(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20230411BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230411BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20230411BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20230411BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
B62D101:00
(21)【出願番号】P 2019071551
(22)【出願日】2019-04-03
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小寺 隆志
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-184129(JP,A)
【文献】特開2009-274701(JP,A)
【文献】特開2017-165219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00-6/10
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動源とするアクチュエータが付与するモータトルクによりステアリングホイールの操舵に必要な操舵トルクを可変とする操舵装置を制御対象とし、
前記モータトルクの目標値となる目標トルクを演算する目標トルク演算部を備え、前記目標トルクに応じた前記モータトルクが発生するように前記モータの作動を制御する操舵制御装置において、
前記目標トルク演算部は、
前記操舵装置の転舵輪から該転舵輪が連結される転舵軸に作用する軸力として、路面の状態を示す路面情報を含まない角度軸力、前記路面情報のうち車両の横方向への挙動の変化を通じて伝達可能な情報を含む車両状態量軸力、及び前記路面情報を含む路面軸力のうちの少なくとも2つの軸力を演算する軸力演算部と、
前記少なくとも2つの軸力を所定配分比率で合算することにより配分軸力を演算する配分軸力演算部とを備え、
前記配分軸力に基づいて前記目標トルクを演算するものであって、
前記配分軸力演算部は、前記車両の車体速度及び前記車両の車輪速度に基づいて前記転舵輪のスリップ状態を示すスリップ状態量を演算し、該スリップ状態量に基づいて前記配分比率を調整する
ものであり、
前記配分軸力演算部は、
前記軸力演算部が前記角度軸力を演算する場合において、前記スリップ状態量が前記転舵輪のロック状態を示す場合には、該角度軸力以外の軸力の少なくとも1つの配分比率を大きくし、
前記軸力演算部が前記路面軸力を演算する場合において、前記スリップ状態量が前記転舵輪のロック状態を示す場合には、該路面軸力の配分比率を大きくする操舵制御装置。
【請求項2】
モータを駆動源とするアクチュエータが付与するモータトルクによりステアリングホイールの操舵に必要な操舵トルクを可変とする操舵装置を制御対象とし、
前記モータトルクの目標値となる目標トルクを演算する目標トルク演算部を備え、前記目標トルクに応じた前記モータトルクが発生するように前記モータの作動を制御する操舵制御装置において、
前記目標トルク演算部は、
前記操舵装置の転舵輪から該転舵輪が連結される転舵軸に作用する軸力として、路面の状態を示す路面情報を含まない角度軸力、前記路面情報のうち車両の横方向への挙動の変化を通じて伝達可能な情報を含む車両状態量軸力、及び前記路面情報を含む路面軸力のうちの少なくとも2つの軸力を演算する軸力演算部と、
前記少なくとも2つの軸力を所定配分比率で合算することにより配分軸力を演算する配分軸力演算部とを備え、
前記配分軸力に基づいて前記目標トルクを演算するものであって、
前記配分軸力演算部は、前記車両の車体速度及び前記車両の車輪速度に基づいて前記転舵輪のスリップ状態を示すスリップ状態量を演算し、該スリップ状態量に基づいて前記配分比率を調整するものであり、
前記配分軸力演算部は、
前記軸力演算部が前記角度軸力を演算する場合において、前記スリップ状態量が前記転舵輪の空転状態を示す場合には、該角度軸力以外の軸力の少なくとも1つの配分比率を大きくし、
前記軸力演算部が前記路面軸力を演算する場合において、前記スリップ状態量が前記転舵輪の空転状態を示す場合には、該路面軸力の配分比率を大きくする操舵制御装置。
【請求項3】
請求項1
又は請求項2に記載の操舵制御装置において、
前記操舵装置は、操舵部と、前記操舵部に入力される操舵に応じて前記転舵輪を転舵させる転舵部との間の動力伝達が分離した構造を有するものであり、
前記モータは、前記操舵部に入力される操舵に抗する力である操舵反力として前記モータトルクを付与する操舵側モータであり、
前記目標トルク演算部は、前記目標トルクとして前記操舵反力の目標値となる目標反力トルクを演算するものである操舵制御装置。
【請求項4】
請求項1
又は請求項2に記載の操舵制御装置において、
前記操舵装置は、前記ステアリングホイールの操作に基づいて前記転舵輪を転舵させる操舵機構を有するものであり、
前記モータは、ステアリング操作を補助するためのアシスト力として前記モータトルクを付与するアシストモータであり、
前記目標トルク演算部は、前記目標トルクとして前記アシスト力の目標値となる目標アシストトルクを演算するものである操舵制御装置。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
前記配分軸力演算部は、前記車体速度から前記車輪速度を減算した値を前記スリップ状態量として演算し、前記スリップ状態量及び前記車体速度に基づいて前記配分比率を調整する操舵制御装置。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の操舵制御装置において、
前記配分軸力演算部は、前記車体速度から前記車輪速度を減算し、該減算した値を前記車体速度で除算した値を前記スリップ状態量として演算する操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、操舵装置の一種として、運転者により操舵される操舵部と運転者の操舵に応じて転舵輪を転舵させる転舵部との間の動力伝達が分離されたステアバイワイヤ式のものがある。こうした操舵装置では、転舵輪が受ける路面反力等が機械的にはステアリングホイールに伝達されない。そこで、同形式の操舵装置を制御対象とする操舵制御装置には、ステアリングホイールに対して路面情報を考慮した操舵反力を操舵側アクチュエータによって付与することで、路面情報を運転者に伝えるものがある。
【0003】
例えば特許文献1の操舵制御装置では、転舵輪が連結される転舵軸に作用する軸力に着目し、ステアリングホイールの目標操舵角に応じた目標転舵角から算出される角度軸力と、転舵側アクチュエータの駆動源である転舵側モータの駆動電流から算出される路面軸力とを個別に設定される配分比率で合算した配分軸力を考慮して操舵反力を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-165219号公報
【文献】特開2016-144974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、ステアバイワイヤ式の操舵装置においては、様々な走行状況に応じたより適切な操舵反力を付与すること、すなわちステアリングホイールの操舵に必要な操舵トルクを様々な走行状況に応じてより適切に変更することが要求されるようになってきている。しかし、上記従来の構成を採用してもなお、要求される水準に達しているとは言い切れないのが実情である。そのため、ステアリングホイールの操舵に必要な操舵トルクを様々な走行状況に応じてより適切に変更することのできる新たな技術の創出が求められていた。
【0006】
なお、こうした問題は、ステアバイワイヤ式の操舵装置を制御対象とする操舵制御装置に限らない。例えば特許文献2に記載されるように、モータを駆動源とするアシスト機構により操舵機構にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置を制御対象とする操舵制御装置でも、転舵軸に作用する軸力に基づいてアシストトルクの目標値を決めるものでは、同様に生じ得る。
【0007】
本発明の目的は、ステアリングホイールの操舵に必要な操舵トルクを様々な走行状況に応じて適切に変更できる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する操舵制御装置は、モータを駆動源とするアクチュエータが付与するモータトルクによりステアリングホイールの操舵に必要な操舵トルクを可変とする操舵装置を制御対象とし、前記モータトルクの目標値となる目標トルクを演算する目標トルク演算部を備え、前記目標トルクに応じたモータトルクが発生するように前記モータの作動を制御するものにおいて、前記目標トルク演算部は、前記操舵装置の転舵輪から該転舵輪が連結される転舵軸に作用する軸力として、路面の状態を示す路面情報を含まない角度軸力、前記路面情報のうち車両の横方向への挙動の変化を通じて伝達可能な情報を含む車両状態量軸力、及び前記路面情報を含む路面軸力のうちの少なくとも2つの軸力を演算する軸力演算部と、前記少なくとも2つの軸力を所定配分比率で合算することにより配分軸力を演算する配分軸力演算部とを備え、前記配分軸力に基づいて前記目標トルクを演算するものであって、前記配分軸力演算部は、前記車両の車体速度及び前記車両の車輪速度に基づいて前記転舵輪のスリップ状態を示すスリップ状態量を演算し、該スリップ状態量に基づいて前記配分比率を調整する。
【0009】
上記構成によれば、スリップ状態量に応じて配分比率が調整された配分軸力に基づいてモータトルクを制御するため、ステアリングホイールの操舵に必要な操舵トルクをスリップ状態に応じた適切なトルクとし、優れた操舵フィーリングを実現できる。
【0010】
上記操舵制御装置において、前記操舵装置は、操舵部と、前記操舵部に入力される操舵に応じて前記転舵輪を転舵させる転舵部との間の動力伝達が分離した構造を有するものであり、前記モータは、前記操舵部に入力される操舵に抗する力である操舵反力として前記モータトルクを付与する操舵側モータであり、前記目標トルク演算部は、前記目標トルクとして前記操舵反力の目標値となる目標反力トルクを演算するものである構成を採用できる。
【0011】
上記操舵制御装置において、前記操舵装置は、前記ステアリングホイールの操作に基づいて前記転舵輪を転舵させる操舵機構を有するものであり、前記モータは、ステアリング操作を補助するためのアシスト力として前記モータトルクを付与するアシストモータであり、前記目標トルク演算部は、前記目標トルクとして前記アシスト力の目標値となる目標アシストトルクを演算するものである構成を採用できる。
【0012】
上記操舵制御装置において、前記配分軸力演算部は、前記車体速度から前記車輪速度を減算した値を前記スリップ状態量として演算し、前記スリップ状態量及び前記車体速度に基づいて前記配分比率を調整することが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、転舵輪のスリップ状態を示すスリップ状態量の演算に係る演算負荷を低減できる。
上記操舵制御装置において、前記配分軸力演算部は、前記車体速度から前記車輪速度を減算し、該減算した値を前記車体速度で除算した値を前記スリップ状態量として演算することが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、スリップ状態量に基づく配分比率の演算に係る演算負荷を低減できる。
上記操舵制御装置において、前記配分軸力演算部は、前記軸力演算部が前記角度軸力を演算する場合において、前記スリップ状態量が前記転舵輪のロック状態を示す場合には、該角度軸力以外の軸力の少なくとも1つの配分比率を大きくし、前記軸力演算部が前記路面軸力を演算する場合において、前記スリップ状態量が前記転舵輪のロック状態を示す場合には、該路面軸力の配分比率を大きくすることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、スリップすることにより転舵輪がロック状態となった際に、路面情報を含む軸力の配分比率が高くなるため、配分軸力がロック状態であることを示す値となる。そして、当該配分軸力に基づいて目標トルクが演算されるため、ステアリングホイールの操舵に必要な操舵トルクの変化を通じて、転舵輪がロック状態となっていることを運転者に伝えることができる。
【0016】
上記操舵制御装置において、前記配分軸力演算部は、前記軸力演算部が前記角度軸力を演算する場合において、前記スリップ状態量が前記転舵輪の空転状態を示す場合には、該角度軸力以外の軸力の少なくとも1つの配分比率を大きくし、前記軸力演算部が前記路面軸力を演算する場合において、前記スリップ状態量が前記転舵輪の空転状態を示す場合には、該路面軸力の配分比率を大きくすることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、スリップすることにより転舵輪が空転状態となった際に、路面情報を含む軸力の配分比率が高くなるため、配分軸力が空転状態であることを示す値となる。そして、当該配分軸力に基づいて目標トルクが演算されるため、ステアリングホイールの操舵に必要な操舵トルクの変化を通じて、転舵輪が空転状態となっていることを運転者に伝えることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ステアリングホイールの操舵に必要な操舵トルクを様々な走行状況に応じて適切に変更できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】第1実施形態の目標反力トルク演算部のブロック図。
【
図4】第1実施形態の配分軸力演算部のブロック図。
【
図5】第2実施形態の配分軸力演算部のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、操舵制御装置の第1実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の操舵制御装置1の制御対象となる操舵装置2はステアバイワイヤ式の操舵装置として構成されている。操舵装置2は、ステアリングホイール3を介して運転者により操舵される操舵部4と、運転者による操舵部4の操舵に応じて転舵輪5を転舵させる転舵部6とを備えている。
【0021】
操舵部4は、ステアリングホイール3が固定されるステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11を介してステアリングホイール3に操舵に抗する力である操舵反力を付与する操舵側アクチュエータ12とを備えている。操舵側アクチュエータ12は、駆動源となる操舵側モータ13と、操舵側モータ13の回転を減速してステアリングシャフト11に伝達する操舵側減速機14とを備えている。つまり、操舵側モータ13は、そのモータトルクを操舵反力として付与する。なお、本実施形態の操舵側モータ13には、例えば三相のブラシレスモータが採用されている。
【0022】
転舵部6は、ピニオン軸21と、ピニオン軸21に連結された転舵軸としてのラック軸22と、ラック軸22を往復動可能に収容するラックハウジング23と、ピニオン軸21及びラック軸22からなるラックアンドピニオン機構24とを備えている。ピニオン軸21とラック軸22とは、所定の交差角をもって配置されており、ラックアンドピニオン機構24は、ピニオン軸21に形成されたピニオン歯21aとラック軸22に形成されたラック歯22aとを噛合することにより構成されている。つまり、ピニオン軸21は、転舵輪5の転舵角に換算可能な回転軸に相当する。ラック軸22の両端には、ボールジョイントからなるラックエンド25を介してタイロッド26が連結されており、タイロッド26の先端は、それぞれ左右の転舵輪5が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。
【0023】
また、転舵部6は、ラック軸22に転舵輪5を転舵させる転舵力を付与する転舵側アクチュエータ31を備えている。転舵側アクチュエータ31は、駆動源となる転舵側モータ32と、伝達機構33と、変換機構34とを備えている。そして、転舵側アクチュエータ31は、転舵側モータ32の回転を伝達機構33を介して変換機構34に伝達し、変換機構34にてラック軸22の往復動に変換することで転舵部6に転舵力を付与する。つまり、転舵側モータ32は、そのモータトルクを転舵力として付与する。なお、本実施形態の転舵側モータ32には、例えば三相のブラシレスモータが採用され、伝達機構33には、例えばベルト機構が採用され、変換機構34には、例えばボールネジ機構が採用されている。
【0024】
このように構成された操舵装置2では、運転者によるステアリング操作に応じて転舵側アクチュエータ31からラック軸22にモータトルクが転舵力として付与されることで、転舵輪5の転舵角が変更される。このとき、操舵側アクチュエータ12からは、運転者の操舵に抗する操舵反力がステアリングホイール3に付与される。つまり、操舵装置2では、操舵側アクチュエータ12から付与されるモータトルクである操舵反力により、ステアリングホイール3の操舵に必要な操舵トルクThが変更される。
【0025】
次に、本実施形態の電気的構成について説明する。
操舵制御装置1は、操舵側モータ13及び転舵側モータ32に接続されており、これらの作動を制御する。なお、操舵制御装置1は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。これにより、各種の制御が実行される。
【0026】
操舵制御装置1には、ステアリングシャフト11に付与された操舵トルクThを検出するトルクセンサ41が接続されている。なお、トルクセンサ41は、ステアリングシャフト11における操舵側減速機14との連結部分よりもステアリングホイール3側に設けられており、トーションバー42の捩れに基づいて操舵トルクThを検出する。また、操舵制御装置1には、転舵輪5を図示しないドライブシャフトを介して回転可能に支持するハブユニット43に設けられた左前輪センサ44l及び右前輪センサ44rが接続されている。左前輪センサ44lは、左前輪である転舵輪5の車輪速度Vflを検出し、右前輪センサ44rは、右前輪である転舵輪5の車輪速度Vfrを検出する。また、操舵制御装置1には、操舵部4の操舵量を示す検出値として操舵側モータ13の回転角θsを360°の範囲内の相対角で検出する操舵側回転センサ45、及び転舵部6の転舵量を示す検出値として転舵側モータ32の回転角θtを相対角で検出する転舵側回転センサ46が接続されている。なお、上記操舵トルクTh及び回転角θs,θtは、例えば右方向に操舵した場合に正の値、左方向に操舵した場合に負の値として検出する。
【0027】
さらに、操舵制御装置1は、その外部に設けられた制動制御装置47と通信可能に接続されている。制動制御装置47は、図示しないブレーキ装置の作動を制御するものであり、車両本体の車体速度Vbを演算する。具体的には、制動制御装置47には、左前輪センサ44l及び右前輪センサ44rに加え、図示しない左後輪の車輪速度Vrlを検出する左後輪センサ48l、及び図示しない右後輪の車輪速度Vrrを検出する右後輪センサ48rが接続されている。そして、本実施形態の制動制御装置47は、各車輪速度Vfl,Vfr,Vrl,Vrrの平均を車体速度Vbとして演算する。このように演算された車体速度Vbは、操舵制御装置1に出力される。なお、車体速度Vbの単位と各車輪速度Vfl,Vfr,Vrl,Vrrの単位とは、同一となるように演算される。
【0028】
そして、操舵制御装置1は、これら各センサ及び制動制御装置47から入力される各状態量に基づいて、操舵側モータ13及び転舵側モータ32の作動を制御する。
以下、操舵制御装置1の構成について詳細に説明する。
【0029】
図2に示すように、操舵制御装置1は、操舵側モータ制御信号Msを出力する操舵側制御部51と、操舵側モータ制御信号Msに基づいて操舵側モータ13に駆動電力を供給する操舵側駆動回路52とを備えている。操舵側制御部51には、操舵側駆動回路52と操舵側モータ13の各相のモータコイルとの間の接続線53を流れる操舵側モータ13の各相電流値Ius,Ivs,Iwsを検出する電流センサ54が接続されている。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の接続線53及び各相の電流センサ54をそれぞれ1つにまとめて図示している。
【0030】
また、操舵制御装置1は、転舵側モータ制御信号Mtを出力する転舵側制御部56と、転舵側モータ制御信号Mtに基づいて転舵側モータ32に駆動電力を供給する転舵側駆動回路57とを備えている。転舵側制御部56には、転舵側駆動回路57と転舵側モータ32の各相のモータコイルとの間の接続線58を流れる転舵側モータ32の各相電流値Iut,Ivt,Iwtを検出する電流センサ59が接続されている。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の接続線58及び各相の電流センサ59をそれぞれ1つにまとめて図示している。本実施形態の操舵側駆動回路52及び転舵側駆動回路57には、例えばFET等の複数のスイッチング素子を有する周知のPWMインバータがそれぞれ採用されている。また、操舵側モータ制御信号Ms及び転舵側モータ制御信号Mtは、それぞれ各スイッチング素子のオンオフ状態を規定するゲートオンオフ信号となっている。
【0031】
そして、操舵側制御部51及び転舵側制御部56は、操舵側モータ制御信号Ms及び転舵側モータ制御信号Mtを操舵側駆動回路52及び転舵側駆動回路57に出力することにより、車載電源Bから操舵側モータ13及び転舵側モータ32に駆動電力をそれぞれ供給する。これにより、操舵側制御部51及び転舵側制御部56は、操舵側モータ13及び転舵側モータ32の作動を制御する。
【0032】
先ず、操舵側制御部51の構成について説明する。
操舵側制御部51は、所定の演算周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行して、操舵側モータ制御信号Msを生成する。操舵側制御部51には、上記操舵トルクTh、車体速度Vb、車輪速度Vfl,Vfr、回転角θs、各相電流値Ius,Ivs,Iws及び転舵側モータ32の駆動電流であるq軸電流値Iqtが入力される。そして、操舵側制御部51は、これら各状態量に基づいて操舵側モータ制御信号Msを生成して出力する。
【0033】
詳しくは、操舵側制御部51は、回転角θsに基づいてステアリングホイール3の操舵角θhを演算する操舵角演算部61と、操舵反力の目標値となる目標トルクとしての目標反力トルクTs*を演算する目標トルク演算部としての目標反力トルク演算部62と、操舵側モータ制御信号Msを演算する操舵側モータ制御信号演算部63とを備えている。
【0034】
操舵角演算部61には、操舵側モータ13の回転角θsが入力される。操舵角演算部61は、回転角θsを、例えばステアリング中立位置からの操舵側モータ13の回転数をカウントすることにより、360°を超える範囲を含む絶対角に換算して取得する。そして、操舵角演算部61は、絶対角に換算された回転角に操舵側減速機14の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、操舵角θhを演算する。このように演算された操舵角θhは、目標反力トルク演算部62に出力される。
【0035】
目標反力トルク演算部62には、操舵トルクTh、車体速度Vb、車輪速度Vfl,Vfr、操舵角θh及びq軸電流値Iqtが入力される。目標反力トルク演算部62は、後述するようにこれらの状態量に基づいて目標反力トルクTs*を演算し、操舵側モータ制御信号演算部63に出力する。また、目標反力トルク演算部62は、目標反力トルクTs*を演算する過程で得られたステアリングホイール3の操舵角θhの目標値である目標操舵角θh*を転舵側制御部56に出力する。
【0036】
操舵側モータ制御信号演算部63には、目標反力トルクTs*に加え、回転角θs及び相電流値Ius,Ivs,Iwsが入力される。本実施形態の操舵側モータ制御信号演算部63は、目標反力トルクTs*に基づいて、dq座標系におけるd軸上のd軸目標電流値Ids*及びq軸上のq軸目標電流値Iqs*を演算する。目標電流値Ids*,Iqs*は、dq座標系におけるd軸上の目標電流値及びq軸上の目標電流値をそれぞれ示す。具体的には、操舵側モータ制御信号演算部63は、目標反力トルクTs*の絶対値が大きくなるほど、より大きな絶対値を有するq軸目標電流値Iqs*を演算する。なお、本実施形態では、d軸上のd軸目標電流値Ids*は、基本的にゼロに設定される。そして、操舵側モータ制御信号演算部63は、dq座標系における電流フィードバック制御を実行することにより、上記操舵側駆動回路52に出力する操舵側モータ制御信号Msを生成する。なお、以下では、フィードバックという文言を「F/B」と記すことがある。
【0037】
具体的には、操舵側モータ制御信号演算部63は、回転角θsに基づいて相電流値Ius,Ivs,Iwsをdq座標上に写像することにより、dq座標系における操舵側モータ13の実電流値であるd軸電流値Ids及びq軸電流値Iqsを演算する。そして、操舵側モータ制御信号演算部63は、d軸電流値Idsをd軸目標電流値Ids*に追従させるべく、またq軸電流値Iqsをq軸目標電流値Iqs*に追従させるべく、d軸及びq軸上の各電流偏差に基づいて目標電圧値を演算し、該目標電圧値に基づくデューティ比を有する操舵側モータ制御信号Msを生成する。
【0038】
このように演算された操舵側モータ制御信号Msは、操舵側駆動回路52に出力される。これにより、操舵側モータ13には、操舵側駆動回路52から操舵側モータ制御信号Msに応じた駆動電力が供給される。そして、操舵側モータ13は、目標反力トルクTs*に示される操舵反力をステアリングホイール3に付与する。
【0039】
次に、転舵側制御部56について説明する。
転舵側制御部56は、所定の演算周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行して、転舵側モータ制御信号Mtを生成する。転舵側制御部56には、上記回転角θt、目標操舵角θh*、及び転舵側モータ32の各相電流値Iut,Ivt,Iwtが入力される。そして、転舵側制御部56は、これら各状態量に基づいて転舵側モータ制御信号Mtを生成して出力する。なお、本実施形態の操舵装置2では、操舵角θhと転舵対応角θpとの比である舵角比が1:1の比率で一定に設定されており、転舵対応角θpの目標値となる目標転舵対応角は、目標操舵角θh*と等しい。
【0040】
詳しくは、転舵側制御部56は、回転角θtに基づいてピニオン軸21の回転角である転舵対応角θpを演算する転舵対応角演算部71と、上記転舵力の目標値となる目標転舵トルクTt*を演算する目標転舵トルク演算部72と、転舵側モータ制御信号Mtを出力する転舵側モータ制御信号演算部73とを備えている。
【0041】
転舵対応角演算部71には、転舵側モータ32の回転角θtが入力される。転舵対応角演算部71は、入力される回転角θtを、例えば車両が直進する中立位置からの転舵側モータ32の回転数をカウントすることにより、絶対角に換算して取得する。そして、転舵対応角演算部71は、絶対角に換算された回転角に伝達機構33の減速比、変換機構34のリード、及びラックアンドピニオン機構24の回転速度比に基づく換算係数を乗算して転舵対応角θpを演算する。つまり、転舵対応角θpは、ピニオン軸21がステアリングシャフト11に連結されていると仮定した場合におけるステアリングホイール3の操舵角θhに相当する。このように演算された転舵対応角θpは、目標転舵トルク演算部72に出力される。
【0042】
目標転舵トルク演算部72には、目標操舵角θh*及び転舵対応角θpが入力される。目標転舵トルク演算部72は、転舵対応角θpを目標転舵対応角である目標操舵角θh*に追従させる角度F/B演算を実行することにより、目標転舵トルクTt*を演算する。具体的には、目標転舵トルク演算部72は、角度F/B演算を行う転舵角F/B制御部74を備えている。転舵角F/B制御部74には、減算器75において目標転舵角である目標操舵角θh*から転舵対応角θpを差し引いた角度偏差Δθpが入力される。そして、目標転舵トルク演算部72は、角度偏差Δθpを入力とする比例要素、積分要素及び微分要素のそれぞれの出力値の和を、目標転舵トルクTt*として演算する。このように演算された目標転舵トルクTt*は、転舵側モータ制御信号演算部73に出力される。
【0043】
転舵側モータ制御信号演算部73には、目標転舵トルクTt*に加え、回転角θt及び相電流値Iut,Ivt,Iwtが入力される。転舵側モータ制御信号演算部73は、目標転舵トルクTt*に基づいて、dq座標系におけるd軸上のd軸目標電流値Ids*及びq軸上のq軸目標電流値Iqt*を演算する。具体的には、転舵側モータ制御信号演算部73は、目標転舵トルクTt*の絶対値が大きくなるほど、より大きな絶対値を有するq軸目標電流値Iqt*を演算する。なお、本実施形態では、d軸上のd軸目標電流値Idt*は、基本的にゼロに設定される。そして、転舵側モータ制御信号演算部73は、操舵側モータ制御信号演算部63と同様に、dq座標系における電流F/B演算を実行することにより、上記転舵側駆動回路57に出力する転舵側モータ制御信号Mtを生成する。なお、転舵側モータ制御信号Mtを生成する過程で演算したq軸電流値Iqtは、上記目標反力トルク演算部62に出力される。
【0044】
このように演算された転舵側モータ制御信号Mtは、転舵側駆動回路57に出力される。これにより、転舵側モータ32には、転舵側駆動回路57から転舵側モータ制御信号Mtに応じた駆動電力が供給される。そして、転舵側モータ32は、目標転舵トルクTt*に示される転舵力を転舵輪5に付与する。
【0045】
次に、目標反力トルク演算部62について説明する。
図3に示すように、目標反力トルク演算部62は、運転者の操舵方向にステアリングホイール3を回転させる力である入力トルク基礎成分としてトルクF/B成分Tfbtを演算する入力トルク基礎成分演算部81を備えている。また、目標反力トルク演算部62は、運転者の操舵によるステアリングホイール3の回転に抗する力、すなわち転舵輪5からラック軸22に作用する軸力である反力成分Firを演算する反力成分演算部82を備えている。さらに、目標反力トルク演算部62は、操舵角θhの目標値となる目標操舵角θh*を演算する目標操舵角演算部83と、操舵角F/B成分Tfbhを演算する操舵角F/B制御部84を備えている。そして、目標反力トルク演算部62は、トルクF/B成分Tfbt及び操舵角F/B成分Tfbhに基づいて目標反力トルクTs*を演算する。
【0046】
詳しくは、入力トルク基礎成分演算部81には、操舵トルクThが入力される。入力トルク基礎成分演算部81は、操舵部4に入力すべき操舵トルクThの目標値である目標操舵トルクTh*を演算する目標操舵トルク演算部91と、トルクF/B演算の実行によりトルクF/B成分Tfbtを演算するトルクF/B制御部92とを備えている。
【0047】
目標操舵トルク演算部91には、加算器93において操舵トルクThにトルクF/B成分Tfbtが足し合わされた駆動トルクTcが入力される。目標操舵トルク演算部91は、駆動トルクTcの絶対値が大きいほど、より大きな絶対値となる目標操舵トルクTh*を演算する。なお、駆動トルクTcは、操舵部4と転舵部6とが機械的に連結されたものにおいて、転舵輪5を転舵させるトルクであり、近似的にラック軸22に作用する軸力と釣り合う。つまり、駆動トルクTcは、ラック軸22に作用する軸力を推定した演算上の軸力に相当する。
【0048】
トルクF/B制御部92には、操舵トルクTh、及び減算器94において操舵トルクThから目標操舵トルクTh*が差し引かれたトルク偏差ΔThが入力される。そして、トルクF/B制御部92は、トルク偏差ΔThに基づいて、操舵トルクThを目標操舵トルクTh*に追従させるトルクF/B演算を行うことで、トルクF/B成分Tfbtを演算する。具体的には、トルクF/B制御部92は、トルク偏差ΔThを入力とする比例要素、積分要素及び微分要素のそれぞれの出力値の和を、トルクF/B成分Tfbtとして演算する。このように演算されたトルクF/B成分Tfbtは、加算器85,93及び目標操舵角演算部83に出力される。
【0049】
反力成分演算部82には、車体速度Vb、車輪速度Vfl,Vfr、転舵側モータ32のq軸電流値Iqt及び目標操舵角θh*が入力される。反力成分演算部82は、後述するようにこれらの状態量に基づいて、ラック軸22に作用する軸力に応じた反力成分Firを演算し、目標操舵角演算部83に出力する。なお、反力成分Firは、ラック軸22に作用する軸力を推定した演算上の軸力に相当する。
【0050】
目標操舵角演算部83には、車体速度Vb、操舵トルクTh、トルクF/B成分Tfbt及び反力成分Firが入力される。目標操舵角演算部83は、トルクF/B成分Tfbtに操舵トルクThを加算するとともに反力成分Firを減算した値である入力トルクTin*と目標操舵角θh*とを関係づける下記(1)のステアリングモデル式を利用して、目標操舵角θh*を演算する。
【0051】
Tin*=C・θh*’+J・θh*’’…(1)
このモデル式は、ステアリングホイール3と転舵輪5とが機械的に連結されたもの、すなわち操舵部4と転舵部6とが機械的に連結されたものにおいて、ステアリングホイール3の回転に伴って回転する回転軸のトルクと回転角との関係を定めて表したものである。そして、このモデル式は、操舵装置2の摩擦等をモデル化した粘性係数C、操舵装置2の慣性をモデル化した慣性係数Jを用いて表される。なお、粘性係数C及び慣性係数Jは、車体速度Vbに応じて可変設定される。そして、このようにモデル式を用いて演算された目標操舵角θh*は、目標転舵トルク演算部72及び反力成分演算部82に出力される。
【0052】
操舵角F/B制御部84には、減算器86において目標操舵角θh*から操舵角θhが差し引かれた角度偏差Δθhが入力される。そして、操舵角F/B制御部84は、角度偏差Δθhに基づいて、操舵角θhを目標操舵角θh*に追従させる角度F/B演算を行うことで、操舵角F/B成分Tfbhを演算する。具体的には、操舵角F/B制御部84は、角度偏差Δθhを入力とする比例要素、積分要素及び微分要素のそれぞれの出力値の和を、操舵角F/B成分Tfbhとして演算する。このように演算された操舵角F/B成分Tfbhは、加算器85に出力される。
【0053】
そして、目標反力トルク演算部62は、加算器85においてトルクF/B成分Tfbtに操舵角F/B成分Tfbhを加算した値を目標反力トルクTs*として演算する。このように演算された目標反力トルクTs*は、操舵側モータ制御信号演算部63に出力される。なお、上記のように目標反力トルク演算部62は、トルクF/B演算に用いる目標操舵トルクTh*を演算上の軸力である駆動トルクTcに基づいて演算するとともに、角度F/B演算に用いる目標操舵角θh*を演算上の軸力である反力成分Firに基づいて演算し、これらを足し合わせて目標反力トルクTs*として演算している。そのため、操舵側モータ13が付与する操舵反力は、基本的には運転者の操舵に抗する力であるが、演算上の軸力とラック軸22に作用する実際の軸力との偏差によっては、運転者の操舵を補助する力にもなり得るものである。
【0054】
次に、反力成分演算部82について説明する。
反力成分演算部82は、角度軸力Fibを演算する角度軸力演算部101と、電流軸力Ferを演算する電流軸力演算部102とを備えている。なお、角度軸力Fib及び電流軸力Ferは、トルクの次元(N・m)で演算される。本実施形態では、角度軸力演算部101及び電流軸力演算部102により、軸力演算部が構成されている。また、反力成分演算部82は、転舵輪5に対して路面から加えられる軸力、すなわち路面から伝達される路面情報が反映されるように、角度軸力Fib及び電流軸力Ferを所定配分比率となるように個別に設定される配分比率で合算した配分軸力を反力成分Firとして演算する配分軸力演算部103を備えている。
【0055】
角度軸力演算部101には、目標転舵対応角である目標操舵角θh*及び車体速度Vbが入力される。角度軸力演算部101は、転舵輪5に作用する軸力、すなわち転舵輪5に伝達される伝達力を目標操舵角θh*に基づいて演算する。つまり、角度軸力Fibは、任意に設定されるモデルにおける軸力の理想値であって、車両の横方向への挙動に影響を与えない微小な凹凸や車両の横方向への挙動に影響を与える段差等の路面情報を含まない軸力である。具体的には、角度軸力演算部101は、目標操舵角θh*の絶対値が大きくなるほど、角度軸力Fibの絶対値が大きくなるように演算する。また、角度軸力演算部101は、車体速度Vbが大きくなるにつれて角度軸力Fibの絶対値が大きくなるように演算する。このように演算された角度軸力Fibは、配分軸力演算部103に出力される。
【0056】
電流軸力演算部102には、転舵側モータ32のq軸電流値Iqtが入力される。電流軸力演算部102は、転舵輪5に作用する軸力をq軸電流値Iqtに基づいて演算する。つまり、電流軸力Ferは、転舵輪5に作用する軸力の推定値であって、路面情報を含む路面軸力の一である。具体的には、電流軸力演算部102は、転舵側モータ32によってラック軸22に加えられるトルクと、転舵輪5に対して路面から加えられる力に応じたトルクとが釣り合うとして、q軸電流値Iqtの絶対値が大きくなるほど、電流軸力Ferの絶対値が大きくなるように演算する。このように演算された電流軸力Ferは、配分軸力演算部103に出力される。
【0057】
配分軸力演算部103には、角度軸力Fib及び電流軸力Ferに加え、車体速度Vb及び車輪速度Vfl,Vfrが入力される。配分軸力演算部103は、車体速度Vb及び車輪速度Vfl,Vfrに基づいて第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2を演算し、これらに基づいて配分比率を調整する。そして、配分軸力演算部103は、角度軸力Fib及び電流軸力Ferを第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2に基づいて調整された配分比率で合算することにより得られる配分軸力を反力成分Firとして演算する。
【0058】
詳しくは、
図4に示すように、配分軸力演算部103は、車体速度Vb及び車輪速度Vfl,Vfrに基づいて、角度軸力Fibと電流軸力Ferとの配分比率を決めるための配分ゲインGaを演算する配分ゲイン演算部111を備えている。そして、配分軸力演算部103は、角度軸力Fib及び電流軸力Ferを配分ゲインGaに応じて配分することにより反力成分Firを演算する。
【0059】
より詳しくは、配分ゲイン演算部111は、左前輪のスリップ状態を示す第1スリップ状態量S1を演算する第1スリップ状態量演算部121と、第1スリップ状態量S1に応じた第1配分ゲインGa1を演算する第1配分ゲイン演算部122とを備えている。また、配分ゲイン演算部111は、右前輪のスリップ状態を示す第2スリップ状態量S2を演算する第2スリップ状態量演算部123と、第2スリップ状態量S2に応じた第2配分ゲインGa2を演算する第2配分ゲイン演算部124とを備えている。
【0060】
第1スリップ状態量演算部121には、車体速度Vb及び左前輪の車輪速度Vflが入力される。そして、第1スリップ状態量演算部121は、車体速度Vbから左前輪の車輪速度Vflを減算した値、すなわちスリップ率に相当する値を第1スリップ状態量S1として演算し、第1配分ゲイン演算部122に出力する。第2スリップ状態量演算部123には、車体速度Vb及び右前輪の車輪速度Vfrが入力される。そして、第2スリップ状態量演算部123は、車体速度Vbから右前輪の車輪速度Vfrを減算した値を第2スリップ状態量S2として演算し、第2配分ゲイン演算部124に出力する。
【0061】
ここで、第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2は、それぞれその値がゼロ又は略ゼロである場合、すなわち車体速度Vbと車輪速度Vfl,Vfrとの差が無い又は略無い場合に、転舵輪5がスリップしていないことを示す。一方、第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2は、それぞれの値が正の大きな値となる場合、すなわち車体速度Vbが車輪速度Vfl,Vfrよりも大きい場合には、転舵輪5がロック状態であることを示す。また、第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2は、それぞれの値が負の大きな値となる場合、すなわち車体速度Vbが車輪速度Vfl,Vfrよりも大きい場合には、転舵輪5が空転状態であることを示す。
【0062】
第1配分ゲイン演算部122には、第1スリップ状態量S1及び車体速度Vbが入力される。第1配分ゲイン演算部122は、第1スリップ状態量S1及び車体速度Vbと第1配分ゲインGa1との関係を定めたマップを備えており、同マップを参照することにより第1スリップ状態量S1及び車体速度Vbに応じた第1配分ゲインGa1を演算する。このマップは、第1スリップ状態量S1がゼロ近傍の領域では第1配分ゲインGa1が「1」となり、第1スリップ状態量S1の絶対値がある程度以上大きくなると、該第1スリップ状態量S1の絶対値の増大に基づいて第1配分ゲインGa1が線形的に小さくなるように設定されている。つまり、第1配分ゲインGa1は、第1スリップ状態量S1の絶対値が大きくなるほど、すなわち転舵輪5がロック状態又は空転状態に近づくほど、小さくなるように設定されている。また、このマップは、車体速度Vbが大きくなるほど、第1配分ゲインGa1が「1」となる領域が広くなるように設定されている。これは、車体速度Vbが大きくなるほど、車体速度Vbと車輪速度Vflとの偏差の絶対値が大きくなり易いことを踏まえ、当該偏差で表される第1スリップ状態量S1が誤って転舵輪5のロック状態又は空転状態を示すことを防ぐためである。このように演算された第1配分ゲインGa1は、乗算器125に出力される。
【0063】
第2配分ゲイン演算部124には、第2スリップ状態量S2及び車体速度Vbが入力される。第2配分ゲイン演算部124は、第2スリップ状態量S2及び車体速度Vbと第2配分ゲインGa2との関係を定めたマップを備えており、同マップを参照することにより第2スリップ状態量S2及び車体速度Vbに応じた第2配分ゲインGa2を演算する。このマップは、上記第1配分ゲイン演算部122のマップと同様に設定されている。このように演算された第2配分ゲインGa2は、乗算器125に出力される。
【0064】
そして、配分ゲイン演算部111は、乗算器125において第1配分ゲインGa1と第2配分ゲインGa2とを掛け合わせることにより、配分ゲインGaを演算する。このように演算された配分ゲインGaは、乗算器112及び減算器113に出力される。
【0065】
乗算器112には、配分ゲインGaに加え、角度軸力Fibが入力される。配分軸力演算部103は、乗算器112において配分ゲインGaに角度軸力Fibを乗算した乗算値Aibを加算器114に出力する。一方、減算器113には、配分ゲインGaに加え、定数「1」が常に入力される。配分軸力演算部103は、減算器113において、定数「1」から配分ゲインGaを減算した減算値Gbを乗算器115に出力する。配分軸力演算部103は、乗算器115において減算値Gbに電流軸力Ferを乗算した乗算値Aerを加算器114に出力する。そして、配分軸力演算部103は、加算器114において乗算値Aib,Aerを足し合わせてなる配分軸力を反力成分Firとして出力する。
【0066】
つまり、配分軸力は、角度軸力Fibの配分比率と電流軸力Ferの配分比率との和が「1」となるように設定されている。そして、配分軸力は、転舵輪5がスリップしていない状態では、角度軸力Fibの配分比率が支配的になり、転舵輪5のスリップ状態がロック状態又は空転状態に近づくほど、電流軸力Ferの配分比率が大きくなる。これにより、転舵輪5のスリップ状態がロック状態又は空転状態に近づくと、電流軸力Ferの配分比率が大きくなることで、路面情報を反映した操舵反力が付与されるようになり、転舵輪5がスリップしていることを運転者が認識し易くなる。
【0067】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)配分軸力演算部103は、車体速度Vb及び車輪速度Vfl,Vfrに基づいて第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2を演算し、これら第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2に基づいて、角度軸力Fibと電流軸力Ferとの配分比率を示す配分ゲインGaを調整する。そして、操舵制御装置1は、転舵輪5のスリップ状態に応じて配分比率が調整された配分軸力である反力成分Firに基づいて操舵反力として付与されるモータトルクを制御する。そのため、ステアリングホイール3の操舵に必要な操舵トルクThをスリップ状態に応じた適切なトルクとし、優れた操舵フィーリングを実現できる。
【0068】
(2)配分軸力演算部103は、車体速度Vbから車輪速度Vfl,Vfrを減算した値を第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2として演算し、これら第1スリップ状態量S1、第2スリップ状態量S2及び車体速度Vbに基づいて配分比率を示す配分ゲインGaを調整する。このように減算のみによって第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2を演算できるため、例えば減算に加えて除算を行う場合に比べ、第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2の演算に係る演算負荷を低減できる。
【0069】
(3)配分軸力演算部103は、第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2が転舵輪5のロック状態を示す場合には、路面軸力である電流軸力Ferの配分比率が大きくなるように配分ゲインGaを演算する。そのため、スリップすることにより転舵輪5がロック状態となった際に、路面情報を含む電流軸力Ferの配分比率が高くなるため、配分軸力である反力成分Firがロック状態であることを示す値となる。そして、当該反力成分Firに基づいて目標反力トルクTs*が演算されるため、ステアリングホイール3の操舵に必要な操舵トルクの変化を通じて、転舵輪5がロック状態となっていることを運転者に伝えることができる。
【0070】
(4)配分軸力演算部103は、第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2が転舵輪5の空転状態を示す場合には、路面軸力である電流軸力Ferの配分比率が大きくなるように配分ゲインGaを演算する。そのため、スリップすることにより転舵輪5が空転状態となった際に、路面情報を含む電流軸力Ferの配分比率が高くなるため、配分軸力である反力成分Firが空転状態であることを示す値となる。そして、当該反力成分Firに基づいて目標反力トルクTs*が演算されるため、ステアリングホイール3の操舵に必要な操舵トルクの変化を通じて、転舵輪5が空転状態となっていることを運転者に伝えることができる。
【0071】
(第2実施形態)
次に、操舵制御装置の第2実施形態を図面に従って説明する。なお、説明の便宜上、同一の構成については上記第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0072】
図5に示すように、本実施形態の第1スリップ状態量演算部221は、車体速度Vbから左前輪の車輪速度Vflを減算し、この減算した値を車体速度Vbで除算した値、すなわちスリップ率を第1スリップ状態量S1として演算する。また、第2スリップ状態量演算部223は、車体速度Vbから右前輪の車輪速度Vfrを減算し、この減算した値を車体速度Vbで除算した値を第2スリップ状態量S2として演算する。
【0073】
第1配分ゲイン演算部222には、第1スリップ状態量S1のみが入力され、車体速度Vbは入力されない。第1配分ゲイン演算部222は、第1スリップ状態量S1と第1配分ゲインGa1との関係を定めたマップを備えており、同マップを参照することにより第1スリップ状態量S1に応じた第1配分ゲインGa1を演算する。このマップは、第1スリップ状態量S1がゼロ近傍の領域では第1配分ゲインGa1が「1」となり、第1スリップ状態量S1の絶対値がある程度以上大きくなると、該第1スリップ状態量S1の絶対値の増大に基づいて第1配分ゲインGa1が線形的に小さくなるように設定されている。このように演算された第1配分ゲインGa1は、乗算器225に出力される。
【0074】
第2配分ゲイン演算部224には、第2スリップ状態量S2のみが入力され、車体速度Vbは入力されない。第2配分ゲイン演算部224は、第2スリップ状態量S2と第2配分ゲインGa2との関係を定めたマップを備えており、同マップを参照することにより第2スリップ状態量S2に応じた第2配分ゲインGa2を演算する。このマップは、上記第1配分ゲイン演算部222のマップと同様に設定されている。このように演算された第2配分ゲインGa2は、乗算器225に出力される。
【0075】
配分ゲイン演算部111は、乗算器225において第1配分ゲインGa1と第2配分ゲインGa2とを掛け合わせることにより、配分ゲインGaを演算する。そして、配分軸力演算部103は、上記第1実施形態と同様に配分ゲインGaに基づいて配分軸力である反力成分Firを演算する。
【0076】
以上、本実施形態では、上記第1実施形態の(1),(3),(4)の作用及び効果と同様の作用及び効果に加え、以下の作用及び効果を奏する。
(5)配分軸力演算部103は、車体速度Vbから車輪速度Vfl,Vfrを減算し、該減算した値を車体速度Vbで除算した値を、第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2として演算する。そして、配分軸力演算部103は、第1スリップ状態量S1のみに基づいて第1配分ゲインGa1を演算するとともに、第2スリップ状態量S2のみに基づいて第2配分ゲインGa2を演算し、第1配分ゲインGa1及び第2配分ゲインGa2を乗算することにより配分比率を示す配分ゲインGaを演算する。このように第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2のみに基づいて配分ゲインGaを演算するため、例えば車体速度Vbも加味する場合に比べ、第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2に基づく配分比率の演算に係る演算負荷を低減できる。
【0077】
(第3実施形態)
次に、操舵制御装置の第3実施形態を図面に従って説明する。なお、説明の便宜上、同一の構成については上記第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0078】
図6に示すように、本実施形態の操舵装置301は、電動パワーステアリング装置(EPS)として構成されている。操舵装置301は、運転者によるステアリングホイール3の操作に基づいて転舵輪5を転舵させる操舵機構302と、操舵機構302にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するアシスト機構303とを備えている。
【0079】
操舵機構302は、ステアリングホイール3が固定されるステアリングシャフト311を備えている。また、操舵機構302は、ステアリングシャフト311に連結された転舵軸としてのラック軸312と、ラック軸312が往復動可能に挿通される円筒状のラックハウジング313と、ステアリングシャフト311の回転をラック軸312の往復動に変換するラックアンドピニオン機構314とを備えている。なお、ステアリングシャフト311は、ステアリングホイール3が位置する側から順にコラム軸315、中間軸316、及びピニオン軸317を連結することにより構成されている。
【0080】
ラック軸312とピニオン軸317とは、ラックハウジング313内に所定の交差角をもって配置されている。ラックアンドピニオン機構314は、ラック軸312に形成されたラック歯312aとピニオン軸317に形成されたピニオン歯317aとが噛合されることにより構成されている。また、ラック軸312の両端には、その軸端部に設けられたボールジョイントからなるラックエンド318を介してタイロッド319がそれぞれ回動自在に連結されている。タイロッド319の先端は、転舵輪5が組付けられた図示しないナックルに連結されている。したがって、操舵装置301では、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト311の回転がラックアンドピニオン機構314によりラック軸312の軸方向移動に変換され、この軸方向移動がタイロッド319を介してナックルに伝達されることにより、転舵輪5の転舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0081】
アシスト機構303は、駆動源であるアシストモータ321と、アシストモータ321の回転を伝達する伝達機構322と、伝達機構322を介して伝達された回転をラック軸312の往復動に変換する変換機構323とを備えている。そして、アシスト機構303は、アシストモータ321の回転を伝達機構322を介して変換機構323に伝達し、変換機構323にてラック軸312の往復動に変換することで操舵機構302にアシスト力を付与する。つまり、操舵装置301では、アシスト機構303から付与されるモータトルクとしてのアシスト力により、ステアリングホイール3の操舵に必要な操舵トルクThが変更される。なお、本実施形態のアシストモータ321には、例えば三相のブラシレスモータが採用され、伝達機構322には、例えばベルト機構が採用され、変換機構323には、例えばボールネジ機構が採用されている。
【0082】
本実施形態の操舵制御装置300には、ステアリングシャフト311に付与された操舵トルクThを検出するトルクセンサ331が接続されている。なお、トルクセンサ331は、ピニオン軸317に設けられており、トーションバー332の捩れに基づいて操舵トルクThを検出する。また、操舵制御装置300には、左前輪センサ44l及び右前輪センサ44rが接続されている。また、操舵制御装置300には、アシストモータ321のモータ角θmを360°の範囲内の相対角で検出する回転センサ333が接続されている。なお、操舵トルクTh及びモータ角θmは、例えば右方向に操舵した場合に正の値、左方向に操舵した場合に負の値として検出する。さらに、操舵制御装置300は、その外部に設けられた制動制御装置47と通信可能に接続されている。操舵制御装置300には、制動制御装置47により演算された車体速度Vbが入力される。
【0083】
そして、操舵制御装置300は、これら各センサ及び制動制御装置47から入力される各状態量に基づいて、アシストモータ321に駆動電力を供給することにより、アシスト機構303の作動、すなわち操舵機構302にラック軸312を往復動させるべく付与するアシスト力を制御する。
【0084】
次に、操舵制御装置300の構成について説明する。
図7に示すように、操舵制御装置300は、モータ制御信号Maを出力するマイコン351と、モータ制御信号Maに基づいてアシストモータ321に駆動電力を供給する駆動回路352とを備えている。なお、本実施形態の駆動回路352には、例えばFET等の複数のスイッチング素子を有する周知のPWMインバータが採用されている。そして、マイコン351の出力するモータ制御信号Maは、各スイッチング素子のオンオフ状態を規定するものとなっている。これにより、モータ制御信号Maに応答して各スイッチング素子がオンオフし、各相のモータコイルへの通電パターンが切り替わることにより、車載電源Bの直流電力が三相の駆動電力に変換されてアシストモータ321へと出力される。
【0085】
マイコン351には、上記操舵トルクTh、モータ角θm、車体速度Vb及び車輪速度Vfl,Vfrが入力される。また、マイコン351には、駆動回路352と各相のモータコイルとの間の接続線353に設けられた電流センサ354により検出されるアシストモータ321の各相電流値Iu,Iv,Iwが入力される。なお、
図7では、説明の便宜上、各相の接続線353及び各相の電流センサ354をそれぞれ1つにまとめて図示している。そして、マイコン351は、これら各状態量に基づいてモータ制御信号Maを出力する。
【0086】
詳しくは、マイコン351は、操舵機構302に付与すべきアシスト力に対応した目標トルクとしての目標アシストトルクTa*を演算する目標トルク演算部としての目標アシストトルク演算部361と、モータ制御信号Maを演算するモータ制御信号演算部362とを備えている。
【0087】
目標アシストトルク演算部361は、入力トルク基礎成分としてトルクF/B成分Tfbtを演算する入力トルク基礎成分演算部371と、反力成分Firを演算する反力成分演算部372とを備えている。入力トルク基礎成分演算部371には、操舵トルクThが入力される。入力トルク基礎成分演算部371は、目標操舵トルクTh*を演算する目標操舵トルク演算部381と、トルクF/B成分Tfbtを演算するトルクF/B制御部382とを備えており、上記第1実施形態の入力トルク基礎成分演算部81と同様の演算処理によりトルクF/B成分Tfbtを演算する。このように演算されたトルクF/B成分Tfbtは、加算器373,383に出力される。
【0088】
反力成分演算部372には、車体速度Vb、車輪速度Vfl,Vfr、アシストモータ321のq軸電流値Iq及び目標転舵対応角θp*が入力される。反力成分演算部372は、上記第1実施形態の反力成分演算部82と同様の演算処理により反力成分Firを演算する。これにより、転舵輪5のスリップ状態に応じて配分比率が調整された配分軸力である反力成分Firが演算され、当該反力成分Firに基づいてアシスト力として付与されるモータトルクが制御される。
【0089】
また、目標アシストトルク演算部361は、転舵対応角演算部374と、目標転舵対応角演算部375と、転舵角F/B制御部376とを備えている。転舵対応角演算部374には、モータ角θmが入力される。転舵対応角演算部374は、モータ角θmに基づいて、上記第1実施形態の転舵対応角演算部71と同様の演算処理により、ピニオン軸317の回転角を示す転舵対応角θpを演算する。このように演算された転舵対応角θpは、減算器377に出力される。
【0090】
目標転舵対応角演算部375は、操舵トルクTh、トルクF/B成分Tfbt、反力成分Fir及び車体速度Vbが入力される。目標転舵対応角演算部375は、これらの状態量に基づいて、上記第1実施形態の目標操舵角演算部83と同様に、モデル式を利用して、目標転舵対応角θp*を演算する。
【0091】
転舵角F/B制御部376には、減算器377において、目標転舵対応角θp*から転舵対応角θpを差し引いた角度偏差Δθpが入力される。そして、転舵角F/B制御部376は、上記第1実施形態の操舵角F/B制御部84と同様の演算処理により転舵角F/B成分Tfbpを演算する。このように演算された転舵角F/B成分Tfbpは、加算器373に出力される。
【0092】
そして、目標アシストトルクTa*は、加算器373においてトルクF/B成分Tfbtと転舵角F/B成分Tfbpとを加算することにより、目標アシストトルクTa*を演算する。
モータ制御信号演算部362には、目標アシストトルクTa*が入力される。モータ制御信号演算部362は、上記第1実施形態の操舵側モータ制御信号演算部63と同様の演算処理により、モータ制御信号Maを演算する。
【0093】
このように演算されたモータ制御信号Maは、駆動回路352に出力される。これにより、アシストモータ321には、駆動回路352からモータ制御信号Maに応じた駆動電力が供給される。そして、アシストモータ321は、目標アシストトルクTa*に示されるアシスト力を操舵機構302に付与する。
【0094】
なお、目標アシストトルク演算部361は、トルクF/B演算に用いる目標操舵トルクTh*を演算上の軸力である駆動トルクTcに基づいて演算するとともに、角度F/B演算に用いる目標転舵対応角θp*を演算上の軸力である反力成分Firに基づいて演算し、これらを足し合わせて目標アシストトルクTa*を演算している。そのため、アシストモータ321が付与する操舵反力は、基本的には運転者の操舵を補助する力であるが、演算上の軸力とラック軸22に作用する実際の軸力との偏差によっては、運転者の操舵に抗する力にもなり得るものである。
【0095】
以上、本実施形態では、上記第1実施形態の(1)~(4)の作用及び効果と同様の作用及び効果に加え、以下の作用及び効果を奏する。
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記各実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0096】
・上記各実施形態では、各車輪速度Vfl,Vfr,Vrl,Vrrの平均値を車体速度Vbとして用いたが、これに限らず、例えば各車輪速度Vfl,Vfr,Vrl,Vrrのうちの二番目と三番目に速い車輪速度の平均を用いてもよく、車体速度Vbの演算方法は適宜変更可能である。また、車輪速度を用いず、例えば車両の前後加速度を積分することにより得られる値を車体速度Vbとしてもよい。さらに、例えばGPS(Global Positioning System)用の人工衛星からの測位信号を受信し、当該受信される測位信号に基づく時間あたりの車両の位置変化から推定される推定車速を車体速度Vbとして用いてもよい。
【0097】
・上記各実施形態において、操舵制御装置1,300が各車輪速度Vfl,Vfr,Vrl,Vrr等に基づいて車体速度Vbを演算してもよい。
・上記各実施形態において、第1配分ゲイン演算部122,222の有するマップの形状は適宜変更可能である。例えば、第1スリップ状態量S1がゼロ近傍である領域で第1配分ゲインGa1が「1」よりも小さな値となるようにしてもよい。つまり、転舵輪5がスリップしていない状態でも、配分軸力である反力成分Firに電流軸力Ferが配分されるようにしてもよい。同様に、第2配分ゲイン演算部124,224の有するマップの形状は適宜変更可能である。
【0098】
・上記各実施形態では、左前輪及び右前輪の転舵輪5のスリップ状態を示す第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2を演算し、これらに基づいて配分比率を調整する配分ゲインGaを演算した。しかし、これに限らず、後輪二輪のスリップ状態を示すスリップ状態量や、前輪及び後輪四輪のスリップ状態量を演算し、これらに基づいて配分比率を調整してもよい。また、一輪のスリップ状態量のみを演算し、これに基づいて配分比率を調整する構成としてもよい。この場合、対象となる一輪を、例えば車輪速度が最も遅いもの、あるいは車輪速度が二番目に遅いものを選択する構成としてもよい。
【0099】
・上記各実施形態では、反力成分Firとする配分軸力を角度軸力Fibと電流軸力Ferとを所定配分比率となるように個別に設定される配分比率で合算することにより演算したが、これに限らず、角度軸力、路面軸力、及び車両状態量軸力のうちの少なくとも2つを配分することにより、配分軸力を演算してもよい。
【0100】
なお、路面軸力としては、電流軸力Fer以外に、例えばラック軸22に作用する軸力を検出する軸力センサの検出値に基づく軸力や、ハブユニット43により検出されるタイヤ力に基づく軸力がある。また、車両状態量軸力としては、例えば下記(2)式に車両のヨーレートγ及び横加速度LAを入力することにより演算される横力Fyを用いることができる。つまり、車両状態量軸力は、転舵輪5に作用する軸力を該転舵輪5に作用する横力Fyであると近似的にみなした推定値であって、車両の横方向への挙動の変化を引き起こさない路面情報は含まず、路面情報のうち車両の横方向への挙動の変化を通じて伝達可能な情報を含む軸力である。
【0101】
Fy=Kla×LA+Kγ×γ’…(2)
なお、「γ’」は、ヨーレートγの微分値を示し、「Kla」及び「Kγ」は、試験等により予め設定された係数を示し、車体速度Vbに応じて可変設定されている。
【0102】
このように角度軸力、路面軸力、及び車両状態量軸力のうちの少なくとも2つを配分することにより配分軸力を演算する場合におけるスリップ状態に応じた配分比率の調整は、次のように行うことができる。
【0103】
すなわち、配分軸力が角度軸力Fibを含む場合において、例えば第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2が転舵輪5のロック状態を示す場合には、角度軸力Fib以外の軸力の少なくとも1つの配分比率を大きくする。一例として、角度軸力Fibと車両状態量軸力とを配分することにより配分軸力を演算する場合には、転舵輪5のロック状態となると、車両状態量軸力の配分比率を大きくする。また、配分軸力が路面軸力を含む場合において、例えば第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2が転舵輪5のロック状態を示す場合には、該路面軸力の配分比率を大きくする。一例として、電流軸力Ferと車両状態量軸力とを配分することにより配分軸力を演算する場合には、転舵輪5のロック状態となると、電流軸力Ferの配分比率を大きくする。
【0104】
さらに、配分軸力が角度軸力Fibを含む場合において、例えば第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2が転舵輪5の空転状態を示す場合には、角度軸力Fib以外の軸力の少なくとも1つの配分比率を大きくする。一例として、角度軸力Fibと車両状態量軸力とを配分することにより配分軸力を演算する場合には、転舵輪5の空転状態となると、車両状態量軸力の配分比率を大きくする。また、配分軸力が路面軸力を含む場合において、例えば第1スリップ状態量S1及び第2スリップ状態量S2が転舵輪5の空転状態を示す場合には、該路面軸力の配分比率を大きくする。一例として、電流軸力Ferと車両状態量軸力とを配分することにより配分軸力を演算する場合には、転舵輪5の空転状態となると、電流軸力Ferの配分比率を大きくする。
【0105】
・上記各実施形態において、反力成分演算部82,372が配分軸力に、他の反力を加味した値を反力成分Firとして演算してもよい。こうした他の反力として、例えばステアリングホイール3の操舵角の絶対値が舵角閾値に近づく場合に、更なる切り込み操舵が行われるのに抗する反力であるエンド反力を採用することができる。なお、舵角閾値としては、例えばラックエンド25がラックハウジング23に当接することでラック軸22の軸方向移動が規制される機械的なラックエンド位置よりも中立位置側に設定される仮想ラックエンド位置での転舵対応角θpを用いることができる。
【0106】
・上記第1及び第2実施形態では、電流軸力Ferをq軸電流値Iqtに基づいて演算したが、これに限らず、例えばq軸目標電流値Iqt*に基づいて演算してもよい。同様に、上記第3実施形態において、電流軸力Ferを、例えばq軸目標電流値Iq*に基づいて演算してもよい。
【0107】
・上記第1及び第2実施形態では、角度軸力Fibを目標転舵対応角である目標操舵角θh*に基づいて演算したが、これに限らず、例えば操舵角θhや転舵対応角θpに基づいて演算してもよく、また操舵トルクTh等、他のパラメータを加味する等、他の方法で演算してもよい。同様に、上記第3実施形態において、角度軸力Fibを他の方法で演算してもよい。
【0108】
・上記第1及び第2実施形態では、入力トルク基礎成分として目標操舵トルクTh*に操舵トルクThを追従させるトルクF/B制御の実行により演算されるトルクF/B成分Tfbtを用い、トルクF/B成分Tfbtと操舵角F/B成分Tfbhとを足し合わせることにより目標反力トルクTs*を演算した。しかし、これに限らず、目標反力トルクTs*の演算態様は適宜変更可能である。例えば入力トルク基礎成分の演算態様として、操舵トルクThの絶対値が大きいほど、大きな絶対値を有する入力トルク基礎成分を演算してもよい。また、操舵角F/B制御を実行せず、例えば入力トルクTin*に基づいて目標反力トルクTs*を直接演算する態様や、反力成分Firに基づいて目標反力トルクTs*を直接演算する態様を採用可能である。さらに、例えば反力成分Firに基づいて目標操舵トルクを演算し、該目標操舵トルクに操舵トルクThを追従させるトルクF/B制御の実行により得られる値を目標反力トルクTs*として演算してもよい。同様に、上記第3実施形態において、目標アシストトルクTa*の演算態様は適宜変更可能である。
【0109】
・上記第1及び第2実施形態では、制御対象となる操舵装置2を、操舵部4と転舵部6との間の動力伝達が分離したリンクレスの構造としたが、これに限らず、クラッチにより操舵部4と転舵部6との間の動力伝達を分離可能な構造の操舵装置を制御対象としてもよい。
【符号の説明】
【0110】
1,300…操舵制御装置、2,301…操舵装置、3…ステアリングホイール、4…操舵部、5…転舵輪、6…転舵部、11,311…ステアリングシャフト、13…操舵側モータ、21,317…ピニオン軸、22,312…ラック軸、32…転舵側モータ、51…操舵側制御部、56…転舵側制御部、62…目標反力トルク演算部、82,372…反力成分演算部、101…角度軸力演算部、102…電流軸力演算部、103…配分軸力演算部、111…配分ゲイン演算部、121,221…第1スリップ状態量演算部、122,222…第1配分ゲイン演算部、123,223…第2スリップ状態量演算部、124,224…第2配分ゲイン演算部、302…操舵機構、321…アシストモータ、351…マイコン、352…駆動回路、361…目標アシストトルク演算部、Fer…電流軸力、Fib…角度軸力、Ga…配分ゲイン、Ga1…第1配分ゲイン、Ga2…第2配分ゲイン、S1…第1スリップ状態量、S2…第2スリップ状態量、Ta*…目標アシストトルク、Ts*…目標反力トルク、Vb…車体速度、Vfl,Vfr,Vrl,Vrr…車輪速度。