(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】スラストころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 19/30 20060101AFI20230411BHJP
F16C 33/46 20060101ALI20230411BHJP
F16C 33/34 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
F16C19/30
F16C33/46
F16C33/34
(21)【出願番号】P 2019033896
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2022-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】獅子原 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】鎌本 繁夫
(72)【発明者】
【氏名】村田 順司
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-103163(JP,A)
【文献】特開昭50-077747(JP,A)
【文献】実開昭56-047911(JP,U)
【文献】特開2004-211824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する第一軌道面及び第二軌道面の間に配置される複数のころと、前記ころの中心軸を放射方向に沿って配置させて当該ころを保持するポケットを複数有する保持器と、を備えたスラストころ軸受であって、
前記ころは、円筒状の外周面と、放射方向外側の第一端面と、放射方向内側の第二端面と、を有し、
前記ポケットは、前記第一端面と接触可能である突起を有する外面と、前記第二端面と対向する内面と、前記外周面と対向する一方側の第一側面と、前記外周面と対向する他方側の第二側面と、を有し、
前記ころは、当該ころの軸方向中央に設けられ直線母線により形成された円筒部と、当該円筒部の放射方向外側に設けられ円弧状母線により形成された外クラウニング部と、当該円筒部の放射方向内側に設けられ円弧状母線により形成された内クラウニング部と、を有し、
前記ポケットが有する前記第一側面及び前記第二側面それぞれは、当該ポケットにおける放射方向中央に設けられ前記ころと接触不能である凹面と、当該ポケットにおける放射方向外側及び放射方向内側それぞれに設けられ前記ころと接触可能である平坦面と、を有し、
前記突起と接触する前記第一端面から、前記外クラウニング部と前記円筒部との境界までの放射方向に沿った第一寸法は、
前記突起における前記第一端面との接触点から、放射方向外側の前記平坦面と前記凹面との境界までの放射方向に沿った第二寸法よりも大きく、
次の式(1)を満たす、スラストころ軸受。
(Y1+Y2)/X<tan(3×π/180) ・・・ 式(1)
ただし、
Y1:前記ころが一方にスキューした場合に前記第一側面に接触する当該ころにおける第一接触点と、当該第一側面との当該スキュー前の隙間
Y2:前記ころが一方にスキューした場合に前記第二側面に接触する当該ころにおける第二接触点と、当該第二側面との当該スキュー前の隙間
X:前記保持器の中心軸を中心とした前記第一接触点を通過する第一仮想円の半径と、前記保持器の中心軸を中心とした前記第二接触点を通過する第二仮想円の半径との差
【請求項2】
前記外クラウニング部は、第一曲率半径の円弧状母線により形成され前記円筒部と隣接する第一部と、前記第一曲率半径よりも小さい第二曲率半径の円弧状母線により形成され前記第一部と隣接する第二部と、を有し、
前記突起と接触する前記第一端面から、前記第一部と前記第二部との境界までの放射方向に沿った第三寸法は、前記第二寸法よりも小さい、
請求項1に記載のスラストころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラストころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
スラストころ軸受は、相対回転する第一部材と第二部材との間に生じるアキシアル荷重を受けることができる。スラストころ軸受は、特にころが針状ころである場合、小型化が可能であり、また、負荷容量が大きく、高速回転にも対応可能である。スラストころ軸受は、自動車及び産業建設機械のトランスミッション等に適用される他、他の回転機器にも広く用いられる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スラストころ軸受(以下、単に「軸受」ともいう。)が回転すると、ころは、第一部材の軌道面と第二部材の軌道面とを転動する。円柱状であるころは、前記軌道面に沿ってまっすぐに進もうとするが、ころは、保持器が有するポケットに収容され、保持器によってころの進行方向が周方向となるように規制される。
【0005】
ポケットは、ころの回転を阻害しないように適切な形状に設定されている。つまり、ポケットと、ころの外周面との間には、適切な隙間が設けられている。ポケットにおいて、ころが理想とおりの位置で保持されていれば良いが、前記隙間により、ころはスキューすることがある。ころがスキューすると、ポケットに対して例えばころが局部的に接触し、接触面圧が高くなって滑り摩擦抵抗が大きくなる場合がある。ころと保持器のポケットとの接触部における滑り摩擦抵抗が大きくなると、軸受の低トルク化が損なわれる。
【0006】
近年では、各種の回転機器において、回転効率の向上、つまり、回転損失の低減のために、スラストころ軸受における低トルク化が要求されている。このため、保持器のポケットところとの接触部における滑り摩擦抵抗をできるだけ小さくすることが望まれている。
そこで、本発明は、低トルク化を維持することが可能となるスラストころ軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、対向する第一軌道面及び第二軌道面の間に配置される複数のころと、前記ころの中心軸を放射方向に沿って配置させて当該ころを保持するポケットを複数有する保持器と、を備えたスラストころ軸受であって、前記ころは、円筒状の外周面と、放射方向外側の第一端面と、放射方向内側の第二端面と、を有し、前記ポケットは、前記第一端面と接触可能である突起を有する外面と、前記第二端面と対向する内面と、前記外周面と対向する一方側の第一側面と、前記外周面と対向する他方側の第二側面と、を有し、
次の式(1)を満たす、スラストころ軸受。
(Y1+Y2)/X<tan(3×π/180) ・・・ 式(1)
ただし、
Y1:前記ころが一方にスキューした場合に前記第一側面に接触する当該ころにおける第一接触点と、当該第一側面との当該スキュー前の隙間
Y2:前記ころが一方にスキューした場合に前記第二側面に接触する当該ころにおける第二接触点と、当該第二側面との当該スキュー前の隙間
X:前記保持器の中心軸を中心とした前記第一接触点を通過する第一仮想円の半径と、前記保持器の中心軸を中心とした前記第二接触点を通過する第二仮想円の半径との差
【0008】
本発明の発明者は、スラストころ軸受について鋭意研究を重ねた結果、ころがスキューしても、ころの正規の自転軸に対してころの中心軸の傾く角度が、3×π/180ラジアン未満(3°未満)であれば、回転トルクが極端に大きくなるのを防ぐことができることを見出した。
【0009】
本開示の前記スラストころ軸受は回転すると、ころは、遠心力によって第一端面がポケットの突起に接触した状態となって、第一軌道面と第二軌道面とを転動する。ポケットおいて、ころはスキューすることがあるが、その場合であっても、ころ及びポケットの形状が前記式(1)を満たす関係を有することで、ころの正規の自転軸に対してころの中心軸の傾く角度が、3×π/180ラジアン未満(3°未満)となる。よって、ころがスキューしても、スラストころ軸受の回転トルクが極端に大きくなるのを防ぐことができ、低トルク化を維持することが可能となる。
【0010】
また、好ましくは、前記ころは、当該ころの軸方向中央に設けられ直線母線により形成された円筒部と、当該円筒部の放射方向外側に設けられ円弧状母線により形成された外クラウニング部と、当該円筒部の放射方向内側に設けられ円弧状母線により形成された内クラウニング部と、を有し、前記ポケットが有する前記第一側面及び前記第二側面それぞれは、当該ポケットにおける放射方向中央に設けられ前記ころと接触不能である凹面と、当該ポケットにおける放射方向外側及び放射方向内側それぞれに設けられ前記ころと接触可能である平坦面と、を有し、前記突起と接触する前記第一端面から、前記外クラウニング部と前記円筒部との境界までの放射方向に沿った第一寸法は、前記突起における前記第一端面との接触点から、放射方向外側の前記平坦面と前記凹面との境界までの放射方向に沿った第二寸法よりも大きい。
【0011】
この場合、前記第一寸法は前記第二寸法よりも大きいことから、ころがスキューすると、ころの外クラウニング部が、ポケットの放射方向外側の平坦面に接触する。外クラウニング部は円弧状母線により形成されていることから、ポケットの放射方向外側の領域において、ころと保持器とは、接触楕円が生じる接触態様で接触(点接触)することができる。このため、ころと保持器との接触部における滑り摩擦抵抗が低減され、低トルク化が可能となる。
【0012】
また、好ましくは、前記外クラウニング部は、第一曲率半径の円弧状母線により形成され前記円筒部と隣接する第一部と、前記第一曲率半径よりも小さい第二曲率半径の円弧状母線により形成され前記第一部と隣接する第二部と、を有し、前記突起と接触する前記第一端面から、前記第一部と前記第二部との境界までの放射方向に沿った第三寸法は、前記第二寸法よりも小さい。
【0013】
この場合、ポケットの放射方向外側の平坦面に、ころの外クラウニング部の内の第一部が接触する。第一部は、第二部と比較して円弧状母線の曲率半径が大きい。このため、平坦面と第一部との間に生じる接触楕円を、比較的大きくすることができる。よって、ころと保持器との接触部における面圧が小さくなり、摩耗の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スラストころ軸受の回転トルクが極端に大きくなるのを防ぐことができ、低トルク化を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】スラストころ軸受の一例を示す断面図である。
【
図2】ころを保持している保持器の一部を示す斜視図である。
【
図3】スラストころ軸受の中心軸に直交し、かつ、ころの中心軸を含む断面における、ポケット及びころを示す図である。
【
図4】保持器のポケットを軸方向一方側から見た図である。
【
図5】保持器のポケットを軸方向他方側から見た図である。
【
図8】スラストころ軸受の中心軸に直交し、かつ、ころの中心軸を含む断面における、ポケット及びころを示す図である。
【
図9】スラストころ軸受のトルク比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔スラストころ軸受の全体構成の説明〕
図1は、スラストころ軸受の一例を示す断面図である。
図1に示すスラストころ軸受10(以下、単に「軸受10」とも称する。)は、環状の保持器12と、複数のころ11とを備える。本開示の軸受10は、更に、軸受10の軸方向一方側(
図1では上側)に位置する環状の第一軌道輪(ハウジング軌道盤)5と、軸受10の軸方向他方側(
図1では下側)に位置する環状の第二軌道輪(軸軌道盤)6とを備える。
【0017】
第一軌道輪5と第二軌道輪6とは、軸受10の中心軸C0を中心として相対回転する。本開示では、軸受10の中心軸C0に沿った方向を「軸方向」と称する。この軸方向には、中心軸C0に平行な方向も含まれるものとする。中心軸C0に直交する方向が「中心軸C0を中心とする放射方向(つまり、径方向)」であり、単に「放射方向」と称する。中心軸C0を中心とする周方向、つまり、前記相対回転の方向が「軸受10の周方向」であり、単に「周方向」と称する。本開示では、保持器12の中心軸は、軸受10の中心軸C1と一致するとして説明する。
【0018】
第一軌道輪5は、円環状である第一本体部5aと、その放射方向外側の端部から軸方向他方に延びる短円筒状の第一鍔部5bとを有する。第一本体部5aの軸方向他方側に、平坦であり円環状の第一軌道面7が設けられている。第二軌道輪6は、円環状である第二本体部6aと、その放射方向内側の端部から軸方向一方に延びる短円筒状の第二鍔部6bとを有する。第二本体部6aの軸方向一方側に、平坦であり円環状の第二軌道面8が設けられている。第一軌道面7と第二軌道面8との間に、保持器12及びころ11が配置されている。軸受10が回転すると、ころ11は、保持器12によって保持された状態で、第一軌道面7及び第二軌道面8を転動する。
【0019】
軸受10では、第一軌道輪5及び第二軌道輪6が省略されていてもよい。この場合、図示しないが、軸受10が設けられる機器が有する第一部材が、第一軌道輪5の代わりとなり、当該機器が有する第二部材が、第二軌道輪6の代わりとなる。そして、前記第一部材に円環状の第一軌道面7が形成され、前記第二部材に円環状の第二軌道面8が形成される。
【0020】
図2は、ころ11を保持している保持器12の一部を示す斜視図である。保持器12は、複数のポケット13を有する。複数のポケット13が、中心軸C0(
図1参照)を中心とした放射状に配置されている。保持器12は、放射方向内側に位置する内側環状体38と、放射方向外側に位置する外側環状体39と、内側環状体38と外側環状体39とを連結する複数の柱40とを有する。内側環状体38と外側環状体39との間であって周方向で隣り合う柱40,40の間が、ポケット13である。
【0021】
ころ11は、円柱形状を有する。
図1及び
図2において、ころ11は、放射方向外側の第一端面21と、放射方向内側の第二端面22と、ころ11の外周面20とを有する。本開示のころ11は、針状ころの他に、円筒ころ又は棒状ころであってもよい。各ポケット13に一つのころ11が収容されている。ころ11の中心軸C1が放射方向と一致するように、ころ11は各ポケット13に保持されている。
【0022】
以上のように、本開示の軸受10では、複数のころ11が、対向する第一軌道面7及び第二軌道面8の間に配置されている。保持器12は、複数のポケット13を有する。ポケット13は、ころ11の中心軸C1を放射方向に沿って配置させてころ11を保持する。このために、ころ11の外周面20と柱40との間には、適切な隙間が設けられている。ころ11、第一軌道輪5、及び第二軌道輪6は鋼製である。保持器12は、金属製(鋼製)であってもよいが、本開示では、滑り摩擦抵抗を低減させるために、樹脂製である。
【0023】
〔ポケット13及びころ11の説明〕
ころ11の形状について更に説明する。
図3は、軸受10の中心軸C0(
図1参照)に直交し、かつ、ころ11の中心軸C1を含む断面における、ポケット13及びころ11を示す図である。ころ11は、中央の円筒部15と、その両側の外クラウニング部16及び内クラウニング部17とを有する。
【0024】
円筒部15は、ころ11の軸方向中央に設けられている部分であり、直線母線を有するように形成されている。円筒部15の外周面15aは、ころ11の中心軸C1に平行な円筒面形状を有する。外クラウニング部16は、円筒部15の放射方向外側の隣に設けられている部分であり、円弧状母線を有するように形成されている。外クラウニング部16の外周面16aは、第一端面21側に向かって直径が徐々に小さくなる形状を有する。内クラウニング部17は、円筒部15の放射方向内側の隣に設けられている部分であり、円弧状母線を有するように形成されている。内クラウニング部17の外周面17aは、第二端面22側に向かって直径が徐々に小さくなる形状を有する。
【0025】
円筒部15の外周面15a、外クラウニング部16の外周面16a、及び、内クラウニング部17の外周面17aは、ころ11の外周面20に含まれる。
【0026】
外クラウニング部16は、2つの部分により構成されている。つまり、外クラウニング部16は、円筒部15と隣接する第一部26と、第一部26と隣接する第二部27とを有する。第一部26の外周面は、ころ11の中心軸C1を含む断面において、第一曲率半径r1の円弧状母線により形成されている。第二部27の外周面は、ころ11の中心軸C1を含む断面において、第一曲率半径r1よりも小さい第二曲率半径r2の円弧状母線により形成されている。円筒部15の外周面15aと第一部26の外周面とは、ころ11の中心軸C1を含む断面において、微分可能に繋がる。第一部26の外周面と第二部27の外周面とは、ころ11の中心軸C1を含む断面において、微分可能に繋がる。
【0027】
内クラウニング部17は、2つの部分により構成されている。つまり、内クラウニング部17は、円筒部15と隣接する第三部28と、第三部28と隣接する第四部29とを有する。第三部28の外周面は、ころ11の中心軸C1を含む断面において、第三曲率半径r3の円弧状母線により形成されている。第四部29の外周面は、ころ11の中心軸C1を含む断面において、第三曲率半径r3よりも小さい第四曲率半径r4の円弧状母線により形成されている。円筒部15の外周面15aと第三部28の外周面とは、ころ11の中心軸C1を含む断面において、微分可能に繋がる。第三部28の外周面と第四部29の外周面とは、ころ11の中心軸C1を含む断面において、微分可能に繋がる。本開示では、第一曲率半径r1と第三曲率半径r3とは同じ値であり、第二曲率半径r2と第四曲率半径r4とは同じ値である。
【0028】
図4は、保持器12のポケット13を軸方向一方側から見た図である。
図5は、保持器12のポケット13を軸方向他方側から見た図である。
図4及び
図5において、ころ11を仮想線(二点鎖線)で示している。ポケット13は、外面33と、内面34と、一対の側面31,32とによって囲まれた領域により構成されている。
【0029】
外面33は、外側環状体39の放射方向内側の面により構成されている。外面33には、曲面状の突起37が設けられている。突起37は、ころ11の第一端面21と接触可能である。本開示の突起37は、ころ11との接触面として、球面に沿った形状の曲面を有する。突起37において、その曲面の最も放射方向内側の位置は、周方向に隣り合う柱40の互いに向かい合う面からそれぞれ同じ距離にある仮想平面上に位置する。軸受10が回転すると、ころ11は、遠心力によって放射方向外側に移動しようとする。すると、ころ11の第一端面21が突起37に点接触し、ころ11の放射方向についての位置決めが行われる。内面34は、内側環状体38の放射方向外側の面により構成されている。内面34は、ころ11の第二端面22と対向する。
【0030】
一方側の第一側面31は、ころ11の周方向一方側に位置する柱40の内の、周方向他方側に向く面により構成されている。第一側面31は、ころ11の外周面20と対向する。他方側の第二側面32は、ころ11の周方向他方側に位置する柱40の内の、周方向一方側に向く面により構成されている。第二側面32は、ころ11の外周面20と対向する。
【0031】
図4に示すように、各ポケット13において、周方向で対向するように一対の第一凸部41,41が設けられている。一対の第一凸部41,41は、柱40における放射方向中央に設けられている。第一凸部41は、柱40の軸方向一方側において周方向に突出して設けられている。ポケット13において、一対の第一凸部41,41の間隔が、ころ11の直径よりも狭い。このため、ポケット13に収容されているころ11が軸方向一方側に脱落するのを、第一凸部41,41が防ぐ。
【0032】
図5に示すように、各ポケット13において、周方向で対向するように一対の第二凸部42,42が設けられている。一対の第二凸部42,42は、柱40における放射方向外側に設けられている。第二凸部42は、柱40の軸方向他方側において周方向に突出して設けられている。一対の第二凸部42,42の間隔が、ころ11の直径よりも狭い。このため、ポケット13に収容されているころ11が軸方向他方側に脱落するのを、第二凸部42,42が防ぐ。
図5に示すように、各ポケット13において、周方向で対向するように一対の第三凸部43,43が設けられている。一対の第三凸部43,43は、柱40における放射方向内側に設けられている。第三凸部43は、柱40の軸方向他方側において周方向に突出して設けられている。一対の第三凸部43,43の間隔が、ころ11の直径よりも狭い。このため、ポケット13に収容されているころ11が軸方向他方側に脱落するのを、第三凸部43,43が防ぐ。
【0033】
図3は、放射方向に沿ったポケット13の中心軸C2と、ころ11の中心軸C1とが一致した状態(以下、「一致状態」と称する。)を示している。ポケット13の中心軸C2は、周方向に隣り合う柱40の互いに向かい合う面からそれぞれ同じ距離にある仮想平面上であって、突起37の最も放射方向内側の位置を含む放射方向に延在する線である。この状態で、ころ11は、保持器12の軸方向一方側の面よりも軸方向一方側に突出し保持器12の軸方向他方側の面よりも軸方向他方側に突出している。この状態で、ポケット13の側面31,32それぞれと、ころ11の外周面20との間に、隙間が設けられている。ポケット13が有する一方側の第一側面31は、中央の凹面35aと、その両側の平坦面36a,36bとを有する。ポケット13が有する他方側の第二側面32は、一方側の第一側面31と同様に、中央の凹面35bと、その両側の平坦面36c,36dとを有する。第一側面31の構成と第二側面32の構成とは同じであり、以下では、一方側の第一側面31を例に説明する。
【0034】
平坦面36aは、ポケット13における放射方向外側に設けられていて、ころ11と接触可能となる面である。平坦面36bは、ポケット13における放射方向内側に設けられていて、ころ11と接触可能となる面である。凹面35aは、ポケット13における放射方向中央に設けられている。凹面35aは、平坦面36a,36bよりも凹んでいる面であり、ころ11と接触不能となる面である。凹面35aは、放射方向外側の平坦面36aから徐々にポケット13の周方向幅寸法を拡大させる外側傾斜面45と、放射方向内側の平坦面36bから徐々にポケット13の周方向幅寸法を拡大させる内側傾斜面46と、外側傾斜面45と内側傾斜面46との間の中央面47とを有する。前記一致状態で、平坦面36a,36b、及び中央面47は、ころ11の中心軸C1と平行となる。平坦面36a,36bそれぞれは、第二凸部42、第三凸部43(
図4及び
図5参照)を除いて、放射方向及び軸方向に平らな面により構成されている。
【0035】
放射方向外側の平坦面36aと、凹面35a(外側傾斜面45)との境界B2には、凸形状の丸み(アール面取り)48が設けられている。また、放射方向内側の平坦面36bと、凹面35a(内側傾斜面46)との境界B5には、凸形状の丸み(アール面取り)49が設けられている。他方側の第二側面32は、前記のような境界B2及び境界B5における丸みに関して、一方側の第一側面31と同様の構成を有している。つまり、放射方向外側の平坦面36cと、凹面35bとの境界B2には、凸形状の丸み48が設けられている。また、放射方向内側の平坦面36dと、凹面35bとの境界B5には、凸形状の丸み49が設けられている。前記丸み48,49の寸法、つまり、アール面取りの寸法は、例えば、1ミリメートル以上、5ミリメートル以下である。
【0036】
図6は、放射方向に沿ったポケット13の中心軸C2に対して、ころ11の中心軸C1が傾いた状態(以下、「不一致状態」と称する。)を示している。ころ11がポケット13の範囲内でスキューすると、前記不一致状態となる。本開示でのスキューとは、ころ11の正規の自転軸に対して、ころ11が傾くことである。前記正規の自転軸は、ポケット13の中心軸C2と一致する。軸受10が回転すると、ころ11は、遠心力によって第一端面21がポケット13の突起37に接触した状態となって、第一軌道面7(
図1参照)と第二軌道面8とを転動する。
図6に示すように、ポケット13においてころ11が傾くと、ころ11の第一端面21が突起37に接触した状態で、ころ11の外クラウニング部16が平坦面36aに接触し、ころ11の内クラウニング部17が平坦面36dに接触する。この状態で、ころ11は、ポケット13に位置決めされ、回転する。
【0037】
図7は、軸受10の中心軸C0(
図1参照)に直交し、かつ、ころ11の中心軸C1を含む断面における、ポケット13及びころ11を示す図である。
図7は、
図6と同様、放射方向に沿ったポケット13の中心軸C2に対して、ころ11の中心軸C1が傾いた状態を示している。つまり、
図7には、ころ11が一方にスキューした状態が示されている。
【0038】
外クラウニング部16及び内クラウニング部17それぞれは、前記のとおり、円弧状母線を有するように形成されている。ポケット13においてころ11がスキューすると、外クラウニング部16は、第一側面31の内の平坦面36aに点接触し、内クラウニング部17は、第二側面32の内の平坦面36dに点接触する。後にも説明するが、外クラウニング部16及び内クラウニング部17は、平坦面36a及び平坦面36dに、接触楕円が生じる接触態様で接触(点接触)する。平坦面36aに対して外クラウニング部16が接触する点を第一接触点Q1とする。平坦面36dに対して内クラウニング部17が接触する点を第二接触点Q2とする。
【0039】
図8は、軸受10の中心軸C0(
図1参照)に直交し、かつ、ころ11の中心軸C1を含む断面における、ポケット13及びころ11を示す図であり、前記一致状態(スキュー前の状態)にある。
図8に示すように、ポケット13の第一側面31及び第二側面32それぞれと、ころ11の外周面20との間には、所定の隙間(Y1,Y2)が形成されている。ころ11の形状に対するポケット13の形状、つまり、前記隙間は、次の式(1)を満たすように設定されている。この式(1)において、Y1、Y2、及び、Xは、下記のように定義される(
図8参照)。
【0040】
(Y1+Y2)/X<tan(3×π/180) ・・・ 式(1)
【0041】
Y1:第一接触点Q1と第一側面31(平坦面36a)とのスキュー前の隙間
Y2:第二接触点Q2と第二側面32(平坦面36d)とのスキュー前の隙間
X:保持器12の中心軸(C0)を中心とした第一接触点Q1を通過する第一仮想円K1の半径R1と、保持器12の中心軸(C0)を中心とした第二接触点Q2を通過する第二仮想円K2の半径R2との差
【0042】
つまり、「Y1」は「ころ11が一方にスキューした場合に第一側面31に接触する当該ころ11における第一接触点Q1と、第一側面31との当該スキュー前の隙間」である。「Y2」は「ころ11が一方にスキューした場合に第二側面32に接触する当該ころ11における第二接触点Q2と、第二側面32との当該スキュー前の隙間」である。
図8に示すように、「Y1」を定義するための前記第一接触点Q1は、スキュー前の位置であり、「Y2」を定義するための前記第二接触点Q2は、スキュー前の位置である。「X」は、式(R1-R2)となる。
【0043】
なお、ころ11が、
図7に示す状態と反対に、他方にスキューした場合、外クラウニング部16は、第二側面32の平坦面36cに点接触し(第三接触点Q3)、内クラウニング部17は、第一側面31の平坦面36bに点接触する(第四接触点Q4)。
図8に示すスキュー前の状態において、第三接触点Q3と、第二側面32(平坦面36c)との隙間は、前記「Y2」と同じ値となる。第四接触点Q4と、第一側面31(平坦面36b)との隙間は、前記「Y1」と同じ値となる。そして、第三接触点Q3を前記第一仮想円K1が通過し、第四接触点Q4を前記第二仮想円K2が通過する。
【0044】
ここで、
図9は、軸受10のトルク比(回転トルク比)を示すグラフである。このグラフは、実験的に得られたものである。グラフの横軸は、ころ11の正規の自転軸に対してころ11の中心軸C1が傾く角度β(
図7参照)である。角度βは、放射方向に沿ったポケット13の中心軸C2と、傾いた状態にあるころ11の中心軸C1との成す角度(劣角)である。グラフの縦軸は、角度βが、3.5×π/180ラジアン(3.5°)となる場合の軸受10の回転抵抗の値を「1」とした場合の比の値を示している。
図9に示すように、角度βが、3×π/180ラジアン(3°)を超えると、急激にトルク比が高くなる、つまり、軸受10の回転抵抗が大きくなる。これに対して、角度βが3×π/180ラジアン未満(3°未満)であれば、トルク比は比較的小さい、つまり、軸受10の回転抵抗は小さい。
【0045】
このように、本発明の発明者は、鋭意研究を重ねた結果、ころ11がスキューしても、前記角度βが、3×π/180ラジアン未満(3°未満)であれば、回転トルクが極端に大きくなるのを防ぐことができる、ということを実験的に見出した。
【0046】
そこで、ころ11及びポケット13の形状が、前記式(1)を満たす関係を有することで、
図7に示すように、ポケット13おいてころ11がスキューした場合であっても、前記角度βが、3×π/180ラジアン未満(3°未満)となる。よって、ころ11がスキューしても、軸受10の回転トルクが極端に大きくなるのを防ぐことができ、低トルク化を維持することが可能となる。
【0047】
なお、前記の式(1)を満たす範囲で、「X」ができるだけ大きな値となるように、Y1及びY2を設定するのが好ましい。これは、ころ11をスキューさせるモーメントが一定であれば、「X」の値を大きくすれば、ころ11と保持器12との間に作用する接触力を小さくすることができるためである。これにより、ころ11と保持器12との接触による滑り摩擦抵抗をより一層小さくすることが可能となる。
【0048】
図3に戻って、ころ11及びポケット13の各部の寸法について説明する。
ころ11に関して下記のとおり定義する第一寸法Z1は、ポケット13に関して下記のとおり定義する第二寸法Z2よりも大きい(Z1>Z2)。
「第一寸法Z1」:ポケット13の突起37と接触するころ11の第一端面21から、外クラウニング部16と円筒部15との境界B1までの放射方向に沿った寸法。
「第二寸法Z2」:ポケット13の突起37におけるころ11の第一端面21との接触点P1から、境界B2までの放射方向に沿った寸法(ただし、前記境界B2は、放射方向外側の平坦面36a(36c)と、凹面35a(35b)との境界である)。
【0049】
前記のとおり、第一寸法Z1は第二寸法Z2よりも大きいことから、軸受10が回転してポケット13においてころ11が傾くと、
図6に示すように、ころ11の外クラウニング部16が、ポケット13の放射方向外側の平坦面36aに接触する。外クラウニング部16は、前記のとおり、円弧状母線により形成されている。このため、ころ11の外クラウニング部16と、ポケット13の平坦面36aとは、接触楕円が生じる接触態様で接触(点接触)することができる。この結果、ころ11と保持器12との接触部における滑り摩擦抵抗が低減され、低トルク化が可能となる。
【0050】
なお、例えば、軸受10の回転方向が反対となり、ころ11が
図6に示す場合と反対向きに傾くと、図示しないが、外クラウニング部16が、反対側の平坦面36cに接触する。この場合においても、ころ11の外クラウニング部16と、ポケット13の平坦面36cとは、接触楕円が生じる接触態様で接触(点接触)する。
【0051】
更に、本開示では(
図3参照)、下記のとおり定義する第三寸法Z3は、前記第二寸法Z2よりも小さい(Z3<Z2)。
「第三寸法Z3」:突起37と接触する第一端面21から、外クラウニング部16が有する第一部26と第二部27との境界B3までの放射方向に沿った寸法。
【0052】
この構成によれば、
図6に示すように、ころ11の傾き角度は小さいことから(3°未満であることから)ポケット13の平坦面36aに、ころ11の外クラウニング部16の内の第一部26が接触する。第一部26は、前記のとおり、第二部27と比較して円弧状母線の曲率半径が大きい(r1>r2)。このため、平坦面36aと第一部26との間に生じる接触楕円を、比較的大きくすることができる。よって、ころ11と保持器12との接触部における面圧が小さくなり、摩耗の発生を抑制することができる。なお、この構成によれば、(第一寸法Z1>第二寸法Z2>第三寸法Z3)となる。
【0053】
更に、本開示では(
図3参照)、ころ11に関して下記のとおり定義する第四寸法Z4は、ポケット13に関して下記のとおり定義する第五寸法Z5よりも小さい(Z4<Z5)。
「第四寸法Z4」:ポケット13の突起37と接触するころ11の第一端面21から、内クラウニング部17と円筒部15との境界B4までの放射方向に沿った寸法。
「第五寸法Z5」:ポケット13の突起37におけるころ11の第一端面21との接触点P1から、境界B5までの放射方向に沿った寸法(ただし、前記境界B5は、放射方向内側の平坦面36dと、凹面35bとの境界である)。
【0054】
前記のとおり、第四寸法Z4は第五寸法Z5よりも小さいことから、軸受10が回転してポケット13においてころ11が傾くと、
図6に示すように、ころ11の内クラウニング部17が、ポケット13の放射方向内側の平坦面36dに接触する。内クラウニング部17は、前記のとおり、円弧状母線により形成されている。このため、ころ11の内クラウニング部17と、ポケット13の平坦面36dとは、接触楕円が生じる接触態様で接触(点接触)することができる。この結果、ころ11と保持器12との接触部における滑り摩擦抵抗が低減され、低トルク化が可能となる。
【0055】
なお、例えば、軸受10の回転方向が反対となり、ころ11が
図6に示す場合と反対向きに傾くと、図示しないが、内クラウニング部17が、反対側の平坦面36bに接触する。この場合においても、ころ11の内クラウニング部17と、ポケット13の平坦面36bとは、接触楕円が生じる接触態様で接触(点接触)する。
【0056】
更に、本開示では(
図3参照)、下記のとおり定義する第六寸法Z6は、前記第五寸法Z5よりも大きい(Z6>Z5)。
「第六寸法Z6」:突起37と接触する第一端面21から、内クラウニング部17が有する第三部28と第四部29との境界B6までの放射方向に沿った寸法。
【0057】
この構成によれば、
図6に示すように、ころ11の傾き角度は小さいことから(3°未満であることから)ポケット13の平坦面36dに、ころ11の内クラウニング部17の内の第三部28が接触する。第三部28は、前記のとおり、第四部29と比較して円弧状母線の曲率半径が大きい(r3>r4)。このため、平坦面36dと第三部28との間に生じる接触楕円を、比較的大きくすることができる。よって、ころ11と保持器12との接触部における面圧が小さくなり、摩耗の発生を抑制することができる。なお、この構成によれば、(第四寸法Z4<第五寸法Z5<第六寸法Z6)となる。
【0058】
図3において、ポケット13の放射方向外側の平坦面36aと、凹面35aとの境界B2には、前記のとおり、凸形状の丸み48が設けられている。このため、境界B2において、ころ11の外クラウニング部16が接触しても、エッジロードとならない。
また、ポケット13の放射方向内側の平坦面36dと、凹面35bとの境界B5には、前記のとおり、凸形状の丸み49が設けられている。このため、境界B5において、ころ11の内クラウニング部17が接触しても、エッジロードとならない。
【0059】
図3において、第一寸法Z1>第二寸法Z2であり、かつ、第四寸法Z4<第五寸法Z5となる構成によれば、突起37にころ11の第一端面21が接触した状態で、ポケット13において凹面35a(35b)が形成されている放射方向の範囲内に、ころ11の円筒部15が存在した構成となる。このため、軸受10が回転して、
図6に示すようにポケット13においてころ11が傾くと、ポケット13における放射方向外側及び放射方向内側それぞれにおける平坦面36a,36dに、円弧状母線により形成された外クラウニング部16及び内クラウニング部17が接触する。前記のとおり、外クラウニング部16及び内クラウニング部17それぞれは、円弧状母線により形成されている。このため、ころ11と保持器12とは、放射方向外側及び放射方向内側それぞれにおいて、接触楕円が生じる接触態様で接触(点接触)することができる。このため、ころ11と保持器12との接触部における滑り摩擦抵抗が低減され、低トルク化が可能となる。
【0060】
以上のように、本開示のスラストころ軸受10によれば、ころ11と保持器12との接触部における滑り摩擦抵抗が低減される。この結果、スラストころ軸受10の低トルク化が可能となる。更に、ころ11と保持器12との滑り接触による温度上昇を抑えることも可能となる。
【0061】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0062】
7:第一軌道面 8:第二軌道面 10:円すいころ軸受
11:ころ 12:保持器 13:ポケット
15:円筒部 16:外クラウニング部 17:内クラウニング部
20:外周面 21:第一端面 22:第二端面
26:第一部 27:第二部 31:第一側面
32:第二側面 33:外面 34:内面
35a:凹面 35b:凹面 36a:平坦面
36b:平坦面 36c:平坦面 36d:平坦面
37:突起 B1~B3:境界 C0:保持器の中心軸
C1:ころの中心軸 K1:第一仮想円 K2:第二仮想円
P1:接触点 Q1~Q4:接触点 R1:半径
R2:半径 Z1:第一寸法 Z2:第二寸法
Z3:第三寸法 Y1:隙間 Y2:隙間
r1:第一曲率半径 r2:第二曲率半径 X:R1-R2