(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】積層用ポリエチレン樹脂組成物及び積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20230411BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20230411BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20230411BHJP
C08F 210/02 20060101ALI20230411BHJP
B29C 48/16 20190101ALI20230411BHJP
【FI】
B32B27/32 Z
C08L23/16
C08L23/06
C08F210/02
B29C48/16
(21)【出願番号】P 2018232855
(22)【出願日】2018-12-12
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2017237396
(32)【優先日】2017-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】坂本 慎治
(72)【発明者】
【氏名】増村 千晶
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-183479(JP,A)
【文献】特開2015-127402(JP,A)
【文献】特開2013-234289(JP,A)
【文献】特開2013-241509(JP,A)
【文献】特表2008-540699(JP,A)
【文献】特開2017-132134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08L 23/16
C08L 23/06
C08L 210/02
B29C 48/16
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a-1)~(a-4)の特性を有するエチレン・プロピレン共重合体(A)を含有
し、架橋剤を含有しないことを特徴とする
包装・容器に用いられる積層体用ポリエチレン樹脂組成物(C)。
(a-1)
実質的に直鎖状にランダムに重合してなる共重合体であり、エチレンに由来する構成単位を主成分として80~98mol%、プロピレンに由来する構成単位を必須の副成分として2~20mol%含み、エチレン及びプロピレン以外の第3のα-オレフィンに由来する構成単位を副成分として5mol%以下含んでいてもよい(ただし、前記第3のα-オレフィンに由来する構成単位を含む場合は、エチレンに由来する構成単位とプロピレンに由来する構成単位と第3のα-オレフィンに由来する構成単位の合計が100mol%を超えない)
(a-2)メルトフローレート(190℃、21.18N荷重)が0.1~100g/10分
(a-3)密度が0.88~0.94g/cm
3
(a-4)ビニルとビニリデンの合計が0.35個以上(ただし、ビニル、ビニリデンの個数は、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの数である)
【請求項2】
前
記ポリエチレン樹脂組成物(C)が、下記(b-1)~(b-2)の特性を有する高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(B)を含有することを特徴とする請求項1に記載の
包装・容器に用いられる積層体用ポリエチレン樹脂組成物。
(b-1)メルトフローレート(190℃、21.18N荷重)が0.1~20g/10分
(b-2)密度が0.915~0.930g/cm
3
【請求項3】
前
記ポリエチレン樹脂組成物(C)が、エチレン・プロピレン共重合体(A)95~10重量%及び高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(B)5~90重量%を含有することを特徴とする請求項2に記載の
包装・容器に用いられる積層体用ポリエチレン樹脂組成物。
【請求項4】
前記エチレン・プロピレン共重合体(A)が、さらに下記特性(a-5)を満たすことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の
包装・容器に用いられる積層体用ポリエチレン樹脂組成物。
(a-5)エチレン・プロピレン共重合体中のコモノマーによる分岐数(Y)と密度(X)が式(1)を満たす。(ただし、分岐数は、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素あたりの数である。)
(Y)≧ -1157×(X) + 1080 (式1)
【請求項5】
前記エチレン・プロピレン共重合体(A)が、さらに下記特性(a-6)を満たすことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の
包装・容器に用いられる積層体用ポリエチレン樹脂組成物。
(a-6)エチレン・プロピレン共重合体中のコモノマーによる分岐数(Y)と密度(X)が式(2)を満たす。(ただし、分岐数は、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素あたりの数である。)
(Y)≧ -1157×(X) + 1084 (式2)
【請求項6】
前
記ポリエチレン樹脂組成物(C)が、さらに下記特性(C-1)~(C-2)を満たすことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の
包装・容器に用いられる積層体用ポリエチレン樹脂組成物。
(C-1)メルトフローレート(190℃、21.18N荷重)が1~100g/10分
(C-2)密度が0.88~0.94g/cm
3
【請求項7】
少なくとも基材層(D)と請求項1~6のいずれかに記載の
包装・容器に用いられる積層体用ポリエチレン樹脂組成物(C)を含有する層(E)を有する
包装・容器に用いられる積層体。
【請求項8】
前記積層体
を、押出コーティング法により形成
してなることを特徴とする請求項7に記載の
包装・容器に用いられる積層体
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層用ポリエチレン樹脂組成物及び積層体に関し、詳しくは、紙、金属箔、フィルム等の基材に積層するための積層用ポリエチレン樹脂組成物及びその積層体であって、基材等との優れた接着性を有すると共に、易突き刺し性等の易開封性にも優れる積層用ポリエチレン樹脂組成物及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のゴミの最終処分問題、リサイクル法等により、飲食物、調味料、薬品等に用いる包装・容器は、減容化が進められている。また、一方で燃やしやすい素材として焼却時の燃焼カロリーが低い容器として、紙化が検討されている。これら包装・容器は、使用時の利便性という観点から開封が容易であることが望まれている。
従来の包装・容器に用いられている積層体は、ヒートシール性、防湿性などを有する容器として必要な特性付与の観点から、紙、二軸延伸したポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレン等を基材とし、これらの基材にヒートシール層樹脂として高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)等からなるポリエチレン系樹脂を積層したものが用いられていた。
しかしながら、近年、これら積層体のヒートシール強度、低温ヒートシール性、ホットタック性、耐衝撃性、耐ピンホール性等を向上させるため直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、特にメタロセン触媒で重合されたLLDPEの使用が提案されてきている。
LLDPEは、通常、エチレンとC4以上のα-オレフィンコモノマーの共重合体である。
一方、包装・容器等の内容物保存性を高める為、バリア性のあるアルミ等の金属箔、金属または無機物、有機物を蒸着したプラスチック製フィルム、バリア性コーティングを施したプラスチック製フィルム、エチレン・ビニルアルコール共重合体等のバリア性材料のフィルムまたはこれらの同種若しくは異種材料からなる積層フィルム等が積層された積層体が用いられている。
【0003】
メタロセン触媒で重合された直鎖状低密度ポリエチレン(メタロセン系ポリエチレン)は、低温でヒートシールが可能であり、シール強度が強く、ホットタック強度が強い特徴を有し、軟包装、液体紙容器などのシーラントとして広く使用されてきている。しかしながら、紙カップ、紙容器などの打抜き工程がある用途では、打抜き性が悪く、打抜けない、樹脂層が伸びてしまうため見かけが悪くなる等の問題を有している。また、紙結束、易引裂き性包装用途では、引裂き性が悪いため、開封に力を要する、樹脂層が伸びる等の問題を有している。更に、液体紙容器等のストローホールがある容器については、ストローの貫通性が悪い等の問題を有している。
これら積層体の製造には、ドライラミネート法や共押出成形、押出ラミネート成形が用いられている。押出ラミネート成形においては、接着剤を塗布する場合としない場合があり、いずれも安定した高い接着強度が求められる。特に、接着剤を使用しない場合には、材料に求められる接着性はより厳しいものとなる。
かかる問題を解決する試みは多くなされており、例えば、メタロセン系ポリエチレンとチーグラー触媒で重合されたLLDPEの積層体が提案されている(例えば、特許文献1参照。)が、この積層体は、チーグラー触媒により重合されたLLDPEにより引裂き性は、多少は改善されるものの、依然としてメタロセン系ポリエチレン層の伸びは解消できず、何よりヒートシール性を大きく犠牲にするため望ましい方法とはいえず、基材との接着に関する記載はない。
さらに、メタロセン系ポリエチレンに特定のスウェル比を有するLDPEを配合する発明が開示されている(例えば、特許文献2参照。)が、ヒートシール強度と引裂きバランスでは満足といえるものではなく、基材との接着性に関する記載はない。また、本出願人により、エチレンとプロピレンと1-ヘキセン又は1-オクテンを必須とするエチレン三元系共重合体とLDPEを配合する発明も開示されている(特許文献3参照)が、突刺し性と接着性に関する記載はなく、易突刺し性と接着強度の両方に優れた開示はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-24539号公報
【文献】特開2000-212339号公報
【文献】特開2006-82547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、基材等との優れた接着性を有すると共に、易突き刺し性等の易開封性にも優れた積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、今般、新たに以下に示す(a-1)~(a-4)の新領域の物性を有するエチレン・プロピレン共重合体を試作するとともに、かかる特定の特性を有するエチレン・プロピレン共重合体、すなわち、エチレンである主成分とプロピレンである副成分を所定量含み、密度及びメルトフローレート(MFR)がある一定の範囲であり、共重合体中に含まれる二重結合の量が多く、分岐数が多いエチレン・プロピレン共重合体を含有し、好ましくは特定の高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレンを更に含有する積層用ポリエチレン樹脂組成物を用いて、基材層上に層を形成した積層体は、優れた接着性を有すると共に、易突刺し性にも優れ、いずれの性能も両立する、内容物の保護性能と易取り扱い性に優れた積層体になることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明の第1の発明は、下記(a-1)~(a-4)の特性を有するエチレン・プロピレン共重合体(A)を含有する積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)である。
(a-1)エチレンに由来する構成単位を主成分として80~98mol%、プロピレンに由来する構成単位を必須の副成分として2~20mol%含み、エチレン及びプロピレン以外の第3のα-オレフィンに由来する構成単位を副成分として5mol%以下含んでいてもよい(ただし、前記第3のα-オレフィンに由来する構成単位を含む場合は、エチレンに由来する構成単位とプロピレンに由来する構成単位と第3のα-オレフィンに由来する構成単位の合計が100mol%を超えない)
(a-2)メルトフローレート(190℃、21.18N荷重)が0.1~100g/10分
(a-3)密度が0.88~0.94g/cm3
(a-4)ビニルとビニリデンの合計が0.35個以上(ただし、ビニル、ビニリデンの個数は、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの数である)
【0008】
また、本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)が、下記(b-1)~(b-2)の特性を有する高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(B)を含有することを特徴とする、積層用ポリエチレン樹脂組成物である。
(b-1)メルトフローレート(190℃、21.18N荷重)が0.1~20g/10分
(b-2)密度が0.915~0.930g/cm3
【0009】
また、本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)が、エチレン・プロピレン共重合体(A)95~10重量%及び高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(B)5~90重量%を含有することを特徴とする、積層用ポリエチレン樹脂組成物である。
【0010】
また、本発明の第4の発明は、第1~第3のいずれかの発明において、前記エチレン・プロピレン共重合体(A)が、さらに下記特性(a-5)を満たすことを特徴とする、積層用ポリエチレン樹脂組成物である。
(a-5)エチレン・プロピレン共重合体中のコモノマーによる分岐数(Y)と密度(X)が式(1)を満たす。 (ただし、分岐数は、NMRで測定した主鎖
、側鎖の合計1000個の炭素あたりの数である。)
(Y)≧ -1157×(X) + 1080 (式1)
【0011】
また、本発明の第5の発明は、第1~第4のいずれかの発明において、前記エチレン・プロピレン共重合体(A)が、さらに下記特性(a-6)を満たすことを特徴とする、積層用ポリエチレン樹脂組成物である。
(a-6)エチレン・プロピレン共重合体中のコモノマーによる分岐数(Y)と密度(X)が式(2)を満たす。 (ただし、分岐数は、NMRで測定した主鎖
、側鎖の合計1000個の炭素あたりの数である。)
(Y)≧ -1157×(X) + 1084 (式2)
【0012】
また、本発明の第6の発明は、第1~第5のいずれかの発明において、前記積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)が、さらに下記特性(C-1)~(C-2)を満たすことを特徴とする、積層用ポリエチレン樹脂組成物である。
(C-1)メルトフローレート(190℃、21.18N荷重)が1~100g/10分(C-2)密度が0.88~0.94g/cm3
【0013】
また、本発明の第7の発明は、少なくとも基材層(D)と第1~第6のいずれかの発明の積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)を含有する層(E)を有する積層体である。
【0014】
また、本発明の第8の発明は、第7の発明において、前記積層体が押出コーティング法により形成されていることを特徴とする、積層体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の積層用ポリエチレン樹脂組成物及び積層体は、基材等との優れた接着性を有すると共に、易引裂性、易打抜き性、易突き刺し性等の易開封性にも優れ、いずれの性能も両立する、内容物の保護性能と易取り扱い性に優れた積層用ポリエチレン樹脂組成物及び積層体である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例及び比較例で得られた、基材との接着強度と、易突刺し特性のバランスを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、下記(a-1)~(a-4)、必要に応じてさらに、(a-5)や(a-6)の特性を有するエチレン・プロピレン共重合体(A)と、好ましくは下記(b-1)~(b-2)の特性を有する高圧ラジカル重合法により得られる低密度ポリエチレン(B)とを含有する積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)、及び、少なくとも基材層と該積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)を含有する層(E)とを有する積層体である。
以下、本発明を各項目毎に詳細に説明する。
【0018】
1.積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)
(1)エチレン・プロピレン共重合体(A)
本発明のエチレン・プロピレン共重合体(A)は、下記の特性(a-1)~(a-4)をすべて満たし、必要に応じてさらに、(a-5)、又は、(a-6)の特性を有することを特徴とする。
なお、エチレンとプロピレンを構成成分とする共重合体としては、いわゆるエチレンプロピレンゴム(EPM)と呼ばれる、プロピレン成分を20mol%より多く含み、密度も0.870g/cm3以下の溶液重合法により得られるゴム状重合体が、エラストマーの分野において用いられているが、本発明のエチレン・プロピレン共重合体(A)は、これらエチレンプロピレンゴムとは、密度範囲も、含まれるエチレンやプロピレンの量が異なり、物性等も全く異なる重合体である。
また、プロピレン重合体において、製造過程でエチレン成分を若干量含むプロピレンエチレン共重合体も知られているが、これらもそのプロピレン含有量等の点で、本発明のエチレン・プロピレン共重合体(A)と大きく異なり、物性等もまったく異なる重合体である。
また、いわゆる通常の直鎖状の分子構造を有するエチレン・α-オレフィン共重合体(例えばLLDPE)は主にフィルム用途として開発されているために、通常、高強度の共重合体を得るためのC4やC6といったC4以上のα-オレフィンを主のコモノマー成分とするのが常であり、低強度となるC3コモノマーを主の副成分として用いたエチレンとプロピレンからなる共重合体であって、密度が0.88g/cm3以上の共重合体は、今まで殆ど注目されず、少なくとも本出願人からは市販等されていなかった。
今般、新たに、かかる密度領域の、C3コモノマーを主の副成分として用いてエチレン・プロピレン共重合体を試作すると共に、種々検討したところ、特に(a-1)~(a-4)といった新たな領域の物性を有するエチレン・プロピレン共重合体(A)を用いた積層用ポリエチレン樹脂組成物において、本発明の効果が得られることを見出した。
【0019】
(a-1)成分(A)のモノマー構成
本発明に用いられるエチレン・プロピレン共重合体(A)は、エチレンに由来する構成単位を主成分として80~98mol%、プロピレンに由来する構成単位を副成分として2~20mol%含むことを特徴とする、エチレン・プロピレン共重合体であり、具体例としては触媒重合法により重合してなる共重合体であって、実質的に直鎖状にランダムに重合してなる共重合体である。具体例としては、エチレンとプロピレンのランダム共重合体である。好ましくは、エチレンに由来する構成単位が82~97mol%、プロピレンに由来する構成単位が3~18mol%、更に好ましくはエチレンに由来する構成単位が85~95mol%、プロピレンに由来する構成単位が5~15mol%である。ここで、エチレン含有量等のモノマー量は、13C-NMRにより、後述する実施例の欄に記載の条件で測定し、算出した値である。
なお、その他のα-オレフィン、特に炭素数4~20のα-オレフィンに由来する構成単位及び他のモノマー成分を全く含まない構成が好ましいが、実質的に微量でかかる構成を含んでいてもよい。本明細書においては、エチレン及びプロピレン以外のα-オレフィンを第3のα-オレフィンという。本発明のエチレン・プロピレン共重合体(A)は、エチレン及びプロピレン以外の第3のα-オレフィンに由来する構成単位を副成分として例えば5mol%以下、好ましくは2mol%以下、更に好ましくは1.5mol%以下、一層好ましくは1mol%以下、最も好ましくは0.5mol%以下含んでいてもよい。
ここで、本発明のエチレン・プロピレン共重合体(A)が第3のα-オレフィンに由来する構成単位を含む場合は、エチレンに由来する構成単位とプロピレンに由来する構成単位と第3のα-オレフィンに由来する構成単位の合計が100mol%を超えない。また、この場合、プロピレンに由来する構成単位の含有量は、第3のα-オレフィンに由来する構成単位の含有量より高いことが好ましい。また、本発明のエチレン・プロピレン共重合体(A)が第3のα-オレフィンに由来する構成単位を含む場合は、1種又は2種以上の第3のα-オレフィンを使用することができる。
また、エチレン・プロピレン共重合体(A)は、(a-1)~(a-4)、更に好ましくは(a-5)、(a-6)を充足する範囲で、1種または2種以上の組み合わせでもよい。
プロピレンを副成分として必須コモノマーとし、特に、後に記載するメタロセン触媒を用いた高圧イオン重合法を採用した場合、特異的にビニル、ビニリデンの合計数が多いエチレン・α-オレフィン共重合体を得ることが可能となる。1-ヘキセン、1-オクテンといったα-オレフィンをコモノマー主成分として重合した場合、この効果は得られにくい。
【0020】
(a-2)メルトフローレート(MFR:190℃、21.18N荷重)
本発明に用いるエチレン・プロピレン共重合体(A)のメルトフローレート(MFR:190℃、21.18N荷重)は、0.1~100g/10分であり、好ましくは1~80g/10分であり、より好ましくは5~70g/10分である。MFRが0.1g/10分未満であると成形時の延展性が悪くなり、押出機内のモーター負荷が高くなるため好ましくない。一方、MFRが100g/10分を超えると成形時の溶融膜の状態が不安定になるので好ましくない。エチレン・プロピレン共重合体のMFRを調節するには、例えば、重合温度、コモノマー量などを適宜調節する方法がある。
ここで、MFRは、JIS-K6922-2:1997附属書(190℃、21.18N荷重)に準拠して測定する値である。
【0021】
(a-3)密度
本発明に用いるエチレン・プロピレン共重合体(A)の密度は、0.88~0.94g/cm3であり、好ましくは0.885~0.94g/cm3であり、より好ましくは0.89~0.93g/cm3である。密度が0.88g/cm3未満であると、ブロッキングが不良になるので好ましくない。一方、密度が0.94g/cm3を超えると、接着性が不良となるので好ましくない。
ポリマーの密度を調節するには、例えばα-オレフィン含有量、重合温度、触媒量などを適宜調節する方法がとられる。なお、エチレン・プロピレン共重合体の密度は、JIS-K6922-2:1997附属書(低密度ポリエチレンの場合)に準拠して測定する(測定温度23℃)。
【0022】
(a-4)ビニル、ビニリデンの合計数
エチレンとα-オレフィンの1種以上を共重合してなる共重合体においては、積極的なジエンモノマーの添加を行わない場合でも、製造過程のメカニズムの違いに起因して、種々の二重結合(ビニル、ビニリデン、シス-ビニレン、トランス-ビニレン、三置換オレフィン)を生じる場合があり、その量や種類も様々である。
従来、太陽電池封止材として良好な架橋特性を得るためには、エチレン・α-オレフィン共重合体に含まれる二重結合数が多いと架橋特性が良好であることは知られていたが、積層用樹脂組成物分野においては、二重結合の量や種類による違いについては検討されていなかった。
本発明では、エチレン・プロピレン共重合体に含まれる種々の二重結合のうち、特にビニルとビニリデンが接着強度と易突刺し特性の両立において重要であることを見出し、かつ、ビニルとビニリデンの合計数が、通常得られる共重合よりも多いエチレン・プロピレン共重合体を製造し、積層用樹脂組成物用のエチレン・プロピレン共重合体として用いることによって、本発明の効果を達成することを見出し、完成したものである。
本発明で用いるエチレン・プロピレン共重合体(A)は、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数当たりのビニル、ビニリデンの二重結合の合計数が0.35個以上であり(単位を「個/total 1000C」と表現す
る場合もある)、好ましくは0.40~5.0(個/total 1000C)
であり、より好ましくは0.45~4.5(個/total 1000C)であ
り、さらに好ましくは0.50~4.0(個/total 1000C)である
。
ビニル、ビニリデンの合計数が上記範囲であると、接着強度に優れた積層用ポリエチレン樹脂組成物となり、0.35個未満であると、接着強度が十分なものとならない。ビニル、ビニリデンの合計数は、適当なメタロセン触媒の選択、重合温度、コモノマーの種類を適宜調節することにより、上記範囲に制御することができる。
なお、これら二重結合の数は、主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの数であり、1H-NMRスペクトルの特性ピークの積算強度を用いて算出した値であり、後述の実施例の欄に記載の条件で測定し、算出した値である。
また、ビニルおよびビニリデンの個数はコモノマー種、コモノマー量、重合温度等の製造条件により、調整することができる。
更に本発明においては、エチレン・プロピレン共重合体(A)中のビニルの個数は、0.2(個/total 1000C)以上の範囲を満たすことが好まし
い。
また、本発明においては、エチレン・プロピレン共重合体(A)中のビニリデンの個数は、0.12(個/total 1000C)以上の範囲を満たすこと
が好ましい。
【0023】
(a-5)コモノマーによる分岐数(Y)と密度(X)との関係
本発明で用いるエチレン・プロピレン共重合体(A)は、コモノマーによる分岐数(Y)と密度(X)が下記(式1)を満たすことが好ましい。
(Y)≧ -1157×(X) + 1080 (式1)
密度と分岐数が上記(式1)の関係を満たすと、コモノマーによる分岐数が十分に確保され、易突刺し性に優れ、接着強度に優れた積層用ポリエチレン樹脂組成物となる。
なお、コモノマーによる分岐数(Y)は、ポリマー中に含まれる三級炭素の量を示し、13C-NMRにより、後述の実施例の欄に記載した条件で測定した、主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりのメチル分岐個数とブチル分岐個数を足した値である。
また、密度(X)は、エチレン・プロピレン共重合体(A)の密度であり、上記の通り測定される。
密度と分岐数の関係は、共重合するコモノマーの種類と比率により調整することができる。
【0024】
(a-6)コモノマーによる分岐数(Y)と密度(X)との関係
本発明で用いるエチレン・プロピレン共重合体(A)は、コモノマーによる分岐数(Y)と密度(X)が下記(式2)を満たすことが好ましい。
(Y)≧ -1157×(X) + 1084 (式2)
なお、(式2)中のコモノマーによる分岐数(Y)と密度(X)は、(式1)に記載の通りである。
密度と分岐数が上記(式2)の関係を満たすと、モノマーによる分岐数が十分に確保され、易突刺し性に優れ、接着強度に優れた積層用ポリエチレン樹脂組成物となる。
密度と分岐数の関係は、共重合するコモノマーの種類と比率により調整することができる。
【0025】
成分(A)の重合触媒及び重合方法
本発明で使用されるエチレン・プロピレン共重合体(A)の製造に用いられる触媒としては、特に限定されないが、より好ましくはメタロセン触媒を用いる。
メタロセン触媒としては、特に限定されるわけではないが、シクロペンタジエニル骨格を有する基等が配位したジルコニウム化合物などのメタロセン化合物と助触媒とを触媒成分とする触媒が挙げられる。特に、シクロペンタジエニル骨格を有する基等が配位したジルコニウム化合物などのメタロセン化合物を使用するのが好ましい。
製造法としては、特に限定されず、高圧イオン重合法、気相法、溶液法、スラリー法等を用いることができるが、本発明に係る二重結合を調整したエチレン・プロピレン共重合体(A)を得るためには150~330℃の高温で重合を行うことが望ましいため、高圧イオン重合法を利用するのが好ましい(「ポリエチレン技術読本」第4章、松浦一雄・三上尚孝 編著、2001年)。
【0026】
(2)高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(B)
本発明の積層用ポリエチレン樹脂組成物に用いる高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(B)は、次の(b-1)~(b-2)の特性を有する高圧ラジカル重合法により得られた低密度ポリエチレン(LDPE)であり、好ましくは長鎖分岐状低密度ポリエチレンである。
【0027】
(b-1)メルトフローレート(MFR:190℃、21.18N荷重)
本発明に用いる高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(B)のメルトフローレート(MFR)は、0.1~20g/10分であり、好ましくは0.5~15g/10分であり、より好ましくは1~15g/10分である。MFRが0.1g/10分未満では延展性が不十分となり高速成形時に膜切れを生じる。一方、MFRが20g/10分を超えると溶融膜が不安定となる。
ここで、MFRは、JIS-K6922-2:1997附属書(190℃、21.18N荷重)に準拠して測定する値である。
【0028】
(b-2)密度
本発明に用いる高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(B)の密度は、0.915~0.930g/cm3であり、好ましくは0.916~0.926g/cm3であり、より好ましくは0.917~0.925g/cm3である。密度が0.915g/cm3未満ではベタツキが多くなる。一方、0.93g/cm3を超えると接着性が不良となる。
ここで、密度は、JIS-K6922-2:1997附属書(低密度ポリエチレンの場合)に準拠して測定する(測定温度23℃)。
【0029】
本発明で使用する高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(B)の製造は、一般に槽型反応器または管型反応器を用いて、ラジカル発生剤の存在下、重合圧力1000~3000kg/cm2、重合温度150~300℃の条件下でエチレンを重合することによって行われる。分子量調節剤として水素やメタン、エタンなどの炭化水素を用いることによってメルトフローレートを調節することができる。
【0030】
(3)成分(A)と成分(B)の組成割合
本発明で用いる積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)がエチレン・プロピレン共重合体(A)に加えて更に高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(D)を含有する場合において、エチレン・プロピレン共重合体(A)と高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(B)との比率は、(A):(B)が、10~95重量%:5~90重量%であり、好ましくは20~95重量%:5~80重量%であり、より好ましくは30~95重量%:5~70重量%である。更に好ましくは40~95重量%:5~60重量%である。エチレン・プロピレン共重合体(A)が多すぎると、溶融膜の安定性が低下するおそれがあり、また、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(B)が多いと接着強度が低下するおそれがある。
特にエチレン・プロピレン共重合体(A)と高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(B)との比率(A:B)が、50~95重量%:5~50重量%であると、より接着強度が高くなるため、好ましい。
【0031】
(4)積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)の特性
(C-1)メルトフローレート(MFR:190℃、21.18N荷重)
本発明に用いる積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)のメルトフローレート(MFR:190℃、21.18N荷重)は、好ましくは1~100g/10分であり、より好ましくは1~80g/10分であり、更に好ましくは2~70g/10分である。MFRが1g/10分未満であると成形時の延展性が悪くなり、押出機内のモーター負荷が高くなるため好ましくない。一方、MFRが100g/10分を超えると成形時の溶融膜の状態が不安定になるので好ましくない。
ここで、MFRは、JIS-K6922-2:1997附属書(190℃、21.18N荷重)に準拠して測定する値である。
【0032】
(C-2)密度
本発明に用いる積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)の密度は、好ましくは0.88~0.94g/cm3であり、より好ましくは0.885~0.94g/cm3であり、更に好ましくは0.89~0.935g/cm3である。密度が0.88g/cm3未満であると、ブロッキングが不良になるので好ましくない。一方、密度が0.94g/cm3を超えると、接着性が不良となるので好ましくない。
ここで、密度は、JIS-K6922-2:1997附属書(低密度ポリエチレンの場合)に準拠して測定する(測定温度23℃)。
【0033】
(5)その他の成分
本発明で用いる積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)又はそれを含有する層(E)には、必要に応じて、ポリエチレン系樹脂に通常使用されるフェノール系、りん系等の酸化防止剤、金属石鹸等の安定剤、アンチブロッキング剤、滑剤、分散剤、有機系または無機系の着色剤等の顔料、不飽和脂肪酸エステル等の防曇剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤などの添加剤を配合しても良い。
また、ポリエチレン樹脂組成物層の特性を損ねない範囲で、LDPE、C4-LLDPE、HAO-LLDPE、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタアクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-アクリル酸エステル共重合体(EEA、EMA、EMMA等)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン系樹脂、エチレン-無水マレイン酸共重合体などの接着性樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン樹脂等、他の熱可塑性樹脂を配合しても構わない。
また、本発明の積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)は架橋剤を含有しないことが好ましい。
【0034】
2.基材層(D)
本発明に用いる基材層(D)としては、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン・ビニルアルコール共重合体等の単層フィルムまたはこれらの同種若しくは異種材料からなる積層フィルムが例示できる。前記フィルムは延伸フィルムであることが好ましい。また、クラフト紙などの紙、アルミ、銅などの金属の箔、金属または無機物、有機物を蒸着したプラスチック製フィルム等の単層基材またはバリア性コーティングを施したプラスチック製フィルム等の積層基材が挙げられる。
基材層には、印刷や各種コーティングが施されていてもよい。着色インキを用いて常法により基材層の印刷を部分的に又は全面的に行うことができる。インキは、従来公知のものを適宜選択して用いることができる。本発明の積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)は、基材層(D)の印刷面上に形成されていても、優れた接着性を有する。
【0035】
3.積層体
本発明の積層体は、少なくとも基材層(D)と上述した本発明の積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)を含有する層(E)を有する積層体である。基材層(D)の少なくとも一方の面に、本発明の積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)を含有する層(E)が形成されている。
積層体の構成についての制約はないが、例えば、下記のような構成を含む積層体が例示される。
基材層(D)/積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)を含有する層(E)、積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)を含有する層(E)/基材層(D)/積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)を含有する層(E)、基材層(D)/積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)を含有する層(E)/基材層(D)、基材層(D)/積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)を含有する層(E)/基材層(D)/積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)を含有する層(E)、基材層(D)/積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)を含有する層(E)/基材層(D)/積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)を含有する層(E)/基材層(D)、他樹脂層/基材層(D)/積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)を含有する層(E)、基材層(D)/積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)を含有する層(E)/他樹脂層
ここで、他樹脂層としては、本発明の積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)を含有する層(E)とは異なる樹脂層であり、例としてLDPE、C4-LLDPE、HAO-LLDPE、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタアクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-アクリル酸エステル共重合体(EEA、EMA、EMMA等)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン系樹脂、エチレン-無水マレイン酸共重合体などの接着性樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン樹脂等、他の熱可塑性樹脂が挙げられる。他樹脂層として、上述した高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(B)を含有する層を用いることが好ましい。
積層体の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、基材層に、ポリエチレン樹脂組成物を溶融押出しし積層するいわゆる押出しコーティング法が好ましい。また、上記押出しコーティングは単層、サンドイッチラミネート、共押出ラミネート、タンデムラミネート等の方法により一層以上積層されることが好ましい。ポリエチレン樹脂組成物層は、接着層として使用できるうえ、表層のシーラントとしても使用することができる。本発明によれば、基材との接着が良好であるため、高速成形が可能となる。
【0036】
また、基材層との接着性を確保する方法としては特に限定されないが、例えば、基材の表面へ表面処理、必要に応じて、アンカーコート処理することが好ましい。表面処理の方法としては、コロナ放電処理法、オゾン処理法、フレーム処理法、低温プラズマ処理法等の各種処理法が挙げられる。また溶融樹脂へオゾンを吹きかける方法も挙げられる。
【0037】
本発明の積層体は、上記の積層用ポリエチレン樹脂組成物(C)を含有する層(E)を有するものであり、基材等との接着強度に優れる上に、易突刺し特性等の易開封性が良好であり、内容物の保護性能と易取扱い性の両方に優れた積層体である。
【0038】
本発明の積層体は、基材等との接着強度に優れる上に、易突刺し特性等の易開封性に優れているので、特に、易引裂包装袋用フィルム、食品包装用フィルム、液体紙容器、紙結束、紙カップ、紙トレー等として好適に用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例で本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例に用いられる測定方法及び用いた樹脂は次の通りである。
【0040】
1.測定方法
(1)メルトフローレート(MFR):エチレン・プロピレン共重合体又は他のエチレン・α-オレフィン共重合体、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン、ポリエチレン樹脂組成物のMFRは、JIS-K6922-2:1997附属書(190℃、21.18N荷重)に準拠して測定した。
(2)密度:エチレン・プロピレン共重合体又は他のエチレン・α-オレフィン共重合体、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン、ポリエチレン樹脂組成物の密度は、JIS-K6922-2:1997附属書(23℃、低密度ポリエチレンの場合)に準拠して測定した。
【0041】
(3)モノマー量、分岐数、二重結合数:
<試料調製と測定条件>
試料200mgをo-ジクロロベンゼン/重水素化臭化ベンゼン=4/1(体積比)2.4mlおよび化学シフトの基準物質であるヘキサメチルジシロキサンと共に内径10mmφのNMR試料管に入れ溶解した。
NMR測定は10mmφのクライオプローブを装着したブルカー・バイオスピン(株)のAV400M型NMR装置を用いて行った。
13C-NMR測定条件は、試料の温度を120℃、パルス角を90°、パルス間隔を20秒、積算回数を128回とし、ブロードバンドデカップリング法で測定を実施した。
1H-NMRの測定条件は、試料の温度120℃、パルス角4.5°、パルス間隔2秒、積算回数512回として測定をした。
<算出法>
(i)モノマー量、コモノマーによる分岐数
13C-NMRスペクトルのシグナル強度を用い、以下の式からプロピレン、
ヘキセン、及びエチレン量を求めた。
C3(mol%)=I(P)×100/〔I(P)+I(H)+I(E)〕
C6(mol%)=I(H)×100/〔I(P)+I(H)+I(E)〕
C2(mol%)=I(E)×100/〔I(P)+I(H)+I(E)〕
ここで、I(P)、I(H)、I(H)はそれぞれ、以下の式で示される量である。
I(P)=0.5×(I37.69~37.20+I37.90~37.69+I37.97~37.90+I43.90~42.68)+I46.60~45.39
I(H)=0.5×(I34.56~34.22+I34.94~34.86+I43.60~42.68)+ 0.5×
(I34.86~34.70-I35.80~35.68)+I40.10~39.96+I40.80~40.70
I(E)={0.5×(I34.94~34.86 +I37.90~37.69I37.97~37.90 +I34.56~34.22+I37.69~37.20 )+ 0.5×(I34.86~34.70-I35.80~35.68)+I24.90~24.70+I24.70~24.52+I24.52~24.32 +I27.28~26.83 +I27.50~27.28+I31.50~28.50-I(H) } /2
Iは積分強度を、Iの下つき添字の数値は化学シフトの範囲を示す。例えばI37.69~37.20は37.69ppmと37.20ppmの間に検出した13Cシグナルの積分強度を示す。
化学シフトはヘキサメチルジシロキサンの13Cシグナルを1.98ppmに設定し、他の13Cによるシグナルの化学シフトはこれを基準とした。
また、主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの分岐数は、以下の式より求めた。
メチル分岐個数(個/total 1000C)
=C3(mol%)×1000/{C3(mol%)×3+C6(mol%)×6+
C2(mol%)×2}
ブチル分岐個数(個/total 1000C)
=C6(mol%)×1000/{C3(mol%)×3+C6(mol%)×6+
C2(mol%)×2}
【0042】
(ii)二重結合数
主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの不飽和結合量は1H-NMRスペクトルのシグナル強度を用い、以下の式から求めた。
ビニリデン個数(個/total 1000C)=Ivd×1000/Itotal
ビニル個数(個/total 1000C)=Ivi×1000/Itotal
三置換オレフィン個数(個/total 1000C)=Itri×1000/Itotal
ビニレン個数(個/total 1000C)=Ivnl×1000/Itotal
Iは積分強度を、Iの下つき添字の数値は化学シフトの範囲を示す。
ここで、Ivd、Ivi、Itri、Ivnl、Itotalはそれぞれ、以下の式で示され
る量である。
Ivd=(I4.88~4.44)/2
Ivni=(I5.52~5.30)/2
Ivi=(I5.05~4.88+I5.85~5.70)/3
Itri=I5.30~5.05
Itotal=(I0.00~5.85)/2
ただし、例えばI5.52~5.30は5.52ppmと5.30ppmの間に検出したプロトンシグナルの積分強度を示す。
化学シフトはヘキサメチルジシロキサンのプロトンシグナルを0.09ppmとして設定し、他のプロトンによるシグナルの化学シフトはこれを基準とした。
【0043】
(4)溶融膜安定性:
(4-1)実施例1~4及び比較例1~2について
押出機90mmφ、Tダイス560mm幅、リップ幅0.8mm、エアーギャップ120
mm、成形温度320℃、引取速度150m/minにて溶融膜の安定性を目視にて観察し
た。溶融膜が安定して、加工できる場合を「○」とし、溶融膜が不安定で、均一な厚みに加工できない場合を「×」とした。
(4-2)実施例5~7及び比較例3~5について
押出機40mmφ、Tダイス380mm幅、リップ幅0.8mm、エアーギャップ110mm、成形温度320℃、引取速度30m/minにて溶融膜の安定性を目視にて観察した。溶融膜が安定して、加工できる場合を「○」とし、溶融膜が不安定で、均一な厚みに加工できない場合を「×」とした。
(5)接着強度(N/15mm):実施例1~4及び比較例1~2(アルミ基材)
90φ押出機のラミネーターにて、繰出し機からクラフト50g/m2を繰出して基材とし、クラフト面にコロナ処理30W・min/m2をかけながら、サンド側からアルミ基材7μmを繰出し、ポリエチレン樹脂組成物(C)を引取速度150m/min、厚み25μmの条件にて押出サンドラミネート加工を実施した。アルミ基材におけるポリエチレン樹脂組成物(C)層側の反対面へアンカーコート処理を実施し、日本ポリエチレン製ノバテックLC600Aを引取速度100m/min、厚み30μmにて押出ラミネート加工を行い、クラフト、ポリエチレン樹脂組成物(C)層、アルミ基材層7μm、LC600A層の積層体を得た。アンカーコート剤は、東洋モートン株式会社オリバインEL420とメタノールを1:9の比率で混合し
たものを
用いた。
得られた積層体のアルミ基材とポリエチレン樹脂組成物(C)との接着強度を評価した。評価条件は、T字剥離とし、剥離速度50mm/minにて実施した。
(6)突刺し強度(N)及び突刺し破断伸び(mm):実施例1~4及び比較例1~2
90φ押出機のラミネーターにて、PET25μmを基材とし、ポリエチレン樹脂組
成物(C)を引取速度150m/min、厚み25μmの条件にて押出ラミネート加工を実施し、PET基材層25μm、ポリエチレン樹脂組成物(C)層の積層体を得た。得
られた積層体からポリエチレン樹脂組成物(C)層を剥離し、突刺し強度評価を実施した。評価条件は、フィルムを25mmφの面積で固定し、直径 1.0mm,先端形状半径 0.5mm の
半円形の針を毎分 1000mm の速度で突き刺し,針が貫通するま
での最大応力を評価した。また、応力が発現してから針が貫通するまでの伸びを評価した。
(7)接着強度(N/15mm):実施例5~7及び比較例3~5(ナイロン基材)
40φ押出機のラミネーターにて、繰出し機から、予め白ベタ印刷を施した二軸延伸ナイロン15μmを繰出し基材とし、印刷面にポリエチレン樹脂組成物(C)層と、ポリエチレン樹脂組成物(C)層と接した、最外層の低密度ポリエチレン(B)層とを形成するように引取速度30m/min、各厚み15μmの条件にて共押出ラミネート加工を実施し、二軸延伸ナイロン、白ベタ印刷、ポリエチレン樹脂組成物(C)層、低密度ポリエチレン(B)層の積層体を得た。
得られた積層体の白ベタ印刷面とポリエチレン樹脂組成物(C)層との接着強度を評価した。評価条件はT字剥離とし、剥離速度300mm/minにて実施した。
(8)引裂強度、引裂性:実施例5~7及び比較例3~5
上記(7)で得られた積層体を、JIS-K7128-1に準拠して、トラウザー引裂強度を求めた。200mm/minの引取速度でフィルムの引取方向と直角方向(TD方向)を測定した。サンプル引裂時にサンプル伸びが出ず、引裂方向に切れたものを「○」、サンプル伸びが発生し、引裂方向から逸れて切れたものを「×」とした。
【0044】
2.樹脂材料
(1)エチレン・プロピレン共重合体(A)又は他のエチレン・α-オレフィン共重合体 下記の製造方法により得られた(PE-1)~(PE-3)及び(PE-6)~(PE-10)を成分(A)のエチレン・プロピレン共重合体又は他のエチレン・α-オレフィン共重合体として用いた。その物性値を表1~2に示す。
【0045】
(PE-1)~(PE-3)及び(PE-6)~(PE-10)の製造方法
(i)触媒の調製
特開平10-218921号公報に記載された方法で調製した錯体「rac-ジメチルシリレンビスインデニルハフニウムジメチル」0.05モルに、等モルの「N,Nジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート」を加え、トルエンで50リットルに希釈して触媒溶液を調製した。
【0046】
(ii)重合方法
内容積5.0リットルの撹拌式オートクレーブ型連続反応器を用い、反応器内の圧力を80MPaに保ち、エチレン、プロピレン、1-ヘキセンを適宜調整しながら、40kg/時の割合で原料ガスを連続的に供給した。また、上記「(i)触媒の調整」の項に記載の触媒溶液を連続的に供給し、重合温度は150~250℃の範囲内で適宜調整することでエチレン・α-オレフィン共重合体を得た。
得られたエチレン・プロピレン共重合体又は他のエチレン・α-オレフィン共重合体の物性値は表1~2に示す。
【0047】
(2)高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン
表1~2に示す物性値を有する高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(PE-4)~(PE-5)を用いた。
【0048】
(3)エチレン・メチルアクリレート共重合体
表2に示す物性値を有するエチレン・メチルアクリレート共重合体(MA12重量%)(PE-11)を用いた。
【0049】
(実施例1)
エチレン・プロピレン共重合体(A)として(PE-1)を70重量%と、高圧法低密度ポリエチレン(B)として、MFRが7g/10分、密度が0.918g/cm3の高圧ラジカル重合法長鎖分岐状低密度ポリエチレン(PE-4)30重量%からなるポリエチレン樹脂組成物(C)を40mm単軸押出機で造粒しポリエチレン系組成物のペレットを得た。
上記で得られたペレットを用い、上述の(4-1)溶融膜安定性、(5)接着強度、(6)突刺し特性を評価するための特定の基材及び押出しラミネート方法を用いて、積層体を得て、各評価を行った。積層体の評価結果を表1に示す。
【0050】
(実施例2)
実施例1において、エチレン・プロピレン共重合体(A)として(PE-1)の代わりに(PE-2)を使用した以外は、実施例1と同様にペレットを作製し、評価を行った。
評価結果を表1に示す。
【0051】
(実施例3)
実施例1において、エチレン・プロピレン共重合体(A)として(PE-1)の代わりに(PE-6)を使用した以外は、実施例1と同様にペレットを作製し、評価を行った。
評価結果を表1に示す。
【0052】
(実施例4)
実施例1において、エチレン・プロピレン共重合体(A)として(PE-1)の代わりに(PE-7)を使用した以外は、実施例1と同様にペレットを作製し、評価を行った。
評価結果を表1に示す。
【0053】
(比較例1)
実施例1において用いているエチレン・プロピレン共重合体である(PE-1)の代わりに、エチレンと1-ヘキセンの共重合体であるエチレン・α-オレフィン共重合体(PE-3)を使用した以外は、実施例1と同様にペレットを作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0054】
(比較例2)
実施例1において、エチレン・プロピレン共重合体(A)を用いずに、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(B)である(PE-5)のみで得られた組成物を使用した以外は、実施例1と同様にペレットを作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
表1により得られた実施例1~4及び比較例1,2の接着特性と突刺し特性の関係を示すために、
図1として、両者の結果をグラフとして示す。
グラフ中、X軸(横軸)は接着強度を示し、接着強度は高い値が好ましく、Y軸(縦軸)は突刺し強度を示す。突刺し強度は小さい値が好ましいため、下側を大きい値、上側を小さい値としてプロットし、全体として、本グラフ中において、右上側が好ましい範囲であるように、示している。
この表1及び
図1の結果から明らかなように、本発明の実施例による積層用ポリエチレン樹脂組成物及びそれにより得られた積層体は、溶融膜安定性に優れ、優れた接着強度を有すると共に、易突刺し特性においても優れた特性を有するため、基材との接着強度と易突刺し性の両方のバランスに優れた積層体が得られる。
一方、二重結合量が少ないエチレン・ヘキセン共重合体を用いた場合(比較例1)では、接着強度が低下し、かつ、突刺し特性も良好ではない。
また、エチレン・プロピレン共重合体(A)を用いずに高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(B)のみを用いた場合(比較例2)では、良好な接着強度が得られなかった。
【0057】
(実施例5)
エチレン・プロピレン共重合体(A)として(PE-1)からなるポリエチレン樹脂組成物(C)を40mm単軸押出機で造粒しポリエチレン系組成物のペレットを得た。
上記で得られたペレットを用い、上述の(4-2)溶融膜安定性、(7)接着強度、(8)引裂強度、引裂性を評価するための特定の基材及び押出しラミネート方法を用いて、積層体を得て、各評価を行った。積層体の評価結果を表2に示す。
【0058】
(実施例6)
実施例5において、エチレン・プロピレン共重合体(A)として(PE-1)の代わりに(PE-8)を使用した以外は、実施例5と同様にペレットを作製し、評価を行った。
評価結果を表2に示す。
【0059】
(実施例7)
実施例5において、エチレン・プロピレン共重合体(A)として(PE-1)の代わりに(PE-9)を使用した以外は、実施例5と同様にペレットを作製し、評価を行った。
評価結果を表2に示す。
【0060】
(比較例3)
実施例5において、エチレン・プロピレン共重合体(A)である(PE-1)の代わりに、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン(B)である(PE-4)を使用した以外は、実施例5と同様にペレットを作製し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0061】
(比較例4)
実施例5において、エチレン・プロピレン共重合体(A)として(PE-1)の代わりに、エチレンと1-ヘキセンの共重合体であるエチレン・α-オレフィン共重合体(PE-10)を使用した以外は、実施例5と同様にペレットを作製し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0062】
(比較例5)
実施例5において、エチレン・プロピレン共重合体(A)である(PE-1)の代わりに、エチレン・メチルアクリレート共重合体である(PE-11)を使用した以外は、実施例5と同様にペレットを作製し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
表2の結果から明らかなように、本発明の実施例5~7による積層体は、印刷が施されたナイロン基材に対しても接着強度に優れた積層体である。一方、比較例3による積層体は、ナイロン基材の印刷面に形成される樹脂層が高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレンからなる層であり、実施例と比較して接着強度が小さくなった。また、比較例4による積層体は、ナイロン基材の印刷面に形成される樹脂層がエチレンと1-ヘキセンの共重合体からなる層であるが、実施例と比較して接着強度が小さくなり、引裂強度、引裂性の評価も劣っている。また、比較例5による積層体は、ナイロン基材の印刷面に形成される樹脂層がエチレン・メチルアクリレート共重合体からなる層であるが、実施例と比較して接着強度が小さくなり、引裂強度、引裂性の評価も劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の積層体は、易引裂包装袋用フィルム、食品包装用フィルム、液体紙容器、紙結束、紙カップ、紙トレー等として用いることができる。