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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】波長可変光源及びその波長制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/0683 20060101AFI20230411BHJP
【FI】
H01S5/0683
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019105425
(22)【出願日】2019-06-05
(65)【公開番号】P2020167359
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-03-21
(31)【優先権主張番号】P 2019067347
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018135964
(32)【優先日】2018-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100186761
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 勇太
(72)【発明者】
【氏名】三浦 知子
(72)【発明者】
【氏名】上坂 勝己
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-072464(JP,A)
【文献】特開2015-068854(JP,A)
【文献】特開2014-045172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のヒータを含むSG-DFB領域、及び、第2のヒータを含むと共に前記SG-DFB領域に光結合するCSG-DBR領域を有する波長可変レーザと、
前記波長可変レーザの出力光を受け、前記出力光の周波数に対して周期性を有すると共に互いに位相が90°異なる電気的な二つの制御信号を出力する周波数ロッカと、
前記波長可変レーザ及び前記周波数ロッカを搭載する熱電子冷却器と、
前記二つの制御信号の何れか一方に基づいて、前記第1のヒータ、前記第2のヒータ、及び、前記熱電子冷却器の温度を制御するコントローラと、
を備え
前記コントローラは、ルックアップテーブルを含み、
前記ルックアップテーブルは、複数の参照周波数、及び、前記複数の参照周波数のそれぞれにおける制御データセットを含み、
前記制御データセットは、前記複数の参照周波数のそれぞれにおける前記熱電子冷却器の設定温度と、前記熱電子冷却器の温度に対する前記二つの制御信号の温度係数と、前記熱電子冷却器の温度に対する前記波長可変レーザの発振周波数の温度係数と、前記第1のヒータ及び前記第2のヒータに与えられるパワーと、前記第1のヒータ及び前記第2のヒータに与えるパワーに対する前記波長可変レーザの発振周波数の変化率と、前記二つの制御信号の出力値とを含む、波長可変光源。
【請求項2】
前記二つの制御信号の周期は、それぞれ50GHzである、請求項1に記載の波長可変光源。
【請求項3】
前記制御データセットは、前記コントローラが前記ルックアップテーブルを作成した際の前記波長可変光源の環境温度と、前記波長可変光源の環境温度に対する前記二つの制御信号の温度係数とをさらに含む、請求項1または2に記載の波長可変光源。
【請求項4】
前記制御データセットは、前記波長可変光源の環境温度に対する前記波長可変レーザの発振周波数の温度係数をさらに含む、請求項に記載の波長可変光源。
【請求項5】
前記周波数ロッカは、半導体で構成されたハイブリッド素子を含み、
前記ハイブリッド素子は、前記二つの制御信号を出力する、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の波長可変光源。
【請求項6】
第1のヒータを含むSG-DFB領域、及び、第2のヒータを含むと共に前記SG-DFB領域に光結合するCSG-DBR領域を有する波長可変レーザと、
前記波長可変レーザの出力光を受け、前記出力光の周波数に対して周期性を有する電気的な制御信号を出力する周波数ロッカと、
前記波長可変レーザ及び前記周波数ロッカを搭載する熱電子冷却器と、
ルックアップテーブルを含むコントローラと、を備える波長可変光源の波長制御方法であって、
前記コントローラが目標発振周波数を取得する工程と、
予め前記ルックアップテーブルに保存された複数の参照周波数の中から、前記目標発振周波数に最も近い参照周波数を前記コントローラが選択する工程と、
前記目標発振周波数と前記参照周波数との差をΔfとしたとき、前記Δfを求める工程と、
前記熱電子冷却器の温度を、前記Δfで補正した式:TNEW=T+Δf×CLOCKで示される値に設定して維持する工程と(ここで、Tは前記参照周波数において前記熱電子冷却器に設定される温度であり、CLOCKは前記周波数ロッカから出力される前記制御信号の温度係数の逆数である)、
前記第1のヒータ及び前記第2のヒータに対して、Pknew=Pk+CHTk×(1-CLOCK/CLD)×Δf(k=1~5)で示されるパワーPknewを前記コントローラが初期値として与える工程と(ここで、Pkは前記参照周波数において前記第1のヒータ及び前記第2のヒータに与えられるパワーであり、CHTkは前記第1のヒータ及び前記第2のヒータに与えるパワーに対する前記波長可変レーザの発振周波数の変化率の逆数であり、CLDは前記熱電子冷却器の温度変化に応じて変化する前記波長可変レーザの前記発振周波数の変化率の逆数である)、
を備える波長制御方法。
【請求項7】
前記熱電子冷却器の温度を設定する工程では、前記温度TNEWから(TMON-TCAL)/CLOCK_AMBを加算した値を前記熱電子冷却器の温度とし、
前記第1のヒータ及び前記第2のヒータに対して前記初期値を与える工程では、前記パワーPknewからCHTk×(TMON-TCAL)/CLOCK_AMBを減じた値を前記初期値とする(ここで、TMONは現在の前記波長可変光源の環境温度であり、TCALは前記ルックアップテーブルを作成したときの前記波長可変光源の環境温度であり、CLOCK_AMBは前記波長可変光源の環境温度に対する前記周波数ロッカから出力される前記制御信号の変化割合の逆数である)、請求項に記載の波長制御方法。
【請求項8】
前記熱電子冷却器の温度を設定する工程では、前記温度TNEWから(TMON-TCAL)/CLOCK_AMBを加算した値を前記熱電子冷却器の温度とし、
前記第1のヒータ及び前記第2のヒータに対して前記初期値を与える工程では、前記パワーPknewからCHTk×(TMON-TCAL)/CLOCK_AMBを減じると共にCHTk×(TMON-TCAL)/CLD_AMBを加算した値を前記初期値とする(ここで、TMONは現在の前記波長可変光源の環境温度であり、TCALは前記ルックアップテーブルを作成したときの前記波長可変光源の環境温度であり、CLOCK_AMBは前記波長可変光源の環境温度に対する前記周波数ロッカから出力される前記制御信号の変化割合の逆数であり、CLD_AMBは前記波長可変光源の環境温度に対する前記波長可変レーザの発振周波数の温度係数の逆数である)、請求項に記載の波長制御方法。
【請求項9】
前記周波数ロッカの前記制御信号は、互いに位相が90°異なり、前記波長可変レーザの前記出力光の周波数に対して周期性を有する二つの制御信号を有し、
前記参照周波数に対応する前記二つの制御信号のいずれかを選択する工程をさらに備える、請求項から請求項のいずれか一項に記載の波長制御方法。
【請求項10】
前記第1のヒータ及び前記第2のヒータに与える前記パワーPknewに対して帰還制御を実施し、前記波長可変レーザの発振周波数を前記目標発振周波数に一致させる工程をさらに備える、請求項から請求項のいずれか一項に記載の波長制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長可変光源及びその波長制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下記特許文献1は、出力周波数を選択可能な波長可変レーザダイオード(t-LD:tunable Laser Diode)を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-26996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
波長可変光源の一種であるt-LDの発振周波数を制御するために、周波数ロッカを用いる帰還制御を行うことがある。周波数ロッカは、例えば石英からなるエタロン、レンズ、PD(フォトダイオード)等の光学部品を含む。従来、t-LDを第1の熱電子冷却器(TEC:Thermal Electric Cooler)上に搭載し、周波数ロッカを第2のTEC上に搭載する形態が一般的であった。t-LDの発振周波数設定のためのt-LDの温度設定と、周波数ロッカの周波数ロックのためのエタロンの温度設定とを独立させるためである。
【0005】
近年、t-LDと周波数ロッカとの温度設定のためのTECを一つのTECで共通化させる態様が提案されている。この態様では、周波数ロッカのロック特性を決定するために設定した温度により、t-LDの発振周波数が変動してしまう。このため、周波数ロッカの温度設定が大幅に変更された場合には、t-LDの発振周波数が大幅にシフトすることになる。したがって、従来とは異なり一つのTECを用いる態様では、目標発振周波数で安定するために必要な時間が長くなってしまう。
【0006】
本発明の一側面の目的は、周波数ロッカとt-LDとでTECを共通化した態様であっても、t-LDが目標発振周波数で安定化するまでの時間を短縮可能な波長可変光源及びその波長制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る波長可変光源は、第1のヒータを含むSG-DFB領域、及び、第2のヒータを含むと共にSG-DFB領域に光結合するCSG-DBR領域を有する波長可変レーザと、波長可変レーザの出力光を受け、当該出力光の周波数に対して周期性を有すると共に互いに位相が90°異なる電気的な二つの制御信号を出力する周波数ロッカと、波長可変レーザ及び周波数ロッカを搭載する熱電子冷却器と、二つの制御信号の何れか一方に基づいて、第1のヒータ、第2のヒータ、及び、熱電子冷却器の温度を制御するコントローラと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一側面によれば、周波数ロッカとt-LDとでTECを共通化した態様であっても、t-LDが目標発振周波数で安定化するまでの時間を短縮可能な波長可変光源及びその波長制御方法を提案できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係るt-LD装置の概略図である。
図2図2は、実施形態に係る周波数ロッカの出力特性を示す図である。
図3図3は、実施例1に係るt-LD装置に利用可能なt-LDの概略断面図である。
図4図4は、LUTに保持される制御データセットをまとめた表である。
図5図5は、図2において目標発振周波数ftargetが示される図である。
図6図6は、図2における周波数ロッカの出力特性と、シフト後の出力特性とを示す図である。
図7図7は、補正後の周波数ロッカの出力特性を示す図である。
図8図8は、変形例においてLUTに保持される制御データセットをまとめた表である。
図9図9は、別のt-LD装置の例を示す概略図である。
図10図10は、さらに別のt-LD装置の例を示す概略図である。
図11図11は、さらに別の例の周波数ロッカの出力特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0011】
本開示の一実施形態は、第1のヒータを含むSG-DFB領域、及び、第2のヒータを含むと共にSG-DFB領域に光結合するCSG-DBR領域を有する波長可変レーザと、波長可変レーザの出力光を受け、当該出力光の周波数に対して周期性を有すると共に互いに位相が90°異なる電気的な二つの制御信号を出力する周波数ロッカと、波長可変レーザ及び周波数ロッカを搭載する熱電子冷却器と、二つの制御信号の何れか一方に基づいて、第1のヒータ、第2のヒータ、及び、熱電子冷却器の温度を制御するコントローラと、を備える波長可変光源である。
【0012】
この波長可変光源では、波長可変レーザ及び周波数ロッカの両方が一つの熱電子冷却器上に搭載されている。このため、波長可変レーザと周波数ロッカとのそれぞれが異なる熱電子冷却器に搭載される場合と比較して、小型化が実現できる。また、波長可変光源は、波長可変レーザに含まれるヒータと、熱電子冷却器とを制御するコントローラを備える。これにより、周波数ロッカの出力を調整するために熱電子冷却器の温度変更する場合、上記ヒータを用いることによって、波長可変レーザの発振周波数の変化を抑制できる。したがって、波長可変レーザと周波数ロッカで熱電子冷却器を共通化していても、熱電子冷却器の温度変化に併せてヒータパワーの補正を実施することによって、波長可変レーザが目標発振周波数で安定化するまでの時間を短縮可能である。
【0013】
二つの制御信号の周期は、それぞれ50GHzでもよい。
【0014】
コントローラは、ルックアップテーブルを含み、ルックアップテーブルは、複数の参照周波数、及び、複数の参照周波数のそれぞれにおける制御データセットを含み、制御データセットは、複数の参照周波数のそれぞれにおける熱電子冷却器の設定温度と、熱電子冷却器の温度に対する二つの制御信号の温度係数と、熱電子冷却器の温度に対する波長可変レーザの発振周波数の温度係数と、第1のヒータ及び第2のヒータに与えられるパワーと、第1のヒータ及び第2のヒータに与えるパワーに対する波長可変レーザの発振周波数の変化率と、二つの制御信号の出力値とを含んでもよい。この場合、コントローラの演算時間を短縮できるので、波長可変レーザが目標発振周波数で安定化するまでの時間を良好に短縮可能である。
【0015】
制御データセットは、コントローラがルックアップテーブルを作成した際の波長可変光源の環境温度と、波長可変光源の環境温度に対する二つの制御信号の温度係数とをさらに含んでもよい。また、制御データセットは、前記波長可変光源の環境温度に対する前記波長可変レーザの発振周波数の温度係数をさらに含んでもよい。これらの場合、波長可変光源の環境温度の前提が異なった場合であっても、波長可変レーザの発振周波数を安定化できる。
【0016】
周波数ロッカは、半導体で構成されたハイブリッド素子を含み、ハイブリッド素子は、二つの制御信号を出力してもよい。この場合、熱電子冷却器の温度変化によって二つの制御信号の周波数を容易にシフトできる。
【0017】
本開示の別の一実施形態は、第1のヒータを含むSG-DFB領域、及び、第2のヒータを含むと共にSG-DFB領域に光結合するCSG-DBR領域を有する波長可変レーザと、波長可変レーザの出力光を受け、出力光の周波数に対して周期性を有する電気的な制御信号を出力する周波数ロッカと、波長可変レーザ及び周波数ロッカを搭載する熱電子冷却器と、ルックアップテーブルを含むコントローラと、を備える波長可変光源の波長制御方法であり、当該波長制御方法は、コントローラが目標発振周波数を取得する工程と、予めルックアップテーブルに保存された複数の参照周波数の中から、目標発振周波数に最も近い参照周波数をコントローラが選択する工程と、目標発振周波数と参照周波数との差をΔfとしたとき、Δfを求める工程と、熱電子冷却器の温度を、Δfで補正した式:TNEW=T+Δf×CLOCKで示される値に設定して維持する工程と(ここで、Tは参照周波数において熱電子冷却器に設定される温度であり、CLOCKは周波数ロッカから出力される制御信号の温度係数の逆数である)、第1のヒータ及び第2のヒータに対して、P new=P+CHTk×(1-CLOCK/CLD)×Δf(k=1~5)で示されるパワーP newをコントローラが初期値として与える工程と(ここで、Pは参照周波数において第1のヒータ及び第2のヒータに与えられるパワーであり、CHTkは第1のヒータ及び第2のヒータに与えるパワーに対する波長可変レーザの発振周波数の変化率の逆数であり、CLDは熱電子冷却器の温度変化に応じて変化する波長可変レーザの発振周波数の変化率の逆数である)、を備える。このような方法にて示されるパワーP newを第1のヒータ及び第2のヒータに与えることによって、帰還制御を行う前の時点にて、波長可変レーザの発振周波数を目標発振周波数に近づけることができる。これにより、波長可変レーザと周波数ロッカで熱電子冷却器を共通化していても、熱電子冷却器の温度変化に併せてヒータパワーの補正を実施することによって、波長可変レーザが目標発振周波数で安定化するまでの時間を短縮可能である。
【0018】
熱電子冷却器の温度を設定する工程では、温度TNEWから(TMON-TCAL)/CLOCK_AMBを加算した値を熱電子冷却器の温度とし、第1のヒータ及び第2のヒータに対して初期値を与える工程では、パワーP newからCHTk×(TMON-TCAL)/CLOCK_AMBを減じた値を初期値としてもよい(ここで、TMONは現在の波長可変光源の環境温度であり、TCALはルックアップテーブルを作成したときの波長可変光源の環境温度であり、CLOCK_AMBは波長可変光源の環境温度に対する周波数ロッカから出力される制御信号の変化割合の逆数である)。この場合、動作中の波長可変光源の環境温度(すなわち、現在の波長可変光源の環境温度)が、ルックアップテーブルを作成した際の環境温度と異なる場合でも、波長可変レーザの発振を目的発振周波数もしくはその近傍にてより確実に安定させることができる。
【0019】
熱電子冷却器の温度を設定する工程では、温度TNEWから(TMON-TCAL)/CLOCK_AMBを加算した値を熱電子冷却器の温度とし、第1のヒータ及び第2のヒータに対して初期値を与える工程では、パワーP newからCHTk×(TMON-TCAL)/CLOCK_AMBを減じると共にCHTk×(TMON-TCAL)/CLD_AMBを加算した値を初期値としてもよい(ここで、TMONは現在の波長可変光源の環境温度であり、TCALはルックアップテーブルを作成したときの波長可変光源の環境温度であり、CLOCK_AMBは波長可変光源の環境温度に対する周波数ロッカから出力される制御信号の変化割合の逆数であり、CLD_AMBは波長可変光源の環境温度に対する波長可変レーザの発振周波数の温度係数の逆数である)。この場合、動作中の波長可変光源の環境温度(すなわち、現在の波長可変光源の環境温度)が、ルックアップテーブルを作成した際の環境温度と異なる場合でも、波長可変レーザの発振を目的発振周波数もしくはその近傍にてより確実に安定させることができる。
【0020】
周波数ロッカの制御信号は、互いに位相が90°異なり、波長可変レーザの出力光の周波数に対して周期性を有する二つの制御信号を有し、上記波長制御方法は、参照周波数に対応する二つの制御信号のいずれかを選択する工程をさらに備えてもよい。
【0021】
上記波長制御方法は、第1のヒータ及び第2のヒータに与えるパワーP newに対して帰還制御を実施し、t-LDの発振周波数を目標発振周波数に一致させる工程をさらに備えてもよい。この場合、波長可変レーザの発振を目的発振周波数にてより確実に安定させることができる。
【0022】
[本開示の実施形態の説明]
本開示の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、波長可変光源、及び波長可変光源の波長制御方法に係る実施形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
【0023】
図1は、本実施形態に係るt-LD装置の概略図である。波長可変光源の一つであるt-LD装置1は、t-LD10と、周波数ロッカ20と、TEC30と、コントローラ50とを含む。
【0024】
t-LD10は、波長可変のための複数のヒータ19(後述する図3を参照)を含む発光素子である。周波数ロッカ(Locker)20は、t-LD10の出力光を受け、位相が互いに90°異なり、該出力光の周波数に対して周期性を有する電気的な二つの制御信号を出力する部材である。周波数ロッカ20は、半導体90°ハイブリッド素子(以下、単に「ハイブリッド素子21」とする)と、複数の受光素子(PD:Photo Diode)22a~22cとを含む。ハイブリッド素子21は、半導体で構成された導波路構造を有する。TEC30は、t-LD10及び周波数ロッカ20を搭載する。このため、t-LD10及び周波数ロッカ20の温度設定は、共通のTEC30によって実施される。コントローラ50は、t-LD10、TEC30及び周波数ロッカ20(具体的には、第1~第3のPD22a~22c)に接続されている集積回路である。コントローラ50は、周波数ロッカ20から出力される上記二つの制御信号の何れか一方に基づいて、t-LD10のヒータ19及びTEC30を制御する。コントローラ50は、処理装置51及び記憶装置52を含む。
【0025】
ハイブリッド素子21は、t-LD10からの光(本実施形態では、t-LD10の前面光)を分岐し、分岐した2つの光を光学長の異なる導波路を伝搬させた後に干渉させ、得られた干渉光を第1のPD22aにより受光させる。さらに、前記干渉光に対して90°の位相差を有する干渉光を、第2のPD22bにより受光する。また、干渉特性を示さない、すなわち、90°ハイブリッドの特性に左右されない分岐前のt-LD10の生の出射光を第3のPD22cにより受光する。第1のPD22aは、受光強度に応じた第1の信号(出力値:sPD)を出力し、第2のPD22bは、受光強度に応じた第2の信号(出力値:sPD)を出力し、第3のPD22cは、受光強度に応じた第3の信号(出力値:sPD)を出力する。第3のPD22cに対する第1のPD22aの出力の比(強度比:sPD/sPD)と、第3のPD22cに対する第2のPD22bとの出力の比(強度比:sPD/sPD)をそれぞれ求めることにより、ハイブリッド素子21によって規格化された二つの干渉スペクトルを得ることができる。
【0026】
干渉スペクトル、すなわち、第3のPD22cの出力によって規格化された第1のPD22aの出力及び第2のPD22bの出力は、それぞれ周波数に対して正弦波の挙動を示す。そして、分岐された一方の光の位相遅れに基づいて、分岐光が伝搬する導波路長を設定する。例えば、ハイブリッド素子21に入力する二つの光信号の光路長差(すなわち、一方の光の位相遅れ)を所定の値に設定することにより、上記正弦波の周期を50GHz又はその近傍に設定できる。すなわち、ハイブリッド素子21から出力される二つの制御信号の周期を50GHzに設定できる。一般に、該周期はフリースペクトラルレンジ(FSR)と定義される。また、50GHzは、高密度周波数分割多重システムのグリッド間隔に相当する。なお、第2のPD22bから出力される第2の信号は、第1のPD22aから出力される第1の信号に対して位相が90°(π/2)、すなわち、50/4=12.5GHzシフトしている。
【0027】
図2は、本実施形態に係る周波数ロッカの出力特性を示す図である。図2において、横軸は周波数を示し、縦軸は規格化された第1のPD22a及び第2のPD22bの出力(強度比)を示す。図2において、グラフ61は第1のPD22aから出力される信号を示し、グラフ62は第2のPD22bから出力される信号を示す。図2に示されるように、本実施形態に係るt-LD装置1では、互いに位相が90°異なる電気的な二つの出力(制御信号)が得られる。このため、該二つの出力についてコントローラ50がt-LD10に対して交互に帰還制御を施すことができる。これにより、t-LD10と周波数ロッカ20でTEC30を共通化していても、TEC30の温度の設定幅は、周波数ロッカ20が単一の出力のみを提供する態様と比較して、1/2にできる。t-LD装置1の目標発振周波数を変更する場合であっても、TEC30の温度変更幅を狭く設定できる。したがって、新たな目標発振周波数で安定発振するまでの時間を短縮できる。
【0028】
このt-LD装置1によれば、周波数ロッカ20、具体的には、光学長の異なる二つの導波路とそれら導波路を入力とする90°ハイブリッド素子21を含むハイブリッド素子は、半導体材料で構成されている。そのため、ハイブリッド素子21は、従来のエタロンフィルタと比較して大きい温度依存性を示す。これは、半導体材料の線膨張係数は、従来のエタロンフィルタの材料として一般的であった石英に比べて大きい傾向にあるからである。このように比較的大きな温度依存性を示すハイブリッド素子21は、温度変化が小さい場合であっても所望の出力特性を得ることができる。ハイブリッド素子21の温度は、TEC30により制御される。TEC30によるハイブリッド素子21の温度変化によって、TEC30上に搭載されているt-LD10の発振周波数もまた変動する。
【0029】
ここで本実施形態に係るt-LD10では、TEC30が引き起こす温度変化に起因するt-LD10の発振周波数の変化は、t-LD10に集積化されたヒータ19により補償可能である。このため、単一のTEC30を備えるt-LD装置1は、t-LD10と周波数ロッカ20とのそれぞれにTECを用意する態様に比べて低消費電力にて動作可能である。加えて、上記態様と比較して、TEC30を駆動する回路を小型化できる。
【0030】
なお図1に示されるように、t-LD装置1は温度検知素子31、32を更に備える。温度検知素子31は、TEC30の温度を検知する素子であり、TEC30上に搭載されている。TEC30の温度は、例えば、温度検知素子31が搭載されたTEC30の表面温度である。コントローラ50は、TEC30の温度を示すモニタ信号sTを温度検知素子31から受けることによって、目標のTEC温度に対応する値になるようにTEC30に対して帰還制御を施す。温度検知素子32は、波長可変光源であるt-LD装置1の環境温度を検知する素子である。温度検知素子32は、t-LD装置1の内部もしくはその周辺に設けられる。コントローラ50は、t-LD装置1の環境温度を示すモニタ信号を温度検知素子32から受ける。
【0031】
(実施例1)
図3は、実施例1に係るt-LD装置に利用可能なt-LDの概略断面図である。t-LD10は、SG-DFB領域A(Sampled Grating Distributed Feedback)と、CSG-DBR領域B(Chirped Sampled Grating Distributed Bragg Reflector)と、SOA領域D(Semiconductor Optical Amplifier)と、光吸収領域Cとを備える。フロント側からリア側にかけて、SOA領域D、SG-DFB領域A、CSG-DBR領域B、光吸収領域Cがこの順に配置されている。SG-DFB領域Aは、光学利得を有し、サンプルドグレーティングを備える。CSG-DBR領域Bは、光学利得を有さず、チャープドサンプルドグレーティングを備える。SG-DFB領域Aは、CSG-DBR領域B及びSOA領域Dに光結合している。CSG-DBR領域Bは、SG-DFB領域Aに加えて光吸収領域Cに光結合している。
【0032】
SG-DFB領域Aは、基板11上に、下部クラッド層12、活性層13、上部クラッド層16、コンタクト層17a、電極18a、および絶縁膜19dを介して複数のヒータ19(第1のヒータ)が積層された構造を有する。CSG-DBR領域Bは、基板11上に、下部クラッド層12、光導波層14、上部クラッド層16、絶縁膜19d、および複数のヒータ19(第2のヒータ)が積層された構造を有する。各ヒータ19には、電極19a、19bが設けられている。SOA領域Dは、基板11上に、下部クラッド層12、光増幅層15c、上部クラッド層16、コンタクト層17c、および電極18cが積層された構造を有する。光吸収領域Cは、基板11上に、下部クラッド層12、光吸収層15b、上部クラッド層16、コンタクト層17b、および電極18bが積層された構造を有する。基板11の裏面には、各領域A~Dに共通の裏面電極18dが設けられる。
【0033】
t-LD10では、基板11、下部クラッド層12、および上部クラッド層16は、各領域A~Dで一体的に形成されている。活性層13、光導波層14、光吸収層15b、および光増幅層15cは、同一面上に形成されている。すなわち、活性層13、光導波層14、光吸収層15b、および光増幅層15cの下辺は、領域A~Dで一体的に形成された下部クラッド層12の上辺に一致している。SG-DFB領域AとCSG-DBR領域Bとの境界は、活性層13と光導波層14との境界と対応している。SOA領域Dの端面には端面膜11aが形成されている。実施例1では、端面膜11aはAR(Anti-Reflection)膜である。端面膜11aは、t-LD10のフロント側端面として機能する。一方、光吸収領域Cの端面には、端面膜11bが形成されている。実施例1では、端面膜11bもAR膜である。端面膜11bは、t-LD10のリア側端面として機能する。
【0034】
基板11は、例えば、n型InP基板である。下部クラッド層12は例えばn型InP層であり、上部クラッド層16は例えばp型InP層である。下部クラッド層12および上部クラッド層16の屈折率は、活性層13、光導波層14、光吸収層15b、および光増幅層15cの屈折率よりも小さい。このため、下部クラッド層12および上部クラッド層16によって光閉じ込め構造が形成される。
【0035】
活性層13は、最上部にヒータ19を有する光変調層13aと、光学利得を有する光生成層13bとが光軸に沿って交互に配置される構造を有する。光生成層13bは、量子井戸構造を備えてもよく、例えばGa0.32In0.68As0.920.08(厚さ5nm)からなる井戸層と、Ga0.22In0.78As0.470.53(厚さ10nm)からなる障壁層とが交互に積層された構造を有する。光生成層13bの最上部には、電極18aが設けられる。
【0036】
光変調層13aおよび光導波層14は、例えばバルク半導体層で構成することができ、例えばGa0.22In0.78As0.470.53によって構成される。光変調層13aおよび光導波層14は、光生成層13bよりも大きいエネルギギャップ(Eg)を有する。
【0037】
光増幅層15cは、電極18cから注入される電流に応じて光学利得が与えられることによって、光増幅をなす領域である。光増幅層15cは、例えば量子井戸構造を備えてもよい。光増幅層15cは、例えばGa0.35In0.65As0.990.01(厚さ5nm)の井戸層と、Ga0.15In0.85As0.320.68(厚さ10nm)の障壁層とが交互に積層された構造を有する。もしくは、光増幅層15cは、例えばGa0.44In0.56As0.950.05からなるバルク半導体でもよい。なお、光増幅層15cと光生成層13bとは、同じ材料で構成されてもよい。
【0038】
光吸収層15bは、電極18bに印加されるバイアスに応じて基礎吸収端のエネルギギャップをシフト(小さく)できる領域である。光吸収層15bのエネルギギャップをシフトすることによって、光学吸収度を変化できる。光吸収層15bは、例えば量子井戸構造を備えてもよい。光吸収層15bは、例えばGa0.35In0.65As0.990.01(厚さ5nm)の井戸層と、Ga0.15In0.85As0.320.68(厚さ10nm)の障壁層とが交互に積層された構造を有する。もしくは、光吸収層15bは、例えばGa0.44In0.56As0.950.05からなるバルク半導体でもよい。なお、光吸収層15bと光生成層13bとは、同じ材料で構成されてもよい。
【0039】
コンタクト層17a~17cは、例えばp型のGa0.47In0.53As結晶によって構成できる。絶縁膜19dは、例えば窒化シリコン膜(SiN)または酸化シリコン膜(SiO)を有する保護膜である。ヒータ19は、チタンタングステン(TiW)で構成された薄膜抵抗体である。ヒータ19のそれぞれは、CSG-DBR領域Bの複数のセグメントにまたがって形成されていてもよい。SG-DFB領域Aのヒータ19は、光変調層13a上に形成される。
【0040】
電極18a~18c、19a、19bは、金(Au)等からなる導電体である。基板11の裏面には、裏面電極18dが形成されている。裏面電極18dは、SG-DFB領域A、CSG-DBR領域B、光吸収領域C、およびSOA領域Dにまたがって形成されている。
【0041】
端面膜11a、11bは、1%以下の反射率を有するAR膜であり、実質的にその端面が無反射となる特性を有する。AR膜は、例えばMgFおよびTiONを交互に積層した構成を有する。なお、端面膜11bは、有意の反射率を持つ反射膜で構成されてもよい。その場合、端面膜11bから外部に漏洩する光を抑制できる。有意の反射率は、例えば10%以上である。
【0042】
回折格子12aは、SG-DFB領域AおよびCSG-DBR領域Bの下部クラッド層12において、所定の間隔を空けて複数箇所に形成されている。すなわち、SG-DFB領域AおよびCSG-DBR領域Bは、サンプルドグレーティングを有する。回折格子12aは、下部クラッド層12とは異なる屈折率の材料で構成されている。下部クラッド層12がInP層である場合、回折格子12aを構成する材料として、例えばGa0.22In0.78As0.470.53を用いることができる。
【0043】
光軸に沿って、SG-DFB領域Aの回折格子12aのピッチ(コルゲーション間の間隔)と、CSG-DBR領域Bの回折格子12aのピッチとは、同一でもよく、異なってもよい。本実施例では、両ピッチは同一である。また、一つの回折格子12aとこれに連続する一つのスペース(回折格子12aの存在しない領域)とによって、一つのセグメントが形成される。各セグメントにおいて回折格子12aが占める部分(回折格子部分)は、光軸に沿って同じ長さを有してもよく、異なる長さを有してもよい。また、SG-DFB領域Aで各セグメントの各回折格子部分が同じ長さを有し、CSG-DBR領域Bで各セグメントの回折格子部分が同じ長さを有し、SG-DFB領域AとCSG-DBR領域Bとで回折格子部分の長さが異なっていてもよい。CSG-DBR領域Bのサンプルドグレーティングの光学特性は、複数の周期的な反射ピークを与える。一方、SG-DFB領域Aのサンプルドグレーティングは複数の周期的な光学利得ピークを与える。両者のピークの位置(周波数)は、それぞれの領域のヒータに与えるパワー(ヒータパワー)、並びに、ヒータの発熱によるそれぞれのサンプルドグレーティングの温度に依存する。このため、ヒータパワーを調整することによって、反射ピークの一つと利得ピークの一つの周波数を一致させることができる。この場合、t-LD10は、該一致した周波数で発振する。
【0044】
SG-DFB領域Aでは、各セグメントの光学長が実質的に同一となっている。一方、CSG-DBR領域Bでは、少なくとも2つのセグメントの光学長が異なって形成されている。この構成により、CSG-DBR領域Bのサンプルドグレーティングによる複数の反射ピークの各強度は、周波数依存性を示す。CSG-DBR領域Bのヒータの温度を調整することにより、最大強度を示す反射ピークを選択できる。したがって、t-LD10の周波数選択性を拡大できる。
【0045】
以下では、再び図2を参照しながら、本実施形態に係るt-LD装置1の制御の概要を説明する。
【0046】
<A.Look-Up-Table(LUT)の作成>
TEC30をある温度Trefで一定に維持した状態で次の操作を行う。周波数ロッカ20は、その温度にかかわらず、図2に示されるような正弦波の出力特性を示す。ここで、分岐された導波路長の差を調整することで、正弦波の周期を50GHz(DWDMの規格の一つ、192~197THzの帯域で100チャネルを実現する)とする。すなわち、ハイブリッド素子21における上記導波路長の差を調整することによって、FSRを50GHzに設定する。
【0047】
ハイブリッド素子21を含む周波数ロッカ20と、t-LD10と、コントローラ50とによって構成される周波数ロック帰還ループ(以下、単に「帰還ループ」とする)を効率的に動作させるには、帰還ループを構成する各構成要素の利得を大きくすることが求められる。例えば、周波数ロッカ20の出力の最大(最小)近傍を動作点(発振周波数)とする帰還ループを動作させようとしても、周波数ロッカ20の効率(出力/周波数)が小さいため、帰還ループが意図するロック動作を実施できない。帰還ループを安定に動作させるには、周波数ロッカ20の出力特性の最大効率の周波数でロックさせることが肝要となる。図2に示されるように周波数ロッカ20の出力特性が正弦波に近いものであるので、該最大効率は、最大/最小の中央値となる。すなわち、図2に示される白丸で示されるロック点が、上記最大効率となる。この時の周波数を例えばf (i)’[Hz]とする。TEC30の温度が一度決定されれば、図2に示す出力特性(output-frequency)は維持される。
【0048】
t-LD10にバイアス電流を供給して、t-LD10を実際に発光させる。そして、ヒータ(1~5)に与えるパワーを調整して、t-LD10の出力をf (i)’に限りなく近い値に設定する。このとき、t-LD10の出力は、必ずしもf (i)’に一致しなくてもよい。この時点では帰還ループは動作させていない。また、バイアス電流は、t-LD10が実際に使用される状態に印加される値ではなく、t-LD10が満足に発光する程度であって、発振周波数を明瞭に区別できる程度の値に留める。バイアス電流によるt-LD10の発熱を極力抑制することが目的である。そして、このときの実際の発振周波数f (i)[Hz]、ヒータ(1~5)に与えているパワーの初期値(P (i)[W]、k=1~5)、及び周波数ロッカ20から出力される二つの制御信号の出力値sPD、sPDを制御データセットとして記憶装置52に記録する。この制御データセットでは、第1のPD22aの出力を使用しているものとする。なお、PDの出力値そのものはバイアス電流の大きさ、及びt-LD10の経時変化に影響される。したがって、第3のPD22cの出力値sPD (i)で第1のPD22aの出力値sPD (i)を規格化した値(nPD (i)=sPD (i)/sPD (i))を制御データセットとして保持することも有効である。
【0049】
さらに、上記発振周波数がf (i)で安定した後、各ヒータに与えるパワーに対するt-LD10の発振周波数の変化率と、その逆数CHTk (i)[W/Hz]を取得する。CHTk (i)は、例えば各ヒータに与えるパワーを所定量(例えば、P (i)の1%程度)変化させて得られた発振周波数を用いて取得される。同様にして、TEC30の温度変化に対するt-LD10の発振周波数の変化率と、その逆数CLD (i)[K/Hz]を取得する。CLD (i)は、例えばTEC30の温度を1K変化させて得られた発振周波数を用いて取得される。また、上記発振周波数がf (i)で安定した後に帰還ループを作用させた状態にて、周波数ロッカ20から出力される二つの制御信号の温度係数と、その逆数CLOCK (i)[K/Hz]を取得する。CLOCK (i)は、例えば帰還ループを作用させた状態にて、TEC30の温度を例えば1K変化させた時のt-LD10の発振周波数の変化量(t-LD10の発振周波数の温度係数)を用いて取得される。帰還ループが作用されているので、t-LD10の発振周波数は、自身の状態(ヒータパワー等)には無関係に、第1のPD22aの出力(あるいはその規格値)を一定とする様に変化する。この発振周波数の変化は、まさに周波数ロッカ20の出力特性の温度依存性に相当するものである。さらに、帰還ループが作用しない状態では、第1のPD22aの出力(あるいはその規格値)が変化する。その時の変化量の逆数CPDm (i)[1/Hz](k=1,2)も取得する。ヒータパワーの変化、TEC30の温度変化は、全てt-LD10の発振周波数の変化に帰結する。第1のPD22aの出力(その規格値)の発振周波数に対する変化率は、これら全ての事象の統計量として獲得することも可能である。なお、取得された上記変化率、上記温度係数、及び上記変化量と、これらの逆数CHTk (i),CLD (i),CLOCK (i),CPDm (i)は、実際の発振周波数f (i)における制御データセットの一部として記憶装置52に記憶される。
【0050】
同様の操作を第2のPD22bの出力についても行う。ヒータパワーを調整し、t-LD10の発振周波数をf (i)から12.5GHz離れたf (i+1)’に近い値に収斂させる。そして、その時の実際の発振周波数をf (i+1)、ヒータパワー(初期値)をP (i+1)、第2のPD22bの出力(nPD (i+1)=sPD/sPD)を発振周波数f (i+1)の制御データセットとして記憶装置52に記憶する。加えて、取得されたCHTk (i+1),CLD (i+1),CLOCK (i+1),CPDm (i+1)のそれぞれもまた、実際の発振周波数f (i+1)における制御データセットの一部として記憶装置52に記憶される。
【0051】
上の操作を12.5GHz間隔で設定した全てのロック点(例えば、192~197THzの領域では400点存在する)に対して行い、LUTを完成する。すなわち、LUTは、複数の参照周波数、及び、該複数の参照周波数のそれぞれにおける制御データセットを含む。このLUTは、t-LD装置1の出荷前において、コントローラ50の記憶装置52に記憶される。
【0052】
図4は、LUTに保持される制御データセットをまとめた表である。上述したように、周波数ロッカの出力の温度特性の逆数CLOCK、t-LD10の発振周波数の温度特性の逆数CLD、ヒータパワーに対するt-LD10の発振周波数の係数の逆数CHTk、並びに、PDの出力の発振周波数依存性の逆数CPDmが記憶装置52に記憶されている。これにより、次に説明する実際のt-LD10の発振周波数のロック動作を実施する際に、コントローラ50の制御シークエンスを早めることができる。すなわち、コントローラ50内での演算を簡略化できる。したがって、制御データセットには、上記温度特性、上記係数、及び上記発振周波数依存性だけでなく、これらの逆数が含まれる。なお、制御データセットには、上記温度特性、上記係数、及び上記発振周波数依存性が含まれず、これらの逆数が含まれてもよい。
【0053】
上記例では、TEC30の温度Trefは全てのチャンネルにおいて一定とするモードを採用している。しかしながら、特に最大/最小に近いチャンネルにおいては、中央部で設定された温度Trefを維持した場合、目標とするチャンネル周波数でt-LD10を発振させようとすると、ヒータパワーの大きさが過大/過小になる場合がある。このような場合に備えて、TEC30の温度をTrefから変化させて上記LUTを作成してもよい。この場合、温度を変えた時とハイブリッド素子21の出力特性について、そのチャネル周波数が中央値付近からシフトすることになるものの、出力の最大/最小点に近づき過ぎることがなければ帰還ループは安定に作用する。また、最大/最小点に近づいた場合には、ハイブリッド素子21の二つの出力を切り替えることでも対応可能である。二つの出力の位相は互いに90°異なっているので、二つの出力の一方が最大/最小に近い時、二つの出力の他方はその中央値付近にある。上記説明では二つの出力を交互に採用することを前提としているが、LUTにいずれの出力を採用するかの情報も保持してもよい。
【0054】
<B.t-LD10の実際の運用>
次に、t-LD10を目標発振周波数で動作させる時のアルゴリズムを以下に説明する。なお、下記アルゴリズムを利用することなくt-LD10がLUTに設定されるチャネル周波数のいずれかに一致する場合は極めて稀である。
【0055】
(1)コントローラ50はシステムから目標発振周波数(ftarget)の情報を得る。図5は、図2において目標発振周波数が示される図である。図5においては、目標発振周波数は、矢印にて示される。
【0056】
(2)次に、コントローラ50は、LUTに格納されている参照周波数f (i)(i=1~N)の中で目標発振周波数ftargetに最も近い参照周波数のチャネルを画定する。図5によれば、目標発振周波数ftargetに最も近いロック点は(i-1)に位置するので、画定された参照周波数のチャネルは(i-1)になる。続いて、該LUTから画定されたチャネルについての制御データセットを全て読みだす。LUTに格納されているチャネルには、第1のPD22aと第2のPD22bとのいずれを基準とするかの情報(PD選択情報)も格納されている。このため、コントローラ50は、PD選択情報も読み出す。以下の例では、第2のPD22bが選択される。
【0057】
(3)次に、画定されたチャネルの参照周波数と、目標発振周波数ftargetとの差Δf[Hz]を以下の式1として定義(計算)する。すなわち、目標発振周波数ftargetを取得すると共に参照周波数f (i)が選択された後、Δfを求める。なお、以下の式1において、nは1~Nの範囲内における自然数である。
【数1】
【0058】
(4)次に、TEC30に設定すべき温度を計算する。仮に、TEC30の温度がTref(n)[K]、t-LD10のヒータパワーの初期値がP (n)[W](k=1~5)である場合、第3のPD22cの出力を用いて規格化された第1のPD22aの出力値は、約1.0になるはずである。しかしながら、この出力値は参照周波数に一致する場合である。このため、目標発振周波数ftargetにおける出力値は、約1.0よりも当然にシフトした値となる。この場合、周波数ロックの帰還制御が安定的に動作しにくい。よって目標発振周波数ftargetでも該帰還制御を安定的に動作させる観点から、目標発振周波数ftargetで上記出力値が約1.0程度になるように、周波数ロッカ20(厳密にはハイブリッド素子21)の出力特性をシフトさせる。例えば図6に示されるように、TEC30の温度を調整することによって、第2のPD22bの出力特性を破線で示されるグラフ62から実線で示されるグラフ72にシフトさせる。この工程では、ハイブリッド素子21の温度変化量ΔTTECを、以下の式2として定義する。そして得られたΔTTECを用いて、以下の式3に沿ってTEC30が設定される温度TNEWを求め、TEC30の温度をTNEWとする。すなわち、TEC30の温度をTNEWになるように設定して維持する。TEC30の温度をTNEWにて安定させると、第2のPD22bの出力特性が図6に示されるグラフ72で与えられたものとなる。
【数2】

【数3】
【0059】
(5)次に、t-LD10が目標発振周波数ftargetで発振するように、ヒータ19の初期値を補正する。仮にt-LD10の発振周波数に温度依存性がない場合、t-LD10が目標発振周波数ftargetで発振するためのヒータ19への供給パワーの初期値P(k=1~5)は、参照周波数f (i-1)におけるヒータパワーの初期値P (i-1)に対して以下のように補正される。
【数4】
【0060】
しかしながら、TEC30の温度を変更することによって、t-LD10の発振周波数も当然に変化する。ハイブリッド素子21を例えばシリコンフォトニクスで構成した場合、ハイブリッド素子21の温度係数は-9GHz/Kである。一方、InPを主材料としてt-LD10を構成した場合、t-LD10の発振周波数の温度係数は-13GHz/Kである。上述したヒータパワーの初期値P (n)では、t-LD10の温度特性(温度係数)は考慮されていない。このため、t-LD10の発振周波数がFSR/4の領域を逸脱する可能性がある。したがって本実施形態では、下記式5を用いて、TEC30の温度変更によるt-LD10の発振周波数のシフトを考慮したヒータパワーの初期値を見積もる。下記式5における右辺第3項が、t-LD10の温度特性を考慮した補正項に相当する。なお、ハイブリッド素子21の温度係数とは、TEC30の温度を1K変化させた時のハイブリッド素子21の出力特性(透過スペクトル)の周波数シフト量を示す。ハイブリッド素子21の温度係数は、ハイブリッド素子21の透過スペクトルの温度変動の度合いを示しており、周波数ロッカ20から出力される制御信号の温度係数に相当する。
【数5】
【0061】
(6)次に、上記式5によって見積もったパワーP newをヒータに供給し、かつ、t-LD10のSG-DFB領域AとSOA領域Dとにバイアス電流を供給する。具体的には、ヒータパワーがP newとなるように、ヒータに電流を供給する。上述したように、本工程におけるバイアス電流の値は、帰還ループを安定に動作させるためだけの値(すなわち、発振周波数を明瞭に区別できる程度の値)とする。この時点で、t-LD10の発振周波数は、目標発振周波数ftargetのごく近傍にある。そしてt-LD10から発振された光を取出し、周波数ロッカ20およびコントローラ50との間で帰還ループを形成する。そして、t-LD10の発振周波数を目標発振周波数ftargetに収斂させる。
【0062】
(7)図7は、補正後の周波数ロッカの出力特性を示す図である。上記(1)の工程にて画定した参照周波数はf (i-1)であったところ、図7に示されるように、上記ヒータパワーPを供給すると、発振周波数は、例えば白丸で示されるように、目標発振周波数ftargetに対して参照周波数f (i)側にシフトしている。仮にt-LD10の発振周波数に温度依存性がない場合、上記式4のようにヒータパワーを補正することによって、t-LD10は目標発振周波数ftargetの極近傍で安定するはずである。しかしながら実際にはt-LD10に温度特性があるため、t-LD10の発振は、目標発振周波数ftargetを超え、参照周波数f (i)に近づいてしまう。もし、ヒータパワーを上記式4で算出した値に補正した場合、発振周波数は、さらに参照周波数f (i)に近づく、もしくは該参照周波数を超えることがある。
【0063】
これに対して、本実施形態では、TEC30の温度変更に伴うt-LD10の影響を考慮した補正を実施する。具体的には、ヒータパワーを上記式5で算出した値に補正する。これにより、t-LD10の最初の発振周波数は、目標発振周波数ftargetのごく近傍に留めることができる。そしてヒータパワーに対する帰還ループを施すことにより、t-LD10の発振を最終的に目標発振周波数ftargetで安定化できる。ヒータ19への帰還ループは、例えば、下記式6にて算出されるヒータパワーΔPを増減する。なお、下記式6に含まれるΔPDは、第2のPD22bの規格出力値と、目標発振周波数での規格出力値(上記一連の工程により1.0とする)との差である。本工程では、第2のPD22bの規格出力値が1.0になるまで、ヒータパワーの調整を繰り返す。
【数6】
【0064】
(8)目標発振周波数でのt-LD10の発振が安定した後、バイアス電流に対し、第3のPD22cの出力に対するAPC(Auto-Power Control)をt-LD10に施す。このとき、上述した周波数ロック帰還ループも並行して行う。t-LD10はSOA領域Dを有するので、APCはSOA領域Dに対しても実施される。
【0065】
以上に説明した本実施形態に係る波長可変光源であるt-LD装置1によれば、t-LD10及び周波数ロッカ20の両方が一つのTEC30上に搭載されている。このため、t-LD10と周波数ロッカ20とのそれぞれが異なるTECに搭載される場合と比較して、小型化が実現できる。また、t-LD装置1は、t-LD10に含まれるヒータ19と、TEC30とを制御するコントローラ50を備える。例えば上述したように、コントローラ50は、目標発振周波数ftargetを取得し、予め保存された複数の参照周波数f (n)の中から、目標発振周波数ftargetに最も近い値の参照周波数を選択する。加えて本実施形態では、参照周波数に対応する上記二つの制御信号のいずれかを選択する。その後、上述した式1~3を用いてTEC30の温度を調整することによって、周波数ロッカ20の出力特性をシフトさせる。これにより、ロック点を目標発振周波数に一致させる。ここでTEC30の温度を変更すると、t-LD10の発振周波数も変化してしまうので、上述した式5を用いてヒータパワーの補正値を算出する。この補正値をヒータに与えることによって、帰還制御を行う前の時点にて、t-LD10の発振周波数を目標発振周波数に近づけることができる。これにより、t-LD10と周波数ロッカ20でTEC30を共通化していても、TEC30の温度変化に併せてヒータパワーの補正を実施することによって、t-LD10が目標発振周波数ftargetで安定化するまでの時間を短縮可能である。
【0066】
本実施形態では、コントローラ50は、ルックアップテーブル(LUT)を含み、LUTは、複数の参照周波数、及び、該複数の参照周波数のそれぞれにおける制御データセットを含み、制御データセットは、複数の参照周波数のそれぞれにおけるTEC30の設定温度と、TEC30の温度に対する二つの制御信号の温度係数と、TEC30の温度に対するt-LD10の発振周波数の温度係数と、ヒータ19に与えられるパワーと、ヒータパワーに対するt-LD10の発振周波数の変化率と、二つの制御信号の出力値とを含んでもよい。この場合、コントローラ50の演算時間を短縮できるので、t-LD10が目標発振周波数で安定化するまでの時間を良好に短縮可能である。
【0067】
本実施形態では、周波数ロッカ20は、半導体で構成されたハイブリッド素子21を含み、ハイブリッド素子21は、二つの制御信号を出力してもよい。この場合、TEC30の温度変化によって二つの制御信号の周波数を容易にシフトできる。
【0068】
(変形例)
次に、上記実施形態の変形例について説明する。該変形例の説明において上記実施形態と重複する記載は省略し、上記実施形態と異なる部分を記載する。
【0069】
t-LD装置1が発振周波数の設定もしくは変更の指令をシステムから受けた場合、上記実施形態にて説明した工程に基づいて、新たな目標発振周波数に向けた収斂動作を行う。ここで、LUTを作成した時のt-LD装置1の環境温度と、実際の動作中における当該環境温度とが異なる場合、LUTに保持される制御データセットをTEC30、t-LD10に適用しても、環境温度の前提が異なってしまう。このため、参照周波数f (i)に対応する制御データセット{Tref,CLOCK (i),CLD (i)、P (i),CHTk (i),sPD (i),CPDm (i)}の対応関係は、もはや満足されない。このため、制御データセットを設定してもt-LD10の発振周波数が参照周波数f (i)の近傍にて安定しない問題がある。なお、t-LD装置1の環境温度は、主にパッケージの温度に相当する。
【0070】
本変形例では、上記問題に鑑み、環境温度の影響を、TEC30の温度TNEWと、ヒータに供給するパワーの初期値P newとに反映させる。例えば、上記実施形態と同様にΔfを求めた後、環境温度の影響を考慮したTEC30の温度Tnewと、パワーの初期値P newとを算出する。具体例としては、まず、LUTを作成したときのt-LD装置1の環境温度をTCALと定義し、現在のt-LD装置1の環境温度をTMONと定義する。また、ハイブリッド素子21の出力の環境温度依存性を考慮するため、ハイブリッド素子21の出力の環境温度依存性の逆数をCLOCK_AMB (i)[K/Hz]と定義する。ここで、t-LD装置1の環境温度は温度検知素子32によって得られる。そして、上記式3に対してさらに補正項を導入した式7を利用して、TEC30の温度を見積もる。加えて、上記式5に対してさらに補正項を導入した下記式8を利用してヒータパワーの初期値を見積もる。これによって、環境温度の前提が異なった場合であっても、目標発振周波数に対する所定の範囲内に初期発振周波数を設定できるので、帰還制御を確実に実施できる。したがって、環境温度の前提が異なった場合であっても、t-LD10の発振周波数を目標発振周波数ftargetの近傍にて安定させることができる。なお、CLOCK_AMB (i)は、周波数ロッカ20から出力される制御信号の環境温度依存性の逆数に相当し得る。
【数7】

【数8】
【0071】
さらに本変形例では、t-LD10の発振周波数の環境温度依存性を考慮してもよい。例えば、t-LD10の発振周波数の環境温度依存性の逆数(すなわち、環境温度に対するt-LD10の発振周波数の温度係数の逆数)をCLD_AMB (i)[K/Hz]と定義する。そして、上記式に対してCLD_AMB (i)を補正した下記式9を利用してヒータパワーの初期値を見積もってもよい。この場合、t-LD10の発振を目標発振周波数ftargetの近傍にてより確実に安定させることができる。
【数9】
【0072】
LOCK_AMB (i)は、TEC30、t-LD10をf (i)の制御データセットを設定すると共に帰還制御を行っている条件下において、環境温度を変化させた時のt-LD10の発振周波数の変化割合から決定できる。CLD_AMB (i)は、t-LD10を参照周波数f (i)の制御データセットに設定し、且つ、帰還制御なしにt-LD10を発振させている条件下において、環境温度を変化させた時のt-LD10の発振周波数の変化割合から決定できる。上記環境温度の影響を考慮する場合、LUTは、図8に示される表のように構成される。コントローラ50による演算効率化の観点から、CLOCK_AMB (i)及びCLD_AMB (i)のそれぞれは、CLD (i)と同様に逆数として記憶装置52に保持されるが、場合によっては逆数でなくてもよい。図8に示される表では、TCAL (i)を個別に保持する例が示されている。一連の制御データセットを取得する際の環境温度が実質的に変化していない場合、単一のTCALが保持されてもよい。
【0073】
本変形例では、上記式8,9のいずれかにてヒータパワーの初期値を見積もった後、上記実施形態と同様に、ヒータパワーに帰還制御を実施すると共に、APCをt-LD10に実施してもよい。この場合、上記実施形態と同様に、t-LD10の発振周波数を目標発振周波数ftargetで安定化できる。
【0074】
本開示による波長可変光源及びその波長制御方法は、上述した実施形態及び変形例に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態及び上記変形例では、図1に示されるように、t-LDの前方光を参照して周波数ロック動作が実施されるが、これに限定されない。また、上記実施形態及び上記変形例では、t-LD装置は温度検知素子32を備えているが、これに限られない。例えば、t-LD装置の環境温度を検知する素子は、t-LD装置に含まれなくてもよい。
【0075】
図9は、別のt-LD装置の例を示す概略図である。図9に示されるt-LD装置1Aは、上記実施形態のt-LD装置1とは異なり、後方光を用いて上記周波数ロック動作が実施される。このため、t-LD装置1Aに含まれる周波数ロッカ20は、t-LD10の後面に配置される。なお、t-LD装置1Aが備える各構成要素は、上記実施形態のt-LD装置1と同様である。
【0076】
上記実施形態及び上記変形例の波長制御方法では、ハイブリッド素子及び3つのPDを有する周波数ロッカを用いて、参照周波数に対する二つの制御信号のいずれかを選択する工程が実施されるが、これに限られない。以下では、図10及び図11を参照しながら、ハイブリッド素子及び3つのPDを有さない周波数ロッカを用いたさらに別の例を説明する。図10は、さらに別のt-LD装置の例を示す概略図である。図11は、さらに別の例の周波数ロッカの出力特性を示す図である。なお、以下の説明において、上記実施形態及び上記変形例と重複する部分の説明は省略する。
【0077】
図10に示されるt-LD装置1Bの周波数ロッカ20Aは、上記実施形態のt-LD装置1及び上記別のt-LD装置1Aの周波数ロッカ20と異なり、ハイブリッド素子21の代わりにエタロン81を有する。加えて、周波数ロッカ20Aは、第2のPD22bを有さない。このため、周波数ロッカ20Aからは、エタロン81よりも下流側に位置する第1のPD22aの出力と、t-LD10の生の出射光を受光する第3のPD22cの出力とから規格化された一つの干渉スペクトル(一つの制御信号)が得られる。エタロン81は、従来のエタロンフィルタの材料よりも大きい温度特性(温度係数)を示す材料から形成される。エタロン81は、例えば、従来から用いられている石英等のガラスの代わりにシリコン等から形成される。なお、エタロン81の温度係数とは、TEC30の温度を1K変化させた時のエタロン81の出力特性(透過スペクトル)の周波数シフト量を示し、周波数ロッカ20Aから出力される制御信号の温度係数に相当する。例えば、シリコンからなるエタロンの温度係数は、石英からなるエタロンの温度係数の5倍程度大きく、石英の温度係数が例えば-1.8GHz/Kであるのに対し、シリコンの温度係数が例えば-9GHz/Kである。
【0078】
t-LD装置1Bにおいては、図11に示されるように、周波数ロッカ20Aからは一つの制御信号が出力される。なお、図11に示されるグラフ91は、第1のPD22aから出力される信号(規格化された出力)が示される。このグラフ91では、25GHz間隔にてロック点が設定されている。さらに別の例におけるLUTは、TEC30に対する上記一つの制御信号の温度係数等を含む。t-LD装置1Bのコントローラ50は、上記実施形態と同様に、予め保存された複数の参照周波数f (n)の中から、目標発振周波数ftargetに最も近い値の参照周波数を選択する。その後、上述した式1~3を用いてTEC30の温度を調整することによって、周波数ロッカ20Aの出力特性をシフトさせる。これにより、グラフ91をシフトさせ、ロック点を目標発振周波数に一致させる。そして、上述した式5を用いてヒータパワーの補正値(初期値)を算出する。ここで、さらに別の例では、上記制御信号の温度係数としてエタロン81の温度係数を式5に用いる。続いて、算出した補正値をヒータに与えることによって、帰還制御を行う前の時点にて、t-LD10の発振周波数を目標発振周波数に近づけることができる。そして、例えば上述した式6を用いてヒータを帰還制御することによって、目標発振周波数にてt-LD10を安定して動作できる。
【0079】
以上に説明したt-LD装置1Bでは、従来のエタロンフィルタよりも大きい温度特性を示す材料から形成されたエタロン81が周波数ロッカ20Aに含まれている。このため、TEC30の温度調整によって周波数ロッカ20Aの出力特性を容易にシフトできる。これにより、従来のエタロンを用いた場合と比較して短時間にて、ロック点を目標発振周波数に一致させることができる。そして、t-LD装置1Bでは、t-LD10と周波数ロッカ20Aとの温度特性の差に起因した波長ずれを、ヒータによって補償できる。したがって、t-LD装置1Bのように周波数ロッカ20Aとt-LD10とでTEC30を共通化した場合であっても、従来の材料からなるエタロンを用いたときと比較して、t-LD10が目標発振周波数で安定化するまでの時間を短縮可能である。換言すると、t-LD装置1Bは、上述したt-LD装置1,1Aと同様の作用効果を奏することができる。また、t-LD装置1Bの装置構成を、t-LD装置1,1Aと比較して簡略化できる。加えて、参照周波数に対して2つの制御信号のいずれかを選択する工程を省略できる。
【0080】
上記別の例、及び上記さらに別の例のそれぞれには、上記実施形態及び上記変形例に記載される事項を適宜適用してもよい。例えば、上記別の例、及び上記さらに別の例の少なくとも一方に対して、上記式7~9の少なくともいずれかを利用してもよい。また、上記別の例と、上記さらに別の例とは、互いに組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1,1A,1B…t-LD装置、10…t-LD、11…基板、19…ヒータ、20,20A…周波数ロッカ、21…ハイブリッド素子、22a…第1のPD、22b…第2のPD、22c…第3のPD、30…TEC、31…温度検知素子、50…コントローラ、51…処理装置、52…記憶装置、81…エタロン。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11