(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】打ち込み工具
(51)【国際特許分類】
B25C 1/06 20060101AFI20230411BHJP
B25C 7/00 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
B25C1/06
B25C7/00 Z
(21)【出願番号】P 2019004686
(22)【出願日】2019-01-15
【審査請求日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2018028093
(32)【優先日】2018-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006301
【氏名又は名称】マックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110001209
【氏名又は名称】特許業務法人山口国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴士
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-201529(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03141349(EP,A1)
【文献】特開2007-006672(JP,A)
【文献】特開2007-053858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25C 1/06
B25C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファスナを被打ち込み部材に打ち込む打込機構と、
前記打込機構を駆動するモータと、
前記打込機構と前記モータとの間に設けられ、前記打込機構への前記モータの駆動力の伝達と切断とを切り替えるクラッチと、
前記クラッチにより前記打込機構への前記モータの駆動力が切断されたときに、当該モータを冷却する冷却モードを実行する制御部を備え、
前記制御部は、
前記冷却モード中であっても、通常操作が行われたときに打ち込み動作を実行するようにした
を備える打ち込み工具。
【請求項2】
前記冷却モードは、前記打込機構への駆動力が切断された前記モータによって冷却部を駆動する
請求項1に記載の打ち込み工具。
【請求項3】
前記冷却部は、前記モータの駆動力によって駆動されるファンである
請求項2に記載の打ち込み工具。
【請求項4】
前記制御部は、前記クラッチの接続又は切断を制御することにより前記打込機構における打ち込み動作を制御する
請求項1に記載の打ち込み工具。
【請求項5】
前記クラッチは、前記モータの回転方向によって前記打込機構への前記モータの駆動力の伝達と切断とを切り替えるワンウェイクラッチであり、
前記制御部は、前記冷却モード時に前記モータの回転方向を切り替える
請求項1に記載の打ち込み工具。
【請求項6】
温度を測定する温度センサを備え、
前記制御部は、前記温度センサにより測定される温度情報に基づいて前記クラッチの接続又は切断を制御する
請求項1から5の何れか一項に記載の打ち込み工具。
【請求項7】
前記制御部は、前記打込機構による実打回数を取得し、当該取得した前記実打回数に基づいて前記クラッチの接続又は切断を制御する
請求項1から5の何れか一項に記載の打ち込み工具。
【請求項8】
前記冷却モードの運転は停止可能に構成される
請求項1から7の何れか一項に記載の打ち込み工具。
【請求項9】
ファスナを被打ち込み部材に打ち込む打込機構と、
前記打込機構を駆動するモータと、
前記モータを冷却する冷却部と、
前記モータと前記冷却部との間に設けられ、前記モータの駆動時に前記冷却部に駆動力を伝達し、前記モータの停止時または減速時に前記冷却部への駆動力の伝達を切断するクラッチと、
を備え、
前記モータの停止時または減速時に前記冷却部が駆動する冷却モードを実行中であっても、トリガの動作に応じて打ち込み動作を実行するようにした
打ち込み工具。
【請求項10】
前記クラッチは、特定方向の駆動力のみ伝達するワンウェイクラッチであり、前
記モータより前記冷却部の特定方向の回転が速くなる場合に前記冷却部への駆動力の伝達を切断する
ことを特徴とする請求項9に記載の打ち込み工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釘、ステープル、ピン等のファスナを木材、石膏ボード、鋼板、コンクリート等の被打ち込み部材に打ち込む打ち込み工具に関する。
【背景技術】
【0002】
電動式の打ち込み工具には、モータの駆動によりばね等にエネルギーを蓄え、蓄えたエネルギーを放出することにより、マガジンから供給される先頭のファスナを被打ち込み部材に打ち込む構成を備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。この種の打ち込み工具では、打ち込み動作時におけるエネルギーを蓄える場合にモータを駆動する。そのため、ばね係数の高いばねを用いて打ち込み工具の出力を高めるには、モータを高負荷で駆動させる必要があり、モータの発熱が大きくなってしまう。
【0003】
打ち込み工具におけるモータの冷却を行う手段としては、従来から以下のような技術が開示されている。例えば、冷却用のファンをモータに取り付け、モータの駆動時にファンを回転させることによりモータの冷却を行う打ち込み工具が開示されている。また、特許文献2には、電動モータをモータの状態に応じて冷却する送風装置を有する冷却システムを設けた打ち込み装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-236252号公報
【文献】特開2012-749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1等に開示される打ち込み工具のモータにファンを設けた場合、モータは打ち込み動作時に数回回転するのみで、モータが停止している時間に対してモータが駆動している時間が短いので、ファンによる冷却よりも発熱の方が大きくなってしまい、モータの冷却を十分に行うことができないという問題があった。また、特許文献2に記載の打ち込み装置では、駆動用モータを冷却する電動モータを含む冷却システムを別途設けなければならず、装置が重量化、複雑化してしまうという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、工具の長寿命化を図ると共に、高出力用のモータの使用を可能とする打ち込み工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る打ち込み工具は、ファスナを被打ち込み部材に打ち込む打込機構と、前記打込機構を駆動するモータと、前記打込機構と前記モータとの間に設けられ、前記打込機構への前記モータの駆動力の伝達と切断とを切り替えるクラッチと、前記クラッチにより前記打込機構への前記モータの駆動力が切断されたときに、当該モータを冷却する冷却モードを実行する制御部を備え、前記制御部は、前記冷却モード中であっても、通常操作が行われたときに打ち込み動作を実行するようにしたものである。
本開示においては、クラッチの切断により打込機構へのモータの駆動力が切断されたときに、打込機構への駆動力を切断した状態でモータを駆動させる。これにより、モータの駆動に連動して作動する冷却部によって、打ち込み動作以外にモータの冷却を行うことができる。
【0008】
また、本開示に係る打ち込み工具は、ファスナを被打ち込み部材に打ち込む打込機構と、前記打込機構を駆動するモータと、前記モータを冷却する冷却部と、前記モータと前記冷却部との間に設けられ、前記モータの駆動時に前記冷却部に駆動力を伝達し、前記モータの停止時または減速時に前記冷却部への駆動力の伝達を切断するクラッチと、を備え、前記モータの停止時または減速時に前記冷却部が駆動する冷却モードを実行中であっても、トリガの動作に応じて打ち込み動作を実行するようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、クラッチにより、打込機構への駆動力を切断した状態でモータを駆動させることでモータの冷却を行うことができるので、打ち込み工具の長寿命化を図ることができると共に、高出力用のモータを使用することができる。
【0010】
また、本開示によれば、モータの停止後もモータの駆動時における駆動力の慣性によって冷却部を駆動させることができるので、モータの冷却効果の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る打ち込み工具の断面図である。
【
図2】打ち込み工具の冷却モードを実行する場合における動作例を示すフローチャートである(その1)。
【
図3】打ち込み工具の冷却モードを実行する場合における動作例を示すフローチャートである(その2)。
【
図4】本発明の変形例に係る打ち込み工具の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上拡張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0013】
[打ち込み工具1の構成例]
図1は、本発明の一実施の形態に係る打ち込み工具1を構成の一例を示す模式図である。
図1に示すように、打ち込み工具1は、釘、ステープル、ピン等のファスナ18を、木材、石膏ボード、鋼板、コンクリート等の被打ち込み部材に打ち込む電動工具であって、ボディ10と制御部60とトリガ15と打込機構20と駆動機構32とマガジン50とを備えている。
【0014】
ボディ10は、ボディ本体10aを有し、このボディ本体10aの下端部にファスナ18を被打ち込み部材に打ち込む射出口11bを有するノーズ部11が設けられている。ノーズ部11は、射出口11bを構成するドライバガイド11cとウェアプレート11dとを結合して構成されている。ドライバガイド11cの先端部、すなわち射出口11bの先端部には、安全装置の一部であるコンタクトアーム11aが設けられている。コンタクトアーム11aは、通常、射出口11bの周囲に突出状態にあり、被打ち込み部材に押しつけられた際にトリガ装置と連動してトリガの操作を許可する。
【0015】
ボディ本体10aには、中心軸線と略直交するように、すなわちマガジン50と略平行となるように、ユーザが把持するグリップ部12とグリップ部12の補助となる補助グリップ部13とが設けられている。グリップ部12と補助グリップ部13とは、架橋部14によって連結されており、グリップ部12を把持できるように略環状をなしている。
【0016】
架橋部14には、電源回路、駆動モータの制御回路、コンタクトアーム11aの検出スイッチ等の各種検出スイッチからの入力に応じて全体の動作を制御するマイコン等が組み込まれた制御部60が配設されている。制御部60は、打ち込み工具1の打ち込み動作時以外、駆動モータ33等の温度が規定温度に達したとき、又は実打回数が規定打数に達したとき等に、後述するクラッチ80の接続及び切断を制御して駆動モータ33を空転させることで冷却部を駆動し、駆動モータ33等の駆動機構32を冷却する冷却モードを実行する。ここで、空転とは、駆動モータ33の駆動力の打込機構20への伝達が遮断されたことを意味し、打込機構20を駆動させずに後述するファン34の駆動が可能な状態である。
【0017】
ボディ本体10aの後方側にあるグリップ部12のボディ本体10aとの付け根部には、環状部側に突出するようにトリガ15が設けられている。更に、架橋部14には、後方側に、バッテリパック16が装着されるバッテリ装着部が設けられている。このバッテリ装着部に装着されるバッテリパック16は、例えば、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池等の二次電池を内蔵しており、制御部60を介してボディ10内の駆動機構等に電源を供給する。
【0018】
ボディ本体10a内には、ファスナ18を打ち込むための打込機構20が配設されている。打込機構20は、プランジャ25と、プランジャ25を一方向に付勢する付勢部材となるプランジャばね26とを有している。プランジャ25は、図示しないガイドレールに係合され、ボディ本体10a内を移動可能に構成されている。プランジャばね26は、圧縮コイルバネであり、プランジャ25をファスナ18を打ち込む
図1中矢印D1方向に付勢する。
【0019】
プランジャ25には、長尺薄板状のドライバ27が固定されている。ドライバ27は、マガジン50より射出口11b内に供給された先頭のファスナ18を打ち込むものであり、ドライバガイド11cのガイド溝にガイドされ、プランジャ25の動作に合わせて直線的に移動する。
【0020】
プランジャ25の後方側(駆動機構32側)には、プランジャ25を移動させる駆動機構32の第1のトルクローラ150が係合される第1の係合突部29と第2のトルクローラ250が係合される第2の係合突部30とが設けられている。
【0021】
なお、上述した打込機構20には、ファスナ18の打ち込み時における衝撃を緩衝する図示しない緩衝機構を設けることもできる。なお、緩衝機構については公知の技術を採用できるため、詳細な説明は省略する。
【0022】
補助グリップ部13内には、打込機構20を駆動するための駆動機構32が配設されている。駆動機構32は、プランジャ25をプランジャばね26の弾性力に抗してボディ本体10a内の上方側に移動させるための機構である。駆動機構32は、駆動源となる駆動モータ33を有する。駆動モータ33には、例えばDCブラシレスモータ等を用いることができる。駆動モータ33のスピンドルには、後述するクラッチ80を介して減速機構となりトルク伝達性に優れた遊星ギヤ機構35が噛合されている。遊星ギヤ機構35には、アームギヤ36が噛合されている。
【0023】
また、駆動モータ33の後方側の回転軸33aには、ファン34が取り付けられている。ファン34は、駆動モータ33を冷却するためのファンであり、駆動モータ33の駆動に伴って回転することで駆動モータ33の冷却を行う。なお、駆動モータ33用の冷却手段としては、ファン34以外にも、例えば駆動モータ33の駆動に連動して作動する水冷ユニットやペルチェ素子等を採用することができる。これらの水冷ユニット及びペルチェ素子は、例えば、駆動モータ33の近傍に配置することができる。
【0024】
駆動モータ33の近傍には、駆動モータ33の温度を測定するための温度センサ90が配設されている。温度センサ90は、駆動モータ33又はその周辺部の温度を測定し、測定した温度情報を制御部60に供給する。なお、温度センサ90は、駆動モータ33に直接取り付けても良いし、さらには駆動モータ33以外の駆動機構32の温度を測定するようにしても良い。
【0025】
アームギヤ36には、プランジャ25をプランジャばね26の弾性力に抗して移動させる第1のトルクギヤ100が噛合され、第1のトルクギヤ100には、第2のトルクギヤ200が噛合されている。第1のトルクギヤ100には、プランジャ25の第1の係合突部29に係合する第1の駆動突起となる第1のトルクローラ150が設けられている。第2のトルクギヤ200には、プランジャ25の第2の係合突部30に係合する第2の駆動突起となる第2のトルクローラ250が設けられている。
【0026】
クラッチ80は、例えば電磁クラッチから構成され、駆動モータ33と遊星ギヤ機構35との間に配設されている。クラッチ80の駆動モータ33側には駆動モータ33の回転軸33bが接続され、クラッチ80の打込機構20側には遊星ギヤ機構35の回転軸が接続される。クラッチ80は、制御部60に接続され、制御部60の制御に基づいて接続(係合)又は切断(非係合)することにより駆動モータ33の駆動力の打込機構20に対する伝達と切断との切り替えを行う。この場合、クラッチ80の接続時に駆動モータ33の駆動により打ち込み動作が実行され、クラッチ80の切断時に駆動モータ33の空転により冷却モードが実行される。なお、クラッチ80を配置する位置は、駆動モータ33と遊星ギヤ機構35との間に限定されることはない。例えば、クラッチ80を遊星ギヤ機構35と第1のトルクギヤ100との間に設けるようにしても良い。
【0027】
また、クラッチ80は、上述した電磁クラッチに代えて、ワンウェイクラッチにより構成することもできる。ワンウェイクラッチとは、特定方向のみ力を伝達する機構であり、例えば駆動モータ33の回転軸33bに取り付けた場合、特定の回転方向(正回転)のみの駆動力を伝達する。この場合、ワンウェイクラッチは、駆動モータ33の回転方向によって打込機構20への駆動モータ33の駆動力の伝達と切断とを切り替える。制御部60は、打ち込み動作を実行する場合、駆動モータ33の正回転によりワンウェイクラッチを正回転させて駆動モータ33の駆動力を打込機構20に伝達し、打込機構20による打ち込みを行う。また、制御部60は、冷却モードを実行する場合、駆動モータ33の逆回転によりワンウェイクラッチを逆回転させて駆動モータ33の駆動力の打込機構20への伝達を切断し、ファン34を回転させることで駆動モータ33の冷却を行う。ワンウェイクラッチを用いることで、電磁クラッチを用いた場合よりもクラッチ80の構成の簡略化を図ることができる。
【0028】
マガジン50は、ボディ本体10aのノーズ部11に取り付けられている。具体的に、マガジン50は、ノーズ部11を構成するウェアプレート11dにネジ止め等によって固定され、ボディ10の中心軸線方向、すなわちファスナ18の打出方向(矢印D1方向)に対して交差する方向、ここでは略直交する方向に直線的に設けられている。マガジン50には、ファスナ18が接着剤等によって薄板状に連結された板状連結釘(図示省略)が収納される。
【0029】
[打ち込み工具1の打ち込み時の動作例]
次に、打ち込み工具1における打ち込み時の動作の一例を説明する。打ち込み工具1のノーズ部11のコンタクトアーム11aが対象物に押し付けられ、トリガ15が引かれると、駆動モータ33が駆動される。駆動モータ33の駆動に伴い、回転する第1のトルクギヤ100の第1のトルクローラ150が、プランジャ25の第1の係合突部29の下面に係合し、プランジャ25をプランジャバネ26に抗して矢印D1とは反対方向の矢印D2側に持ち上げる。第1のトルクローラ150が最上部に到達する直前で、第2のトルクギヤ200の第2のトルクローラ250が、プランジャ25の第2の係合突部30の下面に係合し、プランジャ25をプランジャバネ26に抗して矢印D2側に持ち上げる。さらに、第2のトルクギヤ200が回転し第2のトルクローラ250が第2の係合突部30から外れると、プランジャ25がプランジャバネ26の弾性力によってノーズ部11側に勢い良く移動する。これにより、プランジャ25に結合されたドライバ27が、打出方向(矢印D1方向)に移動し、射出口11bに供給されたファスナ18を打ち込み外部の対象物に向けて打ち出す。
【0030】
[打ち込み工具1の冷却モード時の動作例(その1)]
図2は、本発明に係る冷却モードを実行する場合における打ち込み工具1の動作の一例を示すフローチャートである。制御部60のCPU(Central Processing Unit)は、例えばROM(Read Only Memory)から読み出したソフトウェアを実行することにより
図2のフローチャートに示す処理を実現する。
【0031】
図2に示すように、ステップS100において、制御部60は、温度センサ90から駆動機構32を構成する駆動モータ33の温度を取得する。ステップS100が終了したら、ステップS110に進む。
【0032】
ステップS110において、制御部60は、温度センサ90から取得した駆動モータ33の温度が冷却モードを実行する際の基準として設定された基準温度(閾値)以上であるか否かを判断する。基準温度は、例えば制御部60内に内蔵されるメモリ等に予め記憶することができる。制御部60は、温度センサ90から取得した駆動モータ33の温度が基準温度以上でないと判断した場合、駆動モータ33の温度を継続して監視する。一方、制御部60は、温度センサ90から取得した駆動モータ33の温度が基準温度以上であると判断した場合、ステップS120に進む。
【0033】
ステップS120において、制御部60は、駆動モータ33の温度を下げるための冷却モードを実行する。具体的には、制御部60は、クラッチ80を切断すると共に、駆動モータ33を回転駆動させる。これにより、駆動モータ33が空転することで駆動モータ33に取り付けられたファン34が回転し、駆動モータ33にエアが送風されることで駆動モータ33が冷却される。このとき、クラッチ80は切断されているので、駆動モータ33の駆動力は打込機構20に伝達されない。ステップS120が終了したら、ステップS130に進む。
【0034】
ステップS130において、制御部60は、温度センサ90から駆動機構32を構成する駆動モータ33の温度を再度取得する。ステップS130が終了したら、ステップS140に進む。
【0035】
ステップS140において、制御部60は、温度センサ90から駆動モータ33の温度が上述した基準温度未満であるか否かを判断する。なお、基準温度は、ステップS100で用いた温度とは異なる温度に設定しても良い。制御部60は、温度センサ90から取得した駆動モータ33の温度が基準温度未満でないと判断した場合、冷却モードを継続して実行する。一方、制御部60は、温度センサ90から取得した駆動モータ33の温度が基準温度未満であると判断した場合、ステップS150に進む。
【0036】
ステップS150において、制御部60は、冷却モードを終了する。具体的には、制御部60は、駆動モータ33を停止させた後、クラッチ80を接続する。なお、続けて、打ち込み動作が開始される場合には、駆動モータ33の駆動を停止させずに、コンタクトスイッチ及びトリガスイッチがオンされたときに打ち込み動作を行うように制御しても良い。
【0037】
[打ち込み工具1の冷却モード時の動作例(その2)]
図3は、本発明に係る冷却モードを実行する場合における打ち込み工具1の他の動作の一例を示すフローチャートである。制御部60のCPUは、例えばROMから読み出したソフトウェアを実行することにより
図3のフローチャートに示す処理を実現する。
【0038】
図3に示すように、ステップS200において、制御部60は、打ち込み動作に基づく実打回数情報を取得する。実打回数は、例えば、図示しないトリガスイッチやコンタクトスイッチのオンの回数を制御部60がカウントすることにより算出しても良いし、打ち込み動作時の振動を制御部60がカウントすることにより算出するようにしても良い。ステップS200が終了したら、ステップS210に進む。
【0039】
ステップS210において、制御部60は、取得した実打回数が冷却モードを実行する際の基準として設定された基準実打回数(閾値)以上であるか否かを判断する。つまり、打ち込み工具1の実打回数から駆動モータ33等の温度を予測する。ここでの実打回数は、作業開始からの実打回数を用いてもよいし、単位時間当たりの実打回数を用いてもよい。基準実打回数は、用いる実打回数に応じて異なる閾値をそれぞれ設定することができる。この基準実打回数は、例えば制御部60内に内蔵されるメモリ等に予め記憶することができる。制御部60は、取得した実打回数が基準実打回数以上でないと判断した場合、駆動モータ33等が高温となっている可能性は低いので、打ち込み工具1の実打回数を継続して監視する。一方、制御部60は取得した実打回数が基準実打回数以上であると判断した場合、駆動モータ33等が高温となっている可能性が高いので、ステップS220に進む。
【0040】
ステップS220において、制御部60は、駆動モータ33の温度を下げるための冷却モードを実行する。具体的には、制御部60は、クラッチ80を切断すると共に、駆動モータ33を回転駆動させる。これにより、駆動モータ33が空転することで駆動モータ33に取り付けられたファン34が回転し、駆動モータ33にエアが送風されることで駆動モータ33が冷却される。ステップS220が終了したら、ステップS230に進む。
【0041】
ステップS230において、制御部60は、冷却モードの実行時間が予め設定した基準時間を経過したか否かを判断する。制御部60は、冷却モードの実行時間が予め設定した基準時間を経過していないと判断した場合には、ステップS220に戻り、冷却モードを継続して実行する。一方、制御部60は、冷却モードの実行時間が予め設定した基準時間を経過したと判断した場合には、ステップS240に進む。
【0042】
ステップS240において、制御部60は、冷却モードを終了する。具体的には、制御部60は、駆動モータ33を停止させた後、クラッチ80を接続する。続けて、打ち込み動作が開始される場合には、駆動モータ33の駆動を停止させずに、打ち込み動作を行うように制御しても良い。
【0043】
なお、
図3のステップS230では、冷却モードを終了するか否かを時間により判断したが、
図2に示したステップS140のように基準温度を用いて冷却モードを終了するか否かを判断しても良い。また、実打回数のみで冷却モードの実行の有無を判断する場合には、
図1に示した打ち込み工具1に温度センサ90を設けない構成としても良い。
【0044】
[打ち込み工具1の冷却モード時の動作例(その他)]
次に、冷却モードを実行する場合における打ち込み工具1の上述した動作とは異なる制御例について説明する。制御部60は、打ち込み動作前にクラッチ80を切断状態とし、コンタクトアーム11aが被打ち込み部材に押し当てられてコンタクトスイッチがオンしたときに駆動モータ33を回転(空転)させることで冷却モードを実行する。続けて、制御部60は、トリガ15が引き操作されてトリガスイッチがオンしたときに、駆動モータ33を駆動した状態でクラッチ80を接続状態とする。これにより、駆動モータ33の駆動力がクラッチ80を介して打込機構20に伝達されるので、打ち込み動作を行うことができる。
【0045】
上述した制御によれば、打ち込み動作以外での駆動モータ33の駆動によりファン34の送風による冷却効果が得られるだけでなく、先に駆動モータ33を駆動させておくことで、打ち込み動作レスポンスの向上を図ることができる。また、打込機構20の動作開始時の電流値の低減を図ることができる。これによって、バッテリの1充電あたりの作業量(打ち込み本数)をふやすことができる。なお、上述した制御以外にも、コンタクトスイッチがオンしたときにクラッチ80を接続し、トリガスイッチがオンしたときに駆動モータ33を駆動することで、打ち込み動作を行うようにしても良い。
【0046】
また、上述した冷却モードは、打ち込み動作以外のとき、例えば、打ち込み動作の終了から所定時間、コンタクトスイッチやトリガスイッチがオンされない場合に実行するようにしても良い。さらに、打ち込み動作を連続で数回行う場合においては、その打ち込み動作間に冷却モードを実行するようにしても良い。この場合、例えば、クラッチ80として電磁クラッチを用いることで、連続作業においても打ち込み動作と冷却モードとを円滑に切り替えることができる。
【0047】
以上説明したように、本実施の形態によれば、駆動モータ33等の駆動機構32を冷却する冷却モードを備えるので、駆動モータ33として高負荷用の高出力モータ(発熱量が大きいモータ)を使用することができるため、打ち込み工具1の高出力化が可能となる。また、これにより、駆動モータ33として小型モータの採用が可能となるため、打ち込み工具1の軽量化や低コスト化を図ることができる。
【0048】
また、本実施の形態によれば、打ち込み工具1に冷却モードを設けることで、駆動機構32等の温度上昇を抑制できるため、長時間の連続作業が可能となる。つまり、駆動機構32等の温度に基づいて打ち込み動作を停止させる保護回路が起動するまでの打ち込み本数が増加するので、連続作業量を増やすことができる。さらに、本実施の形態によれば、打ち込み工具1に冷却モードを設けることで過剰な高温下での使用がなくなるため、駆動モータ33等の故障を回避でき、これにより、打ち込み工具1の高寿命化を図ることができる。
【0049】
<変形例>
次に、打ち込み工具1の変形例である打ち込み工具1Aについて説明する。
図4は、変形例に係る打ち込み工具1Aの断面図である。なお、
図1に示した打ち込み工具1と共通する構成等については、共通する符号を用いると共に説明を省略または簡略化する。
【0050】
[打ち込み工具1Aの構成例]
打ち込み工具1Aは、ファスナ18を被打ち込み部材に打ち込む打込機構20と、打込機構を駆動する駆動モータ33と、駆動モータ33の冷却を行うファン34と、駆動モータ33からファン34への駆動力の伝達を切り替えるクラッチの一例であるワンウェイクラッチ80aとを備えている。
【0051】
ワンウェイクラッチ80aは、駆動モータ33とファン34との間に配置され、駆動モータ33の後部側(打込機構20の反対側)に設けられた回転軸33aに取り付けられている。ワンウェイクラッチ80aは、駆動モータ33の正回転の駆動時に発生する駆動力をファン34に伝達する。また、駆動モータ33の停止時、減速時または逆転時(以下、停止時等という場合がある)には、駆動モータ33の駆動力はファン34に伝達されない。すなわち、駆動モータ33よりファン34の一方向の回転が速くなると、ワンウェイクラッチ80aによりファン34が回転軸33aから切り離され、駆動モータ33の駆動力はファン34に伝達されない。
【0052】
ファン34は、ワンウェイクラッチ80aを介して駆動モータ33の回転軸33aに取り付けられている。ファン34は、駆動モータ33の駆動時に、ワンウェイクラッチ80aを介して伝達される駆動モータ33の駆動力(回転力)に基づいて、駆動モータ33と一体で回転する。また、ファン34は、駆動モータ33の停止時等に、ワンウェイクラッチ80aにより回転軸33aとは切り離された状態となり、駆動モータ33側の状態に影響されることなく、駆動モータ33の駆動時に伝達された駆動力に基づく慣性によって一定時間回転する。
【0053】
[打ち込み工具1Aの動作例]
次に、打ち込み工具1Aの打ち込み時におけるファン34の動作の一例について説明する。
【0054】
打ち込み工具1のノーズ部11のコンタクトアーム11aが対象物に押し付けられ、トリガ15が引かれると、駆動モータ33が駆動される。本実施の形態では、打ち込み動作時の駆動モータ33の駆動に伴い、ファン34にはワンウェイクラッチ80aを介して駆動モータ33の駆動力が伝達される。これにより、ファン34は、駆動モータ33の駆動に合わせて回転し、駆動モータ33に風を吹き付けることで駆動モータ33の冷却を行う。
【0055】
一方、打ち込み動作が完了すると、駆動モータ33が停止する。駆動モータ33の停止に伴い、ワンウェイクラッチ80aにより駆動モータ33の回転軸33aとファン34が切り離された状態となるため、駆動モータ33の停止時等はファン34に駆動力が伝達されないが、駆動モータ33の駆動時に伝達された駆動力に基づく慣性によって所定時間だけ回転し続ける。これにより、駆動モータ33が停止した後も、駆動モータ33に風を当てて冷却を行うことができる。
【0056】
以上説明したように、本変形例によれば、駆動モータ33の駆動時だけでなく、駆動モータ33の停止後においてもファン34により一定時間、駆動モータ33の冷却を行うことができる。これにより、駆動モータ33の冷却効果の向上を図ることができる。また、変形例の打ち込み工具1Aでは、駆動モータ33とファン34との間にワンウェイクラッチ80aを配置する構成を採用するので、簡易な構造かつ低コストで駆動モータ33の冷却効果の向上を図ることができる。また、本変形例によれば、連続打ちを行う場合に、打ち込み毎に駆動モータ33の駆動力をファン34に伝達できるので、連続打ちの間、ファン34を連続で回転させることで駆動モータ33を冷却できる。
【0057】
また、一般的な電動工具は、ファンを駆動モータの回転軸に取り付ける構成であるが、この場合、駆動モータを構成するロータの総重量が増加することで慣性が増すため、目的の停止位置で駆動モータを停止させることが難しいという問題がある。電動釘打機では、次の打ち込みを素早く行うため(トリガ操作してからのレスポンスを向上させるため、)プランジャをできるだけ上死点近くに停止させることが行われているが、ファンを駆動モータに取り付ける場合、プランジャの停止位置の制御にも影響を与えてしまう場合がある。これに対し、本変形例によれば、駆動モータ33とファン34との間にワンウェイクラッチ80aを配置し、ファン34をワンウェイクラッチ80aに取り付ける構成を採用したので、駆動モータ33の停止時にロータがファン34による慣性の影響を受けることを回避できる。これにより、駆動モータ33の停止時に目的の位置に高精度に停止させつつ、駆動モータ33の冷却を行うことができる。また、プランジャ25の停止位置も高精度に制御できる。
【0058】
なお、上述した変形例では、クラッチの一例としてワンウェイクラッチ80aを用いた例について説明したが、これに限定されることはない。例えば、クラッチとして、上述した電磁クラッチ等を用いることもできる。つまり、駆動モータ33とファン34との間に電磁クラッチを配置した構成を採用することもできる。この場合、例えば駆動モータ33の停止前に、制御部60の制御によりクラッチを切断し、駆動モータ33の停止時にファン34側の回転軸33aを慣性によって回転させることでファン34を所定時間、継続して回転させることもできる。
【0059】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
【0060】
例えば、作業者による打ち込み動作の終了後に冷却モードが実行される場合、作業者によっては駆動モータ33の駆動音を騒音として認識する場合がある。そこで、上述した実施の形態に加えて、作業者が冷却モードの運転を停止することが可能な操作部を打ち込み工具1に設けることができる。また、携帯情報端末等の操作により無線通信にて冷却モードの運転を停止できるようにしても良い。さらに、上述した操作部等において、冷却モードを実行しない設定を行えるようにしても良い。
【0061】
また、冷却モードを実行中であっても、通常のトリガ15の操作が行われた場合、クラッチ80を接続状態とすることで打ち込み動作を実行するようにしても良い。また、冷却モードの実行中は、例えばトリガ15の操作を受け付けないようにし、打ち込み動作を実行しないようにしても良い。冷却モード実施中に打ち込み動作を実行しない場合は、冷却モードの実行中であることを報知する表示部を打ち込み工具1に備えた構成としても良い。報知手段としては、表示部以外に音声や警告音であっても良い。
【0062】
また、上述した実施の形態では、打込機構20としてプランジャ25及びプランジャばね26を用いた方式について説明したが、これに限定されることはない。例えば、打込機構20としてフライホイールや空気ばね、ガススプリング等を用いた方式を採用することもできる。
【0063】
さらに、上述した実施の形態では、打ち込み工具1の電源としてバッテリを用いた例について説明したが、これに限定されることはない。例えば、打ち込み工具1の電源としてAC電源を用いることもできる。
【符号の説明】
【0064】
1,1A 打ち込み工具
18 ファスナ
20 打込機構
33 駆動モータ(モータ)
34 ファン(冷却部)
35 遊星ギヤ機構
60 制御部
80 クラッチ
80a ワンウェイクラッチ(クラッチ)
90 温度センサ