(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】コネクタ付きケース、コネクタ付きワイヤーハーネス、及びエンジンコントロールユニット
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20230411BHJP
H01R 13/46 20060101ALI20230411BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20230411BHJP
H05K 5/00 20060101ALI20230411BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20230411BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20230411BHJP
H01R 13/504 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
C08L67/02
H01R13/46 301B
C08J5/04 CFD
H05K5/00 A
B60R16/02 610A
C08K7/00
H01R13/504
(21)【出願番号】P 2019055700
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】手塚 綾
(72)【発明者】
【氏名】平林 辰雄
【審査官】濱田 莉菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-023414(JP,A)
【文献】特開2009-173900(JP,A)
【文献】特開平07-114970(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012318(WO,A1)
【文献】実開昭57-157184(JP,U)
【文献】特開2013-069439(JP,A)
【文献】特開2015-090832(JP,A)
【文献】米国特許第5580264(US,A)
【文献】米国特許第6309257(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/40-13/533
H01R 13/74
H05K 7/00
H05K 7/12
H05K 5/00
H05K 5/02
B60R 16/02
H02G 3/16
C09J 133/00
H01B 7/00
C08L 67/02
C08J 5/04
C08K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
前記ケースに固定されるコネクタ部とを備え、
前記ケースは、貫通孔を有し、
前記コネクタ部は、
複数の端子を支持する中子部と、
前記ケースにおける前記貫通孔の周囲の領域と前記中子部の一部とを一体に成形してなるフード部とを備え、
前記中子部は、前記ケース内に配置されており、
前記フード部は、
前記ケースの外周面における前記貫通孔の周縁を囲む環状の領域から前記貫通孔の軸方向に沿って突出するように前記ケース外に配置された本体部と、
前記本体部の周縁から前記本体部の軸方向に直交する方向に延設され、前記ケースの外周面における前記貫通孔の周縁を囲む環状の領域に接して配置された外フランジ部と、
前記貫通孔の内周空間における前記貫通孔の内周面側の領域を埋めるように設けられた挿通部と、
前記挿通部の周縁から前記本体部の軸方向に直交する方向に延設され、前記ケースの内周面における前記貫通孔の周縁を囲む環状の領域に接して配置された内フランジ部と、
前記中子部と前記フード部とを一体化するように前記中子部の一部を環状に覆っている連結部とを備え、
前記フード部の構成材料は、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとを含む樹脂組成物であ
り、
エンジンの直上に取り付けられる、
コネクタ付きケース。
【請求項2】
前記樹脂組成物において、前記ポリブチレンテレフタレートの含有量は、前記ポリエチレンテレフタレート100質量部に対して、150質量部以上400質量部以下である請求項1に記載のコネクタ付きケース。
【請求項3】
前記樹脂組成物は、更に、充填剤を含み、
前記充填剤は、ガラスファイバ及びガラスフレークの少なくとも一方を含む請求項1又は請求項2に記載のコネクタ付きケース。
【請求項4】
前記充填剤の含有量は、前記樹脂組成物100質量部に対して、20質量部以上60質量部以下である請求項3に記載のコネクタ付きケース。
【請求項5】
前記樹脂組成物は、更に、エラストマを含む請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のコネクタ付きケース。
【請求項6】
前記樹脂組成物の相構造は、海島構造であり、
前記海島構造の海部は、前記ポリブチレンテレフタレートを主体とし、前記海島構造の島部は、前記ポリエチレンテレフタレートを主体とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のコネクタ付きケース。
【請求項7】
前記中子部の構成材料は、前記樹脂組成物である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のコネクタ付きケース。
【請求項8】
前記ケースは、ダイカスト材である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のコネクタ付きケース。
【請求項9】
前記ケースの構成材料は、アルミニウム基合金である請求項8に記載のコネクタ付きケース。
【請求項10】
前記アルミニウム基合金は、Siを1質量%以上30質量%以下含む請求項9に記載のコネクタ付きケース。
【請求項11】
前記ケースは、
前記エンジンへの取り付けに用いられる固定片を備える請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のコネクタ付きケース。
【請求項12】
前記端子の一端に接続される回路基板は、
前記エンジンの燃料噴射及び
前記エンジンの点火の少なくとも一方の制御を行う請求項1から請求項
11のいずれか1項に記載のコネクタ付きケース。
【請求項13】
前記エンジンは、自動車のエンジンである請求項
1から請求項
12のいずれか1項に記載のコネクタ付きケース。
【請求項14】
請求項1から請求項
13のいずれか1項に記載のコネクタ付きケースと、
前記端子の端部に接続されるワイヤーハーネスとを備え、
前記ワイヤーハーネスの全長が800mm未満である、
コネクタ付きワイヤーハーネス。
【請求項15】
請求項1から請求項
13のいずれか1項に記載のコネクタ付きケース、又は請求項
14に記載のコネクタ付きワイヤーハーネスと、
前記ケースに収納され、前記端子の一端に接続される回路基板とを備える、
エンジンコントロールユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コネクタ付きケース、コネクタ付きワイヤーハーネス、及びエンジンコントロールユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車両のエンジンコントロールユニットとして、回路基板を収納する金属製の筐体と、シリコーン系の湿気硬化型接着剤によって筐体に固定されるコネクタとを備える構造を開示する。上記筐体は、側面開口部を有するケースと、ケースの上面開口部を覆うカバーとを備える。上記コネクタは、複数のピン状の端子と、上記端子を支持する樹脂製のハウジングとを備える。上記ハウジングの中間部は、上記側面開口部に配置された状態でケースとカバーとに挟まれる。その結果、上記ハウジングの一部が筐体内に配置され、残部が筐体外に配置される。上記コネクタには、ワイヤーハーネスが接続される。このワイヤーハーネスを介して、回路基板とエンジンに備えられる電子機器とが電気的に接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワイヤーハーネスを含めて、エンジンコントロールユニット(ECU)の小型化、軽量化が望まれている。
【0005】
従来、燃料噴射の制御等を行うECUは、自動車のエンジンルームの隅といったエンジンから離れた位置に配置される。そのため、ECUとエンジンとを接続するワイヤーハーネスの長さが長い。上述の従来の構造のECUでは、ワイヤーハーネスを短くするために上記ECUをエンジン近くに配置すると、コネクタにクラックが生じることがあるとの知見を得た。
【0006】
そこで、本開示は、コネクタ部にクラックが生じ難いコネクタ付きケースを提供することを目的の一つとする。また、本開示は、コネクタ部にクラックが生じ難いコネクタ付きワイヤーハーネス、及びエンジンコントロールユニットを提供することを別の目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のコネクタ付きケースは、
ケースと、
前記ケースに固定されるコネクタ部とを備え、
前記ケースは、貫通孔を有し、
前記コネクタ部は、
複数の端子を支持する中子部と、
前記ケースにおける前記貫通孔の周囲の領域と前記中子部の一部とを一体に成形してなるフード部とを備え、
前記フード部の構成材料は、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとを含む樹脂組成物である。
【0008】
本開示のコネクタ付きワイヤーハーネスは、
本開示のコネクタ付きケースと、
前記端子の端部に接続されるワイヤーハーネスとを備え、
前記ワイヤーハーネスの全長が800mm未満である。
【0009】
本開示のコネクタ付きエンジンコントロールユニットは、
本開示のコネクタ付きケース、又は本開示のコネクタ付きワイヤーハーネスと、
前記ケースに収納され、前記端子の一端に接続される回路基板とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示のコネクタ付きケース、本開示のコネクタ付きワイヤーハーネス、及び本開示のエンジンコントロールユニットでは、コネクタ部にクラックが生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態のコネクタ付きケースを示す概略斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態のコネクタ付きワイヤーハーネス及びエンジンコントロールユニットを示す概略側面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す実施形態のコネクタ付きケースを(III)-(III)切断線で切断した状態を示す部分断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態のコネクタ付きケースの製造方法を説明する分解斜視図である。
【
図5】
図5は、
図1に示す実施形態のコネクタ付きケースにおいて、一点鎖線円(V)を付した箇所を拡大して示す模式図である。
【
図6A】
図6Aは、せん断引張試験の試験片を説明する図であり、射出成形前の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係るコネクタ付きケースは、
ケースと、
前記ケースに固定されるコネクタ部とを備え、
前記ケースは、貫通孔を有し、
前記コネクタ部は、
複数の端子を支持する中子部と、
前記ケースにおける前記貫通孔の周囲の領域と前記中子部の一部とを一体に成形してなるフード部とを備え、
前記フード部の構成材料は、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとを含む樹脂組成物である。
【0013】
上述の従来の構造のECUでは、コネクタのハウジングは、筐体のケースとは独立して製造される。また、上記従来のハウジングは、一度の射出成形で製造される。これに対し、本開示のコネクタ付きケースは、中子部とフード部という二つの部材を備える。そして、これら二つの部材が段階的に製造される。また、本開示のコネクタ付きケースでは、ケースは貫通孔を有し、フード部は、ケースにおける貫通孔近くの領域にケースに接して設けられると共に、貫通孔を経て中子部に一体化される。このような本開示のコネクタ付きケースは、上記従来の構造と全く異なる。
【0014】
更に、本開示のコネクタ付きケースでは、フード部の構成材料が、ポリブチレンテレフタレート(PBT)とポリエチレンテレフタレート(PET)とを含むという特定の樹脂組成物である。
【0015】
上述の特定の樹脂組成物は、金属、例えばアルミニウム基合金に接して設けられて、ヒートサイクルを受けても、クラックが生じ難い(後述の試験例1参照)。この理由の一つとして、従来のコネクタの構成材料(例、PBT)とは異なり、上記特定の樹脂組成物はPBTに加えてPETを含むため、靭性を高められると考えられる。このような特定の樹脂組成物から構成されるフード部は、ヒートサイクルが繰り返し負荷される使用環境、例えばエンジンの直上といったエンジン近くに配置される場合でもクラックが生じ難い。特にフード部において金属に接して設けられる箇所にクラックが生じ難い。また、エンジン近くといった振動が繰り返し負荷される使用環境であっても、クラックが生じた際にクラックが進展し難いと考えられる。従って、本開示のコネクタ付きケースは、例えばエンジンの直上に配置できる。
【0016】
また、上述の特定の樹脂組成物は、金属に接して設けられても反り難い(後述の試験例2参照)。そのため、フード部はケースから剥離し難く、ケースに一体化された状態を良好に維持できる。
【0017】
更に、本開示のコネクタ付きケースがエンジン近く、例えばエンジンの直上に配置される場合、エンジンルームの隅等に配置される場合に比較して、コネクタ部に接続されるワイヤーハーネスの長さを短くすることができる。この理由は、代表的には、エンジンに備えられ、ワイヤーハーネスが接続される電子機器(例、燃料のインジェクタ用のコイル、点火プラグ等)は、エンジンの上部に配置されるからである。ワイヤーハーネスの短縮化によって、本開示のコネクタ付きケースは、ワイヤーハーネスを含めたエンジンコントロールユニットの小型化、軽量化に寄与する。本開示のコネクタ付きケースは、車載エンジンのコントロールユニットに利用される場合、車載部品の小型化、軽量化、ひいては燃費の向上に寄与する。
【0018】
上述の特定の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を主体とする。そのため、フード部は、射出成形を利用して容易に製造できる。また、例えば、ケース外からケースの外周面に上記樹脂組成物を射出すると共に、ケースの貫通孔を経てケース内に上記樹脂組成物を充填すれば、フード部を成形しつつ、フード部と中子部とを容易に一体化することができる。更に、シール性を高めるために、フード部とケースとの間に接着層を備える場合に、射出成形時の圧力及び熱を利用して、接着剤を硬化して接着層を形成しつつ、接着層によって、フード部とケースとを接合することができる。このような本開示のコネクタ付きケースは、工程数を少なくでき、製造性にも優れる。
【0019】
(2)本開示のコネクタ付きケースの一例として、
前記樹脂組成物において、前記ポリブチレンテレフタレートの含有量は、前記ポリエチレンテレフタレート100質量部に対して、150質量部以上400質量部以下である形態が挙げられる。
【0020】
上記形態は、PBTに対してPETを適切に含む。そのため、フード部にクラックが生じ難い。また、上記形態は、反り難い上に、射出成形性にも優れる。
【0021】
(3)本開示のコネクタ付きケースの一例として、
前記樹脂組成物は、更に、充填剤を含み、
前記充填剤は、ガラスファイバ及びガラスフレークの少なくとも一方を含む形態が挙げられる。
【0022】
ガラスファイバを含む形態は、フード部の強度を高め易い。ガラスフレークを含む形態では、フード部が反り難い。
【0023】
(4)上記(3)のコネクタ付きケースの一例として、
前記充填剤の含有量は、前記樹脂組成物100質量部に対して、20質量部以上60質量部以下である形態が挙げられる。
【0024】
上記形態は、充填剤を適切に含む。そのため、フード部の強度がより高められ易い。ガラスフレークを含む場合には、フード部がより反り難い。
【0025】
(5)本開示のコネクタ付きケースの一例として、
前記樹脂組成物は、更に、エラストマを含む形態が挙げられる。
【0026】
上記形態は、エラストマによってフード部の靭性をより高められる。そのため、フード部にクラックがより生じ難い。また、フード部がより反り難い。
【0027】
(6)本開示のコネクタ付きケースの一例として、
前記樹脂組成物の相構造は、海島構造であり、
前記海島構造の海部は、前記ポリブチレンテレフタレートを主体とし、前記海島構造の島部は、前記ポリエチレンテレフタレートを主体とする形態が挙げられる。
【0028】
上記形態は、PBTに対してPETが均一的に分散しているといえる。そのため、上記形態は、PBTが主体であることによる良好な射出成形性を有しつつ、PETの含有によるクラックの発生低減効果、反りの低減効果を得易い。これらのことから、フード部にクラックがより生じ難い。また、フード部がより反り難い。
【0029】
(7)本開示のコネクタ付きケースの一例として、
前記中子部の構成材料は、前記樹脂組成物である形態が挙げられる。
【0030】
上記形態では、中子部とフード部とが一体化された状態が良好に維持される。また、フード部を射出成形で製造すれば、射出成形時の熱等を利用して、中子部とフード部とを良好に接合することができる。この点で、上記形態は製造性により優れる。
【0031】
(8)本開示のコネクタ付きケースの一例として、
前記ケースは、ダイカスト材である形態が挙げられる。
【0032】
上記形態に備えられるケースは、ダイカスト法を利用して容易に製造できる。ケースを製造し易い点で、上記形態は製造性により優れる。
【0033】
(9)上記(8)のコネクタ付きケースの一例として、
前記ケースの構成材料は、アルミニウム基合金である形態が挙げられる。
【0034】
上記形態は、ケースの構成材料が例えば鉄基合金等である場合に比較して軽量である。また、ケースが熱伝導性に優れる。そのため、コネクタ部に熱が籠り難い。その結果、ヒートサイクルに伴う熱衝撃が緩和される。従って、フード部にクラックがより生じ難い。
【0035】
(10)上記(9)のコネクタ付きケースの一例として、
前記アルミニウム基合金は、Siを1質量%以上30質量%以下含む形態が挙げられる。
【0036】
上記形態に備えられるケースは、鋳造性に優れる。ケースを製造し易い点で、上記形態は製造性により優れる。また、一般に、Siを含むアルミニウム基合金からなるダイカスト材に樹脂を射出成形すると(インサート成形すると)、ダイカスト材と樹脂成形体とが密着し難い。これに対し、フード部が上述の特定の樹脂組成物からなる本開示のコネクタ付きケースでは、上記ダイカスト材からなるケースにフード部が射出成形された場合でも、ケースとフード部とが密着し易い。
【0037】
(11)本開示のコネクタ付きケースの一例として、
前記ケースは、エンジンへの取り付けに用いられる固定片を備える形態が挙げられる。
【0038】
上記形態は、エンジンに固定し易いため、取付作業性に優れる。
【0039】
(12)本開示のコネクタ付きケースの一例として、
エンジンの直上に取り付けられる形態が挙げられる。
【0040】
上記形態は、コネクタ部に接続されるワイヤーハーネスの長さを短くできる。従って、上記形態は、ワイヤーハーネスを含めたエンジンコントロールユニットの小型化、軽量化に寄与する。
【0041】
(13)本開示のコネクタ付きケースの一例として、
前記端子の一端に接続される回路基板は、エンジンの燃料噴射及びエンジンの点火の少なくとも一方の制御を行う形態が挙げられる。
【0042】
エンジンの燃料噴射を行うインジェクタやエンジンの点火プラグは、代表的には、エンジンの上部に設けられる。そのため、上記形態は、特にエンジンの直上に配置されることで、ワイヤーハーネスの長さを短くできる。従って、上記形態は、ワイヤーハーネスを含めたエンジンコントロールユニットの小型化、軽量化に寄与する。
【0043】
(14)上記(11)から(13)のいずれか一つのコネクタ付きケースの一例として、
前記エンジンは、自動車のエンジンである形態が挙げられる。
【0044】
上記形態は、上述のようにエンジンの直上といったエンジン近くに配置されることでワイヤーハーネスの長さを短くできる。従って、上記形態は、ワイヤーハーネスを含めた状態で、従来の構造よりも小型、軽量なエンジンコントロールユニットを構築できる。このような形態は、燃費の向上に寄与する。
【0045】
(15)本開示の一態様に係るコネクタ付きワイヤーハーネスは、
上記(1)から(14)のいずれか一つのコネクタ付きケースと、
前記端子の端部に接続されるワイヤーハーネスとを備え、
前記ワイヤーハーネスの全長が800mm未満である。
【0046】
本開示のコネクタ付きワイヤーハーネスは、ワイヤーハーネスの全長が800mm未満と短いため、エンジンの直上といったエンジン近くに配置して利用するとよい。本開示のコネクタ付きワイヤーハーネスは、上述の本開示のコネクタ付きケースを備えるため、エンジン近くに配置されても、コネクタ部、特にフード部にクラックが生じ難い。
【0047】
(16)本開示の一態様に係るエンジンコントロールユニット(ECU)は、
上記(1)から(14)のいずれか一つのコネクタ付きケース、又は上記(15)のコネクタ付きワイヤーハーネスと、
前記ケースに収納され、前記端子の一端に接続される回路基板とを備える。
【0048】
本開示のECUは、本開示のコネクタ付きケース又は本開示のコネクタ付きワイヤーハーネスを備えるため、エンジンの直上といったエンジン近くに配置されても、コネクタ部、特にフード部にクラックが生じ難い。また、本開示のECUは、ワイヤーハーネスを短くすることができる、又はワイヤーハーネスが短いため、上述の従来の構造よりも、小型、軽量である。
【0049】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を参照して、本開示の実施形態を具体的に説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0050】
[実施形態]
図1~
図4を主に参照して、実施形態のコネクタ付きケース1、コネクタ付きワイヤーハーネス10、エンジンコントロールユニット(ECU)17の構造を説明する。その後、実施形態のコネクタ付きケース1の構成部品の材料を詳細に説明する。
図1~
図3は、ケース2の開口部27が紙面下方を向くようにケース2が配置された状態を示す。
図4は、ケース2の開口部27が紙面上方を向くようにケース2が配置された状態を示す。
図3は、主としてケース2及びフード部5の断面を示し、中子部4の本体部41は外観を示す。
【0051】
(概要)
実施形態のコネクタ付きケース1は、ケース2と、ケース2に固定されるコネクタ部3とを備える(
図1)。ケース2は、開口部27を有する容器状の部材であり(
図4)、金属で構成される。ケース2の開口部27を塞ぐようにカバー70が組み付けられる(
図2,
図4)。ケース2及びカバー70は、その内部空間に回路基板71を収納する(
図2)。コネクタ部3は複数の端子40を備える。これら端子40は、ケース2内の回路基板71と、ケース2外の外部機器(例、ワイヤーハーネス8)とを電気的に接続する。回路基板71は、例えばエンジン等の電子機器を制御する回路を備える。このようなコネクタ付きケース1は、上述のようにカバー70と共に回路基板71を収納して、コントロールユニット、例えばECU17の構成部材として利用される。
【0052】
実施形態のコネクタ付きケース1は、ケースとカバーとでコネクタを挟むという上述の従来の構造とは異なる。詳しくは、ケース2は、貫通孔22を有する(
図3、
図4)。コネクタ部3は、ケース2の貫通孔22を挿通する(
図2、
図3)。また、コネクタ部3は、ケース2内に配置される部分とケース2外に配置される部分とを有する。両部分がケース2に一体に支持される(
図2,
図3)。具体的には、コネクタ部3は、中子部4と、フード部5とを備える。中子部4は、複数の端子40を支持する樹脂成形体である(
図4も参照)。中子部4は、主としてケース2内に配置される。フード部5は、ケース2における貫通孔22の周囲の領域と中子部4の一部とを一体に成形してなる樹脂成形体である(
図3)。フード部5は、主としてケース2外に配置される。ここでの「ケース2における貫通孔22の周囲の領域」とは、ケース2の外周面における貫通孔22の周縁及びこの周縁を囲む環状の領域(
図4のクロスハッチングを付した領域参照)、貫通孔22の内周空間、ケース2の内周面における貫通孔22の周縁及びこの周縁を含む環状の領域を含む。
【0053】
特に、実施形態のコネクタ付きケース1では、フード部5の構成材料がポリブチレンテレフタレート(PBT)とポリエチレンテレフタレート(PET)とを含む樹脂組成物である。上記の特定の樹脂組成物は、金属に接して設けられた状態で使用時にヒートサイクルが繰り返し負荷されても、クラックが生じ難い。このような特定の樹脂組成物からなるフード部5がアルミニウム基合金等の金属からなるケース2に接して設けられている実施形態のコネクタ付きケース1は、ヒートサイクルが繰り返し負荷される使用環境、例えばエンジンの直上といったエンジン近くに取り付けて使用できる。
【0054】
(コネクタ付きケース)
〈ケース〉
ケース2は、
図4に例示するように、底部20と、底部20から立設される枠状の側壁21とを備え、底部20との対向側が開口した箱状の容器が挙げられる。ケース2の内部空間は、所定の収納物、ここではコネクタ部3の一部(フード部5の一部及び中子部4)や回路基板71等の収納空間に利用される。
図1は、直方体状のケース2を例示するが、ケース2の形状、大きさ、後述するカバー70の形状、大きさは、上記収納物の形状、大きさ等に応じて適宜調整するとよい。
【0055】
ケース2は、側壁21の一部に、ケース2の内外に抜ける貫通孔22を備える。貫通孔22の内周面は、コネクタ部3の中間部を保持することで(
図3)、コネクタ部3の一端部をケース2内に収納し、コネクタ部3の他端部をケース2外に露出させる(突出させる)。
【0056】
貫通孔22の形状、大きさ、個数はコネクタ部3の形状、大きさ、個数に応じて調整すればよい。本例のケース2は、長方形状の貫通孔22を一つ備えるが、複数でもよい。
【0057】
その他、ケース2は、設置対象への取り付けに用いられる固定片25を備えると、設置対象への固定を行い易く、取付作業性に優れる。上記設置対象は、代表的にはエンジン、例えば自動車のエンジンが挙げられる。
図4は、直方体状のケース2の四隅から外方に突出する舌片状の部材が固定片25である場合を例示する。固定片25の形状、大きさ、個数、形成位置等は適宜変更できる。
【0058】
ケース2は、ダイカスト材が挙げられる。ダイカスト法を利用すれば、底部20と側壁21とが一体に成形されてなる箱状のケース2を容易に製造することができる。箱状のケース2を製造し易い点で、コネクタ付きケース1は製造性に優れる。また、底部20と側壁21とが一体成形物であれば、ケース2はシール性にも優れる。後述のカバー70もダイカスト材であれば、カバー70も容易に製造できる上に、シール性にも優れる。なお、ケース2やカバー70は、ダイカスト材以外でもよい(例、深絞り加工等の塑性加工材)。
【0059】
〈カバー〉
カバー70は、代表的には、ケース2と同様に、箱状の容器が挙げられる。なお、実施形態のコネクタ付きケース1、コネクタ付きワイヤーハーネス10は、回路基板71の収納前の状態ではカバー70を備えておらず、ケース2は開口した状態である。
【0060】
ケース2及びカバー70は、各開口縁から外方に延設されるフランジ部(図示せず)を備えると組み付け易い。ケース2のフランジ部とカバー70のフランジ部との間に接着剤(図示せず)が介在する場合には、シール性が高められる。
【0061】
〈コネクタ部〉
《端子》
端子40は、代表的には、銅や銅合金等の導電性材料で構成された棒状(ピン状)の部材である。端子40は、回路基板71との接続端(一端)と、外部機器との接続端(他端)とを備える。複数の端子40は、
図4に例示するように、所定の間隔で一直線上に並べられ、更にこの端子群が多段に配列される。また、各端子40は、端部が所定の方向に向くように適宜屈曲される。複数の端子40は、上述の配列及び屈曲状態が維持されると共に、回路基板71及び外部機器と接続可能なように、中子部4(本体部41)に支持される。端子40の個数、配列、屈曲状態等は適宜変更できる。
【0062】
コネクタ付きケース1において、端子40の回路基板71との接続端(一端)は、ケース2内に配置される。端子40における外部機器との接続端(他端)は、ケース2の貫通孔22を介してケース2外に臨むように配置される。代表的には、
図1,
図3に示すように、端子40の中間部が貫通孔22を挿通し、端子40の他端は、ケース2外に配置される。
【0063】
《中子部》
中子部4は、複数の端子40の中間部を保持すると共に、各端子40の両端部を露出させた状態で支持する部材である(
図3,
図4)。本例の中子部4は、端子40が圧入等によって固定された支持板42(
図3)と、本体部41と、仕切り部43とを備える。本体部41は、支持板42の周縁部の少なくとも一部を支持する部材である。本体部41がケース2の所定の位置に配置されることで、支持板42に保持される端子40の各端部が所定の向きに配置される。
図3は、支持板42の表裏面が貫通孔22の軸方向に平行するように支持板42がケース2内に配置される状態を例示する。なお、
図2,
図4は、本体部41及び支持板42を簡略化して、直方体で示す。仕切り部43は、本体部41の外周面から突出する平板状の部材である。仕切り部43は、隣り合う端子群間に介在されて(
図1)、端子群間の電気絶縁性を高める。中子部4は、例えば、上述の端子40が固定された板材に対して射出成形する(インサート成形する)ことで製造することが挙げられる。
【0064】
中子部4の形状、大きさ等は端子40の個数、配列状態等に応じて適宜調整するとよい。また、本例のコネクタ付きケース1は、一つの中子部4を備える場合を示すが、複数の中子部4を備えてもよい。
【0065】
《フード部》
フード部5は、中子部4に一体化されて、中子部4と共にコネクタ部3を構成する部材である。フード部5は、ケース2外に配置される部分を含む。フード部5におけるケース2外に配置される部分は、ケース2に密着することでシール性を高める機能、複数の端子40における外部機器との接続端を機械的に保護する機能、端子40と外部機器との接続時に外部機器を接続端に案内する機能等を有する。フード部5は、例えば、ケース2及び中子部4に対して射出成形する(インサート成形する)ことで製造することが挙げられる。
【0066】
本例のフード部5は、本体部50と、外フランジ部51と、挿通部52と、内フランジ部53と、連結部54とを備え(
図3)、これらが連続した一体成形物である。また、本例のフード部5は貫通孔22の内周形状に沿った概ね筒状の部材である(
図1)。本体部50及び外フランジ部51は、ケース2外に配置される(
図1,
図3)。挿通部52は、貫通孔22の内周面に接して配置される(
図3)。内フランジ部53及び連結部54は、ケース2内に配置される(
図3)。
【0067】
本例の本体部50は、端子40における外部機器との接続端を囲む筒状の部分である。本体部50は、ケース2の外周面における貫通孔22の周縁を囲む環状の領域から、貫通孔22の軸方向に沿って突出するように設けられる。本体部50は、上記端子40の端部の機械的保護及び環境からの保護、コネクタ付きケース1が設置された場合に周囲の部材と端子40との電気絶縁性の向上、外部機器の接続作業性の向上等に寄与する。
【0068】
外フランジ部51は、本体部50の周縁から本体部50の軸方向(本例では貫通孔22の軸方向に実質的に一致する)に直交する方向に延設される環状の部分である。外フランジ部51は、ケース2の外周面における貫通孔22の周縁を囲む環状の領域に接して配置される。外フランジ部51を備えるフード部5は、ケース2との接合面積を増大でき、ケース2に良好に一体化できる。また、フード部5の表面積の増大により、シール性も高められる。外フランジ部51の大きさ、後述する内フランジ部53の大きさは、貫通孔22の大きさに応じて調整するとよい。
【0069】
挿通部52は、貫通孔22の内周空間における内周面側の領域を埋めるように設けられる。また、挿通部52は、フード部5におけるケース2外に配置される部分と、ケース2内に配置される部分とを一体化する。本例では、挿通部52、上述の外フランジ部51及び本体部50という三つの部分が連続した内部空間を形成する。上記内部空間が本体部50の軸方向に一様な大きさであって、端子40に接触しない大きさを有するように、上記三つの部分の厚さ等が調整される(
図3)。
【0070】
内フランジ部53は、挿通部52の周縁から本体部50の軸方向に直交する方向に延設される環状の部分である。内フランジ部53は、ケース2の内周面における貫通孔22の周縁を囲む環状の領域に接して配置される。また、内フランジ部53と上述の外フランジ部51とは、ケース2の側壁21を挟むように設けられる(
図3)。このことからも、フード部5は、ケース2と強固に一体化できる上に、シール性もより高められる。
【0071】
連結部54は、中子部4とフード部5とを一体化する部分である(
図3)。本例の連結部54は、中子部4の一部であって端子40に干渉しない箇所を覆うように環状に設けられている。連結部54の形状、大きさは、中子部4の形状、大きさに応じて適宜調整するとよい。
【0072】
〈接着層〉
本例のコネクタ付きケース1は、ケース2とコネクタ部3のフード部5との間に接着層6を備える(
図2、
図3)。接着層6によって、ケース2とフード部5との接合性が高められる上に、シール性も高められる。フード部5は、上述の特定の樹脂組成物で構成されており、接着層6との接着性に優れることからも、上述の接合性、シール性を高められる。本例のコネクタ付きケース1は、ケース2の外周面における貫通孔22の周縁を囲む環状の領域(
図4にクロスハッチングを付して示す領域参照)と、外フランジ部51との間に接着層6を備える。
【0073】
(コネクタ付きワイヤーハーネス)
実施形態のコネクタ付きワイヤーハーネス10は、実施形態のコネクタ付きケース1と、コネクタ部3の端子40の端部(他端)に接続されるワイヤーハーネス8とを備える(
図2)。端子40の一端は回路基板71に接続される。この端子40を介してワイヤーハーネス8の一端は、回路基板71に電気的に接続される。ワイヤーハーネス8の他端は、回路基板71に制御される電子機器に電気的に接続される。
【0074】
〈ワイヤーハーネス〉
ワイヤーハーネス8は、一つ以上の電線80と、電線80の各端部に取り付けられるコネクタ81,82とを備える。電線80は、導体と、電気絶縁層とを備える。導体は、代表的には、銅やアルミニウム、これらの合金等の導電性材料から構成される。電気絶縁層は、樹脂等の電気絶縁材料から構成され、導体の外周を覆う。
図2は、一つの電線80を備える場合を例示するが、ワイヤーハーネス8は複数の電線80を備えてもよい。コネクタ81,82には、適宜な雄コネクタ、雌コネクタが利用できる。
【0075】
図2に例示するようにワイヤーハーネス8のコネクタ81(例、雄コネクタ)と、コネクタ付きケース1のコネクタ部3(例、雄コネクタ)との間に、別途、コネクタ83(例、雌コネクタ)が介在してもよい。
【0076】
ワイヤーハーネス8の全長L8(ここではコネクタ81,82を除く電線80の全長)は、回路基板71から電子機器までの距離に応じて調整するとよい。コネクタ付きワイヤーハーネス10の一例として、ワイヤーハーネス8の全長L8が800mm未満である形態が挙げられる。上記全長L8が短いほど、ワイヤーハーネス8を含めたECU17を小型、軽量にできる。そのため、上記全長L8は、700mm以下、更に500mm以下、300mm以下、250mm以下でもよい。
【0077】
上記全長L8が800mm未満である形態は、回路基板71から電子機器までの距離が短い場合に利用できる。例えば、回路基板71がエンジンの電子機器を制御するものであれば、コネクタ付きワイヤーハーネス10は、エンジンの直上といったエンジン近くに配置されることが挙げられる。この場合、回路基板71は、エンジンの上部に設けられる電子機器、例えば燃料噴射を行うインジェクタ用のコイル、点火プラグ等を制御できる。
【0078】
(エンジンコントロールユニット(ECU))
実施形態のECU17は、実施形態のコネクタ付きケース1又は実施形態のコネクタ付きワイヤーハーネス10と、ケース2に収納され、端子40の一端に接続される回路基板71とを備える(
図2)。代表的には、ECU17は、カバー70を備え、ケース2とカバー70とで回路基板71を収納する。回路基板71は、端子40の他端に接続されるワイヤーハーネス8を介してエンジンの電子機器に接続される。この接続によって、上記電子機器は、回路基板71によって所定の制御がなされる。
【0079】
回路基板71がエンジンの燃料噴射及びエンジンの点火の少なくとも一方の制御を行うものであれば、上述のようにECU17をエンジンの直上に配置できる。この場合、ワイヤーハーネス8の全長L8を短くすることができる。
【0080】
(構成材料)
〈樹脂組成物〉
フード部5を構成する樹脂組成物は、PBTとPETとを含む。PBT及びPETはポリエチレン系の熱可塑性樹脂である。そのため、上記樹脂組成物を射出成形すれば、フード部5を容易に製造することができる。特に、上記樹脂組成物は、PBTに加えてPETを含むことで、従来のコネクタの構成材料(例、PBT)に比較して靭性に優れる。そのため、上記樹脂組成物は、金属、例えばアルミニウム基合金に接して設けられて、ヒートサイクルが繰り返し負荷される使用環境でも、クラックが生じ難いと考えられる。ヒートサイクルに加えて、振動が繰り返し負荷される使用環境でも、クラックが生じた際にクラックが進展し難いと考えられる。また、上記樹脂組成物は、上記金属に接して設けられても反り難い。そのため、上記樹脂組成物は金属から剥離し難く、金属に一体化された状態を維持し易い。このような特定の樹脂組成物からなるフード部5は、上述の使用環境、例えばエンジン近くに配置されても、クラックが生じ難く、金属製のケース2との密着状態も良好に維持できると期待される。
【0081】
《PBTの含有量》
上記樹脂組成物は、PBTを最も多く含むこと、即ち主体とすることが挙げられる。PBTを主体とする樹脂組成物は射出成形性に優れる。このような樹脂組成物からなるフード部5等は製造性に優れる。
【0082】
定量的には、上記樹脂組成物におけるPBTの含有量は、PET100質量部に対して、150質量部以上400質量部以下が挙げられる。
【0083】
PBTの含有量がPETとの比で150質量部以上であれば、PETの含有による靭性の向上によってフード部5にクラックが生じ難い。また、フード部5が反り難く、ケース2との密着性にも優れる。例えばケース2とコネクタ部3とがボルト締結されていなくても、ケース2とコネクタ部3とが一体化された状態が良好に維持される。ボルト締結が不要な点で、コネクタ付きケース1は、製造性に優れる。PBTの含有量がPETとの比で400質量部以下であれば、PETの含有によるクラックの発生低減等の効果を有しつつ、PBTを主体とすることによる良好な射出成形性も有する。
【0084】
PBTの含有量が180質量部以上、更に200質量部以上であれば、クラックの発生低減効果がより得られ易い。PBTの含有量が350質量部以下、更に320質量部以下、300質量部以下であれば、良好な射出成形性が得られ易い。
【0085】
《その他の添加剤》
上記樹脂組成物は、更に、充填剤を含んでもよい。充填剤として、例えば、ガラスファイバ及びガラスフレークの少なくとも一方を含むことが挙げられる。ガラスファイバは、細長い針状のガラス材である。ガラスファイバを含む樹脂組成物は、強度を高め易い。ガラスフレークは、鱗片状のガラス材である。ガラスフレークを含む樹脂組成物は、熱伸縮に関する異方性を低減し易い。その結果、フード部5が反り難い。
【0086】
上記充填剤の含有量は、例えば、上記樹脂組成物100質量部に対して、20質量部以上60質量部以下が挙げられる。上記含有量が20質量部以上であれば、強度の向上、反りの低減といった効果を得易い。上記含有量が60質量以下であれば、充填剤の過剰含有による射出成形性の低下等を抑制し易い。上記含有量が25質量部以上、更に30質量部以上であれば、強度の更なる向上、反りの更なる低減が期待できる。上記含有量が55質量部以下、更に50質量部以下であれば、良好な射出成形性が得られ易い。
【0087】
上記樹脂組成物は、充填剤として、ガラスファイバ及びガラスフレークの双方を含んでもよい。この場合、フード部5は、高い強度を有しつつ、反り難い。また、この場合、ガラスファイバをガラスフレークよりも多く含むことが挙げられる。両者の質量割合は、例えばガラスファイバ:ガラスフレーク=6~8:4~2が挙げられる。ガラスファイバが相対的に多いことで、ガラスフレークが樹脂組成物内に偏在することを防止し易く、均一的に分散し易い。
【0088】
上記樹脂組成物は、更に、エラストマを含んでもよい。エラストマは、樹脂組成物の靭性の向上に寄与する。その結果、フード部5にクラックがより生じ難くなったり、フード部5がより反り難くなる。エラストマの含有量は、例えば、上記樹脂組成物100質量部に対して1質量部以上50質量部以下が挙げられる。
【0089】
その他、上記樹脂組成物は、耐加水分解性を高める添加剤を含んでもよい。このような添加剤として、例えば、エポキシ樹脂、カルボジイミドが挙げられる。エポキシ樹脂等の含有量は、例えば、上記樹脂組成物100質量部に対して1質量部以上20質量部以下が挙げられる。
【0090】
《構造》
上記樹脂組成物の相構造は、
図5に例示するように海島構造が挙げられる。特に、樹脂組成物55における海島構造の海部56がPBTを主体とし、海島構造の島部57がPETを主体とすることが挙げられる。ここでの「海部56がPBTを主体とする」とは、海部56の構成成分を100質量%として80質量%以上がPBTであることをいう。ここでの「島部57がPETを主体とする」とは、島部57の構成成分を100質量%として80質量%以上がPETであることをいう。海部56がPBTを主体とし、島部57がPETを主体とする海島構造では、PBT(海部56)に対して、PET(島部57)が均一的に分散しているといえる。このような樹脂組成物55は、PBTを主体とすることによる良好な射出成形性を有しつつ、PETの含有によるクラックの発生低減効果、反りの低減効果を得易い。このような海島構造を有する樹脂組成物55からなるフード部5は、クラックがより生じ難く、より反り難い。上記の海島構造は、例えば、製造過程でPBTに対してPETが均一的に分散するように、溶融状態の樹脂組成物を十分に混合することが挙げられる。なお、上記樹脂組成物の相構造は例えば共連続構造でもよい。
【0091】
《その他の適用》
PBTとPETとを含むという特定の樹脂組成物は、中子部4の構成材料にも利用できる。中子部4の構成材料とフード部5の構成材料とが実質的に同じであれば、中子部4とフード部5との両者が一体化された状態が良好に維持される。上記両者において、熱膨張係数等の特性が実質的に等しいため、ヒートサイクルを受けても、熱伸縮状態が等しくなり易いからである。また、フード部5を射出成形で製造すれば、射出成形時の熱等を利用して、上記両者が良好に接合される。このことからも、上記両者が一体化された状態が良好に維持される。更に、射出成形時に、フード部5の成形と、フード部5と中子部4との一体化とを同時に行うことができる。この点で、この形態は製造性にも優れる。なお、中子部4の構成材料は上記特定の樹脂組成物以外でもよい。中子部4の構成材料は、例えばPBTを主体とし、PETを含まない樹脂組成物でもよい。
【0092】
〈ケース〉
ケース2の構成材料は、金属が挙げられる。金属の一例として、アルミニウム基合金(以下、Al基合金と呼ぶ)が挙げられる。ここでの「Al基合金」とは、Al基合金を100質量%として、添加元素を含み、残部がAl及び不可避不純物からなる合金をいう。Alの含有量は、50質量%超、更に60質量%以上、70質量%以上が挙げられる。Al基合金は、鉄基合金等に比較して軽量である。そのため、Al基合金からなるケース2は軽量であり、コネクタ付きケース1の軽量化に寄与する。また、Al基合金は、鉄基合金等に比較して熱伝導性に優れる。そのため、Al基合金からなるケース2は熱伝導性に優れる。このようなケース2に接して設けられるコネクタ部3は、ケース2に放熱し易く、熱が籠り難い。従って、Al基合金からなるケース2を備えるコネクタ付きケース1は、使用時のヒートサイクルに伴う熱衝撃を緩和でき、フード部5におけるクラックの発生をより低減し易いと期待される。Al基合金は公知の組成のものを利用できる。
【0093】
Al基合金は、例えば添加元素としてSi(珪素)を1質量%以上30質量%以下含むものが挙げられる。Siを上記の範囲で含むAl基合金は、鋳造性(離型性)に優れるため、ダイカスト法によってケース2を製造し易い。ケース2を製造し易い点で、コネクタ付きケース1は製造性により優れる。Siを上記の範囲で含むAl基合金として、例えば、JIS H 5302(2006年)に規格されるADC1、ADC3、ADC10、ADC12、ADC14等が挙げられる。
【0094】
ここで、Siを上述の範囲で含むAl基合金からなるダイカスト材は、一般に、その表面にチル層(図示せず)を備える。チル層は離型性を高める。しかし、チル層を有するダイカスト材に樹脂を射出成形すれば、上記ダイカスト材と樹脂成形体とが密着し難い。そのため、上記ダイカスト材に樹脂を射出成形する場合には、チル層を除去するために表面処理(例、ブラスト処理)を施すことが望ましい。これに対し、PBTとPETとを含むという上述の特定の樹脂組成物は、上述のように反り難いため、上記ダイカスト材であっても密着し易い。従って、ケース2の構成材料がSiを上述の範囲で含むAl基合金であっても、このケース2は、上述の特定の樹脂組成物からなるフード部5との密着性に優れる。ケース2とフード部5との間に接着層6を備える場合には、ケース2とフード部5とが更に良好に接合される。接着層6の材質によっては、上記表面処理が不要である。上記表面処理の省略によって、コネクタ付きケース1は製造性により優れる。
【0095】
〈接着層〉
接着層6の構成材料は、例えば、熱硬化性接着剤等が挙げられる。特に、接着層6の構成材料は、射出成形時の圧力及び熱によって硬化可能なものであると、射出成形時にフード部5の成形と、接着層6の硬化及びケース2とフード部5との接合とを同時に行うことができる。この場合、工程数がより少なく、コネクタ付きケース1は製造性により優れる。
【0096】
射出成形時の圧力及び熱によって硬化可能な接着剤として、例えば、非ジエン系ゴムを含む接着剤、非ジエン系ゴムとアミノ系シランカップリング剤とを含む接着剤、アクリルゴムを含む接着剤等が挙げられる。
【0097】
ここでの「非ジエン系ゴム」とは、主鎖に炭素-炭素二重結合を含まないゴムである。非ジエン系ゴムは、JIS K 6397(2005年)のゴムの分類において、Oグループのゴムが挙げられる。Oグループのゴムとは、主鎖に炭素及び酸素をもつゴムである。非ジエン系ゴムの具体例として、エピクロロヒドリンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、クロロスルフォン化ゴム、塩素化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。エピクロロヒドリンゴムには、エピクロロヒドリンのホモポリマー、エチレンオキシドとエピクロロヒドリンとのゴム状共重合体があり、いずれを利用してもよい。エピクロロヒドリンゴム以外のOグループのゴムは、例えば、エチレンオキシドとエピクロロヒドリンとのゴム状共重合体、エピクロロヒドリンとアリルグリシジルエーテルとのゴム状共重合体、エチレンオキシドとエピクロロヒドリンとアリルグリシジルエーテルとのゴム状共重合体等が挙げられる。その他、市販の非ジエン系ゴムの接着剤を含んでもよい。
【0098】
非ジエン系ゴムとアミノ系シランカップリング剤とを含む接着剤、アクリルゴムを含む接着剤は、ケース2とフード部5とのそれぞれに対して接着性に優れる。その結果、上記接着剤は、ケース2とフード部5とを良好に接合できる上に、シール性も高められる。更に、ケース2の構成材料がSiを上述の範囲で含むAl基合金である場合に、上述の表面処理を行わなくても、上記接着剤はケース2とフード部5とを強固に接着できる。チル層の除去が不要であることで、このコネクタ付きケース1は製造性により優れる。
【0099】
非ジエン系ゴムの含有量は、例えば接着剤を100質量%として、50質量%以上80質量%以下が挙げられる。アミノ系シランカップリング剤の含有量は、例えば接着剤を100質量%として0.5質量%以上2質量%以下が挙げられる。上記含有量が上記の範囲である接着剤は、アミノ系シランカップリング剤を適切に含むため、ケース2とフード部5とを良好に接合できる。アクリルゴムを含む接着剤のガラス転移点は、例えば-20℃超38℃未満が挙げられる。上記ガラス転移点が上記の範囲である接着剤は、アクリルゴムを適切に含むため、ケース2とフード部5とを良好に接合できる。
【0100】
接着層6の厚さは例えば0.1mm以上0.5mm以下が挙げられる。上記厚さが上記の範囲であれば、ケース2とフード部5との接合状態が良好に維持されつつ、接着層6によってシール性が高められる。
【0101】
[製造方法]
実施形態のコネクタ付きケース1は、フード部5と中子部4とを段階的に製造すればよい。例えば、コネクタ付きケース1は、以下の工程を備える製造方法によって製造することが挙げられる(
図4参照)。
【0102】
(第一工程)貫通孔22を有するケース2と、複数の端子40を支持する中子部4とを用意する。
(第二工程)前記ケース2の貫通孔22を介して、前記複数の端子40の端部が前記ケース2外方に臨むように前記ケース2の内部空間に前記中子部4を配置した状態で、前記ケース2における貫通孔22の周囲の領域に樹脂組成物を射出して、フード部5を成形すると共に前記中子部4の一部と前記フード部5とを一体化する。
前記樹脂組成物はPBTとPETとを含む。樹脂組成物の詳細は、上述の〈樹脂組成物〉の項を参照すればよい。
接着層6を備える場合には、上記製造方法は、上記(第二工程)の前に、前記ケース2の外周面における貫通孔22の周囲の領域に接着層60を形成する工程を備えるとよい。なお、
図4は、分かり易いように接着層60にクロスハッチングを付して示す。
【0103】
以下、各工程を簡単に説明する。
上記(第一工程)では、上述のようにケース2はダイカスト法等によって製造することが挙げられる。中子部4は、上述のように複数の端子40を所定の配列・屈曲状態に支持する部材に対して、射出成形する(インサート成形する)ことで製造することが挙げられる。
【0104】
上記の接着層60を形成する工程では、半硬化状態の接着層60を形成することが挙げられる。例えば、溶融状態の接着剤を上述の貫通孔22の周囲の領域に塗布したり、上記領域にシート材を配置したりした後、加熱して半硬化状態にすることが挙げられる。
【0105】
上記(第二工程)では、例えば、ケース2外からケース2の外周面に樹脂組成物を射出成形して、ケース2外にフード部5の本体部50、外フランジ部51を成形する。また、例えば、ケース2外からケース2の貫通孔22を経てケース2内にも樹脂組成物を射出して、挿通部52、内フランジ部53、連結部54を成形する。連結部54の成形によって、中子部4とフード部5とが一体化される。更に、例えば、ケース2外から貫通孔22を経てケース2内に樹脂組成物を連続して射出することで、本体部50から連結部54まで連続した一体成形物が成形される。射出成形前のケース2は、例えば成形用の金型と同等程度に予備加熱されてもよい。この場合、樹脂の流動性を高められて、フード部5が良好に成形される。予備加熱は、上述の接着剤を半硬化状態にする加熱を利用してもよい。
【0106】
接着層60を構成する接着剤が上述のように射出成形時の圧力及び熱によって硬化可能なものであれば、フード部5の成形と同時に、接着層6の硬化及び接着層6によるケース2とフード部5との接合を行うことができる。
【0107】
(主な効果)
実施形態のコネクタ付きケース1及びコネクタ付きワイヤーハーネス10は、PBTとPETとを含む樹脂組成物からなるフード部5を備える。そのため、ヒートサイクル、更には振動が繰り返し負荷される使用環境であっても、コネクタ部3、特にフード部5にクラックが生じ難い。また、クラックが生じてもクラックが進展し難い。従って、実施形態のコネクタ付きケース1及びコネクタ付きワイヤーハーネス10は、エンジン直上といったエンジン近くに配置できる。エンジン直上等に配置される場合、ワイヤーハーネス8の全長L8を短くすることができる(例、800mm未満)。その結果、ワイヤーハーネス8を含めたECU17が小型、軽量である。コネクタ付きケース1、コネクタ付きワイヤーハーネス10、ECU17が自動車のエンジンに設置される場合、小型、軽量なECU17は、燃費の向上に寄与する。
【0108】
[試験例1]
種々の組成の樹脂組成物を金属部材に射出成形した試料を作製して、サーマルショック試験を行い、樹脂成形体のクラックの発生状態を調べた。
【0109】
(試料の作製)
ここでの金属部材は、50mm×50mm×30mmの直方体であって、鉄からなる。上記金属部材の表面を覆うように、表1に示す樹脂組成物を射出成形し(インサート成形し)、樹脂成形体を作製する。樹脂成形体の厚さは1.5mmである。射出成形前において金属部材に表面処理を行っていない。また、金属部材に接着層を設けていない。
【0110】
試料No.1の樹脂組成物は、PBTとPETとを含む。PBTの含有量は、PET100質量部に対して233質量部である。また、試料No.1の樹脂組成物は、充填剤として、ガラスファイバ(表1ではGFと示す)とガラスフレーク(表1ではGSと示す)とを含む。上記充填剤の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して、40質量部である。両者の質量割合は、ガラスファイバ:ガラスフレーク=6:4である。更に、試料No.1の樹脂組成物は、エラストマを含む。エラストマの含有量は、樹脂組成物100質量部に対して、10質量部である。PBT及びPETの合計含有量は、樹脂組成物100質量部に対して50質量部以上である。その他、試料No.1の樹脂組成物は、耐加水分解性を高める添加剤としてエポキシ樹脂を、樹脂組成物100質量部に対して5質量部含む。なお、エポキシ樹脂は省略してもよい。試料No.1の樹脂組成物を十分に混合した後、十分に乾燥してから、射出成形を行う。
【0111】
試料No.11,No.12の樹脂組成物はいずれもPBTを含む市販品であり、PET及びエラストマを含まない。
試料No.11の樹脂組成物は、PBTとポリカーボネート(PC)とを含むと共に、充填剤としてガラスファイバ及びガラスフレークを含む。充填材の含有量は40質量部である。試料No.11の樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含まない。
試料No.12の樹脂組成物は、PBTとアクリロニトリルスチレン(AS)とを含むと共に、充填剤としてガラスファイバのみを含む。充填材の含有量は30質量部である。試料No.12の樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含む。表1、及び後述する表2,表3において(※)印は、樹脂組成物がエポキシ樹脂を含むことを意味する。
【0112】
いずれの試料の樹脂組成物においても射出成形の条件は、PBT等の射出成形に利用されている一般的な条件を利用できる。
【0113】
(サーマルショック試験)
作製した各試料を-40℃に30分保持した後、125℃に30分保持することを1サイクルとし、複数サイクル繰り返す。所定のサイクルごとに恒温槽から取出して、常温(ここでは20℃程度)でクラックの有無を目視確認する。この試験では、100サイクル、250サイクル、500サイクル、750サイクル、1000サイクル、1500サイクル、2000サイクルで目視確認を行う。クラックがある場合をB、クラックが無い場合をGとして評価し、評価結果を表1に示す。
【0114】
【0115】
表1に示すように試料No.1の樹脂成形体は、サーマルショック試験を2000サイクル繰り返しても、クラックが生じていない。なお、表1では、750サイクル及び1500サイクルの評価結果を省略しているが、いずれのサイクルでもクラックが生じていない。また、2000サイクルを超えても、クラックが生じていないことを確認している。一方、試料No.11,No.12は、100サイクルでクラックが生じている。
【0116】
クラックが生じる理由の一つとして、以下のように考えられる。金属と樹脂とでは熱膨張係数が異なる。そのため、ヒートサイクルが負荷されると、射出成形された樹脂成形体において金属に接する箇所に上述の熱膨張係数の差に起因する応力が負荷される。この熱応力によって、樹脂成形体の一部、特にウェルド部分を起点として、クラックが生じ易いと考えられる。PBTに加えてPETを含む樹脂組成物は、PETの含有によって靭性を高められることで、試料No.1の樹脂成形体は金属に接して設けられた状態でヒートサイクルを繰り返し受けてもクラックの発生を低減できたと考えられる。
【0117】
この試験では、試料No.1の樹脂成形体は、樹脂組成物がPETを適量含むこと、更にエラストマを含むことから、靭性をより高められてクラックが生じ難かったと考えられる。なお、樹脂成形体におけるPBTの含有量の測定、エラストマの含有の有無等の成分分析には、例えば、核磁気共鳴分光法(NMR)を利用することが挙げられる。樹脂成形体の組成は、原料に用いた樹脂組成物の組成を実質的に維持する。
【0118】
更に、この試験では、試料No.1の樹脂成形体は、PBTを主体とする海部と、PETを主体とする島部とを有する海島構造を有しており、PBTに対してPETが均一的に分散していることからもクラックが生じ難かったと考えらえる。なお、樹脂成形体の相構造の確認には、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等を利用することが挙げられる。海部及び島部の成分分析には、例えばTEMに付属されるエネルギー分散型X線分析装置(TEM-EDX)等を利用することが挙げられる。
【0119】
その他、試料No.1の樹脂成形体は、樹脂組成物がガラスファイバ及びガラスフレークといった充填剤を含むため、強度に優れたり反り難かったりする。上記充填剤を適量含むことからも試料No.1の樹脂成形体は強度に優れたり反り難かったりする。なお、樹脂成形体における上記充填剤の含有量は、例えば樹脂成形体を加熱して樹脂成分等を揮発させて除去し、上記充填剤を採取して測定することが挙げられる。
【0120】
[試験例2]
種々の組成の樹脂組成物を金属部材に射出成形した試料を作製して、樹脂成形体の反り状態を調べた。
【0121】
(試料の作製)
ここでの金属部材は、ADC12からなるダイカスト法で製造された金属板であり、市販品である。ADC12は、Siを9.6質量%~12.0質量%の範囲で含むAl基合金である。金属板に貫通孔を設け、貫通孔の内外に連続するように樹脂成形体を射出成形によって形成する。この金属板は、
図3に示すケース2の側壁21であって、貫通孔22を有する箇所を模擬している。
【0122】
上記金属板の一面にサンドブラスト処理を施した後、上記一面における貫通孔の周囲の領域に、市販の接着剤(ここではエピクロロヒドリンゴム)を塗布する。塗布後、150℃の恒温槽に30分間保持して、接着剤を予備硬化して、半硬化状態の接着層を形成する。
【0123】
上述の半硬化状態の接着層を備える金属板の一面から、表2に示す組成の樹脂組成物を射出成形し(インサート成形し)、樹脂成形体を作製する。この樹脂成形体は、
図1等に示すフード部5を模擬している。詳しくは、金属板の一面に筒状の本体部及び環状の外フランジ部を成形する。貫通孔内に環状の挿通部を成形する。金属板の他面に環状の内フランジ部を成形する。連結部は成形しない。本体部及び外フランジ部の外観は
図1に類似し、外フランジ部の外形は、長方形状である。なお、接着層の厚さは0.2mmである。
【0124】
試料No.1の樹脂組成物は、試験例1の試料No.1の樹脂組成物と同じである。上述のように、試料No.1の樹脂組成物を十分に混合した後、十分に乾燥してから、射出成形を行う。
【0125】
試料No.11の樹脂組成物は、試験例1の試料No.11の樹脂組成物と同じである。
試料No.13,No.14の樹脂組成物はいずれもPBTを含む市販品であり、PETを含まず、エラストマを含む。
試料No.13の樹脂組成物は、PBTを含み、更に充填剤としてガラスファイバのみを含む。上記充填剤の含有量は30質量部である。試料No.13の樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含む。
試料No.14の樹脂組成物は、PBTとポリスチレン(PS)とを含み、更に充填剤としてガラスファイバのみを含む。上記充填剤の含有量は30質量部である。試料No.14の樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含まない。
【0126】
(反り量の測定)
作製した各試料を射出成形後、常温(ここでは20℃程度)に保持して1日以上経過してから、市販の透過型センサにて、外フランジ部の反り量を測定した。ここでは、外フランジ部が設けられている金属板の一面を基準位置とし(0mm)、外フランジ部の四つの角部について、金属板の一面からの最大距離(mm)を測定する。この最大距離を反り量(mm)とする。四つの角部の反り量(mm)、及びこれらの平均値(mm)を表2に示す。反り量、平均値が小さいほど、樹脂成形体が反り難いといえる。
【0127】
【0128】
表2に示すように試料No.1の樹脂成形体は、試料No.11~No.14に比較して、四つの角部の反り量、特に平均値が小さく、反り難いことが分かる。試料No.1と試料No.11とを比較すれば、試料No.1の反り量が少ない。このことから、PBTに加えてPETを含む樹脂組成物は、金属に接して設けても反り難いといえる。また、エラストマを含むと、樹脂成形体はより反り難いと考えられる。試料No.1,No.11と試料No.13,No.14とを比較すれば、試料No.1,No.11の反り量が小さい。このことから、ガラスフレークを含むと、樹脂成形体はより反り難いと考えられる。
【0129】
[試験例3]
接着層を形成した金属部材に、種々の組成の樹脂組成物を射出成形した試料を作製して、接着層を介した金属部材と樹脂成形体との接着性を調べた。
【0130】
(試料の作製)
この試験では、
図6B,
図6Cに示すように、金属片102と、接着層106と、樹脂成形体105とを備える試験片100を作製する。
図6Bは、試験片100を金属片102の厚さ方向から平面視した状態を示す。
図6Cは、試験片100を金属片102の厚さ方向(又は金属片102と樹脂成形体105との積層方向)に直交する方向から側面視した状態を示す。
図6A~
図6Cは、分かり易いように、接着層106にクロスハッチングを付して示す。また、
図6Cにおいて、接着層106は、実際の厚みよりも誇張して示す。
【0131】
金属片102は、試験例2と同様に市販のADC12からなるダイカスト材の金属板である。また、金属片102は、長さ50mm×幅20mm×厚さ2mmの長方形の板である。金属片102の一面にサンドブラスト処理を施した後、金属片102の長辺方向の一端縁(一方の短辺縁)から10mmの位置に、長さ10mm×幅20mm×厚さ0.2mmの接着層106を形成する(
図6A)。接着層106は、試験例2と同様に、市販の接着剤(エピクロロヒドリンゴム)を塗布した後、150℃×30分間保持して形成する。半硬化状態の接着層106に重複するように、樹脂成形体105を射出成形(インサート成形)によって形成する(
図6Aの矢印参照)。樹脂成形体105は、長さ50mm×幅10mm×厚さ2mmの長方形の板である。樹脂成形体105の一端縁(一方の短辺縁)が接着層106の縁に重なるように(
図6B)、金属片102の上に樹脂成形体105を形成する(
図6C)。試験片100は、金属片102、接着層106、樹脂成形体105が順に積層されて構成される。この積層体の一端が金属片102の一端部で構成される。上記積層体の他端が樹脂成形体105の他端部で構成される。
【0132】
試料No.1の樹脂組成物は、試験例1の試料No.1の樹脂組成物と同じである。上述のように、試料No.1の樹脂組成物を十分に混合した後、十分に乾燥してから、射出成形を行う。
【0133】
試料No.11,No.12の樹脂組成物は、試験例1の試料No.11,No.12の樹脂組成物と同じである。
試料No.13,No.14の樹脂組成物は、試験例2の試料No.13,No.14の樹脂組成物と同じである。
試料No.15~No.18の樹脂組成物はいずれもPBTを含む市販品であり、PETを含まない。試料No.15~No.18の樹脂組成物は、更に充填剤としてガラスファイバのみを含む。上記充填剤の含有量を表3に示す(15質量部~30質量部)。試料No.15~No.17の樹脂組成物はエラストマを含まない。試料No.18の樹脂組成物はエラストマを含む。試料No.15,No.16の樹脂組成物はエポキシ樹脂を含まない。試料No.17,No.18の樹脂組成物はエポキシ樹脂を含む。
【0134】
(せん断引張試験)
作製した各試験片100を射出成形後、常温(ここでは20℃程度)に保持して1日静置した後、市販の恒温槽を備えるオートグラフでせん断引張試験を行う。試験条件を以下に示す。
試験環境:-40℃(低温)、125℃(高温)
引張速度:10mm/min
測定数(N数):各試験環境でN=5
ここでは、上述の試験環境において、試験片100毎にせん断接着強度(kPa)とせん断歪み(%)とを求め、更に5回の平均値を求める。
【0135】
せん断接着強度(kPa)は、JIS K 6850(1999年、接着剤-剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法)に準拠して求める。具体的には、せん断接着強度は、(破断時の最大荷重)/(接着面積)によって求める。ここでの接着面積は、10mm×10mm=100mm2である。
接着層106のせん断歪み(%)は、{(破断時の変位量)/(試験前の接着層106の厚さt0(mm))}×100によって求める。ここでの破断時の変位量(mm)は、樹脂成形体105の端部が試験前の位置から破断するまでに移動した距離である。
【0136】
試料No.16の樹脂組成物は、従来、コネクタの構成材料に利用されているものである。ここでは、試料No.16のせん断接着強度、せん断歪みを基準値(1.00)として、各試料のせん断接着強度、せん断歪みの相対値を表3に示す。相対値が1超であれば、試料No.16よりもせん断接着強度が高い、せん断歪みが大きいといえる。このような試験片100は、樹脂成形体105と接着層106との接着性に優れるといえる。
【0137】
【0138】
表3に示すように試料No.1は、低温及び高温の双方において、試料No.16よりもせん断接着強度が高く、せん断歪みも大きい。このことから、試料No.1は、汎用のコネクタと比較して、樹脂成形体と接着層との接着性に優れ、樹脂成形体と金属部材との接合性に優れるといえる。試料No.11~No.18(No.16を除く)は、試料No.1よりもせん断接着強度及びせん断歪みの双方が小さい、又はNo.16よりも劣る点がある。このことから、PBTに加えてPETを含む樹脂組成物は、金属に接して設ける場合に接着層を介在させることで、ヒートサイクルが負荷されても金属から剥離し難く、樹脂成形体と金属との密着性にも優れるといえる。また、接着層によるシール性の向上も期待できる。
【0139】
上述の試験例1~3から、PBTに加えてPETを含む樹脂組成物を金属に接して射出成形されてなる樹脂成形体は、ヒートサイクルが繰り返し負荷される使用環境であっても、クラックが生じ難いことが示された。また、上記樹脂成形体は、反りも生じ難いことが示された。更に、上記樹脂成形体は、ヒートサイクルが負荷される使用環境であっても、接着層を介して金属との密着性にも優れることが示された。このような上記樹脂成形体は、エンジンの直上といったエンジン近くに配置される用途の樹脂部材、例えば実施形態のコネクタ付きケースのフード部等に好適に利用できるといえる。
【0140】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
例えば、上述の試験例1~3において、樹脂組成物の組成(PBTの含有量、充填剤の種類・含有量等)・構造等、金属の組成、接着剤の組成を変更できる。
【符号の説明】
【0141】
1 コネクタ付きケース
2 ケース
20 底部、21 側壁、22 貫通孔、25 固定片、27 開口部
3 コネクタ部
4 中子部
40 端子、41 本体部、42 支持板、43 仕切り部
5 フード部
50 本体部、51 外フランジ部、52 挿通部、53 内フランジ部
54 連結部
55 樹脂組成物、56 海部、57 島部
6,60 接着層
70 カバー、71 回路基板
8 ワイヤーハーネス
80 電線、81,82,83 コネクタ
10 コネクタ付きワイヤーハーネス
17 エンジンコントロールユニット(ECU)
100 試験片、102 金属片、105 樹脂成形体、106 接着層