(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】脱カフェインの飲料前駆体
(51)【国際特許分類】
A23F 3/36 20060101AFI20230411BHJP
A23F 3/40 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
A23F3/36
A23F3/40
(21)【出願番号】P 2020542391
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(86)【国際出願番号】 EP2018086786
(87)【国際公開番号】W WO2019154554
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-11-05
(32)【優先日】2018-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522414316
【氏名又は名称】エカテラ・リサーチ・アンド・デベロップメント・ユーケー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ライアン・マイケル・クリフォード
(72)【発明者】
【氏名】ジョイス・ワムブイ・マイナ
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05087468(US,A)
【文献】特開昭63-137646(JP,A)
【文献】特開昭64-060328(JP,A)
【文献】特表2009-523016(JP,A)
【文献】米国特許第03966986(US,A)
【文献】特表2001-504704(JP,A)
【文献】特開2011-115165(JP,A)
【文献】特表2009-508477(JP,A)
【文献】特開2005-143467(JP,A)
【文献】JOSHI, R. et al.,Effect of decaffeination conditions on quality parameters of Kangra orthodox black tea. ,Food Research International,2013年,Vol. 53, No. 2,pp.693-703,DOI:10.1016/j.foodres.2012.12.050
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F
A23L
CAplus/REGISTRY/FSTA/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶葉及び芳香組成物を含む飲料前駆体であって、前記茶葉が脱カフェイン
された紅茶葉であり、前記芳香組成物が少なくとも0.7:1の質量比でE-2-ヘキセナール及びリナロールを含む、飲料前駆体。
【請求項2】
E-2-ヘキセナール対リナロールの前記質量比が、0.8:1~10:
1である、請求項1に記載の飲料前駆体。
【請求項3】
E-2-ヘキセナール対リナロールの前記質量比が、0.9:1~5:1である、請求項1に記載の飲料前駆体。
【請求項4】
前記芳香組成物が、少なくとも1000pp
mの量でリナロールを含む、請求項
1~3のいずれか一項に記載の飲料前駆体。
【請求項5】
前記芳香組成物が、2000~8000ppmの量でリナロールを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の飲料前駆体。
【請求項6】
前記芳香組成物が、少なくとも1000pp
mの量でE-2-ヘキセナールを含む、請求項
1~5のいずれか一項に記載の飲料前駆体。
【請求項7】
前記芳香組成物が、3000~10000ppmの量でE-2-ヘキセナールを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の飲料前駆体。
【請求項8】
浸出パックにパッケージされる、請求項
1~7のいずれか一項に記載の飲料前駆体。
【請求項9】
前記芳香組成物が、天然芳香組成
物である、請求項
1~7のいずれか一項に記載の飲料前駆体。
【請求項10】
前記芳香組成物が、実質的に発酵させていない萎凋した生茶葉から回収された天然芳香組成物である、請求項1~7のいずれか一項に記載の飲料前駆体。
【請求項11】
前記芳香組成物が、合成芳香組成物である、請求項
1~7のいずれか一項に記載の飲料前駆体。
【請求項12】
脱カフェイン
された紅茶葉及び芳香組成物を混合する工程を含む、請求項
1~11のいずれか一項に記載の飲料前駆体の製造方法であって、前記芳香組成物が、少なくとも0.7:1の質量比でE-2-ヘキセナール及びリナロールを含む、方法。
【請求項13】
前記脱カフェイン
された紅茶葉が、塩化メチレン、酢酸エチル、及び超臨界二酸化炭素からなる群から選択される溶媒を使用して、紅茶葉から選択的にカフェインを抽出することにより得られる、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
続いて浸出パックに飲料前駆体をパッケージする追加の工程を含む、請求項
12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、脱カフェインの飲料前駆体に関連し、特に、望ましい官能特性を有するそのような前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
カフェインの摂取量を意識しているため、茶及びコーヒーなどのカフェイン入りの飲料を飲むことを選択しない消費者もいる。他には、脱カフェインの飲料を飲む消費者もいる。しかしながら、そのような脱カフェインの製品は、アルカロイドの天然濃度を有する飲料に劣る、風味及び芳香特性を有する傾向にある。
【0003】
「Tea: Cultivation to consumption」(K.C. Wilson & M.N. Clifford編集、1992発行)の18章に議論されるように、多くの揮発性化合物は、芳香複合体としてひとまとめで知られ、茶の中に検出された。芳香複合体の組成物は、農学、栽培及び製造活動が原因で変化することが知られている。茶内の揮発性化合物は、一次又は二次生成物に広く分類され得る。一次生成物は、植物によって生合成され、生の緑葉内に存在する一方、二次生成物は、酵素、還元又は熱分解反応により茶製造の間に生成される。
【0004】
茶飲料は、一般的に、製造の方式によって分類され、例えば緑茶(萎凋も発酵もさせない)、部分的に発酵させるいくつかの種類の茶、並びに正統及びCTCの紅茶に分類される。多くの芳香化合物が加工中に生成される二次生成物であるため、製造方式は、茶の芳香複合体へ強い影響を与える。例えば、(しばしば緑茶製造における第一工程である)蒸気処理は、発酵の原因となる酵素だけでなく、芳香複合体中の変化の原因となる酵素の大多数を不活性化する。一方、芳香化合物の多くの前駆体は、(部分的に発酵させた茶及び紅茶の製造における典型的な工程である)萎凋する間に増加する、及び芳香化合物は発酵中に増加する。確かに、加工に萎凋及び/又は発酵の工程がないため、緑茶は、ウーロン茶又は紅茶より芳香化合物の濃度が一般的に低い。
【0005】
茶葉の脱カフェイン化の間の芳香の喪失は、広く認められている問題である。芳香画分が、脱カフェイン化された茶材料に再添加され得るように、この問題を解決する試みが、脱カフェイン加工の間に芳香画分を収集することに焦点が合わせられた。例えば、米国特許第5,087,468号明細書、及び英国特許第1,333,362号明細書の両者は、超臨界二酸化炭素の脱カフェインの間に、茶の芳香を回収すること、及び脱カフェインされた茶に回収された芳香を再添加することを開示している。この方法は、ある程度の成功をもたらし、消費者は、通常の(カフェイン入りの)茶製品に劣るため、脱カフェインの茶製品をいまだ見抜く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第5,087,468号明細書
【文献】英国特許第1,333,362号明細書
【非特許文献】
【0007】
【文献】「Tea: Cultivation to consumption」(K.C. Wilson & M.N. Clifford編集、1992発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、望ましい官能特性を有する脱カフェインの飲料前駆体を提供する、消費者の満たされていないニーズがいまだ存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くことに、我々は、特定の芳香組成物を脱カフェインの紅茶葉に添加することが、茶飲料の製造に使用される場合、消費者の全体の感覚器官を刺激する体験を高める、飲料前駆体を提供することを見出した。したがって、第一の態様において、本発明は、茶葉及び茶芳香組成物を含む飲料前駆体に関連し、茶葉は脱カフェインの紅茶であり、芳香組成物は、E-2-ヘキセナール及びリナロールを少なくとも0.7:1の質量比で含む。
【0010】
第二の態様において、本発明は、第一の態様の飲料前駆体の製造方法に関連し、本方法は、脱カフェインの紅茶葉及び芳香組成物を混合する工程を含み、芳香組成物は、E-2-ヘキセナール及びリナロールを少なくとも0.7:1の質量比で含む。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の飲料前駆体は、茶葉を含み、例えば飲料前駆体を水、好ましくは沸騰水などの水性媒体に接触させることによって、飲料を直接調製することに適した形態である。
【0012】
本発明の目的で、「茶」はカメリアシネンシス変種シネンシス(Camellia sinensis var. sinensis)及び/又はカメリアシネンシス変種アッサミカ(Camellia sinensis var. assamica)由来の材料を意味する。用語「茶葉」は、茶植物由来の葉及び/又は茎の材料を表す。茶葉は、5質量%未満の水分含有量に乾燥され、茶葉の水分含有量は、大抵0.1質量%未満になり得ない。典型的には、茶葉は、1~5質量%の水分含有量を有する。言い換えれば、用語「茶葉」は、(作られた茶(made tea)として時々表される)茶製造の最終製品を表す。
【0013】
本発明の飲料前駆体は、紅茶葉を含む。本明細書内で使用されるように、用語「紅茶」は、実質的に発酵された茶を表し、「発酵」は、ある内生の酵素及び基質が引き合わされる場合、茶が受ける酸化及び加水分解工程を表す。いわゆる発酵工程の間に、葉及び/又は茎内の無色のカテキンが、黄色/橙色から暗褐色のポリフェノール基質の複合体混合物に変化される。例えば、紅茶葉は、萎凋、マセレーション(maceration)、発酵及び乾燥:の工程によって生茶材料から製造され得る。紅茶の生産のより詳細な説明は、「Tea: Cultivation to consumption」(K.C. Wilson & M.N. Clifford編集、1992発行)の14章中に見出され得る。
【0014】
飲料前駆体は、脱カフェインの茶を含む。用語「脱カフェインの茶」は、0.2質量%未満、好ましくは0.15質量%未満、より好ましくは0.1質量%未満の量でカフェインを含む茶葉を表す。脱カフェインの茶葉は、商業的に入手可能である。脱カフェインの茶葉は、例えば、茶葉からカフェインを選択的に抽出する溶媒を使用する、あらゆる適切な工程により、得ることができる。3種の溶媒は、一般に脱カフェインの茶葉に使用され:塩化メチレン、酢酸エチル及び超臨界二酸化炭素である。3種のうちの1種の溶媒に関する工程は、好ましくは、本発明の飲料前駆体に使用される脱カフェインの茶葉に使用される。言い換えれば、脱カフェインの紅茶葉は、好ましくは、塩化メチレン、酢酸エチル、及び超臨界二酸化炭素からなる群から選択される溶媒を使用して紅茶葉からカフェインを選択的に抽出することによって得られる。
【0015】
本発明の飲料前駆体は、芳香組成物を含み、具体的には、芳香組成物はE-2ヘキセナール及びリナロールを少なくとも0.7:1の質量比で含む。芳香組成物は、天然芳香組成物又は合成芳香組成物であり得る。特定の実施態様において、実質的に発酵させていない萎凋した茶葉から回収される天然芳香組成物が好ましい。
【0016】
(その全体が本明細書内に援用される)国際公開第2007/079900に記載される芳香組成物が、本発明の使用に適していることを見出した。これらの芳香組成物の合成模倣は、それらの成分が、天然芳香組成物の成分より変化しにくいため、適切でもあり、場合によっては好ましい。
【0017】
芳香組成物は、好ましくは、高比率のE-2-ヘキセナールを含む。E-2ヘキセナール対リナロールの質量比は、少なくとも0.7:1が好ましく、より好ましくは少なくとも0.8:1、更に一層好ましくは少なくとも0.9:1である。E-2ヘキセナール対リナロールの質量比は、好ましくは10:1未満、より好ましくは5:1未満、更に一層好ましくは3:1未満である。
【0018】
芳香組成物は、好ましくは、少なくとも1000ppm、より好ましくは少なくとも1500ppm、更に一層好ましくは2000ppmの量でリナロールを含む。芳香組成物中に含まれるリナロールの量の上限はないが、経済的な理由から、好ましくは8000ppm以下、より好ましくは7500ppm以下、最も好ましくは7000ppm以下のリナロールを含む。加えて又は別法として、芳香組成物は、好ましくは、E-2ヘキセナールを少なくとも1000ppm、より好ましくは少なくとも2000ppm、及び更に一層好ましくは3000ppmの量で含む。芳香組成物は、好ましくは、10000ppm以下、より好ましくは9000ppm以下、及び最も好ましくは8000ppm以下のE-2-ヘキセナールを含む。
【0019】
芳香組成物は、好ましくは、追加の芳香化合物を含む。そのような化合物の制限されない例は、ゲラニオール、フェニルアセトアルデヒド、ベンジルアセテート、ジャスモン酸メチル、cis-ジャスモン、ネロリドール、リナロールオキシド及びβ-ダマセノンを含む。
【0020】
芳香組成物が天然芳香組成物である場合、発酵を阻む及び/又は抑制するための熱処理されていない、実質的に発酵させていない葉から回収されることが特に好ましい。これは、そのような熱処理に必要とされる高温が、いくつかの芳香を揮発させ、及び/又は芳香に化学変化を引き起こすためである。本質的ではないが、萎凋処理が、望ましくないグリーンノートを減少させ、及び/又は制限すると考えられるため、実質的に発酵させていない葉は、芳香組成物の回収の前に萎凋されることが好ましい。
【0021】
飲料前駆体は、例えば、浸出パック(例えばティーバック)及び/又は包装材料に、好ましくはパッケージされる。飲料前駆体が、ティーバックにパッケージされ、及びそれぞれのティーバックが個別に包装材料にパッケージされることが特に好ましい。例えば、それぞれのティーバックが、紙の包装材料、又はプラスチックの包装材料又はホイルバックなどの気密包装材料にパッケージされてもよい。
【0022】
本発明の飲料前駆体は、任意の都合のよい方法において、生産され得る。脱カフェインの紅茶葉及び芳香組成物を混合する工程を含む方法によって好ましくは生産され、芳香組成物は、E-2-ヘキセナール及びリナロールを少なくとも0.7:1の質量比で含む。
【0023】
本方法は、続いて浸出パックに飲料前駆体をパッケージする追加の工程を含む。
【0024】
本明細書内で使用される、用語「含む」は用語「本質的にからなる」及び「からなる」を包含する。本明細書内に含まれる、すべてのパーセント及び比は、他に示されない限り、質量によって計算される。値又は量の任意の範囲の特定において、任意の特定の上限値又は上限量は、任意の特定の下限値又は下限量と関連し得ることを注目すべきである。操作及び比較例をのぞいて、材料の量、反応の条件、材料の物理特性、及び又は使用を示す、本明細書内のすべての数字は、用語「約」に先行されると理解されるべきである。上記の個別の部分において表される、本発明の実施態様の様々な特性は、必要に応じて、変更すべきところは変更して他の部分を適用する。それ故に、一つの部分において特定された特性は、必要に応じて他の部分において特定された特性と組み合わされてもよい。本明細書内に記載される本発明の開示は、互いに複数で従属する特許請求の範囲に記載されるように、すべての実施態様をカバーすると考えられ得る。他に定義しない限り、本明細書内で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、茶加工の分野における当業者によって一般的に理解されるような同じ意味を有する。
【実施例】
【0025】
本発明は、下記制限のない実施例に参照して示され得る。
【0026】
実施例1
本実施例は、本発明に従って飲料前駆体の生産を記載する。
【0027】
飲料前駆体を、0.65質量%の芳香顆粒を脱カフェインの紅茶葉と混合して調製した。芳香顆粒は、(Firmenich社より入手した)マルトデキストリン媒体上に、表1に示される芳香組成物の合成模倣からなる。飲料前駆体(2.9g)を、ティーバックにパッケージした。
【0028】
【0029】
実施例2
本実施例は、実施例1の飲料前駆体を使用して作られた飲料の官能特性を試験した。
【0030】
8つのサンプルを、訓練された官能パネリストによって分析した。すべてのサンプルを、固定条件の下、200mlの沸騰水で2分間、単一のティーバックを使用して浸出した。浸出の後、ティーバックを、取り除き、20mlのミルクをそれぞれのサンプルに加えた。
【0031】
完全無作為化法を選択し、それぞれのパネリストが、それぞれのサンプルを三回評価するようにした。サンプルを、パネリストの白のマグカップに出し、白の光の下、評価した。水、クラッカー及びメロンをお口直しとして提供した。
【0032】
サンプルAが、実施例1の飲料前駆体を使用して調製され、サンプルBからHは脱カフェインの紅茶葉を含む商業的に利用可能なティーバックを使用して調製された。(PG Tipsデカフェピラミッドティーバックを使用して調製された)サンプルBを、コントロールサンプルとして使用した。
【0033】
サンプルAは、すべてのサンプルBからHより、高い花のような及び新鮮なグリーンノート及び低いウッディーノートを顕著に有することを見出した。加えて、サンプルAは、におい及び味の両方の点で、最も高い全体の強度を有すると気づかれた。
【0034】
本結果は、本発明による飲料前駆体が、上昇したフローラルノート及び/又は上昇した全体の強度の両方の点において、官能特性を向上させた飲料を提供することを示す。