータからわかるように、非常に高レベルの蒸気は、葉茶製品の正規化浸出色に影響を有するように見える。理論に束縛されるものではないが、発明者らの現在の仮説は、茶原料からの可溶性固形物のいくらかが、熱処理工程中に蒸気に可溶化する場合があり、したがって、最終葉茶製品の可溶性固形物のレベルを低減するというものである。
【0076】
結論として、この実施例は、蒸気の存在下のある特定の熱条件下での紅茶の競売後加工が、望ましい葉外観を有する紅茶製品を産生することを示す。また、浸出性能は、葉茶製品の抽出が、所与のレベルの浸出固形物について液がより強い赤色を有する液を生成するように、改善され得る(すなわち、正規化浸出色の改善がある)。しかしながら、非常に高レベルの蒸気は、葉の外観に最も大きな影響を有する一方で、浸出性能に対して関連付けられる影響がある。それにもかかわらず、これらの茶製品は、より弱い茶風味を好む消費者(例えば、茶が典型的に、牛乳を添加することなく消費される国々では)について興味深いものであり得る。