(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】4輪駆動車の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60K 17/348 20060101AFI20230411BHJP
【FI】
B60K17/348 B
(21)【出願番号】P 2018109741
(22)【出願日】2018-06-07
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢嶋 裕樹
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-293226(JP,A)
【文献】特開2013-133096(JP,A)
【文献】特開2016-215886(JP,A)
【文献】特開2009-35103(JP,A)
【文献】特開2007-118742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/348
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪の駆動力と後輪の駆動力との比である前後輪駆動力比を調節可能な駆動系を有する4輪駆動車に搭載され、前記駆動系を制御する4輪駆動車の制御装置であって、
進行方向前方の回避対象との衝突を回避する緊急回避が必要であることが検知されたとき、
前記回避対象との衝突を回避するために好適であると判定された前記前輪の転舵方向と運転者による操舵部材の操舵方向とが同じであることを条件として前記前後輪駆動力比を転舵輪である前記前輪の駆動力が小さくなるように調節
し、前記回避対象との衝突を回避するために好適であると判定された前記前輪の転舵方向と運転者による操舵部材の操舵方向とが同じでない場合には、前記前輪の駆動力を小さくする調節を行わない、
4輪駆動車の制御装置。
【請求項2】
前記駆動系は、駆動源の駆動力を伝達容量可変なクラッチ装置を介して前記前輪に伝達するように構成され、
前記緊急回避が必要であることが検知されたとき、前記クラッチ装置を制御して前記前輪に伝達される駆動力を低減する、
請求項
1に記載の4輪駆動車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4輪駆動車に搭載され、前輪の駆動力と後輪の駆動力との比である前後輪駆動力比を調節可能な駆動系を制御する4輪駆動車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン等の駆動源の駆動力を前輪及び後輪に配分する4輪駆動車には、2輪駆動モードでの走行中にスリップや横滑りが発生したとき、駆動モードを2輪駆動モードから4輪駆動モードに切り替えるものがある。特許文献1に記載の4輪駆動車は、2輪駆動モードでは駆動源の駆動力を後輪のみに伝達し、4輪駆動モードではトランスファ内のクラッチを締結して前輪及び後輪に駆動力を配分するように駆動系が構成されている。
【0003】
一方、近年では、例えば特許文献2に示されているように、車載カメラによって走行方向前方を監視し、衝突の可能性がある対象物を認識したとき、運転者に緊急回避操作を促す警報を発する警報装置を備えた車両が普及しつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-62929号公報
【文献】特開2006-154967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような警報装置が搭載された車両において警報が発せられてとき、運転者はブレーキあるいはハンドル操作によって対象物との衝突を回避しようとする。ハンドル操作によって衝突を回避する場合には、車両の回頭性、すなわち操舵方向にすみやかに車両が向きを変える性能が高いことが望ましい。しかし、4輪駆動状態で走行する4輪駆動車は、直進安定性が高い一方で回頭性は比較的低く、転舵による衝突回避には向かない傾向があった。
【0006】
そこで、本発明は、前輪の駆動力と後輪の駆動力との比である前後輪駆動力比を調節可能な駆動系を有する4輪駆動車において、前輪を転舵して回避対象との衝突を回避する緊急回避時の回頭性を高めることが可能な4輪駆動車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するため、前輪の駆動力と後輪の駆動力との比である前後輪駆動力比を調節可能な駆動系を有する4輪駆動車に搭載され、前記駆動系を制御する4輪駆動車の制御装置であって、進行方向前方の回避対象との衝突を回避する緊急回避が必要であることが検知されたとき、前記回避対象との衝突を回避するために好適であると判定された前記前輪の転舵方向と運転者による操舵部材の操舵方向とが同じであることを条件として前記前後輪駆動力比を転舵輪である前記前輪の駆動力が小さくなるように調節し、前記回避対象との衝突を回避するために好適であると判定された前記前輪の転舵方向と運転者による操舵部材の操舵方向とが同じでない場合には、前記前輪の駆動力を小さくする調節を行わない、4輪駆動車の制御装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る4輪駆動車の制御装置によれば、前輪を転舵して回避対象との衝突を回避する緊急回避時の回頭性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態に係る制御装置が搭載された4輪駆動車の構成例を示す概略構成図である。
【
図2】走行中に左前方から歩行者が車道に出てきた状況を示す状況図である。
【
図3】前輪の摩擦円を示す説明図であり、(a)は4輪駆動モードにおいて前輪に駆動力が伝達されているときの状態を示し、(b)は前輪に伝達される駆動力を小さくしたときの状態を示している。
【
図4】回避対象との衝突回避に関して制御装置が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】制御装置が実行する処理の他の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0011】
図1は、本発明の実施の形態に係る制御装置が搭載された4輪駆動車の構成例を示す概略構成図である。この4輪駆動車1は、左右の前輪11,12及び左右の後輪13,14を駆動する駆動系2と、操舵部材としてのステアリングホイール30の操舵操作によって左右の前輪11,12を転舵させるステアリング装置3と、左右の車載カメラ41,42によって撮像された画像に基づいて衝突を回避すべき回避対象を検知する衝突回避警報装置4と、駆動系2を制御する制御装置5とを有している。回避対象は、例えば歩行者や走行中もしくは停車中の他車両、あるいは落下物や工事用安全柵などである。
【0012】
駆動系2は、駆動源としてのエンジン21と、エンジン21の駆動力を変速して出力するトランスミッション22と、トランスミッション22から出力された駆動力を前輪側及び後輪側に配分するトランスファ23と、前輪側のプロペラシャフト24及び後輪側のプロペラシャフト25と、前輪側のディファレンシャル装置26及び後輪側のディファレンシャル装置27と、左右前輪側のドライブシャフト261,262と、左右後輪側のドライブシャフト271,272とを有している。
【0013】
トランスファ23は、トランスミッション22の出力回転軸221に取り付けられた駆動プーリ231と、駆動プーリ231に掛け回された無端ベルト232と、無端ベルト232を介して駆動プーリ231から駆動力を受ける従動プーリ233と、従動プーリ233と前輪側のプロペラシャフト24との間に配置されたクラッチ装置234とを有している。
【0014】
クラッチ装置234は、従動プーリ233と一体に回転するクラッチハウジング235と、前輪側のプロペラシャフト24と一体に回転するインナシャフト236と、クラッチハウジング235とインナシャフト236との間に配置された複数のクラッチプレートからなる多板クラッチ237と、多板クラッチ237を押圧するアクチュエータ238とを有している。
【0015】
多板クラッチ237は、クラッチハウジング235に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合した複数のアウタクラッチプレート237aと、インナシャフト236に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合した複数のインナクラッチプレート237bとを交互に配置してなり、アクチュエータ238の押圧力によってアウタクラッチプレート237aとインナクラッチプレート237bとが相互に押し付けられて摩擦係合する。
【0016】
アクチュエータ238は、制御装置5から供給される電流に応じた押圧力で多板クラッチ237を押圧する。多板クラッチ237は、アクチュエータ238の押圧力が大きいほど駆動力の伝達容量が大きくなる。すなわち、クラッチ装置234は、制御装置5によって制御され、駆動力の伝達容量が可変である。なお、アクチュエータ238の構成として具体的には、例えば電動モータの回転力をカム機構によって軸方向のカム推力に変換するものでもよく、電磁石の磁力によって作動する電磁クラッチの伝達トルクによりカム機構のカム推力を発生させるものであってもよい。また、電動モータによって駆動される油圧ポンプの油圧によって多板クラッチ237を押圧するものでもよい。
【0017】
後輪13,14には、エンジン21の駆動力が、トランスミッション22、後輪側のプロペラシャフト25、後輪側のディファレンシャル装置27、及び左右後輪側のドライブシャフト271,272を介して常時伝達される。前輪11,12には、エンジン21の駆動力が、トランスミッション22、駆動プーリ231、無端ベルト232、従動プーリ233、クラッチ装置234、前輪側のプロペラシャフト24、前輪側のディファレンシャル装置26、及び左右前輪のドライブシャフト261,262を介して伝達される。前輪11,12に伝達される駆動力は、クラッチ装置234によって断続可能である。
【0018】
ステアリング装置3は、ステアリングホイール30の操舵操作によって回転するステアリングシャフト31と、ステアリングシャフト31と噛み合って車幅方向に進退移動するラックシャフト32と、ラックシャフト32の両端部に揺動可能に連結された左右のタイロッド33,34とを有している。ステアリングホイール30が操舵操作されるとラックシャフト32が車幅方向に移動し、左右のタイロッド33,34を介して転舵輪である左右の前輪11,12が転舵される。ステアリングホイール30の操舵角は、操舵角センサ61によって検出される。
【0019】
衝突回避警報装置4は、左右の車載カメラ41,42によって進行方向前方に衝突の可能性がある監視対象物を発見したとき、当該監視対象物と自車両(4輪駆動車1)との距離や相対的な移動方向ならびに接近速度などを考慮して、当該監視対象物との衝突を回避する緊急回避が必要か否かを判定する。そして、緊急回避が必要であると判定されたとき、当該監視対象物を、自車両との衝突を回避すべき回避対象として認識(検知)し、警報音によって運転者に警報を発する。また、衝突回避警報装置4は、車載カメラ41,42によって撮像された画像に基づいて、ガードレール等の他の障害物と自車両との相対的な位置や距離を測定し、回避対象との衝突を回避するために進行方向に対して左右何れの方向に前輪11,12を転舵すべきかを判定する。
【0020】
制御装置5は、衝突回避警報装置4との通信が可能であり、衝突回避警報装置4が回避対象を検知したことを示す情報、及び当該回避対象との衝突を回避するために左右何れの方向に前輪11,12を転舵すべきかの判定結果の情報を取得可能である。また、制御装置5は、例えばCAN(Controller Area Network)等の車内通信網により、操舵角センサ61の検出結果、左右の前輪11,12及び左右の後輪13,14の各車輪速を検出する車輪速センサ62の検出結果、アクセルペダルの踏み込み量に応じたアクセル開度信号を検出するアクセル開度センサ63の検出結果、及び運転者が操作する駆動モード切り替えスイッチ64の操作状態の情報を取得可能である。
【0021】
運転者は、駆動モード切り替えスイッチ64により、2輪駆動モード、4輪駆動モード、及びロックモードの何れかを選択可能である。2輪駆動モードは、多板クラッチ237を解放してエンジン21の駆動力を後輪13,14のみに伝達するモードである。ロックモードは、多板クラッチ237をアウタクラッチプレート237aとインナクラッチプレート237bとの滑りが発生しない程度に強く締結し、前後輪の差動を生じさせないモードである。4輪駆動モードは、4輪駆動車1の走行状態に応じて、例えばアクセル開度が大きいほど、また前輪11,12の平均回転速度と後輪13,14の平均回転速度との差である差動回転速度が大きいほど、クラッチ装置234の駆動力の伝達容量を高め、前輪11,12に大きな駆動力を配分するモードである。
【0022】
駆動系2は、制御装置5によって制御され、前輪11,12の駆動力と後輪13,14の駆動力との比である前後輪駆動力比を調節可能である。本実施の形態では、制御装置5がクラッチ装置234を制御して前後輪駆動力比を調節する。より具体的には、クラッチ装置234のアクチュエータ238に供給する電流を大きくすることにより前輪11,12への駆動力配分割合が高くなり、ロックモードでは前後輪駆動力配分比が5(前輪):5(後輪)となる。また、アクチュエータ238に電流を供給しない場合には、前後輪駆動力配分比が0(前輪):10(後輪)となる。4輪駆動モードでは、制御装置5が走行状態に応じてクラッチ装置234を制御し、前後輪駆動力配分比が5:5から0:10の間で変化する。
【0023】
図2は、自車両(4輪駆動車1)の走行中に左前方から歩行者Wが車道に出てきた状況を示す状況図である。衝突回避警報装置4は、車載カメラ41,42によって回避対象としての歩行者Wを検知し、運転者に警報を発する。
図2では、衝突回避警報装置4が歩行者Wを回避対象として検知したときの自車両の位置をAで示している。
【0024】
このような状況下では、自車両の左側には障害物であるガードレール7があるので、歩行者Wの手前で安全に停止することができないと判断される場合には、右側に転舵して歩行者Wとの衝突を回避することが望ましい。したがって、衝突回避警報装置4は、回避対象を検知したことを示す信号を出力すると共に、歩行者Wとの衝突を回避するために右側への転舵が好適であることを示す信号を出力する。
【0025】
運転者は、目視あるいは警報によって歩行者Wの存在を認識し、ステアリングホイール30を操舵する。
図2では、ステアリングホイール30が右に操舵されて右方向に旋回中の自車両の位置をBで示している。一方、制御装置5は、衝突回避警報装置4が出力した信号によって回避対象が検知されたことを認識する。そして、衝突回避警報装置4によって好適と判定された転舵方向(ここでは右方向)と運転者によるステアリングホイール30の操舵方向とが同じであることを条件として、前後輪駆動力比を前輪11,12の駆動力の割合が小さくなるように調節する。
【0026】
4輪駆動車1は、前輪11,12の駆動力が小さくなることにより、回頭性が高まり、回避対象を回避しやすくなる。次に、この原理について
図3を参照して説明する。
【0027】
図3は、前輪11,12の摩擦円を示す説明図であり、(a)は4輪駆動モードにおいて前輪11,12に駆動力が伝達されているときの状態を示し、(b)は前輪11,12に伝達される駆動力を小さくしたときの状態を示している。
図3(a)及び(b)に示す摩擦円の大きさは、タイヤと路面との摩擦係数に垂直荷重を乗じて得られるタイヤと路面との摩擦力の最大値を示している。また、
図3(a)及び(b)の横軸はタイヤの横力を示し、縦軸はタイヤの前後力を示している。
【0028】
周知のように、前後力Fyと横力Fxとの合力Fは、摩擦円の半径を超えることはできない。したがって、前輪11,12に伝達される駆動力を小さくすることによって、
図3(b)に示すように、得られる横力の最大値が大きくなる。なお、
図3(b)では、
図3(a)に対し、前輪11,12に伝達される駆動力を半分にしたときの状態を示しているが、多板クラッチ237を解放して前輪11,12への駆動力伝達を遮断すれば、さらに横力の最大値を大きくすることができる。そして、横力が大きくなることにより、4輪駆動車1の回頭性が高まり、回避対象(歩行者W)との衝突を回避しやすくなる。
【0029】
一方、後輪13,14では、前輪11,12の駆動力が小さくなった分の駆動力が新たに加わり、前後力の増大によってタイヤのグリップ力が限界値に近づく。そして、回避対象を回避するための旋回時の遠心力によってタイヤのグリップ力が限界を超えるとオーバーステアが発生し、さらに4輪駆動車1の向きが大きく変わる。したがって、このオーバーステアによっても、回避対象との衝突を回避しやすくなる。
【0030】
図4は、回避対象との衝突回避に関して制御装置5が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。制御装置5は、このフローチャートに示す処理を所定の時間間隔で繰り返し実行する。
【0031】
このフローチャートに示す処理において、制御装置5は、駆動モード切り替えスイッチ64により選択された駆動モードが4輪駆動モードであるか否かを判定する(ステップS1)。この判定において駆動モードが4輪駆動モードである場合(S1:Yes)、制御装置5は、衝突回避警報装置4から出力された信号に基づき、衝突回避警報装置4が回避対象を検知した否か、すなわち緊急回避が必要か否かを判定する(ステップS2)。
【0032】
この判定において衝突回避警報装置4が回避対象を検知していた場合(S2:Yes)、制御装置5は、衝突回避警報装置4によって好適と判定された転舵方向と運転者によるステアリングホイール30の操舵方向とが一致しているか否かを判定する(ステップS3)。この判定において両者が一致している場合(S3:Yes)、制御装置5は、クラッチ装置234を制御して前輪11,12に伝達される駆動力を小さくする。すなわち、前記前後輪駆動力比を前輪11,12の駆動力が小さくなるように調節する(ステップS4)。このステップS4では、前輪11,12に伝達される駆動力をゼロとしてもよい。
【0033】
制御装置5は、例えば衝突回避警報装置4が出力する信号によって回避対象との衝突が回避されたことを確認するまで、ステップS4における前輪11,12に伝達される駆動力を小さくする処理を継続する。一方、ステップS1からS3の何れかの判定結果が否(No)の場合、制御装置5はステップS4の処理を実行しない。
【0034】
以上の一連の処理により、回避対象との衝突を回避する緊急回避が必要であることが検知されたとき、前述の原理によって4輪駆動車1の回頭性が高まり、回避対象を回避しやすくなる。なお、ステップS1の判定では、ロックモードが選択されている場合にも判定結果をYesと判定してもよい。
【0035】
図5は、制御装置5が実行する処理の他の一例を示すフローチャートである。
図4のフローチャートに示した処理手順の例では、緊急回避が必要であることが検知されたとき、衝突回避警報装置4によって好適と判定された転舵方向と運転者によるステアリングホイール30の操舵方向とが同じであることを条件として、前後輪駆動力比を前輪11,12の駆動力の割合が小さくなるように調節する場合について説明したが、
図5に示すフローチャートでは、
図4のフローチャートのステップS3が省略され、ステップS2において緊急回避が必要であることが検知されたとき、直ちにステップS4の処理において前後輪駆動力比を前輪11,12の駆動力の割合が小さくなるように調節する。
【0036】
これにより、例えば運転者がステアリングホイール30の操舵操作を始める前であってもステップS4の処理を実行することができ、より速やかに前輪11,12の駆動力を小さくして回頭性を高めることができる。なお、この場合には、衝突回避警報装置4が緊急回避に際して左右何れの方向に前輪11,12を転舵すべきかを判定しなくともよい。
【0037】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態によれば、前輪11,12を転舵して回避対象との衝突を回避する緊急回避時の回頭性を高めることが可能となる。そして、回避対象との衝突を回避しやすくなり、安全性が向上する。
【0038】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0039】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記の実施の形態では、駆動源(エンジン21)の駆動力を前後輪に配分するように駆動系2を構成した場合について説明したが、これに限らず、例えば左右前輪を駆動する前輪用の駆動源と左右後輪を駆動する後輪用の駆動源とを有して駆動系が構成されていてもよい。この場合、緊急回避が必要であることが検知されたとき、前制御装置が輪用の駆動源の駆動力を低減することによって前後輪駆動力比を調節する。
【0040】
またさらに、左前輪、右前輪、左後輪、及び右後輪のそれぞれに例えば電動式のモータ(インホイールモータ)を取り付けた4輪駆動車に本発明を適用することも可能である。この場合には、緊急回避が必要であることが検知されたとき、制御装置が左前輪及び右前輪のモータの出力を低減することによって前後輪駆動力比を調節する。
【符号の説明】
【0041】
1…4輪駆動車 11,12…前輪(転舵輪)
13,14…後輪 2…駆動系
21…エンジン(駆動源) 234…クラッチ装置
4…衝突回避警報装置 5…制御装置
W…歩行者(回避対象)